(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】耐久性向上のためナノラミネートを備えた光学コーティング
(51)【国際特許分類】
G02B 1/11 20150101AFI20241114BHJP
C03C 17/34 20060101ALI20241114BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20241114BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20241114BHJP
【FI】
G02B1/11
C03C17/34 Z
C23C14/34
G02B1/14
(21)【出願番号】P 2019566192
(86)(22)【出願日】2018-06-01
(86)【国際出願番号】 US2018035709
(87)【国際公開番号】W WO2018223070
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-06-01
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-03
(32)【優先日】2017-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507310307
【氏名又は名称】インテヴァック インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】ブラック,テリー
(72)【発明者】
【氏名】サラフ, ガウラフ
(72)【発明者】
【氏名】ハンター, ジェームス クレイグ
(72)【発明者】
【氏名】ファン, チャンワン
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン, ポール アール. マルコフ
(72)【発明者】
【氏名】チョエ, ジェハ
【合議体】
【審判長】神谷 健一
【審判官】廣田 健介
【審判官】宮澤 浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0311521(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0233106(US,A1)
【文献】国際公開第2016/138195(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0023941(US,A1)
【文献】特開2008-98664(JP,A)
【文献】特開2005-294306(JP,A)
【文献】特開2000-349393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B1/10-1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1屈折率をそれぞれが有する複数の低屈折率層と、
前記第1屈折率より大きい第2屈折率をそれぞれが有する複数の高屈折率層とを含み、
前記低屈折率層及び前記高屈折率層は、組み合わせられるように交互に配置されて積層体を形成し、
前記低屈折率層及び前記高屈折率層から選択される少なくとも1個の層は、前記第1屈折率及び前記第2屈折率とは異なる屈折率を有する2つの異なる材料の交互のナノ層複数から作製された超格子ナノラミネート層を含
み、
前記少なくとも1個の層が前記低屈折率層から選択されるとき、前記2つの異なる材料のそれぞれは酸化物材料からなり、
前記少なくとも1個の層が前記高屈折率層から選択されるとき、前記2つの異なる材料のそれぞれは窒化物材料からなる、光学コーティング。
【請求項2】
前記ナノ層のそれぞれは2nm~10nmの厚みを有する、請求項1に記載の光学コーティング。
【請求項3】
前記少なくとも1個の層が前記低屈折率層から選択されるとき、前記2つの異なる材料のそれぞれは、前記第2屈折率よりも前記第1屈折率に近い値を有する屈折率を有するように選択され、
前記少なくとも1個の層が前記高屈折率層から選択されるとき、前記2つの異なる材料のそれぞれは、前記第1屈折率よりも前記第2屈折率に近い値を有する屈折率を有するように選択される、請求項1に記載の光学コーティング。
【請求項4】
第1屈折率をそれぞれが有する複数の低屈折率層と、
前記第1屈折率より大きい第2屈折率をそれぞれが有する複数の高屈折率層とを含み、
前記低屈折率層及び前記高屈折率層は、組み合わせられるように交互に配置されて積層体を形成し、
前記複数の低屈折率層のそれぞれ及び前記複数の高屈折率層のそれぞれは、2つの異なる材料の交互のナノ層から作製されたナノラミネート層を含む
、光学コーティング。
【請求項5】
前記低屈折率層
において、前記2つの異なる材料のそれぞれは酸化物材料からなり、
前記高屈折率層
において、前記2つの異なる材料のそれぞれは窒化物材料からなる、請求項
4に記載の光学コーティング。
【請求項6】
前記複数の低屈折率層のそれぞれは、前記第2屈折率よりも前記第1屈折率に近い屈折率値を有する2つの異なる材料の交互のナノ層から作製されたナノラミネート層を含み、
前記複数の高屈折率層のそれぞれは、前記第1屈折率よりも前記第2屈折率に近い屈折率値を有する2つの異なる材料の交互のナノ層から作製されたナノラミネート層を含む、請求項
