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特許7587824マイクロバルブ及びそれを用いたマイクロポンプ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】マイクロバルブ及びそれを用いたマイクロポンプ
(51)【国際特許分類】
   F16K 7/17 20060101AFI20241114BHJP
   F04B 9/08 20060101ALI20241114BHJP
   F16K 13/10 20060101ALI20241114BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
F16K7/17 Z
F04B9/08 Z
F16K13/10 B
B81B3/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021015852
(22)【出願日】2021-02-03
(65)【公開番号】P2022118970
(43)【公開日】2022-08-16
【審査請求日】2024-01-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年7月20日にオンラインによる遠隔発表会にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金 俊完
(72)【発明者】
【氏名】松原 竜也
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-032850(JP,U)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0025062(KR,A)
【文献】特開2005-308200(JP,A)
【文献】特開2015-037356(JP,A)
【文献】特開2005-283331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 7/12- 7/17
F16K 31/12-31/165;31/36-31/42
B81B 1/00- 7/04
B81C 1/00-99/00
F04B 9/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インレット開口と、アウトレット開口と、前記インレット開口及び前記アウトレット開口に連通する弁室と、差圧室とを備えた本体と、
前記弁室と差圧室との間に配設された弾性膜と、
前記差圧室に対して両端が連通するバルブ駆動路と、
前記差圧室及び前記バルブ駆動路内に注入された作動流体と、
前記バルブ駆動路内に配置されたバルブ用電極ユニットと、を有し、
前記バルブ用電極ユニットは、前記バルブ駆動路に沿って配置された2つのバルブ負電極と、前記バルブ負電極の間に配置されたバルブ正電極とを有し、
前記バルブ負電極の一方と、前記バルブ正電極との間に電圧が印加されたときは、前記バルブ駆動路の一端から前記差圧室内に前記作動流体が流れることで、前記バルブ駆動路の一端側にて前記作動流体の圧力が増大することにより変形した前記弾性膜が前記アウトレット開口を閉止し、
前記バルブ負電極の他方と、前記バルブ正電極との間に電圧が印加されたときは、前記バルブ駆動路の他端から前記差圧室内に前記作動流体が流れることで、前記バルブ駆動路の他端側にて前記作動流体の圧力が増大することにより変形した前記弾性膜が前記インレット開口を閉止する、
ことを特徴とするマイクロバルブ。
【請求項2】
前記バルブ負電極の一方と、前記バルブ正電極との間に電圧が印加されたときは、前記バルブ駆動路の一端から前記差圧室内に前記作動流体が流れることで、前記バルブ駆動路の他端側にて前記作動流体の圧力が減少することにより変形した前記弾性膜が前記インレット開口から離間し、
前記バルブ負電極の他方と、前記バルブ正電極との間に電圧が印加されたときは、前記バルブ駆動路の他端から前記差圧室内に前記作動流体が流れることで、前記バルブ駆動路の一端側にて前記作動流体の圧力が減少することにより変形した前記弾性膜が前記アウトレット開口から離間する、
