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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】ガス遮断器
(51)【国際特許分類】
   H01H 33/915 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
H01H33/915
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021149292
(22)【出願日】2021-09-14
(65)【公開番号】P2023042147
(43)【公開日】2023-03-27
【審査請求日】2023-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】523380173
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 一人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 達朗
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-143473(JP,A)
【文献】特開2016-131061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 33/915
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁媒体が充填された充填容器と、
軸方向の一端側に備えられた操作器と、
前記充填容器の内部で前記軸方向に互いに対向して配置された操作器側主接触子と対向側主接触子と、
前記充填容器の内部で前記一端側に位置し、前記操作器からの駆動力により前記軸方向に移動可能な操作器側アーク接触子と、
前記充填容器の内部で前記軸方向の他端側に位置し、前記軸方向で前記操作器側アーク接触子に対向して、前記操作器側アーク接触子に接離可能な対向側アーク接触子と、
前記操作器側アーク接触子と前記対向側アーク接触子よりも径方向の外側に位置し、前記操作器からの駆動力により前記軸方向に移動可能な絶縁ノズルと、
を備え、
前記対向側アーク接触子は、前記軸方向に延伸し、前記一端側に位置する先端部と、前記他端側に位置する末尾部と、前記先端部と前記末尾部との間に位置する中間部とを備え、
前記中間部は、前記先端部と前記末尾部よりも太い形状を備え、前記絶縁ノズルに接触しない、
ことを特徴とするガス遮断器。
【請求項2】
前記絶縁ノズルは、前記軸方向に延伸し、前記一端側に位置する上流部と、前記他端側に位置する下流部と、前記上流部と前記下流部との間に位置するスロート部とを備え、
前記スロート部では、前記絶縁ノズルの内周部が前記上流部と前記下流部よりも前記径方向の内側に位置しており、
前記対向側アーク接触子の前記中間部は、前記スロート部に接触しない、
請求項1に記載のガス遮断器。
【請求項3】
前記対向側アーク接触子の前記中間部は、前記操作器側アーク接触子と前記対向側アーク接触子とが互いに開離したときには、少なくとも一部が前記軸方向における前記スロート部の存在範囲内に位置する、
請求項2に記載のガス遮断器。
【請求項4】
前記対向側アーク接触子の前記先端部は、電流ゼロ点では、前記軸方向における前記絶縁ノズルの前記下流部の存在範囲内に位置する、または前記絶縁ノズルよりも前記他端側に位置し、
前記電流ゼロ点とは、前記操作器側アーク接触子と前記対向側アーク接触子との間に発生したアークが消弧されて電流が遮断された時点である、