4に記載の光学コーティング。
【請求項7】
前記超格子ナノラミネート層内で、前記2つの異なる材料は、式(n
1-n
2)/(n
1+n
2)≦0.07を満たすように選択され、式中、n
1及びn
2は前記2つの異なる材料の屈折率である、請求項1に記載の光学コーティング。
【請求項8】
前記複数の低屈折率層のそれぞれは、屈折率n
1及びn
2をそれぞれ有し、式(n
1-n
2)/(n
1+n
2)≦0.07を満たす2つの異なる材料の交互のナノ層から作製されたナノラミネート層を含み、
前記複数の高屈折率層のそれぞれは、屈折率n
i及びn
jをそれぞれ有し、式(n
i-n
j)/(n
i+n
j)≦0.07を満たす、2つの異なる材料の交互のナノ層から作製されたナノラミネート層を含む、請求項
4に記載の光学コーティング。
【請求項9】
式(n
f-n
s)/(n
f+n
s)≧0.10を満たし、式中、n
fは前記第1屈折率と等しく、n
sは前記第2屈折率と等しい、請求項8に記載の光学コーティング。
【請求項10】
前記2つの異なる材料は、ZrO
2、ZrN、AlN、Si
3N
4、TiO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5、CrO
2、WO
3の2つ以上からなる、請求項1に記載の光学コーティング。
【請求項11】
前記2つの異なる材料は、SiO
2、Al
2O
3、SiO
xN
y、Si
xAl
yO
zの2つ以上からなる、請求項1に記載の光学コーティング。
【請求項12】
前記積層体上に形成されたダイヤモンド様コーティング(diamond-likecoating、DLC)をさらに含む、請求項1に記載の光学コーティング。
【請求項13】
前記DLC上に形成されたシリコン層と、
前記シリコン層上に形成されたSiO
2層と、
前記SiO
2層上に形成された指紋防止(anti-fingerprint、AF)層とをさらに含む、請求項12に記載の光学コーティング。
【請求項14】
第1屈折率を有する複数の第1層と、
前記第1屈折率とは異なる第2屈折率を有する複数の第2層とを含み、
前記複数の第1層及び前記複数の第2層は、基板上に組み合わせられるように交互に形成され、前記複数の第2層からの1個の層で終端し、
該1個の層上に形成された上部層を含み、前記上部層は2重層を複数有するナノラミネートを含み、各2重層は異なる材料からなる2個のナノ層を含み、
前記上部層の有効屈折率が前記第2屈折率よりも前記第1屈折率に近い値を有するように、前記異なる材料のそれぞれは、前記第1層と前記第2層の材料とは異なる、光学コーティング。
【請求項15】
前記異なる材料は、式(n
1-n
2)/(n
1+n
2)≦0.07を満たすように選択され、式中、n
1及びn
2は前記異なる材料の屈折率である、請求項14に記載の光学コーティング。
【請求項16】
前記上部層の有効屈折率n
effは、式|(n
eff-n
s)/(n
eff+n
s)|≧0.10を満たし、式中、n
sは前記1個の層の屈折率である、請求項15に記載の光学コーティング。
【請求項17】
前記異なる材料は、ZrO
2、ZrN、AlN、Si
3N
4、TiO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5、CrO
2、WO
3の2つ以上からなる、請求項16に記載の光学コーティング。
【請求項18】
前記異なる材料は、SiO
2、Al
2O
3、SiO
xN
y、Si
xAlyO
zの2つ以上からなる、請求項16に記載の光学コーティング。
【請求項19】
前記上部層上に形成されたダイヤモンド様コーティング(DLC)をさらに含む、請求項16に記載の光学コーティング。
【請求項20】
前記DLC上に形成されたシリコン層と、
前記シリコン層上に形成されたSiO
2層と、
前記SiO
2層上に形成された指紋防止(AF)層とをさらに含む、請求項19に記載の光学コーティング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2017年6月1日に出願の米国仮特許出願第62/513,933号、及び2018年4月2日に出願の米国仮特許出願第62/651,617号の優先権を主張するものであり、それらの開示全体が言及によって本明細書に援用される。
【0002】
[技術分野]
本開示は、一般に、反射防止コーティングなどの光学コーティングの分野と、そうした光学コーティングの作製とに関する。
【背景技術】
【0003】
反射防止コーティング(anti-reflectivecoating、ARC)は、例えば、眼鏡、板ガラス(例えば車のフロントガラス)、フラットスクリーンディスプレイ、及びタッチスクリーンなど数多くの用途に用いられている。これらの用途の多くでは、ARCの要件に可視波長における効率のよい反射防止特性、高透明度、及び耐久性が含まれる。自明のことながら、これらの特性を商業上許容されるコストで得る必要がある。
【0004】
一般に、基板上にARCを形成する2つの方法、つまりウェット法とドライ法とが存在する。ドライ法は、高屈折率と低屈折率とが交互の複数の薄層を積層させる成膜法又はスパッタリング法を使用する。この方法は、層間インターフェイスにおける優れた付着性や層厚の非常に正確な制御をもたらすが、比較的高い製造コストを必要とする。ウェット法は、湿式溶液で基板をコーティングし、その後溶媒を乾燥させることに関連する。この方法でも、低屈折率と高屈折率との交互層が形成されるので、プロセスが繰り返される必要があり、ドライ法と比較して層のインターフェイスにおける付着性が比較的低くなる。
