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特許7587797エレクトロスプレーイオン化によってフェムトリットルからナノリットルまでの流量を提供するキャピラリ・エミッタ
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  • 特許-エレクトロスプレーイオン化によってフェムトリットルからナノリットルまでの流量を提供するキャピラリ・エミッタ 図1
  • 特許-エレクトロスプレーイオン化によってフェムトリットルからナノリットルまでの流量を提供するキャピラリ・エミッタ 図2A
  • 特許-エレクトロスプレーイオン化によってフェムトリットルからナノリットルまでの流量を提供するキャピラリ・エミッタ 図2B
  • 特許-エレクトロスプレーイオン化によってフェムトリットルからナノリットルまでの流量を提供するキャピラリ・エミッタ 図3A
  • 特許-エレクトロスプレーイオン化によってフェムトリットルからナノリットルまでの流量を提供するキャピラリ・エミッタ 図3B
  • 特許-エレクトロスプレーイオン化によってフェムトリットルからナノリットルまでの流量を提供するキャピラリ・エミッタ 図4A
  • 特許-エレクトロスプレーイオン化によってフェムトリットルからナノリットルまでの流量を提供するキャピラリ・エミッタ 図4B
  • 特許-エレクトロスプレーイオン化によってフェムトリットルからナノリットルまでの流量を提供するキャピラリ・エミッタ 図5
  • 特許-エレクトロスプレーイオン化によってフェムトリットルからナノリットルまでの流量を提供するキャピラリ・エミッタ 図6
  • 特許-エレクトロスプレーイオン化によってフェムトリットルからナノリットルまでの流量を提供するキャピラリ・エミッタ 図7
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】エレクトロスプレーイオン化によってフェムトリットルからナノリットルまでの流量を提供するキャピラリ・エミッタ
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/16 20060101AFI20241114BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20241114BHJP
【FI】
H01J49/16 700
G01N27/62 G
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022569594
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-19
(86)【国際出願番号】 US2021031735
(87)【国際公開番号】W WO2021231398
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】63/024,147
(32)【優先日】2020-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522445192
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ニュー ハンプシャー
(73)【特許権者】
【識別番号】503363806
【氏名又は名称】サーモ フィニガン エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Thermo Finnigan LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】リ アニイン
(72)【発明者】
【氏名】リ リンファン
(72)【発明者】
【氏名】リ マンティエン
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/241694(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/145041(WO,A1)
【文献】特開2014-212109(JP,A)
【文献】特開2010-025714(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0312244(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/16
H01J 49/10
H01J 49/04
G01N 27/62
G01N 30/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択された流量で液体サンプルを供給するためのデバイスであって、
キャピラリ・エミッタであって、内壁部および外壁部を含む出口と、流体流のための1つまたは複数の副流路を提供するために前記キャピラリ・エミッタの前記内壁部に貼り付けられた拡張構成要素と、を含むキャピラリ・エミッタと、
プラズマ・イオンを提供するためのプラズマ放電源と、
前記プラズマ・イオンを前記キャピラリ・エミッタの出口に向けるための電場源と、
を備え、
