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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】荷電粒子線発生装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/14 20060101AFI20241114BHJP
   H01J 35/00 20060101ALI20241114BHJP
   H01J 37/065 20060101ALI20241114BHJP
   H01J 37/147 20060101ALI20241114BHJP
   H01J 37/09 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
H01J35/14
H01J35/00 Z
H01J37/065
H01J37/147 Z
H01J37/09 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021077454
(22)【出願日】2021-04-30
(65)【公開番号】P2022171067
(43)【公開日】2022-11-11
【審査請求日】2024-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 銀治
(72)【発明者】
【氏名】小塩 成基
【審査官】藤田 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-178688(JP,A)
【文献】特開2001-244167(JP,A)
【文献】特開2010-027993(JP,A)
【文献】特開2003-037047(JP,A)
【文献】特開2006-344526(JP,A)
【文献】特開平05-264795(JP,A)
【文献】米国特許第07046768(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00
H01J 35/00
G21K 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出射軸線に沿って荷電粒子線を出射する荷電粒子線源と、
第1磁場を発生させる第1磁場発生部と、
第2磁場を発生させる第2磁場発生部と、
前記第1磁場発生部と前記第2磁場発生部との間には、前記第1磁場発生部と前記第2磁場発生部との両方を通る磁力線によって示される磁場が形成され、前記磁力線の分布を、前記第1磁場発生部のN極からS極へ向かう第1磁極方向に偏らせる第3磁場発生部と、を備え、
前記第1磁場発生部及び前記第2磁場発生部は、前記出射軸線と交差する方向に沿って互いに離間し、
前記出射軸線は、前記第1磁場発生部と前記第2磁場発生部との間に配置され、
記第1磁極方向は、前記第2磁場発生部のN極からS極へ向かう第2磁極方向に対して逆であり、
前記第3磁場発生部は、前記第1磁場発生部及び前記第2磁場発生部から前記第1磁極方向または前記第2磁極方向に離間すると共に、前記第1磁場発生部及び前記第2磁場発生部の間に配置される、荷電粒子線発生装置。
【請求項2】
出射軸線に沿って荷電粒子線を出射する荷電粒子線源と、
第1磁場を発生させる第1磁場発生部と、
第2磁場を発生させる第2磁場発生部と、を備え、
前記第1磁場発生部及び前記第2磁場発生部は、前記出射軸線と交差する方向に沿って互いに離間し、
前記第1磁場発生部は、前記第1磁場を発生させる第1コイルと、前記第1磁場に起因する力に応じて移動する第1駆動部材と、を有し、
前記第2磁場発生部は、前記第2磁場を発生させる第2コイルと、前記第2磁場に起因する力に応じて移動する第2駆動部材と、を有し、
前記出射軸線は、前記第1磁場発生部と前記第2磁場発生部との間に配置され、
前記第1磁場発生部のN極からS極へ向かう第1磁極方向は、前記第2磁場発生部のN極からS極へ向かう第2磁極方向に対して逆である、荷電粒子線発生装置。
【請求項3】
出射軸線に沿って荷電粒子線を出射する荷電粒子線源と、
第1磁場を発生させる第1磁場発生部と、
第2磁場を発生させる第2磁場発生部と、を備え、
前記第1磁場発生部及び前記第2磁場発生部は、前記出射軸線と交差する方向に沿って互いに離間し、
前記第1磁場発生部は、前記第1磁場を発生させる第1コイルと、前記第1磁場に起因する力に応じて移動する第1駆動部材と、を有し、
前記第2磁場発生部は、前記第2磁場を発生させる第2コイルを有し、
前記出射軸線は、前記第1磁場発生部と前記第2磁場発生部との間に配置され、
前記第1磁場発生部のN極からS極へ向かう第1磁極方向は、前記第2磁場発生部のN極からS極へ向かう第2磁極方向に対して逆である、荷電粒子線発生装置。
【請求項4】
前記第3磁場発生部は、前記第1磁場発生部から前記第2磁場発生部まで延びる磁性材料により形成された磁性部材である、請求項1に記載の荷電粒子線発生装置。
【請求項5】
前記第1駆動部材には、前記出射軸線と重複可能な遮蔽部材が取り付けられ、
前記第1磁場発生部は、前記遮蔽部材が前記出射軸線と重複する遮蔽態様と、前記遮蔽部材が前記出射軸線と重複しない出射態様と、を前記第1駆動部材の動作によって相互に切り替える、請求項またはに記載の荷電粒子線発生装置。
【請求項6】
前記第1磁極方向は、前記第2磁極方向に対して平行であり、
前記出射軸線と交差する方向から見て、前記第1磁極方向及び前記第2磁極方向は、前記出射軸線の方向と交わる方向に延びる、請求項1~3の何れか一項に記載の荷電粒子線発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子は、電荷を帯びた粒子である。荷電粒子線発生装置は、例えば、荷電粒子線である電子線を発生させる。荷電粒子線発生装置は、電子線の発生源として用いられることもある。また、荷電粒子線発生装置は、タングステンなどの金属からなるターゲットと共にX線源を構成することもある。
【0003】
