IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

7587935化合物、染料組成物、陽極酸化アルミニウム用着色剤および着色方法、ならびに該化合物の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】化合物、染料組成物、陽極酸化アルミニウム用着色剤および着色方法、ならびに該化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09B 29/08 20060101AFI20241114BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20241114BHJP
   C25D 11/18 20060101ALI20241114BHJP
   C09D 7/41 20180101ALI20241114BHJP
【FI】
C09B29/08 F CSP
C09B29/08 E
C09B29/08 C
C09B67/20 K
C09B67/20 E
C25D11/18 305
C09D7/41
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020132604
(22)【出願日】2020-08-04
(65)【公開番号】P2021038380
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2019157400
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】村上 智耶
(72)【発明者】
【氏名】永山 力丸
(72)【発明者】
【氏名】関根 和彦
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-286420(JP,A)
【文献】特開昭62-166359(JP,A)
【文献】特開昭58-176267(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02240986(GB,A)
【文献】特許第7219755(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 1/00-69/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物を含有する染料組成物を含有する、陽極酸化アルミニウム用着色剤
【化1】

[式()中、Aは下記式(Ia)で表される基を表し、
【化2】

は―COOまたは―COOHを表し、
が―NOを表し、
、R 、R 、R 、R 10 及び11は―Hを表し、
は-CH を表し、
は―SO 、又は―SO Hを表し、
Xは非発色カチオンを表し、kは1~6の整数を表す。]
【請求項2】
下記一般式(I)で表される化合物。
【化3】

[式(I)中、Aは置換基を有していてよいアルキル基、置換基を有していてよいシクロアルキル基、又は下記式(Ia)で表される基を表し、
【化4】

は―COOまたは―COOHを表し、
が―NHを表し、
~R、およびR7~R11はそれぞれ独立に、―H、―OH、―COO、―COOH、―NO、―NO、―CN、―SO 、―SOH、―SH、
置換基を有していてもよい炭素原子数0~20のアミノ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数0~20のスルホニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数3~20のシクロアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数3~20のシクロアルコキシ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数2~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20のアシル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~30の芳香族炭化水素基、または
置換基を有していてもよい環形成原子数5~30の複素環基を表し、
~R、R~R11は、隣り合う基同士で互いに結合して環を形成していてもよく、
Xは非発色カチオンを表し、kは1~6の整数を表す。]
【請求項3】
下記一般式(I)で表される化合物を含有する染料組成物を含有する、陽極酸化アルミニウム用着色剤
【化5】

[式(I)中、Aは―CHを表し、
は―COOまたは―COOHを表し、
~Rはそれぞれ独立に、―H、―OH、―COO、―COOH、―NO、―NO、―CN、―SO 、―SOH、―SH、
置換基を有していてもよい炭素原子数0~20のアミノ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数0~20のスルホニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数3~20のシクロアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数3~20のシクロアルコキシ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数2~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20のアシル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~30の芳香族炭化水素基、または
置換基を有していてもよい環形成原子数5~30の複素環基を表し、
は―CHを表し、
~Rは、隣り合う基同士で互いに結合して環を形成していてもよく、
Xは非発色カチオンを表し、kは1~6の整数を表す。]
【請求項4】
前記一般式(I)において、R~RおよびRがいずれも―Hである、請求項に記載の化合物。
【請求項5】
請求項に記載の化合物を含有する、染料組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の染料組成物を含有する、陽極酸化アルミニウム用着色剤。
【請求項7】
請求項に記載の化合物を、0.02~10質量%含有する染料組成物を用いることを特徴とする、陽極酸化アルミニウムまたは陽極酸化アルミニウム合金の着色方法。
【請求項8】
請求項に記載の化合物の製造方法であって、
前記一般式(I)で表される化合物が、下記一般式(II)で表される化合物をジアゾ化して得られるジアゾ化物と、下記一般式(III)で表される化合物および/またはその塩とのジアゾカップリング反応により得られるものである、製造方法。
【化6】

[式(II)および(III)中、AおよびR~R11は、前記定義と同意義を示す。]
【請求項9】
下記式(I)で表される化合物を含有する染料組成物を含有する、陽極酸化アルミニウム用着色剤。
【化7】

[式()中、Aは下記式(Ia)で表される基を表し、
【化8】

、RおよびRはいずれも―COOまたは―COOHを表し、
、R、R、R、R、R10及びR11はいずれも―Hを表し、
は、―SO 、又は―SOHを表し、
Xは非発色カチオンを表し、kは1~6の整数を表す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、染料組成物および陽極酸化アルミニウム用着色剤に関する。また、該化合物および染料組成物を用いる陽極酸化アルミニウムの着色方法、ならびに該化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム(その酸化物または合金も含む)表面への着色方法として、水および適当な酸を含む電解液中でアルミニウムを陽極として通電(陽極酸化)し、表面に多孔質の酸化アルミニウム皮膜(アルマイト皮膜)を形成させた後、有機染料を着色剤として表面を着色する染色法が用いられている(特許文献1~4)。
