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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 7/06 20060101AFI20241114BHJP
   F16K 11/07 20060101ALI20241114BHJP
   G05B 11/36 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
F16K11/07 J
G05B11/36 N
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021004383
(22)【出願日】2021-01-14
(65)【公開番号】P2022109059
(43)【公開日】2022-07-27
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 まりの
(72)【発明者】
【氏名】近藤 章
(72)【発明者】
【氏名】濱田 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】吉田 達矢
【審査官】渡邊 捷太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-9437(JP,A)
【文献】特開昭58-151603(JP,A)
【文献】特開2000-268376(JP,A)
【文献】特開2005-189016(JP,A)
【文献】特開平6-289906(JP,A)
【文献】特開昭62-17814(JP,A)
【文献】特開2007-298102(JP,A)
【文献】特開平5-231402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 7/06
F16K 11/07
G05B 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象に対するスプール型流量制御弁による気体の給排の流量を制御することによって当該制御対象の制御量を目標値へと制御する制御装置であって、
目標値に基づいて前記スプール型流量制御弁のスプール位置指令を生成する制御器と、
生成されたスプール位置指令に、前記スプール型流量制御弁の非線形な流量特性を線形補償するための補正を適用し、前記スプール型流量制御弁に出力する非線形補償器と、
を備え
前記補正は、前記スプール型流量制御弁の流量特性の逆関数を乗じることである制御装置。
【請求項2】
前記制御対象はエアステージである請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記線形補償は、目標値に基づいて生成されたスプール位置指令と、補正を適用されたスプール位置指令に対応する流量との関係を線形にすることである請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記非線形補償器は、前記スプール型流量制御弁のスプールのストローク範囲のうちの中立位置を含む中央範囲におけるスプール位置指令と、前記中央範囲に隣接する隣接範囲におけるスプール位置指令に対して異なる補正を適用する請求項1から3のいずれかに記載の制御装置。
【請求項5】
前記隣接範囲に適用される補正は、前記隣接範囲における前記スプール型流量制御弁の流量特性を、前記中央範囲における前記スプール型流量制御弁の流量特性に連続し、かつ、同じ傾きをする流量特性とする補正である請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記非線形補償器は、前記スプールの位置が前記中央範囲と前記隣接範囲との間で切り替わる場合、スプール位置指令に適用する補正を、一方の範囲における補正から、他方の範囲における補正に徐々に変化させる請求項4または5に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エアステージなどの制御対象に対する気体の給排気の流量を制御するスプール型流量制御弁が知られている。スプール型流量制御弁は、スプールが動作することにより、供給ポートから制御ポートひいては制御対象に気体を供給し、また、制御ポートひいては制御対象から排気ポートに気体を排出する。
【0003】
