(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】事故の自動通報機能を有する車両、および緊急通報システム
(51)【国際特許分類】
G08B 25/10 20060101AFI20241114BHJP
G08G 1/13 20060101ALI20241114BHJP
B60R 21/00 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
G08B25/10
G08G1/13
B60R21/00 340
(21)【出願番号】P 2020145301
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【氏名又は名称】藤田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100182051
【氏名又は名称】松川 直宏
(74)【代理人】
【識別番号】100179280
【氏名又は名称】河村 育郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180747
【氏名又は名称】小森 剛彦
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-236586(JP,A)
【文献】特開2007-328477(JP,A)
【文献】特開2019-161392(JP,A)
【文献】特開2017-211813(JP,A)
【文献】特開2016-030481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08B 21/00-31/00
G08G 1/13
B60R 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の事故を検出または予測した場合に、サーバ装置での前記車両の乗員の傷害推定に利用可能な事故の緊急情報を、前記車両から前記サーバ装置へ自動的に送信する送信部、を有する事故の自動通報機能を有する車両であって、
前記車両において、事故に遭った前記車両の情報を収集する収集部と、
前記送信部から前記サーバ装置へ情報を送信するための通信環境が送信に適した状態にあることを判断する判断部と、
前記収集部により収集された情報を用いて、前記車両において乗員の傷害を推定する車両推定部と、
を有し、
前記送信部は、前記通信環境が適した状態にない場合、前記車両推定部により推定された乗員の傷害の推定結果を、前記収集部により収集された前記車両の情報の替わりに、前記緊急情報として前記サーバ装置へ送信する、
事故の自動通報機能を有する車両。
【請求項2】
前記判断部は、少なくとも、前記送信部が通信する基地局の種類、通信容量、または前記基地局に収容されている通信装置の台数といった基地局の状態に基づいて、前記通信環境の状態を判断する、
請求項1記載の、事故の自動通報機能を有する車両。
【請求項3】
前記送信部は、前記判断部による前記通信環境の判断結果に応じて、
前記通信環境が適した状態にある場合、前記収集部により収集された前記車両の情報を、前記緊急情報として前記サーバ装置へ送信し、
前記通信環境が適した状態にない場合、前記車両推定部により推定された乗員の傷害の推定結果を、前記緊急情報として前記サーバ装置へ送信する、
請求項1または2記載の、事故の自動通報機能を有する車両。
【請求項4】
前記送信部は、
前記通信環境が適した状態にない場合において、前記車両推定部により推定された乗員の傷害の推定結果を、前記緊急情報として前記サーバ装置へ最初に送信した後に、前記収集部により収集された前記車両の情報を前記サーバ装置へ送信する、
請求項1から3のいずれか一項記載の、事故の自動通報機能を有する車両。
【請求項5】
事故の自動通報機能を有する車両と、サーバ装置とを有する緊急通報システムであって、
前記車両は、
車両の事故を検出または予測した場合に、サーバ装置での前記車両の乗員の傷害推定に利用可能な事故の緊急情報を、前記車両から前記サーバ装置へ自動的に送信する送信部と、
前記車両において、事故に遭った前記車両の情報を収集する収集部と、
前記送信部から前記サーバ装置へ情報を送信するための通信環境が送信に適した状態にあることを判断する判断部と、
前記収集部により収集された情報を用いて、前記車両において乗員の傷害を推定する車両推定部と、
を有し、
前記送信部は、前記通信環境が適した状態にない場合、前記車両推定部により推定された乗員の傷害の推定結果を、前記収集部により収集された前記車両の情報の替わりに、前記緊急情報として前記サーバ装置へ送信し、
前記サーバ装置は、
車両が事故を検出または予測したことに基づいて自動的に送信した事故の緊急情報を受信する受信部
と、
前記受信部が前記緊急情報を受信した場合に、前記緊急情報に基づいて前記車両の乗員の傷害を推定するサーバ推定部と、
前記サーバ推定部により推定した乗員の傷害の推定結果を出力する出力部と、
を有し、
前記出力部は、前記受信部が前記緊急情報として
、前記車両において推定された乗員の傷害の推定結果を受信している場合、
前記サーバ装置での前記車両の乗員の傷害推定に利用可能な事故の情報の替わりに、前記車両において推定された乗員の傷害の推定結果を出力する、
緊急通報システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、事故の自動通報機能を有する車両、および緊急通報システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車といった車両では、事故が発生した場合に、事故時情報を通報することが考えられる。たとえば自動車では、緊急通報システムが実用化されている。緊急通報システムでは、事故に遭った自動車は、自動車に設けられる自動通報装置を用いて、事故時の乗員保護装置の動作状態、位置、事故での衝撃の入力方向および強さといった事故時情報を、コールセンタのサーバ装置へ送信する(特許文献1)。コールセンタではサーバ装置が受信した各自動車の事故時情報を確認し、ドクターヘリや救急の出動部隊に対して出動を要請する。これにより、ドクターヘリや救急車が出動するまでのリードタイムを短縮できる。事故にあった車両の乗員を救うことができる可能性が高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、車両の事故はどこで起こるか、どのような環境で起こるかのかについては、それらについて限定されているものではない。
たとえば車両は、旧式の基地局としか通信できないような郊外などの環境において、事故に遭う可能性がある。
また、既に複数の自動車の事故が起きている地点において、新たな自動車が追突などにより事故に遭うことも考えられる。この場合、多数の自動車が同時多発的に同じ地点において事故の緊急通報を自動的に実行しようとする可能性がある。