【0005】
ARCを形成するためのウェット法及びドライ法の例は、例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3、及び特許文献4記載されている。
【0006】
従来のARCにおける一問題は、ARCを形成する大量生産でありコスト競争力のある大部分の方法では、連続的に使用される又は厳しい環境で使用されるデバイスに使用される十分に耐傷性又は耐摩耗性のあるコーティングが形成されないということである。携帯電話などの携帯デバイスは、従来のARCコーティングに合わない用途の一例である。この理由は、ARCへの任意の損傷が、スクリーンより放射される光を大きく屈折させて、デバイスに非常に明らかな不良をもたらすことである。この非常に明らかな不良により、ARコーティングの反射防止の恩恵がなくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第9,482,789号明細書
【文献】米国特許第8,358,467号明細書
【文献】米国特許第6,532,112号明細書
【文献】米国特許第5,106,671号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ゆえに、例えばフラットパネルディスプレイやタッチスクリーンに使用可能な改良されたARCが当該技術分野において求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下の本開示の発明の概要は、本発明におけるいくつかの態様及び特徴の基本的な理解を得るために包含される。この発明の概要は本発明の広範囲の概略ではなく、それ自体特に本発明の不可欠な又は重要な要素を特定すること、又は本発明の範囲を詳述することを意図しない。その唯一の目的は、以下に記載されるより詳細な説明の前置きとして簡易な形態で本発明のいくつかの概念を提示することにある。
【0010】
開示の実施形態では、改良された光学特性及び機械特性、特に高耐久性及び耐傷性を有する改良された光学コーティング構造が提供される。開示の実施形態では、許容される商業上のコストで大量製造において実施可能な作製方法が使用される。
【0011】
開示の実施形態において、例えばARCなどの光学コーティングは、そのそれぞれが交互の屈折率のナノ層を有する、ナノラミネートとも呼称される複数の超格子を使用して形成されて、改良されたARC構造を形成する。各超格子は、交互の組成及び/又は結晶相であるが、対応する屈折率を有する、少なくとも2個のnmスケール層(すなわち1個の2重層)からなる。複数の超格子は、交互の有効屈折率を有して積み重ねられる。超格子の有効屈折率は、ナノ層の厚みで重み付けされた、2重層をなす2個のナノ層の平均屈折率である。開示の実施形態において、ナノ層のそれぞれは、30ナノメートル以下の、より具体的には2~10nmの範囲の厚みのものである。一部の実施形態において、ARC構造全体がナノ層から作製される。他の実施形態において、標準的なARC層が形成され、1個の、典型的には最後の光学層が複数のナノ層から作製されて、ハードキャップ層を形成する。
【0012】
一般的な態様において、光学コーティングが提供され、該光学コーティングは、第1屈折率をそれぞれが有する複数の低屈折率層と、第1屈折率よりも大きい第2屈折率をそれぞれが有する複数の高屈折率層とを含み、低屈折率層と高屈折率層とは、組み合わせられるように交互に配置されて積層体を形成し、低屈折率層及び高屈折率層から選択される少なくとも1個の層は、2つの異なる材料の交互のナノ層から作製されたナノラミネート層を含む。
【0013】
開示の実施形態は、光学コーティングを形成する方法を含み、該方法は、透明基板を準備するステップと、第1屈折率を有する第1屈折率層と第2屈折率を有する第2屈折率層とを交互に複数回形成することで該基板上に複数の透明層を形成するステップとを含み、複数の透明層を形成することは、透明基板をスパッタリングチャンバに配置することと、異なる材料の2個のナノ層からなる少なくとも1個の2重層を形成するためスパッタリングチャンバを作動させることとによって、少なくとも1個の層を形成することを含み、ナノ層のそれぞれは2~10ナノメートルの厚みを有し、基板上に形成されたナノ層に酸素イオン又は窒素イオンをともに注入しながら、ナノ層のそれぞれがターゲットからのスパッタリング材料によって形成される。さらに、方法には、複数の透明層を形成する前に基板に直接的にシード層を形成することを含むことができる。また、方法には、複数の透明層上にダイヤモンド様コーティングを形成することを含むことができる。また、方法には、ダイヤモンド様コーティング上にシリコン層を形成することと、シリコン層上にシリコン酸化物層を形成することと、シリコン酸化物層上に指紋防止層を形成することとを含むことができる。さらに、方法には、屈折率n1及びn2を有して、(n1-n2)/(n1+n2)≦0.07の関係を満たすように、異なる材料を選択することを含むことができる。さらに、方法には、(nf-ns)/(nf+ns)≧0.10の関係を維持し、式中、nfは2重層の有効屈折率であり、nsは第1屈折率又は第2屈折率のうちの1つの屈折率であるように、複数の透明層を形成すること含むことができる。
