IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -転圧機械 図1
  • -転圧機械 図2
  • -転圧機械 図3
  • -転圧機械 図4
  • -転圧機械 図5
  • -転圧機械 図6
  • -転圧機械 図7
  • -転圧機械 図8
  • -転圧機械 図9
  • -転圧機械 図10
  • -転圧機械 図11
  • -転圧機械 図12
  • -転圧機械 図13
  • -転圧機械 図14
  • -転圧機械 図15
  • -転圧機械 図16
  • -転圧機械 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】転圧機械
(51)【国際特許分類】
   E01C 19/26 20060101AFI20241114BHJP
   B60K 28/14 20060101ALI20241114BHJP
   B60W 30/18 20120101ALI20241114BHJP
   G05G 1/30 20080401ALI20241114BHJP
   G05G 1/01 20080401ALI20241114BHJP
【FI】
E01C19/26
B60K28/14
B60W30/18
G05G1/30 E
G05G1/01 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021056347
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022153691
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹田 奈美
(72)【発明者】
【氏名】竹内 裕樹
【審査官】坪内 優佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-190081(JP,A)
【文献】特開2011-074755(JP,A)
【文献】特開2020-032953(JP,A)
【文献】特開2017-166202(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0019192(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 19/00-19/52
B60K 25/00-28/16
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G05G 1/00-25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体と、
前記機体に回転可能に設けられ、路面を締め固める転圧ローラと、
前記転圧ローラを回転させ、前記機体を走行させる走行駆動装置と、
前記走行駆動装置を操作するための操作装置と、
前記操作装置の操作量に応じて前記走行駆動装置に前記機体の走行速度の指令信号を出力するコントローラと、を備える転圧機械において、
前記機体の情報もしくは前記機体の周囲の情報を検知する検知装置を備え、
前記操作装置は、傾動可能な前後進レバーであり、
前記走行駆動装置は、エンジンコントロールダイヤルの操作量に応じて前記コントローラで算出される回転数信号に基づいて駆動するエンジンと、前記エンジンによって駆動され、前記前後進レバーの操作量に応じて押しのけ容積が制御される油圧ポンプと、前記油圧ポンプから前記押しのけ容積に応じた圧油の供給を受けて回転し、前記転圧ローラを駆動する油圧モータと、を含んで構成されており、
前記コントローラは、前記前後進レバーの操作量に比例して前記走行速度を増加させ、所定の上限操作量で所定の第1上限走行速度に到達する指令信号を前記走行駆動装置に出力し、前記機体の情報もしくは前記機体の周囲の情報が所定の条件を満たした場合に、前記第1上限走行速度を前記第1上限走行速度よりも小さい第2上限走行速度に設定し、前記操作量と前記走行速度との関係を前記上限操作量で前記第2上限走行速度に到達する関係に設定前記エンジンコントロールダイヤルの操作量に対応する前記エンジンの第1回転数と、前記前後進レバーの操作量が前記上限操作量のときの前記第2上限走行速度に対応する前記エンジンの第2回転数とを算出し、前記第1回転数および前記第2回転数のうち小さい方の回転数を上限回転数に設定し、設定された前記上限回転数に固定して前記エンジンを駆動する、
ことを特徴とする転圧機械。
【請求項2】
前記検知装置は、前記機体の前方及び後方の少なくともいずれか一方において前記機体の車幅範囲内の第1領域及び前記機体の車幅範囲外の第2領域にある障害物を検知する物体検知センサであり、
前記所定の条件は、前記物体検知センサにより前記障害物が前記第2領域に存在することを検知することである、ことを特徴とする請求項1記載の転圧機械。
【請求項3】
前記物体検知センサにより検知された前記障害物が前記第1領域に存在する場合に、前記コントローラは前記機体の走行を停止させる指令信号を前記走行駆動装置に出力する、ことを特徴とする請求項2記載の転圧機械。
【請求項4】
前記検知装置は、前記走行速度の上限値を前記第1上限走行速度とする通常モードと前記走行速度の上限値を前記第2上限走行速度とする制限モードとを切り換えるモード切替スイッチであり、
前記所定の条件は、前記モード切替スイッチにより前記制限モードが選択された状態である、ことを特徴とする請求項1記載の転圧機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転圧機械に関し、特に走行速度の上限値を変更する機能を備える転圧機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タイヤローラ等の転圧機械では、最高速度を制限して転圧作業を実施することが行われている(特許文献1)。
【0003】
例えば特許文献1には、車体に内蔵される油圧回路や電気回路等の走行機構で前後のローラ部を駆動することにより、これらのローラ部が回転して前後進する仕組みのタイヤローラについて記載されている。当該タイヤローラの運転席の近傍には、タイヤローラの前後進速度を調整可能とするレバー状の操作部が配設されている。具体的には、操作部は所定の中立位置から前後に傾動させて操作するものであり、操作部を中立位置から前方に動かすとタイヤローラを前進させることができ、操作部を中立位置から後方に動かすとタイヤローラを後進させることができる。
【0004】
