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  • -非水電解質二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20241114BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20241114BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20241114BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241114BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/525
H01M4/131
H01M4/13
C01G53/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021545158
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2020029258
(87)【国際公開番号】W WO2021049198
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2019163881
(32)【優先日】2019-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】322003798
【氏名又は名称】パナソニックエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 良憲
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 毅
(72)【発明者】
【氏名】野村 峻
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-254639(JP,A)
【文献】特開2016-170937(JP,A)
【文献】特開2002-313339(JP,A)
【文献】特開平09-115509(JP,A)
【文献】特開2002-313417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
H01M 4/00-4/62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池において、
前記正極は、層状構造を有し、少なくともNi、Al、及びSrを含有するリチウム遷移金属複合酸化物を含み、
前記リチウム遷移金属複合酸化物において、
Niの含有量は、Liを除く金属元素の総モル数に対して80~95モル%であり、
Alの含有量は、Liを除く金属元素の総モル数に対して0モル%超8.0モル%以下であり、
Srの含有量は、Liを除く金属元素の総モル数に対して0モル%超1.2モル%以下であり、
Li層に存在するLi以外の全ての金属元素の割合は、前記リチウム遷移金属複合酸化物全体に含まれるLiを除く全ての金属元素の総モル数に対して0.5~2.0モル%であり、
前記負極は、負極活物質を含む負極合材層と、前記負極合材層の表面に形成されたSrを含有する被膜とを有し、
非水電解質二次電池を組立後に前記非水電解質二次電池を、25℃の温度環境下、0.2Itの定電流で電池電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、4.2Vで電流値が1/100Itになるまで定電圧充電を行い、その後、0.2Itの定電流で電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電を行い、当該充放電サイクルを30サイクル繰り返した後の前記負極合材層と前記被膜の総質量に対する前記被膜中のSrの含有量は、20~400ppmである、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記被膜は、さらにNiを含有する、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記被膜中のSrとNiの質量比(Ni/Sr)は、0.3~2.0である、請求項2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記被膜は、さらにAlを含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記被膜中のSrとAlの質量比(Al/Sr)は、0.3~20.0である、請求項4に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池に関し、特に正極活物質としてNiを含有するリチウム遷移金属複合酸化物を用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Ni含有量の多いリチウム遷移金属複合酸化物が、高エネルギー密度の正極活物質として注目されている。例えば、特許文献1には、一般式LiNiCo(式中、MはBa、Sr、Bから選択される元素であり、0.9≦x≦1.1、0.5≦y≦0.95、0.05≦z≦0.5、0.0005≦m≦0.02)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物からなり、かつBET比表面積値が0.8m/g以下である非水電解質二次電池用正極活物質が開示されている。また、特許文献2には、Ni、Coの少なくとも1種を含有し、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物からなり、Sr、W、Sbの少なくとも1種と、Moとを含有する非水電解質二次電池用正極活物質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-100295号公報
【文献】特開2007-299668号公報
【発明の概要】
【0004】
正極活物質にNi含有量の多いリチウム遷移金属複合酸化物を用いた場合、充電時のLiの引き抜き量が多いため、複合酸化物の層状構造が不安定になり、充放電に伴う電池容量の低下が起こり易い。なお、特許文献1,2に開示された技術は、充放電サイクル特性について未だ改良の余地がある。
【0005】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池において、前記正極は、層状構造を有し、少なくともNi、Al、及びSrを含有するリチウム遷移金属複合酸化物を含み、前記リチウム遷移金属複合酸化物において、Niの含有量は、Liを除く金属元素の総モル数に対して80~95モル%であり、Alの含有量は、Liを除く金属元素の総モル数に対して8.0モル%以下であり、Srの含有量は、Liを除く金属元素の総モル数に対して1.2モル%以下であり、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合がLiを除く金属元素の総モル数に対して0.5~2.0モル%であり、前記負極は、負極活物質を含む負極合材層と、前記負極合材層の表面に形成されたSrを含有する被膜とを有し、前記負極合材層と前記被膜の総質量に対する前記被膜中のSrの含有量が20~400ppmである。
【0006】
本開示の一態様によれば、Ni含有量が多いリチウム遷移金属複合酸化物を用いた非水電解質二次電池において、充放電に伴う容量低下を抑制することができる。本開示に係る非水電解質二次電池は、充放電サイクル特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
Ni含有量の多いリチウム遷移金属複合酸化物は、粒子表面の活性が高く、これを正極活物質に用いた場合、粒子表面で電解質との副反応が生じ、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面がダメージを受ける。また、充電時におけるリチウム遷移金属複合酸化物からのLiの引き抜き量が多いため、充放電を繰り返すとリチウム遷移金属複合酸化物の層状構造が崩れて不安定になる。ゆえに、当該リチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質に適用した非水電解質二次電池は、充放電に伴う電池容量の低下が起こり易いと考えられる。
