(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】マイクロ合金鋼のTSCRプロセス過程におけるオーステナイト粒径の予測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/204 20190101AFI20241114BHJP
B22D 11/12 20060101ALI20241114BHJP
B21B 1/46 20060101ALI20241114BHJP
B22D 11/16 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
G01N33/204
B22D11/12 A
B21B1/46 B
B22D11/16 104Z
(21)【出願番号】P 2023133483
(22)【出願日】2023-08-18
【審査請求日】2023-08-18
(31)【優先権主張番号】202211561610.X
(32)【優先日】2022-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517430392
【氏名又は名称】重慶大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】オリジネイト弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】龍 木軍
(72)【発明者】
【氏名】張 浩浩
(72)【発明者】
【氏名】唐 培▲しょう▼
(72)【発明者】
【氏名】艾 松元
(72)【発明者】
【氏名】陳 登福
(72)【発明者】
【氏名】王 凱
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111521461(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110472342(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112613241(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1664500(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112053748(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1664550(CN,A)
【文献】特開2008-007809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00-33/46
B22D 11/00-11/22
B21B 47/00-99/00
B21B 1/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ合金鋼のTSCRプロセス過程におけるオーステナイト粒径の予測方法であって、ステップ1)~ステップ7)を含み、
ステップ1):等温過程のシミュレーション
高温共焦点顕微鏡又は温度を正確に制御できるその他の加熱炉により様々な温度での保温過程をシミュレーションし、様々な温度及び様々な保温時間の鋳片サンプルを取得して急冷し、
ステップ2):
サンプルの腐食
前記鋳片サンプルを研削及び研磨してから腐食剤に加え、50~55℃で0~3min熱浸食し、
前記鋳片サンプルの表面が黒色になったら取り出し、
前記鋳片サンプルの表面の黒い膜を脱脂綿で迅速に拭き取り、乾燥させてから腐食液に入れ、以上の過程を粒界が明確に識別できるまで繰り返し、
ステップ3):オーステナイト粒径の統計
金属顕微鏡観察により、各
鋳片サンプルのオーステナイト粒の平均粒径を統計し、各温度で0s保温した
前記鋳片サンプルのオーステナイトの平均粒径を該保温過程におけるオーステナイトの初期粒径D
0-Tとし、
ステップ4):オーステナイト粒径の等温予測モデルの確立
古典的な等温オーステナイト粒の予測モデルを導出・修正することにより、マイクロ合金鋼の等温過程におけるオーステナイト粒径の予測モデルを取得し、式(1)で表され、
