(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】RFIDタグ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G06K 19/077 20060101AFI20241114BHJP
H01Q 9/16 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
G06K19/077 280
G06K19/077 296
H01Q9/16
(21)【出願番号】P 2020209378
(22)【出願日】2020-12-17
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 卓朗
(72)【発明者】
【氏名】エリナ ビスタ
【審査官】桜井 茂行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/011041(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/020530(WO,A1)
【文献】特開2006-285911(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0044769(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0162952(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/077
H01Q 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面を有する基材にICチップ及びアンテナが設けられたインレイを含む、RFIDタグであって、
前記アンテナは、前記ICチップを介してループ状をなすように、両端部が前記ICチップに接続されたループ導電部と、間隔を空けて前記ループ導電部の周囲を囲むように配置されたダイポールアンテナ部とを有し、
前記ループ導電部は、前記ICチップを介して、相対的に短い第1対称軸及びこれに直交する相対的に長い第2対称軸を有するように延びており、
前記ダイポールアンテナ部は、前記第1対称軸と重なる対称軸を有する形状をなし、
前記ICチップは、前記第1対称軸の一端部に配置されており、
前記ループ導電部の前記第1対称軸の他端部と前記ダイポールアンテナ部とをつなぐ単一の接続導電部を有し、
前記ループ導電部、前記接続導電部及び前記ダイポールアンテナ部が前記主面から共通の厚さを有するように前記主面上に形成され、前記ICチップが前記ループ導電部の両端部上に配置されている、
ことを特徴とする、RFIDタグ。
【請求項2】
前記ダイポールアンテナ部は、一定の間隔で前記ループ導電部の周囲を囲むように配置され、
前記ループ導電部は、前記ICチップを介して、相対的に短い第1対称軸及びこれに直交する相対的に長い第2対称軸を有するオーバル状又は
角が直角の長方形状若しくは角が四分円からなる角丸長方形状をなすように延びており、
前記ICチップは、前記第1対称軸の一端部に配置されており、
前記ダイポールアンテナ部は、前記第1対称軸と重なる対称軸を有するとともに、前記第1対称軸の前記ICチップ側を延長した仮想線を挟んで間隔を空けて対向する一対の先端縁を有し、この先端縁の一方から他方まで前記ループ導電部の周囲を回り込んで連続している、
請求項1記載のRFIDタグ。
【請求項3】
前記ダイポールアンテナ部は、前記ループ導電部の外周縁に沿って連続する内周縁と、外周縁と、これら内周縁の両端と外周縁の両端とをそれぞれ結ぶ前記一対の先端縁とを有し、
前記外周縁は、前記第1対称軸と平行に延びる一対の第1縁部と、前記第2対称軸と平行に延びて一方の第1縁部の一端と他方の第1縁部の一端とを結ぶ第2縁部と、前記一対の先端縁の第2縁部側と反対側の端と、第1縁部の他端とを結ぶ第3縁部とを有し、
前記一対の第1縁部の前記第1対称軸に沿う方向の寸法、前記第2縁部の前記第2対称軸に沿う方向の寸法、及び前記一対の先端縁の前記第1対称軸に沿う方向の寸法の総和が、使用周波数の1/2波長に等しい、
請求項
2記載のRFIDタグ。
【請求項4】
前記使用周波数がUHF帯である、
請求項
3記載のRFIDタグ。
【請求項5】
裏面に粘着剤層を有するRFIDラベルである、
請求項
2~
4のいずれか1項に記載のRFIDタグ。
【請求項6】
前記ループ導電部は、前記ICチップとともに構成される共振回路が使用周波数に同調する寸法を有する、
請求項1~
