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  • 特許-アルカリ水電解用隔膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】アルカリ水電解用隔膜
(51)【国際特許分類】
   C25B 13/08 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
C25B13/08 301
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020193567
(22)【出願日】2020-11-20
(65)【公開番号】P2022082168
(43)【公開日】2022-06-01
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】三佐和 裕二
(72)【発明者】
【氏名】中山 信也
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/066911(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/148302(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B13/00-13/08
H01M8/0241-8/0245
H01M50/446
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔膜を含むアルカリ水電解用隔膜であって、
該多孔膜は、有機高分子樹脂、及び、無機粒子を含み、かつ、該無機粒子100質量部に対して、40~80質量部の該有機高分子樹脂を含み、
該多孔膜は、ボイドを有し、隔膜表面から30μmの深さまでの隔膜表層におけるボイド率が20%以上であり、
該ボイドは、幅が4μm以上、長さが10μm以上であり、
前記アルカリ水電解用隔膜は、30℃の水中で、周波数38kHz、出力100W、3分間の超音波処理後の隔膜成分の脱落による質量減少率が、超音波処理前の隔膜に対して2%以下である
ことを特徴とするアルカリ水電解用隔膜。
【請求項2】
前記無機粒子の形状は、板状であることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ水電解用隔膜。
【請求項3】
前記アルカリ水電解用隔膜は、多孔性支持体を更に含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のアルカリ水電解用隔膜。
【請求項4】
前記アルカリ水電解用隔膜は、前記多孔膜からなる層と、該多孔膜が前記多孔性支持体に含浸した含浸層とを有することを特徴とする請求項に記載のアルカリ水電解用隔膜。
【請求項5】
前記隔膜成分の脱落により生じた脱落物は、平均粒子径が2μm以下であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のアルカリ水電解用隔膜。
【請求項6】
前記アルカリ水電解用隔膜は、30℃の水中で、周波数38kHz、出力100Wで3分間の超音波処理後の透気度の維持率が、80%以上であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のアルカリ水電解用隔膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ水電解用隔膜に関する。より詳しくは、隔膜の強度に優れ、ガスバリア性が良好に維持され、長期間安定して高純度の水素ガスを製造することができるアルカリ水電解用隔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
水の電気分解(「電解」ともいう。)は、水素ガスの工業的な製造方法の一つとして知られており、一般的に、導電性を高めるために水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等を電解質として添加した水に電流を印加することにより行われる。このような水の電気分解には、陽極(アノード)と陰極(カソード)がそれぞれ配置された陽極室と陰極室を有し、これらが隔膜により仕切られた電解槽が使用される。
【0003】
水の電気分解は、電子(又はイオン)の移動により行われる。そのため、上記隔膜には、電気分解反応が効率良く行われるために、高いイオン透過性が必要とされる。また、陽極室で発生する酸素ガスと、陰極室で発生する水素ガスとを遮断し得るガスバリア性が必要とされる。更に、水の電気分解は、30%程度の高濃度のアルカリ水を使用して、80~100℃、場合によっては1MPaの圧力下で行われるので、耐熱性、耐圧性、耐アルカリ性や機械的強度も必要とされる。
【0004】
水の電気分解に使用される隔膜としては、これまでに種々知られている。例えば、特許文献1には、高分子樹脂と無機粒子を含む高分子多孔膜を有し、上記高分子多孔膜の気孔率、表面の平均孔径、及びこの平均孔径に対する無機粒子のモード粒径の比を特定範囲に制御したアルカリ水電解用隔膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/148302号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の隔膜は、使用中に隔膜から、隔膜成分の一部が脱落して、劣化し易いという問題があった。隔膜が劣化すると、セパレータ機能が低下して、酸素ガスと水素ガスが混合してしまったり、脱落物によって電解液が汚染されて、セパレータの交換頻度や電解液の入れ替え頻度が増えたりしてしまう。その結果、水素ガスを安定して製造することができず、コストもかかる。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、隔膜の強度に優れ、ガスバリア性が良好に維持され、長期間安定して高純度の水素ガスを製造することができるアルカリ水電解用隔膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、アルカリ水電解用隔膜について種々検討したところ、特定の成分を含み、かつ、特定のボイド構造を有する多孔膜を含み、更に、超音波処理による質量減少率を特定範囲とすることにより、隔膜の強度が向上し、隔膜からの脱落物が減少して電解液の汚染が抑制され、また、ガスバリア性が良好に維持されることにより、長期間安定して高純度の水素ガスを製造することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、多孔膜を含むアルカリ水電解用隔膜であって、上記多孔膜は、有機高分子樹脂、及び、無機粒子を含み、上記多孔膜は、ボイドを有し、隔膜表面から30μmの深さまでの隔膜表層におけるボイド率が20%以上であり、上記アルカリ水電解用隔膜は、30℃の水中で、周波数38kHz、出力100W、3分間の超音波処理後の隔膜成分の脱落による質量減少率が、超音波処理前の隔膜に対して2%以下であることを特徴とするアルカリ水電解用隔膜である。
【0010】
上記アルカリ水電解用隔膜は、上記ボイドは、幅が4μm以上、長さが10μm以上であることが好ましい。
【0011】
上記無機粒子の形状は、板状であることが好ましい。
【0012】
上記多孔膜は、上記無機粒子100質量部に対して、40~80質量部の有機高分子樹脂を含むことが好ましい。
【0013】
