(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】がんを治療するために、免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて送達されるsiRNAを使用したTGF-ベータ1およびCox2のサイレンシング
(51)【国際特許分類】
A61K 31/713 20060101AFI20241114BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241114BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241114BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20241114BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241114BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241114BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20241114BHJP
C07K 16/30 20060101ALN20241114BHJP
【FI】
A61K31/713
A61P35/00
A61K39/395 H
A61K47/42
A61K48/00
A61K45/00
C12N15/113 Z ZNA
C07K16/30
(21)【出願番号】P 2021538037
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(86)【国際出願番号】 US2019068499
(87)【国際公開番号】W WO2020139897
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-12-26
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509127310
【氏名又は名称】サーナオミクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】エヴァンズ, デーヴィッド エム.
(72)【発明者】
【氏名】ルー, パトリック ワイ.
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/104051(WO,A2)
【文献】国際公開第2009/151539(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/175323(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/140285(WO,A2)
【文献】Yaqin ZHANG et al.,“Microvesicle-mediated delivery of transforming growth factor β1 siRNA for the suppression of tumor growth in mice”,Biomaterials,2014年05月,Vol. 35, No. 14,p.4390-4400,DOI: 10.1016/j.biomaterials.2014.02.003
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44
A61P 1/00-43/00
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 45/00
A61K 39/395
A61K 48/00
C12N 15/113
C07K 16/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんの治療のための医薬であって、
センス:5’-cccaagggcuaccaugccaacuucu-3’;アンチセンス:5’-agaaguuggcaugguagcccuuggg-3’を有する抗TGF-ベータ1 siRNAを含
み、
抗TGF-ベータ1 siRNAは、抗Cox2 siRNAと共に投与され、抗Cox2 siRNAが、配列:センス:5’-ggucuggugccuggucugaugaugu-3’;アンチセンス:5’-acaucaucagaccaggcaccagacc-3’を有する、
医薬。
【請求項2】
抗TGF-ベータ1 siRNA
及び抗Cox2 siRNAが、静脈内投与される、または、
がんの悪性腫瘍中にまたは悪性腫瘍に近接して投与される、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
がんが、肝臓がん、結腸がん、膵臓がん、肺がんおよび膀胱がんからなる群から選択され
る、請求項1または2に記載の医薬。
【請求項4】
がんが、肝臓がんである、請求項3に記載の医薬。
【請求項5】
がんが、肝細胞癌および肝芽腫からなる群から選択される原発性肝臓がんである、または、
結腸がんおよび膵臓がんからなる群から選択される、別の組織から肝臓に転移したがんである、
請求項4に記載の医薬。
【請求項6】
抗TGF-ベータ1 siRNAが
、分岐状ヒスチジン-リジンポリマーを含む薬学的に許容される担体中で投与され
る、請求項1から
5のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項7】
分岐状ヒスチジン-リジンポリマーが、式(R)K(R)-K(R)-(R)K(X)(式中、R=KHHHKHHHKHHHKHHHKまたはR=KHHHKHHHKHHHHKHHHK、X=C(O)NH2、K=リジン、かつH=ヒスチジン)を有する、請求項6に記載の医薬。
【請求項8】
分岐状ヒスチジン-リジンポリマーが、抗TGF-ベータ1 siRNAと共にナノ粒子を形成する、請求項6または7に記載の医薬。
【請求項9】
抗TGF-ベータ1 siRNAおよび抗Cox2 siRNAが
、分岐状ヒスチジン-リジンポリマーを含む薬学的に許容される担体中で投与され
る、請求項1から8のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項10】
分岐状ヒスチジン-リジンポリマーが、式(R)K(R)-K(R)-(R)K(X)(式中、R=KHHHKHHHKHHHKHHHKまたはR=KHHHKHHHKHHHHKHHHK、X=C(O)NH2、K=リジン、かつH=ヒスチジン)を有する、請求項9に記載の医薬。
【請求項11】
分岐状ヒスチジン-リジンポリマーは、抗TGF-ベータ1 siRNAおよび抗Cox2 siRNAと共にナノ粒子を形成する、
請求項9または10に記載の医薬。
【請求項12】
抗TGF-ベータ1 siRNA
および抗Cox2 siRNAは、免疫チェックポイント阻害剤と共に投与される、請求項1から
11のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項13】
免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1、PD-L1、CTLA4、Lag3およびTim3からなる群から選択される細胞表面受容体とこれらの受容体に対するリガンドとの間の相互作用をブロックするモノクローナル抗体を含
む、または、
免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1、PD-L1、CTLA4、Lag3およびTim3からなる群から選択される細胞表面受容体とこれらの受容体に対するリガンドとの間の相互作用をブロックする小分子を含
む、請求項
12に記載の医薬。
【請求項14】