ことを特徴とする請求項1に記載のマイクロバルブ。
【請求項3】
前記インレット開口が液体の供給元に接続され、前記アウトレット開口が前記液体の供給先に接続されてなる、請求項2に記載のマイクロバルブと、
前記弁室に一端が接続され、他端がリザーバに接続されたポンプ駆動路と、
前記ポンプ駆動路内に配置されたポンプ用電極ユニットと、を有し、
前記ポンプ用電極ユニットは、前記ポンプ駆動路に沿って配置された2つのポンプ負電極と、前記ポンプ負電極の間に配置されたポンプ正電極とを有し、
前記液体は、作動流体と混じり合わない性質を有し、前記弁室と前記ポンプ駆動路の一部に注入され、
前記作動流体は、前記液体と接しつつ前記ポンプ駆動路の残りに注入され、
前記マイクロバルブの動作により前記インレット開口が開放され、前記アウトレット開口が閉止されたときは、前記ポンプ負電極の一方と、前記ポンプ正電極との間に電圧を印加することにより、前記作動流体を前記ポンプ駆動路から前記リザーバ側へと移動させるとともに、前記液体を前記インレット開口から前記弁室内へと吸入し、
前記マイクロバルブの動作により前記アウトレット開口が開放され、前記インレット開口が閉止されたときは、前記ポンプ負電極の他方と、前記ポンプ正電極との間に電圧を印加することにより、前記作動流体を前記リザーバ側から前記ポンプ駆動路へと移動させるとともに、前記液体を前記弁室から前記アウトレット開口を介して吐出する、
ことを特徴とするマイクロポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロバルブ及びそれを用いたマイクロポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機能性流体を利用したマイクロポンプの研究が進められている。機能性流体とは、外的刺激により特有の機能性を発現する流体の総称である。機能性流体には、磁性流体、磁気粘性流体、電気粘性流体、電界共役流体などがあり、これらを用いたアクチュエータは工業製品などに既に使用されている。
【0003】
機能性流体の一つである電界共役流体(Electro-conjugate fluid:以下、ECFという)は、直流電圧の印加によって活発な流動を発生する機能性流体である。ECFを用いたポンプは、機械的構成を必要とせずに微小な電極への電圧印加だけで流動を発生できることから、小型の流体配給システムに適した液圧源として期待されている。
【0004】
特に、ECFを用いたポンプは、電極対の寸法が小さくなるほどパワー密度が大きくなるため、高出力パワー密度を有するマイクロポンプに適しているといえる。特許文献1には、パーソナルコンピュータのCPU等を冷却するために、ECFを用いたポンプを備えた熱拡散装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-119326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1のECFを用いたポンプにおいては、ECFを流すのには適しているが、ECF以外の流体を流せないという問題がある。また、特許文献1のECFポンプにおいては,三角柱電極とスリット電極がペアになり,ECFは三角柱の先端からスリットへの一方向のみに流れ、いわゆるシリンジポンプのように、流体の吸い込みと吐き出しとを交互に行うことはできないという問題もある。
【0007】
これに対し、ECFと水はマイクロ流路において混ざり合わない性質を利用するとともに、スリット電極を挟んで三角柱電極を対向して配置することで、ECFを両方向に交互に流すことにより、シリンジポンプの機能を発揮させる研究も行われている。しかしながら、ECFの吸い込みと吐き出しとを交互に行うのみでは、流体を送出するポンプとしての機能を発揮できないため、シリンジポンプの動作に応じて開閉するバルブが必要となる。
【0008】
これに対し、シリンジポンプの入口ポートと出口ポートに弾性片を取り付けて、シリンジ内の圧力が吸入動作により低下したときに、出口ポート側の弾性片が閉じ、入口ポート側の弾性片が開くようにし、またシリンジ内の圧力が押出動作により増大したときに、入口ポート側の弾性片が閉じ、出口ポート側の弾性片が開くようにしたパッシブなバルブを配設することも一案である。しかしながら、かかるパッシブなバルブでは、弾性片の応答遅れや流体漏れなどが生じやすく、微小量の流体を精度よく送出することができない。
