(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】塗工装置
(51)【国際特許分類】
B05C 9/14 20060101AFI20241114BHJP
B05C 13/02 20060101ALI20241114BHJP
B05C 9/04 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
B05C9/14
B05C13/02
B05C9/04
(21)【出願番号】P 2020200049
(22)【出願日】2020-12-02
【審査請求日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2019218508
(32)【優先日】2019-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000237260
【氏名又は名称】富士機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】三浦 秀宣
(72)【発明者】
【氏名】永山 智英
(72)【発明者】
【氏名】門 英昭
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-072025(JP,A)
【文献】特開2014-194882(JP,A)
【文献】特開2015-083920(JP,A)
【文献】特開2018-041535(JP,A)
【文献】特開2004-275904(JP,A)
【文献】特開2014-226635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 9/14
B05C 13/02
B05C 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続搬送されるシート状の金属製基材の被塗工面に塗工を施す塗工ユニットと、
該塗工ユニットの基材搬送方向下流側に設けられ、塗工液が付着する上記基材を連続搬送させながら加熱する加熱ユニットとを備え、
該加熱ユニットは、高周波電流により誘導加熱する高周波誘導加熱ユニットであ
り、
上記基材は、アルミニウム材であり、
上記塗工液は、所定の温度まで加熱すると化学反応により効力が発揮される酸化防止剤であることを特徴とする塗工装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の塗工装置において、
上記加熱ユニットの下流側には、連続搬送される上記基材を所定の温度まで冷却させる冷却ユニットが配設されていることを特徴とする塗工装置。
【請求項3】
請求項
2に記載の塗工装置において、
上記冷却ユニットは、当該冷却ユニットを通過した直後の上記基材の温度が30度以下となるまで上記基材を冷却するよう構成されていることを特徴とする塗工装置。
【請求項4】
請求項
2又は
3に記載の塗工装置において、
上記冷却ユニットは、上記基材の一面側と他面側とのそれぞれに少なくとも1つ配置され、上記基材に空気を吹き付けて当該基材を冷却する冷却ノズルを備えていることを特徴とする塗工装置。
【請求項5】
請求項
4に記載の塗工装置において、
上記冷却ノズルは、上記基材の一面側と他面側とで互いに対向する位置に、且つ、基材搬送方向に所定の間隔をあけながら複数配置されていることを特徴とする塗工装置。
【請求項6】
請求項
4に記載の塗工装置において、
上記冷却ノズルは、上記基材の一面側と他面側とに交互に、且つ、基材搬送方向に所定の間隔をあけながら千鳥状に複数配置されていることを特徴とする塗工装置。
【請求項7】
請求項
2から
6のいずれか1つに記載の塗工装置において、
上記冷却ユニットの内部は、上流側よりも下流側の冷却温度を低く設定して上記基材を段階的に冷却するよう構成されていることを特徴とする塗工装置。
【請求項8】
請求項1から
7のいずれか1つに記載の塗工装置において、
上記加熱ユニットの上流側には、連続搬送される上記基材を幅方向両側に拡幅させる拡幅手段が配置されていることを特徴とする塗工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続搬送されるシート状の金属製基材に塗工液を塗工する塗工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、連続搬送されるシート状の金属製基材に塗工液を塗工する塗工装置が一般的に知られている。例えば、特許文献1に開示されている塗工装置は、シート状をなす電池用基材の両面にそれぞれ難燃剤を塗工して保護層を形成するものであり、繰出ロールから繰り出される基材の各面に2つの塗工ユニットを用いてそれぞれ難燃剤を塗工し、その後、乾燥工程にて塗工済みの基材を乾燥させた後、巻取ロールで巻き取るよう構成されている。
