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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】加工米及び加工米の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20241114BHJP
【FI】
A23L7/10 A
A23L7/10 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024109927
(22)【出願日】2024-07-08
【審査請求日】2024-07-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511179987
【氏名又は名称】株式会社食域改良研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100135448
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 泰隆
(72)【発明者】
【氏名】奥田 静男
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-123457(JP,A)
【文献】特開2005-333941(JP,A)
【文献】特開2022-117531(JP,A)
【文献】特開2019-129794(JP,A)
【文献】特許第5992669(JP,B1)
【文献】特開2018-174780(JP,A)
【文献】特開平9-299048(JP,A)
【文献】特表2000-513221(JP,A)
【文献】特開2016-106546(JP,A)
【文献】食品工業,1999年10月30日,Vol. 42, No. 22,p. 18-23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工米であって、
βデンプンを含むデンプン層と、
前記加工米の表面に多孔質の亜糊粉層と、を含み、
前記亜糊粉層は、前記デンプン層を内包する、加工米。
【請求項2】
含有水分率が15質量%以下である、請求項1に記載の加工米。
【請求項3】
請求項1に記載の加工米の製造方法であって、
常温より低く且つ0℃より高い第一温度下で前記加工米の原料となる原料米を水に第一時間浸漬する第一工程と、
-1~-5℃の範囲に含まれる第二温度下で前記第一工程後の前記原料米を第二時間緩慢冷凍する第二工程と、
0℃より高い第三温度下で前記第二工程後の前記原料米を解凍する第三工程と、
前記第三温度より高い第四温度下で前記第三工程後の前記原料米を乾燥する第四工程と、を含み、
前記第四工程は、前記第三工程後の前記原料米でデンプンの糊化が起こらない前記第四温度下で前記第三工程後の前記原料米を乾燥する、加工米の製造方法。
【請求項4】
前記第四工程は、前記第四温度下で前記第三工程後の前記原料米を乾燥して含有水分率が15質量%以下である前記加工米を生成する、請求項3に記載の加工米の製造方法。
【請求項5】
前記第二工程は、前記第一工程後の前記原料米を前記第一工程終了後の状態で前記第二時間緩慢冷凍する、請求項3又は請求項4に記載の加工米の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粥の素材とすることができる加工米に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、料理の配膳方法を開示する。配膳方法は、トレーに載せた一つ又は複数の食器に料理を盛り付けて一人分の料理を載せた配膳盆を作り、所定数の配膳盆を配膳体に収容し各人に配膳する。配膳体は、加熱手段及び制御手段を装備する。加熱手段は、トレーの所定位置に載せられた一つ又は複数の食器の各々を加熱する。制御手段は、記憶媒体から各人ごとの料理情報を読み取る。記憶媒体は、料理情報を記憶する。料理情報は、トレーの各々に取り付けられ各人に応じた食材、各人に応じた味付け又は各人に応じた量を含む。制御手段は、予め設定された加熱開始時期、加熱時間及び加熱温度で複数のトレーの各々の加熱手段を制御する。配膳方法は、各人に応じた食材、各人に応じて味付けした食材、各人に応じた量又は各人に応じた調味料を添えた食材を、調理すべき料理ごとに一つ又は複数の食器に盛り付けてトレーの所定位置に載せて各人ごとの一人前の配膳盆を作る。配膳方法は、この配膳盆を配膳体に所定数収容し、配膳体に収容した配膳盆の食材を冷却保存し、予め設定された時間に加熱手段を作動させて、各人の配膳盆における各食器ごとの食材の調理を配膳開始時間までに完了させ、配膳開始時間になったら配膳体から配膳盆を取り出し、各人の配膳盆を対応する各人に配膳する。
【0003】
特許文献2は、即席粥用米の製造方法を開示する。製造方法は、米を糊化温度以上の熱水中に投入し、水分含量を約50~70%とする。水分含量を約50~70%とされた米は、米の芯部まで完全にα化されず、主に表層部がα化された部分α化米となる。その後、製造方法は、米を圧延し、次いで乾燥を行う。製造方法は、α化度70~95%の即席粥用米を製造する。
