(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】金属部材、金属樹脂接合体、及び金属樹脂接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/46 20060101AFI20241114BHJP
B23K 26/352 20140101ALN20241114BHJP
【FI】
B29C65/46
B23K26/352
(21)【出願番号】P 2024522308
(86)(22)【出願日】2023-11-16
(86)【国際出願番号】 JP2023041367
【審査請求日】2024-04-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】305011787
【氏名又は名称】睦月電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斎 聖一
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/144974(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/230025(WO,A1)
【文献】特開2023-059621(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2023/0037586(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第116329760(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
B29C 45/00-45/24
B29C 45/46-45/63
B29C 45/70-45/72
B29C 45/74-45/84
B29C 63/00-63/48
B29C 65/00-65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)を満たす合成樹脂を有する樹脂部材の樹脂接合面に接合する
銅又はアルミニウムから構成された金属部材において、
前記樹脂接合面と接触する金属接合面を備え、
前記金属接合面は、凹部が設けられた粗面化部と、前記粗面化部の周囲に設けられた周辺部とを備え、前記粗面化部と前記周辺部とで金属部材を構成する金属の酸化数が異なり、ヨウ化メチレンが拡張濡れとなる、金属部材。
【数1】
式(1)において、γ
iod
pはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)γ
iod
dはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γ
pは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)、γ
dは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分と分散成分との和(=γ
p+γ
d)である。
【請求項2】
下記式(2)を満たす合成樹脂を有する樹脂部材の樹脂接合面に接合する
銅から構成された金属部材において、
前記樹脂接合面と接触する金属接合面を備え、
前記金属接合面は、凹部が設けられた粗面化部と、前記粗面化部の周囲に設けられた周辺部とを備え、前記粗面化部と前記周辺部とで金属部材を構成する金属の酸化数が異なり、純水及びヨウ化メチレンが拡張濡れとなる、金属部材。
【数2】
式(2)において、γ
w
pは純水の表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)γ
iod
dはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γ
pは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)、γ
dは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分と分散成分との和(=γ
p+γ
d)である。
【請求項3】
前記粗面化部の断面SEM観察によるボックスカウント法により求めたフラクタル次元が2.1以上3.0以下である、請求項1又は2に記載の金属部材。
【請求項4】
前記粗面化部が所定方向に延びる溝状に設けられている、請求項1又は2に記載の金属部材。
【請求項5】
銅又はアルミニウムから構成された金属部材の金属接合面と、下記式(3)を満たす合成樹脂を有する樹脂部材の樹脂接合面と、を接触させて、前記金属部材と前記樹脂部材とを接合した金属樹脂接合体において、
前記金属接合面は、凹部が設けられた粗面化部と、前記粗面化部の周囲に設けられた周辺部とを備え、前記粗面化部と前記周辺部とで前記金属部材を構成する金属の酸化数が異なり、ヨウ化メチレンが拡張濡れとなる、金属樹脂接合体。
【数3】
式(3)において、γ
iod
pはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)γ
iod
dはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γ
pは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)、γ
dは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分と分散成分との和(=γ
p+γ
d)である。
【請求項6】
銅から構成された金属部材の金属接合面と、下記式(4)を満たす合成樹脂を有する樹脂部材の樹脂接合面と、を接触させて、前記金属部材と前記樹脂部材とを接合した金属樹脂接合体において、
前記金属接合面は、凹部が設けられた粗面化部と、前記粗面化部の周囲に設けられた周辺部とを備え、前記粗面化部と前記周辺部とで前記金属部材を構成する金属の酸化数が異なり、純水及びヨウ化メチレンが拡張濡れとなる、金属樹脂接合体。
【数4】
式(4)において、γ
w
pは純水の表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)γ
iod
dはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γ
pは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)、γ
dは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分と分散成分との和(=γ
p+γ
d)である。
【請求項7】
銅又はアルミニウムから構成された金属部材の金属接合面と、下記式(5)を満たす合成樹脂を有する樹脂部材の樹脂接合面と、を接触させて、前記金属部材と前記樹脂部材とを接合した金属樹脂接合体を製造する方法において、
前記金属接合面に凹部を有する粗面化部と、前記粗面化部の周囲に周辺部と、を形成するとともに、前記粗面化部と前記周辺部とで前記金属部材を構成する金属の酸化数を異ならせて、前記金属接合面に対してヨウ化メチレンが拡張濡れとなる処理を行う、金属樹脂接合体の製造方法。
【数5】
式(5)において、γ
iod
pはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)γ
iod
dはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γ
pは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)、γ
dは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分と分散成分との和(=γ
p+γ
d)である。
【請求項8】
