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特許7587888リチウム2次電池及びその使用方法、並びにリチウム2次電池の製造方法
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  • 特許-リチウム2次電池及びその使用方法、並びにリチウム2次電池の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】リチウム2次電池及びその使用方法、並びにリチウム2次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20241114BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241114BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241114BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20241114BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20241114BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M10/052
H01M10/058
H01M4/66 A
H01M10/44 P
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023522051
(86)(22)【出願日】2021-05-18
(86)【国際出願番号】 JP2021018822
(87)【国際公開番号】W WO2022244110
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】522369728
【氏名又は名称】TeraWatt Technology株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】大山 剛輔
(72)【発明者】
【氏名】緒方 健
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/118834(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/158181(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3605678(EP,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0064424(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00
H01M 10/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極活物質を有しない負極とを備え、
前記正極が、正極活物質と、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物とを含む、
リチウム2次電池。
【請求項2】
カットオフ電圧が4.3V以上5.0V以下である充電条件により初期充電された、請求項1に記載のリチウム2次電池。
【請求項3】
前記リチウム含有化合物の含有量が、前記正極の総質量に対して1.0質量%以上15.0質量%以下である、請求項1又は2に記載のリチウム2次電池。
【請求項4】
前記リチウム含有化合物が、LiMnCo1-x(0.2≦x≦0.8)で表される化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【請求項5】
前記負極は、Cu、Ni、Ti、Fe、その他Liと合金化しない金属、及びこれらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなる電極である、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【請求項6】
エネルギー密度が350Wh/kg以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウム2次電池の使用方法であって、
4.3V以上5.0V以下のカットオフ電圧で充電した後に、少なくとも1回の放電工程と少なくとも1回の充電工程とを含む充放電サイクルを実施することを含み、
前記充放電サイクルにおける充電工程のカットオフ電圧が、4.3V以上5.0V以下のカットオフ電圧で実施される第1回目の充電時のカットオフ電圧未満となるように実施される、使用方法。
【請求項8】
正極活物質と、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物とを含む正極、及び負極活物質を有しない負極を準備する工程と、
前記正極と前記負極とを両者が対向するように配置する工程と、
前記正極と前記負極との間に電圧を印加して、カットオフ電圧が4.3V以上5.0V以下である充電条件により初期充電する工程と、
を含む、リチウム2次電池の製造方法。
【請求項9】
前記リチウム含有化合物の含有量が、前記正極の総質量に対して1.0質量%以上15.0質量%以下である、請求項8に記載のリチウム2次電池の製造方法。
【請求項10】
前記リチウム含有化合物が、LiMnCo1-x(0.2≦x≦0.8)で表される化合物である、請求項8又は9に記載のリチウム2次電池の製造方法。
【請求項11】
前記負極は、Cu、Ni、Ti、Fe、その他Liと合金化しない金属、及びこれらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなる電極である、請求項8~10のいずれか1項に記載のリチウム2次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム2次電池及びその使用方法、並びにリチウム2次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光又は風力等の自然エネルギーを電気エネルギーに変換する技術が注目されている。これに伴い、安全性が高く、かつ多くの電気エネルギーを蓄えることができる蓄電デバイスとして、様々な2次電池が開発されている。
【0003】
その中でも、正極及び負極の間をリチウムイオンが移動することで充放電を行うリチウム2次電池は、高電圧及び高エネルギー密度を示すことが知られている。典型的なリチウム2次電池として、正極及び負極にリチウム元素を保持することのできる活物質を有し、当該正極活物質及び負極活物質の間でのリチウムイオンの授受によって充放電をおこなうリチウムイオン2次電池(LIB)が知られている。
【0004】
また、高エネルギー密度化の実現を目的として、負極活物質として、炭素材料のようなリチウムイオンを挿入することができる材料に代えて、リチウム金属を用いるリチウム2次電池(リチウム金属電池;LMB)が開発されている。例えば、特許文献1には、負極としてリチウム金属をベースとする電極を用いる充電型電池が開示されている。
【0005】
また、更なる高エネルギー密度化や生産性の向上等を目的として、炭素材料やリチウム金属といった負極活物質を有しない負極を用いるリチウム2次電池が開発されている。例えば、特許文献2には、正極、負極、これらの間に介在された分離膜及び電解質を含むリチウム2次電池において、前記負極は、負極集電体上に金属粒子が形成され、充電によって前記正極から移動され、負極内の負極集電体上にリチウム金属を形成する、リチウム2次電池が開示されている。特許文献2は、そのようなリチウム2次電池は、リチウム金属の反応性による問題と、組み立ての過程で発生する問題点を解決し、性能及び寿命が向上されたリチウム2次電池を提供することができることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2006-500755号公報
【文献】特表2019-505971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが、上記特許文献に記載のものを始めとする従来の電池を詳細に検討したところ、エネルギー密度及びサイクル特性の少なくともいずれかが十分でないことがわかった。
【0008】
例えば、負極活物質を有する負極を備えるリチウム2次電池は、その負極活物質の占める体積や質量に起因して、エネルギー密度を十分高くすることが困難である。また、負極活物質を有しない負極を備えるアノードフリー型リチウム2次電池についても、従来型のものは、充放電を繰り返すことにより負極表面上にデンドライト状のリチウム金属が形成されやすく、短絡及び容量低下が生じやすいため、サイクル特性が十分でない。
【0009】
ところで、リチウム2次電池について、生産性を向上させるために種々の検討が行われている。例えば、リチウム2次電池の各構成の材料、特に正極の材料は大気下での安定性が低い場合があり、そのような場合には、通常の工程で使用されるドライルーム以上に湿度等を精密に管理して電池を製造しなければならないという問題がある。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、エネルギー密度が高く、サイクル特性及び生産性に優れるリチウム2次電池及びその使用方法、並びにリチウム2次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態に係るリチウム2次電池は、正極と、負極活物質を有しない負極とを備え、上記正極が、正極活物質と、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物とを含む。
【0012】
かかるリチウム2次電池は、負極活物質を有しないため、負極活物質を有するリチウム2次電池と比較して、電池全体の体積及び質量が小さく、エネルギー密度が原理的に高い。そのような電池は、リチウム金属が負極の表面に析出し、及び、その析出したリチウム金属が電解溶出することによって充放電が行われる。
【0013】
また、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物は、通常の正極活物質の充放電電位範囲において、酸化反応を生じ得るのに対して還元反応を実質的に生じない。したがって、上記のリチウム含有化合物を含むリチウム2次電池において、リチウム含有化合物は電池の初期充電時に酸化反応を生じる(すなわち、リチウムイオンを放出する。)一方で、その後の放電時には還元反応を実質的に生じず(すなわち、放電前のリチウム含有化合物が再形成されない。)、当該リチウム含有化合物に由来するリチウム元素は、負極表面上にリチウム金属として残留する。そして、そのように初期充電後に負極表面上にリチウム金属が残留することとなったリチウム2次電池では、当該残留リチウム金属がその後の充電時において、更なるリチウム金属が負極表面上に析出する際の足場となると考えられ、リチウム金属が負極表面上に均一に析出することを補助すると考えられる。以上のことから、本発明の一実施形態に係るリチウム2次電池は、負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが抑制され、当該リチウム2次電池はサイクル特性に優れたものとなる。ただし、本発明の一実施形態に係るリチウム2次電池がサイクル特性に優れる要因はこれに限定されない。
さらに上記のリチウム含有化合物は大気中の微量水分に対する安定性に優れるため、経済的に合理的な方法で(生産性高く)エネルギー密度が高く、サイクル特性に優れたリチウム2次電池を提供可能である。
【0014】
上記のリチウム2次電池は、好ましくは、カットオフ電圧が4.3V以上5.0V以下である充電条件により初期充電されたものである。
LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物は電池の電圧が4.3V程度となる条件で酸化反応を生じ始めるため、上記の態様によれば、上記のリチウム含有化合物の上記で詳述した犠牲正極剤としての機能が一層好ましく奏され、リチウム2次電池はサイクル特性が一層向上する傾向にある。
【0015】
上記リチウム含有化合物の含有量は、好ましくは、上記正極の総質量に対して1.0質量%以上15.0質量%以下である。この態様によれば、上記のリチウム含有化合物の犠牲正極剤としての機能が一層好ましく奏され、リチウム2次電池はサイクル特性が一層向上する傾向にある。
【0016】
上記リチウム含有化合物は、好ましくは、LiMnCo1-x(0.2≦x≦0.8)で表される化合物である。この態様によれば、上記のリチウム含有化合物の犠牲正極剤としての機能が一層好ましく奏され、リチウム2次電池はサイクル特性が一層向上する傾向にある。また、リチウム2次電池の生産性も一層向上する傾向にある。
【0017】
上記負極は、Cu、Ni、Ti、Fe、その他Liと合金化しない金属、及びこれらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなる電極であってよい。この態様によれば、リチウム2次電池は一層安全性及び生産性に優れる傾向にある。
【0018】
上記のリチウム2次電池は、好ましくは、エネルギー密度が350Wh/kg以上である。
