(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】センタ穴決定装置およびセンタ穴決定方法
(51)【国際特許分類】
F16C 3/08 20060101AFI20241114BHJP
B23B 5/18 20060101ALN20241114BHJP
【FI】
F16C3/08
B23B5/18
(21)【出願番号】P 2021052360
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000152675
【氏名又は名称】コマツNTC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】義本 明広
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/093210(WO,A1)
【文献】特開2018-189491(JP,A)
【文献】国際公開第2009/016988(WO,A1)
【文献】特開2010-031987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 3/08
B23B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端部と第2端部との間に位置するカウンタウェイトを有する素材クランクシャフトのセンタ穴を決定するセンタ穴決定装置であって、
前記カウンタウェイトの実形状に基づいて前記素材クランクシャフトの慣性主軸を取得する慣性主軸取得部と、
前記第1端部の実形状と前記慣性主軸とに基づいて、前記素材クランクシャフトの切削後において前記第1端部の素材表面が残るか否かを判定する判定部と、
前記第1端部の素材表面が残らないと判定された場合に、前記慣性主軸に基づいて前記素材クランクシャフトのセンタ穴を決定するセンタ穴決定部と、
を備えるセンタ穴決定装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記第1端部及び前記第2端部それぞれの実形状と前記慣性主軸とに基づいて、前記素材クランクシャフトの切削後において前記第1端部及び前記第2端部それぞれの素材表面が残るか否かを判定し、
前記センタ穴決定部は、前記第1端部及び前記第2端部それぞれの素材表面が残らないと判定された場合に、前記慣性主軸に基づいて前記素材クランクシャフトのセンタ穴を決定する、
請求項1に記載のセンタ穴決定装置。
【請求項3】
第1端部と第2端部との間に位置するカウンタウェイトを有する素材クランクシャフトのセンタ穴を決定するセンタ穴決定方法であって、
前記カウンタウェイトの実形状に基づいて前記素材クランクシャフトの慣性主軸を取得する取得工程と、
前記第1端部の実形状と前記慣性主軸とに基づいて、前記素材クランクシャフトの切削後において前記第1端部の素材表面が残るか否かを判定する判定工程と、
前記第1端部の素材表面が残らないと判定された場合に、前記慣性主軸に基づいて前記素材クランクシャフトのセンタ穴を決定するセンタ穴決定工程と、
を備えるセンタ穴決定方法。
【請求項4】
前記判定工程では、前記第1端部及び前記第2端部それぞれの実形状と前記慣性主軸とに基づいて、前記素材クランクシャフトの切削後において前記第1端部及び前記第2端部それぞれの素材表面が残るか否かを判定し、
前記センタ穴決定工程では、前記第1端部及び前記第2端部それぞれの素材表面が残らないと判定された場合に、前記慣性主軸に基づいて前記素材クランクシャフトのセンタ穴を決定する、
請求項3に記載のセンタ穴決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センタ穴決定装置およびセンタ穴決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンに組み込まれるクランクシャフトは、鍛造又は鋳造によって形成される素材クランクシャフトの両端面にセンタ穴を形成した後、センタ穴を基準として素材クランクシャフトの素材表面を切削加工される。
【0003】