5のいずれか1項に記載のRFIDタグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インレイを内蔵するRFIDタグ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、RFIDタグ(電子タグ、ICタグ等ともいわれる)は、情報の記憶及び読み出しを近距離無線通信により非接触で行うためにICチップとこれに接続されたアンテナとを有するものである。RFID(Radio frequency identification)は、このようなRFIDタグを利用し、RFIDタグに対する対象物の個別情報の書き込み、及びRFIDに記憶された対象物の個別情報の読取りを、無線通信により行う自動認識システムであり、課金やプリペイド、セキュリティ管理、物品・物流管理等、広範囲に利用されている。
【0003】
RFIDタグは、カード型や、ラベル型(裏面に粘着剤層を有するシール型と、粘着剤層を有しないものの両者を含む)、リストバンド型等、種々の形態が知られている。このうち、ラベル型等の一部のRFIDタグでは、樹脂フィルムにアンテナを含む導電部を形成するとともにこの導電部上にICチップを配置したインレイ(インレット)と呼ばれるものを内蔵させることが一般的である。
【0004】
このようなインレイを内蔵するRFIDタグとしては、例えば特許文献1記載のものが知られている。
【0005】
しかしながら、特許文献1記載のものでは、インレイにアンテナが形成されておらず、インレイとは別に形成されたアンテナ部にインレイを重ねることによりRFIDタグを構成するものであるため、製造効率が低いとともに、アンテナを含む全体としての厚みを抑えることができない、という問題点を有していた。インレイの厚みは、RFIDタグの厚みに影響を及ぼすため、薄い方が好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の主たる課題は、薄く、かつ製造が容易であるインレイを含むRFIDタグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決したRFIDタグは以下のとおりである。
<第1の態様>
主面を有する基材にICチップ及びアンテナが設けられたインレイを含む、RFIDタグであって、
前記アンテナは、前記ICチップを介してループ状をなすように、両端部が前記ICチップに接続されたループ導電部と、誘導結合可能な間隔を空けて前記ループ導電部の周囲を囲むように配置されたダイポールアンテナ部とを有し、
前記ループ導電部及び前記ダイポールアンテナ部が前記主面から共通の厚さを有するように前記主面上に形成され、前記ICチップが前記ループ導電部の両端部上に配置されている、
ことを特徴とする、RFIDタグ。
【0009】
(作用効果)
本RFIDタグによれば、ループ導電部及びダイポールアンテナ部を一工程で容易に形成することができるため製造効率を高めつつ、特許文献1記載のものと比べて、インレイの厚さを抑えることができ、もってRFIDタグの厚みを抑えることができる。
【0010】
<第2の態様>
主面を有する基材にICチップ及びアンテナが設けられたインレイを含む、RFIDタグであって、
前記アンテナは、前記ICチップを介してループ状をなすように、両端部が前記ICチップに接続されたループ導電部と、間隔を空けて前記ループ導電部の周囲を囲むように配置されたダイポールアンテナ部とを有し、
前記ループ導電部は、前記ICチップを介して、相対的に短い第1対称軸及びこれに直交する相対的に長い第2対称軸を有するように延びており、
前記ダイポールアンテナ部は、前記第1対称軸と重なる対称軸を有する形状をなし、
前記ICチップは、前記第1対称軸の一端部に配置されており、
前記ループ導電部の前記第1対称軸の他端部と前記ダイポールアンテナ部とをつなぐ単一の接続導電部を有し、
前記ループ導電部、前記接続導電部及び前記ダイポールアンテナ部が前記主面から共通の厚さを有するように前記主面上に形成され、前記ICチップが前記ループ導電部の両端部上に配置されている、
ことを特徴とする、RFIDタグ。
【0011】
(作用効果)
本RFIDタグによれば、ループ導電部及びダイポールアンテナ部を一工程で容易に形成することができるため製造効率を高めつつ、特許文献1記載のものと比べて、インレイの厚さを抑えることができ、もってRFIDタグの厚みを抑えることができる。
【0012】
<第3の態様>
前記ダイポールアンテナ部は、一定の間隔で前記ループ導電部の周囲を囲むように配置され、
前記ループ導電部は、前記ICチップを介して、相対的に短い第1対称軸及びこれに直交する相対的に長い第2対称軸を有するオーバル状又は略長方形状をなすように延びており、
前記ICチップは、前記第1対称軸の一端部に配置されており、
前記ダイポールアンテナ部は、前記第1対称軸と重なる対称軸を有するとともに、前記第1対称軸の前記ICチップ側を延長した仮想線を挟んで間隔を空けて対向する一対の先端縁を有し、この先端縁の一方から他方まで前記ループ導電部の周囲を回り込んで連続している、