【0019】
本発明の一実施形態に係るリチウム2次電池は、リチウム2次電池の使用方法であって、4.3V以上5.0V以下のカットオフ電圧で充電した後に、少なくとも1回の放電工程と少なくとも1回の充電工程とをこの順に含む充放電サイクルを実施することを含み、上記充放電サイクルにおける充電工程のカットオフ電圧が、4.3V以上5.0V以下のカットオフ電圧で実施される第1回目の初期充電のカットオフ電圧未満となるように実施される使用方法により、使用されることが好ましい。
【0020】
本発明の一実施形態に係るリチウム2次電池の製造方法は、正極活物質と、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物とを含む正極、及び負極活物質を有しない負極を準備する工程と、上記正極と上記負極とを両者が対向するように配置する工程と、上記正極と上記負極との間に電圧を印加して、カットオフ電圧が4.3V以上5.0V以下である充電条件により初期充電する工程と、を含む。
【0021】
そのような製造方法によれば、負極が負極活物質を有しないことに起因してエネルギー密度が高い電池を製造することができる。また、そのような製造方法において、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物は上記で詳述したような犠牲正極剤としての機能を有効かつ確実に奏するため、そのような方法により製造されたリチウム2次電池はサイクル特性も優れる。さらに、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物は大気中の微量水分に対する安定性に優れ、厳密に湿度等の制御をすることなしに取り扱うことができるため、上記の製造方法は生産性が高い。
【0022】
上記の製造方法において、上記リチウム含有化合物の含有量は、好ましくは、上記正極の総質量に対して1.0質量%以上15.0質量%以下である。この態様によれば、一層サイクル特性の優れたリチウム2次電池を製造できる傾向にある。
【0023】
上記の製造方法において、上記リチウム含有化合物は、好ましくは、LiMnCo1-x(0.2≦x≦0.8)で表される化合物である。この態様によれば、一層サイクル特性の優れたリチウム2次電池を生産性高く製造できる傾向にある。
【0024】
上記の製造方法において、上記負極は、好ましくは、Cu、Ni、Ti、Fe、その他Liと合金化しない金属、及びこれらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなる電極である。この態様によれば、一層安全性及び生産性に優れたリチウム2次電池を製造できる傾向にある。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、エネルギー密度が高く、サイクル特性及び生産性に優れるリチウム2次電池及びその使用方法、並びにリチウム2次電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】第1の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。
図2】第1の本実施形態に係るリチウム2次電池の使用の概略断面図である。
図3】第2の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。
図4】第2の本実施形態に係るリチウム2次電池における緩衝機能層の概略断面図であり、(A)は緩衝機能層の一実施形態であるファイバ状の緩衝機能層を示し、(B)はファイバ状の緩衝機能層にリチウム金属が析出する析出態様を示し、(C)はファイバ状の緩衝機能層を構成する部材の一実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。また、以下、複数の本実施形態について詳述するが、各実施形態における記載中、「本実施形態」として記載された内容は、当該実施形態以外の実施形態にも適用することができる。例えば、第1の本実施形態において、「本実施形態の負極は、負極活物質を有しないものである」との記載がある場合、それ以外の実施形態においても当該記載を適用することができる。
【0028】
[第1実施形態]
(リチウム2次電池)
図1は、第1の本実施形態(以下、「第1実施形態」という。)に係るリチウム2次電池の概略断面図である。図1に示すように、第1実施形態のリチウム2次電池100は、正極110と、負極活物質を有しない負極130とを備える。正極110は、正極活物質と、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物とを含むものである。
また、リチウム2次電池100は、正極110と負極130との間にセパレータ120を備え、正極110は、セパレータ120に対向する面とは反対側の面に正極集電体140を有する。
【0029】
なお、本明細書に開示される本実施形態のリチウム2次電池は、典型的には、電解液を備える液体電解質系リチウム2次電池(特に非水電解液系リチウム2次電池)、ポリマー電解質を備える固体若しくは半固体電解質系リチウム2次電池、又はゲル電解質を備えるゲル電解質系リチウム2次電池である。ただし、本発明の課題を解決する限りにおいて、本実施形態のリチウム2次電池は、それ以外の、例えば無機固体電解質を備える全固体電池であってもよい。
以下、各構成について詳細に説明する。
【0030】
(負極)
本実施形態の負極は、負極活物質を有しないものである。本明細書において、「負極活物質」とは、負極において電極反応、すなわち酸化反応及び還元反応を生じる物質である。具体的には、本明細書における負極活物質としては、リチウム金属、及びリチウム元素(リチウムイオン又はリチウム金属)のホスト物質が挙げられる。リチウム元素のホスト物質とは、リチウムイオン又はリチウム金属を負極に保持するために設けられる物質を意味する。そのような保持の機構としては、特に限定されないが、例えば、インターカレーション、合金化、及び金属クラスターの吸蔵等が挙げられ、典型的には、インターカレーションである。
【0031】
本実施形態のリチウム2次電池は、電池の初期充電前に負極が負極活物質を有しないため、負極上にリチウム金属が析出し、及び、その析出したリチウム金属が電解溶出することによって充放電が行われる。したがって、本実施形態のリチウム2次電池は、負極活物質を有するリチウム2次電池と比較して、負極活物質が占める体積及び負極活物質の質量が削減され、電池全体の体積及び質量が小さくなるため、エネルギー密度が原理的に高い。
【0032】
上記のとおり本実施形態のリチウム2次電池は、電池の初期充電前に負極が負極活物質を有せず、電池の充電により負極上にリチウム金属が析出し、電池の放電によりその析出したリチウム金属が電解溶出する。したがって、本実施形態のリチウム2次電池において、負極は負極集電体として働く。
【0033】
本実施形態のリチウム2次電池をリチウムイオン電池(LIB)及びリチウム金属電池(LMB)と比較すると、以下の点で異なるものである。
リチウムイオン電池(LIB)において、負極はリチウム元素(リチウムイオン又はリチウム金属)のホスト物質を有し、電池の充電によりかかる物質にリチウム元素が充填され、ホスト物質がリチウム元素を放出することにより電池の放電が行われる。LIBは、負極がリチウム元素のホスト物質を有する点で、本実施形態のリチウム2次電池とは異なる。
リチウム金属電池(LMB)は、その表面にリチウム金属を有する電極か、あるいはリチウム金属単体を負極として用いて製造される。すなわち、LMBは、電池を組み立てた直後、すなわち電池の初期充電前に、負極が負極活物質であるリチウム金属を有する点で、本実施形態のリチウム2次電池とは異なる。LMBは、その製造に、可燃性及び反応性が高いリチウム金属を含む電極を用いるが、本実施形態のリチウム2次電池はリチウム金属を有しない負極を用いて製造されるため、より安全性及び生産性に優れるものである。また、本実施形態のリチウム2次電池は、LMBに比べてもエネルギー密度及びサイクル特性に優れるものである。
【0034】
本明細書において、負極が「負極活物質を有しない」とは、負極が負極活物質を有しないか、実質的に有しないことを意味する。負極が負極活物質を実質的に有しないとは、負極における負極活物質の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であることを意味する。負極における負極活物質の含有量は、負極全体に対して、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。負極が負極活物質を有せず、又は、負極における負極活物質の含有量が上記の範囲内にあることにより、リチウム2次電池のエネルギー密度が高いものとなる。
【0035】
本明細書において、「負極活物質を有しない負極を備えるリチウム2次電池」とは、電池の初期充電前に、負極が負極活物質を有しないことを意味する。したがって、「負極活物質を有しない負極」との句は、「電池の初期充電前に負極活物質を有しない負極」、「電池の充電状態に依らずリチウム金属以外の負極活物質を有せず、かつ、初期充電前においてリチウム金属を有しない負極」、又は「初期充電前においてリチウム金属を有しない負極集電体」等と換言してもよい。また、「負極活物質を有しない負極を備えるリチウム電池」は、アノードフリーリチウム電池、ゼロアノードリチウム電池、又はアノードレスリチウム電池と換言してもよい。
【0036】
本明細書において、電池が「初期充電前である」とは、電池が組み立てられてから第1回目の充電をするまでの状態を意味する。また、電池が「放電終了時である」とは、それ以上電池の電圧を低下させても正極活物質が関与する放電反応が実質的に生じない状態を意味し、その際の電池の電圧は、例えば1.0~3.5V、2.0~3.2V、又は2.5~3.0Vである。
【0037】
本実施形態の負極は、電池の充電状態によらず、リチウム金属以外の負極活物質の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。
また、本実施形態の負極は、初期充電前において、リチウム金属の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以下、又は0.1質量%以下である。本実施形態の負極は、特に好ましくは、初期充電前においてリチウム金属を有せず、すなわち、リチウム金属の含有量が、負極全体に対して0質量%である。
【0038】
本実施形態のリチウム2次電池は、電池の電圧が2.5V以上3.5V以下である場合において、リチウム金属の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であってもよく(好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよい。);又は、電池の電圧が2.5V以上3.0V以下である場合において、リチウム金属の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であってもよい(好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよい。)。
【0039】
また、本実施形態のリチウム2次電池において、電池の電圧が4.2Vの状態において負極上に析出しているリチウム金属の質量M4.2に対する、電池の電圧が3.0Vの状態において負極上に析出しているリチウム金属の質量M3.0の比M3.0/M4.2は、好ましくは30%以下であり、より好ましくは25%以下であり、更に好ましくは20%以下である。比M3.0/M4.2は、1.0%以上であってもよく、2.0%以上であってもよく、3.0%以上であってもよく、4.0%以上であってもよい。
【0040】
本明細書における負極活物質の例としては、リチウム金属及びリチウム金属を含む合金、炭素系物質、金属酸化物、並びにリチウムと合金化する金属及び該金属を含む合金が挙げられる。上記炭素系物質としては、特に限定されないが、例えば、グラフェン、グラファイト、ハードカーボン、メソポーラスカーボン、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーンが挙げられる。上記金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化チタン系化合物、酸化スズ系化合物、及び酸化コバルト系化合物が挙げられる。上記リチウムと合金化する金属としては、例えば、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アルミニウム、及びガリウムが挙げられる。
【0041】
本実施形態の負極としては、負極活物質を有せず、集電体として用いることができるものであれば特に限定されないが、例えば、Cu、Ni、Ti、Fe、その他Liと合金化しない金属、及びこれらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなる電極が挙げられ、好ましくは、Cu、Ni、及びこれらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなる電極が挙げられる。このような負極を用いると、電池のエネルギー密度、及び生産性が一層優れたものとなる傾向にある。
