(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】核酸用担体および核酸の投与方法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/46 20060101AFI20241114BHJP
A61K 9/50 20060101ALI20241114BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241114BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241114BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20241114BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20241114BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20241114BHJP
C12N 5/04 20060101ALI20241114BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
A61K47/46
A61K9/50
A61K48/00
A61P43/00 105
A61K31/7088
A61K9/10
C12N15/113 Z
C12N5/04
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2021530681
(86)(22)【出願日】2020-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2020026280
(87)【国際公開番号】W WO2021006222
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-04-24
(31)【優先権主張番号】P 2019126172
(32)【優先日】2019-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505457994
【氏名又は名称】学校法人東京医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(72)【発明者】
【氏名】黒田 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】高梨 正勝
(72)【発明者】
【氏名】大野 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】梅津 知宏
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0362974(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0308212(US,A1)
【文献】国際公開第2017/004526(WO,A1)
【文献】WANG Q. et al.,Delivery of therapeutic agents by nanoparticles made of grapefruit-derived lipids.,Nature Communications,2013年,Vol.4: 1867,pp.1-11
【文献】高梨正勝ほか,エクソソームを用いた疾患治療を標的とした核酸医薬の現状と開発,最新医学,2018年,Vol.73, No.9,pp.1237-1242
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物果実から単離された小胞を含
み、
前記植物が、アセロラ種(Malpighia sp.)植物であることを特徴とする核酸用担体。
【請求項2】
前記小胞の平均粒径が、30~400nmである、請求項
1に記載の核酸用担体。
【請求項3】
前記核酸が、発現抑制用の核酸試薬である、請求項1
または2に記載の核酸用担体。
【請求項4】
さらに、前記核酸を含み、
前記核酸と前記小胞とが複合体を形成している、請求項1から
3のいずれか一項に記載の核酸用担体。
【請求項5】
請求項1から
3のいずれか一項に記載の核酸用担体と、核酸とを含み、
前記核酸用担体と前記核酸とが複合体を形成していることを特徴とするデリバリー型核酸試薬。
【請求項6】
前記核酸が、siRNA、アンチセンス、shRNA、miRNA、およびmiRNA mimicからなる群から選択された少なくとも一つである、請求項
5に記載のデリバリー型核酸試薬。
【請求項7】
請求項1から
3のいずれか一項に記載の核酸用担体と核酸とを、溶媒中で共存させることにより、前記核酸用担体と前記核酸との複合体を形成させる工程を含むことを特徴とするデリバリー型核酸試薬の製造方法。
【請求項8】
前記核酸用担体と前記核酸とを、前記溶媒中で混合し、インキュベートする工程を含む、請求項
7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記核酸1pmolに対する前記核酸用担体の割合が5×10
4~8×10
4particlesである、請求項
7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1から
4のいずれか一項に記載の核酸用担体と核酸との複合体を形成する工程と、
前記複合体を投与する工程とを含
み、
前記投与が、in vitroでの投与である、または、非ヒト動物への投与であることを特徴とする核酸の投与方法。
【請求項11】
前記複合体を形成する工程において、前記核酸用担体と核酸とを共存させて、前記核酸用担体と前記核酸との複合体を形成する、請求項
10に記載の投与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸用担体および核酸の投与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遺伝子発現を抑制するsiRNA、ショートヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)等の核酸試薬について、医療分野への応用が試みられている。しかしながら、前記核酸試薬を細胞内に取り込ませるためのドラッグデリバリーシステム(DDS)は、開発途中であり、未だ、核酸を保持し、再現性良く細胞内に核酸を取り込ませることができる担体は、確立されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明は、siRNA等の核酸を細胞に導入するための新たな担体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記目的を達成するために、本発明の核酸用担体は、植物果実の小胞を含むことを特徴とする。
【0005】
本発明のデリバリー型核酸試薬は、前記本発明の核酸用担体と、核酸とを含み、前記核酸用担体と前記核酸とが複合体を形成していることを特徴とする。
