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  • 特許-ORC発電装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】ORC発電装置
(51)【国際特許分類】
   F01K 25/10 20060101AFI20241114BHJP
   F01D 15/10 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
F01K25/10 Z
F01D15/10 B
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2023032399
(22)【出願日】2023-03-03
(65)【公開番号】P2024124613
(43)【公開日】2024-09-13
【審査請求日】2023-03-03
【審判番号】
【審判請求日】2024-02-14
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518282152
【氏名又は名称】株式会社馬渕工業所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 聡
(72)【発明者】
【氏名】小野 寿光
(72)【発明者】
【氏名】相澤 直信
【合議体】
【審判長】河端 賢
【審判官】倉橋 紀夫
【審判官】山本 信平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-41608(JP,A)
【文献】特開2014-190277(JP,A)
【文献】特開2014-47638(JP,A)
【文献】特開昭61-35122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01K 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝縮された作動媒体を送出するポンプと、
前記ポンプからの前記作動媒体を熱源との熱交換により蒸発させる蒸発器と、
前記蒸発器により蒸発した蒸気で駆動される膨張機と、
前記膨張機で膨張した蒸気を凝縮して前記ポンプにより送出可能とする凝縮器と、
前記膨張機の出力軸に入力軸が連結された発電機と、
前記発電機の出力電圧に基づいて該発電機の出力電流を調整するトルク制御部と
を備えるORC発電装置であって
記発電機は、入力軸が前記膨張機の出力軸に連結され、該発電機の定格運転時のトルクが、該膨張機の定格運転時のトルクに一致するように設計され、
前記トルク制御部は、前記発電機の回転数に対応する出力電圧に基づき、該発電機のトルクに対応する電流を制御して、負荷の変動により該発電機が定格運転状態から逸脱するのを防止することを特徴とするORC発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーガニック・ランキン・サイクルを利用したORC発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高温の熱源(例えば地熱、産業排熱、太陽熱、バイオマス等)から熱を取り出し、有機媒体を沸騰させ、その蒸気でタービン(膨張機)を回して発電を行うとともに、蒸気を熱交換器を介して冷却して再び液体に戻し、これをポンプで再び熱交換器に送り、熱交換器を介して加熱して蒸気に戻すオーガニック・ランキン・サイクルを用いたORC発電が知られている。この例として、例えば、特許文献1に記載された電力回生型ランキンサイクルシステムを挙げることができる。
【0003】
特許文献1のシステムでは、加熱流体の熱量と、安定して効率良く電動発電機が電力を得られる電動発電機の回転数との関係を示す目標回転数マップに、蒸発器に入力される加熱流体の熱量を入力して得られる回転数を電動発電機の目標回転数として電動発電機のトルクがフィードバック制御される。これにより、安定して効率良く電力が得られる回転数で膨張機を回転することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2022-152029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のシステムによれば、目標回転数マップに蒸発器に入力される加熱流体の熱量を入力して得られる回転数を電動発電機の目標回転数として電動発電機のトルクをフィードバック制御する必要があるので、システムが複雑である。
【0006】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題に鑑み、効率よく発電ができる簡便なORC発電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のORC発電装置は、