前記キャピラリ・エミッタが、前記キャピラリ・エミッタの出口で50フェムトリットル/分(fL/min)から500ナノリットル/分(nL/min)の範囲内の毛細管流量を提供し、
前記デバイスが、fL/minの相対的に低い流量での毛細管流量とnL/minの相対的に高い流量での毛細管流量との間で交互に入れ替えることができる、
デバイス。
【請求項2】
選択された流量で液体サンプルを供給するためのデバイスであって、
キャピラリ・エミッタであって、内壁部および外壁部を含む出口と、流体流のための1つまたは複数の副流路を提供するために前記キャピラリ・エミッタの前記内壁部に貼り付けられた拡張構成要素と、を含むキャピラリ・エミッタと、
プラズマ・イオンを提供するためのプラズマ放電源と、
前記プラズマ・イオンを前記キャピラリ・エミッタの出口に向けるための電場源と、
を備え、
前記キャピラリ・エミッタが、前記キャピラリ・エミッタの出口で50ピコリットル/分(pL/min)から500ナノリットル/分(nL/min)の範囲内の毛細管流量を提供し、
前記デバイスが、pL/minの相対的に低い流量での毛細管流量とnL/minの相対的に高い流量での毛細管流量との間で交互に入れ替えることができる、デバイス。
【請求項3】
前記デバイスが、50ピコリットル/分(pL/min)から150nL/minの範囲内の毛細管流量を提供する、請求項に記載のデバイス。
【請求項4】
前記デバイスが、10マイクロ秒から1.0秒の期間にわたって、前記毛細管流量をfL/minからnL/minの間で交互に入れ替える、請求項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記デバイスが、10マイクロ秒から1.0秒の期間にわたって、前記毛細管流量をpL/minからnL/minの間で交互に入れ替える、請求項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記キャピラリ・エミッタの出口が、テーパ状のエミッタ先端を備える、請求項1又は請求項2に記載のデバイス。
【請求項7】
前記テーパ状のエミッタ先端が、5.0nmから20.0μmの範囲内の開口部を備える、請求項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記拡張構成要素が、0.01μmから100.0μmの範囲内の外径を有する、請求項1又は請求項2に記載のデバイス。
【請求項9】
正極性モードまたは負極性モードのどちらかで0~5キロボルトを前記電場源に供給するDC電圧源を含む、請求項1又は請求項2に記載のデバイス。
【請求項10】
前記プラズマ放電源が、前記キャピラリ・エミッタの出口に存在するプラズマ・イオンを供給する、請求項1又は請求項2に記載のデバイス。
【請求項11】
前記キャピラリ・エミッタの出口が、開口径を有し、前記キャピラリ・エミッタへの液体サンプルの導入時に、前記キャピラリ・エミッタの出口内に、前記キャピラリ・エミッタの出口の開口径より小さい液面が形成される、請求項1又は請求項2に記載のデバイス。
【請求項12】
前記キャピラリ・エミッタの出口での前記液体サンプルが、エレクトロスプレーイオン化される、請求項1又は請求項2に記載のデバイス。
【請求項13】
前記キャピラリ・エミッタの出口が、直径を有し、前記キャピラリ・エミッタの出口での前記流体流が、前記出口の直径より小さい流体レベルを提供する、請求項1又は請求項2に記載のデバイス。
【請求項14】
選択された流量での液体サンプルの供給のための方法であって、
キャピラリ・エミッタを提供することであって、前記キャピラリ・エミッタが、内壁部および外壁部を含む出口と、流体流のための1つまたは複数の副流路を提供するために前記キャピラリ・エミッタの前記内壁部に貼り付けられた拡張構成要素と、を含み、プラズマ放電源および電場源を含む、キャピラリ・エミッタを提供することと、
プラズマ・イオンを形成し、前記プラズマ・イオンを前記キャピラリ・エミッタの出口に向けるための電場を提供することと、
液体サンプルを前記キャピラリ・エミッタに導入し、前記キャピラリ・エミッタの出口で、50フェムトリットル/分(fL/min)から500ナノリットル/分(nL/min)の範囲内の液体サンプルの流量を提供することと、
fL/minの相対的に低い流量とnL/minの相対的に高い流量との間で交互に入れ替えることと、
を含む、方法。
【請求項15】
選択された流量での液体サンプルの供給のための方法であって、
キャピラリ・エミッタを提供することであって、前記キャピラリ・エミッタが、内壁部および外壁部を含む出口と、流体流のための1つまたは複数の副流路を提供するために前記キャピラリ・エミッタの前記内壁部に貼り付けられた拡張構成要素と、を含み、プラズマ放電源および電場源を含む、キャピラリ・エミッタを提供することと、
プラズマ・イオンを形成し、前記プラズマ・イオンを前記キャピラリ・エミッタの出口に向けるための電場を提供することと、
液体サンプルを前記キャピラリ・エミッタに導入し、前記キャピラリ・エミッタの出口で、50ピコリットル/分(pL/min)から500ナノリットル/分(nL/min)の範囲内の液体サンプルの流量を提供することと、
