(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】金属アレルギー原因物質ブロック剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/73 20060101AFI20241114BHJP
A61Q 17/00 20060101ALI20241114BHJP
A61Q 5/06 20060101ALI20241114BHJP
A61Q 5/12 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
A61K8/73
A61Q17/00
A61Q5/06
A61Q5/12
(21)【出願番号】P 2020086171
(22)【出願日】2020-05-15
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】小林 優子
(72)【発明者】
【氏名】太田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】米水 龍也
(72)【発明者】
【氏名】蛭間 有喜子
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-241218(JP,A)
【文献】特表2019-529424(JP,A)
【文献】特表2017-513962(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0101060(US,A1)
【文献】Skin Protect Spray,MintelGNPD,2020年03月,http:www.gnpd.com,ID: 7458457
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99、
31/715
A61Q 1/00-90/00
C09D 101/28
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群より選択される一種または二種以上のポリマー
からなる金属アレルギー原因物質ブロック剤。
【請求項2】
前記金属アレルギー原因物質ブロック剤は、前記ポリマーが金属アレルギー原因物質を捕捉することおよび皮膚及び/又は唇を前記金属アレルギー原因物質から保護することにより、金属アレルギー原因物質をブロックする、請求項1に記載の金属アレルギー原因物質ブロック剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な金属アレルギー原因物質ブロック剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肌トラブルの原因のひとつとして金属製品によるものがある。アクセサリー、腕時計、ベルト、下着ホック、メガネ、歯科金属、ドアノブ、文房具、ステンレス製品といった金属製品は皮膚に直接触れることが多く、痛み、かゆみ、かぶれ、腫れ、赤み、発疹等の悪影響が見られる。また、PM2.5、黄砂などの大気汚染物質にも金属は含まれ、肌荒れや唇荒れ等の原因となることが知られている。このような悪影響は、金属アレルギーを有する者のみならず、陰性の者にとっても深刻である。陰性であっても金属による刺激を感じる者も多く存在する上に、自覚症状がない者であっても、自覚がないからこそ接触し続けてしまい、気づかないうちにアレルゲンが体内に蓄積されてしまい、金属アレルギーを発症してしまう危険性があるからである。
【0003】
したがって、皮膚、唇などを金属アレルギー原因物質に接触させない方策を講じる必要性が存在する。例えば、特許文献1は、ポリビニルアルコールを含む金属アレルギー防止用液剤を開示する。特許文献2では、カルボキシル、スルホニル又はスルフェート部分を有する少なくとも1種の金属捕捉試剤を含む、皮膚を保護する組成物を開示する。特許文献3は、金属陽イオンと皮膚との接触を減少させ汗による肌トラブルを軽減又は防止する方法を開示する。特許文献4は、カオリン、タルク、セリサイト、雲母、シリカ、ケイ酸及びまたはその塩、無水ケイ酸、酸化チタン、活性炭からなる粉体のうちの少なくとも1種を含むアレルゲン吸着組成物を開示する。このような状況の下、皮膚、唇などを金属アレルギー原因物質に接触させない効果の高い更なる物質が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平06-55665号公報