銅から構成された金属部材の金属接合面と、下記式(6)を満たす合成樹脂を有する樹脂部材の樹脂接合面と、を接触させて、前記金属部材と前記樹脂部材とを接合した金属樹脂接合体を製造する方法において、
前記金属接合面に凹部を有する粗面化部と、前記粗面化部の周囲に周辺部と、を形成するとともに、前記粗面化部と前記周辺部とで前記金属部材を構成する金属の酸化数を異ならせて、前記金属接合面に対して純水及びヨウ化メチレンが拡張濡れとなる処理を行う、金属樹脂接合体の製造方法。
【数6】
式(6)において、γ
w
pは純水の表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)γ
iod
dはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γ
pは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)、γ
dは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分と分散成分との和(=γ
p+γ
d)である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材、金属樹脂接合体、及び金属樹脂接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属からなる金属部材と合成樹脂からなる合成樹脂部材とを接合した金属樹脂接合体を製造する方法として、金属部材における合成樹脂部材と接触する面(金属接合面)にアンカと呼ばれる凹凸形状の粗面化部を形成することで、金属部材と合成樹脂部材との接合強度を高めることが提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
金属接合面に粗面化部を設けた金属樹脂接合体において強固な接合を得るためには、入り組んだ粗面化部を金属接合面に形成し、合成樹脂部材を構成する合成樹脂を粗面化部の内部へ充填させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、合成樹脂部材を構成する合成樹脂を粗面化部の内部へ充填させることが難しく、安定した接合強度を得ることが困難である。粗面化部の内部へ合成樹脂の充填が不十分であると、金属部材と合成樹脂部材の接合面における気密性及び液密性が低下する。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、合成樹脂部材との接合面における気密性及び液密性を確保しつつ、合成樹脂部材を強固に接合することができる金属部材、金属樹脂接合体、及び金属樹脂接合体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態によれば、下記[1]~[15]の態様が提供される。
【0008】
[1]下記式(1)を満たす合成樹脂を有する樹脂部材の樹脂接合面に接合する金属部材において、
前記樹脂接合面と接触する金属接合面を備え、
前記金属接合面は、凹部が設けられた粗面化部と、前記粗面化部の周囲に設けられた周辺部とを備え、前記粗面化部と前記周辺部とで金属部材を構成する金属の酸化数が異なり、ヨウ化メチレンが拡張濡れとなる、金属部材。
【0009】
【数1】
式(1)において、γ
iod
pはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)γ
iod
dはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γ
pは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)、γ
dは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分と分散成分との和(=γ
p+γ
d)である。
【0010】
[2]下記式(2)を満たす合成樹脂を有する樹脂部材の樹脂接合面に接合する金属部材において、
前記樹脂接合面と接触する金属接合面を備え、
前記金属接合面は、凹部が設けられた粗面化部と、前記粗面化部の周囲に設けられた周辺部とを備え、前記粗面化部と前記周辺部とで金属部材を構成する金属の酸化数が異なり、純水及びヨウ化メチレンが拡張濡れとなる、金属部材。
【0011】
【数2】
式(2)において、γ
w
pは純水の表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)γ
iod
dはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γ
pは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)、γ
dは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分と分散成分との和(=γ
p+γ
d)である。
【0012】
[3]前記粗面化部の断面SEM観察によるボックスカウント法により求めたフラクタル次元が2.1以上3.0以下である、上記[1]又は[2]に記載の金属部材。
【0013】
[4] 前記粗面化部が所定方向に延びる溝状に設けられている、上記[1]又は[2]に記載の金属部材。
【0014】
[5] 金属部材の金属接合面と、下記式(3)を満たす合成樹脂を有する樹脂部材の樹脂接合面と、を接触させて、前記金属部材と前記樹脂部材とを接合した金属樹脂接合体において、
前記金属接合面は、凹部が設けられた粗面化部と、前記粗面化部の周囲に設けられた周辺部とを備え、前記粗面化部と前記周辺部とで前記金属部材を構成する金属の酸化数が異なり、ヨウ化メチレンが拡張濡れとなる、金属樹脂接合体。
【0015】
【数3】
式(3)において、γ
iod
pはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)γ
iod
dはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γ
pは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)、γ
dは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分と分散成分との和(=γ
p+γ
d)である。
【0016】
[6] 金属部材の金属接合面と、下記式(4)を満たす合成樹脂を有する樹脂部材の樹脂接合面と、を接触させて、前記金属部材と前記樹脂部材とを接合した金属樹脂接合体において、
前記金属接合面は、凹部が設けられた粗面化部と、前記粗面化部の周囲に設けられた周辺部とを備え、前記粗面化部と前記周辺部とで前記金属部材を構成する金属の酸化数が異なり、純水及びヨウ化メチレンが拡張濡れとなる、金属樹脂接合体。
【0017】
【数4】
式(4)において、γ
w
pは純水の表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)γ
iod
dはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γ
pは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)、γ
dは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分と分散成分との和(=γ
p+γ
d)である。
【0018】
[7] 金属部材の金属接合面と、下記式(5)を満たす合成樹脂を有する樹脂部材の樹脂接合面と、を接触させて、前記金属部材と前記樹脂部材とを接合した金属樹脂接合体を製造する方法において、
前記金属接合面に凹部を有する粗面化部と、前記粗面化部の周囲に周辺部と、を形成するとともに、前記粗面化部と前記周辺部とで前記金属部材を構成する金属の酸化数を異ならせて、前記金属接合面に対してヨウ化メチレンが拡張濡れとなる処理を行う、金属樹脂接合体の製造方法。