特許文献1では、素材クランクシャフトのうちカウンタウェイトの形状からセンタ穴を決定する手法が開示されている。具体的には、特許文献1では、カウンタウェイトの設計形状を幾何中心周りに複数の領域に分割し、各領域の形状をカウンタウェイトの実形状に合わせたときの伸縮率に基づいて、センタ穴が決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の手法では、素材クランクシャフトのうちカウンタウェイトの形状のみからセンタ穴が決定されるため、そのセンタ穴を基準として素材クランクシャフトの素材表面を切削すると、素材クランクシャフトの両端部(具体的には、フロントシャフト及びリヤフランジ)の素材表面が残ってしまうおそれがある。
【0006】
そのため、切削後においても素材クランクシャフトの両端部の素材表面が残るか否かをセンタ穴決定時に判定できることが望まれている。
【0007】
本発明の目的は、素材クランクシャフトの切削後において両端部の素材表面が残るか否かを判定可能なセンタ穴決定装置およびセンタ穴決定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るセンタ穴決定装置は、第1端部と第2端部との間に位置するカウンタウェイトを有する素材クランクシャフトのセンタ穴を決定する。センタ穴決定装置は、慣性主軸取得部と、判定部と、センタ穴決定部とを備える。慣性主軸取得部は、カウンタウェイトの実形状に基づいて素材クランクシャフトの慣性主軸を取得する。判定部は、第1端部の実形状と慣性主軸とに基づいて、素材クランクシャフトの切削後において第1端部の素材表面が残るか否かを判定する。センタ穴決定部は、第1端部の素材表面が残らないと判定された場合に、慣性主軸に基づいて素材クランクシャフトのセンタ穴を決定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、素材クランクシャフトの切削後において両端部の素材表面が残るか否かを判定可能なセンタ穴決定装置およびセンタ穴決定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】素材クランクシャフトの加工システムの構成を示す模式図。
【
図4】カウンタウェイトの設計形状と実形状とを示す図。
【
図5】カウンタウェイトの設計形状の実形状へのベストフィットについて説明するための図。
【
図6】カウンタウェイトの各分割領域の伸縮について説明するための図。
【
図8】フロントシャフトの素材表面が残るか否かを判定する工程を説明するための図。
【
図9】センタ穴決定方法を説明するためのフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(素材クランクシャフト1)
図1は、素材クランクシャフト1の構成を示す斜視図である。素材クランクシャフト1は、例えば鍛造又は鋳造により成形される。本実施形態に係る素材クランクシャフト1は、直列4気筒エンジン用の素材クランクシャフトである。
【0012】
図1において、Z軸は素材クランクシャフト1の中心軸であり、X軸はZ軸に垂直な軸であり、Y軸はZ軸及びX軸に垂直な軸である。
【0013】
素材クランクシャフト1は、フロントシャフトE1、リヤフランジE2、8つのカウンタウェイトCW(CW1~CW8)、4つのメインジャーナルJ(J1~J5)及び4つのピンジャーナルP(P1~P4)を有する。
【0014】
素材クランクシャフト1では、Z軸方向において、フロントシャフトE1、メインジャーナルJ1、カウンタウェイトCW1、ピンジャーナルP1、カウンタウェイトCW2、メインジャーナルJ2、カウンタウェイトCW3、ピンジャーナルP2、カウンタウェイトCW4、メインジャーナルJ3、カウンタウェイトCW5、ピンジャーナルP3、カウンタウェイトCW6、メインジャーナルJ4、カウンタウェイトCW7、ピンジャーナルP4、カウンタウェイトCW8、メインジャーナルJ5、リヤフランジE2の順に並んでいる。
【0015】
フロントシャフトE1及びリヤフランジE2は、素材クランクシャフト1の両端部に位置する。フロントシャフトE1及びリヤフランジE2それぞれは、本発明に係る「第1端部」及び「第2端部」の一例である。
【0016】
フロントシャフトE1は、後工程においてセンタ穴が形成される第1端面S1を有する。リヤフランジE2は、後工程においてセンタ穴が形成される第2端面S2を有する。
【0017】
なお、素材クランクシャフト1の構成は、
図1に示された構成に限られない。素材クランクシャフト1は、少なくとも1つのカウンタウェイトCWと、フロントシャフトE1及びリヤフランジE2のうち少なくとも一方とを有していればよい。