なお、負極にSUSを用いる場合、SUSの種類としては従来公知の種々のものを用いることができる。上記のような負極材料は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。なお、本明細書中、「Liと合金化しない金属」とは、リチウム2次電池の動作条件においてリチウムイオン又はリチウム金属と反応して合金化することがない金属を意味する。
【0042】
本実施形態の負極の平均厚さは、好ましくは4μm以上20μm以下であり、より好ましくは5μm以上18μm以下であり、更に、好ましくは6μm以上15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池における負極の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。
なお、本明細書において、「平均厚さ」とは、対象の部材を走査型電子顕微鏡や光学顕微鏡を用いて拡大観察し、3箇所以上の部分の厚さを測定したときの相加平均を意味する。
【0043】
(正極)
本実施形態の正極は、正極活物質と、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物とを含む。正極が正極活物質を含むため、本実施形態のリチウム2次電池は、安定性に優れ、高い出力電圧を有するものとなる。
【0044】
本明細書において、「正極活物質」とは、正極において電極反応、すなわち酸化反応及び還元反応を生じる物質である。具体的には、リチウム元素(典型的には、リチウムイオン)のホスト物質が挙げられる。本明細書における正極活物質は、典型的には、本実施形態のリチウム2次電池の電圧が3.0~4.2Vの範囲である条件において酸化還元反応を生じる物質であるか、あるいは、3.0~4.2V(vs.Li/Li基準電極)の電位範囲において酸化還元反応を生じる物質である。
そのような正極活物質としては、特に限定されないが、例えば、金属酸化物及び金属リン酸塩が挙げられる。金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化コバルト系化合物、酸化マンガン系化合物、及び酸化ニッケル系化合物が挙げられる。上記金属リン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、リン酸鉄系化合物、及びリン酸コバルト系化合物が挙げられる。
典型的な正極活物質としては、LiCoO、LiNiCoMnO(x+y+z=1)、LiNiCoAlO(x+y+z=1)、LiNiMnO(x+y=1)、LiNiO、LiMn、LiFePO、LiCoPO、LiFeOF、LiNiOF、及びLiTiSが挙げられる。上記のような正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。本実施形態の正極活物質は、好ましくは、LiCoO、LiNiCoMnO(x+y+z=1)、LiNiCoAlO(x+y+z=1)、LiNiMnO(x+y=1)、LiNiO、及びLiMnからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0045】
本実施形態の正極は、正極活物質に加えて、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物を含む。
LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物は、上述したような正極活物質の充放電電位範囲において、酸化反応を生じ得る一方、還元反応を実質的に生じない。したがって、本実施形態のリチウム2次電池を初期充電すると、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物は酸化反応を生じると共にリチウムイオンを放出し、外部回路を通じて負極に電子を放出する。その結果、上記リチウム含有化合物に由来するリチウムイオンは、リチウム金属として負極の表面に析出する。また、本実施形態のリチウム2次電池を初期充電完了後に放電する(すなわち、初期放電する)と、負極表面に析出したリチウム金属が電解溶出し、外部回路を通じて負極から正極に電子が移動するものの、上記リチウム含有化合物は、通常の放電条件では還元反応を実質的に生じず、酸化反応を生じる前の状態に戻ることが実質的に不可能である。
したがって、本実施形態のリチウム2次電池を初期充電の後に放電させると、上記リチウム含有化合物に由来するリチウム金属は、そのほとんどが負極上に残留することとなり、電池の放電完了後においても、負極上に一部のリチウム金属が残留することとなる。当該残留リチウム金属は、初期放電に続く充電ステップにおいて、更なるリチウム金属が負極表面上に析出する際の足場となると考えられ、リチウム金属が負極表面上に均一に析出することを補助すると考えられる。その結果、本実施形態のリチウム2次電池では負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが抑制され、本実施形態のリチウム2次電池はサイクル特性に優れたものとなる。ただし、本実施形態に係るリチウム2次電池がサイクル特性に優れる要因はこれに限定されない。
【0046】
電池の分野において、一般的に、正極に添加される添加剤であって、正極活物質の充放電電位範囲において酸化反応を生じ、かつ、還元反応を実質的に生じない添加剤を犠牲正極剤という。犠牲正極剤としては各種の電池において様々な材料が提案されている。
本発明者らは、負極活物質を有しない負極を備えるリチウム2次電池(アノードフリー2次電池)において、そのような犠牲正極剤の中でも、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物を用いるとサイクル特性が一層向上することを見出した。
【0047】
また、本発明者らは、その要因として少なくとも以下のことを見出した。
(1)グラファイト材料等の負極活物質を有する負極を用いたリチウムイオン電池では、カットオフ電圧が4.3Vを超えないように初期充電を行うことが通常であり、それを超えて充電を行った場合には、電解液及び/又は活物質が分解等することによりサイクル特性が低下する。他方、負極活物質を有しない負極を備えるリチウム2次電池(アノードフリー2次電池)では、初期充電においてカットオフ電圧が4.3Vを超えて5.0V程度に到達するまで充電したとしてもサイクル特性の低下が生じないことを本発明者らは見出した。これは、アノードフリー2次電池では、負極電位が相対的に低いことが寄与しているものと考えられる。
(2)LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物を、負極活物質を有しない負極を備えるリチウム2次電池(アノードフリー2次電池)に犠牲正極剤として含有させた場合、初期充電において電池の電圧が4.3V程度となる条件で当該リチウム含有化合物がリチウムイオンを放出することを見出した。
【0048】
また、本発明者らは、(3)LiMnOで表されるリチウム含有化合物を犠牲正極剤として用いる場合、カットオフ電圧を5.0V程度としても十分にリチウムの放出反応が生じず、LiMnOは犠牲正極剤としての機能を十分に発揮しないこと、(4)LiCoOで表されるリチウム含有化合物を犠牲正極剤として用いる場合、当該リチウム含有化合物が大気中に含まれる微量水分に対して不安定であること、(5)驚くべきことにLiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物であれば上記の(3)及び(4)に記載の問題が生じないことを見出した。特に、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物はLiCoOで表されるリチウム含有化合物に比べて大気中における安定性が高い。具体的には、LiCoOのようなアルカリ性が高い材料を使用して正極を作製しようとすると、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のバインダーと混錬して正極合材スラリーを作製する際に、LiCoOが大気中の水分を吸収することで、正極合材スラリーが急激な粘度上昇及び/又はゲル化を生じてしまうが、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物はそのような問題が生じにくい。
したがって、本実施形態のリチウム2次電池は、犠牲正極剤として大気中における安定性が高いLiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物を用いるため、正極を作製する際に大気中の湿度等を厳密に調整する必要がなく、通常のドライルーム及び/又はグローブボックスにて製造することができ、生産性を高めることができる。なお、本明細書中、「生産性が高い」とは、時間当たりに製造できるリチウム2次電池の数が多いことだけでなく、特別な装置及び/又は環境を必要とせずにリチウム2次電池を製造することができることをも包含するものとする。
【0049】
本実施形態の正極中、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物のxは、0より大きい値であれば特に限定されないが、リチウム2次電池の生産性向上の観点から、好ましくは0.1以上である。同様の観点から上記xの値は、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.3以上であり、0.4以上、0.5以上、又は0.6以上であってもよい。
また、上記xの値は、1より小さい値であれば特に限定されないが、リチウム2次電池のサイクル特性向上の観点から、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.8以下、更に好ましくは0.7以下である。上記xの値は、0.6以下、0.5以下、又は0.4以下であってもよい。
上記xの値は、上記の上限値及び下限値を任意に組み合わせて得られる範囲内としてもよく、例えば0.1≦x≦0.9、0.2≦x≦0.8、又は0.3≦x≦0.7であってよい。
本実施形態の正極は、組成が異なる上記リチウム含有化合物を2種以上含んでいてもよく、1種のリチウム含有化合物のみを含んでいてもよい。また、上記リチウム含有化合物は、市販のものを用いてもよく、従来公知の方法により製造してもよい。上記リチウム含有化合物の具体的な製造方法は後述する。
【0050】
上記のとおり、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物は、初期充電において電池の電圧が4.3V程度となる条件でリチウムイオンを放出し始める傾向にある。したがって、本実施形態のリチウム2次電池は、好ましくはカットオフ電圧が4.3V以上5.0V以下である充電条件により初期充電されたものである。そのような条件で初期充電をすることにより、リチウム2次電池のサイクル特性が一層向上する傾向にある。
ここで、本明細書において、「カットオフ電圧が値Xである充電条件により初期充電される」とは、電池が組み立てられてから第1回目の充電をする際に、電池の電圧が値Xになるまで充電を続けることを意味する。
リチウム2次電池のサイクル特性が一層向上する観点から、本実施形態のリチウム2次電池は、より好ましくはカットオフ電圧が4.3V超、又は4.4V以上である充電条件により初期充電される。初期充電におけるカットオフ電圧は、4.5V以上、4.6V以上、又は4.7V以上としてもよい。
【0051】
また、本実施形態のリチウム2次電池は、好ましくはカットオフ電圧が5.0V以下である充電条件により初期充電される。そのような条件で初期充電をすることにより、正極活物質及び/又は電解質の分解が確実に抑制されるため、リチウム2次電池のサイクル特性が一層向上する傾向にある。
リチウム2次電池のサイクル特性が一層向上する観点から、本実施形態のリチウム2次電池は、カットオフ電圧が、より好ましくは5.0V未満、又は4.9V以下、更に好ましくは4.8V以下、更により好ましくは4.7V以下である充電条件により初期充電される。初期充電におけるカットオフ電圧は、4.6V以下、又は4.5V以下としてもよい。
【0052】
上記初期充電におけるカットオフ電圧は、上記の上限値及び下限値を任意に組み合わせて得られる範囲内としてもよく、例えば4.3V超5.0V未満、4.4V以上4.9V以下、又は4.4V以上4.7V以下であってよい。
なお、本実施形態のリチウム2次電池は、初期充電後に使用者に提供されてもよく、初期充電前に使用者に提供されてもよい。初期充電前に使用者に提供される場合、本実施形態のリチウム2次電池は、後述する本実施形態のリチウム2次電池の使用方法に従って、使用されることが好ましい。具体的には、最初の使用の際に、カットオフ電圧が4.3V以上5.0V以下である充電条件により充電されることが好ましい。
【0053】