第1又は2の態様のRFIDタグ。
【0013】
(作用効果)
RFIDタグにおいては、アンテナが広帯域である方が、周囲環境等に起因する周波数帯域のシフトの影響を受けにくくなるため好ましい。本態様のダイポールアンテナ部の形状や配置、ICチップの配置等を採用することにより、通信距離の低下を抑制しつつアンテナの広帯域化を図ることができる。この理由は定かではないが、おそらくダイポールアンテナ部が周方向全体でループ導電部と均等に誘導結合することが一因ではないかと考えられる。
【0014】
<第4の態様>
前記ダイポールアンテナ部は、前記ループ導電部の外周縁に沿って連続する内周縁と、外周縁と、これら内周縁の両端と外周縁の両端とをそれぞれ結ぶ前記一対の先端縁とを有し、
前記外周縁は、前記第1対称軸と平行に延びる一対の第1縁部と、前記第2対称軸と平行に延びて一方の第1縁部の一端と他方の第1縁部の一端とを結ぶ第2縁部と、前記一対の先端縁の第2縁部側と反対側の端と、第1縁部の他端とを結ぶ第3縁部とを有し、
前記一対の第1縁部の前記第1対称軸に沿う方向の寸法、前記第2縁部の前記第2対称軸に沿う方向の寸法、及び前記一対の先端縁の前記第1対称軸に沿う方向の寸法の総和が、使用周波数の1/2波長に等しい、
第3の態様のRFIDタグ。
【0015】
(作用効果)
後述する実施例からも明らかなように、各部の寸法・形状が本態様の範囲内にあると、アンテナの広帯域化を図る上で好ましい。
【0016】
<第5の態様>
前記使用周波数がUHF帯である、
第4の態様のRFIDタグ。
【0017】
(作用効果)
一般にRFIDでは、LF帯、HF帯、UHF帯、マイクロ波帯の4種類の使用周波数帯が使用される。このうち、本第5の態様の使用周波数であるUHF帯(860~960MHz)は、周波数が高く波長が短いためアンテナの小型化に有利な反面、アンテナ形状によっては小型化と性能とを両立することが困難となったり、製造容易性が損なわれたりするおそれがある。これに対して、本第5の態様のように前述の第3の態様のアンテナ形状を採用すると、簡素で製造容易であるだけでなく、小型化と性能とを両立できるため好ましい。
【0018】
<第6の態様>
裏面に粘着剤層を有するRFIDラベルである、
第3~5のいずれか1つの態様のRFIDタグ。
【0019】
(作用効果)
裏面の粘着剤層により物品に貼付されるRFIDラベルのアンテナの帯域は、貼付対象物品の誘電率の影響によりシフトする。よって、物品貼付型のRFIDタグにおいて、前述の第2の態様のダイポールアンテナの形状を採用して広帯域化すると、アンテナの帯域が多少シフトしても、使用周波数がアンテナ帯域から外れにくくなり、通信距離等の通信性能が低下しにくいものとなるため好ましい。
【0020】
<第7の態様>
前記ループ導電部は、前記ICチップとともに構成される共振回路が使用周波数に同調する寸法を有する、
第1~6のいずれか1つの態様のRFIDタグ。
【0021】
(作用効果)
ループ導電部が本態様の寸法を有すると、ICチップ及びループ導電部の二者からなる共振回路と、ICチップ、ループ導電部及びダイポールアンテナ部の三者により形成される共振回路とのスタガ同調により、アンテナの広帯域化を図ることができるため好ましい。
【0022】
<第8の態様>
第1の態様のRFIDタグの製造方法であって、
前記基材に、前記ループ導電部及び前記ダイポールアンテナ部をエッチング又は印刷により形成するステップと、
前記ICチップを前記ループ導電部上に取り付けるステップとを含む、
ことを特徴とするRFIDタグの製造方法。
【0023】
(作用効果)
第1の態様と同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、薄く、かつ製造が容易であるインレイを含むRFIDタグとなる、等の利点がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図5】ループ導電部・ダイポールアンテナ部の要部を拡大して示す平
面図である。
【
図6】ループ導電部・ダイポールアンテナ部の要部を拡大して示す平
面図である。
【
図7】ループ導電部・ダイポールアンテナ部の要部を拡大して示す平
面図である。
【
図8】導電部の形状例を示す図と、その試験結果を示すグラフである。
【
図9】導電部の形状例を示す図と、その試験結果を示すグラフである。
【
図10】導電部の形状例を示す図と、その試験結果を示すグラフである。
【
図11】導電部の形状例を示す図と、その試験結果を示すグラフである。
【
図12】導電部の形状例を示す図と、その試験結果を示すグラフである。
【
図13】導電部の形状例を示す図と、その試験結果を示すグラフである。
【
図14】導電部の形状例を示す図と、その試験結果を示すグラフである。
【
図15】導電部の形状例を示す図と、その試験結果を示すグラフである。
