(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】PMAS方法を利用したパーソナライズ腸内環境改善物質スクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/06 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
C12Q1/06
(21)【出願番号】P 2023071270
(22)【出願日】2023-04-25
(62)【分割の表示】P 2022513541の分割
【原出願日】2020-01-31
【審査請求日】2023-05-16
(31)【優先権主張番号】10-2019-0107146
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522074556
【氏名又は名称】エイチイエム ファーマ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】パク,ソ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ジ,ヨ セフ
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-288272(JP,A)
【文献】特表2015-520176(JP,A)
【文献】特表2009-542245(JP,A)
【文献】特表2019-516775(JP,A)
【文献】Utilization of amino acids and peptides by Fusobacterium nucleatum,Scand J Dent Res.,Vol. 97,1989年,p.43- 53
【文献】便秘診療の最前線,日本消化器病学会雑誌,2018年,Vol. 115, No. 11,p. 940-949
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)個体から得られた試料を
腸内環境改善物質スクリーニング用組成物と混合するステップと、
(b)前記ステップ(a)の混合物に1つ以上の腸内環境改善候補物質を処理し、培養するステップと、
(c)前記ステップ(b)の培養物を分析するステップと
を含
み、
前記腸内環境改善物質スクリーニング用組成物は、L-システインを含むとともに、L-システイン及びムチンを除いた炭水化物及びタンパク質を含まないことを特徴とする、腸内環境改善物質スクリーニング方法。
【請求項2】
前記腸内環境改善物質スクリーニング用組成物は、ムチンをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の腸内環境改善物質スクリーニング方法。
【請求項3】
前記方法は、体外(in vitro)条件で行うことを特徴とする、請求項1に記載の腸内環境改善物質スクリーニング方法。
【請求項4】
前記ステップ(b)の培養は、嫌気条件で18時間~24時間行う、請求項1に記載の腸内環境改善物質スクリーニング方法。
【請求項5】
前記ステップ(c)において培養物を分析することは、培養物に含まれた内毒素(endotoxin)、硫化水素(hydrogen sulfide)、短鎖脂肪酸(Short-chain fatty acids、SCFAs)及び腸内細菌叢来由代謝体のうち1つ以上の含量、濃度又は種類を分析する、請求項1に記載の腸内環境改善物質スクリーニング方法。
【請求項6】
前記短鎖脂肪酸は、酢酸(Acetate)、プロピオン酸(Propionate)、酪酸(Butyrate)、イソ酪酸(Isobutyrate)、吉草酸(Valerate)、及びイソ吉草酸(Iso-valerate)からなる群より選択される1つ以上を含む、請求項
5に記載の腸内環境改善物質スクリーニング方法。
【請求項7】
前記ステップ(c)において培養物を分析することは、培養物に含まれた腸内微生物の種類、濃度、含量又は多様性変化を分析する、請求項1に記載の腸内環境改
善物質スクリーニング方法。
【請求項8】
前記方法は、
(d)前記ステップ(c)の分析結果を対照群の分析結果と比較して短鎖脂肪酸の含量を増加させたり、腸内細菌叢内の有益菌の種類及び含量を増加させたり、内毒素及び硫化水素の含量を減少させたり、あるいは腸内細菌叢内の有害菌の種類及び含量を減少させる候補物質を選別するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の腸内環境改
善物質スクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、腸内環境改善物質スクリーニング用組成物、及び上記組成物を利用したスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノム(genome)は、染色体に入っている遺伝子のことを言い、腸内細菌叢(microbiota)は、微生物の菌叢であって、環境中の微生物群集のことを言い、マイクロバイオーム(microbiome)は、環境中の総微生物群集の遺伝体のことを言う。ここで、マイクロバイオーム(microbiome)は、ゲノム(genome)と腸内細菌叢(microbiota)が合わせられたことを意味し得る。
【0003】
腸内細菌叢(microbiota)は、宿主、例えばヒトの免疫、代謝物質などの恒常性の維持に重要な役割をすると知られている。腸内細菌叢と宿主とは化学物質信号をやり取りし、腸内細菌叢による兔疫細胞の発現や神経伝達物質の生成、短鎖脂肪酸(SCFA;Short chain fatty acids)などが宿主内の体系に大きな影響を及ぼす。
【0004】
プロバイオティクス/プレバイオティクスは、宿主の不均衡な腸内細菌叢を均衡化し、それによる健康な腸内細菌叢の代謝産物がホストの健康を増進させる。既存のプロバイオティクスは、一般医薬品と同様に、全てのヒトに同一な菌量(dose)、類似した菌種(species)を与えている。
【0005】
しかし、ヒト毎のマイクロバイオーム類似性(microbiome similarity)は50%未満であり、プロバイオティクスをパーソナライズして与えなければならないという認識と研究が徐々に増えている。
【0006】
