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特許7587892劣化状態推定装置、劣化状態推定方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】劣化状態推定装置、劣化状態推定方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20241114BHJP
【FI】
G01R31/392
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023544798
(86)(22)【出願日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2021031689
(87)【国際公開番号】W WO2023031990
(87)【国際公開日】2023-03-09
【審査請求日】2024-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】522369728
【氏名又は名称】TeraWatt Technology株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】新井 寿一
(72)【発明者】
【氏名】緒方 健
(72)【発明者】
【氏名】井本 浩
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-148592(JP,A)
【文献】特開2020-145063(JP,A)
【文献】特開2020-071035(JP,A)
【文献】特開2020-053167(JP,A)
【文献】特開2019-113410(JP,A)
【文献】特開平08-194037(JP,A)
【文献】国際公開第2019/171688(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/141500(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/064392(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/396
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極に負極活物質を含まない二次電池の少なくとも前記負極を含む所定部分の厚さの測定値である厚さ測定値を取得する厚さ測定値取得部と、
前記二次電池の充電状態を示す充電指標の推定値である充電指標推定値を算出する充電状態推定部と、
満充電後の前記厚さと前記二次電池の劣化状態を示す劣化指標との関係を規定する満充電後劣化特性情報、及び、完全放電後の前記厚さと前記劣化指標との関係を規定する完全放電後劣化特性情報、の少なくともいずれかを参照することにより、前記厚さ測定値及び前記充電指標推定値に基づいて、前記二次電池についての前記劣化指標の推定値である劣化指標推定値を算出する劣化状態推定部と、
算出された前記劣化指標推定値を出力する出力部と、
を含む劣化状態推定装置。
【請求項2】
前記劣化状態推定部は、
前記充電指標推定値が満充電後を示す場合、前記満充電後劣化特性情報において前記厚さ測定値に対応する劣化指標を、前記劣化指標推定値として算出し、
前記充電指標推定値が完全放電後を示す場合、前記完全放電後劣化特性情報において前記厚さ測定値に対応する劣化指標を、前記劣化指標推定値として算出する、請求項1に記載の劣化状態推定装置。
【請求項3】
前記劣化状態推定部は、前記充電指標推定値が満充電後及び完全放電後のいずれをも示さない場合、前記満充電後劣化特性情報における前記厚さを満充電後厚さとし、前記完全放電後劣化特性情報における前記厚さを完全放電後厚さとし、前記満充電後厚さと前記完全放電後厚さとの差分に対する、前記厚さ測定値と前記完全放電後厚さとの差分の割合が、前記充電指標推定値に等しくなる前記劣化指標を、前記劣化指標推定値として算出する、請求項1に記載の劣化状態推定装置。
【請求項4】
前記充電状態推定部は、前記二次電池の充放電の履歴を示す充放電履歴情報を取得し、該充放電履歴情報を前記二次電池の充放電特性を示す充放電特性情報と比較することにより、前記充電指標推定値を算出する、請求項1から3のいずれか一項に記載の劣化状態推定装置。
【請求項5】
前記劣化指標は、劣化していない状態の前記二次電池の第1満充電容量と、現在の前記二次電池の第2満充電容量とに基づいて算出される、請求項1から4のいずれか一項に記載の劣化状態推定装置。
【請求項6】
前記劣化指標は、前記第1満充電容量と前記第2満充電容量との差分、又は、前記第1満充電容量に対する前記第2満充電容量との割合である、請求項5に記載の劣化状態推定装置。
【請求項7】
前記充電指標は、SOC(State of Charge)である、請求項1から6のいずれか一項に記載の劣化状態推定装置。
【請求項8】
前記二次電池のキャリア金属はリチウムである、請求項1から7のいずれか一項に記載の劣化状態推定装置。
【請求項9】
負極に負極活物質を含まない二次電池の少なくとも前記負極を含む所定部分の厚さの測定値である厚さ測定値を取得することと、
前記二次電池の充電状態を示す充電指標の推定値である充電指標推定値を算出することと、
満充電後の前記厚さと前記二次電池の劣化状態を示す劣化指標との関係を規定する満充電後劣化特性情報、及び、完全放電後の前記厚さと前記劣化指標との関係を規定する完全放電後劣化特性情報、の少なくともいずれかを参照することにより、前記厚さ測定値及び前記充電指標推定値に基づいて、前記二次電池についての前記劣化指標の推定値である劣化指標推定値を算出することと、
算出された前記劣化指標推定値を出力することと、
を含む劣化状態推定方法。
【請求項10】
コンピュータを、
負極に負極活物質を含まない二次電池の少なくとも前記負極を含む所定部分の厚さの測定値である厚さ測定値を取得する厚さ測定値取得部と、
前記二次電池の充電状態を示す充電指標の推定値である充電指標推定値を算出する充電状態推定部と、
満充電後の前記厚さと前記二次電池の劣化状態を示す劣化指標との関係を規定する満充電後劣化特性情報、及び、完全放電後の前記厚さと前記劣化指標との関係を規定する完全放電後劣化特性情報、の少なくともいずれかを参照することにより、前記厚さ測定値及び前記充電指標推定値に基づいて、前記二次電池についての前記劣化指標の推定値である劣化指標推定値を算出する劣化状態推定部と、
算出された前記劣化指標推定値を出力する出力部と、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、劣化状態推定装置、劣化状態推定方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、使用に際して繰返し充放電されることに伴って劣化することが知られている。このため、二次電池の劣化状態の様々な推定手法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数個の二次電池を直列に接続して構成された電池群において、サイクル毎の放電容量あるいは放電終了電圧の変化率を外挿することにより、設定値に達するまでのサイクル数から残存するサイクル寿命を推定する二次電源装置が記載されている。また、例えば、特許文献2には、蓄積した二次電池の満充電容量または内部抵抗と高い相関値をもつように相関関数が決定され、決定された相関関数が寿命判定ラインと交差する点を寿命と判断し、当該寿命までの走行距離を余寿命と推定する寿命測定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-89745号公報
【文献】特開2007-195312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した手法を含めて劣化状態の推定には多くの計算を要するため計算処理が煩雑となり、また推定の精度にも悖る場合が多い。以上のように、従来のリチウムイオン電池では劣化状態の推定は容易ではない。また負極に活物質を含まない二次電池において、その劣化状態を精度良く推定する手法は知られていない。