【0003】
ところで、特許文献1の乾燥工程は、フローティングドライヤで構成されており、該フローティングドライヤは、水平方向に延びる直方体形状をなすとともに内部に複数のノズルを備えている。各ノズルは、フローティングドライヤ内部を略水平方向に搬送される基材の上側と下側とに交互に、且つ、基材搬送方向に所定の間隔をあけながら千鳥状に配置されていて、基材を搬送する過程で各ノズルから高温の空気を基材に向かって吐出することにより、基材を浮かせた状態で側面視で蛇行させながら搬送して難燃剤を乾燥させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、塗工液を塗工した後の基材の乾燥に特許文献1の如き水平方向に長い寸法のフローティングドライヤを用いると、装置全体が大型化するとともにコストが嵩んでしまい、さらには、連続搬送される基材のガイドロール等に支持されない区間が長くなってしまうので、連続搬送される基材が平面視で蛇行し易くなってしまい、乾燥工程の上流側に位置する塗工ユニットによる塗工や乾燥工程の下流側に位置する巻取ロールによる基材の巻き取りに影響を及ぼすおそれがある。
【0006】
また、特許文献1の如きフローティングドライヤは、隣り合うノズルが上下逆方向に空気を吐出するので、例えば、連続搬送時における基材の平面視における蛇行を抑えるために各ノズルから吐出する空気の吐出圧を高めると、各ノズルから吐出される空気によって基材にその長手方向に引き伸ばす方向の力が加わってしまい、ひいては、基材に皺を発生させてしまうおそれがある。
【0007】
特に、塗工液が高温状態で化学反応を起こして効力を発揮するようなもので、且つ、上述の如きフローティングドライヤにおいてその化学反応が起こるような設備にする場合、基材を所望する温度に昇温させるためにフローティングドライヤをさらにその長手方向に大型化する必要があると考えられ、上述の如き蛇行や皺の問題が顕著になるおそれがある。
【0008】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、シート状をなす金属製基材に塗工を施す際において、基材を搬送時に蛇行させ難くできるとともに基材に皺を発生させ難くできる低コストでコンパクトな塗工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、塗工液が付着する基材に対する熱の加え方に工夫を凝らしたことを特徴とする。
【0010】
すなわち、第1の発明では、連続搬送されるシート状の金属製基材の被塗工面に塗工を施す塗工ユニットと、該塗工ユニットの基材搬送方向下流側に設けられ、塗工液が付着する上記基材を連続搬送させながら加熱する加熱ユニットとを備え、該加熱ユニットは、高周波電流により誘導加熱する高周波誘導加熱ユニットであり、上記基材は、アルミニウム材であり、上記塗工液は、所定の温度まで加熱すると化学反応により効力が発揮される酸化防止剤であることを特徴とする。
【0011】
第2の発明では、第1の発明において、上記加熱ユニットの下流側には、連続搬送される上記基材を所定の温度まで冷却させる冷却ユニットが配設されていることを特徴とする。
【0012】
第3の発明では、第2の発明において、上記冷却ユニットは、当該冷却ユニットを通過した直後の上記基材の温度が30度以下となるまで上記基材を冷却するよう構成されていることを特徴とする。
【0013】
第4の発明では、第2又は第3の発明において、上記冷却ユニットは、上記基材の一面側と他面側とのそれぞれに少なくとも1つ配置され、上記基材に空気を吹き付けて当該基材を冷却する冷却ノズルを備えていることを特徴とする。
【0014】
第5の発明では、第4の発明において、上記冷却ノズルは、上記基材の一面側と他面側とで互いに対向する位置に、且つ、基材搬送方向に所定の間隔をあけながら複数配置されていることを特徴とする。
【0015】
第6の発明では、第4の発明において、上記冷却ノズルは、上記基材の一面側と他面側とに交互に、且つ、基材搬送方向に所定の間隔をあけながら千鳥状に複数配置されていることを特徴とする。
【0016】