特許文献1は、放射線ビームを遮断する放射線シャッタを開示する。放射線シャッタは、放射線の遮断と照射とを相互に切り替える。放射線シャッタは、放射線ビームを遮断するための遮蔽板と、放射線ビームの光路に対して遮蔽板を進退させるソレノイド機構と、を有する。ソレノイド機構によって、放射線の遮断と照射とを相互に切り替えることができる。ソレノイド機構は、コイルの磁場に起因して鉄心に発生する磁力によって駆動力を発生させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-264795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
荷電粒子線発生装置は、特許文献1のようにコイルの磁場を利用した駆動機構を有することがある。荷電粒子線は、電荷を帯びているから磁場の影響を受ける。荷電粒子線は、出射軸線に沿って出射させる。しかし、出射軸線を含む領域に磁場が存在すると、荷電粒子線は磁場の影響を受ける。その結果、荷電粒子線は出射軸線からそれてしまう。
【0006】
そこで、本発明は、所望の位置に荷電粒子線を照射可能な荷電粒子線発生装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態である荷電粒子線発生装置は、出射軸線に沿って荷電粒子線を出射する荷電粒子線源と、第1磁場を発生させる第1磁場発生部と、第2磁場を発生させる第2磁場発生部と、を備える。第1磁場発生部及び第2磁場発生部は、出射軸線と交差する方向に沿って互いに離間する。出射軸線は、第1磁場発生部と第2磁場発生部との間に配置される。第1磁場発生部のN極からS極へ向かう第1磁極方向は、第2磁場発生部のN極からS極へ向かう第2磁極方向に対して逆である。
【0008】
荷電粒子線発生装置では、第1磁場発生部の第1磁極方向が第2磁場発生部の第2磁極方向に対して逆である。この構成によれば、第1磁場発生部と第2磁場発生部との間に合成磁場が発生する。このような合成磁場が生じると、磁束密度が相対的に低い領域が形成される。その結果、磁束密度が相対的に低い領域に出射軸線を重複させると、荷電粒子線源から出射される荷電粒子線が第1磁場発生部の磁場及び第2磁場発生部の磁場から受ける影響が抑制される。従って、所望の位置に荷電粒子線を照射することができる。
【0009】
一形態の荷電粒子線発生装置において、第1磁極方向は、第2磁極方向に対して平行であってもよい。出射軸線と交差する方向から見て、第1磁極方向及び第2磁極方向は、出射軸線の方向と交わる方向に延びてもよい。この構成によれば、磁束密度が相対的に低い領域を第1磁場発生部と第2磁場発生部との間に好適に形成することができる。
【0010】
一形態の荷電粒子線発生装置の第1磁場発生部と第2磁場発生部との間には、第1磁場発生部と第2磁場発生部との両方を通る磁力線によって示される磁場が形成され、その磁力線の分布を、第1磁極方向に偏らせる磁場偏向部をさらに備えてもよい。磁場偏向部によれば、第1磁場発生部と第2磁場発生部との両方を通る磁力線によって示される合成磁場が形成される。そして、磁場偏向部は、磁力線を偏らせる。磁束密度が相対的に低い領域は、磁力線の分布によって示される合成磁場に応じる。その結果、磁束密度が相対的に低い領域が形成される位置は、磁力線の偏りに応じて変化する。従って、磁束密度が相対的に低い領域を所望の位置に形成することが可能になる。
【0011】
一形態の荷電粒子線発生装置の磁場偏向部は、第1磁場発生部から第2磁場発生部まで延びる磁性材料により形成された磁性部材であってもよい。この構成によれば、磁性部材が空気よりも透磁率の高い領域を形成する。その結果、第1磁場発生部及び第2磁場発生部の間に存在する磁力線の分布は、積極的に磁性部材を通るようになるので、偏る。従って、磁束密度が相対的に低い領域を所望の位置に形成することが可能になる。
【0012】
一形態の荷電粒子線発生装置の磁場偏向部は、第1磁場発生部及び第2磁場発生部から第1磁極方向または第2磁極方向に離間すると共に、第1磁場発生部及び第2磁場発生部の間に配置された第3磁場発生部であってもよい。この構成によれば、第3磁場発生部の作用に応じて、第1磁場発生部及び第2磁場発生部の間に存在する磁力線のうち、第3磁場発生部を通る磁力線の数が変化する。その結果、磁力線の偏りが生じるので、磁束密度が相対的に低い領域を所望の位置に形成することが可能になる。
【0013】
一形態の荷電粒子線発生装置の第1磁場発生部は、第1磁場を発生させる第1コイルと、第1磁場に起因する力に応じて移動する第1駆動部材と、を有してもよい。第2磁場発生部は、第2磁場を発生させる第2コイルと、第2磁場に起因する力に応じて移動する第2駆動部材と、を有してもよい。この構成によれば、第1磁場発生部及び第2磁場発生部は、第1磁場発生部と第2磁場発生部との間に合成磁場を発生させるとともに、対象物を駆動するための力を発生させるアクチュエータとして機能する。
【0014】
一形態の荷電粒子線発生装置の第1磁場発生部は、第1磁場を発生させる第1コイルと、第1磁場に起因する力に応じて移動する第1駆動部材と、を有してもよい。第2磁場発生部は、第2磁場を発生させる第2コイルを有してもよい。この構成によれば、第1磁場発生部及び第2磁場発生部は、第1磁場発生部と第2磁場発生部との間に合成磁場を発生させるとともに、第1磁場発生部は、対象物を駆動するための力を発生させるアクチュエータとして機能する。
【0015】
一形態の荷電粒子線発生装置の第1駆動部材には、出射軸線と重複可能な遮蔽部材が取り付けられてもよい。第1磁場発生部は、遮蔽部材が出射軸線と重複する遮蔽態様と、遮蔽部材が出射軸線と重複しない出射態様と、を第1駆動部材の動作によって相互に切り替えてもよい。この構成によれば、荷電粒子線源からの荷電粒子を出射させた状態で、荷電粒子線又は荷電粒子線に起因する別の放射線の出射と遮蔽とを相互に切り替えることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、所望の位置に荷電粒子線を照射可能な荷電粒子線発生装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、X線管を備えたX線モジュールの外観を示す斜視図である。