【0004】
特許文献3は、米の加工方法を開示する。加工方法は、浸水した米を5~20分蒸煮する。加工方法は、米粒の表面部のみをα化し、中心部はβ-澱粉の状態に止めたものに、調味液を吸着させるか、或いはそのまま50~70℃で乾燥し、水分含有量を約13~15%とする。
【0005】
特許文献4は、早炊き米の製造法を開示する。製造法は、玄米及び搗精米(以下、搗精米等と称する)を水又は温湯に浸漬して含水量を20~30%に調整する。その後、製造法は、急激に冷凍し次いで減圧下で乾燥する。早炊き米は、凍結減圧乾燥により搗精米等の組織が多孔化するので水の浸透性も良く、それと共に熱の伝導も胚乳部内部迄容易になる。早炊き米は、炊飯時間を短縮することができる。
【0006】
特許文献5は、加工米の製造方法を開示する。製造方法は、熱処理米を得る工程、熱処理米を急速冷却する工程、膨潤米を得る工程及び膨潤米を凍結乾燥する工程を具備する。熱処理米を得る工程は、無洗米及び精白米から選択される原料米をそのまま熱湯に1~5分間浸漬する。膨潤米を得る工程は、冷却された熱処理米を65℃未満の温度で吸水させる。加工米は、細孔を有する。加工米は、表面に糊化層を有し、且つ、少なくとも中心部に未糊化部を有する。加工米は、原料米の1.8~2.4倍の嵩密度を有する。
【0007】
特許文献6は、凍結乾燥米の製造方法を開示する。製造方法は、浸漬工程、脱水工程、急速冷凍工程、加熱工程、冷却工程及び凍結乾燥工程からなる。浸漬工程は、洗浄した原料米を15~25℃の水に2時間以内を目途に浸漬する。脱水工程は、浸漬した原料米を脱水する。急速冷凍工程は、脱水した原料米をマイナス温度で急速冷凍する。加熱工程は、冷凍状態の原料米を95℃以上の高温で6分以内を目途に加熱する。冷却工程は、加熱処理した原料米を冷却手段により冷却する。凍結乾燥工程は、冷却工程により冷却処理した原料米を凍結乾燥する。製造方法によれば、次の第一点及び第二点から、湯戻しや電子レンジでべた付きや塊状にならない低粘性の米粒がしっかりした米飯になるし、湯戻しの時間も短縮できる。第一点は、浸漬した米をマイナス温度で急速冷凍して米粒に水が浸透する多くの細孔を形成する。第二点は、熱伝導効率を高めて米をアルファ化する加熱時間を短縮して熱によるダメージを抑制する。原料米は、-18℃以下の低温で3~5時間冷凍する急速冷凍処理をすることにより、米に形成される細孔を確実な孔にすることができる。
【0008】
特許文献7は、加工米の製造方法を開示する。製造方法は、第一工程、第二工程、第三工程及び第四工程を実施する。第一工程は、原料米を常温流水中で1~5分間洗米する。第二工程は、原料米を常温で水に20~50分間浸漬する。第三工程は、第二工程での水浸漬後の原料米を70~85℃以上の熱水又は蒸気により1~3分間加熱を行う。第三工程は、原料米に十分に吸水させる。加熱により、含水率が高くなり、アルファ化がある程度進行するとともに、殺菌が可能となる。第四工程は、第三工程で加熱された原料米を加熱後直ちに冷風により3~10分冷却する。第四工程は、加工米を常温に戻すとともに、含水率及びアルファ化率を調整する。冷却後の加工米では、水分含有量は、35重量%以上であり、好ましくは35~40重量%であり、アルファ化率は、90%以下であり、好ましくは84~87%である。
【0009】
特許文献8は、米類と麦芽のお粥の製造方法を開示する。この他、非特許文献1は、給食施設における炊飯の実態と課題を開示し、非特許文献2は、加工米飯類とその製造技術を開示し、非特許文献3は、米の浸漬温度・浸漬時間の調節による加工米飯の食味および食味保存性の向上を開示し、非特許文献4は、米の細胞壁の化学構造と品質を開示し、非特許文献5は、白米水分と吸収率を開示する。非特許文献6は、炊飯における浸漬に関する研究を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第5992669号公報
【文献】特開昭63-258545号公報
【文献】特公昭42-27281号公報
【文献】特公昭60-10695号公報
【文献】特開2013-66418号公報
【文献】特開2019-129794号公報
【文献】特開2022-117531号公報
【文献】特許第6005822号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】森井沙衣子,坂本薫,“給食施設における炊飯の実態と課題”,[online],[令和6年5月17日検索],インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhej/71/2/71_93/_pdf/-char/ja>
【文献】田淵満幸,“加工米飯類とその製造技術”,[online],[令和6年5月17日検索],インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jag1972/40/2/40_2_169/_pdf>