【0018】
(クランクシャフト加工システム100)
次に、本実施形態に係るクランクシャフト加工システム100について、
図2を参照しながら説明する。
図2は、クランクシャフト加工システム100の構成を示す模式図である。
【0019】
クランクシャフト加工システム100は、センタ穴加工機10、センタ穴決定装置20及びクランクシャフト加工機30を有する。
【0020】
センタ穴加工機10は、実形状測定部11及びセンタ穴加工部12を備える。
【0021】
実形状測定部11は、素材クランクシャフト1の実形状を測定するための測定手段の一例である。
【0022】
実形状測定部11は、例えば、レーザ変位計、赤外線変位計、LED式変位センサ等の非接触変位計、又は、作動トランス等の接触式変位計を有する。実形状測定部11は、変位計からの測定値に基づいて、素材クランクシャフト1のうちフロントシャフトE1、リヤフランジE2及び8つのカウンタウェイトCWそれぞれの実形状を測定する。後述するように、8つのカウンタウェイトCWの実形状は、慣性主軸を求めるために用いられ、フロントシャフトE1及びリヤフランジE2の実形状は、フロントシャフトE1及びリヤフランジE2の素材表面が切削後に残るか否かを判定するために用いられる。
【0023】
なお、変位計を用いた実形状の測定方法としては、例えば、素材クランクシャフト1を回転させながら固定された変位計で測定する方法、固定された素材クランクシャフト1の周りに変位計を回転させながら測定する方法、或いは、素材クランクシャフト1を左右から挟み込むように配置した変位計を直線移動させながら測定する方法が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0024】
また、実形状測定部11は、測定対象を複数の異なる位置から測定することによって素材クランクシャフト1全体の実形状を3次元形状データとして生成する3次元デジタイザ(イメージスキャナ)であってもよい。
【0025】
センタ穴加工部12は、センタ穴決定装置20によって決定されたセンタ穴を素材クランクシャフト1の第1及び第2端面S1,S2に加工する。
【0026】
センタ穴決定装置20は、素材クランクシャフト1の第1及び第2端面S1,S2に加工されるセンタ穴の位置を決定するための処理装置である。センタ穴決定装置20は、CPU(Central Processing Unit)20a、ROM(Read Only Memory)20b及びRAM(Random Access Memory)20cを有する。
【0027】
ROM20bは、CPU20aに実行させる各種プログラムや各種情報を記憶する。本実施形態では、ROM20bは、素材クランクシャフト1のセンタ穴の位置を決定する処理のプログラムを記憶している。また、ROM20bは、素材クランクシャフト1のうちフロントシャフトE1、リヤフランジE2及び8つのカウンタウェイトCWそれぞれの設計形状を示す設計形状データを記憶している。RAM20cは、プログラムやデータを記憶する記憶領域、或いは、CPU20aにおける処理データを格納する作業領域として利用される。
【0028】
クランクシャフト加工機30は、センタ穴加工部12においてセンタ穴が加工された素材クランクシャフト1の素材表面を切削する。クランクシャフト加工機30は、設計形状に基づいて、主にフロントシャフトE1、リヤフランジE2、各カウンタウェイトCW、各ピンジャーナルP及び各メインジャーナルJそれぞれの素材表面を主に切削する。
【0029】
(センタ穴決定装置20)
図3は、センタ穴決定装置20の構成を示す模式図である。センタ穴決定装置20は、実形状データ取得部21、伸縮率算出部22、補正部23、慣性主軸取得部24、判定部25及びセンタ穴決定部26を備える。
【0030】
<実形状データ取得部21>
実形状データ取得部21は、素材クランクシャフト1のうちフロントシャフトE1、リヤフランジE2及び8つのカウンタウェイトCWそれぞれの実形状を示す実形状データを実形状測定部11から取得する。
【0031】
実形状データ取得部21は、8つのカウンタウェイトCWそれぞれの実形状を示す実形状データを伸縮率算出部22に送信し、フロントシャフトE1及びリヤフランジE2それぞれの実形状を示す実形状データを判定部25に送信する。
