(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】ガラス及び水素を製造するプラント、及びガラス及び水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 5/237 20060101AFI20241114BHJP
C01B 3/38 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C03B5/237
C01B3/38
(21)【出願番号】P 2021086644
(22)【出願日】2021-05-24
【審査請求日】2024-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000222222
【氏名又は名称】東洋ガラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東條 誠司
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05714132(US,A)
【文献】特開2012-001392(JP,A)
【文献】特表2018-531873(JP,A)
【文献】特表2020-508951(JP,A)
【文献】特表2016-530187(JP,A)
【文献】特開2008-030965(JP,A)
【文献】特開2003-002609(JP,A)
【文献】特開昭48-049666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/00 - 5/44
C01B 3/00 - 3/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス及び水素を製造するプラントであって、
燃料の燃焼熱によってガラス原料を溶解させ、溶融ガラスを生成するガラス溶解炉と、
前記ガラス溶解炉から延び、前記ガラス溶解炉において発生した排気が通過する排気通路と、
前記排気通路に設けられた水蒸気改質装置と、
前記排気通路において前記水蒸気改質装置より下流に設けられたボイラーとを有し、
前記水蒸気改質装置は、前記排気が内部を通過するハウジングと、前記ハウジングの前記内部に配置され、水蒸気及び炭化水素が供給される複数の反応管とを有し、
前記ボイラーは、前記排気を熱源として使用することによって
前記水蒸気を生成し、
前記水蒸気改質装置は、前記排気を熱源として使用することによって前記ボイラーから供給される前記水蒸気と
前記炭化水素とを反応させて水素を生成するプラント。
【請求項2】
前記反応管の外面は、Cr、Si、及びAlの少なくとも1つを含む酸化物被膜を有する請求項1に記載のプラント。
【請求項3】
前記反応管は、ステンレス鋼、又はクロムモリブデン鋼によって形成されている請求項2に記載のプラント。
【請求項4】
前記水蒸気改質装置は、前記反応管の前記外面に付着するダストを除去するためのダスト除去装置を有する請求項2又は3に記載のプラント。
【請求項5】
前記ダスト除去装置は、前記反応管の前記外面に向けて圧縮空気及び高圧水蒸気の少なくとも一方を噴射するブロー装置を含む請求項4に記載のプラント。
【請求項6】
前記水蒸気改質装置の生成物が供給されると共に、前記生成物中に含まれる一酸化炭素と水蒸気との反応によって水素を生成する水性ガスシフト反応装置が設けられている請求項1~5のいずれか1つの項に記載のプラント。
【請求項7】
前記ガラス溶解炉は、前記燃料を酸素濃度が90容量%以上の支燃ガスと共に燃焼させる酸素燃焼バーナを有する請求項1~6のいずれか1つの項に記載のプラント。
【請求項8】
前記ガラス溶解炉は、前記燃料を空気と共に燃焼させる空気燃焼バーナを有する請求項1~6のいずれか1つの項に記載のプラント。
【請求項9】
前記燃料はメタンを主成分とする混合ガスであり、前記混合ガスの一部が前記水蒸気改質装置に前記炭化水素として供給される請求項1~8のいずれか1つの項に記載のプラント。
【請求項10】
前記排気通路において、前記ボイラーの下流には前記排気に水酸化ナトリウム水溶液を噴霧することによって、前記排気中の二酸化炭素と水酸化ナトリウムとを反応させて炭酸ナトリウムを主成分とした粉体を生成させる水酸化ナトリウム噴霧装置が設けられている請求項1~9のいずれか1つの項に記載のプラント。
【請求項11】
前記排気通路において、前記水酸化ナトリウム噴霧装置の下流には前記排気中の前記粉体を収集する集塵機が設けられている請求項10に記載のプラント。