図2図2は、X線管の内部を示す断面図である。
図3図3は、第1実施形態のX線シャッタを示す斜視図である。
図4図4(a)は、肉厚が薄い磁気シールドの効果を説明するための図である。図4(b)は、肉厚が厚い磁気シールドの効果を説明するための図である。
図5図5は、第1実施形態のX線シャッタが備えるソレノイドの構造を示す斜視図である。
図6図6(a)は、一対のソレノイドが形成する磁場を磁力線によって示す図である。図6(b)は、一対のソレノイドが形成する別の磁場を磁力線によって示す図である。
図7図7(a)は、図6(a)の磁力線によって示された磁場における磁束密度の分布を示すコンター図である。図7(b)は、図6(b)の磁力線によって示された磁場における磁束密度の分布を示すコンター図である。
図8図8は、図6(a)に示す磁力線と電子線の経路を示す斜視図である。
図9図9は、図6(b)に示す別の磁力線と電子線の経路を示す斜視図である。
図10図10は、第1実施形態のX線シャッタの周囲に形成される磁力線を可視化した図である。
図11図11は、図10の磁力線によって示された磁場における磁束密度の分布を示すコンター図である。
図12図12は、図10に示す磁力線と電子線の経路を示す斜視図である。
図13図13は、第2実施形態のX線シャッタと当該X線シャッタの周囲に形成される磁場を磁力線によって示す図である。
図14図14は、第3実施形態のX線シャッタと当該X線シャッタの周囲に形成される磁場を磁力線によって示す図である。
図15図15(a)は、第1変形例のX線シャッタを示す図である。図15(b)及び図15(c)は、第2変形例のX線シャッタを示す図である。
図16図16は、第3変形例のX線シャッタを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1実施形態>
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1に示すX線モジュール100(荷電粒子線発生装置)は、いわゆる微小焦点X線源である。X線モジュール100は、例えば被写体の内部構造を観察するX線非破壊検査に用いられる。X線モジュール100は、X線管110と、ハウジング120と、電源(図示せず)と、を有する。X線管110は、ハウジング120の内部に収容されている。ハウジング120の内部は、絶縁油によって満たされている。電源は、ハウジング120の下方に配置されている。電源は、給電部141(図2参照)を介して、X線管110に電力を供給する。X線管110は、出射窓112からX線を出射する。
【0020】
X線モジュール100は、X線の出射と停止との切り替えを、物理的な遮蔽物によって実現する。X線モジュール100は、後述するX線シャッタ10によって、出射窓112を覆ってX線の出射を妨げる態様と、出射窓112を開放してX線を出射する態様と、を相互に切り替える。その結果、X線モジュール100は、いわゆるパルス動作が可能になる。例えば、X線モジュール100は、X線画像を撮像するときだけX線を出射させる動作と、被写体を搬送するときなどのX線画像を撮像しないときにX線を出射させない動作と、を短時間で切り替えることができる。このような構成によると、X線管110からのX線の出射と停止とを、電源からの電流供給の制御によらずに実現することができる。その結果、電流制御のための高度な電気回路設計も不要である。
【0021】
図2に示すX線管110は、絶縁バルブ2および金属筐体3を備えた真空筐体1の内部空間(真空空間SV)に収容された、ターゲット111と、電子銃4(荷電粒子線源)と、を備える。電子銃4は、荷電粒子線である電子線EBをターゲット111に照射する。電子線EBを受けたターゲット111は、X線を発生する。発生したX線は、電子線EBの入射方向に沿った方向に、出射窓112を透過してX線管110の外部に取り出される。つまり、X線管110は、透過型である。
【0022】
出射窓112は、金属筐体3の開口部を封止するように取り付けられている。出射窓112は、X線の透過性の良い材料、例えばベリリウムやダイアモンド等からなる基板である。ターゲット111は、出射窓112の真空空間SV側の面上に配置されており、電子線EBの出射軸線AEと交差する。ターゲット111は、例えば、出射窓112の真空側面上に形成されたタングステン製の薄膜である。
【0023】
電子銃4は、電源から電力の供給を受けて電子線EBを発生させる。電子銃4は、ヒータ4aと、カソード4bと、グリッド電極4c、4dと、を有する。ヒータ4aは、電力の供給を受けて発熱する。カソード4bは、ヒータ4aによって加熱される。加熱されたカソード4bは、電子を放出する。グリッド電極4c、4dは、放出された電子の量や軌道を調整する。ターゲット111の電位は、接地電位(GND)である。
【0024】
X線モジュール100はさらに、図3に示すX線シャッタ10を有する。X線シャッタ10は、X線管110が発したX線を遮蔽することができる。また、X線シャッタ10は、X線管110が発したX線を遮蔽しないこともできる。X線の出射と遮蔽とを相互に切り替える動作を、パルス動作と称する。X線シャッタ10によって、X線モジュール100のパルス動作が可能になる。X線シャッタ10は、シャッタフレーム20と、アクチュエータ30A、30Bと、磁気バイパス40と、を有する。
【0025】