また、当該タイヤローラは、操作部の操作可能範囲を縮小する操作制限部を含んで構成されている。当該操作制限部は、アクチュエータの作動で操作部と接触可能な所定位置まで移動される規制片を含んでいる。そして、必要に応じて当該規制片を所定位置に移動させることによって、操作部の操作可能範囲が制限される仕組みとなっている。このように、操作制限部は、規制片によって操作部の操作可能範囲を制限することで、タイヤローラの前後進の最高速度を制限するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6664622号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、転圧作業中に転圧機械が急加速又は急停止することは、転圧路面を傷める要因となり得るため好ましくない。しかしながら、特許文献1に記載のタイヤローラでは、タイヤローラの最高速度が制限された場合、オペレータは、最高速度が制限される前の操作部の傾動範囲より小さな傾動範囲で操作部を操作する必要がある。このため、転圧作業中の操作部の微調整が難しく、タイヤローラが急加速又は急停止する虞があった。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、急激な速度変化を抑制し、操作性の向上を図る転圧機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の転圧機械は、機体と、前記機体に回転可能に設けられ、路面を締め固める転圧ローラと、前記転圧ローラを回転させ、前記機体を走行させる走行駆動装置と、前記走行駆動装置を操作するための操作装置と、前記操作装置の操作量に応じて前記走行駆動装置に前記機体の走行速度の指令信号を出力するコントローラと、を備える転圧機械において、前記機体の情報もしくは前記機体の周囲の情報を検知する検知装置を備え、前記操作装置は、傾動可能な前後進レバーであり、前記走行駆動装置は、エンジンコントロールダイヤルの操作量に応じて前記コントローラで算出される回転数信号に基づいて駆動するエンジンと、前記エンジンによって駆動され、前記前後進レバーの操作量に応じて押しのけ容積が制御される油圧ポンプと、前記油圧ポンプから前記押しのけ容積に応じた圧油の供給を受けて回転し、前記転圧ローラを駆動する油圧モータと、を含んで構成されており、前記コントローラは、前記前後進レバーの操作量に比例して前記走行速度を増加させ、所定の上限操作量で所定の第1上限走行速度に到達する指令信号を前記走行駆動装置に出力し、前記機体の情報もしくは前記機体の周囲の情報が所定の条件を満たした場合に、前記第1上限走行速度を前記第1上限走行速度よりも小さい第2上限走行速度に設定し、前記操作量と前記走行速度との関係を前記上限操作量で前記第2上限走行速度に到達する関係に設定前記エンジンコントロールダイヤルの操作量に対応する前記エンジンの第1回転数と、前記前後進レバーの操作量が前記上限操作量のときの前記第2上限走行速度に対応する前記エンジンの第2回転数とを算出し、前記第1回転数および前記第2回転数のうち小さい方の回転数を上限回転数に設定し、設定された前記上限回転数に固定して前記エンジンを駆動する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の転圧機械において、走行駆動装置は、エンジンコントロールダイヤルの操作量に応じてコントローラで算出される回転数信号に基づいて駆動するエンジンと、エンジンによって駆動され、前後進レバーの操作量に応じて押しのけ容積が制御される油圧ポンプと、油圧ポンプから押しのけ容積に応じた圧油の供給を受けて回転し、転圧ローラを駆動する油圧モータと、を含んで構成されており、コントローラは、前後進レバーの操作量に比例して走行速度を増加させ、所定の上限操作量で所定の第1上限走行速度に到達する指令信号を走行駆動装置に出力し、機体の情報もしくは機体の周囲の情報が所定の条件を満たした場合に、第1上限走行速度を第1上限走行速度よりも小さい第2上限走行速度に設定し、操作量と走行速度との関係を上限操作量で第2上限走行速度に到達する関係に設定し、さらに、エンジンコントロールダイヤルの操作量に対応するエンジンの第1回転数と、前後進レバーの操作量が上限操作量のときの第2上限走行速度に対応するエンジンの第2回転数とを算出し、第1回転数および第2回転数のうち小さい方の回転数を上限回転数に設定し、設定された上限回転数に固定してエンジンを駆動する。
これより、機体の情報もしくは機体の周囲の情報が所定の条件を満たした場合に、前後進レバーの操作量に対する転圧機械の走行速度の変化を鈍くすることができる。つまり、転圧作業中に前後進レバーの微調整を行った場合でも、前後進レバーの操作に応じて走行速度が敏感に変化する状態、即ち転圧機械の走行速度の大きな変化(急上昇又は急低下)を回避することができる。このようにして、急激な速度変化を抑制し、操作性の向上を図る転圧機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態に係る転圧機械の概略構成を示す側面図である。
図2図1に示す転圧機械における各構成要素の相互関係を示す制御ブロックであり、細線により電気的接続が示されており、太線により動力伝達経路が示されている。
図3図1に示す転圧機械による転圧作業の一例を平面視で示すものである。
図4図1に示す転圧機械に設けられたコントローラによる制御フローを示すものである。
図5図1に示す転圧機械に設けられたコントローラによって走行速度の上限値が変更される場合のアクセルペダル操作量と走行速度との関係を示すグラフであり、実線によって変更後の関係が示されており、破線によって変更前の関係が示されている。
図6図1に示す転圧機械に設けられたコントローラによって走行速度の上限値が変更される場合のアクセルペダル操作量とエンジン回転数との関係を示すグラフであり、実線によって変更後の関係が示されており、破線によって変更前の関係が示されている。
図7図1に示す転圧機械による転圧作業の別の例を平面視で示すものである。
図8】本発明の第2実施形態に係る転圧機械における各構成要素の相互関係を示す制御ブロックであり、細線により電気的接続が示されており、太線により動力伝達経路が示されている。
図9図8に示す転圧機械に設けられたコントローラによる制御フローを示すものである。
図10】本発明の第3実施形態に係る転圧機械の概略構成を示す側面図である。
図11図10に示す転圧機械における各構成要素の相互関係の一例を示す制御ブロックであり、細線により電気的接続が示されており、太線により動力伝達経路が示されている。
図12図10に示す転圧機械に設けられたコントローラによる制御フローの一例を示すものである。
図13図10に示す転圧機械に設けられたコントローラによって走行速度の上限値が変更される場合の前後進レバー操作量と走行速度との関係を示すグラフであり、実線によって変更後の関係が示されており、破線によって変更前の関係が示されている。
図14図10に示す転圧機械における各構成要素の相互関係の別の例を示す制御ブロックであり、細線により電気的接続が示されており、太線により動力伝達経路が示されている。
図15図10に示す転圧機械に設けられたコントローラによる制御フローの別の例を示すものである。
図16】本発明の第4実施形態に係る転圧機械における各構成要素の相互関係を示す制御ブロックであり、細線により電気的接続が示されており、太線により動力伝達経路が示されている。
図17図16に示す転圧機械に設けられたコントローラによる制御フローを示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0012】
<第1実施形態>
第1実施形態では、転圧機械の一態様であるタイヤローラ1について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るタイヤローラ1(転圧機械)の概略構成を示す側面図である。図2は、図1に示すタイヤローラ1における各構成要素の相互関係を示す制御ブロックであり、細線により電気的接続が示されており、太線により動力伝達経路が示されている。図3は、図1に示すタイヤローラ1による転圧作業の一例を平面視で示すものである。図4は、図1に示すタイヤローラ1に設けられたコントローラ70による制御フローを示すものである。図5は、図1に示すタイヤローラ1に設けられたコントローラ70によって走行速度の上限値が変更される場合のアクセルペダル操作量と走行速度との関係を示すグラフであり、実線によって変更後の関係が示されており、破線によって変更前の関係が示されている。図6は、図1に示すタイヤローラ1に設けられたコントローラ70によって走行速度の上限値が変更される場合のアクセルペダル操作量とエンジン回転数との関係を示すグラフであり、実線によって変更後の関係が示されており、破線によって変更前の関係が示されている。図7は、図1に示すタイヤローラ1による転圧作業の別の例を平面視で示すものである。