【請求項12】
前記ガラス溶解炉は、前記集塵機において収集された前記粉体を前記ガラス原料の一部として使用する請求項11に記載のプラント。
【請求項13】
ガラス及び水素の製造方法であって、
燃料の燃焼熱によって原料を溶解させ、溶融ガラスを生成する溶解工程と、
前記溶解工程において発生した排気を熱源として利用して炭化水素と水蒸気とを反応させて水素を生成する水蒸気改質工程と、
前記水蒸気改質工程において冷却された前記排気を熱源として利用して、前記水蒸気改質工程に供給する前記水蒸気を生成する水蒸気生成工程とを有
し、
前記水蒸気改質工程は、水蒸気改質装置によって行われ、
前記水蒸気改質装置は、前記排気が内部を通過するハウジングと、前記ハウジングの前記内部に配置され、前記水蒸気及び前記炭化水素が供給される複数の反応管とを有するガラス及び水素の製造方法。
【請求項14】
前記水蒸気生成工程において冷却された前記排気に水酸化ナトリウム水溶液を噴霧する水酸化ナトリウム水溶液噴霧工程と、
前記水酸化ナトリウム水溶液が噴霧された排気から粉体を除去する集塵工程とを有する請求項13に記載のガラス及び水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス及び水素を製造するプラント、及びガラス及び水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているように、ガラス製造プラントは、ガラス溶解炉と、第1蓄熱室と、第2蓄熱室とを有する。第1蓄熱室及び第2蓄熱室は、熱を蓄える多量の煉瓦を内部に有する。ガラス製造プラントは、第1モードにおいて、第1蓄熱室を介して空気をガラス溶解炉に取り込み、ガラス溶解炉において燃料を燃焼させて原料を溶解させ、第2蓄熱室を介して排気を外部に排出する。一方、ガラス製造プラントは、第2モードにおいて、第2蓄熱室を介して空気をガラス溶解炉に取り込み、ガラス溶解炉において燃料を燃焼させて原料を溶解させ、第1蓄熱室を介して排気を外部に排出する。ガラス製造プラントは、第1モードと第2モードとを所定期間毎に繰り返すことによって、排気に含まれる熱エネルギーを第1蓄熱室及び第2蓄熱室に蓄え、ガラス溶解炉に供給する空気を加熱する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガラス製造プラントは定期的に大規模な改修工事を行う必要がある。工事では、蓄熱室の煉瓦が改修され、古い煉瓦は大量の廃棄物になるという問題がある。またガラス溶解炉において酸素富化燃焼が行われる場合には、酸素濃度が高い支燃ガスを高温にすると火災や爆発事故などのリスクが高まるため、排気に含まれる熱を有効利用できないという問題がある。
【0005】
本発明は、以上の背景に鑑み、環境負荷を低減することができるプラント、及びガラス及び水素の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は、ガラス及び水素を製造するプラント(1)であって、燃料の燃焼熱によってガラス原料を溶解させ、溶融ガラス(12)を生成するガラス溶解炉(2)と、前記ガラス溶解炉から延び、前記ガラス溶解炉において発生した排気が通過する排気通路(3)と、前記排気通路に設けられた水蒸気改質装置(4)と、前記排気通路において前記水蒸気改質装置より下流に設けられたボイラー(5)とを有し、前記ボイラーは、前記排気を熱源として使用することによって水蒸気を生成し、前記水蒸気改質装置は、前記排気を熱源として使用することによって前記ボイラーから供給される前記水蒸気と炭化水素とを反応させて水素を生成する。
【0007】
この態様によれば、ガラス溶解炉において発生する排気の熱を利用して、炭化水素の水蒸気改質を行うことができる。また、大量の煉瓦によって形成される蓄熱室を利用しないため、プラントの改修時等に発生する廃棄物を低減することができる。以上より、環境負荷を低減することができるプラントを提供することができる。
【0008】
上記の態様において、前記水蒸気改質装置は、前記排気が内部を通過するハウジングと、前記ハウジングの前記内部に配置され、前記水蒸気及び前記炭化水素が供給される複数の反応管(32)とを有し、前記反応管の外面は、Cr、Si、及びAlの少なくとも1つを含む酸化物被膜を有しても良い。
【0009】
この態様によれば、排気中に含まれる硫黄酸化物、水蒸気、酸素、ナトリウムガス、及びガラス原料由来のダスト等による反応管の腐食を抑制することができる。
【0010】
上記の態様において、前記反応管は、ステンレス鋼、又はクロムモリブデン鋼によって形成されても良い。