【文献】農研機構,“米の浸漬温度・浸漬時間の調節による加工米飯の食味および食味保存性の向上”,[online],[令和6年5月2日検索],インターネット<URL:https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/nfri/1994/nfri94-07.html>
【文献】渋谷直人,“米の細胞壁の化学構造と品質”,[online],[令和6年5月17日検索],インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk1962/37/9/37_9_740/_pdf/-char/ja>
【文献】野白喜久雄,“白米水分と吸収率”,[online],[令和6年5月17日検索],インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/71/10/71_10_744/_pdf/-char/ja>
【文献】森井沙衣子“炊飯における浸漬に関する研究”,[online],[令和6年6月26日検索],インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/54/2/54_85/_pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
日本では、米は、主食とされ、米飯及び粥の素材として用いられる。米は、豊富な栄養成分を含む。米は、搗精され、玄米の組織のうち米糠に当たる組織が取り除かれる。今日では、米は搗精によって歩留り90%程度の精白米とされ、精白米を素材として用いた米飯及び粥として食されている。精白米は、デンプン層が固い亜糊粉層に内包されていることから、炊飯時に吸水させるには時間がかかるのが難である。しかし、噛み応えのある米飯の食感は、デンプン層が亜糊粉層に内包されていることで得られることから、亜糊粉層の存在は欠かせないものである。これに対して、粥はデンプン層中のデンプンを亜糊粉層の外に溶け出させる必要があることから、亜糊粉層の存在は調理の妨げとなっている。そこで、粥の調理では、デンプン層中のデンプンを溶け出させるために、米粒が煮崩れるまで加熱しているのが現状である。また、この煮崩れを促すために器具を用いる等物理的な操作を加えている。器具の例としては、杓文字が挙げられる。
【0013】
粥は、水量の違いによって次の態様に分類される。この態様の例としては、全粥、七分粥、五分粥及び三分粥である。全粥、七分粥、五分粥及び三分粥では、米量及び水量は次の比率に調整される。即ち、米量及び水量の比率は、全粥では「米量:水量=1:5」程度に調整され、七分粥では「米量:水量=1:7」程度に調整され、五分粥では「米量:水量=1:10」程度に調整され、三分粥では「米量:水量=1:20」程度に調整される。
【0014】
粥では、米量に対する水量の比率が高くなるほど、亜糊粉層の存在が煮崩れを妨げることとなり、糊化の進行が妨げられる。発明者は、このような事象が誤嚥事故の原因になる場合もあると考えた。発明者は、誤嚥事故の対策として次の手法を考えた。この手法は、炊き上がった粥を次の調理器に投入し、米粒を粉砕する。この調理器の例としては、ミキサーが挙げられる。例えば、この調理器としては、株式会社エフ・エム・アイ製の「robot coupe BLIXER」と称されるミキサーを採用してもよい。但し、発明者は、粥が炊き上がった後、ミキサーのような調理器を用いて粉砕した場合、別の観点での対策を検討する必要が生じ得ると考えた。この観点の例としては、粥の調理に要する作業量の増加、粥の品温の低下、及び二次汚染による食中毒及び感染症の一方又は両方の発生リスクが挙げられる。
【0015】
本発明は、米量及び水量の比率の異なる複数種類の粥を同一の加熱条件で粒状の形状を失うまでに糊化した状態に調理することができる加工米に関する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一側面は、加工米であって、βデンプンを含むデンプン層と、前記加工米の表面に多孔質の亜糊粉層と、を含み、前記亜糊粉層は、前記デンプン層を内包する、加工米である。
【0017】
この加工米では、含有水分率が15質量%以下である、ようにしてもよい。
【0018】
上述の加工米によれば、加工米を素材とする粥の調理時、デンプン層内のデンプンが外部に溶け出し易くすることができる。加工米は、亜糊粉層で表面を形成することで、亜糊粉層が多孔質であっても調理前の状態では公知の精白米と同様に粒状の形状を有する。加工米は、調理時の加熱によってゆっくりと粒状の形状を失う。加工米を素材とした粥では、調理時の加熱によって粒状の形状が失われることで、調理後、粥が冷えたとしてもデンプンと水との分離を抑制することができる。加工米は、原料米の品種を問わない。原料米は、新米又は古米の何れであってもよい。加工米は、原料米に古米を用いることで古米の有効活用に役立つ。
【0019】
