(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】電子制御装置
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20241114BHJP
H05K 5/04 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
H05K9/00 C
H05K5/04
(21)【出願番号】P 2021084453
(22)【出願日】2021-05-19
【審査請求日】2024-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】方田 勲
(72)【発明者】
【氏名】遠山 仁博
(72)【発明者】
【氏名】市川 英司
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-129441(JP,A)
【文献】特開平05-291967(JP,A)
【文献】実開平01-139492(JP,U)
【文献】特開平07-212074(JP,A)
【文献】特開2019-106404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 5/04
H05K 7/14
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部機器に接続するための複数のコネクタを有した回路基板と、
前記回路基板を内部に格納する導電性材料で構成された筐体と、を備える電子制御装置であって、
前記筐体は、前記コネクタに対応する開口部を有し、
前記筐体を構成する第1筐体部品または第2筐体部品の少なくともいずれか一方は、前記開口部を複数の前記コネクタ毎にそれぞれ仕切るための櫛刃形状部を有
し、
前記第1筐体部品または前記第2筐体部品の一方における前記櫛刃形状部は、先端が前記筐体内部方向に折り返された折り返し部を有し、
前記折り返し部は、ねじ止め固定によって前記回路基板上のGNDパターンと接触し、
前記第1筐体部品と前記第2筐体部品とは、前記ねじを介して前記GNDパターンと電気的に接続される
電子制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電子制御装置において、
前記第1筐体部品または前記第2筐体部品のどちらか一方は、他方の筐体部品に向かって突出させた突起部を有し、
前記突起部は、前記回路基板上のGNDパターンおよび他方の筐体部品と、誘電体を間に介して電気的に接続される
電子制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高度な自動運転において、複雑な運転動作、例えば一般道での急な車両の割り込みに対応するために、多数の外界認識用センサを必要とする。このため、自動運転ECU(Electronic Control Unit)は、多数の外界認識用センサから送られてくる大容量の情報を高速に処理し、刻一刻と変化する周囲の環境に運転制御を追従させる必要がある。こうした背景から、外界認識用センサと自動運転ECU間の通信においては、従来よりも高周波帯域(GHz帯)を使用した通信が複数チャネル必要となっているが、これに伴い、同周波数帯域での外来電磁ノイズ耐性の確保が課題となっている。
【0003】
本願発明の背景技術として、下記の特許文献1では、複数の外部機器が接続される電子機器の外来ノイズ耐性向上に有効な技術として、ケーブルを貫通させるための開口部を有する筐体と、ブラシ状に構成されて前記開口部を塞ぐ導電性のワイヤを有する電磁波遮断部材を備えることを特徴とする電子機器収納筐体の電磁波シールド構造によって、外来ノイズ耐性を向上させる手段が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、電子機器を筐体内に格納している為、あらかじめ電子機器にコネクタを接続しなければならず、電磁波シールド構造を有する電子機器収納筐体を開閉しなければコネクタの挿抜が困難である。また、外来ノイズから電子機器を保護するために、電子機器とは別にシールド用筐体を導入する必要があるため、コストが増加する恐れがある。これを鑑みて、本発明は、低コスト化とノイズ耐性の向上とを両立させた電子制御装置を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電子制御装置は、外部機器に接続するための複数のコネクタを有した回路基板と、前記回路基板を内部に格納する導電性材料で構成された筐体と、を備える電子制御装置であって、前記筐体は、前記コネクタに対応する開口部を有し、前記筐体を構成する第1筐体部品または第2筐体部品の少なくともいずれか一方は、前記開口部を複数の前記コネクタ毎にそれぞれ仕切るための櫛刃形状部を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低コスト化とノイズ耐性の向上とを両立させた電子制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の電子制御装置の第1の実施形態の外観斜視図