【0003】
近年の多種多様な着色アルミニウム製品の需要に応じるために、様々な色の染料に対応可能な染色方法(特許文献4)が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-302256号公報
【文献】特開昭60-235867号公報
【文献】特表2002-522617号公報
【文献】特表2013-506053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、赤味を有する黄色から橙色系のアルマイト皮膜用の染料は、ゴールド色として好まれて使用されているが、従来の染料では耐光性が不十分であり、混色を必要とせず単一の染料で、耐光性が良好な染料が求められている。
【0006】
また、アルマイト皮膜用の含クロム染料(特許文献1~3など)は、耐光性、耐熱性にも優れ、汎用的に使用されてきたが、近年、環境面から、クロムなどの重金属を含まない、様々な色相を有する染料が求められている。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、アルミニウム、アルミニウム酸化物またはアルミニウム合金の表面に、耐光性および耐熱性に優れ、クロムなどの重金属を含まない陽極酸化皮膜を形成することのできる化合物、該化合物を含有する染料組成物、該染料組成物からなる陽極酸化アルミニウム用着色剤および着色方法、ならびに該化合物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、発明者らはアルミニウム陽極酸化用の色素(染料)を鋭意検討した結果、特定の構造を有する化合物(アゾ染料)を陽極酸化アルミニウム用着色剤として用いることにより、陽極酸化アルミニウム上に、耐光性および耐熱性に優れた皮膜を形成することができることを見出した。すなわち、本発明は、例えば、以下の内容で構成されている。
【0009】
[1]下記一般式(I)で表される化合物。
【化1】

[式(1)中、Aは置換基を有していてよいアルキル基、置換基を有していてよいシクロアルキル基、又は下記式(Ia)で表される基を表し、
【化2】

は―COOまたは―COOHを表し、
~R11はそれぞれ独立に、―H、―OH、―COO、―COOH、―NO、―NO、―CN、―SO 、―SOH、―SH、
置換基を有していてもよい炭素原子数0~20のアミノ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数0~20のスルホニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数3~20のシクロアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数3~20のシクロアルコキシ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数2~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20のアシル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~30の芳香族炭化水素基、または
置換基を有していてもよい環形成原子数5~30の複素環基を表し、
~R、R~R11は、隣り合う基同士で互いに結合して環を形成していてもよく、
Xは非発色カチオンを表し、kは1~6の整数を表す。]
【0010】
[2]下記一般式(1)で表される、[1]に記載の化合物。
【0011】
【化3】
【0012】
[式(1)中、R~R11、Xおよびkは、前記定義と同意義を示す。]
【0013】
[3]前記一般式(I)において、RおよびRがそれぞれ独立に、―H、―COO、―COOH、―NO、―SO 、―SOH、または、置換基を有していてもよい炭素原子数1~10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である、[1]又は[2]に記載の化合物。
【0014】
[4]前記一般式(I)において、Rが、―COO、―COOH、置換基を有していてもよい炭素原子数0~10のアミノ基、または、置換基を有していてもよい炭素原子数1~10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である、[1]~[3]のいずれかに記載の化合物。
【0015】
[5]前記一般式(1)において、R~R11がそれぞれ独立に、―H、―NO、―SO 、―SOH、または―SONHである、[1]~[4]のいずれかに記載の化合物。
【0016】
[6][1]~[5]のいずれかに記載の前記化合物を含有する染料組成物。
【0017】
[7][6]に記載の前記染料組成物を含有する陽極酸化アルミニウム用着色剤。
【0018】
[8][1]~[5]のいずれかに記載の化合物を、0.02~10質量%含有する染料組成物を用いることを特徴とする、陽極酸化アルミニウムまたは陽極酸化アルミニウム合金の着色方法。
【0019】
[9][1]~[5]のいずれかに記載の前記化合物の製造方法であって、前記一般式(I)で表される化合物が、下記一般式(II)で表される化合物をジアゾ化して得られるジアゾ化物と、下記一般式(III)で表される化合物および/またはその塩とのジアゾカップリング反応により得られるものである製造方法。
【0020】
【化4】
【0021】
[式(II)および(III)中、AおよびR~R11は、前記定義と同意義を示す。]
【0022】
[10]前記一般式(1)で表される化合物の製造方法であって、前記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(2)で表される化合物をジアゾ化して得られるジアゾ化物と、下記一般式(3)で表される化合物および/またはその塩とのジアゾカップリング反応により得られるものである製造方法。
【0023】
【化5】
【0024】
[式(2)および(3)中、R~R11は、前記定義と同意義を示す。]
【発明の効果】
【0025】
本発明により、アルミニウム、アルミニウム酸化物またはアルミニウム合金の表面に、耐光性および耐熱性に優れ、クロムなどの重金属を含まない陽極酸化皮膜を形成することのできる化合物、該化合物を含有する染料組成物、該染料組成物からなる陽極酸化アルミニウム用着色剤および着色方法、ならびに該化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。以下、前記一般式(I)で表される化合物および前記一般式(1)で表される化合物について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。前記一般式(I)で表される化合物および一般式(1)で表される化合物における角括弧[ ]内の部分はアニオンであり、一般式(1)中、Xで表される非発色カチオンと錯体を形成する。前記一般式(I)および一般式(1)中、アニオン部は1種類の構造でもよいし、互いに異なる複数の種類の構造でもよく、1種類の構造であるのが好ましい。つまり、複数存在するR~R11は、それぞれ同種でも異種でもよい。またXは、1種類でも複数が混合したものでもよく、1種類であるのが好ましい。kが2~6の整数である場合、複数存在するXは同種であっても異種であってもよい。
【0027】
本実施形態に係る化合物は、上述した一般式(I)で表される化合物である。Aは置換基を有していてよいアルキル基、置換基を有していてよいシクロアルキル基、又は下記式(Ia)で表される基を表す。
【化6】
【0028】
