(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】圃場貯水システム
(51)【国際特許分類】
A01G 25/00 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
A01G25/00 501A
(21)【出願番号】P 2021147179
(22)【出願日】2021-09-09
【審査請求日】2023-12-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和3年7月2日説明、兵庫県たつの市金剛地区実証圃場現場、株式会社たつのアグリ事務所(兵庫県たつの市揖保川町金剛山590) 令和3年7月9日説明、熊本県湯前町役場(熊本県球磨郡湯前町1989-1) 令和3年7月12日説明、農事組合法人エコファーム舟枝(福井県鯖江市舟枝町第9号23番地) 令和3年7月19日説明、たつの市役所(兵庫県たつの市龍野町富永1005-1) 令和3年8月2日説明、宮城県大崎市古川塚目北原「ほ場」(宮城県大崎市古川塚目北原) 令和3年8月11日説明、水土里ネット千畑(美郷町千畑土地改良区)(秋田県仙北郡美郷町土崎字上野乙6-1)
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100162031
【氏名又は名称】長田 豊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100175721
【氏名又は名称】高木 秀文
(72)【発明者】
【氏名】森田 仁
(72)【発明者】
【氏名】末吉 康則
(72)【発明者】
【氏名】三木 一浩
(72)【発明者】
【氏名】藤本 好宏
(72)【発明者】
【氏名】陳 巨壹
(72)【発明者】
【氏名】大塚 美穂
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-111536(JP,A)
【文献】特開2009-102820(JP,A)
【文献】特開2006-029045(JP,A)
【文献】特開2019-110832(JP,A)
【文献】特開2007-126939(JP,A)
【文献】特開2017-051137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 22/22
A01G 25/00 - 25/16
E01F 1/00 - 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場の給排水を管理する圃場水管理装置を制御することが可能な制御部を具備する圃場貯水システムであって、
前記制御部は、
前記圃場水管理装置を制御するための制御モードとして、
所定の条件に応じて前記圃場の排水高さを調節する第一モードと、
前記所定の条件にかかわらず、前記圃場の排水高さを第一の排水高さに設定して前記圃場の水を一旦排水した後で、前記圃場の排水高さを前記第一モードにおける排水高さよりも高い第二の排水高さに設定することにより、前記第一モードよりも多量の水を前記圃場に貯留可能とする第二モードと、
を具備し、
所定の第一基準に基づいて前記第一の排水高さを自動的に設定
し、
前記第二モードへの切り替えにおいて、
所定の第二基準に基づいて前記圃場の水を一旦排水する処理をスキップ可能である、
圃場貯水システム。
【請求項2】
前記所定の第一基準には、
前記圃場の基準貯水量に対する現在の前記圃場の貯水量の割合を示す貯水率が含まれる、
請求項1に記載の圃場貯水システム。
【請求項3】
前記所定の第一基準には、
予測雨量が含まれる、
請求項1又は請求項2に記載の圃場貯水システム。
【請求項4】
前記所定の第一基準には、
前記圃場に接続された排水路の水位が含まれる、
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の圃場貯水システム。
【請求項5】
前記所定の第一基準には、
前記圃場の水位が含まれる、
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の圃場貯水システム。
【請求項6】
前記制御部は、
前記圃場の排水高さを前記第一の排水高さに設定する際に、前記圃場の排水高さを段階的に低くする、
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の圃場貯水システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場に水を貯留する圃場貯水システムの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圃場に水を貯留するための技術は公知となっている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1に記載の水田用水位調整器は、水位調整板及びダム板等によって圃場に水を貯留することができる。具体的には、水位調整板は、圃場の水をせき止めるためのものである。水位調整板の上端部の高さ位置は、作物の生育に適した高さ等に調整される。ダム板は、水位調整板を超えた水をせき止めるためのものである。ダム板は、水位調整板よりも高い位置まで延出する。
【0004】
特許文献1に記載の水田水位調整器は、大雨等で圃場の水位が上昇した際にダム板で圃場の水をせき止めることで、作物の生育に適した水位を超える高さまで圃場に水を貯留することができる。これにより前記水田水位調整器は、大雨の場合等に河川への雨水の流入を抑制し、河川の増水や氾濫を抑制することができる。しかし前記水田用水位調整器では、圃場の水位が高い状態で大雨が降った場合等に、早い段階で圃場の水がダム板を超えてしまい、圃場にあまり水を貯留できない可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、圃場に水を効果的に貯留することが可能な圃場貯水システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、圃場の給排水を管理する圃場水管理装置を制御することが可能な制御部を具備する圃場貯水システムであって、前記制御部は、前記圃場水管理装置を制御するための制御モードとして、所定の条件に応じて前記圃場の排水高さを調節する第一モードと、前記所定の条件にかかわらず、前記圃場の排水高さを第一の排水高さに設定して前記圃場の水を一旦排水した後で、前記圃場の排水高さを前記第一モードにおける排水高さよりも高い第二の排水高さに設定することにより、前記第一モードよりも多量の水を前記圃場に貯留可能とする第二モードと、を具備し、所定の第一基準に基づいて前記第一の排水高さを自動的に設定し、前記第二モードへの切り替えにおいて、所定の第二基準に基づいて前記圃場の水を一旦排水する処理をスキップ可能であるものである。
【0009】
請求項2においては、前記所定の第一基準には、前記圃場の基準貯水量に対する現在の前記圃場の貯水量の割合を示す貯水率が含まれるものである。
【0010】
請求項3においては、前記所定の第一基準には、予測雨量が含まれるものである。
【0011】
請求項4においては、前記所定の第一基準には、前記圃場に接続された排水路の水位が含まれるものである。
【0012】
請求項5においては、前記所定の第一基準には、前記圃場の水位が含まれるものである。
【0014】
請求項6においては、前記制御部は、前記圃場の排水高さを前記第一の排水高さに設定する際に、前記圃場の排水高さを段階的に低くするものである。
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
請求項1においては、圃場の水を一旦排水することで、圃場に水を効果的に貯留することができる。また、所定の第一基準に基づいて第一の排水高さを適切な高さに設定することができる。これにより、第二モードに切り替える際に過剰に排水が行われたり排水量が不足するのを防止できる。また、所定の場合(例えば、貯水率が所定の閾値以下であり、圃場が氾濫するおそれがないと考えられる場合)に、一旦排水する処理をスキップすることができる。これにより、第二モードへ切り替えるのに要する時間を短縮することができる。
【0017】
請求項2においては、貯水率に基づいて第一の排水高さを適切な排水高さに設定することができる。例えば、貯水率が比較的高い場合の第一の排水高さを、貯水率が比較的低い場合の第一の排水高さよりも高くすることで、排水路に多量の水が流入して水位が上昇するのを防止できる。
【0018】
請求項3においては、予測雨量に基づいて第一の排水高さを適切な排水高さに設定することができる。例えば、大雨が予想される場合に第一の排水高さを低くすることで、貯水率を下げてより多くの水を圃場に貯留することができる。
【0019】
請求項4においては、排水路の水位に基づいて第一の排水高さを適切な排水高さに設定することができる。例えば、排水路の水位が比較的高い場合に第一の排水高さを高くすることで、排水路に多量の水が排水されるのを防止することができる。これによって排水路が氾濫するのを効果的に防止することができる。
【0020】
請求項5においては、圃場の水位に基づいて第一の排水高さを適切な排水高さに設定することができる。例えば、水位が比較的高い場合の第一の排水高さを、水位が比較的低い場合の第一の排水高さよりも高くすることで、排水路に多量の水が流入して水位が上昇するのを防止できる。
【0022】
請求項6においては、圃場から一旦排水される水の勢いを弱くして、圃場から泥や農薬等が排出されるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る圃場貯水システムにおける圃場への給排水経路を示す説明図。
【
図4】ダムモードにより河川の増水及び氾濫を抑制する流れを示す図。
【
図5】用水管理サーバが生成する画面を示すブロック図。
【
図10】ダム管理画面で圃場の詳細情報が表示された状態を示す図。
【
図12】操作画面で手動モードを実行する様子を示す図。
【
図13】設定画面の時間設定部及びグループ設定部を示す図。
【
図16】自動ダム化処理で「制御対象1~3」をダムモードにする様子を示す図。
【
図17】(a)「制御対象1」が「ダム準備時排水高」となった状態を示す図。(b)「制御対象2」が「ダム準備時排水高」となった状態を示す図。(c)「制御対象1」が「ダム貯留時排水高」となった状態を示す図。
【
図19】自動復帰処理で「制御対象1~3」を通常モードに戻す様子を示す図。
【
図20】(a)「制御対象1」を通常モードに戻した状態を示す図。(b)「制御対象2」を通常モードに戻した状態を示す図。(c)「制御対象3」を通常モードに戻した状態を示す図。
【
図21】第二実施形態に係る自動ダム化処理を示すフローチャート。
【
図22】「畔高」、「最大排水高」及び「ダム貯留時排水高」を示す説明図。
【
図23】(a)貯水率が高い圃場を示す説明図。(b)貯水率が高い圃場の排水高さを「ダム準備時排水高」に設定する様子を示す説明図。
【
図24】(a)貯水率が低い圃場を示す説明図。(b)貯水率が低い圃場の排水高さを「ダム準備時排水高」に設定する様子を示す説明図。
【
図25】第二実施形態に係る自動ダム化処理で「制御対象1~3」をダムモードにする様子を示す図。
【
図26】(a)自動ダム化処理の実行前の圃場の状態を示す図。(b)「制御対象1」の一時排水がスキップされた状態を示す図。(c)「制御対象3」の一時排水がスキップされた状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、本発明の第一実施形態に係る圃場貯水システム10について説明する。
【0025】
図1に示す圃場貯水システム10は、大雨が降る場合等に圃場Hに降水を貯留して河川の増水や氾濫を抑制するためのものである。圃場貯水システム10は、用水管理システム20及び圃場水管理システム30を具備する。
【0026】
用水管理システム20は、水源から圃場Hへ供給する水(灌漑用水)を管理するためのものである。用水管理システム20は、取水口21、第一ポンプ22、配水池23、分水装置24、第二ポンプ25、排水ゲート26、利用者端末27及び用水管理サーバ28を具備する。
【0027】
取水口21は、水源(本実施形態では本川(本流河川)R1)から水を農業用水路へ取り入れるためのものである。
【0028】
第一ポンプ22は、取水口21から取り入れた水を汲み上げて配水池23へ供給するためのものである。
【0029】
配水池23は、圃場Hへ供給する水を貯留するためのものである。配水池23は、配水管23aを介して複数の分水装置24と接続される。配水池23に貯留された水は、配水管23aを介して分水装置24へ送られる。
【0030】
分水装置24は、圃場Hへ水を供給するための給水管24bへの給水量を調整するためのものである。分水装置24は、配水管24a及び当該配水管24aに複数接続された給水管24bを介して複数の圃場Hと接続される。分水装置24へ送られた水は、配水管24aを介して給水管24bへ送られ、後述する圃場水管理システム30により圃場Hへ適宜供給される。また、圃場Hへ供給された水は、圃場水管理システム30により圃場Hから適宜排出され、排水路24cを介して支川(支川河川)R2へ送られる。
【0031】
第二ポンプ25は、排水ゲート26を介して支川R2の水を本川R1へ送るためのものである。第二ポンプ25は、支川R2の下流側(本川R1に近い側)に設けられる。