【数26】
ここで、D
t-Tは、温度Tでt保温したときのオーステナイト粒径(μm)であり、D
0-Tは、温度Tで0秒保温したときのオーステナイトの初期粒径(μm)であり、n*は、時間指数定数であり、M
0は、粒界移動係数であり、tは、保温時間(s)であり、Rは、気体定数、8.314J/(mol*K)であり、Tは、加熱の温度(K)であり、Qは、粒界移動活性化エネルギー、J/(mol)であり、γは、粒界エネルギー(0.679J/m
2)であり、
保温過程の様々な時点でのオーステナイトの平均粒径を式(1)に代入し、n*、M
0及びQの値を決定すると、該マイクロ合金鋼の該温度での保温過程におけるオーステナイト粒径の予測モデルが得られ、
ステップ5):n*、Q及びM
0に対する温度の影響関係の決定
様々な温度での保温モデルにおいて決定されたn*、Q及びM
0値に従って、n*、Q及びM
0の時間に伴う変化関係をフィッティングして決定し、
n*=f(T) (2)
M
0=g(T) (3)
Q=h(T) (4)
ステップ6):非等温過程におけるオーステナイト粒の成長速度の温度に伴う変化法則の決定
式(1)の時間tを微分すると、得られたオーステナイト成長速度は、
【数27】
であり、
n*、Q及びM
0の時間に伴う変化関係式(2~4)を式(5)に代入すると、変温過程におけるオーステナイト粒の成長速度の温度に伴う変化関係が得られ、
【数28】
ステップ7):TSCRプロセス過程におけるマイクロ合金鋼鋳片のオーステナイト粒径の予測
高温共焦点顕微鏡観察により、溶鋼が完全に凝固したときのオーステナイトの平均粒径は、TSCRプロセスの鋳片のオーステナイトの初期粒径D
0であることが分かり、TSCRプロセスの連続鋳造及び均熱過程の温度の時間に伴う変化関係T=p(t)を式(6)に代入すると、該過程におけるオーステナイト粒の成長速度の時間に伴う変化関係が得られ、
【数29】
このとき、TSCRプロセスの連続鋳造及び均熱過程における任意の時点tでのオーステナイト粒径は、
【数30】
であることを特徴とするマイクロ合金鋼のTSCRプロセス過程におけるオーステナイト粒径の予測方法。
【請求項2】
前記ステップ4)において、オーステナイト粒径の予測等温モデルは、等温古典モデル及び粒界移動速度と駆動力との関係から導出され、ここで、保温過程におけるオーステナイト成長の等温古典モデルを式(a)に示し、粒界移動速度と粒界移動駆動力との関係を式(c)に示し、
【数31】
【数32】
【数33】
【数34】
【数35】
ここで、D
t-Tは、温度Tでt保温したときのオーステナイト粒径(μm)であり、D
0-Tは、温度Tで0秒保温したときのオーステナイトの初期粒径(μm)であり、n*は、時間指数定数であり、M
0は、粒界移動係数であり、tは、保温時間(s)であり、Rは、気体定数、8.314J/(mol*K)であり、Tは、加熱の温度(K)であり、Qは、粒界移動活性化エネルギー、J/(mol)であり、γは、粒界エネルギー(J/m
2)であり、式(a~e)を組み合わせると、
【数36】
【数37】
が得られ、
これにより、得られたオーステナイト粒径の予測等温モデルは、
【数38】
であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ合金鋼のTSCRプロセス過程におけるオーステナイト粒径の予測方法。
【請求項3】
前記ステップ5)において、マイクロ合金元素の添加による第2相「ピニング作用」及び溶質元素「ドラッグ作用」の温度に伴う変化をすべて時間指数n*、粒界移動パラメータM
0及び粒界移動活性化エネルギーQの温度に伴う変化に統一し、有限数の等温実験により、n*、M
0及びQの温度Tに伴う変化関係を決定し、各第2相の「ピニング力」及び各溶質元素の「ドラッグ作用」をもはや別々に計算せず、その共同作用の最終結果のみを考慮することを特徴とする請求項1に記載のマイクロ合金鋼のTSCRプロセス過程におけるオーステナイト粒径の予測方法。
【請求項4】
前記ステップ3)において、オーステナイト粒径は
前記鋳片サンプルの平均粒径であり、等面積円の直径を各粒のサイズとすることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ合金鋼のTSCRプロセス過程におけるオーステナイト粒径の予測方法。