【0014】
本発明の他の態様及び特徴は、以下の図面に関して記載される詳細な説明から明らかになる。詳細な説明及び図面は、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の種々の実施形態の種々の非限定的例をなすものであることが理解される必要がある。
【0015】
この明細書に含まれるともにこの明細書の一部をなす添付の図面は、本発明の実施形態を例示するものであり、詳細な説明とともに本発明の原理を記載して表す役割を担う。図面は、概略的に例示の実施形態の主な特徴を示すことが意図される。図面は、実際の実施形態のすべての特徴や示される要素の相対的寸法を示すことを意図するものではなく、正確な縮尺で描かれていない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1において、
図1Aは、特許文献3に公開されている先行技術のARC構造を示し、
図1B~
図1Dは、本発明の実施形態における変形ARC構造を示す。
【
図2】
図2において、
図2A~
図2Cは、一実施形態における光学コーティングを形成するプロセスを示す。
【
図3A】
図3Aは、光学コーティングのさらなる実施形態を示す。
【
図3B】
図3Bは、光学コーティングのさらなる実施形態を示す。
【
図3C】
図3Cは、光学コーティングのさらなる実施形態を示す。
【
図3D】
図3Dは、中間保護接着層を備えたDLCと指紋防止層との保護積層体を有する実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ここで、創意に富んだ光学コーティング及びその作製の実施形態を図面に関して記載する。様々な用途のために又は様々な有利性を得るために、種々の実施形態又はそれらの組合せを使用することができる。本明細書に開示する種々の特徴は、得ようとする結果次第で、利点を要件や制約と両立させて、部分的に又はそのすべてを単独で又は他の特徴と組み合わせて使用することができる。ゆえに、特定の有利性は種々の実施形態において強調されるが、開示の実施形態に限定されるわけではない。すなわち、本明細書に開示の特徴は、それらが記載される実施形態に限定されるわけではなく、他の特徴と「様々に組み合わせられ」、他の実施形態に組み込むことができる。
【0018】
開示の実施形態は、ナノラミネート構造を有する光学コーティングを形成する方法を含む。本開示の文脈において、ナノラミネートは、異なる組成の交互のナノ層であり、各ナノ層は30nm以下の厚みを有する。種々の開示の実施形態では、各ナノ層が2~10nmの薄さであるとき有益な結果が示されている。ナノラミネート構造における腐食、摩耗、きず、及び硬度の特性は、30nmより大きい厚みの個々の膜又は積層膜のものより特に良好である。
【0019】
開示の実施形態において、ARC層は、ガラス(ゴリラガラスなどの処理ガラスを含む)、サファイア、及びプラスチックなどの種々の結晶基板又は非結晶基板に形成することができる。しかしながら、開示の実施形態では、基板を300℃以下の温度に維持しながら層が形成される。
【0020】
図1Aは、特許文献3に公開されているARC構造を示し、
図1B~
図1Dは、本発明の実施形態における変形ARC構造を示す。先行技術に公開されているように、
図1Aに示すARC層は、異なる屈折率を有する酸化物材料の交互層からなる。このように、
図1Aの例において、層2及び層4は1.45~1.50の屈折率を有するSiO2から作製される一方で、層3及び層5は2.1~2.3の屈折率を有するNbOから作製される。この配置には、520nm波長で1.9~2.1の屈折率を有するITO層によってキャッピングが行われる。
【0021】
開示の実施形態では、ARC層の少なくとも1つを超格子で置き換え、該超格子は置き換えた層のものと類似する屈折率を有する材料の交互のナノ層から作製されることで、ARC構造の性能を向上する。
図1Bは、ITOキャップ層1が複数のナノ層1´の超格子ナノラミネートにより置き換えられた一例を示す。ITO層は、1.9~2.1の屈折率を有すると報告されている。ゆえに、この例では、ナノ層が類似する屈折率を有するように選択されている。一実施形態において、ITO層1は、全体で25nm厚になるように、それぞれ2.5nm厚を有する、SiNとAlNとの10個の交互のナノ層により置き換えられる。SiNは520nmの波長で2.05の屈折率を有する。AlNは520nmの波長で2.15の屈折率を有する。ナノラミネート層1´は、機械的特性を向上させ得、ARC構造をより耐久性のあるものにし、以下に示すように、置き換えられたITOのものと同様の2.10の有効屈折率を有する。
【0022】
図1Cは、層2がナノラミネート構造2´により置き換えられる実施形態を示す。層2は、520nm波長で1.45~1.50の屈折率を有すると報告されている。ゆえに、この例では、ナノ層が類似する屈折率を有するように選択されている。この例では、ナノラミネート構造2´は、全体で40nmになるように、それぞれ2.5nm厚である、SiOとAl
2O
3との16個の交互層から作製される。SiOは、520nm波長で1.46の屈折率が報告されている一方、Al
2O
3は、520nm波長で1.77の屈折率が報告されている。しかしながら、これらの膜が、本発明の開示にて推奨されるように、スパッタリングを使用して形成されるとき、SiOは1.48~1.50の屈折率を有する一方、Al