上記アルカリ水電解用隔膜は、多孔性支持体を更に含むことが好ましい。
【0014】
上記アルカリ水電解用隔膜は、上記多孔膜からなる層と、上記多孔膜が上記多孔性支持体に含浸した含浸層とを有することが好ましい。
【0015】
上記隔膜成分の脱落により生じた脱落物は、平均粒子径が2μm以下であることが好ましい。
【0016】
上記アルカリ水電解用隔膜は、30℃の水中で、周波数38kHz、出力100Wで3分間の超音波処理後の透気度の維持率が、80%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のアルカリ水電解用隔膜は、隔膜の強度に優れ、隔膜からの脱落物が少なく、電解液の汚染が抑制され、また、ガスバリア性が良好に維持されるため、長期間安定して高純度の水素ガスを製造することができる。本発明のアルカリ水電解用隔膜を用いれば、水の電解を極めて効率良く行うことができ、高効率の水電解装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のアルカリ水電解用隔膜の隔膜断面の一部の一例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0020】
1.アルカリ水電解用隔膜
本発明のアルカリ水電解用隔膜は、多孔膜を含むアルカリ水電解用隔膜であって、上記多孔膜は、有機高分子樹脂、及び、無機粒子を含み、上記多孔膜は、ボイドを有し、隔膜表面から30μmの深さまでの隔膜表層におけるボイド率が20%以上であり、上記アルカリ水電解用隔膜は、30℃の水中で、周波数38kHz、出力100W、3分間の超音波処理後の隔膜成分の脱落による質量減少率が、超音波処理前の隔膜に対して2%以下であることを特徴とする。
【0021】
本発明のアルカリ水電解用隔膜は、上記の構成よりなるため、隔膜の強度に優れ、ガスバリア性が良好に維持される。隔膜の強度やガスバリア性の維持に優れると、隔膜からの脱落物が少なく、電解液の汚染が抑制されたり、隔膜の機能が維持されるので、長期間安定して高純度の水素ガスを製造することができる。本発明のアルカリ水電解用隔膜が、隔膜の強度に優れ、ガスバリア性が良好に維持されるのは、無機粒子と有機高分子樹脂によって、隔膜表層部分に適度に構造が制御されたボイドを有する多孔膜を含むためと考えられる。
【0022】
本発明のアルカリ水電解用隔膜は、多孔膜を含む。上記多孔膜を有することにより、多くの電解液を含浸することができ、イオン透過性が発揮される。
【0023】
<多孔膜>
上記多孔膜は、有機高分子樹脂、及び、無機粒子を含む。
(有機高分子樹脂)
上記有機高分子樹脂としては、フッ素系樹脂、オレフィン系樹脂、芳香族炭化水素系樹脂等が挙げられる。
上記フッ素系樹脂としては、例えば、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン共重合体等が挙げられる。
【0024】
上記オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等が挙げられる。
【0025】
上記芳香族炭化水素系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニルスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。
【0026】
なかでも、上記有機高分子樹脂は、耐熱性、耐圧性や耐アルカリ性に優れる点で、芳香族炭化水素系樹脂であることが好ましく、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、及びポリフェニルスルホンからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
上記有機高分子樹脂は、1種のみ使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
上記有機高分子樹脂の含有量は、アルカリ水電解用隔膜が後述する多孔性支持体を含まない場合、アルカリ水電解用隔膜100質量%中28~45質量%であることが好ましい。上記有機高分子樹脂の含有量が上述の範囲であると、上記有機高分子樹脂によって制御されたボイド構造を隔膜内に形成しやすくなる。上記有機高分子樹脂の含有量は、アルカリ水電解用隔膜100質量%中、31質量%以上であることがより好ましく、42質量%以下であることがより好ましく、38質量%以下であることが更に好ましい。
【0028】
また、上記有機高分子樹脂の含有量は、アルカリ水電解用隔膜が後述する多孔性支持体を含む場合、アルカリ水電解用隔膜100質量%中10~35質量%であることが好ましい。上記有機高分子樹脂の含有量が上述の範囲であると、上記有機高分子樹脂によって制御されたボイド構造を隔膜内に形成しやすくなる。上記有機高分子樹脂の含有量は、アルカリ水電解用隔膜100質量%中、12質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが更に好ましく、17質量%以上であることが更により好ましく、また、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることが更に好ましく、23質量%以下であることが更により好ましく、21質量%以下であることが特に好ましい。
【0029】
(無機粒子)
上記無機粒子としては、例えば、マグネシウム、ジルコニウム、チタン、亜鉛、アルミニウム、タンタル等の金属水酸化物又は金属酸化物;カルシウム、バリウム、鉛、ストロンチウム等の硫酸塩;チタン、ジルコニウム、ハフニウム等の窒化物;チタン、ジルコニウム、ハフニウム等の炭化物等が挙げられる。上記無機粒子は、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでもよい。
なかでも、イオン透過性を向上させることができる点で、金属水酸化物又は金属酸化物が好ましく、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、水酸化チタンがより好ましく、水酸化マグネシウムが更に好ましい。
【0030】
上記無機粒子は、表面が未処理のものであっても、表面処理されたものであってもよい。上記表面処理としては、シランカップリング剤、ステアリン酸、オレイン酸、リン酸エステル等を用いた公知の表面処理が挙げられる。
【0031】
上記無機粒子の形状は、特に制限されず、不定形状;粒状;顆粒状;薄片状、六角板状等の板状;繊維状等のいずれの形状であってもよい。なかでも、構造が緻密になり、隔膜強度を向上させることができる点で、上記無機粒子の形状は、板状であることが好ましく、薄片状であることがより好ましい。
【0032】
上記無機粒子は、構造が緻密になり、隔膜の強度を向上させることができる点で、平均粒子径が0.05~2μmであることが好ましい。上記無機粒子の平均粒子径は、0.08μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることが更に好ましく、1.5μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが更に好ましい。
上記平均粒子径は、レーザー回折法による粒度分布測定から求められる体積平均粒子径(D50)である。具体的には、平均粒子径はレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(例えば、堀場製作所社製「型番LA-920」)を用いて粒度分布を測定し、体積基準の粒度分布におけるメジアン径(D50)を平均粒子径とする。なお、粒子をエタノールに混合し超音波照射して分散させたものを測定試料とする。
