(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】ガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒、及びこれを用いた排ガス浄化システム
(51)【国際特許分類】
B01J 35/57 20240101AFI20241114BHJP
B01J 23/63 20060101ALI20241114BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20241114BHJP
F01N 3/022 20060101ALI20241114BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20241114BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20241114BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20241114BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
B01J35/57 Z
B01J35/57 E
B01J23/63 A ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
B01D53/94 241
F01N3/022 C
F01N3/035 A
F01N3/24 E
F01N3/28 301P
F01N3/10 A
(21)【出願番号】P 2021060151
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2024-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100118991
【氏名又は名称】岡野 聡二郎
(72)【発明者】
【氏名】安田 和也
(72)【発明者】
【氏名】梶田 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】仲本 充志
(72)【発明者】
【氏名】泉 清孝
(72)【発明者】
【氏名】城取 万陽
(72)【発明者】
【氏名】原 浩幸
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-540217(JP,A)
【文献】国際公開第2020/031975(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/221212(WO,A1)
【文献】特開2020-54978(JP,A)
【文献】特開2020-56382(JP,A)
【文献】特表2014-509244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
F01N 3/00-3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガソリンエンジンの排ガス流路内に配置され、該ガソリンエンジンから排出される排ガスを浄化するガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒であって、
排ガス導入側の端部のみが開口した導入側セルと、該導入側セルに隣接し排ガス排出側の端部のみが開口した排出側セルと、多孔質体からなる隔壁であって前記導入側セルと前記排出側セルとを画定する隔壁と、を有するウォールフロー型基材、
前記隔壁の内部において前記多孔質体の内壁面上に設けられた第1触媒層、
前記隔壁の内部において前記第1触媒層上に設けられた第2触媒層、並びに、
前記導入側セル内の前記隔壁の外壁面上において、前記排ガス流入側の端部から前記隔壁の延伸方向に沿って前記ウォールフロー型基材全長にわたって設けられた第3触媒層、
を少なくとも備え、
前記第1触媒層は、触媒成分としてバリウムを含み、且つ白金族元素を実質的に含まず、前記ウォールフロー型基材の単位容積(1L)あたりのウォッシュコート量(WC
1)が固形分換算で25~35g/Lであり、
前記第2触媒層は、触媒成分としてパラジウムを含み、且つ酸素吸蔵放出材料を含み、前記ウォールフロー型基材の単位容積(1L)あたりのウォッシュコート量(WC
2)が固形分換算で41~74g/Lであり、前記酸素吸蔵放出材料の含有割合が前記第2触媒層の総量に対して71~99質量%であり、
前記第3触媒層は、触媒成分としてロジウムを含み、前記ウォールフロー型基材の単位容積(1L)あたりのウォッシュコート量(WC
3)が固形分換算で21~39g/Lであり、
前記第1触媒層、前記第2触媒層、及び前記第3触媒層のウォッシュコート量の総和(WC
1+WC
2+WC
3)が前記ウォールフロー型基材の単位容積(1L)あたり固形分換算で106~139g/Lである、
ガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記第1触媒層のウォッシュコート量(WC
1)に対する前記第2触媒層と前記第3触媒層のウォッシュコート量の総和(WC
2+WC
3)の比が、2.3~4.4である
請求項1に記載のガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記第1触媒層、前記第2触媒層および前記第3触媒層のうち少なくとも1つの前記触媒層は、セリア、ジルコニア、及びセリア-ジルコニアよりなる群から選択される1種以上の酸素吸蔵放出材料をさらに含む
請求項1又は2に記載のガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記第1触媒層、前記第2触媒層および前記第3触媒層のうち少なくとも1つの前記触媒層は、アルミナ粉末をさらに含む
請求項1~3のいずれか一項に記載のガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
ガソリンエンジンの排ガス流路内に配置され、該ガソリンエンジンから排出される排ガスを浄化するガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒を備え、
