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特許7587986裂肛及び痔核の治療のための局所製剤組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】裂肛及び痔核の治療のための局所製剤組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/554 20060101AFI20241114BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20241114BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20241114BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20241114BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20241114BHJP
   A61P 23/02 20060101ALI20241114BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20241114BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20241114BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20241114BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20241114BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20241114BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20241114BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20241114BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20241114BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20241114BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20241114BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20241114BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241114BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241114BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20241114BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241114BHJP
   A61K 31/455 20060101ALN20241114BHJP
   A61K 31/4422 20060101ALN20241114BHJP
   A61K 31/454 20060101ALN20241114BHJP
   A61K 31/277 20060101ALN20241114BHJP
   A61K 31/445 20060101ALN20241114BHJP
   A61K 31/245 20060101ALN20241114BHJP
   A61K 31/46 20060101ALN20241114BHJP
【FI】
A61K31/554
A61K31/167
A61K9/06
A61K9/107
A61P9/14
A61P23/02
A61K47/38
A61K47/36
A61K47/42
A61K47/10
A61K47/46
A61K47/44
A61K47/14
A61K47/12
A61K47/02
A61K47/22
A61K47/24
A61P43/00 121
A61P29/00
A61K45/06
A61K45/00
A61K31/455
A61K31/4422
A61K31/454
A61K31/277
A61K31/445
A61K31/245
A61K31/46