凝縮された作動媒体を送出するポンプと、
前記ポンプからの前記作動媒体を熱源との熱交換により蒸発させる蒸発器と、
前記蒸発器により蒸発した蒸気で駆動される膨張機と、
前記膨張機で膨張した蒸気を凝縮して前記ポンプにより送出可能とする凝縮器と、
前記膨張機の出力軸に入力軸が連結された発電機と、
前記発電機の出力電圧に基づいて該発電機の出力電流を調整するトルク制御部と
を備えるORC発電装置であって
記発電機は、入力軸が前記膨張機の出力軸に連結され、該発電機の定格運転時のトルクが、該膨張機の定格運転時のトルクに一致するように設計され、
前記トルク制御部は、前記発電機の回転数に対応する出力電圧に基づき、該発電機のトルクに対応する電流を制御して、負荷の変動により該発電機が定格運転状態から逸脱するのを防止することを特徴とする。
【0008】
(1)本発明によれば、膨張機の出力軸に発電機の入力軸が連結されており、発電機の定格運転時のトルクが、膨張機の定格運転時のトルクに一致するので、膨張機から発生する回転トルクを最大限に利用することができる。このため、発電機の出力を最大化し、高い発電効率を実現することができる。
【0009】
また、上記のように発電機と膨張機が適切にマッチングされているため、負荷変動などの状況下でも、発電機の出力電圧に応じてトルク(電流)を調整するだけで、発電機の安定した運転を維持し、装置の信頼性を向上させることができる。また、発電機と膨張機のトルクが一致するため、機械的な負荷を最小限に抑え、装置の安定性を向上させることができる。さらに、発電機と膨張器との適切なマッチングにより、必要な発電機のサイズを最小限に抑え、装置のコストを削減することができる。
【0010】
(2)本発明において、前記発電機の定格運転時のトルクは、該発電機の効率が最も高く
なるときのトルクであり、定格運転に至るまでは定トルクであってもよい。これによれば、定格運転時には、発電機の効率が最も高くなるので、発電機は最大限の電力を発生し、エネルギー損失を最小限に抑えることができる。
【0011】
(3)本発明において、前記発電機の出力電圧に基づいて該発電機の出力電流を調整するトルク制御部を備えてもよい。これによれば、出力電圧が回転数に対応し、出力電流がトルクに対応するので、トルク制御部により出力電圧を監視し、必要に応じて出力電流を調整することにより、発電機が定格運転状態から外れるのを確実に防止し、さらに発電機の安定した運転を維持し、装置の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るORC発電装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るORC発電装置の構成を示す。
【0014】
図1に示すように、ORC発電装置は、作動媒体を貯留するタンク1と、タンク1に貯留された媒体を送出するポンプ2と、ポンプ2により送出される作動媒体を熱源との熱交換により蒸発させる蒸発器3と、蒸発器3により蒸発した作動媒体で駆動される膨張機4と、膨張機4で膨張した作動媒体を凝縮してタンク1に戻す凝縮器5と、膨張機4の出力軸に入力軸が連結された発電機6とを備える。
【0015】
ORC発電装置の作動媒体としては、有機フロン類や、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの有機化合物が用いられる。ORC発電装置に適用される熱源7としては、工業プロセスからの廃熱、太陽熱、地熱、バイオマス燃料などの低温熱源を使用することができる。蒸発器3は、熱源7から得た熱を液状の作動媒体に伝え、液体の状態から蒸気の状態に変換する機能を有する。
【0016】
膨張機4は、高圧状態の作動媒体を膨張させ、低圧状態にすることによって作動媒体が放出するエネルギーでタービンを回転させる機能を有する。このような容積型膨張機には何種類かが知られており、大規模な発電の場合には蒸気タービンが用いられ、20~50kWの中規模発電の場合にはスクリュー式膨張機が用いられるが、10kW未満の小規模発電や低温熱源からの発電の場合には、高効率で低振動、かつ比較的小型なスクロール方式の膨張器が好ましく用いられる。
【0017】
凝縮器5は、膨張機4のタービンが排出する低温の作動媒体の蒸気を液体状態に戻す機能を有する。凝縮器5としては、装置が小規模の場合には空冷式、大規模の場合には水冷式のものが好ましく用いられる。
【0018】
発電機6は、その定格運転時のトルクが、膨張機4の定格運転時のトルクに一致するように設計される。発電機6の定格運転時のトルクは、発電機6の効率が最も高くなるときのトルクである。
【0019】