【
図16】導電部の形状例を示す図と、その試験結果を示すグラフである。
【
図17】市販品の導電部の形状を示す平
面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、RFIDタグ10の一例について、添付図面を参照しつつ詳説する。
図1~
図3に示すように、本例のRFIDタグ10は、シート状等の基材11にICチップ12と、アンテナをなす導電部13,14とが設けられたインレイ
11~14を含む。インレイ
11~14の寸法・形状はRFIDタグ10と同じであっても、RFIDタグ10と異なっていても(例えばより小さくても)よい。
図2に示す例は、樹脂製の基材11を用いたシールラベル型のRFIDであるため、基材11の裏側には、アンテナをなす導電部13,14及びICチップ12を覆うように粘着剤層16が設けられ、更にその粘着剤層16を覆う剥離シート17が設けられている。この剥離シート17を剥がし、粘着剤層16を裏面に露出させることにより、RFIDタグ10をペットボトル等の被着体に貼付することができる。一方、基材11の表側は印刷部としての紙層18により覆われている。紙層18は接着剤層19を介して基材11の表面に接着される。
【0027】
図4は基材11が印刷部を兼ねる紙層となっているものであり、
図3に示されるものよりも部数が少なくて済むものである。
【0028】
インレイ11~14の基材11の材質は特に限定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂を用いることができるほか、上質紙、中質紙、コート紙、アート紙、クラフト紙などの紙を用いることもできる。シート状の基材11の厚みは適宜定めることができるが、通常は25~50μmとするのが好ましい。基材11は部品(ICチップ12及び導電部13,14等)実装が可能な寸法を有する。基材11が透明又は半透明の場合には、裏面図は表面図と対称に表れ、不透明の場合には平面図にはICチップ12及び導電部13,14等の部品が表れない。
【0029】
アンテナをなす導電部13,14は、公知の方法により基材11の裏面(表面でもよい)に層状等の適宜の形態で形成することができる。例えば、導電部13,14は、基材11の裏面にめっきや蒸着、ドライラミネート等により金属層を形成し、さらにこの金属層にレジストパターンを印刷した後、ケミカルエッチングすることにより形成することもできる。また、導電部13,14は、金属粒子やカーボンを含む導電性インキを基材11に印刷することにより形成することもできる。導電部13,14の厚みは適宜定めることができるが、通常は10~30μmとするのが好ましい。
【0030】
以上の説明からも分かるように、RFIDタグ10の形態に応じて導電部13,14の素材やインレイ11~14以外に付加される部分等が変化する。
【0031】
(導電部)
本例のRFIDタグ10のアンテナは、ICチップ12を介してループ状をなすように、両端部がICチップ12に接続されたループ導電部13と、誘導結合可能な間隔を空けてループ導電部13の周囲を囲むように配置されたダイポールアンテナ部14とを有しており、これらループ導電部13及びダイポールアンテナ部14が共通の厚みを有するように基材11の裏面(表面でもよい)上に形成され、ICチップ12がループ導電部13の両端部上に配置されている。これにより、ループ導電部13及びダイポールアンテナ部14を一工程で容易に形成することができるため製造効率を高めつつ、インレイ11~14の厚さを抑えることができ、もってRFIDタグ10の厚みを抑えることができる。
【0032】
ループ導電部13の形状は適宜定めることができるが、図示例のように、相対的に短い第1対称軸13y及びこれに直交する相対的に長い第2対称軸13xを有する形状が好ましく、特にオーバル状(
図5等参照)又は略長方形状(
図6参照)であると好ましい。なお、オーバル状とは、直線部分を一本又は複数本含むもの(図示例は、長さが等しくかつ平行な一対の直線部分と、これら直線部分の両端同士を繋ぐ半円部分とからなるものである)の他、楕円等のように直線部分を含まないものの両者を含む。また、略長方形状とは、
図6に示すように角が直角のもののほか、大部分が直線状の四辺と1/4円状の角とを有する角丸長方形を含む。
【0033】
ICチップ12の位置は適宜定めることができるが、図示例のように、ループ導電部13が、相対的に短い第1対称軸13y及びこれに直交する相対的に長い第2対称軸13xを有する場合、ICチップ12は第1対称軸13yの一端部に配置することが好ましい。
【0034】
ダイポールアンテナ部14とループ導電部13との間隔14dは適宜定めることができるが、図示例のように、ダイポールアンテナ部14はそのほぼ全体にわたり、一定の間隔14dでループ導電部13の周囲を囲むように配置されていると好ましい。この間隔14dは、ループ導電部13の寸法にもよるが、通常の場合0.5~1.5mm程度とすることができる。
