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特許7588035自動走行方法、自動走行システム、及び自動走行プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】自動走行方法、自動走行システム、及び自動走行プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/43 20240101AFI20241114BHJP
   A01B 69/00 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
G05D1/43
A01B69/00 303M
A01B69/00 303A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021091523
(22)【出願日】2021-05-31
(65)【公開番号】P2022183957
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2024-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【弁理士】
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【弁理士】
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100181869
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 雄一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 暁大
【審査官】渡邊 捷太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-24540(JP,A)
【文献】特開2021-2171(JP,A)
【文献】特開2015-112069(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0090472(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第112578774(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/43
A01B 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行領域において、作業車両が当該作業車両の測位情報に基づいて、予め設定された目標経路に沿って自動走行を行う第1走行モードで前記作業車両を走行させることと、
前記作業車両が前記走行領域内に配置された作業対象物の位置に応じて設定された作業対象物経路に沿って自動走行を行う第2走行モードで前記作業車両を走行させることと、
前記第1走行モードにおいて、前記作業車両の現在位置と前記目標経路との距離を表す位置偏差が前記第1走行モードに対応する許容値以上の場合に前記作業車両を停止させ、前記第2走行モードにおいて、前記作業車両の現在位置と前記作業対象物経路との距離を表す位置偏差が前記第2走行モードに対応する許容値以上の場合に前記作業車両を停止させることと、
前記第1走行モード及び前記第2走行モードを相互に切り替えることと、
前記第1走行モード及び前記第2走行モードの一方の走行モードから他方の走行モードに切り替えられた場合に、前記他方の走行モードに対応する許容値を、走行モードが切り替えられる前に前記他方の走行モードに対して設定された第1許容値よりも大きい第2許容値に変更することと、
を実行する自動走行方法。
【請求項2】
前記一方の走行モードから前記他方の走行モードに切り替えられて前記作業車両が前記他方の走行モードで走行を開始した後に前記位置偏差が前記第1許容値未満になった場合に、前記他方の走行モードに対応する許容値を、前記第2許容値から前記第1許容値に変更する、
請求項1に記載の自動走行方法。
【請求項3】
前記一方の走行モードから前記他方の走行モードに切り替えられて前記作業車両が前記他方の走行モードで走行を開始した後に前記位置偏差が前記第1許容値よりも小さい所定値未満になった場合に、前記他方の走行モードに対応する許容値を、前記第2許容値から前記第1許容値に変更する、
請求項2に記載の自動走行方法。
【請求項4】
前記一方の走行モードから前記他方の走行モードに切り替えられて前記作業車両が前記他方の走行モードで走行を開始してから所定時間経過した場合に、前記他方の走行モードに対応する許容値を、前記第2許容値から前記第1許容値に変更する、
請求項1から3のいずれかに記載の自動走行方法。
【請求項5】
前記一方の走行モードから前記他方の走行モードに切り替えられる時点で前記位置偏差が前記第2許容値以上である場合に、前記作業車両を停止させる、
請求項1から4のいずれかに記載の自動走行方法。
【請求項6】
前記第2許容値は、前記作業対象物の位置に応じて前記作業対象物経路を設定するための条件に含まれる、前記作業車両の現在位置と前記作業対象物との前記位置偏差に基づいて設定される、
請求項1から5のいずれかに記載の自動走行方法。
【請求項7】
前記作業車両が前記第1走行モードで走行中に前記作業対象物を検出した場合に前記第1走行モードを前記第2走行モードに切り替え、
前記作業車両が前記第2走行モードで走行中に前記作業対象物を検出できなくなった場合に前記第2走行モードを前記第1走行モードに切り替える、
請求項1から6のいずれかに記載の自動走行方法。
【請求項8】
前記走行領域のうち前記作業対象物が配置されていない領域において、前記作業車両を前記第1走行モードで自動走行させ、
前記走行領域のうち前記作業対象物が配置されている領域において、前記作業車両を前記第2走行モードで自動走行させる、
請求項1から7のいずれかに記載の自動走行方法。
【請求項9】
前記作業車両は、第1作業対象物を跨いで走行しながら、前記第1作業対象物と、前記第1作業対象物の左右方向それぞれの第2作業対象物とに散布物を散布する散布作業を行うことが可能な車両である、
請求項1から8のいずれかに記載の自動走行方法。
【請求項10】
走行領域において、作業車両が当該作業車両の測位情報に基づいて、予め設定された目標経路に沿って自動走行を行う第1走行モード、又は、前記作業車両が前記走行領域内に配置された作業対象物の位置に応じて設定された作業対象物経路に沿って自動走行を行う第2走行モードで前記作業車両を走行させ、かつ、
前記第1走行モードにおいて、前記作業車両の現在位置と前記目標経路との距離を表す位置偏差が前記第1走行モードに対応する許容値以上の場合に前記作業車両を停止させ、前記第2走行モードにおいて、前記作業車両の現在位置と前記作業対象物経路との距離を表す位置偏差が前記第2走行モードに対応する許容値以上の場合に前記作業車両を停止させる走行処理部と、
前記第1走行モード及び前記第2走行モードを相互に切り替える切替処理部と、
前記第1走行モード及び前記第2走行モードの一方の走行モードから他方の走行モードに切り替えられた場合に、前記他方の走行モードに対応する許容値を、走行モードが切り替えられる前に前記他方の走行モードに対して設定された第1許容値よりも大きい第2許容値に変更する設定処理部と、
を備える自動走行システム。
【請求項11】
走行領域において、作業車両が当該作業車両の測位情報に基づいて、予め設定された目標経路に沿って自動走行を行う第1走行モードで前記作業車両を走行させることと、
前記作業車両が前記走行領域内に配置された作業対象物の位置に応じて設定された作業対象物経路に沿って自動走行を行う第2走行モードで前記作業車両を走行させることと、
前記第1走行モードにおいて、前記作業車両の現在位置と前記目標経路との距離を表す位置偏差が前記第1走行モードに対応する許容値以上の場合に前記作業車両を停止させ、前記第2走行モードにおいて、前記作業車両の現在位置と前記作業対象物経路との距離を表す位置偏差が前記第2走行モードに対応する許容値以上の場合に前記作業車両を停止させることと、
前記第1走行モード及び前記第2走行モードを相互に切り替えることと、
前記第1走行モード及び前記第2走行モードの一方の走行モードから他方の走行モードに切り替えられた場合に、前記他方の走行モードに対応する許容値を、走行モードが切り替えられる前に前記他方の走行モードに対して設定された第1許容値よりも大きい第2許容値に変更することと、
を一又は複数のプロセッサーに実行させるための自動走行プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行領域において目標経路に従って作業車両を自動走行させる自動走行方法、自動走行システム、及び自動走行プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