第7の発明では、第2から第6のいずれか1つの発明において、上記冷却ユニットの内部は、上流側よりも下流側の冷却温度を低く設定して上記基材を段階的に冷却するよう構成されていることを特徴とする。
【0017】
第8の発明では、第1から第7のいずれか1つの発明において、上記加熱ユニットの上流側には、連続搬送される上記基材を幅方向両側に拡幅させる拡幅手段が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
第1の発明では、基材が金属材からなるので、高周波誘導加熱ユニットを通過する際、高周波電流により誘導加熱されて自ら発熱しながら瞬時に高温になる。したがって、基材に付着する塗工液の乾く速度が速くなるとともに、基材に付着する塗工液が所定の温度で化学反応を起こすようなものの場合には、化学反応が起こるまでの時間が短くなるので、加熱ユニットの基材搬送方向の長さを短くすることができ、コンパクトで且つ低コストな塗工装置にすることができる。また、フローティングドライヤの如き連続搬送される基材のガイドロール等に支持されない区間が長く続くことが無くなるので、基材を連続搬送時において平面視で蛇行し難くすることができる。さらに、フローティングドライヤの如き通過する基材に対して各ノズルから吐出する空気によって基材搬送方向と交差する方向に力が加わるといったことがなくなるので、基材に皺を発生させ難くすることができる。また、第1の発明では、アルミニウム材からなる基材が高周波誘導加熱ユニットを通過する際に誘導加熱されて高温になると、基材に付着する酸化防止剤が所望する温度に短時間で到達し、且つ、化学反応を起こして効力が発揮されるようになる。このように、効力が発揮された状態の酸化防止剤を効率良くアルミニウム材からなる基材に付着させることができる。
【0019】
第2の発明では、加熱ユニットにて加熱した基材を巻取可能な温度にまで短い時間で変化させることができる。
【0020】
第3の発明では、冷却ユニットを通過した基材がガイドロールに接触する際の基材の温度の下がり幅が小さくなるので、基材の熱収縮による皺の発生をほとんど無くすことができる。
【0021】
第4の発明では、基材がガイドロールに非接触の状態で冷却されるので、基材がガイドロールに接触することによって引き起こされる急激な熱収縮による皺の発生を抑制することができる。
【0022】
第5の発明では、基材を挟んだ位置の2つの冷却ノズルが対向する位置関係となっているので、基材の一面側又は他面側にそれぞれ位置する各冷却ノズルの間隔を短くすることができる。したがって、冷却ユニットにおける基材搬送方向の寸法を短くしながら多くの冷却ノズルを冷却ユニットの内部に配置することができる。
【0023】
第6の発明では、基材を挟んだ位置で対向する2つの冷却ノズルが互いに向かい合って空気を吹き出す第4の発明の如き構成に比べて各冷却ノズルから吹き出する空気が乱れにくくなるので、冷却ユニット内部の基材の搬送を安定させることができる。
【0024】
第7の発明では、冷却ユニットの内部における基材の温度が段階的に下がっていくようになるので、急激な熱収縮による皺の発生を減らすことができる。
【0025】
第8の発明では、加熱ユニットに入る直前の基材が通常状態よりも幅方向に拡がる状態になるので、加熱ユニットを通過前後の基材における幅方向の歪みの変化量の差が小さくなり、皺の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態1に係る塗工装置の概略構成図である。
【
図3】本発明の実施形態2に係る
図1相当図である。
【
図4】本発明の実施形態2に係る冷却ユニットの概略正面図である。
【
図5】本発明の実施形態2に係る冷却ユニットを通過した直後の基材の温度とその後巻き取られた基材の皺の発生有無との関係を調べた結果を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態3に係る
図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0028】
《発明の実施形態1》
図1は、本発明の実施形態1に係る塗工装置1を示す。該塗工装置1は、基材繰出工程2、インフィード工程3、第1塗工工程4、第1乾燥工程5、第2塗工工程6、第2乾燥工程7、加熱工程8、冷却工程9、アウトフィード工程10、及び、基材巻取工程11を上流側から順に備え、多数のガイドロール12に巻き掛けられて連続搬送されるアルミニウム材からなるシート状基材W1の両面(被塗工面)にそれぞれ酸化防止剤Lを塗工するようになっている。尚、本発明で基材W1に塗工する酸化防止剤Lは、約200度に加熱されると化学反応を起こして効力が発揮されるものである。