これらの場合、各自動車が、事故に遭ってから、それぞれの事故の緊急情報を送信し終えるまでに時間がかかってしまう可能性がある。事故に遭った自動車からの緊急情報の送信が遅れると、それに基づく出動部隊への出動要請までの時間や、出動部隊が実際に現地へ到達するまでの時間も、遅れることになる。
特に、今後は、上述したAACNによる緊急通報システムを改善して、事故に遭った各自動車がサーバ装置へリッチで大量な情報を自動的に送信することも想定される。これにより、サーバ装置において事故に遭った各乗員などの傷害の状態を詳しく推定できるようになる、と考えられる。しかしながら、このように大量の緊急情報がたとえば複数の車両からサーバ装置へ自動的に送信されてしまうと、上述した通信環境は、緊急通報に基づく即時的な緊急出動についての大きな障害となり得る。
【0005】
このように緊急通報システムでは、事故に遭った車両からの緊急情報に基づく緊急出動の遅れを抑制しつつ、事故に遭った車両からサーバ装置へ事故の判断に用いる必要な情報を自動通報できるようにすることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る事故の自動通報機能を有する車両は、車両の事故を検出または予測した場合に、サーバ装置での前記車両の乗員の傷害推定に利用可能な事故の緊急情報を、前記車両から前記サーバ装置へ自動的に送信する送信部、を有する事故の自動通報機能を有する車両であって、前記車両において、事故に遭った前記車両の情報を収集する収集部と、前記送信部から前記サーバ装置へ情報を送信するための通信環境が送信に適した状態にあることを判断する判断部と、前記収集部により収集された情報を用いて、前記車両において乗員の傷害を推定する車両推定部と、を有し、前記送信部は、前記通信環境が適した状態にない場合、前記車両推定部により推定された乗員の傷害の推定結果を、前記収集部により収集された前記車両の情報の替わりに、前記緊急情報として前記サーバ装置へ送信する。
【0007】
好適には、前記判断部は、少なくとも、前記送信部が通信する基地局の種類、通信容量、または前記基地局に収容されている通信装置の台数といった基地局の状態に基づいて、前記通信環境の状態を判断する、とよい。
【0008】
好適には、前記送信部は、前記判断部による前記通信環境の判断結果に応じて、前記通信環境が適した状態にある場合、前記収集部により収集された前記車両の情報を、前記緊急情報として前記サーバ装置へ送信し、前記通信環境が適した状態にない場合、前記車両推定部により推定された乗員の傷害の推定結果を、前記緊急情報として前記サーバ装置へ送信する、とよい。
【0009】
好適には、前記送信部は、前記通信環境が適した状態にない場合において、前記車両推定部により推定された乗員の傷害の推定結果を、前記緊急情報として前記サーバ装置へ最初に送信した後に、前記収集部により収集された前記車両の情報を前記サーバ装置へ送信する、とよい。
【0010】
本発明の一形態に係る緊急通報システムは、事故の自動通報機能を有する車両と、サーバ装置とを有する緊急通報システムであって、前記車両は、車両の事故を検出または予測した場合に、サーバ装置での前記車両の乗員の傷害推定に利用可能な事故の緊急情報を、前記車両から前記サーバ装置へ自動的に送信する送信部と、前記車両において、事故に遭った前記車両の情報を収集する収集部と、前記送信部から前記サーバ装置へ情報を送信するための通信環境が送信に適した状態にあることを判断する判断部と、前記収集部により収集された情報を用いて、前記車両において乗員の傷害を推定する車両推定部と、を有し、前記送信部は、前記通信環境が適した状態にない場合、前記車両推定部により推定された乗員の傷害の推定結果を、前記収集部により収集された前記車両の情報の替わりに、前記緊急情報として前記サーバ装置へ送信し、前記サーバ装置は、車両が事故を検出または予測したことに基づいて自動的に送信した事故の緊急情報を受信する受信部と、前記受信部が前記緊急情報を受信した場合に、前記緊急情報に基づいて前記車両の乗員の傷害を推定するサーバ推定部と、前記サーバ推定部により推定した乗員の傷害の推定結果を出力する出力部と、を有し、前記出力部は、前記受信部が前記緊急情報として、前記車両において推定された乗員の傷害の推定結果を受信している場合、前記サーバ装置での前記車両の乗員の傷害推定に利用可能な事故の情報の替わりに、前記車両において推定された乗員の傷害の推定結果を出力する。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、事故を検出または予測した場合に、サーバ装置での車両の乗員の傷害推定に利用可能な事故の緊急情報を収集してサーバ装置へ自動的に送信する車両は、車両からサーバ装置へ情報を送信するための通信環境が、収集した情報を送信するために適した状態にあることを判断する。そして、車両は、収集した情報を用いて、車両において乗員の傷害を推定し、その推定した乗員の傷害の推定結果を、収集した車両の情報の替わりに、緊急情報としてサーバ装置へ送信する。これにより、サーバ装置は、たとえば通信環境が、サーバ装置での車両の乗員の傷害推定などのために利用される情報を短時間で送信するために適していない場合であっても、乗員の傷害の推定結果を出力することが可能となる。
本発明によれば、サーバ装置において事故に遭った乗員などの傷害状態を詳しく推定しようとして、大量の情報を車両からサーバ装置へ送信できるようにした緊急通報システムにおいて、通信環境が不適な状態にあるとしても、少量の情報の送信により、少なくとも乗員の傷害の推定結果は、サーバ装置において出力することが可能になる。本発明では、事故に遭った車両からサーバ装置へ事故の判断に用いる必要な最小限の、又は優先度の高い情報を、事故に遭った車両からの緊急情報に基づく緊急出動の要請の遅れを抑制するように適切に自動通報することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る自動車の緊急通報システムの一例の説明図である。
【
図2】
図2は、
図1において事故に遭った自動車において緊急情報を送信する自動通報装置として機能可能な、自動車の制御系の説明図である。
【
図3】
図3は、
図1のコールセンタで使用されるサーバ装置の説明図である。
【
図4】
図4は、
図1の出動部隊で使用されるクライアント端末の説明図である。
【
図5】
図5は、
図1の自動車の緊急通報システムにおける、事故に遭った自動車の自動的な緊急通報から救急出動までの基本的な処理の流れの一例を示すシーケンスチャートである。
【
図6】
図6は、
図1の自動車による、事故の第一報のための自動通報処理のフローチャートである。
【
図7】
図7は、
図1のサーバ装置が自動車から新たな情報を受信した場合に実行する処理のフローチャートである。
【
図8】
図8は、事故の第一報をした後の自動車による自動通報処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る自動車10の緊急通報システム1の一例の説明図である。