前記ガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒は、請求項1~4のいずれか一項に記載のガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒のみからなり、他の排ガス浄化用触媒及び他の排ガス浄化フィルターを有さない
排ガス浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォールフロー構造を有するガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒、及びこれを用いた排ガス浄化システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の内燃機関から排出される排ガスには、炭素を主成分とする粒子状物質(PM:Particulate Matter)などが含まれ、大気汚染の原因となり得ることが知られている。そのため、粒子状物質の排出については、排ガスに含まれる炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等とともに、年々規制が強化されている。そこで、粒子状物質を排ガスから捕集して除去するための技術が種々提案されている。
【0003】
これに関連して、従来、内燃機関の排ガス流路内に設けられ、粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルター(PF:Particulate Filter)が知られている。例えばガソリンエンジンは、ディーゼルエンジンよりは少ないものの、一定量の粒子状物質を排ガスとともに排出する。パティキュレートフィルターとしては、多孔質からなる多数のセルから構成され、多数のセルの入口と出口が交互に閉塞された、ウォールフロー構造のものが知られている。ウォールフロー構造のパティキュレートフィルターは、ガソリンエンジンの排ガス流路内に設けられ、入口側セルから流入した排ガスが、セルを仕切る多孔質なセル隔壁を通過し、出口側セルへと排出される。そして、排ガスが多孔質なセル隔壁を通過する間に、粒子状物質がセル隔壁に捕集される。
【0004】
また、近年ではさらなる浄化性能向上のために、パティキュレートフィルターに貴金属触媒を担持させることが検討されている。例えば、排ガスに含まれる有害成分除去のための3元触媒(TWC:Three-Way Catalyst)をパティキュレートフィルターに担持させた、ガソリンパティキュレートフィルター(GPF:Gasoline Particulate Filter)が知られている。パティキュレートフィルターに触媒活性成分としてルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、プラチナ等の白金族元素(PGM:Platinum Group Metal)を担持させた、ガソリンパティキュレートフィルター触媒(GPF触媒)に関する従来技術としては、例えば特許文献1~3が挙げられる。
【0005】
特許文献1には、多孔性隔壁の内部貫通孔の内壁面に多孔質酸化物としてアルミナ及びNOx吸蔵材としてセリアを担持し、この内部貫通孔の上流側に存在する多孔質酸化物にロジウム(Rh)を担持し、この内部貫通孔の下流側に存在する多孔質酸化物に白金(Pt)を担持し、その後に、リチウム(Li)、バリウム(Ba)及びカリウム(K)を含浸担持させた、ウォールフロー構造のGPF触媒が開示されている。
【0006】
特許文献2には、酸化アルミニウム及びパラジウム(Pd)を含有する第一の触媒層と、酸化アルミニウム、酸素吸蔵性セリウム/ジルコニウム混合酸化物、及びロジウム(Rh)を含有する第二の触媒層とを備え、ロジウム(Rh)を含む第二触媒層がパラジウム(Pd)を含む第一触媒層よりも排ガス流路の上流側に配置された積層構造を有する積層触媒と、ウォールフロー構造のフィルター体と、を備えるウォールフロー構造のGPF触媒が開示されている。
【0007】
特許文献3には、多孔質隔壁の外壁面に触媒コート層を有さないウォールフロー構造のGPF触媒として、多孔性隔壁の内部貫通孔の内壁面に多孔質酸化物としてアルミナ及びNOx吸蔵材としてセリアを担持し、多孔質隔壁の上流側の所定長さの入口側担持領域に触媒貴金属を局在させて担持し、多孔質隔壁の下流側の所定長さの出口側担持領域では下流側の表面から深いところまでの広い範囲に触媒貴金属を分布させて担持した、ウォールフロー構造のGPF触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-185571号公報
【文献】特開2009-082915号公報
【文献】国際公開2020-262173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のウォールフロー構造のGPF触媒は、下流側の触媒の使用効率が悪くなったり、全体の圧損が上昇したりする傾向にある。
【0010】
一方、特許文献2に記載のウォールフロー構造のGPF触媒では、Rh及びPdを使用しているが、Pdを含有する第一の触媒層とRhを含有する第二の触媒層とを単に積層させた積層構造を採用しているため、PGMの使用効率が悪く、圧力損失が過度に上昇する傾向にある。
【0011】
他方、特許文献3では、多孔質隔壁の外壁面に触媒コート層を設けずに、隔壁内部のみに触媒層を配置した触媒構成を提案しているが、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等の有害成分の浄化性能が不十分になる場合がある。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、比較的に少ない貴金属使用量でありながらも、浄化性能、PM粒子捕集率、及び圧力損失のすべてを高水準で備えるガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒、及びこれを用いた排ガス浄化システム等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、ウォールフロー構造のパティキュレートフィルターにおいて、隔壁内部と排ガス導入側セル内の隔壁の外壁面とに、特定の触媒成分を含む触媒層をそれぞれ設けることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下に示す種々の具体的態様を提供する。