2O
3は1.65~1.67の屈折率を有し、1.57の有効屈折率を得る(以下の計算を参照のこと)。
【0023】
図1B及び
図1Cのそれぞれは、1個の層のみがナノラミネートで置き換えられる実施形態を示すが、開示の実施形態において任意の数の層が、類似の屈折率を有する材料のナノラミネートにより置き換えられることができる。実際に、一部の実施形態では、
図1Dの例において示すように、すべての層を置き換えることができる。
【0024】
図1Dの例では、ITOキャップ層1は、全体で25nm厚になるように、それぞれ2.5nm厚を有する、SiNとAlNとの10個の交互のナノ層から作製されるナノラミネート層1´により置き換えられる。層2は、全体で40nmになるように、それぞれ2.5nm厚である、SiOとAl
2O
3との16個の交互層から作製されるナノラミネート層2´により置き換えられる。層3は、全体で60nm厚になるように、それぞれ3nm厚を有する、SiNとAlNとの20個の交互のナノ層を有するナノラミネート層3´により置き換えられる。層4は、全体で25nmになるように、それぞれ2.5nm厚である、SiOとAl
2O
3との10個の交互層から作製されるナノラミネート層4´により置き換えられる。層5は、全体で18nm厚になるように、それぞれ3nm厚を有する、SiNとAlNとの6個の交互のナノ層を有するナノラミネート層5´により置き換えられる。
【0025】
ナノラミネートの各層の材料は慎重に選択する必要がある。光学コーティングとして機能させるため、低AR層ナノラミネート積層体の屈折率をできるだけ低くし、高AR層ナノラミネート積層体の屈折率を可能な屈折率ほど高くする必要がある。しかしながら、屈折率は唯一つの重要な特性ではない。堅牢なナノラミネート積層体では、個々のナノ層の硬度、せん断率、及び応力も重要である。高率ナノ層は、ZrO、Y-ZrO、AlN、SiN、ZrN、TiO、CrO、CrN、CrTiO、及びCrTiNの(化学量論的及び非化学量論的)光学膜の組合せから作製することができる。低屈折率のナノ層は、SiO、AlO、SiON、SiAlOの膜の組合せから作製することができる。
【0026】
この文脈において、低屈折率及び高屈折率という用語は定量的測定値として使用されるものではなく、むしろ交互層間の区別を可能にする相対的ディスクリプタとして使用されるということが理解される必要がある。ARCの文脈で重要なことは、屈折率の特定の値ではなく、低屈折率層が高屈折率のものよりも十分に低い屈折率値を有して必要な光学作用をもたらすことである。
【0027】
また、ナノ層の屈折率は光学積層体におけるその目的にかなうものであることが重要である。高ナノ層及び低ナノ層のそれぞれでは、2個の交互のナノ層をなす材料の屈折率が近接するほど、光学性能が向上する。実際に、ナノラミネート内の2個のナノ層の屈折率が等しい場合、光学インターフェイスで反射する光の量が(n1-n2)/(n1+n2)に比例するので光劣化は存在しない。(n1-n2)/(n1+n2)の結果は、ナノラミネート層内のナノ層では好ましくは0.07未満であり、高率ナノラミネート積層体と低率ナノラミネート積層体との間では0.1より大きい必要がある。
【0028】
図1Dの例をみると、高屈折率ナノラミネート(例えば、層1´、3´、及び5´)の屈折率の違いは、(n1-n2)/(n1+n2)=(2.15-2.05)/(2.15+2.05)=0.02である。報告値を使用した低屈折率ナノラミネートの屈折率の違いは、(n1-n2)/(n1+n2)=(1.77-1.46)/(1.77+1.46)=0.09であり、これは要求される0.07を超える。ゆえに、本明細書に記載されるように、スパッタリングによって層を形成することが有利である。スパッタリング値を使用して、(n1-n2)/(n1+n2)=(1.67-1.48)/(1.67+1.48)=0.06が得られ、これは要求される0.07内のものである。高率と低率との違いは、2個の層の厚み比を考慮して計算される。ナノラミネート1´は、[(t1×n1)+(t2×n2)]/(t1+t2)の有効屈折率を有し、式中、t=厚みである。つまり、[(2.5×2.05)+(2.5×2.15)]/5=2.10である。層2´の有効屈折率は、[(2.5×1.48)+(2.5×1.67)]/5=1.57である。ゆえに、これら2個の層の違いは(n1-n2)/(n1+n2)=(2.10-1.57)/(2.10+1.57)=0.14である。
【0029】
ところで、
図1B~
図1Dの例において、ナノラミネート内のすべてのナノ層が同じ厚みを有するが、必ずしもそうである必要はない。例として、層1´の有効屈折率は、SiNナノ層よりもAlNナノ層を厚くすることで増加可能である。例として、AlNを6nmに、SiNを3nmに設定することができ、この場合有効屈折率は、[(3×2.05)+(6×2.15)]/9=2.12である。同様に、層2´の有効屈折率を低下させるために、[(5.5×1.46)+(2.0×1.67)]/7.5=1.52に設定することができる。
【0030】