請求項2に記載のガス遮断器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス遮断器、特にパッファ形のガス遮断器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高電圧の電力系統に用いられるガス遮断器では、電流の遮断動作時にパッファ室で圧縮されて圧力が上昇した絶縁媒体(消弧ガス)を絶縁ノズルによって整流し、この圧縮ガスを電極間に生じたアークに吹き付けて消弧することで電流を遮断する。このようなパッファ形のガス遮断器の例は、特許文献1に記載されている。ガス遮断器は、電極として、操作器で駆動されて移動する操作器側電極と、操作器側電極に対向して配置された対向側電極を備える。それぞれの電極は、通常の通電時(投入時)に主な電流経路を形成する主接触子と、電流遮断時にアークが生成されるアーク接触子とを備える。
【0003】
特許文献2には、遮断動作の途中でアーク接触子間に形成されたアークの熱エネルギーを利用することで、パッファ室内の絶縁媒体の圧力を上昇させるガス遮断器の例が記載されている。例えば特許文献1に記載されたガス遮断器では、パッファ室内の絶縁媒体の圧力上昇のために、操作器の駆動力を大きくする必要がある。特許文献2に記載されたガス遮断器では、このように大きくせざるを得なかった操作器の駆動力を小さくできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-225226号公報
【文献】特開2016-131061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガス遮断器で電流を効果的に遮断するためには、電流の遮断動作時に、アークで高温になった絶縁媒体をパッファ室内に導入し、パッファ室内の絶縁媒体の圧力を効率的に上昇させるのが好ましい。さらに、圧力が上昇した絶縁媒体をパッファ室から効率的にアークに吹き付けて消弧すると、電流をより効果的に遮断することができる。
【0006】
特許文献2に記載されたガス遮断器などの従来のガス遮断器では、絶縁媒体の圧力上昇とアークの消弧の両方を効率的に行うのが困難であり、いずれか一方が非効率的になるという課題がある。操作器の操作力を向上させると、電流の遮断動作時にパッファ室内の絶縁媒体の圧力を上昇させることができるが、操作器のコスト増加が避けられず、好ましくない。
【0007】
本発明の目的は、電流の遮断動作時に絶縁媒体の圧力の上昇とアークの消弧の両方を効率的に行うことができるガス遮断器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるガス遮断器は、絶縁媒体が充填された充填容器と、軸方向の一端側に備えられた操作器と、前記充填容器の内部で前記軸方向に互いに対向して配置された操作器側主接触子と対向側主接触子と、前記充填容器の内部で前記一端側に位置し、前記操作器からの駆動力により前記軸方向に移動可能な操作器側アーク接触子と、前記充填容器の内部で前記軸方向の他端側に位置し、前記軸方向で前記操作器側アーク接触子に対向して、前記操作器側アーク接触子に接離可能な対向側アーク接触子と、前記操作器側アーク接触子と前記対向側アーク接触子よりも径方向の外側に位置し、前記操作器からの駆動力により前記軸方向に移動可能な絶縁ノズルとを備える。前記対向側アーク接触子は、前記軸方向に延伸し、前記一端側に位置する先端部と、前記他端側に位置する末尾部と、前記先端部と前記末尾部との間に位置する中間部とを備える。前記中間部は、前記先端部と前記末尾部よりも太い形状を備え、前記絶縁ノズルに接触しない。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、電流の遮断動作時に絶縁媒体の圧力の上昇とアークの消弧の両方を効率的に行うことができるガス遮断器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例1によるガス遮断器の構成を示す断面図である。
図2】実施例1によるガス遮断器において、電流の遮断動作前の電極を示す断面図である。
図3】実施例1によるガス遮断器において、電流の遮断動作時に互いに開離した直後の操作器側アーク接触子と対向側アーク接触子を示す断面図である。
図4】実施例1によるガス遮断器において、電流ゼロ点での操作器側アーク接触子と対向側アーク接触子を示す断面図である。
図5】実施例1によるガス遮断器において、電流の遮断動作後の操作器側アーク接触子と対向側アーク接触子を示す断面図である。