【0006】
本発明のデリバリー型核酸試薬の製造方法は、前記本発明の核酸用担体と核酸とを、溶媒中で共存させることにより、前記核酸用担体と前記核酸との複合体を形成させる工程を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の核酸の投与方法は、前記本発明の核酸用担体と核酸との複合体を形成する工程と、前記複合体を投与する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の核酸用担体によれば、例えば、容易に核酸を保持し、さらに保持した核酸を細胞内に導入できる。このため、本発明は、例えば、遺伝子治療等の医療分野において、DDSとして非常に有用といえる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例1におけるアセロラ由来小胞の粒度分布を示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例1における核酸試薬の発現を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例1における小胞を使用した核酸試薬の取り込みを示す写真である。
【
図4】
図4は、実施例1における小胞を使用した核酸試薬の細胞SiHaへの取り込みと、ターゲットの発現抑制を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例1における小胞を使用した核酸試薬の細胞NHDFへの取り込みと、ターゲットの発現抑制を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例2において、核酸試薬の増幅量の比較により、小胞と核酸試薬との複合体形成を確認した結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例2において、核酸試薬の増幅量により、ヒートショックおよび氷冷の有無による複合体形成への影響を確認した結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例2において、核酸試薬の増幅量により、インキュベート条件による複合体形成への影響を確認した結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例2において、核酸試薬の増幅量により、複合体形成と小胞添加量との相関関係を確認した結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例3において、核酸試薬の増幅量により、小胞による核酸試薬の分解抑制を確認した結果を示すグラフである。
【
図11】
図11は、実施例4において、複合体形成による細胞への核酸試薬の導入を示すグラフである。
【
図12】
図12は、実施例5において、複合体形成によるマウスへの核酸試薬の導入を示す概略図である。
【
図13】
図13は、実施例5において、複合体形成によるマウスへの核酸試薬の導入について、各臓器における前記核酸試薬の増幅量を示すグラフである。
【
図14】
図14は、実施例5において、複合体としてマウスに導入された核酸試薬の機能を確認したグラフである。
【
図15】
図15は、実施例6において、核酸試薬の増幅量により、小胞による核酸試薬の分解抑制を確認した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で使用する用語は、特に言及しない限り、当該技術分野で通常用いられる意味で用いることができる。
【0011】
(1)核酸用担体
本発明の核酸用担体は、前述のように、植物果実の小胞を含むことを特徴とする。本発明者は、植物果実の小胞が核酸を保持し、前記核酸と前記小胞との複合体が細胞内に取り込まれ、保持した核酸が細胞内で機能することを見出し、本発明を確立するに至った。本発明は、前記小胞を含むことが特徴であって、その他の構成および条件は、特に制限されない。
【0012】
前記植物果実の由来となる植物は、特に制限されず、キントラノオ科(Malpighiaceae)植物、ミカン科(Rutaceae)植物等があげられる。
【0013】
前記キントラノオ科(Malpighiaceae)植物の種類は、特に制限されず、例えば、ヒイラギトラノオ属(Malpighia)があげられ、具体的には、例えば、アセロラ種(Malpighia sp.)等があげられ、好ましくはM. emarginata DC.、M. glabraおよびM. punicifolia等のアセロラである。
【0014】
前記ミカン科(Rutaceae)植物の種類は、特に制限されず、例えば、ミカン属(Citrus)があげられ、具体的には、例えば、グレープフルーツ種(Citrus × paradisi、英名grapefruit)、レモン種(C.limon、英名lemon)等があげられる。
【0015】
前記小胞は、前記植物の果実から得ることができる。前記果実は、例えば、完熟でもよく、未完熟でもよく、それらの混合物であってもよい。前記小胞は、例えば、前記果実の果汁から回収された、後述する小胞画分が好ましい。
【0016】
前記小胞は、例えば、前記植物果実からの抽出により調製できる。前記調製方法は、特に制限されず、例えば、前記果実を破砕し、その破砕物または破砕物の懸濁液を調製し、限外ろ過法、超遠心法、濃度勾配法、マイクロ液体システムによる分離法等の方法により、小胞を分画することで得ることができる。前記調製方法には、例えば、市販のキットを使用してもよく、ExoEasy Maxi Kit(商品名、QIAGEN社)、ExoQuick(商品名、System Bioscience社)、Total Exosome Isolation reagent(商品名、Invitrogen社)等が使用できる。前記小胞は、例えば、前記果実を絞って得られた果汁を、前述のような各種分離方法に供してもよい。前記果汁は、例えば、完熟果実の果汁でも、未完熟果実の果汁でも、完熟または未完熟の冷凍果実の果汁でもよい。
【0017】
本発明の核酸用担体は、例えば、複数の小胞を含む小胞画分を使用できる。前記小胞の大きさは、特に制限されず、その粒径は、例えば、30~400nm、80~300nm、150~300nm、100~200nm、80~200nmが例示できる。前記小胞は、例えば、微小小胞(microvesicles)またはナノ小胞(nanovesicles)ともいう。前記複数の小胞を含む小胞画分は、粒度分布で表した場合、粒径のピークが、例えば、30~400nm、80~300nm、150~300nm、100~200nm、80~200nmである。また、前記粒度分布において、全小胞を100%とした場合、前記ピーク(例えば、200±20nm)の小胞の割合は、その下限が、例えば、30%以上、50%以上、80%以上であり、その上限が、例えば、100%、80%以下、70%以下である。前記小胞画分は、例えば、前記果実の果汁から、前記粒径および前記粒度分布となるように抽出された画分である。本発明の核酸用担体として、前記小胞画分を使用する場合、例えば、前記粒径および前記粒度分布となるような抽出方法により前記植物果実から抽出される画分を使用でき、前記果汁由来の他の成分を含んだ状態であってもよい。
