(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】ステアリングシャフト
(51)【国際特許分類】
B62D 1/20 20060101AFI20241114BHJP
F16J 3/04 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
B62D1/20
F16J3/04 B
(21)【出願番号】P 2020204503
(22)【出願日】2020-12-09
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森山 誠一
(72)【発明者】
【氏名】小池 康男
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-162338(JP,A)
【文献】特開2015-021556(JP,A)
【文献】特開2002-002549(JP,A)
【文献】特開2019-166874(JP,A)
【文献】国際公開第2005/068277(WO,A1)
【文献】特開2018-065463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/16
F16C 3/03
F16D 1/02
F16J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に第1歯部を有し且つ中心軸に沿った軸方向に延びるインナーシャフトと、
内周面に第2歯部を有し且つ前記第1歯部の外周側に配置されるアウターシャフトと、
前記第1歯部と前記第2歯部との間に配置され
且つ前記中心軸の軸回り方向に沿って環状に延びる樹脂層と、
前記アウターシャフトの外周側に設けられ
且つ前記中心軸の軸回り方向に沿って環状に延びる断熱材と、
前記断熱材の外周側に設けられ
て前記断熱材の熱の反射率よりも高い反射率を有
し且つ前記中心軸の軸回り方向に沿って環状に延びる遮熱材と、を備え、
前記断熱材および前記遮熱材は、径方向から見た場合に前記樹脂層と重なる、
ステアリングシャフト。
【請求項2】
前記アウターシャフトの外周側には、前記断熱材および前記遮熱材に対して軸方向で異なる位置に環状のホールカバーが設けられ、
前記遮熱材の外径は、前記ホールカバーの内径よりも大きい、
請求項1に記載のステアリングシャフト。
【請求項3】
前記断熱材および前記遮熱材は、固定部材を介して前記アウターシャフトに固定される、
請求項1または2に記載のステアリングシャフト。
【請求項4】
前記固定部材は、前記アウターシャフトに設けられるダストシールである、
請求項3に記載のステアリングシャフト。
【請求項5】
前記固定部材は、前記遮熱材の外周面に沿う大径部と、前記アウターシャフトの外周面に沿う小径部と、前記アウターシャフトと前記インナーシャフトとの間の隙間を塞ぐリップ部と、を含む、
請求項4に記載のステアリングシャフト。
【請求項6】
前記固定部材は、前記遮熱材の外周面の周方向全周に亘って延び且つ当該外周面に接する環状部材である、
請求項3に記載のステアリングシャフト。
【請求項7】
前記固定部材は、前記アウターシャフトに設けられ前記遮熱材または前記断熱材の軸方向端部に対向するスナップリングである、
請求項3に記載のステアリングシャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ステアリングシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、操作者(運転者)のステアリングホイールに対する操作を車輪に伝えるための装置としてステアリング装置が設けられている(例えば、特許文献1参照)。ステアリング装置は、回転トルクを伝えるステアリングシャフトを備える。ステアリングシャフトは、外周に第1歯部を有するインナーシャフトと、内周に第2歯部を有するアウターシャフトと、第1歯部の外周面に設けられた樹脂層と、を備える。樹脂層を設けることにより、第1歯部と第2歯部との摺動抵抗が小さくなる。なお、樹脂層の外周面にグリースを塗布して更に摺動抵抗を小さくする場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂層は、高温になると熱変形しやすい。特許文献1に記載のステアリングシャフトが高温の環境に晒されると、第1歯部に設けられた樹脂層が熱変形する可能性がある。さらに近年は、例えばターボ過給機等の輻射熱によってステアリングシャフトがより高温環境下におかれる状況にある。これにより、樹脂層が熱変形を起こし、第1歯部と第2歯部との摺動抵抗が大きくなる可能性がある。