【0032】
排水ゲート26は、本川R1の水位が上昇した場合に、本川R1から支川R2への水の逆流を防止するためのものである。排水ゲート26は、本川R1と支川R2との合流部分に設けられる。
【0033】
利用者端末27は、利用者(圃場貯水システム10を利用して灌漑用水を管理する者)が使用する端末である。利用者端末27は、演算処理を実行可能な演算装置、プログラム等が記憶された記憶装置、情報を入力可能な入力装置及び演算処理の結果等を表示可能な出力装置等を具備する。利用者端末27は、パーソナルコンピュータやスマートフォン等によって構成される。
【0034】
図1から
図3に示す用水管理サーバ28は、種々の処理を行うものである。用水管理サーバ28は、演算処理を実行可能な演算装置、プログラム等が記憶された記憶装置等を具備する。用水管理サーバ28は、第一ポンプ22、分水装置24、第二ポンプ25及び排水ゲート26と接続され、当該第一ポンプ22等に信号を送信することができる。これにより用水管理サーバ28は、第一ポンプ22等を制御することができる。
【0035】
また本実施形態の用水管理サーバ28は、利用者端末27と接続され、利用者端末27との間で相互に情報をやり取りすることができる。利用者は、利用者端末27を操作して用水管理サーバ28へ所定の信号を送信することで第一ポンプ22等を制御し、配水池23の水位や給水管24bの給水量や支川R2から本川R1へ水を流すタイミング等を任意に決定することができる。
【0036】
圃場水管理システム30は、各圃場Hの給排水を行うためのものである。
図2に示すように、圃場水管理システム30は、給水装置31、水位水温センサ32、排水装置33、通信中継機34、所有者端末35、圃場管理サーバ36及びデータセンター37を具備する。
【0037】
給水装置31は、圃場Hへの給水を管理するためのものである。給水装置31は、各圃場Hに設けられる。給水装置31は、後述する通信中継機34と通信するための通信機器と、給水管24bと圃場Hとを接続する水路に設けられた給水栓と、駆動電源等を具備する(不図示)。給水装置31は、前記給水栓を開閉することで、圃場Hへ給水可能な状態と給水不能な状態とを切り替えることができる。また給水装置31は、給水栓の開度に応じて圃場Hへの給水量を調整することができる。
【0038】
水位水温センサ32は、圃場Hの水位及び水温を測定するためのものである。水位水温センサ32は、各圃場Hに設けられる。水位水温センサ32は、給水装置31と接続され、水位及び水温の測定結果を給水装置31へ送信することができる。
【0039】
排水装置33は、圃場Hの排水を管理するためのものである。排水装置33は、各圃場Hに設けられる。排水装置33は、通信中継機34と通信するための通信機器や駆動電源(不図示)と、圃場Hの排水口に設けられた昇降体33a(
図16参照)と、を具備する。排水装置33は、昇降体33aを超えた圃場Hの水を排水路24cへ排出する。こうして圃場Hでは、昇降体33aの高さ位置(上面の高さ位置)と同じ高さの水位まで、水を貯留することができる。以下では、このような昇降体33aの高さ位置(圃場Hに貯留可能な水位)を、「排水高さ」と称する。
【0040】
通信中継機34は、無線通信可能な機器である。通信中継機34は、無線通信により、給水装置31、排水装置33及び後述する圃場管理サーバ36との間で情報をやり取りすることができる。
【0041】
所有者端末35は、圃場Hの所有者が所有する端末である。所有者端末35は、演算処理を実行可能な演算装置、プログラム等が記憶された記憶装置、情報を入力可能な入力装置及び演算処理の結果等を表示可能な出力装置等を具備する。所有者端末35は、スマートフォンやパーソナルコンピュータ等によって構成される。
【0042】
圃場管理サーバ36は、圃場Hの給排水に関する処理を行うためのものである。圃場管理サーバ36は、クラウドサーバ(厳密にはクラウドサーバ内に仮想的に構築されたサーバ)により構成される。圃場管理サーバ36は、通信中継機34を介して給水装置31及び排水装置33との間で情報をやり取りすることができる。圃場管理サーバ36は、給水装置31及び排水装置33から信号を受信することで、種々の情報を取得することができる。例えば圃場管理サーバ36は、給水装置31からの信号に基づいて、給水栓の開度や水位水温センサ32の測定結果等を取得することができる。また圃場管理サーバ36は、排水装置33からの信号に基づいて現在の排水高さ等を取得することができる。
【0043】
また圃場管理サーバ36は、給水装置31及び排水装置33へ信号を送信することで、圃場Hの給排水を制御することができる。例えば圃場管理サーバ36は、給水装置31へ信号を送信することで給水栓を開閉し、圃場Hへ給水可能な状態と給水不能な状態との切り替えや給水栓の開度を調整することができる。また圃場管理サーバ36は、排水装置33へ信号を送信することで、排水高さを変更することができる。圃場管理サーバ36は、このような給排水の制御により圃場Hの水位を調節することができる。
【0044】
また圃場管理サーバ36は、インターネット回線等を介して所有者端末35との間で相互に情報をやり取りすることができる。所有者は、所有者端末35を操作することで、圃場管理サーバ36から信号を受信して圃場Hの水位等を確認することができる。また所有者は、所有者端末35を操作することで、圃場管理サーバ36へ信号を送信し、圃場Hの給排水を遠隔で操作することができる。
【0045】
データセンター37は、圃場Hや圃場水管理システム30に関する種々の情報を記憶するための施設である。データセンター37には、情報を記憶するための記憶装置(例えば、大容量ストレージ)が設けられ、当該記憶装置に水位水温センサ32の測定結果や排水高さを変更した履歴等が記憶される。データセンター37では、圃場管理サーバ36から送信された情報を前記記憶装置に記憶させることができる。またデータセンター37では、圃場管理サーバ36から要求があった場合に、前記記憶装置に記憶された情報を圃場管理サーバ36へ送信することができる。
【0046】
上述の如く構成される圃場貯水システム10の用水管理サーバ28は、圃場管理サーバ36と接続され、当該圃場管理サーバ36との間で相互に情報をやり取りすることができる。用水管理サーバ28は、圃場管理サーバ36から信号を受信することで、当該圃場水管理システム30から種々の情報を取得することができる。具体的には、用水管理サーバ28は、給水栓の開度、圃場Hの水位及び水温、並びに現在の排水高さ等の情報を取得することができる。
【0047】
また、用水管理サーバ28は、圃場管理サーバ36へ信号を送信することで圃場水管理システム30(給水装置31及び排水装置33)を制御することができる。当該用水管理サーバ28は、圃場水管理システム30を制御するための制御モードとして、通常モード及びダムモードを具備する。
【0048】
通常モードは、所定の条件に応じて排水高さを調節するモードである。通常モードは、主に天候が安定している場合に実行される。通常モードでは、圃場Hの作物の生育に適した水位(設定水位)となるように圃場Hへの給水量及び排水高さが調節される。通常モードにおける給水量等の調節は、圃場管理サーバ36により行われる。具体的には圃場管理サーバ36は、作物の品種や生育状況に基づいて給水量及び排水高さを決定し、当該決定結果に基づいて給水量及び排水高さを自動的に調節する。なお以下では、通常モードにおける排水高さを「通常時排水高」と称する。「通常時排水高」は、作物の品種や生育状況に基づいて予め設定されており、当該設定値は圃場管理サーバ36の記憶装置に記憶される。また当該設定値は、所有者端末35を操作することで、圃場Hの所有者が任意に変更することができる。
【0049】
用水管理サーバ28は、通常モードを実行する場合に、圃場管理サーバ36へ通常モードの実行を指示する信号を送信する。こうして通常モードにおける給水量及び排水高さの調節は、圃場管理サーバ36又は所有者により行われる。
【0050】
ダムモードは、通常モードとは異なり、作物の生育状況等(所定の条件)にかかわらず、通常モードよりも多量の水を圃場Hに貯留可能とするモードである。ダムモードは、天候が不安定となることが予想された場合(大雨予報の場合等)に実行される。ダムモードでは、給水が停止されると共に排水高さが「通常時排水高」よりも高い排水高さに設定される。ダムモードにおける給水及び排水高さの制御は、用水管理サーバ28により行われる。
【0051】
具体的には、用水管理サーバ28は、給水栓の開度や排水高さに関する信号を圃場管理サーバ36に送信する。圃場管理サーバ36は、当該信号に基づいて給水装置31及び排水装置33を制御する。こうして用水管理サーバ28は、ダムモードにおける圃場Hへの給水量及び排水高さを調節する。なお、本実施形態におけるダムモードでは、後述するように、排水高さが一旦下げられた後で、最終的に「通常時排水高」よりも高い排水高さに設定される。以下では、このような「通常時排水高」よりも高い排水高さを「ダム貯留時排水高」と称する。「ダム貯留時排水高」は予め設定されており、当該設定値は用水管理サーバ28の記憶装置に記憶される。
【0052】
用水管理サーバ28は、ダムモードを実行することで、大雨が降った際に圃場Hをダム代わりにして河川の増水及び氾濫を抑制することができる。
【0053】
図4は、ダムモードにより河川の増水及び氾濫を抑制する流れの一例を示す図である。以下、
図2及び
図4を用いて、
図4に示した流れの概要を説明する。
【0054】
利用者は、大雨が予想された場合に通常モードからダムモードへ切り替えるか否かを判断する。利用者は、ダムモードへ切り替えると判断した場合に利用者端末27を操作し、ダムモードへ切り替えるように用水管理サーバ28へ指示を出す(ステップS10)。
【0055】
用水管理サーバ28は、給水装置31による圃場Hへの給水を停止すると共に、排水装置33の排水高さを「通常時排水高」よりも低い排水高さに変更する(ステップS20)。用水管理サーバ28はこの状態を所定時間維持する。これによって用水管理サーバ28は圃場Hの水を一旦排水し、大雨が降る前に圃場Hに貯留できる水の容量を確保する。
【0056】
なお以下では、圃場Hの水を一旦排水する際の排水高さを「ダム準備時排水高」と称する。また以下では、一旦排水する時間(「ダム準備時排水高」を維持する時間)を「ダムモード遷移時排水時間」と称する。「ダム準備時排水高」及び「ダムモード遷移時排水時間」は予め設定されており、当該設定値は用水管理サーバ28の記憶装置に記憶される。
【0057】
用水管理サーバ28は、圃場Hの水を一旦排水した後で、排水高さを上昇させる(ステップS30)。こうして用水管理サーバ28は、排水高さを「ダム貯留時排水高」に変更する。
【0058】
この状態で雨が降ると、圃場Hやその近傍に降った雨は、当該圃場Hに貯留される。圃場Hの排水高さは比較的高く(「ダム貯留時排水高」に)設定されているため、圃場Hには多量の降水を貯留することができる(ステップS40)。このように、圃場Hに一時的に降水を貯留することで、河川(本川R1や支川R2)に多量の降水が流れ込むのを抑制することができ、河川の増水及び氾濫を抑制することができる(ステップS50)。
【0059】
利用者は、天候及び河川の増水が回復したか否かを判断する。利用者は、天候及び河川の増水が回復したと判断した場合に利用者端末27を操作し(ステップS60)、ダムモードから通常モードへ切り替えるように用水管理サーバ28へ指示を出す(ステップS70)。こうして圃場Hでは、給水が再開されると共に、排水装置33の排水高さが元に戻される(「通常時排水高」に設定される)。
【0060】
このように、用水管理サーバ28は、通常モード及びダムモードを切り替えることで、天候が安定している通常時に圃場Hの水位を作物に適した水位に調節できると共に、大雨のときに一時的に圃場Hに降水を貯留して河川の増水及び氾濫を抑制することができる。
【0061】
本実施形態の用水管理サーバ28は、上述のような通常モード及びダムモードに関する複数の画面を生成することができる。具体的には、用水管理サーバ28は、
図5に示すように、地図画面110、気象グラフ設定画面120、ダム管理画面130、操作画面140及びモード設定画面150を生成することができる。
【0062】
まず、各種画面(地図画面110等)の概要について説明する。各種画面は、CGI(Common Gateway Interface)プログラム等による動的なWebページである。各種画面は、利用者端末27のブラウザで表示することができる。
【0063】
各種画面(地図画面110等)は、第一フレーム101、第二フレーム102及び第三フレーム103により上下に3分割される(
図6から
図14参照)。第一フレーム101及び第二フレーム102は、各種画面を切り替えるための部分である。第一フレーム101及び第二フレーム102は、画面の上部に配置される。第一フレーム101及び第二フレーム102には、各種画面を示す文字列が表示される。第三フレーム103は、各種画面に対応する情報を表示する部分である。利用者は、第一フレーム101及び第二フレーム102に表示された情報を選択することで、第三フレーム103に表示される内容を変更することができる。こうして利用者は各種画面の切り替えを行うことができる。
【0064】
次に、地図画面110、気象グラフ設定画面120、ダム管理画面130、操作画面140及びモード設定画面150について詳細に説明する。