【0006】
そこで、本発明は、負極に負極活物質を含まない二次電池の劣化状態を簡易な構成で精度高く推定することの可能な劣化状態推定装置、劣化状態推定方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この点につき本出願人が鋭意実験を重ねた結果、負極に負極活物質を含まない二次電池では、二次電池の少なくとも負極を含む所定部分の厚さと、二次電池の劣化指標との間の線形性が顕著なものとなることが見出された。
本発明の一態様に係る劣化状態推定装置は、負極に負極活物質を含まない二次電池の少なくとも負極を含む所定部分の厚さの測定値である厚さ測定値を取得する厚さ測定値取得部と、二次電池の充電状態を示す充電指標の推定値である充電指標推定値を算出する充電状態推定部と、満充電後の厚さと二次電池の劣化状態を示す劣化指標との関係を規定する満充電後劣化特性情報、及び、完全放電後の厚さと劣化指標との関係を規定する完全放電後劣化特性情報、の少なくともいずれかを参照することにより、厚さ測定値及び充電指標推定値に基づいて、二次電池についての劣化指標の推定値である劣化指標推定値を算出する劣化状態推定部と、算出された劣化指標推定値を出力する出力部と、を含む。
【0008】
この態様によれば、負極に負極活物質を含まない二次電池について、満充電後劣化特性情報及び完全放電後劣化特性情報の少なくともいずれかを参照することにより、厚さ測定値及び充電指標推定値に基づいて、劣化指標推定値を算出し出力することが可能となる。このように、満充電後劣化特性情報及び完全放電後劣化特性情報を予め用意した上で、二次電池の所定部分の厚さの測定と、二次電池の充電指標の推定とに基づいて、劣化指標を推定することができるため、劣化状態の推定を簡易に行うことができる。更に、劣化状態の推定の対象となる二次電池は、負極に負極活物質を含まないものであるため、満充電後劣化特性情報及び完全放電後劣化特性情報はいずれも強く線形性を示し、これにより劣化状態の推定の精度が向上する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、負極に負極活物質を含まない二次電池の劣化状態や寿命を簡易な構成で精度高く推定することの可能な劣化状態推定装置、劣化状態推定方法、及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る電源装置1の概略構成の一例を示すブロック図である。
図2】本実施形態に係るリチウム二次電池101の概略断面図である。
図3】本実施形態に係るBMS400の機能構成の一例を示すブロック図である。
図4】本実施形態に係る充放電特性情報の一例を示す図である。
図5】本実施形態に係る満充電後劣化特性情報及び完全放電後劣化特性情報の一例を示す図である。
図6】本実施形態に係る電源装置1による劣化状態推定処理の動作フローの一例を示す図である。
図7】満充電容量減少分の推定値の算出方法について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0012】
[電源装置1の構成]
図1は、本実施形態に係る電源装置1の概略構成の一例を示すブロック図である。
【0013】
電源装置1は、例えば、電池モジュール100と、充電器200と、負荷300と、バッテリ・マネジメント・システム(BMS)400と、を含む。
【0014】
電池モジュール100は、直列に接続された複数のリチウム二次電池101を含んで構成される。リチウム二次電池101は、1つの二次電池セルを構成してもよい。電池モジュール100が有するリチウム二次電池101の数は特に限定されない。複数のリチウム二次電池101は、それぞれ同一の特性を有していてもよいし、異なる特性を有していてもよい。電池モジュール100が含むリチウム二次電池101は、少なくとも一部が並列に接続されてもよい。リチウム二次電池101の構成の詳細については後述する。
【0015】
電池モジュール100は、更に、複数のリチウム二次電池101に直列に接続された電流センサ102を有する。電流センサ102は、複数のリチウム二次電池101に対して直列に接続されており、これらリチウム二次電池101に流れる電流を検出し、当該電流値をBMS400に供給する。
【0016】
電池モジュール100は、更に、複数のリチウム二次電池101のそれぞれに並列に設けられた電圧センサ103を有する。各電圧センサ103は、各リチウム二次電池101の正極端子及び負極端子の間の電圧(端子間電圧)を検出し、当該電圧値をBMS400に供給する。
【0017】
電池モジュール100は、更に、複数のリチウム二次電池101のそれぞれに対して設けられた温度センサ104を有する。各温度センサ104は、各リチウム二次電池101に対して熱的に結合され、各リチウム二次電池101の温度を検出し、当該温度値をBMS400に供給する。
【0018】
電池モジュール100は、更に、複数のリチウム二次電池101のそれぞれに対して設けられた厚さセンサ105を有する。各厚さセンサ105は、例えば、圧力センサや変位センサ等の厚さを測定可能な任意の構成を有しており、リチウム二次電池101の所定部分の厚さを測定し、当該測定値をBMS400に供給する。厚さセンサ105が厚さを測定するリチウム二次電池101の当該所定部分は、少なくとも後述する負極130を含むように規定されれば、任意の部分(全体を含む)であってよく、例えば、リチウム二次電池101の密閉容器の一端から他端までの部分であってもよいし、負極130のみから成る部分であってもよい。すなわち、図2に示すリチウム二次電池101の概略断面図には負極130の厚さTが示されているが、厚さセンサ105が厚さを測定するリチウム二次電池101の当該所定部分は、当該負極130の厚さTの部分を少なくとも含むように規定されればよい。したがって、厚さセンサ105は、図2に示した負極130の厚さTを含む所定部分の厚さを測定可能であってよい。
【0019】
充電器200の構成は特に限定されないが、例えば、外部電源に接続された充電プラグが接続可能な充電コネクタが設けられ、外部電源からの供給電力をリチウム二次電池101の充電電力に変換するように構成されてよい。リチウム二次電池101は、例えば、充電器200に接続され、BMS400の制御によって充電器200が供給する充電電流によって充電され得る。
【0020】
負荷300の構成は特に限定されないが、例えば、電動車両(電気自動車、ハイブリッド自動車)の駆動装置等として構成されてよく、リチウム二次電池101から供給される電力により駆動され得る。リチウム二次電池101は、例えば、負荷300に接続され、BMS400による制御によって負荷300に電流を供給することにより、放電し得る。
【0021】
BMS400は、例えば、メモリ401と、CPU402と、を含んで構成されるコントローラであって、電池モジュール100に含まれるリチウム二次電池101の充電及び放電を制御する。
【0022】
メモリ401は、例えば、RAM、ROM、半導体メモリ、磁気ディスク装置及び光ディスク装置等によって構成され、CPU402による処理に用いられるドライバプログラム、オペレーティングシステムプログラム、アプリケーションプログラム、データ等を記憶する。各種プログラムは、例えばCD-ROM、DVD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な可搬型記録媒体から、公知のセットアッププログラム等を用いて記憶部410にインストールされてもよい。
【0023】
CPU402は、一又は複数個のプロセッサ及びその周辺回路を備え、BMS400の全体的な動作を統括的に制御する。CPU402は、メモリ401に記憶されているプログラム(オペレーティングシステムプログラムやドライバプログラム、アプリケーションプログラム等)に基づいて処理を実行する。
【0024】
[リチウム二次電池101]