本発明の他の側面は、本発明の一側面として特定される加工米の製造方法であって、常温より低く且つ0℃より高い第一温度下で前記加工米の原料となる原料米を水に第一時間浸漬する第一工程と、-1~-5℃の範囲に含まれる第二温度下で前記第一工程後の前記原料米を第二時間緩慢冷凍する第二工程と、0℃より高い第三温度下で前記第二工程後の前記原料米を解凍する第三工程と、前記第三温度より高い第四温度下で前記第三工程後の前記原料米を乾燥する第四工程と、を含み、前記第四工程は、前記第三工程後の前記原料米でデンプンの糊化が起こらない前記第四温度下で前記第三工程後の前記原料米を乾燥する、加工米の製造方法である。
【0020】
前記第四工程は、前記第四温度下で前記第三工程後の前記原料米を乾燥して含有水分率が15質量%以下である前記加工米を生成する、ようにしてもよい。
【0021】
前記第二工程は、前記第一工程後の前記原料米を前記第一工程終了後の状態で前記第二時間緩慢冷凍する、ようにしてもよい。
【0022】
上述の加工米の製造方法によれば、デンプン層にβデンプンを含み且つ表面を形成する亜糊粉層を多孔質とした加工米を製造することができる。βデンプンをαデンプンに変化させるためには原料米を加熱する必要がある。加工米の製造方法では、原料米でデンプンの糊化を起こさせず、βデンプンをαデンプンに変化させる必要がない。加工米の製造方法の実施に必要なエネルギーを少なくし、省エネルギーを実現することができる。βデンプンをαデンプンに変化させないことによって、公知の精白米と同様の食味が得られる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、加工米を素材とすることで、米量及び水量の比率の異なる複数種類の粥を同一の加熱条件で粒状の形状を失うまでに糊化した状態に調理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】玄米及び原料米の細胞組織の概略構成を模式的に示す断面図である。上段は玄米を示す。下段は原料米を示す。
図2】加工米の表面の電子顕微鏡写真である。加工米の亜糊粉層を示す。上段の拡大倍率は30倍である。下段の拡大倍率は500倍である。
図3】加工米の切断面の電子顕微鏡写真である。加工米のデンプン層を示す。上段の拡大倍率は300倍である。下段の拡大倍率は500倍である。
図4】未加工の原料米の電子顕微鏡写真である。未加工の原料米の亜糊粉層を示す。上段の拡大倍率は30倍である。下段の拡大倍率は500倍である。
図5】加工米の製造方法の手順を示すフローチャートである。
図6】原料米及び加工米の栄養成分の分析試験結果を示す表である。
図7】特許文献1に開示の技術を採用した実施例の第一調理法で調理された米飯、全粥、七分粥、五分粥及び三分粥を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を実施するための実施形態について図面を用いて説明する。本発明は、以下に記載の構成に限定されるものではなく、同一の技術的思想において種々の構成を採用することができる。例えば、以下に示す構成の一部は、省略し又は他の構成に置換してもよい。本発明は、他の構成を含んでもよい。
【0026】
<加工米10>
加工米10について図1~4を参照して説明する。加工米10は、粥の素材となる。換言すれば、加工米10を調理することで粥が得られる。加工米10は、粳米を原料としてもよく、又は糯米を原料としてもよい。実施形態では、加工米10の原料となる米を「原料米20」といい、原料米20から加工米10を製造する方法を「加工米10の製造方法」という。加工米10の製造方法については後述する。
【0027】
原料米20は、粳米又は糯米の玄米30を搗精して得られる(図1参照)。玄米30は、複数の被覆層を含む(図1上段参照)。複数の被覆層の例としては、表皮40、果皮41、種皮42、糊粉層43、亜糊粉層50及びデンプン層51が挙げられる。表皮40、果皮41、種皮42、糊粉層43、亜糊粉層50及びデンプン層51は、玄米30の表面側から内部側に向けてこの順で重なる。デンプン層51は、βデンプンを含む。加工米10は、原料米20として玄米30を搗精した精白米を採用する。搗精は、玄米30から表皮40、果皮41、種皮42及び糊粉層43を剥離する(図1参照)。玄米30から剥離された表皮40、果皮41、種皮42及び糊粉層43は、「米糠」又は単に「糠」と称される。
【0028】
加工米10は、原料米20として玄米30を歩留り90%程度に搗精した精白米を採用する。但し、搗精後の歩留り90%は例示である。搗精後の歩留りは、諸条件を考慮して適宜決定される。発明者は、歩留り70%程度に搗精した精白米を原料米20に採用することで次の事象が発生することを知っている。この事象では、この精白米は水に浸漬させた状態では粒状の形状を失わないが、その後の工程中に粒状の形状を失う。これは、歩留り70%程度に搗精することで亜糊粉層50の全てが剥離されてしまうためである。この点において、発明者は、歩留り70%程度に搗精した精白米は加工米10の素材としては適していないと考える。
【0029】
加工米10は、デンプン層51及び亜糊粉層50を含む(図2,3参照)。デンプン層51のβデンプンは、加熱によってαデンプンに変化する。加熱に伴うβデンプンからαデンプンへの変化は、「糊化」又は「α化」と称される。実施形態では、この変化を「糊化」という。αデンプンは、時間の経過に伴い温度が下がることでβデンプンへと変化する。温度の低下に伴うαデンプンからβデンプンへの変化は、「老化」と称される。亜糊粉層50は、加工米10の表面を形成する(図2参照)。亜糊粉層50は、デンプン層51を内包する(図3参照)。