Aで表される、置換基を有していてよいアルキル基は、例えば、後述する「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」であってよい。Aで表される置換基を有していてよいアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基が挙げられる。Aで表される置換基を有していてよいシクロアルキル基は、例えば、後述する「置換基を有していてもよい炭素原子数3~20のシクロアルキル基」であってよい。Aで表される置換基を有していてもよいシクロアルキル基の具体例としては、例えば、シクロヘキシル基が挙げられる。
【0029】
一般式(I)で表される化合物は、Aが式(Ia)で表される基である、上記一般式(1)で表される化合物であってよい。この場合、単色で黄~橙色系の赤味のある黄色を呈する陽極酸化皮膜をより一層形成しやすくなる。
【0030】
~R11で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数0~20のアミノ基」としては、無置換アミノ基(―NH)、一置換アミノ基、二置換アミノ基などがあげられる。一置換アミノ基または二置換アミノ基における炭素原子数は、例えば、1~20であり、1~10であってよく、2~6であってよい。置換基を有していてもよい炭素原子数0~20のアミノ基は、―NH―または―N<を介して、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基(例えば、後述する芳香族炭化水素基)、炭素原子数1~20のアシル基、環形成原子数5~20の複素環基が結合した基であってもよい。一置換アミノ基としては、エチルアミノ基、アセチルアミノ基、フェニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基などがあげられる。二置換アミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、アセチルフェニルアミノ基などがあげられる。
【0031】
~R11で表される「炭素原子数0~20の置換基を有していてもよいスルホニル基」は、―SO―R100(もしくは―S(=O)―R100)で表される置換基R100を有するスルホニル基を意味する。但し、R100は、-OHおよびO以外である。R100は、炭素原子を含む基であってもよく、炭素原子を含まない基であってもよい。R100が炭素を含む基である場合、R100の炭素原子数は、1~20であり、1~10であってよく、1~7であってよい。炭素原子数0~20の置換基を有していてもよいスルホニル基としては、スルホンアミド基(―S(=O)―NH)、メシル基、トシル基などがあげられる。
【0032】
~R11で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」における「直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」の炭素原子数は、1~20であり、1~10であってよく、1~6であってよく、1~4であってよい。R~R11で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」における「炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」としては、具体的に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基などの直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソオクチル基、t-オクチル基などの分岐状のアルキル基があげられる。
【0033】
~R11で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数3~20のシクロアルキル基」における「炭素原子数3~20のシクロアルキル基」としては、具体的に、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基、シクロドデシル基などがあげられる。
【0034】
~R11で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基」における「炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基」としては、具体的に、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基などの直鎖状のアルコキシ基;イソプロポキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、イソオクチルオキシ基、t-オクチルオキシ基などの分岐状のアルコキシ基があげられる。
【0035】
~R11で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数3~20のシクロアルコキシ基」における「炭素原子数3~20のシクロアルコキシ基」としては、具体的に、シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基などがあげられる。
【0036】
~R11で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数2~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」における「炭素原子数2~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」としては、具体的に、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基、1-ヘキセニル基、または、これらのアルケニル基が複数結合した直鎖状もしくは分岐状の基があげられる。
【0037】
~R11で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20のアシル基」は、―(C=O)―R101で表される基である。当該アシル基における炭素原子数は、アシル基および置換基R101の合計炭素原子数である。置換基R101は、炭素原子を含む基であってもよく、炭素原子を含まない基であってもよい。置換基R101が、炭素原子を含む基である場合、置換基R101の炭素原子数は、例えば、1~20であってよく、1~10であってよい。置換基を有していてもよい炭素原子数1~20のアシル基は、アシル基を介して、後述する芳香族炭化水素基が結合し、合計炭素原子数が1~20である基、または、アシル基を介して、後述する環形成原子数5~20の複素環基が結合し、合計炭素原子数が1~20である基であってもよい。置換基R101としては、例えば、―H、―CH、―CHCHCH、―CH=CH、―C(フェニル基)があげられる。「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20のアシル基」における「炭素原子数1~20のアシル基」としては、具体的に、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、アクリロイル基(アクリリル基)、ベンゾイル基などがあげられる。
【0038】
~R11で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数6~30の芳香族炭化水素基」における「炭素原子数6~30の芳香族炭化水素基」としては、具体的に、フェニル基、ベンゾイル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、トリフェニレニル基、インデニル基、フルオレニル基などがあげられる。ここで、本発明における「芳香族炭化水素基」とは、芳香族炭化水素基および縮合多環芳香族基を表すものとし、これらの中でも、フェニル基またはナフチル基が好ましい。