図2は、本実施形態に係るリチウム二次電池101の概略断面図である。本実施形態のリチウム二次電池101は、正極120と、負極活物質を有しない負極130とを有する。また、リチウム二次電池101において、正極120の負極130に対向する面とは反対側に正極集電体110が配置され、正極120と負極130との間に、セパレータ140が配置されている。
【0025】
なお、本実施形態のリチウム二次電池101は、典型的には、電解液を有する液体電解質系リチウム二次電池(特に非水電解液系リチウム二次電池)、ポリマー電解質を有する固体若しくは半固体電解質系リチウム二次電池、又はゲル電解質を有するゲル電解質系リチウム二次電池である。ただし、本発明の課題を解決する限りにおいて、本実施形態の二次電池101は、それ以外の、例えば無機固体電解質を有する全固体電池であってもよい。
以下、各構成について詳細に説明する。
【0026】
(負極)
負極130は、負極活物質を有しないものである。本明細書において、「負極活物質」とは、負極において電極反応、すなわち酸化反応及び還元反応を生じる物質である。本明細書における負極活物質としては、リチウム金属、及びリチウム元素(リチウムイオン又はリチウム金属)のホスト物質が挙げられる。リチウム元素のホスト物質とは、リチウムイオン又はリチウム金属を負極に保持するために設けられる物質を意味する。そのような保持の機構としては、特に限定されないが、例えば、インターカレーション、合金化、及び金属クラスターの吸蔵等が挙げられ、典型的には、インターカレーションである。
【0027】
本実施形態のリチウム二次電池は、電池の初期充電前に負極が負極活物質を有しないため、負極上にリチウム金属が析出し、及び、その析出したリチウム金属が電解溶出することによって充放電が行われる。したがって、本実施形態のリチウム二次電池101は、負極活物質を有するリチウム二次電池101と比較して、負極活物質が占める体積及び負極活物質の質量が削減され、電池全体の体積及び質量が小さくなるため、エネルギー密度が原理的に高い。
【0028】
本実施形態のリチウム二次電池101は、電池の初期充電前に負極が負極活物質を有せず、電池の充電により負極上にリチウム金属が析出し、電池の放電によりその析出したリチウム金属が電解溶出する。したがって、本実施形態のリチウム二次電池101は、電池の放電終了時にも、負極が負極活物質を実質的に有しない。したがって、本実施形態のリチウム二次電池101において、負極は負極集電体として働く。
【0029】
本明細書において、「リチウム金属が負極上に析出する」とは、負極の表面にリチウム金属が析出することだけでなく、負極の表面に形成された後述する固体電解質界面(SEI)層の表面にリチウム金属が析出することも包含する。負極と電気的に接触している緩衝機能層の表面又は内部、並びに負極又は緩衝機能層の表面に形成された後述する固体電解質界面(SEI)層の表面の少なくとも1箇所に、リチウム金属が析出することも包含する。例えば、図2において、リチウム金属は、負極130の表面(負極130とセパレータ140との界面)に析出し得る。
【0030】
本実施形態のリチウム二次電池101をリチウムイオン電池(LIB)及びリチウム金属電池(LMB)と比較すると、以下の点で異なるものである。
リチウムイオン電池(LIB)において、負極はリチウム元素(リチウムイオン又はリチウム金属)のホスト物質を有し、電池の充電によりかかる物質にリチウム元素が充填され、ホスト物質がリチウム元素を放出することにより電池の放電が行われる。LIBは、負極がリチウム元素のホスト物質を有する点で、本実施形態のリチウム二次電池101とは異なる。
リチウム金属電池(LMB)は、その表面にリチウム金属を有する電極か、あるいはリチウム金属単体を負極として用いて製造される。すなわち、LMBは、電池を組み立てた直後、すなわち電池の初期充電前に、負極が負極活物質であるリチウム金属を有する点で、本実施形態のリチウム二次電池101とは異なる。LMBは、その製造に、可燃性及び反応性が高いリチウム金属を含む電極を用いるが、本実施形態のリチウム二次電池101は、リチウム金属を有しない負極を用いるため、より安全性及び生産性に優れるものである。
【0031】
本明細書において、負極が「負極活物質を有しない」とは、負極が負極活物質を有しないか、実質的に有しないことを意味する。負極が負極活物質を実質的に有しないとは、負極が有する負極活物質の量が、正極活物質に比べて容量比で十分少ないことを意味する。負極における負極活物質の含有量は、例えば負極全体に対して10質量%以下である。負極における負極活物質の含有量は、負極全体に対して、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。負極が負極活物質を有せず、又は、負極における負極活物質の含有量が上記の範囲内にあることにより、リチウム二次電池101のエネルギー密度が高いものとなる。
【0032】
本明細書において、「負極活物質を有しない負極を備えるリチウム二次電池」とは、電池の初期充電前に、負極が負極活物質を有しないことを意味する。したがって、「負極活物質を有しない負極」との句は、「電池の初期充電前に負極活物質を有しない負極」、「電池の充電状態に依らずリチウム金属以外の負極活物質を有せず、かつ、初期充電前においてリチウム金属を有しない負極」、又は「初期充電前においてリチウム金属を有しない負極集電体」等と換言してもよい。あるいは、上記の句において、用語「初期充電前」は、用語「初期充電前又は放電終了時」との句に置き換えてもよい。また、「負極活物質を有しない負極を備えるリチウム二次電池」は、アノードフリーリチウム電池、ゼロアノードリチウム電池、又はアノードレスリチウム電池と換言してもよい。
【0033】
本明細書において、電池が「初期充電前である」とは、電池が組み立てられてから第1回目の充電をするまでの状態を意味する。また、電池が「放電終了時である」とは、それ以上電池の電圧を低下させても放電が生じない状態を意味し、その際の電池の電圧は、例えば1.0V以上3.8V以下、好ましくは1.0V以上3.0V以下である。
【0034】
本実施形態の負極は、電池の充電状態によらず、リチウム金属以外の負極活物質の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。
また、本実施形態の負極は、初期充電前又は放電終了時において、リチウム金属の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。負極は、初期充電前及び放電終了時において、リチウム金属の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であると好ましい(その中でも好ましくは、リチウム金属の含有量が、負極全体に対して5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。)
【0035】
本実施形態のリチウム二次電池101は、電池の電圧が1.0V以上3.5V以下である場合において、リチウム金属の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であってもよく(好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。);電池の電圧が1.0V以上3.0V以下である場合において、リチウム金属の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であってもよく(好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。);又は、電池の電圧が1.0V以上2.5V以下である場合において、リチウム金属の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であってもよい(好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。)。
【0036】