従来では、静圧空気軸受を介して非接触でスプールがスリーブに支持されるスプール型流量制御弁が提案されている(特許文献1)。このスプール型流量制御弁によれば、スリーブとスプールとの間に摺動摩擦が生じないため、高精度にスプールを位置決めでき、したがって制御対象に供給する気体の流量を高精度に制御できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-297243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、スプール型流量制御弁の流量特性について検討した結果、以下の課題を認識するに至った。
【0006】
スプール型流量制御弁は、スプールの弁体と制御ポートの開口部との隙間の関係で、スプールが中立位置付近にあるときと、そうでないときとで流量特性に非線形性が生じている。この非線形性は、制御ポートに接続される制御対象の制御性を悪化させる。
【0007】
本発明はかかる状況においてなされたものであり、スプール型流量制御弁により気体が給排気される制御対象の制御性を向上できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の制御装置は、制御対象に対するスプール型流量制御弁による気体の給排の流量を制御することによって当該制御対象の制御量を目標値へと制御する制御装置であって、目標値に基づいてスプール型流量制御弁のスプール位置指令を生成する制御器と、生成されたスプール位置指令に、スプール型流量制御弁の非線形な流量特性を線形補償するための補正を適用し、スプール型流量制御弁に出力する非線形補償器と、を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のある態様によれば、スプール型流量制御弁により気体が給排気される制御対象の制御性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係るスプール型流量制御弁を概略的に示す図である。
図2図2(a)、(b)は、図1のスプール型流量制御弁の動作を説明する図である。
図3図3(a)~(c)は、スプール型流量制御弁の流量特性を説明する図である。
図4図4(a)、(b)は、参考例に係るスプール型流量制御弁の弁体および制御ポートとそれらの周辺を示す断面図である。
図5】制御対象の制御系の基本構成を示すブロック図である。
図6図5の非線形補償器の機能を説明するための図である。
図7】変形例に係る非線形補償器の機能を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して示す。
【0013】
図1は、スプール型流量制御弁(サーボ弁)100を概略的に示す図である。スプール型流量制御弁100は、制御対象に供給する気体の流量を制御する流量制御弁である。スプール型流量制御弁100の制御対象は、特に限定しないが例えばエアアクチュエータであり、この場合、スプール型流量制御弁100は、エアアクチュエータに供給する気体すなわち空気の流量を制御する。
【0014】
スプール型流量制御弁100は、円筒状のスリーブ104と、スリーブ104に収容されるスプール106と、スリーブ104の一端側に設けられ、スプール106がスリーブ104内を移動するよう駆動するアクチュエータ108と、スリーブ104の他端側に設けられ、スプール106の位置を検出する位置検出部110と、スリーブ104の他端側に接続され、位置検出部110を収容するカバー114と、を備える。
【0015】
以下では、スリーブ104の中心軸に平行な方向を軸方向とよぶ。また、スリーブ104に対してアクチュエータ108が設けられる側を左側、スリーブ104に対して位置検出部110が設けられる側を右側として説明する。
【0016】
スプール106は、第1支持部118と、第2支持部122と、弁体120と、第1連結軸124と、第2連結軸126と、駆動軸128と、を含む。第1支持部118、弁体120、第2支持部122は、いずれも円柱状であり、左側から軸方向にこの順で並ぶ。第1連結軸124は、軸方向に延在し、第1支持部118と弁体120とを連結する。第2連結軸126は、軸方向に延在し、弁体120と第2支持部122とを連結する。駆動軸128は、第1支持部118から左側に向かって軸方向に突出する。
【0017】
アクチュエータ(リニア駆動部)108は、駆動軸128ひいてはスプール106を軸方向に移動させる。アクチュエータ108は、特に限定はしないが、図示の例ではボイスコイルモータである。
【0018】