(1)ガソリンエンジンの排ガス流路内に配置され、該ガソリンエンジンから排出される排ガスを浄化するガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒であって、排ガス導入側の端部のみが開口した導入側セルと、該導入側セルに隣接し排ガス排出側の端部のみが開口した排出側セルと、多孔質体からなる隔壁であって前記導入側セルと前記排出側セルとを画定する隔壁と、を有するウォールフロー型基材、前記隔壁の内部において前記多孔質体の内壁面上に設けられた第1触媒層、前記隔壁の内部において前記第1触媒層上に設けられた第2触媒層、並びに、前記導入側セル内の前記隔壁の外壁面上において、前記排ガス流入側の端部から前記隔壁の延伸方向に沿って前記ウォールフロー型基材全長にわたって設けられた第3触媒層、を少なくとも備え、前記第1触媒層は、触媒成分としてバリウムを含み、且つ白金族元素を実質的に含まず、前記ウォールフロー型基材の単位容積(1L)あたりのウォッシュコート量(WC1)が固形分換算で25~35g/Lであり、前記第2触媒層は、触媒成分としてパラジウムを含み、且つ酸素吸蔵放出材料を含み、前記ウォールフロー型基材の単位容積(1L)あたりのウォッシュコート量(WC2)が固形分換算で41~74g/Lであり、前記酸素吸蔵放出材料の含有割合が前記第2触媒層の総量に対して71~99質量%であり、前記第3触媒層は、触媒成分としてロジウムを含み、前記ウォールフロー型基材の単位容積(1L)あたりのウォッシュコート量(WC3)が固形分換算で21~39g/Lであり、前記第1触媒層、前記第2触媒層、及び前記第3触媒層のウォッシュコート量の総和(WC1+WC2+WC3)が前記ウォールフロー型基材の単位容積(1L)あたり固形分換算で106~139g/Lである、ガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒。
【0015】
(2)前記第1触媒層のウォッシュコート量(WC1)に対する前記第2触媒層と前記第3触媒層のウォッシュコート量の総和(WC2+WC3)の比が、2.3~4.4である(1)に記載のガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒。
【0016】
(3)前記第1触媒層、前記第2触媒層および前記第3触媒層のうち少なくとも1つの前記触媒層は、セリア、ジルコニア、及びセリア-ジルコニアよりなる群から選択される1種以上の酸素吸蔵放出材料をさらに含む(1)又は(2)に記載のガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒。
【0017】
(4)前記第1触媒層、前記第2触媒層および前記第3触媒層のうち少なくとも1つの前記触媒層は、アルミナ粉末をさらに含む(1)~(3)のいずれか一項に記載のガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒。
【0018】
(5)ガソリンエンジンの排ガス流路内に配置され、該ガソリンエンジンから排出される排ガスを浄化するガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒を備え、前記ガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒は、(1)~(4)のいずれか一項に記載のガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒のみからなり、他の排ガス浄化用触媒及び他の排ガス浄化フィルターを有さない
排ガス浄化システム。
【発明の効果】
【0019】
本発明のガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒等では、ウォールフロー型基材の導入側セルに流入した排ガスが多孔質体隔壁を通過して排出側セルから排出される際の排ガス流れに応じて、必要量の特定の触媒貴金属が適切な配置で設けられている。したがって、本発明のガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒等は、比較的に少ない貴金属使用量でありながらも、排ガス中のNOx、CO、HC等を削減する三元触媒(TWC:Three Way Catalyst)としての浄化性能に優れ、高いPM捕集性能を有しながらも、圧力損失が少ないという優れた効果を奏する。また、従来ではTWCとGPFの組み合わせが必要とされていたところ、本発明のガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒を1つのみ搭載することで、上記課題を解決可能であるため、他の排ガス浄化用触媒や他の排ガス浄化フィルターの併用が必要とされない。したがって、本発明は、触媒設置場所の確保が困難な軽自動車や小型普通自動車において、特に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】一態様のガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒を示す概略模式断面図である。
【
図2】
図1の部分13の要部拡大図(模式断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。但し、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらに限定されるものではない。すなわち本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。なお、本明細書において、例えば「1~100」との数値範囲の表記は、その下限値「1」及び上限値「100」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
【0022】