図1の緊急通報システム1は、自動車10などによる道路の事故を管理する機関のコールセンタで使用するサーバ装置2、消防などの救命出動部隊で使用するクライアント端末3、複数の自動車10に設けられる自動通報装置4、および、これらに通信回線を提供する無線通信ネットワーク5、を有する。無線通信ネットワーク5は、自動通報装置4などの無線端末と通信するためにたとえば道路に沿って地域に分散して設けられる基地局6、複数の基地局6を接続する通信網7、を有する。基地局6は、通信可能なゾーン内の複数の無線端末が接続されるアクセスポイントとして機能する。
【0015】
このような事故発生時の緊急通報システム1には、たとえばAACN(Advanced Automatic Collision Notification)がある。AACNでは、事故に遭った自動車10からコールセンタのサーバ装置2へ即時的に自動的な事故時情報が送信され、コールセンタの出動要請に基づいて救命出動部隊が救急車11やドクターヘリを出動させる。コールセンタは、事故の状況に応じた救命出動部隊を選択して出動要請を出すことができる。救急車11やドクターヘリは、事故の状況を把握している状態で、事故現場へ向かって出動できる。これにより、事故の当事者に対して、適切な救命処理を、短いリードタイムで即座的に提供することが可能となる。
なお、
図1の緊急通報システム1は、複数の組織が連携して使用する例を示しているが、自動車10などが通行可能な道路を含む地域を管理するたとえば警察、消防、役所、病院、医療機関、警備会社、管理会社などが単独で使用してもよい。
また、
図1には、GNSS衛星110が図示されている。
図1の各装置は、複数のGNSS衛星110の緯度、経度の位置情報および時刻情報を含む電波を受信することにより、自身の位置および時刻を得ることが可能である。そして、複数の装置は、互いに協働している複数のGNSS衛星110から電波を受信することにより、それぞれの現在時刻および現在位置などを高い精度とすることができる。複数の装置は、同期した共通の時刻を用いることができる。
【0016】
図2は、
図1において事故に遭った自動車10において緊急情報を送信する自動通報装置4として機能可能な、自動車10の制御系20の説明図である。
図2の自動車10の制御系20は、複数の制御装置が、それぞれに組み込まれる制御ECU(Electronic Control Unit)により代表して示されている。制御装置は、制御ECUの他に、たとえば制御プログラムおよびデータを記録するメモリ、制御対象物またはその状態検出装置と接続される入出力ポート、時間や時刻を計測するタイマ、およびこれらが接続される内部バス、を有してよい。
図2に示される制御ECUは、具体的にはたとえば、駆動ECU21、操舵ECU22、制動ECU23、走行制御ECU24、運転操作ECU25、検出ECU26、外通信ECU27、内通信ECU28、UI操作ECU29、乗員保護ECU30、である。自動車10の制御系20は、図示しない他の制御ECUを備えてよい。
【0017】
複数の制御ECUは、自動車10で採用されるたとえばCAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)といった車ネットワーク36に接続される。車ネットワーク36は、複数の制御ECUを接続可能な複数のバスケーブル37と、複数のバスケーブル37が接続される中継装置としてのセントラルゲートウェイ(CGW)38と、で構成されてよい。複数の制御ECUには、互いに異なる識別情報としてのIDが割り当てられる。制御ECUは、基本的に周期的に、他の制御ECUへデータを出力する。データには、出力元の制御ECUのIDと、出力先の制御ECUのIDとが付加される。他の制御ECUは、バスケーブル37を監視し、出力先のIDがたとえば自らのものである場合、データを取得し、データに基づく処理を実行する。セントラルゲートウェイ38は、接続されている複数のバスケーブル37それぞれを監視し、出力元の制御ECUとは異なるバスケーブル37に接続されている制御ECUを検出すると、そのバスケーブル37へデータを出力する。このようなセントラルゲートウェイ38の中継処理により、複数の制御ECUは、それぞれが接続されているバスケーブル37とは異なるバスケーブル37に接続されている他の制御ECUとの間でデータを入出力できる。
【0018】
UI操作ECU29には、たとえば乗車している乗員とのユーザインタフェース機器として、表示デバイス41、操作デバイス42、が接続される。表示デバイス41は、たとえば液晶デバイス、映像投影デバイス、でよい。操作デバイス42は、たとえばタッチパネル、キーボード、非接触操作検出デバイス、でよい。表示デバイス41および操作デバイス42は、たとえば乗員が乗る車室の内面に設置されてよい。UI操作ECU29は、車ネットワーク36からデータを取得し、表示デバイス41に表示する。UI操作ECU29は、操作デバイス42に対する操作入力を、車ネットワーク36へ出力する。また、UI操作ECU29は、操作入力に基づく処理を実行し、その処理結果をデータに含めてよい。UI操作ECU29は、たとえば、表示デバイス41に目的地などを設定するためのナビ画面を表示し、操作入力により選択した目的地までの経路を探索し、その経路データをデータに含めてよい。経路データには、現在地から目的地までの移動に使用する道路のたとえばレーンなどの属性情報が含まれてよい。
【0019】
運転操作ECU25には、乗員が自動車10の走行を制御するための操作部材として、たとえば不図示のハンドル、ブレーキペダル、アクセルペダル、シフトレバー、などが接続される。操作部材が操作されると、運転操作ECU25は、操作の有無、操作量などを含むデータを、車ネットワーク36へ出力する。また、運転操作ECU25は、操作部材に対する操作についての処理を実行し、その処理結果をデータに含めてよい。運転操作ECU25は、たとえば自動車10の進行方向に他の移動体や固定物がある状況においてアクセルペダルが操作された場合、その異常操作を判断し、その判断結果をデータに含めてよい。
【0020】
検出ECU26には、自動車10の走行状態を検出するための検出部材として、たとえば自動車10の速度を検出する速度センサ51、自動車10の加速度を検出する3軸加速度センサ52、自動車10の外側の周囲を撮像するたとえばステレオカメラ53、車室の乗員を撮像する車内カメラ54、車内外の音をデータ化するマイクロホン55、自動車10の位置を検出するGNSS受信機56、などが接続される。GNSS受信機56は、複数のGNSS衛星110からの電波を受信し、自車の現在位置である緯度、経度、および現在時刻を得る。検出ECU26は、検出部材から検出情報を取得し、検出情報を含むデータを、車ネットワーク36へ出力する。また、検出ECU26は、検出情報に基づく処理を実行し、その処理結果をデータに含めてよい。たとえば、検出ECU26は、3軸加速度センサ52が衝突検出の閾値を超える加速度を検出した場合、衝突検出を判断し、衝突検出結果をデータに含めてよい。検出ECU26は、ステレオカメラ53の画像に基づいて自車の周囲に存在する歩行者や他の自動車10、街路樹や電柱、ガードレールといった対象物を抽出し、対象物の種類や属性を判断し、画像中の対象物の位置や大きさや変化に応じて対象物の相対方向、相対距離、移動している場合は移動方向を推定し、これらの推定結果を含む他の対象物との衝突の予測情報をデータに含めて車ネットワーク36へ出力してよい。