【
図2】
図1に示した電子制御装置のA-A’線断面図
【
図3】
図1に示した電子制御装置のB-B’線断面図
【
図7】本発明の電子制御装置の第5の実施形態におけるA-A’断面図
【
図8】本発明の電子制御装置の第5の実施形態におけるB-B’断面図
【
図9】ノイズ耐性試験時の本発明の通信エラー発生率低減効果を示すグラフ
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0010】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0011】
(本発明の第1の実施形態とそれを備える装置の全体構成)
【0012】
図1は、本発明の電子制御装置の第1の実施形態の外観斜視図であり、
図2は、
図1に示した電子制御装置のA-A’線断面図である。
図3は、
図1に示した電子制御装置のB-B’線断面図である。
【0013】
図1の電子制御装置100は、上部筐体1と下部筐体2を有する。筐体1および2は、電磁シールド性能確保の観点から、アルミニウム等の金属材料により形成される。また、筐体1および2は、鉄などの板金材、あるいは導電性樹脂材料等のシールド性能を確保可能な非金属材料等により形成されることもでき、これにより低コスト化および軽量化を図ることができる。
【0014】
筐体1および2内には、複数の外部機器接続用コネクタ4が実装された回路基板3が格納され、筐体1および2の外部機器接続コネクタ4の実装部には開口部1aが設けられている。筐体1は、開口部1aをコネクタ4毎にそれぞれ仕切る櫛刃状のシールド構造5(櫛刃形状部)を有している。なお、シールド構造5は、筐体1ではなく筐体2に設けてもよく、また、筐体1および筐体2の両方にシールド構造5を設けて、それぞれのシールド構造5の先端を合わせることで、開口部1aを形成する構造でもよい。
図2の信号配線6は、外部機器接続用コネクタ4とIC7を接続している。
【0015】
電子制御装置100を含む車載電子機器は、出荷時にノイズ耐性を保証するため、複数のノイズ耐性試験を行う。この試験の内、継続的な狭帯域のノイズ(電界)を、ケーブルまたは電子機器本体に直接照射し、その際の電子機器の動作状態や通信状態を評価する試験がある。なお、高速伝送のために、ケーブルには同軸ケーブルを採用しており、差動伝送等の伝送方式よりも配線空間・重量削減やスキュー補償(複数の信号間の時間のズレの補償)が不要になる。
【0016】
いま、電子制御装置100にノイズを照射すると、主に外部機器接続用コネクタ4が配置されている開口部1aから筐体内部へノイズが侵入する。次に、筐体内に侵入したノイズは、外部機器接続用コネクタ4、信号配線6、IC7に直接結合し、各要素にてノイズ電圧を誘起する。このノイズ電圧が、IC7の許容値を超過することで、信号伝送が阻害される。したがって、筐体の開口部1aで外来ノイズを低減することが重要である。
【0017】
開口部1aでのノイズ低減に有効な手段として、開口部1aの分割が挙げられる。一般に、同一の総開口面積であれば、多数の開口部1aに分割することで、シールド効果が高まることが知られており、典型例として、放熱のための換気用の開口部に金属メッシュを付加する事例は、多数の製品で採用されている。
【0018】
また、従来では、筐体内に侵入するノイズのλ/2、λ/4(λはノイズの波長)と、筐体開口部1aの長辺および短辺の長さと、が近づくと、開口部1aでノイズが共振し、新たな放射源となる恐れもある。しかし本実施形態のように、開口部1aの分割によって、開口部1aの共振周波数を高周波側にシフトできるため、共振を抑制できる。
【0019】
また、開口部1aは、櫛刃形状のシールド構造5により開口面積を縮小し、筐体内へのノイズ侵入量を低減している。こうすることで、低コストにシールド効果を高めることができる。本実施形態によるシールド効果は、