【0011】
この態様によれば、排気中に含まれる硫黄酸化物、水蒸気、酸素、ナトリウムガス、及びガラス原料由来のダスト等による反応管の腐食を抑制することができる。
【0012】
上記の態様において、前記水蒸気改質装置は、前記反応管の前記外面に付着するダストを除去するためのダスト除去装置(42)を有しても良い。
【0013】
この態様によれば、反応管の外面に付着するダストを除去することができる。これにより、排気から反応管に伝達される熱量の低下、及び水蒸気改質装置の内部の閉塞を抑制することができる。
【0014】
上記の態様において、前記ダスト除去装置は、前記反応管の前記外面に向けて圧縮空気及び高圧水蒸気の少なくとも一方を噴射するブロー装置を含んでも良い。
【0015】
この態様によれば、高温環境下において適切にダストを除去することができる。
【0016】
上記の態様において、前記水蒸気改質装置の生成物が供給されると共に、前記生成物中に含まれる一酸化炭素と水蒸気との反応によって水素を生成する水性ガスシフト反応装置(41)が設けられても良い。
【0017】
この態様によれば、水素の収率を増加させることができる。
【0018】
上記の態様において、前記ガラス溶解炉は、前記燃料を酸素濃度が90容量%以上の支燃ガスと共に燃焼させる酸素燃焼バーナ(14)を有しても良い。
【0019】
この態様によれば、ガラス溶解炉での燃料の燃焼に空気を必要としないため、窒素酸化物の発生を抑制することができる。また、空気を使用しない場合は、空気を使用した場合に比べて火炎の温度が高温になるため、ガラスへの熱伝達効率が向上する。
【0020】
上記の態様において、前記ガラス溶解炉は、前記燃料を空気と共に燃焼させる空気燃焼バーナを有しても良い。
【0021】
上記の態様において、前記燃料はメタンを主成分とする混合ガスであり、前記混合ガスの一部が前記水蒸気改質装置に前記炭化水素として供給されても良い。
【0022】
この態様によれば、ガラス溶解炉で使用する燃料と、水素を生成するための原料とを共通化して、プラントを簡素化することができる。
【0023】
上記の態様において、前記排気通路において、前記ボイラーの下流には前記排気に水酸化ナトリウム水溶液を噴霧することによって、前記排気中の二酸化炭素と水酸化ナトリウムとを反応させて炭酸ナトリウムを主成分とした粉体を生成させる水酸化ナトリウム噴霧装置(23)が設けられても良い。
【0024】
この態様によれば、大気中に放出される排気中の二酸化炭素排出量を低減することができる。
【0025】
上記の態様において、前記排気通路において、前記水酸化ナトリウム噴霧装置の下流には前記排気中の前記粉体を収集する集塵機(24)が設けられても良い。
【0026】
この態様によれば、排気中の二酸化炭素から生成された炭酸ナトリウムを回収することができる。
【0027】
上記の態様において、前記ガラス溶解炉は、前記集塵機において収集された前記粉体を前記ガラス原料の一部として使用しても良い。
【0028】
この態様によれば、排気中の二酸化炭素から生成された炭酸ナトリウムを原料として再利用することによって、ガラス製造時に発生する二酸化炭素の一部を循環させることができるため、大気中への二酸化炭素の排出量を低減することができる。
【0029】
本発明の他の態様は、ガラス及び水素の製造方法であって、燃料の燃焼熱によって原料を溶解させ、溶融ガラスを生成する溶解工程と、前記溶解工程において発生した排気を熱源として利用して炭化水素と水蒸気とを反応させて水素を生成する水蒸気改質工程と、前記水蒸気改質工程において冷却された前記排気を熱源として利用して、前記水蒸気改質工程に供給する前記水蒸気を生成する水蒸気生成工程とを有する。
【0030】
この態様によれば、ガラスを溶解させるために発生した排気の熱を利用して、炭化水素の水蒸気改質を行うことができる。これにより、従来の炭化水素水蒸気改質による水素製造方法と比較すると、水素製造時の燃料使用量を大幅に低減することができる。また、煉瓦によって形成される蓄熱室を利用しないため、プラントの改修時等に発生する廃棄物を低減することができる。以上より、環境負荷を低減することができるガラス及び水素の製造方法を提供することができる。
【0031】
上記の態様において、前記水蒸気生成工程において冷却された前記排気に水酸化ナトリウム水溶液を噴霧する水酸化ナトリウム水溶液噴霧工程と、前記水酸化ナトリウム水溶液が噴霧された排気から粉体を除去する集塵工程とを有しても良い。
【0032】