【0019】
【数5】
式(5)において、γ
iod
pはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)γ
iod
dはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γ
pは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)、γ
dは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分と分散成分との和(=γ
p+γ
d)である。
【0020】
[8] 金属部材の金属接合面と、下記式(6)を満たす合成樹脂を有する樹脂部材の樹脂接合面と、を接触させて、前記金属部材と前記樹脂部材とを接合した金属樹脂接合体を製造する方法において、
前記金属接合面に凹部を有する粗面化部と、前記粗面化部の周囲に周辺部と、を形成するとともに、前記粗面化部と前記周辺部とで前記金属部材を構成する金属の酸化数を異ならせて、前記金属接合面に対して純水及びヨウ化メチレンが拡張濡れとなる処理を行う、金属樹脂接合体の製造方法。
【0021】
【数6】
式(6)において、γ
w
pは純水の表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)γ
iod
dはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γ
pは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)、γ
dは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分と分散成分との和(=γ
p+γ
d)である。
【0022】
[9] 前記樹脂接合面を第1温度に加熱した前記金属接合面に接触させ、前記金属部材と前記樹脂部材とを第1圧力で加圧する第1工程と、前記金属接合面が前記第1温度より低い第2温度において、前記第1圧力より高い第2圧力で前記金属部材と前記樹脂部材とを加圧する第2工程と、を備える、上記[7]または[8]に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【0023】
[10]前記第1工程を実行すると、前記金属接合面の加熱を停止又は加熱量を低減量するとともに前記金属部材と前記樹脂部材とを加圧する圧力を前記第1圧力から前記第2圧力に変更して前記第2工程を実行する、上記[9]に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【0024】
[11]前記第1工程を実行すると、前記金属接合面を前記第2温度まで降温した後に
前記金属部材と前記樹脂部材とを加圧する圧力を前記第1圧力から前記第2圧力に変更して前記第2工程を実行する、上記[9]に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【0025】
[12]前記第1温度は前記樹脂部材を構成する樹脂材料の融点以上の温度である、上記[9]~[11]のいずれか1つに記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【0026】
[13]前記第1温度は前記樹脂材料の融点以上であって前記樹脂材料の融点より20℃高い上限温度以下である、上記[12]に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【0027】
[14]前記第2温度は前記樹脂部材を構成する樹脂材料の融点より10℃高い温度以下である、上記[11]に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【0028】
[15]前記第1温度は前記樹脂材料の融点以上であって前記樹脂材料の融点より20℃高い上限温度以下であり、前記第2温度は前記樹脂材料の融点より10℃高い温度以下であって前記樹脂材料の融点より20℃低い下限温度以上である、上記[14]に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0029】
上記構成を備えることにより、合成樹脂部材との接合面における気密性を確保しつつ、合成樹脂部材を強固に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態に係る金属樹脂接合体の概略構成を示す断面図
【
図2】
図1の金属樹脂接合体を構成する金属部材の接合面の概略構成を示す平面図
【
図3】本発明の一実施形態に係る金属樹脂接合体の製造方法に用いる接合装置の概略構成を示す図であって、金属接合面22に合成樹脂部材10を配置した状態を示す。
【
図4】本発明の一実施形態に係る金属樹脂接合体の製造方法に用いる接合装置の概略構成を示す図であって、金属接合面22に合成樹脂部材10が接合した状態を示す。
【
図5】実施例1における金属部材の金属接合面のSEM写真
【
図6】実施例1における金属部材の断面のSEM写真
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図面では、説明のために部材の大きさなどが誇張されて書かれている場合がある。本発明は下記実施形態に限定されない。下記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0032】
(1)金属樹脂接合体30
まず、本実施形態の製造方法によって製造される金属樹脂接合体30について説明する。
図1に示すように、金属樹脂接合体30は、合成樹脂からなる合成樹脂部材10と、金属からなる金属部材20とを備える。
【0033】
合成樹脂部材10の一表面は、金属部材20と接合する樹脂接合面12となっている。金属部材20の一表面は、合成樹脂部材10の樹脂接合面12と接合する金属接合面22となっている。金属樹脂接合体30は、合成樹脂部材10の樹脂接合面12と金属部材20の金属接合面22とを接合したものである。
【0034】
(2)合成樹脂部材10
合成樹脂部材10は、合成樹脂をブロック状、板状、又は線状等の所定の形状に成形した部材である。また、合成樹脂部材10は、合成樹脂の塗膜や、合成樹脂製の接着剤からなる接着層であってもよい。
【0035】
合成樹脂部材10を構成する合成樹脂として、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の種々の合成樹脂を用いることができる。具体例を挙げると、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂)、ポリオキシメチレン樹脂(POM樹脂)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリエチレン樹脂(PE樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)、6ナイロン樹脂(PA6樹脂)や66ナイロン等(PA66)のポリアミド樹脂(PA樹脂)、エポキシ樹脂(エポキシ接着剤)、液晶ポリマー(LCP樹脂)、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(変性PPE)、リアクター型軟質ポリプロピレン系樹脂(メタロセン系リアクター型TPO樹脂)、ペルフルオロアルコキシアルカン樹脂(PFA樹脂)、ポリアクリルアミド樹脂(PAM樹脂)、アクリル樹脂(PMMA樹脂)、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF樹脂)、ポリ塩化ビニリデン樹脂(PVCD樹脂)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC樹脂)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリフッ化ビニル樹脂(PVF樹脂)、ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、ポリビニルアルコール樹脂(PVA樹脂)、パラフィン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE樹脂)、ヘキサフルオロプロピレン樹脂(HFP樹脂)などである。