図1は、本実施形態のガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒100の概略構成を示す模式断面図である。本実施形態のガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒100は、ガソリンエンジンの排ガス流路内に配置され、該ガソリンエンジンから排出される排ガスを浄化する触媒塗工パティキュレートフィルター(以下、「GPF触媒」と称する場合がある。)であって、ウォールフロー型基材10と、このウォールフロー型基材10にウォッシュコートされた3つ触媒層(第1触媒層21、第2触媒層31、及び第3触媒層41)と、を少なくとも備える。以下、各構成について詳述する。
【0023】
ウォールフロー型基材10は、多孔質の隔壁11を介して導入側セルSINと排出側セルSEMとが複数並設された構造体(触媒担体)からなる。具体的には、ウォールフロー型基材10は、排ガス導入側の端部10aのみが開口した導入側セルSINと、この導入側セルSINに隣接し排ガス排出側の端部10bのみが開口した排出側セルSEMとが、多孔質体からなる隔壁11であって前記導入側セルSINと前記排出側セルSEMとを画定する隔壁11と、を有する。このウォールフロー型基材10において、隔壁11の延伸方向(セル延伸方向)の一方の端部10aの開口と他方の端部10bの開口とは、目封じ壁14により交互に封止されており、これにより、隔壁11を介して隣り合う導入側セルSIN及び排出側セルSEMが交互に区画形成されている。
【0024】
導入側セルSINと排出側セルSEMは、柱形状の軸方向に沿って規則的に配列されており、上述したとおり、隣り合うセル同士は延伸方向の一方の端部10aと他方の端部10bとが交互に封止されている。導入側セルSIN及び排出側セルSEMは、供給される排ガスの流量や成分を考慮して適当な形状および大きさに設定することができる。例えば、導入側セルSIN及び排出側セルSEMの口形状は、三角形;正方形、平行四辺形、長方形、及び台形等の矩形;六角形及び八角形等のその他の多角形;円形とすることができる。また、導入側セルSINの断面積と、排出側セルSEMの断面積とを異ならせたHigh Ash Capacity(HAC)構造を有するものであってもよい。なお、導入側セルSIN及び排出側セルSEMの個数は、排ガスの乱流の発生を促進し、かつ、排ガスに含まれる微粒子等による目詰まりを抑制できるように適宜設定することができ、特に限定されないが、通常は200cpsi~400cpsiが好ましい。
【0025】
隣り合うセル同士を仕切る隔壁11は、排ガスが通過可能な多孔質構造を有するものであれば特に制限されず、その構成については、排ガス浄化性能や圧力損失の上昇抑制、基材の機械的強度の向上等の観点から適宜調整することができる。例えば、後述する第2触媒層31や第3触媒層41のスラリー組成物を塗布乾燥して隔壁11内に第2触媒層31及び第3触媒層41を形成する際に、気孔Pの気孔径(例えば、モード径(気孔径の頻度分布における出現比率がもっとも大きい気孔径(分布の極大値)))や気孔容積が大きい場合には、一般的には、第2触媒層31や第3触媒層41の形成による気孔の閉塞が生じにくく、得られる排ガス浄化用触媒は圧力損失が上昇しにくいものとなる傾向にあるが、粒子状物質の捕集能力が低下し、また、ウォールフロー型基材10の機械的強度も低下する傾向にある。一方で、気孔径や気孔容積が小さい場合には、一般的には、圧力損失が上昇しやすいものとなるが、粒子状物質の捕集能力は向上し、ウォールフロー型基材10の機械的強度も向上する傾向にある。このような観点から、ウォールフロー型基材10の隔壁11の気孔容積は、水銀圧入法で好ましくは0.2~1.5cm3/gであり、より好ましくは0.25~0.9cm3/gであり、さらに好ましくは0.3~0.8cm3/gである。また、その際の隔壁11の気孔率は、好ましくは20~80%であり、より好ましくは40~70%であり、さらに好ましくは60~70%である。気孔容積又は気孔率が下限以上であることにより、圧力損失の上昇がより抑制される傾向にある。また、気孔容積又は気孔率が上限以下であることにより、基材の強度がより向上する傾向にある。
【0026】
このような構造体からなるウォールフロー型基材10としては、従来のこの種の用途に用いられる種々の材質及び形体のものが使用可能である。例えば、ウォールフロー型基材10の材質は、内燃機関が高負荷条件で運転された際に生じる高温(例えば400℃以上)の排ガスに曝された場合や、粒子状物質を高温で燃焼除去する場合等にも対応可能なように、耐熱性素材からなるものが好ましい。耐熱性素材としては、例えば、コージェライト、シリコンカーバイド、窒化珪素、ムライト、チタン酸アルミニウム、及び炭化ケイ素(SiC)等のセラミック;ステンレス鋼等の合金が挙げられる。また、ウォールフロー型基材10の形体は、排ガス浄化性能及び圧力損失上昇抑制等の観点から適宜調整することが可能である。例えば、ウォールフロー型基材10の外形は、円筒形状、楕円筒形状、又は多角筒形状等とすることができる。また、組み込む先のスペース等にもよって異なるが、ウォールフロー型基材10の容量(セルの総体積)は、通常は0.1~5Lが好ましく、より好ましくは0.5~3Lである。また、ウォールフロー型基材10の延伸方向の全長(隔壁11の延伸方向の全長)も、組み込む先のスペース等にもよって異なるが、通常は10~500mmが好ましく、より好ましくは50~300mmである。そして本実施形態において、導入側セルS
INの端部10a側から導入される排ガスは、導入側セルS
IN、隔壁11及び排出側セルS
EMの順に通過して、排出側セルS
EMの端部10b側から系外へと排出される。なお、
図1中の黒矢印は、排ガスの導入方向及び排出方向を示す。
【0027】
図2は、
図1中の部分13の要部拡大図である。
図2に示すように、ウォールフロー型基材10の隔壁11は、その内部に、多孔質体を構成する多数の気孔P(空隙)を有している。そして本実施形態においては、ウォールフロー型基材10の隔壁11の内部において、多孔質体の内壁面(隔壁11と気孔Pとを区画する壁面)上に第1触媒層21がウォッシュコート法により設けられており、さらに、この第1触媒層21上に第2触媒層31がウォッシュコート法により設けられている。また、導入側セルS
IN内の隔壁11の外壁面11a上には、排ガス流入側の端部10aから隔壁11の延伸方向に沿ってウォールフロー型基材10全長にわたって第3触媒層41がウォッシュコート法により設けられている。
【0028】