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020560249
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2019060643
(87)【国際公開番号】W WO2019207059
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-04-22
(31)【優先権主張番号】1020180083244
(32)【優先日】2018-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517191312
【氏名又は名称】フェリング・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(72)【発明者】
【氏名】デ ソウザ テイシェイラ,レオナルド
(72)【発明者】
【氏名】デ ファリア,ジーン ロベルタ サンターナ
(72)【発明者】
【氏名】デ カストロ メロ ノグエイラ,ギルビア
(72)【発明者】
【氏名】モレイラ ムンディム,イラム
(72)【発明者】
【氏名】モレイラ レゼック,ローラ
(72)【発明者】
【氏名】ピメンテル イタぺマ アルヴェス,カリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ブルーノ ベロリオ,カリーニ
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス フェルナンデス,サラ
(72)【発明者】
【氏名】ピメンテル イタぺマ アルヴェス,ヴィヴィアン
(72)【発明者】
【氏名】ウーリー デ メンドンカ フィルホ,ロベルト フレデリック
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-517210(JP,A)
【文献】特開昭61-212515(JP,A)
【文献】国際公開第2005/020960(WO,A1)
【文献】特表2006-518711(JP,A)
【文献】特表2012-527463(JP,A)
【文献】特表2008-526932(JP,A)
【文献】特表2016-517429(JP,A)
【文献】特許第5030958(JP,B2)
【文献】特表2005-531570(JP,A)
【文献】特表2009-531411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 45/00-45/08
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の有機溶媒から構成され、実質的に水を含まない非水性ビヒクル中に、以下の:
粘膜接着性ポリマー、及び
肛門拡張薬、
局所麻酔薬、
を含む、有機ゲルである局所医薬組成物であって、ここで、
前記肛門拡張薬は、0.1%~10%w/wのジルチアゼム又はジルチアゼム塩酸塩であり、
前記局所麻酔薬は0.5%~5%w/w塩酸リドカイン又はリドカイン塩基であり、
前記粘膜接着性ポリマーは、0.5%~10%w/wのアルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースの少なくとも1つを含み、かつ、
70%~90%w/wの前記非水性ビヒクル、
を含む、局所医薬組成物。
【請求項2】
前記局所麻酔薬は0.5%~5%w/w塩酸リドカインを含む、請求項1に記載の局所医薬組成物。
【請求項3】
前記局所麻酔薬及び前記肛門拡張薬が、非水性ビヒクル中に可溶化され、前記粘膜接着性ポリマーが、前記非水性ビヒクルに分散される、請求項1又は2に記載の局所医薬組成物。
【請求項4】
さらに、治癒アジュバントを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の局所医薬組成物。
【請求項5】
前記治癒アジュバントが、パパイン、D-パンテノール、プロポリス、ヒマワリ油又はアルギン酸カルシウム、ヒアルロン酸、カモミール、ブドウ種子油、及びCalendula officinalisのうちの1又はそれ以上である、請求項4に記載の局所医薬組成物。
【請求項6】
前記治癒アジュバントが、D-パンテノールである、請求項5に記載の局所医薬組成物。
【請求項7】
前記非水性ビヒクルが、カプリルカプリン酸トリグリセリド油、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、中鎖モノジグリセリド、ヒマシ油、鉱物油、ココナッツ油、オレイン酸、中鎖トリグリセリド、カプリロカプロイルマクロゴール8グリセリド、プロピレングリコール、グリセリン及びポリエチレングリコール誘導体、及びポリエチレングリコールの1又はそれ以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の局所医薬組成物。