図9のグラフに示す。
図9は、複数の外部機器接続用コネクタ4が複数配置されている電子制御装置100を用意し、ノイズ耐性試験(電界照射試験)を実施した。この時の高速通信エラー発生回数を、筐体開口部1aの分割の有無で比較している。
図9に示す通り、本発明により、通信エラー発生回数の低減を実現できている。
【0020】
以降に説明する第2~第5の実施形態は、第1の実施形態と併用することで、第1の実施形態を単独で使用する場合よりも、開口部1aのシールド効果を高めることができる。
【0021】
(第2の実施形態)
図4は
図1のB-B’断面において、筐体一体型シールド構造5の一部を変形した第2の実施形態を示している。
【0022】
本実施形態は、上部筐体1に筐体一体型シールド構造5の一部を曲げた屈曲部8を有している。これにより、上部筐体1と下部筐体2とを組み上げた際に、接続部分についてシールド構造5が下部筐体2に対する板ばねとして機能している。また、上部筐体1が屈曲部8を介して下部筐体2と電気的に接触している。
【0023】
両者が電気的に接触していない第1の実施形態と比べると約10%~20%のシールド性能が向上し、外来電磁ノイズによる通信エラー発生回数の低減が可能である。原理的には、異なる2つの金属間で電位差が生じる場合に金属間に電界(今回の場合はノイズと同意)が存在するが、両金属を電気的に接触させることで同電位となり、電界も存在しない状態となる。この原理から、屈曲部8と下部筐体2を接触させ、櫛歯状シールド構造5を接地させて屈曲部8と下部筐体2を同電位にすることで、開口部1aのシールド性能の向上を実現し、ノイズ耐性を向上させることができる。
【0024】
なお、上部筐体1ではなく下部筐体2にシールド構造5を設けた場合も屈曲部8を有することで同様の効果を奏することができる。また、上部筐体1および下部筐体2にシールド構造5を設けた場合もどちらかの筐体のシールド構造5に屈曲部8があることで同様の効果を奏することができる。
【0025】
(第3の実施形態)
図5は
図1のB-B’線断面において、筐体一体型シールド構造5および下部筐体2の一部を変形した第3の実施形態を示している。
【0026】
本実施形態は、筐体一体型シールド構造5の一部に鈎状部9を形成し、鈎状部9の先端の鈎部分が下部筐体2の鈎状部受け部9aに引っかかるようにすることを特徴とする。上部筐体1と下部筐体2を組み上げた際に、鈎状部9が鈎状部受け部9aに引っかかり互いに噛み合うことで、上部筐体1と下部筐体2を電気的に接続させることができる。これにより、第2の実施形態と同様に、開口部1aのシールド性能を向上させる効果がある。
【0027】
なお、上部筐体1ではなく下部筐体2に鈎状部9を設け、上部筐体1に鈎状部受け部9aを設けた場合も同様の効果を奏することができる。また、上部筐体1および下部筐体2にシールド構造5を設けた場合も、どちらか一方のシールド構造5の先端を鈎状部9にもう一方の先端を鈎状部受け部9aとすることで、同様の効果を奏することができる。
【0028】
(第4の実施形態)
図6は
図1のB-B’線断面において、筐体一体型シールド構造5および下部筐体2の一部を変形した第4の実施形態を示している。
【0029】
図6は、回路基板3がGNDパターン11を表層および最下層に有することを前提とする実施形態で、筐体一体型シールド構造5の一部の形状を筐体内部方向へ折り返した折り返し部10が形成される。この折り返し部10に設けられたねじ穴にねじ12が挿入されてGNDパターン11と共に貫通し、ねじ固定部13に到達することで、筐体1および2と、基板3とがねじ止めされる。これにより、上部筐体1および下部筐体2は、ねじ12を介してGNDパターン11に電気的に接続されている。
【0030】
なお、ねじ切りした穴を有するねじ固定部13は、シールド性能をさらに高めるためのものであり、これにより、下部筐体2とGNDパターン11間を接触させているが、下部筐体2の形状を変更することがないもので、例えば、ボルト等の部品による固定で代用してもよい。本実施形態では、ねじ止めによって、上部筐体1とGND11との間を接続して両者を同電位にすることで、シールド性能の向上を実現できる。
【0031】
(第5の実施形態)
図7は
図1のA-A’線断面図、
図8は
図1のB-B’線断面において、下部筐体2の一部を変形した第5の実施形態を示している。
【0032】