【文献】特表2017-523246号公報
【文献】特開2006-321773号公報
【文献】特開2002-167332号公報
【文献】特開2017-61548号公報
【文献】国際公開第2019/176265号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、新規な金属アレルギー原因物質ブロック剤の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、様々な物質について鋭意研究の結果、金属アレルギー原因物質ブロック剤としての効果が高い成分を見出し、以下の発明を完成した。
(1)疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群より選択される一種または二種以上のポリマーを含む金属アレルギー原因物質ブロック剤。
(2)前記金属アレルギー原因物質ブロック剤は、前記ポリマーが金属アレルギー原因物質を捕捉することおよび皮膚及び/又は唇を前記金属アレルギー原因物質から保護することにより、金属アレルギー原因物質をブロックする、(1)に記載の金属アレルギー原因物質ブロック剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明の金属アレルギー原因物質ブロック剤の適用により、皮膚、唇などと金属アレルギー原因物質の接触をブロックすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例2の人工膜透過性試験の結果を示す。
【
図2】
図2は、実施例3の各種物質を使用した疎水性皮膜機能試験の結果を示す。
【
図3】
図3は、実施例4の各濃度の疎水化HPMCを使用した疎水性皮膜機能試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群より選択される一種または二種以上のポリマー(以下、本発明のポリマーと称することがある)を含む金属アレルギー原因物質ブロック剤を提供する。
【0010】
また、本発明は、金属アレルギー原因物質ブロック剤に使用するための疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロース;金属アレルギー原因物質のブロックが必要な対象者に疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群より選択される一種または二種以上のポリマーを有効成分として含む金属アレルギー原因物質ブロック剤を塗布することを含む金属アレルギー原因物質をブロックする方法;並びに、金属アレルギー原因物質ブロック剤を製造するための疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群より選択される一種または二種以上のポリマーの使用、も包含する。
【0011】
本発明の金属アレルギー原因物質ブロック剤は、本発明のポリマーが金属アレルギー原因物質を捕捉することおよび皮膚及び/又は唇を金属アレルギー原因物質から保護することにより金属アレルギー原因物質をブロックする。金属アレルギー原因物質をブロックすることにより、金属アレルギーの予防又は軽減が図れる、金属による不快感を気にせずアクセサリーなどの金属製品を身に着けることができる、金属を含む有害な物質との接触を回避することができる、自覚症状のない者に対しても金属アレルギーの発症を防ぐといった利点がある。
【0012】
金属アレルギーは、金属から溶出した金属イオンが、皮膚などに接触し、皮膚のタンパク質等のタンパク質と結合し形成されたアレルゲンにより引き起こされる。本明細書において、「金属アレルギー原因物質」とは、金属からイオンとして溶出しアレルゲンを形成し金属アレルギーを引き起こす可能性のある金属イオンを指し、例として、ニッケル、コバルト、クロム等の金属のイオンが挙げられる。しかしながら、イオンが溶出しにくくアレルギーの原因となりにくい、ステンレス、チタン、ジルコニウム、金、銀等の金属イオンを排除するものではない。