【0033】
上記無機粒子は、アスペクト比が2.0~8.0であることが好ましい。アスペクト比が上述の範囲であると、イオン透過性がより一層優れ、均一性に優れた隔膜とすることができる。上記アスペクト比は、2.5~7.0であることがより好ましく、3.0~6.0であることが更に好ましい。
上記アスペクト比とは、最長径(a)と最短径(b)との比[(a)/(b)]を意味し、無機粒子をSEMで観察し、得られた画像の任意の10粒子において、解析ソフト等を使用して、各粒子の最長径(a)と最短径(b)との比[(a)/(b)]を測定し、それらの比の単純平均値をその粒子のアスペクト比として求めることができる。通常、最長径(a)の中点を通って最長径と直交する径のうちの最も短い径を最短径(b)とすることが好ましい。
上記最長径(a)としては、例えば、粒子の形状が薄片状や六角板状等の板状の場合、粒子の板面の長径を採用し、繊維状である場合は、繊維の長さを採用する。
上記最短径(b)としては、例えば、粒子の形状が薄片状や六角板状等の板状の場合は、粒子の厚みを採用し、繊維状である場合は、繊維の太さを採用する。粒子の厚み及び繊維の太さとしては、最長径aの中点における厚み、太さをそれぞれ採用することが好ましい。
【0034】
上記無機粒子としては、なかでも、耐アルカリ性、耐久性に特に優れ、比較的安価でアルカリ水電解用隔膜を得ることができる点で、水酸化マグネシウムが好ましい。
本発明において使用する水酸化マグネシウムは、X線回折により測定される(110)面に垂直な方向の結晶子径が35nm以上であることが好ましい。上記(110)面に垂直な方向の結晶子径が上述の範囲であると、隔膜のイオン透過性や隔膜の均一性がより一層優れる。
上記(110)面に垂直な方向の結晶子径は、40nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、60nm以上であることが更に好ましく、65nm以上であることが特に好ましい。
上記(110)面に垂直な方向の結晶子径は、その上限値は特に限定されないが、通常は例えば400nm以下であり、好ましくは350nm以下、更に好ましくは300nm以下である。
【0035】
また上記水酸化マグネシウムは、X線回折により測定される(001)面に垂直な方向の結晶子径が15nm以上であることが好ましい。
上記(001)面に垂直な方向の結晶子径は、18nm以上であることがより好ましく、21nm以上であることが更に好ましく、24nm以上であることが特に好ましい。
上記(001)面に垂直な方向の結晶子径は、その上限値は特に限定されないが、通常は例えば300nm以下であり、好ましくは250nm以下、更に好ましくは200nm以下である。
【0036】
上記結晶子径は、粉末X線回折法により水酸化マグネシウム粒子のX線回折パターンを測定し、対象の格子面に帰属される回折線の広がり(半値幅)から、Scherrerの式を用いて結晶子径(上記格子面に垂直方向の結晶子径)を算出して求めることができる。
【0037】
上述した特定の結晶子径範囲の水酸化マグネシウムを得るための方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
マグネシウム塩(塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム等)の水溶液、又は、従来公知の方法で得られた酸化マグネシウムの水分散液を原料とし、アルカリ性物性(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、アンモニア水等)の添加により、水和反応を行うことで水酸化マグネシウムを調製する。この際に、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、硝酸、硫酸等の多塩基酸、又は、これらの混合物の添加により、生成した水酸化マグネシウムの溶解度を調整したり、水熱反応の温度(例えば150℃から270℃)や時間(例えば30分~10時間)を適宜調整したりすることにより、結晶子径の異なる粒子を調製できる。酸の添加量が多い方が結晶成長は進み、結晶子径が大きくなる。また、水熱反応の温度は高い方が、時間は長い方が、結晶成長が進み、結晶子径は大きくなる。
【0038】
本発明においては、無機粒子として、一般的な市販品を使用することもできる。例えば、本発明において使用することができる水酸化マグネシウムの市販品としては、協和化学工業社製の200-06H、宇部マテリアル社製UP650-1、タテホ化学工業社製MAGSTAR♯20、神島化学工業社製♯200等が挙げられる。
【0039】
上記無機粒子の含有量は、アルカリ水電解用隔膜が後述する多孔性支持体を含まない場合、アルカリ水電解用隔膜100質量%中55~72質量%であることが好ましい。上記無機粒子の含有量が上述の範囲であると、構造を緻密にすることができ、隔膜の強度を向上させることができる。上記無機粒子の含有量は、アルカリ水電解用隔膜100質量%中、69質量%以下であることがより好ましく、58質量%以上であることがより好ましく、62質量%以上であることが更に好ましい。
【0040】
また、上記無機粒子の含有量は、アルカリ水電解用隔膜が後述する多孔性支持体を含む場合、アルカリ水電解用隔膜100質量%中20~50質量%であることが好ましい。上記無機粒子の含有量が上述の範囲であると、構造を緻密にすることができ、隔膜の強度を向上させることができる。上記無機粒子の含有量は、アルカリ水電解用隔膜100質量%中、24質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましく、32質量%以上であることが更により好ましく、34質量%以上であることが特に好ましく、また、42質量%以下であることがより好ましく、39質量%以下であることが更に好ましく、37質量%以下であることが更により好ましい。
【0041】
上記多孔膜は、上記無機粒子100質量部に対して、上記有機高分子樹脂を40~80質量部含むことが好ましく、45~70質量部含むことがより好ましく、45~60質量部含むことが更に好ましい。上記無機粒子と有機高分子樹脂の含有割合が上述の範囲であると、隔膜の強度を向上させることができ、所定範囲の質量減少率を有する隔膜が得られやすくなる。また、上記アルカリ水電解用隔膜は、上記無機粒子100質量部に対して、上記有機高分子樹脂を40~80質量部含むことが好ましく、45~70質量部含むことがより好ましく、45~60質量部含むことが更に好ましい。
【0042】
上記多孔膜は、ボイド(空隙)を有し、隔膜表面から30μmの深さまでの隔膜表層におけるボイド率が20%以上である。本発明のアルカリ水電解用隔膜はこのような特定の構造を有する多孔膜を有することにより、隔膜の強度に優れ、ガスバリア性を良好に維持することができる。
【0043】
上記ボイド率は、次の方法により測定することができる。すなわち、まず、本発明のアルカリ水電解用隔膜の表面に対して垂直方向に切断した隔膜断面を、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)で観察し、断面観察画像を得る。得られた断面観察画像において、隔膜表面から厚み方向(y方向)30μmと、幅方向(x方向)400μmとからなる領域を測定領域とする。