【0029】
基材繰出工程2には、基材W1がロール状に巻かれた繰出ロール2aと、該繰出ロール2aを回転自在に支持する第1ロール支持台2bとが配置され、繰出ロール2aから基材W1をインフィード工程3へと繰り出すようになっている。
【0030】
インフィード工程3には、繰出ロール2aから繰り出された基材W1を挟み込みながら回転動作により第1塗工工程4へと送り出す一対の第1フィードロール3aが配設され、該両第1フィードロール3aを通過する基材W1は、両第1フィードロール3aが後述するアウトフィード工程10の両第2フィードロール10aと連動しながら回転することにより、その通過前後において張力が変わるようになっている。
【0031】
第1塗工工程4には、第1塗工ユニット4aが設けられている。該第1塗工ユニット4aは、酸化防止剤Lを供給する第1塗工チャンバー4bと、該第1塗工チャンバー4bからロール表面に酸化防止剤Lが供給される第1塗工ロール4cと、該第1塗工ロール4cに基材W1を押し付ける第1圧胴4dとが設けられ、第1塗工ロール4c及び第1圧胴4dの回転動作により基材W1を連続搬送させながら第1塗工ロール4cのロール表面に付着した酸化防止剤Lを基材W1の一方の面に転写するようになっている。
【0032】
第1乾燥工程5には、基材W1が複数のガイドロール12によって斜め上方に案内されながら通過する第1乾燥ボックス5aが設けられ、該第1乾燥ボックス5aは、通過する基材W1の酸化防止剤Lが付着する面に図示しないノズルから加温された空気を吹き付けることにより酸化防止剤Lを乾燥させるようになっている。
【0033】
第2塗工工程6には、第2塗工ユニット6aが設けられている。該第2塗工ユニット6aは、酸化防止剤Lを供給する第2塗工チャンバー6bと、該第2塗工チャンバー6bからロール表面に酸化防止剤Lが供給される第2塗工ロール6cと、該第2塗工ロール6cに基材W1を押し付ける第2圧胴6dとが設けられ、第2塗工ロール6c及び第2圧胴6dの回転動作により基材W1を連続搬送させながら第2塗工ロール6cのロール表面に付着した酸化防止剤Lを基材W1の他方の面に転写するようになっている。
【0034】
第2乾燥工程7には、基材W1が複数のガイドロール12によってほぼ真上に案内されながら通過する第2乾燥ボックス7aが設けられ、該第2乾燥ボックス7aは、通過する基材W1の塗工面に図示しないノズルから加温された空気を吹き付けることにより酸化防止剤Lを乾燥させるようになっている。
【0035】
加熱工程8には、高周波電流により誘導加熱する高周波誘導加熱ユニット8aが設けられている。
【0036】
該加熱ユニット8aは、所謂トランスバース型構造と呼ばれるものであり、
図2に示すように、一対のフェライトコア8bと、該各フェライトコア8bにそれぞれ巻き掛けられた誘導コイル8cと、該各誘導コイル8cに接続された交流電源ユニット8dとを備え、両フェライトコア8bは、上下に所定の間隔をあけて対向するように配置されている。
【0037】
そして、加熱ユニット8aは、両面に酸化防止剤Lが付着する基材W1を連続搬送させながら両フェライトコア8bの間を通過させる際に約200度まで加熱するようになっている。
【0038】
冷却工程9は、内部が低温状態で保たれた冷却ユニット9aを備えている。該冷却ユニット9aは、水平方向に連続搬送されて冷却ユニット9aの内部を通過する基材W1を所定の温度まで冷却するようになっていて、これにより、加熱ユニット8aにて加熱した基材W1を巻取可能な温度にまで短い時間で変化させることができるようになっている。
【0039】
冷却ユニット9aの内部は、上流側よりも下流側の冷却温度を低く設定して基材W1を段階的に冷却するよう構成されている。例えば、冷却ユニット9aにおける上流側半分の冷却温度を60度に設定する一方、下流側半分の冷却温度を30度に設定して基材W1を段階的に冷却するようになっている。尚、冷却ユニット9aの内部の冷却温度を一定の値に設定して基材W1を冷却するようにしてもよい。
【0040】
アウトフィード工程10には、冷却工程9を通過した基材W1を挟み込みながら回転動作により基材巻取工程11へと送り出す一対の第2フィードロール10aが配設され、該両第2フィードロール10aを通過する基材W1は、両第2フィードロール10aが両第1フィードロール3aと連動しながら回転することにより、その通過前後において張力が変わるようになっている。