圃場、農園などの作業地に植えられた作物に対して薬液を散布しながら目標経路を自動走行する作業車両が知られている(例えば特許文献1参照)。前記目標経路は、例えば、作物が並ぶ複数の列(作物列)において、列ごとに当該列の両端点を結ぶことにより生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/119266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記作業車両は、例えば作物が配置されている領域を走行する場合、衛星から受信する信号(例えばGNSS信号)を利用して作業車両を測位しながら、作物の位置に応じて設定された作物列経路に沿って走行する。一方、前記作業車両は、例えば作物が配置されていない領域を走行する場合、前記GNSS信号を利用して作業車両を測位しながら、予め設定された目標経路に沿って走行する。ここで、前記目標経路から前記作業車両までの距離(位置偏差)、及び、前記作物列経路から前記作業車両までの距離(位置偏差)には、それぞれ許容値が設定されている。前記位置偏差が前記許容値以上になる場合、作業車両の位置精度が低下するため、作業車両の走行が停止される。
【0005】
ここで、例えば作業車両が作物列を走行中に作物を検出できなくなった場合に、作業車両はGNSS信号を利用して走行する。この場合において、作業車両が作物を検出できなくなった時点の位置偏差が前記目標経路に対応する前記許容値以上である場合には、作業車両が停止してしまい作業が中断してしまう。このため作業効率が低下する問題が生じる。
【0006】
本発明の目的は、作業車両の位置偏差に起因する作業車両の停止動作を抑制することにより作業効率の低下を防ぐことが可能な自動走行方法、自動走行システム、及び自動走行プログラムに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る自動走行方法は、走行領域において、作業車両が当該作業車両の測位情報に基づいて、予め設定された目標経路に沿って自動走行を行う第1走行モードで前記作業車両を走行させることと、前記作業車両が前記走行領域内に配置された作業対象物の位置に応じて設定された作業対象物経路に沿って自動走行を行う第2走行モードで前記作業車両を走行させることと、前記第1走行モードにおいて、前記作業車両の現在位置と前記目標経路との距離を表す位置偏差が前記第1走行モードに対応する許容値以上の場合に前記作業車両を停止させ、前記第2走行モードにおいて、前記作業車両の現在位置と前記作業対象物経路との距離を表す位置偏差が前記第2走行モードに対応する許容値以上の場合に前記作業車両を停止させることと、前記第1走行モード及び前記第2走行モードを相互に切り替えることと、前記第1走行モード及び前記第2走行モードの一方の走行モードから他方の走行モードに切り替えられた場合に、前記他方の走行モードに対応する許容値を、走行モードが切り替えられる前に前記他方の走行モードに対して設定された第1許容値よりも大きい第2許容値に変更することと、を実行する方法である。
【0008】
本発明に係る自動走行システムは、走行処理部と切替処理部と設定処理部とを備える。前記走行処理部は、走行領域において、作業車両が当該作業車両の測位情報に基づいて、予め設定された目標経路に沿って自動走行を行う第1走行モード、又は、前記作業車両が前記走行領域内に配置された作業対象物の位置に応じて設定された作業対象物経路に沿って自動走行を行う第2走行モードで前記作業車両を走行させ、かつ、前記第1走行モードにおいて、前記作業車両の現在位置と前記目標経路との距離を表す位置偏差が前記第1走行モードに対応する許容値以上の場合に前記作業車両を停止させ、前記第2走行モードにおいて、前記作業車両の現在位置と前記作業対象物経路との距離を表す位置偏差が前記第2走行モードに対応する許容値以上の場合に前記作業車両を停止させる。前記切替処理部は、前記第1走行モード及び前記第2走行モードを相互に切り替える。前記設定処理部は、前記第1走行モード及び前記第2走行モードの一方の走行モードから他方の走行モードに切り替えられた場合に、前記他方の走行モードに対応する許容値を、走行モードが切り替えられる前に前記他方の走行モードに対して設定された第1許容値よりも大きい第2許容値に変更する。
【0009】
本発明に係る自動走行プログラムは、走行領域において、作業車両が当該作業車両の測位情報に基づいて、予め設定された目標経路に沿って自動走行を行う第1走行モードで前記作業車両を走行させることと、前記作業車両が前記走行領域内に配置された作業対象物の位置に応じて設定された作業対象物経路に沿って自動走行を行う第2走行モードで前記作業車両を走行させることと、前記第1走行モードにおいて、前記作業車両の現在位置と前記目標経路との距離を表す位置偏差が前記第1走行モードに対応する許容値以上の場合に前記作業車両を停止させ、前記第2走行モードにおいて、前記作業車両の現在位置と前記作業対象物経路との距離を表す位置偏差が前記第2走行モードに対応する許容値以上の場合に前記作業車両を停止させることと、前記第1走行モード及び前記第2走行モードを相互に切り替えることと、前記第1走行モード及び前記第2走行モードの一方の走行モードから他方の走行モードに切り替えられた場合に、前記他方の走行モードに対応する許容値を、走行モードが切り替えられる前に前記他方の走行モードに対して設定された第1許容値よりも大きい第2許容値に変更することと、を一又は複数のプロセッサーに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、作業車両の位置偏差に起因する作業車両の停止動作を抑制することにより作業効率の低下を防ぐことが可能な自動走行方法、自動走行システム、及び自動走行プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施形態に係る自動走行システムの全体構成を示す模式図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る自動走行システムの構成を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る作業車両を左前方側から見た外観図である。
図4A図4Aは、本発明の実施形態に係る作業車両を左側から見た左側面の外観図である。
図4B図4Bは、本発明の実施形態に係る作業車両を右側から見た右側面の外観図である。
図4C図4Cは、本発明の実施形態に係る作業車両を背面側から見た背面の外観図である。
図5図5は、本発明の実施形態に係る作物列の一例を示す図である。
図6図6は、本発明の実施形態に係る目標経路の一例を示す図である。
図7図7は、本発明の実施形態に係る作物列経路用走行モードの走行方法の概要を説明するための図である。
図8図8は、本発明の実施形態に係る走行モードを切り替える場合の作業車両の走行経路の一例を示す図である。
図9A図9Aは、本発明の実施形態に係る作業車両の走行方法の一例を示す図である。
図9B図9Bは、本発明の実施形態に係る作業車両の走行方法の一例を示す図である。
図9C図9Cは、本発明の実施形態に係る作業車両の走行方法の一例を示す図である。
図10図10は、本発明の実施形態に係る自動走行システムで使用される許容値情報の一例を示す図である。
図11図11は、本発明の実施形態に係る走行モードを切り替える場合の作業車両の走行経路の一例を示す図である。
図12図12は、本発明の実施形態に係る作業車両の走行方法の一例を示す図である。
図13A図13Aは、本発明の実施形態に係る目標経路の生成方法を説明するための図である。
図13B図13Bは、本発明の実施形態に係る目標経路の生成方法を説明するための図である。
図14図14は、本発明の実施形態に係る自動走行システムによって実行される自動走行処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0013】
[自動走行システム1]
図1及び図2に示すように、本発明の実施形態に係る自動走行システム1は、作業車両10と、操作端末20と、基地局40と、衛星50とを含んでいる。作業車両10及び操作端末20は、通信網N1を介して通信可能である。例えば、作業車両10及び操作端末20は、携帯電話回線網、パケット回線網、又は無線LANを介して通信可能である。
【0014】
本実施形態では、作業車両10が、圃場Fに植えられた作物V(図5参照)に薬液、水などを散布する散布作業を行う車両である場合を例に挙げて説明する。圃場Fは本発明の走行領域の一例であり、圃場Fは例えば葡萄園、林檎園などの果樹園である。作物Vは例えば葡萄の果樹である。前記散布作業は、例えば作物Vに薬液、水などの散布物を散布する作業である。他の実施形態として、作業車両10は、除草作業を行う車両、葉刈作業を行う車両、収穫作業を行う車両であってもよい。
【0015】
作物Vは、圃場Fにおいて所定の間隔で複数列に配置されている。具体的には、図5に示すように、複数の作物Vは、所定の方向(D1方向)に直線状に植えられており、直線状に並ぶ複数の作物Vを含む作物列Vrを構成する。図5には、3つの作物列Vrを例示している。各作物列Vrは列方向(D2方向)に所定の間隔W1で配置されている。隣り合う作物列Vrの間隔W2の領域(空間)は、作業車両10がD1方向に走行しながら作物Vに対して散布作業を行う作業通路となる。
【0016】