【請求項8】
前記非水性ビヒクルが、プロピレングリコールである、請求項に記載の局所医薬組成物。
【請求項9】
前記非水性ビヒクルが、ジエチレングリコールモノエチルエーテルである、請求項に記載の局所医薬組成物。
【請求項10】
前記非水性ビヒクルが、ポリエチレングリコール(PEG)である、請求項に記載の局所医薬組成物。
【請求項11】
前記非水性ビヒクルが、カプリロカプロイルマクロゴール8グリセリドである、請求項に記載の局所医薬組成物。
【請求項12】
前記非水性ビヒクルが、PEG400、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル及びカプリロカプロイルマクロゴール-8グリセリドの組み合わせである、請求項1に記載の局所医薬組成物。
【請求項13】
10%~20%w/wのPEG400、25%~35%w/wのプロピレングリコール、20%~30%w/wのジエチレングリコールモノエチルエーテル及び10%~20%w/wのカプリロカプロイルマクロゴール-8グリセリドを含む、請求項1に記載の局所医薬組成物。
【請求項14】
さらに、アルファ型、ガンマ型及びベータ型のトコフェロール;アスコルビン酸;クエン酸一水和物;アスコルビルパルミテート;ブチル化ヒドロキシトルエン;ブチル化ヒドロキシアニソール;エリソルビン酸;フマル酸;リンゴ酸;メチオニン;モノチオグリセロール;メタ重亜硫酸及び重亜硫酸ナトリウム;プロピオン酸;プロピルガレート;アスコルビン酸ナトリウム;ホルムアルデヒドスルホキシレートナトリウム;亜硫酸ナトリウム;チオ硫酸ナトリウム;二酸化硫黄;ビタミンEのチモール及びポリエチレングリコールコハク酸塩の1又はそれ以上から選択される、抗酸化剤を含む、請求項1~1のいずれか一項に記載の局所医薬組成物。
【請求項15】
0.01~1.0w/w%の酸化防止剤を含む、請求項1記載の局所医薬組成物。
【請求項16】
前記局所麻酔薬がリドカイン塩酸塩であり、かつ、前記非水性ビヒクルが、以下の:プロピレングリコール、ココナッツ油、オレイン酸、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、グリセリン、中鎖トリグリセリド、カプリロカプロイルマクロゴール8グリセリドの少なくとも1又はそれ以上を含む、請求項1に記載の局所医薬組成物。
【請求項17】
1つ以上の有機溶媒から構成され、実質的に水を含まない非水性ビヒクル中に、以下の:
粘膜接着性ポリマー、である0.5%~10%w/wのヒドロキシプロピルセルロース
肛門拡張薬、である、0.1%~10%w/wのジルチアゼム又はジルチアゼム塩酸塩、
局所麻酔薬、である、0.5%~5%w/w塩酸リドカイン又はリドカイン塩基、
治癒アジュバント、である、0.5%~5%w/wD-パンテノール、及び
抗酸化剤、である、0.01~1.0w/w%のアルファトコフェロール
を含む、有機ゲルである局所医薬組成物であって、ここで、
前記有機溶媒は、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、及びカプリロカプロイルマクロゴール8グリセリド、の少なくとも一つから構成され、かつ、
70%~90%w/wの前記非水性ビヒクル、を含む、局所医薬組成物。
【請求項18】
以下の;
を含む、請求項1に記載の局所医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、痔核切除術の術後期間を含む、裂肛及び痔に対して肛門部に用いられる局所医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
裂肛は肛門直腸疾患であり、世界人口の少なくとも11%が罹患している。この病理所見は、肛門管又は肛門縁の内側を覆う皮膚の裂傷又は潰瘍化病変を特徴とし、しばしば排便時に痙攣及び出血を来す。肛門部のけいれんや出血に加えて、主な症状は排便時の痛み、かゆみ、肛門部の皮膚の刺激感、一部の患者では直腸脱である。当該疾患はまた、あらゆる年齢の男女に発症し、その最も多い原因は、食事、過敏性腸疾患、クローン病、及び局所外傷である。
【0003】
裂肛の治療は、一般に、痛みの管理、治療用パッドの使用、創傷治癒の待機(通常、治療開始後6~8週間以内に起こる)等の目的で麻酔薬を用いる。創傷の重症度、創傷の深さ、出血の程度により、患者は創傷縫合の手術を受ける場合がある。
