(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】ヨーク一体型シャフト
(51)【国際特許分類】
F16D 3/26 20060101AFI20241114BHJP
B62D 1/20 20060101ALI20241114BHJP
F16D 1/068 20060101ALI20241114BHJP
F16D 1/06 20060101ALI20241114BHJP
F16D 1/072 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
F16D3/26 X
B62D1/20
F16D1/068
F16D1/06 210
F16D1/06 230
F16D1/072
(21)【出願番号】P 2020203830
(22)【出願日】2020-12-09
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森山 誠一
(72)【発明者】
【氏名】小池 康男
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-172612(JP,A)
【文献】特開2017-136889(JP,A)
【文献】特開2012-122526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 1/00-9/10
B62D 1/00-1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が第1方向を指し、他端が第2方向を指すシャフトと、
前記シャフトの前記一端の外側に嵌められる筒状のアダプタと、
前記アダプタの外側に嵌められるヨークと、
を備え、
前記シャフトは、
前記シャフトの前記一端に位置し、前記アダプタに嵌合する嵌合部と、
前記嵌合部から前記第2方向に延び、アウタチューブに摺動自在に支持される軸部と、
を有し、
前記軸部は、外周面を覆う樹脂製のコーティング層を有し、
前記ヨークは、
軸方向に貫通する円形状の貫通孔を有する環状の基部と、
前記基部から前記第1方向に突出する一対のアームと、
を備え、
前記アダプタの外周面は、径方向外側に突出する凸部を有し、
前記基部の内周面は、前記凸部と周方向に係合する凹部を有
し、
前記基部は、前記第1方向を向く第1面を有し、
前記アダプタは、
前記第1方向を向く第1アダプタ面と、
前記第1面に当接する外周カシメ部と、
を有し、
前記シャフトは、
前記第1方向を向く第1端面と、
前記第1アダプタ面に当接する内周カシメ部と、
を有する
ヨーク一体型シャフト。
【請求項2】
前記嵌合部は、
前記シャフトの軸を中心に径方向外側に突出する4つの第1突起と、
2つの前記第1突起の間にある隅部と、
を有し、
前記内周カシメ部は、前記隅部の一部であり、
前記外周カシメ部は、前記シャフトの軸と平行な軸方向から視て、前記軸から径方向に延びて前記内周カシメ部を通過する仮想直線と重なっている
請求項
1に記載のヨーク一体型シャフト。
【請求項3】
前記基部と前記アダプタを溶接して生成される溶接部を有し、
前記溶接部の前記第1方向の表面は、前記第1面の内周縁と前記第1アダプタ面の外周縁との間から露出している
請求項
2に記載のヨーク一体型シャフト。
【請求項4】
前記溶接部は、前記基部と前記アダプタと前記嵌合部を溶接して生成される
請求項
3に記載のヨーク一体型シャフト。
【請求項5】
前記凸部は、雄セレーション部であり、
前記凹部は、雌セレーション部であり、
前記アダプタの外周面と前記基部の内周面は、セレーション嵌合している
請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載のヨーク一体型シャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨーク一体型シャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
車両は、運転者によるステアリングホイールの操作を車輪に伝えるため、ステアリング装置を備える。ステアリング装置は、一端がステアリングホイールと連結されるステアリングシャフトと、一端がステアリングシャフトの他端と連結する中間シャフトと、一端が中間シャフトの他端と連結されるピニオンシャフトと、を備える。