【0009】
本発明は、ECF以外の液体を精度よく送出することができるマイクロポンプに適したマイクロバルブ及びそれを用いたマイクロポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のマイクロバルブは、
インレット開口と、アウトレット開口と、前記インレット開口及び前記アウトレット開口に連通する弁室と、差圧室とを備えた本体と、
前記弁室と差圧室との間に配設された弾性膜と、
前記差圧室に対して両端が連通するバルブ駆動路と、
前記差圧室及び前記バルブ駆動路内に注入された作動流体と、
前記バルブ駆動路内に配置されたバルブ用電極ユニットと、を有し、
前記バルブ用電極ユニットは、前記バルブ駆動路に沿って配置された2つのバルブ負電極と、前記バルブ負電極の間に配置されたバルブ正電極とを有し、
前記バルブ負電極の一方と、前記バルブ正電極との間に電圧が印加されたときは、前記バルブ駆動路の一端から前記差圧室内に前記作動流体が流れることで、前記バルブ駆動路の一端側にて前記作動流体の圧力が増大することにより変形した前記弾性膜が前記アウトレット開口を閉止し、
前記バルブ負電極の他方と、前記バルブ正電極との間に電圧が印加されたときは、前記バルブ駆動路の他端から前記差圧室内に前記作動流体が流れることで、前記バルブ駆動路の他端側にて前記作動流体の圧力が増大することにより変形した前記弾性膜が前記インレット開口を閉止する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ECF以外の液体を精度よく送出することができるマイクロポンプに適したマイクロバルブ及びそれを用いたマイクロポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の実施形態にかかるマイクロバルブを備えたマイクロポンプの斜視図である。
図2図2は、マイクロポンプを上半部と下半部とに分離して示す斜視図である。
図3図3は、プランジャ路内に配置されたポンプ用電極ユニットを模式的に示す図である。
図4図4は、図1のA-A線で切断して側面視した図である。
図5図5(a)は、マイクロポンプを模式的に示す図であり、図5(b)は、図5(a)を図5(a)のB-B線の位置で切断して示す図である。
図6図6(a)は、マイクロポンプにおいて、流体の吸い込み状態を模式的に示す図であり、図6(b)は、図6(a)を図5(a)のB-B線の位置で切断して示す図である。
図7図7(a)は、マイクロポンプにおいて、流体の吐き出し状態を模式的に示す図であり、図7(b)は、図7(a)を図5(a)のB-B線の位置で切断して示す図である。
図8図8(a)は、マイクロポンプのバルブ用電極ユニットの電極間に印加される電圧を横軸にとり、第2開口内の液圧の平均値を縦軸にとって示すグラフである。また、図8(b)は、マイクロポンプのバルブ用電極ユニットの電極間に印加される電圧を横軸にとり、第1開口内の液圧の平均値を縦軸にとって示すグラフである。
図9図9(a)は、マイクロポンプの吸入開始からの経過時間を横軸にとり、開口を通過する液体の流量を縦軸にとって示すグラフであり、図9(b)は、マイクロポンプの吐出開始からの経過時間を横軸にとり、開口を通過する液体の流量を縦軸にとって示すグラフである。また、図9(c)は、マイクロポンプのポンプ用電極ユニットの電極間に印加される電圧を横軸にとり、吸入時に第1開口を通過する液体の流量の平均値を縦軸にとって示すグラフである。図9(d)は、マイクロポンプのポンプ用電極ユニットの電極間に印加される電圧を横軸にとり、吐出時に第2開口を通過する液体の流量の平均値を縦軸にとって示すグラフである。