【0018】
小胞の粒径の測定方法は、特に制限されず、例えば、ナノ粒子トラッキング解析等の方法が採用でき、例えば、市販の装置(機器名NanoSight、qNANO)等が使用できる。前記小胞は、例えば、細胞外小胞、細胞内小胞のいずれでもよい。前記小胞は、例えば、エクソソーム様小胞(ヒト由来エクソソームと同等の大きさ)があげられる。ヒト由来エクソソームと同等の大きさの小胞とは、例えば、ヒト由来エクソソームと同様の単離方法によって得られる小胞である。
【0019】
本発明の核酸用担体は、核酸と複合体を形成できる。具体的には、前記小胞は、前記核酸と複合体を形成できる。前記核酸と前記核酸用担体とが複合体を形成することによって、前記核酸のデリバリーが可能になることから、前記複合体は、以下、デリバリー型核酸試薬ともいう。前記複合体の形態は、特に制限されず、例えば、前記小胞内部に前記核酸が内包された形態でもよいし、前記小胞の外壁に前記核酸が担持された形態でもよい。前記小胞と前記核酸との複合体の形成方法は、特に制限されず、例えば、前記小胞と前記核酸とを溶媒中で共存させるだけでもよいし、細胞内に核酸を導入する一般的な手法を利用することもできる。前者の場合、例えば、溶媒中で、前記小胞と前記核酸とを共存させ、インキュベートすることによって、前記小胞と前記核酸との複合体を形成できる。インキュベートの温度は、特に制限されず、例えば、室温範囲(例えば、30±10℃)でも、それ未満の温度範囲(例えば、0℃を超え20℃未満)でもよく、好ましくは、RNaseが混在する場合に、複合体形成前の核酸の分解を防止できることから、低温範囲(例えば、4±5℃)であり、さらに好ましくは氷冷条件下(例えば、1~6℃)である。インキュベートの時間は、特に制限されず、下限は、例えば、5分以上、15分以上であり、上限は、特に制限されず、例えば、30分程度のインキュベートにより複合体形成のプラトーに達することができる。前記溶媒は、特に制限されず、例えば、水、生理食塩水、PBS等の緩衝液等の液体が使用できる。また、後者の場合、例えば、エレクトロポレーション法、リポフェクション法等が利用できる。
【0020】
これまで、核酸のDDSとして、例えば、担体にエレクトロポレーション法等により核酸を導入する方法が報告されているが、再現性等の点から、有効な手段は明らかとなっていない。また、そのような理由から、例えば、動物由来エクソソームをDDSに利用する方法において、エクソソーム産生細胞自体を改変するという手法がとられている。これに対して、本発明の核酸用担体は、前記植物果実の小胞が、前述のように、例えば、前記溶媒中で前記核酸を共存させるだけでも、前記小胞と前記核酸との複合体を形成できるため、極めて簡便に、DDSの対象である核酸を前記小胞に保持させることができる。さらに、本発明の核酸用担体によれば、例えば、前記核酸と前記小胞とが複合体を形成することによって、前記小胞のエンドサイトーシスによって細胞の外から細胞内に前記核酸を導入することもできる。
【0021】
前記複合体の形成は、前述のように、例えば、前記溶媒中で前記核酸と前記小胞とを共存させるのみでよく、前記小胞に前記核酸を担持させるために、従来のトランスフェクション方法等は割愛できる。前記トランスフェクション方法としては、例えば、塩化カルシウムを添加するヒートショック法等があげられる。前記ヒートショック法は、例えば、核酸を担持させる担体(例えば、細胞)と核酸との共存下、温度を変化させ、所定時間インキュベートして、元の温度に戻すことで、熱処理を施す方法である。温度の変化は、例えば、相対的に低い温度(変化前の処理温度)から相対的に高い温度(変化後の処理温度)への変化であり、相対的に高い温度でのインキュベート後、相対的に低い温度に戻すことが好ましい。温度変化の幅(変化による温度差)は、例えば、5~45℃であり、変化前の処理温度は、例えば、低温、具体的には、1~10℃であり、変化後の処理温度は、例えば、高温、具体的には40~46℃である。
【0022】
また、本発明の核酸用担体は、例えば、核酸と複合体を形成することで、RNase、酸、アルカリ等による核酸の分解を防止することができる。このため、本発明の核酸用担体は、核酸の分解防止剤ともいえる。
【0023】
前記核酸は、例えば、発現抑制用の核酸試薬である。前記核酸試薬の発現抑制のメカニズムは、特に制限されず、例えば、遺伝子の発現抑制でもタンパク質の発現抑制でもよく、具体的に、遺伝子からの転写の阻害、タンパク質への翻訳の阻害、転写物の分解等があげられる。前記核酸試薬の種類は、何ら制限されず、例えば、siRNA、アンチセンス、shRNA、miRNA、miRNA mimic(例えば、WO2015/099122参照)等があげられる。
【0024】
前記複合体の形成において、前記核酸に対する前記小胞の添加量の割合は、特に制限されず、前記核酸1pmolに対して、例えば、小胞5×104~8×104particles、2×105~5×105particles、2×106~5×106particlesである。
【0025】
本発明の核酸用担体が、前記核酸をデリバリーできる部位は、特に制限されず、例えば、肝臓、腸(直腸、腸管、胃等)、脳、脾臓等があげられる。
【0026】
本発明の核酸用担体は、例えば、医薬品、診断薬および農薬、ならびに、農学、医学、生命科学等の研究ツールとして有用である。
【0027】
(2)本発明のデリバリー型核酸試薬およびその製造方法
本発明のデリバリー型核酸試薬は、前述のように、前記本発明の核酸用担体と前記核酸とを含み、前記核酸用担体と前記核酸とが複合体を形成していることを特徴とする。具体的には、前記本発明の核酸用担体における前記小胞と前記核酸とが複合体を形成している。本発明のデリバリー型核酸試薬(前記複合体)は、前記(1)の記載を援用できる。
【0028】
本発明のデリバリー型核酸試薬の製造方法は、前述のように、前記本発明の核酸用担体と前記核酸とを、前記溶媒中で共存させることにより、前記核酸用担体と前記核酸との複合体を形成させる工程を含む。本発明の製造方法は、前記(1)の記載を援用できる。
【0029】
(3)核酸の投与方法
本発明の核酸の投与方法は、前述のように、前記本発明の核酸用担体と核酸との複合体を形成する工程と、前記複合体を投与する工程とを含むことを特徴とする。本発明は、前記本発明の核酸用担体を使用することが特徴であって、その他の工程および条件等は、何ら制限されない。
【0030】
前記複合体の形成方法は、特に制限されず、例えば、前述のように、前記小胞と前記核酸とを共存させるのみでもよいし、エレクトロポレーション法等を用いてもよい。本発明においては、例えば、簡便に複合体を形成できることから、前者が好ましい。
【0031】
前記複合体の形成工程において、前記小胞と前記核酸との割合は、特に制限されず、例えば、小胞2x108個あたり、核酸50~100pmolである。
【0032】