【0030】
亜糊粉層50は、搗精後に原料米20に残存する(図1下段参照)。換言すれば、亜糊粉層50は、未加工の原料米20の表面を形成する。未加工は、後述する加工米10の製造方法の第一工程の処理前を意味する。加工米10では、亜糊粉層50は多孔質である(図2参照)。原料米20では、表面の亜糊粉層50は多孔質ではない(図4参照)。加工米10の製造方法は、原料米20の表面の亜糊粉層50を多孔質にする。加工米10では、含有水分率が15質量%以下とされる。但し、加工米10の含有水分率は、13~14質量%又は12質量%以下であることが好ましい。
【0031】
<加工米10の製造方法>
加工米10の製造方法について図5を参照して説明する。加工米10の製造方法は、第一工程、第二工程、第三工程及び第四工程を含む。実施形態では、加工米10の製造方法は、更に第五工程を含む。第一工程、第二工程、第三工程、第四工程及び第五工程は、この順序で実施される。この方法で製造された加工米10は、調理前の洗米及び水への浸漬が不要である。
【0032】
第一工程は、第一温度下で原料米20を水に第一時間浸漬する。第一温度は、常温より低く且つ0℃より高く設定される。「第一温度下」の例としては、5℃に設定された雰囲気が挙げられる。第一工程では、冷蔵機能を有する公知の装置を採用することができる。この場合、この装置の収容室を第一温度に設定することで「第一温度下」を実現することができる。第一時間の例としては、12時間が挙げられる。但し、第一時間は、12時間より長く設定してもよい。第一時間は、諸条件を考慮して適宜決定される。第一工程では、原料米20は耐水性のある浸漬用の第一容器に入れられ、水がこの第一容器に入れられる。原料米20は、第一容器内で水に浸漬される。第一容器の例としては、耐水性を有する容器が挙げられる。原料米20は、水を吸収する。水量は、容器に入れる原料米20と等しい質量以上とする。
【0033】
第二工程は、第二温度下で第一工程後の原料米20を第二時間緩慢冷凍する。第二温度は、-1~-5℃の範囲に含まれる。「第二温度下」の例としては、-1~-5℃の範囲の所定値に設定された雰囲気が挙げられる。第二工程では、緩慢冷凍機能を有する公知の装置を採用することができる。この装置は、第一工程で「第一環境下」を実現するための装置と同じであってもよく、又は第一工程で「第一環境下」を実現するための装置とは異なっていてもよい。第一工程及び第二工程の装置が同じである場合、「第一環境下」及び「第二環境下」は単一の収容室で実現されてもよく、又はそれぞれ異なる収容室で実現されてもよい。第二時間の例としては、12時間が挙げられる。但し、第二時間は、12時間より長く設定してもよい。第二時間は、第一工程の第一時間と同じに設定してもよい。第二時間は、諸条件を考慮して適宜決定される。
【0034】
第二工程は、第一工程後の原料米20を第一工程の終了後の状態で第二時間緩慢冷凍する。第一工程の終了後の状態では、第一工程後の原料米20はそのまま第一容器に含められる。第一工程では、原料米20及び水が第一容器に入れられ、第一容器内で原料米20が水に浸漬される。第二工程では、原料米20は第一容器に入れられた状態及び第二温度下で第二時間緩慢冷凍される。加工米10の製造方法では、第二工程の開始時、第一容器には新たな水は供給されず、又は第一容器に残存する水は除去されない。但し、加工米10の製造方法では、第二工程の開始時、第一容器には新たな水を供給してもよい。加工米10の製造方法では、第二工程の開始時、第一容器に残存する水の一部又は全部を除去することは好ましくない。このような操作は、原料米20が第二工程で冷凍ヤケを起こして変色する原因となる。
【0035】
第二工程では、原料米20が第二温度下で緩慢冷凍されることで原料米20に吸収された水が1.09倍に体積膨張する。第二工程は、このような原料米20に吸収された水の体積膨張によって原料米20の表面の固い亜糊粉層50に微細孔を均質に生じさせる。換言すれば、第二工程は、原料米20の表面の亜糊粉層50を多孔質へと形成する。
【0036】
第三工程は、第三温度下で第二工程後の原料米20を解凍する。第三温度は、0℃より高く設定される。「第三温度下」の例としては、0℃より高い雰囲気が挙げられる。但し、発明者は、これまでの加工米10及び加工米10の製造方法の開発過程において得られた知見から「第三温度下」の好ましい温度範囲が5~10℃であることを知っている。第三工程は、解凍の方法として第三温度下での自然解凍を採用する。但し、第三工程は、温度の範囲が5~10℃の上水が得られる場合、浸漬解凍を採用してもよい。第二工程の終了後、第二工程後の原料米20は第一容器から第二容器に移し替えられる。第二容器の例としてはメッシュ仕様の乾燥用の容器が挙げられる。第三工程は、原料米20を第二容器に移し替えた状態で原料米20を解凍する。
【0037】