【請求項5】
該予測方法は、TSCRプロセスによって製造可能なすべての鋼種成分に適用でき、TSCRプロセスの連続鋳造冷却過程、昇温過程及び保温過程に適用できることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ合金鋼のTSCRプロセス過程におけるオーステナイト粒径の予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ合金鋼の連続鋳造及び圧延プロセス過程における組織性能の予測方法の分野に関し、マイクロ合金鋼の薄スラブ連続鋳造連続圧延(TSCR)プロセス過程におけるオーステナイト粒径の予測方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
鋳片のオーステナイト粒径は、鋳片の品質、圧延過程の再結晶挙動、圧延後の冷却過程の相変態挙動及び相変態後の粒径に重要な影響を及ぼす。従来のプロセスに比べて、薄スラブ連続鋳造連続圧延(TSCR)プロセス過程は、そのオーステナイト成長法則を従来のプロセスとは著しく異ならせるという独特の冶金学的特徴を有する。TSCRプロセスの圧延前の鋳片組織は、依然として粗大な旧オーステナイト組織であり、従来のプロセスよりはるかに大きい。その結果、TSCRプロセスは、従来のプロセスよりも鋳片組織の微細化に対する要求が高くなる。したがって、TSCR鋳片のオーステナイト粒径の正確な予測は、鋳片組織の調整制御及び製品性能の向上に重要な指導的意義を有する。
【0003】
現在、オーステナイト成長予測の分野で関連する特許技術は比較的乏しい。特許検索エンジンで検索したところ、2つの関連する特許技術出願報告のみが検索され、それぞれ2020年に出願された「鋳片加熱後の旧オーステナイト粒径の予測方法」(特許文献1)及び2021年に出願された「連続鋳片加熱過程におけるオーステナイト粒の成長挙動の予測方法」(特許文献2)である。
【0004】
特許文献1は、古典的な等温モデルに基づいて、オーステナイト粒の成長の等温予測モデルを導出し、さらに変温過程におけるオーステナイト粒径の予測に拡張する。本予測方法は、同様に等温過程におけるオーステナイト粒径の予測及びオーステナイト粒径の予測に分けられるが、特許文献1の方法との相違点は以下のとおりである。(1)等温予測モデルの導出において、等温古典モデルを引用するだけでなく、粒界移動駆動力と粒界移動速度との変化関係も考慮し、より正確な等温予測モデルを導出・確立する。(2)特許文献1において、変温過程を予測したときに変温予測モデルにおけるパラメータn、M0、Qは、依然として等温モデルにフィッティングした固定値を使用する。実際には、マイクロ合金元素の添加により、オーステナイト粒の成長挙動がより複雑になる。鋼マトリックスに固溶したマイクロ合金元素は、粒内の粒界に近い箇所に濃縮され、オーステナイト粒界の移動に対して「溶質ドラッグ作用」を果たし、粒界の移動を阻害し、粒界に析出されたマイクロ合金の第2相は、オーステナイト粒界の移動に対して「ピニング作用」を果たし、同様にオーステナイト粒界の移動に対して阻害作用を有する。鋼種成分及び温度が変化するにつれて、溶質「ドラッグ作用」及び第2相「ピニング作用」も変化する。したがって、変温過程では、n、M0、Qは、固定値ではなく、温度とともに変化する必要がある。したがって、本予測方法では、様々な温度での等温予測モデルのパラメータを比較・分析することにより、n、M0、Qの温度Tに伴う変化関係を決定し、変温モデル予測の精度を向上させる。(3)予測範囲がより広く、特許文献1は、主に鋳片の加熱過程及び保温過程におけるオーステナイト粒径を予測し、本方法は、TSCRを含む鋼の連続鋳造の冷却過程、加熱過程及び保温過程におけるオーステナイト粒径を正確に予測できる。
【0005】
特許文献2において、Matlabソフトウェアによって保温過程におけるオーステナイトの粒径と鋼種成分を簡単にフィッティングし、該予測方法は、等温過程の簡単な予測にのみ適用され、変温過程を予測できない。
【0006】