【0036】
また、合成樹脂部材10は、上記のような合成樹脂に炭素繊維が配合された炭素繊維強化樹脂(CFRTP)や、上記のような合成樹脂にガラス繊維、タルクなどの補強材や難燃化材や劣化防止剤やエラストマー成分などが配合されたものでもよい。
【0037】
(3)金属部材20
金属部材20は、金属をブロック状、板状、又は線状等の所定形状に成形した部材である。金属部材20を構成する金属としては、特に限定されず種々の金属を用いることができる。
【0038】
例えば、金属部材20を構成する金属として銅(Cu)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)ニッケル(Ni)、クロム(Cr)等を用いることができる。また、金属部材20は、銅合金、鉄合金(鉄鋼材)、アルミニウム合金、ステンレス、チタン合金、ニッケル合金、クロム合金等の2種以上の金属からなる合金から構成されてもよい。
【0039】
金属部材20の形状は、用途等に応じて所望の形状とすることができる。金属部材20の成形方法は、任意の方法を適用することができ、所望の形状の型に溶融した金属等を流し込む鋳造や、工作機械等による切削加工や、プレス機械等による打ち抜き加工等を用いてもよい。
【0040】
金属樹脂接合体30において樹脂接合面12と金属接合面22との間での気体及び液体のシール性能(気密性及び液密性)を高めたり、接合強度を高めたりするためには、樹脂接合面12を金属接合面22に隙間なく接触させる必要がある。樹脂接合面12を金属接合面22に隙間なく接触させるためには、合成樹脂部材10を構成する合成樹脂の金属接合面での接触角を小さくして濡れ性を高める必要がある。
【0041】
そこで、本実施形態の金属部材20の金属接合面22はヨウ化メチレンや純水が拡張濡れとなる面をなしている。
【0042】
(4)金属接合面22
金属接合面22は、凹形状の粗面化部23と、粗面化部23の周囲に設けられた周辺部24とを備え、粗面化部23と周辺部24とで金属部材20を構成する金属の酸化数が異なり、ヨウ化メチレンや純水が拡張濡れとなる面を構成している。
【0043】
具体的には、
図1及び
図2に示すように、金属接合面22に設けられた粗面化部23は、所定方向(以下、この方向を第1方向Xということもある)に延びる溝形状をなしている。金属接合面22には複数の粗面化部23が第1方向Xに垂直な第2方向Yに間隔をあけて設けられている。第2方向Yに隣り合う粗面化部23の間や粗面化部23の第2方向Y外側には周辺部24が設けられている。
【0044】
なお、粗面化部23は、
図2のような直線状の溝に限定されず、例えば、円周方向に延びる円形状の溝や、旋回するにつれて中心から遠ざかる螺旋状の溝であってもよい。
【0045】
金属部材20において、粗面化部23にある金属の酸化数と、周辺部24にある金属の酸化数が異なっている。つまり、粗面化部23と周辺部24とで金属部材20を構成する金属の価数が異なっており、1つの金属原子に結合する酸素原子の数が異なっている。
【0046】
本明細書において、粗面化部23にある金属の酸化数と周辺部24にある金属の酸化数とが異なっているか否かは、X線光電子分光法(XPS)によって判断する。つまり、X線光電子分光法によって測定される金属及び金属酸化物に対応したスペクトルのピーク面積から算出される金属の濃度に対する金属酸化物の濃度の比率Rを、粗面化部23及び周辺部24において取得する。そして、粗面化部23の比率Rと周辺部24の比率Rとの差ΔRを周辺部の比率Rで除して得られる比率S(以下、この比率を差異率Sということもある)が3%以上であると、粗面化部23にある金属の酸化数と周辺部24にある金属の酸化数とが異なっていると判断する。
【0047】
なお、本実施形態では、差異率Sが3%以上であると粗面化部23にある金属の酸化数と周辺部24にある金属の酸化数とが異なっていると判断したが、この差異率Sが大きいほど、合成樹脂の濡れ性が高くなる。金属樹脂接合体30において高い接合強度や高いシール性能が必要な場合などでは、差異率Sが5%以上であると粗面化部23と周辺部24において金属の酸化数が異なっていると判断してもよい。
【0048】
このような金属接合面22では、上記の差異率Sを変更したり、金属接合面22に設ける粗面化部23の面積を変更したりすることで、金属接合面22をヨウ化メチレンが拡張濡れとなる面としたり、純水及びヨウ化メチレンが拡張濡れとなる面としたりすることができる。
【0049】
本明細書において拡張濡れとは、ヨウ化メチレンや純水等の液体を金属接合面22に滴下してから1秒間以内に金属接合面22上の液滴の接触角が10°以下になることをいう。
【0050】
なお、金属接合面22に設けた粗面化部23(つまり、粗面化部23を構成する凹溝の内壁面)が、(a)フラクタル次元Dが2.1≦D≦3.0を満たすフラクタル表面、(b)クルトシス(sku)が3以上の表面、(c)スキューネスが0以上の表面、のうち少なくとも1つを満たすことが好ましい。
【0051】
フラクタル次元Dは断面SEM観察によるボックスカウント法により求めた次元である。
【0052】
クルトシス(sku)は、ISO 25178に規定される高さ分布の鋭さを表すパラメータであり、尖り度とも称される。クルトシス(sku)=3は高さ分布が正規分布であることを意味し、クルトシス(sku)>3であると表面に鋭い山や谷が多く、クルトシス(sku)<3であると表面が平坦であることを意味する。
【0053】
スキューネス(ssk)は、ISO 25178にて規定される三次元表面性状パラメータの一つであり、平均面からの高さ分布の偏りの度合いを示す指標である。スキューネス(ssk)が0である場合は表面形状が平均面に対して対称であり、sskが0を超えると表面形状が平均面に対して下側、すなわち高さが低い側に偏りがあり、凸部の頂部近傍が鋭く細くなる傾向にあると把握できる測定値である。
【0054】
また、粗面化部23を上記(a)を満たすフラクタル表面に設け、粗面化部23の見かけ上の面積に対する粗面化部23のフラクタル形状を考慮した表面積の比率αを大きくすることに換えて、あるいは、比率αを大きくすることに加え、粗面化部23のおける接触率ζを小さくすることで、金属接合面22の濡れ性を向上させることができる。
【0055】
つまり、粗面化部23の見かけ上の面積に対する剛直な板を金属接合面22に重ねた時の接触面積の接触率ζを小さくすることが良く、例えば尖塔形の突起状になっている表面が優れている。粗面化部23は接合時に金属接合面22の空気が排除されやすい形状であることが好ましく、例えば、粗面化部23を第1方向Xに沿って延びる凹溝状に設けることで、金属接合面22の空気が外部へ排出され、合成樹脂が粗面化部23に充填されやすくなる。
【0056】
(5)金属樹脂接合体30の製造方法
次に、金属樹脂接合体30の製造方法について説明する。
【0057】
まず、所定形状に成形した合成樹脂部材10と金属部材20を準備する。そして、金属部材20の金属接合面22に粗面化部23を形成する表面処理工程を行う。
【0058】
その後、表面処理を施して粗面化部23を形成した金属接合面22に、合成樹脂部材10の樹脂接合面12を接合する接合工程を行う。これにより、金属部材20の金属接合面22に合成樹脂部材10が接合された金属樹脂接合体30が得られる。以下、表面処理工程及び接合工程について詳述する。
【0059】
(5-1)表面処理工程