そして、上記測定領域において、画像解析ソフト(例えば、Scion Image、Scion社製)を用いて、ボイド部分を明部として抽出し、上記測定領域の面積(Z)に対する、明部の総面積(すなわち、各ボイド部分の合計面積)(a)の割合(百分率)を算出することにより、上記ボイド率を求めることができる。
【0044】
図を用いてより詳しく説明する。図1に、本発明のアルカリ水電解用隔膜の隔膜断面の一部の模式図の一例を示す。図1の上記隔膜断面は、基材1(例えば、後述する多孔性支持体)上に、多孔膜2を有し、これらの間に、多孔膜2が基材1に含浸した含浸層4を有する。上記多孔膜2には、ボイド3が存在する。yは、隔膜表面から30μmの深さまでの隔膜表層を表す。図1中、領域(x×y)が測定領域であり、斜線で表される。図1において、上記測定領域中のボイド部分が、明部として抽出される。上記測定領域の面積を(Z)とし、上記明部の面積を(a)とすると、上記ボイド率(%)は、(a)/(Z)×100で求められる。
【0045】
FE-SEMによる測定倍率は、300倍である。上記アルカリ水電解用隔膜において、5つの任意の上記測定領域を設定して同様に測定して値を求め、その平均値を、その隔膜の上記ボイド率とする。
【0046】
上記ボイド率は、隔膜の強度がより優れ、ガスバリア性を良好に維持することができる点で、22%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましく、28%以上であることが更に好ましい。また、ボイド率が大きすぎると、多孔膜に貫通孔が発生しやすくなり、ガスバリア性が低下しやすくなる点で、35%以下であることが好ましく、32%以下であることがより好ましく、30%以下であることが更に好ましい。
【0047】
上記ボイドの形状は、特に限定されず、任意の形状であってよいが、筒状であることが好ましい。
【0048】
上記ボイドは、幅が4μm以上、長さが10μm以上であることが好ましい。ボイドの大きさが上述の範囲であると、ガスバリア性をより良好に維持することができる。
上記ボイドの幅は、4μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることが更に好ましい。また、上記ボイドの幅は、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、6μm以下であることが更に好ましい。
上記ボイドの長さは、10μm以上であることがより好ましく、12μm以上であることが更に好ましい。また、上記ボイドの長さは、30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが更に好ましい。
【0049】
上記ボイドの幅とは、ボイド形状を楕円に近似させたときの短軸長さをいい、上記ボイドの長さとは、ボイド形状を楕円に近似させたときの長軸長さをいう。ボイド形状を楕円に近似させたときの短軸長さと長軸長さとは、上記ボイド率の測定方法と同様に、上述したFE-SEM観察により、上記隔膜の断面観察画像を得て、上記画像解析ソフトを用いて、求めることができ、具体的には、後述する実施例に記載の方法で求めることができる。
【0050】
上記多孔膜の厚さは、30~100μmであることが好ましく、30~80μmであることがより好ましく、30~60μmであることが更に好ましい。
【0051】
<多孔性支持体>
上記アルカリ水電解用隔膜は、更に、多孔性支持体を含むことが好ましい。多孔性支持体を含むことにより、隔膜の強度を向上させることができる。
上記多孔性支持体は、多孔質であり、イオン透過性を有し、アルカリ水電解用隔膜の基材(支持体)となりうる。上記多孔性支持体を更に含むことにより、上記多孔膜の強度が向上し、アルカリ水電解用隔膜の強度を向上させることができ、電解中のイオン透過膜の破損等を抑制することができる。上記多孔性支持体は、シート状の部材であることが好ましい。
【0052】
上記アルカリ水電解用隔膜が多孔性支持体を含む場合、上記アルカリ水電解用隔膜の構成としては、多孔膜からなる層が、多孔性支持体の一方の面、又は、両方の面上に形成されていてもよいし、上記多孔膜からなる層が、多孔性支持体の一部又は全部と一体化していてもよい。上記多孔膜からなる層が、多孔性支持体の一部又は全部と一体化しているとは、上記多孔膜からなる層が上記多孔性支持体の一部又は全部に含浸した層が形成されていることを意味する。
【0053】
上記アルカリ水電解用隔膜は、なかでも、隔膜強度がより一層高くなる点で、上記多孔膜からなる層と、上記多孔膜が上記多孔性支持体に含浸した含浸層とを有することが好ましい。上記アルカリ水電解用隔膜が含浸層を有する場合の好ましい形態の一例として、例えば、図1に示すような、多孔性支持体である基材1に多孔膜2の一部が含浸した含浸層4を有する形態が挙げられる。
【0054】
上記多孔性支持体の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素系樹脂等の樹脂が挙げられる。これらは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、優れた耐熱性及び耐アルカリ性を発揮できる点で、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリフェニレンサルファイドからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましく、ポリプロピレン、及びポリフェニレンサルファイドからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含むことがより好ましい。
【0055】
上記多孔性支持体の形態としては、例えば、不織布、織布、メッシュ、多孔質膜、又は不織布と織布の混合布等が挙げられるが、好ましくは、不織布、織布、又はメッシュが挙げられ、より好ましくは、不織布、メッシュが挙げられ、更に好ましくは不織布が挙げられる。
【0056】
上記多孔性支持体としては、なかでも、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリフェニレンサルファイドからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む、不織布、織布、又はメッシュが好ましい。更に、多孔性支持体としては、ポリフェニレンサルファイドを含む、不織布又はメッシュが好ましい。
【0057】
上記多孔性支持体がシート状である場合、上記多孔性支持体の厚さは、上記アルカリ水電解用隔膜が本発明の効果を発揮できる限り特に制限されないが、例えば、好ましくは30~300μm、より好ましくは50~250μm、更に好ましくは100~200μmである。
【0058】
本発明のアルカリ水電解用隔膜は、30℃の水中で、周波数38kHz、出力100Wで3分間の超音波処理後の隔膜成分の脱落による質量減少率が2%以下である。
隔膜を超音波処理に供することにより、隔膜成分が一部脱落する場合がある。隔膜の強度が低いと、超音波処理により隔膜成分が脱落しやすく、また脱落する量も増大する。
本発明のアルカリ水電解用隔膜は、隔膜強度が高く、上記隔膜成分の脱落による質量減少率が2%以下であり、好ましくは、1.5%以下であり、より好ましくは、1.2%以下であり更に好ましくは、1%以下である。
【0059】
上記隔膜成分の脱落による質量減少率は、下記の式により求めることができる。