【0013】
なお、説明の便宜上、タイヤローラ1の進行方向を基準にキャビン12内の作業者から見て「前」、「後」、「左」、「右」をそれぞれ定義し、重力を基準に「上」、「下」を定義する。即ち、各図に示される矢印「前」及び「後」は、タイヤローラ1の前進方向及び後進方向を示し、矢印「上」及び「下」はタイヤローラ1の上下方向を示し、矢印「左」及び「右」はタイヤローラ1の車幅方向(前後方向及び上下方向に垂直な方向)を示す。
【0014】
図1に示すように、タイヤローラ1は、アスファルトを押し固めて道路を舗装するものであり、機体10と、転圧ローラ20と、走行駆動装置としてのHSTシステム30と、操作装置としてのアクセルペダル40と、検知装置としての物体検知センサ61と、コントローラ70とを含んで構成されている。
【0015】
図1に示すように、転圧ローラ20は、機体10に回転可能に設けられ、路面を締め固める所謂ゴムタイヤである。具体的には、転圧ローラ20は、機体10の前側に配設された前輪21と、機体10の後側に配設された後輪22とから構成されている。前輪21及び後輪22はそれぞれ、機体10の前側に設けられた前輪支持部23及び機体10の後側に設けられた後輪支持部(図示せず)に回転可能に支持されている。前輪21及び後輪22は、左右方向に所定の間隔を空けて、複数個が並んで配置されている。
【0016】
図1に示すように、機体10の上側にはキャビン12が設けられている。更に、機体10において、キャビン12の後方には落下防止柵14が設けられている。当該キャビン12には、オペレータが着座して機体10を操作する座席25が設けられている。座席25の前方には、オペレータが操作するハンドル24が設けられており、オペレータがハンドル24を操作することで前輪支持部23が左右方向に回動し、ひいては前輪21が左右方向に回動する。キャビン12には、座席25の前方下部にアクセルペダル40及びブレーキペダル(図示せず)が配設されており、当該アクセルペダル40及びブレーキペダルはオペレータによって踏圧可能なペダルである。また、キャビン12には、座席25に着座したオペレータが操作可能となるような位置に、前後進切換レバー45、エンジン回転数選択スイッチ49、及び最高速度設定スイッチ80が設けられている。
【0017】
図1及び図2に示すように、機体10には、転圧ローラ20における後輪22を回転させ、機体10を走行させるHSTシステム30が配置されている。図2に示すように、当該HSTシステム30は、エンジン31、走行用の油圧ポンプ33、及び走行用の油圧モータ35を含んで構成される。このHSTシステム30は、エンジン31の駆動力を利用して油圧ポンプ33を作動させることで作動油を循環させ、作動油の循環によって機体10の駆動、減速、及び停止を行うことが可能とされている。
【0018】
エンジン31は、機体10においてキャビン12の前方に配設され、図示しない燃料タンクに貯留される軽油を燃焼することで稼働して駆動力を発生させるディーゼルエンジンである。図2に示すように、このエンジン31は、アクセルペダル40の操作量に応じてコントローラ70で算出される回転数信号に基づいて駆動するように構成されている。つまり、HSTシステム30のエンジン31は、オペレータによるアクセルペダル40の操作量に応じて制御され、機体10の走行速度を増減するように構成されている。エンジン31の回転数は、アクセルペダル40の操作量に応じて無段階に調整可能である。
【0019】
図2に示すように、油圧ポンプ33は、エンジン31によって駆動され、後輪22を駆動する油圧モータ35に対して圧油を供給する。油圧ポンプ33は、前後進切換レバー45の操作によってコントローラ70を介して圧油の流れ方向を変えることができ、これによりタイヤローラ1の前進走行及び後進走行を切り換えることができる。油圧ポンプ33は、エンジン回転数の増大に伴って斜板の傾転量が増大するように構成されており、押しのけ容積及び回転数を同時に増大させることで走行速度を増加させている。
【0020】
図2に示すように、油圧モータ35は、油圧ポンプ33から圧油の供給を受けて一定の傾転量を維持しつつ回転し、後輪22を駆動するように構成されている。具体的には、油圧モータ35には減速機(図示せず)が連結されており、当該減速機に連結された車軸を介して後輪22が駆動される。油圧モータ35の斜板角度は一定である。このため、油圧モータ35は、油圧ポンプ33から供給される圧油量に応じて回転数が増減し、これにより押しのけ容積が増減されるように構成されている。なお、HSTシステム30の仕組み、及び当該HSTシステム30のエンジン31、油圧ポンプ33、油圧モータ35の構成は公知であるため、その詳細な説明を省略する。
【0021】
前後進切換レバー45は、機体10の進行方向を切り替えるレバーであり、前進位置、後進位置及び中立位置の3つの位置に切り替えることが可能である。前進位置は機体10の進行方向を前方に設定し、後進位置は機体10の進行方向を後方に設定する位置である。そして、中立位置は、機体10の前進及び後進を禁止し、機体10を減速及び停止させる位置である。
【0022】
アクセルペダル40は、HSTシステム30を操作するものであり、操作量を調整することでエンジン31の回転数を増減して機体10の走行速度を調整する。したがって、オペレータは、前後進切換レバー45を操作することで機体10の進行方向を設定し、アクセルペダル40の操作量を増減することで機体10を前進方向または後進方向に加減速することが可能である。さらに、オペレータは、前後進切換レバー45を中立位置にすることで、機体10を減速及び停止することができる。この場合、例えばオペレータが誤ってアクセルペダル40を操作して機体10が加速することを防止することができる。ブレーキペダルは、操作量に応じて、例えばブレーキパッドを用いた摩擦制動装置によって機体10を制動するように構成されている。
【0023】
エンジン回転数選択スイッチ49は、タイヤローラ1において他車への給水等を行う際、コントローラ70を介してエンジン31の回転速度を切り替えて給散水用ポンプ(図示せず)の出力を変更するように構成されている。なお、アクセルペダル40、ブレーキペダル、前後進切換レバー45、及びエンジン回転数選択スイッチ49の構成は公知であるため、その詳細な説明を省略する。
【0024】
最高速度設定スイッチ80は、例えば無段階で左右回転するダイヤル式のつまみであり、その操作量に応じてコントローラ70を介して機体10の最高速度(即ち走行速度の上限値)を変更するように構成されている。つまり、最高速度設定スイッチ80は、アクセルペダル40の操作量を最大にしたときの機体10の走行速度を設定するものである。例えば、最高速度設定スイッチ80が初期位置にある状態では、機体10の最高速度が最小(例えば1km/h)に設定され、アクセルペダル40の操作量を最大にしたとき、機体10は当該最小の速度で前進走行又は後進走行する。なお、最小の速度は1km/hでなくてもよく、例えば0km/hであってもよい。又、最高速度設定スイッチ80が100%の操作角度で操作された状態では、機体10の最高速度が例えば10km/hに設定され、アクセルペダル40の操作量を最大にしたとき、機体10は当該最高速度で前進走行又は後進走行する。本実施形態では、最高速度設定スイッチ80の操作により、機体10の最高速度が10km/hから4km/hに変更される場合について説明する。