図6】実施例1によるガス遮断器において、電流の遮断動作の開始から完了までの熱パッファ室の圧力を解析した結果の一例を示すグラフである。
図7】本発明の実施例2によるガス遮断器において、電流の遮断動作前の電極を示す断面図である。
図8】実施例2によるガス遮断器において、電流の遮断動作時に互いに開離した直後の操作器側アーク接触子と対向側アーク接触子を示す断面図である。
図9】実施例2によるガス遮断器において、電流ゼロ点での操作器側アーク接触子と対向側アーク接触子を示す断面図である。
図10】実施例2によるガス遮断器において、電流の遮断動作後の操作器側アーク接触子と対向側アーク接触子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明によるガス遮断器は、操作器側に位置して軸方向に移動可能な操作器側アーク接触子と、操作器側アーク接触子と軸方向で対向する対向側アーク接触子と、操作器側アーク接触子と対向側アーク接触子を囲むことができるように位置して軸方向に移動可能な絶縁ノズルを備える。対向側アーク接触子は、軸方向の中央部である対向側アーク接触子中間部が径方向外側に突出しており、絶縁ノズルに接触しない。なお、対向側アーク接触子は、軸方向に移動可能であってもよい。
【0012】
絶縁ノズルは、軸方向の中央部である絶縁ノズルスロート部にて内周部が径方向内側に突出しているのが好ましい。操作器側アーク接触子と対向側アーク接触子が互いに開離したときには、対向側アーク接触子中間部の少なくとも一部は、軸方向における絶縁ノズルスロート部の存在範囲内に位置するのが好ましい。
【0013】
従来のガス遮断器では、対向側アーク接触子は、太さが軸方向で一定であり、中央部が径方向外側に突出していない。このため、従来のガス遮断器は、電流の遮断動作時にパッファ室内の絶縁媒体の圧力を効率的に上昇させることと、絶縁媒体をパッファ室から効率的にアークに吹き付けて消弧することの両立が困難である。
【0014】
本発明によるガス遮断器は、上記の構成を備え、電流の遮断動作時に絶縁媒体の圧力の上昇とアークの消弧の両方を効率的に行うことができる。また、本発明によるガス遮断器では、操作器の駆動力(操作力)を向上させなくても電流の遮断動作時にパッファ室内の絶縁媒体の圧力を上昇させることができるので、操作器のコストの増加を避けることができる。
【0015】
以下、本発明の実施例によるガス遮断器を、図面を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【実施例1】
【0016】
図1図2を用いて、本発明の実施例1によるガス遮断器を説明する。本実施例によるガス遮断器は、パッファ形のガス遮断器である。
【0017】
図1は、本実施例によるガス遮断器の構成を示す断面図である。図2は、本実施例によるガス遮断器において、電流の遮断動作前の電極(投入時の電極)を示す断面図である。
【0018】
本実施例によるガス遮断器は、円筒形の充填容器2を備えるとともに、充填容器2の内部に、電極と、操作器側導体4と、対向側導体5と、絶縁ノズル16と、シリンダ18と、中空ロッド17と、絶縁ロッド3と、操作器側アーク接触子カバー15を備える。さらに、ガス遮断器は、一端側(図1図2の右側)に操作器1を備える。
【0019】
以下では、本実施例によるガス遮断器において、操作器1を備える一端側を「操作器側」と呼び、他端側(図1図2の左側)を「対向側」と呼ぶ。
【0020】
充填容器2の内部には、消弧性を有する絶縁媒体32が充填されている。絶縁媒体32は、アークに吹き付けられる消弧ガスであり、代表的な例としてSFガスを挙げることができる。
【0021】
ガス遮断器は、電極として、操作器側主接触子11、対向側主接触子12、操作器側アーク接触子13、及び対向側アーク接触子14を備える。操作器側主接触子11と対向側主接触子12は、互いに対向して配置され、互いに接離可能である。対向側主接触子12は、操作器側主接触子11の対向側に位置する。操作器側アーク接触子13と対向側アーク接触子14は、互いに対向して配置され、互いに接離可能である。対向側アーク接触子14は、操作器側アーク接触子13の対向側に位置する。