図10図10(a)は、マイクロポンプのバルブ用電極ユニット及びポンプ用電極ユニットの電極間に印加される電圧を示すタイムチャートであり、図10(b)は、マイクロポンプにより吸入される液体の量を示すタイムチャートである。また、図10(c)は、マイクロポンプの吸入開始からの経過時間を横軸にとり、マイクロポンプ内に貯留される液体の量を縦軸にとって示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を具体的に説明する。
【0014】
(マイクロポンプの構造)
図1は、本発明の実施形態にかかるマイクロバルブを備えたマイクロポンプ10の斜視図である。図2は、マイクロポンプ10を上半部20と下半部30とに分離して示す斜視図である。これら斜視図においては、内部構造を透視した状態で示している。
【0015】
マイクロポンプ10は、図に示すように薄形の矩形板形状であって、上半部20と下半部30とから構成される。マイクロポンプ10は、半導体製造工程を使用して形成されると、微細な構成を有するにも関わらず大量生産が可能であるが、その製造方法には制限されない。
【0016】
上半部20は、矩形板状の上ケース21と、上ケース21内においてジグザグ形状に形成されたシリンジ路22とを有する。下半部30は、上ケース21と同外形の矩形板状の下ケース31と、下ケース31内においてU字状に形成されたプランジャ路32と、ジグザグ形状に形成されたバルブ駆動路33とを有する。シリンジ路22とプランジャ路32とでポンプ駆動路を構成し、上ケース21と下ケース31とで本体を構成する。また、シリンジ路22、プランジャ路32、およびバルブ駆動路33は流体の通路として機能する。
【0017】
シリンジ路22の一端は、マイクロバルブの弁室23a(図4参照)に接続され、シリンジ路22の他端は、上半部20と下半部30との境界でプランジャ路32の一端に接続されている。プランジャ路32の他端は、プランジャ用のリザーバ37(図5参照)に接続されている。プランジャ路32内には、複数のポンプ用電極ユニット40が直列に配置されている。
【0018】
図3は、プランジャ路32内に配置されたポンプ用電極ユニット40を模式的に示す図である。ポンプ用電極ユニット40は、スリット電極(ポンプ正電極ともいう)41と、スリット電極41を挟んで配置された一対の三角柱電極(ポンプ負電極ともいう)42、43とを有する。他のポンプ用電極ユニット40も同様の構成を有する。プランジャ路32のスリット電極41、三角柱電極42、43に接する内壁は絶縁体から形成されている。
【0019】
スリット電極41は、プランジャ路32の軸線を挟んで両側に、隙間を開けて配置されている。一方、三角柱電極42、43は、プランジャ路32に沿ってスリット電極41を挟んで両側に配置され、尖った先端をスリット電極41の隙間に向けている。ここで、三角柱電極42はシリンジ路22側に配置され、三角柱電極43はリザーバ37側に配置されているものとする。
【0020】
図示しない電源から、スリット電極41と、三角柱電極42、43に対し、数十V~数十kVの高電圧である直流電圧が印加可能である。スリット電極41は正極側に接続され、三角柱電極42、43は負極側に接続されるが、図示しないスイッチング装置を介して、三角柱電極42、43の一方が負極に対して開成するときは、他方が負極に対して閉成するものとする。
【0021】
図4は、図1のA-A線で切断して側面視した図であるが、バルブ駆動路33については模式的に示す。図4において、上半部20の上ケース21は、第1板材23と、弾性変形可能な弾性膜24と、第2板材25とを積層することにより形成される。弾性膜24の素材としては、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)が好適に用いられる。図4には図示されていないが、第1板材23には、シリンジ路22に対応するジグザグ状の溝が形成され、この溝を覆うように弾性膜24及び下半部30を接着することで、シリンジ路22(図2)が形成される。
【0022】
第2板材25の中央側に第1開口25aと第2開口25bが形成され、弾性膜24の下面を露出させている。第1開口25aと第2開口25bを含む弾性膜24の上方において、第1板材23の内部に弁室23aが形成されている。また、第1開口25aの上方にて、弁室23aに連通するインレット開口23bが形成され、また第2開口25bの上方にて、弁室23aに連通するアウトレット開口23cが形成されている。図4にて図示しないが、弁室23aはシリンジ路22にも連通している。本実施形態において、弾性膜24と、インレット開口23bと、アウトレット開口23cとで、アクティブ型のマイクロバルブを構成する。