【0025】
図1から図3に示すように、物体検知センサ61は、機体10の周囲の情報を検知するものであり、機体10の最高速度を制限するための最高速度制限信号をコントローラ70に送信するように構成されている。具体的には、当該物体検知センサ61は、機体10の前方及び後方の少なくともいずれか一方において機体10の車幅範囲内の検知領域A(第1領域)及び機体10の車幅範囲外の検知領域B(第2領域)にある障害物を検知し、当該検知情報を最高速度制限信号としてコントローラ70に送信するように構成されている。図1に示すように、物体検知センサ61は、落下防止柵14に取付けられ、機体10の後方に位置する障害物を検知するように構成されている。物体検知センサ61は、赤外線を機体10の後方に照射し、反射する赤外線を受信し、受信した赤外線によって障害物を検知する赤外線センサである。
【0026】
図3に示すように、検知領域Aは、機体10の車幅と同一又は略同一の幅D1と、機体10の後方への長さLとによって規定された領域である。また、検知領域Bは、上記幅D1から更に左右方向へ0.5m外方へ延びる幅D2及びD3と、機体10の後方への長さLで規定された領域である。また、図1に示すように、検知領域A及びBは、路面からの高さHが0.6m以上となるように規定されている。図3では、壁Wに近づいて行われるタイヤローラ1の転圧作業が示されており、検知領域Bに壁Wが存在する状態が示されている。なお、D1、D2、D3、L、Hの大きさは適宜変更され得るものであり、幅D2及びD3は0.5mに限定されるものではなく、高さHは0.6mに限定されるものではない。物体検知センサ61はそれ自体の性能に基づく所定の検知範囲を有しているところ、実際には、コントローラ70によって物体検知センサ61の検知範囲を所定範囲に制限する制御が行われている。このため、本明細書及び特許請求の範囲で使用される「検知範囲(第1領域、第2領域)」とは、物体検知センサ61それ自体の性能に基づく検知範囲の限界を意味するのではなく、コントローラ70によって所定範囲に制限された検知範囲を意味する。
【0027】
コントローラ70は、アクセルペダル40の操作量に応じてHSTシステム30に機体10の走行速度の指令信号を出力する。具体的には、図5に示すように、コントローラ70は、アクセルペダル40の操作量に比例して走行速度を増加させ、所定の上限操作量(100%)で所定の第1上限走行速度(10Km/h)に到達する指令信号をHSTシステム30に出力する。また、図5に示すように、コントローラ70は、機体10の周囲の情報が所定の条件を満たした場合、即ち物体検知センサ61により障害物が検知領域Bに存在することが検知された場合、第1上限走行速度(10Km/h)を当該第1上限走行速度よりも小さい第2上限走行速度(4Km/h)に設定し、アクセルペダル40の操作量と機体10の走行速度との関係をアクセルペダル40の上限操作量(100%)で第2上限走行速度(4Km/h)に到達する関係に設定する。他方、コントローラ70は、物体検知センサ61により検知された障害物が検知領域Aに存在する場合、機体10の走行を停止させる指令信号をHSTシステム30(例えばエンジン31)に出力する。
【0028】
また、図6に示すように、コントローラ70は、物体検知センサ61により障害物が検知領域Bに存在することが検知された場合、アクセルペダル40の操作量が上限操作量(100%)のときに第2上限走行速度(4Km/h)に対応するエンジン31の上限回転数(最大Erpm)を算出し、当該上限回転数(最大Erpm)以下でエンジン31を駆動する指令信号をエンジン31に出力する。
【0029】
以下、コントローラ70を中心として行われる機体10の最高速度を制限する制御フローについて説明する。なお、コントローラ70は、エンジン31の運転制御等の総合的な制御を行うための制御装置であり、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央処理装置(CPU)等を含んで構成されている。このため、コントローラ70は、機体10の最高速度の制限制御に加え、例えば油圧ポンプ33における圧油の流れ方向を変更制御等、種々様々な制御を行うように構成されている。
【0030】
図4に示すように、コントローラ70は、物体検知センサ61が作動しているか否かの判断を行う(S200)。コントローラ70によって物体検知センサ61が作動していないと判断された場合(S200のNo)、本制御フローはスタートに戻る。他方、コントローラ70によって物体検知センサ61が作動していると判断された場合(S200のYes)、コントローラ70は、物体検知センサ61が検知領域Bにおいて障害物を検知しているかの判断を行う(S210)。
【0031】
コントローラ70によって物体検知センサ61が検知領域Bにおいて障害物を検出していないと判断された場合(S210のNo)、コントローラ70は、物体検知センサ61が検知領域Aにおいて障害物を検知しているかの判断を行う(S220)。コントローラ70によって物体検知センサ61が検知領域Aにおいて障害物を検知していないと判断された場合(S220のNo)、本制御フローはスタートに戻る。他方、コントローラ70によって物体検知センサ61が検知領域Aにおいて障害物を検知したと判断された場合(S220のYes)、コントローラ70は、機体10の走行を停止させる指令信号をHSTシステム30(例えばエンジン31)に出力し(S225)、本制御フローはスタートに戻る。
【0032】
コントローラ70によって物体検知センサ61が検知領域Bにおいて障害物を検出したと判断された場合(S210のYes)、コントローラ70は、物体検知センサ61から送信された最高速度制限信号に基づいて機体10の最高速度を制限すべきと判断する(S230)。つまり、コントローラ70は、物体検知センサ61から送信された最高速度制限信号に基づき障害物が検知領域Bに存在すると判断した場合に、機体10の最高速度を制限すべきと判断する。
【0033】
次いで、コントローラ70は、最高速度設定スイッチ80によって設定された機体10の最高速度を読み込む(S240)。本実施形態では、最高速度設定スイッチ80によって4Km/hの最高速度が設定されている。その後、コントローラ70は、変更前の最高速度(第1上限走行速度:10Km/h)を実現するアクセルペダル40の操作量(100%)と同じ操作量で変更後の最高速度(第2上限走行速度:4Km/h)が実現されるエンジン31の上限回転数(最大Erpm)を算出する(S250)。つまり、図5及び図6に示すように、変更前の最高速度(10Km/h)を実現するアクセルペダル40の操作量が100%であることから、コントローラ70は、アクセルペダル40の操作量を100%とした場合に、変更後の最高速度(4Km/h)が実現されるようなエンジン31の上限回転数(最大Erpm)を算出する。
【0034】