スプール106の第1支持部118および第2支持部122は、静圧気体軸受によってスリーブ104から浮上した状態で、すなわちスリーブ104とは非接触で支持される。
【0019】
本実施の形態では第1支持部118の外周面には、静圧気体軸受としてのエアパッド168が設けられている。エアパッド168は、図示しない給気系から供給される圧縮気体を、第1支持部118とスリーブ104との隙間である第1隙間148に噴出する。これにより、第1隙間148に高圧の気体層が形成され、エアパッド168ひいては第1支持部118がスリーブ104から浮上する。なお、エアパッド168は、第1支持部118の外周面の代わりに、第1支持部118と対向するスリーブ104の内周面104aの部分に設けられてもよい。
【0020】
同様に、第2支持部122の外周面には、静圧気体軸受としてのエアパッド170が設けられている。エアパッド170は、図示しない給気系から供給される圧縮気体を、第2支持部122とスリーブ104との隙間である第2隙間150に噴出する。これにより、第2隙間150に高圧の気体層が形成され、エアパッド170ひいては第2支持部122がスリーブ104から浮上する。なお、エアパッド170は、第2支持部122の外周面の代わりに、第2支持部122と対向するスリーブ104の内周面104aの部分に設けられてもよい。
【0021】
なお、図1では、第1隙間148および第2隙間150を誇張して描いている。実際には、第1隙間148および第2隙間15は、静圧気体軸受を形成するためには、数ミクロン程度であることが好ましい。
【0022】
位置検出部110は、特には限定しないが、この例ではスプール106を非接触で検出可能に構成される。位置検出部110には、例えばレーザセンサが使用される。
【0023】
カバー114は、円筒部114aと底部114bとが一体に形成された有底カップ形状を有し、その底部114bを右にして、すなわちスリーブ104の右端の開口部と開口部同士が向かい合わせになるようにして、スリーブ104の右端に接続される。
【0024】
なお、カバー114は、スリーブ104と一体に形成されてもよい。言い換えると、スプール型流量制御弁100がカバー114を備えない代わりに、スリーブ104は左端のみが開口した有底筒状に形成されてもよい。
【0025】
アクチュエータ108は、ヨーク112と、マグネット162と、コイルボビン164と、コイル166と、を含む。ヨーク112は、例えば鉄などの磁性体で構成される。ヨーク112は、円筒部112aと底部112bとが一体に形成された有底カップ形状を有し、その底部112bを左にして、すなわちスリーブ104の左端の開口部と開口部同士が向かい合わせになるようにして、スリーブ104の左端に接続される。
【0026】
ヨーク112は、底部112bから右側に向かって軸方向に突出する円柱状の凸部112cをさらに有する。マグネット162は、凸部112cを環囲するように円筒部112aの内周面に接着固定される。マグネット162は、周方向に連続していてもよく、周方向に不連続であってもすなわち間欠的に設けられてもよい。
【0027】
コイルボビン164は、マグネット162の内側に設けられる。コイルボビン164は、凸部112cを環囲するとともに、一端側が駆動軸128に接続される。コイル166は、コイルボビン164の外周に巻回される。アクチュエータ108は、コイル166への供給電流量および電流の向きに応じて、コイル166が巻回されたコイルボビン164ひいてはスプール106を軸方向のいずれかに移動させる力を発生させる。なお、マグネット162とコイル166の位置関係が逆であってもよい。すなわちマグネット162が、コイル166の内側、具体的には凸部112cの外周面に設けられてもよい。
【0028】
スリーブ104とアクチュエータ108のヨーク112との間、スリーブ104とカバー114との間は、それぞれ、Oリングやメタルシールなどのシール部材146によってシールされる。したがって、スリーブ104、ヨーク112およびカバー114の内部は、後述の複数のポートを除いて、密閉されている。
【0029】
スリーブ104には、供給ポート130、制御ポート132および排気ポート134が形成される。供給ポート130、制御ポート132、排気ポート134はそれぞれ、スリーブ104の内側と外側とを連通する連通孔であり、軸方向に直交する方向に延びる。
【0030】