【0021】
外通信ECU27には、外通信デバイス61、が接続される。これらにより、自動車10に設けられる通信装置としての外通信端末60が構成される。外通信デバイス61は、自動車10の近くにある無線通信ネットワーク5の基地局6と無線通信する。外通信ECU27は、外通信デバイス61と基地局6との無線通信を使用して、無線通信ネットワーク5を通じてサーバ装置2などとの間でデータを送受する。外通信端末60は、自動車10に設けられる送信装置であり、無線端末の一種である。
【0022】
内通信ECU28には、内通信デバイス71、が接続される。内通信デバイス71は、たとえば自動車10の車内にある乗員の携帯端末121と近距離の無線通信を実行する。携帯端末121は、近くにある無線通信ネットワーク5の基地局6と無線通信する。内通信ECU28は、内通信デバイス71と乗員の携帯端末121との近距離の無線通信を使用して、車内の乗員の携帯端末121との間でデータを送受する。
【0023】
走行制御ECU24は、自動車10の走行を制御する。走行制御ECU24は、たとえば、車ネットワーク36を通じて外通信ECU27、検出ECU26、運転操作ECU25などからデータを取得し、自動車10の走行を自動運転または手動運転支援の制御を実行する。走行制御ECU24は、取得したデータに基づいて自動車10の走行を制御するための走行制御データを生成し、駆動ECU21、操舵ECU22、および制動ECU23へ出力する。駆動ECU21、操舵ECU22、および制動ECU23は、入力される走行制御データに基づいて、自動車10の走行を制御する。
【0024】
乗員保護ECU30には、複数のシートベルト装置、複数のエアバッグ装置、乗員保護メモリ87、が接続される。シートベルト装置には、たとえば、自動車10を運転する乗員についての運転側シートベルト装置81、自動車10を同乗する乗員についての同乗側シートベルト装置82、がある。エアバッグ装置には、たとえば、自動車10を運転する乗員の前で展開する運転側フロントエアバッグ装置83、自動車10を運転する乗員の外側で展開する運転側カーテンエアバッグ装置84、自動車10を同乗する乗員の前で展開する同乗側フロントエアバッグ装置85、自動車10を同乗する乗員の外側で展開する同乗側カーテンエアバッグ装置86、がある。これらにより、乗員保護装置80が構成される。
検出ECU26からの他の対象物との衝突の予測情報、または衝突検出結果の情報に基づき、乗員保護ECU30はシートベルト装置やエアバッグ装置を作動させる、または制御する。
【0025】
乗員保護メモリ87は、コンピュータ読取可能な記録媒体であり、乗員保護ECU30が実行するプログラム、設定値、などが記録される。乗員保護メモリ87には、乗員保護ECU30による制御内容の情報が記録されてよい。乗員保護ECU30は、乗員保護メモリ87からプログラムを読み込んで実行する。これにより、乗員保護ECU30は、自動車10の乗員保護制御部として機能し得る。
自動車10の乗員保護制御部としての乗員保護ECU30は、たとえば衝突を検出した場合に乗員保護処理を実行するとともに、自動車10の緊急情報などを自動的に収集して送信する。乗員保護ECU30は、基地局6と通信可能な状態にある外通信端末60を用いて、基地局6および通信網7を通じてサーバ装置2へ収集した事故の事故時情報などを即時的に送信する。
【0026】
図3は、
図1のコールセンタで使用されるサーバ装置2の説明図である。
図3のサーバ装置2は、サーバ通信デバイス91、サーバメモリ92、サーバCPU93、サーバGNSS受信機94、サーバモニタ95、サーバ通話デバイス96、および、これらが接続されるサーババス97、を有する。
【0027】
サーバ通信デバイス91は、無線通信ネットワーク5の通信網7に接続される。サーバ通信デバイス91は、無線通信ネットワーク5を通じて、他の装置、たとえば自動車10の無線端末としての外通信端末60、クライアント端末3との間でデータを送受する。
サーバGNSS受信機94は、GNSS衛星110の電波を受信して、現在時刻を得る。サーバ装置2は、サーバGNSS受信機94の現在時刻により校正される不図示のサーバタイマを備えてよい。
サーバモニタ95は、サーバ装置2の情報を表示する。サーバモニタ95は、たとえば、事故などに遭った自動車10からサーバ装置2が受信する緊急情報を表示する。
サーバ通話デバイス96は、コールセンタの職員が、サーバ通信デバイス91を用いて接続されている携帯端末121のユーザとの間で通話するために使用される。
【0028】
サーバメモリ92は、コンピュータ読取可能な記録媒体であり、サーバCPU93が実行するプログラム、設定値、などが記録される。サーバメモリ92には、サーバCPU93による制御内容の情報が記録されてよい。サーバCPU93は、サーバメモリ92からプログラムを読み込んで実行する。これにより、サーバ装置2には、サーバ制御部が実現される。サーバ制御部としてのサーバCPU93は、サーバ装置2の全体的な動作を管理する。
たとえば、コールセンタのサーバ装置2のサーバCPU93は、事故に遭った各自動車10から即時的に送信される緊急情報をサーバ通信デバイス91が受信すると、受信した緊急情報をサーバモニタ95に表示する。コールセンタの職員は、表示されている各自動車10の緊急情報に基づいて事故の状況を判断し、それに応じた出動要請を入力する。サーバCPU93は、サーバ通信デバイス91を用いて、出動要請をクライアント端末3へ送信する。
【0029】
図4は、
図1の出動部隊で使用されるクライアント端末3の説明図である。
図4のクライアント端末3は、クライアント通信デバイス101、クライアントメモリ102、クライアントCPU103、クライアント報知デバイス104、クライアントGNSS受信機105、クライアントモニタ106、クライアント通話デバイス107、および、これらが接続されるクライアントバス108、を有する。
【0030】
クライアント通信デバイス101は、無線通信ネットワーク5の通信網7に接続される。クライアント通信デバイス101は、無線通信ネットワーク5を通じて、他の装置、たとえば自動車10の無線端末としての外通信デバイス61、サーバ装置2との間でデータを送受する。
クライアントGNSS受信機105は、GNSS衛星110の電波を受信して、現在時刻を得る。クライアント端末3は、クライアントGNSS受信機105の現在時刻により校正される不図示のサーバタイマを備えてよい。
クライアントモニタ106は、クライアント端末3の情報を表示する。クライアントモニタ106は、たとえば、サーバ装置2から受信する出動要請などを表示する。
クライアント報知デバイス104は、出動部隊の隊員に対して、出動要請音を出力する。
クライアント通話デバイス107は、出動部隊の隊員が、クライアント通信デバイス101を用いて接続されている携帯端末121のユーザとの間で通話するために使用される。