シャッタフレーム20は、出射窓112を被写体に向けて露出させることにより、被写体にX線を照射させる。また、シャッタフレーム20は、出射窓112と被写体との間に配置されて、被写体へのX線の照射を停止する。このシャッタフレーム20の位置の切り替えは、アクチュエータ30A、30Bによって行われる。シャッタフレーム20は、遮蔽板21(遮蔽部材)と、遮蔽梁22と、を有する。遮蔽板21は、X線を遮蔽する。遮蔽板21は、矩形又は円形の平板である。遮蔽梁22は、遮蔽板21を、アクチュエータ30A、30Bに連結する。遮蔽梁22は、接続部22aと、連結部22bとを含む。接続部22aの一端は、アクチュエータ30A、30Bに固定されている。接続部22aの他端は、連結部22bにつながっている。連結部22bの両端には、それぞれ接続部22aがつながっている。連結部22bは、出射窓112およびハウジング120の上面からわずかに離間する。連結部22bの中央部分には、遮蔽板21が取り付けられている。なお、連結部22bが出射窓112を覆える程度の幅を有する場合には、連結部22bが遮蔽板21の機能を兼ねることができる。従って、この場合には、遮蔽板21を省略してよい。
【0026】
アクチュエータ30A、30Bは、シャッタフレーム20の位置を切り替える駆動力を発生させる。X線シャッタ10は、2個のアクチュエータ30A、30Bを有する。アクチュエータ30A、30Bは、ハウジング120の直径方向に沿って、X線管110を挟むように配置されている。アクチュエータ30A、30Bは、磁気シールド31A、31Bと、ソレノイド50A、50Bと、を有する。
【0027】
磁気シールド31A、31Bは、ソレノイド50A、50Bを収容する筐体である。図3では、直方体状の磁気シールド31A、31Bを図示しているが、磁気シールド31A、31Bの形状には特に制限はない。例えば、1個の磁気シールド31Aは、1個又は複数のソレノイド50Aを収容する。磁気シールド31A、31Bは、ソレノイド50A、50Bを物理的に保護する。また、磁気シールド31A、31Bは、ソレノイド50A、50Bが発する磁場の漏洩を抑制する。磁場の漏洩を抑制する効果は、磁気シールド31A、31Bの厚みによって決まる。例えば、図4(a)に示すように、磁気シールド31Aの厚みが薄い場合には、磁場の漏洩を抑制する効果は小さい。図4(b)に示すように、磁気シールド31Aの厚みが厚い場合には、磁場の漏洩を抑制する効果は大きい。磁気シールド31A、31Bの厚みが厚いほうが磁場の漏洩の観点からすると望ましい。しかし、その他の要因から磁気シールド31A、31Bの厚みが制限される場合がある。本実施形態のアクチュエータ30A、30Bは、磁場の漏洩の課題を後述する別の手法によって解決する。従って、磁気シールド31A、31Bは、別の手法によって低減された磁場の強度をさらに抑制するものとして扱ってよい。つまり、磁気シールド31A、31Bの厚みは、磁気シールド31A、31Bの磁場の漏洩とは異なる観点から決めてよい。さらに、場合によっては、アクチュエータ30A、30Bは、磁気シールド31A、31Bを省略してもよい。
【0028】
図5に示すソレノイド50Aは、駆動力を発生させる。駆動力の方向(駆動軸線AD)は、出射軸線AEに対して垂直方向に延びる。この方向によれば、出射軸線AEに遮蔽板21が重複する位置と、出射軸線AEに遮蔽板21が重複しない位置と、を相互に切り替えることができる。ソレノイド50Aは、コイル51と、固定磁極52と、可動磁極53(第1駆動部材)と、バネ54と、ハウジング55と、を有する。
【0029】
固定磁極52は、円筒状のハウジング55の内部に配置されている。なお、固定磁極52は、磁場を発生させない磁性部材であってもよい。固定磁極52は、ハウジング55の一方の開口端を閉鎖している。固定磁極52は、ハウジング55に対して固定されている。従って、固定磁極52は、ハウジング55に対して相対的に移動しない。
【0030】
コイル51は、ハウジング55の内部に配置されている。コイル51は、固定磁極52からハウジング55の他方の開口端に亘って設けられている。つまり、コイル51は、狭義の意味のソレノイドである。コイル51は、固定磁極52と同様に、ハウジング55に対して固定されている。従って、コイル51もハウジング55に対して相対的に移動しない。
【0031】
コイル51は、所定の方向に向くコイル軸線ACを有する。コイル軸線ACは、円筒状のコイル51の中心軸線としてもよい。コイル軸線ACを用いることにより、コイル51の配置を規定することができる。コイル軸線ACは、出射軸線AEに対して垂直方向に延びる。一方(ソレノイド50A)のコイル軸線ACは、他方(ソレノイド50B)のコイル軸線ACに対して平行である。さらに、出射軸線AEに対して直交する仮想平面を仮定する。一方のコイル軸線ACと他方のコイル軸線ACとは、当該仮想平面に含まれる。また、コイル軸線ACの方向は、後述する可動磁極53が往復移動する駆動軸線ADとも一致する。従って、上述のいくつかの説明において、コイル軸線ACを可動磁極53の駆動軸線ADと読み変えてもよい。
【0032】
可動磁極53は、コイル51の内部に配置された差し込み部分と、コイル51の外側に配置された露出部分と、を有する。つまり、可動磁極53の一方の端部は、コイル51に差し込まれている。可動磁極53の他方の端部は、コイル51から突出している。可動磁極53には、フランジ56が固定されている。フランジ56とハウジング55との間には、バネ54が配置されている。バネ54は、圧縮バネである。可動磁極53がハウジング55から最も突出した状態において、ハウジング55からフランジ56までの長さは、バネ54の自然長よりも短い。つまり、バネ54は、圧縮されている。可動磁極53の露出部分の端部には、接続部22aが固定されている。
【0033】
可動磁極53は、コイル51に対して固定されていない。従って、可動磁極53は、コイル51に対して相対的に移動できる。同様に、可動磁極53は、固定磁極52に対しても相対的に移動できる。コイル51に電流が供給されると、コイル51は磁場を発生させる。可動磁極53は、コイル51に挿入されているので、コイル51が発生させた磁場によって磁化する。その結果、可動磁極53と固定磁極52との間に、互いに引き合う力が発生する。この力によって、可動磁極53は移動する。例えば、可動磁極53は、固定磁極52に近づく方向に移動できる。逆に、コイル51に電流が供給されない場合には、コイル51は磁場を発生することがなく、可動磁極53は、バネ54によって固定磁極52から遠ざかる方向に移動する。つまり、可動磁極53は、駆動軸線ADに沿って直線状に往復移動する。