表面処理工程では、合成樹脂部材10を構成する合成樹脂の種類によって、ヨウ化メチレンが拡張濡れとなるように金属接合面22に表面処理を施したり、純水及びヨウ化メチレンが拡張濡れとなるように金属接合面22に表面処理を施したりする。
【0060】
具体的には、合成樹脂部材10を構成する合成樹脂が、下記式(1)を満たす場合、ヨウ化メチレンが拡張濡れとなるように金属接合面22に第1表面処理を行う。第1表面処理は、金属接合面22に粗面化部23を形成するとともに、粗面化部23と周辺部24とで金属部材20を構成する金属の酸化数を異ならせる表面処理である。
【0061】
【数7】
式(1)において、γiod
pはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)γiod
dはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γ
pは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)、γ
dは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分と分散成分との和(=γ
p+γ
d)である。
【0062】
また、合成樹脂部材10を構成する合成樹脂が、下記式(2)を満たす場合、純水及びヨウ化メチレンが拡張濡れとなるように金属接合面22に第2表面処理を行う。第2表面処理は、金属接合面22に粗面化部23を形成するとともに、粗面化部23と周辺部24とで金属部材20を構成する金属の酸化数を異ならせる表面処理である。
【0063】
【数8】
式(2)において、γw
pは純水の表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)γiod
dはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γ
pは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)、γ
dは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分と分散成分との和(=γ
p+γ
d)である。
【0064】
なお、本明細書において、表面自由エネルギー及び接触角は、ISO19403に準じた方法で測定した値である。また、固体の表面自由エネルギーの極性成分及び成分解析にはOWRK法を採用し、純水及びヨウ化メチレンの2つの試薬を用いた接触角の測定で求めた値である。ヨウ化メチレン、純水、及び代表的な合成樹脂の固体の表面自由エネルギー、f(γp、γd)の値、及びg(γp、γd)の値は下記表1の通りである。なお、f(γp、γd)の値、及びg(γp、γd)の値が大きいほど拡張濡れ性が良いことを示している。
【0065】
【0066】
第1表面処理及び第2表面処理は、金属部材20に対して、レーザ光の照射と、酸素濃度を制御した雰囲気への暴露とによって行う。
【0067】
すなわち、まず、レーザ光の照射位置を第1方向Xへ移動(走査)させながらパルス状のレーザ光を金属接合面22に照射する。これにより、レーザ光が照射された箇所に第1方向Xの延びる粗面化部23が形成され、粗面化部23の周囲のレーザ光が照射されていない箇所に周辺部24が形成される。
【0068】
そして、酸素濃度を制御した雰囲気中に、粗面化部23及び周辺部24が形成された金属部材20を暴露することにより、粗面化部23及び周辺部24とで金属の酸化数を異ならせる。
【0069】
なお、金属部材20を暴露する雰囲気の酸素濃度及び当該雰囲気に金属部材20を暴露させる時間(例えば、1時間から1ヶ月)の少なくとも一方を制御することで、粗面化部23と周辺部24とで金属の酸化数を異ならせるとともに、後述する差異率Sを調整することができる。
【0070】
金属部材20を構成する金属によって第1表面処理及び第2表面処理において実施するレーザ光の照射条件が異なるため一概に規定することが困難であるが、一例として、金属部材20がAlから構成されている場合は次の通りである。
【0071】
すなわち、使用するレーザは900~1100nmの波長を有する近赤外光を発するパルスレーザを使用することができ、例えばYVO4レーザ、ファイバーレーザ、エキシマレーザ、ディスクレーザを使用することができる。レーザ条件は下記式(7)で表されるスポット間隔Mがレーザスポット半径Rの2倍以下、下記式(8)で表されるレーザ光の強度Uが1.0×105W/mm2以上1.0×109W/mm2以下を満たすパルス状のレーザ光を第2方向Yへ走査させながら金属接合面32に照射する。
【0072】
M=V/Q・・・式(7)
U=E/(2πR2×Q×B)・・・式(8)
式(7)~(8)中、Vはレーザ光を走査させる速度(mm/sec)、Qはレーザ光の周波数(Hz)、Eはレーザパワー(W)、Rはレーザ光のスポット半径(mm)、Bはレーザ光のパルス半値幅(sec)を表す。
【0073】
図2に示すように、複数の粗面化部23を第2方向Yに間隔をあけて形成する場合、第2方向Yに所定間隔をあけた位置に同様のパルス状のレーザ光を第1方向Xへ走査させながら金属接合面22に照射する。
【0074】
なお、金属接合面22に占める粗面化部23の割合や、レーザ光を金属接合面22に照射して粗面化部23を形成してからの酸素雰囲気への暴露条件を制御することで、ヨウ化メチレンが拡張濡れとなる第1表面処理を行ったり、純水及びヨウ化メチレンが拡張濡れとなる第2表面処理を行ったりする。第1表面処理及び第2表面処理において実施する酸素濃度を制御した雰囲気に金属部材20を暴露する条件の一例を挙げると、第1表面処理では、酸素濃度が15質量%以上25質量%以下、温度が25℃の雰囲気中に1時間以上1週間以内暴露する。第2表面処理では、酸素濃度が0質量%以上5質量%以下、温度が25℃の雰囲気中に1分間以上1週間以下暴露する。第2表面処理は、第1表面処理に比べて酸素雰囲気への暴露時間を短くしたり、酸素濃度の低い雰囲気へ暴露したりすることが好ましい。
【0075】
また、第1表面処理及び第2表面処理において同一の条件でレーザ光を照射して粗面化部23及び周辺部24を形成するが、第2表面処理では第1表面処理に比べて金属接合面22に占める粗面化部23の割合を高くすることが好ましい。
【0076】
(5-2)接合工程
合成樹脂部材10を構成する合成樹脂が熱可塑性樹脂の場合、接合工程では、例えば、金属部材20及び合成樹脂部材10を加熱した状態で、金属接合面22に樹脂接合面12を加圧しながら接触させる。これにより、金属部材20の金属接合面22に合成樹脂部材10が接合され金属樹脂接合体30が得られる。本実施形態では、
図3に示すような接合装置50を用いて第1工程及び第2工程を行い、金属樹脂接合体30を製造する。
【0077】
接合装置50は、金属部材20が載置されるステージ51と、ステージ51に載置された金属部材20を誘導加熱する加熱装置52と、合成樹脂部材10を金属部材20に加圧接合するプレス装置53と、加熱装置52及びプレス装置53を制御する制御装置60とを備える。
【0078】
加熱装置52は、電源装置(不図示)に接続された誘導加熱コイルを備え、制御装置60からの指令を受けて電源装置から駆動電源が入力されると、誘導加熱コイルから磁界を発生させてステージ51に載置された金属部材20の金属接合面22を誘導加熱する。
【0079】
加熱装置52は、ステージ51に載置された金属部材20の金属接合面22の温度を測定する温度センサ56を備える。温度センサ56が検出した金属接合面22の温度は制御装置60に入力される。制御装置60は、温度センサ56から入力される検出温度に基づいて、金属接合面22の温度が所定温度になるように加熱装置52の出力を制御する。
【0080】