【0004】
裂肛は痔核とは別の症状であり、痔核の静脈圧上昇による粘膜下の肛門直腸静脈の拡張である。外痔核はペクチン線の下に発生し、鱗状又は皮膚上皮で覆われる。一方、内痔核はペクチン線の上の内痔神経叢に位置し、円柱粘膜又は移行上皮で覆われる。痔疾患患者の主な症状は、出血、痔乳頭脱出、肛門痛又は不快感、急性炎症(静脈炎の徴候を伴う又は伴わない血栓症)、炎症又は肛門周囲の皮膚炎、排便後の不完全な直腸排出感である。
【0005】
通常、痔核の治療としては、患者の食生活の変化、地域の適切な衛生状態、消毒薬、血管拡張薬、麻酔薬等の外用薬の使用があげられる。
【0006】
痔核や裂肛によくみられる他の治療法を以下に示す。コルチコステロイドの外用は局所の炎症を軽減しうる。しかし、この薬物群は、疾患の治療にはほとんど効果がない(当該薬物を用いて浮腫、出血又は痔突出が軽減したことを示す臨床的証拠はない)。しかしながら、局所コルチコステロイドは副作用として感染症及び皮膚萎縮のリスクがある。
【0007】
ボツリヌス毒素はすでに肛門裂傷治療に実験的に用いられてきた。基礎研究では、その有効性は硝酸軟膏の有効性と同等であることが確認されている。副作用の発生率は低いが、外科的括約筋切開術よりも治癒率は低く、再発率も高い。治療費用が高価で、用いられる線量と手技が標準化されていない。ボツリヌス毒素の長期使用は、感染症、局所血腫、痔血栓症、及び一過性尿失禁がもたらされる場合がある。
【0008】
リドカイン、シンコカイン及び他のアミド型麻酔薬は、肛門裂傷患者の症状改善に局所的に用いられる。アミド基の麻酔薬は、メチルパラ安息香酸に代謝されるエステル型麻酔薬のようにアレルギー反応や感作を起こさないため、この領域での局所適用では他の麻酔薬よりも一般的である。
【0009】
裂溝の治療にベータネコールを使用すると良好な臨床反応が得られ、合併症及び副作用の発生率は低い。しかしながら、ベータネコールとジルチアゼムを比較した実験室での研究では、ジルチアゼムは肛門裂傷及び痔核の治療において再発までの時間が長く、再発が少ないことから、臨床的奏効の成功を支持することが明らかである。
【0010】
一部のカルシウム拮抗薬(ジルチアゼム、ニフェジピン等)は、肛門裂傷の治療や、肛門括約筋の静止圧を低下させ、肛門腔の内側及び肛門腔縁の創傷治癒を促進することで、痔核切除術の術後期間に用いられる。2013年11月に発表されたサンパウロ大学医学部のCarlos Walter Sobrado博士の論文によれば、2%のジルチアゼムを軟膏に局所投与したところ、治癒率は75%であったが、0.2%のニフェジピン局所投与では治癒率は80%~90%であった。E.A.Carapetiらの局所ジルチアゼム及びベータネコール肛門括約筋圧の低下(副作用なし)、1999年では、裂肛治療に局所及び経口投与のジルチアゼムの使用が開示され、2%濃度のジルチアゼムの局所投与が望ましいことが明らかにされている。
【0011】
一般に、上記活性剤は、ペトロラタムゼリー製剤と、アロエベラ、収斂剤および防腐剤のような付加的な要素からなる個別化された軟膏の形態で利用可能であり、これらは、肛門裂の症状を効果的かつ持続的な方法では解決せず、しばしば疾患の症状を一時的に抑制する。
【0012】
ワセリン(VASELINE(登録商標)、ワセリン)は、裂肛治療用局所製剤の製造に最も使用される薬理学的賦形剤であるが、以下に詳述するように裂溝の治療には重大な欠点をもたらす。ペトロラタムゼリーは、拡散性が良好にもかかわらず、ヒトの皮膚への接着性は良好ではなく、滴下(特に35℃以上の温度で)する場合が多く、患者の衣服を汚し、薬の有効成分を治療上十分な時間、ヒトの皮膚に接触させない。
【0013】
さらに、肛門裂傷及び痔核の治療用クリーム、軟膏、ゲルの再塗布の必要性は、直腸科医の文献では一般的な要望である。
【0014】
複数の活性成分を用いた治療が必要な場合、以下の様々な理由:(i)異なる活性成分に対する異なる薬剤を取得する場合の、患者が肛門部に製品を二重塗布する不便性(裂隙の感度が同程度に悪化する不便性);(ii)別個の活性成分を用いて製品を塗布する場合の、患者が最初に、第1活性成分を含む製品層を患部に堆積させ、次に、当該第1層上に第2活性成分を含む第2層の塗布を行う(明らかに、第1層の存在が第2層の活性成分のヒト皮膚への吸収遅延を起こす場合がある);(iii)2つの別個の活性成分を従来の賦形剤と組み合わせると、例えば、他方の製剤と相互作用する活性成分の処方が他方の製剤の処方へ干渉する場合を最終使用者は予測できない;により、同一製剤中に活性成分があることが有利である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