【0034】
ソレノイド50Aは、コイル51に電流が供給されない状態であるとき、可動磁極53の突出長さは最長になる。コイル51に電流が供給されない場合には、可動磁極53にはバネ54から受ける付勢力が作用する。圧縮されているバネ54は、ハウジング55とフランジ56との間隔を広げようとする。従って、可動磁極53は、最も突出した状態となる。一方、コイル51に電流が供給されると、コイル51は磁場を発生させる。この磁場に応じて、可動磁極53が磁化する。その結果、磁化した可動磁極53は固定磁極52に引っ張られる。この引っ張り力は、バネ54の力よりも強いので、バネ54の力に抗して可動磁極53の突出長さは最短になる。
【0035】
ところで、遮蔽板21を動作させる観点からすると、ソレノイド50Aは、遮蔽板21を動作させる力を発生すればよい。つまり、遮蔽板21を動作させる観点からすると、コイル51に電流が供給されたときに発生する磁場の影響を考慮する必要はない。しかし、電子線EBの観点からすれば、電子の進行領域に磁場が存在すると、進行中の電子はローレンツ力を受けてしまう可能性がある。つまり、X線シャッタ10を動作させているときの電子の軌道は、X線シャッタ10を動作させていないときの電子の軌道に対して異なることが生じ得る。
【0036】
動作の一例として、X線シャッタ10は、突出長さが最長の場合に遮蔽状態であり、突出長さが最短の場合に照射状態であるとする。この場合には、コイル51に電流を供給しない場合に、遮蔽状態となり、コイル51に電流を供給した場合に照射状態となる。そうすると、遮蔽状態であるときは、コイル51が磁場を発生させないが、照射状態であるときはコイル51が磁場を発生させる。従って、照射状態であるときに電子線EBは磁場の影響を受ける可能性がある。
【0037】
動作の別の例として、X線シャッタ10は、突出長さが最長の場合に照射状態であり、突出長さが最短の場合に遮蔽状態であるとする。この場合には、コイル51に電流を供給しない場合に、照射状態となり、コイル51に電流を供給した場合に遮蔽状態となる。そうすると、照射状態であるときは、コイル51が磁場を発生させないが、遮蔽状態であるときはコイル51が磁場を発生させる。
【0038】
上記の動作の例示は、1個のソレノイド50Aに注目したものである。X線シャッタ10は、2個のソレノイド50A、50Bを有する。つまり、X線シャッタ10が動作するとき、一方のソレノイド50Aのコイル51に起因する磁場と、他方のソレノイド50Bのコイル51に起因する磁場と、が発生する。このときの磁場は、図6(a)に示す磁力線、又は、図6(b)に示す磁力線によって示される。これらの磁場の違いは、一方のソレノイド50Aのコイル51(第1コイル)が発生する磁場の向きと、他方のソレノイド50Bのコイル51(第2コイル)が発生する磁場の向きとの関係に起因する。なお、ソレノイド50A、50Bは、コイル51の他に、固定磁極52も磁場の発生源になり得る。そこで、ソレノイド50A、50Bを構成する部品が発生する磁場を総合して、ソレノイド50A、50Bが発生する磁場と称して説明する。
【0039】
図6(a)の磁力線によって示される磁場は、一方のソレノイド50Aの磁場の向きと他方のソレノイド50Bの磁場の向きとが同じであるときに生じる。例えば、電流が与えられたソレノイド50Aを磁石としてみたとき、一方のソレノイド50Aの端部50A1はN極であり、逆側の端部50A2はS極であるとする。また、電流が与えられた他方のソレノイド50Bを磁石としてみたとき、他方のソレノイド50Bの端部50B1はN極であり、逆側の端部50B2はS極であるとする。ソレノイド50Aにおいて、N極からS極へ向かう磁極方向SAは、他方のソレノイド50BのN極からS極へ向かう磁極方向SBと一致する。この構成によって生じる磁場を磁力線によって示したとき、一方のソレノイド50Aと他方のソレノイド50Bとの両方を通る磁力線は存在しない。
【0040】
図6(b)の磁力線によって示される磁場は、一方のソレノイド50Aの磁場の向きと他方のソレノイド50Bの磁場の向きとが逆であるときに生じる。このような状態は、ソレノイド50Aに供給する電流の向きとソレノイド50Bに供給する電流の向きとを互いに逆にすることにより実現できる。また、電流の方向は互いに同じであって、ソレノイド50Aのコイル51の巻き線方向と、ソレノイド50Bのコイル51の巻き線方向と、を互いに逆にすることによっても実現できる。例えば、電流が与えられたソレノイド50Aを磁石としてみたとき、一方のソレノイド50Aの端部50A1はN極であり、逆側の端部50A2はS極であるとする。逆向きの電流が与えられた他方のソレノイド50Bを磁石としてみたとき、他方のソレノイド50Bの端部50B1はS極であり、逆側の端部50B2はN極であるとする。一方のソレノイド50AにおけるN極からS極へ向かう磁極方向SA(第1磁極方向)は、他方のソレノイド50BにおけるN極からS極へ向かう磁極方向SB(第2磁極方向)と一致しない。換言すると、一方のソレノイド50Aの磁極方向SAは、他方のソレノイド50Bの磁極方向SBに対して逆向きである。この構成によって生じる磁場を磁力線によって示したとき、一方のソレノイド50Aと他方のソレノイド50Bとの両方を通る磁力線が存在する。
【0041】
図6(a)及び図6(b)に示す磁場の違いは、磁束密度の分布にも違いをもたらす。図7(a)は、図6(a)の磁力線によって示された磁場における磁束密度の分布を示す。コンター図である図7(a)において、間隔が広いハッチングは、相対的に磁束密度が高いことを示す。間隔が狭いハッチングは、相対的に磁束密度が低いことを示す。例えば、領域S2は磁束密度が最も高い領域である。領域S3は、磁束密度が最も低い領域である。
【0042】