そこで、本発明は、パーソナライズでプロバイオティクス又はプレバイオティクスを含む各種の腸内細菌叢の調節及び改善を図る食品や健康機能性食品及び医薬品において個人別の腸内細菌叢適合度を検証できる方法を提案する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願は、腸内環境改善物質スクリーニング用組成物、及び上記組成物を利用したスクリーニング方法、腸内でのバイオマーカー検出を通じた疾病診断のための情報提供方法に関する。
【0008】
しかし、本願が解決しようとする課題は、上記したような課題に限定されるものではなく、言及されていない他の課題は、以下の記載から通常の技術者にとって明確に理解できるはずである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の第1の側面は、L-システイン(L-cystein)を含む、腸内環境改善物質スクリーニング用組成物を提供する。
【0010】
本願の第2の側面は、(a)個体から得られた試料を第1項の組成物と混合するステップと、(b)当該ステップ(a)の混合物に1つ以上の腸内環境改善候補物質を処理し、培養するステップと、(c)当該ステップ(b)の培養物を分析するステップとを含む、腸内環境改善物質スクリーニング方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本願の実施例及び具現例によれば、腸内細菌叢と腸内細菌叢代謝体に基づき、体外条件でパーソナライズプロバイオティクス、プレバイオティクス、食品、健康機能性食品及び医薬品を検証する方法を提供することによって、パーソナライズで腸内細菌叢改善候補効能物質をスクリーニングする有効な分析方法を提供することができる。
【0012】
このような本願に係る方法は、バイオマーカーベースのスクリーニングシステムに適用することができ、パーソナライズされた効果的なスクリーニング方法により、パーソナライズ候補物質を速く検証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】PMAS技法によるパーソナライズプロバイオティクス、プレバイオティクス、食品、健康機能性食品及び医薬品のスクリーニング過程に関する一例示図を示すものである。
【
図2】PMAS技法によるサンプル分析を説明するための一例示図を示すものである。
【
図3】PMAS技法によるサンプル分析結果を解釈するための一例示図を示すものである。
【
図4】PMASの実施後に得られた分析結果を通じてパーソナライズプロバイオティクス、プレバイオティクス、食品、健康機能性食品及び医薬品の候補物質を選別する一例を示すものである。
【
図5】PMAS培地の組成に応じた短鎖脂肪酸含量分析結果を示す図である。
【
図6】PMASの培養時間に応じた短鎖脂肪酸含量分析結果を示す図である。
【
図7】本願のPMAS技法の繰り返し性を示す図である。
【
図8】本願のPMAS技法の臨床結果との同一性を示す図である。
【
図9】本願のPMAS施行時のプレートウェルの構成の一例示図を示すものである。
【
図10】本願のPMAS検査による酪酸量変化分析の一例示図を示すものである。
【
図11】本願のPMAS検査による微生物多様性変化分析の一例示図を示すものである。
【
図12】本願のPMAS検査による微生物構成と酪酸との相関関係分析の一例示図を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願の明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」という場合、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。本願の明細書全体において使用される程度の用語「約」、「実質的に」などは、言及された意味に固有の製造及び物質許容誤差が提示される場合、その数値で、又はその数値に近接した意味として使用され、本願の理解を助けるために正確あるいは絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために使用される。
【0015】
本願の明細書全体において、マーカッシュ形式の表現に含まれた「これらの組み合わせ(たち)」の用語は、マーカッシュ形式の表現に記載された構成要素からなる群より選択される1つ以上の混合又は組み合わせを意味するものであり、上記構成要素からなる群より選択される1つ以上を含むことを意味する。
【0016】
本願の明細書全体において、「A及び/又はB」の記載は、「A又はB、あるいはA及びB」を意味する。
【0017】
以下、添付された図面を参照しながら本願の具現例及び実施例を詳しく説明する。しかし、本願がこのような具現例及び実施例と図面に限定されるものではない。
【0018】
本願の第1の側面は、L-システイン(L-cystein)を含む、腸内環境改善物質スクリーニング用組成物を提供する。
【0019】
本願の一具現例において、上記組成物は、腸内環境を改善できる候補物質を選別するためのものであり、具体的に、腸内環境改善の進行状況を確認して上記候補物質が腸内環境を改善できたか否かを評価する一連の過程で使用される組成物であると理解されても良いが、特にこれに限定されるものではない。
【0020】
本願の一具現例において、上記組成物は、ユーザ個人の内臓環境を体外で同一/類似に形成(mimicking)するための組成物であり、上記組成物を利用すれば体外条件においても候補物質の腸内環境改善有無を正確で且つ効率的に確認することができるので、パーソナライズ腸内環境改善物質のスクリーニングに有用に利用することができる。
【0021】
本願の明細書全体において使用される用語「腸内環境改善」は、腸内微生物及び上記微生物の代謝体などの構成を有利に変えるものであって、腸内環境改善により、腸内有益菌及び有益菌の代謝体が増加して、ビタミン合成、消化吸収増進、感染予防及び免疫強化などの効果を表し、有害菌及び有害菌の代謝体などが減少して、腸内腐敗減少、細菌毒素減少及び発癌物質などを減少させることを意味する。また、腸内環境を改善することにより、下痢、便秘及び腸炎などの腸に係わる疾病だけでなく、癌、肥満、糖尿病及び脳に係わる疾病などを予防又は治療することができる。
【0022】