【0023】
下半部30の下ケース31は、第3板材34と、平板状の第4板材35とを積層することにより形成されている。第1開口25aと第2開口25bの下方において、第3板材34に差圧室34aが形成されている。差圧室34aは、第1開口25a側において、模式的に示すバルブ駆動路33の一端に接続され、また第2開口25b側において、バルブ駆動路33の他端に接続されている。差圧室34aとバルブ駆動路33とは、クローズドループを形成する。バルブ駆動路33内に注入されるECFと、シリンジ路22及びプランジャ路32内に注入されるECFとは同じ物でもよいし、異なっていてもよい。なお、第1ポート21aと第2ポート21bは、差圧室34a及びバルブ駆動路33にECFを注入する際に使用するポートであり、ECF注入後、これらは不図示のクランプなどを用いて閉じられる。
【0024】
バルブ駆動路33は、図4においては下半部30とは別体で図示されているが、実際には下半部30の内部に形成される。具体的に第3板材34には、バルブ駆動路33に対応するジグザグ状の溝が形成され、第2板材25と第4板材35とにより上下方向に挟持されることで、バルブ駆動路33(図2)が形成される。
【0025】
バルブ駆動路33内には、複数の(図4では一つのみ図示する)バルブ用電極ユニット50が直列に配置されている。バルブ用電極ユニット50は、スリット電極(バルブ正電極ともいう)51と、スリット電極51を挟んで配置された一対の三角柱電極(バルブ負電極ともいう)52、53とを有する。他のバルブ用電極ユニットも同様の構成を有する。バルブ駆動路33のスリット電極51、三角柱電極52、53に接する内壁は絶縁体から形成されている。三角柱電極52は第1開口25a側に配置され、三角柱電極53は第2開口25b側に配置されているものとする。バルブ用電極ユニット50の構成は、基本的には図3に示すポンプ用電極ユニット40と同様であり、図3のスリット電極41がスリット電極51に対応し、またスリット電極42,43が三角柱電極52、53に対応する。以下、重複する説明を省略する。
【0026】
(マイクロポンプの動作)
次に、マイクロポンプ10の動作について説明する。図5(a)、図6(a)、図7(a)は、マイクロポンプ10を模式的に示す図であり、図5(b)、図6(b)、図7(b)は、図5(a)、図6(a)、図7(a)を図5(a)のB-B線で切断して示す図である。なお、図5(b)、図6(b)、図7(b)において、理解しやすいようにバルブ用電極ユニット50が弾性膜24の下方に図示されているが、実際は下半部30の異なる箇所に配設されている。
【0027】
図5~7において、マイクロポンプ10にて送出したい液体(ここでは水WTとする)をドットで示し、ECFをハッチングで示す。また、弁室23aに連通するインレット開口23bは、水WTの供給元に接続され、弁室23aに連通するアウトレット開口23cは、水WTの供給先に接続されているものとする。さらに、弁室23aに連通するシリンジ路22の一部も水WTで満たされ、シリンジ路22の残り及びプランジャ路32はECFで満たされている。
【0028】
また、差圧室34aとバルブ駆動路33のクローズドループ内にも、ECFが封入されている。
【0029】
本実施形態においては、水WTと、油の一種であるECFとが互いに混じり合わないという性質を利用して、マイクロポンプ10にシリンジ動作を行わせる。水以外にも、ECFと混じり合わない性質を持つ液体であれば、マイクロポンプ10で送出可能である。シリンジ路22内において、水WTとECFとの界面をBDとする。ECFとしては、例えば米国特許第6495071号に記載された流体が用いられるが、これに限られない。
【0030】
ポンプ用電極ユニット40とバルブ用電極ユニット50への給電は、不図示の制御装置により統合的に制御される。制御装置からポンプ用電極ユニット40とバルブ用電極ユニット50への給電が行われないときは、図5の静止状態となり、弁室23aは、インレット開口23bと、アウトレット開口23cと、シリンジ路22に連通するが、圧力差がないため水WTの移動は行われない。