【0039】
~R11で表される「置換基を有していてもよい環形成原子数5~30の複素環基」における「環形成原子数5~30の複素環基」としては、具体的に、ピペラジニル基、ピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、トリアゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、ナフチリジニル基、インドリル基、ベンゾイミダゾリル基、カルバゾニル基、カルボリニル基、アクリジニル基、フェナントロリニル基、ヒダントイン基、フラニル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基、チエニル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基などがあげられる。
【0040】
~R11で表される、
「置換基を有する炭素原子数0~20のアミノ基」、
「置換基を有する炭素原子数0~20のスルホニル基」、
「置換基を有する炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」、
「置換基を有する炭素原子数3~20のシクロアルキル基」、
「置換基を有する炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基」、
「置換基を有する炭素原子数3~20のシクロアルコキシ基」、
「置換基を有する炭素原子数2~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」、
「置換基を有する炭素原子数1~20のアシル基」、
「置換基を有する炭素原子数6~30の芳香族炭化水素基」または
「置換基を有する環形成原子数5~30の複素環基」における「置換基」としては、
具体的に、水酸基(―OH)、―COO、カルボキシル基(―COOH)、ニトロ基(―NO)、ニトロソ基(―NO)、シアノ基(―CN)、―SO 、スルホン酸基(―SOH)、チオール基(―SH)、
無置換アミノ基;―NH―を介して炭素原子数0~20の基が結合した一置換アミノ基;―N<を介して炭素原子数0~20の基が結合した二置換アミノ基;
スルホンアミド(―S(=O)―NH)基、メシル基、トシル基などのスルホニル基(―S(=O)―)を有する基;
メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、n-オクチル基、t-オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基などの直鎖状もしくは分岐状のアルキル基;
シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基、シクロドデシル基などのシクロアルキル基;
メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基などの直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基;
シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基などのシクロアルコキシ基;
ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、1-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、イソプロペニル基、イソブテニル基、またはこれらのアルケニル基が複数結合した直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基;
ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、アクリロイル基(アクリリル基)、ベンゾイル基などのアシル基;
フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、トリフェニレニル基、インデニル基、フルオレニル基などの芳香族炭化水素基;
ピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、トリアゾリル基、ピラジニル基、ピリダジニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、キノリル基、イソキノリル基、ナフチリジニル基、インドリル基、ベンゾイミダゾリル基、カルバゾニル基、カルボリニル基、アクリジニル基、フェナントロリニル基、フェナントリジニル基、ヒダントイン基、フラニル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基、ピラニル基、クマリニル基、イソベンゾフラニル基、キサンテニル基、オキサントレニル基、ピラノニル基、チエニル基、チオピラニル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、チオキサンテニル基、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、モルホリニル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基などの複素環基;
シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、(1,3-もしくは1,4-)シクロヘキサジエニル基、1,5-シクロオクタジエニル基などの環状オレフィン基;などがあげられる。
これらの「置換基」は、1つのみ含まれてもよく、複数含まれてもよく、複数含まれる場合は互いに同一でも異なっていてもよい。また、これら「置換基」は前記例示した置換基を有していてもよい。なお、「置換基」が炭素原子を含む場合、その炭素原子は、上記の「炭素原子数0~20」、「炭素原子数1~20」、「炭素原子数2~20」、「炭素原子数3~20」および「炭素原子数6~30」に算入される。同様に、「置換基」が環形成原子を含む場合、その環形成原子は、「環形成原子数5~30」に算入される。さらに、これらの置換基同士が単結合、置換もしくは無置換のメチレン基、酸素原子または硫黄原子を介して互いに結合して環を形成していてもよい。
【0041】
は―COOまたは―COOHである。Rは、―H、―COO、―COOH、―NO、―SO 、―SOH、または、置換基を有していてもよい炭素原子数1~10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であることが好ましい。Rは―H、―NO、置換基を有していてもよい炭素原子数0~10のアミノ基が好ましく、―Hがより好ましい。RおよびRはそれぞれ独立に、―H、―COO、―COOH、―NO、―SO 、―SOH、または、置換基を有していてもよい炭素原子数1~10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であることが好ましく、Rが―COO、―COOH、―NO、―SO 、―SOH、または―SONHであることがより好ましい。
【0042】
は―COO、―COOH、置換基を有していてもよい炭素原子数0~10のアミノ基、または、置換基を有していてもよい炭素原子数1~10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であることが好ましい。
【0043】
~R11はそれぞれ独立に、―H、―NO、―SO 、―SOH、または―SONHであることが好ましく、R~R11の少なくとも1つが―SO または―SOHであることがより好ましい。
【0044】