また、作業車両10は、予め設定された目標経路Rに沿って自動走行(自律走行)することが可能である。例えば図6に示すように、作業車両10は、作業開始位置Sから作業終了位置Gまで、作業経路R1(作業経路R1a~R1f)及び移動経路R2を含む目標経路Rに沿って自動走行する。作業経路R1は、作業車両10が作物Vに対して散布作業を行う直線状の経路であり、移動経路R2は、作業車両10が散布作業を行わないで作物列Vr間を移動する経路である。移動経路R2には、例えば旋回経路及び直進経路が含まれる。図6に示す例では、圃場Fにおいて、作物列Vr1~Vr11から成る作物Vが配置されている。図6では、作物Vが植えられている位置(作物位置)を「Vp」で表している。また、図6の圃場Fを走行する作業車両10は、車体100が門型の形状を有しており(図4C参照)、1つの作物列Vrを跨いで走行しながら、当該作物列Vrの作物V及び当該作物列Vrに隣接する作物列Vrに対して薬液を散布する。例えば図6に示すように、作業車両10が作物列Vr5を跨いで走行する場合、作業車両10の左側車体(左側部100L)が作物列Vr4,Vr5の間の作業通路を走行し、作業車両10の右側車体(右側部100R)が作物列Vr5,Vr6の間の作業通路を走行し、かつ作物列Vr4,Vr5,Vr6の作物Vに対して薬液を散布する。
【0017】
また、作業車両10は、所定の列順序で自動走行を行う。例えば、作業車両10は、作物列Vr1を跨いで走行し、次に作物列Vr3を跨いで走行し、次に作物列Vr5を跨いで走行する。このように、作業車両10は、予め設定された作物列Vrの順番に応じて自動走行を行う。なお、作業車両10は、作物列Vrの配列順に1列ごとに走行してもよいし、複数列おきに走行してもよい。
【0018】
衛星50は、GNSS(Global Navigation Satellite System)等の衛星測位システムを構成する測位衛星であり、GNSS信号(衛星信号)を送信する。基地局40は、衛星測位システムを構成する基準点(基準局)である。基地局40は、作業車両10の現在位置を算出するための補正情報を作業車両10に送信する。
【0019】
作業車両10に搭載される測位装置16は、衛星50から送信されるGNSS信号を利用して作業車両10の現在位置(緯度、経度、高度)及び現在方位などを算出する測位処理を実行する。具体的には、測位装置16は、2台の受信機(アンテナ164及び基地局40)が受信する測位情報(GNSS信号など)と基地局40で生成される補正情報とに基づいて作業車両10を測位するRTK(Real Time Kinematic)方式などを利用して作業車両10を測位する。前記測位方式は周知の技術であるため詳細な説明は省略する。
【0020】
以下、自動走行システム1を構成する各構成要素の詳細について説明する。
【0021】
[作業車両10]
図3は、作業車両10を左前方側から見た外観図である。図4Aは、作業車両10を左側から見た左側面の外観図であり、図4Bは、作業車両10を右側から見た右側面の外観図であり、図4Cは、作業車両10を背面側から見た背面の外観図である。
【0022】
図1図4に示すように、作業車両10は、車両制御装置11、記憶部12、走行装置13、散布装置14、通信部15、測位装置16、障害物検出装置17などを備える。車両制御装置11は、記憶部12、走行装置13、散布装置14、測位装置16、障害物検出装置17などに電気的に接続されている。なお、車両制御装置11及び測位装置16は、無線通信可能であってもよい。
【0023】
通信部15は、作業車両10を有線又は無線で通信網N1に接続し、通信網N1を介して操作端末20などの外部機器との間で所定の通信プロトコルに従ったデータ通信を実行するための通信インターフェースである。
【0024】
記憶部12は、各種の情報を記憶するHDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)などの不揮発性の記憶部である。記憶部12には、車両制御装置11に後述の自動走行処理(図14参照)を実行させるための自動走行プログラムなどの制御プログラムが記憶されている。例えば、前記自動走行プログラムは、CD又はDVDなどのコンピュータ読取可能な記録媒体に非一時的に記録されており、所定の読取装置(不図示)で読み取られて記憶部12に記憶される。なお、前記自動走行プログラムは、サーバー(不図示)から通信網N1を介して作業車両10にダウンロードされて記憶部12に記憶されてもよい。また、記憶部12には、操作端末20において生成される目標経路Rの情報を含む経路データが記憶される。例えば、前記経路データは、操作端末20から作業車両10に転送されて記憶部12に記憶される。
【0025】
ここで、作業車両10は、圃場Fにおいて複数列に並べて植えられた作物V(果樹)を跨いで走行する門型の車体100を備える。図4Cに示すように、車体100は、左側部100Lと、右側部100Rと、左側部100L及び右側部100Rを接続する接続部100Cとにより門型に形成されており、左側部100L、右側部100R、及び接続部100Cの内側に作物Vの通過を許容する空間100Sが確保される。
【0026】
車体100の左側部100L及び右側部100Rそれぞれの下端部には、クローラ101が設けられている。左側部100Lには、エンジン(不図示)、バッテリー(不図示)などが設けられている。右側部100Rには、散布装置14の貯留タンク14A(図4B参照)などが設けられている。このように、車体100の左側部100L及び右側部100Rに構成部品を振り分けて配置することにより、作業車両10は、左右のバランスの均衡化及び低重心化が図られている。その結果、作業車両10は、圃場Fの斜面などを安定して走行することができる。
【0027】
走行装置13は、作業車両10を走行させる駆動部である。走行装置13は、エンジン、クローラ101などを備える。
【0028】
左右のクローラ101は、静油圧式無段変速装置による独立変速が可能な状態でエンジンからの動力により駆動される。これにより、車体100は、左右のクローラ101が前進方向に等速駆動されることにより前進方向に直進する前進状態になり、左右のクローラ101が後進方向に等速駆動されることにより後進方向に直進する後進状態になる。また、車体100は、左右のクローラ101が前進方向に不等速駆動されることにより前進しながら旋回する前進旋回状態になり、左右のクローラ101が後進方向に不等速駆動されることで後進しながら旋回する後進旋回状態になる。また、車体100は、左右いずれか一方のクローラ101が駆動停止された状態で他方のクローラ101が駆動されることによりピボット旋回(信地旋回)状態になり、左右のクローラ101が前進方向と後進方向とに等速駆動されることでスピン旋回(超信地旋回)状態になる。また、車体100は、左右のクローラ101が駆動停止されることで走行停止状態になる。尚、左右のクローラ101は、電動モータにより駆動される電動式に構成されていてもよい。
【0029】
図4Cに示すように、散布装置14は、薬液などを貯留する貯留タンク14A、薬液などを圧送する散布用ポンプ(不図示)、散布用ポンプを駆動する電動式の散布モータ(不図示)、散布モータから散布用ポンプに伝動するベルト式伝動装置(不図示)、車体100の背部において縦向き姿勢で左右に2本ずつ並列に備えられた散布管14B、各散布管14Bに3個ずつ備えられた合計12個の散布ノズル14C、薬液などの散布量及び散布パターンを変更する電子制御式のバルブユニット(不図示)、及び、これらを接続する複数の散布用配管(図示せず)などを備えている。
【0030】
各散布ノズル14Cは、対応する散布管14Bに、上下方向に位置変更可能に取り付けられている。これにより、各散布ノズル14Cは、隣り合う散布ノズル14Cとの間隔及び散布管14Bに対する高さ位置を散布対象物(作物V)に応じて変更することができる。また、各散布ノズル14Cは、車体100に対する高さ位置及び左右位置を散布対象物に応じて変更可能に取り付けられている。
【0031】
なお、散布装置14において、各散布管14Bに設けられる散布ノズル14Cの数量は、作物Vの種類、各散布管14Bの長さなどに応じて種々の変更が可能である。
【0032】
図4Cに示すように、複数の散布ノズル14Cのうち、最左端の散布管14Bに設けられた3個の散布ノズル14Cは、車体100の左外方に位置する作物Vaに向けて薬液を左向きに散布する。複数の散布ノズル14Cのうち、最左端の散布管14Bに隣接する左内側の散布管14Bに設けられた3個の散布ノズル14Cは、車体100における左右中央の空間100Sに位置する作物Vbに向けて薬液を右向きに散布する。複数の散布ノズル14Cのうち、最右端の散布管14Bに設けられた3個の散布ノズル14Cは、車体100の右外方に位置する作物Vcに向けて薬液を右向きに散布する。複数の散布ノズル14Cのうち、最右端の散布管14Bに隣接する右内側の散布管14Bに設けられた3個の散布ノズル14Cは、空間100Sに位置する作物Vbに向けて薬液を左向きに散布する。
【0033】
上記の構成により、散布装置14においては、車体100の左側部100Lに設けられた2本の散布管14Bと6個の散布ノズル14Cとが左側の散布部14Lとして機能する。また、車体100の右側部100Rに設けられた2本の散布管14Bと6個の散布ノズル14Cとが右側の散布部14Rとして機能する。そして、左右の散布部14L,14Rは、車体100の背部において、左右方向への散布が可能な状態で、左右の散布部14L,14Rの間に作物Vbの通過(空間100S)を許容する左右間隔を置いて配置されている。