【0032】
<伸縮率算出部22>
伸縮率算出部22は、各カウンタウェイトCWの実形状を示す実形状データを実形状データ取得部21から取得する。伸縮率算出部22は、素材クランクシャフト1の各カウンタウェイトCWの設計形状を示す設計形状データをROM20bから取得する。
【0033】
図4は、カウンタウェイトCWの設計形状(実線)及び実形状(プロット●)を示す模式図である。
【0034】
図4に示すように、実形状の位置及び角度は、設計形状の位置及び角度に対してずれている。
図4において、設計形状は実線で示されているが、実際の設計形状は多数の極座標によって示される。極座標の個数は特に制限されないが、例えば、カウンタウェイトCWの中心P1周りに等角度(1度)で360個設定することができる。
【0035】
ここで、
図4に示すように、設計形状には、カウンタウェイトCWの中心P1周りに複数の分割領域DRが設定されている。各分割領域は、略扇形である。分割領域DRの個数は特に制限されないが、
図4では、カウンタウェイトCWの中心P1周りに等角度(11.25度)で32個設定されている。カウンタウェイトCWの中心P1は、平面視におけるカウンタウェイトCWの幾何中心である。設計形状には、各分割領域DRの重心Q1(
図4では、1つの重心Q1だけ図示)の座標(x、y、z)と、各分割領域Rの体積Vとが含まれている。伸縮率算出部22は、全ての分割領域DRについて、重心Q1の座標(x、y、z)と体積Vとを紐付けて記憶する。なお、座標を示すx、y及びzは、
図1のX軸、Y軸及びZ軸に対応している。
【0036】
次に、伸縮率算出部22は、
図5に示すように、ベストフィット法を用いて、設計形状を実形状に合うように移動及び/又は回転させることによって、設計形状と実形状との誤差の二乗和が最小になる位置を見つけ出す。そして、伸縮率算出部22は、ベストフィット前のカウンタウェイトCWの中心P1と、ベストフィット後のカウンタウェイトCWの中心P2とを比較して、X軸方向の位置変位M1、Y軸方向の位置変位M2、及び、Z軸周りの角度変位M3を算出する。
【0037】
次に、伸縮率算出部22は、
図5に示すように、位置変位M1、位置変位M2及び角度変位M3を用いて、ベストフィット後の各分割領域DRの重心Q2の座標(x’、y’、z)を求める。伸縮率算出部22は、ベストフィット後の各分割領域DRの重心Q2の座標(x’、y’、z)と体積Vとを紐付けて記憶する。なお、ベストフィット後の各分割領域DRの重心Q2のz座標は、ベストフィット前の各分割領域DRの重心Q1のz座標と同じである。また、ベストフィット後の各分割領域DRの体積Vは、ベストフィット前の各分割領域DRの体積Vと同じである。
【0038】
なお、
図5では、重心Q1と重心Q2の位置関係を示すためにベストフィット後の設計形状における1つの分割領域DRのみが図示されているが、ベストフィット後の設計形状においても、
図4に示したように32個の分割領域DRが設定されている。
【0039】
次に、伸縮率算出部22は、
図6(a)、(b)に示すように、ベストフィット後の分割領域DRと実形状とを比較して、ベストフィット後のカウンタウェイトCWの中心P2を中心とする径方向における両者の誤差値aを求める。そして、伸縮率算出部22は、
図6(c)に示すように、径方向における分割領域DRの全長Sと誤差値aとの和T(=S+a)を求め、さらに、和Tを全長Sで除すことによって伸縮率U(=T/S)を求める。後述するように、伸縮率Uは、各分割領域DRを、径方向において、カウンタウェイトCWの実形状と合うように伸縮させるために用いられる。
図6(a)~(c)に示す例では、実形状のプロットが分割領域DRの径方向外側に位置しているため、伸縮率Uは1よりも大きいが、実形状のプロットが分割領域DRの径方向内側に位置する場合、伸縮率Uは1よりも小さくなる。
【0040】
<補正部23>
補正部23は、伸縮率Uに基づいて、ベストフィット後の各分割領域DRの重心Q2の座標(x’、y’、z)を補正する。具体的には、補正部23は、伸縮後の各分割領域DRの重心Q2の補正座標(x’×U、y’×U、z)を求める。伸縮後の重心Q2のz座標は、伸縮前の重心Q2のz座標と同じである。
【0041】