上述の開示から見受けられるように、各ナノラミネートは、類似する屈折率の2つの異なる材料からなる複数のナノ層を含み、該ナノ層は交互に積層されている。ゆえに、2重層ということができ、各2重層は、それぞれ異なる材料からなるが類似する屈折率を有する2個のナノ層の積層体である。この文脈において、類似する屈折率とは、1個のナノラミネートの2重層内の一方の層の屈折率値が、異なるナノラミネート内のナノ層の屈折率よりも、2重層内の他方のナノ層の屈折率値に近いということを意味する。すなわち、低屈折率ナノラミネートの2重層をなす2つの材料は、高屈折率ナノラミネートをなすいずれの2重層の屈折率よりも、互いに近い値を有する。
【0031】
一般的に、コーティングの腐食性、摩耗性、きず性、及び硬度を向上させるために、2重層は、それぞれが2~10ナノメートルの厚みを有するナノ層から作製される。2重層は、所望の光学効果を得るために、屈折率が交互になった複数のナノラミネートを形成するのに使用される。一部の実施形態において、反射コーティングが形成される。反射コーティングは、例えば携帯デバイスの裏側に形成することができる。この場合、光学積層体は、携帯デバイスが着色されて見えるように、所望の色を反射するように設計される。反射コーティングは、半波長(1/2λ)積層体において設計される。一方、反射防止コーティングは、スクリーンからの光反射を排除又は低減するために携帯デバイスのディスプレイ側に形成される。反射防止コーティングは、4分の1波長積層体(1/4λ)において設計される。波長は、積層体が反射しようとする波長である。ゆえに、幅広い波長を反射する効果的なARCを形成するため、複数のナノラミネートが種々の厚みを有するように形成される必要がある。
【0032】
開示の実施形態において、ナノ層は金属の酸化物、窒化物、又は酸窒化物から作製される。一部の例は、YsZ、AlxOy、AlN、SixNy、AlSiO、及びSiONを含む。一部の実施形態において、接着層又はシード層をまず堆積させ、接着層又はシード層はITO、SnxOy、及びWOxなどの材料のものであり得る。また、好ましい実施形態では、ターゲット材料が堆積される金属からなるとともに、酸素又は窒素が堆積時にイオン注入されるように、種々の層がイオンビーム支援堆積法(ion beam assisteddeposition、IBAD)を使用して形成される。ゆえに、スパッタリングプロセスは金属モード(メタモードとも呼称される)で行われ、ターゲットは、典型的にはアルゴンイオンによって(非酸化)金属としてスパッタリングされ、基板に形成された非常に薄い膜(典型的には約1nm)は、堆積金属にO2又はN2イオンビームを衝突させることによって酸化物又は窒化物に変換される。例として、スパッタリングのターゲットは、純シリコン又はアルミニウムからなり得る一方、イオンビームは、アルゴン含有又は非含有で、O2又はN2を含み、SiO、SiN、AlO等の層を形成する。また、好ましい実施形態では、イオン電流対原子到達率比(ratio ion currentto atom arrival rate)は、0.5未満であり、イオンは600eV以下のポテンシャルエネルギーを有する。
【0033】
一部の実施形態において、任意の層の屈折率は材料の合金化によって変更され得る。例として、MgOは、ZrOxなどの高屈折率材料又はAlOxなどの低屈折率材料を合金化するために使用できる。合金化は、層の結晶化温度を低下させることになる約8~10%のMgOを添加することで行うことができる。他の例では、靭性を向上させるために、約10~12%のクロムをチタンと合金化することができる。二酸化チタンの3つの鉱物形態の1つであるアナターゼは、2.4の高屈折率を有するが、低硬度であるので、合金化に適する候補である。チタン自体は、屈折率を変更するため合金化剤として使用可能である。タンタルは、高屈折率材料の特性を変更するため合金化剤になり得る一方、ホウ素は、低屈折率材料の特性を変更するため合金化剤になり得る。
【0034】
図2A~
図2Cは、一実施形態における光学コーティングを形成するプロセスを示す。
図2Aにおいて、プロセスは、例えばプラズマ又はイオンボンバードメントを使用して、基板200の表面を処理することから開始することができる。プラズマ又はイオンボンバードメントは、アルゴン又は水素種を含むことができる。
図2Bでは、シード層205が、結晶成長パターンを設定する及び/又は付着性を向上させるため基板200の表面上に形成される。シード層205はITO、SnxOy、及びWOxなどの材料のものであり得、イオンビーム支援堆積法を使用して形成される。
図2Cでは、ナノラミネート層210がシード層205上に形成される。
【0035】
図3Aをみると、この例ではARCである光学コーティングが示されており、これは部分的に標準的な層から作製され、部分的にナノラミネートから作製される。この例では、基板300は、例えば携帯電話又は他の形態デバイス又はタッチスクリーンのフロントガラスなどのガラスで有り得る。ARCは、ディスプレイのガラスに塗布されると、バッテリー寿命を増大させ、明るい光のなかでもディスプレイの可視性を向上させることができる。しかしながら、コーティングへのきずによりデバイスにおいて見にくい領域が発生してしまう。この外観の損傷は非常に見えやすいものであり、高摩耗及び高使用の用途においてこれらの膜の利用を望ましくないものにする。また、先行技術の光学積層体に使用される膜における応力は非常に大きいものになり得る。デバイスを落とす又はデバイスがガラス面に衝撃を受けた場合、これは破損の増加をもたらし得る。破損は、携帯デバイス製造業者にとって保証による返品の大きな原因となり、破損増加のリスクは製造業者にとって膜の使用を望ましくないものにする。ゆえに、