供給ポート130は、チューブやマニホールド(いずれも不図示)を介して圧縮気体供給源(不図示)に接続される。制御ポート132は、チューブやマニホールド(いずれも不図示)を介して、制御対象(不図示)に接続される。制御ポート132は、径方向に見て、軸方向および周方向に平行な4辺を有する矩形状に形成される。排気ポート134は、チューブやマニホールド(いずれも不図示)を介して大気に開放される。図1では、スプール106が中立位置にあり、弁体120により制御ポート132が塞がれている。中立位置は、弁体120の軸方向中央部と制御ポート132の軸方向中央部との軸方向位置が一致するスプール106の位置をいう。
【0031】
以上がスプール型流量制御弁100の基本構成である。続いてその動作について説明する。図2(a)、(b)は、図1のスプール型流量制御弁100の動作を説明する図である。
【0032】
図2(a)は、図1の状態にあったスプール106が、アクチュエータ108に駆動されて軸方向右側に移動した状態を示す。この状態では、弁体120で塞がれていた制御ポート132が開放され、かつ、供給ポート130と制御ポート132とが連通し、圧縮気体供給源からの圧縮気体が供給ポート130、スリーブ104の内側および制御ポート132を通って制御対象に供給される。この際、位置検出部110による検出結果に基づいてスプール106の位置を制御し、弁体120によって制御ポート132の開口面積を制御することで、制御対象に供給される圧縮気体の流量を制御する。
【0033】
図2(b)は、図1の状態にあったスプール106が、アクチュエータ108に駆動されて軸方向左側に移動した状態を示す。この状態では、弁体120で塞がれていた制御ポート132が開放され、かつ、制御ポート132と排気ポート134とが連通し、制御対象からの圧縮気体が制御ポート132、スリーブ104の内側および排気ポート134を通って大気中に排気される。この際、位置検出部110による検出結果に基づいてスプール106の位置を制御し、弁体120によって制御ポート132の開口面積を制御することで、制御対象から排気される圧縮気体の流量を制御する。
【0034】
図3(a)~(c)は、スプール型流量制御弁の流量特性を説明する図である。図3(a)~(c)において、正の流量は供給ポートから制御ポートひいては制御対象に供給される流量を示し、負の流量は制御ポートひいては制御対象から排気ポートに排気される流量を示す。
【0035】
図3(a)は、理想的な流量特性を示す。図3(b)は、非線形性を有する流量特性を示す。流量特性の非線形性は、流量の制御性の低下を招く。図3(c)は、中立位置付近に不感帯を有する流量特性を示す。ラップ量が大きいと、このような流量特性になる。ラップ量は、スリーブ104が中立位置にあるときに、弁体120が制御ポート132よりも軸方向に突出する長さ、言い換えると弁体120とスリーブ104とが制御ポート132の軸方向外側で重なる(オーバーラップする)長さをいう。不感帯があると、制御対象が高い応答性を実現できないため、好ましくない。
【0036】
図4(a)、(b)は、参考例に係るスプール型流量制御弁200の弁体220および制御ポート232とそれらの周辺を示す断面図である。図4(b)は、図4(a)の破線で囲まれた部分の拡大図である。
【0037】
理論上、図3(a)に示す理想的な流量特性を実現するには、少なくとも、(i)弁体220の左右の軸方向端面220a,220bと外周面220cとが接続する角部232d,232eをいわゆるピン角に形成、すなわち弁体220の中心軸を通る断面において角部220dを直角に形成し、(ii)制御ポート232の内周面側の開口部周縁232a,232bをいわゆるピン角に形成、すなわちスリーブ204の中心軸を通る断面において開口部周縁232aを直角に形成し、(iii)図4(a)に示すようにスプール206が中立位置にあるときに弁体220の左右の軸方向端面220a,220bと制御ポート232の左右の周面232c,232dとが面一になるように弁体220および制御ポート232を形成する必要がある。
【0038】
しかしながら、現実は、加工技術の限界により、弁体220の角部232d,232eも制御ポート132の開口部周縁232a,232bも厳密にはピン角に形成できず、微視的には丸角となる。したがって、例えば、スプール206が中立位置にあるときに弁体220の左右の軸方向端面220a,220bと制御ポート232の左右の周面232c,232dとが面一になるように弁体220および制御ポート232を構成すると、スプール206が中立位置にあるときの弁体220の外周面220cと制御ポート132の開口部周縁232a,232bとの隙間G1が、弁体220の外周面220cとスリーブ204の内周面204aとの隙間G0よりも広くなり、その結果、参考例に係るスプール型流量制御弁の流量特性は、図3(b)に示すような非線形性を有する流量特性になる。