【0065】
図6に示す地図画面110は、圃場Hの地図及び雨量(降水量)を表示する画面である。地図画面110は、第一フレーム101の「全体地図」との文字列を選択することで表示される。地図画面110(第三フレーム103)には、地図表示部111及び雨量表示部112が含まれる。
【0066】
地図表示部111は、圃場Hの地図を表示する部分である。用水管理サーバ28は、所定のサーバから地図情報を取得し、地図表示部111に当該地図情報を表示する。地図表示部111には、マーク111a及び気象情報ボタン111bが配置される。
【0067】
マーク111aは、所定の地点を示す目印である。気象情報ボタン111bは、所定の地域(例えば、マーク111aで示した地点を含む所定の範囲の地域や、地図表示部111に表示されるその他の地域等)の気象情報を表示するためのボタンである。気象情報ボタン111bが押下されると、用水管理サーバ28は、所定の地域の長時間予測雨量(例えば72時間先までの予測雨量)を表示する。
【0068】
雨量表示部112は、マーク111aで示した地点を中心とする東西南北各々50km(100kmの正方形)の範囲の地域における、最大雨量予測をグラフ112aで表示する部分である。具体的には、用水管理サーバ28は、当該範囲を1辺1kmのメッシュに区切り、各メッシュにおける雨量予測を所定のサーバから取得する。そして用水管理サーバ28は、取得した雨量予測に基づいて、今後所定期間内(例えば1時間や24時間以内)に最も多く雨が降ると予想されるメッシュを抽出し、当該メッシュにおける雨量予測のグラフ112aを作成して表示する。グラフ112aは、1時間ごとの雨量を示す棒グラフとなっている。なお本実施形態のグラフ112aは、東西南北各々50km(100kmの正方形)の範囲の最大雨量予測を示すものとしているが、前記範囲は特に限定されるものではなく、任意に変更可能である。
【0069】
図7に示すように、グラフ112aを選択すると、気象情報表示画面113が表示される。気象情報表示画面113は、グラフ112aを拡大して表示するための画面である。気象情報表示画面113では、雨量に応じてグラフ112aの縦棒が色分けして表示される。
【0070】
具体的には、用水管理サーバ28の記憶装置には、雨量に関する閾値として、注意報レベルの雨量(例えば20mm/h以上)と、警報レベルの雨量(例えば30mm/h以上)と、が記憶されている。用水管理サーバ28は、1時間ごとの雨量と当該閾値とを比較することで、グラフ112aを色分けして表示する。
【0071】
また、気象情報表示画面113では、これまでに降った雨の量(
図7に示す「実績」)、今後1時間以内の詳細な降水量の予測(「5分予測」)も表示される。また気象情報表示画面113では、気象情報を利用者端末27にダウンロードしたり(ダウンロードボタン)、過去の気象情報を確認することができる(過去実績表示ボタン)。
【0072】
利用者は、上述の如く構成される地図画面110を表示することで、今後の天候等を把握して、通常モード及びダムモードの切り替えの判断を行い易くなる。
【0073】
なお、
図6及び
図7に示す地図画面110は一例であり、地図画面110に表示する情報は任意に変更可能である。例えば地図画面110では、本川R1の水位や流域雨量指数(河川に沿う地域(流域)で降った雨が下流へと移動する量を計算して数値化したもの)を表示することも可能である。このような構成とすることで、利用者は、本川R1の水位が上昇した場合や流域雨量指数から本川R1の水位上昇が見込まれる場合に、ダムモードへ切り替えるとの判断を行うことができる。また利用者は、流域雨量指数から本川R1の水位上昇の見込みがない場合に、通常モードを維持する(圃場Hの水を一旦排水する等の準備をしない)との判断を行うこともできる。このように本川R1の水位等を表示する場合、本川R1に水位を測定するための水位計を適宜設置することも可能である。
【0074】
図8に示す気象グラフ設定画面120は、雨量表示部112(
図6参照)の表示に関する設定を行うための画面である。気象グラフ設定画面120は、第一フレーム101及び第二フレーム102で適宜情報を選択することで表示される。気象グラフ設定画面120では、
図7に示すグラフ112aの色分けに用いられる閾値等を設定することができる(警報値等設定)。
【0075】
図9に示すダム管理画面130は、圃場Hを管理するための画面である。ダム管理画面130は、第一フレーム101の「全体監視」との文字列を選択すると共に、第二フレーム102の「圃場マップ」との文字列を選択することで表示される。ダム管理画面130では、圃場Hの地図情報に、当該圃場Hの状態を示すマークが重ね合わせて表示される。具体的には、ダム管理画面130には、給水栓の開閉状態を示すマークと、通常モード又はダムモードのいずれであるのかを示すマークと、圃場Hの現在の水位が設定水位(制御の目標値(例えば作物の生育に適した水位))に到達しているかを示すマークとが表示される。
【0076】
ここで、用水管理サーバ28の記憶装置には、圃場Hが通常モード及びダムモードのいずれであるのかが記憶されている。また用水管理サーバ28は、上述のようなダム管理画面130を表示する際に、給水栓の開閉状態、圃場Hの現在水位、圃場Hの設定水位を圃場管理サーバ36から取得し、当該取得結果に基づいて設定水位に到達しているかを判定する。用水管理サーバ28は、これら記憶装置の情報、開閉状態の取得結果及び設定水位の判定結果に基づいて、ダム管理画面130のマークを適宜表示する。
【0077】
また、
図10に示すように、ダム管理画面130では、特定の圃場Hを選択すると、当該圃場Hの詳細情報が表示される。具体的にはダム管理画面130には、圃場Hの名称、後述する圃場グループG、設定水位、現在水位、給水栓開度、水温、排水モード(通常モード及びダムモードのいずれであるのか)、現在排水高、排水装置33の名称、ダム準備時排水高及びダム貯留時排水高が表示される。
【0078】
用水管理サーバ28は、上記詳細情報を表示する際に、上記設定水位等のうち、圃場グループG、排水モード、ダム準備時排水高及びダム貯留時排水高を記憶装置から取得する。また用水管理サーバ28は、残りの情報(設定水位、現在水位等)を圃場管理サーバ36から取得する。用水管理サーバ28は、当該取得結果に基づいてダム管理画面130に詳細情報を表示する。
【0079】
利用者は、上述の如く構成されるダム管理画面130を表示することで、圃場Hの状態を把握して、通常モード及びダムモードの切り替えの判断を行い易くなる。
【0080】
なお、
図9及び
図10に示すダム管理画面130は一例であり、ダム管理画面130で表示する情報は任意に変更可能である。例えばダム管理画面130では排水路24c、本川R1及び支川R2の水位を表示することも可能である。こうして本川R1や支川R2の水位を表示する場合、準備水位(例えば水防団が出動する水位)、危険水位及び氾濫危険水位を併記することも可能である。
【0081】
また、ダム管理画面130では、圃場Hの現在水位と共に、圃場Hの貯留量(圃場Hの現在水位に圃場Hの面積を乗算した値)を表示することも可能である。また、ダム管理画面130では、当該貯留量をブロック(同じ分水装置24に接続された圃場群等)ごとに集計して表示してもよいし、河川の流域全体で集計して表示することも可能である。
【0082】
また、ダム管理画面130では、ダムモードに切り替えられた圃場Hにどの程度水が貯留されているのかを示す貯留割合を表示することも可能である。当該貯留割合は、例えば、圃場Hの現在水位を「ダム貯留時排水高」で除算することで求めることができる。また当該貯留割合は、ブロックや流域全体で集計して表示することも可能である。また、ダム管理画面130では、貯留割合の大きさに応じて、貯留割合を色分けして表示することも可能である。具体的には、ダム管理画面130では、貯留割合が「50%」を超えると黄色、「75%」を超えると赤色で表示することも可能である。
【0083】
また、ダム管理画面130では、通常(天候が安定しているとき)は給水状況を表示してもよい。例えばダム管理画面130では、上述した設定水位や現在水位に加えて、減水深(単位時間当たりにどの程度水位が減少するか)等を表示してもよいし、これら設定水位等から求められる水の需要量を表示してもよい。また、ダム管理画面130では、当該需要量を所定の単位で(例えば、圃場H、ブロック及び流域(灌漑用水、頭首工、ダム、揚水機場、幹線(配水管23a)、支線(配水管24a))ごとに)表示することも可能である。
【0084】
図11に示す操作画面140は、通常モード及びダムモードの切り替え操作を行うための画面である。操作画面140は、第一フレーム101の「全体監視」との文字列を選択すると共に、第二フレーム102の「田んぼダム操作」との文字列を選択することで表示される。操作画面140では、圃場グループGごとに通常モード及びダムモードを切り替えることができる(
図17参照)。なお圃場グループGは、圃場Hの集まりである。圃場グループGには、少なくとも1つの圃場Hが含まれる。圃場グループGは、複数設定され、用水管理サーバ28の記憶装置に記憶される。操作画面140には、モード選択部141及び状態表示部142が含まれる。
【0085】
モード選択部141は、通常モード及びダムモードを切り替えるための切り替えモードを選択する部分である。切り替えモードには、自動モード及び手動モードが含まれる。
【0086】
自動モードは、通常モード及びダムモードを設定された順序で自動的に切り替えるモードである。自動モードでは、一定の時間間隔をあけて(時間差で)、圃場グループGのモードが順番に切り替えられる。手動モードは、複数の圃場グループGのモードを利用者の手動操作により切り替えるモードである。モード選択部141には、このような自動モード及び手動モードによる操作を行うためのボタンとして、自動ボタン141a、ダムモードボタン141b、通常モードボタン141c及び手動ボタン141dが配置される。
【0087】
自動ボタン141a、ダムモードボタン141b及び通常モードボタン141cは、自動モードにより通常モード及びダムモードを切り替えるためのボタンである。ダムモードボタン141b及び通常モードボタン141cは、自動ボタン141aが押下されると、押下可能な状態となる(
図11参照)。利用者は、ダムモードボタン141bを押下することで、圃場グループGを自動的にダムモードに切り替えることができる。また利用者は、通常モードボタン141cを押下することで、圃場グループGを自動的に通常モードに切り替えることができる。なお、自動モードによるモード切替の流れについては後述する。
【0088】
手動ボタン141dは、後述する状態表示部142での操作の可否を切り替えるためのボタンである。利用者は、手動ボタン141dを押下することで、状態表示部142での操作を行うことができる。
【0089】
また利用者は、自動モードによるモード切替の処理(後述する自動ダム化処理及び自動復帰処理)の最中に手動ボタン141dを押下することで、当該処理を一旦停止することができる。利用者は、前記処理を一旦停止した後で、ダムモードボタン141bや通常モードボタン141cを押下することで、自動モードによるダムモード等への切り替えを再開することができる。一方利用者は、前記処理を一旦停止した後で、手動操作で圃場グループGの状態(モード)を任意に切り替えることもできる。このように利用者は、例えば誤ってダムモードボタン141b等を押下した際に、モード切替の処理を緊急停止させたり、その後所望のモードへと任意に切り替えたりすることができる。
【0090】
また、モード選択部141には、各種ボタン(自動ボタン141a等)に対応するランプ141eが配置される。ランプ141eは、現在どのモードが選択されているのかを示すものである。ランプ141eは、各種ボタンの上方に配置され、各種ボタンの操作に応じて動作する。具体的にはランプ141eは、
図11及び
図12に示すように、対応する(ランプ141eの下方の)ボタンが押下されると点灯すると共に、対応しないボタンが押下されると消灯する。
【0091】
状態表示部142は、各圃場グループGの現在の状態を表示するものである。また状態表示部142は、手動モード時に、手動操作で通常モード及びダムモードの切り替えを行うためのものである。状態表示部142では、「制御順」、「グループ名」、「状態」、「手動操作」が、圃場グループGごとに一覧で表示される。
【0092】
「制御順」は、自動モードで切り替えられる圃場グループGの順番を示すものである。「グループ名」は、圃場グループGの名称を示す文字列である。
【0093】
「状態」は、圃場グループGの状態を示すものである。圃場グループGの状態には、通常モードであることを示す『通常』、ダムモードへ切り替えて一時排水中(排水高さが「ダム準備時排水高」)であることを示す『ダム準備(排水中)』、及びダムモードで排水高さが上昇した(排水高さが「ダム貯留時排水高」である)ことを示す『ダム』が含まれる。
【0094】
なお、上記「制御順」、「グループ名」及び「状態」は、用水管理サーバ28の記憶装置に記憶されている。
【0095】