【0003】
下記特許文献1に示すように、中間シャフトは、筒状のアウタチューブと、インナシャフトと、を備える。インナシャフトは、アウタチューブに収容され、アウタチューブに摺動自在に支持されている。これにより、中間シャフトは、伸縮して走行中の振動を吸収する。又は、車両がキャブチルトされた場合(運転席が前方に持ち上げられた場合)、中間シャフトは伸長する。
【0004】
下記特許文献1に示すように、ステアリング装置では、ステアリングシャフトと中間シャフトを繋いだり、中間シャフトとピニオンシャフトを繋いだりするための継手として、ユニバーサルジョイントが用いられる。ユニバーサルジョイントのヨークは、インナシャフトの一端に固定され、インナシャフトとヨークとが一体化している。以下、インナシャフトとヨークとが一体化したものをヨーク一体型シャフトと呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、インナシャフトとヨークとを溶接により接合すると、溶接時の熱がインナシャフトに伝達し易い。インナシャフトは、アウタチューブとの摺動性を確保するため、樹脂製のコーティング層を有している。コーティング層は、結合部分で発生した熱により溶融する可能性があり、ヨークの近くまで配置できない。このため、インナシャフトは、スライド有効長(アウタチューブに収容可能な長さ)が短くなっている。
【0007】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、十字形状のシャフトのスライド有効長を長くすることができるヨーク一体型シャフトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係るヨーク一体型シャフトは、一端が第1方向を指し、他端が第2方向を指すシャフトと、前記シャフトの前記一端の外側に嵌められる筒状のアダプタと、前記アダプタの外側に嵌められるヨークと、を備える。前記シャフトは、前記シャフトの前記一端に位置し、前記アダプタに嵌合する嵌合部と、前記嵌合部から前記第2方向に延び、アウタチューブに摺動自在に支持される軸部と、を有する。前記軸部は、外周面を覆う樹脂製のコーティング層を有する。前記ヨークは、軸方向に貫通する円形状の貫通孔を有する環状の基部と、前記基部から前記第1方向に突出する一対のアームと、を備える。前記アダプタの外周面は、径方向外側に突出する凸部を有し、前記基部の内周面は、前記凸部と周方向に係合する凹部を有する。
【0009】
アダプタにより、ヨークとシャフトとの結合部分の容積が増加している。よって、結合部分からインナシャフトに伝達する熱量が低減する。この結果、コーティング層をヨークの近くまで配置でき、シャフトのスライド有効長が長くなる。また、アダプタとヨークは、凸部と凹部により嵌合し、相対回転しない。よって、確実にトルクが伝達される。
【0010】
また、上記のヨーク一体型シャフトの望ましい態様として、前記基部は、前記第1方向を向く第1面を有し、前記アダプタは、前記第1方向を向く第1アダプタ面と、前記第1面に当接する外周カシメ部と、を有し、前記シャフトは、前記第1方向を向く第1端面と、前記第1アダプタ面に当接する内周カシメ部と、を有する。
【0011】
ヨークからアダプタとシャフトとが脱落することを防止できる。
【0012】
また、上記のヨーク一体型シャフトの望ましい態様として、前記嵌合部は、前記シャフトの軸を中心に径方向外側に突出する4つの第1突起と、2つの前記第1突起の間にある隅部と、を有し、前記内周カシメ部は、前記隅部の一部であり、前記外周カシメ部は、前記シャフトの軸と平行な軸方向から視て、前記軸から径方向に延びて前記内周カシメ部を通過する仮想直線と重なっている。
【0013】
アダプタにおいて、シャフトの隅部に対し径方向外側に位置する部分は、相対的に径方向の厚みが大きい。よって、内周カシメ部が当接する範囲と、外周カシメ部を作るために潰す範囲と、が径方向の外側と内側とに分かれる。よって、外周カシメ部と内周カシメ部とを生成するカシメを一つの治具で同時に行うことができ、生産効率が向上する。