第1触媒層21は、触媒成分としてバリウムを含む触媒層である。第1触媒層21は、隔壁11の多孔質体の内壁面上に設けられており、この第1触媒層21上に第2触媒層31が設けられていることにより、触媒成分としてのバリウムが、CO酸化力及びNOx還元力を高める働きをする。触媒成分としてのバリウムは、特に限定されないが、硫酸塩、炭酸塩、複合酸化物、酸化物等のバリウム塩の形で含まれていることが好ましく、より具体的にはBaO、Ba(CH3COO)2、BaO2、BaSO4、BaCO5、BaZrO3、BaAl2O4等が挙げられる。触媒成分としてのバリウムは、第1触媒層21に含まれていればよいが、従来この種の排ガス浄化用触媒で使用される母材粒子上に担持された態様が好ましい。ここで用いる母材粒子は、触媒成分を高分散に担持する担体粒子として機能する。母材粒子としては、例えば、酸化セリウム(セリア)、セリアージルコニア複合酸化物(セリア-ジルコニア等)等の酸素吸蔵放出材料(OSC材)、酸化アルミニウム(アルミナ等)等が挙げられるが、その種類は特に限定されない。また、これらは、ランタン、イットリウム等の希土類元素、遷移金属元素、アルカリ土類金属元素が添加された複合酸化物若しくは固溶体であってもよい。なお、これら母材粒子は、1種を単独で或いは2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。また、母材粒子の平均粒子径(D50)は、所望性能に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、大きな比表面積を保持させるとともに耐熱性を高めて自身の触媒活性サイトの数を増大させる等の観点から、0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1.0μm以上がさらに好ましく、30μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、母材粒子の平均粒子径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、島津製作所社製、レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-3100等)で測定されるメディアン径を意味する。
【0029】
排ガス浄化性能の向上等の観点から、第1触媒層21中のバリウムの含有割合は、第1触媒層21の総量に対して、1~20質量%が好ましく、3~15質量%がより好ましく、合計でそれぞれ5~13質量%がさらに好ましい。
【0030】
なお、本明細書において、「ウォールフロー型基材1Lあたり」とは、「ウォールフロー型基材の純体積のみならず、ウォールフロー型基材の内部に形成されている導入側セルSIN、排出側セルSEM、隔壁11内の気孔P(空隙)の容積も含めた、『全体の嵩容積1Lあたり』」を意味する。
【0031】
第1触媒層21は、白金族元素を実質的に含まないことが好ましい。白金族元素としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)及びオスミウム(Os)が挙げられる。第1触媒層21が白金族元素を実質的に含まないことで、本実施形態のガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒100はPGMの使用効率を高めている。なお、第1触媒層21が白金族元素を実質的に含まないとは、不可避不純物等、検出限界以下の白金族元素以外を含まないことを意味する。具体的な数値としては第1触媒層21中の白金族元素の質量割合が、0.0~0.01質量%であることを意味し、より好ましくは0.0~0.001質量%であり、さらに好ましくは0.0~0.00001質量%である。
【0032】
第2触媒層31は、触媒成分としてパラジウムを含み、且つ酸素吸蔵放出材料を含む触媒層である。触媒成分としてのパラジウムは、COやHCの酸化反応を促進する作用に優れる。酸素吸蔵放出材料(OSC材)は、酸素吸放出能(Oxygen Storage Capacity)を有するものであり、排ガスの空燃比がリーンであるとき(すなわち酸素過剰側の雰囲気)には排ガス中の酸素を吸蔵し、排ガスの空燃比がリッチであるとき(すなわち燃料過剰側の雰囲気)には吸蔵されている酸素を放出するものをいい、例えば、酸化セリウム(セリア)、セリアージルコニア複合酸化物(セリア-ジルコニア等)等が挙げられる。パラジウム及び酸素吸蔵放出材料を含む第2触媒層31が第1触媒層21上に設けられていることにより、排ガスと貴金属との接触強度を向上させることで、COやHCの酸化反応の促進作用が強化されている。触媒成分としてのパラジウムは、第2触媒層31に含まれていればよいが、上述した酸素吸蔵放出材料や従来この種の排ガス浄化用触媒で使用される母材粒子上に担持された態様が好ましい。ここで用いる母材粒子は、触媒成分を高分散に担持する担体粒子として機能する。母材粒子としては、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ等)等が挙げられるが、その種類は特に限定されない。また、これらは、ランタン、イットリウム等の希土類元素、遷移金属元素、アルカリ土類金属元素が添加された複合酸化物若しくは固溶体であってもよい。酸素吸蔵放出材料や母材粒子の平均粒子径(D50)は、所望性能に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、大きな比表面積を保持させるとともに耐熱性を高めて自身の触媒活性サイトの数を増大させる等の観点から、0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1.0μm以上がさらに好ましく、30μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。
【0033】
排ガス浄化性能の向上等の観点から、第2触媒層31中のパラジウムの含有割合は、(ウォールフロー型基材1Lあたりのパラジウム質量基準で、1~10gが好ましく、より好ましくは1~5g、さらに好ましくは1~3gである。
【0034】