【0031】
(吸入動作)
マイクロポンプ10の動作開始時に、制御装置からの信号により、バルブ用電極ユニット50のスリット電極51と、三角柱電極52とに対して直流電圧を印加すると、電気流体力学現象により、バルブ駆動路33内で図6(a)の矢印Cに示す方向にECFが流動する。
【0032】
すると、差圧室34a内において、第1開口25a内よりも第2開口25b内の圧力が増大し、それにより図6(b)に示すように、第2開口25b内の弾性膜24は、弁室23a内に突出するように弾性変形するとともに、第1開口25a内の弾性膜24は、差圧室34a内に突出するように弾性変形する。
【0033】
かかる動作により、第2開口25b内の弾性膜24は、弁室23a内においてアウトレット開口23cの下端に当接してこれを閉止するとともに、第1開口25a内の弾性膜24は、インレット開口23bの下端との間隔を拡大させる。
【0034】
次に、制御装置からの信号により、ポンプ用電極ユニット40のスリット電極41と、三角柱電極42とに対して直流電圧を印加する。これにより生じた電気流体力学現象により、シリンジ路22内で図6(a)の矢印Dに示す方向にECFが流動する。すると、水WTとECFとの界面BDが、弁室23aから離間する方向に移動して、弁室23a内の液圧が低下する。このとき、アウトレット開口23cが弾性膜24により閉止されているため、インレット開口23bを介して弁室23a及びシリンジ路22内に水WTを吸入することができる。また、インレット開口23bと弾性膜24との間隔が拡大しているため、水WTの進入を阻害しない。界面BDの移動に応じてシリンジ路22から溢れたECFは、リザーバ37に貯留される。
【0035】
所定ストロークまで水WTが吸入された後、制御装置は、バルブ用電極ユニット50及びポンプ用電極ユニット40への給電を停止させる。
【0036】
(吐出動作)
その後、制御装置からの信号により、バルブ用電極ユニット50のスリット電極51と、三角柱電極53とに対して直流電圧を印加すると、電気流体力学現象により、バルブ駆動路33内で図7(a)の矢印Eに示す方向にECFが流動する。
【0037】
すると、差圧室34a内において、第2開口25b内よりも第1開口25a内の圧力が増大し、それにより図7(b)に示すように、第1開口25a内の弾性膜24は、弁室23a内に突出するように弾性変形するとともに、第2開口25b内の弾性膜24は、差圧室34a内に突出するように弾性変形する。
【0038】
かかる動作により、第1開口25a内の弾性膜24は、弁室23a内においてインレット開口23bの下端に当接してこれを閉止するとともに、第2開口25b内の弾性膜24は、アウトレット開口23cの下端との間隔を拡大させる。
【0039】
次に、制御装置からの信号により、ポンプ用電極ユニット40のスリット電極41と、三角柱電極43とに対して直流電圧を印加する。これにより生じた電気流体力学現象により、シリンジ路22内で図7(a)の矢印Fに示す方向にECFが流動する。すると、水WTとECFとの界面BDが、弁室23aに近接する方向に移動し、弁室23a内の液圧が増加する。このとき、インレット開口23bが弾性膜24により閉止されているため、アウトレット開口23cを介して弁室23a内の水WTを吐出することができる。また、アウトレット開口23cと弾性膜24との間隔が拡大しているため、水WTの吐出を阻害しない。リザーバ37に貯留されていたECFは、界面BDの移動に応じてシリンジ路22内へと戻入される。
【0040】
所定ストロークまで水WTが吐出された後、制御装置は、バルブ用電極ユニット50及びポンプ用電極ユニット40への給電を停止させる。以上で、マイクロポンプ10の1ストローク分の動作が完了する。
【0041】
マイクロポンプの制御方法の一例として、マイクロバルブの動作に同期させたマイクロポンプの制御態様を以下に示す。