モノクローナル抗体が、PD1またはPDL1に対するモノクローナル抗体である、請求項13に記載の医薬。
【請求項15】
モノクローナル抗体が、アテゾルジマブ、デュルバルマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブおよびイピリムマブからなる群から選択される、請求項14に記載の医薬。
【請求項16】
小分子が、PD1とPDL1との間の結合をブロックする、請求項13に記載の医薬。
【請求項17】
小分子が、BMS202および類似のリガンドからなる群から選択される、請求項16に記載の医薬。
【請求項18】
免疫チェックポイント阻害剤
と組み合わせてがんを治療するための薬学的組成物
であって、薬学的組成物が、薬学的に許容される担体中に抗TGF-ベータ1 siRNA
および抗Cox2 siRNAを含
み、
抗TGF-ベータ1 siRNAが
、配列:センス:5’-cccaagggcuaccaugccaacuucu-3’;アンチセンス:5’-agaaguuggcaugguagcccuuggg-3’を有し、
抗Cox2 siRNAが、配列:センス:5’-ggucuggugccuggucugaugaugu-3’;アンチセンス:5’-acaucaucagaccaggcaccagacc-3’を有する、
薬学的組成物。
【請求項19】
薬学的に許容される担体が、抗TGF-ベータ1 siRNAおよび抗Cox2 siRNAと共にナノ粒子を形成する分岐状ヒスチジン-リジンポリマーを含む、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項20】
分岐状ヒスチジン-リジンポリマーが、式(R)K(R)-K(R)-(R)K(X)(式中、R=KHHHKHHHKHHHKHHHKまたはR=KHHHKHHHKHHHHKHHHK、X=C(O)NH2、K=リジンかつH=ヒスチジン)を有する、
請求項19に記載の薬学的組成物。
【請求項21】
免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1、PD-L1、CTLA4、Lag3およびTim3からなる群から選択される細胞表面受容体とこれらの受容体に対するリガンドとの間の相互作用をブロックするモノクローナル抗体を含
む、または、
免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1、PD-L1、CTLA4、Lag3およびTim3からなる群から選択される細胞表面受容体とこれらの受容体に対するリガンドとの間の相互作用をブロックする小分子を含
む、
請求項
18から20のいずれか一項に記載の
薬学的組成物。
【請求項22】
モノクローナル抗体が、PD1またはPDL1に結合する、請求項21の薬学的組成物。
【請求項23】
モノクローナル抗体が、アテゾルジマブ、デュルバルマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブおよびイピリムマブからなる群から選択される、請求項22に記載の薬学的組成物。
【請求項24】
小分子が、PD1とPDL1との間の結合を阻害する、請求項21に記載の薬学的組成物。
【請求項25】
小分子が、BMS202および類似の構造からなる群から選択される、請求項24に記載の薬学的組成物。
【請求項26】
がんが、肝臓がん、結腸がん、膵臓がん、肺がんおよび膀胱がんからなる群から選択され
る、請求項
18から25のいずれか一項に記載の
薬学的組成物。
【請求項27】
がんが、肝臓がんである、請求項26に記載の薬学的組成物。
【請求項28】
がんが、肝細胞癌および肝芽腫からなる群から選択される原発性肝臓がんである、または、
結腸がんおよび膵臓がんからなる群から選択される、別の組織から肝臓に転移したがんである、
請求項27に記載の薬学的組成物。
【請求項29】
がんは、ヒトにおける肝細胞癌であり、抗TGF-ベータ1 siRNAが、配列:センス:5’-cccaagggcuaccaugccaacuucu-3’;アンチセンス:5’-agaaguuggcaugguagcccuuggg-3’を有し、抗Cox2 siRNAが、配列:センス:5’-ggucuggugccuggucugaugaugu-3’;アンチセンス:5’-acaucaucagaccaggcaccagacc-3’を有し、かつ、チェックポイント阻害剤が、アテゾルジマブ、デュルバルマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブおよびイピリムマブからなる群から選択される、請求項
18から
28のいずれか一項に記載の
薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願への相互参照
本出願は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる、2018年12月27日出願の米国仮特許出願第62/785,647号の利益およびそれに対する優先権を主張する。
配列表
本出願は、ASCII形式にて電子的に提出され、その全体が参照することにより本明細書に組み込まれる配列表を含む。2020年2月14日に作成された上記のASCIIコピーは、4690_0016i_SL.txtという名称であり、8,518バイトのサイズである。
【0002】
本発明は、ある特定の薬学的分子および組成物ならびにがんを治療するためのそれらの使用、特に、がんを治療するための、TGF-ベータ1およびCox2を阻害する低分子干渉RNA(siRNA)分子の、単独での、または免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせた使用に関する。
【背景技術】
【0003】
最近の研究は、がんとの闘いにおける重要な標的として、免疫チェックポイント阻害剤を同定している。受容体、例えば、PD-1(T細胞の表面上)は、腫瘍細胞の表面上のリガンド(例えば、PD-L1)と相互作用することができ、これらの分子間でのこの結合は、T細胞へ、腫瘍が破壊されるべきではないというシグナルをもたらす。結果として、このシグナル伝達機構は、それをブロックすること、およびしたがって、これが生成する腫瘍死滅におけるもたらされた増加を伴って、腫瘍の免疫認識を促進することを試み、かつそのやり方を同定するために、徹底的に研究されている。
【0004】
CTLA4、Lag3、Tim3、PD-1およびPD-L1を含む多くのチェックポイントが発見されている。例えば、PD1またはPD-L1に対する抗体は、PD-1受容体とPD-L1リガンドとの間の相互作用をブロックすることが実証されており、これは、腫瘍細胞からT細胞への「do not eat me(私を食べないで)」シグナルを阻害するものであり、そのような阻害がなければ、T細胞が細胞を死滅させる酵素を放出することにより腫瘍および他の外来細胞に対して正常な応答をするのが妨げられる。
【0005】
これらの抗体(ペムブロリズマブ、キイトルーダ(商標)など)のクリニックへの移行により、これらの薬剤によって患者を治療することは、患者の約30%において非常に強い免疫応答を促進することができ、これらの患者の長続きする治癒をもたらすことが見出された。しかし、この応答が治療された患者の30%のみにおいて見られた理由は明確に理解されておらず、したがって、リサーチは、免疫反応を阻害するのに効果を現し得る他の経路およびシグナル伝達機構、ならびに腫瘍細胞を死滅させるT細胞の能力に広範囲に焦点を当ててきた。
【0006】