上記のとおり、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物は、上述したような正極活物質の充放電電位範囲において、酸化反応を生じ得る一方、還元反応を実質的に生じない。本明細書において、「正極活物質の充放電電位範囲において酸化反応を生じ得る」とは、正極活物質の充放電電位範囲において、酸化反応を生じてリチウムイオン及び電子を放出すること(酸化反応により分解され、リチウムイオンを放出することも含む。)が可能であることを意味する。また、「正極活物質の充放電電位範囲において還元反応を実質的に生じない」とは、正極活物質の充放電電位範囲において、当業者にとって通常の反応条件では、還元反応を生じてリチウムイオン及び電子を受け取ること、又は還元反応を介して生成することが不可能、又は実質的に不可能であることを意味する。「当業者にとって通常の反応条件」とは、例えば、リチウム2次電池を放電する際の条件を意味する。
ただし、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物は、電池の電圧を通常の電池の作動電圧領域よりも十分小さくすることにより還元反応を生じてリチウムイオン及び電子を受け取ることができる。そのような条件としては、電池の電圧が例えば2.0V以下である条件が挙げられる。
【0054】
本実施形態のリチウム2次電池の初期充電において、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物は、容量比で、製造時の添加量の例えば50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、又は99%以上がリチウムイオンを放出した酸化状態となる。
本実施形態のリチウム2次電池の初期放電において、初期充電により酸化状態となったリチウム含有化合物は、実質的に還元されない。リチウム含有化合物における、初期充電の容量に対する初期放電の容量は、例えば20%以下(例えば、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、1%以下、又は0%)である。
【0055】
なお、本明細書において、「正極活物質の充放電電位範囲」とは、正極に含まれる正極活物質の酸化反応及び還元反応が行われ得る電位範囲を意味する。具体的な値は、正極活物質の種類に依存するが、典型的には、Li/Li基準電極に対して、2.5V以上、2.7V以上、3.0V以上、3.2V以上、又は3.5V以上であり、かつ、4.6V以下、4.5V以下、4.4V以下、4.3V以下、4.2V以下、4.1V以下、又は4.0V以下である。正極活物質の充放電電位範囲の代表的な範囲は、3.0V以上4.2V以下(vs.Li/Li基準電極)であり、その上限値及び下限値は、上述した任意の数値に、独立に置き換えることができる。
【0056】
上述したLi/Li基準電極に対する正極活物質の充放電電位範囲は、リチウム2次電池の動作電圧範囲を参照してもよく、例えば、リチウム2次電池の動作電圧が3.0V以上4.2V以下である場合、Li/Li基準電極に対する正極活物質の充放電電位範囲を3.0V以上4.2V以下と見積もることができる。
すなわち、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物は、リチウム2次電池の動作電圧範囲において、酸化反応を生じ得る一方、還元反応を実質的に生じないと換言してもよい。なお、典型的には、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物は、リチウム2次電池の動作電圧範囲よりもより高電圧側で主たる酸化反応を生じる傾向にある。
【0057】
本実施形態の正極は、正極活物質及びLiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、特に限定されないが、例えば、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物以外の犠牲正極剤、導電助剤、バインダー、及び電解質が挙げられる。
【0058】
LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物以外の犠牲正極剤としては、特に限定されないが、例えば、Liのようなリチウム酸化物;LiNのようなリチウム窒化物;LiS-P、LiS-LiCl、LiS-LiBr、及びLiS-LiIのようなリチウム硫化物系固溶体;Li1+x(Ti1-yFe1-x(0<x≦0.25、0.4<y≦0.9)、Li2-xTi1-zFe3-y(0≦x<2、0≦y≦1、0.05≦z≦0.95)、及びLiFeOのような鉄系リチウム酸化物等が挙げられる。上記のようなリチウム含有化合物以外の犠牲正極剤は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0059】
導電助剤としては、特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)、カーボンナノファイバー(CF)、及びアセチレンブラックが挙げられる。
また、バインダーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリビニリデンフロライド、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル樹脂、及びポリイミド樹脂等が挙げられる。上記のような導電助剤及びバインダーは、それぞれ、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0060】
本実施形態の正極が含み得る電解質としては、例えばポリマー電解質、ゲル電解質、及び無機固体電解質等が挙げられ、典型的にはポリマー電解質又はゲル電解質である。ポリマー電解質及びゲル電解質としては、後述するものを用いることができる。上記のような電解質は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0061】
本実施形態の正極における各成分の含有量は特に限定されない。正極における各成分の含有量は電池の充電状態によっても変わり得るが、例えば製造時における各成分の配合比によって規定することができる。あるいは、放電状態(放電終了時)における各成分の含有量によって規定してもよい。
【0062】
本実施形態の正極の製造時において、正極活物質及びLiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物の配合量の合計は、正極の総質量に対して、例えば50質量%以上100質量%以下、又は70質量%以上99質量%以下であってよい。当該正極活物質及びリチウム含有化合物の配合量の合計は、正極の総質量に対して、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは80質量%以上であり、更により好ましくは90質量%以上である。当該正極活物質及びリチウム含有化合物の配合量の合計は、正極の総質量に対して、好ましくは99質量%以下であり、より好ましくは98質量%以下である。
【0063】
本実施形態のリチウム2次電池の放電終了時における正極活物質及びLiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物の含有量の合計は、正極の総質量に対して、例えば50質量%以上100質量%以下、又は70質量%以上99質量%以下であってよい。当該正極活物質及びリチウム含有化合物の含有量の合計は、正極の総質量に対して、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは80質量%以上であり、更により好ましくは90質量%以上である。当該正極活物質及びリチウム含有化合物の含有量の合計は、正極の総質量に対して、好ましくは99質量%以下であり、より好ましくは98質量%以下である。
【0064】
本実施形態の正極の製造時において、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物の配合量は、正極の総質量に対して、例えば1.0質量%以上15質量%以下であってよい。当該リチウム含有化合物の含有量は、正極の総質量に対して、好ましくは1.0質量%以上であり、より好ましくは2.0質量%以上であり、更に好ましくは3.0質量%以上である。また、当該リチウム含有化合物の含有量は、正極の総質量に対して、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは12質量%以下であり、更に好ましくは10質量%以下であり、8.0質量%以下又は5.0質量%以下であってもよい。
【0065】
電池の初期充電によって、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物の少なくとも一部はリチウムイオン及び電子を放出して酸化状態となるものの、電池内部におけるLiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物の酸化状態及び還元状態の総和は初期充電の前後で一定であり、かつ、電池の充電状態にもよらず一定である。
したがって、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物の酸化状態及び還元状態の含有量の合計は、正極の総質量に対して、例えば1.0質量%以上15質量%以下であってよい。当該酸化状態及び還元状態の含有量の合計は、正極の総質量に対して、好ましくは1.0質量%以上であり、より好ましくは2.0質量%以上であり、更に好ましくは3.0質量%以上である。また、当該酸化状態及び還元状態の含有量の合計は、正極の総質量に対して、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは12質量%以下であり、更に好ましくは10質量%以下であり、8.0質量%以下又は5.0質量%以下であってもよい。
【0066】
LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物の酸化状態及び還元状態の含有量の合計は正極の製造時における当該リチウム含有化合物の配合量と同等である。また、電池を通常の充放電サイクルにおける電圧範囲よりも低電圧(例えば1.0V程度)まで掃引して当該リチウム含有化合物をLiMnCo1-x(0<x<1)で表される還元状態に戻した後、従来公知の方法でLiMnCo1-xの含有量を測定することにより当該酸化状態及び還元状態の含有量の合計を算出することも可能である。
なお、正極における正極活物質及びLiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物の含有量は、例えばX線回折測定(XRD)でピークの相対強度を比較する方法、もしくはRietveld法により測定することができる。
【0067】
導電助剤について、本実施形態の正極の製造時の配合量及び電池の放電終了時における含有量は、正極の総質量に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下、1.0質量%20質量%以下、又は1.5質量%10質量%以下であってもよい。
バインダーについて、本実施形態の正極の製造時の配合量及び電池の放電終了時における含有量は、正極の総質量に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下、1.0質量%20質量%以下、又は1.5質量%10質量%以下であってもよい。
電解質について、本実施形態の正極の製造時の配合量及び電池の放電終了時における含有量は、正極の総質量に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下、1.0質量%20質量%以下、又は1.5質量%10質量%以下であってもよい。
LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物以外の犠牲正極剤について、本実施形態の正極の製造時の配合量は、正極の総質量に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下、1.0質量%20質量%以下、又は1.5質量%10質量%以下であってもよい。
【0068】
本実施形態の正極の平均厚さは、例えば10μm以上300μm以下であり、好ましくは30μm以上200μm以下、又は50μm以上150μm以下である。ただし、正極の平均厚さは、所望する電池の容量に応じて適宜調整することができる。
【0069】
(正極集電体)
正極110の片側には、正極集電体140が形成されている。本実施形態の正極集電体は、電池においてリチウムイオンと反応しない導電体であれば特に限定されない。そのような正極集電体としては、例えば、アルミニウムが挙げられる。
【0070】
本実施形態の正極集電体の平均厚さは、好ましくは4μm以上20μm以下であり、より好ましくは5μm以上18μm以下であり、更に、好ましくは6μm以上15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池における正極集電体の占める体積が減少するため、リチウム2次電池のエネルギー密度が一層向上する。
【0071】
(セパレータ)