【0014】
また上記のヨーク一体型シャフトの望ましい態様として、前記基部と前記アダプタを溶接して生成される溶接部を有し、前記溶接部の前記第1方向の表面は、前記第1面の内周縁と前記第1アダプタ面の外周縁との間から露出している。
【0015】
これにより、ヨークとアダプタとの結合が強固となる。また、溶接部の第1方向の表面が露出し、シャフトと基部との溶接が第1方向から行われている。よって、スパッタがコーティング層に付着し難い。
【0016】
また、上記のヨーク一体型シャフトの望ましい態様として、前記溶接部は、前記基部と前記アダプタと前記嵌合部を溶接して生成される。
【0017】
これによれば、アダプタとシャフトとの結合が強固となる。
【0018】
また、上記のヨーク一体型シャフトについて、前記凸部は、雄セレーション部であり、 前記凹部は、雌セレーション部であり、前記アダプタの外周面と前記基部の内周面は、セレーション嵌合してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本開示のヨーク一体型シャフトによれば、シャフトのスライド有効長が長くなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、実施形態1のステアリング装置の模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態1のステアリング装置の斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態1のヨーク一体型シャフトを径方向外側から視た全体図である。
【
図4】
図4は、実施形態1のインナシャフトとヨークとを組み合わせる前の斜視図である。
【
図6】
図6は、実施形態1のアダプタのみを抽出して斜視した斜視図である。
【
図8】
図8は、実施形態1のヨーク一体型シャフトを第1方向から視た図である。
【
図11】
図11は、実施形態1のヨーク一体型シャフトのカシメ作業前の状態を示す図である。
【
図12】
図12は、実施形態1のヨーク一体型シャフトにおいて治具で潰した状態を示す図である。
【
図13】
図13は、変形例1のヨーク一体型シャフトを軸Xに沿って切った断面図である。
【
図14】
図14は、変形例2のヨーク一体型シャフトを第1方向から視た図である。
【
図16】
図16は、変形例3のヨーク一体型シャフトを軸Xに沿って切った断面図である。
【
図17】
図17は、変形例3のヨーク一体型シャフトを治具でカシメる場合の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0022】
図1は、実施形態1のステアリング装置の模式図である。
図2は、実施形態1のステアリング装置の斜視図である。ステアリング装置80の基本的な構造について、
図1、
図2を参照しながら説明する。ステアリング装置80は、操作者から付与される操作力(操舵トルク)が伝達する順に、ステアリングホイール81、ステアリングシャフト82、操舵力アシスト機構83、第1ユニバーサルジョイント84、中間シャフト85、及び第2ユニバーサルジョイント86を備える。
【0023】
操舵力アシスト機構83は、ECU(Electronic Control Unit)90と、減速装置92と、電動モータ93と、トルクセンサ94と、図示しないトーションバーと、を備える。ECU90には、イグニッションスイッチ98がオンの状態で、電源装置99(例えば車載のバッテリ)から電力が供給される。なお、本実施形態のヨーク一体型シャフト4は、操舵力アシスト機構83を備えたステアリング装置80(電動パワーステアリング装置)に適用した例を挙げているが、本開示のヨーク一体型シャフトは、操舵力アシスト機構83を備えていないステアリング装置に適用してもよい。
【0024】
ステアリングシャフト82は、入力軸82aと、出力軸82bと、を備える。入力軸82aの一方の端部は、ステアリングホイール81と連結している。また、入力軸82aの他方の端部は、操舵力アシスト機構83のトーションバー(不図示)を介して、出力軸82bの一方の端部と連結している。操舵トルクにより入力軸82aが回転すると、トーションバーが捻じれ、入力軸82aと出力軸82bとの回転に角度差が生じる。