また、補正部23は、伸縮率Uに基づいて、ベストフィット後の各分割領域DRの体積Vを補正する。具体的には、補正部23は、伸縮後の各分割領域DRの補正体積V×U2を求める。各分割領域DRの体積Vを補正することは、各分割領域DRの質量(体積Vと材料密度の乗算値)を補正することを意味する。
【0042】
そして、補正部23は、補正体積V×U2にカウンタウェイトCWの材料密度αを乗算することによって、各分割領域DRの補正質量M(=V×U2×α)を求める。
【0043】
このように、伸縮率Uに基づいて分割領域DRのサイズを伸縮(
図6(a)~(c)では伸張)させることによって、分割領域DRを実形状のプロット位置まで全体的に等比伸縮させることができる。このことは、カウンタウェイトCWの設計形状が分割領域DRごとに実形状に合わされることを意味している。従って、カウンタウェイトCWの実形状を容易かつ正確に再現することができる。
【0044】
補正部23は、1つのカウンタウェイトCWごとに32組の補正座標(x’×U、y’×U、z)と補正質量Mとを求める。従って、補正座標(x’×U、y’×U、z)と補正質量Mとの組み合わせは、1本の素材クランクシャフト1につき32×8=256組(8つのカウンタウェイトCWごとに32組)となる。
【0045】
<慣性主軸取得部24>
慣性主軸取得部24は、
図7に示すように、全てのカウンタウェイトCWの全ての分割領域DRに係る256個の補正座標(x’×U、y’×U、z)を補正質量Mの質点と捉えて、慣性主軸周りの慣性乗積が0(ゼロ)であるという条件から3次元の直線方程式を解くことによって、256個の質点の慣性主軸を取得する。
【0046】
慣性主軸取得部24は、取得した慣性主軸を素材クランクシャフト1の慣性主軸として判定部25に送信する。
【0047】
<判定部25>
判定部25は、フロントシャフトE1及びリヤフランジE2それぞれの実形状を示す実形状データを実形状データ取得部21から取得する。判定部25は、素材クランクシャフト1の慣性主軸を取得する。
【0048】
判定部25は、フロントシャフトE1の実形状と慣性主軸とに基づいて、クランクシャフト加工機30において素材クランクシャフト1の素材表面が切削された後にフロントシャフトE1の素材表面が残るか否かを判定する。
【0049】
具体的には、判定部25は、慣性主軸とフロントシャフトE1の素材表面との最小距離Rminを算出した後、設計形状によって示される設計寸法R1が最小距離Rminよりも大きいか否かを判断する。
図8(a)に示すように、設計寸法R1が最小距離Rminよりも大きい場合、判定部25は、クランクシャフト加工機30における切削後においてフロントシャフトE1の素材表面が残ると判定する。
図8(b)に示すように、設計寸法R1が最小距離Rmin以下である場合、判定部25は、クランクシャフト加工機30における切削後においてフロントシャフトE1の素材表面が残らないと判定する。
【0050】
フロントシャフトE1と同様、判定部25は、リヤフランジE2の実形状と慣性主軸とに基づいて、クランクシャフト加工機30において素材クランクシャフト1の素材表面が切削された後にリヤフランジE2の素材表面が残るか否かを判定する。
【0051】
<センタ穴決定部26>
センタ穴決定部26は、判定部25において、フロントシャフトE1及びリヤフランジE2それぞれの素材表面が残らないと判定された場合、慣性主軸に基づいて素材クランクシャフト1のセンタ穴を決定する。
【0052】
具体的には、センタ穴決定部26は、慣性主軸のx、yの式に、素材クランクシャフト1の第1及び第2端面S1,S2それぞれのz座標を慣性主軸のx、yの式に代入することによって、第1及び第2端面S1,S2それぞれにおけるセンタ穴の位置を決定する。その後、センタ穴決定部26は、センタ穴を示す位置データをセンタ穴加工部12に送信する。
【0053】
一方、センタ穴決定部26は、判定部25において、フロントシャフトE1及びリヤフランジE2のうち少なくとも一方の素材表面が残ると判定された場合、クランクシャフト加工機30において素材クランクシャフト1を切削しても不良品になってしまうため、第1及び第2端面S1,S2それぞれにおけるセンタ穴の位置を決定しない。その後、センタ穴決定部26は、素材クランクシャフト1をラインから除外することを示す指示データをセンタ穴加工部12に送信する。
【0054】
(センタ穴決定方法)
図9は、センタ穴決定方法を説明するためのフロー図である。