本実施形態のセパレータは、正極と負極とを隔離することにより電池が短絡することを防ぎつつ、正極と負極との間の電荷キャリアとなるリチウムイオンのイオン伝導性を確保するための部材である。すなわち、セパレータ120は、正極110と負極130を隔離する機能、及びリチウムイオンのイオン伝導性を確保する機能を有する。このようなセパレータとして、上記の2つの機能を有する1種の部材を単独で用いてもよいし、上記の1つの機能を有する部材を2種以上組み合わせて用いてもよい。セパレータとしては、上述した機能を担うものであれば特に限定されないが、例えば、絶縁性を有する多孔質の部材、ポリマー電解質、ゲル電解質、及び無機固体電解質が挙げられ、典型的には絶縁性を有する多孔質の部材、ポリマー電解質、及びゲル電解質からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0072】
セパレータが絶縁性を有する多孔質の部材を含む場合、かかる部材の細孔にイオン伝導性を有する物質が充填されることにより、かかる部材はイオン伝導性を発揮する。充填される物質としては、電解液、ポリマー電解質、及びゲル電解質が挙げられる。
本実施形態のセパレータは、絶縁性を有する多孔質の部材、ポリマー電解質、若しくはゲル電解質を1種単独で、又はそれらを2種以上組み合わせて用いることができる。ただし、セパレータとして絶縁性を有する多孔質の部材を単独で用いる場合、イオン伝導性を確保するためにリチウム2次電池は電解液を更に備える必要がある。
【0073】
上記の絶縁性を有する多孔質の部材を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば絶縁性高分子材料が挙げられ、具体的には、ポリエチレン(PE)、及びポリプロピレン(PP)が挙げられる。すなわち、本実施形態のセパレータは、多孔質のポリエチレン(PE)膜、多孔質のポリプロピレン(PP)膜、又はこれらの積層構造であってよい。
【0074】
上記のポリマー電解質としては、特に限定されないが、例えば高分子及び電解質を主に含む固体ポリマー電解質、並びに高分子、電解質、及び可塑剤を主に含む半固体ポリマー電解質が挙げられる。
上記のゲル電解質としては、特に限定されないが、例えば高分子及び液体電解質(すなわち、溶媒と電解質)を主に含むものが挙げられる。
【0075】
ポリマー電解質及びゲル電解質が含み得る高分子としては、特に限定されないが、例えばエーテル及びエステル等の酸素原子を含む官能基、ハロゲン基、並びにシアノ基のような極性基を含む高分子が挙げられる。具体的には、ポリエチレンオキサイド(PEO)のような主鎖及び/又は側鎖にエチレンオキサイドユニットを有する樹脂、ポリプロピレンオキサイド(PPO)のような主鎖及び/又は側鎖にプロピレンオキサイドユニットを有する樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、エステル樹脂、ナイロン樹脂、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリシロキサン、ポリホスファゼン、ポリメタクリル酸メチル、ポリアミド、ポリイミド、アラミド、ポリ乳酸、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、及びポリテトラフロロエチレンが挙げられる。上記のような樹脂は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0076】
ポリマー電解質及びゲル電解質に含まれる電解質としては、Li、Na、K、Ca、及びMgの塩等が挙げられる。典型的には本実施形態において、ポリマー電解質及びゲル電解質はリチウム塩を含む。
リチウム塩としては、特に限定されないが、例えば、LiI、LiCl、LiBr、LiF、LiBF、LiPF、LiAsF、LiSOCF、LiN(SOF)、LiN(SOCF、LiN(SOCFCF、LiB(O、LiB(C、LiB(O)F、LiB(OCOCF、LiNO、及びLiSOが挙げられ、好ましくはLiN(SOF)、LiN(SOCF、及びLiN(SOCFCFからなる群より選択される少なくとも1種である。上記のような塩、又はリチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0077】
ポリマー電解質及びゲル電解質における高分子とリチウム塩との配合比は、高分子の有する極性基と、リチウム塩の有するリチウム原子の比によって定めてもよい。例えば高分子が酸素原子を有する場合、高分子の有する酸素原子の数と、リチウム塩の有するリチウム原子の数の比([Li]/[O])によって定めてもよい。ポリマー電解質及びゲル電解質において、高分子とリチウム塩との配合比は、上記比([Li]/[O])が、例えば、0.02以上0.20以下、0.03以上0.15以下、又は0.04以上0.12以下になるように調整することができる。
【0078】
ゲル電解質に含まれる溶媒としては、特に限定されないが、例えば後述する電解液に含まれ得る溶媒を、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましい溶媒の例についても後述する電解液におけるものと同様である。
半固体ポリマー電解質に含まれる可塑剤としては、特に限定されないが、例えばゲル電解質に含まれ得る溶媒と同様の成分、及び種々のオリゴマーが挙げられる。
【0079】
本実施形態のセパレータは、セパレータ被覆層により被覆されていてもよい。セパレータ被覆層は、セパレータの両面を被覆していてもよく、片面のみを被覆していてもよい。セパレータ被覆層は、リチウムイオンと反応しない部材であれば特に限定されないが、セパレータと、セパレータに隣接する層とを強固に接着させることができるものであると好ましい。そのようなセパレータ被覆層としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースの合材(SBR-CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(Li-PAA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、及びアラミドのようなバインダーを含むものが挙げられる。セパレータ被覆層は、上記バインダーにシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、及び硝酸リチウム等の無機粒子を添加させてもよい。
【0080】
本実施形態のセパレータの平均厚さは、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは18μm以下であり、更に好ましくは15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池におけるセパレータの占める体積が減少するため、リチウム2次電池のエネルギー密度が一層向上する。また、セパレータの平均厚さは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは7μm以上であり、更に好ましくは10μm以上である。そのような態様によれば、正極と負極とを一層確実に隔離することができ、電池が短絡することを一層抑制することができる。
【0081】
(電解液)
リチウム2次電池100は、電解液を更に備えると好ましい。
電解液は、溶媒及び電解質を含む液体であり、イオン伝導性を有する。電解液は、液体電解質と換言してもよく、リチウムイオンの導電経路として作用する。このため、リチウム2次電池が電解液を有すると、内部抵抗が一層低下し、エネルギー密度、容量、及びサイクル特性が一層向上する傾向にある。
電解液は、セパレータ120に浸潤させてもよく、負極、セパレータ、正極及び正極集電体の積層体と共に電解液を封入したものをリチウム2次電池100の完成品としてもよい。
【0082】
電解液に含まれる電解質としては、ポリマー電解質及びゲル電解質に含まれ得る電解質、特に上述のリチウム塩を1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。好ましいリチウム塩は、ポリマー電解質及びゲル電解質におけるものと同様である。
【0083】
電解液に含まれる溶媒としては、例えばフッ素原子を有する非水溶媒(以下、「フッ素化溶媒」という。)及びフッ素原子を有しない非水溶媒(以下、「非フッ素溶媒」という。)が挙げられる。
【0084】
フッ素化溶媒としては、特に限定されないが、例えば、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、及び1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル等が挙げられる。
非フッ素溶媒としては、特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジメトキシエタン、ジメトキシプロパン、ジメトキシブタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、メチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、及び12-クラウン-4が挙げられる。
【0085】
上記フッ素化溶媒及び/又は非フッ素溶媒は1種を単独で、又は2種以上を任意の割合で自由に組み合わせて用いることができる。フッ素化溶媒と非フッ素溶媒の含有量は特に限定されず、溶媒全体に対するフッ素化溶媒の割合が0~100体積%であってもよく、溶媒全体に対する非フッ素溶媒の割合が0~100体積%であってもよい。
【0086】
(リチウム2次電池の使用)
図2に第1実施形態のリチウム2次電池の1つの使用態様を示す。リチウム2次電池100には、正極集電体140及び負極130に、リチウム2次電池100を外部回路に接続するための正極端子220及び負極端子210がそれぞれ接合されている。負極端子210を外部回路の一端に、正極端子220を外部回路のもう一端に接続することにより、リチウム2次電池100は充放電される。
【0087】
より具体的には、正極端子220及び負極端子210に外部電源を繋ぎ、負極端子210(負極130)から外部電源を通り正極端子220(正極110)へと電流が流れるような電圧を印加すると、リチウム2次電池100が充電され、負極表面にリチウム金属の析出が生じる。充電後のリチウム2次電池100について、所望の外部回路を介して正極端子220及び負極端子210を接続するとリチウム2次電池100が放電される。これにより、負極表面に生じたリチウム金属の析出が電解溶出する。
【0088】
上述のとおり、本実施形態の正極に含まれる上記リチウム含有化合物は、電池の電圧が4.3V程度となる条件でリチウムイオンを放出する。したがって、本実施形態のリチウム2次電池は、以下の方法により使用されることが好ましい。
【0089】
すなわち、本実施形態のリチウム2次電池の使用方法は、4.3V以上5.0V以下のカットオフ電圧で充電した後に、少なくとも1回の放電工程と少なくとも1回の充電工程とを含む充放電サイクルを実施することを含み、上記充放電サイクルにおける充電工程のカットオフ電圧が、4.3V以上5.0V以下のカットオフ電圧で実施される第1回目の充電におけるカットオフ電圧未満となるように実施される。
そのような使用方法によれば、本実施形態のリチウム2次電池が確実に4.3V以上5.0V以下のカットオフ電圧で充電されるため、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物が有効かつ確実に犠牲正極剤として作用する。また、その後の充放電サイクルにおける充電工程において、カットオフ電圧を第1回目の充電時のカットオフ電圧未満とすることによりリチウム2次電池内の各構成(特に正極活物質及び電解液を含む場合は電解液中の溶媒)が分解されることを有効かつ確実に抑制することができ、サイクル特性を一層向上させることができる。
【0090】
本実施形態のリチウム2次電池の使用方法において、充放電サイクルを実施する前の第1回目の充電におけるカットオフ電圧は、好ましくは4.3V超であり、より好ましくは4.4V以上であり、4.5V以上、4.6V以上、又は4.7V以上としてもよい。また、当該カットオフ電圧は、好ましくは5.0V未満であり、より好ましくは4.9V以下であり、更に好ましくは4.8V以下であり、更により好ましくは4.7V以下である。
上記第1回目の充電におけるカットオフ電圧は、上記の上限値及び下限値を任意に組み合わせて得られる範囲内としてもよく、例えば4.3V超5.0V未満、4.4V以上4.9V以下、又は4.4V以上4.7V以下であってよい。充放電サイクルを実施する前の第1回目の充電におけるカットオフ電圧を上記の範囲内とすることにより、リチウム2次電池のサイクル特性を一層高めることができる傾向にある。
【0091】
4.3V以上5.0V以下のカットオフ電圧で充電した後に実施される充放電サイクルの回数は特に限定されず、例えば放電容量が上記第1回目の充電の直後に行われる第1回目の充放電サイクルの放電工程における放電容量の80%以下、70%以下、又は60%以下になるまで充放電サイクルを繰り返してもよい。
上記充放電サイクルは、充電工程のカットオフ電圧が上記第1回目の充電時のカットオフ電圧未満となるように実施される限りどのような条件であってもよい。充電工程のカットオフ電圧は、例えば上記第1回目の充電時のカットオフ電圧より0.1V、0.2V、又は0.3V小さいカットオフ電圧としてもよい。