【0041】
基材巻取工程11には、アウトフィード工程10を通過した基材W1をロール状に巻き取る巻取ロール11aと、該巻取ロール11aを回転自在に支持する第2ロール支持台11bとが配置され、巻取ロール11aには、化学反応を起こした状態の酸化防止剤Lが両面に付着する基材W1が巻き取られるようになっている。
【0042】
以上より、本発明の実施形態1によると、基材W1が金属材からなるので、高周波誘導加熱ユニット8aを通過する際、高周波電流により誘導加熱されて自ら発熱しながら瞬時に高温になる。したがって、基材W1に付着する酸化防止剤が化学反応の起こる200度の温度になるまでの時間が短くなるので、加熱ユニット8aの基材搬送方向の長さD1(
図2参照)を短くすることができ、コンパクトで且つ低コストな塗工装置1にすることができる。
【0043】
特に、本発明の実施形態1では、基材W1がアルミニウム材からなるとともに塗工液が約200度の温度で化学反応を起こして効力を発揮する酸化防止剤であるので、基材W1が高周波誘導加熱ユニット8aを通過する際に誘導加熱されて高温になると、基材W1に付着する酸化防止剤Lが所望する温度に短時間で到達し、且つ、化学反応を起こして効力が発揮されるようになる。このように、効力が発揮された状態の酸化防止剤Lを効率良くアルミニウム材からなる基材W1に付着させることができる。
【0044】
また、フローティングドライヤの如き連続搬送される基材のガイドロール等に支持されない区間が長く続くことが無くなるので、基材W1を連続搬送時において平面視で蛇行し難くすることができる。
【0045】
さらに、フローティングドライヤの如き通過する基材に対して各ノズルから吐出する空気によって基材搬送方向と交差する方向に力が加わるといったことがなくなるので、基材W1に皺を発生させ難くすることができる。
【0046】
《発明の実施形態2》
図3は、本発明の実施形態2の塗工装置1を示す。この実施形態2では、加熱工程8の一部及び冷却工程9が実施形態1と異なっている以外は実施形態1と同様であるので、実施形態1と同様の部分には同じ符号を付し、その他、異なる部分のみを説明する。
【0047】
実施形態2の高周波誘導加熱ユニット8aの上流側には、挟み込む基材W1を互いに反対方向に回転しながら送り出す一対の拡幅ローラ13aからなる拡幅ユニット13が基材W1の幅方向両側に一対設けられている。
【0048】
各拡幅ローラ13aは、連続搬送される基材W1をその中心線に対して斜め外側に向かわせるように回転軸心が基材W1の進行方向に対して傾いていて、これにより、両拡幅ユニット13を通過する基材W1がその幅方向に拡幅するようになっている。
【0049】
実施形態2の冷却ユニット9aは、
図4に示すように、基材W1に向かって空気を吹き出す複数の冷却ノズル9bと、該各冷却ノズル9bに空気を導入するエア配管9cとを備えている。尚、実施形態2の冷却ユニット9aは、基材搬送方向の寸法が約1600mm、基材幅方向の寸法が約1300mm、高さ寸法が約1000mmとなっている。
【0050】
冷却ノズル9bは、基材W1の幅方向全長に亘って延びる略ボックス状をなしており、最も上流側に位置する冷却ノズル9bと最も下流側に位置する冷却ノズル9bとを除いて、基材W1の上面(一側面)側と下面(他側面)側とで互いに対向する位置に、且つ、基材搬送方向に所定の間隔をあけながら複数配置されている。
【0051】
エア配管9cは、基材W1の上面側と下面側とにそれぞれ配設されていて、基材搬送方向に延びる直線状をなすとともに、各冷却ノズル9bに接続されている。
【0052】
そして、図示しない送風機から各エア配管9cを介して各冷却ノズル9bから空気を連続搬送される基材W1に向けて吹き付けることにより、当該基材W1を冷却するようになっている。
【0053】
次に、実施形態2の塗工装置1における冷却ユニット9aを制御して、冷却ユニット9aを通過した直後の基材W1の温度を変更させるとともに、変更させた各温度について、その後、基材巻取工程11において巻き取られた基材W1に皺が発生しているか否かを調べた。
【0054】
図5に示すように、冷却ユニット9aを通過した基材W1の温度が30度以下になると、基材巻取工程11にて巻き取られる基材W1に皺が発生しないことが分かった。これは、冷却ユニット9aを通過した基材W1がガイドロール12に接触しても、そのときの基材W1の温度の下がり幅が小さくなるので、基材W1の熱収縮による皺の発生がほとんど無くなるからだと考えられる。