この態様によれば、大気中に放出される排気中の二酸化炭素排出量を低減することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、環境負荷を低減することができるプラント、及びガラス及び水素の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に示すように、実施形態に係るガラス及び水素を製造するプラント1は、ガラス溶解炉2と、排気通路3と、水蒸気改質装置4と、ボイラー5とを有する。
【0036】
ガラス溶解炉2は、燃料の燃焼熱によってガラス原料を溶解させ、溶融ガラスを生成する。ガラス原料は、珪砂、ソーダ灰、石灰等を含む公知の原料である。
図2に示すように、ガラス溶解炉2は、溶解室7を画定する底壁8、側壁9、及び天井11を有する。ガラス溶解炉2は、ガラス原料が投入される原料投入口から溶融ガラスを排出するガラス排出口に水平方向に延びている。溶解室7の底部には、溶融ガラス12が貯留されている。
【0037】
側壁9には、燃料を燃焼させるための複数のバーナ14が設けられている。燃料は、メタンを主成分とする混合ガスである天然ガス、プロパン又はブタン等を主成分とする液化石油ガス、水素ガス等の気体燃料、又は重油、軽油、石油等の液体燃料であってよい。バーナ14は、加圧された燃料及び支燃ガスを混合して溶解室7内に放出する。支燃ガスは、酸素ガス、又は空気であってよい。本実施形態では、燃料が天然ガスであり、支燃ガスが酸素ガスであり、バーナ14が酸素燃焼バーナである。バーナ14は、天然ガス供給源及び酸素ガス供給源に配管によって接続されている。
【0038】
側壁9には各バーナ14を取り付けるためのバーナ孔19が形成されている。バーナ14は、燃焼室内に燃料及び支燃ガスを噴射する。バーナ14は、溶融ガラス12及びガラス原料の上方において、燃料及び支燃ガスを水平方向、又は水平方向に対してやや上方に向けて噴射するとよい。他の実施形態では、各バーナ14が天井11に設けられ、各バーナ14が燃料及び支燃ガスを下方に向けて噴射してもよい。各バーナ14から噴射された燃料及び支燃ガスは燃焼し、火炎を形成する。燃料の燃焼熱によってガラス原料が溶解して溶融ガラス12が生成される。また、燃料の燃焼によって、排気が生成される。
【0039】
側壁9には、排気ポート21が形成されている。排気ポート21には、排気通路3が接続されている。排気通路3は、ガラス溶解炉2から延び、ガラス溶解炉2において発生した排気が通過する。
【0040】
図1に示すように、排気通路3には、ガラス溶解炉2側から順に水蒸気改質装置4、ボイラー5、水酸化ナトリウム噴霧装置23、集塵機24、及び煙突25が設けられている。
【0041】
ボイラー5は、排気を熱源として使用することによって水を沸騰させて水蒸気を発生させる。水蒸気改質装置4は、排気を熱源として使用することによってボイラー5から供給される水蒸気と炭化水素とを反応させて水素を生成する。水蒸気改質装置4に供給される炭化水素は、メタン、プロパン、ブタン等を主成分とする低級炭化水素であるとよい。水蒸気改質装置4に供給される炭化水素は、バーナ14に供給される燃料の一部であってもよい。本実施形態では、水蒸気改質装置4に供給される炭化水素は、天然ガス供給源から供給される天然ガスである。
【0042】
パイプライン等の天然ガス供給源から供給される天然ガスは、脱硫装置27によって硫黄分が除去された後に水蒸気改質装置4に供給される。脱硫装置27は、公知の水素化脱硫を行う装置であるとよい。
【0043】
図2に示すように、水蒸気改質装置4は、排気が内部を通過するハウジング31と、ハウジング31の内部に配置され、水蒸気及び炭化水素が供給される複数の反応管32とを有する。ハウジング31は、排気通路3の一部を構成するとよい。ハウジング31は、煉瓦によって形成されるとよい。反応管32は、ステンレス鋼、又はクロムモリブデン鋼によって形成されているとよい。また、反応管32の外面は、Cr、Si、及びAlの少なくとも1つを含む酸化物被膜を有するとよい。これらにより、排気中に含まれる硫黄酸化物及び水蒸気、酸素、ナトリウムガス、ガラス原料由来のダスト等による反応管32の腐食が抑制される。
【0044】
反応管32の内部には、水蒸気改質触媒が充填されている。水蒸気改質触媒は、アルミナ又はジルコニアの担体に、Ni、Sr、Re、Rh等の金属が担持されたものであるとよい。複数の反応管32は、入口ヘッダ33及び出口ヘッダ34に接続されている。入口ヘッダ33には、脱硫装置27の出口から延びる原料管35と、ボイラー5から延びる蒸気管36とが接続されている。原料管35と蒸気管36とは、互いに合流した後に入口ヘッダ33に接続されてもよい。出口ヘッダ34には配管38が接続されている。