また、上記充放電サイクルは、好ましくは、さらにLiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物が還元反応を生じない電圧範囲内で実施される。すなわち、上記充放電サイクルは、好ましくは、充電工程のカットオフ電圧が上記第1回目の充電時のカットオフ電圧未満であり、かつ、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物が還元反応を生じない電圧範囲内で実施される。そのような電圧の範囲としては、例えば2.5V以上4.6V以下、好ましくは2.5V以上4.3V以下、より好ましくは3.0V以上4.2V以下である。
【0092】
なお、本実施形態のリチウム2次電池の使用方法として上記した内容は本実施形態のリチウム2次電池を使用する際の好適な方法を示すものに過ぎず、本実施形態のリチウム2次電池の使用方法を限定するものではない。例えば、本実施形態のリチウム2次電池の初期充電においてカットオフ電圧は4.3V以上5.0V以下の範囲外としてもよく、その後の充放電サイクルの電圧範囲が第1回目の充電時のカットオフ電圧以上となってもよい。
【0093】
(リチウム2次電池の製造方法)
図1に示すようなリチウム2次電池100の製造方法としては、上述の構成を備えるリチウム2次電池を製造することができる方法であれば特に限定されないが、例えば以下のような方法が挙げられる。なお、本実施形態のリチウム2次電池、特に本実施形態の正極は、一定程度湿度が排除された環境、例えば露点-50~-10℃のドライルーム等によって製造されることが好ましい。
【0094】
正極110は例えば以下のようにして、正極集電体140上に形成する。上述した正極活物質、及びLiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物に加えて、任意選択的に、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物以外の犠牲正極剤、導電助剤、バインダー、及び/又は電解質を混合し、正極混合物を得る。その配合比は、各成分が上述した範囲内となるように適宜調整すればよい。
得られた正極混合物を、所定の厚さ(例えば、5μm以上1mm以下)を有する正極集電体としての金属箔(例えば、Al箔)の片面に塗布し、プレス成型する。得られた成型体を、打ち抜き加工により、所定のサイズに打ち抜き、正極110を得る。
【0095】
なお、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物は、LiO、MnO、及びCoOの粉末を粉砕、混合したものを、例えば600~1000℃の条件にて、5~100時間焼成することで製造することができる。焼成時の雰囲気条件はアルゴン及び窒素ガス等の不活性ガス雰囲気であることが好ましく、さらに微量の水素ガスを含ませてもよい。水素ガスの割合は例えば体積比で0.1~10%とすることができる。
LiO、MnO、及びCoOの粉末は市販されているものを用いればよく、その混合比(モル比)は、LiO:(MnO、CoO)=3:1となるようにすることが好ましい。また、MnOとCoOの配合比を適宜調整することによりLiMnCo1-xにおける値xを制御することができる。
あるいは、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物は、共沈法により製造してもよい。
【0096】
次に、上述した構成を有するセパレータ120を準備する。セパレータ120は従来公知の方法で製造してもよく、市販のものを用いてもよい。
【0097】
次に、上述した負極材料、例えば1μm以上1mm以下の金属箔(例えば、電解Cu箔)を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄した後に所定の大きさに打ち抜き、更に、エタノールで超音波洗浄した後、乾燥させることにより負極130を得る。
【0098】
以上のようにして得られる、正極集電体140を片面に備える正極110、セパレータ120、及び負極130を、この順に積層することで積層体を得る。得られた積層体を、電解液と共に密閉容器に封入することでリチウム2次電池100を得ることができる。密閉容器としては、特に限定されないが、例えば、ラミネートフィルムが挙げられる。
【0099】
上記のようにして得られたリチウム2次電池100は、その後初期充電された後に使用される。初期充電は電池が使用者に提供される前に実施されてもよく、電池が使用者に提供された後に使用者が実施してもよい。本実施形態のリチウム2次電池の効果を有効かつ確実に奏する観点からは、初期充電は電池が使用者に提供される前に実施されることが好ましく、すなわち、本実施形態のリチウム2次電池は、製造工程の一工程として電池を初期充電させる工程を含んでいることが好ましい。
【0100】
したがって、リチウム2次電池100の製造方法は、上記のようにして得られた電池を初期充電する工程を含むことが好ましい。
初期充電はCC充電(定電流充電)又はCV充電(低電圧充電)であってもよく、CC-CV充電、CV-CC充電、又はCC-CV-CC充電であってもよい。また、初期充電はカットオフ電圧が4.3V以上5.0V以下である充電条件により実施されることが好ましい。
【0101】
上記の初期充電において、カットオフ電圧は、好ましくは4.3V超であり、より好ましくは4.4V以上であり、4.5V以上、4.6V以上、又は4.7V以上としてもよい。また、当該カットオフ電圧は、好ましくは5.0V未満であり、より好ましくは4.9V以下であり、更に好ましくは4.8V以下であり、更により好ましくは4.7V以下である。
上記初期充電におけるカットオフ電圧は、上記の上限値及び下限値を任意に組み合わせて得られる範囲内としてもよく、例えば4.3V超5.0V未満、4.4V以上4.9V以下、又は4.4V以上4.7V以下であってよい。充放電サイクルを実施する前の初期充電におけるカットオフ電圧を上記の範囲内とすることにより、製造されるリチウム2次電池のサイクル特性を一層高めることができる傾向にある。
【0102】
[第2の本実施形態]
(リチウム2次電池)
図3は第2の本実施形態のリチウム2次電池(以下、「第2実施形態」という。)に係るリチウム2次電池の概略断面図である。第2実施形態のリチウム2次電池300は、第1実施形態のリチウム2次電池100と同様、正極110と、負極活物質を有しない負極130とを備える。正極110は、正極活物質と、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物とを含むものである。また、リチウム2次電池100は、正極110と負極130との間にセパレータ120を備え、正極110は、セパレータ120に対向する面とは反対側の面に正極集電体140を有する。
第2実施形態のリチウム2次電池300は、セパレータ120の負極130に対向する表面に形成されているファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有する緩衝機能層310を備える点でリチウム2次電池100と異なるものである。
【0103】
リチウム2次電池300において、正極集電体、正極、セパレータ、及び負極の構成及びその好ましい態様は、第1実施形態のリチウム2次電池100と同様であり、これらの構成について、第2実施形態のリチウム2次電池は、第1実施形態のリチウム2次電池と同様の効果を奏する。また、第2実施形態のリチウム2次電池は、リチウム2次電池100と同様に、上述したような電解液を含んでいてもよい。
【0104】
(緩衝機能層)
図3に示すように、緩衝機能層310は、セパレータ120の負極130に対向する表面に形成されている。緩衝機能層は、ファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有するものである。ここで、緩衝機能層310は、ファイバ状又は多孔質状であるため、イオン伝導性及び電気伝導性を有する固体部分と、該固体部分の隙間により構成される空孔部分(「間隙部分」と同意。以下、本明細書中において同じである。)を有する。なお、本明細書において、緩衝機能層における「固体部分」とは、ゲル状の部分を含むものとする。
【0105】
緩衝機能層310は上述のように構成されているため、リチウム2次電池を充電すると、固体部分に負極からの電子とセパレータ及び/又は電解液からのリチウムイオンとが供給される。その結果、上記固体部分の表面では、上述のようにして供給される電子及びリチウムイオンが反応し、空孔部分(固体部分の表面)にリチウム金属が析出する。したがって、緩衝機能層310は電池を充電した際のリチウム金属析出に起因する電池の体積膨張を抑制する効果を奏する。すなわち、リチウム2次電池300は、リチウム2次電池100に比べて充放電に起因する体積膨張あるいは体積変化を一層抑制できるものである。
【0106】
本発明者らは、本実施形態のリチウム2次電池では、第2実施形態のリチウム2次電池のように緩衝機能層を導入したとしても、電池のサイクル特性が低下しないか、むしろ向上し得ることを見出した。その要因として、本発明者らは、緩衝機能層の導入によりリチウム金属が析出し得る場の表面積が増加するために、リチウム金属析出反応の反応速度が緩やかに制御され、デンドライト状に成長したリチウム金属の形成が一層確実に抑制されるからであると推察している。
【0107】
なお、第2実施形態において、「リチウム金属が負極上に析出する」とは、特に断りがない限りにおいて、負極の表面、及び緩衝機能層の固体部分の表面の少なくとも1箇所に、リチウム金属が析出することを意味する。したがって、第2実施形態のリチウム2次電池において、リチウム金属は、例えば、負極の表面(負極と緩衝機能層との界面)に析出してもよく、緩衝機能層の内部(緩衝機能層の固体部分の表面)に析出してもよい。
【0108】
緩衝機能層310としては、ファイバ状又は多孔質状であり、イオン伝導性及び電気伝導性を有するものであれば特に限定されない。緩衝機能層310の非限定的な例示としては、例えば、ファイバ状又は多孔質状のイオン伝導層の表面の全部又は一部に、電気伝導層を被覆したもの;ファイバ状又は多孔質状の電気伝導層の表面の全部又は一部に、イオン伝導層を被覆したもの;並びに、ファイバ状のイオン伝導層と、ファイバ状の電気伝導層とを交絡させたもの等が挙げられる。
【0109】
イオン伝導層としては、イオンを伝導することができるものである限り限定されないが、例えば第1実施形態のリチウム2次電池のセパレータにおける電解質として例示したポリマー電解質及びゲル電解質が挙げられる。
【0110】
電気伝導層としては、電子を伝導することができるものであればよく、例えば、金属膜が挙げられる。電気伝導層に含まれ得る金属の非限定的な例示としては、例えば、SUS、Si、Sn、Sb、Al、Ni、Cu、Sn、Bi、Ag、Au、Pt、Pb、Zn、In、Bi-Sn、及びIn-Sn等が挙げられる。電気伝導層に含まれる金属としては、リチウム金属との親和性を高める観点から、Si、Sn、Zn、Bi、Ag、In、Pb、Sb、及びAlが好ましい。上記のような金属は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いてもよい。
【0111】
緩衝機能層310の一実施形態として、ファイバ状の緩衝機能層が挙げられる。図4(A)にファイバ状の緩衝機能層の概略断面図を示す。図4(A)に示す緩衝機能層310は、イオン伝導性及び電気伝導性を有するファイバであるイオン電気伝導ファイバ410からなる。すなわち、本実施形態において、「緩衝機能層がファイバ状である」とは、緩衝機能層がファイバを含むか、あるいは、ファイバにより構成されていることで、固体部分と、該固体部分の隙間により構成される空孔部分を有することを意味する。
【0112】
図4(A)に示す緩衝機能層310を有するリチウム2次電池を充電すると、緩衝機能層の固体部分の表面、すなわち、イオン電気伝導ファイバ410の表面に、リチウム金属が析出する。したがって、そのような態様によれば、図4(B)にその概略断面図を示すように、緩衝機能層の固体部分であるイオン電気伝導ファイバ410の表面に、緩衝機能層の空孔部分を埋めるようにしてリチウム金属420が析出する。
【0113】
イオン電気伝導ファイバ410の一実施形態を、図4(C)に概略断面図として示す。図4(C)に示すように、一実施形態において、イオン電気伝導ファイバ410は、ファイバ状のイオン伝導層430と、イオン伝導層430の表面を被覆する電気伝導層440とを備える。イオン伝導層430は、例えばイオン伝導層として上述したような構成を備えていてもよく、電気伝導層440は、例えば電気伝導層として上述したような構成を備えていてもよい。
【0114】
ファイバ状のイオン伝導層430のファイバ平均直径は、好ましくは30nm以上5000nm以下であり、より好ましくは50nm以上2000nm以下であり、更に好ましくは70nm以上1000nm以下であり、更により好ましくは80nm以上500nm以下である。イオン伝導層のファイバ平均直径が上記の範囲内にあることにより、リチウム金属が析出できる反応場の表面積が一層適切な範囲となるため、サイクル特性が一層向上する傾向にある。
【0115】
電気伝導層440の平均厚さは、好ましくは1nm以上300nm以下であり、より好ましくは5nm以上200nm以下であり、更に好ましくは10nm以上150nm以下である。電気伝導層の平均厚さが上記の範囲内にあることにより、イオン電気伝導ファイバ410の電気伝導性を一層適切に保つことができるため、サイクル特性が一層向上する傾向にある。