【0055】
ステップS1において、実形状データ取得部21は、素材クランクシャフト1のうちフロントシャフトE1、リヤフランジE2及び8つのカウンタウェイトCWそれぞれの実形状を示す実形状データを取得する。
【0056】
ステップS2において、慣性主軸取得部24は、各カウンタウェイトCWの実形状に基づいて素材クランクシャフト1の慣性主軸を取得する。本実施形態において、慣性主軸取得部24は、各分割領域DRの形状をカウンタウェイトCWの実形状に合わせたときの伸縮率Uから算出される補正座標(x’×U、y’×U、z)と補正質量Mの質点との組み合わせに基づいて慣性主軸を取得する。
【0057】
ステップS3において、判定部25は、フロントシャフトE1及びリヤフランジE2それぞれの実形状と慣性主軸とに基づいて、素材クランクシャフト1の素材表面が切削された後にフロントシャフトE1及びリヤフランジE2それぞれの素材表面が残るか否かを判定する。フロントシャフトE1及びリヤフランジE2いずれの素材表面も残らないと判定された場合、処理はステップS4に進む。フロントシャフトE1及びリヤフランジE2いずれかの素材表面が残ると判定された場合、処理はステップS5に進む。
【0058】
ステップS4において、センタ穴決定部26は、慣性主軸に基づいて素材クランクシャフト1のセンタ穴を決定する。
【0059】
ステップS5において、センタ穴決定部26は、素材クランクシャフト1を切削しても不良品になってしまうため、センタ穴を決定しない。
【0060】
(実施形態の変形例)
<変形例1>
上記実施形態において、慣性主軸取得部24は、各分割領域DRの形状をカウンタウェイトCWの実形状に合わせたときの伸縮率Uから算出される補正座標(x’×U、y’×U、z)と補正質量Mの質点との組み合わせに基づいて慣性主軸を取得することとした。しかしながら、慣性主軸取得部24における慣性主軸の取得方法はこれに限られない。慣性主軸取得部24は、カウンタウェイトCWの実形状に基づいて素材クランクシャフト1の慣性主軸を取得すればよい。
【0061】
例えば、慣性主軸の他の取得方法としては、最小二乗法によるベストフィットを適用する手法が挙げられる。具体的には、各カウンタウェイトCWの実形状と設計形状とをベストフィット比較することによって各カウンタウェイトCWにおける最小二乗中心を算出し、これらの最小二乗中心点を平均的に通る最小二乗軸線を慣性主軸とする。
【0062】
<変形例2>
上記実施形態において、判定部25は、フロントシャフトE1及びリヤフランジE2それぞれの実形状と慣性主軸とに基づいて、素材クランクシャフト1の素材表面が切削された後にフロントシャフトE1及びリヤフランジE2それぞれの素材表面が残るか否かを判定した。しかしながら、判定部25は、フロントシャフトE1及びリヤフランジE2のうち経験的に素材表面が残りやすい一方だけに素材表面が残るか否かを判定してもよい。
【0063】
<変形例3>
上記実施形態において、センタ穴決定部26は、フロントシャフトE1及びリヤフランジE2のうち少なくとも一方の素材表面が残ると判定された場合、第1及び第2端面S1,S2それぞれにおけるセンタ穴の位置を決定しないこととした。しかしながら、フロントシャフトE1及びリヤフランジE2のうち少なくとも一方の素材表面が残ると判定された場合には、慣性主軸を補正してもよい。例えば、フロントシャフトE1及びリヤフランジE2のうち素材表面が残る領域の反対方向に慣性主軸を微少量移動させた後、判定部25において再度判定してもよい。
【0064】
<変形例4>
上記実施形態において、クランクシャフト加工システム100は、センタ穴加工機10、センタ穴決定装置20及びクランクシャフト加工機30を有することとしたが、これらに含まれる機能部は適宜分離又は結合することができる。例えば、センタ穴加工機10は、実形状測定部11及びセンタ穴加工部12を備えることとしたが、実形状測定部11及びセンタ穴加工部12それぞれを別々の機械としてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 素材クランクシャフト
10 センタ穴加工機
20 センタ穴決定装置
21 実形状データ取得部
22 伸縮率算出部
23 補正部
24 慣性主軸取得部
25 判定部
26 センタ穴決定部
30 クランクシャフト加工機
100 クランクシャフト加工システム