【0013】
「金属アレルギー原因物質をブロックする」とは、皮膚及び/又は唇と金属アレルギー原因物質との接触を低減又は阻止することを指し、本発明の金属アレルギー原因物質ブロック剤(以下、本発明の剤を称することがある)は、本発明の剤に含まれるポリマーが金属アレルギー原因物質を捕捉することおよび皮膚及び/又は唇を金属アレルギー原因物質から保護することにより、金属アレルギー原因物質をブロックする。
【0014】
「金属アレルギー原因物質を捕捉する」とは、本発明のポリマー分子が金属アレルギー原因物質と結合すること、例えば、錯体を形成する又は静電気的な取り込み等により金属アレルギー原因物質を捉えることを指す。金属アレルギー原因物質を捕捉する能力は、例えば、実施例に記載のように、金属アレルギー原因物質を含む溶液に試験物質を加えた後に、呈色反応により金属アレルギー原因物質である金属イオンの減少を測定することによって決定することができるがこれに限定されない。例えば、金属アレルギー原因物質ニッケル溶液に試験物質を加え呈色反応により金属イオンの減少を測定することにより決定できる。また、金属イオンはニッケル以外もクロム、マンガン、鉄、コバルト、銅などの遷移金属も似たような挙動を示すためこのような遷移金属イオンの減少を測定することも可能である。
【0015】
「皮膚及び/又は唇を金属アレルギー原因物質から保護する」とは、皮膚及び/又は唇の表面に皮膜を形成する、及び/又は、金属アレルギー原因物質の透過を抑制することにより、皮膚及び/又は唇への接触から保護することを指す。「皮膜を形成する」とは、本発明の剤が皮膚を覆うことを指す。「金属アレルギー原因物質の透過」は、金属アレルギー原因物質が本発明の剤により形成された皮膜を通り抜けて皮膚及び/又は唇に到達することをいう。金属アレルギー原因物質から保護する能力は、例えば、実施例に記載のように、人工膜透過性試験により金属アレルギー原因物質の透過度を測定すること又は皮膜機能試験によって皮膜機能を測定することにより決定できるがこれらに限定されない。
【0016】
「金属アレルギーの予防」とは、皮膚及び/又は唇と金属アレルギー原因物質との接触が低減又は阻止されることにより、アレルゲンの発生及び/又は体内への蓄積が抑えられ、金属を身に着けることや金属を含む物質と接触したことに起因する刺激、痛み、かゆみ、かぶれ、腫れ、赤み、発疹などの金属アレルギー及び/又はその前駆症状あるいは不快感を抑制することを指す。
【0017】
本発明の剤は、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群より選択される一種または二種以上のポリマー(すなわち、本発明のポリマー)を有効成分として含む。
【0018】
ヒドロキシプロピルセルロース(別名:HPC、CAS番号:9004-64-2)は、公知の方法により製造してもよく、市販品を使用してもよい。市販品としては、限定されないものの、例えば、日本曹達製のHPCシリーズ等があり、例えば、150~6000mPa・sの粘度および約700000~2500000の重量平均分子量を有するHPC-M、HPC-H、HPC-VH等があり、またはこれらを混合して使用することができる。本発明のポリマーとして、好ましくは、1000~4000mPa・sの粘度および約1000000の分子量を有するHPC-Hが使用できる。
【0019】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(別名:HPMC、ヒプロメロース、CAS番号:9004-65-3)は、公知の方法により製造してもよく、市販品を使用してもよい。市販品としては、限定されないものの、例えば、1.4~0.9の置換度(セルロースのグルコース環単位当たりメトキシ基で置換された水酸基の平均個数)および0.15~0.25の置換モル数(セルロースのグルコース環単位あたりに付加したヒドロキシプロポキシ基又はヒドロキシエトキシ基の平均モル数)、1000~100000mPa・sの粘度および100000~1000000の重量平均分子量を有する信越化学工業社製のメトローズ(登録商標)60SH、65H、90SHシリーズ等があり、またはこれらを混合して使用することができる。本発明のポリマーとして、好ましくは、粘度が4000mPa・sを有するメトローズ90SH-4000等のメトローズが使用できる。