「手動操作」は、利用者が通常モード及びダムモードの切り替え操作を行うためのものである。「手動操作」には、排水ボタン142a、貯留ボタン142b及び通常ボタン142cが含まれる。用水管理サーバ28は、排水ボタン142a等が押下されると、当該ボタンに対応する(同じ行の)圃場グループGの排水装置33を識別する情報と、排水高さを変更する情報等と、を圃場管理サーバ36へ送信する。これによって用水管理サーバ28は、利用者の操作に応じて通常モード及び排水モードの切り替えを行う。以下、各種ボタンの機能について具体的に説明する。
【0096】
排水ボタン142aは、ダムモードにおける一時排水を行うためのボタンである。排水ボタン142aが押下されると、圃場グループGの排水高さが「ダム準備時排水高」に変更される。これにより、圃場Hの一時排水を行うことができる。また、排水ボタン142aが押下されると、給水装置31の給水が停止される。当該排水ボタン142aは、
図12に示すように、圃場グループGが通常モード(「状態」が『通常』)である場合に押下することができる。
【0097】
貯留ボタン142bは、排水高さを上昇させるためのボタンである。貯留ボタン142bが押下されると、圃場グループGの排水高さが「ダム貯留時排水高」に変更される。これにより圃場Hに多量の水を貯留することができる。当該貯留ボタン142bは、圃場グループGが一時排水中(「状態」が『ダム準備(排水中)』)である場合に押下することができる。
【0098】
通常ボタン142cは、通常モードへ切り替えるためのボタンである。通常ボタン142cが押下されると、圃場グループGの排水高さが「通常時排水高」に変更される。また、通常ボタン142cが押下されると、給水装置31の給水が再開される。当該通常ボタン142cは、圃場グループGがダムモード(「状態」が『ダム準備(排水中)』又は『ダム』)である場合に押下することができる。
【0099】
利用者は、上述のような排水ボタン142a等を適宜のタイミングで押下することで、通常モード及びダムモードの切り替えを手動で行うことができる。例えば利用者は、急な降雨や河川の増水により緊急に圃場Hへ降水を貯留する必要が生じた場合等には、排水ボタン142a及び貯留ボタン142bを連続して押下する(排水ボタン142aを押下した直後に貯留ボタン142bを押下する)ことで、通常モードから事前排水を行わずにダムモードへ切り替えることができる。このように、用水管理サーバ28は、手動モードにおいて、圃場Hの水を一旦排水する処理を実質的にスキップ可能である。このような構成とすることで、利用者は必要に応じて降水を速やかに圃場Hへ貯留することができる。
【0100】
なお、
図11及び
図12に示す操作画面140は一例であり操作画面140の構成は任意に変更可能である。例えば、貯留ボタン142bは、圃場グループGが一時排水中(「状態」が『ダム準備(排水中)』である場合)に押下できる状態になるものとしたが(
図12参照)、一時排水中に加えて、圃場グループGが通常モード(「状態」が『通常』)である場合にも、押下可能な状態とすることも可能である。このような構成とすることで利用者は、通常モードからダムモードへと切り替える際に、排水ボタン142aを押下することなく貯留ボタン142bを押下することで、圃場Hの水を一旦排水する処理をスキップすることができる。
【0101】
図13に示すモード設定画面150は、通常モード及びダムモードの切り替えに関する各種設定を変更するための画面である。モード設定画面150は、第一フレーム101の「全体監視」との文字列を選択すると共に、第二フレーム102の「田んぼダム設定」との文字列を選択することで表示される。モード設定画面150には、制御設定部151、グループ設定部152及び装置設定部153(
図14参照)が含まれる。
【0102】
制御設定部151は、時間に関する設定を行う部分である。上述の如く自動モードでは、一定の時間間隔をあけて、圃場グループGのモードが順番に切り替えられる。制御設定部151では、このような時間間隔を設定することができる。具体的には、『ダムモード遷移時排水間隔』でダムモードに切り替える時間間隔を設定することができる。また、『通常モード遷移時排水間隔』で通常モードに切り替える時間間隔を設定することができる。なお、設定された「ダムモード遷移時排水間隔」及び「通常モード遷移時排水間隔」は、用水管理サーバ28の記憶装置に記憶される。
【0103】
また上述の如く、ダムモードでは、圃場Hの水を一旦排水する。制御設定部151では、この一旦排水する時間を設定することができる。具体的には、『ダムモード遷移時排水時間』で一旦排水する時間を設定することができる。上述の如く、「ダムモード遷移時排水時間」(設定値)は、用水管理サーバ28の記憶装置に記憶される。
【0104】
グループ設定部152は、圃場グループGの制御に関する設定を行う部分である。グループ設定部152には、圃場グループGの制御に関する情報が一覧で表示される。具体的には、グループ設定部152には、「No.」、「グループ名」、「制御順」及び「削除対象」が、圃場グループGごとに一覧で表示される。
【0105】
「No.」は行番号を示す数字である。「グループ名」及び「制御順」は、操作画面140のものと同様である。グループ設定部152では、「グループ名」及び「制御順」の値を設定することができる。「削除対象」は、圃場グループGを削除するか否かを設定するものである。また、グループ設定部152では、「行追加」ボタンを押下することで、圃場グループGを新規作成することができる。
【0106】
図14に示す装置設定部153は、圃場水管理システム30に関する設定を行う部分である。装置設定部153には、圃場水管理システム30に関する情報が一覧で表示される。具体的には、装置設定部153には、「No.」、「地区コード」、「圃場コード」、「圃場名」、「ダム準備時排水高」、「ダム貯留時排水高」、「排水装置名」、「排水高」、「ダム制御グループ」、「面積」及び「備考」が、圃場Hごとに一覧で表示される。
【0107】
「No.」は行番号を示す数字である。「地区コード」は、圃場Hが属する地区を識別するための数字である。「圃場コード」は、圃場Hを識別するための数字である。「圃場名」は、圃場Hの名称を示す文字列である。「排水装置名」は、排水装置33の名称を示す文字列である。なお、1つの圃場Hに複数の排水装置33が設置されている場合、いずれか1つの排水装置33の名称が表示される。「排水高」は、現在の排水高さを示すものである。用水管理サーバ28は、圃場管理サーバ36から情報を取得することで、上記「地区コード」及び「圃場コード」等を表示することができる。
【0108】
「ダム制御グループ」は、圃場Hがどの圃場グループGに属しているのかを示すものである。「面積」は、圃場Hの面積を示すものである。装置設定部153では、「ダム準備時排水高」、「ダム貯留時排水高」、「ダム制御グループ」、「面積」及び「備考」を設定することができる。
【0109】
利用者は、上述の如く構成されるモード設定画面150を表示することで、「ダム準備時排水高」等を適切な値に設定することができる。例えば利用者は、畔の高さや畔の強度等を考慮して「ダム貯留時排水高」を適切な値に設定できる。具体的には、畔の強度が低かったり畔の整備状態が悪ければ「ダム貯留時排水高」を畔の高さよりもある程度低くして、ダムモードに切り替えた際に畔が決壊するのを効果的に防止することができる。また利用者は、作物の生育ステージ(例えば稲作の工程)を考慮して「ダム準備時排水高」及び「ダム貯留時排水高」を設定することもできる。
【0110】
具体的には、作物を生育するのに適した圃場Hの排水高さの最大値(最高排水高)は、品種及び生育スケジュールごとに予め規定されている。例えば幼穂形成期では、排水高さを30cm以下とすることが好ましいということが分かっている。そこで利用者は、前記最高排水高に基づいて「ダム貯留時排水高」を設定することができる。この際利用者は、圃場Hの作物が、注意が必要な生育ステージにある場合のみ、前記最高排水高に基づいて「ダム貯留時排水高」を設定することもできる。
【0111】
また、除草剤定着中は、圃場Hの水位を下げ過ぎないことが望ましい。そこで利用者は、除草剤定着中の圃場Hの「ダム準備時排水高」を比較的高い設定値にすることもできる。
【0112】
また、用水管理サーバ28は、上述のような作物の生育ステージに基づいた「ダム準備時排水高」及び「ダム貯留時排水高」の設定を、圃場管理サーバ36に記憶された生育スケジュールに合わせて自動的に行うことも可能である。
【0113】
なお、「ダム貯留時排水高」を設定した場合であっても、激甚災害となるような大雨が予測された場合には治水を優先し、利用者が設定した値(ダム貯留時排水高)にかかわらず、圃場Hの貯水能力の最大限まで雨水を貯留できるようにすることも可能である。例えば「ダム貯留時排水高」の設定値が自動的に上書きされる構成とすることも可能である。また、「ダム貯留時排水高」の設定値が自治体等の関係機関からの指示により上書きされる構成とすることも可能である。
【0114】
なお、
図13及び
図14に示すモード設定画面150は一例であり、モード設定画面150の構成は任意に変更可能である。
【0115】
以下では、上述した操作画面140の自動モードにより、通常モード及びダムモードを切り替える処理について説明する。まず、通常モードからダムモードへ切り替える自動ダム化処理について説明する。なお以下では、自動ダム化処理の開始時点において、全ての圃場グループGの状態が通常モードであるものとする。
【0116】
自動ダム化処理は、
図11に示すダムモードボタン141bが押下されたことを契機に開始される。
図15に示すように、自動ダム化処理が開始されると、用水管理サーバ28は、ステップS110へ移行する。
【0117】
ステップS110において用水管理サーバ28は、ダムモードへ切り替える圃場グループGを選択する。このとき用水管理サーバ28は、圃場グループGの中で、優先度が最も高い(
図13に示す「制御順」の値が最も小さい)1つの圃場グループGを選択する。この際用水管理サーバ28は、
図15に示す一連のフローですでに選択された圃場グループGを除外し、未選択の圃場グループGの中で最も優先度が高い圃場グループGを選択する。なお、用水管理サーバ28は、未選択の圃場グループGがない場合、圃場グループGの選択を行わない。ステップS110の処理が終了すると、用水管理サーバ28はステップS120へ移行する。
【0118】
ステップS120において用水管理サーバ28は、後述するステップS130以降の処理の対象となる圃場グループGがあるか否かを判定する。具体的には用水管理サーバ28は、ステップS110で圃場グループGを選択できたか否かを判定する。用水管理サーバ28は、圃場グループGを選択できなかった場合(ステップS120:No)、自動ダム化処理を終了する。こうして用水管理サーバ28は、全ての圃場グループGをダムモードにした場合に、自動ダム化処理を終了する。一方用水管理サーバ28は、圃場グループGを選択できた場合(ステップS120:Yes)、ステップS130へ移行する。
【0119】
ステップS130において用水管理サーバ28は、ステップS110で選択した圃場グループGに属する圃場Hの「状態」が『ダム』以外であるか否かを判定する。用水管理サーバ28は、圃場Hの「状態」が『ダム』以外である場合(『通常』又は『ダム準備(排水中)』である場合、ステップS130:Yes)、ステップS140へ移行する。一方用水管理サーバ28は、圃場Hの「状態」が『ダム』である場合(ステップS130:No)、ステップS110へ移行する。こうして用水管理サーバ28は、手動モードですでにダムモードに切り替えられた(「状態」が『ダム』である)圃場グループGについてステップS140以降の処理を行わず、次にダムモードへ切り替える圃場グループGを選択する。
【0120】
ステップS140において用水管理サーバ28は、圃場管理サーバ36へ信号を送信し、ステップS110で選択された圃場グループGに属する各圃場Hの給水装置31の給水栓を閉じると共に、所有者端末35による圃場水管理システム30の遠隔操作を不可(無効)にする。ステップS140の処理が終了すると、用水管理サーバ28はステップS150へ移行する。
【0121】
ステップS150において用水管理サーバ28は、圃場管理サーバ36へ信号を送信し、ステップS110で選択された圃場グループGに属する圃場Hに設置された排水装置33の排水高さを「ダム準備時排水高」に変更する。このとき用水管理サーバ28は、モード設定画面150で圃場Hごとに設定された「ダム準備時排水高」に変更する(
図14参照)。ステップS150の処理が終了すると用水管理サーバ28は、ステップS160・S170の処理と、ステップS180の処理とを並列で実行する。
【0122】
ステップS160において用水管理サーバ28は、モード設定画面150(
図13参照)で設定された「ダムモード遷移時排水時間」の経過を待つ。用水管理サーバ28は、ステップS160の処理が終了するとステップS170へ移行し、ステップS110で選択された圃場グループGに属する圃場Hに設置された排水装置33の排水高さを「ダム貯留時排水高」に変更する。このとき用水管理サーバ28は、モード設定画面150で圃場Hごとに設定された「ダム貯留時排水高」に変更する(
図14参照)。
【0123】
また、ステップS180において用水管理サーバ28は、モード設定画面150(
図13参照)で設定された「ダムモード遷移時排水間隔」の経過を待つ。用水管理サーバ28は、ステップS180の処理が終了するとステップS110へ移行し、次の圃場グループGについてダムモードへの切り替え(ステップS120以降の処理)を行う。
【0124】