【0116】
別の実施形態において、緩衝機能層310は、多孔質状であってもよい。多孔質状の緩衝機能層は、例えば、多孔質状、特に連通孔を有するイオン伝導層と、イオン伝導層の表面を被覆する電気伝導層とを備えるものであってもよい。
【0117】
緩衝機能層310は、ファイバ状又は多孔質状であるため、空孔を有する。緩衝機能層の空孔率は、特に限定されないが、体積%で、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上である。緩衝機能層の空孔率が上記の範囲内にあることにより、リチウム金属が析出できる反応場の表面積が一層上昇するため、サイクル特性が一層向上する傾向にある。また、そのような態様によれば、セル体積膨張を抑制する効果が一層有効かつ確実に奏される傾向にある。緩衝機能層の空孔率は、特に限定されないが、体積%で、99%以下であってもよく、95%以下であってもよく、90%以下であってもよい。
【0118】
緩衝機能層310の平均厚さは、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下であり、更に好ましくは30μm以下である。緩衝機能層の平均厚さが上記の範囲内にあることにより、リチウム2次電池300における緩衝機能層310の占める体積が減少するため、電池のエネルギー密度が一層向上する。また、緩衝機能層の平均厚さは、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは4μm以上であり、更に好ましくは7μm以上である。緩衝機能層の平均厚さが上記の範囲内にあることにより、リチウム金属が析出できる反応場の表面積が一層上昇するため、サイクル特性が一層向上する傾向にある。また、そのような態様によれば、セル体積膨張を抑制する効果が一層有効かつ確実に奏される傾向にある。
【0119】
ファイバ状のイオン伝導層のファイバ直径、電気伝導層の厚さ、緩衝機能層の空孔率、及び緩衝機能層の厚さは、公知の測定方法により測定することができる。例えば、緩衝機能層の厚さは、緩衝機能層の表面を集束イオンビーム(FIB)でエッチングして、その断面を露出させ、露出した切断面における緩衝機能層の厚さを電子顕微鏡により観察することにより測定することができる。
【0120】
ファイバ状のイオン伝導層のファイバ直径、電気伝導層の厚さ、及び緩衝機能層の空孔率は、電子顕微鏡で緩衝機能層の表面を観察することにより測定することができる。なお、緩衝機能層の空孔率は、画像解析ソフトを用いて、緩衝機能層の表面の観察画像を2値解析し、画像の総面積に対して緩衝機能層が占める割合を求めることで算出すればよい。
上記の各測定値は3回以上、好ましくは10回以上測定した測定値の平均を求めることにより算出される。
【0121】
なお、緩衝機能層310がリチウムと反応し得る金属を含む場合、負極130及び緩衝機能層310の容量の合計は、正極110の容量に対して十分小さく、例えば、20%以下、15%以下、10%以下、又は5%以下である。なお、正極110、負極130、及び緩衝機能層310の各容量は、従来公知の方法により測定することができる。
【0122】
(リチウム2次電池の製造方法)
第2実施形態のリチウム2次電池の製造方法において、緩衝機能層以外の構成の製造及び各構成の組み立て、並びにそれに続く初期充電は、第1実施形態のリチウム2次電池の製造方法と同様に実施することができる。
【0123】
緩衝機能層310の製造方法は、ファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有する層を得られる限り特に限定されないが、例えば以下のようにすればよい。
【0124】
図4(C)に示すような、ファイバ状のイオン伝導層430と、イオン伝導層430の表面を被覆する電気伝導層440とを備えるイオン電気伝導ファイバ410を有するファイバ状の緩衝機能層は以下のように製造することができる。
まず、上述した樹脂(例えば、PVDF)を適当な有機溶媒(例えば、N-メチルピロリドン)に溶解させた溶液を、事前に準備したセパレータ120の表面にドクターブレードを用いて塗布する。次いで、樹脂溶液を塗付したセパレータ120を、水浴に浸漬した後、室温で十分乾燥させることで、セパレータ120上にファイバ状のイオン伝導層を形成する(なお、イオン伝導層は例えば電池の組立時に電解液が注液されることでイオン伝導機能を発揮するようにしてもよい)。続いて、ファイバ状のイオン伝導層が形成されたセパレータに対して、真空条件下で適当な金属(例えば、Ni)を蒸着させることにより、ファイバ状の緩衝機能層を得ることができる。
【0125】
また、多孔質状のイオン伝導層と、イオン伝導層の表面を被覆する電気伝導層とを備える多孔質状の緩衝機能層は以下のように製造することができる。
まず、上述した樹脂(例えば、PVDF)を適当な溶媒(例えば、N-メチルピロリドン)に溶解させた溶液を用いて、従来公知の方法により(例えば、溶媒との相分離を用いる方法、及び発泡剤を用いる方法等。)、連通孔を有する多孔質状のイオン伝導層をセパレータ120の表面に形成する(なお、イオン伝導層は例えば電池の組立時に電解液が注液されることでイオン伝導機能を発揮するようにしてもよい)。続いて、多孔質状のイオン伝導層が形成されたセパレータに対して、真空条件下で適当な金属(例えば、Ni)を蒸着させることにより、多孔質状の緩衝機能層を得ることができる。
【0126】
[リチウム2次電池の製造方法]
本発明は、リチウム2次電池の製造方法も提供する。以下、本実施形態のリチウム2次電池の製造方法(以下、「本実施形態の製造方法」という。)について詳述する。
本実施形態の製造方法は、正極活物質と、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物とを含む正極、及び負極活物質を有しない負極を準備する工程と、上記正極と上記負極とを両者が対向するように配置する工程と、上記正極と上記負極との間に電圧を印加して、カットオフ電圧が4.3V以上5.0V以下である充電条件により初期充電する工程とを含む。
【0127】
上述のとおり、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物は、初期充電において電池の電圧が4.3V程度となる条件でリチウムイオンを放出し始め、犠牲正極剤として作用する傾向にある。したがって、カットオフ電圧が4.3V以上5.0V以下である充電条件により初期充電する工程を含む本実施形態の製造方法によれば、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物の犠牲正極剤としての機能を有効かつ確実に発揮させることができ、サイクル特性に優れるリチウム2次電池を製造することができる。さらに、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物は大気中における安定性に優れ、厳密に湿度等の制御をすることなしに取り扱うことができるため、上記の製造方法は生産性が高い。
以下、各工程について説明する。なお、本実施形態の製造方法、特に正極準備工程は、一定程度湿度が排除された環境、例えば露点-50~-10℃のドライルーム等において実施されることが好ましい。
【0128】
(正極及び負極準備工程)
本実施形態の製造方法では、まず正極活物質と、LiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物とを含む正極、及び負極活物質を有しない負極を準備する工程が実施される。
正極及び負極の構成及び好ましい態様は、上記本実施形態のリチウム2次電池におけるものと同様である。また、正極に含まれる正極活物質及びLiMnCo1-x(0<x<1)で表されるリチウム含有化合物の構成及び好ましい態様も、上記本実施形態のリチウム2次電池におけるものと同様である。
本工程では、そのような構成を有する正極及び負極を準備するが、当該正極及び負極は市販のものを購入することにより得てもよいし、本実施形態のリチウム2次電池の説明において記載した方法により製造してもよい。また、正極及び負極の準備は同時に行ってもよく、別々に行ってもよい。正極及び負極の準備を別々に実施する場合、その順番は特に限定されない。
【0129】
(正極及び負極配置工程)
本実施形態の製造方法では、正極及び負極準備工程の後、正極と負極とを両者が対向するように配置する工程が実施される。
本工程では、正極と負極とを両者が対向するように配置される限り特に限定されず、正極及び負極のみを配置してもよいし、上記リチウム2次電池100及び300のように、セパレータ及び/又は緩衝機能層を介して正極及び負極を対向させてもよい。ただし、正極及び負極は物理的又は電気的に接触させないものとする。
【0130】
正極及び負極配置工程では、正極及び負極の組み合わせを複数セット配置してもよい。その場合、正極及び負極が交互に積層されるように配置することが好ましい。
セパレータ及び/又は緩衝機能層を配置する場合、セパレータ及び緩衝機能層の構成及び好ましい態様は、上記本実施形態のリチウム2次電池におけるものと同様であり、本実施形態のリチウム2次電池の説明において記載した方法により入手又は製造することができる。
【0131】
(初期充電工程)
本実施形態の製造方法では、正極及び負極配置工程の後、正極と負極との間に電圧を印加して、カットオフ電圧が4.3V以上5.0V以下である充電条件により初期充電する工程を実施する。
初期充電はCC充電(定電流充電)又はCV充電(低電圧充電)であってもよく、CC-CV充電、CV-CC充電、又はCC-CV-CC充電であってもよい。
【0132】
初期充電工程において、カットオフ電圧は、好ましくは4.3V超であり、より好ましくは4.4V以上であり、4.5V以上、4.6V以上、又は4.7V以上としてもよい。また、当該カットオフ電圧は、好ましくは5.0V未満であり、より好ましくは4.9V以下であり、更に好ましくは4.8V以下であり、更により好ましくは4.7V以下である。
上記初期充電におけるカットオフ電圧は、上記の上限値及び下限値を任意に組み合わせて得られる範囲内としてもよく、例えば4.3V超5.0V未満、4.4V以上4.9V以下、又は4.4V以上4.7V以下であってよい。カットオフ電圧を上記の範囲内とすることにより、一層サイクルに優れるリチウム2次電池を製造できる傾向にある。
【0133】
(その他工程)
本実施形態の製造方法は、正極及び負極準備工程、正極及び負極配置工程、並びに初期充電工程以外の工程を含んでいてもよい。そのような工程としては、例えば、正極及び負極配置工程の前に必要に応じて実施されるセパレータ準備工程、及び緩衝機能層準備工程、並びに正極及び負極配置工程と初期充電工程との間に必要に応じて実施される電解液注入工程、及びそれに続く封止工程が挙げられる。これらの工程は、第1実施形態又は第2実施形態のリチウム2次電池の説明に記載した事項に基づいて実施することができる。
【0134】
具体的には、電解液注入工程、及びそれに続く封止工程は以下のように実施すればよい。まず、正極及び負極配置工程により得られた正極及び負極を含む積層体を、少なくとも一端が開口された密閉容器に保持する。その後密閉容器に、本実施形態のリチウム2次電池が含み得る電解液を注入することにより、電解液注入工程を実施する。次いで、当該密閉容器の開口部分を封止することにより製品としての電池を得る封止工程を実施する。
【0135】
[変形例]
上記本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその本実施形態のみに限定する趣旨ではなく、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な変形が可能である。
【0136】
本実施形態のリチウム2次電池は、負極表面において、当該負極に接触するように配置される集電体を有していてもよく、有していなくてもよい。そのような集電体としては、特に限定されないが、例えば、負極材料に用いることのできるものが挙げられる。また、本実施形態のリチウム2次電池は、正極集電体を有していなくてもよい。なお、リチウム2次電池が正極集電体、及び負極集電体を有しない場合、それぞれ、正極、及び負極自身が集電体として働く。
【0137】
本実施形態のリチウム2次電池は、正極集電体及び/又は負極に、外部回路へと接続するための端子を取り付けてもよい。例えば10μm以上1mm以下の金属端子(例えば、Al、Ni等)を、正極集電体及び負極の片方又は両方にそれぞれ接合してもよい。接合方法としては、従来公知の方法を用いればよく、例えば超音波溶接を用いてもよい。
【0138】
リチウム2次電池100において、セパレータ120を省略してもよい。その場合、正極110及び負極130が物理的又は電気的に接触しないように、両者を十分離した状態で固定することが好ましい。
【0139】
リチウム2次電池300備える緩衝機能層310において、イオン伝導層及び電気伝導層は、層状のものに限られず、ファイバ状、塊状、又は多孔質状であってもよい。したがって、本明細書中、イオン伝導層、電気伝導層との語は、それぞれイオン伝導相、電気伝導相と換言してもよい。
【0140】