RNA干渉(RNAi)は、相同な配列を含む理論的には全ての遺伝子をノックダウンまたはサイレンシングする、比較的容易かつ直接的なやり方を提供する、配列特異的RNA分解プロセスである。天然に存在するRNAiでは、二本鎖RNA(dsRNA)は、RNase III/ヘリカーゼタンパク質、Dicerによって、3’末端に2ヌクレオチド(nt)のオーバーハングを有する19~27ntのdsRNAである低分子干渉RNA(siRNA)分子へと切断される。その後、siRNAは、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と呼ばれるマルチ成分リボヌクレアーゼ中に組み込まれる。siRNAの一方の鎖は、RISCと会合したままであり、RISC中のガイド(guider)ss-siRNAに対して相補的な配列を有する同族RNAに向かってこの複合体をガイドする。このsiRNA指向性エンドヌクレアーゼは、RNAを消化し、標的化されたRNAのトランケーションおよび不活性化をもたらす。最近の研究は、哺乳動物細胞においてRNAi効果を提示する化学的に合成された21~27ntのsiRNAの有用性を明らかにしており、siRNAハイブリダイゼーション(末端部または中央部における)の熱力学的安定性が、分子の機能を決定する際に中心的な役割を果たすことを実証している。RISC、siRNA分子およびRNAiのより詳細な特性は、科学文献中に記載されている。
【0007】
哺乳動物細胞遺伝子発現の下方制御におけるRNAiの有用性は、化学的に合成されたsiRNAまたは内因性に発現されたsiRNAのいずれかを利用することによって、実験室で首尾よく示されている。内因性のsiRNAは、発現ベクター(プラスミドまたはウイルスベクター)によって、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)として最初に発現され、次いで、Dicerによってプロセシングされて、機能的siRNAになる。
【0008】
活性を有するためおよび標的遺伝子をサイレンシングすることができるためには、siRNAは、これらの細胞のトランスフェクションによってサイレンシングが生じなければならない細胞に送達され得る。これらの細胞へのsiRNA送達を得るための1つのやり方は、siRNAを運搬することができ、外部細胞膜を横断するsiRNAの取り込みを可能にして、細胞質へのアクセスを獲得することができる、ナノ粒子を使用することである。細胞質中へのsiRNAの放出は、これらの部分がRISC複合体と相互作用するのを可能にし、この場所で、アンチセンス鎖は、センス鎖から分離され、センス鎖は分解され、アンチセンス鎖は、アンチセンス配列に対する相補性を有する配列について、細胞内のmRNAを偵察するために、RISC複合体によって使用される。これは、2つの配列のハイブリダイゼーションを可能にし、次いで、mRNAの切断が、酵素Dicerの作用を介して生じる。
【0009】
mRNAは、細胞によって必要とされる生存可能なタンパク質へのmRNA配列の翻訳を司る鋳型を提供する。mRNAの切断は、mRNAによってコードされるペプチドまたはタンパク質を産生する細胞の能力を低減させる。siRNAによる遺伝子のサイレンシングは、長引く効果を提示し得、ターンオーバー、ならびに合成の速度と、mRNAの分量と、mRNAおよび/またはタンパク質自体の分解の速度との間のバランスに依存する。siRNAは、標的化された遺伝子に対する強力なサイレンシング効果を有することが示されており、これは、タンパク質産物の長引く減少(数日間~数週間)をさらにもたらし得る。
【0010】
上昇したTGF-ベータ1レベルは、腫瘍に近接した領域中へのT細胞の侵入を阻害することに関与している[1~3]。
【0011】
例えば、抗PD-L1抗体(アテゾリズマブ)で治療された、結腸がん[1、2]または転移性尿路上皮がんを有する患者由来の腫瘍では、応答の欠如は、線維芽細胞におけるトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)シグナル伝達と関連していた。主に、これは、転移性尿路上皮がんを有する患者において共通する表現型である、腫瘍実質からのCD8+T細胞の排除ならびに線維芽細胞リッチおよびコラーゲンリッチな腫瘍周囲間質におけるこれらのT細胞の蓄積を示す腫瘍において観察された。抗PD-L1抗体とのTGFβブロック抗体の共投与は、間質細胞におけるTGFβシグナル伝達を低減させ、これは次に、腫瘍の中心部中へのT細胞侵入を可能にし、このモデルにおいて抗腫瘍免疫および腫瘍縮小を誘発した[3]。
【0012】
[1]および[2]は、結腸がんに焦点を当て、[3]は、尿路上皮がんにおける効果を示しているが、両方の標的が同時に阻害された場合の、免疫応答に対するTGFβ1とPDL1阻害との間の相乗効果を調べることを試みた者はだれもいない。本発明者らは、この効果がこの疾患におけるPDL1抗体の有効性を改善するかどうかを見るために、TGFβ1を標的化するsiRNAおよびCox2を標的化するsiRNAを肝臓に送達するために、ポリペプチドナノ粒子(PNP)を使用した。内皮細胞ならびに正常な肝細胞への送達は、本発明者らが、腫瘍の近傍内で2つの遺伝子をサイレンシングすることができたことを示唆した。
【発明の概要】
【0013】
発明の説明
本発明は、対象においてがんを治療するための、対象においてTGF-ベータ1およびCox2を阻害する低分子干渉RNA(siRNA)分子の、単独での、または免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせた使用に関する。本明細書で使用する場合、用語「対象」は、ヒトを含む任意の哺乳動物を指す。対象は、実験動物、例えば、げっ歯類、フェレットまたは非ヒト霊長類であり得る。好ましくは、対象は、ヒトである。
【0014】
一実施形態では、本発明は、対象に治療的有効量の抗TGF-ベータ1 siRNAを投与することによって、対象においてがん細胞を死滅させる方法に関する。この実施形態の一態様では、抗TGF-ベータ1 siRNAは、対象に静脈内投与される。この実施形態の別の態様では、抗TGF-ベータ1 siRNAは、対象中の腫瘍中に投与される。この実施形態のなお別の態様では、抗TGF-ベータ1 siRNAは、腫瘍に近接して投与され、または腫瘍への送達を可能にする賦形剤中で全身投与される。
【0015】
別の実施形態では、本発明は、対象に治療的有効量の抗TGF-ベータ1 siRNAを投与することによって、対象においてがんを治療する方法に関する。この実施形態の一態様では、抗TGF-ベータ1 siRNAは、対象に静脈内投与される。この実施形態の別の態様では、抗TGF-ベータ1 siRNAは、対象中の腫瘍中に投与される。この実施形態のなお別の態様では、抗TGF-ベータ1 siRNAは、腫瘍に近接して投与され、または腫瘍への送達を可能にする賦形剤中で全身的に投与される。
【0016】
がん(およびがん細胞)は、対象を苦しめる任意のがんである。かかるがんには、肝臓、結腸、膵臓、肺および膀胱がんが含まれる。肝臓がんは、原発性肝臓がんまたは別の組織から肝臓に転移したがんであり得る。原発性肝臓がんには、肝細胞癌および肝芽腫が含まれる。転移元のがんには、結腸および膵臓がんが含まれる。
【0017】
抗TGF-ベータ1 siRNA分子には、表1中で同定された配列が含まれる。
【0018】
表1:抗TGF-ベータ1 siRNA配列
hmTF-25-1:センス 5’-r(GGAUCCACGAGCCCAAGGGCUACCA)-3’(配列番号:1)
アンチセンス 5’-r(UGGUAGCCCUUGGGCUCGUGGAUCC)-3’(配列番号:2)
hmTF-25-2:センス 5’-r(CCCAAGGGCUACCAUGCCAACUUCU)-3’(配列番号:3)
アンチセンス 5’-r(AGAAGUUGGCAUGGUAGCCCUUGGG)-3’(配列番号:4)
hmTF-25-3:センス 5’-r(GAGCCCAAGGGCUACCAUGCCAACU)-3’(配列番号:5)
アンチセンス 5’-r(AGUUGGCAUGGUAGCCCUUGGGCUC)-3’(配列番号:6)
hmTF25-4:センス、5’-r(GAUCCACGAGCCCAAGGGCUACCAU)-3’(配列番号:7)