【0045】
各反応管32の内部を流れる天然ガスと水蒸気の混合物は、各反応管32の外部を流れる排気と熱交換することによって昇温される。水蒸気改質装置4のハウジング31の内部を流れる排気の温度は、600℃以上1500℃以下、好ましくは700℃以上1400℃以下であるとよい。水蒸気改質装置4のハウジング31の内部を流れる排気の温度は、水蒸気改質装置4とガラス溶解炉2との距離、排気通路3の断面積、排気通路3の壁面の熱伝導率、水蒸気改質装置4のサイズ等の諸元によって定まる。
【0046】
反応管32の内部では、メタンを例にすると以下の化学式(1)で表される水蒸気改質反応が主に起こり、水素が生成される。
CH4+H2O→CO+3H2 ...(1)
水蒸気改質装置4の出口ヘッダ34から、生成物としての水素及び一酸化炭素と、未反応原料としてのメタン及び水蒸気が混合した混合ガスが配管38を介して後述する水性ガスシフト反応装置41に送出される。
【0047】
水蒸気改質装置4は、各反応管32の外面に付着するダストを除去するためのダスト除去装置42を有するとよい。これにより、排気から反応管32に伝達される熱量の低下を抑制することができる。また、水蒸気改質装置内の閉塞を防ぐことができる。ダスト除去装置42は、各反応管32の外面に向けて圧縮空気及び高圧水蒸気の少なくとも一方を噴射するブロー装置43を含むとよい。これにより、高温環境下において適切にダストを除去することができる。他の実施形態では、ダスト除去装置42は、各反応管32、入口ヘッダ33、及び出口ヘッダ34の少なくとも1つの外面を叩くことによって振動させる加振装置であってもよい。また、ダスト除去装置42は、各反応管32、入口ヘッダ33、及び出口ヘッダ34の少なくとも1つの外面を擦る研磨装置であってもよい。
【0048】
ボイラー5は、公知の水管ボイラーであるとよい。ボイラー5は、排気が内部を通過するハウジング51と、ハウジング51の内部に配置された水ドラム52、気水ドラム53、及び複数の水管54とを有する。ハウジング31は、排気通路3の一部を構成するとよい。気水ドラム53は水ドラム52より上方に配置されている。複数の水管54は上下に延び、気水ドラム53と水ドラム52とに接続されている。気水ドラム53には、給水管56と、蒸気管36とが接続されている。水は、給水管56を通して気水ドラム53に供給される。蒸気管36は、水蒸気改質装置4の入口ヘッダ33に接続されている。水は水管54内において蒸発して水蒸気になると共に加熱される。水蒸気は気水ドラム53及び蒸気管36を介して水蒸気改質装置4に供給される。
【0049】
図1に示すように、水蒸気改質装置4の生成物が供給されると共に、生成物中に含まれる一酸化炭素と水蒸気との反応によって水素を生成する水性ガスシフト反応装置41が設けられている。水性ガスシフト反応は、以下の化学式(2)で表される。
CO+H
2O⇔CO
2+H
2 ...(2)
水性ガスシフト反応は、平衡反応であり、生成物側(右側)に向けて発熱反応となる。平衡を生成物側にするためには、反応温度を500℃以下にするとよい。本実施形態では、水性ガスシフト反応装置41が排気通路3の外部に配置されている。そのため、水蒸気改質装置4を通過した炭化水素の温度が低下し易くなる。これにより、化学式(2)の平衡が右側に移動し、水素が発生し易くなる。
【0050】
水性ガスシフト反応装置41は、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化クロム等の遷移金属酸化物、又は白金等の貴金属を含む触媒が充填された反応管32を有するとよい。水性ガスシフト反応装置41の反応管32の入口は、配管38によって水蒸気改質装置4の出口ヘッダ34と接続されている。水蒸気改質装置4から供給される混合ガスの温度は、水性ガスシフト反応装置41において、200℃以上500℃以下、好ましくは、300℃以上400℃以下であるとよい。水性ガスシフト反応装置41の反応管32の出口は、水素分離装置58に接続されている。
【0051】
水素分離装置58は、水性ガスシフト反応装置41から供給されるガスから水素を分離し、残りのガスをオフガスとして排出する。水素分離装置58は、公知の圧力スイング吸着装置(PSA)又は膜分離装置であるとよい。オフガスは、二酸化炭素、メタン、一酸化炭素、水(水蒸気)を主として含む。オフガスは、気液分離装置59によって水分が除去された後、ガラス溶解炉2のバーナ14に燃料の一部として供給されるとよい。