本モデルは、古典的な等温モデル及び粒界移動駆動力と粒界移動速度との関係に基づいてさらに導出し、本モデルの等温過程予測モデルを得る。溶質「ドラッグ作用」及び第2相「ピニング作用」の鋼種成分及び温度に伴う変化は、すべて時間指数n*、粒界移動パラメータM0及び粒界移動活性化エネルギーQの変化に起因する。有限数の等温実験により、温度との変化関係をフィッティングして決定し、予測モデルの正確性及び鋼種の普遍性を大幅に向上させる。該予測モデルは、任意の成分の鋼種の熱処理過程における各時点でのオーステナイト粒径を正確に予測でき、それによりオーステナイト粒径の制御に指針を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】中国特許出願公開第113791009号明細書
【文献】中国特許出願公開第111521461号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、マイクロ合金鋼のTSCRプロセス過程におけるオーステナイト粒径の予測方法を提供し、該方法は、等温古典モデルに基づいて、粒界移動駆動力と粒界移動速度との関係を導入し、マイクロ合金元素「溶質ドラッグ作用」及び「第2相ピニング作用」がオーステナイト粒の成長に及ぼす影響を総合的に考慮し、有限数の等温実験により、該鋼種の等温過程及び非等温過程におけるオーステナイト粒の成長の予測モデルを確立する。モデルは、TSCRプロセスの連続鋳造及び均熱過程の様々なプロセスノードでのマイクロ合金鋼鋳片のオーステナイト粒径を正確に予測でき、オーステナイト粒径を調整制御し、プロセスパラメータを最適化し、鋳片の性能及び品質を向上させるために参照根拠及びモデル基礎を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、マイクロ合金鋼のTSCRプロセス過程におけるオーステナイト粒径の予測方法であって、以下のステップを含む。
【0010】
ステップ1):等温過程のシミュレーション
高温共焦点顕微鏡又は温度を正確に制御できるその他の加熱炉によって様々な温度での保温過程をシミュレーションし、様々な温度及び様々な保温時間の鋳片サンプルを取得して急冷し、
ステップ2):
サンプルの腐食
前記鋳片サンプルを研削及び研磨してから腐食剤に加え、50~55℃で0~3min熱浸食し、
前記鋳片サンプルの表面が黒色になったら取り出し、
前記鋳片サンプルの表面の黒い膜を脱脂綿で迅速に拭き取り、乾燥させてから腐食液に入れ、以上の過程を粒界が明確に識別できるまで繰り返し、
ステップ3):オーステナイト粒径の統計
金属顕微鏡観察により、各
鋳片サンプルのオーステナイト粒の平均粒径を統計する。各温度で0s保温した
前記鋳片サンプルのオーステナイトの平均粒径を該保温過程におけるオーステナイトの初期粒径D
0-Tとし、
ステップ4):オーステナイト粒径の等温予測モデルの確立
古典的な等温オーステナイト粒の予測モデルを導出・修正することにより、マイクロ合金鋼の等温過程におけるオーステナイト粒径の予測モデルを取得し、式(1)で表され、
【数1】
ここで、D
t-Tは、温度Tでt保温したときのオーステナイト粒径(μm)であり、D
0-Tは、温度Tで0秒保温したときのオーステナイトの初期粒径(μm)であり、n*は、時間指数定数であり、M
0は、粒界移動係数であり、tは、保温時間(s)であり、Rは、気体定数、8.314J/(mol*K)であり、Tは、加熱の温度(K)であり、Qは、粒界移動活性化エネルギー、J/(mol)であり、γは、粒界エネルギー(0.679J/m
2)であり、
保温過程の様々な時点でのオーステナイトの平均粒径を式(1)に代入し、n*、M
0及びQの値を決定すると、該マイクロ合金鋼の該温度での保温過程におけるオーステナイト粒径の予測モデルが得られ、
ステップ5):n*、Q及びM
0に対する温度の影響関係の決定
様々な温度での保温モデルにおいて決定されたn*、Q及びM
0値に従って、n*、Q及びM
0の時間に伴う変化関係をフィッティングして決定し、
n*=f(T) (2)
M
0=g(T) (3)
Q=h(T) (4)
ステップ6):非等温過程におけるオーステナイト粒の成長速度の温度に伴う変化法則の決定