【0025】
トルクセンサ94は、入力軸82aと出力軸82bとの角度差を検出し、その結果をECU90に送信する。ECU90は、車両の車速センサ95から車両の走行速度を取得する。ECU90は、入力軸82aと出力軸82bとの角度差と、車両の走行速度とに基づいて、電動モータ93を駆動させる。減速装置92は、電動モータ93の出力軸に連結する図示しないウォームと、出力軸82bと連結する図示しないウォームホイールと、を備える。よって、電動モータ93が駆動すると、減速装置92を介して出力軸82bに操舵補助トルクが付与され、入力軸82aと出力軸82bとの回転に角度差がなくなる。
【0026】
図2に示すように、出力軸82bの他方の端部は、第1ユニバーサルジョイント84を介して、中間シャフト85の一方の端部と連結している。中間シャフト85の他方の端部は、第2ユニバーサルジョイント86を介して、ピニオンシャフト87の一方の端部と連結している。ピニオンシャフト87の他方の端部は、ピニオン88aを備える。ピニオン88aは、ラック88bと噛み合っている。ステアリングギヤ88は、ピニオン88aに伝達された回転運動をラック88bで直進運動に変換する。ラック88bは、タイロッド89に連結される。ラック88bが移動することで車輪の角度が変化する。
【0027】
中間シャフト85は、第1ユニバーサルジョイント84と接合されるインナシャフト1と、第1ユニバーサルジョイント84と接合されるアウタチューブ2と、を備える。インナシャフト85aは、アウタチューブ85bに摺動自在に支持されている。よって、中間シャフト85は、車両の振動により長さ方向に伸縮し、車体に歪を吸収する(
図2の矢印A1参照)。また、キャブチルトにより運転席が前方に持ち上がった場合(
図2の矢印A2参照)、中間シャフト85は、長さ方向に短縮する。次に、インナシャフト1と第1ユニバーサルジョイント84のヨーク3とを接合してなるヨーク一体型シャフト4について説明する。なお、本実施形態において、インナシャフト1が入力軸となっており、アウタチューブ2が出力軸となっているが、本開示のヨーク一体型シャフトは、出力軸のインナシャフトに適用してもよい。
【0028】
図3は、実施形態1のヨーク一体型シャフトを径方向外側から視た全体図である。
図4は、実施形態1のインナシャフトとヨークとを組み合わせる前の斜視図である。
図5は、
図3のV-V線の矢視断面図である。
図6は、実施形態1のアダプタのみを抽出して斜視した斜視図である。
図7は、
図8のVII-VII線の矢視断面図である。
図8は、実施形態1のヨーク一体型シャフトを第1方向から視た図である。
図9は、
図8のIX-IX線の矢視断面図である。
図10は、
図8のX-X線の矢視断面図である。
図11は、実施形態1のヨーク一体型シャフトのカシメ作業前の状態を示す図である。
図12は、実施形態1のヨーク一体型シャフトにおいて治具で潰した状態を示す図である。
【0029】
図3に示すように、ヨーク一体型シャフト4は、インナシャフト1と、ヨーク3と、アダプタ50と、溶接部5(
図8、
図9を参照)と、カシメ部15(
図8、
図10を参照)と、を備える。インナシャフト1とヨーク3とアダプタ50は、機械構造用炭素鋼(Carbon Steel for Machine Structural Use)で製造されている。以下、インナシャフト1の軸Xと平行な方向を軸方向と呼ぶ。インナシャフト1の軸方向の中央部から視てヨーク3が配置される方向を第1方向X1と呼び、ヨーク3が配置されていない方向を第2方向X2と呼ぶ。
【0030】
図3に示すように、インナシャフト1は、アダプタ50に嵌合される嵌合部10と、アダプタ50から第2方向X2に延在する軸部20と、を備える。軸部20は、アウタチューブ2に摺動自在に支持される部分である。よって、軸部20がアウタチューブ2に収容される軸方向の長さが増加すると、中間シャフト85が短縮する。
【0031】
軸部20は、アウタチューブ2との摺動性を確保するため、軸部20の外周面を被覆する樹脂製のコーティング層25を有している。このコーティング層25は、インナシャフト1とアダプタ50とヨーク3とを組み合わせる前からインナシャフト1を被覆している。また、コーティング層25の第1方向X1の端部25aは、嵌合部10の近傍に位置しており、コーティング層25は、軸部20の略全体を被覆している。