【0022】
操作器側導体4は、操作器側の電極である操作器側主接触子11と操作器側アーク接触子13に電流を流す。対向側導体5は、対向側の電極である対向側主接触子12と対向側アーク接触子14に電流を流す。
【0023】
絶縁ノズル16は、筒状の部材であり、操作器側アーク接触子13と対向側アーク接触子14を囲むことができるように配置されている。絶縁ノズル16の操作器側の先端部は、シリンダ18の対向側の先端部に固定されている。アークを消弧するときには、絶縁ノズル16の内部を絶縁媒体32が流れる。
【0024】
シリンダ18は、対向側の端部の外面に操作器側主接触子11を備える。シリンダ18の内部には、中空ロッド17が配置されている。また、シリンダ18の内部は、熱パッファ室19と機械パッファ室21に分けられている。熱パッファ室19と機械パッファ室21の間には、逆止弁20が設置されている。逆止弁20は、シリンダ18を熱パッファ室19と機械パッファ室21に区切っている。
【0025】
中空ロッド17は、シリンダ18に固定されている。中空ロッド17の対向側の先端部の内周側に、操作器側アーク接触子13が固定されている。中空ロッド17の操作器側の端部は、絶縁ロッド3を介して操作器1と機械的に接続されている。
【0026】
操作器側アーク接触子カバー15は、中空ロッド17に設けられ、操作器側アーク接触子13の周囲を覆う。
【0027】
操作器1からの油圧やばねなどの駆動力により、絶縁ロッド3、中空ロッド17、シリンダ18、操作器側主接触子11、操作器側アーク接触子13、操作器側アーク接触子カバー15、及び絶縁ノズル16は、図1図2の左右方向に移動可能である。なお、対向側主接触子12と対向側アーク接触子14は、操作器1からの駆動力により図1図2の左右方向に移動しても移動しなくてもよい。本実施例では、対向側主接触子12と対向側アーク接触子14は、移動しないものとする。
【0028】
以下では、ガス遮断器において、図1図2の左右方向(操作器側主接触子11、操作器側アーク接触子13、及び絶縁ノズル16などが移動する方向)「軸方向」と呼び、軸方向に垂直な方向を「径方向」と呼ぶ。従って、操作器1は、軸方向の一端側に備えられている。操作器側主接触子11は、充填容器2の内部で軸方向の一端側に位置する。対向側主接触子12は、充填容器2の内部で軸方向の他端側に位置して、軸方向で操作器側主接触子11に対向する。操作器側アーク接触子13は、充填容器2の内部で軸方向の一端側に位置する。対向側アーク接触子14は、充填容器2の内部で軸方向の他端側に位置して、軸方向で操作器側アーク接触子13に対向する。絶縁ノズル16は、操作器側アーク接触子13と対向側アーク接触子14よりも径方向の外側に位置する。
【0029】
また、操作器側主接触子11と操作器側アーク接触子13が、それぞれ対向側主接触子12と対向側アーク接触子14に近づく方向(図1図2の左方向)を「投入方向」と呼び、離れる方向(図1図2の右方向)を「遮断方向」と呼ぶ。
【0030】
図2を用いて、対向側アーク接触子14と絶縁ノズル16を詳しく説明する。
【0031】
対向側アーク接触子14は、軸方向に延伸する丸棒状の部材であり、対向側アーク接触子先端部14A、対向側アーク接触子中間部14B、及び対向側アーク接触子末尾部14Cを備える。対向側アーク接触子先端部14Aは、対向側アーク接触子14において、軸方向の操作器側に位置する部分(軸方向の先端部)である。対向側アーク接触子末尾部14Cは、対向側アーク接触子14において、軸方向の対向側に位置する部分(軸方向の末尾)である。対向側アーク接触子中間部14Bは、対向側アーク接触子14において、軸方向の中央部であり、対向側アーク接触子先端部14Aと対向側アーク接触子末尾部14Cの間に位置する部分である。
【0032】