式(1)の時間tを微分すると、得られたオーステナイト成長速度は、
【数2】
であり、
n*、Q及びM
0の時間に伴う変化関係式(2~4)を式(5)に代入すると、変温過程におけるオーステナイト粒の成長速度の温度に伴う変化関係が得られ、
【数3】
ステップ7):TSCRプロセス過程におけるマイクロ合金鋼鋳片のオーステナイト粒径の予測
高温共焦点顕微鏡観察により、溶鋼が完全に凝固したときのオーステナイトの平均粒径はTSCRプロセスの鋳片のオーステナイトの初期粒径D
0であることが分かり、TSCRプロセスの連続鋳造及び均熱過程の温度の時間に伴う変化関係T=p(t)を式(6)に代入すると、該過程におけるオーステナイト粒の成長速度の時間に伴う変化関係が得られ、
【数4】
このとき、TSCRプロセスの連続鋳造及び均熱過程における任意の時点tでのオーステナイト粒径は、
【数5】
である。
【0011】
本発明の他の態様は、上記の一態様に記載のマイクロ合金鋼のTSCRプロセス過程におけるオーステナイト粒径の予測方法において、
前記ステップ4)において、オーステナイト粒径の予測等温モデルは、等温古典モデル及び粒界移動速度と駆動力との関係から導出され、ここで、保温過程におけるオーステナイト成長の等温古典モデルを式(a)に示し、粒界移動速度と粒界移動駆動力との関係を式(c)に示し、
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
ここで、D
t-Tは、温度Tでt保温したときのオーステナイト粒径(μm)であり、D
0-Tは、温度Tで0秒保温したときのオーステナイトの初期粒径(μm)であり、n*は、時間指数定数であり、M
0は、粒界移動係数であり、tは、保温時間(s)であり、Rは、気体定数、8.314J/(mol*K)であり、Tは、加熱の温度(K)であり、Qは、粒界移動活性化エネルギー、J/(mol)であり、γは、粒界エネルギー(J/m
2)であり、式(a~e)を組み合わせると、
【数11】
【数12】
が得られ、
これにより、得られたオーステナイト粒径の予測等温モデルは、
【数13】
である。
【0012】
本発明のさらに他の態様は、上記の一態様に記載のマイクロ合金鋼のTSCRプロセス過程におけるオーステナイト粒径の予測方法において、
前記ステップ5)において、マイクロ合金元素の添加による第2相「ピニング作用」及び溶質元素「ドラッグ作用」の温度に伴う変化をすべて時間指数n*、粒界移動パラメータM0及び粒界移動活性化エネルギーQの温度に伴う変化に統一し、有限数の等温実験により、n*、M0及びQの温度Tに伴う変化関係を決定し、各第2相の「ピニング力」及び各溶質元素の「ドラッグ作用」をもはや別々に計算せず、その共同作用の最終結果のみを考慮する。
【0013】
本発明のさらに他の態様は、上記の一態様に記載のマイクロ合金鋼のTSCRプロセス過程におけるオーステナイト粒径の予測方法において、
前記ステップ3)において、オーステナイト粒径はサンプルの平均粒径であり、等面積円の直径を各粒のサイズとする。
【0014】
本発明のさらに他の態様は、上記の一態様に記載のマイクロ合金鋼のTSCRプロセス過程におけるオーステナイト粒径の予測方法において、
該予測方法は、TSCRプロセスによって製造可能なすべての鋼種成分に適用でき、TSCRプロセスの連続鋳造冷却過程、昇温過程及び保温過程に適用できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以下の有益な効果を有する。
【0016】
1、本発明が提供するマイクロ合金鋼のTSCRプロセス過程におけるオーステナイト粒径の予測方法は、TSCRプロセスの連続鋳造及び均熱過程における任意の時点での鋳片のオーステナイト粒径の正確な予測に用いることができ、TSCRプロセスにおける鋳片のオーステナイト粒径の予測モデルの空白を埋める。
【0017】
2、本モデルは、等温古典モデルに基づいて、粒界移動駆動力と粒界移動速度との関係を導入し、マイクロ合金元素が「溶質ドラッグ作用」及び「第2相ピニング作用」がオーステナイト粒の成長に及ぼす影響を総合的に考慮し、予測モデルの精度を大幅に向上させる。
【0018】