アンチセンス、5’-r(AUGGUAGCCCUUGGGCUCGUGGAUC)-3’(配列番号:8)
hmTF25-5:センス、5’-r(CACGAGCCCAAGGGCUACCAUGCCA)-3’(配列番号:9)
アンチセンス、5’-r(UGGCAUGGUAGCCCUUGGGCUCGUG)-3’(配列番号:10)
hmTF25-6:センス、5’-r(GAGGUCACCCGCGUGCUAAUGGUGG)-3’(配列番号:11)
アンチセンス、5’-r(CCACCAUUAGCACGCGGGUGACCUC)-3’(配列番号:12)
hmTF25-7:センス、5’-r(GUACAACAGCACCCGCGACCGGGUG)-3’(配列番号:13)
アンチセンス、5’-r(CACCCGGUCGCGGGUGCUGUUGUAC)-3’(配列番号:14)
hmTF25-8:センス、5’-r(GUGGAUCCACGAGCCCAAGGGCUAC)-3’(配列番号:15)
アンチセンス、5’-r(GUAGCCCUUGGGCUCGUGGAUCCAC)-3’(配列番号:16)
【0019】
一態様では、抗TGF-ベータ1 siRNAは、以下の配列:センス:5’-cccaagggcuaccaugccaacuucu-3’(配列番号:3);アンチセンス:5’-agaaguuggcaugguagcccuuggg-3’(配列番号:4)を含む。
【0020】
抗TGF-ベータ1 siRNAは、薬学的に許容される担体中で対象に投与される。かかる担体には、分岐状ヒスチジン-リジンポリマーが含まれる。かかるポリマーの一実施形態では、ポリマーは、式(R)K(R)-K(R)-(R)K(X)を有し、式中、R=KHHHKHHHKHHHKHHHK(配列番号:17)またはR=KHHHKHHHKHHHHKHHHK(配列番号:18)、X=C(O)NH2、K=リジンおよびH=ヒスチジンである。かかるポリマーは、抗TGF-ベータ1 siRNAと共にナノ粒子を形成する。ナノ粒子は、対象に静脈内または腫瘍内投与され得る。
【0021】
別の実施形態では、本発明は、対象に、治療的有効量の抗TGF-ベータ1 siRNAと共に、治療的有効量の免疫チェックポイント阻害剤を投与することによって、対象においてがん細胞を死滅させる方法に関する。この実施形態の一態様では、抗TGFベータ1 siRNAとの免疫チェックポイント阻害剤の投与は、抗TGFベータ1 siRNAの有効性を増加させる。
【0022】
別の実施形態では、本発明は、対象に、治療的有効量の抗TGF-ベータ1 siRNAと共に、治療的有効量の免疫チェックポイント阻害剤を投与することによって、対象においてがんを治療する方法に関する。この実施形態の一態様では、抗TGFベータ1 siRNAとの免疫チェックポイント阻害剤の投与は、抗TGFベータ1 siRNAの有効性を増加させる。
【0023】
上述のように、免疫チェックポイント阻害剤および抗TGF-ベータ1 siRNAは、対象に静脈内投与される、対象中の腫瘍中に腫瘍に近接して投与される、または腫瘍への送達を可能にする賦形剤中で全身投与される。
【0024】
この実施形態の一態様では、免疫チェックポイント阻害剤は、哺乳動物細胞、例えば、ヒト細胞上の受容体、例えば、PD-1、PD-L1、CTLA4、Lag3およびTim3とこれらの受容体に対するリガンドとの間の相互作用をブロックするモノクローナル抗体である。特定の態様では、モノクローナル抗体は、PD1またはPDL1に対するモノクローナル抗体である。モノクローナル抗体の例には、アテゾルジマブ(Atezoluzimab)、デュルバルマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブおよびイピリムマブが含まれる。
【0025】
この実施形態のなお別の態様では、免疫チェックポイント阻害剤は、哺乳動物細胞、例えば、ヒト細胞上の受容体、例えば、PD-1、PD-L1、CTLA4、Lag3およびTim3とこれらの受容体に対するリガンドとの間の相互作用をブロックする小分子である。特定の態様では、小分子は、PD1とPDL1との間の結合をブロックする。BMS202および類似のリガンドが、かかる小分子の例である。
【0026】
さらなる実施形態では、本発明は、対象に、治療的有効量の抗Cox-2 siRNAを、治療的有効量抗TGF-ベータ1 siRNAと共に投与することによって、対象においてがん細胞を死滅させる方法に関する。この実施形態の一態様では、組合せは、対象に静脈内投与される。この実施形態の別の態様では、組合せは、対象中の腫瘍中に投与される。この実施形態のなお別の態様では、組合せは、腫瘍に近接して投与され、または腫瘍への送達を可能にする賦形剤中で全身的に投与される。
【0027】
なおさらなる実施形態では、本発明は、対象に、治療的有効量の抗Cox-2 siRNAを、治療的有効量抗TGF-ベータ1 siRNAと共に投与することによって、対象においてがんを治療する方法に関する。この実施形態の一態様では、組合せは、対象に静脈内投与される。この実施形態の別の態様では、組合せは、対象中の腫瘍中に投与される。この実施形態のなお別の態様では、組合せは、腫瘍に近接して投与され、または腫瘍への送達を可能にする賦形剤中で全身的に投与される。
【0028】
抗Cox2 siRNA分子には、表2中で同定された配列が含まれる。
【0029】
表2:抗Cox2 siRNA配列
hmCX-25-1:センス 5’-r(GGUCUGGUGCCUGGUCUGAUGAUGU)-3’(配列番号:19)
アンチセンス 5’-r(ACAUCAUCAGACCAGGCACCAGACC)-3’(配列番号:20)
hmCX-25-2:センス 5’-r(GAGCACCAUUCUCCUUGAAAGGACU)-3’(配列番号:21)
アンチセンス 5’-r(AGUCCUUUCAAGGAGAAUGGUGCUC)-3’(配列番号:22)
hmCX-25-3:センス 5’-r(CCUCAAUUCAGUCUCUCAUCUGCAA)-3’(配列番号:23)
アンチセンス 5’-r(UUGCAGAUGAGAGACUGAAUUGAGG)-3’(配列番号:24)
hmCX25-4:センス、5’-r(GAUGUUUGCAUUCUUUGCCCAGCAC)-3’(配列番号:25)
アンチセンス、5’-r(GUGCUGGGCAAAGAAUGCAAACAUC)-3’(配列番号:26)
hmCX25-5:センス、5’-r(GUCUUUGGUCUGGUGCCUGGUCUGA)-3’(配列番号:27)
アンチセンス、5’-r(UCAGACCAGGCACCAGACCAAAGAC)-3’(配列番号:28)
hmCX25-6:センス、5’-r(GUGCCUGGUCUGAUGAUGUAUGCCA)-3’(配列番号:29)
アンチセンス、5’-r(UGGCAUACAUCAUCAGACCAGGCAC)-3’(配列番号:30)
hmCX25-7:センス、5’-r(CACCAUUCUCCUUGAAAGGACUUAU)-3’(配列番号:31)
アンチセンス、5’-r(AUAAGUCCUUUCAAGGAGAAUGGUG)-3’(配列番号:32)
hmCX25-8:センス、5’-r(CAAUUCAGUCUCUCAUCUGCAAUAA)-3’(配列番号:33)
アンチセンス、5’-r(UUAUUGCAGAUGAGAGACUGAAUUG)-3’(配列番号:34)
【0030】
一態様では、抗Cox2 siRNAは、以下の配列:センス:5’-ggucuggugccuggucugaugaugu-3’(配列番号:19);アンチセンス:5’-acaucaucagaccaggcaccagacc-3’(配列番号:20)を含む。
【0031】