前記投与の形態は、特に制限されず、例えば、in vivoでもよいし、in vitroでもよい。前記投与がin vitroの場合、投与対象は、例えば、細胞、組織または器官等があげられる。前記投与がin vivoの場合、その投与方法は、特に制限されず、例えば、経口投与、非経口投与があげられる。前記非経口投与は、例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、局所等の投与があげられる。
【0033】
前記投与対象は、例えば、ヒトまたは非ヒト動物があげられ、前記非ヒト動物は、特に制限されず、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ラクダ、ウシ等があげられる。
【0034】
以下、実施例等により、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
アセロラ由来小胞について、核酸用担体としての機能を確認した。キット、試薬および装置等は、その取扱い説明書にしたがって使用した。特に示さない限りは、以降の実施例も、各処理の条件は同様とした。
【0036】
(1)小胞の調製
沖縄産完熟アセロラ果実の果汁8mLを、孔径0.45μmのメンブレンフィルター(商品名Durapore(商標)PVDF Membrane Filter、millipore社)を用いて、ろ過した。得られたろ液8mLを、キット(商品名exoEasy Maxi Kit、QIAGEN社)に供し、前記キットのBuffer XE 400μLを用いた溶出により小胞を分離(単離)し、前記溶出画分を超遠心分離(100,000×g、49,000rpm、70分、4℃)にかけて小胞のペレットを回収した。これを50μLのPBSに懸濁して、小胞画分とした。前記小胞画分を、ナノ粒子解析システム(商品名NanoSight、Malvern社)に供し、前記小胞画分に含まれる小胞の粒度分布を確認した。
【0037】
粒度分布の結果を、
図1のグラフに示す。
図1において、縦軸は、粒子濃度(particles/mL)を示し、横軸は、粒子径(nm)を示す。
図1に示すように、前記小胞画分の小胞濃度は、2.2×10
8particles/mLであり、粒子径は、平均(Mean)208nm、Mode 155nm、SD 108nmであった。
【0038】
(2)複合体の形成
核酸試薬と小胞との複合体の形成を間接的に確認した。
【0039】
核酸試薬は、MMP2をターゲットとするmiRNA mimic(商品名Ambion(商標)miR-340 mimic、Thermo Fisher Scientific社)を使用した。前記miR-340 mimic 200pmolと、前記小胞画分1mLとを混合し、塩化カルシウムを0.1mol/Lとなるように添加し、この混合物を、氷上で30分静置した後、42℃で1分、再度氷上で5分静置するヒートショック法を行った。その後、前記混合物を、超遠心分離して、沈殿画分を回収した。超遠心分離は、小胞は沈殿し、且つ、miRNA mimicが単独では沈殿しない条件(100,000×g、49,000rpm、70分、4℃、以下同様)とした。前記沈殿画分に対して、RNaseを5μg/mLとなるように添加した系と、未添加の系とを準備し、37℃で1時間処理した後、miRNeasy mini kit(商品名、qiagen)を用いてRNAを抽出し、qRT-PCRにより、miR-340 mimicを測定した。この系をbとする。前記qRT-PCRは、スパイクコントロールとして規定量(0.1μmol/L)となるようにスパイクmiRNA(ath-miR-159)を添加して行い、前記スパイクmiRNAも同様に測定した(以下、同様)。
【0040】
前記miR-340 mimicは未添加とし、前記小胞画分1mLに塩化カルシウムを0.1mol/Lとなるように添加し、この混合物を、氷上で30分静置した後、42℃で1分、再度氷上で5分静置するヒートショック法を行った。その後、前記混合物を超遠心分離して沈殿画分を回収し、RNaseを添加した系と未添加の系とを準備し、前記系bと同様に処理して、測定を行った。この系をaとする。
【0041】
前記miR-340 mimic 200pmolと前記小胞画分1mLとを混合し、氷上で30分静置した後、超遠心分離により沈殿画分を回収し、前記沈殿画分に対して、RNaseを添加した系と未添加の系とを準備し、前記系bと同様に処理して、測定を行った。この系は、塩化カルシウム未添加、ヒートショック未処理とした。この系をcとする。
【0042】
前記miR-340 mimic 200pmolとPBS 1mLを混合し、氷上で30分静置した後、この混合物に対して、RNaseを添加した系と未添加の系とを準備し、前記系bと同様に処理して、測定を行った。この系は、前記小胞画分未添加、塩化カルシウム未添加、ヒートショック未処理、超遠心分離未処理とした。この系をdとする。
【0043】
前記miR-340 mimic 200pmolとPBS 1mLを混合し、氷上で30分静置し、超遠心分離して液体画分を除去し、残物に対して、RNaseを添加した系と未添加の系とを準備し、前記系bと同様に処理して、測定を行った。この系は、前記小胞画分未添加、塩化カルシウム未添加、ヒートショック未処理とした。この系をeとする。
【0044】
これらの結果を、
図2に示す。
図2は、miR-340 mimicの増幅量(検出量)を示すグラフである。Y軸は、miR-340 mimicの増幅量の相対値であり、具体的には、それぞれの系について、miR-340 mimicの増幅量を、スパイクコントロールath-miR-159の増幅量(検出量)でノーマライズし、系d(RNase未添加)のノーマライズした値を1とした時の相対値で表した。
図2において、a~eは、それぞれ系a~eの結果であり、左のバーが、RNase未処理の系(RNase-)、右のバーが、RNase処理の系(RNase+)の結果である。
【0045】
図2に示すように、系aは、miR-340 mimic未添加のため、RNase-およびRNase+のいずれにおいても増幅は確認されなかった。系eは、超遠心分離前の混合物に遊離のmiR-340 mimicが含まれるが、前記小胞画分未添加のため、超遠心分離後の前記残分にはmiR-340 mimicが含まれず、増幅は確認されなかった。系dは、超遠心分離を行っていないため、RNase-において、遊離のmiR-340 mimicが含まれ、増幅が確認されたが、RNase+において、RNaseによる遊離のmiR-340 mimicの分解が生じたため、増幅は確認されなかった。これに対して、系bおよび系cは、前記小胞画分の添加により前記小胞と前記miR-340 mimicとを共存させたため、RNase-およびRNase+のいずれにおいても、miR-340 mimicの増幅が確認された。つまり、前記小胞と前記miR-340 mimicとが複合体を形成したことによって、RNaseによる分解を回避できたといえる。また、系cは、系bと同様の挙動を示したことから、例えば、ヒートショック法等を用いることなく、前記小胞と前記miR-340 mimicとを共存させるだけでも、複合体を形成できることがわかった。