本願の一具現例において、上記腸内環境改善は、腸内細菌叢の微生物多様性の増加、腸内微生物から来由した内毒素及び硫化水素の減少、有益な腸内細菌叢来由代謝体の増加、短鎖脂肪酸の増加又は減少、有益菌の種類及び数の増加、並びに有害菌の種類及び数の減少などからなる群より選択された1つ以上であっても良いが、これに限定されるものではない。
【0023】
本願の明細書全体において使用される用語「L-システイン(L-cystein)」は、アミノ酸類強化剤の1つであって、生体内でグルタチオンの構成成分として代謝に重要な役割をし、フルーツジュースなどの褐変防止及びビタミンCの酸化防止などにも利用される。
【0024】
本願の一具現例において、上記L-システインは、0.001%(w/v)~5%(w/v)の濃度で含まれても良く、具体的に、0.01%(w/v)~0.1%(w/v)の濃度で含まれても良いが、これに限定されるものではない。
【0025】
本願の一具現例において、上記L-システインは、様々な種類の剤形、又は塩の形態で上記腸内環境改善物質スクリーニング用組成物に含まれても良く、具体的に、上記L-システインは、L-システイン塩酸塩であっても良いが、これに限定されるものではない。
【0026】
本願の一具現例において、上記組成物は、ムチン(Mucin)をさらに含んでいても良いが、これに限定されるものではない。
【0027】
本願の明細書全体において使用される用語「ムチン(Mucin)」は、粘膜から分泌される粘液物質であって、粘液素又は粘素とも呼ばれ、顎下腺ムチンがあり、その他には胃粘膜ムチン、小腸ムチンなどがある。ムチンは糖タンパク質の一種であり、実際に腸内微生物が活用できる炭素源及び窒素源となるエネルギー源の1つであると知られている。
【0028】
本願の一具現例において、上記ムチンは、0.01%(w/v)~5%(w/v)の濃度で含まれても良く、具体的に、0.1%(w/v)~1%(w/v)の濃度で含まれても良いが、これに限定されるものではない。
【0029】
本願の一具現例において、上記組成物は、ムチンを除いた栄養物質を含まなくても良く、具体的に、タンパク質及び炭水化物のような窒素源及び/又は炭素源を含まないことを特徴としても良い。
【0030】
本願の一具現例において、上記炭素源及び窒素源となるタンパク質は、トリプトン、ペプトン及び酵母抽出物のうち1つ以上であっても良いが、これに限定されるものではなく、具体的に、トリプトンであっても良い。
【0031】
本願の一具現例において、上記炭素源となる炭水化物は、グルコース、フルクトース、ガラクトースのような単糖類と、マルトース、ラクトースのような二糖類のうち1つ以上であっても良いが、これに限定されるものではなく、具体的に、グルコースであっても良い。
【0032】
本願の一具現例において、上記組成物は、グルコース(Glucose)及びトリプトン(Tryptone)を含まなくても良いが、これに限定されるものではない。
【0033】
本願の一具現例において、上記組成物は、塩化ナトリウム(NaCl)、炭酸ナトリウム(NaHCO3)、KCl(塩化カリウム)、及びヘミン(Hemin)からなる群より選択された1つ以上を含んでいても良く、具体的に、上記塩化ナトリウムは10~100mMの濃度で含まれても良く、上記炭酸ナトリウムは10~100mMの濃度で含まれても良く、上記塩化カリウムは1~30mMの濃度で含まれても良く、上記ヘミンは1×10-6g/L~1×10-4g/Lの濃度で含まれても良いが、これに限定されるものではない。
【0034】
本願の一具現例において、上記組成物は、培養培地組成物であっても良いが、これに限定されるものではない。
【0035】
本願の一具現例において、上記腸内環境改善物質は、プロバイオティクス、プレバイオティクス、食品、健康機能性食品及び医薬品からなる群より選択される1つ以上であっても良いが、これに限定されるものではない。
【0036】
本願の明細書全体において使用される用語「プロバイオティクス(Probiotics)」は、体内に入って健康に良い効果を与える菌を意味し、具体的に、腸に到逹して腸粘膜で生育できるようになったプロバイオティクスは、乳酸を生成して腸内環境を酸性にし、酸性環境に耐えられない有害菌はその数が減少し、酸性で良く生育できる有益菌はさらに増殖して、腸内環境を健康にする。上記プロバイオティクスは、ラクトバシラス(Lactobacillus)、ラクトコッカス(Lactococcus)、エンテロコッカス(Enterococcus)、ストレプトコッカス(Streptococcus)、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)などを含んでいても良いが、これに限定されるものではなく、上記プロバイオティクスは、上記菌株を含む発酵乳、料粒、粉末などの形態に製造されても良い。
【0037】
本願の明細書全体において使用される用語「プレバイオティクス(Prebiotics)」は、有益菌であるプロバイオティクスを活性化させると同時に腸内の悪い有害菌を抑制する成分であり、プロバイオティクスが良く生育できるように腸内環境を造成する役割をする。また、上記プレバイオティクスは、プロバイオティクスの生成のために分解してエネルギー源に活用するエサの役割をするものであり、体内に吸収されない糖類であるため、小腸に吸収されずにそのまま腸まで移動して、乳酸菌のエサになることはもちろん、有害菌まで減少させるといった効果がある。
【0038】
本願の一具現例において、上記組成物は、腸内環境を体外(in vitro)条件で具現することを特徴としても良い。
【0039】
本願の第2の側面は、(a)個体から得られた試料を上記腸内環境改善物質スクリーニング用組成物と混合するステップと、(b)上記ステップ(a)の混合物に1つ以上の腸内環境改善候補物質を処理し、培養するステップと、(c)上記ステップ(b)の培養物を分析するステップとを含む、腸内環境改善物質スクリーニング方法を提供する。本願の第1の側面と重複する内容は、本願の第2の側面の方法にも共に適用される。
【0040】
本願の一具現例において、上記方法は、腸内環境異常による疾病予防及び治療用物質をスクリーニングする方法であっても良い。
【0041】