なお、本実施形態では、温度センサ56は、非接触式の放射温度計からなり、加熱装置52の誘導加熱コイルにおける合成樹脂部材10に近接する部分の温度を測定する。この温度センサ56は、樹脂接合面12と金属接合面22との間に設けた熱電対と測定温度の相関関係が予め調べられている。つまり、樹脂接合面12と金属接合面22との間に熱電対を設けた状態で加熱装置52によって金属接合面22を加熱しながら温度センサ56及び熱電対において温度測定を行い、温度センサ56及び熱電対の測定温度の相関関係が調べられている。温度センサ56はその測定結果から前記熱電対との相関関係に基づいて推測される熱電対の温度を金属接合面22の温度とする。
【0081】
プレス装置53は、セラミックス等の絶縁体で形成されたロッド54と、ロッド54を移動させて合成樹脂部材10を金属部材20に押し当てる加圧部55と、ロッド54が合成樹脂部材10を金属部材20に押し付けたときに合成樹脂部材10に作用する圧力を検出する圧力センサ57とを備える。
【0082】
ロッド54は、
図3に示すように、加熱装置52が有する誘導加熱コイルの中空部分に挿入され、合成樹脂部材10と対向するように配置されていてもよい。
【0083】
加圧部55は、加圧力を変動制御できるサーボモーターや、電空レギュレータにより制御された空圧式シリンダや、スプリング式加圧器などを備える。加圧部55は、制御装置60からの指令を受けて、ロッド54とともに合成樹脂部材10を移動させる速度や位置と、合成樹脂部材10を金属部材20に押し当てる時の圧力を制御することができる。
【0084】
圧力センサ57は、合成樹脂部材10が金属部材20に当接して金属部材20を加圧したときに合成樹脂部材10に作用する圧力を検出し、検出した圧力を制御装置60に入力する。制御装置60は、圧力センサ57から入力される検出圧力に基づいて、合成樹脂部材10に作用する圧力が所定圧力になるようにプレス装置53の加圧部55の出力を制御する。
【0085】
制御装置60は、コンピュータを備え、加熱装置52、プレス装置53、温度センサ56及び圧力センサ57に接続されている。
【0086】
制御装置60は、温度センサ56及び圧力センサ57の検出結果や予め定められたプログラムに従って、加熱装置52とプレス装置53の動作を制御することで、ステージ51に載置された金属接合面22に樹脂接合面12を接合して金属部材20と合成樹脂部材10とを一体化する。
【0087】
具体的には、接合装置50を用いて金属樹脂接合体30を製造するには、第1表面処理あるいは第2表面処理を行った金属接合面22がこの後にセッティングする合成樹脂部材10と対向するように、ステージ51の上に金属部材20を載置する。
【0088】
次いで、ステージ51に載置した金属部材20の金属接合面22に樹脂接合面12を対向配置する。
図3に示すように、本実施形態では、樹脂接合面12が金属接合面22に接触するように合成樹脂部材10を配置する。
【0089】
次いで、合成樹脂部材10を挟んで金属部材20の金属接合面22に対向するように加熱装置52を配置する。
図3に示す場合では、加熱装置52を合成樹脂部材10の上方に配置し、加熱装置52と金属部材20との間に合成樹脂部材10を配置する。
【0090】
次いで、加熱装置52によって金属接合面22を第1温度T1に加熱することで、金属接合面22に接触する樹脂接合面12を第1温度T1に加熱するとともに、第1温度T1に加熱した状態で金属部材20と合成樹脂部材10とを第1圧力P1で加圧する第1工程を行う。
【0091】
具体的には、制御装置60が加熱装置52に駆動電源を供給して、加熱装置52に設けられた誘導加熱コイルから磁界を発生させて金属部材20の金属接合面22を加熱する。その際、温度センサ56によって検出される金属接合面22の温度が第1温度T1になるように、加熱装置52に供給する駆動電源や加熱装置52に設けられた誘導加熱コイルの位置等を調整する。
【0092】
上記のような金属部材20の加熱とともに、プレス装置53が、ロッド54を移動させて合成樹脂部材10を金属部材20に押し付け、圧力センサ57の検出圧力が第1圧力P1となるように合成樹脂部材10及び金属部材20を加圧する。これによりプレス装置53は、第1温度T1に加熱された金属接合面22に樹脂接合面12を接触させ、合成樹脂部材10及び金属部材20を第1圧力P1で加圧する。
【0093】
例えば、プレス装置53は、所定時間Sp1(例えば、0.1秒以上10秒以下)合成樹脂部材10及び金属部材20を第1圧力P1で加圧する。プレス装置53が合成樹脂部材10及び金属部材20を第1圧力P1で加圧している間、加熱装置52は金属接合面22の温度が第1温度T1を維持するように金属部材20を加熱し続けていることが好ましい。
【0094】
なお、加熱装置52が金属接合面22を第1温度T1へ昇温している間、プレス装置53は合成樹脂部材10及び金属部材20を第1圧力P1で加圧してもよい。例えば、金属接合面22の温度が室温から第1温度T1に達するまで第1圧力P1で加圧しながら昇温する。金属接合面22の昇温時に合成樹脂部材10及び金属部材20を第1圧力P1で加圧することで、金属接合面22から樹脂接合面12へ熱が伝達されやすくなり、樹脂接合面12を速やかに第1温度T1に昇温することができる。
【0095】
また、金属接合面22の温度が第1温度T1に達するまで、プレス装置53が合成樹脂部材10及び金属部材20は加圧せず、第1温度T1に達してからプレス装置53が合成樹脂部材10及び金属部材20を第1圧力P1で加圧してもよい。
【0096】
本実施形態では、合成樹脂部材10を構成する合成樹脂が上記式(1)を満たす場合、金属接合面22に第1表面処理が施され、合成樹脂部材10を構成する合成樹脂が上記式(2)を満たす場合、金属接合面22に第2表面処理が施されている。
【0097】
そのため、第1工程において、合成樹脂部材10は、金属接合面22に接触する樹脂接合面12付近の合成樹脂が溶融あるいは軟化すると、合成樹脂が金属接合面22に広がり粗面化部23の内部に充填される(
図4参照)。
【0098】
金属接合面22の粗面化部23に上記(a)~(c)を満たすような凹凸面が形成されている場合、粗面化部23に流れ込んだ合成樹脂は、粗面化部23に設けられた凹凸面の隙間に入り込みやすくなる。
【0099】
そして、プレス装置53が合成樹脂部材10及び金属部材20を第1圧力P1で所定時間Sp1加圧すると、第1工程を終了して第2工程へ移行する。
【0100】
第2工程に移行すると、加熱装置52は金属部材20の加熱を停止又は加熱量を低減する。また、プレス装置53は、圧力センサ57の検出圧力が第1圧力P1より高い第2圧力P2となるように合成樹脂部材10及び金属部材20を加圧する。
【0101】
第2工程において、加熱装置52が金属部材20の加熱を停止又は加熱量を低減すると、金属接合面22において第1温度T1を維持することができなくなり第1温度T1から温度が低下する。金属接合面22の温度が低下している間、プレス装置53は、合成樹脂部材10及び金属部材20を第2圧力P2で加圧する。
【0102】
プレス装置53は、樹脂接合面12及び金属接合面22の温度が少なくとも第2温度T2に降温するまで、合成樹脂部材10及び金属部材20を第2圧力P2で加圧する。ここで、第2温度T2とは第1温度T1よりも低い温度である。プレス装置53は、合成樹脂部材10及び金属部材20の温度が第2温度T2より低い第3温度T3に降温するまで、合成樹脂部材10及び金属部材20を加圧し続けることが好ましい。
【0103】
そして、合成樹脂部材10及び金属部材20の温度が所定温度になるまで降温すると、金属部材20に合成樹脂部材10が接合された金属樹脂接合体30を接合装置50から取り出す。
【0104】
ここで、第1温度T1は、合成樹脂部材10を構成する熱可塑性樹脂の融点Tm以上であって、熱可塑性樹脂の分解温度以下(つまり、熱可塑性樹脂が気化し始める温度以下)とすることができる。好ましくは、熱可塑性樹脂の分解温度より20℃低い温度以下に第1温度T1を設定することができる。より好ましくは、合成樹脂部材10を構成する熱可塑性樹脂の融点Tm以上であって熱可塑性樹脂の融点Tmより20℃高い温度(第1上限温度)以下(Tm≦T1≦Tm+20℃)に第1温度T1を設定することができる。