pL/minの相対的に低い流量とnL/minの相対的に高い流量との間で交互に入れ替えることと、
を含む、方法。
【請求項16】
毛細管流量が、50ピコリットル/分(pL/min)から150nL/minの範囲内である、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2020年5月13日に出願された米国仮出願第63/024,147号の優先権を主張し、その教示は、参照によって本明細書に組み込まれている。
【0002】
[分野]
本開示は、同じデバイス内でのフェムトリットル/分からナノリットル/分の流量間の比較的迅速な入れ替えを含む、そのような流量でのエレクトロスプレーイオン化を実現するための装置および方法に関する。これらの流量は、その後の分析評価のために、噴霧された化合物の改良された相対的により均一なイオン化を提供する。
【0003】
[背景]
エレクトロスプレーイオン化(ESI:Electrospray ionization)は、溶液相サンプルから無傷の分子イオンを生成するイオン化方法である。エレクトロスプレーイオン化は、有機サンプルおよび生物学的サンプルの質量分析(MS:mass spectrometry)において広く適用されている。ESIの既存の課題は、分析物のイオン化効率が、流れに依存的かつサンプルに依存的であることであり、より低い流量が、改善されたイオン化効率およびより高い分析感度をもたらしたということが報告されている。エレクトロスプレーイオン化に使用され得る最低流量に対する理論的限界は存在しないが、相対的により小さいエミッタ(放射体)先端を採用することによってESIの流量を低くするための取り組みは、エミッタの詰まり、ナノメートルの先端の製造、およびサンプルの取り扱いなどの、実際の障害によって制約されている。
【0004】
[概要]
選択された流量での液体サンプルの供給のためのデバイスは、内壁部および外壁部を含む出口と、流体流のための1つまたは複数の副流路を提供するためにキャピラリ・エミッタの内壁に貼り付けられた拡張構成要素とを含むキャピラリ・エミッタを備える。このデバイスは、プラズマ・イオンを提供するためのプラズマ放電源と、プラズマ・イオンをキャピラリ・エミッタの出口に向けるための電場源とも含む。キャピラリ・エミッタは、キャピラリ・エミッタの出口で、50フェムトリットル/分(fL/min)から500ナノリットル/分(nL/min)の範囲内の毛細管液体流量を提供する。
【0005】
方法の形態では、本発明は、プラズマ放電源および電場源と共に、内壁部および外壁部を含む出口と、液体サンプルの流体流のための1つまたは複数の副流路を提供するためにキャピラリ・エミッタの内壁に貼り付けられた拡張構成要素とを含むキャピラリ・エミッタを提供することを含む、選択された流量での液体サンプルの供給に関する。その結果、プラズマ・イオンを形成し、電場を提供し、液体サンプルを前述のキャピラリ・エミッタに導入し、キャピラリ・エミッタの出口で、50フェムトリットル/分(fL/min)から500ナノリットル/分(nL/min)の範囲内の液体サンプルの流量を提供し得る。その後、エミッタの液体出力は、その後の分析物の分析のために質量分析計に導入するために、エレクトロスプレーイオン化を受けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】プラズマ放電、DC電圧源、押し出し電極、キャピラリ・エミッタ、およびこれらの好ましい位置を示す全体図である。
図2A】プラズマ・イオン形成を示す、フィラメント・ガラス棒、圧電トランスを含むキャピラリ・エミッタの一実施形態の概略図である。
図2B】プラズマ・イオン形成を示す、フィラメント・ガラス棒、圧電トランスを含むキャピラリ・エミッタの一実施形態の概略図であり、キャピラリ・エミッタが、サンプル溶液の導入のための入口を有する。
図3A】エミッタ先端の開口部の正面図である。
図3B】エミッタ先端の開口部の別の正面図である。
図4A】相対的により高いナノ流量レジームでのマルトヘプトース(Mhep)、多糖類、およびニューロテンシン(神経ペプチド)の等濃度(10μM)の混合物の質量スペクトルの図である。
図4B】相対的により低いピコ流量レジームでのマルトヘプトース(Mhep)、多糖類、およびニューロテンシン(神経ペプチド)の等濃度(10μM)の混合物の質量スペクトルの図である。
図5】ネストESIのナノフロー・レジーム(a)およびピコフロー・レジーム(b)でのバンコマイシンおよびニューロテンシンの等濃度(10μM)の混合物のMSスペクトルを示す図である。
図6】ナノフロー・レジームおよびピコフロー・レジームでのペプチドの混合物の完全なスキャン・スペクトルの比較を示す図である。
図7図6のナノフロー・レジームおよびピコフロー・レジームに関する統合されピーク強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[詳細な説明]