一方、第2触媒層31中の酸素吸蔵放出材料の含有割合は、所望性能に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、触媒性能を効率よく強化する等の観点から、第2触媒層31の総量に対して71~99質量%であることが好ましく、より好ましくは75~95g質量%、さらに好ましくは80~90質量%である。
【0035】
第3触媒層41は、触媒成分としてロジウムを含む触媒層である。触媒成分としてのロジウムは、NOxの還元反応を促進する作用に優れる。第3触媒層41は、前述した第1触媒層21及び第2触媒層31よりも排ガス流路の上流側であって、導入側セルSIN内の隔壁11の外壁面11a上に設けられている。PN捕集率の向上、圧力損失及び排ガス浄化性能等とのバランスの観点から、第3触媒層41は、排ガス流入側の端部10aから隔壁11の延伸方向に沿ってウォールフロー型基材10全長にわたって設けられていることが好ましい。触媒成分としてのロジウムは、第3触媒層41に含まれていればよいが、従来この種の排ガス浄化用触媒で使用される母材粒子上に担持された態様が好ましい。ここで用いる母材粒子は、触媒成分を高分散に担持する担体粒子として機能する。母材粒子としては、例えば、酸化セリウム(セリア)、セリアージルコニア複合酸化物(セリア-ジルコニア等)等の酸素吸蔵放出材料(OSC材)、酸化アルミニウム(アルミナ等)等が挙げられるが、その種類は特に限定されない。また、これらは、ランタン、イットリウム等の希土類元素、遷移金属元素、アルカリ土類金属元素が添加された複合酸化物若しくは固溶体であってもよい。なお、これら母材粒子は、1種を単独で或いは2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。母材粒子の平均粒子径(D50)は、所望性能に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、大きな比表面積を保持させるとともに耐熱性を高めて自身の触媒活性サイトの数を増大させる等の観点から、0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1.0μm以上がさらに好ましく、30μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。
【0036】
排ガス浄化性能の向上等の観点から、第3触媒層41中のロジウムの含有割合は、(ウォールフロー型基材1Lあたりのロジウム質量基準で、0.05~0.6gが好ましく、より好ましくは、0.10~0.5g、さらに好ましくは0.2~0.4gである。
【0037】
ここで、第2触媒層31及び第3触媒層41は、白金(Pt)を実質的に含まないことが好ましい。第1触媒層21のみならず、第2触媒層31及び第3触媒層41も白金(Pt)を実質的に含まないことで、比較的に低価格でPGMの使用効率を高めることができる。なお、第2触媒層31及び第3触媒層41が白金族元素を実質的に含まないとは、不可避不純物等、検出限界以下の白金族元素以外を含まないことを意味する。具体的な数値としては第2触媒層31及び第3触媒層41中の白金(Pt)の質量割合が、0.0~0.01質量%であることを意味し、より好ましくは0.0~0.001質量%であり、さらに好ましくは0.0~0.00001質量%である。
【0038】
また、第1触媒層21、第2触媒層31及び第3触媒層41に含まれる白金族元素の総含有割合(ウォールフロー型基材1Lあたりの白金族元素質量)は、白金族元素の使用量を比較的に低く抑えるとともに高い触媒性能を得る観点から、通常は1~10g/Lが好ましく、より好ましくは1~5g/Lであり、さらに好ましくは1~3g/Lである。
【0039】
なお、第1触媒層21、第2触媒層31及び第3触媒層41は、上述した必須成分以外に、当業界で各種公知のバインダーをさらに含有していてもよい。バインダーの種類は、特に限定されないが、例えば、ベーマイト、アルミナゾル、チタニアゾル、シリカゾル、ジルコニアゾル等の種々のゾルが挙げられる。また、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、硝酸チタン、酢酸チタン、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム等の可溶性の塩もバインダーとして使用することができる。その他、酢酸、硝酸、塩酸、硫酸等の酸も、バインダーとして使用することができる。なお、バインダーの使用量は、特に限定されないが、各層の総量に対して、合計でそれぞれ0.01~15質量%が好ましく、合計でそれぞれ0.05~10質量%がより好ましく、合計でそれぞれ0.1~8質量%がさらに好ましい。
【0040】
また、第1触媒層21、第2触媒層31及び第3触媒層41は、上述した必須成分以外に、当業界で各種公知の触媒材料や助触媒材料、各種添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、非イオン系界面活性剤やアニオン系界面活性剤等の分散安定化剤;pH調整剤;粘度調整剤;アルカリ金属;アルカリ土類金属;等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0041】
上述した構成を有するガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒100は、例えば、上述したウォールフロー型基材10の隔壁11の内壁面上に第1触媒層21及び第2触媒層31を順次形成した後、ウォールフロー型基材10の隔壁11の外壁面11a上に第3触媒層41を設けることで製造可能である。例えば、ウォールフロー型基材10の隔壁11の内壁面上に第1触媒層21のスラリー状混合物をウォッシュコートし、余剰分を吹き払って第1触媒層21を形成した後、さらに第2触媒層31のスラリー状混合物を第1触媒層21上にウォッシュコートし、余剰分を吹き払って第2触媒層31を形成し、その後に、第3触媒層41のスラリー状混合物を隔壁11の外壁面11a上にウォッシュコートし余剰分を吹き払って第3触媒層41を形成することで、本実施形態のガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒100を得ることができる。
【0042】