【0032】
図4に示すように、インナシャフト1は、断面が十字形状となっている。よって、嵌合部10は、軸Xを中心に径方向外側に突出する4つの第1突起11を備える(
図5を参照)。また、軸部20は、第1突起11と軸方向に連続する4つの第2突起21を備える。第2突起21は、第1突起11よりも径方向外側への突出量が大きい。よって、インナシャフト1は、嵌合部10と軸部20との境界で第1方向X1を向く突き当て面22を有している。
【0033】
図5に示すように、第1突起11は、径方向外側を向く外向面12と、周方向を向く一対の13、13を備える。第1突起11の周面13は、径方向内端が隣り合う第1突起11の周面13と連続している。そして、周方向に隣り合う2つの周面13、13が連続する部位は、隅部16となっている。
【0034】
図4に示すように、ヨーク3は、基部30と、基部30から第1方向X1に突出する一対のアーム31、31を備える。基部30は、環状体であり、貫通孔32を備える。基部30は、第1方向X1を向く第1面33と、第2方向X2を向く第2面34と、貫通孔32を囲む内周面35と、を備える。基部30の内周面35は、雌セレーション部37を有している。第1面33は、内周面35との境界に、第2方向X2に窪む環状の内縁部36を有している(
図7を参照)。
【0035】
一対のアーム31、31は、基部30の第1面33に設けられている。
図3に示すように、アーム31は、軸Xを中心に径方向に貫通する円形状の円形孔31aを有する。円形孔31aには、第1ユニバーサルジョイント84の図示しない十字軸が挿入される。以下、円形孔31aの中心線Oと平行な方向を第3方向Yと呼ぶ。また、軸方向と第3方向Yとのそれぞれに直交する方向を第4方向Zと呼ぶ。
【0036】
アダプタ50は、インナシャフト1とヨーク3とを接続するための部品である。
図6に示すように、アダプタ50は、中央部を軸方向に貫通する貫通孔51を有し、筒状を成している。アダプタ50の貫通孔51は、軸方向から視て十字形状となっており、インナシャフト1の嵌合部10と同形状となっている。また、アダプタ50は、外周面に設けられた雄セレーション部52と、第1方向X1を向く第1アダプタ面53と、第2方向X2を向く第2アダプタ面54と、フランジ55と、を備える。
【0037】
図4の矢印A3に示すように、アダプタ50は、基部30の第2面34の方から、貫通孔32に挿入されている。そして、
図5に示すように、雄セレーション部52が基部30の雌セレーション部37とセレーション嵌合している。
【0038】
図4の矢印A4に示すように、アダプタ50の第2方向X2から、アダプタ50の貫通孔51にインナシャフト1の嵌合部10が挿入されている。これにより、アダプタ50に嵌合部10が嵌合している(
図5を参照)。以下、アダプタ50において、第1突起11の外向面12の径方向外側に配置された円弧状の部位を肉薄部56という。また、アダプタ50において、肉薄部56の間から径方向内側に突出し、2つの第1突起11の間に入り込んでいる扇状の部位を肉厚部57という。肉薄部56は、径方向の厚みが肉厚部57よりも薄い。
【0039】
図9に示すように、インナシャフト1の挿入時、インナシャフト1の突き当て面22が第2アダプタ面54に突き当たる。よって、アダプタ50に対するインナシャフト1の軸方向の位置決めが容易となる。なお、アダプタ50の挿入時、アダプタ50のフランジ55が基部30の第2面34と突き当たる。基部30に対するアダプタ50の軸方向の位置決めが容易となる。
【0040】
また、第1方向X1を向く、インナシャフト1の第1端面14と、アダプタ50の第1アダプタ面53と、基部30の第1面との関係について、
図7に示すように、第1アダプタ面53は、基部30の第1面33よりも第1方向X1に配置されている。また、インナシャフト1の第1方向X1の第1端面14は、第1アダプタ面53よりも第1方向X1に配置されている。
【0041】
また、