【0046】
(3)細胞内への取り込みの確認
FITCで標識した標識miR-340 mimic 50pmolと、前記小胞画分1mLとを混合し、4℃で1時間静置した。この混合物を超遠心分離して、沈殿画分を回収し、50μLのPBS(pH7.2)で懸濁した。この懸濁液を、前記PBSでさらに1/10に希釈し、希釈液を調製した。一方、子宮頸がん由来細胞SiHaをDMEM+10%牛胎仔血清FBS培地で培養し、その培養液500μLに、前記希釈液5μLを添加して、37℃のCO
2インキュベーター内で24時間インキュベートした。培養した後、前記細胞を蛍光顕微鏡で観察した。細胞核は、DAPIにより染色を行った。比較例として、前記小胞画分のみ、または、前記標識miR-340 mimicのみを用いて同様に培養を行い、観察した。これらの結果を
図3に示す。
【0047】
図3は、拡大した蛍光顕微鏡写真であり、白線は、一つの細胞の外形を示す。Aは、小胞のみの結果であり、Bは、小胞と標識miR-340 mimicとを使用した結果であり、Cは、標識miR-340 mimicのみを使用した結果である。
図3において、Aは、細胞の中央に、細胞核を示すDAPIの蛍光は確認されたが、標識miR-340 mimic未添加のため、細胞内に、FITCの蛍光は確認されなかった。Cは、標識miR-340 mimic添加のため、FITCの蛍光は確認されたが、小胞による導入ではないため、その蛍光はまばらであった。これに対して、Bは、細胞内において、小胞形状のFITCの蛍光が確認された。このことから、標識miR-340 mimicが小胞と複合体を形成した状態で、細胞内に取り込まれたことがわかった。
【0048】
(4)in vitroにおけるターゲットへの機能:SiHa
前記miR-340 mimic 50pmolと、前記小胞画分1mLとを混合し、4℃で1時間静置した。この混合物を超遠心分離して、沈殿画分を回収し、50μLのPBS(pH7.2)で懸濁した。この懸濁液を、前記PBSでさらに1/10に希釈し、希釈液を調製した。一方、子宮頸がん由来細胞SiHaをDMEM+10%FBS培地で培養し、その培養液500μLに、前記希釈液5μLを添加して、37℃のCO2インキュベーター内で24時間インキュベートした。培養後の前記細胞を、PBSで洗浄し、前記細胞からRNAを抽出し、qRT-PCRにより、miR-340 mimicを測定した。また、miR-340 mimicのターゲットであるMMP2のmRNAの発現についても測定した。
【0049】
比較として、前記miR-340 mimicを未添加として前記小胞画分のみを使用した系、前記miR-340 mimicに代えて発現抑制能を有さない核酸(nega-miR、Thermo Fisher Scientific社)50pmolを使用した系、前記小胞画分を未添加として前記miR-340 mimicのみを使用した系についても、同様にして解析を行った。
【0050】
これらの結果を
図4に示す。
図4は、MMP2の発現量の相対値を示すグラフであり、Y軸は、MMP2の発現量をハウスキーピング遺伝子であるベータアクチンの発現量でノーマライズした値(相対値)である。
図4において、Acerola MVは、前記小胞画分を意味する(以下、他の図においても同様)。前記(3)の結果と同様に、前記小胞と前記miR-340 mimicとの複合体を使用した系についてのみ、細胞から前記miR-340 mimicが検出された(図示せず)。そして、
図4に示すように、前記小胞と前記miR-340 mimicとの複合体を使用した系(Acelora MV+miR-340 mimic)についてのみ、前記miR-340 mimicのターゲットであるMMP2の発現抑制が確認された。これらの結果から、前記miR-340 mimicは前記小胞と複合体を形成することによって細胞に取り込まれ、ターゲットに対する発現抑制の機能を発揮したことがわかる。
【0051】
(5)in vitroにおけるターゲットへの機能:NHDF
NF-κBを標的遺伝子とする核酸試薬miR-146a mimic(商品名Ambion(商標)miR-146a mimic、Thermo Fisher Scientific社) 50pmolと、前記小胞画分1mLとを混合し、4℃で1時間静置した。この混合物を超遠心分離して、前記miR-146a mimicと前記小胞との複合体を含む沈殿画分を回収し、50μLのPBS(pH7.2)で懸濁した。この懸濁液を、前記PBSでさらに1/10に希釈し、希釈液を調製した。一方、ヒト正常皮膚繊維芽細胞NHDFを、前記(4)と同様にDMEM+10%FBS培地で培養し、その培養液500μLに、前記希釈液5μLを添加して、37℃のCO2インキュベーター内で24時間インキュベートした。培養後の前記細胞を、PBSで洗浄し、前記細胞からRNAを抽出し、qRT-PCRにより、miR-146a mimicを測定した(ADENs+miR-146a mimic)。また、miR-340 mimicのターゲットであるNF-κBのmRNAの発現についても測定した。
【0052】
あわせて、前記miR-146a mimic未添加として前記小胞画分のみを使用した系(ADENs)、前記miR-146a mimicに代えて発現抑制能を有さない核酸(nega-miR、Thermo Fisher Scientific社)を使用した系(ADENs+nega-miR)、前記小胞画分未添加として前記miR-146a mimicの系(miR-146a mimic)についても、同様に測定した。
【0053】
これらの結果を
図5に示す。
図5は、NF-κBの発現量の相対値を示すグラフであり、Y軸は、NF-κBの発現量をハウスキーピング遺伝子であるベータアクチンの発現量でノーマライズした値(相対値)である。前記(4)のSiHaの結果と同様に、前記小胞と前記miR-146a mimicとの複合体を使用した系についてのみ、細胞から前記miR-146a mimicが検出された(図示せず)。そして、
図5に示すように、前記小胞と前記miR-146a mimicとの複合体を使用した系(ADENs+miR-146a mimic)についてのみ、前記miR-146a mimicのターゲットであるNF-κBの発現抑制が確認された。これらの結果から、前記miR-146a mimicは前記小胞と複合体を形成することによって細胞に取り込まれ、ターゲットに対する発現抑制の機能を発揮したことがわかる。また、前記(4)およびこの(5)の結果から、前記小胞によれば、核酸試薬の種類、細胞の種類に関わらず、核酸試薬との複合体を形成して、細胞内への核酸試薬の導入が可能であることが確認できた。
【0054】
(実施例2)
アセロラ由来小胞として、前記実施例1の小胞画分を使用し、前記小胞について、核酸用担体としての機能を確認した。特に示さない限り、前記実施例1と同様の条件とした。
【0055】