【0034】
散布装置14において、散布部14L,14Rによる散布パターンには、散布部14L,14Rのそれぞれが左右の両方向に薬液を散布する4方向散布パターンと、散布部14L,14Rによる散布方向が限定された方向限定散布パターンとが含まれる。前記方向限定散布パターンには、散布部14Lが左右の両方向に薬液を散布し、かつ、散布部14Rが左方向のみに薬液を散布する左側3方向散布パターンと、散布部14Lが右方向のみに薬液を散布し、かつ、散布部14Rが左右の両方向に薬液を散布する右側3方向散布パターンと、散布部14Lが右方向のみに薬液を散布し、かつ、散布部14Rが左方向のみに薬液を散布する2方向散布パターンと、散布部14Lが左方向のみに散布し、かつ、散布部14Rが薬液を散布しない左側1方向散布パターンと、散布部14Rが右方向のみに散布し、かつ、散布部14Lが薬液を散布しない右側1方向散布パターンとが含まれる。
【0035】
車体100には、測位装置16から取得する測位情報などに基づいて車体100を圃場Fの目標経路Rに従って自動走行させる自動走行制御部、エンジンに関する制御を行うエンジン制御部、静油圧式無段変速装置に関する制御を行うHST(Hydro-Static Transmission)制御部、及び、散布装置14などの作業装置に関する制御を行う作業装置制御部などが搭載されている。各制御部は、マイクロコントローラなどが搭載された電子制御ユニット、マイクロコントローラの不揮発性メモリ(例えばフラッシュメモリなどのEEPROM)に記憶された各種の情報及び制御プログラムなどによって構築されている。不揮発性メモリに記憶された各種の情報には、事前に生成された目標経路Rなどが含まれてもよい。本実施形態では、各制御部を総称して「車両制御装置11」という(図2参照)。
【0036】
測位装置16は、測位制御部161、記憶部162、通信部163、及びアンテナ164などを備える通信機器である。アンテナ164は、車体100の天井部(接続部100C)の前方及び後方に設けられている(図3参照)。また車体100の天井部には、作業車両10の走行状態を表示する表示灯102などが設けられている(図3参照)。なお、測位装置16には前記バッテリーが接続されており、測位装置16は、前記エンジンの停止中も稼働可能である。
【0037】
通信部163は、測位装置16を有線又は無線で通信網N1に接続し、通信網N1を介して基地局40などの外部機器との間で所定の通信プロトコルに従ったデータ通信を実行するための通信インターフェースである。
【0038】
アンテナ164は、衛星から発信される電波(GNSS信号)を受信するアンテナである。アンテナ164が作業車両10の前方及び後方に設けられているため、作業車両10の現在位置及び現在方位を高精度に測位することができる。
【0039】
測位制御部161は、一又は複数のプロセッサーと、不揮発性メモリ及びRAMなどの記憶メモリとを備えるコンピュータシステムである。記憶部162は、測位制御部161に測位処理を実行させるための制御プログラム、及び、測位情報、移動情報などのデータを記憶する不揮発性メモリなどである。測位制御部161は、アンテナ164が衛星50から受信するGNSS信号に基づいて所定の測位方式(RTK方式など)により作業車両10の現在位置及び現在方位を測位する。
【0040】
障害物検出装置17は、車体100の前方左側に設けられたライダーセンサー171Lと、車体100の前方右側に設けられたライダーセンサー171Rとを備える(図3参照)。各ライダーセンサーは、例えばライダーセンサーが照射したレーザー光が測距点に到達して戻るまでの往復時間に基づいて測距点までの距離を測定するTOF(Time Of Flight)方式により、ライダーセンサーから測定範囲の各測距点(測定対象物)までの距離を測定する。
【0041】
ライダーセンサー171Lは、車体100の前方左側の所定範囲が測定範囲に設定されており、ライダーセンサー171Rは、車体100の前方右側の所定範囲が測定範囲に設定されている。各ライダーセンサーは、測定した各測距点までの距離、各測距点に対する走査角(座標)などの測定情報を車両制御装置11に送信する。
【0042】
また、障害物検出装置17は、車体100の前方側に設けられた左右の超音波センサー172F(図3参照)と、車体100の後方側に設けられた左右の超音波センサー172R(図4A図4C参照)とを備える。各超音波センサーは、超音波センサーが発信した超音波が測距点に到達して戻るまでの往復時間に基づいて測距点までの距離を測定するTOF方式により、超音波センサーから測定対象物までの距離を測定する。
【0043】
前方左側の超音波センサー172Fは、車体100の前方左側の所定範囲が測定範囲に設定されており、前方右側の超音波センサー172Fは、車体100の前方右側の所定範囲が測定範囲に設定されており、後方左側の超音波センサー172Rは、車体100の後方左側の所定範囲が測定範囲に設定されており、後方右側の超音波センサー172Rは、車体100の後方右側の所定範囲が測定範囲に設定されている。各超音波センサーは、測定した測定対象物までの距離と測定対象物の方向とを含む測定情報を車両制御装置11に送信する。
【0044】
また、障害物検出装置17は、車体100の前方側に設けられた左右の接触センサー173F(図3参照)と、車体100の後方側に設けられた左右の接触センサー173R(図4A及び図4B参照)とを備える。各接触センサーの前方(作業車両10の後方側)には散布装置14が設けられており、各接触センサーは、散布装置14に対して障害物が接触した場合に散布装置14が後方(作業車両10の前方側)に移動することにより障害物を検出する。各接触センサーは、障害物を検出した場合に検出信号を車両制御装置11に送信する。車両制御装置11は、障害物検出装置17から取得する障害物に関する測定情報に基づいて、作業車両10が障害物に衝突する可能性がある場合に障害物を回避する回避処理を実行する。また、車両制御装置11は、作業車両10の位置偏差及び方位偏差を検出して作物列Vrへの衝突を回避する動作を行う。
【0045】
車両制御装置11は、CPU、ROM、及びRAMなどの制御機器を有する。前記CPUは、各種の演算処理を実行するプロセッサーである。前記ROMは、前記CPUに各種の演算処理を実行させるためのBIOS及びOSなどの制御プログラムが予め記憶される不揮発性の記憶部である。前記RAMは、各種の情報を記憶する揮発性又は不揮発性の記憶部であり、前記CPUが実行する各種の処理の一時記憶メモリー(作業領域)として使用される。そして、車両制御装置11は、前記ROM又は記憶部12に予め記憶された各種の制御プログラムを前記CPUで実行することにより作業車両10を制御する。
【0046】
車両制御装置11は、作業車両10の走行を制御する。具体的には、図2に示すように、車両制御装置11は、走行処理部111、切替処理部112、設定処理部113などの各種の処理部を含む。なお、車両制御装置11は、前記CPUで前記制御プログラムに従った各種の処理を実行することによって前記各種の処理部として機能する。また、一部又は全部の前記処理部が電子回路で構成されていてもよい。なお、前記制御プログラムは、複数のプロセッサーを前記処理部として機能させるためのプログラムであってもよい。
【0047】
走行処理部111は、作業車両10の走行動作を制御する走行処理を実行する。例えば、走行処理部111は、測位装置16により測位される作業車両10の位置及び方位を含む測位情報に基づいて、目標経路Rに沿って作業車両10を自動走行させる目標経路用走行モードM1(本発明の第1走行モードに相当)で走行させる。例えば、作物Vが配置されていない領域(枕地領域、非作業領域など)において測位状態がRTK測位可能な状態である場合に、走行処理部111は、測位装置16により測位される作業車両10の測位情報に基づいて作業車両10を目標経路用走行モードM1で自動走行を開始させる。これにより、作業車両10は、目標経路Rに沿って自動走行を開始する。なお、前記測位状態がRTK測位可能な状態(高精度状態)であることは、作業車両10が自動走行を開始する条件(自動走行開始条件)に含まれる。
【0048】
このように、走行処理部111は、圃場Fのうち作物Vが配置されていない領域(枕地領域など)において、作業車両10を目標経路用走行モードM1で自動走行させる。作業車両10は、GNSS信号を利用して自己位置を推定しながら目標経路Rに沿って走行する。
【0049】
また、走行処理部111は、作業車両10が圃場F内に配置された作物Vの位置に応じて設定された作物列経路R0に沿って自動走行を行う作物列経路用走行モードM2(本発明の第2走行モードに相当)で作業車両10を走行させる。作物列経路用走行モードM2は、例えばライダーセンサー171L,171Rの測定結果に基づいて推定した作物列経路R0に沿って作業車両10を走行させる走行モードである。具体的には、障害物検出装置17は、作業経路R1上の障害物の検出結果とライダーセンサー171L,171Rの測定結果とを統合して、作業車両10が跨いでいる作業経路R1、具体的には作物列(図6では作物列Vr5)の作物列経路R0(本発明の作業対象物経路の一例)を推定する。また障害物検出装置17は、推定した作物列経路R0の始点及び終点の位置(座標)を車両制御装置11に送信する。走行処理部111は、作物列経路用走行モードM2において、GNSS信号を利用して自己位置を推定しながら、推定された作物列経路R0に沿って作業車両10を自動走行させる。このように、走行処理部111は、目標経路用走行モードM1では前記測位情報を利用して目標経路Rに沿って作業車両10を自動走行させる一方、作物列経路用走行モードM2では前記測位情報と作物Vの検出結果とを利用して作物列経路R0に沿って作業車両10を自動走行させる。