3、マイクロ合金元素の「溶質ドラッグ作用」及び「第2相ピニング作用」の温度に伴う変化は、時間指数n*、粒界移動パラメータM0及び粒界移動活性化エネルギーQの温度に伴う変化に総合的に反映される。有限数の等温実験により、n*、M0及びQの温度Tに伴う変化関係を決定し、モデルの適用可能なプロセス及び鋼種の範囲を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】様々な温度での保温過程のシミュレーションの概略図である。
【
図3】様々な温度での保温過程におけるオーステナイト粒径の時間に伴う変化である。
【
図4】TSCRプロセスの熱履歴及びサンプリングの概略図である。
【
図5】TSCRプロセス過程の様々な時間ノードでのオーステナイト粒径の実測値と予測値の比較結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、TSCRプロセス過程におけるマイクロ合金鋼鋳片のオーステナイト粒径の予測方法を提供し、以下、図面及び実施例を参照しながら本発明をさらに説明する。
【0021】
本実施例において選択された特性評価装置は、XD30M倒立光学金属顕微鏡である。
【0022】
本実施例において選択された鋼種は、チタンマイクロ合金化22MnB5鋼であり、鋳片中の主な化学成分及びその質量分率は、Feが0.21wt.%、Cが0.27wt.%、Siが1.18wt.%、Mnが0.008wt.%、Pが0.001wt.%、Sが0.23wt.%、Crが0.033wt.%、Tiが0.0027wt.%、Bが0.0028wt.%、Nである。
【0023】
ステップ1)等温シミュレーション
【0024】
TSCR連続鋳造鋳片の厚さ及び幅の1/4でサンプリングし、φ7.5mm×2.5mmの円筒状のサンプルに加工する。高温共焦点顕微鏡により、様々な温度の保温過程をシミュレーションし、シミュレーション過程全体においてアルゴンで保護される。様々な温度及び様々な保温時間のサンプルを急速急冷によって製造する。シミュレーションされた温度レジームを
図1に示す。
【0025】
ステップ2)サンプルの腐食
【0026】
サンプルを研削及び研磨してから腐食剤に加え、50~55℃で0~3min熱浸食し、サンプルの表面が黒色になったら取り出し、サンプルの表面の黒い膜を脱脂綿で迅速に拭き取り、乾燥させてから腐食液に入れ、以上の過程を粒界が明確に識別できるまで繰り返す。腐食後のオーステナイトの形態を
図2に示す。
【0027】
ステップ3)サンプルのオーステナイト粒径の統計
【0028】
腐食したサンプルを金属顕微鏡に置き、様々な視野の写真を10枚撮影する。IPP画像処理ソフトウェアにより、10枚の視野におけるオーステナイトの平均粒径を該サンプルのオーステナイトサイズとして統計する。等面積円の直径を該粒のサイズとする。すなわち、IPP(Image-Pro Plus)画像処理により各オーステナイト粒の面積を取得し、等面積円の直径を該粒のサイズとし、続いてサンプル中の粒の平均サイズを算出する。様々な温度での保温過程におけるサンプルのオーステナイトの平均粒径の統計結果を
図3に示す。
【0029】
ステップ4)等温モデルパラメータ(n*、Q、M0)の決定
【0030】
図3の統計結果を等温予測モデル式(1)でフィッティングし、様々な温度での等温モデルのパラメータn*、Q、M
0をフィッティングして決定することにより、様々な温度での等温式が得られる。すなわち、得られた1100、1150、1200、1250、1300℃での保温過程におけるオーステナイト等温予測モデルはそれぞれ、
【数14】
【数15】
【数16】
【数17】
【数18】
である。
【0031】
ここで、上記式(1)は、次のように導出された等温過程におけるオーステナイト成長モデルである。
【0032】
古典的な等温モデル(a)を時間tについて微分すると、オーステナイト成長の速度方程式(b)が得られる。式(c)は、粒界移動速度と粒界移動駆動力との関係であり、MとΔFはそれぞれ式(d)と(e)から計算される。
【数19】
【数20】
【数21】
【数22】
【数23】
【0033】
ステップ5)n*、Q及びM0と温度Tとの関係の決定
【0034】