(1) 前記小胞画分1mLと前記核酸試薬(miR-340 mimic)200pmolとを混合し、塩化カルシウムを添加し、この混合物を、氷上で30分静置した後、ヒートショック法を行った。その後、前記混合物を、超遠心分離(100,000×g、49,000rpm、70分、4℃)して、得られた沈殿画分からRNAを抽出し、qRT-PCRによりmiR-340 mimicを測定した。この系(塩化カルシウム(+)/氷冷(+)/ヒートショック(+))とあわせて、条件を変更した以下の系についても同様に測定を行った。
塩化カルシウム(+)/氷冷(+)/ヒートショック(+)
塩化カルシウム(-)/氷冷(+)/ヒートショック(+)
塩化カルシウム(-)/氷冷(+)/ヒートショック(-)
【0056】
これらの結果を、
図6に示す。
図6は、各系におけるmiR-340 mimicの増幅量(検出量)を示すグラフである。Y軸は、miR-340 mimicの増幅量の相対値であり、具体的には、それぞれの系について、miR-340 mimicの増幅量を前記実施例1と同様にノーマライズし、塩化カルシウム(+)/氷冷(+)/ヒートショック(+)/の系のノーマライズした値を1とした時の相対値で表した。
図6に示すように、塩化カルシウム未添加でヒートショック処理を行った場合でも、超遠心分離後の沈殿画分から回収したRNAについて、miR-340 mimicの増幅がみられ、さらに塩化カルシウム未添加でヒートショック処理を行わない場合、より高い相対値が得られた。このことから、miR-340 mimicと小胞との複合体の形成は、両者を共存させるのみで行えることがわかった。
【0057】
(2) 前記核酸試薬miR-340 mimic 200pmolと、前記小胞画分1mLとを混合し、この混合物を、氷上で30分静置した後(氷冷)、超遠心分離(UC、100,000×g、49,000rpm、70分、4℃)して、沈殿画分を回収した。前記沈殿画分からRNAを抽出し、qRT-PCRにより、miR-340 mimicを測定した。なお、塩化カルシウム無添加、ヒートショック未処理とした。この系(小胞(+)/miRNA mimic(+)/氷冷(+)/UC(+))と合わせて、条件を変更した以下の系についても測定を行った。小胞(-)は、前記小胞画分に代えてPBS 1mLを使用し、miRNA mimic(-)は、前記miR-340 mimic未添加とし前記小胞画分のみを使用し、UC(-)は、超遠心分離を行うことなく、氷冷後にRNAを抽出した系である。
小胞(+)/miRNA mimic(+)/氷冷(+)/UC(+)
小胞(+)/miRNA mimic(+)/氷冷(+)/UC(-)
小胞(+)/miRNA mimic(-)/氷冷(+)/UC(+)
小胞(+)/miRNA mimic(-)/氷冷(+)/UC(-)
小胞(-)/miRNA mimic(+)/氷冷(+)/UC(+)
小胞(-)/miRNA mimic(+)/氷冷(+)/UC(-)
【0058】
これらの結果を、
図7に示す。
図7は、各系におけるmiR-340 mimicの増幅量(検出量)を示すグラフである。Y軸は、miR-340 mimicの増幅量の相対値であり、具体的には、それぞれの系について、miR-340 mimicの増幅量を前記実施例1と同様にノーマライズし、小胞(-)/miRNA mimic(+)/氷冷(+)/UC(-)の系のノーマライズした値を1とした時の相対値で表した。
図7において、ADENsは、前記実施例1の小胞画分、すなわちアセロラ由来エクソソーム様小胞(acerola derived exosome like nanoperticles)を意味する(以下、他の図においても同様)。
図7に示すように、miRNA mimicを未添加の系(小胞(+)/miRNA mimic(-))は、超遠心分離の有無(UC(+)or(-))に関わらず、miR-340 mimicの増幅がみられなかった。小胞画分未添加の系(小胞(-)/miRNA mimic(+)は、超遠心未処理(UC(-))の場合、miR-340 mimicの増幅がみられたが、超遠心処理(UC(+))の場合、miR-340 mimicの増幅がみられなかった。一方、小胞画分とmiRNA mimicとを添加した系(小胞(+)/miRNA mimic(+))は、超遠心未処理(UC(-))と比較して、若干低下したものの、超遠心処理を行っても(UC(+))、miR-340 mimicの増幅が確認できた。前記超遠心分離の条件では、miRNA mimicは単独では沈殿できないことから、前記小胞画分との共存により、超遠心分離により得られた沈殿画分でmiRNA mimicの増幅がみられるということは、miRNA mimicが小胞と複合体を形成していることを意味する。
【0059】
(3) 前記(1)の塩化カルシウム(-)/氷冷(+)/ヒートショック(-)について、氷冷での静置時間を変化させて、同様に測定を行った。また、あわせて、塩化カルシウム(-)/氷冷(-)/ヒートショック(-)/として、氷冷に代えて室温(25℃)での静置を行い、静置時間を変化させて、同様に測定を行った。
【0060】
これらの結果を、
図8に示す。
図8は、各系におけるmiR-340 mimicの増幅量(検出量)を示すグラフである。Y軸は、miR-340 mimicの増幅量の相対値であり、具体的には、それぞれの系について、miR-340 mimicの増幅量を前記実施例1と同様にノーマライズし、氷冷(+)60分の系のノーマライズした値を1とした時の相対値で表した。
図8に示すように、前記核酸試薬と前記小胞画分とは、氷上の静置でも、室温の静置でも、miR-340 mimicの増幅がみられた。氷上の静置の方が室温静置よりも若干増幅量が高いことから、例えば、氷上の静置によって、前記核酸試薬と前記小胞画分の小胞との複合体形成までの前記核酸試薬の分解がさらに保護されていると考えられる。
【0061】
(4) 前記(1)の塩化カルシウム(-)/氷冷(+)/ヒートショック(-)の系について、前記(1)の前記小胞画分の添加量を相対値1として、1/2、1/10、1/50となるように添加する以外は、同様に測定を行った。
【0062】
これらの結果を、
図9に示す。
図9は、各系におけるmiR-340 mimicの増幅量(検出量)を示すグラフである。Y軸は、miR-340 mimicの増幅量の相対値であり、具体的には、それぞれの系について、miR-340 mimicの増幅量を前記実施例1と同様にノーマライズし、前記小胞画分の添加量相対値1の系のノーマライズした値を1とした時の相対値で表した。
図9に示すように、前記小胞画分の添加量について、濃度依存的に増幅量が増加した。
【0063】
(5) 本実施例は、前記実施例1の小胞画分(2.2×108particles/mL)50μLに、50pmolの核酸試薬(miR-340 mimic)を混合して、混合液中のmiR-340 mimic終濃度を1pmol/μL(1μmol/L)とした。前記混合液を氷冷で30分間インキュベートし、超遠心分離(100,000×g、49,000 rpm、70分、4℃)により、前記小胞と前記miR-340 mimicとの複合体として沈殿画分を回収した。前記沈殿画分からRNAを抽出し、qRT-PCRにより前記miR-340 mimicを測定した。一方、コントロールは、超遠心分離を行わない以外は、同様にして、インキュベート後の前記混合液からRNAを抽出し、前記miR-340 mimicを測定した。そして、測定した増幅量は、前記実施例1と同様にノーマライズし、コントロールのノーマライズした値を100%として、実施例の増幅量の相対値を求めた。その結果、実施例の増幅量の相対値は、60%であった。