対向側アーク接触子中間部14Bは、対向側アーク接触子先端部14Aと対向側アーク接触子末尾部14Cよりも太い形状を備える。すなわち、対向側アーク接触子中間部14Bは、対向側アーク接触子14の径方向外側に突出している部分であり、対向側アーク接触子中間部14Bの直径は、対向側アーク接触子先端部14Aの直径と対向側アーク接触子末尾部14Cの直径よりも大きい。
【0033】
絶縁ノズル16は、軸方向に延伸する筒状の部材であり、絶縁ノズル上流部16A、絶縁ノズルスロート部16B、及び絶縁ノズル下流部16Cを備える。絶縁ノズル上流部16Aは、絶縁ノズル16において、アークを消弧するときの絶縁媒体32の流れの上流側の部分(軸方向の操作器側に位置する部分)である。絶縁ノズル下流部16Cは、絶縁ノズル16において、アークを消弧するときの絶縁媒体32の流れの下流側の部分(軸方向の対向側に位置する部分)である。絶縁ノズルスロート部16Bは、絶縁ノズル16において、軸方向の中央部であり、絶縁ノズル上流部16Aと絶縁ノズル下流部16Cの間に位置する部分である。
【0034】
絶縁ノズルスロート部16Bでは、絶縁ノズル16の内周部が、絶縁ノズル上流部16Aと絶縁ノズル下流部16Cよりも径方向内側に位置している。すなわち、絶縁ノズル16は、絶縁ノズルスロート部16Bでの内径が、絶縁ノズル上流部16Aでの内径と絶縁ノズル下流部16Cでの内径よりも小さい。
【0035】
絶縁ノズルスロート部16Bの内径は、対向側アーク接触子中間部14Bの直径よりも大きい。このため、絶縁ノズルスロート部16Bは、対向側アーク接触子14が軸方向に移動しても、対向側アーク接触子中間部14Bに接触しない。すなわち、対向側アーク接触子中間部14Bは、絶縁ノズル16に接触しない。
【0036】
本実施例によるガス遮断器の電流遮断時の動作を、図3図4、及び図5を用いて説明する。図3図4、及び図5には、電流遮断時に操作器1からの駆動力によって、中空ロッド17、シリンダ18、操作器側主接触子11、操作器側アーク接触子13、操作器側アーク接触子カバー15、及び絶縁ノズル16が、図2に示した遮断動作前の状態から遮断方向に移動する様子を時系列順に示す。図3図4には、遮断動作時に生じたアークによって高温となった絶縁媒体32(ホットガス)の流れを矢印で示している。
【0037】
図3は、電流の遮断動作時に互いに開離した直後の操作器側アーク接触子13と対向側アーク接触子14を示す断面図である。
【0038】
図2に示した状態のガス遮断器において、操作器1は、外部からの電気信号などによる電流遮断指令を受けて駆動力を発生させる。操作器1が駆動力を発生させると、絶縁ロッド3、中空ロッド17、シリンダ18、操作器側主接触子11、操作器側アーク接触子13、操作器側アーク接触子カバー15、及び絶縁ノズル16が遮断方向に移動し、操作器側アーク接触子13と対向側アーク接触子14は、互いに開離する。
【0039】
図3に示すように、操作器側アーク接触子13と対向側アーク接触子14が互いに開離した際には、電流が流れ続けているので、操作器側アーク接触子13と対向側アーク接触子14の間にアーク31が発生する。絶縁媒体32は、アーク31から発生した熱エネルギーによって圧力が高くなり、矢印32aのように流れて熱パッファ室19に流入する。熱パッファ室19の圧力は、この絶縁媒体32の流れ(矢印32a)により上昇する。
【0040】
本実施例によるガス遮断器では、対向側アーク接触子14は、対向側アーク接触子中間部14Bにて径方向外側に突出しており、絶縁ノズル16は、絶縁ノズルスロート部16Bにて内周部が径方向内側に突出している。そして、操作器側アーク接触子13と対向側アーク接触子14が互いに開離したときには、対向側アーク接触子中間部14Bは、少なくともその一部が軸方向における絶縁ノズルスロート部16Bの存在範囲内に位置する。
【0041】
この構成により、本実施例によるガス遮断器では、アーク31が消弧されるまでにアーク31の発生位置から対向側アーク接触子中間部14Bと絶縁ノズルスロート部16Bとの間を通って対向側にある絶縁ノズル下流部16Cに流出する絶縁媒体32の流路を狭め、絶縁ノズル下流部16Cに流出する絶縁媒体32の量を減少させることができる。このため、本実施例によるガス遮断器では、熱パッファ室19の圧力をより大きく上昇させることができ、絶縁媒体32の圧力を効率的に上昇させることができる。