【0050】
図7には、作物列経路用走行モードM2の走行方法の概要を示している。図7のR0は推定された作物列Vraの経路を表し、Ev1は作物列Vraの始点を表し、Ev2は作物列Vraの終点を表し、Vpは作物列Vraに含まれる作物を表し、Peは作業車両10の現在位置を表している。なお、終点Ev2は、図6に示す端点(終点)と同一であってもよい。また、始点Ev1は、例えば作物列Vraに含まれる作物Vのうち現在位置Peに最も近い作物Vの位置である。
【0051】
走行処理部111は、作物列Vraに対する作業車両10の横方向の位置偏差L1及び方位偏差θ1を算出し、位置偏差L1及び方位偏差θ1が小さくなるように作業車両10の姿勢を制御しながら現在位置Peから終点Ev2まで走行させる。
【0052】
ここで、作物列Vraの推定結果には誤差が含まれるため、算出した位置偏差L1及び方位偏差θ1に移動平均フィルターやローパスフィルター等を用いたフィルタリング処理を行うことが好ましい。そして、走行処理部111は、前記フィルタリング処理の結果を用いて作業車両10の走行を制御することが好ましい。
【0053】
また、作物列Vraの推定精度を高めるために、過去の作物列Vraの推定結果を用いてもよい。この場合、作物列Vraの端点の数を増やす必要があり、過去のデータを使用するために作業車両10の相対移動量を算出し、過去の作物列Vraの検出位置の座標変換が必要になる。前記相対移動量の算出は、クローラ101に取り付けられた回転数センサー及び慣性計測ユニット(IMU)のデータをカルマンフィルタ等の既知の手法で統合し、作物列Vraの移動量を推定する。作業車両10が自動走行中は毎制御周期、測位情報(GNSS位置情報)から終点までの距離を算出しているため、走行処理部111は、測位精度が所定精度未満になる前の終点までの距離の情報と推定した作業車両10の移動量とから、作物列Vraの端点(終点Ev2)への到達判定処理を実行し、端点到達時まで自動走行させる。なお、作物Vの配置状態によってはライダーセンサー171L,171Rセンサーが作物Vを検出できない事態も起こり得る。この場合には、走行処理部111は、作物列Vraの推定エラーが規定回数連続で発生した場合に作物列経路用走行モードM2の自動走行を終了させる。
【0054】
以上のように、走行処理部111は、圃場F内の作物Vの位置に応じて目標経路用走行モードM1又は作物列経路用走行モードM2で作業車両10を自動走行させる。
【0055】
また、走行処理部111は、目標経路用走行モードM1において、作業車両10の現在位置Peと目標経路Rとの距離を表す位置偏差が目標経路用走行モードM1に対応する許容値以上の場合に作業車両10を停止させ、作物列経路用走行モードM2において、作業車両10の現在位置Peと作物列経路R0との距離を表す位置偏差が作物列経路用走行モードM2に対応する許容値以上の場合に作業車両10を停止させる。
【0056】
切替処理部112は、作業車両10の走行モードを目標経路用走行モードM1と作物列経路用走行モードM2との間で相互に切り替える。すなわち、切替処理部112は、作業車両10の走行モードを設定する。例えば、切替処理部112は、障害物検出装置17がライダーセンサー171L,171Rの検出結果に基づいて作物Vを検出しなかった場合に、作業車両10の走行モードを目標経路用走行モードM1に設定する。また、切替処理部112は、障害物検出装置17がライダーセンサー171L,171Rの検出結果に基づいて作物Vを検出した場合に、作業車両10の走行モードを作物列経路用走行モードM2に設定する。
【0057】
例えば、作業車両10が作物列経路用走行モードM2で走行中に作物Vが配置されていない領域に進入した場合、作業車両10は目標経路用走行モードM1に切り替えて走行する。図8には、走行モードを切り替える場合の作業車両10の走行経路の一例を示している。
【0058】
図8に示す圃場Fでは、作業車両10が走行中の作物列Vr5の途中に、作物Vが配置されていない領域が含まれる。この場合、作業車両10が作物列Vr5を作物列経路用走行モードM2で自動走行して前記領域に到達した時点(図8の現在位置Pe)で、障害物検出装置17が前方の作物Vを検出しなくなる。このため、作業車両10は作物列Vr5に対応する作物列経路R0に沿って走行することができなくなるため、切替処理部112は、前記走行モードを作物列経路用走行モードM2から目標経路用走行モードM1に切り替える。これにより、作業車両10は、作物列経路R0に沿った自動走行から、GNSS信号を利用した目標経路R(作業経路R1)に沿った自動走行に切り替える。
【0059】
前記走行モードが作物列経路用走行モードM2から目標経路用走行モードM1に切り替えられた場合に、以下の問題が生じる場合がある。
【0060】
図9Aには、作業車両10が作物列経路R0に沿って自動走行する様子を示している。ここで、設定処理部113は、目標経路用走行モードM1に対応する許容値Tw1と、作物列経路用走行モードM2に対応する許容値Tw0とを設定する。図10には、各走行モードに対応する許容値の情報を含む許容値情報F1の一例を示している。例えば、走行処理部111は、作物列経路用走行モードM2において、現在位置Peから作物列経路R0までの距離W0(位置偏差)が許容値Tw0(例えば15cm)未満である場合に作業車両10を自動走行させ、距離W0が許容値Tw0以上の場合に作業車両10を停止させる。図9Aに示す状態の場合、距離W0が許容値Tw0未満であるため、走行処理部111は、作業車両10を作物列経路用走行モードM2で自動走行させる。すなわち、作業車両10は、GNSS信号を利用しながら、作物列経路R0に沿った自動走行を行う。
【0061】
ここで、障害物検出装置17が前方の作物Vを検出できなくなった場合(図8参照)、切替処理部112は、作業車両10の走行モードを目標経路用走行モードM1に切り替える。この場合、走行処理部111は、現在位置Peから目標経路Rまでの距離W1(位置偏差)が許容値Tw1(例えば15cm)未満である場合に作業車両10を自動走行させ、距離W1が許容値Tw1以上の場合に作業車両10を停止させる。ここでは、図9Bに示すように、距離W1が許容値Tw1以上であるため、走行処理部111は、作業車両10を停止させる。このように、走行モードが切り替えられたときに作業車両10の位置偏差(図9Aの距離W0,W1)が切替先の走行モードに対応する許容値(図9Aの許容値Tw0,Tw1)以上になっている場合、作業車両10が停止してしまい作業が中断してしまう問題が生じる。
【0062】
そこで、本実施形態に係る設定処理部113は、目標経路用走行モードM1及び作物列経路用走行モードM2の一方の走行モードから他方の走行モードに切り替えられた場合に、前記他方の走行モードに対応する許容値を、走行モードが切り替えられる前に前記他方の走行モードに対して設定された第1許容値よりも大きい第2許容値に変更する。図9Bに示す例では、設定処理部113は、作物列経路用走行モードM2から目標経路用走行モードM1に切り替えられた場合に、目標経路用走行モードM1に対応する許容値を、予め設定された許容値Tw1(15cm)よりも大きい許容値Tw1´(例えば25cm)に変更する。なお、許容値情報F1(図10参照)には、走行モードが切り替えられたときに設定される許容値Tw1´が予め登録されてもよい。設定処理部113は、許容値情報F1を参照して、目標経路用走行モードM1に対応する許容値を許容値Tw1´(25cm)に変更(設定)する。なお、許容値Tw1´(25cm)は、例えば、予め設定された許容値Tw1(15cm)に作物列経路R0に対する位置偏差(位置ずれ)の許容値(10cm)を加算した値である。許容値Tw1(15cm)は、本発明の第1許容値の一例であり、許容値Tw1´(25cm)は、本発明の第2許容値の一例である。
【0063】
目標経路用走行モードM1に対応する許容値が許容値Tw1´に変更されると、図9Bに示すように、距離W1が許容値Tw1´未満になるため、走行処理部111は、作業車両10を停止させることなく、目標経路用走行モードM1で自動走行させることが可能になる。すなわち、作業車両10は、GNSS信号を利用しながら、目標経路Rに沿った自動走行を行う。また、走行処理部111は、距離W1(位置偏差)が小さくなるように作業車両10の姿勢を制御しながら目標経路Rに沿って走行させる。
【0064】
走行モードが目標経路用走行モードM1に切り替えられて作業車両10が目標経路Rに沿って走行し、図9Cに示すように、距離W1が予め設定された許容値Tw1(15cm)未満になると、設定処理部113は、目標経路用走行モードM1に対応する許容値を許容値Tw1´(25cm)から許容値Tw1(15cm)に変更する。目標経路用走行モードM1に対応する許容値が許容値Tw1に変更されると、作業車両10は、許容値Tw1を使用して自動走行を継続する。