【0064】
前記コントロールは、全miR-340 mimicを含む。一方、前記実施例は、超遠心分離によりフリーのmiR-340 mimicが除去されているため、前記複合体を形成しているmiR-340 mimicの増幅量となる。このため、本実施例の条件において、小胞1.1×107particlesにより30pmolのmiR-340 mimicを、複合体として使用できることがわかった。
【0065】
(実施例3)
核酸試薬の耐性に対して、アセロラ由来小胞が与える効果を確認した。特に示さない限り、前記実施例1または実施例2と同様の条件とした。
【0066】
実施例3は、前記実施例2(2)と同様にして、前記核酸試薬miR-340 mimicと前記小胞画分とを混合し、氷上で30分静置した後、前記塩化カルシウム処理および前記ヒートショック処理を行うことなく、前記混合物を超遠心分離し、沈殿画分を回収した。前記沈殿画分に対して、核酸にダメージを与える各種ダメージ試薬(RNase、HCl、またはNaOH)を添加して、所定条件で処理した後、RNAを抽出し、qRT-PCRにより、miR-340 mimicを測定した。実施例のコントロールは、前記各種ダメージ試薬無添加でRNAを抽出し、同様に測定を行った。
【0067】
前記試薬は、RNase、HCl、NaOHを使用した。前記RNaseは、前記沈殿画分に5μg/mLとなるように添加して、37℃で1時間処理した後、RNAを抽出した。前記HClは、前記沈殿画分に1×10-2mol/L(pH2)となるように添加して、37℃で1時間処理した後、RNAを抽出した。前記NaOHは、前記沈殿画分に1×10-2mol/L(pH10)となるように添加して、37℃で1時間処理した後、RNAを抽出した。
【0068】
また、比較例は、前記核酸試薬miR-340 mimicに、前記小胞画分を添加することなく、前記各種試薬(RNase、HCl、またはNaOH)を添加して、所定条件で処理した後、RNAを抽出し、qRT-PCRにより、miR-340 mimicを測定した。前記各種試薬は、前記実施例において前記沈殿画分に添加したのと同じ量を前記核酸試薬に添加し、処理条件は同様とした。比較例のコントロールは、前記各種ダメージ試薬無添加でRNAを抽出し、同様に測定を行った。
【0069】
これらの結果を、
図10に示す。
図10(A)は、実施例におけるmiR-340 mimicの増幅量(検出量)を示すグラフであり、
図10(B)は、比較例におけるmiR-340 mimicの増幅量(検出量)を示すグラフである。それぞれのY軸は、miR-340 mimicの増幅量の相対値であり、それぞれ、miR-340 mimicの増幅量を前記実施例1と同様にノーマライズし、それぞれのコントールのノーマライズした値を1とした時の相対値で表した。
図10(B)に示すように、前記miR-340 mimic単独の比較例の場合、いずれの試薬(RNase、HCl、またはNaOH)で処理した場合も、miR-340 mimicの増幅量は著しく減少した。一方、
図10(A)に示すように、実施例は、前記miR-340 mimicと前記小胞画分とを共存させることによって、いずれの試薬で処理した場合も、miR-340 mimicの増幅量は、前記比較例のような著しい減少は見られず、コントロールの半分以上の増幅量を維持することができた。この結果から、前記小胞画分の添加によって、前記小胞と前記miR-340 mimicとが複合体を形成することで、各種ダメージ試薬による前記miR-340 mimicの分解を抑制できることがわかった。
【0070】
(実施例4)
ルシフェラーゼ遺伝子をターゲットとするluc siRNA(商品名ジーンデザイン社、anti-luc siRNA)50pmolと、前記実施例1の小胞画分1mLとを混合し、4℃で1時間静置した。この混合物を超遠心分離して、沈殿画分を回収し、50μLのPBS(pH7.2)で懸濁した。一方、luc強制発現細胞(3LL-luc、JCRB細胞バンクより入手しluciferase遺伝子を導入)を、ウェルプレートのDMEM+10%FBS培地で培養し、その培養液500μLに、前記懸濁液5μLを添加して、37℃のCO2インキュベーター内で24時間インキュベートした。培養後の前記細胞について、ルシフェラーゼ活性を測定した。前記細胞のルシフェラーゼ活性の測定は、以下のようにして行った。100μLのBio-Glo reagent(商品名、プロメガ社)を培養後の培養液に添加し、暗所にて室温で15分静置した。その後、ルミノメーター(テカン社)を用いてルシフェラーゼ活性を測定した。あわせて、別のウェルプレートで上記と同条件で培養した細胞について、CellTiter-Glo 2.0 assay(商品名、プロメガ社)にて細胞数を測定した。また、コントロールとして、luc siRNA(-)/小胞(+)の系、luc siRNA(+)/小胞(-)の系も同様にルシフェラーゼ活性および細胞数の測定を行った。
【0071】
これらの結果を、
図11に示す。
図11は、ルシフェラーゼ活性を示すグラフであり、Y軸は、細胞数でノーマライズしたルシフェラーゼ活性を示す。図において、*は、P<0.05を示す。
図11に示すように、前記小胞画分と前記siRNAとを併用した場合に、ルシフェラーゼ活性が有意に減少した。
【0072】
(実施例5)
アセロラ由来の小胞のin vivoでのDDS効果を確認した。
【0073】
(1) 小胞の投与
前記実施例1の小胞画分(2.2×108particles/mL)2mLを、蛍光性細胞膜染色色素であるPKH26で処理し、前記画分に含まれる小胞を蛍光標識化した。前記PKH26で処理した小胞画分は、超遠心分離(条件100,000×g、49,000rpm、70分、4℃)に供して、前記蛍光標識化した小胞を含む沈殿画分を回収し、その全量を200μLのPBSに懸濁した。前記蛍光標識化小胞の懸濁液の全量を、胃ゾンデを用いて、複数の野生型マウス(メス、8週齢、C57/BL)に経口投与した。そして、経時的に(1時間、3時間、6時間)、in vivo蛍光の検出機器(商品名IVIS、住商ファーマインターナショナル社)で、マウス個体について、蛍光シグナルの検出を行った。
【0074】
図12に、マウスの各臓器における蛍光シグナルを示すイメージングの概略図を示し、
図12においては、蛍光シグナルのイメージング画像において、特に顕著な蛍光シグナルを示した部位を示す。
図12において、星印は蛍光シグナルが確認されたことを意味し、その大きさは蛍光シグナルの相対的な大きさを示し、その数は、各臓器における蛍光シグナルの分布の広さを示す。
図12は、投与1時間後の結果であり、網掛けで示した領域が、蛍光を示した領域である。