【0105】
第2温度T2は、第1温度T1より低い温度であればよいが、合成樹脂部材10を構成する熱可塑性樹脂の融点Tmより10℃高い温度(第2上限温度)以下(T2≦Tm+10℃)であることが好ましく、合成樹脂部材10を構成する熱可塑性樹脂の融点Tmより20℃低い温度(下限温度)以上に第2温度T2を設定することが好ましい。つまり、下限温度以上であって第2上限温度以下(Tm-20℃≦T2<Tm+10℃)に第2温度T2を設定することが好ましい。
【0106】
第3温度T3は、得られた金属樹脂接合体30をハンドリングしやすい温度であればよいが、例えば、合成樹脂部材10を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移点、及び、50℃のいずれか低い温度以下とすることができる。
【0107】
また、第1工程において、合成樹脂部材10及び金属部材20を加圧する第1圧力P1は、加熱された金属部材20の熱が熱伝導によって合成樹脂部材10を金属部材と同じ温度にするための接触が十分に得られる圧力で有れば良く、熱可塑性樹脂の圧縮降伏応力以下の圧力であることが好ましい。この第1圧力P1は、合成樹脂部材10を構成する熱可塑性樹脂により変わるため、一概に規定することが困難であるが、10MPa以下であることが好ましい。
【0108】
第2工程において合成樹脂部材10及び金属部材20を加圧する第2圧力P2は、第1圧力P1より高い圧力であればよいが、例えば、10MPa以上100MPa以下であることが好ましい。
【0109】
なお、第1工程から第2工程へ移行する際に、加熱装置52及びプレス装置53のいずれか一方の設定を先に変更してから他方の設定を変更してもよく、また、両方の設定を同時に変更してもよい。
【0110】
つまり、第1工程から第2工程へ移行する際に、加熱装置52による加熱の停止又は加熱量の低減を行った後にプレス装置53による加圧力を第1圧力P1から第2圧力P2に変更してもよく、加熱装置52による加熱の停止又は加熱量の低減とプレス装置53による加圧力の変更とを同時に行ってもよい。また、プレス装置53による加圧力を変更した直後に加熱装置52による加熱の停止又は加熱量の低減を行ってもよい。
【0111】
また、本実施形態では、プレス装置53が金属部材20へ向けて合成樹脂部材10を移動する場合について説明したが、金属部材20を合成樹脂部材10へ向けて移動させてもよい。
【0112】
また、合成樹脂部材10と金属部材20とを局所的に接合してもよく、合成樹脂部材10と金属部材20とを広い範囲にわたって接合してもよい。また、接合箇所の平面形状も点状、線状、面状など任意の形状であってもよい。
【0113】
また、本実施形態では、第1工程から第2工程へ移行する際に、金属接合面22の温度を考慮することなく、プレス装置53による加圧力を第1圧力P1から第2圧力P2に変更したが、第1工程を実行した後、金属接合面22の温度が第2温度T2まで降温してから金属部材20と合成樹脂部材10とを加圧する圧力を第1圧力P1から第2圧力P2に変更してもよい。
【0114】
つまり、上記と同様に第1工程を所定時間Sp1実行すると、まず、加熱装置52による加熱の停止又は加熱量の低減を行う。そして、樹脂接合面12及び金属接合面22の温度が第1温度T1より低い第2温度T2になるまで降温(冷却)する。樹脂接合面12及び金属接合面22の温度が第2温度T2になると、プレス装置53は合成樹脂部材10及び金属部材20の加圧力を第1圧力P1から第2圧力P2に変更して第2工程を開始する。
【0115】
このような接合方法であると、合成樹脂部材10が過度に変形することのない適切なタイミングでプレス装置53による加圧力を変更することができ、合成樹脂部材10の変形を抑えつつ、高い接合強度の金属樹脂接合体30を得ることができる。
【0116】
(6)効果
ヨウ化メチレンが拡張濡れする金属接合面22に対して、上記した式(1)を満たす合成樹脂は高い濡れ性を示す。そのため、このような合成樹脂を樹脂接合面12に有する合成樹脂部材10を金属部材20の金属接合面22に接合することで、接合時に合成樹脂が融点付近の比較的低い温度であっても、高い圧力を加えることなく金属接合面22に合成樹脂が広がり、金属接合面22に設けられた粗面化部23に隙間なく合成樹脂が充填される。その結果、合成樹脂部材10と金属部材20との間の気密性及び液密性を得つつ、強固に接合することができる。
【0117】
純水及びヨウ化メチレンが拡張濡れする金属接合面22に対して、上記した式(2)を満たす合成樹脂は高い濡れ性を示す。そのため、このような合成樹脂を樹脂接合面12に有する合成樹脂部材10を金属部材20の金属接合面22に接合することで、接合時に合成樹脂が融点付近の比較的低い温度であっても、高い圧力を加えることなく金属接合面22に合成樹脂が広がり、金属接合面22に設けられた粗面化部23に隙間なく合成樹脂が充填される。その結果、合成樹脂部材10と金属部材20との間の気密性を得つつ、強固に接合することができる。
【0118】
本実施形態において、粗面化部23の断面SEM観察によるボックスカウント法により求めたフラクタル次元Dが2.1以上3.0以下であると、粗面化部23が表面粗さの大きいフラクタル面となり、合成樹脂が金属接合面22に対して高い濡れ性を示すため、接合時に合成樹脂部材10を構成する合成樹脂が金属接合面22に広がりやすくなる。
【0119】
また、粗面化部23は、クルトシス(sku)が3以上、あるいは、スキューネスが0以上であると、合成樹脂が金属接合面22に対して高い濡れ性を示すため、接合時に合成樹脂部材10を構成する合成樹脂が金属接合面22に広がりやすくなる。
【0120】
本実施形態において、金属接合面22に設けた粗面化部23が所定方向に延びる凹溝状であると、合成樹脂部材10と金属部材20とを接合する際に、粗面化部23に存在する空気が溝に沿って外部へ押し出され、合成樹脂が粗面化部23に隙間なく充填されやすくなる。
【0121】
(7)実施例
上記した実施形態の効果を具体的に示すために、実施例1~8、比較例1~3の金属部材(試験片)を作製した。なお、本発明は実施例1~8に限定されるものではない。
【0122】
実施例1~8及び比較例1~2において、レーザ波長が1064nm、スポット半径が0.03mmのシングルモードレーザを照射して金属部材の金属接合面に第1方向の長さが18mmの粗面化部を、第2方向に0.1mmピッチで形成した。なお、実施例1~4及び比較例1~2に使用した金属は下記表1に示すとおりである。
【0123】
実施例1、3、5及び7は金属接合面に粗面化部を形成してから酸素濃度0.5質量%で残部が窒素からなる25℃の雰囲気下で24時間放置したものであり、実施例2、4、6及び8は金属接合面に粗面化部を形成してから酸素濃度20質量%で残部が窒素からなる25℃の雰囲気下で24時間放置したものである。また、比較例1~3は、金属接合面に粗面化部を形成した後、酸によって金属接合面に付着する酸化物を除去した後、酸素濃度20質量%で残部が窒素からなる25℃の雰囲気下で1週間放置して金属接合面上に均一の酸化膜を形成し、金属接合面において金属の酸化数を一定にした。
【0124】
そして、実施例1~4及び比較例1~2の金属部材の金属接合面に、PA66樹脂、PPS樹脂、PBT樹脂及びPP樹脂からなる合成樹脂部材を接合して接合強度試験用の試験片(金属樹脂接合体)を作製した。実施例5~8及び比較例3の金属部材の金属接合面に、PA66樹脂及びPPS樹脂からなる合成樹脂部材を接合して接合強度試験用の試験片(金属樹脂接合体)を作製した。なお、金属部材の寸法は18mm×45mm×1.6mm、合成樹脂部材の寸法は10mm×40mm×3.0mm、金属部材と合成樹脂部材との接合の寸法は10mm×5mmである。
【0125】