図7(b)は、図6(b)の磁力線によって示された磁場における磁束密度の分布を示す。このコンター図からは、ソレノイド50Aとソレノイド50Bとに挟まれた領域S1に、比較的低い磁束密度の領域S3Aが形成されていることがわかる。この比較的低い磁束密度の領域を、「低磁束密度領域SL」と称する。低磁束密度領域SLは、比較的高い磁束密度の領域に囲まれている。また、ソレノイド50A、50Bから離れている領域S3からわかるように、磁束密度は、ソレノイド50A、50Bからの距離が大きくなるほど低くなることもわかる。しかし、ソレノイド50A、50Bから低磁束密度領域SLまでの距離は、ソレノイド50A、50Bから領域S3までの距離よりも短い。つまり、低磁束密度領域SLは、一方のソレノイド50Aの磁場と他方のソレノイド50Bの磁場との干渉によって生じたものであると考えられる。
【0043】
そこで、本発明者らは、この低磁束密度領域SLに注目した。つまり、ソレノイド50A、50Bを動作させたときにソレノイド50A、50Bの極性を互いに逆向きにすることによって、低磁束密度領域SLを発生させる。そして、低磁束密度領域SLに出射軸線AEを重複させる。そうすれば、電子線EBが受ける磁場の影響を抑制することができる。
【0044】
ソレノイド50A、50Bの極性は、コイル51に与える電流の向きによって決めることができる。ソレノイド50Aのコイル51の巻き線の方向と、ソレノイド50Bのコイル51の巻き線の方向と、が互いに同じであるとすれば、一方のソレノイド50Aに与える電流の向きを他方のソレノイド50Bに与える電流の向きに対して逆にすればよい。この場合、ソレノイド50Aの固定磁極52とソレノイド50Bの固定磁極52も、極性が互いに逆である。例えば、コイル51、可動磁極53及び固定磁極52をひとつの仮想的な磁石としてみなした場合にも、一方のソレノイド50Aにおける極性は、他方のソレノイド50Bの極性と逆であるといえる。
【0045】
ソレノイド50A、50Bは、互いに同じ構成を有しており、それぞれが発生する磁場も同様であるとすると、低磁束密度領域SLは、ソレノイド50A、50Bを結ぶ軸線の中央に形成される。従って、低磁束密度領域SLに出射軸線AEを重複させるためには、ソレノイド50A、50Bの位置と電子銃4の位置との相対的な関係が決まってしまう。例えば、図8に示すように、一方のソレノイド50Aの磁場の向きと他方のソレノイド50Bの磁場の向きとが同じであるときには、低磁束密度領域SLは生じない。出射軸線AEの周囲には、比較的高い磁束密度領域が形成されるので、電子銃4から出射された電子線EBは、強いローレンツ力を受ける。つまり、電子の進行経路は、偏向する。また、図9に示すように、一方のソレノイド50Aの磁場の向きと他方のソレノイド50Bの磁場の向きとが逆であるとき、ソレノイド50A、50Bの間に、ソレノイド50Aとソレノイド50Bとの両方を通る磁力線によって示される合成磁場FMが形成される。その磁力線によって示される合成磁場FMによれば、低磁束密度領域SLが形成される。しかし、低磁束密度領域SLが形成された場合でも、出射軸線AEが低磁束密度領域SLに重複しない場合には、電子銃4から出射された電子線EBは、強いローレンツ力を受ける。つまり、電子の進行経路は、偏向する。
【0046】
低磁束密度領域SLは、合成磁場FMの態様に応じて決まる。そこで、発明者らは、合成磁場FMを偏らせることによって、低磁束密度領域SLの位置を任意の位置に配置することに想到した。
【0047】
図10に示すように、X線シャッタ10は、磁気バイパス40(磁性部材)を有している。磁気バイパス40は、合成磁場FMを偏らせる。磁気バイパス40は、鉄などの透磁率の高い材料によって形成されている。例えば、磁気バイパス40は、円弧状の板部材である。磁気バイパス40の幅は、アクチュエータ30A、30Bの幅とおおむね同じである。磁気バイパス40の円弧の中心は、出射軸線AEと重複してもよい。磁気バイパス40によれば、一方のソレノイド50Aと他方のソレノイド50Bとの間に、空気よりも透磁率の高い領域を形成することができる。図10では、ソレノイド50Aからソレノイド50Bに向かう磁力線の多くが、透磁率の高い磁気バイパス40を通る様子を示している。磁気バイパス40を配置することによって、合成磁場FMに偏りが生じる。合成磁場FMの偏りに応じて、図11に示すように、低磁束密度領域SLの位置も偏る。磁気バイパス40によれば、低磁束密度領域SLを所望の位置に形成することができるので、ソレノイド50A、50Bの位置及び電子銃4との位置は、互いに独立して決めることが可能になる。その結果、図12に示すように、低磁束密度領域SLに出射軸線AEが重複するので、電子銃4から出射された電子は、磁場の影響を受けにくくなる。つまり、電子の進行経路の偏向が抑制される。
【0048】
要するに、X線モジュール100は、出射軸線AEに沿って電子線EBを出射する電子銃4と、磁場を発生させるソレノイド50A、50Bと、を備える。ソレノイド50A、50Bは、出射軸線AEと交差する配置方向Dに沿って互いに離間するように配置されている。電子銃4は、ソレノイド50A、50Bの間に出射軸線AEが位置するように配置されている。一方のソレノイド50Aの磁極方向SAは、他方のソレノイド50Bの磁極方向SBに対して平行である。配置方向Dから見て、磁極方向SA、SBは、出射軸線AEと交差する。磁極方向SAは、磁極方向SBに対して逆である。
【0049】
X線モジュール100では、磁極方向SAは、磁極方向SBに対して逆である。この構成によれば、一方のソレノイド50Aと他方のソレノイド50Bとの間に磁束密度が相対的に低い低磁束密度領域SLが形成される。その結果、低磁束密度領域SLに出射軸線AEを重複させると、電子銃4から出射される電子線EBがソレノイド50A、50Bの磁場から受ける影響が抑制される。従って、所望の位置に電子線EBを照射することができる。
【0050】
X線モジュール100の一方のソレノイド50A及び他方のソレノイド50Bの間には、合成磁場FMが発生する。X線モジュール100は、合成磁場FMの分布を偏らせる磁気バイパス40をさらに備える。この磁気バイパス40によれば、一方のソレノイド50Aの磁場及び他方のソレノイド50Bの磁場が互いに干渉して形成される合成磁場FMが偏る。低磁束密度領域SLは、合成磁場FMの分布に応じるから、合成磁場FMの偏りに応じて、低磁束密度領域SLが形成される位置が変化する。従って、低磁束密度領域SLを所望の位置に形成することが可能になる。