抗TGF-ベータ1 siRNAおよび抗Cox2 siRNAは、薬学的に許容される担体中で投与される。かかる担体には、分岐状ヒスチジン-リジンポリマーが含まれる。かかるポリマーの一実施形態では、ポリマーは、式(R)K(R)-K(R)-(R)K(X)を有し、式中、R=KHHHKHHHKHHHKHHHK(配列番号:17)またはR=KHHHKHHHKHHHHKHHHK(配列番号:18)、X=C(O)NH2、K=リジン、H=ヒスチジンおよびN=アスパラギンである。かかるポリマーは、抗TGF-ベータ1 siRNAおよび抗Cox2 siRNAと共にナノ粒子を形成する。ナノ粒子は、対象に静脈内または腫瘍内投与され得る。
【0032】
抗TGF-ベータ1 siRNAに関して上述したように、抗TGF-ベータ1 siRNAと抗Cox2 siRNAとの組合せによって標的化されるがん(およびがん細胞)は、対象を苦しめる任意のがんであり得る。かかるがんには、肝臓、結腸、膵臓、肺および膀胱がんが含まれる。肝臓がんは、原発性肝臓がんまたは別の組織から肝臓に転移したがんであり得る。原発性肝臓がんには、肝細胞癌および肝芽腫が含まれる。転移元のがんには、結腸および膵臓がんが含まれる。
【0033】
さらなる実施形態では、本発明は、対象に、治療的有効量の抗TGF-ベータ1 siRNAおよび治療的有効量の抗Cox2 siRNAと共に、治療的有効量の免疫チェックポイント阻害剤を投与することによって、対象においてがん細胞を死滅させる方法に関する。この方法が関するがん細胞およびがんは、上記のものを含む、対象を苦しめる任意のがんである。この実施形態の一態様では、抗TGF-ベータ1 siRNAおよび抗Cox2 siRNAとの免疫チェックポイント阻害剤の投与は、いずれか1つのsiRNA単独の有効性を増加させる。
【0034】
なおさらなる実施形態では、本発明は、対象に、治療的有効量の抗TGF-ベータ1 siRNAおよび治療的有効量の抗Cox2 siRNAと共に、治療的有効量の免疫チェックポイント阻害剤を投与することによって、対象においてがんを治療する方法に関する。この方法が関するがん細胞およびがんは、上記のものを含む、対象を苦しめる任意のがんである。この実施形態の一態様では、抗TGF-ベータ1 siRNAおよび抗Cox2 siRNAとの免疫チェックポイント阻害剤の投与は、いずれか1つのsiRNA単独の有効性を増加させる。
【0035】
上述のように、免疫チェックポイント阻害剤、抗TGF-ベータ1 siRNAおよび抗Cox2 siRNAは、対象に静脈内投与される、対象中の腫瘍中に腫瘍に近接して投与される、または腫瘍への送達を可能にする賦形剤中で全身的に投与される。
【0036】
siRNA分子の組合せと共に投与される免疫チェックポイント阻害剤は、上記モノクローナル抗体または小分子である。これは、siRNA分子の組合せの前に、その後に、またはそれと同時に投与され得る。
【0037】
本発明は、ある特定の薬学的組成物に関する。一実施形態では、組成物は、本明細書に記載される薬学的に許容される担体中に、本明細書に記載される抗TGF-ベータ1 siRNAを含む。
【0038】
別の実施形態では、この薬学的組成物は、本明細書に記載される免疫チェックポイント阻害剤と併せて使用される。したがって、本発明のこの実施形態は、本明細書に記載される、免疫チェックポイント阻害剤を含む治療薬と、薬学的に許容される担体中に抗TGF-ベータ1 siRNAを含む薬学的組成物との組合せに関する。
【0039】
なお別の実施形態では、本発明は、本明細書に記載される、免疫チェックポイント阻害剤を含む治療薬と、抗TGF-ベータ1 siRNAおよび抗Cox2 siRNAならびに薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物との組合せに関する。
【0040】
本明細書に記載される治療薬の組合せは、がんを有する対象において免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果を増強するためにも有用である。治療的有効量の、抗TGF-ベータ1 siRNAおよび抗Cox2 siRNAを含む薬学的組成物は、治療的有効量のチェックポイント阻害剤と一緒に、対象に投与される。抗TGF-ベータ1 siRNAは、がんに対する対象の炎症性応答を減少させ、腫瘍中へのT細胞および他の免疫細胞のより良い侵入を可能にする。これはまた、チェックポイント阻害剤単独によって惹起される免疫応答よりも、対象においてがんに対するより強い免疫応答を惹起する。この応答には、より大きいT細胞活性化およびがん中への侵入が関与する。抗Cox2 siRNAは、がんに対する対象の炎症性応答を減少させ、および/またはがん周囲での消耗T細胞もしくは制御性T細胞の形成を減少させる。
【0041】
本明細書に記載される治療薬の組合せは、対象においてがん細胞を認識しそれを死滅させるように、T細胞を抗原的にプライムするため、および対象においてがんに対するT細胞媒介性免疫を促進するためにも有用である。治療的有効量の組合せが、対象に投与される。がんは、本明細書に記載されるものである。
【0042】
特定の一実施形態では、本発明は、対象に、治療的有効量の本発明の薬学的組成物または本発明の治療薬の組合せを投与することによって、対象において肝臓がんを治療する方法に関する。この実施形態の一態様では、肝臓がんは、原発性肝臓がんである。特定の態様では、原発性肝臓がんは、肝細胞癌または肝芽腫である。この実施形態の別の態様では、肝臓がんは、対象の身体中の別の組織から肝臓に転移したがんである。かかる転移元のがんには、結腸がんおよび膵臓がんが含まれる。この実施形態の一態様では、対象は、ヒトである。
【0043】
別の特定の実施形態では、本発明は、ヒトにおいて肝細胞癌細胞を死滅させる方法であって、ヒトに、治療的有効量の、抗TGF-ベータ1 siRNAおよび抗Cox2 siRNAと共にナノ粒子を形成する分岐状ヒスチジン-リジンポリマーを含む薬学的に許容される担体中に抗TGF-ベータ1 siRNAおよび抗Cox2 siRNAを含む薬学的組成物を投与することを含み、抗TGF-ベータ1 siRNAが、配列:センス:5’-cccaagggcuaccaugccaacuucu-3’(配列番号:3);アンチセンス:5’-agaaguuggcaugguagcccuuggg-3’(配列番号:4)を含み、抗Cox2 siRNAが、配列:センス:5’-ggucuggugccuggucugaugaugu-3’(配列番号:19);アンチセンス:5’-acaucaucagaccaggcaccagacc-3’(配列番号:20)を含む、方法に関する。
【0044】
なお別の特定の実施形態では、本発明は、ヒトにおいて肝細胞癌細胞を死滅させる方法であって、ヒトに、治療的有効量の、免疫チェックポイント阻害剤、ならびに抗TGF-ベータ1 siRNAおよび抗Cox2 siRNAと共にナノ粒子を形成する分岐状ヒスチジン-リジンポリマーを含む薬学的に許容される担体中に抗TGF-ベータ1 siRNAおよび抗Cox2 siRNAを含む薬学的組成物を投与することを含み、抗TGF-ベータ1 siRNAが、配列:センス:5’-cccaagggcuaccaugccaacuucu-3’(配列番号:3);アンチセンス:5’-agaaguuggcaugguagcccuuggg-3’(配列番号:4)を含み、抗Cox2 siRNAが、配列:センス:5’-ggucuggugccuggucugaugaugu-3’(配列番号:19);アンチセンス:5’-acaucaucagaccaggcaccagacc-3’(配列番号:20)を含み、チェックポイント阻害剤が、PD1およびPDL1に結合し、PD1とPDL1との間の相互作用をブロックすることができるモノクローナル抗体を含む、方法に関する。かかるモノクローナル抗体には、アテゾルジマブ、デュルバルマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブおよびイピリムマブが含まれる。
【0045】