【0005】
本開示は、前記の課題に鑑みてなされたものであって、インナーシャフトの歯部とアウターシャフトの歯部との間の摺動抵抗をより低減することが可能なステアリングシャフトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するため、本開示の一態様のステアリングシャフトは、外周面に第1歯部を有し且つ中心軸に沿った軸方向に延びるインナーシャフトと、内周面に第2歯部を有し且つ前記第1歯部の外周側に配置されるアウターシャフトと、前記第1歯部と前記第2歯部との間に配置される樹脂層と、前記アウターシャフトの外周側に設けられる断熱材と、前記断熱材の外周側に設けられ且つ前記断熱材の熱の反射率よりも高い反射率を有する遮熱材と、を備え、前記断熱材および前記遮熱材は、径方向から見た場合に前記樹脂層と重なる。なお、本開示のインナーシャフトとアウターシャフトは、スプライン嵌合及びセレーション嵌合のいずれにも適用可能である。
【0007】
このように、本開示では、断熱材と遮熱材とが、径方向から見た場合に樹脂層と重なる。このため、特許文献1に記載のステアリングシャフトと比較すると、ステアリングシャフトに対して熱が加わった場合に、断熱材および遮熱材によって樹脂層の温度の上昇を抑制することができる。従って、本開示では、樹脂層の熱変形が抑えられ、インナーシャフトの歯部とアウターシャフトの歯部との間の摺動抵抗をより低減することが可能となる。なお、インナーシャフトおよびアウターシャフトが金属製の場合は、ステアリングシャフトに熱が加わった場合、インナーシャフトおよびアウターシャフトよりも樹脂層の方が大きく熱膨張するため、樹脂層と第1歯部または第2歯部との摺動抵抗が大きくなる。従って、断熱材および遮熱材によって樹脂層の温度の上昇を抑制することで、樹脂層と第1歯部または第2歯部との摺動抵抗をさらに低減することができる。
【0008】
前記ステアリングシャフトの望ましい態様として、前記アウターシャフトの外周側には、前記断熱材および前記遮熱材に対して軸方向で異なる位置に環状のホールカバーが設けられ、前記遮熱材の外径は、前記ホールカバーの内径よりも大きい。従って、ホールカバーが軸方向に移動した場合に、ホールカバーの内周が遮熱材の外周に当たるため、ホールカバーがアウターシャフトから抜けることが抑制される。
【0009】
前記ステアリングシャフトの望ましい態様として、前記断熱材および前記遮熱材は、固定部材を介して前記アウターシャフトに固定される。従って、断熱材および遮熱材の軸方向の位置が固定されるため、断熱材および遮熱材で樹脂層の温度の上昇をより抑制することが可能となる。
【0010】
前記ステアリングシャフトの望ましい態様として、前記固定部材は、前記アウターシャフトに設けられるダストシールである。このダストシールによって、アウターシャフトとインナーシャフトとの間からごみ等の侵入が抑制されると共に、断熱材および遮熱材の軸方向の位置が固定される。
【0011】
前記ステアリングシャフトの望ましい態様として、前記固定部材は、前記遮熱材の外周面に沿う大径部と、前記アウターシャフトの外周面に沿う小径部と、前記アウターシャフトと前記インナーシャフトとの間の隙間を塞ぐリップ部と、を含む。大径部および小径部によって断熱材および遮熱材をアウターシャフトに固定し、リップ部によってアウターシャフトとインナーシャフトとの間の隙間を塞ぐことができる。
【0012】
前記ステアリングシャフトの望ましい態様として、前記固定部材は、前記遮熱材の外周面の周方向全周に亘って延び且つ当該外周面に接する環状部材である。これにより、固定部材によって遮熱材および断熱材を固定することができるため、遮熱材および断熱材をアウターシャフトに取り付ける力を適宜調整することができる。
【0013】
前記ステアリングシャフトの望ましい態様として、前記固定部材は、前記アウターシャフトに設けられ前記遮熱材の軸方向端部に対向するスナップリングである。これにより、スナップリングをアウターシャフトの外周面に挟み込むという簡単な作業でアウターシャフトにスナップリングを取り付けることができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、インナーシャフトの歯部とアウターシャフトの歯部との間の摺動抵抗をより低減することが可能なステアリングシャフトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施形態に係るステアリング装置の概略を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るステアリング装置の概略を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2のロアシャフト、ホールカバーおよびユニバーサルジョイントを示す斜視図である。