【0035】
また、ダイポールアンテナ部14の形状は適宜定めることができるが、図示例のように、ループ導電部13が、相対的に短い第1対称軸13y及びこれに直交する相対的に長い第2対称軸13xを有する場合、ダイポールアンテナ部14は、第1対称軸13yと重なる対称軸を有するとともに、第1対称軸13yのICチップ12側を延長した仮想線を挟んで間隔を空けて対向する一対の先端縁144を有し、この先端縁144の一方から他方までループ導電部13の周囲を回り込んで略C字状に連続していると好ましい。第2対称軸13xに沿う方向における一対の先端縁144の間隔14eは、適宜定めることができるが、通常の場合1~7mm程度とすることができる。ダイポールアンテナ部14の外周縁141~143は、ダイポールアンテナ部14の内周縁145と平行に形成されていてもよいが、ダイポールアンテナ部14の内周縁145と無関係に、インレイ11~14の外周形状(例えば矩形)に沿って(特に平行に)形成されていてもよい。
【0036】
以上に述べたダイポールアンテナ部14の形状や配置、ICチップ12の配置等を採用することにより、通信距離の低下を抑制しつつアンテナの広帯域化を図ることができる。この理由は定かではないが、おそらくダイポールアンテナ部14が周方向全体でループ導電部13と均等に誘導結合することが一因ではないかと考えられる。
【0037】
ループ導電部13はインダクタンス・抵抗を有するため、各部の寸法(ループ面積、周長、線幅13w等)は、ループ導電部13に要求されるインダクタンス・抵抗に応じて適宜定めることができる。ループ導電部13のインダクタンスは、ICとダイポールアンテナ部14とのインピーダンス整合においてリアクタンス成分の不足を補うために用いることができる。また、ループ導電部13のインダクタンスは、ICチップ12とともに構成される共振回路を使用周波数に同調させるために用いることができる。この場合、ICチップ12及びループ導電部13の二者からなる共振回路と、ICチップ12、ループ導電部13及びダイポールアンテナ部14の三者により形成される共振回路とのスタガ同調により、アンテナの広帯域化を図る(ループ導電部13の周長の増加により低周波数側に広帯域化する)ことができる。一例としては、使用周波数がUHF帯の場合、ループ導電部13のループ面積(ループ内側の面積)は60~110mm2程度とすることができる。また、ループ導電部13のループの内周長は45~55mm程度とすることができる。さらに、ループ導電部13の線幅13wは0.5~3.0mm程度とすることができる。
【0038】
ダイポールアンテナ部14の各部の寸法は、使用周波数の1/2波長を基準として適宜定めることができる。例えば、図示例のダイポールアンテナ部14は、外周縁141~143と、ループ導電部13の外周縁に沿って連続する内周縁145と、これら内周縁145の両端と外周縁141~143の両端とをそれぞれ結ぶ一対の先端縁144とを有し、外周縁141~143は、第1対称軸13yと平行に延びる一対の第1縁部141と、第2対称軸13xと平行に延びて一方の第1縁部141の一端と他方の第1縁部141の一端とを結ぶ第2縁部142と、一対の先端縁144の第2縁部142側と反対側の端と、第1縁部141の他端とを結ぶ第3縁部143とを有している。この場合、一対の第1縁部141の第1対称軸13yに沿う方向の寸法14a、第2縁部142の第2対称軸13xに沿う方向の寸法14b、及び一対の先端縁144の第1対称軸13yに沿う方向の寸法14cの総和が、使用周波数の1/2波長に等しいと、アンテナの広帯域化を図る上で好ましい。
【0039】
本例のRFIDタグ10は、一般に使用される周波数帯、すなわちLF帯、HF帯、UHF帯、マイクロ波帯の4種類のいずれにも適用することができる。このうち、UHF帯(860~960MHz)は、周波数が高く波長が短いためアンテナの小型化に有利な反面、アンテナ形状によっては小型化と性能とを両立することが困難となったり、製造容易性が損なわれたりするおそれがあるものである。よって、上述の広帯域のダイポールアンテナ部14・ループ導電部13の寸法、配置、形状はUHF帯での使用に特に適している。図示例のダイポールアンテナ部14をUHF帯で使用する場合、例えば、一対の第1縁部141の長さは20~27mm程度とし、第2縁部142の長さは91~97mm程度とし、一対の先端縁144のそれぞれの長さは7.5~13.5mm程度とすることが好ましい。また、ダイポールアンテナ部14の最小幅14wは2.5~8.5mm程度とすることができる。
【0040】