【0051】
X線モジュール100の磁気バイパス40は、一方のソレノイド50Aから他方のソレノイド50Bまで、板状の磁性材料により形成された平板部材である。この構成によれば、磁気バイパス40が透磁率の高い領域を形成するので、一方のソレノイド50A及び他方のソレノイド50Bの間に存在する磁力線の分布が偏る。従って、低磁束密度領域SLを所望の位置に形成することが可能になる。
【0052】
X線モジュール100のソレノイド50A、50Bは、コイル51と、可動磁極53と、を有する。この構成によれば、ソレノイド50A、50Bは、ソレノイド50Aとソレノイド50Bとの間に合成磁場FMを発生させるとともに、対象物を駆動するための力を発生させるアクチュエータとして機能する。
【0053】
X線モジュール100の可動磁極53には、出射軸線AEと重複可能な遮蔽板21が取り付けられている。一方のソレノイド50Aは、遮蔽板21が出射軸線AEと重複する遮蔽態様と、遮蔽板21が出射軸線AEと重複しない出射態様と、を可動磁極53の動作によって相互に切り替える。この構成によれば、電子銃4からの電子線EBを出射させた状態で、X線モジュール100からのX線の出射と遮蔽とを相互に切り替えることができる。
【0054】
<第2実施形態>
第1実施形態では、ソレノイド50A、50Bが発生する合成磁場FMを、磁気バイパス40によって偏向させた。磁場の偏向は、磁気バイパス40とは異なる構成によっても実現できる。図13に示すように第2実施形態のX線モジュール100Aは、X線シャッタ10Aを有する。第2実施形態のX線シャッタ10Aは、シャッタフレーム20と、アクチュエータ30A、30Bと、電磁石60(第3磁場発生部)と、を有する。シャッタフレーム20及びアクチュエータ30A、30Bは、第1実施形態と同様であるから詳細な説明は省略する。
【0055】
電磁石60は、ソレノイド50A、50Bの間に配置される。ここでいうソレノイド50A、50Bの間とは、ソレノイド50A、50Bに挟まれた領域S1に加えて、ソレノイド50A、50Bに挟まれない領域S4も含むものとする。さらに、電磁石60は、コイル軸線AC1、AC2に沿ってソレノイド50A、50Bから離間する。コイル軸線AC1、AC2に沿ったソレノイド50A、50Bから電磁石60までの距離は、適宜設定してよい。しかし、少なくとも、電磁石60とソレノイド50A、50Bに囲まれた領域に、出射軸線AEが配置される。電磁石60は、コイルを含む。電磁石60のコイル軸線AC3は、一方のソレノイド50Aのコイル軸線AC1に対して交差する。例えば、電磁石60のコイル軸線AC3は、一方のソレノイド50Aのコイル軸線AC1に対して垂直方向に延びる。一方のソレノイド50Aから他方のソレノイド50Bに向かう磁力線のうち、電磁石60を通る磁力線の数は、電磁石60のコイルに電流を与えたときと与えないときとで相違する。電磁石60のコイルに電流を与えると、電磁石60を通る磁力線の数が増える。磁力線の数は保存されるから、電磁石60を通る磁力線の数が増えることによって、磁場に偏りが生じる。
【0056】
電磁石60のコイルに与える電流が大きい場合、電磁石60を通る磁力線の数は多い。つまり、磁場の偏りは大きい。その結果、低磁束密度領域SLは、電磁石60に近い位置に形成される。電磁石60のコイルに与える電流が小さい場合、電磁石60を通る磁力線の数は少ない。つまり、磁場の偏りは小さい。その結果、低磁束密度領域SLは、電磁石60から遠い位置に形成される。要するに、電磁石60のコイルに与える電流の大きさによって、低磁束密度領域SLの位置を制御することができる。
【0057】
要するに、X線モジュール100Aの磁場偏向部は、ソレノイド50A、50Bからコイル軸線AC1、AC2の方向に離間すると共に、ソレノイド50A、50Bの間に配置された電磁石60である。この構成によれば、電磁石60の作用に応じて、ソレノイド50A、50Bの間に存在する磁力線のうち、電磁石60を通る磁力線の数を変化させることができる。その結果、合成磁場FMの偏りが生じるので、低磁束密度領域SLを所望の位置に形成することが可能になる。
【0058】
なお、第2実施形態のX線シャッタ10Aにおいて、他方のソレノイド50Bを、単なる電磁石に置き換えてもよい。つまり、この場合には、シャッタフレーム20を駆動する駆動源は、一方のソレノイド50Aだけである。1個のソレノイド50Aの駆動力で、所望のシャッタフレーム20の動作を実現できる場合には、X線シャッタ10Aは、1個のソレノイド50Aと、2個の電磁石によって構成されてもよい。
【0059】
要するにX線モジュール100Aは、第1磁場発生部として、コイル51と、可動磁極53と、を有するソレノイド50Aを有する。さらに、X線モジュール100Aは、第2磁場発生部として、コイルを含む電磁石を有する。この構成によれば、第1磁場発生部は、対象物を駆動するための力を発生させるアクチュエータとして機能する。
【0060】
<第3実施形態>
第1実施形態及び第2実施形態では、磁場を積極的に偏らせる構成を採用した。図14に示すように、第3実施形態のX線モジュール100Bは、ソレノイド50A、50B及び電子銃4の配置によって、低磁束密度領域SLに出射軸線AEを重複させる構成を採用する。つまり、第3実施形態のX線シャッタ10Bは、磁気バイパス40及び電磁石60を備えない。
【0061】
第3実施形態のX線シャッタ10Bは、シャッタフレーム20Bと、アクチュエータ30A、30Bと、を有する。アクチュエータ30A、30Bは、第1実施形態と同様であるから詳細な説明は省略する。第3実施形態のシャッタフレーム20Bは、第1実施形態のシャッタフレーム20に対して、連結部22bの形状が異なっている。第3実施形態における低磁束密度領域SLは、ソレノイド50A、50Bに挟まれた領域S1に形成される。そして、電子銃4も出射軸線AEの方向から見て、ソレノイド50A、50Bに挟まれた領域S1に形成される。従って、連結部22bも、ソレノイド50A、50Bに挟まれた領域S1に配置される部分を含む。