~R、R~R11は上記で述べた通りの置換基を表すが、隣り合う基同士で、単結合、または酸素原子を介した結合(―O―)もしくは硫黄原子を介した結合(―S―)によって互いに結合して環を形成していてもよい。例えば、R~Rは、隣り合う基同士で、互いに結合してベンゼン環を形成していてもよく、RおよびRが互いに結合してベンゼン環を形成していてもよい。
【0045】
「X」は、非発色カチオンである。非発色カチオンは、発色団(例えば、ニトロ基、アゾ基、カルボニル基)を有しないカチオンである。非発色カチオンの具体例としては、水素イオン(H)、リチウムイオン(Li)、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)などのアルカリ金属イオン;アンモニウムイオン(NH )、置換アンモニウムイオン(アミニウムイオン)などの窒素原子を含むカチオンなどがあげられる。窒素原子を含むカチオンとしては、具体的に、R12131415で表されるアンモニウムイオンがあげられ、R12~R15はそれぞれ独立に、―H、置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基を表し、互いに結合して環を形成してもよい。なお、式中、R12~R15における「置換基」、「炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」および「炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基」の詳細は、前記一般式(1)におけるR~R11と同様のものが適用される。Xとしては、これらのカチオンの中でも、アルカリ金属イオンがより好ましく、KまたはNaが特に好ましい。
【0046】
kは、非発色カチオン「X」の数を表し、1~6の整数を表し、1~4の整数であることが好ましい。
【0047】
上述した一般式で表される化合物は、生じ得るすべての立体異性体を包含するものとする。上述した一般式で表される本発明の化合物の具体例を以下の式に示すが、本発明はこれらに限定されない。なお、例示化合物中、角括弧[ ]内のアニオン部についてはその全体の電荷を記載しており、構造式中では水素原子を一部省略して記載している。
【0048】
【化7】
【0049】
【化8】
【0050】
【化9】
【0051】
【化10】
【0052】
【化11】
【0053】
【化12】
【0054】
【化13】
【0055】
【化14】
【0056】
【化15】
【0057】
【化16】
【0058】
【化17】
【0059】
【化18】
【0060】
【化19】
【0061】
【化20】
【0062】
【化21】
【0063】
【化22】
【0064】
【化23】
【0065】
【化24】
【0066】
【化25】
【0067】
【化26】
【0068】
一般式(I)で表される化合物は、例えば、下記一般式(II)で表される化合物をジアゾ化して得られるジアゾ化物と、下記一般式(II)で表される化合物および/またはその塩とをジアゾカップリング反応させる工程(カップリング工程)を含む方法によって得ることができる。すなわち、一般式(I1)で表される化合物が、一般式(II)で表される化合物をジアゾ化して得られるジアゾ化物と、下記一般式(III)で表される化合物および/またはその塩とのジアゾカップリング反応により得られるものであってよい。
【化27】
【0069】
一般式(I)で表される化合物の製造方法は、例えば、カップリング工程の前に、一般式(II)で表される化合物をジアゾ化する工程を更に含んでいてもよい。
【0070】
前記一般式(1)で表される本発明の化合物の製造方法の一例を以下に示すが、この方法に限定されない。具体的には、最初に、下記一般式(2)で表され、適当な置換基を有する芳香族アミン誘導体を、塩酸や硫酸などの酸水溶液中で、亜硝酸ナトリウムなどを用いて調製した塩基性水溶液と適温で反応させることにより、下記一般式(2a)で表される化合物および/またはその塩(ジアゾ成分)が得られる。
【0071】
【化28】
【0072】
[式(2)中、R~Rは、上記定義と同意義を示す。]
【0073】
【化29】
【0074】
[式(2a)中、R~Rは、上記定義と同意義を示す。]
【0075】
一方、下記一般式(3)で表される化合物を水酸化ナトリウムなどの水溶液中に溶解し反応させることによって、一般式(3)で表される化合物の塩(カプラー成分)が得られる。一般式(3)をそのままカプラー成分として用いてもよい。
【0076】
【化30】
【0077】
[式中、R~R11は、上記定義と同意義を示す。]
【0078】
次に、上記ジアゾ成分と上記カプラー成分とを反応(ジアゾカップリング反応)させることにより、アゾ化合物(アゾ染料)として下記一般式(1a)で表される化合物および/またはその塩が得られる。本実施形態に係る上記一般式(1)で表される化合物の製造方法は、上記のようにして得た一般式(1a)で表される化合物を得る工程を備える。
【0079】
【化31】
【0080】
[式中、R~R11は、上記定義と同意義を示す。]
【0081】
一般式(I)で表される化合物は、カラムクロマトグラフィーによる精製;シリカゲル、活性炭、活性白土などによる吸着精製;溶媒による再結晶や晶析法などの公知の方法で精製することができる。また、化合物の同定や物性評価は、紫外可視吸収スペクトル分析(UV-Vis)、熱重量測定-示差熱分析(TG-DTA)、ガスクロマトグラフィー分析(GC)、薄層クロマトグラフィー分析(TLC)、ガスクロマトグラフィー-質量分析(GC/MS)、核磁気共鳴分析(NMR)分析などを用いて行うことができる。
【0082】
一般式(I)で表される化合物(化合物(I))は、染料組成物の成分として用いることができる。化合物(I)は、1種類単独で用いることによっても、アルミニウム若しくはアルミニウム酸化物、繊維などを着色することができる。つまり、化合物(I)は、1種類の単色の染料を単独で用いて、アルミニウム、アルミニウム酸化物、繊維などを着色するための色素化合物として好適に用いることができる。化合物(I)は、混色により多様な色彩を得るために2種以上を併用してもよい。染料組成物は、最適な染色(染料を用いた着色)のために、その他の成分を混合してもよい。具体的には、水、アルコール、溶剤などの液体(溶媒);界面活性剤などの添加剤;などがあげられる。溶媒としては、水が好ましい。化合物(I)は、他の色素を併用して、染料組成物の成分に用いてもよい。他の色素は、化合物(I)以外の他の化合物、顔料、染料などであり、具体的に、ルテニウム錯体、クマリン系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、ロダシアニン系色素、フタロシアニン系色素、ポルフィリン系色素、キサンテン系色素などがあげられる。化合物(I)と、他の成分とを組み合わせて用いる場合、化合物(I)に対する他の成分の使用量を10~200質量%とするのが好ましく、20~100質量%とするのがより好ましい。アルミニウム酸化物とは、アルミニウムが酸化された、主としてアルミニウムと酸素を含む組成物であり、その組成比は任意でよく、酸化アルミニウムを含み、結晶系は、単結晶でも多結晶もしくは非晶質であってもよく、それらの混合であってもよい。
【0083】
上述した染料組成物は、陽極酸化アルミニウム用着色剤として応用できる。上述した染料組成物は、陽極酸化アルミニウム合金に用いられる着色剤に用いることもできる。すなわち、本発明の一実施形態として、陽極酸化アルミニウム、または陽極酸化アルミニウム合金を着色するための一般式(I)で表される化合物または該化合物を含有する染料組成物の使用(応用)が提供される。また、本発明の一実施形態として、陽極酸化アルミニウム、または陽極酸化アルミニウム合金用の着色剤の製造のための一般式(I)で表される化合物または該化合物を含有する染料組成物の使用が提供される。
【0084】