図8に示すように、基部30の第1面33側には、溶接部5と、カシメ部15と、が設けられている。溶接部5は、基部30とアダプタ50とを接合するためのものである。溶接部5は、周方向に等間隔に配置され、合計で4つ設けられている。溶接部5の第1方向X1の表面は、第1面33の内周縁と第1アダプタ面53の外周縁との間から露出している。言い換えると、溶接部5は、基部30の第1面33の内縁部36と、アダプタ50の第1アダプタ面53と、の境界を、基部30の第1方向X1から熱を加えることで生成されている。
【0042】
溶接部5は、アダプタ50のうち肉薄部56に沿って設けられており、円弧状となっている。また、肉薄部56は径方向の厚みが小さいため、
図9に示すように、溶接による溶け込み(溶接部5)は、肉薄部56に隣り合う嵌合部10の外向面12に到達している。よって、溶接部5は、アダプタ50とインナシャフト1も接合し、アダプタ50に対するインナシャフト1の固定強度が高い。
【0043】
図8に示すように、カシメ部15は、内周カシメ部17と、内周カシメ部17よりも外周側に位置する外周カシメ部58と、を有している。内周カシメ部17は、インナシャフト1の第1端面14を潰し、径方向外側に変形させることで生成されている。外周カシメ部58は、アダプタ50の第1アダプタ面53を潰し、径方向外側に変形させることで生成されている。
図10に示すように、内周カシメ部17は、アダプタ40の第1アダプタ面53に当接している。外周カシメ部58は、基部30の第1面33の内縁部36に当接している。
【0044】
図8に示すように、内周カシメ部17は、第1端面14のうち、嵌合部10の隅部16に設けられている。よって、内周カシメ部17は、アダプタ50の第1アダプタ面53のうち、肉厚部57に当接している。また、外周カシメ部58は、肉厚部57の外縁をカシメている。以上から、外周カシメ部58とは、軸Xから径方向に延びて内周カシメ部17を通過する仮想直線Lと重なっている。次に、カシメ方法について説明する。
【0045】
図11に示すように、治具60は、第2方向X2を向く基準面61と、基準面61よりも第2方向X2に突出する第1突出部62と、第1突出部62よりも第2方向X2に突出する第2突出部63と、を有している。そして、治具60の第1突出部62を、嵌合部10の隅部16に対向させる。また、第2突出部63を肉厚部57の外縁に対向させる。次に、
図12に示すように、治具60を第2方向X2に移動させ、治具60で嵌合部10の隅部16と肉厚部57の外縁とを潰す。これにより、嵌合部10の隅部16が変形して内周カシメ部17となり、肉厚部57の外縁が変形して外周カシメ部58となる。
【0046】
なお、
図11に示すように、肉厚部57のうち、内周カシメ部17が当接する範囲は、治具60で潰されない範囲となっている。仮に、径方向の厚みが小さい肉薄部56を潰して外周カシメ部58を生成しようとすると、外周カシメ部58を形成するために潰す範囲と、内周カシメ部17が当接する範囲とが、重なってしまい、同時に作業できない。つまり、一旦、肉薄部56を潰して外周カシメ部58を生成した後、第1端面14を潰して内周カシメ部17を肉薄部56に当接させる必要がある。よって、実施形態1によれば、一度のカシメ作業で内周カシメ部17と外周カシメ部58を同時に生成することができる。
【0047】
以上、実施形態1のヨーク一体型シャフト4は、一端が第1方向X1を指し、他端が第2方向X2を指すシャフト(インナシャフト1)と、シャフト(インナシャフト1)の一端の外側に嵌められる筒状のアダプタ50と、アダプタ50の外側に嵌められるヨーク3と、を備える。シャフト(インナシャフト1)は、シャフト(インナシャフト1)の一端に位置し、アダプタ50に嵌合する嵌合部10と、嵌合部10から第2方向X2に延び、アウタチューブ2に摺動自在に支持される軸部20と、を有する。シャフト(インナシャフト1)は、外周面を覆う樹脂製のコーティング層25を有する。ヨーク3は、軸方向に貫通する円形状の貫通孔32を有する環状の基部30と、基部30から第1方向X1に突出する一対のアーム31、31と、を備える。アダプタ50の外周面は、径方向外側に突出する凸部を有する。基部30の内周面35は、凸部と周方向に係合する凹部を有する。凸部は、雄セレーション部52である。凹部は、雌セレーション部37である。アダプタ50の外周面と基部30の内周面35は、セレーション嵌合している。