【0031】
クライアントメモリ102は、コンピュータ読取可能な記録媒体であり、クライアントCPU103が実行するプログラム、設定値、などが記録される。クライアントメモリ102には、クライアントCPU103による制御内容の情報が記録されてよい。クライアントCPU103は、クライアントメモリ102からプログラムを読み込んで実行する。これにより、クライアント端末3には、クライアント制御部が実現される。クライアント制御部としてのクライアントCPU103は、クライアント端末3の全体的な動作を管理する。
たとえば、救命出動部隊のクライアント端末3のクライアントCPU103は、クライアント通信デバイス101が出動要請を受信すると、クライアント報知デバイス104により出動要請を報知する。これにより、救命出動部隊は、出動要請に基づいて、救急車11やドクターヘリを事故現場へ急行させる。出動部隊は、各自動車10についての事故の状況を把握している状態で、事故現場へ向かって出動できる。出動部隊は、事故の当事者に対して、適切な救命処理を、短いリードタイムで即座的に提供することが可能となる。
【0032】
図5は、
図1の自動車10の緊急通報システム1における、事故に遭った自動車10の自動的な緊急通報から救急出動までの基本的な処理の流れの一例を示すシーケンスチャートである。
図5には、自動車10の自動通報装置4としての制御系20、コールセンタのサーバ装置2、出動部隊のクライアント端末3、が示されている。時間は、上から下へ流れる。
【0033】
ステップST21において、自動車10の制御系20の検出ECU26は、衝突を検出する。検出ECU26は、たとえばステレオカメラ53の画像に基づいて自車へ近づいてくる他の移動体の有無を判断して、衝突を検出してよい。衝突を検出しない場合、検出ECU26は、本処理を繰り返す。衝突を検出すると、検出ECU26は、検出情報を乗員保護ECU30へ伝達し、処理をステップST22へ進める。
なお、検出ECU26は、衝突を検出する前に、衝突が不可避であることを予測してよい。また、乗員保護ECU30は、衝突が不可避であることを予測したことに基づいて、衝突を検出する前に、乗員保護のための事前処理を実行してよい。乗員保護ECU30は、事前処理として、たとえば、シートベルト装置のシートベルトの余りを巻き取ってプリテンション状態としたり、その他の処理を実行したりしてもよい。たとば、乗員保護ECU30は、エアバッグ装置についてのプリ展開などを実行してよい。
ステップST22において、衝突を検出した自動車10の乗員保護ECU30は、ステップST1で検出ECU26が衝突を検出した情報に基づき、乗員の保護処理を実行する。乗員保護ECU30は、作動させるシートベルト装置およびエアバッグ装置を選択する。乗員保護ECU30は、乗員が乗っているシートについてのシートベルト装置と、衝突により乗員の上体が倒れる方向において展開するエアバッグ装置とを選択すればよい。乗員保護ECU30は、選択したシートベルト装置のシートベルトの余りを巻き取ってプリテンション状態とする。乗員保護ECU30は、予測する衝突の入力方向および大きさに基づいて、衝突により乗員の上体が倒れる方向において展開可能なエアバッグ装置を選択する。
なお、本実施形態では、乗員保護ECU30は、ステップST21で衝突を検出した後に乗員保護制御を実行しているが、衝突を予測した事前制御の段階で乗員保護制御を実施しても良い。
ステップST23において、乗員の保護制御を実行した自動車10の乗員保護ECU30は、事故の緊急情報を収集する。事故の緊急情報は、基本的に、上述したAACNで収集している事故時情報を含んでよい。AACNでは、事故時の乗員保護装置80の動作状態、位置、事故での衝突の入力方向および強さといった事故時情報を収集する。
ステップST24において、自動車10の外通信ECU27は、自動通報を実行して、収集した緊急情報を送信する。
【0034】
ステップST25において、コールセンタのサーバ装置2のサーバ通信デバイス91は、事故に遭った自動車10から自動通報の緊急情報を受信する。サーバ通信デバイス91が受信した自動通報の緊急情報は、サーバメモリ92に記録されてよい。コールセンタのサーバ装置2のサーバ通信デバイス91は、ステップST25と前後して、同じ事故に遭った他の自動車10から自動通報の緊急情報を受信してよい。
ステップST26において、サーバCPU93は、受信した事故時情報を用いて、自動車10の乗員の傷害を推定する。サーバCPU93は、AACNと同様に、たとえば単に乗員の傷害のレベルを、自動車10への衝突の程度、乗員保護の内容に基づく事故類型に対応する乗員の傷害レベルを推定してよい。
ステップST27において、サーバCPU93は、サーバ通信デバイス91が受信した自動通報の緊急情報を、サーバモニタ95を表示する。サーバCPU93は、たとえば表示する各乗員を、推定した乗員の傷害レベルに応じて着色してよい。コールセンタの職員は、サーバモニタ95に表示されている事故の緊急情報に基づいて、自動車10の事故の状況を確認できる。
ステップST28において、サーバCPU93は、事故に遭った自動車10の外通信ECU27と通信する。ステップST29において、自動車10の乗員保護ECU30は、音声通話に応答する。これにより、サーバ通話デバイス96と自動車10のたとえばマイクロホン55との間に、通話が可能な通話回線が確立する。コールセンタの職員は、音声により乗員の安否および健康状態を確認する。これにより、事故に遭った自動車10に乗車している乗員の怪我の程度といった状態を直接的に確認できる。コールセンタの職員は、確認結果を、サーバ装置2に入力してよい。
ステップST30において、サーバCPU93は、出動を手配する。サーバCPU93は、サーバ通信デバイス91を用いて、出動要請を出動部隊のクライアント端末3へ送信する。サーバCPU93は、コールセンタの職員の操作に基づいて、出動要請を送信してもよい。
【0035】
ステップST31において、出動部隊のクライアント端末3のクライアント通信デバイス101は、サーバ装置2から出動要請を受信する。クライアント通信デバイス101が受信した出動要請は、クライアントメモリ102に記録されてよい。
ステップST32において、クライアントCPU103は、出動を報知する。クライアントCPU103は、クライアント通信デバイス101が出動要請を受信したことに基づいて、クライアント報知デバイス104から出動要請音を出力する。また、クライアントCPU103は、クライアントモニタ106に、出動要請の画面を表示してよい。出動要請の画面には、自動通報の情報、コールセンタの職員の入力情報が、表示されてよい。
ステップST33において、出動部隊の隊員は、要請に応じて出動する。出動部隊の隊員は、出動要請音および出動要請の画面により、自隊に向けて出動要請があったことを把握して、ドクターヘリや救急車11を用いて緊急出動することができる。