ウォールフロー型基材10へのスラリー状混合物の付与方法は、常法にしたがって行えばよく、特に限定されない。各種公知のコーティング法、ウォッシュコート法、ゾーンコート法等を適用することができる。スラリー状混合物の調製方法としては、常法にしたがって行えばよく、特に限定されない。ボールミル等による粉砕混合等、公知の粉砕方法又は混合方法を適用することができる。そして、スラリー状混合物の付与後においては、常法にしたがい乾燥や焼成を行うことができる。なお、乾燥温度は、特に限定されないが、例えば70~200℃が好ましく、80~150℃がより好ましい。また、焼成温度は、特に限定されないが、例えば300~650℃が好ましく、400~600℃がより好ましい。このとき用いる加熱手段については、例えば電気炉やガス炉等の公知の加熱手段によって行うことができる。
【0043】
このように構成されたガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒100では、ガソリンエンジンから排出される排ガスが、導入側セルSINの端部10a側(開口)から導入され、隔壁11の気孔P内を通過して、隣接する排出側セルSEM内へと流出し、排出側セルSEMの端部10b側(開口)から系外へと排出される。この過程において、排ガス中に含まれる粒子状物質(PM:Particulate Matter)は、第3触媒層41や隔壁11の表面(隔壁11上)や隔壁11内部の気孔P内で捕集されて分離(除去)される。また、排ガスに含まれる炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等は、第3触媒層41、隔壁11の気孔Pに形成された第1触媒層21及び第2触媒層31と接触し、これにより、水(H2O)や二酸化炭素(CO2)等へ酸化され或いは窒素(N2)へ還元される。
【0044】
ここで、本実施形態のガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒100においては、比較的に少ない貴金属使用量でありながらも、浄化性能、PM捕集性能、及び低圧力損失を高次元でバランスさせるために、第1触媒層21、第2触媒層31及び第3触媒層41の塗工量が最適化されている。具体的には、第1触媒層21のウォッシュコート量(WC1)は、ウォールフロー型基材10の単位容積(1L)あたりの固形分換算で、25~35g/Lである。また、第2触媒層31のウォッシュコート量(WC2)は、ウォールフロー型基材10の単位容積(1L)あたりの固形分換算で、41~74g/Lである。さらに、第3触媒層41のウォッシュコート量(WC3)は、ウォールフロー型基材10の単位容積(1L)あたりの固形分換算で、21~39g/Lである。
【0045】
また、第1触媒層のウォッシュコート量(WC1)に対する前記第2触媒層と前記第3触媒層のウォッシュコート量の総和(WC2+WC3)の比は、浄化性能、PM捕集性能、及び低圧力損失等の観点から、2.3~4.4であることが好ましく、より好ましくは2.5~3.9、さらに好ましくは2.7~3.4である。
【0046】
そして、第1触媒層21、第2触媒層31、及び第3触媒層41のウォッシュコート量の総和(WC1+WC2+WC3)は、浄化性能、PM捕集性能、及び低圧力損失等の観点から、ウォールフロー型基材10の単位容積(1L)あたりの固形分換算で、106~139g/Lであることが好ましく、より好ましくは108~135g/L、さらに好ましくは110~130g/Lである。
【0047】
本実施形態のガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒100は、パティキュレートフィルター及びガソリンエンジンの排ガスを浄化するとともに粒子状物質を捕集するするガソリンパティキュレートフィルター触媒(GPF触媒)として有用である。とりわけ、本実施形態のガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒100は、比較的に少ない貴金属使用量でありながらも、排ガス中のNOx、CO、HC等を削減する三元触媒(TWC:Three Way Catalyst)としての浄化性能に優れ、高いPM捕集性能を有しながらも圧力損失が少ないため、触媒設置場所の確保が困難な軽自動車や小型普通自動車において、殊に有用である。
【実施例】
【0048】
以下に試験例、実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらによりなんら限定されるものではない。すなわち、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更することができる。また、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における好ましい上限値又は好ましい下限値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0049】
<性能評価>
以下に示すとおり、各排ガス浄化用触媒をそれぞれ用いて、各種性能評価を行った。なお、表1では、各種性能の優劣を明確にするため、実施例1の結果を100とした相対値でそれぞれ示した。
【0050】
〔ライトオフ性能の測定〕
耐久処理後に室温まで放冷させた各排ガス浄化用触媒をそれぞれ用いて、ライトオフ性能の測定を行った。ここでは、2Lエンジンを用い、エンジン回転数2500rpm、ブースト圧-300mmHg、A/Fレート14.56±0.4/2.5Hzの条件下、エンジン排気系の触媒コンバーターの前に熱交換器を取り付け、触媒入口ガス温度を200~450℃まで一定の昇温速度(10℃/min)で変化させ、触媒入口及び出口ガス組成を分析して、HC浄化率(HC-T50)を求めた。そしてHC浄化率が50%に達した温度(ライトオフ温度)を測定し、ライトオフ性能とした。HCの50%浄化温度が低い程、優れた触媒であることを示している。
【0051】
〔OSC性能の測定〕
耐久処理後に室温まで放冷させた各排ガス浄化用触媒をそれぞれ用いて、OSC性能の測定を行った。ここでは、2Lエンジンを用い、エンジン回転数2500rpm、ブースト圧-300mmHg条件下、触媒入口ガス温度を500℃に固定し、A/Fを14.1~15.1の間における出ガス中の酸素濃度を連続的に測定した。空燃比が15.1から14.1に達するまでに放出する酸素量を、酸素吸蔵量として算出し、OSC性能とした。酸素吸蔵量が高い程、優れた触媒であることを示している。