なお、本明細書において、「エネルギー密度が高い」又は「高エネルギー密度である」とは、電池の総体積又は総質量当たりの容量が高いことを意味するが、好ましくは700Wh/L以上又は300Wh/kg以上であり、より好ましくは800Wh/L以上又は350Wh/kg以上であり、更に好ましくは900Wh/L以上又は400Wh/kg以上である。
【0141】
また、本明細書において、「サイクル特性に優れる」とは、通常の使用において想定され得る回数の充放電サイクルの前後において、電池の容量の減少率が低いことを意味する。すなわち、初期充放電の後の1回目の放電容量と、通常の使用において想定され得る回数の充放電サイクル後の容量とを比較した際に、充放電サイクル後の容量が、初期充放電の後の1回目の放電容量に対してほとんど減少していないことを意味する。ここで、「通常の使用において想定され得る回数」とは、リチウム2次電池が用いられる用途にもよるが、例えば、30回、50回、70回、100回、300回、又は500回である。また、「充放電サイクル後の容量が、初期充放電の後の1回目の放電容量に対してほとんど減少していない」とは、リチウム2次電池が用いられる用途にもよるが、例えば、充放電サイクル後の容量が、初期充放電の後の1回目の放電容量に対して、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、又は85%以上であることを意味する。
【0142】
本明細書において、好ましい範囲等として記載した数値範囲は、記載した上限値及び下限値を任意に組み合わせて得られる数値範囲に置き換えてもよい。例えば、あるパラメータが、好ましくは50以上、より好ましくは60以上であり、好ましくは100以下、より好ましくは90以下である場合、当該パラメータは、50以上100以下、50以上90以下、60以上100以下、又は60以上90以下のいずれであってもよい。
【実施例
【0143】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0144】
[リチウム含有化合物の不可逆容量密度の測定方法]
各例で用いた犠牲正極剤としてのリチウム含有化合物の不可逆容量密度、すなわち、充電容量密度と放電容量密度との差は、以下のようにして測定した。まず、各リチウム含有化合物と、ポリビニリデンフロライドと、カーボンブラックと、N-メチルピロリドン(NMP)とを混合することでスラリーを作製し、その後アルミ箔上に塗布、乾燥、プレスした。この電極を作用極とし、対極をリチウム金属とするテストセルを作製し、0.2mAh/cmの電流で、カットオフ電圧を所定の値としてCC充電した後、電圧が3.0VになるまでCC放電した。測定された充電容量密度及び放電容量密度の差を計算することにより不可逆容量密度(mAh/g)を求めた。
【0145】
[リチウム2次電池の作製及び性能評価]
[実施例1]
以下のようにして、実施例1のリチウム2次電池を作製した。
【0146】
(負極の準備)
10μmの電解Cu箔を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄した後に所定の大きさ(45mm×45mm)に打ち抜き、更にエタノールで超音波洗浄した後、乾燥させることにより負極を準備した。
【0147】
(正極の作製)
露点-30℃のドライルーム内で、正極活物質として92.7質量部のLiNi0.85Co0.12Al0.03を、リチウム含有化合物として3.3質量部のLiMn0.5Co0.5を、導電助剤として2.0質量部のカーボンブラックを、及びバインダーとして2.0質量部のポリビニリデンフロライド(PVDF)を、溶媒としてのN-メチルピロリドン(NMP)に混合することにより正極混合物を得た。得られた正極混合物を正極集電体としての12μmのAl箔の片面に塗布しプレス成型した後、打ち抜き加工により、所定の大きさ(40mm×40mm)に打ち抜き、正極を得た。
【0148】
LiMn0.5Co0.5は以下のようにして製造した。まず、市販のLiO、MnO、及びCoO粉末をモル比6:1:1にて容器に添加し、粉砕、混合した。アルゴンガス99体積%及び水素ガス1体積%からなるガス気流下、得られた混合物を800℃の条件にて12時間焼成することで、LiMn0.5Co0.5を得た。
【0149】
(セパレータの準備)
セパレータとして、12μmのポリエチレン微多孔膜の両面に2μmのポリビニリデンフロライド(PVDF)がコーティングされた所定の大きさ(50mm×50mm)のセパレータを準備した。
【0150】
(電池の組み立て)
電解液として、4.0M LiN(SOF)(LFSI)のジメトキシエタン(DME)溶液を準備した。
次いで、正極集電体、正極、セパレータ、及び負極がこの順になるように各構成を積層することで積層体を得た。さらに正極集電体及び負極に、それぞれ100μmのAl端子及び100μmのNi端子を超音波溶接で接合した後、ラミネートの外装体に挿入した。次いで、上記の電解液を上記の外装体に注入した。外装体を封止することにより、リチウム2次電池を得た。
【0151】
(初期充電)
その後、リチウム2次電池を2.0mA(0.05C;0.125mA/cm)で、カットオフ電圧を4.7VとしてCC充電することにより初期充電した。
【0152】
[実施例2~3]
リチウム含有化合物の組成を表1に記載のものとしたこと以外は実施例1と同様にしてリチウム2次電池を作製し、その後初期充電を行った。なお、LiMn0.7Co0.3はLiO、MnO、及びCoO粉末の添加比率をモル比で30:7:3として、LiMn0.3Co0.7はLiO、MnO、及びCoO粉末の添加比率をモル比で30:3:7とすることにより製造した。
【0153】
[比較例1]
リチウム含有化合物としてLiMnOを用いたこと以外は実施例1と同様にしてリチウム2次電池を作製し、その後初期充電を行った。なお、LiMnOはLiO、及びMnO粉末の添加比率をモル比で3:1とすることにより製造した。
【0154】
[比較例2]
リチウム含有化合物としてLiCoOを用いたこと以外は実施例1と同様にしてリチウム2次電池の作製を試みた。しかしながら、LiCoOを用いた場合、正極混合物がゲル化してしまい、同条件ではリチウム2次電池を作製することができなかった。
なお、LiMnOはLiO、及びCoO粉末の添加比率をモル比で3:1とすることにより製造した。
【0155】
[サイクル特性の評価]
以下のようにして、各実施例及び比較例で作製したリチウム2次電池のエネルギー密度及びサイクル特性を評価した。
【0156】
上記のとおり初期充電した各例のリチウム2次電池を2.0mA(0.05C;0.125mA/cm)で、電圧が3.0VになるまでCC放電した(初期放電)。次いで、20mA(0.5C;1.25mA/cm)で、電圧が4.2Vになるまで充電した後、20mA(0.5C;1.25mA/cm)で、電圧が3.0Vになるまで放電する充放電サイクルを、温度25℃の環境で更に99サイクル繰り返した。初期充放電サイクルを1サイクル目と数えたときの2サイクル目における放電から求められる放電容量に対する、100サイクル目における放電から求められる放電容量の比を、容量維持率(%)として計算し、サイクル特性の指標として用いた。容量維持率が高いほど、サイクル特性に優れることを意味する。各例における容量維持率を表1に示す。
【0157】
【表1】
【0158】
表1中、不可逆容量密度は、充電のカットオフ電圧を4.7Vとして上記の方法で測定したときの値である。また、添加率は電池の初期放電から求められるセル容量に対するリチウム含有化合物の不可逆容量の割合を意味する。なお、比較例2においては上述のとおりリチウム2次電池を安定的に作製できなかったため電池の性能評価は行わなかった。
【0159】
表1から、犠牲正極剤であるリチウム含有化合物としてLiMnO又はLiCoOを用いた比較例に比べて、LiMnCo1-x(0<x<1)を用いた実施例はサイクル特性及び生産性に優れることがわかった。
【0160】
[初期充電時のカットオフ電圧がサイクル特性に与える影響の評価]
次に、実施例1~3で作製したリチウム2次電池において、初期充電のカットオフ電圧を変化させたときに容量維持率がどのように変化するかを調べた。
【0161】
[試験例1~5]
まず、組成がLiMn0.5Co0.5であるリチウム含有化合物を含む実施例1のリチウム2次電池について、カットオフ電圧を4.2V、4.3V、4.4V、4.7V、又は5.0Vとした以外は実施例1と同様に初期充電した。その後上記と同様の方法により容量維持率を測定した。各例における容量維持率を表2に示す。
【0162】
[試験例6~7]
組成がLiMn0.7Co0.3であるリチウム含有化合物を含む実施例2のリチウム2次電池について、カットオフ電圧を4.4V、又は4.7Vとした以外は実施例1と同様に初期充電した。その後上記と同様の方法により容量維持率を測定した。各例における容量維持率を表2に示す。
【0163】
[試験例8~9]
組成がLiMn0.3Co0.7であるリチウム含有化合物を含む実施例3のリチウム2次電池について、カットオフ電圧を4.4V、又は4.7Vとした以外は実施例1と同様に初期充電した。その後上記と同様の方法により容量維持率を測定した。各例における容量維持率を表2に示す。
【0164】
【表2】
【0165】
試験例1~5の結果から、本実施形態のリチウム2次電池は、カットオフ電圧を所定の範囲とする初期充電をした場合にサイクル特性が一層高くなることがわかった。また、試験例6~9の結果から、犠牲正極剤としてのリチウム含有化合物の組成によらず、カットオフ電圧を所定の範囲とする初期充電をした場合にサイクル特性が一層高くなることがわかった。
【0166】
[緩衝機能層の導入]
次に、本実施形態のリチウム2次電池において、緩衝機能層を導入したときにサイクル特性がどのように変化するかを調べた。
【0167】
[実施例4]
以下のようにして、実施例4のリチウム2次電池を作製した。まず、実施例3と同様の方法で正極集電体を有する正極、負極、セパレータ、及び電解質を準備した。次いで以下のようにして緩衝機能層をセパレータの片面に形成した。
【0168】
PVDF樹脂をN-メチルピロリドン(NMP)に溶解させた樹脂溶液をセパレータ上にバーコーターを用いて塗布した。次いで、樹脂溶液を塗付したセパレータを、水浴に浸漬した後、室温で十分乾燥させることで、セパレータ上にファイバ状のイオン伝導層を形成した(なお、イオン伝導層は、電池の組立時に後述する電解液(4M LiN(SOF)(LFSI)のジメトキシエタン(DME)溶液)が注液されることでイオン伝導機能を発揮する。)。
セパレータ上に形成されたファイバ状のイオン伝導層のファイバ平均直径を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して測定したところ、100nmであった。
【0169】
続いて、ファイバ状のイオン伝導層が形成されたセパレータに対して、真空条件下でNiを蒸着させた。エネルギー分散型X線分析装置(EDX)付SEMを用いて、Ni蒸着後のイオン伝導層を観察したところ、Niはファイバ状のイオン伝導層を覆うように分布していることが確認され、ファイバ状のイオン伝導層の表面が電気伝導層に覆われているファイバ状の緩衝機能層が得られたことが確認された。
また、緩衝機能層の断面をFIBで作製してSEMで観察したところ、緩衝機能層の平均厚さは10μmであった。透過型電子顕微鏡で緩衝機能層を観察したところ、電気伝導層であるNi薄膜の平均厚さ、及び緩衝機能層の空孔率は、それぞれ、20nm、及び90%であった。
【0170】
次いで、正極集電体、正極、緩衝機能層が形成されたセパレータ、及び負極を、この順に積層することで積層体を得た。なお、緩衝機能層が負極と対向するようにして積層を実施した。さらに正極集電体及び負極に、それぞれ100μmのAl端子及び100μmのNi端子を超音波溶接で接合した後、ラミネートの外装体に挿入した。次いで、電解液を上記の外装体に注入した。外装体を封止することにより、リチウム2次電池を得た。
【0171】
その後、リチウム2次電池を2.0mA(0.05C;0.125mA/cm)で、カットオフ電圧を4.4VとしてCC充電することにより初期充電した。作製した実施例4のリチウム2次電池について、上記と同様の方法により容量維持率を測定した。測定した容量維持率を、試験例8の結果と併せて表3に示す。
【0172】
【表3】
【0173】
表3から、本実施形態のリチウム2次電池において緩衝機能層を導入した場合でも容量維持率が維持されることがわかった。すなわち、実施例4のリチウム2次電池は、エネルギー密度が高く、サイクル特性及び生産性に優れ、さらに電池の充放電による体積膨張率が低いことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明のリチウム2次電池は、エネルギー密度が高く、サイクル特性及び生産性に優れるため、様々な用途に用いられる蓄電デバイスとして、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0175】
100,300…リチウム2次電池、110…正極、120…セパレータ、130…負極、140…正極集電体、210…負極端子、220…正極端子、310…緩衝機能層、410…イオン電気伝導ファイバ、420…リチウム金属、430…イオン伝導層、440…電気伝導層。
図1
図2
図3
図4