【
図7】
図7は、第1変形例によるロアシャフト、ホールカバーおよびユニバーサルジョイントを示す斜視図である。
【
図11】
図11は、第2変形例によるロアシャフト、ホールカバーおよびユニバーサルジョイントを示す斜視図である。
【
図15】
図15は、第3変形例によるロアシャフト、ホールカバーおよびユニバーサルジョイントを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0017】
[実施形態]
図1は、実施形態に係るステアリング装置の概略を示す模式図である。
図2は、実施形態に係るステアリング装置の概略を示す斜視図である。
【0018】
図1及び
図2に示すように、ステアリング装置80は、操作者から与えられる力が伝達する順に、ステアリングホイール81と、アッパーシャフト82と、操舵力アシスト機構83と、ユニバーサルジョイント84と、ロアシャフト(ステアリングシャフト)1と、ユニバーサルジョイント86と、を備え、ピニオンシャフト87に接合されている。また、ステアリング装置80は、ECU(Electronic Control Unit)90と、トルクセンサ94とを備える。車速センサ95は、車体に備えられ、CAN(Controller Area Network)通信により車速信号VをECU90に出力する。
【0019】
アッパーシャフト82は、入力軸82aと、出力軸82bとを備える。入力軸82aの一方の端部がステアリングホイール81に連結され、入力軸82aの他方の端部が出力軸82bに連結される。また、出力軸82bの一方の端部が入力軸82aに連結され、出力軸82bの他方の端部がユニバーサルジョイント84に連結される。本実施形態では、入力軸82a及び出力軸82bは、機械構造用炭素鋼(SC材(Carbon Steel for Machine Structural Use))又は機械構造用炭素鋼鋼管(いわゆるSTKM材(Carbon Steel Tubes for Machine Structural Purposes))等の一般的な鋼材等から形成される。
【0020】
ロアシャフト(ステアリングシャフト)1は、ユニバーサルジョイント84を介して出力軸82bに連結される部材である。ロアシャフト1の外周には、ホールカバー7が取り付けられる。ロアシャフト1の一方の端部がユニバーサルジョイント84に連結され、他方の端部がユニバーサルジョイント86に連結される。ピニオンシャフト87の一方の端部がユニバーサルジョイント86に連結され、ピニオンシャフト87の他方の端部がステアリングギヤ88に連結される。
【0021】
ステアリングギヤ88は、ピニオン88aと、ラック88bとを備える。ピニオン88aは、ピニオンシャフト87に連結される。ラック88bは、ピニオン88aに噛み合う。ステアリングギヤ88は、ピニオン88aに伝達された回転運動をラック88bで直進運動に変換する。ラック88bは、タイロッド89に連結される。すなわち、ステアリング装置80は、ラックアンドピニオン式である。
【0022】
操舵力アシスト機構83は、減速装置92と、電動モータ93とを備える。電動モータ93は、例えばブラシレスモータであるが、ブラシ(摺動子)及びコンミテータ(整流子)を備えるモータであってもよい。減速装置92は、例えばウォーム減速装置である。電動モータ93で生じたトルクは、減速装置92の内部のウォームを介してウォームホイールに伝達され、ウォームホイールを回転させる。減速装置92は、ウォーム及びウォームホイールによって、電動モータ93で生じたトルクを増加させる。そして、減速装置92は、出力軸82bに補助操舵トルクを与える。すなわち、ステアリング装置80は、コラムアシスト方式である。
【0023】
トルクセンサ94は、ステアリングホイール81を介して入力軸82aに伝達された操作者の操舵力を操舵トルクとして検出する。車速センサ95は、ステアリング装置80が搭載される車体の走行速度(車速)を検出する。電動モータ93、トルクセンサ94及び車速センサ95は、ECU90と電気的に接続される。
【0024】