本開示は、同じデバイス内でのフェムトリットル/分(fL/min)からナノリットル/分(nL/min)の流量間の比較的迅速な入れ替えを含む、そのような流量でのエレクトロスプレーイオン化を実現するためのキャピラリ・エミッタおよび方法に関する。図に注意を向けると、図1は、キャピラリ・エミッタ10、プラズマ放電金属ワイヤ12、押し出し電極14によって供給され得ることが好ましい電場源、DCスイッチ16、および高電圧電源18についての最初の全体図を示している。押し出し電極14にDCスイッチ16を介して接続された高電圧電源が、正極性モードで0~5キロボルト(kV)を供給するか、または負極性モードで0~5キロボルト(kV)を供給することが好ましい。複数の押し出し電極を利用してもよい。
【0008】
プラズマ放電金属ワイヤ12は、キャピラリ・エミッタ10の周囲に存在する気体をイオン化するためのAC電流を供給する圧電トランスに接続されることが好ましい。圧電トランスは、1.0ワットの電力レベルで2kVから10kVを供給し得る。この条件で、正モードおよび負モードで、好ましくは質量分析計の分析によって観察され得るような継続的な方法で、十分な陽イオンおよび陰イオンを生成する圧電放電プラズマが形成されることが好ましい。プロトン化した水クラスタ[(HO)H]および陰イオン(O 、OH、NO )などの、標準的な空気プラズマ・イオンが生成され得る。
【0009】
図1からも分かるように、キャピラリ・エミッタの入口までのプラズマ放電の距離である距離「a」は、-3.0mmから+3.0mmの範囲で変化し得ることが好ましい。しかし、本開示の広い文脈において、出口の先端の位置でプラズマと液体との接触を可能にするために、最終的に形成されるプラズマ・イオンがキャピラリ・エミッタの出口または先端22(図2を参照)のみに存在する必要があるということが理解されるべきである。キャピラリ・エミッタ10までのプラズマ放電の開口部の平行な距離「b」は、0mm~5.0mmの範囲で変化し得ることが好ましい。キャピラリ・エミッタの入口までの押し出し電極の距離「c」は、-3.0mmから15.0mmの範囲で変化してもよい。次に、キャピラリ・エミッタの出力が、質量分析計(MS)の入口に導入されてもよい。
【0010】
次に、図2に注意を向けると、図2は、エレクトロスプレーイオン化を含むキャピラリ・エミッタ10のさらなる図を示している。キャピラリ・エミッタ10は、比較的丸いか、または管状であり得ることが好ましいが、他の形状が考えられ、制限されない。キャピラリ・エミッタ10は拡張構成要素11を含み、拡張構成要素11は、キャピラリ・エミッタ10の内壁に取り付けられ、内壁に沿って広がり、内壁から突き出ることが好ましい。この拡張構成要素自体は、本明細書では棒またはフィラメントと呼ばれ、ガラスで形成されることが好ましく、エミッタの内壁に取り付けられてもよい。キャピラリ・エミッタの内壁に取り付けられた、この拡張構成要素は、次に、液体流のための1つまたは複数の副流路として説明され得るものを形成するために利用される。副流路への参照は、毛細管作用によって支援され得る液体の流れの大まかな経路を定める、キャピラリ・エミッタの内面の一部として理解されるべきである。したがって、そのような拡張構成要素は、本明細書においてさらに説明されるように、エミッタの出口への液体流の供給のために、拡張構成要素の両側の2つの副流路の形成を提供し得ることが好ましい。加えて、そのような拡張構成要素の形状は、変化してもよく、例えば、円形、楕円形、または他の形状を含んでもよい。
【0011】
加えて、図2Aからわかるように、この拡張構成要素11は、エミッタ10の内壁の長さのすべてまたは大部分に沿って移動することが好ましい。さらに、拡張構成要素11が固体ガラス棒で作られ、エミッタ10が同様にガラスで作られることが好ましい場合、ガラス棒が、アニーリングによってエミッタ10の内壁に都合よく取り付けられてもよい。そのような状況では、拡張構成要素11は、ガラス・フィラメントとして識別されてもよい。
【0012】
エミッタ10の近位端で、キャピラリ・エミッタ10は、DC電圧スイッチ16に接続されたDC電圧源18をやはり含む。電圧スイッチは、やはり押し出し電極14に接続されて示されており、帯電時に、電極は、正(+)プラズマ・イオンまたは負(-)プラズマ・イオンを、出口またはエミッタ先端22でのキャピラリ・エミッタの遠位端に向かって押す働きをする電場を供給する。前述したように、複数の押し出し電極を利用してもよい。少なくとも3つの好ましい方法によって、サンプル溶液20がエミッタに充填されてもよい。1つの方法は、図2Aに示されているように、キャピラリ・エミッタの遠位端で(すなわち、エミッタ先端の出口の開口部22で)サンプル溶液20を充填することである。次に、図2Bに示されているように、キャピラリ・エミッタ10は、その近位端に、サンプル溶液20の導入のための開口部の入口25を含んでもよい。この開口部の入口は、図2Bに示されているように、好ましくはテーパ状(先細り形状)になることもできる。図2Bは1つの入口を示しているが、サンプル溶液の導入のための2~10個の入口などの複数の入口が存在してもよいということが理解されるべきである。いずれの場合も、エミッタ10の動作時に、帯電した液滴の噴霧または噴煙が形成され、24で識別され、その後、質量分析計26に導入されてもよい。加えて、質量分析計の入口が、プラズマ・イオンを出口またはエミッタ先端22でのキャピラリ・エミッタの遠位端に向けるために、電極14の機能と同様に電場電位を供給してもよいということに注意するべきである。別の電場電位を供給するそのような質量分析計の入口は、単独で、または1つまたは複数の押し出し電極14と組み合わせて使用されてもよい。