化合物(I)を陽極酸化アルミニウム、または陽極酸化アルミニウム合金などの着色剤として用いる際、その着色(染色)方法において、化合物(I)を含有する染料組成物における化合物(I)の濃度は、染料組成物の全質量を基準として、0.02~10質量%であることが好ましく、0.05~3質量%がより好ましい。化合物の濃度が低いほど淡色の着色を行うことができ、濃度が高いほど中間色~濃色の着色を行うことができる。
【0085】
ここで、陽極酸化アルミニウムとは、酸水溶液などの電解液中で、電解処理したアルミニウム表面に、細孔を有する酸化物層を形成する処理を行ったアルミニウムを意味する。陽極酸化アルミニウム用着色剤は、この細孔を有するアルミニウム表面に、化合物(I)を細孔内に吸着させることにより、着色(染色)させることのできるものを意味する。通常、着色されたアルミニウム表面の耐久性、耐光性を向上させるために、着色後に細孔を塞ぐための封孔処理が行われる。
【0086】
ここで、陽極酸化アルミニウム合金とは、アルミニウム合金の表面に陽極酸化処理を行った合金を意味する。陽極酸化アルミニウム合金におけるアルミニウム合金は、アルミニウムを主成分とする合金を意味しており、銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、などの金属との合金を意味する。アルミニウムと他の金属との組成比は特に限定されない。
【0087】
陽極酸化アルミニウムにおけるアルミニウムとしては、アルミニウム、酸化アルミニウム、または他の金属とのアルミニウム合金など、アルミニウムを含有する金属または金属化合物などがあげられる。
【0088】
上述した着色剤を用いたアルミニウムの着色方法は、アルマイト染色法として公知の方法を用いることができる。例えば、日本産業規格(JIS H 8601:1999「アルミニウムおよびアルミニウム合金の陽極酸化皮膜」)、特許文献1などに記載の方法を用いることができる。アルミニウムの着色方法は、特に限定されないが、以下に一例を示す。
【0089】
最初に、アルミニウム板を硫酸、シュウ酸、クロム酸、スルホン酸などの酸水溶液を用いて脱脂処理し水洗する。次に、脱脂処理したアルミニウム板を陽極として、電解液として酸水溶液を用いて電解し、アルミニウム陽極表面上に、多くの細孔を有する陽極酸化皮膜(アルマイト皮膜)を形成させ(陽極酸化処理)、水洗する。続いて、適宜、表面調整、水洗などを施した後、本発明の化合物を含有する染料組成物を含有する陽極酸化アルミニウム用着色剤水溶液などに浸漬し、細孔内に染料を吸着(染色、電解着色)させ、表面の細孔をアルミニウム酸化物水和物などで封孔し封孔物質を形成することによって、着色することができる。
本発明の染料組成物を2種以上併用する場合、あるいは本発明の染料組成物を他の色素と併用する場合、使用するすべての色素の混合溶液を調製して陽極酸化アルミニウムを浸漬してもよく、また、各色素溶液を別々に調製し、各溶液に陽極酸化アルミニウムを順に浸漬してもよい。
【0090】
本発明の着色時における電解条件は、直流電解でも交流電解でもよく、直流電解が好ましい。電流密度は、0.1~10A/dmが好ましく、0.5~3A/dmがより好ましい。通電時間は、10秒~60分が好ましい。陽極酸化皮膜の厚さは2~20μmが好ましい。これらの陽極酸化条件は、通電時間が長く陽極酸化皮膜が厚いほど濃色の着色となるため、これらの条件を調整することで、淡色~中間色~濃色の調整が行える。
【0091】
上記の各工程の処理温度は、それぞれ適した温度が好ましく、陽極酸化時の温度は0~80℃が好ましい。染色時の温度は10℃~70℃が好ましい。その他の処理温度は、10~80℃が好ましい。
【0092】
本実施形態における染料組成物は、アルミニウム以外の金属を用いた陽極酸化物についても同様に使用することができる。たとえば、マグネシウム、亜鉛、チタン、ジルコニウムなど、陽極酸化した細孔に染料を吸着することができるものあれば、導電性プラスチックなどの非金属にも応用可能である。
【0093】
本実施形態の陽極酸化アルミニウム用着色剤は、アルミニウムに着色した試料の特性を、色相、耐光性、耐熱性などを測定することによって評価することができる。色相は、目視で色味および/又は均一性を観察することにより評価することもでき、色差計により濃度(K/Sd)、色味(L、a、b)および色差(ΔE)として測定してもよい。
【0094】
本実施形態の陽極酸化アルミニウム用着色剤を用いて表すことのできる色は、黄色系から赤色系の色を表すことができ、より好ましくは、黄色系から橙色系の色を表すことができる。黄、橙、赤、桃、茶、これらの淡色(薄黄、薄橙、桃など)又は濃色(濃黄、濃橙など)など濃淡の異なるものを表すことができる。本実施形態の陽極酸化アルミニウム用着色剤は、上述した化合物と、他の色素を併用することにより、混色したもの(黄赤、黄味橙、茶、ブロンズなどの中間色)を表すこともできる。
【0095】
本実施形態の陽極酸化アルミニウム用着色剤を用いて着色したアルミニウムの耐光性試験は、紫外光を含む太陽光を模した試験機などを用いて、一定時間、試料に光照射し、試験前後の着色アルミニウムの色相の変化を測定することで行ってもよい。具体的には、色差計などを用い、CIE L表色系で色味を測定して得られた光照射試験前後の色差ΔE ab(またはΔE)により評価してもよい。耐光性の判定には、着色アルミニウムの色相を、日本産業規格(JIS L 0804「変退色用グレースケール」)にて定める方法に従って、グレースケールを用いた目視による染色堅牢度判定を行ってもよい。
【0096】
本実施形態の陽極酸化アルミニウム用着色剤を用いて着色したアルミニウムの耐熱性試験は、例えば50~300℃の温度範囲の恒温器又は熱風乾燥機内で、30分~50時間などの範囲で、適当な一定時間加熱する方法など、耐光性試験と同様に試験前後の色相の変化を評価する方法があげられる。
【0097】
本実施形態の陽極酸化アルミニウム用着色剤を用いた着色アルミニウムは、多様多種のアルミ板材料、アルミニウム製外装を使用した製品に用いられる。
【実施例
【0098】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、以下の実施例に限定されない。なお、合成実施例で得られた化合物の同定は、H-NMRおよび13C-NMR分析(日本電子株式会社製核磁気共鳴装置、型番:JNM-ECZ400S/L1)により行い、測定結果を下記合成実施例中に示す。
【0099】
[合成実施例1] 化合物(1-1)の合成
(ジアゾ成分の調製) 反応容器に、4-ニトロアントラニル酸8.0g、水32mL、35%塩酸6.0gを入れ、反応液を10℃以下で撹拌しながら、40質量%亜硝酸ナトリウム水溶液を8.0g滴下し、2時間反応させ、ジアゾ成分液を得た。
【0100】
(カプラー成分の調製) 反応容器に、3-メチル-1-(4-スルホフェニル)-2-ピラゾリン-5-オン(p-SMP)11.4g、水40mL、24%水酸化ナトリウム水溶液10.3g、炭酸ナトリウム2.4gを入れ、10℃以下で30分間撹拌し、カプラー成分液を得た。
【0101】
(ジアゾカップリング反応) 撹拌中のカプラー成分液にジアゾ成分液を入れ、室温で終夜撹拌し、ジアゾカップリング反応を行った。反応終了は薄層クロマトグラフィー(TLC)で確認した。生成物の純度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で、典型的なアゾ染料の観測される保持時間ピーク位置および面積により確認した。
反応後、硫酸を加え、酸性とし、析出した固体をろ取した。固体を減圧乾燥し、前記式(1-1)で表される化合物を固体粉末として得た(20.3g、収率94.0%)。
【0102】
H-NMR(400MHz,DMSO-d):δ(ppm)=1.87(s,1H),2.23(s,3H), 7.64(dd,2H), 7.87(dd,2H), 7.91(d,1H), 8.17(d,1H), 8.50(d,1H).