次いで、図6に示すように、コントローラ70は、S250において算出されたエンジン31の上限回転数(最大Erpm)に基づいて、アクセルペダル40の操作量とエンジン31の回転数との関係を変更する(S260)。これにより、コントローラ70は、アクセルペダル40の操作量0%~100%を維持しつつ、当該上限回転数(最大Erpm)以下でエンジン31を駆動することができる。
【0035】
次いで、コントローラ70は、アクセルペダル40の操作量に応じた実際のエンジン回転数(実Erpm)が、エンジン回転数選択スイッチ49によって選択されたエンジン回転数(Srpm)よりも大きいか否かの判断を行う(S280)。
【0036】
コントローラ70によって、実際のエンジン回転数(実Erpm)がエンジン回転数選択スイッチ49によって選択されたエンジン回転数(Srpm)よりも大きいと判断された場合(S280のYes)、コントローラ70は、アクセルペダル40の操作に基づくエンジン回転数(実rpm)によってエンジン31を駆動する制御を行い(S290)、本制御フローはスタートに戻る。
【0037】
他方、コントローラ70によって、アクセルペダル40の操作に基づくエンジン回転数(実Erpm)がエンジン回転数選択スイッチ49によって選択されたエンジン回転数(Srpm)よりも小さいと判断された場合(S280のNo)、コントローラ70は、エンジン回転数選択スイッチ49によって選択されたエンジン回転数(Srpm)によってエンジン31を駆動する制御を行い(S300)、本制御フローはスタートに戻る。具体的には、図6に示すように、S300において、エンジン回転数選択スイッチ49によって選択されたエンジン回転数(Srpm)に対応するアクセルペダル40の操作量(ACs)より小さい範囲では、コントローラ70は、アクセルペダル40の操作量に関わらずエンジン回転数選択スイッチ49によって選択されたエンジン回転数(Srpm)を維持する。
【0038】
本発明の第1実施形態に係るタイヤローラ1によれば、コントローラ70は、物体検知センサ61から送信された最高速度制限信号に基づき障害物が検知領域Bに存在すると判断した場合に、機体10の最高速度(上限走行速度)を制限すべきと判断する。そして、コントローラ70は、機体10の最高速度を制限すべきと判断した場合、変更前の最高速度(第1上限走行速度:10Km/h)を実現するアクセルペダル40の操作量(100%)と同じ操作量で変更後の最高速度(第2上限走行速度:4Km/h)が実現されるエンジン31の上限回転数(最大Erpm)を算出し、当該上限回転数以下でエンジン31を駆動する指令信号をエンジン31に出力する。このため、アクセルペダル40の操作量に対するタイヤローラ1の走行速度の変化を鈍くすることができる。つまり、転圧作業中にアクセルペダル40の微調整を行った場合でも、アクセルペダル40の操作に応じて走行速度が敏感に変化する状態、即ちタイヤローラ1の走行速度の大きな変化(急上昇又は急低下)を回避することができる。また、物体検知センサ61によって障害物を検知するため、例えば壁Wの近傍で転圧作業を実施する場合に自動で最高速度を制限することができ、転圧作業を中断する必要がなく転圧作業を効率的に実施することができる。
【0039】
また、本発明の第1実施形態に係るタイヤローラ1によれば、コントローラ70は、物体検知センサ61により検知された障害物が検知領域Aに存在する場合、機体10の走行を停止させる指令信号をHSTシステム30(例えばエンジン31)に出力する。このため、検知領域Bから検知領域Aに障害物や作業者が飛び出してきてタイヤローラ1を急停止する場合であっても、既にタイヤローラ1の最高速度が制限されているため、急停止により路面に与える衝撃を低減でき、ひいては転圧路面を傷めにくくすることができる。
【0040】
<変形例>
第1実施形態では、物体検知センサ61による検知範囲を、機体10の車幅範囲内の検知領域A及び機体10の車幅範囲外の検知領域Bとする場合を一例として説明した。しかしながら、第1実施形態の変形例では、図7に示すように、検知領域Aは、機体10からの距離に応じて車幅範囲内の近位検知領域A1及び車幅範囲内の遠位検知領域A2に分けられてもよく、検知領域Bは、機体10からの距離に応じて車幅範囲外の近位検知領域B1及び車幅範囲外の遠位検知領域B2に分けられてもよい。近位検知領域A1は、機体10の後方への長さL1と幅D1とによって規定された領域であり、遠位検知領域A2は、長さL1の位置から更に後方への長さL2と幅D1とによって規定された領域である。また、近位検知領域B1は、幅D2及びD3と、機体10の後方への長さL1とによって規定された領域であり、遠位検知領域B2は、幅D2及びD3と、長さL1の位置から更に後方への長さL2とによって規定されて領域である。なお、D1、D2、D3、L1、L2大きさは適宜変更され得るものである。
【0041】
また、第1実施形態では、機体10の最高速度を最高速度設定スイッチ80により変更する場合を一例として説明した。しかしながら、第1実施形態の変形例では、機体10の最高速度を、機体10と障害物との距離との関係で予めコントローラ70に記憶させておいてもよい。この場合、コントローラ70は、車幅範囲外の近位検知領域B1に障害物が存在する場合と、車幅範囲外の遠位検知領域B2に障害物が存在する場合とで、機体10の最高走行速度を段階的に下げるように構成されてもよい。例えば、コントローラ70は、車幅範囲外の近位検知領域B1に障害物が存在する場合には機体10の最高走行速度を10Km/hから7Km/hへ下げ、車幅範囲外の遠位検知領域B2に障害物が存在する場合には機体10の最高走行速度を10Km/hから4Km/hへ下げるように構成されてもよい。
【0042】
また、第1実施形態の変形例では、コントローラ70は、物体検知センサ61によって検知された機体10から障害物までの距離に応じて、最高走行速度を無段階に変化させてもよい。つまり、コントローラ70は、機体10の最高走行速度を、機体10と障害物との距離が近づくにつれて例えば10Km/hから4Km/hまで無段階に下げるように構成されてもよい。
【0043】
<第2実施形態>
次いで、本発明の第2実施の形態について説明する。第2実施形態では、転圧機械の一態様であるタイヤローラ1の別態様について説明する。図8は、本発明の第2実施形態に係るタイヤローラ1における各構成要素の相互関係を示す制御ブロックであり、細線により電気的接続が示されており、太線により動力伝達経路が示されている。図9は、図8に示すタイヤローラ1に設けられたコントローラ70による制御フローを示すものである。第2実施形態に係るタイヤローラ1は、第1実施形態に係るタイヤローラ1に対して、検知装置として物体検知センサ61に代えて機体10の情報を検知するモード切替スイッチ63を備える点で異なる。以下、第1実施形態に係るタイヤローラ1と同じ又は類似する機能を有する構成については、第1実施形態に係るタイヤローラ1と同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分について説明する。
【0044】
モード切替スイッチ63は、機体10の走行速度の上限値を第1上限走行速度(10Km/h)とする通常モードと、機体10の走行速度の上限値を第2上限走行速度(4Km/h)とする制限モードとを切り換えるものである。図8に示すように、モード切替スイッチ63は、機体10の情報が所定の条件を満たした場合、即ち制限モードが選択された場合に、機体10の最高速度を制限するための最高速度制限信号をコントローラ70に送信するように構成されている。モード切替スイッチ63は、座席25に着座したオペレータが操作可能となるような位置に配設されている。モード切替スイッチ63は、例えばオペレータによって押下されるボタンであり、その操作に応じてコントローラ70に最高速度制限信号を送信するように構成されている。