【0048】
実施形態1のヨーク一体型シャフト4によれば、嵌合部10と基部30との間には、アダプタ50が介在している。基部30や嵌合部10に発生した熱は、アダプタ50に吸収され、軸部20に伝達する熱量が低減する。このため、コーティング層25の溶融が抑制される。よって、コーティング層25をヨーク3の近くまで配置でき、シャフト(インナシャフト1)のスライド有効長が長くなる。また、基部30とアダプタ50とがセレーション嵌合しているため、確実にトルクが伝達する。
【0049】
また、実施形態1の基部30は、第1方向X1を向く第1面33と、を有する。アダプタ50は、第1方向X1を向く第1アダプタ面53と、第1面33に当接する外周カシメ部58と、を有する。シャフト(インナシャフト1)は、第1方向X1を向く第1端面14と、第1アダプタ面53に当接する内周カシメ部17と、を有する。
【0050】
これによれば、ヨーク3に対し、アダプタ50及びインナシャフト1が第2方向X2に脱落しない。
【0051】
また、実施形態1のシャフト(インナシャフト1)の嵌合部10は、軸Xを中心に径方向外側に突出する4つの第1突起11と、2つの第1突起11が連続する部分である隅部16と、を有する。内周カシメ部17は、隅部16の一部である。外周カシメ部58は、軸方向から視て、軸Xから径方向に延びて内周カシメ部17を通過する仮想直線Lと重なっている。
【0052】
外周カシメ部58と内周カシメ部17とを同時に生成することができ、ヨーク一体型シャフト4の生産効率が向上する。
【0053】
また、実施形態1のヨーク一体型シャフト4は、基部30とアダプタ50を溶接して生成される溶接部5を有する。溶接部5の第1方向X1の表面は、第1面33の内周縁と第1アダプタ面53の外周縁との間から露出している。
【0054】
溶接部5により、ヨーク3とアダプタ50との固定強度が向上する。溶接部5は、基部30の第1面33の方に設けられている。このため、溶接時に発生するスパッタは、コーティング層25に付着し難い。また、溶接時の熱は、アダプタ50に吸収され、コーティング層25に伝達され難い。よって、コーティング層25の溶融が抑制される。
【0055】
また、実施形態1の溶接部5は、基部30とアダプタ50と嵌合部10を溶接して生成される。
【0056】
これによれば、アダプタ50とシャフト(インナシャフト1)との固定強度が向上する。
【0057】
次に、実施形態1のヨーク一体型シャフト4の変形例を説明する。なお、以下の説明においては、上述した実施形態1で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0058】
(変形例1)
図13は、変形例1のヨーク一体型シャフトを軸Xに沿って切った断面図である。
図13に示すように、変形例1のヨーク一体型シャフト4Aは、アダプタ50に代えてアダプタ50Aを備える点において、実施形態1のヨーク一体型シャフト4と異なる。アダプタ50Aにおける肉薄部56Aの径方向の厚みは、実施形態1の肉薄部56よりも大きい。このため、溶接時の溶け込みが、第1突起11に到達していない。つまり、溶接部5Aは、アダプタ50Aと基部30のみを接合している。これによれば、第1突起11に溶け込みが到達していないため、溶接時に伝達される熱が大きく低減する。よって、コーティング層25の溶融を確実に抑制することができる。
【0059】
(変形例2)
図14は、変形例2のヨーク一体型シャフトを第1方向から視た図である。
図14に示すように、変形例2のヨーク一体型シャフト4Bは、溶接部5を備えていない点で、実施形態1のヨーク一体型シャフト4と異なる。この変形例2のヨーク一体型シャフト4Bによれば、内周カシメ部17(
図10参照)がアダプタ50の第1アダプタ面53に当接し、インナシャフト1は、アダプタ50から離脱し難い。また、外周カシメ部58(
図10参照)が基部30の第1面33に当接し、アダプタ50は、ヨーク3から離脱し難い。また、変形例2のヨーク一体型シャフト4Bによれば、溶接による熱やスパッタでコーティング層25が溶融する可能性がない。以上から、変形例1、変形例2で説明したように、本開示のヨーク一体型シャフトにおいて溶接部5、5Aは必須の構成でない。