(1)マイクロバルブの動作によりインレット開口23bが開放され、アウトレット開口23cが閉止されたときは、マイクロポンプ10の三角柱電極42とスリット電極41との間に直流電圧を印加することにより、ECFをシリンジ路22からリザーバ37側へと移動させるとともに、水WTをインレット開口23bから弁室23a内へと吸入する。
(2)マイクロバルブの動作によりアウトレット開口23cが開放され、インレット開口23bが閉止されたときは、マイクロポンプ10の三角柱電極43とスリット電極41との間に直流電圧を印加することにより、ECRをリザーバ37側からシリンジ路22へと移動させるとともに、水WTを弁室23aからアウトレット開口23cを介して吐出する。
【0042】
シリンジ路22に界面BDの位置を検出するセンサを配設すれば、界面BDの移動量が分かる。制御装置は、電極ユニット40,50への給電開始と停止のタイミングを、前記センサからの信号に基づいて精度よく決定でき、それによりマイクロポンプ10に1ストロークの精密なシリンジ動作を繰り返し行わせることができる。
【0043】
また、シリンジ路22の断面積が既知であれば、前記センサからの信号に基づいて、1ストロークで吐出する水WTの量を精度よく求めることができる。このとき、界面BDの検出時の分解能を高めるには、シリンジ路22の断面積を小さくすると共にその通路長を長く確保することが好ましい。そこで本実施の形態では、シリンジ路22をジグザグ形状として、マイクロポンプ10の大型化を図ることなく、高精度な吐出量測定を可能としている。このため、化学薬品などの微量の液体を高精度に分与する用途に、本実施形態のマイクロポンプ10を好適に使用することができる。
【0044】
なお、本実施形態のマイクロバルブは、マイクロポンプ以外の用途にも適用可能である。
【0045】
(実験結果)
以下、本発明者らが行った実験結果について説明する。
図8(a)は、マイクロポンプ10のバルブ用電極ユニット50の電極間に印加される電圧を横軸にとり、第2開口25b内の液圧の平均値を縦軸にとって示すグラフである。また、図8(b)は、マイクロポンプ10のバルブ用電極ユニット50の電極間に印加される電圧を横軸にとり、第1開口25a内の液圧の平均値を縦軸にとって示すグラフである。各グラフにおいて、それぞれ測定値の標準誤差の上限と下限を横線で示している。
【0046】
図8に示す実験結果によれば、バルブ用電極ユニット50の電極間に印加される電圧が増大するに従って、開口内の液圧も増大することがわかる。したがって、印加電圧を増大させることで、弾性膜24を十分な力でインレット開口23bおよびアウトレット開口23cに向かって押圧することができ、それによりインレット開口23bおよびアウトレット開口23cを確実に閉止できるため、流体漏れを抑制できる。
【0047】
図9(a)は、マイクロポンプ10の吸入開始からの経過時間を横軸にとり、開口を通過する液体の流量を縦軸にとって示すグラフであり、図9(b)は、マイクロポンプ10の吐出開始からの経過時間を横軸にとり、開口を通過する液体の流量を縦軸にとって示すグラフであり、それぞれポンプ用電極ユニットの印加電圧を0.4kVとした。それぞれ、◆印のグラフがインレット開口23bを通過する液体の量の変化を示し、〇印のグラフがアウトレット開口23cを通過する液体の量の変化を示している。また、インレット開口23bを通過して弁室23aに吸入された液体の量を負値で表し、弁室23aからアウトレット開口23cを通過して外部に吐出された液体の量を正値で表す。
【0048】
図9(a)に示す実験結果によれば、吸入時に、インレット開口23bを通過する液体の量は、経過時間に対してリニアに増加するが、アウトレット開口23cを通過する液体の量はゼロであり、マイクロバルブがインレット開口23bを開放し、アウトレット開口23cを閉止する機能が確保されていることがわかる。
【0049】
また、図9(b)に示す実験結果によれば、吐出時に、アウトレット開口23cを通過する液体の量は経過時間に対してリニアに増加するが、インレット開口23bを通過する液体の量はゼロであり、マイクロバルブがアウトレット開口23cを開放し、インレット開口23bを閉止する機能が確保されていることがわかる。
【0050】