第三工程では、冷蔵機能を有する公知の装置を採用することができる。この装置は、第一工程で「第一環境下」を実現するための装置と同じであってもよく、又は第一工程で「第一環境下」を実現するための装置とは異なっていてもよい。第一工程及び第三工程の装置が同じである場合、「第一環境下」及び「第三環境下」は単一の収容室で実現されてもよく、又はそれぞれ異なる収容室で実現されてもよい。例えば、第二工程後の原料米20は、第三工程の実施時、第二容器に入れられた状態で冷蔵機能を有する装置の10℃に設定された収容室で自然解凍される。
【0038】
第四工程は、第四温度下で第三工程後の原料米20を乾燥する。第四温度は、第三温度より高く設定される。更に、第四温度は、第三工程後の原料米20でデンプンの糊化が起こらない温度に設定される。「第四温度下」の例としては、次の雰囲気が挙げられる。この雰囲気は、30~40℃の範囲の所定値に設定されることが好ましく、30℃に設定されることがより好ましい。この雰囲気は、30~40℃の範囲の所定値に設定された温風又は30℃に設定された温風が吹き込む雰囲気であってもよい。この場合、この温風は第二容器に入れられた第三工程後の原料米20に吹き付けられてもよい。
【0039】
第四工程は、第三工程後の原料米20を第三工程の終了後の状態で乾燥する。第三工程の終了後の状態では、第三工程後の原料米20はそのまま第二容器に含められる。第四工程では、原料米20は第二容器に入れられた状態及び第四温度下で乾燥される。第四工程では、乾燥機能を有する公知の装置を採用することができる。この装置は、乾燥室を含む。乾燥室は、第三工程後の原料米20を含む第二容器を収容する。この場合、第三工程後の原料米20は、第三工程の終了後、第二容器に入れられた状態でそのまま乾燥室に収容される。乾燥機能は、温風を送風することで実現されてもよい。この場合、温風は、第三工程後の原料米20に向けられてもよい。
【0040】
第四工程は、第三工程後の原料米20の含有水分率を15質量%以下に乾燥することが好ましく、この含有水分率を13~14質量%の範囲又は12%以下に乾燥することがより好ましい。第三工程後の原料米20は、第四工程を経て加工米10となる。
【0041】
原料米20及び加工米10の栄養成分は、図6に示す通りであった。原料米20は、粳米であるコシヒカリの精白米とした。分析機関は、一般財団法人日本食品分析センターとした。加工米10では、原料米20に対して栄養成分の減少は殆ど認められなかった。発明者は、第三工程での解凍方法を自然解凍とすることで栄養成分の減少を抑制できていると考える。但し、加工米10では、原料米20に対して100g当たりのたんぱく質の量は減少する。今回の分析試験では、原料米20のたんぱく質の量は5.4g/100gであり、加工米10のたんぱく質の量は5.2g/100gであるから、たんぱく質の量の減少率は3.7%であった。発明者は、この事象は加工米10ではたんぱく質を主成分とする亜糊粉層50が多孔質化したことが理由であると考える。発明者は、加工米10では100g当たりのたんぱく質の量は4.0~6.0g/100gの範囲の所定値であることが好ましく、4.5~5.5g/100gの範囲の所定値であることがより好ましく、5.0~5.3g/100gの範囲の所定値であることが更に好ましいと考える。
【0042】
第五工程は、第四工程後に実施される。第五工程は、第四工程を経て製造された加工米10を袋詰めする。第五工程は、加工米10を1食分毎に袋詰めしてもよい。1食分の加工米10の質量の例としては、40g(全粥用)、30g(七分粥用)、20g(五分粥用)及び10g(三分粥用)が挙げられる。
【0043】
<実施例>
発明者は、実施形態の加工米10の有効性を確認するための実験を行った。この実験により、発明者は、米量及び水量の比率の異なる米飯及び複数種類の粥を同一の加熱条件で調理することができることを確認した。更に、発明者は、米量及び水量の比率の異なる複数種類の粥を同一の加熱条件で粒状の形状を失うまでに糊化した状態に調理することができることを確認した。以下、今回の実験により得られた実験結果を説明する。
【0044】
<実験方法>
実験では、第一調理法、第二調理法、第三調理法及び第四調理法を採用した。第一調理法では、米飯及び複数種類の粥を同一の加熱条件で同時に調理した。第二調理法では、米飯及び複数種類の粥を同一の加熱条件でそれぞれ調理した。第三調理法では、複数種類の粥を同一の加熱条件で同時に調理した。第四調理法では、複数種類の粥を同一の加熱条件でそれぞれ調理した。米飯は精白米を素材として調理し、粥は加工米10を素材として調理した。複数種類の粥は、全粥、七分粥、五分粥及び三分粥とした。第一調理法、第二調理法、第三調理法及び第四調理法の相違は、加熱源である。
【0045】