【0039】
例えば不感帯が生じない程度に弁体220とスリーブ204とをオーバーラップさせて隙間G1を隙間G0に近づけるなどして、図3(a)に示す理想的な流量特性にある程度近づけることができる。
【0040】
しかしながら、図3(a)に示す理想的な流量特性を実現するのは実際には不可能であり、程度の差はあるものの、スプール型流量制御弁の流量特性は非線形となる。
【0041】
そこで本発明者らは、スプール型流量制御弁100の流量特性の非線形性を制御により線形補償することに想到した。以下、具体的に説明する。
【0042】
図5は、スプール型流量制御弁100が気体を給排する制御対象の制御系300の基本構成を示すブロック図である。制御系300は、コントローラ310と、非線形補償器320と、スプール型流量制御弁100と、制御対象330と、を含む。制御対象330は、ここではエアアクチュエータとする。また、スプール型流量制御弁100に対するスプール位置指令(操作量)uを入力、エアアクチュエータのストローク位置(すなわち制御量)xを出力とする。エアアクチュエータのストローク位置xは、不図示の位置検出器で検出される。
【0043】
コントローラ310は、この例ではフィードバックコントローラであり、減算器312と、制御器314と、を含む。コントローラ310は、ストローク位置xの検出値xfbが目標位置(目標値)xrefに近づくようにスプール型流量制御弁100に対するスプール位置指令uを生成する。目標位置xrefは例えば、上位の別のコントローラによりコントローラ310に与えられる。
【0044】
具体的には、減算器312は、エアアクチュエータのストローク位置xの検出値xfbとその目標位置xrefとの誤差(差分)xを生成する。制御器314は、この誤差xがゼロとなるようにPI(比例・積分)制御演算を行い、スプール型流量制御弁100に対するスプール位置指令uを生成する。制御器314は、PI制御演算に代えて、P(比例)制御演算、PID(比例・積分・微分)制御演算、その他の制御演算を行ってもよい。制御器314の処理は、誤差増幅器を用いたアナログ回路でも実現可能である。
【0045】
図6は、非線形補償器320の機能を説明するための図である。非線形補償器320は、スプール型流量制御弁100の非線形な流量特性(実線のグラフ)を線形補償するための補正を、スプール位置指令uに適用する。そして非線形補償器320は、補正が適用されたされたスプール位置指令(以下、補正スプール位置指令u’という)をスプール型流量制御弁100に出力する。
【0046】
「線形補償」は、流量特性を線形にすること、具体的には、スプール位置指令uと、当該スプール位置指令uに対応する補正スプール位置指令u’に対応するスプール型流量制御弁100の流量Qとの関係を線形にすることである。
【0047】
本実施の形態において、流量特性を線形補償するための補正は、当該流量特性の逆関数(破線のグラフ)を乗ずることである。スプール位置指令uと、スプール位置指令uに逆関数を乗じて得られる補正スプール位置指令u’に対応する流量Qとの関係は、Q=u(y=x)の直線(線形)となる。
【0048】
流量特性の逆関数は、予め導出してコントローラ310の不図示の記憶装置に記憶しておけばよい。逆関数は、例えば、スプール106のストローク範囲全体にわたる多数のスプール位置について実測した流量に基づいて導出すればよい。
【0049】
スプール型流量制御弁100は、スプール位置指令u’に応じてスプール106が移動し、制御対象330に対して気体が給排される。これにより、エアアクチュエータのストローク位置xが目標位置xrefに近づくように変化する。
【0050】
以上説明した本実施の形態によれば、スプール型流量制御弁100の非線形な流量特性が線形に補償されるため、つまりスプール型流量制御弁100を線形な流量特性を有するスプール型流量制御弁として挙動させることができるため、スプール位置指令の全域にわたって制御対象の制御性を高めることができる。
【0051】
また、本実施の形態によれば、制御によってスプール型流量制御弁100の非線形な流量特性が線形に補償されるため、スプール型流量制御弁100を加工によって理想的な流量特性に近づける必要がなく、スプール型流量制御弁100の製造コストを低減できる。