【0052】
[圧力損失の測定]
各排ガス浄化用触媒、並びに、触媒スラリーを塗布する前のウォールフロー型基材を圧力損失測定装置(ツクバリカセイキ株式会社製)にそれぞれ設置し、設置した排ガス浄化用触媒に室温の空気を導入させた。排ガス浄化用触媒からの空気の排出量が4m3/minとなったときの空気の導入側と排出側の差圧を測定して得られた値を、排ガス浄化用触媒の圧力損失とした。
【0053】
[スス捕集性能の測定]
ガソリンエンジンにおけるPN規制を前提として、スス捕集性能の測定を行った。具体的には、各排ガス浄化用触媒を、1.5L直噴ターボエンジン搭載車に取り付け、固体粒子数測定装置(堀場製作所製、商品名:MEXA-2100 SPCS)を用いて、WLTCモード走行時のスス排出数量(PNtest)を測定した。なお、ススの捕集率は、排ガス浄化用触媒を搭載せずに上記試験を行った際に測定したスス量(PNblank)からの減少率として、下記式により算出した。
ススの捕集率(%)={(PNblank-PNtest)/PNblank}×100
【0054】
[総合評価]
一つの触媒で各種性能を満たすことを目的としているため、ライトオフ性能(HC-T50)が90以下、酸素吸蔵量が90以下、圧力損失が110以上、PM捕集率が95以下の要件が一つでもあるものは、総合評価をNGとした。
【0055】
(実施例1)
まず、セリアージルコニア系複合酸化物と、アルミナ粉末と、バリウム化合物と、イオン交換水とを混合し、得られた混合物をボールミルに投入し、触媒粉末が所定の粒子径分布(D90粒子径:1.5μm)とした後に、炭酸アンモニウムを投入して、実施例1の第1触媒層用のスラリー状混合物を調製した。得られた第1触媒層用のスラリー状混合物をコージェライト製のウォールフロー型基材の排ガス導入側の端部に浸漬させ、反対側の端部側から減圧吸引して、ウォールフロー型基材端部に第1触媒層用のスラリー状混合物を含浸保持させた。その後、排ガス導入側の端部からウォールフロー型基材内へ気体を流入させて、隔壁内の内壁(気孔表面)上に第1触媒層用のスラリー状混合物を塗工するとともに、ウォールフロー型基材の排ガス排出側の端部から過剰分の第1触媒層用のスラリー状混合物を吹き払って、気体の流入を停止した。その後、第1触媒層用のスラリー状混合物を塗工したウォールフロー型基材を150℃で乾燥させた後、大気雰囲気下、550℃で焼成して、第1触媒層を作製した。なお、焼成後における触媒層のWC1量は30g/Lであった。
【0056】
次に、アルミナ粉末、及びセリアージルコニア系複合酸化物に硝酸パラジウム(II)溶液(Pd換算で20質量%含有)を含浸させ、600℃で30分間焼成して、Pdがアルミナ粉末上及びセリアージルコニア系複合酸化物上に担持された複合触媒粒子を得た。その後、得られた複合触媒粒子と、バリウム化合物と、60%硝酸と、イオン交換水とを混合し、得られた混合物をボールミルに投入し、触媒粉末が所定の粒子径分布(D900粒子径:2.5μm)になるまで処理して、第2触媒層用のスラリー状混合物を調製した。得られた第2触媒層用のスラリー状混合物を第1触媒層が形成済みのウォールフロー型基材の排ガス排出側の端部に浸漬させ、反対側の端部側から減圧吸引して、ウォールフロー型基材端部に第2触媒層用のスラリー状混合物を含浸保持させた。その後、排ガス排出側の端部からウォールフロー型基材内へ気体を流入させて、隔壁内の第1触媒層上に第2触媒層用のスラリー状混合物を塗工するとともに、ウォールフロー型基材の排ガス導入側の端部から過剰分の第2触媒層用のスラリー状混合物を吹き払って、気体の流入を停止した。その後、第2触媒層用のスラリー状混合物を塗工したウォールフロー型基材を150℃で乾燥させた後、大気雰囲気下、550℃で焼成して、第2触媒層を作製した。なお、焼成後における触媒層のWC2量は60g/Lであった。
【0057】
次いで、アルミナ粉末と、セリアージルコニア系複合酸化物と、水酸化ネオジウムと、硝酸ロジウム(III)溶液(Rh換算で10質量%含有)と、イオン交換水と、水溶性高分子とを混合し、撹拌することで第3触媒層用スラリー状混合物を調製した。得られた第3触媒層用のスラリー状混合物を第1及び第2触媒層が形成済みのウォールフロー型基材の排ガス導入側の端部に浸漬させ、反対側の端部側から減圧吸引して、ウォールフロー型基材全体に第3触媒層用のスラリー状混合物を含浸保持させ、排ガス流入側の端部から隔壁の延伸方向に沿ってウォールフロー型基材全長にわたって、ウォールフロー型基材の導入側セルSIN内の隔壁の外壁面上に第3触媒層用のスラリー状混合物を塗工するとともに、ウォールフロー型基材の排ガス導入側の端部から過剰分の第3触媒層用のスラリー状混合物を吹き払って、気体の流入を停止した。その後、第3触媒層用のスラリー状混合物を塗工したウォールフロー型基材を150℃で乾燥させた後、大気雰囲気下、550℃で焼成して、第3触媒層を作製した。なお、焼成後における触媒層のWC3量は30g/Lであった。
【0058】
(実施例2~3及び比較例1~11)
各触媒層のWC量やOSC含有割合を表1に示すとおり変更する以外は、実施例1と同様に行って、実施例2~3及び比較例1~11の排ガス浄化用触媒を作製した。
【0059】
得られた各排ガス浄化用触媒について、上記手法で性能評価を行った。評価結果を、表1に示す。
【0060】
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒は、比較的に少ない貴金属使用量でありながらも、排ガス中のNOx、CO、HC等を削減する三元触媒(TWC:Three Way Catalyst)としての浄化性能に優れ、高いPM捕集性能を有しながらも圧力損失が少ないため、触媒設置場所の確保が困難な軽自動車や小型普通自動車におけるGPF触媒として殊に有用である。
【符号の説明】
【0062】
100 ・・・ガソリンエンジン用排ガス浄化用触媒
10 ・・・ウォールフロー型基材
10a・・・排ガス導入側の端部
10b・・・排ガス排出側の端部
11 ・・・隔壁
11a・・・外壁面
13 ・・・部分
14 ・・・目封じ壁
21 ・・・第1触媒層
31 ・・・第2触媒層
41 ・・・第3触媒層
P ・・・気孔