また、本実施形態のリチウム二次電池101において、電池の電圧が4.2Vの状態において負極上に析出しているリチウム金属の質量M4.2に対する、電池の電圧が3.0Vの状態において負極上に析出しているリチウム金属の質量M3.0の比M3.0/M4.2は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは15%以下であり、更に好ましくは10%以下である。比M3.0/M4.2は、8.0%以下であってもよく、5.0%以下であってもよく、3.0%以下であってもよく、1.0%以下であってもよい。
【0037】
負極活物質の例としては、リチウム金属及びリチウム金属を含む合金、炭素系物質、金属酸化物、並びにリチウムと合金化する金属及び該金属を含む合金等が挙げられる。上記炭素系物質としては、特に限定されないが、例えば、グラフェン、グラファイト、ハードカーボン、メソポーラスカーボン、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーン等が挙げられる。上記金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化チタン系化合物、酸化スズ系化合物、及び酸化コバルト系化合物等が挙げられる。上記リチウムと合金化する金属としては、例えば、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アルミニウム、及びガリウムが挙げられる。
【0038】
本実施形態の負極としては、負極活物質を有せず、集電体として用いることができるものであれば特に限定されないが、例えば、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、その他Liと反応しない金属、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものが挙げられる。なお、負極にSUSを用いる場合、SUSの種類としては従来公知の種々のものを用いることができる。上記のような負極材料は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。なお、本明細書中、「Liと反応しない金属」とは、リチウム二次電池101の動作条件においてリチウムイオン又はリチウム金属と反応して合金化することがない金属を意味する。
【0039】
本実施形態の負極は、好ましくはCu、Ni、Ti、Fe、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものであり、より好ましくは、Cu、Ni、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものである。負極は、更に好ましくは、Cu、Ni、これらの合金、又は、ステンレス鋼(SUS)である。このような負極を用いると、電池のエネルギー密度、及び生産性が一層優れたものとなる傾向にある。
【0040】
本実施形態の負極の平均厚さは、好ましくは4μm以上20μm以下であり、より好ましくは5μm以上18μm以下であり、更に、好ましくは6μm以上15μm以下である。そのような態様によれば、電池における負極の占める体積が減少するため、電池のエネルギー密度が一層向上する。
【0041】
(正極)
正極120としては、一般的にリチウム二次電池に用いられるものであれば特に限定されず、リチウム二次電池の用途によって、公知の材料を適宜選択することができる。電池の安定性及び出力電圧を向上させる観点から、正極120は、正極活物質を有することが好ましい。
【0042】
本明細書において、「正極活物質」とは、正極において電極反応、すなわち酸化反応及び還元反応を生じる物質である。具体的には、本実施形態の正極活物質としてはリチウム元素(典型的には、リチウムイオン)のホスト物質が挙げられる。
【0043】
そのような正極活物質としては、特に限定されないが、例えば、金属酸化物及び金属リン酸塩が挙げられる。上記金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化コバルト系化合物、酸化マンガン系化合物、及び酸化ニッケル系化合物等が挙げられる。上記金属リン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、リン酸鉄系化合物、及びリン酸コバルト系化合物が挙げられる。典型的な正極活物質としては、LiCoO、LiNiCoMnO(x+y+z=1)、LiNiMnO(x+y=1)、LiNiO、LiMn、LiFePO、LiCoPO、LiFeOF、LiNiOF、及びTiSが挙げられる。上記のような正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0044】
正極120は、上記の正極活物質以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、特に限定されないが、例えば、公知の導電助剤、バインダー、及びポリマー電解質が挙げられる。
【0045】
正極120における導電助剤としては、特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)、カーボンナノファイバー(CF)、及びアセチレンブラック等が挙げられる。また、バインダーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリビニリデンフロライド、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル樹脂、及びポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0046】
正極120における、正極活物質の含有量は、正極120全体に対して、例えば、50質量%以上100質量%以下であってもよい。導電助剤の含有量は、正極120全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下あってもよい。バインダーの含有量は、正極120全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下であってもよい。ポリマー電解質の含有量は、正極120全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下であってもよい。
【0047】
(正極集電体)
正極120の片側には、正極集電体110が配置されている。正極集電体110は、電池においてリチウムイオンと反応しない導電体であれば特に限定されない。そのような正極集電体としては、例えば、アルミニウムが挙げられる。
【0048】
正極集電体110の平均厚さは、好ましくは4μm以上20μm以下であり、より好ましくは5μm以上18μm以下であり、更に、好ましくは6μm以上15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム二次電池101における正極集電体110の占める体積が減少するため、リチウム二次電池101のエネルギー密度が一層向上する。
【0049】
(セパレータ)
セパレータ140は、正極120と負極130とを隔離することにより電池が短絡することを防ぎつつ、正極120と負極130との間の電荷キャリアとなるリチウムイオンのイオン伝導性を確保するための部材であり、電子導電性を有せず、リチウムイオンと反応しない材料により構成される。また、セパレータ140は電解液を保持する役割も担う。セパレータを構成する材料自体にイオン伝導性はないが、セパレータが電解液を保持することにより、電解液を通じてリチウムイオンが伝導する。セパレータ140は、上記役割を担う限りにおいて限定はないが、例えば、多孔質のポリエチレン(PE)膜、ポリプロピレン(PP)膜、又はこれらの積層構造により構成される。
【0050】