図3Aの実施形態は、コーティングの耐久性を増大させるように提供され、ディスプレイデバイスに使用することができる。
【0036】
図3Aのコーティングは、高屈折率と低屈折率とが交互の複数層を含む。第1層は、10nmの厚みを有する、高屈折率の従来の薄層305である。この層、及び残りのすべての高n層は、2.02の屈折率を有する、Si
3N
4からなる。第2層310は、この場合は1.48の屈折率を有するSiO
2からなる、40nmで低屈折率の従来の層である。この後、30nmの高n層315、25nmの低n層320、100nmの高n層325、10nmの低n層330、及び50nmの高n層335が続く。すべての高n層はSi
3N
4からなり、すべての低n層はSiO
2からなる。従来より、最後の層は、例えば100nmでSiO
2層などの低n層であった。しかしながら、
図3Aの実施形態において、上部層は10個の2重層のナノラミネートから作製され、各2重層は、SiO
2からなる5nmのナノ層と、この例ではスパッタリンクにより形成される際1.67の屈折率を有するAl
2O
3である、Si
3N
4の屈折率よりもSiO
2の屈折率に近い屈折率を有する材料からなる5nmのナノ層とから作製される。つまり、上部層340の有効屈折率は、[(5×1.48)+(5×1.67)]/10=1.57であり、これは、Si
3N
4の高率よりもSiO
2の低率に近いものである。
【0037】
ゆえに、一般に、
図3Aの実施形態は、第1屈折率を有する複数の第1層と、第1屈折率と異なる第2屈折率を有する複数の第2層とを含む光学コーティングを提供し、複数の第1層及び複数の第2層は、基板上に組み合わせられるように交互に形成され、複数の第2層からの1個の層で終端し、該1個の層上に、複数の2重層を有するナノラミネートを含む上部層が形成され、各2重層は、上部層の有効屈折率が第2屈折率よりも第1屈折率に近い値を有するように異なる材料からなる2個のナノ層を含む。また、2つの異なる材料は、式(n
1-n
2)/(n
1+n
2)≦0.07を満たし、式中、n
1及びn
2は2つの異なる材料の屈折率であるように選択される。また、得られた上部層の有効屈折率n
effは式|(n
eff-n
s)/(n
eff+n
s)|≧0.10を満たし、式中、n
sは第2屈折率であることが望ましい。
【0038】
図3Bは、
図3Aの構造を置き換え得る光学コーティングの他の実施形態を示す。
図3Bの実施形態は耐久性を増大させるだけでなく、また低屈折率層の有効屈折率を変化させることができる。具体的に、
図3Bにおいて、すべての高n層は標準的な層である一方、すべての低n層はナノラミネートである。層311は4個の2重層から作製され、各2重層は全体で40nmになるようにSiO
2からなる5nmのナノ層及びAl
2O
3からなる5nmのナノ層を有する。層321は、例えば、全体で25nmになるように2個のAl
2O
3からなる5nmのナノ層と組み合わせられた3個のSiO
2からなる5nmのナノ層から作製される。層331は、全体で10nmになるようにSiO
2からなる5nmのナノ層及びAl
2O
3からなる5nmのナノ層を有する1個の2重層から作製される。層340は10個の2重層から作製され、各2重層は全体で100nmになるようにSiO
2からなる5nmのナノ層及びAl
2O
3からなる5nmのナノ層を有する。つまり、標準的なARC層を使用する際、高nは2.02であり、低nは1.48であったが、
図3Bの実施形態において、高nはなお2.02であるが低nは1.57である。
【0039】
あるいは、低屈折率をSiO2の屈折率に近いものにしておくため、2重層をSiO2及びSiONから作製することができる。SiONは、N2Oなどの窒素含有ガス流を添加することで形成される。形成時のN2O流に応じて、SiONの屈折率は1.46~1.56に調整することができる。ゆえに、上端でも、(1.56-1.46)/(1.56+1.46)=0.03が得られ、これは要求される0.07内に十分に収まるものである。同様に、2重層をSiO2及びSiAlOから作製することができる。SiAlOは約1.50の屈折率を有するので、(1.50-1.46)/(1.50+1.46)=0.01が得られ、これは要求される0.07内に十分に収まるものである。
【0040】
ゆえに、一般に、
図3Bの実施形態は、第1屈折率n
1を有する複数の第1層と、第1屈折率と異なる第2屈折率n
2を有する複数の第2層とを含む光学コーティングを提供し、複数の第1層及び複数の第2層は、基板上に組み合わせられるように交互に形成され、複数の第2層のそれぞれは少なくとも1個の2重層を有するナノラミネートを含み、各2重層は、各ナノラミネートの有効屈折率が第2屈折率と等しくなる、すなわちn
eff=n
2となるように、第3屈折率n
3を有する第1ナノ層と第4屈折率n
4を有する第2ナノ層とを含む。これに関して、有効屈折率は、式|(n
eff-n
1)/(n
eff+n
1)|≧0.10を満たす。有効屈折率は、ナノ層の屈折率の重み付き平均であり、n
eff=[(t
3×n
3)+(t
4×n
4)]/(t
3+t
4)として表すことができ、式中、t
3及びt
4は各ナノ層の厚みである。また、第1ナノ層及び第2ナノ層は、式(n
3-n
4)/(n
3+n
4)≦0.07を満たすように選択される。