さらなる特定の実施形態では、本発明は、免疫チェックポイント阻害剤を含む治療薬と、薬学的に許容される担体中に抗TGF-ベータ1 siRNAおよび抗Cox2 siRNAを含む薬学的組成物との組合せであって、チェックポイント阻害剤が、アテゾルジマブ、デュルバルマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブおよびイピリムマブからなる群から選択されるモノクローナル抗体を含み、抗TGF-ベータ1 siRNAが、配列:センス:5’-cccaagggcuaccaugccaacuucu-3’(配列番号:3);アンチセンス:5’-agaaguuggcaugguagcccuuggg-3’(配列番号:4)を含み、抗Cox2 siRNAが、配列:センス:5’-ggucuggugccuggucugaugaugu-3’(配列番号:19);アンチセンス:5’-acaucaucagaccaggcaccagacc-3’(配列番号:20)を含み、薬学的に許容される担体が、抗TGF-ベータ1 siRNAおよび抗Cox2 siRNAと共にナノ粒子を形成する分岐状ヒスチジン-リジンポリマーを含む、組合せに関する。この実施形態の一態様では、分岐状ヒスチジン-リジンポリマーは、式(R)K(R)-K(R)-(R)K(X)を有し、式中、R=KHHHKHHHKHHHKHHHK(配列番号:17)またはKHHHKHHHKHHHHKHHHK(配列番号:18)、X=C(O)NH2、K=リジン、H=ヒスチジンおよびN=アスパラギンである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】肝臓の細胞内での、IV投与されたSTP707の局在化を示す図である。AF647蛍光(fluorecent)標識されたsiRNAを、HKPを用いて製剤化して、ナノ粒子を形成した。ナノ粒子を、IV注射(尾静脈投与)によりマウスに投与した。図中に注記した時点で、動物を安楽死させ、肝臓を切除し、解体し、解離させた細胞を、示された異なる細胞型を判別することができる標識化抗体を用いたフローサイトメトリーに供した。各時点の下に、左から右に、クッパー細胞(KC)、樹状細胞(DC)、肝類洞壁内皮細胞(LSEC)、肝細胞、Ly6c高(炎症性単球)、Ly6c低、多形核白血球細胞(PMN)、リンパ球および星状細胞の細胞型が示される。この図は、肝細胞、クッパー細胞およびLSEC細胞が、STP707を1時間で最初に取り込むことを示している。肝臓内の星状細胞集団は、細胞集団の1.4%に過ぎない。フローサイトメトリーは、取り込みのある程度の証拠を示したが、シグナルはあまりに低く、したがって、本発明者らは、初代ヒト星状細胞における取り込みを検証し、これらの細胞内での優れた取り込みおよび遺伝子サイレンシングを示した。
【
図2】麻酔された動物に投与されるルシフェリン基質を使用して、腫瘍の量を、各動物からの光流出を測定することによって評価した図である(デジタルイメージングシステムを使用して測定した)。動物を、全ての試験グループにわたる腫瘍の標準化に基づいて、コホートに割り当てた。この図は、グループへの割り当て時に生成された初期値を示し、治療を開始する前のコホート間の腫瘍サイズの一様性を示す。
【
図3】動物の体重を、各治療後にモニタリングし、コホート中の全ての動物にわたる平均体重を示す図である。データを、投薬前の初期体重の%としてプロットした。ソラフェニブ単独(赤い四角)は、体重における僅かな変化を誘導した。しかし、全ての他の治療スキーム(STP707単独または+抗PDL1)は、良好な耐容性を示し、有意な体重喪失は、治療群では観察されなかった。
【
図4】麻酔された動物へのルシフェラーゼ基質(ルシフェリン)の投与、および次いで、IVIS生動物イメージングシステムを用いて、生み出された光をイメージングすることによって行った腫瘍関連生物発光(TABL)測定の結果を示す図である。動物に、投薬期(灰色でハイライトされた領域)を通じて治療を投与し、さもなくば、他の時間では治療なしでモニタリングした。対照(賦形剤)治療された動物は、より大きい光シグナルによって決定されるように、腫瘍の迅速な増殖を示した。ソラフェニブおよび抗PDL1 mAb治療は、投薬期にわたり、腫瘍増殖に対して静的な効果を示すようであった。STP707単独(注射1回当たり40
μg、または約2mg/kg)または抗PDL1 mAbを伴ったSTP707は、5~6用量の後に、腫瘍細胞における劇的な低減を示した。腫瘍は、これらの治療群では可視的ではなかった。
【
図5】対照(賦形剤治療された)動物において、コントロールされない腫瘍増殖が動物の生存率に対して劇的に影響することを示す図である。未治療の動物の50%は、死亡し、または実験の投薬期の間の増加した腫瘍負荷の結果として安楽死させた。ソラフェニブでは、1匹の動物を、37日後に安楽死させた。他の治療群のいずれでも、死亡した動物はいなかった。
【
図6】対照試料(ノン-サイレンシング(NS)siRNAを負荷したPNP)が、IVISイメージングシステムを使用した動物の外側からの流束読み取りによって測定されるように、腫瘍細胞増殖における劇的な増加を示したことを示しすデータである。PDL1抗体は、腫瘍増殖に対する弱い阻害効果を示した。STP707単独(1mg/Kg)は、PDL1 Abよりもさらに大きい、腫瘍増殖の阻害を示し、抗PDL1 mAbの存在下では、STP707は、6用量の後に腫瘍を完全に無効にし、これは、抗体との、効果の幾分かの相加性を示唆している。
【
図7】STP707を、同系同所性HCC腫瘍を有する動物に1mg/kgで3回投与し、次いで、肝臓を切除し、切片化し、染色(H&E)して、腫瘍の位置およびサイズを示した図である。STP707がこの短い期間にわたって投与された場合の、腫瘍サイズにおける劇的な低減に留意のこと。白の四角によって示される領域において、CD4+およびCD8+T細胞の量を、染色することおよび染色されたスポットを計数することによって定量化した。これらの領域は、各図の右側に拡大され、STP707治療が、肝臓-腫瘍周縁部内に存在するCD4+およびCD8+T細胞の数における劇的な増加を生成したことを、明確に見ることができ、これは、STP707治療が腫瘍中へのより大きいT細胞侵入を可能にすることを示唆している。
【
図8】
図7に示されるものと類似のイメージを使用して、T細胞を、腫瘍周縁部から離れて、腫瘍中に向かう、または肝臓へと外に向かうのいずれかにおいて測定された種々のセグメントにおいて定量化した図である。各セグメント(50
μm厚)内で、T細胞の数を定量化し、示されたグラフ上にプロットした。抗PDL1 Abと一緒になったSTP707治療は、賦形剤治療単独と比較して、腫瘍中へと500
μmの深さにおいて、CD8+T細胞における2倍の増加を示した。これは、腫瘍に近い肝臓内のCD8+T細胞における増加もまた示し、これは、腫瘍を取り囲むTGF-ベータ「壁」の低下によって誘導されたT細胞の可能な動員を示唆している。
【発明を実施するための形態】
【0047】
定義
肝臓がんは、肝臓内の任意の原発がん、即ち、肝臓から始まるもの;または肝臓内の任意の二次がん、即ち、哺乳動物の身体中の別の組織から肝臓に転移するがんである。原発性肝臓がんの例は、肝細胞癌である。二次肝臓がんの例は、結腸がんである。
【0048】
がんは、任意の悪性腫瘍である。
【0049】
悪性腫瘍は、腫瘍性細胞の塊である。
【0050】
治療する/治療は、対象において、がん細胞の一部もしくは全てを死滅させること、がんのサイズを低減させること、がんの増殖を阻害すること、またはがんの増殖速度を低減させることである。
【0051】
抗TGF-ベータ1 siRNAは、哺乳動物細胞におけるTGF-ベータ1タンパク質の合成をコードする遺伝子の発現を低減または防止するsiRNA分子である。
【0052】
抗Cox2 siRNAは、哺乳動物細胞におけるCox2タンパク質の合成をコードする遺伝子の発現を低減または防止するsiRNA分子である。