セパレータ140は、セパレータ被覆層により被覆されていてもよい。セパレータ被覆層は、セパレータ140の両面を被覆していてもよく、片面のみを被覆していてもよい。セパレータ被覆層は、リチウムイオンと反応しない部材であれば特に限定されないが、セパレータ140と、セパレータ140に隣接する層とを強固に接着させることができるものであると好ましい。そのようなセパレータ被覆層としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースの合材(SBR-CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(Li-PAA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、及びアラミドのようなバインダーを含むものが挙げられる。セパレータ被覆層は、上記バインダーにシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硝酸リチウム等の無機粒子を添加させてもよい。なお、セパレータ140は、セパレータ被覆層を有しないセパレータであってもよく、セパレータ被覆層を有するセパレータであってもよい。
【0051】
セパレータ140の平均厚さは、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは25μm以下であり、更に好ましくは20μm以下である。そのような態様によれば、リチウム二次電池101におけるセパレータ140の占める体積が減少するため、リチウム二次電池101のエネルギー密度が一層向上する。また、セパレータ140の平均厚さは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは7μm以上であり、更に好ましくは10μm以上である。そのような態様によれば、正極120と負極130とを一層確実に隔離することができ、電池が短絡することを一層抑止することができる。
【0052】
(電解液)
リチウム二次電池101は、電解液を有していることが好ましい。リチウム二次電池101において、電解液は、セパレータ140に浸潤させてもよく、正極集電体110と、正極120と、セパレータ140と、負極130との積層体と共に密閉容器に封入してもよい。電解液は、電解質及び溶媒を含有し、イオン伝導性を有する溶液であり、リチウムイオンの導電経路として作用する。このため、電解液を含む態様によれば、電池の内部抵抗が一層低下し、エネルギー密度、容量、及びサイクル特性が一層向上する。
【0053】
電解液は、下記式(A)で表される1価の基及び下記式(B)で表される1価の基のうち少なくとも一方を有するフッ化アルキル化合物を溶媒として含有すると好ましい。
【化1】
【化2】
ただし、式中、波線は、1価の基における結合部位を表す。
【0054】
一般的に、電解液を有するアノードフリー型のリチウム二次電池において、電解液中の溶媒等が分解されることにより、負極等の表面に固体電解質界面層(SEI層)が形成される。SEI層は、リチウム二次電池において、電解液中の成分が更に分解されること、並びにそれに起因する非可逆的なリチウムイオンの還元、及び気体の発生等を抑制する。また、SEI層はイオン伝導性を有するため、SEI層が形成された負極表面において、リチウム金属析出反応の反応性が負極表面の面方向について均一なものとなる。リチウム二次電池101において、上記のフッ化アルキル化合物を溶媒として用いると、負極表面にSEI層が形成されやすく、負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが一層抑制され、その結果、サイクル特性が一層向上する傾向にある。
【0055】
なお、本明細書において、化合物が「溶媒として含まれる」とは、リチウム二次電池の使用環境において、当該化合物単体又は他の化合物との混合物が液体であればよく、さらには、電解質を溶解させて溶液相にある電解液を作製できるものであればよい。
【0056】
そのようなフッ化アルキル化合物としては、エーテル結合を有する化合物(以下、「エーテル化合物」という。)、エステル結合を有する化合物、及びカーボネート結合を有する化合物等が挙げられる。電解液における電解質の溶解度を一層向上させる観点、及びSEI層が一層形成されやすくなる観点から、フッ化アルキル化合物は、エーテル化合物であると好ましい。
【0057】
フッ化アルキル化合物であるエーテル化合物としては、式(A)で表される1価の基及び式(B)で表される1価の基の双方を有するエーテル化合物(以下、「第一フッ素溶媒」ともいう。)、式(A)で表される1価の基を有し、かつ、式(B)で表される1価の基を有しないエーテル化合物(以下、「第二フッ素溶媒」ともいう。)、及び式(A)で表される1価の基を有せず、かつ、式(B)で表される1価の基を有するエーテル化合物(以下、「第三フッ素溶媒」ともいう。)等が挙げられる。
【0058】
第一フッ素溶媒としては、例えば、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジエトキシメタン、及び1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジエトキシプロパン等が挙げられる。上記のフッ化アルキル化合物の効果を有効かつ確実に奏する観点から、第一フッ素溶媒としては、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルが好ましい。
【0059】
第二フッ素溶媒としては、例えば、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、メチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、エチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、プロピル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、1H,1H,5H-パーフルオロペンチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、及び1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル等が挙げられる。上記のフッ化アルキル化合物の効果を有効かつ確実に奏する観点から、第二フッ素溶媒としては、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、メチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、エチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、及び1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテルが好ましい。
【0060】
第三フッ素溶媒としては、例えば、ジフルオロメチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、トリフルオロメチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、フルオロメチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、及びメチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル等が挙げられる。上記のフッ化アルキル化合物の効果を有効かつ確実に奏する観点から、第三フッ素溶媒としては、ジフルオロメチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルが好ましい。
【0061】