13C-NMR(100MHz,DMSO-d):δ(ppm)=12.27, 21.41, 109.34, 117.29, 117.79, 126.84, 130.57, 133.66, 138.64, 145.40, 146.06, 149.47, 150.56, 156.06, 167.24.
【0103】
[合成実施例2] 化合物(1-6)の合成
(ジアゾ成分の調製) 反応容器に、2-アミノテレフタル酸8.0g、水32mL、35%塩酸6.0gを入れ、反応液を10℃以下で撹拌しながら、40質量%亜硝酸ナトリウム水溶液を8.0g滴下し、2時間反応させ、ジアゾ成分液を得た。
【0104】
(カプラー成分の調製) 反応容器に、3-カルボキシ-1-(4-スルホフェニル)-2-ピラゾリン-5-オン13.8g、水40mL、24%水酸化ナトリウム水溶液10.3g、炭酸ナトリウム2.4gを入れ、10℃以下で30分間撹拌し、カプラー成分液を得た。
【0105】
(ジアゾカップリング反応) 撹拌中のカプラー成分液にジアゾ成分液を入れ、室温で終夜撹拌し、ジアゾカップリング反応を行った。反応終了は薄層クロマトグラフィー(TLC)で確認した。生成物の純度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で、典型的なアゾ染料の観測される保持時間ピーク位置および面積により確認した。
反応後、硫酸を加え、酸性とし、析出した固体をろ取した。固体を減圧乾燥し、前記式(1-6)で表される化合物を固体粉末として得た(17.3g、収率82.4%)。
【0106】
[合成実施例3] 化合物(1-10)の合成
(ジアゾ成分の調製) 反応容器に、2-アミノテレフタル酸8.0g、水32mL、35%塩酸6.0gを入れ、反応液を10℃以下で撹拌しながら、40質量%亜硝酸ナトリウム水溶液を8.0g滴下し、2時間反応させ、ジアゾ成分液を得た。
【0107】
(カプラー成分の調製) 反応容器に、3-アミノ-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン7.9g、水50mL、24%水酸化ナトリウム水溶液10.3g、炭酸ナトリウム2.4gを入れ、10℃以下で30分間撹拌し、カプラー成分液を得た。
【0108】
(ジアゾカップリング反応) 撹拌中のカプラー成分液にジアゾ成分液を入れ、室温で終夜撹拌し、ジアゾカップリング反応を行った。反応終了は薄層クロマトグラフィー(TLC)で確認した。生成物の純度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で、典型的なアゾ染料の観測される保持時間ピーク位置および面積により確認した。
反応後、硫酸を加え、酸性とし、析出した固体をろ取した。固体を減圧乾燥し、前記式(1-10)で表される化合物を固体粉末として得た(15.1g、収率93.2%)。
【0109】
[合成実施例4] 化合物(1-36)の合成
(ジアゾ成分の調製) 反応容器に、2-アミノテレフタル酸8.0g、水32mL、35%塩酸6.0gを入れ、反応液を10℃以下で撹拌しながら、40質量%亜硝酸ナトリウム水溶液を8.0g滴下し、2時間反応させ、ジアゾ成分液を得た。
【0110】
(カプラー成分の調製) 反応容器に、1,3-ジメチル-5-ピラゾロン5.1g、水50mL、24%水酸化ナトリウム水溶液10.3g、炭酸ナトリウム2.4gを入れ、10℃以下で30分間撹拌し、カプラー成分液を得た。
【0111】
(ジアゾカップリング反応) 撹拌中のカプラー成分液にジアゾ成分液を入れ、室温で終夜撹拌し、ジアゾカップリング反応を行った。反応終了は薄層クロマトグラフィー(TLC)で確認した。生成物の純度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で、典型的なアゾ染料の観測される保持時間ピーク位置および面積により確認した。
定量的に反応は進行し、硫酸により酸性とし、析出した固体をろ取した。固体を乾燥し、下記式(1-36)で表される化合物を固体粉末として得た。
【0112】
<色相および耐光性の評価>
[実施例1]
以下の手順でアルミニウム基板上に、陽極酸化処理して、着色アルミニウムを作製した。なお、陽極酸化および染色の工程で、処理時間と染料化合物濃度を変えた2種類の染色条件を設定した。
(脱脂) 容器に、脱脂剤(奥野製薬工業株式会社製、トップADD-100)150mL、98%硫酸70mL、水1000mLを混合したものを脱脂液として調製し、適当な寸法に裁断した染色用アルミニウム基板を浸漬し、60℃で3分間脱脂処理を行い、処理後水洗した。
(陽極酸化) 98%硫酸を用いて180g/Lの電解液を調製し、電解装置の電極にアルミニウム基板を接続し、電解液槽に浸漬し、温度20±1℃、電流密度1.0A/dmの以下の通電時間の条件で陽極酸化を行い、以下の厚さの陽極酸化皮膜を得た。酸化後、水洗した。
陽極酸化条件(1):通電25分間 陽極酸化皮膜厚:7μm
陽極酸化条件(2):通電40分間 陽極酸化皮膜厚:11μm
陽極酸化条件(3):通電54分間 陽極酸化皮膜厚:15μm
(表面調整) 表面調整剤(奥野製薬工業株式会社製、TACソマール121)および水を用いて、濃度50mL/Lの表面調整液を調製し、45℃で1分間、アルミニウム基板を浸漬した。浸漬後アルミニウム基板を水洗した。
(染色) 色素として合成実施例1で得た化合物(1-1)を用い、本発明の染料組成物としてそれぞれ下記の濃度の色素を含有する染色用水溶液を調製し、以下の染色時間で浸漬し、ともに温度(建浴温度)55℃で染色した。染色後アルミニウム基板を水洗した。