用水管理サーバ28は、このようにして圃場グループGごとに時間差でダムモードへの切り替えを行う。
【0125】
以下では、
図16及び
図17を参照し、自動ダム化処理の具体例を説明する。なお、以下では圃場グループGとして、「制御対象1~3」をダムモードにする場合を例に挙げて説明する。また、「制御対象1~3」は、数字が小さいものから順に支川R2の下流側に位置しているものとする(
図17参照)。なお下流側に位置しているとは、「制御対象1~3」に属する圃場Hの排水路24c(
図1参照)が、支川R2の下流側に接続されていることを指す。また以下では、
図13に設定された通り、「制御対象1」、「制御対象2」、「制御対象3」の順にダムモードに切り替えるものとする。
【0126】
図16に示すように、「制御対象1~3」は、自動ダム化処理の実行前の初期状態において通常モードに切り替えられている。この状態で自動ダム化処理が実行されると、用水管理サーバ28は、
図16及び
図17(a)に示すように、優先度が最も高い「制御対象1」の圃場Hの排水高さを「ダム準備時排水高」に変更する(ステップS110、ステップS120:Yes、ステップS130:Yes、ステップS140・S150)。こうして用水管理サーバ28は、まず「制御対象1」に属する圃場Hの水を一時的に排水する。
【0127】
「制御対象1」の排水を開始してから「ダムモード遷移時排水間隔」が経過すると(ステップS180)、用水管理サーバ28は、
図16及び
図17(b)に示すように、「制御対象1」の次に優先度が高い「制御対象2」の排水高さを「ダム準備時排水高」に変更する。
【0128】
また、用水管理サーバ28は、「制御対象2」の排水を開始してから「ダムモード遷移時排水間隔」が経過すると、
図16及び
図17(c)に示すように、「制御対象3」の排水高さを「ダム準備時排水高」に変更する。
【0129】
また「制御対象1」の排水を開始してから「ダムモード遷移時排水時間」が経過すると(ステップS160)、
図17(c)に示すように用水管理サーバ28は、「制御対象1」の排水高さを「ダム貯留時排水高」に変更する(ステップS170)。また用水管理サーバ28は、「制御対象2」及び「制御対象3」についても「制御対象1」と同様に、排水高さを「ダム貯留時排水高」に変更する(不図示)。
【0130】
このような構成とすることで、用水管理サーバ28は、ダムモードへ切り替える際に圃場Hから排水するタイミングをずらすことができる。これによって、圃場Hから河川(本川R1や支川R2)に一気に多量の水が流れ込むのを防止して、河川の増水を抑制することができる。
【0131】
また、
図17のように下流側から順に排水を行うことで上流側での排水が下流側での排水による水位上昇の影響を受け難くなり、圃場Hの排水を効率よく行うことができる。
【0132】
なお、上記説明では、全ての圃場グループGの状態が通常モードである場合にダムモードボタン141bを押下した例を示したが、例えば、いくつかの圃場グループGが通常モードへ自動的に切り替えられている最中(後述する自動復帰処理の実行中)に押下される場合や、いくつかの圃場グループGが手動操作によってすでにダムモードへ切り替えられた状態で押下される場合も想定される。この場合、用水管理サーバ28は、実行中の処理(自動復帰処理)があればその処理を停止し、自動ダム化処理により、排水高さが「ダム貯留時排水高」に設定されていない圃場グループGに対して、ダムモードへの切り替えを順次行う。
【0133】
具体的には用水管理サーバ28は、自動ダム化処理において、ステップS110で選択した圃場グループGの「状態」が『通常』又は『ダム準備(排水中)』である場合にステップS140の処理へ移行し(ステップS130:Yes)、当該圃場グループGの排水高さ等を変更する(ステップS140~S180)。こうして用水管理サーバ28は、「状態」が『ダム準備(排水中)』の圃場グループGに対して、再度「ダムモード遷移時排水時間」が経過するまで排水を行う(ステップS160を実行する)。
【0134】
以下では、自動モードによって、ダムモードから通常モードへ切り替える自動復帰処理について説明する。なお以下では、自動復帰処理の開始時点において、全ての圃場グループGの状態がダムモードであるものとする。
【0135】
自動復帰処理は、
図11に示す通常モードボタン141cが押下されたことを契機に開始される。
図18に示すように、自動復帰処理が開始されると、用水管理サーバ28は、自動ダム化処理におけるステップS110~S130と同様にステップS210~S230を行う。こうして用水管理サーバ28は、「制御順」(
図13参照)に設定された順に圃場グループGを選択し、選択した圃場グループGに属する圃場Hの「状態」が『通常』以外である場合にステップS240以降の処理を実行する。
【0136】
ステップS240において用水管理サーバ28は、圃場管理サーバ36へ信号を送信し、ステップS210で選択された圃場グループGに属する各圃場Hの給水装置31の給水栓を開くと共に、所有者端末35による圃場水管理システム30の遠隔操作を可(有効)にする。ステップS240の処理が終了すると、用水管理サーバ28はステップS250へ移行する。
【0137】
ステップS250において用水管理サーバ28は、圃場管理サーバ36へ信号を送信し、ステップS210で選択された圃場グループGに属する圃場Hに設置された排水装置33の排水高さを「通常時排水高」に変更する。ステップS240の処理が終了すると、用水管理サーバ28はステップS260へ移行する。
【0138】
ステップS260において用水管理サーバ28は、モード設定画面150(
図13参照)で設定された「通常モード遷移時排水間隔」の経過を待つ。用水管理サーバ28は、ステップS260の処理が終了するとステップS210へ移行し、次の圃場グループGについて通常モードへの切り替え(ステップS220以降の処理)を行う。
【0139】
用水管理サーバ28は、このようにして圃場グループGごとに時間差で通常モードへの切り替えを行う。
【0140】
以下では、
図19及び
図20を参照し、自動復帰処理の具体例を説明する。なお、以下では圃場グループGとして、「制御対象1~3」を通常モードにする場合を例に挙げて説明する。また、「制御対象1~3」は、数字が小さいものから順に支川R2の下流側に位置しているものとする(
図20参照)。また以下では、
図13に設定された通り、「制御対象1」、「制御対象2」、「制御対象3」の順に通常モードにするものとする。
【0141】
図19に示すように、「制御対象1~3」は、自動復帰処理の実行前の初期状態においてダムモードに切り替えられている。この状態で自動復帰処理が実行されると、用水管理サーバ28は、
図19及び
図20(a)に示すように、優先度が最も高い「制御対象1」の圃場Hの排水高さを「通常時排水高」に変更する(ステップS210、ステップS220:Yes、ステップS230:Yes、ステップS240・S250)。こうして用水管理サーバ28は、まず「制御対象1」を通常モードに戻す。これにより、用水管理サーバ28は、大雨で水位が増した圃場Hのうち、「制御対象1」に属する圃場グループGの圃場Hから水を排出することができる。
【0142】
「制御対象1」を通常モードに戻してから「通常モード遷移時排水間隔」が経過すると(ステップS260)、用水管理サーバ28は、
図19及び
図20(b)に示すように、優先度が「制御対象1」の次に高い「制御対象2」の排水高さを「通常時排水高」に変更する。
【0143】
また、用水管理サーバ28は、「制御対象2」を通常モードに戻してから「通常モード遷移時排水間隔」が経過すると、
図19及び
図20(c)に示すように、「制御対象3」の排水高さを「通常時排水高」に変更する。
【0144】
このような構成とすることで、通常モードへ切り替える際に圃場Hから排水するタイミングをずらすことができる。これによって、圃場Hから河川(本川R1や支川R2)に一気に多量の水が流れ込むのを防止して、河川の増水を抑制することができる。
【0145】
また、
図20のように下流側から順に排水を行うことで上流側での排水が下流側での排水による水位上昇の影響を受け難くなり、圃場Hの排水を効率よく行うことができる。
【0146】
なお、上記説明では、全ての圃場グループGの状態がダムモードである場合に通常モードボタン141cを押下した例を示したが、例えば、いくつかの圃場グループGがダムモードへ自動的に切り替えられている最中(上記自動ダム化処理の実行中)に押下される場合や、いくつかの圃場グループGが手動操作によってすでに通常モードへ切り替えられた状態で押下される場合も想定される。この場合、用水管理サーバ28は、実行中の処理(自動ダム化処理)があればその処理を停止し、自動復帰処理により、通常モードに戻されていない圃場グループGに対して、通常モードへの切り替えを順次行う。
【0147】
具体的には用水管理サーバ28は、自動復帰処理において、ステップS210で選択した圃場グループGの「状態」が『ダム準備(排水中)』又は『ダム』である場合にステップS240の処理へ移行し(ステップS230:Yes)、当該圃場グループGの排水高さ等を変更する(ステップS240~S260)。
【0148】
以上の如く、本実施形態に係る圃場貯水システム10は、圃場Hの給排水を管理する給水装置31及び排水装置33(圃場水管理装置)を制御することが可能な用水管理サーバ28(制御部)を具備する圃場貯水システム10であって、前記用水管理サーバ28は、前記給水装置31及び排水装置33を制御するための制御モードとして、所定の条件(本実施形態では作物の生育)に応じて前記圃場Hの排水高さを調節する通常モード(第一モード)と、前記所定の条件にかかわらず、前記圃場Hの排水高さを前記通常モードにおける排水高さ(「通常時排水高」)よりも高く設定することにより、前記通常モードよりも多量の水を前記圃場Hに貯留可能とするダムモード(第二モード)と、を具備するものである。
【0149】
このように構成することにより、制御モードをダムモードに切り替えることで、通常モードと比べて多量の水を圃場Hに貯留することができる。これによって圃場Hをダムとして利用して、大雨等による河川の増水や氾濫を抑制することができる。
【0150】
また、前記用水管理サーバ28は、前記ダムモードにおいて、前記圃場Hの排水高さを第一の排水高さ(「ダム準備時排水高」)に設定して前記圃場Hの水を一旦排水した後で、前記圃場Hの排水高さを前記第一の排水高さよりも高い第二の排水高さ(「ダム貯留時排水高」)に設定するものである(
図16参照)。
【0151】
このように、圃場Hの水を一旦排水することで、より多量の水を圃場Hに貯留することができる。
【0152】
また、前記用水管理サーバ28は、少なくとも1つの圃場Hを含む圃場グループGを複数設定可能であると共に(
図14参照)、前記圃場グループGごとに前記制御モードを切り替え可能である(
図17及び
図20参照)。
【0153】
このように、複数の圃場Hを複数の圃場グループGに分けて、圃場グループGごとに制御モードを切り替えることで、給排水の管理の容易化を図ることができる。例えば、環境が似ている複数の圃場H(同じ分水装置24に接続された複数の圃場H等)の制御モードを一括して切り替えて、給排水を管理し易くすることができる。
【0154】
また、前記用水管理サーバ28は、前記制御モードを切り替えるための切り替えモードとして、複数の前記圃場グループGの前記制御モードを設定された順序で自動的に切り替える自動モードと、複数の前記圃場グループGの前記制御モードを利用者の手動操作により切り替える手動モードと、を具備するものである(
図11及び
図12参照)。
【0155】
このように構成することにより、制御モードの切り替えを自動的に行う自動モードと、手動操作で行う手動モードと、を任意に使い分けることで、利便性を向上させることができる。
【0156】
また、前記用水管理サーバ28は、前記自動モードにおいて、所定の設定時間に従って前記制御モードの切り替えを行うものである(
図16参照)。
なお本実施形態の設定時間には、圃場Hの水を一旦排水する時間を規定する「ダムモード遷移時排水時間」と、ダムモードに切り替える圃場グループGの時間差を規定する「ダムモード遷移時排水間隔」と、通常モードに切り替える圃場グループGの時間差を規定する「通常モード遷移時排水間隔」とが含まれる。
【0157】
このように構成することにより、予め設定された設定時間に従って適切に制御モードを切り替えることができる。
【0158】
また、前記用水管理サーバ28は、前記設定時間を変更可能である(
図13参照)。
【0159】
このように構成することにより、より適切に制御モードを切り替えることができる。例えば、河川の大きさ等に応じて設定時間を任意に変更することで、河川の増水や氾濫を効果的に抑制することができる。
【0160】
また、前記用水管理サーバ28は、前記ダムモードにおける前記第一の排水高さ(「ダム準備時排水高」)及び/又は前記第二の排水高さ(「ダム貯留時排水高」)を前記圃場Hごとに変更可能である(
図14参照)。
【0161】
このように構成することにより、圃場Hに応じて適切な排水高さを設定することができる。
【0162】
なお、本実施形態に係る給水装置31及び排水装置33は、圃場水管理装置の実施の一形態である。
また、本実施形態に係る用水管理サーバ28は、制御部の実施の一形態である。