本願の一具現例において、上記方法は、腸内環境を改善できる候補物質を腸内環境改善が必要な個体から得られた試料に一連の過程を通じて処理した後、腸内環境改善の進行状況を確認して上記候補物質が腸内環境を改善できるか否かを評価する一連の過程として理解されても良いが、特にこれに限定されるものではない。具体的に、上記した腸内環境改善程度を確認して、腸内環境が改善された場合は、上記した候補物質を腸内環境改善物質として判断しても良い。
【0042】
本願の一具現例において、上記方法は、in vitro(体外)条件で行うことを特徴としても良い。
【0043】
本願の明細書全体において使用される用語「個体」は、腸内環境に異常があるか、腸内環境異常による疾病が発病又は発病する可能性があるか、あるいは腸内環境が改善される必要性がある全ての生物体を意味し、具体的な例として、マウス、猿、牛、豚、ミニ豚、家畜、ヒトなどを含む哺乳動物、鳥類、養殖魚類などを制限なしに含んでいても良い。
【0044】
本願の明細書全体において使用される用語「試料」は、上記個体から由来した物質を意味し、具体的に、細胞、小便、糞便などであっても良いが、腸内細菌叢、腸内微生物代謝体、内毒素、短鎖脂肪酸など、腸内に存在する物質を検出できる限り、その種類がこれに限定されるものではない。
【0045】
本願の一具現例において、上記方法は、試料準備過程、試料前処理過程、試料分析過程及びデータ分析過程、導出されたデータを通じてパーソナライズ腸内環境改善物質を選別する過程を含んでいても良いが、これに限定されるものではない。
【0046】
本願の一具現例において、上記方法は、高速スクリーニング方法であっても良く、上記高速は、既存に知られた腸内細菌叢分析方法及び腸内環境分析方法よりも迅速なことを意味し、具体的に、上記高速は、12時間~48時間、より具体的には、18時間~24時間を意味しても良いが、これに限定されるものではない。
【0047】
本願の一具現例において、上記ステップ(b)の培養は、12時間~48時間行っても良く、具体的に、18時間~24時間行っても良いが、これに限定されるものではない。
【0048】
本願の一具現例において、上記方法は、嫌気条件で行われても良く、具体的に、上記方法のステップ(b)の培養は、嫌気条件で行われても良い。
【0049】
本願の一具現例において、上記腸内環境改善候補物質は、プロバイオティクス、プレバイオティクス、食品、健康機能性食品及び医薬品からなる群より選択される1つ以上であっても良いが、これに限定されるものではない。
【0050】
本願の一具現例において、上記ステップ(c)の培養物を分析することは、腸内環境の改善有無を分析することであり、具体的に、培養物に含まれた内毒素(endotoxin)、腸内異常醗酵結果物として硫化水素(hydrogen sulfide)、短鎖脂肪酸(Short-chain fatty acids、SCFAs)及び腸内細菌叢来由代謝体のうち1つ以上の種類、含量及び/又は濃度を分析しても良く、上記試料に候補物質を処理した際に変わる種類、含量及び/又は濃度を分析しても良い。
【0051】
本願の明細書全体において使用される用語「内毒素(endotoxin)」は、細菌の細胞内部から発見される毒性物質であり、タンパク質・多糖類・脂質の複合体からなる抗原などである。
【0052】
本願の一具現例において、上記内毒素は、LPS(Lipopolysaccharide)を含んでいても良いが、これに限定されるものではなく、上記LPSは、具体的に、グラム陰性(Gram negative)、プロ炎症性(Pro-inflammatory)であっても良い。
【0053】
本願の明細書全体において使用される用語「短鎖脂肪酸(short-chain fatty acid:SCFA)」は、炭素数が6以下である短い脂肪酸を意味し、腸内微生物から生成される代表的な代謝産物である。短鎖脂肪酸は、免疫力の増加、腸内リンパ球の安定、インシュリン信号低下、交感神経刺激など、体内に有用な機能を有している。
【0054】
本願の一具現例において、上記短鎖脂肪酸は、ギ酸(Formate)、酢酸(Acetate)、プロピオン酸(Propionate)、酪酸(Butyrate)、イソ酪酸(Isobutyrate)、吉草酸(Valerate)、及びイソ吉草酸(Iso-valerate)からなる群より選択される1つ以上を含んでいても良いが、これに限定されるものではない。
【0055】
本願の一具現例において、上記ステップ(c)の培養物を分析することは、培養物の腸内細菌叢に含まれた菌の種類、含量、濃度及び/又は多様性変化を分析することであっても良いが、これに限定されるものではない。
【0056】
本願の一具現例において、上記腸内細菌叢は、腸内有益菌及び有害菌を含んでいても良く、具体的に、腸内有益菌は、ラクトバシラス(Lactobacillus)とビフィドバクテリウム(Bifidobacteriaum)などを含んでいても良く、腸内有害菌は、プロテオバクテリア(Proteobacteria)及びクロストリジウムディフィシル菌(Clostridium difficile)などを含んでいても良いが、これに限定されるものではない。
【0057】
本願の一具現例において、内毒素(endotoxin)、腸内異常醗酵結果物として硫化水素(hydrogen sulfide)、短鎖脂肪酸(Short-chain fatty acids、SCFAs)及び腸内細菌叢来由代謝体、腸内細菌叢、及び腸内微生物多様性を分析する方法は、吸光度分析法、クロマトグラフィ分析法、次世代シーケンシング方法(Next Generation Sequencing)などの遺伝子分析法、メタゲノム分析法など、通常の技術者が上記分析のために利用可能な様々な分析法を利用しても良い。
【0058】
本願の一具現例において、上記方法は、上記ステップ(c)の分析結果を対照群の分析結果と比較して短鎖脂肪酸の含量を増加させたり、腸内細菌叢内の有益菌の種類及び含量を増加させたり、内毒素及び硫化水素の含量を減少させたり、あるいは腸内細菌叢内の有害菌の種類及び含量を減少させる候補物質を選別するステップをさらに含んでいても良い。
【0059】
本願の明細書全体において使用される用語「対照群」は、腸内環境改善候補物質の処理による腸内環境変化(短鎖脂肪酸、腸内細菌叢、内毒素、硫化水素、腸内微生物代謝体の種類、濃度、及び/又は含量など)と対照できる試料又はデータであれば、その種類がこれに限定されるものではなく、具体的に、何の処理もしていない個体の試料、又はビヒクル、食塩水、DMSOなどの対照物質のみを処理した個体の試料などを含んでいても良いが、これに限定されるものではない。