【0052】
水酸化ナトリウム噴霧装置23は、排気に水酸化ナトリウム水溶液を噴霧する。これにより、以下の化学式(3)で表されるように、排気中の二酸化炭素と水酸化ナトリウムとが反応して炭酸ナトリウムと水が生成する。
CO2+2NaOH→Na2CO3+H2O ...(3)
水酸化ナトリウム噴霧装置23において、排気の温度は100℃以上であるため、化学式(3)によって生成する水は水蒸気になり、炭酸ナトリウムは粉体として排気中に浮遊する。これにより、排気中の二酸化炭素量を低減させることができる。なお、化学式(3)の反応に加えて、排気中の硫黄分が水酸化ナトリウムと反応して硫酸ナトリウム(Na2SO4)が生成する。生成した硫酸ナトリウムは粉体として排気中に浮遊する。
【0053】
集塵機24は、排気中の炭酸ナトリウム及び硫酸ナトリウムを含む粉体を捕集する。集塵機24は、公知の電気集塵機やバグフィルタであるとよい。集塵機24で捕集された粉体は、集塵機24の粉体排出口から排出される。粉体は、ガラス原料の一部としてガラス溶解炉2に投入されるとよい。これにより、排気中の二酸化炭素をガラス原料として有効利用することができる。集塵機24を通過した排気は、煙突25から外部に排出される。
【0054】
排気通路3は、ガラス溶解炉2から側方に延びた後、下方に延びているとよい。水蒸気改質装置4は、ガラス溶解炉2の側方に配置されているとよい。ボイラー5は、水蒸気改質装置4の下方に配置されているとよい。この配置によれば、水蒸気改質装置4及びボイラー5をガラス溶解炉2の周囲に効率良く配置することができる。ボイラー5から水蒸気改質装置4に水蒸気を供給する蒸気管36は排気通路3内に配置されてもよい。
【0055】
本実施形態に係るプラント1は、ガラス及び水素の製造方法に使用される。ガラス及び水素の製造方法は、燃料の燃焼熱によって原料を溶解させ、溶融ガラスを生成する溶解工程と、溶解工程において発生した排気を熱源として利用して炭化水素と水蒸気とを反応させて水素を生成する水蒸気改質工程と、水蒸気改質工程において冷却された排気を熱源として利用して、水蒸気改質工程に供給する前記水蒸気を生成する水蒸気生成工程とを有する。また、ガラス及び水素の製造方法は、水蒸気生成工程において冷却された排気に水酸化ナトリウム水溶液を噴霧する水酸化ナトリウム水溶液噴霧工程と、水酸化ナトリウム水溶液が噴霧された排気から粉体を除去する集塵工程とを有する。
【0056】
以上の実施形態によれば、ガラス溶解炉において発生する排気の熱を利用して、炭化水素の水蒸気改質を行うことができる。これにより、従来の炭化水素水蒸気改質による水素製造方法と比較すると、水素製造時の燃料使用量が大幅に低減する。また、煉瓦を蓄熱材として使用する蓄熱室を利用しないため、プラント1の改修時等に発生する廃棄物を低減することができる。以上より、環境負荷を低減することができるプラント1を提供することができる。また、水蒸気改質装置4に供給される水蒸気が排気を利用したボイラー5によって生成されるため、排気が有する熱を有効に利用することができる。
【0057】
ガラス溶解炉は、燃料を酸素濃度が90容量%以上の支燃ガスと共に燃焼させる酸素燃焼用のバーナ14を有する。そのため、ガラス溶解炉での燃料の燃焼に空気を必要としないため、窒素酸化物の発生を抑制することができる。また、酸素ガスを使用する場合、空気を使用する場合に比べて、支燃ガスの体積を低減することができるため火炎の温度を高温化することができる。このため、ガラスおよびガラス溶解炉への熱伝達効率が高まる。
【0058】
燃料がメタンを主成分とする混合ガスであり、混合ガスの一部が水蒸気改質装置4に原料として供給される。そのため、ガラス溶解炉で使用する燃料と、水素を生成するための原料とを共通化して、プラント1を簡素化することができる。
【0059】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。バーナ14は、空気を支燃ガスとして使用する空気燃焼バーナであってもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 :プラント
2 :ガラス溶解炉
3 :排気通路
4 :水蒸気改質装置
5 :ボイラー
14 :バーナ
23 :水酸化ナトリウム噴霧器
24 :集塵機
25 :煙突
27 :脱硫装置
32 :反応管
41 :水性ガスシフト反応装置
42 :ダスト除去装置
43 :ブロー装置
58 :水素分離装置
59 :気液分離装置