【0163】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0164】
例えば、用水管理サーバ28は、給水装置31及び排水装置33を制御可能であれば、その構成(クラウドサーバ、オンプレミス型のサーバ等)は特に限定されるものではない。また圃場管理サーバ36は、クラウドサーバであるものとしたが、これに限定されるものではなく、オンプレミス型のサーバであってもよい。
【0165】
また、本実施形態においては、圃場貯水システム10自身が各圃場Hの給排水を行う圃場水管理システム30を具備している例を示したが、本発明はこれに限るものではない。例えば、圃場貯水システム10は、外部に別途設けられた圃場水管理システム30と連携して、圃場Hをダムとして活用することも可能である。また圃場貯水システム10は、排水機場や排水ゲート等を管理する監視システム(用水管理システム20とは異なるシステム)からAPI連携で通常モード及びダムモードを起動するものであってもよい。
【0166】
また、ダムモードにおける排水装置33の制御(排水高さを「ダム準備時排水高」及び「ダム貯留時排水高」に設定する処理)は、用水管理サーバ28が行うものとしたが、排水装置33を制御する機器は特に限定されるものではない。排水装置33の制御は、例えばAPI連携により前記監視システムが行うものでもよい。
【0167】
また、「ダム準備時排水高」及び「ダム貯留時排水高」の設定値は、用水管理サーバ28(
図14に示すモード設定画面150)によって変更されるものとしたが、前記設定値の変更を行う機器は特に限定されるものではない。前記設定値の変更は、例えばAPI連携により前記監視システムが行うものでもよい。
【0168】
また、通常モードでは、作物の生育を考慮して排水高さが調節されるものとしたが、通常モードにおける排水高さの調節の基準となる指標は、作物の生育に限定されるものではなく、任意に変更可能である。
【0169】
また、本実施形態では、圃場グループGごとに通常モード及びダムモードが切り替えられるものとしたが、通常モード及びダムモードを切り替える単位は圃場グループGに限定されるものではなく、任意に変更可能である。例えば、通常モード及びダムモードの切り替えは、圃場Hごとに行われてもよい。
【0170】
また、ダムモードでは、圃場Hの水が一旦排水されるものとしたが、これに限定されるものではない。すなわちダムモードでは、圃場Hの水が一旦排水されることなく、排水高さが上昇されるものであってもよい。
【0171】
また、本実施形態では、通常モード及びダムモードの切り替えを自動及び手動で実行可能としたが、これに限定されるものではなく、例えば自動でのみモードを切り替え可能なもの(自動モードのみ具備するもの)としてもよい。また圃場貯水システム10は、手動でのみモードを切り替え可能なもの(手動モードのみ具備するもの)としてもよい。
【0172】
また、自動モードでは、時間差で複数の圃場グループGのモードが切り替えられるものとしたが、これに限定されるものではなく、複数の圃場グループGのモードが同時に切り替えられるものでもよい。
【0173】
また、本実施形態では、モードに関する情報(「ダムモード遷移時排水間隔」や「ダム貯留時排水高」等)を利用者が任意に設定できるものとしたが、これに限定されるものではなく、モードに関する情報が予め設定されていてもよい。
【0174】
また、自動モードによるダムモードへの切り替えは、操作画面140のダムモードボタン141bが押下されたことを契機に行われるものとしたが、ダムモードへの切り替えるタイミングは特に限定されるものではなく、任意に変更可能である。例えばダムモードへの切り替えは、雨量予測が予め設定された閾値以上となった場合に自動的に実行されるものでもよい。また、雨量予測が予め設定された閾値以上となった場合には、ダムモードへの切り替えの実行を利用者に問い合わせることも可能である。具体的には、用水管理サーバ28は、確認メッセージ(例えば「〇〇mmの大雨が予測されます。田んぼダムを起動しますか?」とのメッセージ)と、起動ボタンとを含むポップアップを表示する。また用水管理サーバ28は、利用者が起動ボタンを押下すれば、ダムモードへの切り替えを実行する。
【0175】
また、用水管理サーバ28は、ダムモードへ切り替える前に、利用者だけではなく、圃場Hの関係者(例えば営農組合の組合長等)に問い合わせることも可能である。この場合、関係者が実行に同意すれば、実行に同意した関係者のエリアの圃場H又は全ての圃場Hを対象に、ダムモードへの切り替えを実行する。この際、排水路24c及び河川の水位が規定水位以下であることを実行の条件に含めることができる。また、関係者への問い合わせ時に排水路24c及び河川の水位を表示することもできる。
【0176】
また、用水管理サーバ28は、排水高さを下げてから経過した時間に基づいて通常モード及びダムモードを順番に切り替えるものとしたが、モードの切り替えに用いる指標はこれに限定されるものではない。例えば用水管理サーバ28は、予め設定された所定の水位に応じてモードを順番に切り替えるものとしてもよい。具体的には用水管理サーバ28は、所定の圃場グループGの圃場Hの水位が半分(あるいは3分の1や5分の1)まで下降すると、次の圃場グループGのモードの切り替えを開始してもよい。また、用水管理サーバ28は、排水路24cや河川の水位が上昇していない(所定の閾値以下である)場合に次の圃場グループGのモードの切り替えを開始してもよい。
【0177】
ここで、本実施形態のダムモードでは、一旦圃場Hの水を排水する。このため、大雨が降らなかった(気象予報が外れた)場合にダムモードから通常モードへ戻す場合、圃場Hに多量の水を給水する必要がある。しかし、圃場Hへ給水できる量には限りがあるため、通常モードへ戻しても圃場Hの水位がすぐには戻らない可能性がある。
【0178】
このような事態を回避するために、用水管理サーバ28は、ダムモード及び通常モードに加えて中間モードを有する構成としてもよい。中間モードは、圃場Hの水を一旦排水する量が、ダムモードよりも少ないモードである。中間モードでは、圃場Hの水位をすぐに戻せる程度(例えば、1日で戻せる程度)に圃場Hの水を一旦排水する。この際の圃場Hの排水高さには、「通常時排水高」よりも低く、かつ「ダム準備時排水高」よりも高い値が設定される。中間モードでは、圃場Hの水を一旦排水した後に、排水高さが「ダム貯留時排水高」に変更される。用水管理サーバ28は、このような中間モードを実行することで、大雨が降らなかった場合に速やかに圃場Hの水位を元に戻すことができる。
【0179】
また本実施形態では、利用者の手動操作により圃場Hのグループ分け(ある圃場Hがどの圃場グループGに属するのかの設定)が行われるものとしたが(
図14参照)、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、圃場Hのグループ分けは、用水管理サーバ28により自動的に行われるものであってもよい。この際用水管理サーバ28は、例えば任意の判断基準に応じてグループ分けを行うことができる。当該判断基準としては、圃場Hの面積、支川R2に対する圃場Hの位置(上流、下流)、並びに作物の生育状況等がある。また、用水管理サーバ28は、当該判断基準を任意に選択可能となるように、モード設定画面150に表示させることができる。
【0180】
なお、圃場Hの面積に応じてグループ分けを行う場合、用水管理サーバ28は、例えば、面積が大きい順に圃場Hをグループ分けしたり、各圃場グループGに属する圃場Hの面積の総合計が互いに同程度となるように、圃場Hをグループ分けすることができる。また用水管理サーバ28は、支川R2に対する圃場Hの位置に応じて圃場Hをグループ分けする場合、例えば、支川R2の上流側(又は下流側)と接続された圃場Hから順に自動的に圃場Hをグループ分けすることができる。また用水管理サーバ28は、作物の生育状況に応じて圃場Hをグループ分けする場合、例えば、生育状況が近似する圃場Hごとに圃場Hをグループ分けすることができる。
【0181】
また本実施形態では、利用者の手動操作により圃場グループGの「制御順」(自動モードにおけるモード切り替えの優先順位)が設定されるものとしたが(
図13参照)、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、「制御順」の設定は、任意の判断基準(例えば、支川R2に対する圃場Hの位置等)に応じて、用水管理サーバ28により自動的に行われるものであってもよい。具体的には用水管理サーバ28は、支川R2の下流側と接続された圃場グループGほど優先順位が高くなるように「制御順」を設定することができる。
【0182】
以下では、本発明の第二実施形態に係る圃場貯水システム10について説明する。
【0183】
第二実施形態に係る圃場貯水システム10の装置構成は第一実施形態に係る圃場貯水システム10(
図1から
図3参照)と同様である。したがって以下では、第二実施形態に係る圃場貯水システム10を構成する各種機器(用水管理サーバ28等)については、第一実施形態と同様の符号を付し、その説明を省略する。以下、第二実施形態に係る圃場貯水システム10の第一実施形態との相違点について説明する。
【0184】
第二実施形態に係る圃場貯水システム10は、自動ダム化処理(大雨の場合等に圃場Hの排水高さを高くするための処理)の内容が第一実施形態に係る圃場貯水システム10と相違する。具体的には、第二実施形態に係る自動ダム化処理は、圃場Hの水を一旦排水する際の排水高さ(「ダム準備時排水高」)をシステム側で設定する点と、所定の条件を満たした場合に一旦排水する処理をスキップする点と、で第一実施形態に係る自動ダム化処理(
図15参照)と相違する。以下、具体的に説明する。
【0185】
図21に示すように、自動ダム化処理が開始されると、用水管理サーバ28は、第一実施形態の自動ダム化処理と同様に、ステップS110~S130の処理を行う。こうして用水管理サーバ28は、「制御順」(排水高さを高くする際の優先順位、
図13参照)の順に圃場グループG(圃場Hの集まり)を選択し、選択した圃場グループGに属する圃場Hの「状態」が『ダム』以外である場合にステップS140以降の処理を実行する。
【0186】
ステップS140において用水管理サーバ28は、ステップS110で選択された圃場グループGに属する各圃場Hの給水装置31の給水栓を閉じると共に、所有者端末35による圃場水管理システム30の遠隔操作を不可にする。ステップS140の処理が終了すると、用水管理サーバ28はステップS310へ移行する。
【0187】
ステップS310において用水管理サーバ28は、ステップS110で選択された圃場グループGに属する圃場Hの貯水率を算出する。圃場Hの貯水率とは、圃場Hの基準貯水量に対する現在の圃場Hの貯水量の割合を示すものである。また基準貯水量とは、圃場Hに貯留可能な水の量を示すものである。後述するように、基準貯水量は、所定の高さを基準として算出することができる。以下
図22を参照し、圃場Hの貯水率を算出する一例について説明する。なお
図22は、排水装置33や圃場Hの畔A等を模式的に示した図である。
【0188】
まず用水管理サーバ28は、ステップS110で選択された圃場グループGに属する圃場Hの面積、現在水位(水位水温センサ32の測定結果)及び「最大排水高」を所定のサーバ(圃場管理サーバ36やその他のサーバ等)から取得する。「最大排水高」は、昇降体33aを最も上昇させた場合における、当該昇降体33aの高さ位置(排水高さの最大値)である。「最大排水高」は、予め(例えば、排水装置33の設置時)に設定され、所定のサーバに記憶される。用水管理サーバ28は、所定のサーバから「最大排水高」等を取得すると、当該「最大排水高」及び圃場Hの面積を乗算する。こうして用水管理サーバ28は、昇降体33aを最も上昇させた場合に圃場Hに貯留可能な水の量、すなわち、「最大排水高」を基準とした基準貯水量を算出する。また用水管理サーバ28は、圃場Hの現在水位と圃場Hの面積とを乗算することで現在の圃場Hの貯水量を算出する。用水管理サーバ28は、こうして算出した現在の貯水量を基準貯水量で除算することで、圃場Hの貯水率を算出する。
図21に示すように、ステップS310の処理が終了すると、用水管理サーバ28はステップS320へ移行する。
【0189】
ステップS320において用水管理サーバ28は、ステップS310で算出した貯水率に基づいて、ステップS110で選択された圃場グループGの圃場Hの水を一旦排水する必要があるか否かを判定する。このとき用水管理サーバ28は、ステップS110で選択された圃場グループGの圃場Hに、一旦排水する必要がある程度に水が溜まっているか否かを判定する。例えば用水管理サーバ28は、ステップS310で算出された貯水率の平均値(加重平均や単純平均)を算出し、当該算出結果と予め設定される閾値とを比較する。そして用水管理サーバ28は、貯水率の平均値が所定の閾値よりも大きい場合に、ステップS110で選択された圃場グループGの圃場Hの水を一旦排水する必要があると判定し(ステップS320:Yes)、ステップS340へ移行する。一方用水管理サーバ28は、貯水率の平均値が所定の閾値以下である場合に、ステップS110で選択された圃場グループGの圃場Hの水を一旦排水する必要がないと判定し(ステップS320:No)、ステップS330へ移行する。なお上記閾値には、一旦排水する必要があると考えられる程度に高い貯水率を示す値が適宜設定される。
【0190】