【0060】
本願の一具現例において、上記方法は、腸内細菌叢、温度、湿度、モーションを含むユーザ個人の内臓環境を体外で同一/類似に形成(mimicking)し、所定個数以上のプロバイオティクス、プレバイオティクス、食品、健康機能性食品及び医薬品候補を並列分析可能であり、これによって、最も効果的なパーソナライズ腸内細菌叢改善候補物質を高速でスクリーニングすることができる。
【0061】
本願の一具現例において、上記方法は、体内腸内微生物環境を最も容易に代表できるヒト及び様々な動物の糞便サンプルを対象に体外(in-vitro)で前処理、腸内細菌叢改善候補物質処理、候補物質の機能性及び行動様式の検証(Verification of functionality and mode of action)を行い、候補物質の結果としてもたらされた腸内細菌叢の分類学的識別(Taxonomic identification)、微生物安全性(Microbial safety)、及び微生物機能性(Microbial functionality)を調べても良く、このように、個人の糞便と特殊培地を含む高速スクリーニング方法(Fast screening method containing individual’s feces and special media)及び糞便来由マイクロバイオーム(microbiome)と代謝物質(metabolites)分析を通じて、効率的なパーソナライズプロバイオティクス、プレバイオティクス、食品、健康機能性食品及び医薬品をスクリーニング(Efficient personalized probiotics screening)しても良い。
【0062】
本願の一具現例において、上記方法は、糞便などの試料を利用してパーソナライズプロバイオティクス、プレバイオティクス、食品、健康機能性食品及び医薬品をスクリーニング(screening)できる方法を提案することをその要旨とする。以下、本願に係る方法をPMAS(Personalized Pharmaceutical Meta-Analysis Screening)と称しながら説明する。
【0063】
本願の第3の側面は、腸内環境異常による疾病診断のための情報提供方法を提供する。本願の第1の側面及び第2の側面と重複する内容は、本願の第3側面の方法にも共に適用される。
【0064】
本願の一具現例において、上記方法は、個体から得られた試料から腸内環境異常による疾病を診断するためのバイオマーカーを検出するステップを含んでいても良く、上記方法は、サンプル準備過程、サンプル前処理過程、サンプル分析過程及びデータ分析過程、導出されたデータを基に疾病を診断する過程を含んでいても良い。
【0065】
本願の一具現例において、上記バイオマーカーは、腸内で検出される物質であっても良く、具体的に、腸内細菌叢、内毒素、硫化水素、腸内微生物代謝体、短鎖脂肪酸などを含んでいても良いが、これに限定されるものではない。
【0066】
以下、本願の実施例を詳しく説明する。しかし、本願は、これに限定されるものではない。
【0067】
[実施例]
実施例1.PMAS(Personalized Pharmaceutical Meta-Analysis Screening)技法を利用したパーソナライズ候補物質スクリーニングシステムの全般的な過程
本願は、個人の糞便などの試料を利用してパーソナライズプロバイオティクス、食品、健康機能性食品及び医薬品などを体外(in vitro)条件でスクリーニングするための組成物及び方法に関し、本願においては、上記スクリーニングシステムをPMAS(Personalized Pharmaceutical Meta-Analysis Screening)と称しながら説明する。
【0068】
図1は、PMAS技法を通じたパーソナライズプロバイオティクス、プレバイオティクス、食品、健康機能性食品及び医薬品のスクリーニング過程に関する一例示図を示すものであり、
図1を用いて本願のスクリーニングシステムに関する全般的な過程を説明すると、次の通りである。
【0069】
(1)試料の準備
ヒト又は動物の糞便とPMAS培地とを1:12の割合で混合し、ストマッカー(stomacher)を利用して均質化した後、フィルタネットを利用して便の残余物は取り除く。プロバイオティクス、食品、健康機能性食品及び医薬品候補物質の処置に先立ち、便と培地が混ざった混合物を嫌気チャンバ内において4時間還元する。
【0070】
(2)糞便-培地混合物の分注
嫌気チャンバ内において糞便と培地の均質化された混合物を96-ウェルプレートなどの培養プレートにそれぞれ同一量ずつ分注する。
【0071】
(3)候補物質の処理
処理するプロバイオティクス、食品、健康機能性食品及び医薬品候補物質は滅菌済みの1xPBSに懸濁させ、濃度と量を均一化して糞便-培地混合物が入っている培養プレートにそれぞれ分注する。
【0072】
(4)嫌気培養
温度、湿度及びモーションを腸内環境と類似に形成したまま嫌気条件においてプレートを培養することで、各実験群を醗酵培養させる。
【0073】
(5)サンプル分析
培養されたそれぞれの実験群を遠心分離することで上澄液と沈殿物(pallet)とを分離した後、上澄液から代謝体、短鎖脂肪酸、毒性物質などを分析し、沈殿物から腸内細菌叢の分析を行う。
【0074】
実施例2.PMAS技法のサンプル分析過程
上記実施例1のPMAS技法において、サンプル分析ステップの過程の一例示図を
図2及び
図3に示す。
【0075】