染色条件(1):色素濃度2.0質量% 染色時間:30秒間
染色条件(2):色素濃度1.0質量% 染色時間:5分間
(封孔) 封孔剤(奥野製薬工業株式会社製、トップシールH-298)および水を用いて40mL/Lの封孔液を調製し、約90℃で15分間封孔処理を行った。封孔処理後、温風で乾燥した。
【0113】
(色相評価) 化合物(1-1)の色素を用いて着色した着色アルミニウム板の色相を目視と色差計(装置名:コニカミノルタ製分光色差計 型式:CM-3700A)でCIE L表色系により評価した。評価した色相の結果を表1に示す。
【0114】
(耐光性試験) 化合物(1-1)の色素を用いて着色した着色アルミニウム板について、次の方法で耐光性試験を行った。キセノンフェードメーター/ATLAS Ci3000+Xenon Weather Ometer(アトラス社製)を用いて、放射照度:300~400nm、60W/m、試験槽内温度:38℃、湿度:50%、ブラックパネル(BP)温度:63℃の条件で、着色アルミニウム板に50時間、100時間および200時間照射したものについて、色差計による色相および光照射前後の色差ΔEの測定を行い、また、グレースケールの級数による染色堅牢度の目視判定(JIS L 0804「変退色用グレースケール」)により耐光性の判定を行った。級数は、5級が最高で、1級が最低であり、級数が高いものほど色が濃く(色差ΔEが小さく)照射前の色相を保っていることを示す。本発明の評価方法では、級数の判定結果を3段階に分け、以下の判定基準で評価し、結果を表1にまとめて示す。
グレースケール判定基準:級数と本発明における評価との対応
5級~4級:A(特に良好な耐光性)
3級:B(通常レベルの耐光性)
2級以下:C(耐光性低い)
その結果、化合物(1-1)の色素は、上記のいずれの陽極酸化条件、染色条件、照射時間でも特に良好な耐光性を有していることがわかった。
【0115】
[実施例2~実施例4]
実施例1で評価した化合物(1-1)の色素の代わりに、化合物(1-6)、化合物(1-10)および(1-36)について、実施例1と同様に、陽極酸化条件(1)および染色条件(1)の染色条件で着色アルミニウムを作製し、色相、色差ΔEおよび目視による耐光性を評価した結果を表1にまとめて示す。
【0116】
[比較例1~比較例2]
実施例1で評価した化合物(1-1)の色素の代わりに、本発明に属さない次の色素:
(D-1)Acid Yellow 23、
(D-2)TAC Yellow RHM(201) (保土谷化学工業株式会社製、公知の黄色系アルマイト染料、Crを含有する色素および複数の色素の混合物)について、実施例1と同様に、陽極酸化条件(1)および染色条件(1)の染色条件で着色アルミニウムを作製し、色相、色差ΔEおよび目視による耐光性を評価した結果を表1にまとめて示す。
【0117】
【化32】
【0118】
【表1】
【0119】
(耐熱性試験)
[実施例5~実施例8]
色素(1-1)、(1-6)、(1-10)および(1-36)について、上記実施例1~実施例4と同様に着色したアルミニウム板について、次の方法で耐熱性試験を行った。定温乾燥機(アズワン株式会社製、型式:87L EOP-450V)を用いて、下記の暴露条件で試料を加熱した。
乾燥機内温度および加熱時間:200℃-5時間、または250℃-3時間
本発明の耐熱性の評価方法は、加熱前後の着色アルミニウム試料の色差を下記の色差計で測定し、かつ、目視により、以下の判定基準で評価した。結果を表2に示す。
装置:色差計(コニカミノルタ株式会社製分光色差計、型式:CM-3700A)
色差計算式:ΔE ab(L、CIE 1976)
およびΔE 00(CIE DE2000)
視野角:10°
耐熱性判定基準:
A:良好な耐熱性 ΔE≦2.0
B:通常レベルの耐熱性 2.0<ΔE≦5.0
C:耐熱性低い ΔE>5.0
【0120】
【表2】
【0121】
[比較例4~比較例5]
比較例1~比較例2の化合物(D-1)~(D-2)について同様に着色した試料について、実施例5~実施例8と同様に耐熱性を評価した結果を表2にまとめて示す。
【0122】
表1~2の結果から、本発明の化合物を含有する染料組成物からなる陽極酸化アルミニウム着色剤を用いることにより、アルミニウム上に、黄色系または赤色味の黄色系の皮膜を形成し、耐光性および耐熱性の高い皮膜を形成することができた。一方、比較例の色素によるものは、耐光性及び/又は耐熱性が十分でなかった。
【0123】
具体的には、化合物(1-1)、(1-6)および(1-10)並びに化合物(1-36)は、比較例の化合物と比べて、耐光性および耐熱性に優れていた。化合物(1-1)、(1-6)および(1-10)は、単色で赤味の黄色系の着色皮膜の形成が可能であった。公知の染料化合物である、Acid Yellow3を用いた場合には、このような単色で赤味の黄色系の着色皮膜の形成は困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明に係る化合物を含有する染料組成物によれば、耐光性および耐熱性に優れた、クロムなどの重金属を含まない、着色皮膜を形成する陽極酸化アルミニウム用着色剤を得ることができる。また、該着色剤を用いることにより、耐光性および耐熱性に優れた陽極酸化アルミニウム皮膜を得ることができる。本発明におけるいくつかの態様によれば、単色で黄色系、橙色系の、特に赤味の黄色系の着色皮膜を形成する陽極酸化アルミニウム用着色剤を得ることができる。