質量減少率(%)
=100-(超音波処理後の隔膜質量)/(超音波処理前の隔膜質量)×100
【0060】
上記隔膜の超音波処理は、30℃の水中で、周波数38kHz、出力100Wで、3分間行う。隔膜は、隔膜全体が水中に浸漬した状態となるように設置する。
【0061】
上記隔膜成分の脱落により生じた脱落物は、平均粒子径が2μm以下であることが好ましい。上記脱落物とは、超音波処理により隔膜成分の一部が脱落したものである。本発明のアルカリ水電解用隔膜は、隔膜強度が高いため、超音波処理後の脱落物の大きさが小さい。
上記脱落物は、平均粒子径が1.5μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが更に好ましい。上記平均粒子径の下限は、特に限定されないが、通常0.001μm以上、好ましくは0.01μm以上である。
上記平均粒子径は、動的光散乱法による粒度分布測定器(例えば、大塚電子社製、商品名FPAR-1000)を用いて、水中で、個数基準の粒度分布におけるメジアン径(d50)を測定することにより求めることができ、得られたメジアン径を平均粒子径とする。
【0062】
上記隔膜成分の脱落により生じた脱落物は、有機高分子樹脂を脱落物100質量%に対して0.1質量%以上含むことが好ましい。
上記脱落物中の有機高分子樹脂の量が上述の範囲であると、本発明のアルカリ水電解用隔膜は強度に優れるものとなる。有機高分子樹脂の脱落は、アルカリ水電解用隔膜の強度に影響する可能性が高い。脱落物が有機高分子樹脂を0.1質量%以上含んでいても、上述した質量減少率が2%以下であるような隔膜は、塗膜の欠損が少なく、ガスバリア性を維持でき、強度に優れるものとなる。すなわち、脱落物における有機高分子樹脂の含有量が高いほど、隔膜における上記質量減少率を2%以下に抑制する効果は大きいものとなる。
上記脱落物は、有機高分子樹脂を脱落物100質量%に対して1質量%以上含むことがより好ましい。
また、上記脱落物は、有機高分子樹脂を脱落物100質量%に対して30質量%以下含むことが好ましい。上記脱落物中の有機高分子樹脂の量が30質量%以下であると、上記隔膜に残る有機高分子樹脂量の割合が多くなり、隔膜中で無機粒子を十分保持することができ、隔膜強度を高めることができる。
上記脱落物は、有機高分子樹脂を、脱落物100質量%に対して、20質量%以下含むことがより好ましく、10質量%以下含むことが更に好ましく、6質量%以下含むことが特に好ましい。
上記脱落物に含まれる有機高分子樹脂としては、上述した有機高分子樹脂と同様のものが挙げられる。
【0063】
上記アルカリ水電解用隔膜は、透気度が80~500秒/100ccであることが好ましい。透気度が上述の範囲であると、ガスバリア性が良好であり、酸素ガスと水素ガスが混合するのを良好に防ぐことができる。上記透気度は、100~300秒/100ccであることが好ましく、100~250秒/100ccであることが更に好ましい。
【0064】
上記アルカリ水電解用隔膜は、30℃の水中で、周波数38kHz、出力100Wで3分間の超音波処理前後の透気度の維持率が80%以上であることが好ましい。
上記透気度の維持率が上述の範囲であると、ガスバリア性を長期間維持できるので安定して高純度の水素ガスを製造することができる。上記透気度の維持率は、ガスバリア性を長期間維持できる点で85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
上記透気度の維持率は、下記の式により求めることができる。
透気度の維持率(%)=(超音波処理後の隔膜の透気度)/(超音波処理前の隔膜の透気度)×100
なお、上記透気度は、王研式透気度試験機(例えば、旭精工社製、型番:EGBO)を用いて求めることができ、具体的には後述する実施例に記載の方法により求めることができる。
【0065】
上記アルカリ水電解用隔膜の厚さは、150~400μmであることが好ましい。厚さが150μmより薄いと皺が入りやすくなり、アルカリ水電解装置を組み立てる際に取り扱うことが困難になるおそれがある。400μmより厚いと、可撓性が低下し、折れやすく、ひび割れが入りやすくなる。上記アルカリ水電解用隔膜の厚さは、150~350μmであることがより好ましく、150~300μmであることが更に好ましい。上記アルカリ水電解用隔膜の厚さの測定方法は特に限定されず、市販の測定器で測定することができるが、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ社製)を用いて測定することが好ましい。任意10点を測定し、その平均値を隔膜の厚さとすることが好ましい。
【0066】
2.アルカリ水電解用隔膜の製造方法
本発明のアルカリ水電解用隔膜を製造する方法について説明する。
本発明のアルカリ水電解用隔膜を製造する方法としては、特に限定されず、公知の方法を適用することができるが、上述した構造を有する隔膜を効率良く製造することができる点で、非溶媒誘起相分離法が好ましく、具体的には、下記の工程(1)~(4)を含む製造方法が好ましい。
(1)有機高分子樹脂、無機粒子、及び、溶媒を含む分散溶液を調製する工程
(2)上記分散溶液を用いて塗膜を形成する工程、
(3)上記塗膜を、上記有機高分子樹脂に対する非溶媒に接触させて上記塗膜を凝固させて多孔質構造とする工程、
(4)上記多孔質構造とした塗膜を乾燥させて多孔膜を得る工程
【0067】
上記製造方法の工程(3)においては、上記凝固した塗膜は、上記非溶媒と第2成分の溶媒とを含み、上記第2成分の溶媒の含有量が、上記非溶媒100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましい。そのような溶媒を含むことにより、上述したボイド率を有する多孔膜を有するアルカリ水電解用隔膜を得ることができる。
本発明のアルカリ水電解用隔膜の製造方法の各工程について、以下に説明する。
【0068】
工程(1)
本発明のアルカリ水電解用隔膜の製造方法は、有機高分子樹脂、無機粒子、及び、溶媒を含む分散溶液を調製する工程(1)を含む。上記分散溶液は、上述した多孔膜を形成するための溶液である。
【0069】
上記分散溶液の調製は、特に制限されず、有機高分子樹脂と、無機粒子と、溶媒とを混合することにより行うことができる。有機高分子樹脂と、無機粒子と、溶媒とを混合する場合、3成分を同時に混合してもよいし、無機粒子を溶媒に分散させた分散液(スラリー)を予め調製し、次いで上記分散液と有機高分子樹脂を混合してもよいし、無機粒子と有機高分子樹脂をそれぞれ溶媒に分散又は溶解させた、分散液(スラリー)又は溶液を予め調製し、次いでこれらの分散液と溶液を混合してもよい。なかでも、有機高分子樹脂と無機粒子を均一に混合することができ、平滑な表面の隔膜を容易に製造することができる点で、無機粒子と有機高分子樹脂をそれぞれ溶媒に分散又は溶解させた、分散液(スラリー)又は溶液を調製し、次いで当該分散液と溶液を混合して分散溶液を調製する方法が好ましい。上記有機高分子樹脂、及び、無機粒子は、それぞれ上述したものと同様である。
【0070】
上記有機高分子樹脂や無機粒子と混合する溶媒としては、有機高分子樹脂を溶解することができる性質を有するものが好ましく、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。なかでも、有機高分子樹脂を容易に溶解し、無機粒子を分散する性質に優れている点で、N-メチル-2-ピロリドンが好ましい。上記溶媒は、上述した有機溶媒以外に他の溶媒を含んでいてもよい。