具体的に、候補物質を処理した実験群の培養が終了した後、培養されたそれぞれの実験群を遠心分離して得られた上澄液から吸光度測定分析法とクロマトグラフィ分析法によって硫化水素及びバクテリアLPS(内毒素)などの毒性物質分析及び短鎖脂肪酸などの微生物代謝体分析を行い、遠心分離して得られた沈殿物(pallet)から培養非依存的腸内細菌叢分析(Culture-independent analysis method)を行う。例えば、N,N-ジメチル-p-フェニレンジアミン(N,N-dimethyl-p-phenylene-diamine)と塩化鉄(FeCl3)で反応させるメチレンブルー法(methylene blue method)を通じて培養により生成された硫化水素の変化量を測定し、内毒素アッセイキット(Endotoxin assay kit)分析によって炎症反応増進要因の1つである内毒素(Endotoxin)のレベルを測定しても良い。また、ガスクロマトグラフィ分析法を活用することで、微生物代謝体であるアセテート、プロピオネート、ブチレートなどの短鎖脂肪酸を分析しても良い。腸内細菌叢は、試料内の遺伝体を全て抽出した後、GULDA方法で提示されたバクテリア特異的なプライマーを使用したリアルタイムPCR分析法(real-time PCR)や次世代シーケンシング(Next Generation Sequencing)のようなメタゲノム(metagenome)分析によって遺伝体ベースの分析法で分析しても良い。つまり、本願に係る方法は、毒性物質分析、短鎖脂肪酸などを含む腸内細菌叢来由代謝体分析及び腸内細菌叢分析のうち少なくとも1つに基づいてパーソナライズ腸内細菌叢改善候補物質をスクリーニングしても良く、具体的に、内毒素(endotoxin)と硫化水素(hydrogen sulfide)を含む毒性物質分析によって内毒性物質のレベルが小さくなった候補物質を探し、短鎖脂肪酸分析によって予め設定されたターゲット短鎖脂肪酸の変化を確認し、腸内細菌叢分析によって候補物質処置の前後に変化した腸内細菌叢を確認することで、パーソナライズ腸内細菌叢改善候補物質をスクリーニングしても良い。
【0076】
実施例3.PMAS技法のサンプル分析結果を利用したパーソナライズ候補物質スクリーニング過程
上記実施例2のサンプル分析結果を基にパーソナライズプロバイオティクス、食品、健康機能性食品及び医薬品などをスクリーニングする過程の一例示図を
図4に示す。
【0077】
具体的に、PMAS施行後に分析された結果のうち、毒性物質生成の増減、短鎖脂肪酸の変化、有害菌及び有益菌の増減程度を判断し、処理した候補物質の腸内細菌叢改善効能有無を判別する。先ず、醗酵培養の終了後に遠心分離を施行した際、上澄液が分析可能な最少量以上残っていなければ、PMAS処理及び培養を再び経て分析に使用する上澄液の液量を十分に確保する。このうち、毒性物質が増加し、短鎖脂肪酸の総量が正常範囲外であって、有害菌が処置前と比べて有意に減少した場合、これは、処置物質により腸内細菌叢の不均衡が誘導されたと見なされ、選別対象から除外される。但し、有益菌が数的に減少した場合は、次世代シーケンシング方法(Next Generation Sequencing)などを活用したメタゲノム(metagenome)分析によって調べた全腸内細菌叢の多様性が有意に減少した場合にのみ選別対象から除外する。上記内容の他にさらにプロバイオティクス、食品、健康機能性食品及び医薬品候補物質が腸内の特定バイオマーカーに及ぼす影響を参考にしてスクリーニングしようとする場合、上述した選別基準を通過した場合に限って当該バイオマーカー関連分析を施行して選別する。
【0078】
つまり、本発明は、内毒素(endotoxin)と硫化水素(hydrogen sulfide)を含む毒性物質分析、短鎖脂肪酸(Short chain fatty acids)を含む腸内細菌叢来由代謝体分析、プロテオバクテリア(Proteobacteria)とクロストリジウムディフィシル菌(Clostridium difficile)などを含む腸内有害菌分析及びラクトバシラス(Lactobacillus)及びビフィドバクテリウム(Bifidobacteriaum)などを含む腸内有益菌分析のうち少なくとも1つに基づいてパーソナライズ腸内細菌叢改善候補物質をスクリーニングしても良く、具体的に、内毒素(endotoxin)及び硫化水素(hydrogen sulfide)を含む毒性物質分析によって毒性物質のレベルが小さくなった候補物質を探し、SCFA分析によって予め設定されたターゲット短鎖脂肪酸の変化を確認し、腸内有害菌分析及び上記腸内有益菌分析によって腸内有害菌及び腸内有益菌の増減程度を確認することで、パーソナライズ腸内細菌叢改善候補物質をスクリーニングしても良い。例えば、本願は、毒性物質の生成が有意に増加せず、短鎖脂肪酸の総量が正常範囲内であって、有害菌が有意に増加せず、有益菌が有意に減少しない場合、あるいは有益菌が有意に減少しても腸内細菌叢多様性が増加する場合、全短鎖脂肪酸のうち酪酸の割合が最も大きく増加する実験群を選別し、パーソナライズプロバイオティクス、食品、健康機能性食品及び医薬品のスクリーニングを行っても良い。もちろん、本発明は、毒性物質の生成が有意に増加せず、SCFAの総量が正常範囲以内であって、有害菌が有意に増加せず、有益菌が有意に減少しない場合、あるいは有益菌が有意に減少しても腸内細菌叢多様性が増加しつつ、追加の腸内特定生体指標分析が必要となった場合、特定生体指標に対する増減及び有無を追加分析し、分析結果に応じて、PMAS物質処理の結果特定生体指標が影響を受ける実験群を選別して、パーソナライズプロバイオティクス、プレバイオティクス、食品、健康機能性食品及び医薬品のスクリーニングを行っても良い。
【0079】
実験例1.PMAS技法の培地造成確認
上記実施例1のPMAS技法で使用するためのPMAS培地の最適の組成を確認するために、下記のような実験を行った。
【0080】
具体的に、下記表1に記載された様々な物質組成を含む培地に糞便サンプルを1:12(w/v)の割合で混合した後、ストマッカー(Sthomacher)を利用して均質化した。
【0081】
【0082】
次いで、上記糞便試料を96-ウェルプレートに分注し、対照群には何の物質も処理せず、プレバイオティクス群にはプレバイオティクス製剤を処理した後(培地:糞便サンプル:プレバイオティクス=1:12:2(w/v))、嫌気環境、37℃で18時間培養した後、対照群とプレバイオティクス群の酪酸、プロピオン酸及び酢酸の含量を比較分析した。
【0083】
その結果、Test1及びTest3の場合、腸内微生物により発効されて短鎖脂肪酸を生成すると知られているプレバイオティクスを処理したにもかかわらず、酪酸、プロピオン酸及び酢酸の含量には変化がなく、Test4の場合は、プレバイオティクスを処理した際にむしろ酪酸、プロピオン酸及び酢酸の含量が減少したことが確認された(
図5)。
【0084】
それに対し、Test2及びTest5の場合は、プレバイオティクスを処理した群において全般的に短鎖脂肪酸の含量が増加したことが確認され(