【0020】
疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース(別名:ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテル、CAS番号:141615-27-2)は、公知の方法、例えば、特許文献5,6等に記載の方法により製造してもよく、市販品を使用してもよい。市販品としては、限定されないものの、例えば、20%~30%のメトキシ基、5.0~15.0%のヒドロキシプロポキシ基、0.1~2.0%のステアリルオキシヒドロキシプロポキシ基、60~300mPa・Sの粘度を有する大同化成工業製のサンジェロース(登録商標)があり、約300000~500000の重量平均分子量を有する疎水変性アルキルセルロース(サンジェロース(登録商標)60シリーズ)と、約700000~900000程度の重量平均分子量を有する疎水変性アルキルセルロース(サンジェロース(登録商標)90シリーズ)、Lタイプが水溶性、Mタイプ及びHタイプが水不溶性であり、これらを単独で使用することも、混合して使用することもできる。本発明のポリマーとして、好ましくはサンジェロース(登録商標)60Lまたは90Lが使用できる。
【0021】
本発明の剤における有効成分であるポリマー、つまり
本発明のポリマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0022】
本発明の剤における有効成分であるポリマーの含有量は、金属アレルギー原因物質をブロックことができれば限定されないものの、形態、適用箇所、用途等の条件に応じ、例えば、0.05~2.0重量%、0.1重量%~1.0重量、0.1重量%~0.8重量、0.4重量%~0.6重量%、0.4重量%~0.5重量%、0.5重量%~0.6重量%等任意に選択できる。
【0023】
本発明の剤は、アレルギー対策又は抗菌用の軟膏、スプレー、ジェル、スキンローション、あるいは、保湿クリーム、化粧水、ファンデーション、ヘアクリーム、化粧下地、サンスクリーンといった各種化粧料、医薬品、医薬部外品といった組成物又はその基剤(以下、本発明の組成物等と称することがある)として使用できる。本発明の組成物等は、その剤形に応じ、賦形剤、担体及び/又は希釈剤等及び他の成分と適宜組み合わせた処方で、常法を用いて製造することができる。例えば、本発明の剤を軟膏などの皮膚や唇に直接塗布する形態の組成物に使用にすれば、皮膚及び/又は唇に対する金属アレルギー原因物質ブロック効果が直接的に発揮できる。また、知らない間に毛髪などに付着した金属アレルギー原因物質が皮膚及び/又は唇に接触することによりしアレルギーを引き起こす場合も考えられるため、例えば、本発明の剤をヘアクリームといった毛髪に塗布する形態の組成物に使用すれば、金属アレルギー原因物質ブロック効果が間接的に発揮できる。
【0024】
本発明の剤および組成物等の形態は、金属アレルギー原因物質ブロック効果が発揮できれば、ゲル状、ペースト状、液体状、クリーム状、バーム状など有効成分、適用箇所、用途等の条件に応じて任意に選択することができる。
【0025】
また、本発明の剤および組成物等は、本発明の効果が損なわれない範囲で必要に応じて添加剤を任意に選択し併用することができる。添加剤としては例えば、着色剤、保存剤、増粘剤、結合剤、崩壊剤、分散剤、安定化剤、ゲル化剤、酸化防止剤、保存剤、pH調整剤、油分、粉末、水、アルコール類、キレート剤、香料、各種薬効成分、防腐剤、中和剤等、公知のものを適宜選択して使用できる。また、本発明の効果を更に高めるために、1種又は2種以上の他の成分、例えば他の金属アレルギー原因物質ブロック剤やアレルギー対策用の薬剤、皮膜剤、保護剤、吸着剤等を併用してもよい。
【0026】
本発明の剤および組成物の塗布量は、例えば、皮膚辺り0.1mg/cm2~10.0mg/cm2、0.5mg/cm2~5.0mg/cm2、1.0mg/cm2~5.0mg/cm2、2.0mg/cm2~4.0mg/cm2、2.0mg/cm2~3.0mg/cm2、1.0mg/cm2~2.0mg/cm2等となるようにすることができるが、特に限定されず、有効成分の種類又は濃度、剤又は組成物の形態、適用箇所、用途等の条件に応じ、適宜変更できる。