なお、上記ステップS320における判定内容は一例であり、任意に変更可能である。例えば用水管理サーバ28は、ステップS110で選択された各圃場Hの貯水率と閾値とをそれぞれ比較し、各圃場Hのうち少なくとも1つの圃場Hの貯水率が閾値よりも大きい場合に、ステップS110で選択された圃場グループGの圃場Hの水を一旦排水する必要があると判定してもよい。また、用水管理サーバ28は、貯水率ではなく、圃場Hの水位と閾値とを比較することで、ステップS110で選択された圃場グループGの圃場Hの水を一旦排水する必要があるか否かを判定してもよい。
【0191】
ステップS330において用水管理サーバ28は、ステップS110で選択された圃場グループGの圃場Hに設置された排水装置33の排水高さを「ダム貯留時排水高」に変更する。用水管理サーバ28は、ステップS330の処理が終了するとステップS110へ移行し、次の圃場グループGについてダムモードへの切り替え(ステップS120以降の処理)を行う。こうして用水管理サーバ28は、貯水率が低い圃場グループGをダムモードへ切り替える場合に、圃場Hの水を一旦排水する処理(ステップS340以降の処理)をスキップする。
【0192】
ステップS340において用水管理サーバ28は、ステップS110で選択された圃場グループGに属する圃場Hの「ダム準備時排水高」の設定値を算出する。このとき用水管理サーバ28は、ステップS310で算出された貯水率に基づいて「ダム準備時排水高」の設定値を算出する。以下、「ダム準備時排水高」の設定値を算出する一例について説明する。
【0193】
用水管理サーバ28は、例えば「ダム準備時排水高」の設定値と貯水率とを圃場Hごとに予め関連付けて記憶している。こうして用水管理サーバ28では、圃場Hの貯水率がわかれば、それに応じて「ダム準備時排水高」の設定値を決めることができる。例えば、ステップS310で算出された圃場Hの貯水率が『10%』である場合には「ダム準備時排水高」の設定値を『2cm』とする、圃場Hの貯水率が『5%』である場合には「ダム準備時排水高」の設定値を『1cm』とする、など、互いに関連付けて記憶されている。用水管理サーバ28はこのような手法により「ダム準備時排水高」の設定値を算出する。本実施形態においては、こうして算出される「ダム準備時排水高」の設定値は、例えば圃場Hの貯水率が高くなるにつれて高い値となるように、適宜設定されている。ステップS340の処理が終了すると、用水管理サーバ28はステップS350へ移行する。
【0194】
ステップS350において用水管理サーバ28は、ステップS110で選択された圃場グループGに属する圃場Hの排水高さを、ステップS340で算出された「ダム準備時排水高」に変更する。このとき用水管理サーバ28は、圃場Hの排水高さを段階的に低くして、当該排水高さを最終的に「ダム準備時排水高」まで低くする。例えば用水管理サーバ28は、排水高さを『10cm』から『2cm』(ダム準備時排水高)に変更する場合に、排水高さを2cm低くして所定時間待機するという処理を、排水高さが『2cm』になるまで繰り返し実行する。ステップS350の処理が終了すると用水管理サーバ28は、ステップS360・S370の処理と、ステップS380の処理とを並列で実行する。
【0195】
なお、圃場Hの排水高さを段階的に低くする際の下げ幅及び待機時間は、関係者(圃場Hで作業する作業者や圃場貯水システム10の利用者等)により任意に設定可能である。この際関係者は、所定の機器を用いて前記下げ幅等設定できる。具体的には関係者は、利用者端末27や所有者端末35等を用いて前記下げ幅等設定できる。こうして関係者が設定した値(下げ幅及び待機時間)ごとに圃場Hの排水高さを低くする処理を繰り返し実行することで、圃場Hの排水高さを段階的に低くする処理を適宜制御することができる。例えば、前記下げ幅を小さくし、圃場Hから排水される水の勢いを弱くすることができる。また、前記下げ幅を大きくしたり、前記待機時間を短くして、排水高さを「ダム準備時排水高」まで下げ終えるのに要する時間を短くできる。
【0196】
ステップS360において用水管理サーバ28は、「ダムモード遷移時排水時間」(一旦排水する時間)の経過を待つ。このとき用水管理サーバ28は、例えば、ステップS350で排水高さを下げ始めてから(又は「ダム準備時排水高」まで下げ終えてから)経過した時間が「ダムモード遷移時排水時間」を超えるのを待つ。用水管理サーバ28は、ステップS360の処理が終了するとステップS370へ移行し、ステップS110で選択された圃場グループGに属する圃場Hの排水高さを「ダム貯留時排水高」に変更する。
【0197】
また、ステップS380において用水管理サーバ28は、「ダムモード遷移時排水間隔」(時間差で圃場グループGをダムモードへ切り替えるための待機時間)の経過を待つ。このとき用水管理サーバ28は、例えば、ステップS350で排水高さを下げ始めてから(又は「ダム準備時排水高」まで下げ終えてから)経過した時間が「ダムモード遷移時排水間隔」を超えるのを待つ。用水管理サーバ28は、ステップS380の処理が終了するとステップS110へ移行し、次の圃場グループGについてダムモードへの切り替え(ステップS120以降の処理)を行う。
【0198】
このように、自動ダム化処理では、圃場Hの貯水率に基づいて「ダム準備時排水高」の設定値を自動的に設定する(ステップS340・S350)。このような構成により、圃場Hの水を一旦排水する際に、圃場Hの排水高さを適切な高さにすることができる。例えば、
図23に示すように、貯水率が高い圃場Hの「ダム準備時排水高」の設定値を比較的高い値に設定し、当該圃場Hから過剰に水が排水されるのを防止することができる。これによって排水路24cに多量の水が流入して水位が上昇するのを防止できる。また、
図24に示すように、貯水率が低い圃場Hの「ダム準備時排水高」の設定値を比較的低い値に設定し、当該圃場Hからの排水量を確保することができる。
【0199】
以下では、
図25及び
図26を参照し、第二実施形態に係る自動ダム化処理の具体例を説明する。なお、以下では圃場グループGとして、「制御対象1~3」をダムモードに切り替える場合を例に挙げて説明する。
【0200】
前提として、
図25及び
図26(a)に示すように、「制御対象1~3」は、数字が小さいものから順に支川R2の下流側に位置しているものとする。また「制御対象1~3」は、自動ダム化処理の実行前の初期状態において通常モード(作物の生育に適した水位に調節されるモード)に切り替えられているものとする。また、「制御対象1」及び「制御対象3」に属する圃場Hは、比較的貯水率が低い状態となっているものとする。具体的には「制御対象1」及び「制御対象3」の圃場Hの貯水率は、ステップS320における閾値以下である。一方「制御対象2」の圃場Hの貯水率は、ステップS320における閾値よりも大きい。用水管理サーバ28は、自動ダム化処理を実行することで、
図13に設定された通り、「制御対象1」、「制御対象2」、「制御対象3」の順にダムモードに切り替える。以下、具体的に説明する。
【0201】
自動ダム化処理の実行が開始されると、用水管理サーバ28は、優先度が最も高い「制御対象1」の貯水率を算出する(ステップS110、ステップS120:Yes、ステップS130:Yes、ステップS140・S310)。そして用水管理サーバ28は、「制御対象1」の貯水率が所定の閾値以下であることから、
図25及び
図26(b)に示すように、「制御対象1」の圃場Hの排水高さを「ダム貯留時排水高」に変更する(ステップS320:No、ステップS330)。
【0202】
次に用水管理サーバ28は、「制御対象1」の次に優先度が高い「制御対象2」の貯水率を算出する。そして用水管理サーバ28は、算出した貯水率が所定の閾値よりも大きいことから、「制御対象2」の圃場Hの排水高さを「ダム準備時排水高」に変更する(ステップS320:Yes、ステップS340・S350)。
【0203】
このように、「制御対象1」の一旦排水する処理(ステップS340~S380の処理)をスキップすることで、用水管理サーバ28は、速やかに次の圃場グループG(「制御対象2」)をダムモードへ切り替えることができる。これにより、用水管理サーバ28は、自動ダム化処理に要する時間を短縮することができる。
【0204】
用水管理サーバ28は、「制御対象2」の排水を開始してから「ダムモード遷移時排水間隔」が経過すると、
図25及び
図26(c)に示すように、貯水率が低い「制御対象3」について一旦排水する処理をスキップし、当該「制御対象3」の排水高さを「ダム貯留時排水高」に変更する。また「制御対象2」の排水を開始してから「ダムモード遷移時排水時間」が経過すると(ステップS360)、用水管理サーバ28は、「制御対象2」の排水高さを「ダム貯留時排水高」に変更する(ステップS370)。
【0205】
このように本実施形態では、一部の圃場グループG(上記例では「制御対象1・3」)について一旦排水する処理をスキップすることで、自動ダム化処理に要する時間の短縮化を図ることができる。なおこの際、貯水率が比較的低い圃場グループG(「制御対象1・3」)に限り、一旦排水する処理をスキップするように構成することで、雨水の貯留量も十分に確保することができる。
【0206】
以上の如く、本実施形態に係る圃場貯水システム10は、圃場Hの給排水を管理する給水装置31及び排水装置33(圃場水管理装置)を制御することが可能な用水管理サーバ28(制御部)を具備する圃場貯水システム10であって、前記用水管理サーバ28は、前記給水装置31及び排水装置33を制御するための制御モードとして、所定の条件に応じて前記圃場Hの排水高さを調節する通常モード(第一モード)と、前記所定の条件にかかわらず、前記圃場Hの排水高さを「ダム準備時排水高」(第一の排水高さ)に設定して前記圃場Hの水を一旦排水した後で、前記圃場Hの排水高さを前記通常モードにおける排水高さよりも高い「ダム貯留時排水高」(第二の排水高さ)に設定することにより、前記通常モードよりも多量の水を前記圃場Hに貯留可能とするダムモード(第二モード)と、を具備し、所定の第一基準(本実施形態では圃場Hの貯水率)に基づいて前記「ダム準備時排水高」を自動的に設定するものである(ステップS340・S350)。
【0207】
このように構成することにより、所定の第一基準に基づいて「ダム準備時排水高」を適切な高さに設定することができる。これにより、ダムモードに切り替える際に過剰に排水が行われたり排水量が不足するのを防止できる。
【0208】
また、前記所定の第一基準には、前記圃場Hの基準貯水量に対する現在の前記圃場Hの貯水量の割合を示す貯水率が含まれるものである。
【0209】
このように構成することにより、貯水率に基づいて「ダム準備時排水高」を適切な排水高さに設定することができる。
【0210】
また、前記用水管理サーバ28は、前記ダムモードへの切り替えにおいて、所定の第二基準(本実施形態では圃場Hの貯水率)に基づいて前記圃場Hの水を一旦排水する処理をスキップ可能である(
図25及び
図26参照)。
【0211】
このように構成することにより、ダムモードへ切り替えるのに要する時間を短縮することができる。
【0212】
また、前記用水管理サーバ28は、前記圃場Hの排水高さを前記「ダム準備時排水高」に設定する際に、前記圃場Hの排水高さを段階的に低くするものである。
【0213】
このように構成することにより、圃場Hから一旦排水される水の勢いを弱くして、圃場Hから泥や農薬等が排出されるのを防止することができる。
【0214】
なお、本実施形態に係る給水装置31及び排水装置33は、本発明に係る圃場水管理装置の実施の一形態である。
また、本実施形態に係る用水管理サーバ28は、本発明に係る制御部の実施の一形態である。
【0215】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0216】
例えば、用水管理サーバ28は、
図22に示す「最大排水高」に基づいて貯水率を算出するものとしたが(ステップS310)、これに限定されるものではなく、他の高さを基準として圃場Hの貯水率を算出してもよい。
【0217】
例えば用水管理サーバ28は、
図22に示す「ダム貯留時排水高」を基準に圃場Hの貯水率を算出してもよい。この場合用水管理サーバ28は、「ダム貯留時排水高」及び圃場Hの面積に基づいて圃場Hの基準貯水量を算出し、当該算出結果等に基づいて圃場Hの貯水率を算出する。また用水管理サーバ28は、
図22に示す「畔高」を基準に圃場Hの貯水率を算出してもよい。この場合用水管理サーバ28は、例えば所定のサーバ(圃場管理サーバ36等)から「畔高」を取得する。そして用水管理サーバ28は、当該「畔高」及び圃場Hの面積に基づいて圃場Hの基準貯水量を算出し、当該算出結果等に基づいて圃場Hの貯水率を算出する。また用水管理サーバ28は、作物を生育するのに適した圃場Hの水位の最大値(以下、「生育最大水位」と称する)を基準に圃場Hの貯水率を算出してもよい。この場合用水管理サーバ28は、例えば所定のサーバ(圃場管理サーバ36等)から圃場Hの生育状況を取得し、当該取得結果に基づいて「生育最大水位」を算出する。そして用水管理サーバ28は、当該算出結果に基づいて算出した圃場Hの基準貯水量等を用いて、圃場Hの貯水率を算出する。
【0218】
また、「最大排水高」、「ダム貯留時排水高」、「畔高」及び「生育最大水位」のいずれを基準にして圃場Hの貯水率を算出するのかを、自動ダム化処理の中で利用者が選択可能であってもよい。これによって、利便性を向上させることができる。