ECU90は、電動モータ93の動作を制御する。また、ECU90は、トルクセンサ94及び車速センサ95のそれぞれから信号を取得する。すなわち、ECU90は、トルクセンサ94から操舵トルクTを取得し、且つ車速センサ95から車体の車速信号Vを取得する。ECU90は、イグニッションスイッチ98がオンの状態で、電源装置(例えば車載のバッテリ)99から電力が供給される。ECU90は、操舵トルクTと車速信号Vとに基づいてアシスト指令の補助操舵指令値を算出する。そして、ECU90は、その算出された補助操舵指令値に基づいて電動モータ93へ供給する電力値Xを調節する。ECU90は、電動モータ93から誘起電圧の情報又は電動モータ93に設けられたレゾルバ等から出力される情報を動作情報Yとして取得する。
【0025】
ステアリングホイール81に入力された操作者(運転者)の操舵力は、入力軸82aを介して操舵力アシスト機構83の減速装置92に伝わる。この時、ECU90は、入力軸82aに入力された操舵トルクTをトルクセンサ94から取得し、且つ車速信号Vを車速センサ95から取得する。そして、ECU90は、電動モータ93の動作を制御する。電動モータ93が作り出した補助操舵トルクは、減速装置92に伝えられる。
【0026】
出力軸82bを介して出力された操舵トルク(補助操舵トルクを含む)は、ユニバーサルジョイント84を介してロアシャフト(ステアリングシャフト)1に伝達され、さらにユニバーサルジョイント86を介してピニオンシャフト87に伝達される。ピニオンシャフト87に伝達された操舵力は、ステアリングギヤ88を介してタイロッド89に伝達され、車輪を変位させる。
【0027】
図3は、
図2のロアシャフト、ホールカバーおよびユニバーサルジョイントを示す斜視図である。
図4は、
図3の分解斜視図である。
図5は、
図3の側面図である。
図6は、
図5のVI-VI線による断面図である。
【0028】
図3に示すように、ロアシャフト(ステアリングシャフト)1は、インナーシャフト2と、アウターシャフト3と、樹脂層4(
図6参照)と、ユニバーサルジョイント84と、を備える。インナーシャフト2とアウターシャフト3とは、中心軸Axの軸方向に沿って延びる。ロアシャフト(ステアリングシャフト)1における軸方向の一方側は、
図2のユニバーサルジョイント86側であり、ロアシャフト(ステアリングシャフト)1における軸方向の他方側は、
図2のユニバーサルジョイント84側である。
【0029】
ユニバーサルジョイント84は、アウターシャフト3の端部に連結される。具体的には、ユニバーサルジョイント84の端部には、貫通孔が設けられる。また、アウターシャフト3の端部は、ヨーク部31を備える。ヨーク部31は二股に分岐して分岐した部分には貫通孔が設けられる。ユニバーサルジョイント84の端部の貫通孔およびヨーク部31の貫通孔に、スパイダー311が挿入および嵌合されることにより、ユニバーサルジョイント84がアウターシャフト3に連結される。
【0030】
図6に示すように、インナーシャフト2は、小径部23と、大径部22と、を備える。インナーシャフト2は、例えば炭素鋼などの金属を広く適用することができる。インナーシャフト2は、筒状の中空部材であり、中心軸Axの軸方向に沿って貫通孔21が設けられる。小径部23の直径は、大径部22の直径よりも小さい。大径部22の外周面には、第1歯部24を備える。第1歯部24は、大径部22の外周面に周方向に沿って等間隔に複数配置されている。第1歯部24の外周面には、樹脂層4が設けられる。樹脂層4は、例えば80度以下の温度環境で使用されることが望ましい。
【0031】
アウターシャフト3は、小径部32と、傾斜部34と、大径部33と、を備える。アウターシャフト3は、例えば炭素鋼などの金属を広く適用することができる。アウターシャフト3は、筒状の中空部材であり、中心軸Axの軸方向に沿って延びる。
【0032】
小径部32は、軸方向の一方側の端320から他方側の端321まで延びている。傾斜部34は、端321から端341まで延びている。大径部33は、端341からヨーク部31まで延びている。小径部32の内径は、大径部33の内径よりも小さい。傾斜部34の内径は、端321から端341まで向かうに従って大きくなる。
【0033】
小径部32の内周面には、第2歯部35が周方向に沿って等間隔に複数配置されている。第2歯部35は、第1歯部24の外周側に配置される。なお、樹脂層4は、第2歯部35の内周側に設けてもよい。
【0034】