【0042】
図4は、電流ゼロ点での操作器側アーク接触子13と対向側アーク接触子14を示す断面図である。電流ゼロ点とは、アーク31が消弧されて電流が遮断された時点である。
【0043】
図3に示した状態の後、ガス遮断器の遮断動作が進んでいき、アーク31が消弧されて電流が遮断されたときには、対向側アーク接触子先端部14Aが絶縁ノズルスロート部16Bから抜けている。すなわち、電流ゼロ点では、対向側アーク接触子先端部14Aは、図4に示すように軸方向における絶縁ノズル下流部16Cの存在範囲内に位置するか、絶縁ノズル16よりも対向側に位置する。
【0044】
図3に示した状態の後から図4に示すような電流ゼロ点の状態に到達するまでに、熱パッファ室19の内部で高圧になった絶縁媒体32は、矢印32bで示すように、絶縁ノズル上流部16Aと絶縁ノズルスロート部16Bの内部を通って絶縁ノズル下流部16Cと対向側アーク接触子先端部14Aとの隙間を流れていく。なお、電流ゼロ点の状態でも、絶縁媒体32を吹き付けて、アーク31が再発弧(再発生)しないようにする。
【0045】
本実施例によるガス遮断器では、対向側アーク接触子先端部14Aは、電流ゼロ点で、軸方向における絶縁ノズル下流部16Cの存在範囲内に位置するか、絶縁ノズル16よりも対向側に位置する。絶縁ノズル16の内径は、絶縁ノズル下流部16Cでは、絶縁ノズルスロート部16Bよりも大きい。このため、本実施例によるガス遮断器では、操作器側アーク接触子13と対向側アーク接触子14が互いに開離した後で電流ゼロ点の状態に到達するまでに、絶縁ノズル下流部16Cと対向側アーク接触子先端部14Aとの隙間が広くなり(すなわち、絶縁媒体32の流路が広くなり)、この隙間を絶縁媒体32が流れやすくなる。従って、本実施例によるガス遮断器では、アーク31に多量の絶縁媒体32を吹き付けることができ、アーク31を効率的に消弧することができる。
【0046】
また、対向側アーク接触子先端部14Aの直径を適切な値に設計することで、図4に示した状態において、絶縁ノズル下流部16Cと対向側アーク接触子先端部14Aとの隙間を流れる絶縁媒体32bの量を、電流の遮断動作に対して最適な値に設定することができる。
【0047】
図5は、電流の遮断動作後の操作器側アーク接触子13と対向側アーク接触子14を示す断面図である。
【0048】
図4に示した状態の後、絶縁ロッド3、中空ロッド17、シリンダ18、操作器側主接触子11、操作器側アーク接触子13、操作器側アーク接触子カバー15、及び絶縁ノズル16は、遮断方向に移動し続け、図5に示した状態で停止する。これらの移動が停止すると、電流の遮断動作が完了する。
【0049】
図6は、本実施例によるガス遮断器において、電流の遮断動作の開始から完了までの熱パッファ室19の圧力を解析した結果の一例を示すグラフである。図6には、対向側アーク接触子中間部14Bの直径が、対向側アーク接触子先端部14Aの直径に対し、100%である(対向側アーク接触子先端部14Aの直径と等しい)場合の解析結果45と、110%である(対向側アーク接触子先端部14Aの直径の1.1倍である)場合の解析結果46と、120%である場合の解析結果47と、130%である場合の解析結果48を示している。
【0050】
図6において、横軸は、遮断動作中の時間を示す。時刻t1は、電流の遮断動作の開始時点であり、ガス遮断器は図2に示した状態にある。時刻t2は、操作器側アーク接触子13と対向側アーク接触子14が互いに開離した直後の時点であり、ガス遮断器は図3に示した状態にある。時刻t3は、電流ゼロ点の時点であり、ガス遮断器は図4に示した状態にある。時刻t4は、電流の遮断動作の完了時点であり、ガス遮断器は図5に示した状態にある。
【0051】
図6において、縦軸は、電流の遮断動作の開始時点である時刻t1からの、熱パッファ室19の圧力の上昇割合を示す。縦軸の目盛りは、解析結果45(対向側アーク接触子中間部14Bの直径が対向側アーク接触子先端部14Aの直径と等しい場合)において、時刻t1(電流の遮断動作の開始時点)から時刻t3(電流ゼロ点の時点)までに熱パッファ室19の圧力が増加した割合を100%としている。