【0219】
また用水管理サーバ28は、圃場Hの減水深(単位時間当たりにどの程度水位が減少するか)を考慮して、圃場Hの貯水率を算出してもよい。例えば用水管理サーバ28は、圃場Hの水位を取得してからの経過時間と減水深とに基づいて圃場Hの現在水位を補正し、当該補正結果に基づいて圃場Hの貯水量を算出する。これによって用水管理サーバ28は、圃場Hの貯水率をより精度よく求めることができる。こうして減水深を考慮した貯水率の算出を行う場合、用水管理サーバ28は、圃場Hの減水深を適宜取得することができる。例えば、用水管理サーバ28は、過去の経験により関係者(圃場Hで作業する作業者や圃場貯水システム10の利用者等)が入力した減水深を取得してもよいし、圃場Hの水位の変動から自動的に算出された減水深を所定のサーバ(例えば圃場管理サーバ36等)から取得してもよい。
【0220】
また用水管理サーバ28は、圃場Hの貯水率に基づいて「ダム準備時排水高」を設定するものとしたが(ステップS340・S350)、「ダム準備時排水高」を設定する基準(本発明に係る第一基準)は特に限定されるものではなく、任意に変更可能である。用水管理サーバ28は、例えば予測雨量や排水路24cの水位や圃場Hの水位等に基づいて「ダム準備時排水高」を設定することができる。
【0221】
予測雨量に基づいて「ダム準備時排水高」を設定する場合、用水管理サーバ28には、例えば「ダム準備時排水高」の設定値と予測雨量とが予め関連付けて記憶される。こうして用水管理サーバ28では、予測雨量がわかれば、それに応じて「ダム準備時排水高」の設定値を決めることができる。このような「ダム準備時排水高」の設定値は、例えば予測雨量が多くなるにつれて低い値となるように、適宜設定される。用水管理サーバ28は、「ダム準備時排水高」を設定する際に、所定のサーバ等から予測雨量を取得する。用水管理サーバ28は、こうして取得した予測雨量に応じた「ダム準備時排水高」の設定値を、予め記憶された情報から決定する。このように、予測雨量そのものを用いて「ダム準備時排水高」を設定することで、用水管理サーバ28は、例えば予測雨量が所定の閾値よりも多い場合に「ダム準備時排水高」を低くして、事前に圃場Hからより多くの水を排水することができる。これにより、大雨が降った場合に圃場Hにより多くの水を貯留して、河川の増水や氾濫を効果的に抑制することができる。
【0222】
また予測雨量に基づいて「ダム準備時排水高」を設定する場合、用水管理サーバ28は、例えば予測雨量から今後の状態変化を予測して「ダム準備時排水高」を設定する(間接的に設定する)こともできる。例えば用水管理サーバ28は、予測雨量から圃場Hの水位の上昇量を予測する。そして用水管理サーバ28は、当該予測結果に基づいて「ダム準備時排水高」の設定値を設定する。例えば用水管理サーバ28は、圃場Hの水位の上昇量の予測結果が所定の閾値よりも高い場合に、「ダム準備時排水高」の設定値を比較的低くする。このような構成とすることで用水管理サーバ28は、今後圃場Hの水位上昇が予測される場合に、事前に圃場Hからより多くの水を排水することができる。また用水管理サーバ28は、予測雨量から今後の圃場Hの貯水率を予測して、「ダム準備時排水高」を設定することもできる。この場合用水管理サーバ28は、例えば圃場Hの貯水率の予測結果が所定の閾値よりも低い場合に、「ダム準備時排水高」の設定値を比較的高くすることで、圃場Hからの排水量を減らして排水路24cの増水を防止することができる。
【0223】
このように、前記所定の第一基準には、予測雨量が含まれるものである。
【0224】
このように構成することにより、予測雨量に基づいて「ダム準備時排水高」を適切な排水高さに設定することができる。
【0225】
また、排水路24cの水位に基づいて「ダム準備時排水高」を設定する場合、用水管理サーバ28には、例えば「ダム準備時排水高」の設定値と排水路24cの水位とが予め関連付けて記憶される。こうして用水管理サーバ28では、排水路24cの水位がわかれば、それに応じて「ダム準備時排水高」の設定値を決めることができる。このような「ダム準備時排水高」の設定値は、例えば排水路24cの水位が高くなるにつれて高い値となるように、適宜設定される。用水管理サーバ28は、「ダム準備時排水高」を設定する際に、所定の水位計から排水路24cの水位を取得する。この際用水管理サーバ28は、ステップS110で選択された圃場グループGに属する圃場Hの水が流入する排水路24cの水位を取得する。用水管理サーバ28は、こうして取得した排水路24cの水位に応じた「ダム準備時排水高」の設定値を、予め記憶された情報から決定する。このような構成とすることで用水管理サーバ28は、例えば排水路24cの水位が所定の閾値よりも高い場合に「ダム準備時排水高」を高くして、排水路24cに多量の水が排水されるのを防止することができる。これによって排水路24cが増水するのを効果的に防止することができる。
【0226】
このように、前記所定の第一基準には、前記圃場Hに接続された排水路24cの水位が含まれるものである。
【0227】
このように構成することにより、排水路24cの水位に基づいて「ダム準備時排水高」を適切な排水高さに設定することができる。
【0228】
また、圃場Hの水位に基づいて「ダム準備時排水高」を設定する場合、用水管理サーバ28には、例えば「ダム準備時排水高」の設定値と圃場Hの水位とが予め関連付けて記憶される。こうして用水管理サーバ28では、圃場Hの水位がわかれば、それに応じて「ダム準備時排水高」の設定値を決めることができる。このような「ダム準備時排水高」の設定値は、例えば圃場Hの水位が高くなるにつれて高い値となるように、適宜設定される。用水管理サーバ28は、「ダム準備時排水高」を設定する際に、水位水温センサ32から圃場Hの水位を取得する。用水管理サーバ28は、こうして取得した圃場Hの水位に応じた「ダム準備時排水高」の設定値を、予め記憶された情報から決定する。このような構成とすることで用水管理サーバ28は、例えば圃場Hの水位が所定の閾値よりも高い場合に「ダム準備時排水高」を高くして、排水路24cに多量の水が排水されるのを防止することができる。
【0229】
このように、前記所定の第一基準には、前記圃場Hの水位が含まれるものである。
【0230】
このように構成することにより、圃場Hの水位に基づいて「ダム準備時排水高」を適切な排水高さに設定することができる。
【0231】
また用水管理サーバ28は、上述した貯水率や予測雨量等、複数の基準を考慮して「ダム準備時排水高」を設定することもできる。例えば用水管理サーバ28は、予測雨量が多くても、排水路24cの水位が高い場合に「ダム準備時排水高」の設定値を高くすることで、圃場Hから排水路24cへ多量の水が流れるのを防止して、排水路24cの増水を抑制することができる。また用水管理サーバ28は、圃場Hの貯水率や水位が低くても、排水路24cの水位が高い場合に「ダム準備時排水高」の設定値を高くしてもよい。これにより、圃場Hから排水路24cへ多量の水が流れるのを防止できる。
【0232】
このように、「ダム準備時排水高」を設定するための基準(本発明に係る第一基準)には、複数の項目(例えば貯水率及び予測雨量等)が含まれていてもよい。例えば、用水管理サーバ28は、「ダム準備時排水高」を第一高さとする第一条件(例えば予測雨量が多いこと)と、「ダム準備時排水高」を第一高さよりも高い第二高さとする第二条件(例えば排水路24cの水位が高いこと)とのうち、前記第二条件を優先して「ダム準備時排水高」を設定してもよい。これによって「ダム準備時排水高」を適切な排水高さに設定することができる。
【0233】
また、予測雨量や圃場Hの貯水率等の基準に基づいて「ダム準備時排水高」の設定値の大きさをどのように決定するのかは、特に限定されるものではなく、任意に変更可能である。例えば治水を優先し、予測雨量や圃場Hの貯水率が高い場合における「ダム準備時排水高」の設定値を、予測雨量等が低い場合よりも低くしてもよい。
【0234】
また用水管理サーバ28は、圃場Hの貯水率に基づいて圃場Hの水を一旦排水する処理をスキップするものとしたが(ステップS320:No)、スキップの基準(本発明に係る第二基準)はこれに限定されるものではなく、任意に変更可能である。例えば用水管理サーバ28は、予測雨量や排水路24cの水位や圃場Hの水位、駆動電源の電力量、電源電圧等に基づいて、圃場Hの水を一旦排水する処理をスキップしてもよい。
【0235】
予測雨量に基づいて一旦排水する処理をスキップする場合、用水管理サーバ28は、例えば予測雨量が所定の閾値よりも小さいか否かを判定する。そして用水管理サーバ28は、予測雨量が所定の閾値よりも小さい場合に圃場Hの水を一旦排水する処理をスキップする。このように、一旦排水する処理をスキップするか否かを予測雨量そのものを用いて判定することで、例えば予測雨量が少ない場合に圃場Hから過剰に水が排水されるのを防止することができる。
【0236】
また予測雨量に基づいて「ダム準備時排水高」を設定する場合、用水管理サーバ28は、例えば予測雨量から今後の状態変化を予測した結果に基づいて、一旦排水する処理をスキップすることもできる。例えば用水管理サーバ28は、予測雨量から圃場Hの水位の上昇量を予測する。そして用水管理サーバ28は、当該予測結果が所定の閾値よりも小さい場合に一旦排水する処理をスキップする。このような構成とすることで用水管理サーバ28は、適宜閾値を設定することで、例えば大雨が降ったとしても圃場Hから水が溢れることがないと判断できる場合に一旦排水する処理をスキップするなど、適切な制御を行うことができる。
【0237】
また、排水路24cの水位に基づいて一旦排水するか否かを判定する場合、用水管理サーバ28は、排水路24cの水位が所定の閾値よりも大きいか否かを判定する。そして用水管理サーバ28は、排水路24cの水位が所定の閾値よりも大きい場合に圃場Hの水を一旦排水する処理をスキップする。このような構成とすることで、例えば排水路24cの水位が高い場合に圃場Hからの排水を中止して、排水路24cの水が溢れるのを防止することができる。
【0238】
また、圃場Hの水位に基づいて一旦排水するか否かを判定する場合、用水管理サーバ28は、圃場Hの水位が所定の閾値よりも小さいか否かを判定する。そして用水管理サーバ28は、圃場Hの水位が所定の閾値よりも小さい場合に圃場Hの水を一旦排水する処理をスキップする。このように、貯水量がある程度確保できていると思われる圃場H(水位が比較的小さい圃場H)については、一旦排水する処理をスキップして自動ダム化処理に要する時間を短縮することができる。
【0239】
また駆動電源(バッテリー)の電力量に基づいて一旦排水するか否かを判定する場合、用水管理サーバ28は、例えば駆動電源の電力量が所定の閾値よりも小さいか否かを判定する。そして用水管理サーバ28は、駆動電源の電力量が所定の閾値よりも小さい場合に圃場Hの水を一旦排水する処理をスキップする。また電源電圧に基づいて一旦排水するか否かを判定する場合、用水管理サーバ28は、例えば電源電圧が所定の閾値よりも小さいか否かを判定する。そして用水管理サーバ28は、電源電圧が所定の閾値よりも小さい場合に圃場Hの水を一旦排水する処理をスキップする。こうして駆動電源の電力量や電源電圧に基づいて一旦排水する処理をスキップすることで、駆動電源の充電状態に余裕がない場合に排水装置33の動作回数を減らすことができる。
【0240】
また用水管理サーバ28は、上述した貯水率や予測雨量等、複数の基準を考慮して圃場Hの水を一旦排水する処理をスキップすることもできる。以下、現在の貯水率及び予測雨量に基づいて圃場Hの水を一旦排水する処理をスキップする処理の一例を説明する。
【0241】
用水管理サーバ28は、現在の貯水率及び予測雨量に基づいて今後の圃場Hの貯水率を予測する。この際用水管理サーバ28は、例えば圃場Hの水を一旦排水する処理をスキップした場合における、所定時間先の圃場Hの貯水率を予測する。そして用水管理サーバ28は、当該予測結果が所定の閾値よりも小さい場合に、圃場Hの水を一旦排水する処理をスキップする。これにより用水管理サーバ28は、貯水量がある程度確保できていると思われる圃場Hについては、一旦排水する処理をスキップして自動ダム化処理に要する時間を短縮することができる。
【0242】
また用水管理サーバ28は、圃場グループGごとに圃場Hの水を一旦排水する処理をスキップしたが(ステップS320:No)、これに限定されるものではなく、圃場Hごとにスキップしてもよい。
【0243】
また用水管理サーバ28は、排水高さを「ダム準備時排水高」にする際に、排水高さを段階的に下げるものとしたが、排水高さをどのように下げるのかは任意に変更可能である。例えば用水管理サーバ28は、連続的にゆっくりと(単位時間あたりの排水高さの変化量が、所定の閾値未満となるように)排水高さを下げてもよい。こうして用水管理サーバ28は、時間をかけて排水高さを「ダム準備時排水高」にすることで、圃場Hから一旦排水される水の勢いを弱くすることができる。また用水管理サーバ28は、時間をかけずに(一気に)排水高さを「ダム準備時排水高」まで下げてもよい。
【0244】
また用水管理サーバ28は、少なくとも所定の基準(貯水率等)に応じて「ダム準備時排水高」を設定するものであればよい。したがって用水管理サーバ28は、必ずしも所定の条件を満たした場合に一旦排水する処理をスキップする必要はない。
【符号の説明】
【0245】
10 圃場貯水システム
28 用水管理サーバ
31 給水装置
33 排水装置
H 圃場