【0053】
siRNA分子は、分子が細胞中に導入された後に、細胞における遺伝子の発現に干渉する短い二本鎖ポリヌクレオチドである二重鎖オリゴヌクレオチドである。例えば、これは、一本鎖標的RNA分子中の相補的ヌクレオチド配列を標的化し、それに結合する。siRNA分子は、化学的に合成され、または当業者に公知の技法によって他の方法で構築される。かかる技法は、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる、米国特許第5,898,031号、同第6,107,094号、同第6,506,559号、同第7,056,704号ならびに欧州特許第1214945号および同第1230375号に記載されている。当該分野での慣例により、siRNA分子が特定のヌクレオチド配列によって同定される場合、この配列は、二重鎖分子のセンス鎖を指す。分子を構成するリボヌクレオチドのうち1つ以上は、当該分野で公知の技法によって化学的に改変され得る。その個々のヌクレオチドのうち1つ以上のレベルで改変されることに加えて、オリゴヌクレオチドの骨格が改変され得る。さらなる改変には、siRNA分子上へのコンジュゲーションのための小分子(例えば、糖分子)、アミノ酸、ペプチド、コレステロール、および他の高分子の使用が含まれる。
【0054】
分岐状ヒスチジン-リジンポリマーは、ヒスチジンおよびリジンアミノ酸からなるペプチドである。共通のリジンコアから複数のアミノ酸を合成することによって、ペプチドは、4つの腕または分岐から構成される。かかるポリマーは、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる、2006年7月4日に発行された米国特許第7,070,807(B2)号、2007年1月6日に発行された同第7,163,695(B2)号および2010年8月10日に発行された同第7,772,201(B2)号に記載されている。
【0055】
免疫チェックポイント阻害剤は、一部の型の免疫系細胞、例えばT細胞、および一部のがん細胞によって作製されるある特定のタンパク質をブロックする薬物である。これらのチェックポイントタンパク質は、免疫応答をチェック中の状態で維持することを助け、T細胞ががん細胞を死滅させないように維持することができる。これらのチェックポイントタンパク質がブロックされる場合、免疫系に対する「ブレーキ」は、解放され、T細胞は、がん細胞をより良く死滅させることができる。T細胞またはがん細胞上で見出されるチェックポイントタンパク質の例には、PD-1/PD-L1およびCTLA-4/B7-1/B7-2が含まれる。
【0056】
がんに近接して、とは、腫瘍または一連の腫瘍細胞に近いまたはそれを取り囲む組織または細胞中にあることを意味する。
【0057】
抗腫瘍効果を増強することは、腫瘍細胞の増殖速度におけるより大きい低減、腫瘍細胞を死滅させる際および/または腫瘍塊を低減させる際のより大きい効果を提供すること、ならびに腫瘍を有する対象の寿命を延長させることによってより良い治療的効果を最終的に生成することを意味する。かかる効果は、腫瘍細胞自体に対する直接的作用、あるいはT細胞の活性の増大、あるいはT細胞が腫瘍細胞へのより良いアクセスを得るおよび/または初期治療後であっても腫瘍細胞を認識する能力における増加ありもしくはなしで腫瘍に対するより強い免疫反応を促進するように活性化される機構によって、媒介され得る。
【0058】
以下の実施例は、本発明のある特定の態様を例示しており、その範囲を限定すると解釈すべきではない。
【実施例】
【0059】
実験結果
STP707は、分岐状ポリペプチドHKP(ヒスチジンリジンポリマー)からなるポリペプチド送達ナノ粒子によって保護された2つのsiRNA(TGF-ベータ1遺伝子およびCox2遺伝子を標的化する)からなる。STP707は、2017年5月9日の日付の米国特許第9,642,873(B2)号および2018年5月29日の日付の米国再発行特許第46,873号に記載されており、これらの開示は、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0060】
ヒスチジンおよびリジンアミノ酸からなる分岐状ポリペプチドナノ粒子(HKP)を使用して、本発明者らは、IV注射が、肝臓内の細胞によってより高い効率でナノ粒子が取り込まれるのを可能にすることを実証した。ナノ粒子からの蛍光タグ化siRNAの取り込みを測定するためにフローサイトメトリーを使用して、本発明者らは、星状細胞、LSEC細胞および肝細胞ならびにクッパー細胞を含む肝臓内の特定の細胞型への送達を実証している(
図1)。したがって、これは、本発明者らが、肝臓内のこれらの細胞へのsiRNAの非常に良好な送達効率を得ることができ、したがって、これらの細胞内の目的の標的をサイレンシングすることができることを示唆している。
【0061】
本発明者らは、腫瘍負荷の経時的なモニタリングを可能にするために、Hepa 1-6細胞株の生物発光変異体を使用する同所性マウス肝細胞癌モデルにおいて、単剤療法として、および抗PD-L1モノクローナル抗体(mAb)(BioXcell、West Lebanon、NH 03784の抗PD-L1モノクローナルAbクローン10F.9G2)と組み合わせて、STP707を検査した。
【0062】
本発明者らは、HCC肝臓がん腫瘍細胞(Hepa 1-6細胞)を、これらが由来した臓器(肝臓)中に外科的に移植した、同所性移植モデルを使用した。マウス肝臓がん細胞株を、ルシフェラーゼを発現するように改変した(Hepa 1-6-Lux)。次いで、動物への基質の添加の際に、これらの動物の肝臓における腫瘍の増殖の程度を、発光検出システムを使用してモニタリングすることができた。これは、動物にとって有害でない非侵襲性様式での腫瘍増殖の測定を可能にする。本発明者らは、この方法を使用して、腫瘍の増殖の速度をモニタリングした。本発明者らは、ヒトにおける肝細胞癌治療のための究極的な標準治療(ソラフェニブ - キナーゼ阻害剤;50mg/Kgを1日1回投与)および同所性Hepa1-6腫瘍を有する動物において腫瘍増殖を阻害することが示された検証されたマウス抗PDL1抗体(5mg/Kgを週2回投与)を使用して、任意の治療の非存在下(対照グループ)で、増殖の速度を検査した。
【0063】
本発明者らは、HKPペプチドナノ粒子を使用して送達される、TGF-ベータおよびCox2を阻害することが示されたsiRNA(STP707)(注射一回当たり40μgまたは20μgの用量でIV BIW投与される)の効果もまた比較した。本発明者らは、抗PDL1抗体と一緒に投与した場合のSTP707の効果もまた分析した。
【0064】
本発明者らは、腫瘍負荷の経時的なモニタリングを可能にするために、Hepa 1-6細胞株の生物発光変異体を使用する同系同所性マウス肝細胞癌モデルを使用して、HCCを治療する際の有効性についてSTP707を検査した。
【0065】
実験を、Charles River labsからのC57BL/6Jマウス株を使用して実施した。
【0066】
賦形剤(HKP+非サイレンシングsiRNA;対照)またはSTP707は共に、静脈内(iv)投与した。
【0067】
8匹の動物を各治療グループにランダムに割り当てた。治療グループは、以下の通りであった:
1.賦形剤のみ
2.ソラフェニブ(50mg/Kg)p.o.、QD
3.抗PD-L1(5mg/Kg)、i.p.、BIW
4.抗PD-L1(5mg/Kg)、i.p.、BIW+20μg STP707/注射 iv BIW
5.抗PD-L1(5mg/Kg)、i.p.、BIW+40μg STP707/注射 iv BIW
6.40μg STP707/注射 iv BIW単独
【0068】
動物を、重量に基づいて、実験の手始めにランダム化した。ランダム化は、
図2に示されるような各グループ内の選択された動物において、非常に類似の重量分布を提供した。