本実施形態は、下部筐体2に筐体突起部15を設け、GNDパターン11または上部筐体1と接続しているが、その間に誘電体材料14(放熱グリスやFIPG(Formed In Place Gasket)等)を挿入することを特徴としている。また、突起部15が下部筐体2から上部筐体1に向かって突出させていることで、筐体内の分割をしている。
【0033】
第1の実施形態で説明したように、筐体一体型シールド構造5による筐体開口部1aの分割に加え、本実施形態のように筐体内でも空間を分割し、かつ下部筐体2と基板GND11との間の電気的な接続、および下部筐体2と上部筐体1との間を電気的に接続(誘電体材料14による交流的な接触)させている。こうすることで、上部筐体1と下部筐体2の電位差をなくし(コンデンサと同等の役割)、筐体開口面積縮小によるノイズ耐性向上による開口部1aのシールド性能の向上を実現できる。
【0034】
また、第4の実施形態と本実施形態を併用する場合、筐体振動時に屈曲部8と下部筐体2の間の接触点で金属屑が発生する恐れがあるが、金属屑の筐体内への侵入を突起部15によって抑制する副次的な効果も得られる。
【0035】
なお、本実施形態では誘電体材料14により金属同士を電気的に接触させているが、コストや設計制約を勘案し、誘電体材料14を抜いて金属同士を直接接触させた構成としてもよい。また、
図8において、上部筐体1ではなく下部筐体2側に誘電体材料14を設けるようにしてもよい。
【0036】
以上説明した本発明の第1の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0037】
(1)電子制御装置100は、外部機器に接続するための複数のコネクタ4を有した回路基板3と、回路基板3を内部に格納する導電性材料で構成された筐体と、を備える。筐体は、コネクタ4に対応する開口部1aを有し、筐体を構成する第1筐体部品1または第2筐体部品2の少なくともいずれか一方は、開口部1aを複数のコネクタ4毎にそれぞれ仕切るための櫛刃形状部5を有する。このようにしたことで、低コスト化とノイズ耐性の向上とを両立させた電子制御装置100を提供できる。
【0038】
(2)第1筐体部品1または第2筐体部品2の一方における櫛刃形状部5は、先端が屈曲しており、第1筐体部品1と第2筐体部品2とは、屈曲部分8を介して電気的に接触する。このようにしたことで、第1筐体部品1と第2筐体部品2とが同電位になり、開口部1aのシールド性能の向上を実現し、ノイズ耐性を向上させる。
【0039】
(3)第1筐体部品1または第2筐体部品2の一方における櫛刃形状部5は、その先端に鈎状に形成された鈎状部分9を有し、第1筐体部品1または第2筐体部品2の他方は、鈎状部分9に対応した鈎状受け部9aを有し、第1筐体部品1と第2筐体部品2とは、鈎状部分9と鈎状部受け部9aが互いに噛み合うことで電気的に接続される。このようにしたことで、開口部1aのシールド性能を向上させる。
【0040】
(4)第1筐体部品1または第2筐体部品2の一方における櫛刃形状部5は、先端が筐体内部方向に折り返された折り返し部10を有し、折り返し部10は、ねじ止め固定によって回路基板3上のGNDパターンと接触し、第1筐体部品1と第2筐体部品2とは、ねじ12を介してGNDパターンと電気的に接続される。このようにしたことで、上部筐体1とGND11との間を接続して両者を同電位にすることで、シールド性能の向上を実現できる。
【0041】
(5)第1筐体部品1または第2筐体部品2のどちらか一方は、他方の筐体部品に向かって突出させた突起部15を有し、突起部15は、回路基板3上のGNDパターンおよび他方の筐体部品と、誘電体14を間に介して電気的に接続される。このようにしたことで、上部筐体1と下部筐体2の電位差をなくし、筐体開口面積縮小によるノイズ耐性向上による開口部1aのシールド性能の向上を実現できる。
【0042】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や他の構成を組み合わせることができる。また本発明は、上記の実施形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。
【符号の説明】
【0043】
100…電子制御装置
1…上部筐体
1a…開口部
2…下部筐体
3…回路基板
4…外部機器接続用コネクタ
5…筐体一体型シールド構造(櫛刃形状部)
6…信号配線
7…IC
8…筐体一体型シールド構造の屈曲部
9…筐体一体型シールド構造の鈎状部
9a…鈎状部受け部
10…筐体一体型シールド構造の折り返し部
11…回路基板上のGNDパターン
12…ねじ
13…ねじ固定部
14…誘電体材料
15…筐体突起部