これにより、ドクターヘリや救急の出動部隊は、事故に遭った自動車10から自動的に通報される事故の緊急情報に基づいて、必要最小限のリードタイムで遅滞することなく出動することができる。ドクターヘリや救急の出動部隊は、事前に得た事故の緊急情報に基づいて適切な準備をした状態で、緊急出動することができる。事故にあった人を救うできる可能性が高くなる。
【0036】
ところで、自動車10の事故はどこで起こるか、どのような環境で起こるかのかについては、それらについて限定されているものではない。
たとえば
図1に示すように、自動車10は、
図1に示すように、旧式の基地局6としか通信できないような郊外などの環境において、事故に遭う可能性がある。都市部に設けられる基地局6は、次世代の基地局6による広帯域通信エリアに対応したものに更新されたとしても、郊外に設置される基地局6は、旧式の狭帯域通信エリアにしか対応していないものに維持される可能性がある。また、郊外では、基地局6がなくて、大容量の通信に適していない衛星通信にしか対応していないエリアもある。
また、既に複数の自動車10の事故が起きている地点において、新たな自動車10が追突などにより事故に遭う可能性がある。この場合、多数の自動車10が同時多発的に同じ地点において事故の緊急通報を自動的に実行しようとすることになる。
その結果、事故に遭った各自動車10が、事故に遭ってから、それぞれの事故の緊急情報を送信し終えるまでには、時間がかかってしまう可能性がある。事故に遭った自動車10からの緊急情報の送信が遅れると、それに基づく出動部隊への出動要請までの時間や、出動部隊が実際に現地へ到達するまでの時間も、遅れることになる。
特に、今後は、上述したAACNによる緊急通報システム1を改善して、事故に遭った各自動車10がサーバ装置2へリッチで大量な情報を自動的に送信することも想定される。事故についてのリッチで大量な情報が得られることにより、サーバ装置2は、事故に遭った各乗員や歩行者の傷害の状態について詳しく推定できるようになる。サーバ装置2は、単にAACNと同様に事故類型に対応する乗員の傷害レベルを推定するのではなく、たとえば事故の詳しい情報に基づく人工知能的な処理により個々の乗員の傷害を具体的に推定できるようになると考えられる。サーバ装置2は、自動車10の制御ECUのように能力が制限されることはないため、大量の情報に基づいて、高度な情報処理により、乗員の傷害を詳しく推定することが可能である。
【0037】
しかしながら、このように大量の緊急情報がたとえば複数の自動車10からサーバ装置2へ自動的に送信されてしまうと、上述したような通信環境においては、緊急通報に基づく即時的な緊急出動についての大きな障害となり得る。
このように緊急通報システム1では、緊急情報に基づく緊急出動の遅れを抑制しつつ、事故に遭った自動車10からサーバ装置2へ事故の判断に用いる必要な情報を自動通報できるようにすることが求められている。
【0038】
そこで、本実施形態では、自動車10の乗員保護ECU30は、
図5のステップST21において事故を検出した後に、ステップST41において、通信環境の通信容量不足といった通信障害を推定し、ステップST42において、送信する情報を選択する。乗員保護ECU30は、ステップST24において、選択した情報を、緊急情報としてサーバ装置2へ自動的に送信する。たとえば通信容量が不足している場合には、乗員保護ECU30は、ステップST23において収集した情報のすべてではなく、その一部の情報や自ら判断した事故類型に対応する乗員の傷害レベルのみを、サーバ装置2へ送信する。これにより、通信容量が不足している場合であっても、乗員保護ECU30は、第一報としての緊急情報を、事故を検出した後に短時間で即時的に送信することができる。また、第一報としての緊急情報には、サーバ装置2において推定判断される乗員の傷害についての情報が含まれているため、サーバ装置2は、大量の情報を受信できた場合と同等の情報量を、サーバモニタ95に表示することができる。以下、詳しく説明する。
【0039】
図6は、
図1の自動車10による、事故の第一報のための自動通報処理のフローチャートである。
自動車10は、
図6の処理を繰り返し実行する。
【0040】
ステップST1において、検出ECU26は、自車の衝突を予測する。乗員保護ECU30は、たとえばステレオカメラ53の画像に基づいて自車へ近づいてくる他の移動体の有無を判断して、衝突を予測してよい。衝突を予測しない場合、乗員保護ECU30は、本処理を繰り返す。衝突を予測すると、乗員保護ECU30は、予測情報を乗員保護ECU30へ伝達し、処理をステップST2へ進める。
【0041】
ステップST2において、乗員保護ECU30は、ステップST1で検出ECU26が衝突を予測した情報に基づき、乗員保護のための事前制御を実行する。乗員保護ECU30は、作動させるシートベルト装置およびエアバッグ装置を選択する。乗員保護ECU30は、乗員が乗っているシートについてのシートベルト装置と、衝突により乗員の上体が倒れる方向において展開するエアバッグ装置とを選択すればよい。乗員保護ECU30は、選択したシートベルト装置のシートベルトの余りを巻き取ってプリテンション状態とする。乗員保護ECU30は、予測する衝突の入力方向および大きさに基づいて、衝突により乗員の上体が倒れる方向において展開可能なエアバッグ装置を選択する。
【0042】
ステップST21において、検出ECU26は、自車の事故を検出する。検出ECU26は、たとえば3軸加速度センサ52により検出される加速度の大きさが、所定の閾値より大きい場合に衝突を検出する。衝突を検出しない場合、検出ECU26は、本処理を繰り返す。衝突を検出すると、検出ECU26は、衝突検出情報を乗員保護ECU30へ伝達し、処理をステップST22へ進める。なお、検出ECU26は、本処理を開始後一定時間経過後に、衝突が検出されない場合、本処理を終了してもよい。
【0043】
ステップST22において、乗員保護ECU30は、ステップST3で検出ECU26が衝突を検出した情報に基づき、乗員保護処理を実行する。乗員保護ECU30は、選択したシートベルト装置およびエアバッグ装置を動作させる。これにより、シートに着座する乗員は、シートに対して拘束され、シートから外れてしまう場合でもその衝突をエアバッグにより吸収することができる。
なお、本実施形態では、乗員保護ECU30は、ステップST21で衝突を検出した後に乗員保護制御を実行しているが、ステップST1で衝突を予測した後のステップST2の事前制御の段階で乗員保護制御を実施しても良い。
【0044】
ステップST23において、乗員保護ECU30は、自動車10において、事故に遭った自車の事故情報を収集する。乗員保護ECU30は、事故による自動車10の故障や乗員などの傷害を詳しく判断するために必要となる情報を、自動車10の各部から収集する。乗員保護ECU30は、たとえば、GNSS受信機56により生成される事故時の位置および時刻の情報、乗員保護ECU30が作動させたシートベルト装置およびエアバッグ装置の情報、3軸加速度センサ52により検出される事故時の衝突の加速度の大きさおよび方向の情報、車内カメラによる車内の撮像動画、ステレオカメラ53による車外の撮像動画、事故前後の自動車10の挙動を示す速度や加速度のログデータ、などの大量の情報を取得してよい。