電解液は、式(A)で表される1価の基及び式(B)で表される1価の基の双方を有しない溶媒を含んでいてもよい。そのような溶媒としては、特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジメトキシエタン(DME)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、メチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、リン酸トリメチル、及びリン酸トリエチル等のフッ素を含有しない溶媒、並びに、メチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-4-トリフルオロメチルペンタン、メチル-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルエーテル、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル、エチル-1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルエーテル、及びテトラフロロエチルテトラフロロプロピルエーテル等のフッ素を含有する溶媒が挙げられる。
【0062】
上記フッ化アルキル化合物を含め、上述した溶媒は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0063】
電解液におけるフッ化アルキル化合物の含有量は、特に限定されないが、電解液の溶媒成分の総量に対して、好ましくは40体積%以上であり、より好ましくは50体積%以上であり、更に好ましくは60体積%以上であり、更により好ましくは70体積%以上である。フッ化アルキル化合物の含有量が上記の範囲内にあると、SEI層が一層形成されやすくなるため、電池のサイクル特性が一層向上する傾向にある。フッ化アルキル化合物の含有量の上限は特に限定されず、フッ化アルキル化合物の含有量は、電解液の溶媒成分の総量に対して、100体積%以下であってもよく、95体積%以下であってもよく、90体積%以下であってもよく、80体積%以下であってもよい。
【0064】
電解液に含まれる電解質としては、塩であれば特に限定されないが、例えば、Li、Na、K、Ca、及びMgの塩等が挙げられる。電解質としては、好ましくはリチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、特に限定されないが、LiI、LiCl、LiBr、LiF、LiBF、LiPF、LiAsF、LiSOCF、LiN(SOF)、LiN(SOCF、LiN(SOCFCF、LiB(C、LiBF(C)、LiB(O、LiB(O)F、LiB(OCOCF、LiNO、及びLiSO等が挙げられる。上記のリチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0065】
電解液における電解質の濃度は特に限定されないが、好ましくは0.5M以上であり、より好ましくは0.7M以上であり、更に好ましくは0.9M以上であり、更により好ましくは1.0M以上である。電解質の濃度が上記の範囲内にあることにより、SEI層が一層形成されやすくなり、また、内部抵抗が一層低くなる傾向にある。電解質の濃度の上限は特に限定されず、電解質の濃度は10.0M以下であってもよく、5.0M以下であってもよく、2.0M以下であってもよい。
【0066】
(製造方法)
図2に示すようなリチウム二次電池101の製造方法としては、上述の構成を有するリチウム二次電池を製造することができる方法であれば特に限定されないが、例えば以下のような方法が挙げられる。
【0067】
まず、正極120を公知の製造方法により、又は市販のものを購入することにより準備する。正極120は例えば以下のようにして製造する。上述した正極活物質、公知の導電助剤、及び公知のバインダーを混合し、正極混合物を得る。その配合比は、例えば、上記正極混合物全体に対して、正極活物質が50質量%以上99質量%以下、導電助剤が0.5質量%30質量%以下、バインダーが0.5質量%30質量%以下であってもよい。得られた正極混合物を、所定の厚さ(例えば、5μm以上1mm以下)を有する正極集電体としての金属箔(例えば、Al箔)の片面に塗布し、プレス成型する。得られた成型体を、打ち抜き加工により、所定のサイズに打ち抜き、正極集電体110上に形成された正極120を得る。
【0068】
次に、負極130は、上述した負極材料、例えば1μm以上1mm以下の金属箔(例えば、電解Cu箔)を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄することで準備することができる。
【0069】
次に、上述した構成を有するセパレータ140を準備する。セパレータ140は従来公知の方法で製造してもよく、市販のものを用いてもよい。電解液は、上記の溶媒に上記の電解質(典型的には、リチウム塩)を溶解させることにより調製すればよい。
【0070】
次に、以上のようにして得られた、正極120が形成された正極集電体110、セパレータ140、及び負極130を、この順に積層することで図2に示されるような積層体を得る。以上のようにして得られた積層体を、電解液と共に密閉容器に封入することでリチウム二次電池101を得ることができる。密閉容器としては、特に限定されないが、例えば、ラミネートフィルムが挙げられる。
【0071】
[BMS400の機能構成]
図3は、本実施形態に係るBMS400の機能構成の一例を示すブロック図である。
BMS400は、例えば、記憶部410と、充放電制御部420と、モニタリング部430と、厚さ測定値取得部440と、充電状態推定部450と、劣化状態推定部460と、出力部470とを有する。
【0072】
(記憶部410)
記憶部410は、上述したメモリ401によって構成される記憶部であって、例えば、充放電履歴情報と、充放電特性情報と、満充電後劣化特性情報と、完全放電後劣化特性情報とを記憶する。
【0073】
(充放電履歴情報)
充放電履歴情報は、各リチウム二次電池101の充放電制御において各種センサ(電流センサ102、電圧センサ103、及び温度センサ104等)により検出された各リチウム二次電池101の電流値、電圧値、温度値、及びこれら検出値から算出される算出値を含む。算出値は、例えば、充電サイクルにおける電流値の積算値である充電量や、放電サイクルにおける電流値の積算値である放電量等を含んでもよい。後述するように、充放電履歴情報は、例えば、モニタリング部430により算出される。
【0074】
(充放電特性情報)
図4は、本実施形態に係る充放電特性情報の一例を示す図である。図4において、縦軸はOCV(Open Circuit Voltage)(V)を示す。ここで、「OCV(Open Circuit Voltage)」とは、「開回路電圧」とも称され、電池の電極間に外部電源を接続し、電流を0Aにして自己放電しない時間範囲内で長時間緩和させたときの平衡電圧をいう。図4において、横軸はSOC(State of Charge)(%)を示す。ここで、「SOC(State of Charge)」とは、「充電率」とも称され、電池の充電状態を示す充電指標の一例であって、電流値の積算値に基づいて算出される。
【0075】
充放電特性情報は、測定用のリチウム二次電池を用いて予め測定した、充電特性情報と、放電特性情報とを含む。充電特性情報は、1回の充電サイクルにおけるOCVとSOCとの関係を示す情報である。放電特性情報は、1回の放電サイクルにおけるOCVとSOCとの関係を示す情報である。
【0076】
図4には、一例として、充放電サイクル数(測定用のリチウム二次電池がそれまでに実行した通算の充放電サイクル数)の異なる3つの充電特性情報511、512、及び513がそれぞれ実線で示され、また、充放電サイクル数の異なる3つの放電特性情報521、522、及び523がそれぞれ点線で示されている。充電特性情報511及び放電特性情報521は充放電サイクル数C1の充放電特性情報とし、充電特性情報512及び放電特性情報522は充放電サイクル数C2の充放電特性情報とし、充電特性情報513及び放電特性情報523は充放電サイクル数C3の充放電特性情報とする。このとき、「C1<C2<C3」が成り立つものとする。図4に示すとおり、充放電特性情報において、充放電サイクル数が増加するにつれて、リチウム二次電池101の満充電容量が減少することが分かる。
【0077】
(満充電後劣化特性情報及び完全放電後劣化特性情報)