【0052】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0053】
(変形例1)
流量特性を線形補償するための補正として、実施の形態ではスプール106のストローク範囲全体におけるスプール位置指令uに対して同じの補正(補正式)を適用したが、当該ストローク範囲のうちの中立位置を含む中央範囲におけるスプール位置指令uと、中央範囲に隣接する2つの隣接範囲におけるスプール位置指令uとに対して異なる補正を適用してもよい。
【0054】
図7は、変形例に係る非線形補償器320の機能を説明するための図である。
【0055】
非線形補償器320は、スプール型流量制御弁100の中央領域Rcにおける流量特性を1次式で近似する。以下に中央領域Rcにおける近似式を示す。
Q=a×u (-u≦u≦u) ・・・(1)
ここで、
a:係数
,-u:中央範囲Rcと2つの隣接範囲Raとの境界のスプール位置
である。
【0056】
また、非線形補償器320は、スプール型流量制御弁100の2つの隣接領域Raにおける流量特性を1次式で近似する。以下に、2つの隣接領域Raにおける近似式を示す。
Q=b×u+c (u>u) ・・・(2)
Q=b×u-c (u<-u) ・・・(3)
ここで、
b,c:係数
である。
【0057】
スプール型流量制御弁100の流量特性が式(1)~(3)で近似される場合、非線形補償器320は、中央範囲Rcのスプール位置指令uに対しては以下の式で表される補正を適用する。
u’=n×u (nは任意の正の実数) (-u≦u≦u)・・・(4)
【0058】
また、非線形補償器320は、2つの隣接範囲Raのスプール位置指令uに対しては以下の式で表される補正を適用する。
u’=(n×a×u-c)/b (u>u) ・・・(5)
u’=(n×a×u+c)/b (u<-u) ・・・(6)
【0059】
スプール位置指令uと、スプール位置指令uにこれらの式(4)~(6)の補正を適用することにより得られる補正スプール位置指令u’に対応する流量との関係は、Q=na×uの直線(一点鎖線の直線)となる。
【0060】
なお、図示の例はn=1の場合を示している。n=1の例は、中央範囲のスプール位置指令uに対しては補正を適用していないと捉えることもできる。
【0061】
本変形例では、スプール106の位置が中央範囲Rcから隣接範囲Raに切り替わる際と、隣接範囲Raから中央範囲Rcに切り替わる際に、スプール位置指令uに適用される補正が切り替わる。適用される補正が急に切り替わると挙動が不安定になりうる。そこで、スプール106の位置が中央範囲Rcと隣接範囲Raとの間で切り替わる場合、適用する補正を時間とともに徐々に変化させる。すなわち緩やかにあるいは階段的に変化させる。
【0062】
具体的には、例えば、中央範囲Rcから隣接範囲Raに移動する場合、式(5)、(6)において(u-c)、(u+c)に乗じる値をnからna/bに時間とともに徐々に変化させる。また例えば、隣接範囲Raから中央範囲Rcに移動する場合は、式(4)においてuに乗じる値をna/bからnに時間経過とともに徐々に変化させる。
【0063】
本変形例によれば、実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0064】
また、本変形例によれば、位置が中央範囲Rcと隣接範囲Raとの間で切り替わる場合に、スプール位置指令uに適用する補正を時間とともに徐々に変化させるため、補正が急に切り替わることによる不安定な挙動を抑止できる。また、中央範囲Rcと隣接範囲Raとの間を頻繁に行ったり来たりする場合に、適用される補正が振動的に切り替わるのを防ぐことができる。
【0065】
(変形例2)
実施の形態では、コントローラ310がフィードバック制御によりスプール位置指令uを生成する場合について説明したが、コントローラ310はフィードバック制御に加えて、あるいはフィードバック制御に代えて、フィードフォワード制御によりスプール位置指令uを生成してもよい。
【0066】
上述した実施の形態および変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0067】
100 スプール型流量制御弁、 104 スリーブ、 106 スプール、 108 アクチュエータ、 120 弁体、 130 供給ポート、 132 制御ポート、 134 排気ポート、 168,170 エアパッド。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7