【0052】
図6の解析結果は、絶縁ノズルスロート部16Bの内径が、対向側アーク接触子先端部14Aの直径の140%とした場合に得られた結果である。絶縁ノズルスロート部16Bの内径は、任意に定めることができるが、操作器側アーク接触子13と対向側アーク接触子14の形状や操作器1の駆動力などを考慮して、対向側アーク接触子先端部14Aの直径の130%から150%の範囲で最適なものを選択するのが好ましい。
【0053】
図6に示すように、対向側アーク接触子先端部14Aの直径を基準として、対向側アーク接触子中間部14Bの直径が110%から130%であり、絶縁ノズルスロート部16Bの内径が140%である場合には、時刻t3(電流ゼロ点の時点)における熱パッファ室19の圧力は、117%から154%の範囲に増加した。すなわち、対向側アーク接触子中間部14Bの直径が、対向側アーク接触子先端部14Aの直径よりも大きいと、熱パッファ室19の圧力が増加し、絶縁媒体32の圧力が上昇することがわかる。
【0054】
対向側アーク接触子中間部14Bの直径は、電流遮断に最適な熱パッファ室19のガス圧力に合わせて決定することができる。対向側アーク接触子中間部14Bの直径を適切に定めることで、図3に示した状態(操作器側アーク接触子13と対向側アーク接触子14が互いに開離した直後の状態)で、熱パッファ室19の圧力すなわち絶縁媒体32の圧力が電流遮断に適する圧力になるように制御することができる。
【0055】
また、対向側アーク接触子中間部14Bの軸方向の位置や長さを変えることにより、アーク31が発生してから対向側アーク接触子中間部14Bが絶縁ノズルスロート部16Bを抜け出す(軸方向における絶縁ノズルスロート部16Bの存在範囲内から出る)までの時間を変えることができる。従って、対向側アーク接触子中間部14Bの軸方向の位置や長さを変えることで、熱パッファ室19の圧力(すなわち絶縁媒体32の圧力)を制御することができる。
【0056】
本実施例によるガス遮断器を設計する際には、例えば以下のような手順に従うのが好ましい。初めに、絶縁ノズル16と対向側アーク接触子14を除く構成部品の形状や大きさなどの仕様を決める。次に、対向側アーク接触子先端部14Aと絶縁ノズル下流部16Cを電流遮断に最適な形状と大きさに定める。そして、熱パッファ室19の圧力が電流遮断時に必要な圧力となるように、絶縁ノズルスロート部16Bと対向側アーク接触子中間部14Bの形状と大きさを定める。
【0057】
本実施例によるガス遮断器は、以上のような構成を備え、電流の遮断動作時に絶縁媒体32の圧力を効率的に上昇させ、アーク31を効率的に消弧することができる。さらに、本実施例によるガス遮断器は、アーク31の熱エネルギーを利用して絶縁媒体32の圧力を上昇させるので、操作器1の操作力を向上させなくても遮断性能を向上でき、操作器1の駆動力を低減可能である。
【実施例2】
【0058】
図7から図10を用いて、本発明の実施例2によるガス遮断器を説明する。本実施例によるガス遮断器は、実施例1によるガス遮断器とほぼ同様の構成を備えるが、パッファ室の構成が異なる。以下では、本実施例によるガス遮断器について、実施例1によるガス遮断器と異なる点を主に説明する。
【0059】
実施例1によるガス遮断器では、シリンダ18の内部は、図2に示すように、逆止弁20によって熱パッファ室19と機械パッファ室21に区切られている。
【0060】
図7は、本実施例によるガス遮断器において、電流の遮断動作前の電極を示す断面図である。本実施例によるガス遮断器では、シリンダ18の内部に機械パッファ室21のみが存在し、熱パッファ室19と逆止弁20が存在しない。本実施例によるガス遮断器は、対向側アーク接触子14と絶縁ノズル16は、実施例1によるガス遮断器と同じ構成を備える。
【0061】