図12に示すように、各領域(脳、肝臓、胃、腸管、膀胱)で蛍光シグナルが確認され、投与から1時間以内に、前記各領域に標識化小胞がデリバリーされていることがわかった。さらに時間が経過すると、蛍光シグナルは減衰したが、投与6時間後でも、限局的に直腸で蛍光シグナルが確認できた。
【0075】
(2) 小胞による核酸試薬のデリバリー
前記核酸試薬であるシロイヌナズナmiRNA(ath-miR-159) 200pmolと、前記小胞画分2mLとを混合し、この混合物を、氷上で30分静置した後(氷冷)、全量を、前記(1)と同様にマウスに経口投与した。経口投与から1時間後、マウスから各臓器を摘出し、RNAを抽出し、qRT-PCRにより、各臓器におけるath-miR-159の検出を行った。また、コントロールとして、前記ath-miR-159のみを投与したマウスについても、同様に検出を行った。
【0076】
これらの結果を
図13に示す。
図13は、各臓器におけるath-miR-159の増幅量(検出量)の相対値を示すグラフであり、Y軸は、前記ath-miR-159の増幅量を内在性コントロールsmall RNAであるRNU6Bの増幅量(検出量)でノーマライズした値(相対値)である。
図13に示すように、前記ath-miR-159のみを投与したマウスは、いずれの臓器においてもath-miR-159が検出限界以下であり、検出できなかった(undetecet, UD)。一方、前記複合体を投与したマウスは、前記(1)で蛍光シグナルが強く確認された臓器(肝臓、小腸等の腸管)において、同様に前記ath-miR159の発現が確認された。また、その他に、腎臓、および脾臓においても前記ath-miR159が確認された。
【0077】
(3) デリバリーされた核酸試薬の機能の発現
前記(2)において、前記小胞が核酸試薬をin vivoでデリバリーできることが確認できたため、デリバリーされた核酸試薬が、デリバリーされた部位で機能しているか否かを確認した。
【0078】
前記核酸試薬として、前記実施例4と同じluc siRNAを使用した以外は、前記(2)と同様にして、前記核酸試薬と前記小胞画分とを混合し、30分間氷冷した後、全量をマウスに経口投与した。前記マウスは、ルシフェラーゼトランスジェニックマウス(luc-Tg/C57BL/6J、12周齢)を使用した。そして、投与から1時間後、前記(1)と同様に検出機器(商品名IVIS)で、マウス個体、解剖後の各臓器におけるルシフェラーゼ活性を測定した(ADENs+luc siRNA)。コントロールは、PBSのみを経口投与し、同様にしてルシフェラーゼ活性を測定した(Control)。
【0079】
これらの結果を
図14に示す。
図14(A)は、解剖前のマウス個体全体の輝度(Flux)を示すグラフであり、
図14(B)は、摘出した臓器(脳、肺、肝臓、腎臓、脾臓、腸、膀胱を含む卵巣領域)の輝度の合計を示すグラフである。各グラフにおいて、Y軸は、輝度(Flux、単位×10
8p/s)を示す。
図14(A)および(B)に示すように、ルシフェラーゼ活性を示す輝度は、前記複合体を投与したマウスは、コントロールと比較して、有意に低下した。また、前記(B)は、前記(2)で核酸試薬のデリバリーが確認された臓器における輝度の合計である。このため、複合体を投与した結果(ADENs+luc siRNA)について、前記(A)のマウス個体の輝度と前記(B)の臓器の合計輝度とを比較した結果、それぞれのコントロールに対する輝度は、前記(B)において著しい減少が確認された。この結果から、前記複合体を形成することによって、前記核酸が各臓器にデリバリーされ、ルシフェラーゼの発現を抑制したことがわかった。
【0080】
(実施例6)
レモン果実およびグレーフルーツ果実由来の小胞を単離した。
【0081】
前記実施例1と同様の方法により、レモン完熟果実から搾汁した果汁およびグレープフルーツ完熟果実から搾汁した果汁を用いて、それぞれの小胞画分を調製し、前記小胞画分に含まれる小胞の粒度分布を確認した。レモン由来の小胞画分の小胞濃度は、1.84×1011particles/mLであった、粒子径は、平均(Mean)113.7nm、Mode 79.1nm、SD 66.8nmであった。グレープフルーツ由来の小胞画分の小胞濃度は、7.37×1012particles/mLであり、粒子径は、平均(Mean)95.7nm、Mode 61.9nm、SD 30.5nmであった。
【0082】
核酸試薬の耐性に対して、前記レモン由来小胞または前記グレープフルーツ由来小胞が与える効果を確認した。具体的には、アセロラ由来の小胞画分に代えて、前記レモン由来の小胞画分および前記グレープフルーツ由来の小胞画分を使用した以外は、前記実施例3と同様にして、前記核酸試薬miR-340 mimicの測定を行った。この実施例のコントロールは、実施例3のコントロールと同様に、前記各種ダメージ試薬無添加とした以外は、同様に測定を行った。
【0083】
また、前記レモン由来小胞または前記グレープフルーツ由来小胞を用いた実施例に対する比較例は、前記実施例3に対する比較例(
図10(B)参照)を使用した。
【0084】
これらの結果を、
図15に示す。
図15(A)は、前記レモン由来の小胞画分を使用した実施例におけるmiR-340 mimicの増幅量(検出量)を示すグラフであり、
図15(B)は、前記グレープフルーツ由来の小胞画分を使用した実施例におけるmiR-340 mimicの増幅量(検出量)を示すグラフである。それぞれのY軸は、miR-340 mimicの増幅量の相対値であり、それぞれ、miR-340 mimicの増幅量を前記実施例1と同様にノーマライズし、それぞれのコントールのノーマライズした値を1とした時の相対値で表した。
【0085】
前述の
図10(B)に示すように、前記miR-340 mimic単独の比較例の場合、いずれの試薬(RNase、HCl、またはNaOH)で処理した場合も、miR-340 mimicの増幅量は著しく減少した。一方、
図15(A)に示すように、実施例は、前記miR-340 mimicと前記レモン由来の小胞画分とを共存させることによって、いずれの試薬で処理した場合も、miR-340 mimicの増幅量は、前記比較例のような著しい減少は見られず、コントロールの半分以上の増幅量を維持することができた。また、
図15(B)に示すように、前記グレープフルーツ由来の小胞画分を使用した実施例も、同様であった。これらの結果から、前記小胞画分の添加によって、前記小胞と前記miR-340 mimicとが複合体を形成することで、各種ダメージ試薬による前記miR-340 mimicの分解を抑制できることがわかった。
【0086】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【0087】
この出願は、2019年7月5日に出願された日本出願特願2019-126172を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の核酸用担体によれば、例えば、容易に核酸を保持させ、さらに保持した核酸を細胞内に導入できる。このため、本発明は、例えば、遺伝子治療等の医療分野において、非常に有用といえる。