【0071】
上記混合や分散の方法としては、特に制限されず、ミキサー、ボールミル、ジェットミル、ディスパー、サンドミル、ロールミル、ポットミル、ペイントシェーカー等を用いる方法等、公知の混合分散の手段が挙げられる。また、分散剤等を適宜添加してもよい。
【0072】
上記無機粒子を分散した分散液中の無機粒子の濃度は、混合が容易な点で、好ましくは30~60質量%、より好ましくは40~60質量%、更に好ましくは50~60質量%である。
【0073】
上記有機高分子樹脂を溶解した溶液中の有機高分子樹脂の濃度は、混合が容易な点で、好ましくは10~50質量%、より好ましくは20~40質量%、更に好ましくは25~35質量%である。
【0074】
上記有機高分子樹脂を含む溶液と無機粒子を含む分散液は、無機粒子100質量部に対して、有機高分子樹脂が40~80質量部になるように混合することが好ましい。上記の割合であると、隔膜の強度が向上し、所定範囲の質量減少率を有する隔膜が得られやすくなる。
上記有機高分子樹脂を含む溶液と無機粒子を含む分散液は、無機粒子100質量部に対して、有機高分子樹脂が40~70質量部になるように混合することがより好ましく、40~60質量部になるように混合することが更に好ましい。
【0075】
工程(2)
本発明のアルカリ水電解用隔膜の製造方法は、次いで、上記工程(1)で得られた分散溶液を用いて塗膜を形成する工程(2)を含む。
上記塗膜を形成する方法としては、例えば、上記分散溶液を基材上に塗布する方法等が好ましく挙げられる。上記工程(2)は、上記分散溶液を多孔性支持体に塗布する工程を含むことが好ましい。
【0076】
上記塗布する方法としては、特に制限されず、例えば、ダイコーティング、スピンコーティング、グラビアコーティング、カーテンコーティング、スプレー、アプリケーター、コーター等を用いる方法等の公知の塗布手段が挙げられる。
【0077】
上記基材としては、上記分散溶液を塗布して塗膜を形成することができるものであれば、特に限定されず、例えば、ポリテトラエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート等の樹脂からなるフィルム又はシート、ガラス板等が挙げられる。なかでも、ポリテトラエチレンテレフタレートのフィルム又はシートが好ましい。
【0078】
上記アルカリ水電解用隔膜が多孔性支持体を含む場合は、多孔性支持体に上記分散溶液を塗布するとよい。塗布方法としては、多孔性支持体を基材として用いるのと同様に、多孔性支持体に上記分散溶液を直接塗布する方法、多孔性支持体を上記分散溶液中に浸漬する方法が挙げられる。また、上記分散溶液を上述した基材上に塗布し、塗布物に多孔性支持体を接触させて、上記分散溶液を多孔性支持体に含浸させる方法等が挙げられる。多孔性支持体に上記分散溶液を含浸させることにより、上記多孔膜と多孔性支持体とが一体化した複合体を作製することができる。上記多孔性支持体は、上述したものと同様である。
【0079】
上記分散溶液の塗布量としては、特に制限されず、得られる隔膜が、上述した効果が発揮できる厚さを有するよう適宜設定すればよい。
【0080】
工程(3)
本発明のアルカリ水電解用隔膜の製造方法は、上記工程(2)で形成した塗膜を、上記有機高分子樹脂に対する非溶媒に接触させて塗膜を凝固させて多孔質構造とする工程(3)を含む。
上記塗膜を、上記有機高分子樹脂に対する非溶媒と接触させることにより、上記塗膜中に上記非溶媒が拡散し、上記非溶媒に溶解しない有機高分子樹脂は凝固する。一方で、上記非溶媒に溶解しうる塗膜中の溶媒は、塗膜から溶出する。このような相分離が生じることにより、有機高分子樹脂が凝固し、多孔質構造が形成される。
【0081】
上記塗膜と上記非溶媒とを接触させる方法としては、上記塗膜を上記非溶媒中に浸漬させる方法(凝固浴)等が挙げられる。
多孔膜を形成するための上記分散溶液を多孔性支持体に塗布又は含浸させて塗膜を形成した場合は、上記分散溶液を含む多孔性支持体を上記非溶媒中に浸漬させるとよい。
【0082】
上記有機高分子樹脂に対する非溶媒としては、上記有機高分子樹脂を実質的に溶解しない性質を有する溶媒が挙げられる。上記有機高分子樹脂を実質的に溶解しないとは、25℃で、溶媒100gに対し、有機高分子樹脂の溶解度が100mg以下である場合をいう。
上記非溶媒としては、例えば、純水、蒸留水、イオン交換水等の水;メタノール、エタノール、プロピルアルコール等の低級アルコール;又はこれらの混合溶媒等が挙げられ、なかでも経済性と排液処理の観点から水が好ましく、イオン交換水がより好ましい。また上記塗膜を浸漬させる非溶媒中には、上述した成分以外に、塗膜中に含まれる溶媒と同様の溶媒が少量含まれていてもよい。
【0083】
上記工程(3)においては、上記凝固した塗膜は、上記非溶媒と第2成分の溶媒とを含み、上記第2成分の溶媒の含有量が、上記非溶媒100質量部に対して30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることが更に好ましく、また、1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましい。
すなわち、凝固浴に使用する溶媒として、上記非溶媒と第2成分の溶媒を含み、上述した量比を満たすものを使用するのが好ましく、そのような溶媒を使用すると当該溶媒が凝固した塗膜に含まれ、後述する乾燥工程により、上述したボイド率を有するアルカリ水電解用隔膜を得ることができる。
上記第2成分としては、上記工程(1)に記載の有機溶媒と同様の溶媒を挙げることができる。
【0084】
上記工程(3)の温度条件は、塗膜を均一に凝固させることができる点で、5~30℃であることが好ましく、10~30℃であることがより好ましく、15~30℃であることが更に好ましい。
【0085】
工程(4)
本発明のアルカリ水電解用隔膜の製造方法は、更に、上記工程(3)で多孔質構造とした塗膜を乾燥させて多孔膜を得る工程(4)を含む。工程(3)で凝固させて多孔質構造とした塗膜を乾燥させて、上記非溶媒を除去することにより、多孔膜を得ることができる。
乾燥温度としては、60~100℃が好ましく、60~80℃がより好ましい。
乾燥時間としては、2~60分間が好ましく、2~30分間がより好ましく、5~30分間が更に好ましい。
【0086】
上述した工程(1)~(4)により、本発明のアルカリ水電解用隔膜を容易に効率良く製造することができる。上記アルカリ水電解用隔膜の製造方法は、上述した工程(1)~(4)以外に、隔膜の密度を均一にするためにプレス処理する工程等、公知の他の工程を含んでいてもよい。
【0087】
3.用途
本発明のアルカリ水電解用隔膜は、隔膜強度に優れ、ガスバリア性が良好に維持される。そのため、長期間安定して高純度の水素ガスを製造することができる。また、本発明のアルカリ水電解用隔膜は、イオン透過性、耐アルカリ性にも優れるものである。本発明のアルカリ水電解用隔膜は、アルカリ性水溶液を電解液とした水の電気分解用の隔膜として好適に使用することができる。
以下に、本発明のアルカリ水電解用隔膜を使用した電解装置と電解方法について説明する。
【0088】
(電解装置)
本発明のアルカリ水電解用隔膜は、アルカリ水電解装置の部材として用いられる。上記アルカリ水電解装置としては、例えば、陽極、陰極、及び、陽極と陰極の間に配置された上記アルカリ水電解用隔膜を含むものが挙げられる。より具体的には、上記アルカリ水電解装置は、上記アルカリ水電解用隔膜によって隔てられた、陽極が存在する陽極室と、陰極が存在する陰極室とを備えた電解槽を有する。