痛みを抑制する少なくとも1つの有効成分及び肛門筋緊張を緩和するための少なくとも1つの有効成分を含む、肛門裂傷及び痔核に用いる局所処方が依然として求められており、この2つの原理は安定した適当な処方として組み合わされる。好ましくは、処方物は、塗布後に滴下せず、治療中の患者への接着をより広くし、及び活性剤を安定化させる等の、ワセリンの不便性及び非効率性を緩和する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の目的は、裂肛、痔、肛門部の治療に有効な2又はそれ以上の薬剤を組み合わせることができる製剤である。特定の実施態様では、処方物は、肛門部における局所薬の適用に適した拡散性、接着性及び粘性のための機能的賦形剤を含む。ある態様では、処方物は、効果的に1日1回適用することができる。
【0017】
ゲルは、軟膏剤のいくつかの欠点(例えば、液体及び/又は固体のワセリン等の成分を含む)を克服することが発見されている。ゲルは、分散相によって溶媒和された粒子又は巨大分子のインターレースがある三次元ネットワークからなる半剛体系である。ゲルは、連続相が水性の場合はヒドロゲルに、連続相が有機溶媒の場合は有機ゲルに分類できる。
【0018】
さらに、有機ゲルは、本発明において企図される活性剤に関してヒドロゲルよりも改良された特性があることが発見された。ゲル処方物中の水は、(i)生存に水に依存する微生物の増殖を促進する環境の創出;(ii)培地でおこる加水分解等の反応による活性剤中の直接的な化学変化;及び(iii)処方物の物理的不安定性等のような望ましくない変化を引き起こすことが見出された。
【0019】
本発明は、局所適用の局所麻酔薬、肛門拡張薬(「活性成分」を含む)、非水性ビヒクル、及び好ましくは単一の有機ゲル中で送達される粘膜接着性ポリマーを含む、肛門部への適用に適する局所用医薬組成物を含む。ある態様では、肛門拡張薬は、唯一の活性成分である。本発明はまた、以下の:
工程1:適当な容器に非水性ビヒクルを加え、20℃~50℃に加熱する;
工程2:有効成分を加えて振り混ぜる;
工程3:必要に応じて、溶液を20℃~40℃に冷却し、放置する;
工程4:粘膜接着性ポリマー等のポリマーを非水性ビヒクルとともに添加する;
工程5:場合によっては、工程4の生成物に抗酸化剤を添加し、完全に均質化するまで振盪する;
逐次的工程を含む、局所用医薬組成物の製造方法を含む。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、肛門部への適用に適した局所薬学的組成物を含み、当該薬学的組成物は、粘膜接着性ポリマー、場合によっては局所麻酔薬(例えば、局所使用用)、肛門拡張薬、及びビヒクルを含む。通常、ビヒクルは非水性である。「肛門拡張薬」とは、局所使用に適用可能であり、肛門括約筋に局所作用がある、「硝酸塩及び亜硝酸塩」(例えば、ニトログリセリン/三硝酸グリセリン(GTN)、硝酸イソソルビド、一硝酸イソソルビド、亜硝酸ブチル、亜硝酸アミル)及び「カルシウムチャネル遮断薬」(例えば、アムロジピン、ジルチアゼム、フェロジピン、イスラジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニソルジピン、ベラパミル)等のいかなる血管拡張薬をも意味する。
【0021】
「非水性ビヒクル」とは、他の成分を形成、溶解、懸濁、又は均一に混合して、その投与を容易にし、又は医薬形態に調製しうるのに役立つ製剤の成分をいい、前記成分は、実質的に水を含まない(例えば、1%v/v未満、0.5%v/v未満、又は0.1%水未満)。非水性ビヒクルとしての例示的化合物としては、単独又は組み合わせて、カプリルカプリン酸トリグリセリド油、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、中鎖モノ-ジグリセリド、ヒマシ油、ポリエチレングリコール(PEG、例えばPEG400)、鉱物油、ココナッツ油、オレイン酸、中鎖トリグリセリド、カプリロカプロイルマクロゴール8グリセリド、プロピレングリコール、グリセリン及びポリエチレングリコール誘導体があげられる。ビヒクルの好ましい化合物の組合せは、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール400、ジエチレングリコールモノエチルエーテル及びカプリロカプロイルマクロゴール8グリセリドを含む。
【0022】