【0045】
ステップST6において、外通信ECU27は、ステップST41の処理を開始し、外通信端末60を用いた通信環境の適否を判断する。
外通信端末60は、自動車10の移動に併せて、複数の基地局6と切り替えて接続される。基地局6には、高速広帯域での通信が可能なものから、旧式の狭帯域の通信しかできないものまである。この場合、外通信端末60は、それを収容している基地局6の通信容量に応じて、基地局6との間でデータを送受できる。また、1つの基地局6には、複数の自動車10の外通信端末60が同時に接続される。この場合、基地局6は、各外通信端末60に対して帯域を割り当てる。この場合、外通信端末60は、それに割り当てられた帯域により、基地局6との間でデータを送受できる。
外通信ECU27は、たとえば、このような外通信端末60と基地局6との通信容量といった通信環境が、ステップST23で収集した情報をサーバ装置2へ短時間で送信することができる状態であるか否かに基づいて、通信環境の適否を判断する。外通信ECU27は、基地局6の対応通信規格の種類や、基地局6に収容されている通信装置の台数といった基地局6の状態に基づいて、外通信端末60との通信に割り当てられている通信容量を得てよい。通信容量が情報量に対して足りている場合、外通信ECU27は、適と判断し、処理をステップST7へ進める。通信容量が情報量に対して不足する場合、外通信ECU27は、不適と判断し、処理をステップST8へ進める。
【0046】
ステップST7において、乗員保護ECU30は、自動緊急通報する緊急情報を選択する。ここでは、通信環境が、ステップST23で収集した情報をサーバ装置2へ短時間で送信することができる状態にあるため、乗員保護ECU30は、ステップST5で収集した情報を、緊急情報として選択する。
【0047】
ステップST8において、乗員保護ECU30または検出ECU26は、自車の乗員や相手方の傷害を推定する。乗員保護ECU30または検出ECU26は、ステップST23で収集した情報を用いて、自車の乗員や相手方の傷害を推定する。なお、乗員保護ECU30または検出ECU26の処理能力は、一般的に、サーバCPU93の処理能力より低いと考えられる。このため、乗員保護ECU30または検出ECU26は、サーバCPU93のように詳細に傷害を推定するのではなく、たとえば衝突内容と乗員保護内容とによる事故類型に基づいて乗員の傷害ランクを推定してよい。傷害ランクには、傷害の程度に応じたたとえばA、B、Cでよい。これにより、乗員保護ECU30または検出ECU26による傷害推定にかかる時間は、非常に短く抑えられる。乗員保護ECU30または検出ECU26は、通信環境が適した状態にない場合に、収集した情報を用いて自動車10において乗員などの傷害を推定する。
【0048】
ステップST9において、乗員保護ECU30は、自動緊急通報する緊急情報を選択する。ここでは、乗員保護ECU30は、自車において推定した乗員などの傷害の推定結果を、緊急情報として選択する。これにより、乗員保護ECU30は、自動車10の事故を検出または予測した後において通信環境が適した状態にない場合には、自車で推定した乗員などの傷害の推定結果を、収集した自動車10の情報の替わりに、緊急情報として選択する。
【0049】
ステップST24において、外通信ECU27は、事故の緊急情報を自動通報する。外通信ECU27は、外通信デバイス61を用いて、基地局6および通信網7を通じて、事故の緊急情報をサーバ装置2へ送信する。
たとえば通信環境が収集情報の送信に適した状態にある場合、外通信ECU27は、その収集情報を、緊急情報としてサーバ装置2へ送信する。これにより、外通信ECU27は、緊急出動を要請するためのサーバ装置2での自動車10の乗員などの傷害推定に利用可能な事故の緊急情報を、自動車10からサーバ装置2へ自動的に送信する。
逆に、通信環境が収集情報の送信に適した状態にない場合、外通信ECU27は、その収集情報の替わりに、自車で判断した傷害の判断結果を、緊急情報としてサーバ装置2へ送信する。ここで、外通信ECU27は、自車で判断した傷害の判断結果とともに、AACNにおいて送信が要請されている程度の情報である、事故の発生位置および発生時刻、乗員の乗車位置と人数、乗員保護内容、衝突の内容(入力部位、大きさ、入力方向)といった情報を併せて送信してよい。この程度の情報量であれば、旧式の狭帯域の通信しかできない基地局6に対して複数の自動車10の外通信端末60が収容されている場合でも、外通信ECU27は、緊急情報の送信を即座に終えることができる。
【0050】
図7は、
図1のサーバ装置2が自動車10から新たな情報を受信した場合に実行する処理のフローチャートである。
サーバ装置2のサーバCPU93は、
図7の処理を繰り返し実行する。
【0051】
ステップST25において、サーバCPU93は、サーバ通信デバイス91が、事故に遭った自動車10が送信した事故の緊急情報を受信したか否かを判断する。新たな事故の緊急情報を受信していない場合、サーバCPU93は、本処理を繰り返す。新たな事故の緊急情報を受信すると、サーバCPU93は、処理をステップST52へ進める。
【0052】
ステップST52において、サーバCPU93は、事故に遭った自動車10から受信した情報が、自動車10で判断された傷害の推定結果の情報を含んでいるか否かを判断する。上述したように、乗員保護ECU30は、自車で判断した傷害の推定結果の情報を含む緊急情報と、傷害の推定結果の情報を含まない緊急情報と、を通信環境に応じて切り替えて送信する。自動車10で判断された傷害の推定結果の情報が含まれていない場合、乗員保護ECU30は、処理をステップST26へ進める。自動車10で判断された傷害の推定結果の情報が含まれている場合、乗員保護ECU30は、処理をステップST55へ進める。
【0053】
ステップST25において、サーバCPU93は、サーバ装置2において、自動車10の乗員などについて、傷害の状態を詳細に推定する。サーバCPU93は、たとえば、受信した大量の情報を用いて判断される事故の詳しい情報に基づいて、人工知能的な処理により、個々の乗員の傷害の状態を具体的に推定してよい。これにより、サーバCPU93は、緊急情報を受信した場合に、その緊急情報に基づいて自動車10の乗員などの傷害を推定する。
【0054】
ステップST54において、サーバCPU93は、サーバ装置2において推定した、乗員などの傷害の状態についての推定結果を、サーバモニタ95へ出力して表示する。これにより、サーバCPU93は、ステップST27の処理として、サーバ装置2において推定した乗員などの傷害の推定結果を出力する。
【0055】
ステップST55において、サーバCPU93は、自動車10において推定された、乗員などの傷害の状態についての推定結果を、サーバモニタ95へ出力して表示する。これにより、サーバCPU93は、ステップST27の処理として、自動車10において推定されて受信した乗員などの傷害の推定結果を出力する。