【0065】
なお、設定処理部113が目標経路用走行モードM1に対応する許容値を許容値Tw1´から許容値Tw1に変更するタイミングは、上述の実施形態に限定されない。他の実施形態として、例えば、設定処理部113は、作物列経路用走行モードM2から目標経路用走行モードM1に切り替えられて作業車両10が目標経路用走行モードM1で走行を開始した後に距離W1(位置偏差)が許容値Tw1(15cm)よりも小さい所定値(例えば10cm)未満になった場合に、許容値Tw1´(25cm)を許容値Tw1(15cm)に変更してもよい。これにより、作業車両10の位置偏差を確実に許容値未満に抑えることができるため、走行モードが切り替えられた直後に作業車両10が停止することを防ぐことができる。
【0066】
また他の実施形態として、例えば、設定処理部113は、作物列経路用走行モードM2から目標経路用走行モードM1に切り替えられて作業車両10が目標経路用走行モードM1で走行を開始してから所定時間経過した場合に、許容値Tw1´(25cm)を許容値Tw1(15cm)に変更してもよい。前記所定時間は、例えば距離W1(位置偏差)が許容値Tw1(15cm)よりも小さくなるために要する時間に設定される。これにより、作業車両10の位置偏差を確実に許容値未満に抑えることができるため、走行モードが切り替えられた直後に作業車両10が停止することを防ぐことができる。
【0067】
ところで、走行モードが切り替えられる時点で、作業車両10の位置偏差が変更後の許容値以上になっていることも考えられる。この場合には、作業車両10の位置精度を担保できなくなるため自動走行を中断して作業車両10を停止させる。例えば図9Bにおいて、走行モードが目標経路用走行モードM1に切り替えられる時点又は許容値が許容値Tw1´に変更された時点で、距離W1が許容値Tw1´以上である場合には、走行処理部111は作業車両10を停止させる。この場合は、車両制御装置11は、操作端末20に異常情報を通知してもよい。
【0068】
図8及び図9A図9Cには、切替処理部112が作物列経路用走行モードM2から目標経路用走行モードM1に切り替える構成について例示している。これに対して、図11及び図12には、切替処理部112が目標経路用走行モードM1から作物列経路用走行モードM2に切り替える構成について例示している。例えば、作業車両10が目標経路用走行モードM1で走行中に作物Vが配置されている領域に進入して、障害物検出装置17が前方の作物Vを検出した場合(図11参照)、走行処理部111は作物列経路R0を推定する。また、切替処理部112は、作業車両10の走行モードを目標経路用走行モードM1から作物列経路用走行モードM2に切り替える。
【0069】
また、設定処理部113は、作物列経路用走行モードM2に対応する許容値を、予め設定された許容値Tw0(15cm)よりも大きい許容値Tw0´(25cm)に変更する(図10及び図12参照)。なお、許容値Tw0´(25cm)は、例えば、予め設定された許容値Tw0(15cm)に作物列経路R0に対する位置偏差(位置ずれ)の許容値(10cm)を加算した値である。許容値Tw0(15cm)は、本発明の第1許容値の一例であり、許容値Tw0´(25cm)は、本発明の第2許容値の一例である。なお、許容値Tw0及び許容値Tw1は互いに同一の値であってもよいし、異なる値であってもよい。また、許容値Tw0´及び許容値Tw1´は互いに同一の値であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0070】
作物列経路用走行モードM2に対応する許容値が許容値Tw0´に変更されると、図12に示すように、距離W0が許容値Tw0´未満になるため、走行処理部111は、作業車両10を停止させることなく、作業車両10を作物列経路用走行モードM2で自動走行させることが可能になる。すなわち、作業車両10は、GNSS信号を利用しながら、作物列経路R0に沿った自動走行を行う。また、走行処理部111は、距離W0(位置偏差)が小さくなるように作業車両10の姿勢を制御しながら作物列経路R0に沿って走行させる。
【0071】
以上のように、切替処理部112、作業車両10が目標経路用走行モードM1で走行中に作物V(作業対象物)を検出した場合に目標経路用走行モードM1を作物列経路用走行モードM2に切り替え、作業車両10が作物列経路用走行モードM2で走行中に作物Vを検出できなくなった場合に作物列経路用走行モードM2を目標経路用走行モードM1に切り替える。
【0072】
また、走行処理部111は、圃場Fのうち作物Vが配置されていない領域において、作業車両10を目標経路用走行モードM1で自動走行させ、圃場Fのうち作物Vが配置されている領域において、作業車両10を作物列経路用走行モードM2で自動走行させる。
【0073】
なお、走行処理部111は、操作端末20から走行停止指示を取得すると作業車両10の自動走行を停止させる。例えば、操作端末20の操作画面においてオペレータがストップボタンを押下すると、操作端末20は前記走行停止指示を作業車両10に出力する。走行処理部111は、操作端末20から前記走行停止指示を取得すると、作業車両10の自動走行を停止させる。これにより、作業車両10は、自動走行を停止し、散布装置14による散布作業を停止する。
【0074】
上述した作業車両10の構成は、本発明の作業車両の一構成例であって、本発明は上述の構成に限定されない。上述の作業車両10は、第1作物列Vrを跨いで走行しながら、前記第1作物列Vrと、前記第1作物列Vrの左右方向それぞれの第2作物列Vrとに散布物を散布する散布作業を行うことが可能な車両である。他の実施形態として、作業車両10は、車体100が門型の形状ではなく、車体100全体が作物列Vrの間(作業通路)を走行する通常の形状であってもよい。この場合、作業車両10は、作物列Vrを跨がずに各作業通路を順に自動走行する。また、散布装置14は、一つの散布部を備え、左右の両方向に薬液を散布する散布パターンと、左方向のみに薬液を散布する散布パターンと、右方向のみに薬液を散布する散布パターンとを切り替えて散布作業を行う。
【0075】
[操作端末20]
図2に示すように、操作端末20は、制御部21、記憶部22、操作表示部23、及び通信部24などを備える情報処理装置である。操作端末20は、タブレット端末、スマートフォンなどの携帯端末で構成されてもよい。
【0076】
通信部24は、操作端末20を有線又は無線で通信網N1に接続し、通信網N1を介して一又は複数の作業車両10などの外部機器との間で所定の通信プロトコルに従ったデータ通信を実行するための通信インターフェースである。
【0077】
操作表示部23は、各種の情報を表示する液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイのような表示部と、操作を受け付けるタッチパネル、マウス、又はキーボードのような操作部とを備えるユーザーインターフェースである。オペレータは、前記表示部に表示される操作画面において、前記操作部を操作して各種情報(後述の作業車両情報、圃場情報、作業情報など)を登録する操作を行うことが可能である。また、オペレータは、前記操作部を操作して作業車両10に対する作業開始指示、走行停止指示などを行うことが可能である。さらに、オペレータは、作業車両10から離れた場所において、操作端末20に表示される走行軌跡、車体100の周囲画像により、圃場F内を目標経路Rに従って自動走行する作業車両10の走行状態、作業状況、及び周囲の状況を把握することが可能である。
【0078】
記憶部22は、各種の情報を記憶するHDD又はSSDなどの不揮発性の記憶部である。記憶部22には、制御部21に後述の自動走行処理(図14参照)を実行させるための自動走行プログラムなどの制御プログラムが記憶されている。例えば、前記自動走行プログラムは、CD又はDVDなどのコンピュータ読取可能な記録媒体に非一時的に記録されており、所定の読取装置(不図示)で読み取られて記憶部22に記憶される。なお、前記自動走行プログラムは、サーバー(不図示)から通信網N1を介して操作端末20にダウンロードされて記憶部22に記憶されてもよい。
【0079】
制御部21は、CPU、ROM、及びRAMなどの制御機器を有する。前記CPUは、各種の演算処理を実行するプロセッサーである。前記ROMは、前記CPUに各種の演算処理を実行させるためのBIOS及びOSなどの制御プログラムが予め記憶される不揮発性の記憶部である。前記RAMは、各種の情報を記憶する揮発性又は不揮発性の記憶部であり、前記CPUが実行する各種の処理の一時記憶メモリー(作業領域)として使用される。そして、制御部21は、前記ROM又は記憶部22に予め記憶された各種の制御プログラムを前記CPUで実行することにより操作端末20を制御する。
【0080】
図2に示すように、制御部21は、設定処理部211、経路生成処理部212、出力処理部213などの各種の処理部を含む。なお、制御部21は、前記CPUで前記制御プログラムに従った各種の処理を実行することによって前記各種の処理部として機能する。また、一部又は全部の前記処理部が電子回路で構成されていてもよい。なお、前記制御プログラムは、複数のプロセッサーを前記処理部として機能させるためのプログラムであってもよい。
【0081】