図8は、本実施例によるガス遮断器において、電流の遮断動作時に互いに開離した直後の操作器側アーク接触子13と対向側アーク接触子14を示す断面図である。対向側アーク接触子中間部14Bは、対向側アーク接触子先端部14Aと対向側アーク接触子末尾部14Cよりも太い。絶縁ノズル16は、絶縁ノズルスロート部16Bでの内径が、絶縁ノズル上流部16Aと絶縁ノズル下流部16Cでの内径よりも小さい。そして、操作器側アーク接触子13と対向側アーク接触子14が互いに開離したときには、対向側アーク接触子中間部14Bは、少なくともその一部が軸方向における絶縁ノズルスロート部16Bの存在範囲内に位置する。
【0062】
図9は、本実施例によるガス遮断器において、電流ゼロ点での操作器側アーク接触子13と対向側アーク接触子14を示す断面図である。アーク31が消弧されて電流が遮断された電流ゼロ点では、対向側アーク接触子先端部14Aは、絶縁ノズルスロート部16Bから抜けており、軸方向における絶縁ノズル下流部16Cの存在範囲内に位置するか、絶縁ノズル16よりも対向側に位置する。
【0063】
図10は、本実施例によるガス遮断器において、電流の遮断動作後の操作器側アーク接触子13と対向側アーク接触子14を示す断面図である。
【0064】
本実施例によるガス遮断器でも、図8に示すように、アーク31が発生しているときには、対向側アーク接触子中間部14Bと絶縁ノズルスロート部16Bとの間を通って絶縁ノズル下流部16Cに流出する絶縁媒体32の量を減少させることができるとともに、図9に示すように、アーク31を消弧するときには、アーク31に多量の絶縁媒体32を吹き付けることができる。このため、本実施例によるガス遮断器では、機械パッファ室21の圧力をより大きく上昇させて絶縁媒体32の圧力を効率的に上昇させることができ、アーク31を効率的に消弧することができる。
【0065】
対向側アーク接触子中間部14Bの直径、軸方向の位置、及び軸方向の長さを変えることで、機械パッファ室21の圧力を制御し、絶縁媒体32の圧力が電流遮断に適する圧力になるように制御することができる。また、対向側アーク接触子先端部14Aの直径を適切な値に設計することで、図9に示した状態において、絶縁ノズル下流部16Cと対向側アーク接触子先端部14Aとの隙間を流れる絶縁媒体32bの量を、電流の遮断動作に対して最適な値に設定することができる。
【0066】
本実施例によるガス遮断器を設計する際は、実施例1によるガス遮断器を設計する際の手順に加えて、以下の点を考慮する必要がある。すなわち、機械パッファ室21の圧力によって、シリンダ18、中空ロッド17、及び絶縁ロッド3に対して操作器1の駆動力と反対方向の力が発生して遮断動作が遅くなることを考慮して、電流ゼロ点における操作器側アーク接触子13と対向側アーク接触子14との位置関係と機械パッファ室21の圧力を決定する必要がある。
【0067】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1…操作器、2…充填容器、3…絶縁ロッド、4…操作器側導体、5…対向側導体、11…操作器側主接触子、12…対向側主接触子、13…操作器側アーク接触子、14…対向側アーク接触子、14A…対向側アーク接触子先端部、14B…対向側アーク接触子中間部、14C…対向側アーク接触子末尾部、15…操作器側アーク接触子カバー、16…絶縁ノズル、16A…絶縁ノズル上流部、16B…絶縁ノズルスロート部、16C…絶縁ノズル下流部、17…中空ロッド、18…シリンダ、19…熱パッファ室、20…逆止弁、21…機械パッファ室、31…アーク、32…絶縁媒体、32a、32b…絶縁媒体の流れを示す矢印、45…対向側アーク接触子中間部の直径が対向側アーク接触子先端部の直径に対し100%である場合の解析結果、46…対向側アーク接触子中間部の直径が対向側アーク接触子先端部の直径に対し110%である場合の解析結果、47…対向側アーク接触子中間部の直径が対向側アーク接触子先端部の直径に対し120%である場合の解析結果、48…対向側アーク接触子中間部の直径が対向側アーク接触子先端部の直径に対し130%である場合の解析結果。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10