RFIDタグ10の形態は、本例のシールラベル型以外にもあり、本例のダイポールアンテナ部14・ループ導電部13の寸法、配置、形状はシールラベル型以外にも適用可能である。ただし、シールラベル型RFIDラベルのアンテナの帯域は、貼付対象物品の誘電率の影響によりシフトするため、上述の広帯域のダイポールアンテナ部14・ループ導電部13の寸法、配置を採用して広帯域化すると、アンテナの帯域が多少シフトしても、使用周波数がアンテナ帯域から外れにくくなり、通信距離等の通信性能が低下しにくいものとなるため好ましい。
【0041】
上記例は、ループ導電部13とダイポールアンテナ部14とを接続する導電部を有しないものであるが、
図7に示すように、ループ導電部13が、ICチップ12を介して、相対的に短い第1対称軸13y及びこれに直交する相対的に長い第2対称軸13xを有するように延びており、ダイポールアンテナ部14が第1対称軸13yと重なる対称軸14yを有する形状をなし、ICチップ12が第1対称軸13yの一端部に配置されている場合、ループ導電部13の第1対称軸13yの他端部とダイポールアンテナ部14とをつなぐ単一の接続導電部131を有していてもよい。この場合、接続導電部131はダイポールアンテナ部14の一対の先端縁144を有する側と反対側に配置されていると好ましい。
【0042】
接続導電部131の幅は適宜定めることができ、例えばループ導電部13の線幅13wと同様の範囲内とすることができる。特に、接続導電部131の幅は、ダイポールアンテナ部14の一対の先端縁144の間隔14e以下であることが好ましい。接続導電部131を有する場合の他の点については、接続導電部131を有しない場合と基本的に同様である。
【0043】
<効果確認試験1-各部寸法等の影響>
以下に述べるUHF帯用シールラベル型RFIDタグ(サンプルNo.1~9)を用意し、これらをガラス板(ソーダガラス、横100mm×縦150mm×厚さ10mm)の略中央に貼付した状態、及び未貼付の単体の状態で、電波暗箱中に設置し、Voyantic社製のtagformanceを用いて、700MHz~1300MHzの周波数領域の通信可能距離(Theoretical read range forward)を測定した。なお、ここで述べていない測定条件については基本的に同条件とした。
【0044】
(サンプルNo.1)
積層構造:
図3と同様。
基材11:厚み38μmのPETフィルム。
導電部13,14:厚み10μmのアルミニウム。
導電部の形状:
図8(a)。
図1、
図2及び
図5と同様。
ダイポールアンテナ部14の寸法(横14b×縦14a):94mm×24mm。
ループ導電部13の寸法(横13b×縦13a):24mm×6mm。
ループ導電部13のループ面積:84.56mm
2。
ループ導電部13のループ外周長:54.84mm。
ループ導電部13のループ内周長:48.56mm。
ループ導電部13の幅13w:1mm。
ダイポールアンテナ部とループ導電部との間隔14d:1mm。
ICチップ12のインピーダンス(866MHz):15j265(Ω)
(915MHz):14j252(Ω)
(915MHz):13j242(Ω)
【0045】
(サンプルNo.2)
ダイポールアンテナ部14とループ導電部13との間隔14dを2mmに変更した以外は、サンプルNo.1と同様のものをサンプルNo.2とした。サンプルNo.2の導電部13,14の形状を
図9(a)に示した。
【0046】
(サンプルNo.3)
ダイポールアンテナ部14とループ導電部13との間隔14dを3mmに変更した以外は、サンプルNo.1と同様のものをサンプルNo.3とした。サンプルNo.3の導電部13,14の形状:
図10(a)。
【0047】
(サンプルNo.4)
ダイポールアンテナ部14の寸法(横14b×縦14a)を84mm×24mmに変更した以外は、サンプルNo.1と同様のものをサンプルNo.4とした。サンプルNo.4の導電部13,14の形状を
図11(a)に示した。
【0048】
(サンプルNo.5)
ダイポールアンテナ部14の寸法(横14b×縦14a)を74mm×24mmに変更した以外は、サンプルNo.1と同様のものをサンプルNo.5とした。サンプルNo.5の導電部13,14の形状を
図12(a)に示した。
【0049】
(サンプルNo.6)
積層構造:
図3と同様。
基材11:厚み38μmのPETフィルム。
導電部13,14,131:厚み10μmのアルミニウム。
導電部13,14,131の形状:
図13(a)。
図7と同様。
ダイポールアンテナ部14の寸法(横14b×縦14a):94mm×24mm。
ループ導電部13の寸法(横13b×縦13a):24mm×6mm。
ループ導電部13の幅13w:1mm。
ダイポールアンテナ部とループ導電部との間隔14d:1mm。
接続導電部131の数:1か所。
接続導電部131の幅:1mm。
【0050】
(サンプルNo.7)