図5)、Test5の場合、Test2よりも短鎖脂肪酸の絶対量(mM)が多く検出されて分析時に容易であるところ、以下の実験例では、Test5の組成を有する培地を利用して実験を行った。
【0085】
上記結果を総合的に見ると、L-システイン塩酸塩が含まれながら栄養成分が含まれていない組成(Test2)及びL-システイン塩酸塩とムチンが含まれた組成(Test5)の場合、プレバイオティクス処理による実際に予想した結果が得られることが分かるので、L-システイン塩酸塩又はL-システイン塩酸塩及びムチンが含まれながらグルコースなどの炭水化物及びトリプトンなどのタンパク質が含まれていない組成を有する培地を利用すれば、体外条件で腸内環境を類似に再現することによって、迅速で且つ正確に候補物質処理による腸内環境変化を確認することができる。
【0086】
実験例2.腸内環境改善物質をスクリーニングするための培養時間設定
上記実施例1のPMAS技法において、嫌気培養ステップにおける最適の培養時間を確認するために、下記のような実験を行った。
【0087】
具体的に、上記実験例1と同じ方法で実験を行い、但し、嫌気培養の培養時間を0時間、18時間、21時間、24時間、40時間、及び48時間に設定して実験を行い、培養後の酪酸、プロピオン酸及び酢酸の含量を測定した。
【0088】
その結果、対照群とプレバイオティクス群の何れも、培養18時間まで短鎖脂肪酸の含量が急激に増加し、その後は停滞期に入ることが確認された(
図6)。
【0089】
上記結果を基に、本願のPMAS技法を利用して高速で候補物
質をスクリーニングするためには、嫌気培養時間を18時間に設定することが最も効率的であることが分かる。
【0090】
実験例3.PMAS技法を利用したパーソナライズ候補物質スクリーニング方法の有効性の確認
本願のPMAS技法を利用し、個々人の腸内環境を体外(in vitro)条件で形成してパーソナライズ候補物質を正確にスクリーニングできるか否かの有効性を確認するために、下記の実験を行うことで確認した。
【0091】
(1)繰り返し性の確認
本願のPMAS技法を利用した分析結果が同一個体で繰り返して再現されるか否かを確認するために、下記のような実験を行った。
【0092】
具体的に、互いに異なるヒトA及びBからそれぞれ他の日付で収去した糞便サンプル(A1~A4、B1~B3)に対するPMAS分析結果の繰り返し性を確認するために、物質処理をしていない対照群と、5種の候補物質を処理した実験群の酪酸量を測定し、5種の候補物質処理群の酪酸定量値をそれぞれの対照群の酪酸定量値で分けて、各サンプル当たりの候補物質処理時の酪酸増減量を把握した。次いで、各サンプルに対する時期別の5種の候補物質処理結果を全てピアソンの相関関係を利用して分析した(相関係数が1に近づくほどより類似していることを示す)。
【0093】
その結果、同じヒトから収去された糞便サンプルに対するPMAS分析結果は相当類似した傾向を示すものの(相関係数0.8以上)、他のヒトの間のPMAS分析結果とは差を示すことが確認されるところ(
図7)、上記結果を総合的に見ると、本願のPMAS技法を利用すれば、体外条件でも同じヒトの試料での結果が繰り返して再現されることが分かる。
【0094】
(2)臨床結果との同一性の確認
本願のPMAS技法を利用した分析結果が実際の臨床結果と同一性を示しているか否かを確認するために、下記のような実験を行った。
【0095】
具体的に、24名のヒトから糞便サンプルを確保し、上記糞便サンプルにプロバイオティクスA処理に応じた短鎖脂肪酸含量の増減有無を本願のPMAS技法を利用して分析した。
【0096】
次いで、上記24名のヒトが実際にプロバイオティクスAを服用した後、服用前後の糞便サンプルにおける短鎖脂肪酸の増減有無を臨床的に確認し、上記臨床結果を上記PMAS結果と比較分析した。
【0097】
その結果、24名のうち12名は、実際にプロバイオティクスAを服用した後に糞便内の短鎖脂肪酸が増加したことが確認され、残りの12名は、短鎖脂肪酸が減少したことが確認された。また、プロバイオティクスAの効果をPMAS技法で確認した結果、計14名のサンプルにおいて短鎖脂肪酸が増加し、10名のサンプルにおいて短鎖脂肪酸が減少したことが確認されており(
図8)、上記結果を基に下記のように分析した。
【0098】
1)PMASの結果、短鎖脂肪酸が増加した際、実際も短鎖脂肪酸が増加した場合-11/14=0.79
【0099】
2)PMASの結果、短鎖脂肪酸が減少した際、実際も短鎖脂肪酸が減少した場合-9/10=0.9
【0100】
3)実際に短鎖脂肪酸が増加したヒトのうち、PMAS結果でも短鎖脂肪酸が増加した場合-11/12=0.92
【0101】
4)実際に短鎖脂肪酸が減少したヒトのうち、PMAS結果でも短鎖脂肪酸が減少した場合-9/12=0.75
【0102】
5)短鎖脂肪酸の増加に対するfalse negative-1-0.92=0.08
【0103】
6)短鎖脂肪酸の増加に対するfalse positive-1-0.75=0.15
【0104】
7)Prevalence(実際にプロバイオティクスAを服用して短鎖脂肪酸が増加する頻度)を0.5と仮定すると、PPV=(0.92×0.5)/(0.92×0.5+(1-0.75)×(1-0.5))=0.86
【0105】
上記結果を総合的に見ると、本願のPMAS技法は、体外(in vitro)条件でも同一個体内での繰り返し性を再現することができ、実際の臨床と非常に類似した結果が得られるので、それを基に、上記PMAS技法は、腸内環境を非常に類似に再現できることが分かり、それを利用すれば、個々人への効果が優れた腸内環境改善物質を迅速で且つ効率的にスクリーニング可能であることが分かる。
【0106】
実験例4.PMAS技法を利用したパーソナライズ候補物質スクリーニングシステムの具体的な具現例
上記実施例1乃至実施例3及び実験例1乃至3で説明したPMAS技法を利用すれば、下記のように個々人の腸内環境を体外条件で迅速で且つ正確に分析し、それを基に腸内環境を改善できる候補物質をスクリーニングすることができる。下記の説明は、PMAS技法を利用したスクリーニングシステムの一例示であり、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、上記記載から様々な修正及び変形が可能である。例えば、説明された技術が説明された方法とは異なる順番で行われるか、及び/又は説明されたシステム、構造、装置、過程などの構成要素が説明された方法とは異なる形態で結合又は組み合わせられるか、他の構成要素又は均等物によって対置あるいは置換されても適切な結果が達成されることができる。