通常、本発明の製剤で用いられる非水性ビヒクルは、プロピレングリコール及び/又はポリエチレングリコール及び/又はジエチレングリコールモノエチルエーテル及び/又はカプリロカプロイルマクロゴール8グリセリドであり、これらは、しばしば5.0~90.0%w/wの割合であり、例えば70~90%w/w又は80~90%w/w等である。特定の実施形態では、非水性ビヒクルは全組成物の70%~90%w/wを構成し、10%~20%w/w(14%~18%w/w)PEG400、25%~35%w/w(30%~35%w/w)プロピレングリコール、20%~30%w(20%~25%w/w)ジエチレングリコールモノエチルエーテル、及び10%~20%w/w(14%~18%w/w)カプリロカプロイルマクロゴール8グリセリドを含む。
【0023】
より好ましくは、本発明は、肛門管の裂肛及び/又は痔を治療する有機ゲルからなり、粘膜接着プラットホーム、非水性ビヒクル、肛門拡張薬としてのジルチアゼム塩酸塩、及び局所麻酔剤としてのリドカインからなる処方物である。
【0024】
「有機ゲル」とは、有機溶媒(例えば、非水性ビヒクル)にゲル化剤を分散させたものである。
【0025】
一実施形態では、塩酸ジルチアゼムは肛門拡張薬であり、このカルシウムチャネル遮断薬は肛門括約筋の静止圧を低下させるのに有効であることが証明されている。既に、慢性肛門裂傷の治療及び痔核の治療では、痔核切除術後の期間を含む良好な結果を示している。最大肛門圧の低下に対するジルチアゼムの経口投与と局所投与の使用を比較した研究では、局所投与の方が、有効性が高く、副作用及び治癒率は局所ニトログリセリンとほぼ同じであった。
【0026】
ある態様では、ジルチアゼムは、0.1~10%、例えば、0.5~5%、特に1~3%、より具体的には1~2%(例えば、1%、2%)の濃度で存在する。
【0027】
ある態様では、リドカイン塩酸塩又はリドカイン塩基は、麻酔薬である。
【0028】
通常、本発明の製剤中の2つの活性剤の濃度は、0.5%w/wから5%w/wの割合のリドカイン塩酸塩又はリドカイン塩基、及び0.1%w/wから10%w/wの割合のジルチアゼム塩酸塩である。処方物はまた、粘膜接着性ポリマー、すなわち、0.1%から10%w/wの割合のヒドロキシプロピルメチルセルロース及び/又はアルギン酸ナトリウム及び/又はヒドロキシエチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルセルロースを含み得る。
【0029】
単一の医薬組成物中の上記2つの活性剤の組み合わせに加えて、本発明はまた、ペトロラタムゼリーを用いる場合の問題を解決する、適当な粘度、拡散性及び接着性であるゲルの形態でのこのような活性剤の配置も提供する。
【0030】
生体接着性とは、少なくとも1つは生物起源である2つの材料が、界面力によって長期間ともに保持される界面現象である。結合は、ポリマーと生体膜との間の接着等の、人工材料と生体基質との間のものであってもよい。接着は、感圧接着剤と表面との間の接触によって生成される接着として定義され得る。
【0031】
粘膜接着は、粘膜層又は細胞膜に結合することによる、生物学的基質への結合能がある生体接着性ポリマーを用いることから得られる特性である。当該特性は、作用部位又は吸収部位での製剤の滞留時間が長くなり、皮膚及び/又は粘膜上皮バリアとの薬物接触が高まる。好ましくは、本発明で用いられる粘膜接着性ポリマーの性能としては、皮膚及び肛門粘膜の両方で滞留時間が高まる。
【0032】
粘着性ポリマーのいくつかの例としては、セルロースの誘導体(例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム)、カルボマー類、ポリエチレングリコール類、ポリカルボフィル、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポロキサマー類、エチレンポリオキシド類、ポリビニルピロリドン(ポビドン)、ビニル類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸誘導体、ピロキシリン、ヒアルロン酸、アルギン酸ナトリウム及び/又はアルギン酸カルシウム、多糖類、アカシア、寒天、ペクチン、トラガカント、カラギーナン、ポリペプチド、カゼイン、ゼラチン、カラヤガム、グアーガム、キサンタンガム、ペクチン及びキトサン)である。特に好適な粘膜接着性ポリマーとしては、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸ナトリウム及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースが挙げられる。