【0027】
また、本発明の剤および組成物の投与経路としては、皮膚または唇に対する金属アレルギー原因物質ブロック効果が発揮できる態様、例えば、皮膚、唇、毛髪などへの塗布等が挙げられる。
【実施例】
【0028】
次に実施例によって本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0029】
実施例1:金属アレルゲン原因物質捕捉能試験
金属アレルゲン原因物質として代表的な物質であるニッケルイオンの捕捉能を調べることにより、金属アレルゲン原因物質捕捉能を調べた。本発明の剤の候補物質として以下の表1に記載の各試料を精製水に溶解しそれぞれ0.5重量%濃度に調製した。対照として水を用いた。
【0030】
10ppm硝酸ニッケル水溶液(原子吸光用試薬(関東化学)を精製水で希釈)5gに、上記被験物質0.5%水溶液1gと検水がpH5~9の範囲内になるようpHが低い場合は0.1%NaOHにて調整した精製水4gを撹拌混合した。1,2-シクロヘキサンジオンジオキシム(ニオキシム)法を発色原理として用いた測定法(共立理化学研究所製パックテスト ニッケル(DPM)(型式WAK-Ni(D))を用い、付属の説明書に従い、検水を付属のテストチューブに取り、軽く5~6回振り混ぜて2分後に、遠心分離(3000rpm、1min)後に、呈色反応を目視確認した。付属の標準色シートと比色したところ、対照のニッケル濃度は5ppmを示した。ニッケル濃度が2ppm以下を示した候補物質についてニッケルイオン捕捉能ありと判定した。被験物質が水不溶性の場合、粉末を上記のニッケル水溶液でろ過し、ろ液について同様に試験し、判定した。
【0031】
以下の表1に使用した候補物質及び結果を示す。ニッケルイオン捕捉能ありを〇、ニッケルイオン捕捉能なしを×として示す。
【表1】
【0032】
HPC、HPMC、疎水化HPMCは、数あるポリマーや多糖類の中でもHPC、HPMC、疎水化HPMCに高い効果が見られ、PVA、ベントナイト、EDTAと同様にニッケルイオン捕捉効果があることがわかる。
【0033】
実施例2:人工膜透過性試験
実施例1の候補物質のうちの多糖セルロース系のポリマー(HPC、HPMC、疎水化HPMC、HEC、CMC)、並びに、実施例1でニッケルイオン捕捉効果が見られた物質のうち、合成ポリマーのPVA、粘土鉱物のベントナイト、およびキレート剤のEDTAを使用し実施例1と同様に0.5%水溶液の試料を作成し、対照として水を使用した。
【0034】
人工膜(durapore(PVDF)25mm、0.22μm/ミリポア)を直径1.5cmの穴が開いたシリコン膜に挟んでセットしたフランツセルにて32℃ PBSバッファー(pH7.5/タカラ)を循環し、各試料200μLを人工膜に塗り広げるように塗布した。5分後に125ppm塩化ニッケル水溶液(塩化ニッケル(II)六水和物(富士フイルム)を精製水で調製)200μLを塗布し、軽くなじませた。2時間後にレシーバー液を、実施例1と同様にテストチューブ(共立理化)に取り、遠心分離(3000rpm、1min)後に、吸光度測定(554nm)によりニッケル濃度を定量した。対照に比べ統計学的な有意差をもってニッケル濃度の低下が見られた場合、ニッケルイオン透過抑制効果ありと判定した。
【0035】
結果を
図1に示す。HPC、HPMC、疎水化HPMCでは、ニッケルイオンの透過性が有意に低下しており、ベントナイトおよびEDTAと同様にニッケルイオンを透過させず、皮膚を金属アレルギー原因物質から保護する効果があることがわかる。一方、同じ多糖セルロース系のポリマーであるものの、HECおよびCMCについては、有意な透過性の低下は見られず、特許文献1において金属アレルギー防止効果が公知のPVAでも有意な透過性の低下が見られなかった。
【0036】
実施例3:各種物質の疎水性皮膜機能試験
実施例2で使用した候補物質の0.5%水溶液、皮膜機能を有さない対照物質として水、および皮膜機能を有する対照物質としてシリコーン油(ジメチルポリシロキサン(6mPa・s))を用いた。ビーカーの上に乗せたろ紙(70mm/ADVANTEC)に各試料0.1gを直径2.5cmの円状に伸ばして塗布し、10分後、ろ紙をもう1枚下に重ねて上から精製水を2滴滴下し、1分後に下側のろ紙に透過した精製水の重量を測定した。精製水の重量が水に比べて有意に減少した場合、疎水性皮膜機能ありと判定した。