小径部32の外周側には、断熱材5および遮熱材6が設けられる。断熱材5は、内周面51と、外周面52と、軸方向端53と、軸方向端54と、を備える。断熱材5は、例えばガラスウールまたはセルロースファイバーなどが適用可能である。断熱材5は、中心軸Axの軸回りの周方向に沿って延びる円筒形状を有する。実施形態では、断熱材5の内周面51は小径部32の外周面に接しているが、断熱材5の内周面51と小径部32の外周面との間に間隙があってもよい。断熱材5は、アウターシャフト3の外周側で且つ樹脂層4の外周側に設けられる。換言すると、径方向から見て、断熱材5の少なくとも一部が樹脂層4と重なっている。
【0035】
断熱材5の外周側には、遮熱材6が設けられる。換言すると、径方向から見て、遮熱材6の少なくとも一部が樹脂層4と重なっている。遮熱材6は、内周面および外周面と、軸方向端61と、軸方向端62と、を備える。遮熱材6は、例えば薄肉のアルミニウム板または薄肉のステンレス鋼などが適用可能である。遮熱材6の熱の反射率は、断熱材5の熱の反射率よりも高い。断熱材5の軸方向端53と遮熱材6の軸方向端61とは軸方向で同一の位置に配置され、断熱材5の軸方向端54と遮熱材6の軸方向端62とは軸方向で同一の位置に配置される。このように、断熱材5と遮熱材6とは、径方向に二層構造に形成されている。
【0036】
ここで、アウターシャフト3の小径部32の端320には、固定部材9が設けられる。固定部材9は、中心軸Axを中心とする円環状である。固定部材9は、リップ部91と、径方向部96と、屈曲部97と、を備える。固定部材9は、具体的には、ダストシールである。屈曲部97は、軸方向および周方向に延びる。径方向部96は、屈曲部97の軸方向の一方側の軸方向端から径方向内側に向けて(内周側に向けて)延びる。リップ部91は、インナーシャフト2の小径部23の外周面に接している。これにより、リップ部91は、インナーシャフト2とアウターシャフト3との隙間を塞ぐ。また、屈曲部97は、断熱材5の軸方向端53と遮熱材6の軸方向端61と同一の位置に配置される。屈曲部97は、軸方向の他方側に向けて延びている。断熱材5を軸方向の一方側から他方側に向けて挿入する場合に、屈曲部97は断熱材5の挿入を阻害しない。断熱材5に対して軸方向の他方側から一方側に向けて力が加わった場合に、屈曲部97がいわゆる抜け止め用の反り爪の作用を有する。なお、断熱材5の軸方向端54は、小径部32の端321と軸方向で同一の位置に設けられる。つまり、端321は、小径部32と傾斜部34との境界であるため、屈曲部分でもある。従って、断熱材5の軸方向端54は、小径部32と傾斜部34との屈曲部分で軸方向に支持されている。
【0037】
アウターシャフト3の大径部33の外周側には、環状のホールカバー7が設けられる。ホールカバー7は、断熱材5および遮熱材6に対して軸方向で異なる位置に配置される。本実施形態では、例えば、ホールカバー7は、断熱材5および遮熱材6に対して軸方向の他方側である車体後方側に位置する。即ち、ホールカバー7は、車体の一部であるダッシュパネルに取り付けられている。ダッシュパネルは、車内と車外とを分けているパネルである。よって、ダッシュパネルよりも車体の前方側はエンジンルームであり、ダッシュパネルよりも車体の後方側は車室内である。エンジンルームは、車室内よりも高温となる場合がある。従って、本実施形態では、樹脂層4がエンジンルームに配置された場合に樹脂層4を熱から保護するため、断熱材5および遮熱材6は樹脂層4の外周側であって且つエンジンルームに設けられる。
【0038】
ホールカバー7は、ベローズ71と、ブッシュ72と、第1シール部材73と、第2シール部材74と、ブラケット75と、を備える。ベローズ71は、軸方向に間隔をおいて2枚設けられる。ブッシュ72は、例えば円環状の樹脂製部品であり、大径部33の外周側に配置される。ベローズ71の径方向内側端部は、ブラケット75を介してブッシュ72に固定される。第1シール部材73および第2シール部材74は、可撓性を有する。第1シール部材73は、ブッシュ72の軸方向端部に固定される。第1シール部材73の先端には、リップ部731が設けられ、リップ部731は大径部33の外周面に接している。第2シール部材74は、ブラケット75に固定される。第2シール部材74の先端には、リップ部741が設けられ、リップ部741は大径部33の外周面に接している。ここで、ホールカバー7の内径D2は、ブッシュ72の内径である。また、遮熱材6の外径は、D1である。遮熱材6の外径D1は、ホールカバー7の内径D2よりも大きい。
【0039】