【0060】
(変形例3)
図15は、変形例3のアダプタの斜視図である。
図16は、変形例3のヨーク一体型シャフトを軸Xに沿って切った断面図である。
図17は、変形例3のヨーク一体型シャフトを治具でカシメる場合の状態を示す図である。
図15に示すように、変形例3のヨーク一体型シャフト4Cは、アダプタ50に代えてアダプタ50Cを備える点で、実施形態1のヨーク一体型シャフト4と相違する。アダプタ50Cの肉厚部57Cは、外周部57aと、内周部57bと、を備える。外周部57aは、円弧状を成し、肉薄部56と一体となって円形状を成している。また、内周部57bの第1方向X1の端面は、外周部57aによりも第2方向X2に位置し、窪んでいる。
【0061】
図16に示すように、外周部57aには、外周カシメ部58が設けられている。また、内周部57bには、インナシャフト1の内周カシメ部17が当接している。そして、この変形例3のヨーク一体型シャフト4Cによれば、内周部57bが外周部57aよりも第2方向X2に窪んでいるため、アダプタ50から第1方向X1に突出するインナシャフト1の突出量を抑えることができる。
【0062】
また、変形例3のヨーク一体型シャフト4Cであっても、一度のカシメ作業により、2つのカシメ部(内周カシメ部17と外周カシメ部58)を生成することができる。
図17に示すように、治具70は、第2方向X2を向く基準面71と、基準面71よりも第2方向X2に突出する第1突出部72と、第1突出部72に対し径方向外側に位置し第2方向X2に突出する第2突出部73と、を有している。
【0063】
そして、治具70の第1突出部72を、嵌合部10の隅部16に対向させる。また、第2突出部73を肉厚部57の外周部57aに対向させる。次に、矢印A6に示すように、治具70を第2方向X2に移動させ、治具70で嵌合部10の隅部16と肉厚部57の外周部57aの外縁とを潰す。これにより、嵌合部10の隅部16は径方向外側に変形し、内周カシメ部17となる。また、肉厚部57の外周部57aは径方向外側に変形し、外周カシメ部58となる。よって、変形例3のヨーク一体型シャフト4Cであっても生産効率の向上を図ることができる。
【0064】
以上、実施形態1と、変形例1から変形例3とについて説明したが、本開示のヨーク一体型シャフトは、実施形態及び変形例に示した例に限定されない。例えば、実施形態及び変形例では、ヨーク一体型シャフトのシャフトとして、中間シャフト85のインナシャフト1に適用しているが、本開示のヨーク一体型シャフトは、他のシャフトに適用してもよい。
【0065】
また、ヨーク3からアダプタ50に確実にトルクを伝達するため、アダプタ50の外周面と基部30の内周面35とがセレーション嵌合しているが、本開示のヨーク一体型シャフトはこれに限定されない。本開示のヨーク一体型シャフトにおいて、アダプタ50の外周面は、径方向外側に突出する凸部を有し、基部30の内周面35は、凸部と周方向に係合する凹部を有していればよい。つまり、実施形態の雄セレーション部は、凸部の一例であり、実施形態の雌セレーション部は、凹部の一例である。よって、アダプタ50の外周面は4つの凸部を有し、基部30の内周面35は4つの凹部を有し、アダプタ50と基部30とが十字嵌合していてもよい。または、アダプタ50の外周面は1つの凸部を有し、基部30の内周面35は1つの凹部を有してもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 インナシャフト(シャフト)
2 アウタチューブ
3 ヨーク
4、4A、4B、4C ヨーク一体型シャフト
5、5A 溶接部
10 嵌合部
11 第1突起
12 外向面
13 周面
15 カシメ部
17 内周カシメ部
20 軸部
21 第2突起
25 コーティング層
30 基部
31 アーム
32 貫通孔
33 第1面
34 第2面
35 内周面
37 雌セレーション部(凹部)
50 アダプタ
51 貫通孔
52 雄セレーション部(凸部)
55 フランジ
56 肉薄部
57 肉厚部
58 外周カシメ部
80 ステアリング装置
84 第1ユニバーサルジョイント
85 中間シャフト
86 第2ユニバーサルジョイント