【0033】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)は、非イオン性の冷水溶性の親水性ポリマーであり、粘稠なコロイド溶液を形成し、熱水、クロロホルム、エタノール(95%)及びエーテルにはほとんど不溶であるが、エタノール及びジクロロメタンの混合物、メタノール及びジクロロメタンの混合物、並びに水及びアルコールの混合物には溶解する。ある程度のヒドロキシプロピルメチルセルロースは、アセトンの水溶液、ジクロロメタンとプロパン-2-オールの混合物、及び他の有機溶媒に可溶である。HPMCはある程度の緩衝力を発揮し、pHに依存しない系にすることができる。種々のHPMCの中で、USP XXV/NF XXの仕様に従って、高粘度グレードのHPMC 2208、HPMC 2906及びHPMC 2910があるものは、膨潤マトリックス系を調製するのに最も汎用される。
【0034】
ヒドロキシエチルセルロース(HEC)は、セルロースパルプ又はセルロースパルプの処理により得られる非イオン性エーテルであり、室温で水溶性であり、一般的な増粘剤として用いられる。生分解性であり、生理学的不活性であり、様々な工業用途があるハイドロコロイドを形成する。本品は熱湯及び冷水にやや可溶で、澄明で均一な溶液を生じる。本品はアセトン、エタノール(95%)、エーテル、トルエンその他ほとんどの有機溶媒にほとんど不溶である。グリコール等のいくつかの極性溶媒中では、ヒドロキシエチルセルロースも溶解するか、又は部分的に溶解する。HECの水溶液は、粘度を効果的に変化させず、pH2~12で比較的安定である。ヒドロキシエチルセルロース溶液はpH5.0以下では比較的不安定で、加水分解が生じる。高pHでは酸化が起こる場合がある。ヒドロキシエチルセルロースは酵素的に分解され、その結果、溶液の粘度が失われる。この分解を触媒する酵素は、環境中に存在する多くの細菌や真菌によって産生される。したがって、当該賦形剤を長期間保存するため、水溶液に抗菌性保存剤を加えるべきである。当該ポリマーは、広範囲の水溶性抗菌防腐剤と共に用いうる。しかし、ペンタクロロフェン酸ナトリウムをHEC溶液に添加すると、直ちに粘度が低下する。
【0035】
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)は、カチオン界面活性剤と相溶性の非イオン性の部分的に置換されたポリ(ヒドロキシプロピル)セルロースエーテルである。HPCは38℃以下の水に非常に溶けやすく、透明なコロイド溶液を形成する。熱湯中では不溶性であり、40~45℃で膨潤したフレークとして沈殿する。本品は短鎖アルコール(エタノール、イソプロピルアルコール等)及びプロピレングリコール等のグリコール類等の極性溶媒に可溶であるが、グリセロールには不溶である。また、油や芳香族炭化水素等の脂肪族炭化水素にも不溶である。メチルパラベン、プロピルパラベンとは混和しない。
【0036】
通常、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び/又はヒドロキシエチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルセルロースを0.1~10%w/wの割合で組み合わせて、有機ゲル性能を提供する。
【0037】
アルギン酸ナトリウムは、さらに適当な粘膜接着性ポリマーである。アルギン酸塩はα‐L‐グルロン酸とβ‐D‐マンロン酸からなる1‐4結合の直鎖共重合体である。当該物質は、その配列構造及び重合度だけでなく、マニクロニック(M)残基とグルクロン(G)残基の間の比の点でも大きく変化する。このように、材料は、MG残基の交互の配列及び2又はそれ以上の残基からなるブロックを提示でき、M又はGアルギン酸ナトリウムは水にわずかに溶解し、粘稠なコロイド溶液を形成する。アルコール(95%)、エーテル、クロロホルム、アルコール/水混合物にほとんど不溶であるが、エタノール含量は30重量%を超える。また、pHが3未満の他の有機溶媒及び酸性化水溶液にはほとんど不溶である。ゲルの特性は、M/G比とポリマー鎖間の架橋数に依存する。ゲルは、Ca2+又はMg2+等の二価陽イオンの存在下及びグルロン残基配列の存在下で形成される。
【0038】
一例では、本発明の処方物は、0.5~10%w/wのヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を含む。別の例では、0.5~10%w/wのアルギン酸ナトリウム及び/又はヒドロキシエチルセルロースが存在する。
【0039】