設定処理部211は、作業車両10に関する情報(以下、作業車両情報という。)と、圃場Fに関する情報(以下、圃場情報という。)と、作業(ここでは散布作業)に関する情報(以下、作業情報という。)とを設定して登録する。
【0082】
前記作業車両情報の設定処理において、設定処理部211は、作業車両10の機種、作業車両10においてアンテナ164が取り付けられている位置、作業機(ここでは散布装置14)の種類、作業機のサイズ及び形状、作業機の作業車両10に対する位置、作業車両10の作業中の車速及びエンジン回転数、作業車両10の旋回中の車速及びエンジン回転数等の情報について、オペレータが操作端末20において登録する操作を行うことにより当該情報を設定する。本実施形態では、作業機の情報として、散布装置14に関する情報が設定される。
【0083】
前記圃場情報の設定処理において、設定処理部211は、圃場Fの位置及び形状、作業を開始する作業開始位置S及び作業を終了する作業終了位置G(図6参照)、作業方向等の情報について、オペレータが操作端末20において登録する操作を行うことにより当該情報を設定する。なお、作業方向とは、圃場Fから枕地等の非作業領域を除いた領域である作業領域において、散布装置14で散布作業を行いながら作業車両10を走行させる方向を意味する。
【0084】
圃場Fの位置及び形状の情報は、例えばオペレータが作業車両10を手動により圃場Fの外周に沿って一回り周回走行させ、そのときのアンテナ164の位置情報の推移を記録することで、自動的に取得することができる。また、圃場Fの位置及び形状は、操作端末20に地図を表示させた状態でオペレータが操作端末20を操作して当該地図上の複数の点を指定することで得られた多角形に基づいて取得することもできる。取得された圃場Fの位置及び形状により特定される領域は、作業車両10を走行させることが可能な領域(走行領域)である。
【0085】
前記作業情報の設定処理において、設定処理部211は、作業情報として、作業車両10が枕地において旋回する場合にスキップする作業経路の数であるスキップ数、枕地の幅等を設定可能に構成されている。
【0086】
経路生成処理部212は、前記各設定情報に基づいて、作業車両10を自動走行させる経路である目標経路Rを生成する。目標経路Rは、例えば作業開始位置Sから作業終了位置Gまでの経路である(図6参照)。図6に示す目標経路Rは、作物Vが植えられた領域において作物Vに対して薬液を散布する直線状の作業経路R1と、散布作業を行わないで作物列Vr間を移動する移動経路R2とを含む。
【0087】
目標経路Rの生成方法の一例について図13A及び図13Bを用いて説明する。図13Aには、作物列Vrを模式的に示している。先ず、オペレータは作業車両10を手動により作物列Vrの外周に沿って走行させる(図13A参照)。作業車両10は、走行中に各作物列Vrの一方側(図13Aの下側)の端点E1と他方側(図13Aの上側)の端点E2とを検出し、各端点E1,E2の位置情報(座標)を取得する。なお、端点E1,E2は、既に植えられた作物Vの位置であってもよいし、これから植える予定の作物Vの位置を示す目標物の位置であってもよい。経路生成処理部212は、作業車両10から各端点E1,E2の位置情報(座標)を取得すると、対応する端点E1,E2同士を結ぶ線L1(図13B参照)を作物列Vrの作業経路に設定し、複数の作業経路と移動経路(旋回経路)とを含む目標経路Rを生成する。目標経路Rの生成方法は、上述の方法に限定されない。経路生成処理部212は、生成した目標経路Rを記憶部22に記憶してもよい。
【0088】
出力処理部213は、経路生成処理部212が生成した目標経路Rの情報を含む経路データを作業車両10に出力する。なお、出力処理部213は、前記経路データをサーバー(不図示)に出力してもよい。前記サーバーは、複数の操作端末20のそれぞれから取得する複数の前記経路データを操作端末20及び作業車両10に関連付けて記憶し管理する。
【0089】
制御部21は、上述の処理に加えて、各種情報を操作表示部23に表示させる処理を実行する。例えば、制御部21は、作業車両情報、圃場情報、作業情報などを登録する登録画面、目標経路Rを生成する操作画面、作業車両10に自動走行を開始させる操作画面、作業車両10の走行状態などを表示する表示画面などを操作表示部23に表示させる。
【0090】
また制御部21は、オペレータから各種操作を受け付ける。具体的には、制御部21は、オペレータから作業車両10に作業を開始させる作業開始指示、自動走行中の作業車両10の走行を停止させる走行停止指示などを受け付ける。制御部21は、前記各指示を受け付けると、前記各指示を作業車両10に出力する。
【0091】
作業車両10の車両制御装置11は、操作端末20から作業開始指示を取得すると、作業車両10の自動走行及び散布作業を開始させる。また、車両制御装置11は、操作端末20から走行停止指示を取得すると、作業車両10の自動走行及び散布作業を停止させる。
【0092】
なお、操作端末20は、サーバーが提供する農業支援サービスのウェブサイト(農業支援サイト)に通信網N1を介してアクセス可能であってもよい。この場合、操作端末20は、制御部21によってブラウザプログラムが実行されることにより、サーバーの操作用端末として機能することが可能である。
【0093】
[自動走行処理]
以下、図14を参照しつつ、作業車両10の車両制御装置11によって実行される前記自動走行処理の一例について説明する。
【0094】
なお、本発明は、前記自動走行処理に含まれる一又は複数のステップを実行する自動走行方法の発明として捉えることができる。また、ここで説明する前記自動走行処理に含まれる一又は複数のステップは適宜省略されてもよい。なお、前記自動走行処理における各ステップは同様の作用効果を生じる範囲で実行順序が異なってもよい。さらに、ここでは車両制御装置11が前記自動走行処理における各ステップを実行する場合を例に挙げて説明するが、一又は複数のプロセッサーが当該自動走行処理における各ステップを分散して実行する自動走行方法も他の実施形態として考えられる。
【0095】
ステップS1において、車両制御装置11は、操作端末20から作業開始指示を取得したか否かを判定する。例えば、オペレータが操作端末20においてスタートボタンを押下すると、操作端末20は作業開始指示を作業車両10に出力する。車両制御装置11が操作端末20から作業開始指示を取得すると(S1:Yes)、処理はステップS2に移行する。車両制御装置11は、操作端末20から作業開始指示を取得するまで待機する(S1:No)。
【0096】
ステップS2において、車両制御装置11は、所定の走行モードによる自動走行を開始する。例えば、車両制御装置11は、操作端末20から作業開始指示を取得し、作物Vを検出して作物列経路R0を推定すると、走行モードを作物列経路用走行モードM2に設定する。そして、車両制御装置11は、作業車両10の測位情報(RTK測位情報)に基づいて、作物列経路R0に沿って自動走行を開始する。また車両制御装置11は、作物列Vrに対して薬液を散布する散布作業を散布装置14に開始させる。
【0097】
次にステップS3において、車両制御装置11は、作業車両10の位置偏差が所定の走行モードに対応する予め設定された許容値以上であるか否かを判定する。ここでは、車両制御装置11は、作業車両10の位置偏差(距離W0)(図9A参照)が作物列経路用走行モードM2に対応する許容値Tw0(15cm)(図10参照)以上であるか否かを判定する。前記位置偏差が所定の許容値以上である場合(S3:Yes)、処理はステップS31に移行する。一方、前記位置偏差が所定の許容値未満である場合(S3:No)、処理はステップS4に移行する。
【0098】
ステップS4では、車両制御装置11は、走行モードを切り替えるか否かを判定する。例えば、車両制御装置11は、作物Vを検出しながら作物列経路用走行モードM2で走行中に作物Vを検出しなくなった場合に、走行モードを目標経路用走行モードM1に切り替えると判定する。車両制御装置11が走行モードを切り替えると判定した場合(S4:Yes)、処理はステップS5に移行する。一方、車両制御装置11が走行モードを切り替えないと判定した場合(S4:No)、処理はステップS11に移行する。
【0099】
ステップS5では、車両制御装置11は、作業車両10の位置偏差が切替先の走行モードの許容値以上であるか否かを判定する。例えば、車両制御装置11は、作業車両10の位置偏差(距離W1)(図9A参照)が切替先の目標経路用走行モードM1の許容値Tw1(15cm)(図10参照)以上であるか否かを判定する。作業車両10の位置偏差が切替先の走行モードの許容値以上である場合(S5:Yes)、処理はステップS6に移行する。一方、作業車両10の位置偏差が切替先の走行モードの許容値未満である場合(S5:No)、処理はステップS8に移行する。
【0100】
ステップS6では、車両制御装置11は、切替先の走行モードの許容値を、走行モードが切り替えられる前に前記走行モードに対して設定された許容値よりも大きい許容値に変更する。例えば、車両制御装置11は、目標経路用走行モードM1に対応する許容値を、予め設定された許容値Tw1(15cm)よりも大きい許容値Tw1´(25cm)(図9及び図10参照)に変更する。
【0101】