【0013】
好ましい寸法に関して、キャピラリ・エミッタ10は、50μmから50cmの範囲内の長さ、2.0ナノメートル(nm)から3.0ミリメートル(mm)の範囲内の内径(ID:inner diameter)、および0.005mmから5.0mmの範囲内の外径(OD:outer diameter)を有することが好ましい。上記で暗に示されたように、キャピラリ・エミッタは、液体サンプルの導入のため、およびエレクトロスプレーの噴煙の形成のためのそれぞれ別々の入口を含み得るキャピラリ・エミッタでもある。液体サンプルの導入のためのそのような任意選択的入口は、0.001mmから0.5mmの範囲内の直径を有し得ることが好ましい。拡張構成要素11は、0.01μmから100.0μmの範囲内のODを有することが好ましい。拡張構成要素のODは、キャピラリ・エミッタの開口部のIDより小さくなり、液体流の1つまたは複数の副流路を提供するように選択される。
【0014】
キャピラリ・エミッタは、ガラスで作られている場合、その遠位端で加熱されることが好ましく、その後、加熱されたガラスを引っ張ることによってテーパ状のエミッタ先端出口の開口部22が形成されることが好ましい。代替として、毛細管をその中央部付近で加熱し、両端を反対方向に引っ張ってもよく、その後、管が分かれて2つのエミッタ先端出口の開口部を形成する。管をエッチング媒体に浸し、その後、エミッタ先端が形成され得るということも企図される。
【0015】
同様に、そのような加熱および引っ張りによって、近位端でのテーパ状の先端入口の開口部25が形成されてもよい。テーパ状のエミッタ先端出口の開口部は、5.0nmから20.0μmの範囲内であることが好ましい。テーパ状のエミッタ先端出口の開口部22は、1.0μmから10.0μmまたは1.0μmから5.0μmの範囲内で開口径を定めることがより好ましい。加えて、エミッタ先端での拡張構成要素またはガラス棒11の先端22内の直径は、好ましくは1.0nmから5.0μmの範囲内の外径に減らされる。やはり、エミッタ先端内の拡張構成要素の外径は、エミッタ先端の開口径より相対的に小さくなり、拡張構成要素が流体流のための1つまたは複数の副流路を提供するように選択される。
【0016】
図3Aに、エミッタ先端の開口部の正面図が示されている。図に示されているように、エミッタに導入されたサンプル溶液は、1つまたは複数の毛細管副流路28内に存在することが好ましく、複数の毛細管副流路28は、拡張構成要素11の両側に形成され得ることが好ましい。図3Bでは、拡張構成要素11を取り囲むことが好ましい、形成された1つの毛細管副流路28が存在することができるということが観察され得る。いずれの場合も、ここで、本明細書においてさらに説明されるように、エミッタ先端の位置で、プラズマ・イオンと液体との接触に起因して、エミッタ先端の開口部のサイズより相対的に小さい液面29またはメニスカスを提供できるということが観察され得る。前述したように、エミッタ先端の開口部自体は、5.0nmから20.0μmの範囲内の開口径を有してもよい。加えて、1つまたは複数の毛細管流路28は、エミッタの出口または先端の開口部より相対的に小さい流体レベルを提供し、維持する。エミッタの出口でのそのような相対的に小さい流体レベルの最大の幅または高さは、前述の主流路13の内径の範囲の1/500から1/2000であることが好ましい。ここで、フェムトリットル/分またはピコリットル/分の流量レジームで1つまたは複数の副流路内で成長することがある相対的に低い流量の蒸発を減らすか、または防ぐために、キャピラリ・エミッタによって定められた主流路が、エミッタ内の相対飽和蒸気圧を提供することを補助することが企図されるということも注目に値する。
【0017】
代表的なプロセスでは、質量分析用の溶液20が、エミッタ先端22に移動して先端を徐々に満たし、その後、本体からそのような先端に向かって、キャピラリ・エミッタ内の任意のテーパ状部分を満たす。この移動は、通常、毛細管作用の結果である。溶液がエミッタ先端に最初に到着するときに、エミッタの開口部より相対的に小さい液面29が提供されるように、先端の開口部が部分的に満たされる。本明細書においてさらに説明されるように、1つまたは複数の押し出し電極およびプラズマの使用によって、ここで、エミッタ先端でのこの液面に対してエレクトロスプレーイオン化がトリガーされた場合、エミッタ先端に向かう液体の毛細管流に等しい消費率で、そのような相対的に小さい液面が動的平衡状態において維持され、その後、拡張構成要素11に沿った毛細管流によってエレクトロスプレー流量が決定され得る。したがって、動的平衡状態への参照は、エミッタ先端に向かうエミッタ内の流れが、選択された、好ましくは継続的な流量で維持されることが可能であり、次にこの流量が、エミッタ先端内の液面を、エミッタ先端の開口部より相対的に小さい選択されたサイズで維持する特性として広く理解されるべきである。
【0018】