図5は、本実施形態に係る満充電後劣化特性情報及び完全放電後劣化特性情報の一例を示す図である。ここで、満充電後劣化特性情報は、測定用のリチウム二次電池を用いて予め測定した、満充電後のリチウム二次電池についての所定部分の厚さと、リチウム二次電池101の劣化状態を示す劣化指標との関係を規定する特性情報である。また、完全放電後劣化特性情報は、測定用のリチウム二次電池を用いて予め測定した、完全放電後のリチウム二次電池についての所定部分の厚さと、リチウム二次電池101の劣化状態を示す劣化指標との関係を規定する特性情報である。
【0078】
図5において、横軸はリチウム二次電池101の劣化指標としての満充電容量減少分(Ah)を示しており、縦軸はリチウム二次電池101の所定部分の厚さ(mm)を示している。ここで、満充電容量減少分とは、電池が劣化していない状態(未使用で新品の状態)での満充電容量から、現在の電池の満充電容量を差し引いた値である。なお、劣化指標は、満充電容量減少分に限らず、リチウム二次電池101の劣化の度合を示す指標であれば、他の指標であってもよい。例えば、劣化指標は、SOH(State Of Health)であってもよい。ここで、「SOH(State Of Health)」は、「容量維持率」とも称され、電池が劣化していない状態(未使用で新品の状態)での満充電容量(第1満充電容量)に対する、現在の電池の満充電容量(第2満充電容量)の割合(%)をいう。また、例えば、劣化指標は、充放電サイクル数であってもよい。
【0079】
符号600Cは、満充電後劣化特性情報を示し、符号600Dは、完全放電後劣化特性情報を示している。満充電後劣化特性情報600C及び完全放電後劣化特性情報600Dのいずれについても、満充電容量減少分が増加する(SOHが減少する)にしたがって、所定部分の厚さが増加している。これは、リチウム二次電池101の充放電サイクル数が増加するにつれて、SOHが減少すると共に、リチウム二次電池101の所定部分の厚さが増加するためである。
【0080】
ここで、リチウム二次電池101の充放電サイクル数が増加するにつれて、リチウム二次電池101の所定部分の厚さが増加するのは、充放電における寄生反応により堆積物が負極上に生成され、負極の厚さが増加することが主な理由である。特に、本実施形態に係るリチウム二次電池101は、負極130に負極活物質を含んでいないため、後述するように、例えば充放電の1サイクル中において、充放電により負極130上に析出するリチウム金属の量が、リチウム二次電池101の充放電量と強い線形性を示す。そして、経時的には(充放電サイクルが重ねられていくにつれて)、負極130に生成されたリチウム金属のうちの一定の割合が、負極130に堆積物(例えば、リチウムを含む有機物又は無機の化合物等)として蓄積される。そのため、当該所定部分の厚さと、リチウム二次電池101の劣化指標との間の線形性が顕著なものとなる。当該線形性は、例えば、「負極に負極活物質を含まない」という構造的特徴を有しないリチウムイオン二次電池の線形性よりも強いと言える。なお、図5において、完全放電後劣化特性情報600Dの傾きは満充電後劣化特性情報600Cの傾きより大きいが、これは、充放電サイクル数の増加に伴ってリチウム二次電池101の満充電容量が減少するためである。
【0081】
(充放電制御部420)
図3を再び参照する。充放電制御部420は、リチウム二次電池101の充放電を制御する。例えば、充放電制御部420は、充電器200からリチウム二次電池101に電流を供給させることにより、リチウム二次電池101を充電する。また、例えば、充放電制御部420は、リチウム二次電池101から負荷300に電流を供給させることにより、リチウム二次電池101を放電する。
【0082】
(モニタリング部430)
モニタリング部430は、リチウム二次電池101の充放電に応じて、電池モジュール100に備えられた各種センサ(電流センサ102、電圧センサ103、及び温度センサ104)が検出した値(電流値、電圧値、及び温度値)を取得した上で、検出値に基づいて充放電履歴情報を生成し、これを記憶部410に格納する。
【0083】
(厚さ測定値取得部440)
厚さ測定値取得部440は、リチウム二次電池101の所定部分の厚さの測定値を厚さセンサ105から取得する。上述したとおり、厚さセンサ105が厚さを測定するリチウム二次電池101の当該所定部分は、少なくとも負極130を含むように規定されれば、任意の部分(全体を含む)であってよく、例えば、リチウム二次電池101の密閉容器の一端から他端までの部分であってもよいし、負極130のみから成る部分であってもよい。
【0084】
(充電状態推定部450)
充電状態推定部450は、リチウム二次電池101の充電状態を示す充電指標の推定値である充電指標推定値を算出することにより、リチウム二次電池101の充電状態を推定する。充電指標推定値の算出方法は、特に限定されないが、例えば後述するように、充放電履歴情報を、予め測定された充放電特性情報と比較する方法であってもよい。充電指標は、例えば、満充電容量に対する充電量の割合であるSOCであってよい。
【0085】
(劣化状態推定部460)
劣化状態推定部460は、リチウム二次電池101の劣化状態を示す劣化指標の推定値である劣化指標推定値を算出することにより、リチウム二次電池101の劣化状態を推定する。具体的には、劣化状態推定部460は、記憶部410に記憶された、予め測定用のリチウム二次電池101を用いて測定された満充電後劣化特性情報及び完全放電後劣化特性情報の少なくともいずれかを参照することにより、リチウム二次電池101の所定部分の厚さの測定値と、充電指標推定値とに基づいて、リチウム二次電池101についての劣化指標推定値を算出する。劣化指標は、例えば、上述したとおり、満充電容量減少分、SOH、及び充放電サイクル数等であってもよい。
【0086】
(出力部470)
出力部470は、算出されたSOH推定値(劣化指標推定値の一例)を含む各種の情報を出力する。例えば、出力部470は、算出されたSOH等の情報を、任意の情報処理装置に送信してもよいし、任意の表示部に表示させてもよい。
【0087】
[劣化状態推定処理]
図6は、本実施形態に係る電源装置1による劣化状態推定処理の動作フローの一例を示す図である。
【0088】
(S11)まず、厚さ測定値取得部440は、厚さセンサ105から、劣化状態推定の対象となるリチウム二次電池101(対象リチウム二次電池101)の所定部分の厚さの測定値(厚さ測定値)を取得する。なお、対象リチウム二次電池101は、電池モジュール100が有する任意のリチウム二次電池101であってよい。
【0089】
(S12)次に、充電状態推定部450は、記憶部410に記憶された各充放電サイクル数についての充放電特性情報を参照することにより、対象リチウム二次電池101の最新の充放電履歴情報に基づいて、対象リチウム二次電池101のSOC推定値を算出する。具体的には、充電状態推定部450は、対象リチウム二次電池101の最新の充放電履歴情報を、記憶部410に記憶された各充放電サイクル数についての充放電特性情報と比較した上で、充放電履歴情報との差分が最も小さい充放電特性情報を特定する。そして、充放電履歴情報のうち最新の電圧値に対応する充電量・放電量を特定した上で、満充電容量に対する充電量・放電量の割合を算出し、これをSOC推定値として決定する。
【0090】
(S13)次に、劣化状態推定部460は、満充電後劣化特性情報及び完全放電後劣化特性情報の少なくともいずれかを参照することにより、ステップS11において取得した厚さ測定値と、ステップS12において算出したSOC推定値と、に基づいて、対象リチウム二次電池101についての満充電容量減少分の推定値を算出する。
【0091】
図7は、満充電容量減少分の推定値の算出方法について説明するための図である。図7には、図4に示したのと同様の満充電後劣化特性情報600C及び完全放電後劣化特性情報600Dが示されている。以下では、図7を参照して、満充電容量減少分の推定値の算出方法を、(1)SOC推定値が100(%)(リチウム二次電池101が満充電後)である場合と、(2)SOC推定値が0(%)(リチウム二次電池101が完全放電後)である場合と、(3)SOC推定値が0(%)より大きく100(%)より小さい(リチウム二次電池101が満充電後及び完全放電後のいずれでもない)場合とに分けて説明する。