図9(c)は、マイクロポンプ10のポンプ用電極ユニット40の電極間に印加される電圧を横軸にとり、吸入時にインレット開口23bを通過する液体の流量の平均値を縦軸にとって示すグラフである。また、図9(d)は、マイクロポンプ10のポンプ用電極ユニット40の電極間に印加される電圧を横軸にとり、吐出時にアウトレット開口23cを通過する液体の流量の平均値を縦軸にとって示すグラフである。各グラフにおいて、それぞれ測定値の標準誤差の上限と下限を横線で示している。
【0051】
図9(c)、(d)に示す実験結果によれば、ポンプ用電極ユニット40の電極間に印加される電圧が増大するに従って、開口内を通過する液体の流量も増大することがわかる。したがって、マイクロポンプ10の用途に応じて、印加電圧を増大させることで、液体の吸入/吐出速度を高めることができる。
【0052】
図10(a)は、マイクロポンプ10のポンプ用電極ユニット40及びバルブ用電極ユニット50の電極間に印加される電圧を示すタイムチャートであり、図10(b)は、マイクロポンプ10により吸入される液体の量を示すタイムチャートである。
【0053】
図10(a)、(b)において、時間tv1より、バルブ用電極ユニット50のスリット電極51と三角柱電極52に一定の直流電圧を印加することによりアウトレット開口23cを閉じる。この時、インレット開口23bは開放している。次に、時間t1から時間t2までポンプ用電極ユニット40のスリット電極41と三角柱電極42に一定の直流電圧を印加すると、マイクロポンプ10により吸入された液体の量は、時間t1から時間t2までリニアに増大する。
【0054】
また、時間t2でスリット電極41と三角柱電極42への直流電圧の印加を停止すると、マイクロポンプ10に液体が吸入されなくなる。さらに、時間tv2で、バルブ用電極ユニット50のスリット電極51と三角柱電極52への直流電圧の印加を停止すると、インレット開口23bとアウトレット開口23cが開放された状態になるが、両開口間に差圧がなければ液体の流れは生じない。このとき、時間t2から時間t3まで、ポンプ用電極ユニット40の電極間に直流電圧が印加されないと、マイクロポンプ10内に貯留された液体の量は一定となる。なお、図10(a)では、理解しやすいように時間tv2と時間tv3との間に時間差があるように示されているが、実際はtv2=tv3である。
【0055】
時間tv3より、バルブ用電極ユニット50のスリット電極51と三角柱電極53に一定の直流電圧を印加することによりインレット開口23bを閉じる。この時、アウトレット開口23cは開放している。次に、時間t3でポンプ用電極ユニット40のスリット電極41と三角柱電極43への直流電圧の印加を開始すると、マイクロポンプ10から液体が吐出され始める。さらに、時間t3から時間t4までスリット電極41と三角柱電極43に一定の直流電圧を印加することで、マイクロポンプ10に貯留された液体の量はリニアに減少する。
【0056】
また、時間t4でスリット電極41と三角柱電極43への直流電圧の印加を停止すると、マイクロポンプ10に液体が吐出されなくなる。その後、時間tv4で、バルブ用電極ユニット50のスリット電極51と三角柱電極53への直流電圧の印加を停止することにより、インレット開口23bとアウトレット開口23cが開放された状態になる。時間tv1~tv4で、マイクロポンプ10の1ストロークの動作が行われる。
【0057】
図10(c)は、マイクロポンプ10の吸入開始からの経過時間を横軸にとり、マイクロポンプ10内に貯留される液体の量を縦軸にとって示すグラフであり、ポンプ用電極ユニット40の電極間に印加される電圧を、0.3kV(実線),0.4kV(点線),0.5kV(破線)と変化させた場合について示している。
【0058】
図10(c)の実験結果によれば、ポンプ用電極ユニット40の電極間に印加される電圧が高くなると、吸引を早く行える(グラフの傾きが急峻となる)ことがわかる。
【符号の説明】
【0059】
10 マイクロポンプ
20 上半部
24 弾性膜
30 下半部
40 ポンプ用電極ユニット
50 バルブ用電極ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10