以上の構成を有する実施形態のステアリングシャフト1は、外周面に第1歯部24を有し且つ中心軸Axに沿った軸方向に延びるインナーシャフト2と、内周面に第2歯部35を有し且つ第1歯部24の外周側に配置されるアウターシャフト3と、第1歯部24と第2歯部との間に配置される樹脂層4と、アウターシャフト3の外周側に設けられる断熱材5と、断熱材5の外周側に設けられ且つ断熱材5の熱の反射率よりも高い反射率を有する遮熱材6と、を備え、断熱材5および遮熱材6は、径方向から見た場合に樹脂層4と重なる。なお、前述したように、本開示のインナーシャフト2とアウターシャフト3は、スプライン嵌合及びセレーション嵌合のいずれにも適用可能である。
【0040】
このように、本開示では、断熱材5と遮熱材6とが、径方向から見た場合に樹脂層4と重なる。換言すると、径方向から見た場合の軸方向の位置について、断熱材5の位置と遮熱材6の位置とが重なっている。ここで、「重なっている」とは、少なくとも一部が重なればよいことを意味する。このため、特許文献1に記載のステアリングシャフトと比較すると、実施形態のステアリングシャフト1に対して熱が加わった場合に、断熱材5および遮熱材6によって樹脂層4の温度の上昇を抑制することができる。従って、樹脂層4の熱変形が抑えられ、インナーシャフト2の第1歯部24とアウターシャフト3の第2歯部35との間の摺動抵抗をより低減することが可能となる。なお、インナーシャフト2およびアウターシャフト3が金属製であるため、ステアリングシャフト1に熱が加わった場合、インナーシャフト2およびアウターシャフト3よりも樹脂層4の方が大きく熱膨張するため、樹脂層4と第1歯部24または第2歯部35との摺動抵抗が大きくなる。従って、断熱材5および遮熱材6によって樹脂層4の温度の上昇を抑制することで、樹脂層4と第1歯部24または第2歯部35との摺動抵抗をさらに低減することができる。
【0041】
アウターシャフト3の外周側には、断熱材5および遮熱材6に対して軸方向で異なる位置に環状のホールカバー7が設けられ、遮熱材6の外径D1は、ホールカバー7の内径D2よりも大きい。従って、ステアリングシャフト1が車体に取り付けられる前の状態で、ホールカバー7が軸方向に移動した場合に、ホールカバー7の第1シール部材73またはブッシュ72が遮熱材6に当たる。このため、ホールカバー7がアウターシャフト3から抜けることが抑制される。
【0042】
断熱材5および遮熱材6は、固定部材9を介してアウターシャフト3に固定される。従って、断熱材5および遮熱材6の軸方向の位置が固定されるため、断熱材5および遮熱材6で樹脂層4の温度の上昇をより抑制することが可能となる。
【0043】
[第1変形例]
次に、第1変形例について説明するが、前述した実施形態と同一構造の部位には、同一符号を付けて説明を省略する。
図7は、第1変形例によるロアシャフト、ホールカバーおよびユニバーサルジョイントを示す斜視図である。
図8は、
図7の分解斜視図である。
図9は、
図7の側面図である。
図10は、
図9のX-X線による断面図である。
【0044】
第1変形例のロアシャフト1Aは、実施形態のロアシャフト1に対して固定部材9Aが相違する。また、断熱材5および遮熱材6の軸方向の一方側の端は、アウターシャフト3の小径部32の軸方向の一方側の端に対して、軸方向の他方側にずれて配置される。
【0045】
固定部材9Aは、具体的には、アウターシャフト3に設けられるダストシールである。固定部材9Aは、断熱材5および遮熱材6の軸方向の一方側の端部をアウターシャフト3の軸方向の一方側の端部に固定する。固定部材9Aは、大径部97Aと、小径部96Aと、リップ部91Aと、を含む。大径部97Aは、遮熱材6の外周面に沿って延びる。小径部96Aは、アウターシャフト3の外周面に沿って延びる。リップ部91Aは、アウターシャフト3の小径部32の外周面に接し、アウターシャフト3とインナーシャフト2との間の隙間を塞ぐ。
【0046】
以上の構成を有する第1変形例では、固定部材9Aは、アウターシャフト3に設けられるダストシールである。このダストシールによって、アウターシャフト3とインナーシャフト2との間からごみ等の侵入が抑制されると共に、断熱材5および遮熱材6の軸方向の位置が固定される。
【0047】
固定部材9A(ダストシール)は、遮熱材6の外周面に沿う大径部97Aと、アウターシャフト3の外周面に沿う小径部96Aと、アウターシャフト3とインナーシャフト2との間の隙間を塞ぐリップ部91Aと、を含む。大径部97Aおよび小径部96Aによって断熱材5および遮熱材6をアウターシャフト3に固定し、リップ部91Aによってアウターシャフト3とインナーシャフト2との間の隙間を塞ぐことができる。