【0092】
(1)SOC推定値が100(%)である場合
SOC推定値が100(%)、すなわち満充電後を示す場合、劣化状態推定部460は、満充電後劣化特性情報600Cにおいて厚さ測定値に対応する満充電容量減少分を、満充電容量減少分の推定値として算出する。例えば、ステップS11において取得された厚さ測定値がTであったとすると、図7の満充電後劣化特性情報600Cにおいて、厚さ測定値Tに対応する点Aの満充電容量減少分はD1である。したがって、当該D1が、厚さ測定値がTで、且つSOC推定値が100(%)である場合における、満充電容量減少分の推定値となる。
【0093】
(2)SOC推定値が0(%)である場合
SOC推定値が0(%)、すなわち完全放電後を示す場合、劣化状態推定部460は、完全放電後劣化特性情報600Dにおいて厚さ測定値に対応する満充電容量減少分を、満充電容量減少分の推定値として算出する。例えば、ステップS11において取得された厚さ測定値がTであったとすると、図7の完全放電後劣化特性情報600Dにおいて、厚さ測定値Tに対応する点Bの満充電容量減少分はD1である。したがって、当該D1が、厚さ測定値がTで、且つSOC推定値が0(%)である場合における、満充電容量減少分の推定値となる。
【0094】
(3)SOC推定値が0(%)より大きく100(%)より小さい場合
SOC推定値が0(%)より大きく100(%)より小さい場合、劣化状態推定部460は、以下に述べるように、満充電容量減少分の推定値を算出する。ステップS11において取得された厚さ測定値をTとし、ステップS12において算出されたSOC推定値をRとする。満充電後劣化特性情報600Cにおける電池厚さを満充電後厚さと称し、完全放電後劣化特性情報600Dにおける電池厚さを完全放電後厚さと称する。
【0095】
まず、劣化状態推定部460は、任意の満充電容量減少分について、満充電後厚さと完全放電後厚さとの差分に対する、厚さ測定値と完全放電後厚さとの差分の割合を算出する。例えば、図7において、満充電容量減少分がD1の場合、満充電後劣化特性情報600Cの点Aと、完全放電後劣化特性情報600D上の点Bがそれぞれ、満充電容量減少分D1に対応するものとする。そして、点Aにおける満充電後厚さをTとし、点Bにおける完全放電後厚さをTとすると、満充電容量減少分D1についての満充電後厚さTと完全放電後厚さTとの差分はT-Tとなる。また、満充電容量減少分D1において厚さ測定値Tとなる点を点Cとすると、満充電容量減少分D1についての厚さ測定値Tと完全放電後厚さTとの差分はT-Tとなる。以上より、満充電容量減少分がD1である場合、上記割合(満充電後厚さと完全放電後厚さとの差分に対する、厚さ測定値と完全放電後厚さとの差分の割合)は、(T-T)/(T-T)となる。
【0096】
次に、劣化状態推定部460は、任意の満充電容量減少分について割合(T-T)/(T-T)を算出した上で、これをステップS12において算出したSOC推定値Rと比較することにより、割合(T-T)/(T-T)がSOC推定値Rに等しくなる場合の満充電容量減少分を特定し、当該満充電容量減少分を所望の推定値として決定する。
図7には、割合(T-T)/(T-T)がSOC推定値Rに等しくなる場合の満充電容量減少分がD1である場合が示されている。この場合、換言すれば、図7に示すとおり、線分ABの長さに対する線分BCの長さの比が、SOC推定値Rに等しくなる。すなわち、「線分ACの長さ:線分BCの長さ=100-R:R」が成り立つ。
【0097】
ここで、上記割合(満充電後厚さと完全放電後厚さとの差分に対する、厚さ測定値と完全放電後厚さとの差分の割合)である(T-T)/(T-T)と、SOC推定値Rとを比較する理由は、本実施形態に係るリチウム二次電池101においては、リチウム二次電池101の少なくとも負極130を含む所定部分の厚さが、SOCに対して強い線形性を示すからである。すなわち、上述したとおり、本実施形態に係るリチウム二次電池101は、負極130に負極活物質を含んでいないため、充放電により負極130上に析出するリチウム金属の量が、リチウム二次電池101の充放電量と強い線形性を示す。そのため、本実施形態に係るリチウム二次電池101では、リチウム二次電池101の少なくとも負極130を含む所定部分の厚さが、リチウム二次電池101の充電状態と強い線形性を示す。これにより、ステップS13における上記(3)の場合のように、SOC推定値が0(%)より大きく100(%)より小さい(リチウム二次電池101が満充電後及び完全放電後のいずれでもない)場合であっても、満充電後厚さと完全放電後厚さとの差分に対する厚さ測定値の割合がSOC推定値によく一致するため、算出される劣化指標(満充電容量減少分等)の精度が担保される。この点つき、例えばリチウムイオン二次電池では、負極が負極活物質を有しており、リチウムイオンがインターカレーションにより電気化学反応生成物として蓄積されるため、電極の体積や寸法等の変化(膨張、収縮等)が、充放電の電気量の増減に対して線形的な関係(比例関係等)とはならない。例えば、負極活物質が炭素の場合、LiC12からLiCなどの構造変化の際に大きな体積変化が生じるので、SOC等の充電指標に対する電極の寸法変化は非線形的なものとなる。
【0098】
(S14)次に、出力部470は、算出された満充電容量減少分の推定値を出力する。例えば、出力部470は、算出された満充電容量減少分の推定値を、任意の情報処理装置に送信してもよいし、任意の表示部に表示させてもよい。以上で劣化状態推定処理が終了する。
【0099】
なお、本明細書において、「エネルギー密度が高い」又は「高エネルギー密度である」とは、電池の総体積又は総質量当たりの容量が高いことを意味するが、好ましくは800Wh/L以上又は350Wh/kg以上であり、より好ましくは900Wh/L以上又は400Wh/kg以上であり、更に好ましくは1000Wh/L以上又は450Wh/kg以上である。
【0100】
また、本明細書において、「サイクル特性に優れる」とは、通常の使用において想定され得る回数の充放電サイクルの前後において、電池の容量の減少率が低いことを意味する。すなわち、初期充電の後の1回目の放電容量と、通常の使用において想定され得る回数の充放電サイクル後の放電容量とを比較した際に、充放電サイクル後の放電容量が、初期充電の後の1回目の放電容量に対してほとんど減少していないことを意味する。ここで、「通常の使用において想定され得る回数」とは、リチウム二次電池が用いられる用途にもよるが、例えば、30回、50回、70回、100回、300回、又は500回である。また、「充放電サイクル後の放電容量が、初期充電の後の1回目の放電容量に対してほとんど減少していない」とは、リチウム二次電池が用いられる用途にもよるが、例えば、充放電サイクル後の放電容量が、初期充電の後の1回目の放電容量に対して、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、又は85%以上であることを意味する。
【0101】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0102】
1…電源装置、100…電池モジュール、101…リチウム二次電池、102…電流センサ、103…電圧センサ、110…正極集電体、120…正極、130…負極、140…セパレータ、200…充電器、300…負荷、400…バッテリ・マネジメント・システム(BMS)、401…メモリ、402…CPU、410…記憶部、420…充放電制御部、430…モニタリング部、440…厚さ測定値取得部、450…充電状態推定部、460…劣化状態推定部、470…出力部、511、512、513…充電特性情報、521、522、523…放電特性情報、600C…満充電後劣化特性情報、600D…完全放電後劣化特性情報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7