【0062】
第3実施形態の構成によれば、X線シャッタ10Bは、磁場偏向部としての磁気バイパス40及び電磁石60を備えない。従って、構成を簡易にできる。
【0063】
本発明は、上記の第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態に限定されない。
【0064】
<第1変形例>
例えば、図15(a)に示すように、第1変形例のX線モジュール100Cが備えるX線シャッタ10Cは、4個のソレノイド50A、50B、50C、50Dを有してもよい。追加される一方のソレノイド50Cのコイル軸線AC3は、一方のソレノイド50Aのコイル軸線AC1に重複する。この場合には、ソレノイド50A、50Cは、仮想的な1個の磁石としてみなすこともできる。同様に、追加される他方のソレノイド50Dのコイル軸線AC4は、他方のソレノイド50Bのコイル軸線AC2に重複する。この場合には、ソレノイド50B、50Dは、仮想的な1個の磁石としてみなすこともできる。そして、シャッタフレーム20Cは、4個のソレノイド50A、50B、50C、50Dのそれぞれに接続されている。第1変形例のX線シャッタ10Cによれば、4個のソレノイド50A、50B、50C、50Dによって、1個のシャッタフレーム20Cを駆動できる。
【0065】
<第2変形例>
例えば、図15(b)及び図15(c)に示すように、第2変形例のX線モジュール100Dが備えるX線シャッタ10Dも、4個のソレノイド50A、50B、50C、50Dを有する。第2変形例では、追加される一方のソレノイド50Cのコイル軸線AC3は、一方のソレノイド50Aのコイル軸線AC1に対して平行である。この場合において、一方のソレノイド50Aの磁場の向きと、追加する一方のソレノイド50Cの磁場の向きとは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。追加される他方のソレノイド50Dのコイル軸線AC3は、他方のソレノイド50Bのコイル軸線AC2に対して平行である。この場合においても、他方のソレノイド50Bの磁場の向きと、追加する他方のソレノイド50Dの磁場の向きとは、同じであってよいし、異なっていてもよい。
【0066】
図15(b)は、ソレノイド50Aの磁極方向SAとソレノイド50Cの磁極方向SCとが同じである。同様に、ソレノイド50Bの磁極方向SBとソレノイド50Dの磁極方向SCとも同じである。一方側のソレノイド50A、50Cの磁場の向きが互いに同じであり、他方側のソレノイド50B、50Dの磁場の向きが互いに同じであった場合にも、一方側のソレノイド50A、50Cの磁場の向きと、他方側のソレノイド50B、50Dの磁場の向きとの関係は、逆である。
【0067】
また、図15(c)に示すように、ソレノイド50Aの磁極方向SAとソレノイド50Cの磁極方向SCとが互いに逆である。同様に、ソレノイド50Bの磁極方向SBとソレノイド50Dの磁極方向SCとは互いに逆である。一方側のソレノイド50A、50Cの磁場の向きが互いに逆であり、他方側のソレノイド50B、50Dの磁場の向きが互いに逆であった場合には、内側に配置されたソレノイド50A、50Bの磁場の向きは互いに逆である。同様に、外側に配置されたソレノイド50C、50Dの磁場の向きも互いに逆である。
【0068】
なお、追加されたソレノイド50C、50Dには、図15(b)に示すようにシャッタフレーム20が接続されていてもよいし、図15(c)に示すように接続されていなくてもよい。
【0069】
<第3変形例>
第1実施形態のX線シャッタ10は、1個の磁気バイパス40を有していた。X線シャッタ10が有する磁気バイパス40の数は、1個に限定されない。図16に示すように第3変形例のX線モジュール100EのX線シャッタ10Eは、2個の磁気バイパス40A、40Bを有する。追加される磁気バイパス40Bは、一方のソレノイド50Aの固定磁極52を他方のソレノイド50Bの固定磁極52に連結するように配置される。また、追加される磁気バイパス40Bの平面形状は、磁気バイパス40Aの平面形状とは相違する。図16の例示では、追加される磁気バイパス40Bの幅は、磁気バイパス40Aの幅よりも狭い。つまり、追加される磁気バイパス40Bが形成する高透磁率の領域は、磁気バイパス40Aが形成する高透磁率の領域と異なる。追加される磁気バイパス40Bが低磁束密度領域SLを移動させる方向は、磁気バイパス40Aが低磁束密度領域SLを移動させる方向に対して逆向きである。従って、2個の磁気バイパス40A、40Bによって、低磁束密度領域SLの位置をより精密に設定することが可能になる。
【0070】
上記の実施形態及び変形例では、駆動の対象としてシャッタフレーム20を例示した。駆動の対象は、シャッタフレーム20に限定されない。磁場発生部によって発生する力は、X線モジュール100の所望の動作に要する様々な部品の物理的な駆動に用いてよい。また、上記の実施形態及び変形例では、X線モジュール100を例示したが、X線管110に変えて電子線EBをそのまま取り出す電子線源を用いた電子線モジュールに用いてよい。
【符号の説明】
【0071】
1…真空筐体、2…絶縁バルブ、3…金属筐体、4…電子銃(荷電粒子線源)、10…X線シャッタ、20…シャッタフレーム、21…遮蔽板、22…遮蔽梁、30A,30B…アクチュエータ、31A,31B…磁気シールド、40…磁気バイパス(磁性部材)、50A,50B…ソレノイド、51…コイル、52…固定磁極、53…可動磁極、60…電磁石、100…X線モジュール(荷電粒子線発生装置)、AC…コイル軸線、AE…出射軸線、D…配置方向、EB…電子線、FM…合成磁場、SL…低磁束密度領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16