実際のエミッタ先端の出口の開口部より相対的に小さい液面29を提供するこの能力は、1つまたは複数の副流路内の毛細管液体流と共に、ここで、50フェムトリットル/分(fL/min)から500ナノリットル/分(nL/min)の範囲内のキャピラリ・エミッタの流量およびエレクトロスプレーイオン化(ESI)を提供する能力を利用可能にする。本明細書では、エレクトロスプレーイオン化は、エミッタの開口部22での液体から帯電液を放出することを示す。エミッタの開口部22では、エミッタ先端の位置で電気力が液体の表面張力に打ち勝つ。ここで、より詳細には、50ピコリットル/分(pL/min)から150nL/minの範囲内のESIの流量を供給することが好ましい。本明細書においてさらに説明されるように、同じデバイス内で、要求に応じて、fL/minとnL/minの流量間、またはpL/minとnL/minの流量間で交互に入れ替えてもよい。流量におけるこの前述の入れ替えは、10マイクロ秒(μs)から1.0秒の期間にわたって発生することが好ましい。加えて、本明細書では、50fL/minから500nL/minまたは好ましくは50pL/minから150nL/minの範囲内の流量が、最大で10.0時間までの期間の間、継続して維持されてもよい。
【0019】
したがって、ここで、相対的に高い電圧の圧電トランスが、金属ワイヤ12の先端で交流電流放電プラズマを生成するということが理解されてもよい。押し出し電極14によって生成された補助電場は、正プラズマ・イオンまたは負プラズマ・イオンをキャピラリ・エミッタの出口に向かって押し、出口の開口部より小さい液面が帯電し、ESIを生成する。毛細管の外部の空間を通ってプラズマ・イオンが運ばれ、エミッタ先端22の開口部に供給される。プラズマ・イオンは、押し出し電極が正モードまたは負モードに設定された場合、それぞれプロトン化した水クラスタ[(HO)H]またはO 、NO などの標準的なプラズマ型イオンとすることができる。エミッタ先端22内のサンプル溶液は、これらの電荷によって容易にイオン化され、ESI型イオンが生成される。この方法は、本明細書において述べられた相対的に低い(すなわち、50ピコリットル/分(pL/min)から150nL/minの範囲内の)流量のESIに適している電荷を継続的に供給することもできる。
【0020】
副流路28からのESIは、形成されたESI型イオンが質量分析によって評価された場合に、ほとんど見えないが安定したイオン信号である液体の噴煙を生成した。本明細書におけるキャピラリ・エミッタ10によって、コカインなどの不正薬物、環境汚染物、アミノ酸、オリゴ糖、ペプチド、およびタンパク質を含むさまざまな化合物が、標準的なESI型イオンに正常にイオン化された。本明細書におけるキャピラリ・エミッタ10における使用に適しているということが判明した化合物の非限定的リストが、分析の質量分析モードおよび識別された分析物イオンと共に、下の表1に示されている。
【0021】
【表1】
【0022】
したがって、現在、前述の低下した流量の能力がある本明細書におけるキャピラリ・エミッタ10は、イオンを生成するために質量分析において採用された従来のエレクトロスプレーイオン化に適しているということが別の方法で判明し得る任意の分析物化合物に適用されることが可能である。上記で、「M」は、示された正イオン・モードまたは負イオン・モードのどちらかで存在し得る分子イオンのことを指している。これは、一般に、エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS:electrospray ionization mass spectrometry)と呼ばれることがある。
【0023】
エミッタ先端での副流路28およびプラズマ・イオンと液体の接触の存在と共に、プラズマ放電12から形成されたプラズマ・イオンを使用して電荷を供給することが、160nmから20.0μmの範囲内のエミッタ先端の開口部を使用して50pL/minから500nL/minのキャピラリ・エミッタにおける、上記で参照された流量を達成する能力を可能にしたということも追加され得る。比較のために、従来のDC電源を使用して外部金属被覆を含む類似するエミッタ先端がテストされた。フィラメントに沿った溶液の供給が再現されたが、金属被覆に加えられた相対的に高い電圧を使用して、内部の副流路から継続的なエレクトロスプレーを作り出すことは、比較的困難であるということがわかった。代わりに、パルス・エレクトロスプレーが観察された。電圧を増やすことは、空気の絶縁破壊を補助せず、空気の絶縁破壊につながらなかった。この脈動現象は、述べたように、プラズマ形成、プラズマ・イオンと液体との相互作用、および1つまたは複数の押し出し電極を利用した本明細書におけるキャピラリ・エミッタ10を使用する場合、観察されなかった。
【0024】