【0045】
次いで、コントローラ70を中心として行われる機体10の最高速度を制限する制御フローについて説明する。図9に示すように、コントローラ70は、モード切替スイッチ63がONとされているかの判断を行う(S400)。コントローラ70によってモード切替スイッチ63がONではないと判断された場合(S400のNo)、本制御フローはスタートに戻る。他方、コントローラ70によってモード切替スイッチ63がONである、即ちモード切替スイッチ63により制限モードが選択された状態であると判断された場合(S400のYes)、コントローラ70は、モード切替スイッチ63から送信された最高速度制限信号に基づいて機体10の最高速度を制限すべきと判断する(S410)。以下、図9に示すS420~S480の制御フローは、図4に示すS240~S300と同じであるため、その説明を省略する。
【0046】
本発明の第1実施形態に係るタイヤローラ1によれば、コントローラ70は、モード切替スイッチ63により制限モードが選択された状態であると判断された場合、モード切替スイッチ63から送信された最高速度制限信号に基づき機体10の最高速度(上限走行速度)を制限すべきと判断する。そして、コントローラ70は、機体10の最高速度を制限すべきと判断した場合、変更前の最高速度(第1上限走行速度:10Km/h)を実現するアクセルペダル40の操作量(100%)と同じ操作量で変更後の最高速度(第2上限走行速度:4Km/h)が実現されるエンジン31の上限回転数(最大Erpm)を算出し、当該上限回転数以下でエンジン31を駆動する指令信号をエンジン31に出力する。このため、アクセルペダル40の操作量に対するタイヤローラ1の走行速度の変化を鈍くすることができる。つまり、転圧作業中にアクセルペダル40の微調整を行った場合でも、アクセルペダル40の操作に応じて走行速度が敏感に変化する状態、即ちタイヤローラ1の走行速度の大きな変化(急上昇又は急低下)を回避することができる。また、モード切替スイッチ63の操作によって、オペレータの意思に基づいていつでも機体10の最高速度を制限することができ、転圧作業を効率的に実施することができる。
【0047】
<第3実施形態>
次いで、本発明の第3実施の形態について説明する。第3実施形態では、転圧機械の一態様であるマカダムローラ3について説明する。図10は、本発明の第3実施形態に係るマカダムローラ3の概略構成を示す側面図である。図11は、図10に示すマカダムローラ3における各構成要素の相互関係の一例を示す制御ブロックであり、細線により電気的接続が示されており、太線により動力伝達経路が示されている。図12は、図10に示すマカダムローラ3に設けられたコントローラ70aによる制御フローの一例を示すものである。図13は、図10に示すマカダムローラ3に設けられたコントローラ70aによって走行速度の上限値が変更される場合の前後進レバー操作量と走行速度との関係を示すグラフであり、実線によって変更後の関係が示されており、破線によって変更前の関係が示されている。図14は、図10に示すマカダムローラ3における各構成要素の相互関係の別の例を示す制御ブロックであり、細線により電気的接続が示されており、太線により動力伝達経路が示されている。図15は、図10に示すマカダムローラ3に設けられたコントローラ70aによる制御フローの別の例を示すものである。第3実施形態に係るマカダムローラ3は、第1実施形態に係るタイヤローラ1に対して、操作装置としてアクセルペダル40に代えて前後進レバー41を備え、エンジン回転数選択スイッチ49に代えてエンジンコントロールダイヤル42を備え、前後進切換レバー45を備えない点が主として異なる。以下、第1実施形態に係るタイヤローラ1と同じ又は類似する機能を有する構成については、第1実施形態に係るタイヤローラ1と同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分について説明する。
【0048】
図10及び図11に示すように、マカダムローラ3は、アスファルトを押し固めて道路を舗装するものであり、機体10と、機体10に回転可能に設けられた転圧ローラ20と、走行駆動装置としてのHSTシステム30と、操作装置としての前後進レバー41と、検知装置としての物体検知センサ61と、コントローラ70aとを含んで構成されている。
【0049】
図10に示すように、機体10は、前側機体10aと、後側機体10bとを含み、前側機体10a及び後側機体10bは、連結装置10cを介してアーティキュレート式に連結されている。転圧ローラ20は、ドラム形に形成された鉄製の転圧輪であり、前側機体10aに回転可能に支持された前輪21と、後側機体10bに回転可能に支持された後輪22とから構成されている。前輪21は、左右方向に所定の間隔を空けて2個が並んで配置されている。後輪22は、1つ設けられている。
【0050】
図10に示すように、前側機体10aの上側にはキャビン12が設けられている。キャビン12内には、前後進レバー41、最高速度設定スイッチ80(図11)、エンジンコントロールダイヤル42(図11)、ハンドル24等の操作機器が設けられている。そして、オペレータが上記操作機器を適宜操作することにより、現場において転圧作業が実施されるようにしてある。前後進レバー41、エンジンコントロールダイヤル42、及び最高速度設定スイッチ80は、座席25に着座したオペレータが操作可能となるような位置に設けられている。座席25の前方下部にはブレーキペダル(図示せず)が配設されており、当該ブレーキペダルはオペレータによって踏圧可能なペダルである。また、後側機体10bの後部には物体検知センサ61を取り付けるための支持部材16が設けられている。
【0051】
前後進レバー41は、オペレータによって無段階で傾動可能な操作レバーであり、中立位置を基準に前後に操作することで機体10の前進走行及び後進走行を切り換えるとともに、その操作量(操作角度)に応じて機体10の走行速度を制御するように構成されている。具体的には、前後進レバー41が中立位置にある状態では、機体10は停止した状態を維持する。これに対し、前後進レバー41が前側に100%の操作角度で操作された状態又は前後進レバー41が後側に100%の操作角度で操作された状態では、機体10は最高速度設定スイッチ80により設定された最高速度で前進走行又は後進走行する。オペレータによってブレーキペダルが操作されると、後述するHSTシステム30の油圧ポンプ33aの斜板及び前後進レバー41が中立位置に戻され、これにより圧油の流れが強制的に遮断され、機体10が減速、停止する。
【0052】
図11に示すように、HSTシステム30は、前輪21及び後輪22を回転させる動力を生成するように構成されており、エンジン31a、走行用の油圧ポンプ33a、及び走行用の油圧モータ35aを含んで構成される。HSTシステム30は、エンジン31の駆動力を利用して油圧ポンプ33aを作動させ、前後進レバー41の操作によって油圧ポンプ33aの傾転を変更して圧油の流量を変え、これにより機体10の走行速度を制御するものである。
【0053】