【0055】
以上より、本発明の実施形態2によると、基材W1がガイドロールに非接触の状態で冷却されるので、基材W1がガイドロールに接触することによって引き起こされる急激な熱収縮による皺の発生を抑制することができる。
【0056】
また、各冷却ノズル9bが、基材W1の上面側と下面側とで互いに対向する位置に配置されているので、基材W1の上面側又は下面側にそれぞれ位置する各冷却ノズル9bの間隔を短くすることができる。したがって、冷却ノズル9bにおける基材搬送方向の寸法を短くしながら多くの冷却ノズル9bを冷却ユニット9aの内部に配置することができる。
【0057】
さらに、拡幅ユニット13によって、加熱ユニット8aに入る直前の基材W1が通常状態よりも幅方向に広がった状態になるので、加熱ユニット8aを通過前後の基材W1における幅方向の歪みの変化量の差が小さくなり、皺の発生を抑制することができる。
【0058】
《発明の実施形態3》
図6は、本発明の実施形態3の塗工装置1の冷却工程9を示す。この実施形態3では、冷却ノズル9bの配置が実施形態2と異なっている以外は実施形態2と同様であるので、実施形態2と同様の部分には同じ符号を付し、その他、異なる部分のみを説明する。
【0059】
実施形態2の各冷却ノズル9bは、基材W1の上面側と下面側とに交互に、且つ、基材搬送方向に所定の間隔をあけながら千鳥状に複数配置されていて、基材W1は、各冷却ノズル9bから吹き出される空気によって正面視で蛇行しながら水平方向に搬送されるようになっている。
【0060】
以上より、本発明の実施形態3によると、基材W1の上面側と下面側とに交互に、且つ、基材搬送方向に所定の間隔をあけながら千鳥状に複数配置されているので、基材W1を挟んだ位置で対向する2つの冷却ノズル9bが互いに向かい合って空気を吹き出す実施形態2の如き構成に比べて各冷却ノズル9bから吹き出す空気が乱れにくくなる。したがって、冷却ユニット9a内部の基材W1の搬送を安定させることができる。
【0061】
尚、本発明の実施形態1~3では、基材W1に付着する酸化防止剤Lを所定の温度にまで加熱するために、加熱ユニット8aを用いているが、基材W1に付着させた塗工液を乾燥させるために加熱ユニット8aを利用してもよい。そうすると、例えば、フローティングドライヤの如き伝熱作用により基材に付着する塗工液を乾燥させる構造に比べて基材W1に付着する塗工液の乾く速度が速くなり、乾燥工程を基材搬送方向に短くすることができる。
【0062】
また、本発明の実施形態1~3では、基材W1がアルミニウム材で構成されているが、基材W1は金属材であればアルミニウム材に限定されない。
【0063】
また、本発明の実施形態1~3では、基材W1に塗工液として酸化防止剤Lを付着させているが、これに限らず、その他の種類の塗工液を基材W1に付着させる場合であっても塗工装置1を用いることができる。
【0064】
また、本発明の実施形態1~3では、基材W1の両面に酸化防止剤Lを付着させるようになっているが、どちらか一方の面にのみ酸化防止剤Lを付着させる構成であってもよい。
【0065】
また、本発明の実施形態2,3では、冷却ノズル9bから基材W1に対して空気を吹き付けることにより基材W1を冷却しているが、その他の方法で冷却してもよく、例えば、冷却液体を噴霧手段により噴霧状にして基材W1に対して吹き付けて冷却するようにしてもよいし、基材W1を冷却液体に通過させて冷却するような構成にしてもよい。
【0066】
また、本発明の実施形態2,3では、冷却ノズル9bから基材W1に対して空気を垂直に吹き付けているが、斜めに吹き付けるようにしてもよい。
【0067】
また、本発明の実施形態2,3の冷却ノズル9bから吹き出す空気の温度を冷却ノズル9b毎に異なるように設定してもよい。例えば、冷却ユニット9aの上流側に位置する冷却ノズル9bから吹き出す空気の温度よりも下流側に位置する冷却ノズル9bから吹き出す空気の温度を低く設定すれば、基材W1が段階的に冷却されて皺の発生を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、連続搬送される金属製基材に塗工液を塗工する塗工装置に適している。
【符号の説明】
【0069】
1 塗工装置
4a 塗工ユニット
8a 高周波誘導加熱ユニット
9a 冷却ユニット
9b 冷却ノズル
13 拡幅ユニット(拡幅手段)
W1 基材
L 酸化防止剤