【0069】
動物の体重を、有効性調査の投薬期の間に毎日測定した。各グループの平均体重をプロットした(
図3)。ソラフェニブ単独は、体重における僅かな変化を誘導した。しかし、全ての他の治療スキーム(STP707単独または+抗PDL1)は、良好な耐容性を示し、有意な体重喪失は、治療群では観察されなかった。
【0070】
腫瘍増殖は、生物発光イメージングによってモニタリングし、腫瘍関連生物発光(TABL)定量化によって反映された。TABLを、調査日数によってプロットし、
図4に示した。
【0071】
予定した投薬期の完了の際に、腫瘍成長を、グループ2~6についてモニタリングした。調査の最後の日(50日目)の前には腫瘍再増殖は観察されず、これは、治療が、腫瘍増殖を阻害し再増殖を防止するにあたって非常に効果的であったことを示唆しており、腫瘍生存率に対する著明な効果を示唆している。
【0072】
併用療法の効果を、調査における全てのマウスに対する生存分析(人道的サロゲートエンドポイントを使用する)によってさらに強調した(
図5)。人道的終結のためのエンドポイントを、腫瘍が最大の許容可能なサイズに達した時点、または腫瘍が有害な臨床的兆候を呈した時点のいずれかとして定義した。全ての治療レジメンは、ログランク(マンテル-コックス)検定(p=0.0001)およびゲーハン-ブレスロウ-ウィルコクソン検定(p=0.0002)によって実証されるように、統計的に有意に改善された生存を生成した。生存における差異は、治療グループ間で観察されなかった。
【0073】
上で得られた結果を検証するために、本発明者らは、より低い用量のSTP707(1mg/kg)を使用する調査を反復した(
図6)。
【0074】
得られたデータは、STP707が、腫瘍に対する単一の薬剤、剤の作用 - 対照(未治療の)コホートと比較して、増殖を弱める - を示すという観察を支持した。STP707群は、抗体群(PDL1)単独よりも良い有効性を示した。
【0075】
この調査では、STP707は、抗PDL1抗体単独よりも良い、単一の薬剤の活性を示す。しかし、STP707を抗体治療と組み合わせることは、4用量後に、検出不能なレベルまで、腫瘍を低減させた。
【0076】
STP707を用いた治療グループのいずれにおいても、明らかな腫瘍は存在しなかったので、本発明者らは、1mg/Kgで3用量のSTP707のみを使用してであるが、調査を反復した。第3の用量の後、動物を安楽死させ、肝臓を取り出し、切片化し、免疫組織化学を使用してCD4+およびCD8+T細胞について染色した。
【0077】
これらの低減された用量調査においてさえ、本発明者らは、全体的な腫瘍サイズに関して、未治療の(対照)試料とSTP707治療された試料との間の劇的な差異を見ている。未治療の動物では、腫瘍は、ほとんど完全に肝臓のサイズであるが、STP707試料では、腫瘍はかなり低減された(
図7)。
【0078】
さらに、CD4+およびCD8+T細胞についてのIHC染色は、STP707治療された試料の腫瘍に侵入するこれらのT細胞における劇的な増加を示した(
図7および
図8)。
【0079】
イメージ分析を実施して、腫瘍試料中で色付きの線によって示されるような、腫瘍と肝臓との間の周縁部において、CD4+およびCD8+T細胞を定量化した。これらの線は、腫瘍周縁部から離れて - 腫瘍中に向かう、または腫瘍から離れるが肝臓へと外に向かうのいずれか - 50umの距離において引かれている。イメージ分析は、各50umセグメント中の全てのCD8+T細胞を計数し、データを、
図8に示されるようにプロットした。
【0080】
抗PDL1 Abと一緒になったSTP707治療は、腫瘍中へと500umの地点で、CD8+T細胞における2倍の増加を示した。これは、腫瘍に近い肝臓内のCD8+T細胞における増加もまた示している - これは、腫瘍を取り囲むTGF-ベータ「壁」の低下によって誘導されたT細胞の可能な動員を示唆している。
【0081】
結論
この調査の主な目的は、Hepa 1-6細胞株の生物発光変異体を使用する同所性マウスの肝細胞癌モデルにおいて、単剤療法としての、および抗PD-L1と組み合わせた、STP707(TGFベータ1およびCox2に対するsiRNAを含むHKPポリペプチドナノ粒子)の忍容性および有効性を決定することであった。
【0082】
全ての治療レジメンは、試験した用量および製剤において良好な耐容性を示した;有害な臨床的兆候も体重喪失も、治療グループのいずれにおいても留意されなかった。
【0083】
全ての治療レジメンが、対照と比較した場合、統計的に有意な低減された腫瘍増殖を生成した。しかし、STP707単剤療法(2mg/kg)は、抗PDL1 Abと組み合わせた場合にも観察された、低減された腫瘍増殖をもたらした。STP707の用量を1mg/Kgに低減させることは、STP707単独のより低い効果を実証したが、ここで、抗PDL1 Abとの相加性は、より明らかであった。
【0084】
抗PD-L1 5mg/kgとSTP705(注射1回当たり20μg(1mg/kg))との組合せは、抗PD-L1 5mg/kgよりも効果的なSTP705単剤療法よりも、効果的なようであった。
【0085】
本発明者らの結果は、STP707が、 - 2+週間にわたって投薬を停止させた後でさえも - 抗PDL1抗体の作用を増大させる - 腫瘍細胞の再発を伴わずに、腫瘍生存率の劇的な低減をもたらす - ことを示している。本発明者らが、IVで与えられたこの製剤を用いた肝臓への送達を示しているという事実は、本発明者らが、このレジメンを用いて肝臓中に担持された腫瘍を治療することができることを示唆している。これには、肝臓中に天然に存在する任意の腫瘍(肝芽腫もしくは肝細胞癌(HCC))または肝臓に転移する腫瘍(例えば、結腸がん)が含まれる。
【0086】
さらに、以前の研究において、本発明者らは、産物が注射(例えば、皮内)によって投与される場合に、これら2つの遺伝子標的について遺伝子発現を低減させる能力を実証している。これは、本発明者らが、産物が腫瘍に近接して注射を介して投与される場合に、腫瘍に対する免疫応答を促進するという同じ治療的利益を得ることができることを示唆している。これは、真皮がん(例えば、皮膚における非メラノーマ皮膚がんもしくはメラノーマ腫瘍)のために、または同じ効果を促進するために腫瘍部位の近くに材料を注射することができる他の臓器中の腫瘍において、使用することができた。
【0087】
参考文献
[1]Liuら、Cancer Cell Int(2015)15:106~112「Cyclooxygenase-2 promotes tumor growth and suppresses tumor immunity」
[2]Zelenayら、Cell(2015)162:1257~1270「Cyclooxygenase-Dependent Tumor Growth through Evasion of Immunity」
[3]Mariathasanら、Nature(2018)554;544~548「TGFβ attenuates tumour response to PD-L1 blockade by contributing to exclusion of T cells」
【0088】
発行された特許および公開された特許出願を含む、本明細書で同定された全ての刊行物、ならびにurlアドレスまたは寄託番号によって同定される全てのデータベースエントリーは、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0089】
本発明は、そのある特定の実施形態に関連して記載され、多くの詳細が例示目的のために明記されてきたが、本発明がさらなる実施形態の影響を受けやすいこと、および本明細書に記載されるある特定の詳細が、本発明の基本原理から逸脱することなしに変動され得ることが、当業者に明らかとなろう。
【配列表】