また、実施例1、2、4及び比較例1、2の金属部材に金属接合面を貫通する直径20mmの貫通孔を設け、当該貫通孔を塞ぐように金属接合面にPA66樹脂、PPS樹脂を接合してヘリウム(He)リーク試験用の試験片を作製した。
【0126】
実施例1~8及び比較例1~3に使用した金属部材の詳細、合成樹脂部材の詳細、金属部材の寸法、合成樹脂部材の寸法、合成樹脂部材と金属部材との接合面積(オーバラップ面積)は、以下の通りである。
・Cu:C1100
・Al:A1050
・SUS304
・Fe:SPCC
・PA66樹脂:旭化成レオナ66(1300S)
・PPS樹脂:サスティール(登録商標)SGX120
・PBT樹脂:東レトレコン(110G-X54)
・PP樹脂:ノバテック(登録商標) HG30U
評価方法は次の通りである。
【0127】
(A)金属接合面のSEM観察
実施例1~8及び比較例1~3の金属部材について、合成樹脂部材を接合していない状態で粗面化部が形成された金属接合面と金属部材の断面についてSEM観察を行った。
図5及び6は実施例2の金属部材の平面図及び断面図を示し、
図5において符号Xは第1方向(レーザ光を走査した方向)を示し、符号Yは第2方向を示す。
【0128】
図5及び
図6に示すように、レーザが照射された箇所に第1方向Xに延びる凹溝状の粗面部が形成され、その周囲にレーザが照射されていない周辺部が形成されている。粗面部の内部には、ボックスカウント法により求めたフラクタル次元が2.35であるフラクタル面が形成されていた。
【0129】
実施例1、3~8及び比較例1~3についても実施例2と同様の粗面化部が金属接合面に形成されていた。
【0130】
(B)差異率S
XPS測定装置(アルバック・ファイ製PHI5000VersaProbeII)を用い、実施例1~4及び比較例1~2の粗面化部と周辺部を以下の条件で測定した。なお、測定範囲の直径は、粗面化部23や周辺部24の幅(第2方向Yの長さ)より小さく設定することが好ましく、粗面化部23及び周辺部24の幅の1/2以下に設定することが好ましい。
【0131】
<XPS測定条件>
X線条件:Al alpha mono 4.5W
測定範囲:φ18μm
実施例1、2及び比較例1では、粗面化部及び周辺部に由来するCuの2p3/2スペクトルを取得し、取得したスペクトルからCu及びCu2Oに対応するピークと、CuOに対応するピークに分離した後、各ピークのピーク面積を算出した。そして、粗面化部及び周辺部のそれぞれについて、Cu及びCu2Oに対応するピークのピーク面積S1に対するCuOに対応するピークのピーク面積S2の比率R(=S2/S1)を算出し、粗面化部における比率Rと周辺部における比率Rを取得した。そして、粗面化部の比率Rと周辺部の比率Rとの差ΔRを周辺部の比率Rで除して差異率Sを得た。
【0132】
実施例3、4及び比較例2では、粗面化部及び周辺部に由来するAlの2pスペクトルを取得し、取得したスペクトルからAlに対応するピークと、Al2O3に対応するピークに分離した後、各ピークのピーク面積を算出した。そして、粗面化部及び周辺部のそれぞれについて、Alに対応するピークのピーク面積S3に対するAl2O3に対応するピークのピーク面積S4の比率R(=S4/S3)を算出し、粗面化部における比率Rと周辺部における比率Rを取得した。そして、粗面化部23の比率Rと周辺部24の比率Rとの差ΔRを周辺部の比率Rで除して差異率Sを得た。
【0133】
なお、実施例1~4及び比較例1~2において、粗面化部及び周辺部のそれぞれ4箇所からスペクトルを取得し、取得したスペクトルから算出される差異率Sの平均値を各試験片の差異率Sとした。
【0134】
(C)金属接合面の濡れ性
実施例1~8及び比較例1~3の金属部材の金属接合面に対してヨウ化メチレン及び純水が拡張濡れとなるか否かを確認した。
【0135】
協和界面科学株式会社DMs-401を用い、ヨウ化メチレン及び純水を各試験片の金属接合面に滴下してから1秒後に金属接合面上の液滴の接触角が10°以下であれば拡張濡れであるとし、接触角が10°より大きければ付着濡れとした。
【0136】
(D)接合強度試験
実施例1~8及び比較例1~3の上記接合強度試験用の試験片について接合強度を測定した。JIS K 6850に規定された試験方法のうち、合成樹脂部材の寸法、金属部材の寸法、合成樹脂部材と金属部材との接合面積を上記の通りに変更し、その他の条件を同規格に準じて、引張試験機(島津製作所、オートグラフ AGX-V)を用い、引張速度10mm/min、測定温度25℃で測定した。なお、実施例1~2及び比較例1の試験片をそれぞれ4個ずつ作製し、4個の測定値の平均値をそれぞれの接合強度とした。
【0137】
(E)Heリーク試験
実施例1~2、4及び比較例1~2の上記Heリーク試験用の試験片について、Heを1.5気圧に加圧してJIS Z 2331に規定された真空フード法により、金属接合面と樹脂接合面との間の気密性を評価した。数値が小さいほど高真空を維持することができ気密性が高いことを示す。
【0138】
【0139】
結果は、表2に示すとおりである。差異率Sが3%未満の比較例1~2ではヨウ化メチレン及び純水が付着濡れとなった。
【0140】
一方、差異率Sが3%以上の実施例1~8ではヨウ化メチレンが拡張濡れとなった。また、実施例1、3、5及び7ではヨウ化メチレンとともに純水も拡張濡れとなった。
【0141】
ヨウ化メチレン及び純水が拡張濡れとなる実施例1、3の試験片や、ヨウ化メチレンが拡張濡れとなり純水が付着濡れとなる実施例2、4の試験片は、比較例1、2と比較して、PA66樹脂、PPS樹脂、PBT樹脂及びPP樹脂と高い接合強度で接合された。また、ヨウ化メチレン及び純水が拡張濡れとなる実施例5、7の試験片や、ヨウ化メチレンが拡張濡れとなり純水が付着濡れとなる実施例6、8の試験片は、比較例1~3と比較して、PA66樹脂及びPPS樹脂と高い接合強度で接合された。
【0142】
また、実施例1、2及び4の試験片は、比較例1、2と比較して、PA66樹脂及びPPS樹脂との接合面の気密性が高かった。
【0143】
特に、ヨウ化メチレン及び純水が拡張濡れとなる実施例1、3、5、7の試験片は、ヨウ化メチレンが拡張濡れとなり純水が付着濡れとなる実施例2、4、6、8の試験片と比較して、上記式(2)を満たすPA66樹脂と高い接合強度で接合された。
【0144】
また、実施例1の試験片は実施例2の試験片と比較して上記式(2)を満たすPA66樹脂との接合面の気密性も高かった。
【符号の説明】
【0145】
10…合成樹脂部材、12…樹脂接合面、20…金属部材、22…金属接合面、23…粗面化部、24…周辺部、50…接合装置、51…ステージ、52…加熱装置、53…プレス装置、54…ロッド、55…加圧部、56…温度センサ、57…圧力センサ、60…制御装置
【要約】
気密性を確保しつつ強固に合成樹脂部材を接合することができる金属部材、金属樹脂接合体、及び金属樹脂接合体の製造方法を提供する。
下記式(1)を満たす合成樹脂を有する樹脂部材の樹脂接合面に接合する金属部材において、前記樹脂接合面と接触する金属接合面を備え、前記金属接合面は、凹部が設けられた粗面化部と、前記粗面化部の周囲に設けられた周辺部とを備え、前記粗面化部と前記周辺部とで金属部材を構成する金属の酸化数が異なり、ヨウ化メチレンが拡張濡れとなる、金属部材。
【数1】
式(1)において、γ
iod
pはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)γ
iod
dはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γ
pは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)、γ
dは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの分散成分(mJ/m
2)、γは前記合成樹脂の固体状態における表面自由エネルギーの極性成分と分散成分との和(=γ
p+γ
d)である。