前述したように、本開示は、要求に応じて、同じデバイス(キャピラリ・エミッタ10)内の相対的に低いfL/minの流量と相対的に高いnL/minの流量との間で、または好ましくは、相対的に低いpL/minの流量と相対的に高いnL/minの流量との間で、交互に入れ替えることを可能にする。この能力についてさらに詳しく説明すると、例えばピコフロー・レジームの最中に押し出し電圧源18を電気的にオフにすることによって、エレクトロスプレーを停止し、毛細管流がキャピラリ・エミッタ10の主流路13を満たすことを可能にするということに注意する。図2を参照する。押し出し電圧を再びオンにすることによって、主流路からのナノフロー(3~5nL/min)のESIを開始した。主流路に蓄積された溶液が消費された後に、ESIが副流路および相対的に低いピコフロー・レジームに戻った。相対的に高いナノフロー・レジームから相対的に低いピコフロー・レジームへの遷移は、エレクトロスプレーの噴煙24の消失および相対的なイオン強度における変化を伴った。したがって、押し出し電圧のオンとオフとを単に切り替えることによって、キャピラリ・エミッタ10におけるピコフローとナノフローとの間の相対的に素早い入れ替えが実現された。前に述べたように、キャピラリ・エミッタ10内のfL/minとnL/minの間、または好ましくは、pL/minとnL/minの間のこの相対的に素早い入れ替えは、10マイクロ秒(μs)から1.0秒の好ましい期間にわたって発生することができる。
【0025】
[作業手順/実施例]
図1に示された設定は、次のように構築されることが好ましい。プラズマ・イオンは、圧電トランス(53×7.5×2.6mm、INC model SMSTF68P10S9、Steiner&Martins社)を使用することによって生成された。圧電トランスは、信号発生器(Koolertron)からの正弦波形によってトリガーされた入力電圧(5~25V、Powertron Model 500A、Industrial Test Equipment Co.社、米国ニューヨーク州ポートワシントン)を供給することによって操作された。プラズマ放電は、室温条件下で出力電極の先端で容易に生成された。肉眼によって、かすかなプラズマが観察され得る。補助電場を作り出すために、0~4kVに帯電した押し出し電極(44×44mm)が、キャピラリ・エミッタおよびプラズマの背後に配置され、正プラズマ・イオンおよび負プラズマ・イオンをキャピラリ・エミッタに向かって押した。
【0026】
エミッタ先端の出口の形成:エミッタを引っ張るために、マイクロピペット・プラー(モデルP-1000、Sutter Instrument社、カリフォルニア州)が使用された。拡張構成要素11を含むホウケイ酸ガラス毛細管および拡張構成要素11を含まないホウケイ酸ガラス毛細管(外径1.5mm、内径0.86mm、BF150-86-10およびB150-86-10)が採用された。エミッタ先端が、明視野顕微鏡(オリンパスIX73)によって確認され、電界放射型走査電子顕微鏡法(TESCAN LYRA3)によって測定された。必要に応じてエミッタの近位端を密封するために、マイクロ・ブタン・トーチおよびワックスが使用された。
【0027】
サンプル溶液をエミッタに充填するため、および本明細書において識別された流量制御を実現するために、少なくとも3つの異なる例示的な方法が利用されてもよい。溶液は、遠位のエミッタ先端22に充填されてもよく、溶液は、キャピラリ・エミッタ10の近位端に充填されてもよく、または溶液は、任意選択的に先端の形態で存在し得る近位端に定期的に供給されてもよい。
【0028】
ESIの流量は、次の2つの方法のうちの1つを使用して決定され得る。
【0029】
第1の測定方法は、ある期間の間の噴霧の前後のキャピラリ・エミッタの重量分析に基づく。噴霧時間、失われた重量、および溶液の密度を考慮して、流量が決定され得る。Mettler Toledo MX5微量天秤(Mettler-Toledo社、オハイオ州コロンバス、製造業者によって報告された再現性は±0.8~0.9μgである)を使用して重量測定が実行された。キャピラリ・エミッタの総重量は、通常、0.134823~0.147074グラムの範囲内であった。実験において3回、キャピラリ・エミッタの重量を量るときに、0.5~3μgの範囲内の標準偏差が得られた。伝搬誤差eを計算するために、エレクトロスプレーの前(e)および後(e)の標準偏差が、方程式
【0030】
【数1】
に埋め込まれた。この伝搬重量誤差eを溶液密度および噴霧時間で割り、各実験における流量誤差を取得した。1つの実験では、噴霧の前および後の標準偏差は、1.4×10-6gおよび2.1×10-6gだった。溶液密度(水と1:1の割合のメタノールの場合、0.927g/mL)および30minの噴霧時間で割り、91pL/minの測定誤差が得られた。測定誤差が最大でも流量の1/3になることを保証するために、より長い噴霧時間(最大で300分まで)が使用された。対照実験は、近位端のワックスでの密封がすべて効果的であるということを示している。実験の期間にわたる遠位端からの充填された溶液の蒸発減は、常にESIによって消費された量の10%未満だった。
【0031】