【0041】
光学コーティングのさらなる例が
図3Cに示される。
図3Cの実施形態では、すべての層がナノラミネートである。低nラミネートは、
図2Bに関して記載したものと同様であるが、高n層もまたナノラミネートに置き換えられている。この例では、第1層306は、1個の5nmのAlNナノ層と1個の5nmのSi
3N
4ナノ層との1個の2重層である。層316は、3個の2重層のナノラミネートであり、各2重層は1個の5nmのAlNナノ層と1個の5nmのSi
3N
4ナノ層とから作製される。層326は、10個の2重層のナノラミネートであり、各2重層は1個の5nmのAlNナノ層と1個の5nmのSi
3N
4ナノ層とから作製される。層336は、5個の2重層のナノラミネートであり、各2重層は1個の5nmのAlNナノ層と1個の5nmのSi
3N
4ナノ層とから作製される。つまり、高nラミネートの有効屈折率は、[(5×2.02)+(5×2.15)]/10=2.085である。
【0042】
ゆえに、一般に、
図3Cの実施形態は、第1屈折率を有する複数の第1層と、第1屈折率と異なる第2屈折率を有する複数の第2層とを含む光学コーティングを提供し、複数の第1層及び複数の第2層は、基板上に組み合わせられるように交互に形成され、複数の第1層のそれぞれは、異なる材料の2個のナノ層から作製される少なくとも1個の2重層を有する第1ナノラミネートを含み、第1ナノラミネートの有効屈折率は第1屈折率と等しくなるように構成され、複数の第2層のそれぞれは、少なくとも1個の2重層を有する第2ナノラミネートを含み、各2重層は異なる材料の2個のナノ層を含み、第2ナノラミネートの有効屈折率は第2屈折率と等しくなるように構成される。
【0043】
また、一般に、
図3Cの実施形態は、第1屈折率を有する複数の第1層と、第1屈折率と異なる第2屈折率を有する複数の第2層とを含む光学コーティングを提供し、複数の第1層及び複数の第2層は、基板上に組み合わせられるように交互に形成され、複数の第1層のそれぞれは、第1酸化物ナノ層と第1酸化物ナノ層とは異なる材料の第2酸化物ナノ層とから作製される少なくとも1個の酸化物2重層を有する酸化物ナノラミネートを含み、酸化物ナノラミネートの有効屈折率は第1屈折率と等しくなるように構成され、複数の第2層のそれぞれは、第1窒化物ナノ層と第1窒化物ナノ層とは異なる材料の第2窒化物ナノ層とから作製される少なくとも1個の窒化物2重層を有する窒化物ナノラミネートを含み、窒化物ナノラミネートの有効屈折率は第2屈折率と等しくなるように構成される。
【0044】
ナノ層は、その材料特性を制御する(応力、硬度、化学量論)必要がある。この目的のため、反応性スパッタリングイオン支援堆積法が好ましい手法である。反応性スパッタリングは、化学量論的膜の迅速な堆積を可能にし、イオン支援部分は、堆積した膜の応力、密度、及び硬度の制御を補助する原子レベルの加熱を可能にする。また、ナノ層形成時にスパッタリングパラメータ及びガス流を制御することで、ナノラミネート内の2重層をなす2つのナノ層において、(n1-n2)/(n1+n2)の結果が0.07未満になり、高ナノラミネート及び低ナノラミネートの有効率において、(n1eff-n2eff)/(n1eff+n2eff)の結果が0.1より大きくなるように、屈折率を調節可能である。
【0045】
光学膜は高摩擦係数を有し得、これは、該光学膜が非常に硬いが、擦れ接触を繰り返すことで損傷し得るということを意味する。光学コーティングを摩耗から守るため、潤滑膜でコーティングすることができる。これは、
図3A~
図3CにおいてDLCと示した点線の層によって示される。この例において、ダイヤモンド様コーティング(diamond-likecoating、DLC)膜は、少なくとも20%の水素を含む高水素化DLCである。
【0046】
さらに、消費者用ディスプレイ製品では、指紋によりディスプレイの可視性能が落ちる。これらのタイプの製品の最終面は、防汚又は指紋防止(AF)コーティングを有する必要がある。典型的に指紋防止用途に使用されるフルオロカーボン材料をDLCに付着させることは非常に難しい。付着性を向上させるため、DLCとAFコーティングとの間に2層膜を使用する。シリコン薄膜は、第2のSiO2層を形成するために使用される酸素からDLCを保護するため、DLC上に堆積される。得られた積層体は
図3Dに示されるが、類似するDLC、Si、SiO2、及びAFのキャップ層は
図3A~
図3Cの実施形態のいずれにも形成することができる。
【0047】
本明細書に記載の処理や技術は本質的に任意の特定の装置に関するものではなく、任意の適切な構成要素の組合せによって実施することができる、ということが理解される必要がある。さらに、本明細書の記載に従って、種々のタイプの汎用デバイスを使用することができる。本発明は、特定の実施形態に関して記載されているが、これらはあらゆる点で限定ではなく例示を目的としている。本発明の実施に多様な組合せが適するということを当業者は理解するであろう。
【0048】
さらに、本発明の他の態様は、本明細書を考慮して本明細書に開示の本発明を実施することから、当業者には明らかになる。記載の実施形態の種々の態様及び/又は構成要素は単独で又は任意の組合せで使用することができる。明細書及び実施例は例示のみとして考慮され、本発明の真の範囲及び趣旨は以下の特許請求の範囲によって示されるということが意図されている。