【0048】
[第2変形例]
次に、第2変形例について説明するが、前述した実施形態と同一構造の部位には、同一符号を付けて説明を省略する。
図11は、第2変形例によるロアシャフト、ホールカバーおよびユニバーサルジョイントを示す斜視図である。
図12は、
図11の分解斜視図である。
図13は、
図11の側面図である。
図14は、
図13のXIV-XIV線による断面図である。
【0049】
第2変形例のロアシャフト1Bは、実施形態のロアシャフト1に対して固定部材9Bが相違する。また、断熱材5および遮熱材6の軸方向の一方側の端は、アウターシャフト3の小径部32の軸方向の一方側の端に対して、軸方向の他方側にずれて配置される。
【0050】
固定部材9Bは、具体的には、スナップリングである。スナップリングは、例えばばね鋼で形成されCリングとも呼ばれる。スナップリングは、アウターシャフト3に設けられ遮熱材6または断熱材5の軸方向端部に対向する。具体的には、スナップリングは、弾性変形した状態でアウターシャフト3の小径部32の外周面を径方向内側に向けて挟み込む。なお、スナップリングは、遮熱材6または断熱材5の軸方向端部に接してもよい。
【0051】
以上の構成を有する第2変形例では、固定部材9Bは、スナップリングであり、スナップリングは、アウターシャフト3に設けられ遮熱材6または断熱材5の軸方向端部に対向する。これにより、スナップリングをアウターシャフト3の外周面に挟み込むという簡単な作業手順でアウターシャフト3にスナップリングを容易に取り付けることができる。
【0052】
[第3変形例]
次に、第3変形例について説明するが、前述した実施形態と同一構造の部位には、同一符号を付けて説明を省略する。
図15は、第3変形例によるロアシャフト、ホールカバーおよびユニバーサルジョイントを示す斜視図である。
図16は、
図15の分解斜視図である。
図17は、
図15の側面図である。
図18は、
図17のXVIII-XVIII線による断面図である。
【0053】
第3変形例のロアシャフト1Cは、実施形態のロアシャフト1に対して固定部材9Cが相違する。また、遮熱材6Aおよび断熱材5Aには、軸方向に延びるスリット100が設けられる。スリット100は、遮熱材6Aおよび断熱材5Aの厚さ方向の全体を通る。即ち、遮熱材6Aおよび断熱材5Aは、軸方向から見て略C字状である。
【0054】
固定部材9Cは、具体的には、環状部材である。即ち、環状部材は、遮熱材6Aの外周面の周方向全周に亘って延び且つ遮熱材6Aの外周面に接する。環状部材は、2つ設けられ、遮熱材6Aの外周面における軸方向の一方側および他方側の端部に配置される。環状部材を締め付けることにより、遮熱材6Aおよび断熱材5Aを径方向内側に向けて変形させる。
【0055】
以上の構成を有する第3変形例では、固定部材9Cは、遮熱材6Aの外周面の周方向全周に亘って延び且つ遮熱材6Aの外周面に接する環状部材である。これにより、固定部材9C(環状部材)によって遮熱材6Aおよび断熱材5Aを締め付けることができるため、遮熱材6Aおよび断熱材5Aをアウターシャフト3に取り付ける締結力を適宜調整することができる。特に、遮熱材6Aおよび断熱材5Aはスリット100を有するため、固定部材9C(環状部材)によって締め付けると、遮熱材6Aおよび断熱材5Aの周方向の大きさが容易に変化可能である。
【符号の説明】
【0056】
1、1A、1B、1C ロアシャフト(ステアリングシャフト)
2 インナーシャフト
21 貫通孔
22 大径部
23 小径部
3 アウターシャフト
31 ヨーク部
32 小径部
321 端
33 大径部
34 傾斜部
341 端
4 樹脂層
5、5A 断熱材
51 内周面
52 外周面
53、54軸方向端
6、6A 遮熱材
61、62軸方向端
7 ホールカバー
71 ベローズ
72 ブッシュ
73 第1シール部材
731、741 リップ部
74 第2シール部材
75 ブラケット
80 ステアリング装置
81 ステアリングホイール
82 アッパーシャフト
82a 入力軸
82b 出力軸
83 操舵力アシスト機構
84、86 ユニバーサルジョイント
87 ピニオンシャフト
88 ステアリングギヤ
88a ピニオン
88b ラック
89 タイロッド
90 ECU
92 減速装置
93 電動モータ
94 トルクセンサ
95 車速センサ
98 イグニッションスイッチ
99 電源装置
9、9A、9B、9C 固定部材
91、91A リップ部
96 径方向部
97 屈曲部
96A 小径部
97A 大径部
100 スリット
D1 外径
D2 内径