次にステップS7において、車両制御装置11は、作業車両10の位置偏差が切替先の走行モードの変更後の許容値未満であるか否かを判定する。例えば、車両制御装置11は、作業車両10の位置偏差(距離W1)(図9B参照)が目標経路用走行モードM1の変更後の許容値Tw1´(25cm)(図10参照)未満であるか否かを判定する。作業車両10の位置偏差が切替先の走行モードの変更後の許容値未満である場合(S7:Yes)、処理はステップS8に移行する。一方、作業車両10の位置偏差が切替先の走行モードの変更後の許容値以上である場合(S7:No)、処理はステップS31に移行する。
【0102】
ステップS8では、車両制御装置11は、切り替えた走行モードで自動走行を継続する。例えば、車両制御装置11は、目標経路用走行モードM1で作業車両10の自動走行を継続する。
【0103】
次にステップS9において、車両制御装置11は、作業車両10の位置偏差が切替先の走行モードの変更前の許容値未満であるか否かを判定する。例えば、車両制御装置11は、作業車両10の位置偏差(距離W1)(図9B参照)が目標経路用走行モードM1の変更前の許容値Tw1(15cm)(図10参照)未満になったか否かを判定する。作業車両10の位置偏差が切替先の走行モードの変更前の許容値未満になった場合(S9:Yes)(図9C参照)、処理はステップS10に移行する。車両制御装置11は、作業車両10の位置偏差が切替先の走行モードの変更前の許容値未満になるまで目標経路用走行モードM1による自動走行を継続する(S9:No)。
【0104】
次にステップS10において、車両制御装置11は、切替先の走行モードの許容値を、変更した許容値から変更前の許容値に戻す。例えば、車両制御装置11は、目標経路用走行モードM1に対応する許容値を、許容値Tw1´(25cm)から、予め設定された許容値Tw1(15cm)に変更する(図9C参照)。
【0105】
ステップS11において、車両制御装置11は、作業車両10が作業を終了したか否かを判定する。車両制御装置11は、作業車両10の位置が作業終了位置G(図6参照)に一致する場合に作業を終了したと判定する。作業車両10が作業を終了した場合(S11:Yes)、前記自動走行処理は終了する。
【0106】
車両制御装置11は、作業車両10が作業を終了するまでステップS3~S10の処理を繰り返す(S11:No)。例えば、作業車両10が目標経路用走行モードM1で走行中に車両制御装置11が作物Vを検出した場合に(図12参照)、車両制御装置11は、走行モードを作物列経路用走行モードM2に切り替える(S3,S4)。また、車両制御装置11は、作物列経路用走行モードM2に対応する許容値を、予め設定された許容値Tw0(15cm)よりも大きい許容値Tw0´(25cm)に変更して、作業車両10を作物列経路用走行モードM2で自動走行を継続する(S5~S8)。また、車両制御装置11は、作業車両10の位置偏差(距離W0)(図12参照)が作物列経路用走行モードM2の変更前の許容値Tw0(15cm)(図10参照)未満になると、作物列経路用走行モードM2に対応する許容値を、許容値Tw0´(25cm)から、予め設定された許容値Tw0(15cm)に変更する(S9,S10)。
【0107】
ステップS31では、車両制御装置11は、作業車両10を停止させて、前記自動走行処理を終了する。また、車両制御装置11は、操作端末20に警告情報を通知する。
【0108】
以上説明したように、本実施形態に係る自動走行システム1は、走行領域(例えば圃場F)において、作業車両10が作業車両10の測位情報に基づいて、予め設定された目標経路Rに沿って自動走行を行う目標経路用走行モードM1(第1走行モード)で作業車両10を走行させ、作業車両10が前記走行領域内に配置された作業対象物(作物V)の位置に応じて設定された作業対象物経路(作物列経路R0)に沿って自動走行を行う作物列経路用走行モードM2(第2走行モード)で作業車両10を走行させる。また、自動走行システム1は、前記第1走行モードにおいて、作業車両10の現在位置Peと目標経路Rとの距離W0を表す位置偏差が前記第1走行モードに対応する許容値Tw0以上の場合に作業車両10を停止させ、前記第2走行モードにおいて、作業車両10の現在位置Peと前記作業対象物経路との距離W1を表す位置偏差が前記第2走行モードに対応する許容値Tw1以上の場合に作業車両10を停止させる。また、自動走行システム1は、前記第1走行モード及び前記第2走行モードを相互に切り替える。また、自動走行システム1は、前記第1走行モード及び前記第2走行モードの一方の走行モードから他方の走行モードに切り替えられた場合に、前記他方の走行モードに対応する許容値を、走行モードが切り替えられる前に前記他方の走行モードに対して設定された第1許容値よりも大きい第2許容値に変更する。
【0109】
また、本実施形態に係る自動走行方法は、一又は複数のプロセッサーが、走行領域において、作業車両10が作業車両10の測位情報に基づいて、予め設定された目標経路に沿って自動走行を行う第1走行モードで作業車両10を走行させることと、作業車両10が前記走行領域内に配置された作業対象物の位置に応じて設定された作業対象物経路に沿って自動走行を行う第2走行モードで作業車両10を走行させることと、前記第1走行モードにおいて、作業車両10の現在位置と前記目標経路との距離を表す位置偏差が前記第1走行モードに対応する許容値以上の場合に作業車両10を停止させ、前記第2走行モードにおいて、作業車両10の現在位置と前記作業対象物経路との距離を表す位置偏差が前記第2走行モードに対応する許容値以上の場合に作業車両10を停止させることと、前記第1走行モード及び前記第2走行モードを相互に切り替えることと、前記第1走行モード及び前記第2走行モードの一方の走行モードから他方の走行モードに切り替えられた場合に、前記他方の走行モードに対応する許容値を、走行モードが切り替えられる前に前記他方の走行モードに対して設定された第1許容値よりも大きい第2許容値に変更することと、を実行する。
【0110】
上記の構成によれば、作業車両10の走行モードが切り替えられた場合に、切替先の走行モードの許容値を予め設定された許容値よりも大きい値に変更することにより、作業車両10の位置偏差を切替先の走行モードの許容値未満とすることができる。これにより、作業車両10の位置偏差が許容値以上になることにより作業車両10が停止してしまう事態を回避することができる。例えば、作業車両10が作物Vを検出しながら作物列経路R0に沿って自動走行(作物列経路用走行モードM2)しているときに作物Vが配置されていない領域に進入した場合に、目標経路Rに対する作業車両10の位置偏差に起因して作業車両10が停止することを回避し、目標経路Rに沿って走行する目標経路用走行モードM1に移行して自動走行を継続することができる。よって、作業車両10の位置偏差に起因する作業車両10の停止動作を抑制することにより作業効率の低下を防ぐことが可能となる。
【0111】
本発明は上述した実施形態に限定されない。本発明の他の実施形態として、設定処理部113は、以下のようにして、予め設定された許容値を変更してもよい。具体的には、設定処理部113は、作物Vの位置に応じて作物列経路R0を設定するための条件に含まれる作業車両10の現在位置Peと作物列経路R0との距離W0(位置偏差)に基づいて許容値Tw0´を設定する。例えば、距離W0が所定距離を超えると、走行処理部111は、作物列経路R0を正確に推定することができなくなる。この場合、設定処理部113は、前記所定距離を許容値Tw0´に設定する。例えば、前記所定距離が25cmの場合、設定処理部113は、許容値Tw0´を25cmに設定する。
【0112】
また、本発明の他の実施形態として、設定処理部113は、作物列経路用走行モードM2に対応する許容値Tw0,Tw0´を、目標経路用走行モードM1に対応する許容値Tw1,Tw1´よりも小さい値に設定してもよい。これにより、作物列経路用走行モードM2における作業車両10の位置精度を、目標経路用走行モードM1における作業車両10の位置精度よりも高めることができる。
【0113】
また、設定処理部113は、許容値Tw0,Tw0´,Tw1,Tw1´を、作業車両10のサイズ、作業機の種別及びサイズ、圃場Fの状態(傾斜、土壌など)、作業車両10の走行速度などに基づいて設定してもよい。
【符号の説明】
【0114】
1 :自動走行システム
10 :作業車両
11 :車両制御装置
111 :走行処理部
112 :切替処理部
113 :設定処理部
14 :散布装置
16 :測位装置
17 :障害物検出装置
20 :操作端末
211 :設定処理部
212 :経路生成処理部
213 :出力処理部
40 :基地局
50 :衛星
F :圃場(走行領域)
R :目標経路
R0 :作物列経路
V :作物(作業対象物)
Vr :作物列
Pe :現在位置
M1 :目標経路用走行モード(第1走行モード)
M2 :作物列経路用走行モード(第2走行モード)
W0 :(作物列経路からの)距離(位置偏差)
W1 :(目標経路からの)距離(位置偏差)
Tw0 :許容値(第1許容値)
Tw0´ :許容値(第2許容値)
Tw1 :許容値(第1許容値)
Tw1´ :許容値(第2許容値)
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14