エンジン31aは、図示しない燃料タンクに貯留される軽油を燃焼することで稼働して駆動力を発生させるディーゼルエンジンである。エンジン31aは、エンジンコントロールダイヤル42の操作量に応じてコントローラ70aで算出される回転数信号に基づいて駆動するように構成されている。エンジンコントロールダイヤル42は、例えば無段階で左右回転するダイヤル式のつまみであり、オペレータが操作することによって、エンジン31aの回転数を設定するためのものである。マカダムローラ3は、エンジンコントロールダイヤル42を操作してエンジン31aの回転数を上げてから走行する。エンジンコントロールダイヤル42は無段階で調整可能であり、これによりエンジン31aの回転数も無段階で設定可能である。
【0054】
図11に示すように、油圧ポンプ33aは、エンジン31aによって駆動され、前後進レバー41の操作量に応じて押しのけ容積が制御されるように構成されている。油圧ポンプ33aは可変容量型であり、前後進レバー41の操作量に応じて斜板の角度を変更することで、押しのけ容積を増減するように構成されている。具体的には、エンジンコントロールダイヤル42の操作によりエンジン31aの回転数が一定に維持された状態、即ち油圧ポンプ33aの回転数が一定に維持された状態で、例えば前後進レバー41を中立状態から前側フルレバー状態に操作すると、油圧ポンプ33aの斜板の傾転量(角度)が増大し、これにより油圧ポンプ33aの押しのけ容積が増加する。ここで、油圧ポンプ33aは両傾転タイプであり、斜板の傾転方向を変えることで圧油の流れ方向を変えることができ、これにより機体10の前進走行及び後進走行が切り換えられる。油圧ポンプ33aは、前輪21及び後輪22をそれぞれ駆動する油圧モータ35aに対して圧油を供給する。油圧モータ35aは、油圧ポンプ33aから押しのけ容積に応じた圧油の供給を受けて回転し、前輪21及び後輪22の各々を駆動するように構成されている。なお、エンジン31a、油圧ポンプ33a、油圧モータ35aの構成は公知であるため、その詳細な説明を省略する。
【0055】
コントローラ70aは、機体10の周囲の情報が所定の条件を満たした場合、即ち物体検知センサ61により障害物が検知領域Bに存在することが検知された場合、エンジンコントロールダイヤル42の操作量に対応するエンジン31aの第1回転数(ECrpm)と、前後進レバー41の操作量が上限操作量(100%)のときに第2上限走行速度(4Km/h)に対応するエンジン31aの第2回転数(最大Erpm)とを算出する。そして、コントローラ70aは、第1回転数(ECrpm)および第2回転数(最大Erpm)のうち小さい方の回転数を上限回転数に設定し、設定された上限回転数に固定してエンジン31aを駆動する。つまり、コントローラ70aによって算出されるエンジン31aの第2回転数(最大Erpm)とは、前後進レバー41の操作量を100%にして油圧ポンプ33aの傾転量(押しのけ容積)が最大にされた場合に、変更後の最高速度(第2上限走行速度:4Km/h)が実現されるような回転数を意味する。
【0056】
以下、コントローラ70aを中心として行われる機体10の最高速度を制限する制御フローについて説明する。なお、コントローラ70aは、エンジン31aの運転制御等の総合的な制御を行うための制御装置であり、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央処理装置(CPU)等を含んで構成されている。このため、コントローラ70aは、機体10の最高速度の制限制御に加え、その他種々様々な制御を行うように構成されている。
【0057】
図12に示すS600~S640の制御フローは、図4に示すS200~S240と同じであるため、その説明を省略する。コントローラ70aは、物体検知センサ61から送信された最高速度制限信号に基づいて、前後進レバー41の操作量を最大(100%)にしたときに変更後の最高速度(第2上限走行速度:4Km/h)が実現されるようなエンジン31aの回転数即ち第2回転数(最大Erpm)を算出する(S650)。
【0058】
次いで、コントローラ70aは、S650において算出されたエンジン31aの第2回転数(最大Erpm)が、エンジンコントロールダイヤル42の操作によって設定されたエンジン31aの回転数(ECrpm)よりも小さいか否かの判断を行う(S660)。コントローラ70aによって、エンジン31aの第2回転数(最大Erpm)がエンジンコントロールダイヤル42の操作によって設定されたエンジン31aの回転数(ECrpm)よりも大きい、即ちエンジンコントロールダイヤル42の操作によって設定されたエンジン31aの回転数(ECrpm)が第2回転数(最大Erpm)よりも小さいと判断された場合(S660のNo)、コントローラ70aは、両者のうち小さい方の回転数(ECrpm)を上限回転数に設定し、設定された上限回転数(ECrpm)に固定してエンジン31aを駆動し、本制御フローはスタートに戻る。
【0059】
他方、コントローラ70aによって、エンジン31aの第2回転数(最大Erpm)がエンジンコントロールダイヤル42の操作によって設定されたエンジン31aの回転数(ECrpm)よりも小さいと判断された場合(S660のYes)、コントローラ70aは、S650において算出されたエンジン31aの第2回転数(最大Erpm)に基づいて、前後進レバー41の操作量とエンジン31aの回転数との関係を変更する(S670)。即ち、コントローラ70aは、両者のうち小さい方のエンジン31aの第2回転数(最大Erpm)を上限回転数に設定し、設定された上限回転数(最大Erpm)に固定してエンジン31aを駆動する。これにより、コントローラ70aは、前後進レバー41の操作量0%~100%を維持しつつ、エンジン31aを上限回転数(最大Erpm)で駆動することができる。この結果、図13に示すように、前後進レバー41の操作量0%~100%を維持した状態で、機体10の走行速度を第2上限走行速度(4Km/h)に制限することができる。
【0060】
本発明の第3実施形態に係るマカダムローラ3によれば、コントローラ70aは、物体検知センサ61から送信された最高速度制限信号に基づき障害物が検知領域Bに存在すると判断した場合に、機体10の最高速度(上限走行速度)を制限すべきと判断する。そして、コントローラ70aは、機体10の最高速度を制限すべきと判断した場合、第1回転数(ECrpm)および第2回転数(最大Erpm)のうち小さい方の回転数を上限回転数に設定し、設定された上限回転数に固定してエンジン31aを駆動する。このため、前後進レバー41の操作量に対するマカダムローラ3の走行速度の変化を鈍くすることができる。つまり、転圧作業中に前後進レバー41の微調整を行った場合でも、前後進レバー41の操作に応じて走行速度が敏感に変化する状態、即ちマカダムローラ3の走行速度の大きな変化(急上昇又は急低下)を回避することができる。また、物体検知センサ61によって障害物を検知するため、例えば壁Wの近傍で転圧作業を実施する場合に自動で最高速度を制限することができ、転圧作業を中断する必要がなく転圧作業を効率的に実施することができる。
【0061】
また、本発明の第3実施形態に係るマカダムローラ3によれば、コントローラ70aは、物体検知センサ61により検知された障害物が検知領域Aに存在する場合、機体10の走行を停止させる指令信号をHSTシステム30(例えばエンジン31a)に出力する。このため、検知領域Bから検知領域Aに作業者や障害物が飛び出してきてマカダムローラ3を急停止する場合であっても、既にマカダムローラ3の最高速度が制限されているため、急停止により路面に与える衝撃を低減でき、ひいては転圧路面を傷めにくくすることができる。
【0062】
<変形例>