【0037】
結果を
図2に示す。
図2より、候補物質のうち疎水化HPMCでは、シリコーン油(ジメチルポリシロキサン(6mPa・s))と同程度の疎水性皮膜形成効果があり、皮膚を金属アレルギー原因物質から保護する効果があることがわかる。一方、同じ多糖セルロース系のポリマーであるものの、HEC、CMCについては、有意な疎水性皮膜形成効果は見られず、特許文献1において金属アレルギー防止効果が公知のPVAでは弱い疎水性皮膜形成効果が見られた。
【0038】
実施例4:各濃度の疎水化HPMCによる疎水性皮膜機能試験
実施例3で優れた効果が見られた疎水化HPMCの濃度依存性を確認した。各濃度(0.1%、0.3%、0.5%)の疎水化HPMCを用いる以外は実施例3と同じ方法を用いて疎水性皮膜機能試験を行った。
【0039】
結果を
図3に示す。
図3より、疎水化HPMCの金属アレルギー原因物質から保護する効果は濃度依存的に増加することがわかった。
【0040】
実施例1~4の結果により、セルロース化合物の中でも効果に差があり、CMC及びHECには効果は見られなかったが、HPC、HPMC及び疎水化HPMCでは高い金属アレルギー原因物質ブロック効果が見られた。本発明のポリマーは、皮膚、唇、毛髪などに塗布することにより、アレルギー原因物質からブロックできることが期待される。本発明のポリマーを用いて以下の処方例に記載のような金属アレルギー原因物質ブロック剤を製造することができる。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
(処方例1~9の製法)
精製水に保湿剤、各種薬剤、クエン酸、緩衝剤を溶解する。エタノールに香料、界面活性剤、防腐剤を溶解し、このエタノール相を先の水相に可溶化させ、化粧水を得る。
【0051】
処方例10:化粧水
【表11】
(製法)精製水に保湿剤、薬剤、緩衝剤を溶解して水相とする。エタノールに防腐剤、香料、オレイルアルコール、界面活性剤を溶解し、先の水相に可溶化し、透明化粧水を得る。
【0052】
処方例11:化粧水
【表12】
(製法)
精製水に保湿剤、薬剤、緩衝剤を溶解して水相とする。防腐剤、香料、界面活性剤を溶解し、先の水相に可溶化し、透明化粧水を得る。
【0053】
処方例12:エモリエントローション(O/W)
【表13】
(製法)
精製水に保湿剤、アルカリを加えた後、緩衝剤を加える。油溶性成分を油分に溶解し、水相とホモミキサーで乳化し、エモリエントローション(O/W)を得る。
【0054】
処方例13:モイスチャージェル
【表14】
(製法)
精製水に水溶性高分子を均一溶解させた後、残りの成分を添加し、均一溶解させ、モイスチャージェルを得る。
【0055】
処方例14:クリーム(O/W)
【表15】
(製法)
精製水に保湿剤、アルカリを加え、70℃に加熱。油分に界面活性剤、防腐剤、酸化防止剤、香料を加え、70℃に加熱し、先の水相に添加、ホモミキサーを用いて乳化し、クリーム(O/W)を得る。
【0056】
処方例15:ヘアスプレー
【表16】
【表17】
(製法)
原液はエタノールに他の成分を加え溶解し、ろ過する。充填は缶に原液を入れ、バルブ装着、ガスを注入し、ヘアスプレーを得る。
【0057】
処方例16:モイスチャージェル
【表18】
(製法)
精製水に水溶性高分子を均一溶解させた後、残りの成分を添加し、均一溶解させ、モイスチャージェルを得る。
【0058】
処方例17:クリーム(O/W)
【表19】
(製法)
精製水に保湿剤、増粘剤を加え、70℃に加熱した油分に界面活性剤、防腐剤、酸化防止剤、香料を加え、ディスパーを用いて乳化し、クリーム(O/W)を得る。
【0059】
処方例18:固形バーム(W/O)
【表20】
(製法)
精製水に保湿剤、増粘剤を加え、70℃に加熱した油分に界面活性剤、防腐剤、酸化防止剤、香料を加え、ディスパーを用いて乳化し、冷却してバーム(W/O)を得る。
【0060】
処方例19:サンスクリーン(W/O)
【表21】
(製法)油性成分を加熱し溶解させ、粉末を配合し、ホモミキサーで分散させた後、別途調製した水相成分を徐々に添加しながら、ホモミキサーを用いて乳化させ、化粧下地を得る。