【0089】
上記アルカリ水電解用隔膜は、陽極又は陰極と接するように設置されることが好ましく、陽極及び陰極と接するように設置されることがより好ましい。電極間の距離がより小さくなると、電気抵抗がより小さくなり、電解装置の電解効率をより高くすることができる。本発明のアルカリ水電解用隔膜は、電極間の距離が極力小さくなるよう、隔膜と各電極とが接するように設置した、いわゆる「ゼロギャップ構造」の電解装置においても好適に使用することができる。
【0090】
上記陽極、及び陰極としては、公知の電極であれば特に制限されず、例えば、銅、鉛、ニッケル、クロム、チタン、金、白金、鉄、これらの金属化合物、金属酸化物、及びこれらの金属の2種以上を含む合金等の公知の導電性基体を含む電極が挙げられる。
【0091】
上記電極は、上記導電性基体に触媒層が形成されたものであってもよい。上記触媒層は、特に制限されず、ニッケル、コバルト、パラジウム、イリジウム、又は白金等を含む金属化合物、金属酸化物、あるいは、合金等を含む、公知のものが挙げられる。
【0092】
上記電極の形状は、特に制限されず、シート状、棒状、角柱状等、公知の形状が挙げられるが、上記アルカリ水電解用隔膜との接触面積が大きく、電解装置の電解効率をより一層向上させることができる点で、シート状であることが好ましい。
【0093】
また、上記電解装置は、通常使用されるその他の部材を備えていてもよい。上記その他の部材としては、例えば、発生したガスと電解液を分離するための気液分離タンク、電解を安定して行うためのコンデンサー、ミストセパレーター等が挙げられる。
【0094】
(電解方法)
本発明のアルカリ水電解用隔膜を備えたアルカリ水電解装置を用いて行う水の電気分解の方法は、特に限定されず、公知の方法で行うことができる。例えば、上述した本発明のアルカリ水電解用隔膜を備えたアルカリ水電解装置に、電解液を充填し、電解液中で電流を印加することにより行うことができる。
【0095】
上記電解液としては、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム等の電解質を溶解したアルカリ性水溶液が好ましく用いられる。上記電解液における電解質の濃度は、特に制限されないが、電解効率がより一層高くなる点で、20~40質量%であることが好ましい。
【0096】
電気分解を行う場合の温度としては、電解液のイオン電導性がより向上し、電解効率がより一層高くなりうる点で、50~120℃が好ましく、80~90℃がより好ましい。電流の印加条件は、公知の条件・方法で行うことができ、通常0.2A/cm以上、好ましくは0.3A/cm以上である。印可する電流密度が高い方が、短時間に多くの水素ガス、酸素ガスを得ることができるため効率的に水素を生産できる。
電解電圧は、約2Vとなるように、例えば1.5~2.5Vを越えない範囲で、電流密度が高くなるように調整されることが好ましい。
【0097】
以上のとおり、本発明のアルカリ水電解用隔膜は、隔膜の強度に優れ、ガスバリア性が良好に維持される。また、イオン透過性、ガスバリア性、耐アルカリ性にも優れる。本発明のアルカリ水電解用隔膜を使用すれば、長期間安定性して電気分解を行うことができ、水素ガスを製造することができる。
【実施例
【0098】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0099】
実施例において、各評価は下記方法により行った。
<膜厚の測定方法>
アルカリ水電解用隔膜の厚さは、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ社製)を用いて測定した。任意10点を測定し、その平均値を膜厚とした。
【0100】
<隔膜内部におけるボイドの測定、ボイド率の算出方法>
アルカリ水電解用隔膜の表面に垂直な断面について、FE-SEM(日本電子社製、型番:JSM-7600F)測定による断面観察画像を得た。倍率は300倍とした。
得られた断面観察画像に対して、隔膜の表面から深さ方向に30μmの範囲と、深さ方向と直交する方向に約400μmの範囲を測定領域とし、画像解析ソフト(Scion Image)を用いて、ボイドを明部、その他を暗部として抽出し、ボイドの幅、長さ、合計面積を算出した。そして、合計面積(a)と測定面積(Z)の比からボイド率(a/Z×100(%))を求めた。任意の5つの視野で同様に測定し、その平均値をボイド形状とボイド率とした。
なお、上記視野(測定領域)中に観察される個々のボイドについて、ボイド形状を楕円に近似させたときの短軸長さ(ボイドの幅)、ボイド形状を楕円に近似させたときの長軸長さ(ボイドの長さ)を求め、それぞれの個数基準の平均値を求め、上記視野におけるボイドの幅、長さとした。任意の5つの視野(測定領域)において同様に求め、それらのボイドの幅、長さの単純平均値を、隔膜におけるボイドの幅、ボイドの長さとした。
なお、ボイドの一部が測定領域外となる場合、測定領域の外郭をボイドの外郭とみなし、測定領域内のボイド部分のみをボイドとして、ボイド形状、幅、長さを求めた。
【0101】
<イオン伝導度>
(測定方法)
測定用の隔膜試料を2枚準備した。
各隔膜試料を用いて、以下のセル構成で形成したセルを25℃の恒温槽内で30分静置した後、以下の測定条件で交流インピーダンス測定を行い、得られた切片成分(Ra)と測定サンプルを入れない場合の切片成分(Rb)及び上記膜厚測定方法により得られた膜厚の値を用いて、下記式によりイオン伝導度を測定した。
隔膜試料2枚について上記測定を行い、得られた測定値(2点)の平均値を算出し、これを隔膜のイオン伝導度とした。
[イオン伝導度(mS/cm)]=[膜厚(cm)]/[(Ra-Rb)×1000×1.77]
【0102】
(測定条件)
・セル構成
作用極:Ni板
対極 :Ni板
電解液:30質量%水酸化カリウム水溶液
サンプル前処理:上記電解液に1晩浸漬
測定有効面積:1.77cm
・交流インピーダンス測定条件
印加電圧:10mV vs.開回路電圧
周波数領域:100kHz~100Hz
【0103】
<透気度の測定方法>
アルカリ水電解用隔膜について、王研式透気度試験機(旭精工社製、型番:EGBO)を用いて透気度を測定した。任意3点を測定し、その平均値を透気度とした。
【0104】
<超音波試験の評価方法>
アルカリ水電解用隔膜について、下記の超音波試験により、質量減少率、透気度維持率、脱落物の平均粒子径を評価した。
【0105】
(超音波試験)
5×5cmに切り出したアルカリ水電解用隔膜とイオン交換水6ccをチャック付ポリ袋(生産日本社製、ユニパックC-4)に入れて封止し、水槽を30℃に調温した超音波洗浄機(株式会社エスエヌディ製、型名:US-103、高周波出力:100w、発信周波数:38kHz)を用い、水槽中に1時間静置したのち、3分間超音波を照射した。
【0106】
(超音波試験後の質量減少率)
5×5cmに切り出したアルカリ水電解用隔膜の超音波試験前後で、それぞれの重さについて、精密天秤(エー・アンド・デイ社製、型番:GH-200)を用いて測定し、下記式により質量減少率を算出した。
質量減少率(%)
=100-(超音波試験後の質量(g)/超音波試験前の質量(g)×100)
【0107】
(超音波試験前後の透気度維持率)
5×5cmに切り出したアルカリ水電解用隔膜の超音波試験前後で、それぞれの透気度について王研式透気度試験機(旭精工社製、型番:EGBO)を用いて測定し、下記式により透気度維持率を算出した。