第一調理法は、IHフードカートを用いて精白米から米飯及び加工米10から粥を調理した。第一調理法のIHフードカートは、発明者自らが発明した上述の特許文献1で開示の技術を採用する。第一調理法では、5組の食器及びトレーを準備した。5個の食器は同じとし、5枚のトレーは同じとした。第一調理法では、表1に示す米量及び水量の組み合わせで1食分の精白米及び水を第一食器に入れ、第一食器を第一トレーの定位置に載せ置いた。精白米は、予め洗米し、洗米後、規定量の水に360分間浸漬させた。第一調理法では、表1に示す米量及び水量の組み合わせで1食分の加工米10及び水を第二食器~第五食器にそれぞれ入れ、第二食器~第五食器を第二トレー~第五トレーの所定位置にそれぞれ載せ置いた。その後、第一調理法では、第一トレー~第五トレーを配膳体としての配膳車に収容し、既定の加熱条件にて1組の精白米及び水と4組の加工米10及び水とを同時に加熱した。第一調理法では、このようにして米飯、全粥、七分粥、五分粥及び三分粥を得た。
【0046】
第二調理法は、個食用の羽釜及び固形燃料を用いて精白米から米飯及び加工米10から粥を調理した。固形燃料は、一般に市販されているエタノールなどのアルコールを酢酸カルシウムで固めた20gタイプを用いた。第二調理法では、米飯、全粥、七分粥、五分粥及び三分粥の調理はそれぞれ個別に行った。第二調理法は、表2に示す米量及び水量の組み合わせで1食分の精白米及び水を個食用の羽釜に入れ、固形燃料を燃焼させて精白米及び水を加熱した。精白米は、予め洗米し、洗米後、規定量の水に360分間浸漬させた。第二調理法は、表2に示す米量及び水量の組み合わせで1食分の加工米10及び水を個食用の羽釜にそれぞれ入れ、固形燃料を燃焼させて4組の加工米10及び水をそれぞれ加熱した。第二調理法では、このようにして米飯、全粥、七分粥、五分粥及び三分粥を得た。
【0047】
第三調理法は、電子レンジを用いて加工米10から粥を調理した。第三調理法では、4個の食器を準備した。4個の食器は同じとした。第三調理法では、表3に示す米量及び水量の組み合わせで1食分の加工米10及び水を第一食器~第四食器にそれぞれ入れた。第一食器~第四食器には、蓋代わりとして濡れた状態のキッチンペーパーを次の状態で被せた。この状態では、キッチンペーパーの両側に隙間が設けられる。この隙間は、加熱中に生じる水蒸気を逃がす。その後、第三調理法では、第一食器~第四食器を電子レンジの庫内に収容し、4組の加工米10及び水をそれぞれ加熱した。電子レンジは、出力を500Wに設定した。第三調理法では、このようにして全粥、七分粥、五分粥及び三分粥を得た。
【0048】
第四調理法は、家庭用の炊飯器を用いて加工米10から粥を調理した。家庭用の炊飯器は、炊飯モード及びおかゆモードを有する。第四調理法では、家庭用の炊飯器は、炊飯モードに設定した。炊飯モードは、精白米を素材として米飯を炊く場合に設定される。おかゆモードは、精白米を素材として粥を炊く場合に設定される。第四調理法は、表4に示す米量及び水量の組み合わせで複数食分の加工米10及び水を炊飯器用の内釜にそれぞれ入れ、4組の加工米10及び水をそれぞれ加熱した。発明者は、炊飯器用の内釜の容積を考慮した場合、1回の炊き上げによる好ましい加工米10の量及び水の量は、3~4人分であると考えた。第四調理法では、複数種類の粥を同一の炊飯モードで調理した。第四調理法では、このようにして全粥、七分粥、五分粥及び三分粥を得た。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0049】
<実験結果>
(1)第一調理法
第一調理法では、精白米を素材とした米飯と同じ加熱条件で、咀嚼を必要としない全粥、七分粥、五分粥及び三分粥を得ることができた(図7参照)。第一調理法で得られた米飯、全粥、七分粥、五分粥及び三分粥では、水分の蒸発量によって炊き上がり量に違いが生じた。しかしながら、米飯、全粥、七分粥、五分粥及び三分粥の何れも遜色のない食感及び風味が得られた。全粥、七分粥、五分粥及び三分粥は、何れも粒状の形状を失うまでに糊化していた。
【0050】
(2)第二調理法
第二調理法では、精白米を素材とした米飯と同じ加熱条件で、咀嚼を必要としない全粥、七分粥、五分粥及び三分粥を得ることができた。第二調理法で得られた米飯、全粥、七分粥、五分粥及び三分粥では、水分の蒸発量によって炊き上がり量に違いが生じた。しかしながら、米飯、全粥、七分粥、五分粥及び三分粥の何れも遜色のない食感及び風味が得られた。全粥、七分粥、五分粥及び三分粥は、何れも粒状の形状を失うまでに糊化していた。
【0051】
(3)第三調理法
第三調理法では、咀嚼を必要としない全粥、七分粥、五分粥及び三分粥を得ることができた。第三調理法で得られた全粥、七分粥、五分粥及び三分粥では、水分の蒸発量によって炊き上がり量に違いが生じた。しかしながら、全粥、七分粥、五分粥及び三分粥の何れも遜色のない食感及び風味が得られた。全粥、七分粥、五分粥及び三分粥は、何れも粒状の形状を失うまでに糊化していた。
【0052】
(4)第四調理法
第四調理法では、咀嚼を必要としない全粥、七分粥、五分粥及び三分粥を得ることができた。第四調理法で得られた全粥、七分粥、五分粥及び三分粥では、水分の蒸発量によって炊き上がり量に違いが生じた。しかしながら、全粥、七分粥、五分粥及び三分粥の何れも遜色のない食感及び風味が得られた。全粥、七分粥、五分粥及び三分粥は、何れも粒状の形状を失うまでに糊化していた。
【0053】
<実施形態の効果>
実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