また、OCR発電装置は、発電機6の出力電圧Vに基づいて発電機6の出力電流Iを調整するトルク制御部8と、作動媒体の流量を制御するシステム制御部9と、発電機6が発電する電力を蓄えるリチウムイオン電池10とを備える。トルク制御部8は、発電機6の出力側に接続する負荷を変更することによって発電機6に流れる電流値Iを調整する。
【0020】
ポンプ2が送出する作動媒体の流量は、ポンプ2の回転数に比例し、ポンプ2はモータにより駆動される。システム制御部9は、このモータの回転数を、常に作動媒体の流量が最大となるように、インバータ11を介して制御する。
【0021】
発電機6の設計に際しては、上述のように、膨張機4のトルクに発電機6のトルクが一致するように設計されるが、その際、まず、発電機6を接続せずに、膨張機4を駆動させる。膨張機4に流れる作動媒体の質量流量が決まると、膨張機4の回転数が決まる。そして、膨張機4の入口と出口における作動媒体の圧力差に応じて、膨張機4が使える作動媒体の理論断熱熱落差が決まる。
【0022】
この理論断熱熱落差に膨張機4の効率を乗ずることにより、実際に得られる膨張機4の回転エネルギーすなわち軸駆動力が決まる。この軸駆動力は、回転数及びトルクに比例するので、膨張機4のトルクを計算値として求めることができる。
【0023】
したがって、膨張機4と発電機6の回転数は一致するので、この膨張機4の計算されたトルクに発電機6のトルクが一致するように、発電機6が設計される。また、発電機6は定格運転までは定トルクになるように設計される。
【0024】
また、発電機6のトルクは、発電機6に流れる電流に比例するが、電流が増えると発熱による熱損失によって効率が低下する。また、コイルの巻数は電圧に寄与する。また、線径と巻数との間には最適な関係がある。これらをも考慮して発電機6の設計が行われる。これにより、膨張機4の回転数とトルクの関係に対して、発電機6の効率が最高効率になる発電機6の回転数とトルクの相関関係を合致させることができる。
【0025】
この構成において、ORC発電装置の稼働時には、システム制御部9からの指示に応じて、ポンプ2が、タンク1から作動媒体を蒸発器3に送る。蒸発器3は、送られた液体状態の作動媒体を、熱源7との熱交換により蒸気の状態に変換し、膨張機4に送る。
【0026】
膨張機4は、この高温高圧状態の作動媒体を受け取り、膨張させ、その膨張力を回転力に変換し、膨張機4の出力軸を回転させる。凝縮器5は、膨張機4で膨張した蒸気状態の作動媒体を冷却して凝縮し、タンク1に戻す。
【0027】
一方、膨張機4の出力軸に入力軸が連結された発電機6では、そのロータが膨張機4の出力軸と同じ回転速度で回転され、発電が行われる。このとき、膨張機4及び発電機6が定格運転状態にある場合には、膨張機4のトルクと発電機6のトルクとが一致しているので、発電機6は、膨張機4が発生する回転トルクを最大限に利用し、高い発電効率で発電を行う。
【0028】
この間、トルク制御部8は、発電機6の回転数に対応する出力電圧Vに基づき、発電機6のトルクに対応する電流Iを制御して、負荷の変動などにより発電機6が定格運転状態から逸脱するのを防止する。これにより、発電機6による発電が、常に高い発電効率で行われる。発電機6の発電により得られる電力は、リチウムイオン電池10に蓄えられるとともに、他の負荷に供給される。
【0029】
以上のように、本実施形態によれば、発電機6の定格運転時のトルクが、膨張機4の定格運転時のトルクに一致するので、膨張機4から発生する回転トルクを最大限に利用することができる。これにより、発電機6の出力を最大化し、高い発電効率を実現することができる。
【0030】
また、発電機6と膨張機4における回転数とトルクの関係が適切にマッチングされているため、負荷変動などの状況下でも、トルク制御部8による発電機6の電圧Vに基づく電流Iの制御により定格運転状態を容易に維持し、発電機の安定した運転を維持することができる。これにより、ORC発電装置の信頼性を向上させることができる。
【0031】
また、発電機6と膨張機4のトルクが一致していることから、トルク制御部8により電圧Vをモニタするだけの簡単な制御により、機械的な負荷を最小限に抑え、装置の安定性を向上させることができる。さらに、このような発電機6と膨張機4との適切なマッチングにより、必要な発電機6のサイズを最小限に抑え、ORC発電装置のコストを削減することができる。
【0032】
特に、上述の特許文献1に開示された電力回生型ランキンサイクルシステムにおけるような、推定トルクマップや目標回転数マップ、トルクのフィードバック制御が不要となるので、装置構成や制御方法を簡便なものとすることができる。
【符号の説明】
【0033】
1…タンク、2…ポンプ、3…蒸発器、4…膨張機、5…凝縮器、6…発電機、7…熱源、8…トルク制御部、9…システム制御部、10…リチウムイオン電池、11…インバータ。
図1