本発明の別の態様では、皮膚治癒アジュバントは、医薬組成物の製造に用いられる。当該要素は創傷の治癒には必須ではないが、それを用いると組織修復を補助し、治癒を促進し、結果が良好となる。皮膚治癒アジュバントのいくつかの例としては、パパイン、D-パンテノール、プロポリス、ヒマワリ油、アルギン酸カルシウム、ブドウ種子油、ヒアルロン酸、カモミール又はCalendula officinalisである。特定の実施形態では、皮膚治癒アジュバントは、D-パンテノールであり、例えば、0.5~5% w/wの割合で用いられる。
【0040】
本発明の処方物はまた、1又はそれ以上の酸化防止剤を含み得る。使用可能な抗酸化剤としては、アルファ型トコフェロール(0.01~1.0%w/w)、ガンマ型及びベータ型トコフェロール(0.01~1.0%w/w)、アスコルビン酸(0.01~1.0%w/w)、クエン酸一水和物(0.01~1.0%w/w)、アスコルビルパルミテート(0.01~1.0%w/w)、ブチル化ヒドロキシトルエン(0.01~1.0%w/w)、ブチル化ヒドロキシアニソール(0.01~1.0%w/w)、エリソルビン酸(0.01~1.0%w/w)、フマル酸(0.01~1.0%w/w)、リンゴ酸(0.01~1.0%w/w)、メチオニン(0.01~1.0%w/w);モノチオグリセロール(0.01~1.0%w/w);メタ重亜硫酸ナトリウム及び重亜硫酸ナトリウム(0.01~1.0%w/w);プロピオン酸プロピルガレート(0.01~1.0%w/w);アスコルビン酸ナトリウム(0.01~1.0%w/w);ホルムアルデヒドスルホキシラートナトリウム(0.01~1.0%w/w);亜硫酸ナトリウム(0.01~1.0%w/w);チオ硫酸ナトリウム(0.01~1.0%w/w);二酸化硫黄(0.01~1.0%w/w);ビタミンEのチモール及びポリエチレングリコールコハク酸エステル(0.01~1.0%w/w)があげられる。
【0041】
非水性ビヒクルは、所与の活性物質の溶解及び溶解性を高めることを促進することを目的とし、特定の実施形態では、薬物の皮膚及び経皮投与の改善を目的とする。問題のビヒクル中に分散された粘膜接着性ポリマーは有機ゲルを形成する。有機ゲルとは、ポリマーが膨潤し、有機溶媒を三次元的に網目状に保持するゲルである。このことを考慮すると、有機ゲルの形態で与えられる薬剤を用いる利点のいくつかは、作用場所に指向する方法による薬物の送達、より長い作用時間、皮膚及び経皮投与の改善、投与の容易さ及び非侵襲性である。有機ゲルの別の利点は、医薬形態の皮膚への接着力のために、洗浄前に比較的長期間残存し、通常、刺激がない方法で接触しうることである。
【0042】
塩酸リドカイン(麻酔薬)及びジルチアゼム(肛門拡張薬)の活性剤は、本発明で使用される好ましい活性剤であるが、当該薬剤に代えて他の麻酔薬及び拡張薬を用いてよい。
【0043】
リドカインの代替薬としては、メピバカイン、エチドカイン、リドカイン塩基、プリロカイン、ブピバカイン、プロカイン、クロルプロカイン、ロピバカイン、テトラカイン、コカイン、アメトカイン及びシンコカインがある。エステル系の麻酔薬はメチルパラ安息香酸に代謝され、刺激反応やアレルギー反応を起こすことが多いため、アミド系の麻酔薬を用いることが望ましい。
【0044】
肛門拡張薬は、ジルチアゼムの代わりに、ジヒドロピリジン(例えば、ニフェジピン、フェロジピン、アムロジピン、ラシジピン)、フェニルアルキルアミン(ベラパミル)、ベンゾジアゼピン、及びテトラロール(メベフラジル)のファミリーに属する薬物であり得る。本発明に適用することができるカルシウムチャネル遮断薬のクラスに属さない拡張薬のいくつかの例は、局所硝酸塩、ムスカリン性アゴニスト、アゴニスト及びアドレナリンアンタゴニスト(インドラミン)である。
【0045】
さらに、本発明の処方にアロエベラを含めることも可能である。この成分は、保湿剤、収斂剤、皮膚軟化剤、抗炎症剤、紫外線に対する鎮痛剤及び皮膚保護剤、ならびに免疫刺激剤として同時に作用する。
【0046】
製造工程〕
本発明の医薬組成物の製造方法は、好ましくは、以下の:
工程1:適当な容器に非水性ビヒクルを加え、20℃~50℃に加熱する;
工程2:有効成分(ジルチアゼム、塩酸リドカイン等)を加えて振り混ぜる;
工程3:溶液を必要に応じて20℃~40℃に冷却し、放置する;
工程4:別の容器で、粘膜接着性ポリマー等のポリマーを非水性ビヒクルに添加し、完全に分散するまで撹拌する;
工程5:場合によっては、工程4の生成物と共に治癒アジュバントを加える;
工程6:場合によっては、工程5の生成物に抗酸化剤を添加し、完全に均質化するまで振盪する;
工程7:工程3の生成物を工程6の生成物に注ぎ込み、完全に均質化するまで撹拌する;
逐次的工程を含む。
特定の組成物は、以下の成分を含む:
【0047】
【表1】