【0054】
(1)加工米10は、デンプン層51及び亜糊粉層50を含む。デンプン層51は、βデンプンを含む。亜糊粉層50は、加工米10の表面を形成し、多孔質である(図2参照)。亜糊粉層50は、デンプン層51を内包する。加工米10では、含有水分率が15質量%以下とされる。
【0055】
加工米10によれば、加工米10を素材とする粥の調理時、デンプン層51内のデンプンが外部に溶け出し易くすることができる。加工米10は、亜糊粉層50で表面を形成することで、亜糊粉層50が多孔質であっても調理前の状態では公知の精白米と同様に粒状の形状を有する。加工米10は、調理時の加熱によってゆっくりと粒状の形状を失う。加工米10を素材とした粥では、調理時の加熱によって粒状の形状が失われることで、調理後、粥が冷えたとしてもデンプンと水との分離を抑制することができる。加工米10では、米量及び水量の比率の異なる複数種類の粥を同一の加熱条件で調理することができる。加工米10を素材とした粥は、粒状の形状を失うまでに糊化すると共に精白米を素材とした公知の粥と同じ食味を有する。
【0056】
加工米10は、原料米20の品種を問わない。原料米20は、新米又は古米の何れであってもよい。発明者は、原料米20として1年前の古米又は複数年前の古米を用いた場合であっても加工米10の食味に差が認められないことを確認している。加工米10は、原料米20に前述の古米を用いることで余剰米の有効活用に役立つ。
【0057】
(2)加工米10の製造方法は、第一工程、第二工程、第三工程及び第四工程を含む(図5参照)。第一工程は、第一温度下で原料米20を水に第一時間浸漬する。第一温度は、常温より低く且つ0℃より高く設定される。第一時間の例としては、12時間が挙げられる。第二工程は、第二温度下で第一工程後の原料米20を第二時間緩慢冷凍する。第二温度は、-1~-5℃の範囲に含まれる。第二時間の例としては、12時間が挙げられる。第三工程は、第三温度下で第二工程後の原料米20を解凍する。第三温度は、0℃より高く設定される。第四工程は、第四温度下で第三工程後の原料米20を乾燥する。第四温度は、第三温度より高く設定される。第四温度下では、第三工程後の原料米20でデンプンの糊化が起こらない。第四工程は、第四温度下で第三工程後の原料米20を乾燥して含有水分率が15質量%以下である加工米10を生成する。第二工程は、第一工程後の原料米20を第一工程終了後の状態で第二時間緩慢冷凍する。
【0058】
加工米10の製造方法によれば、デンプン層51にβデンプンを含み且つ表面を形成する亜糊粉層50を多孔質とした加工米10を製造することができる。βデンプンをαデンプンに変化させるためには原料米20を加熱する必要がある。加工米10の製造方法では、原料米20でデンプンの糊化を起こさせず、βデンプンをαデンプンに変化させる必要がない。加工米10の製造方法の実施に必要なエネルギーを少なくすることができる。精白米を素材とした公知の粥と同じ食味を得ることができる加工米10の製造方法で省エネルギーを実現することができる。
【0059】
発明者は、加工米10の製造方法によって亜糊粉層50を多孔質とする原理を次のように考察する。即ち、発明者は、第二工程で第一工程後の原料米20を緩慢冷凍することで亜糊粉層50の細胞の中の水分が細胞外で氷結した氷に凝着する際に損傷が生じると考える。更に、発明者は、その後、デンプン層51の細胞の中の水分が亜糊粉層50の細胞内に移って氷結し体積膨張することでこの損傷を確実なものにすることができると考える。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の加工米の製造方法によって製造された加工米は、本発明の発明者による特許文献1に開示の技術を用いた粥の調理に素材として利用することができる。本発明の加工米及び加工米の製造方法は、特許文献1に開示の技術を普及させていく上で有用である。
【符号の説明】
【0061】
10 加工米、 20 原料米、 30 玄米、 40 表皮、 41 果皮
42 種皮、 43 糊粉層、 50 亜糊粉層、 51 デンプン層
【要約】
【課題】同一の加熱条件で米量及び水量の比率の異なる複数種類の粥を調理することができる加工米に関する技術を提供する。
【解決手段】加工米は、βデンプンを含むデンプン層と、加工米の表面に多孔質の亜糊粉層とを含む。亜糊粉層は、デンプン層を内包する。加工米の製造方法は、第一工程、第二工程、第三工程及び第四工程を含む。第一工程は、常温より低く且つ0℃より高い第一温度下で原料米を水に第一時間浸漬する。原料米は、加工米の原料となる。第二工程は、-1~-5℃の範囲に含まれる第二温度下で第一工程後の原料米を第二時間緩慢冷凍する。第三工程は、0℃より高い第三温度下で第二工程後の原料米を解凍する。第四工程は、第三温度より高い第四温度下で第三工程後の原料米を乾燥する。第四工程は、第三工程後の原料米でデンプンの糊化が起こらない第四温度下で第三工程後の原料米を乾燥する。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7