ステップ4)様々な温度の保温過程で決定されたn*、Q、M0値に対してフィッティング分析を行うことにより、n*、Q及びM0と温度Tとの関数関係は、次のように決定され、
n*=f(T) (2)
M0=g(T) (3)
Q=h(T) (4)
22MnB5鋼のフィッティング結果は、
n*=-0.0003T+2.6982 (14)
M0=2.95×105 (15)
Q=-2.026T+66185 (16)である。
【0035】
ステップ6)非等温過程におけるオーステナイト粒の成長速度の温度に伴う変化関係の決定
【0036】
式(14~16)を式(5)に代入すると、得られた22MnB5鋼のオーステナイト成長速度の温度に伴う変化関係は、
【数24】
である。
【0037】
ここで、上記式(5)は、式(1)の時間tを微分することで得られる。ステップ5で得られたパラメータの時間変化に伴う関数を式(5)に代入すると、該鋼種のオーステナイト成長速度の関数式(6)が得られる。
【0038】
ここで、なお、温度変化は、第2相のピニング力及び溶質ドラッグ抵抗を変化させ、さらにオーステナイト成長モデルにおけるパラメータn*、Q、M0を変化させる。現在の研究では、モデルパラメータは、一般的に単純に定数値として決定されているため、特定の熱処理プロセス及び鋼種にのみ適用できる。本方法では、モデルパラメータの温度変化に伴う関数が決定されるため、モデルを適用できる鋼種の範囲及び熱処理プロセスの範囲が大幅に向上する。所与の任意の成分の鋼について、有限数の等温実験により、モデルパラメータの温度変化に伴う関数を決定し、さらに様々な温度でのオーステナイト成長の速度方程式を決定する。速度方程式により、鋳片の降温過程、昇温過程及び等温過程におけるオーステナイト成長を計算できる。
【0039】
ステップ7)TSCRプロセスの様々なプロセスノードでのオーステナイト粒径の予測
【0040】
TSCRプロセスの連続鋳造及び均熱過程における鋳片の温度の時間に伴う変化法則は、
【数25】
であり、
式(18)を式(17)に代入すると、TSCRプロセスの連続鋳造及び均熱過程におけるオーステナイト成長速度の時間に伴う変化関係が得られる。これにより、式(8)、(17)、(18)を組み合わせることで、任意の時点でのTSCRプロセスの鋳片のオーステナイト粒径が得られる。
【0041】
いずれの熱処理プロセスについて、それに対応する温度-時間関数T=p(t)があり、TSCRプロセスの温度-時間関数は式(18)である。これをオーステナイト成長速度の温度変化に伴う関数に代入すると、オーステナイト成長速度の時間に伴う関数、式(7)が得られる。式(7)を定積分すると、該プロセスの任意の時点でのオーステナイト粒径、式(8)が得られる。
【0042】
ここで、なお、マイクロ合金元素の鋼における存在方式は2種類ある。1つは鋼マトリックスに固溶することであり、もう1つは第2相の形で析出することである。鋳片中の第2相は、オーステナイトの成長にピニング阻害作用を有する。温度変化は、鋳片中の第2相の析出量と粒子径を変化させ、さらに第2相のピニング力及び溶質ドラッグ抵抗を変化させる。正確で信頼性の高いオーステナイト成長のモデルを得るために、これら2つの抵抗がオーステナイト成長に及ぼす影響を考慮する必要がある。実際には、鋼中の元素が複雑であるため、鋼中に複数種の第2相が同時に存在する可能性があり、それらをそれぞれ正確に計算することは困難である。本発明は、等温実験によってn*、Q、M0の温度変化に伴う関数を直接決定するという別のアイデアを採用して、第2相のピニング力及び溶質ドラッグ抵抗に関する複雑な計算を回避する。
【0043】
ステップ8)予測結果の検証
【0044】
高温共焦点顕微鏡により、TSCRプロセスの連続鋳造及び均熱過程をシミュレーションし、様々なプロセス時点でサンプリングし、急冷し、TSCRプロセスの温度レジームを
図4に示す。ステップ2)及びステップ3)を通じてTSCRプロセスの様々な時点のサンプルに対して腐食統計を行い、統計結果を式(8)の予測結果と比較・検証し、検証結果を
図5に示す。
図5の検証結果は、該予測モデルが実験で測定されたデータに近く、平均誤差が0.0323であり、生産を良好に指導できることを示している。