第2の測定方法は、時間の経過と共にエミッタ先端に蓄積された溶液の量に基づく。この方法は、ネストESIがピコフロー・レジームとナノフロー・レジームの間で交互に入れ替えられる場合に使用された。副流路のESIが平衡化される場合、副流路内の溶液の流量は、エレクトロスプレーの消費率にほぼ等しい。エレクトロスプレーを一時的に停止すると、溶液がエミッタ先端に蓄積される。蓄積の最初の12秒以内は溶液の流量が一定であるということを仮定して、時間の経過と共に蓄積された量は、ピコフローのESIでの流量の計算を可能にする。同様に、ナノフロー・レジームの流量は、副流路の流れに加えて、蓄積された溶液が消費される速度によって計算されてもよい。実験では、1秒当たり30フレームのカメラを使用してビデオが撮影された。ビデオにおいて、既知の物体(2.14mm/228ピクセル)を使用して長さが計算された。円錐形の溶液の高さ(h)および半径(固定された円錐形の場合、r=kh)を測定することによって、量が計算された。次に、
【0032】
【数2】
によって計算された体積を、流量を生み出すために経過した時間で割った。1つの例では、蓄積された溶液の長さが11ピクセルであり、9.5pLの計算された量を得た。0.17minの噴霧時間の場合、この量は56pL/minの流量に対応する。量の計算の間に1ピクセルを数え間違うことによってもたらされる可能性がある誤差を使用して、この流量における誤差が推定された。11ピクセルごとの1ピクセルは、hに対する9.1%の相対誤差に対応する。方程式
【0033】
【数3】
を考慮して、量に対する伝搬誤差は27%になりうる。おそらく1フレームを数え間違うことに基づいて推定された時間測定における相対誤差は、約0.8%までであり、常に少なくとも大きさが1桁小さいため、省略される。別の例では、バルク溶液の測定された長さが、0.26nLの量に対応する49ピクセルだった。0.16minの噴霧時間の場合、この値は、1.6nL/minの流量に対応する。±1ピクセルの伝搬誤差は、6%になる。
【0034】
本明細書における図4Aおよび4Bは、マルトヘプトース(Mhep)、多糖類、およびニューロテンシン(神経ペプチド)の等濃度(10μM)の混合物の質量スペクトルを示しており、相対的に高いナノフローの流量レジーム(図4A)から相対的に低いピコフローの流量レジーム(図4B)に流量を入れ替えながら、それに続いて質量スペクトル分析を行った。ナノフローの流量レジームは2nL/minであり、ピコフローの流量レジームは47pL/minであった。多糖類およびペプチドは、イオン化効率(すなわち、本明細書では、イオン化され、エレクトロスプレーイオン化を受ける相対的な能力)が流量の変化に異なる応答することが期待され得るように、表面活性が異なる。観察され得るように、ピコフロー・レジームに移行するときに、ペプチド・イオン信号の低下が観察されており、[MhepNHの信号強度が、ニューロテンシンの信号強度に対して約9倍に増加した。加えて、Mhepの絶対イオン強度が2倍に増加した。したがって、本明細書においてピコリットル・フロー・レジームまたはフェムトリットル・フロー・レジームをキャピラリ・エミッタ10に利用することによって、現在、ESI-MSのための単糖類の分析物のイオン化効率が改善され得るということが理解され得る。
【0035】
図5は、ネストESIのナノフロー・レジーム(a)およびピコフロー・レジーム(b)でのバンコマイシンおよびニューロテンシンの混合物のMSスペクトルを示している。MeOHおよび10mMの酢酸アンモニウム水溶液(v:v、1:1)の混合物内の10μMのバンコマイシンおよびニューロテンシンであり、DC電圧1.5kV、MS、LTQ velos Orbitrapである。ナノフロー・レジームでは、バンコマイシンのピークの積分ピーク強度が、ニューロテンシンの積分ピーク強度の1/5だった。ピコフロー・レジームでは、積分ピーク強度がニューロテンシンの場合、1/9.3に減少し、バンコマイシンの場合、1/2.5にしか減少しなかった。バンコマイシンの絶対イオン強度は増えなかった。バンコマイシンの場合、ピコフロー・レジームにおいてニューロテンシンを上回る3.7倍の相対イオン強度の増加が観察され、この増加は有意であり、この方法の分析物に対する、特にグリカンの修飾を伴う、幅広い適用可能性をさらに示している。
【0036】
本明細書に記載されたキャピラリ・エミッタ10を利用して、ナノフロー・レジームおよびピコフロー・レジームで、等濃度のペプチドの混合物(AII:アンジオテンシンII、B:ブラジキニン、AI:アンジオテンシンI、S:物質P、N:ニューロテンシン、M:メリチン)が分析された。サンプル溶液は、アセトニトリルおよび水(v:v、1:9)に6つのペプチドの10μMの混合物を含んでいた。図6は、完全なスキャン・スペクトルの比較を示している。図7は、これらの2つのフロー・レジームの場合の分析物の積分ピーク強度を示している。図に示されているように、これらのペプチドの場合、ピコフロー・レジームでの相対的により均一なイオン応答が観察された。ナノフロー・レジームおよびピコフロー・レジームの場合、相対強度(AII:B:AI:S:N)は、それぞれ0.19:0.48:0.19:1.00:0.06および0.32:0.86:0.44:1.00:0.32だった。
【0037】
本発明は、前述の実施例に限定されず、さまざまな変更を含んでもよい。作業手順/実施例は、本発明の理解を容易にするために詳細に説明されたが、提供された作業手順/実施例に必ずしも限定されない。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7