接続導電部131の幅を22.3mmに変更した以外は、サンプルNo.6と同様のものをサンプルNo.7とした。サンプルNo.7の導電部13,14の形状を
図14(a)に示した。
【0051】
(サンプルNo.8)
積層構造:
図3と同様。
基材11:厚み38μmのPETフィルム。
導電部13,14,131:厚み10μmのアルミニウム。
導電部13,14,131の形状:
図15(a)。
ダイポールアンテナ部14の寸法(横14b×縦14a):94mm×24mm。
ループ導電部13の寸法(横13b×縦13a):24mm×6mm。
ループ導電部13の幅13w:1mm。
ダイポールアンテナ部とループ導電部との間隔14d:1mm。
接続導電部131の数:第1対称軸に関して対称に2か所。
接続導電部131の横方向の間隔:20.59mm。
各接続導電部131の幅:1mm。
【0052】
(サンプルNo.9)
接続導電部131の横方向の間隔を15.00mmに変更した以外は、サンプルNo.8と同様のものをサンプルNo.9とした。サンプルNo.9の導電部13,14の形状を
図16(a)に示した。
【0053】
(試験1の結果)
サンプルNo.1~9の測定結果を
図8~
図16にそれぞれ示した。なお、各図の(a)は各サンプルの導電部13,14の形状を示し、(b)はタグ単体(被着体に未貼付)での測定結果のグラフであり、(c)はタグをガラス板に貼付した状態での測定結果のグラフである。測定結果から、特にサンプルNo.1及びサンプルNo.6は、特に日本国におけるUHF帯RFIDの使用周波数である920MHzを含む900MHz帯において、被着体の影響が少ないことが判明した。また、この結果から、ダイポールアンテナ部14とループ導電部13との間隔14dが広過ぎたり、接続導電部を設けた場合にその接続幅が広過ぎたりすると、好ましい結果が得られないことも判明した。
【0054】
<効果確認試験2-市販品との比較>
上述のサンプルNo.1、及び以下に述べるUHF帯用シールラベル型RFIDタグ(サンプルNo.10、11)を用意し、これらを以下に述べる各種の被着体貼付状態(a.~i.)で、電波暗箱中に設置し、Voyantic社製のtagformanceを用いて、700MHz~1100MHzの周波数領域の通信可能距離(Theoretical read range forward)を測定した。なお、ここで述べていない測定条件については基本的に同条件とした。
【0055】
(サンプルNo.10)
ダイオーエンジニアリング社製の市販RFIDラベルSPMU9204を使用した。このRFIDラベルは、UHF帯に対応するものであり、積層構造はサンプルNo.1と同様であり、基材はPETであり、導電部は
図17(a)に示す形状を有しており、アンテナ寸法は横92.5mm×縦4.5mmであり、ラベル寸法は98.5mm×7.5mmであった。
【0056】
(サンプルNo.11)
ダイオーエンジニアリング社製の市販RFIDラベルSPMU8718を使用した。このRFIDラベルは、UHF帯に対応するものであり、積層構造はサンプルNo.1と同様であり、基材はPETであり、導電部は
図17(b)に示す形状を有しており、アンテナ寸法は横87mm×縦18mmであり、ラベル寸法は93mm×24mmであった。
【0057】
(被着体)
a.なし(タグ単体の状態)
b.水入りPETボトル(500ミリリットルタイプ、貼付位置:側面高さ方向中央)
c.水入りPETボトル(2リットルタイプ、貼付位置:側面高さ方向中央)
d.水入り点滴バッグ(1リットルタイプ、貼付位置:正面中央)
e.焼酎瓶900ミリリットル(未開封、貼付位置:側面高さ方向中央)
f.ガラス板(縦100mm×横150mm×厚さ10mm、貼付位置:中央)
g.PET板(縦100mm×横150mm×厚さ10mm、貼付位置:中央)
h.PMMA板(縦100mm×横150mm×厚さ10mm、貼付位置:中央)
i.両面段ボール(縦100mm×横150mm×厚さ5mm、貼付位置:中央)
【0058】
(試験2の結果)
サンプルNo.1、サンプルNo.10、11の測定結果のグラフを
図18及び
図19に示した。なお、
図18の(a)のグラフは、上記a.タグ単体(被着体に未貼付)での測定結果であり、(b)のグラフは、上記b.水入りペットボトル500ミリリットル貼付状態での測定結果であり、(c)のグラフは、上記c.水入りPETボトル2リットルタイプ貼付状態での測定結果であり、(d)のグラフは、上記d.水入り点滴バッグ貼付状態での測定結果であり、(e)のグラフは上記e.日本酒瓶貼付状態での測定結果である。また、
図19(f)のグラフは上記f.ガラス板貼付状態での測定結果であり、(g)のグラフは上記g.PET板貼付状態での測定結果であり、(h)のグラフは上記h.PMMA板貼付状態での測定結果であり、(i)のグラフは上記i.両面段ボール貼付状態での測定結果である。
【0059】