透気度維持率(%)
=超音波試験後の透気度/超音波試験前の透気度×100
【0108】
(脱落物の平均粒子径)
超音波試験後の脱落物が浮遊しているチャック付ポリ袋中の水について、動的光散乱法による粒度分布測定器(商品名:FPAR-1000、大塚電子社製)を用いて、水中に分散した脱落物を測定し、個数基準の粒度分布におけるメジアン径(d50)を脱落物の平均粒子径(μm)とした。
【0109】
実施例1
(1.水酸化マグネシウム分散液の調製)
水酸化マグネシウム(平均粒子径0.20μm、板状、アスペクト比6.21)とN-メチル-2-ピロリドン(富士フイルム和光純薬工業社製)を質量比1:1となるよう混合し、ジルコニアメディアボールを入れたポットミルにて、室温で6時間分散処理を行うことにより水酸化マグネシウム分散液を調製した。
【0110】
(2.ポリスルホン樹脂溶解液の調製)
ポリスルホン樹脂(BASF社製、品番ウルトラゾーンS3010)を30質量%の濃度でN-メチル-2-ピロリドン(富士フイルム和光純薬工業社製)に溶解させた。
【0111】
(3.塗液の調製)
上記で得られた水酸化マグネシウム分散液とポリスルホン樹脂溶解液とを、固形分が42質量%、かつ、水酸化マグネシウム100質量部に対してポリスルホン樹脂(PSU)が50質量部になるように計量し、さらに塩化リチウム(富士フイルム和光純薬工業社製)を水酸化マグネシウム100質量%に対して3質量%加え、自転公転ミキサー(シンキー社製、品番あわとり練太郎ARE-500)にて室温で1000rpmで約10分間混合した。得られた混合液を、SUSの200メッシュで濾過することで塗液を得た。
【0112】
(4.塗膜の形成)
ポリフェニレンサルファイド不織布(東レ社製、トルコンペーパー#100)上に、乾燥後の隔膜の厚みが全体で260μmになるように塗布し、不織布に塗液を含浸させた。その後、塗液を含浸させた不織布を、室温にて5分間水浴させ、塗液を凝固させて膜を形成した。水浴には、非溶媒の水100質量部に対して第2成分の溶媒(N-メチル-2-ピロリドン、富士フイルム和光純薬工業社製)を5質量部が混合した液体を用いた。水浴後、得られた膜を、乾燥機にて80℃で、10分間乾燥し、不織布と水酸化マグネシウム及びポリスルホン樹脂を含む膜との複合体からなるアルカリ水電解用隔膜を得た。
【0113】
得られたアルカリ水電解用隔膜について、上述した方法で評価を行った。
膜厚は260μmであった。ボイド形状は、幅4μm、長さ15μm、ボイド率は30%であった。イオン伝導度は155mS/cmであった。透気度は120秒/100ccであった。超音波試験後の質量減少率は1.6%であった。透気度維持率は90%であった。脱落物の平均粒子径は、0.8μmであった。脱落物の有機高分子樹脂量は、脱落物100質量%に対して2質量%であった。
【0114】
実施例2
(3.塗液の調製)において、水酸化マグネシウム100質量部に対してポリスルホン樹脂(PSU)が42質量部になるように計量したこと、及び、(4.塗膜の形成)において、乾燥後の隔膜の厚みが全体で270μmになるように塗布したこと以外は、実施例1と同様の方法でアルカリ水電解用隔膜を得た。
【0115】
得られたアルカリ水電解用隔膜について、上述した方法で評価を行った。
膜厚は270μmであった。ボイド形状は、幅4.2μm、長さ15μm、ボイド率は33%であった。イオン伝導度は172mS/cmであった。透気度は100秒/100ccであった。超音波試験後の質量減少率は1.8%であった。透気度維持率は93%であった。脱落物の平均粒子径は、1.4μmであった。脱落物の有機高分子樹脂量は、脱落物100質量%に対して3.5質量%であった。
【0116】
実施例3
(3.塗液の調製)において、水酸化マグネシウム分散液とポリスルホン樹脂溶解液とを、固形分が36質量%、かつ、水酸化マグネシウム100質量部に対してポリスルホン樹脂(PSU)が70質量部になるように計量したこと、及び、(4.塗膜の形成)において、乾燥後の隔膜の厚みが全体で275μmになるように塗布したこと以外は、実施例1と同様の方法でアルカリ水電解用隔膜を得た。
【0117】
得られたアルカリ水電解用隔膜について、上述した方法で評価を行った。
膜厚は275μmであった。ボイド形状は、幅7.5μm、長さ17μm、ボイド率は38%であった。イオン伝導度は105mS/cmであった。透気度は260秒/100ccであった。超音波試験後の質量減少率は0.8%であった。透気度維持率は97%であった。脱落物の平均粒子径は、0.3μmであった。脱落物の有機高分子樹脂量は、脱落物100質量%に対して0.5質量%であった。
【0118】
比較例1
(1.水酸化マグネシウム分散液の調製)
水酸化マグネシウム(平均粒子径0.20μm、板状、アスペクト比6.21)とN-メチル-2-ピロリドン(富士フイルム和光純薬工業社製)を質量比1:1となるよう混合し、ジルコニアメディアボールを入れたポットミルにて、室温で6時間分散処理を行うことにより水酸化マグネシウム分散液を調製した。
【0119】
(2.ポリスルホン樹脂溶解液の調製)
ポリスルホン樹脂(BASF社製、品番ウルトラゾーンS3010)を30質量%の濃度でN-メチル-2-ピロリドン(富士フイルム和光純薬工業社製)に溶解させた。
【0120】
(3.塗液の調製)
上記で得られた水酸化マグネシウム分散液とポリスルホン樹脂溶解液とを、固形分が48質量%かつ水酸化マグネシウム100質量部に対してポリスルホン樹脂(PSU)が25質量部になるように計量し、自転公転ミキサー(シンキー社製、品番あわとり練太郎ARE-500)にて室温で、1000rpmで約10分間混合した。得られた混合液を、SUSの200メッシュで濾過することで塗液を得た。
【0121】
(4.塗膜の形成)
ポリフェニレンサルファイド不織布(東レ社製、トルコンペーパー#100)上に、乾燥後の隔膜の厚みが全体で260μmになるように塗布し、不織布に塗液を含浸させた。その後、塗液を含浸させた不織布を、室温にて5分間水浴させ、塗液を凝固させて膜を形成した。水浴には、非溶媒の水100質量部に対して第2成分の溶媒(N-メチル-2-ピロリドン、富士フイルム和光純薬工業社製)を35質量部が混合した状態の液体を用いた。水浴後、得られた膜を、乾燥機にて80℃で、10分間乾燥し、不織布と水酸化マグネシウム及びポリスルホン樹脂を含む膜との複合体からなるアルカリ水電解用隔膜を得た。
【0122】
得られたアルカリ水電解用隔膜について、実施例1と同様に、上述した方法で評価を行った。
膜厚は260μmであった。ボイド形状は、幅3.5μm、長さ8μm、ボイド率は18%であった。イオン伝導度は130mS/cmであった。透気度は180秒/100ccであった。また、超音波試験後の質量減少率は5%であった。透気度維持率は55%であった。脱落物の平均粒子径は、3.5μmであった。脱落物の有機高分子樹脂量は、脱落物100質量%に対して8質量%であった。
【0123】
以上より、実施例のアルカリ水電解用隔膜は、比較例のアルカリ水電解用隔膜と比較して、超音波試験後の質量減少率が小さく、脱落物の平均粒子径が小さいことから、隔膜の強度に優れ、ガスバリア性が良好に維持されることが確認された。このような実施例のアルカリ水電解用隔膜は、長期間安定性して高純度の水素ガスを製造することができると考えられる。
【符号の説明】
【0124】
1 基材
2 多孔膜
3 ボイド
4 含浸層
図1