【0107】
(1)糞便-培地混合物の準備及び候補物質の処理
96-ウェルプレートに8つの互いに異なるヒトの糞便サンプルをそれぞれPMAS培地と混合及び均質化して同一量ずつ分配し(横軸)、上記糞便サンプルが分注された96-ウェルプレートに縦に互いに異なる候補物質を処理した(
図9)。
【0108】
対照群(基準)は、PMAS検査の後、検測する分析数値結果を対照して腸内環境改善程度を判断するためのものであり、reference treatmentのうち抗生剤混合物(ABX)は、糞便内の微生物の活性が急激に減少した環境を造成するための陰性対照群であり、クロストリジウムブチリカム(CB、酪酸を自ら生産するバクテリア菌株)は、腸内環境改善の有無を判断するのに有力な物質である酪酸が明らかに増加した環境を造成するための陽性対照群として活用した。また、残りのバクテリア菌株であるLB、EF、BF菌株は、試験しようとする候補物質であり、互いに異なる番号は互いに異なるバクテリアstrainであることを示す。
【0109】
(2)PMAS分析結果-酪酸量変化の分析
上記(1)と同じ方法で100名の互いに異なる成人の糞便サンプルを利用してPMAS検査を行い、それによる酪酸量の変化を分析して、それを
図10に示した。
【0110】
具体的に、
図10のヒートマップにおける各行は糞便サンプルを示しており、PMAS実施の後、対照群(基準)ウェルに比べて酪酸量が増加した場合は赤色、減少した場合は青色で表示した。
【0111】
その結果、酪酸の陽性対照群であるCB処理の際に他の処理と比べて酪酸が有意に増加したことが確認され、陰性対照群であるABX処理の際に他の処理と比べて酪酸が有意に減少したことが確認された(微生物の活性減少による微生物代謝体-酪酸の減少)。
【0112】
また、試験群である候補物質はLactobacillus、Bifidobacteria、Enterococcus系のバクテリアであり、自ら酪酸を生成できないにもかかわらず、ある糞便にはこのような菌株を処理した際に酪酸が増加したことが確認された。これにより、ある場合(ある糞便試料の場合)にPMAS環境内における特定候補物質の処理が試料内の他の微生物の活性変化(酪酸が増加する方向に)を誘発することを推論することができる。
【0113】
上記結果を総合的に見ると、PMAS技法において候補物質処理による環境の変化は各糞便試料毎に異なるように示されることが確認され、これにより、各糞便内の微生物ベースの腸内環境改善候補物質をスクリーニングできることが分かる。
【0114】
(3)PMAS分析結果-腸内微生物多様性の変化
上記(1)と同じ方法で100名の互いに異なる成人の糞便サンプルを利用してPMAS検査を行い、このうち一部のサンプルに対する腸内微生物多様性の変化を分析して、それを
図11に示した。
【0115】
具体的に、
図11のヒートマップにおける各行は糞便サンプルを示しており、PMAS実施の後、対照群(基準)ウェルに比べて微生物多様性が増加した場合は赤色、減少した場合は青色で表示した。
【0116】
その結果、各糞便サンプル毎に微生物多様性を増加させたり、減少させる候補処理物質が何れも異なることが確認され、また、各候補物質が示す効果も互いに異なる糞便サンプルによって異なるように示されることが確認された。また、ABX処理の際は他の処理群に比べて微生物多様性が確実に減少することが確認された。
【0117】
(4)PMAS分析結果-初期糞便サンプルの微生物構成とPMAS検査後の酪酸量変化の相関関係
上記(1)と同じ方法で100名の互いに異なる成人の糞便サンプルを利用してPMAS検査を行い、それによる初期糞便サンプルの微生物構成とPMAS検査後の酪酸量変化の相関関係を分析して、それを
図12に示した。
【0118】
具体的に、
図12Aは、PMAS実施後に各糞便試料が有する「互いに異なる候補物質処理に対する酪酸変化結果(多変量、基準対照群を除き10個の結果)」をPCA分析により一つの平面に表示したグラフであり(x軸はPC1、y軸はPC2、全データの90.36%を表現、グラフのdotは各糞便を表現)、範疇のinitial faecal microbioat PC1は、PMASの実施に使用された糞便のPMAS前の腸内微生物結果(initial faecal microbiota)をweighted UniFrac distanceで計算したPC1スコアである。また、
図12Bは、PMAS実施後の各糞便の酪酸変化結果の主成分PC1とPMAS実施前の各糞便の腸内細菌叢変化のベータ多様性PC1との相関関係を示すグラフである。
【0119】
上記結果を基に、『PMAS実施後の各糞便試料の酪酸変化結果』がその糞便試料の『PMAS前の微生物分析結果』と有意な相関関係を有することが分かる。つまり、各糞便試料においてPMAS後の酪酸変化パターンが互いに異なるように示されるのは、(無作為に起こる変化ではなく)その糞便にあった互いに異なる微生物の分布及び構成に起因することを推論することができる。
【0120】
上述した本願の説明は例示のためのものであり、本願の属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本願の技術的思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態に容易に変形可能であるということを理解できるはずである。それゆえ、上記した実施例は全ての面において例示的なものであり、限定的なものではないと理解すべきである。例えば、単一型で説明されている各構成要素は分散して実施されても良く、同様に、分散したものと説明されている構成要素も結合された形態で実施されても良い。
【0121】
本願の範囲は、上記詳細な説明よりは後述する特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味及び範囲、並びにその均等概念から導出される全ての変更又は変形された形態が本願の範囲に含まれると解釈されなければならない。