測定結果から、特にサンプルNo.1は、特に日本国におけるUHF帯RFIDの使用周波数である920MHzを含む900MHz帯において、市販品サンプルNo.10、11と比較して被着体の影響を受け難く、優れた特性を有することが判明した。
【0060】
<効果確認試験3-ダイポールアンテナの各部寸法等の影響>
上述のサンプルNo.1、及び以下に述べるUHF帯用シールラベル型RFIDタグ(サンプルNo.12)を用意し、これらを上述のガラス板貼付状態(f.)で、電波暗箱中に設置し、Voyantic社製のtagformanceを用いて、700MHz~1300MHzの周波数領域の通信可能距離(Theoretical read range forward)を測定した。また、サンプルNo.12については、タグ単体の状態(a.)でも同様に測定を行った。なお、ここで述べていない測定条件については基本的に同条件とした。
【0061】
(サンプルNo.12)
ダイポールアンテナ部14の内周縁の第2対称軸方向の寸法を60mmに変更し、ダイポールアンテナ部14とループ導電部13との間隔に変化をつけた以外は、サンプルNo.1と同様のものをサンプルNo.12とした。サンプルNo
.12の導電部13,14の形状を
図20に示した。
【0062】
さらに、上述のサンプルNo.1、12、及び以下に述べるサンプルNo.13のアンテナ形状について、ソネットソフトウェア社製の平面三次元電磁界シミュレータにより、アンテナのインピーダンス及び電流分布を評価した。
【0063】
(サンプルNo.13)
接続導電部131を、ダイポールアンテナ部14の一対の先端縁144を有する側に一対配置した以外は、サンプルNo.6と同様のものをサンプルNo.13とした。サンプルNo.13の導電部13,14の形状を
図21に示した。
【0064】
(試験3の結果)
サンプルNo.1、No.12の通信可能距離の測定結果のグラフを
図22に示した。また、サンプルNo.1のシミュレーション結果のうち、アンテナインピーダンスのグラフを
図23(a)に示し、電流分布図を
図23(b)に示した。同様に、No.12のシミュレーション結果のうち、アンテナインピーダンスのグラフを
図24(a)に示し、電流分布図を
図24(b)に示した。同様に、No.13のシミュレーション結果のうち、アンテナインピーダンスのグラフを
図25(a)に示し、電流分布図を
図25(b)に示した。なお、
図24(
b)及び
図25(b)に示される電流分布はカラー表示を基にしており、ダイポールアンテナ部に相当する領域において電流分布が低いほど概ね色が濃く表示されるようになっている。
【0065】
図22~
図24に示される結果から、ダイポールアンテナ部14とループ導電部13との間隔が一定でないとダイポールアンテナ部14の電流分布が低下することや、共振周波数が低周波側に移動し、ガラス貼付状態での通信可能距離が低下することが判明した。特に
図22の結果から、ダイポールアンテナ部14の面積が小さくなると被着体の影響を受けやすいことも推測された。また、ICチップ12のインピーダンスの周波数特性に、アンテナ全体(ループ導電部13及びダイポールアンテナ部14)のインピーダンスの周波数特性が整合するように設計すると、電力の減衰が小さくなり通信距離が伸びることが分かる。さらに、
図23及び
図25に示される結果から、接続導電部131はダイポールアンテナ部14の一対の先端縁144を有する側に配置されていると共振周波数が高周波側に移動することも判明した。以上より、ダイポールアンテナ部14が一定の間隔でループ導電部13の周囲を囲むとともに、接続導電部131がダイポールアンテナ部14の一対の先端縁144を有する側と反対側に配置されていると特に好ましいことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、RFIDタグ全般に適用可能である。つまり、本発明は、リーダー/ライターから受信する電磁波を駆動電源として利用するパッシブ型(バッテリー非搭載型)に好適なものであるが、電源や発信回路を内蔵したアクティブ型(バッテリー搭載型)にも適用可能である。また、本発明は、ラベル型(裏面に粘着剤層を有するシール型と、粘着剤層を有しないものの両者を含む)だけでなく、カード型や、リストバンド型等、種々の形態のRFIDタグにも適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
10…RFIDタグ、11…基材、12…ICチップ、13,14…導電部、11~14…インレイ、16…粘着剤層、17…剥離シート、18…紙層、19…接着剤層、13…ループ導電部、13y…第1対称軸、13x…第2対称軸、14…ダイポールアンテナ部、131…接続導電部、141~143…外周縁、141…第1縁部、142…第2縁部、143…第3縁部、144…先端縁、145…内周縁。