【0056】
図8は、事故の第一報をした後の自動車10による自動通報処理のフローチャートである。
自動車10は、
図8の処理を繰り返し実行する。
【0057】
ステップST11において、外通信ECU27は、事故についての第一報の送信が済んでいるか否かを判断する。ここで、事故についての第一報とは、事故後に最初に送信する緊急情報をいう。事故後に
図6の自動通報処理を実行し終えると、外通信ECU27は、事故についての第一報を送信していることになる。この場合、外通信ECU27は、処理をステップST12へ進める。事故についての第一報を送信していない場合、外通信ECU27は、本処理を終了する。
【0058】
ステップST12において、外通信ECU27は、第一報に、自車における乗員などの傷害の推定結果が含まれているか否かを判断する。自車における乗員などの傷害の推定結果が第一報に含まれている場合、外通信ECU27は、処理をステップST13へ進める。自車における乗員などの傷害の推定結果が第一報に含まれていない場合、外通信ECU27は、本処理を終了する。
【0059】
ステップST13において、外通信ECU27は、第一報において自車における乗員などの傷害の推定結果して、収集情報を送信していないため、その未送信の収集情報をサーバ装置2へ送信する。外通信ECU27は、外通信デバイス61を用いて、基地局6および通信網7を通じて、未送信の収集情報をサーバ装置2へ送信する。これにより、外通信ECU27は、通信環境が適した状態にない場合において、自車での乗員などの傷害の推定結果を緊急情報としてサーバ装置2へ最初に送信した後に、収集した自車の情報をサーバ装置2へ送信できる。
【0060】
これにより、サーバ装置2は、事故に遭った自動車10から、その自動車10で収集された情報を、受信することができる。サーバCPU93は、
図7のステップST52において受信した情報に自動車10で判断された傷害の推定結果の情報が含まれていないと判断する。サーバCPU93は、ステップST26において、受信した大量の情報を用いて判断される事故の詳しい情報に基づいて、人工知能的な処理により、個々の乗員の傷害の状態を具体的に推定してよい。サーバCPU93は、ステップST54において、サーバ装置2において推定した、乗員などの傷害の状態についての推定結果を、サーバモニタ95へ出力して表示する。これにより、第一報に基づいて表示されていた乗員などの傷害の状態についての推定結果は、更新される。
【0061】
以上のように、本実施形態では、事故を検出または予測した場合に、緊急出動を要請するためのサーバ装置2での自動車10の乗員などの傷害推定に利用可能な事故の緊急情報を収集して、サーバ装置2へ自動的に送信する自動車10は、自動車10からサーバ装置2へ情報を送信するための通信環境が、収集した情報を緊急情報としてサーバ装置2へ短時間で送信するために適した十分な通信容量の状態にあることを判断する。そして、通信環境が適した状態にない場合には、収集した情報を用いて、自動車10において乗員などの傷害を推定し、その推定した乗員などの傷害の推定結果を、収集した自動車10の情報の替わりに、緊急情報としてサーバ装置2へ送信する。これにより、自動車10は、通信環境において即時的に通信可能な情報量に応じて、緊急情報の情報量を制御して送信できる。また、サーバ装置2は、たとえば通信環境が、サーバ装置2での自動車10の乗員などの傷害推定などのために利用される情報を短時間で送信するために適していない場合であっても、乗員などの傷害の推定結果を出力することが可能となる。
【0062】
本実施形態によれば、サーバ装置2において事故に遭った乗員などの傷害状態を詳しく推定しようとして、大量の情報を自動車10からサーバ装置2へ送信できるようにした緊急通報システム1において、通信環境が不適な状態にあるとしても、サーバ装置2において乗員などの傷害の推定結果を出力することが可能になる。本実施形態では、事故に遭った自動車10からサーバ装置2へ事故の判断に用いる必要な情報を、緊急情報に基づく緊急出動の要請の遅れを抑制するように適切に自動通報することができる。
【0063】
本実施形態では、自動車10は、通信環境が適した状態にない場合には、まず、自動車10で推定した乗員などの傷害の推定結果を、緊急情報としてサーバ装置2へ最初に送信し、その後に、収集した自動車10の情報をサーバ装置2へ送信する。これにより、サーバ装置2は、事故から大きく遅滞することなく事故の第一報にとして乗員などの傷害の推定結果を出力することができる。しかも、サーバ装置2は、その後に受信する大量の詳しい情報に基づいてより確からしい乗員などの傷害を推定して出力できる。コールセンタの職員は、第一報に基づいて乗員などの傷害の状態に応じた出動を即時的に要請でき、しかも、その後に更新されるより確からしい乗員などの傷害の状態に応じてより適切な準備を出動部隊に対して要請できる。たとえば第一報に基づいて乗員の首に傷害がある可能性について出動部隊に伝え、さらに首の傷害の可能性が、乗員の上体の振れに起因する比較的に軽度ものであるのか、または乗員の頭部や首部に対する衝突の入力による比較的に重度のものであるのかについて出動部隊に伝えることが可能となる。
【0064】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【0065】
上述した実施形態では、自動車10においてECUが複数に分かれて存在していたが、そのうちの一部あるいは全てが一つのECUに統合されていても良い。
【符号の説明】
【0066】
1…緊急通報システム、2…サーバ装置、3…クライアント端末、4…自動通報装置、5…無線通信ネットワーク、6…基地局、7…通信網、10…自動車(車両)、11…救急車、20…制御系、21…駆動ECU、22…操舵ECU、23…制動ECU、24…走行制御ECU、25…運転操作ECU、26…検出ECU、27…外通信ECU、28…内通信ECU、29…UI操作ECU、30…乗員保護ECU、36…車ネットワーク、37…バスケーブル、38…セントラルゲートウェイ、41…表示デバイス、42…操作デバイス、51…速度センサ、52…3軸加速度センサ、53…ステレオカメラ、54…車内カメラ、55…マイクロホン、56…GNSS受信機、60…外通信端末、61…外通信デバイス、71…内通信デバイス、80…乗員保護装置、81…運転側シートベルト装置、82…同乗側シートベルト装置、83…運転側フロントエアバッグ装置、84…運転側カーテンエアバッグ装置、85…同乗側フロントエアバッグ装置、86…同乗側カーテンエアバッグ装置、87…乗員保護メモリ、91…サーバ通信デバイス、92…サーバメモリ、93…サーバCPU、94…サーバGNSS受信機、95…サーバモニタ、96…サーバ通話デバイス、97…サーババス、101…クライアント通信デバイス、102…クライアントメモリ、103…クライアントCPU、104…クライアント報知デバイス、105…クライアントGNSS受信機、106…クライアントモニタ、107…クライアント通話デバイス、108…クライアントバス、110…GNSS衛星、121…携帯端末