第3実施形態では、第1回転数(ECrpm)および第2回転数(最大Erpm)のうち小さい方の回転数を上限回転数に設定し、設定された上限回転数に固定してエンジン31aを駆動することについて説明した。しかしながら、第3実施形態の変形例では、前後進レバー41の操作量を最大(100%)にしたときに変更後の最高速度(第2上限走行速度:4Km/h)が実現されるように、油圧ポンプ33aの傾転角度を制限してもよい。つまり、図14に示すように、コントローラ70aは、物体検知センサ61から送信された最高速度制限信号に基づいて、油圧ポンプ33aに対し斜板の傾転角度を制限する指令信号を出力する。そして、コントローラ70aは、前後進レバー41の操作量に応じて、斜板の傾転角度を変更して押しのけ容積を制御する指令信号を油圧ポンプ33aに出力する。本変形例では、図15に示すS700~S740の制御フローは、図12に示すS600~S640と同じであるため、その説明を省略する。そして、図15に示すように、コントローラ70aは、前後進レバー41の操作量と油圧ポンプ33aの傾転角度との関係を変更する(S770)。具体的には、コントローラ70aは、前後進レバー41の操作量を最大(100%)にしたときに変更後の最高速度(第2上限走行速度:4Km/h)が実現されるように、前後進レバー41と油圧ポンプ33aの傾転角度との関係を変更する。これにより、コントローラ70aは、前後進レバー41の操作量0%~100%を維持しつつ、油圧ポンプ33aを制限された傾転角度以下で駆動することができる。この結果、図13に示すように、前後進レバー41の操作量0%~100%を維持した状態で、機体10の走行速度を第2上限走行速度(4Km/h)に制限することができる。
【0063】
<第4実施形態>
次いで、本発明の第4実施形態について説明する。第4実施形態では、転圧機械の一態様であるマカダムローラ3の別態様について説明する。図16は、本発明の第4実施形態に係るマカダムローラ3における各構成要素の相互関係を示す制御ブロックであり、細線により電気的接続が示されており、太線により動力伝達経路が示されている。図17は、図16に示すマカダムローラ3に設けられたコントローラ70aによる制御フローを示すものである。第4実施形態に係るマカダムローラ3は、第3実施形態に係るマカダムローラ3に対して、検知装置として物体検知センサ61に代えて機体10の情報を検知するモード切替スイッチ63を備える点で異なる。以下、第3実施形態に係るマカダムローラ3と同じ又は類似する機能を有する構成については、第3実施形態に係るマカダムローラ3と同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分について説明する。
【0064】
モード切替スイッチ63は、機体10の走行速度の上限値を第1上限走行速度(10Km/h)とする通常モードと、機体10の走行速度の上限値を第2上限走行速度(4Km/h)とする制限モードとを切り換えるものである。図16に示すように、モード切替スイッチ63は、機体10の情報が所定の条件を満たした場合、即ち制限モードが選択された場合に、機体10の最高速度を制限するための最高速度制限信号をコントローラ70aに送信するように構成されている。モード切替スイッチ63は、座席25に着座したオペレータが操作可能となるような位置に配設されている。モード切替スイッチ63は、例えばオペレータによって押下されるボタンであり、その操作に応じてコントローラ70aに最高速度制限信号を送信するように構成されている。
【0065】
次いで、コントローラ70aを中心として行われる機体10の最高速度を制限する制御フローについて説明する。図17に示すように、コントローラ70aは、モード切替スイッチ63がONとされているかの判断を行う(S800)。コントローラ70aによってモード切替スイッチ63がONではないと判断された場合(S800のNo)、本制御フローはスタートに戻る。他方、コントローラ70aによってモード切替スイッチ63がONである、即ちモード切替スイッチ63により制限モードが選択された状態であると判断された場合(S800のYes)、コントローラ70aは、モード切替スイッチ63から送信された最高速度制限信号に基づいて機体10の最高速度を制限すべきと判断する(S810)。以下、図17に示すS810~S850の制御フローは、図12に示すS630~S670と同じであるため、その説明を省略する。
【0066】
本発明の第4実施形態に係るマカダムローラ3によれば、コントローラ70aは、モード切替スイッチ63により制限モードが選択された状態であると判断された場合、モード切替スイッチ63から送信された最高速度制限信号に基づき機体10の最高速度(上限走行速度)を制限すべきと判断する。そして、コントローラ70aは、機体10の最高速度を制限すべきと判断した場合、第1回転数(ECrpm)および第2回転数(最大Erpm)のうち小さい方の回転数を上限回転数に設定し、設定された上限回転数に固定してエンジン31aを駆動する。このため、前後進レバー41の操作量に対するマカダムローラ3の走行速度の変化を鈍くすることができる。つまり、転圧作業中に前後進レバー41の微調整を行った場合でも、前後進レバー41の操作に応じて実速度が敏感に変化する状態、即ちマカダムローラ3の走行速度の大きな変化(急上昇又は急低下)を回避することができる。また、転圧モードスイッチ63の操作によって、オペレータの意思に基づいていつでも機体10の最高速度を制限することができ、転圧作業を効率的に実施することができる。
【0067】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に係るタイヤローラ1及びマカダムローラ3に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせても良い。例えば、上記実施形態における各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的態様によって適宜変更され得る。
【0068】
例えば、上記第1実施形態及び第3実施形態では、物体検知センサ61により機体10の後方の障害物を検知する場合について説明した。しかし、物体検知センサ61は、機体の10の前方の障害物を検知するものであってもよいし、機体の前方及び後方の両方の障害物を検知するものであってもよい。
【0069】
また、上記第2実施形態及び第4実施形態では、転圧モードスイッチ63がオペレータによって押下されるボタンである場合について説明した。しかし、転圧モードスイッチ63は、オペレータの操作により最高速度制限信号を送信し得るものでればその態様が上記ボタンに限定されるものではなく、例えばタッチパネルにより構成されてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 タイヤローラ(転圧機械)
3 マカダムローラ(転圧機械)
10 機体
21 前輪
22 後輪
30 HSTシステム(走行駆動装置)
31,31a エンジン
33,33a 油圧ポンプ
35,35a 油圧モータ
40 アクセルペダル(操作装置)
41 前後進レバー(操作装置)
42 エンジンコントロールダイヤル
61 物体検知センサ(検知装置)
63 モード切替スイッチ(検知装置)
70 コントローラ
A 車幅範囲内の検知領域(第1領域)
B 車幅範囲外の検知領域(第2領域)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17