【0009】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、所定量のAlに加えて所定量のSrをリチウム遷移金属複合酸化物に添加し、Li層のLiの一部を他の金属元素と置換することにより、リチウム遷移金属複合酸化物の層状構造が安定化すると共に、負極表面に正極由来のSrを含有する良質な被膜が形成され負極が保護されることを見出した。Srによりリチウム遷移金属複合酸化物の表面近傍が改質され、さらに所定量のAlを含みかつ、Li層中のLiを所定量他の金属元素で置換することによる層状構造の安定化、及びSrを含有する良質な負極保護被膜の相乗効果により、当該リチウム遷移金属複合酸化物を用いた電池の充放電サイクル特性が向上すると考えられる。なお、Li層に存在する他の金属元素の量が多過ぎると、Liの拡散が阻害されて抵抗上昇、放電容量の低下につながる。
【0010】
本明細書において、「数値(A)~数値(B)」との記載は、数値(A)以上、数値(B)以下であることを意味する。
【0011】
以下、本開示に係る非水電解質二次電池の実施形態の一例について詳細に説明する。以下では、巻回型の電極体14が有底円筒形状の外装缶16に収容された円筒形電池を例示するが、外装体は円筒形の外装缶に限定されず、例えば角形の外装缶であってもよく、金属層及び樹脂層を含むラミネートシートで構成された外装体であってもよい。また、電極体は、複数の正極と複数の負極がセパレータを介して交互に積層された積層型の電極体であってもよい。
【0012】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池10の断面図である。図1に例示するように、非水電解質二次電池10は、巻回型の電極体14と、非水電解質と、電極体14及び電解質を収容する外装缶16とを備える。電極体14は、正極11、負極12、及びセパレータ13を有し、正極11と負極12がセパレータ13を介して渦巻き状に巻回された巻回構造を有する。外装缶16は、軸方向一方側が開口した有底円筒形状の金属製容器であって、外装缶16の開口は封口体17によって塞がれている。以下では、説明の便宜上、電池の封口体17側を上、外装缶16の底部側を下とする。
【0013】
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等が用いられる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。電解質塩には、例えばLiPF等のリチウム塩が使用される。なお、電解質は液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。
【0014】
電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13は、いずれも帯状の長尺体であって、渦巻状に巻回されることで電極体14の径方向に交互に積層される。負極12は、リチウムの析出を防止するために、正極11よりも一回り大きな寸法で形成される。即ち、負極12は、正極11よりも長手方向及び幅方向(短手方向)に長く形成される。2枚のセパレータ13は、少なくとも正極11よりも一回り大きな寸法で形成され、例えば正極11を挟むように配置される。電極体14は、溶接等により正極11に接続された正極リード20と、溶接等により負極12に接続された負極リード21とを有する。
【0015】
電極体14の上下には、絶縁板18,19がそれぞれ配置される。図1に示す例では、正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極リード21が絶縁板19の外側を通って外装缶16の底部側に延びている。正極リード20は封口体17の内部端子板23の下面に溶接等で接続され、内部端子板23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極リード21は外装缶16の底部内面に溶接等で接続され、外装缶16が負極端子となる。
【0016】
外装缶16と封口体17の間にはガスケット28が設けられ、電池内部の密閉性が確保される。外装缶16には、側面部の一部が内側に張り出した、封口体17を支持する溝入部22が形成されている。溝入部22は、外装缶16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。封口体17は、溝入部22と、封口体17に対して加締められた外装缶16の開口端部とにより、外装缶16の上部に固定される。
【0017】
封口体17は、電極体14側から順に、内部端子板23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。異常発熱で電池の内圧が上昇すると、下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断することにより、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0018】
以下、電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13について、特に正極11を構成する正極活物質、及び負極12の表面に形成される被膜について詳説する。
【0019】
[正極]
正極11は、正極芯体と、正極芯体の表面に設けられた正極合材層とを有する。正極芯体には、アルミニウムなどの正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層は、正極活物質、結着材、及び導電材を含み、正極リード20が接続される部分を除く正極芯体の両面に設けられることが好ましい。正極11は、例えば正極芯体の表面に正極活物質、結着材、及び導電材等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合材層を正極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0020】
正極合材層に含まれる導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合材層に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)等が併用されてもよい。
【0021】
正極11は、層状構造を有し、少なくともNi、Al、及びSrを含有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む。以下、説明の便宜上、当該リチウム遷移金属複合酸化物を「複合酸化物(Z)」とする。複合酸化物(Z)は、正極活物質として機能する。複合酸化物(Z)は、例えば空間群R-3mに属する層状構造、又は空間群C2/mに属する層状構造を有する。正極活物質は、複合酸化物(Z)を主成分とし、実質的に複合酸化物(Z)のみで構成されていてもよい。なお、正極活物質には、本開示の目的を損なわない範囲で、複合酸化物(Z)以外の複合酸化物、或いはその他の化合物が含まれてもよい。
【0022】
複合酸化物(Z)は、例えば、複数の1次粒子が凝集してなる2次粒子である。1次粒子の粒径は、一般的に0.05μm~1μmである。複合酸化物(Z)の体積基準のメジアン径(D50)は、例えば3μm~30μm、好ましくは5μm~25μmである。D50は、体積基準の粒度分布において頻度の累積が粒径の小さい方から50%となる粒径を意味し、中位径とも呼ばれる。複合酸化物(Z)の粒度分布は、レーザー回折式の粒度分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、MT3000II)を用い、水を分散媒として測定できる。
【0023】
複合酸化物(Z)は、Liを除く金属元素の総モル数に対して80~95モル%のNiを含有する。Niの含有量を80モル%以上とすることで、高エネルギー密度の電池が得られる。一方、Niの含有量が95モル%を超えると、Al及びSrの含有量が少なくなり過ぎて複合酸化物(Z)の層状構造の安定性を確保できない。Niの含有量は、Liを除く金属元素の総モル数に対して85モル%以上であってもよく、又は90モル%以上であってもよい。
【0024】
複合酸化物(Z)において、Niの含有量はLiを除く金属元素の総モル数に対して80~95モル%であり、Alの含有量はLiを除く金属元素の総モル数に対して8.0モル%以下である。Alの含有量は、7.0モル%以下であってもよく、又は6.0モル%以下であってもよい。複合酸化物(Z)の層状構造の安定性の観点から、Alの含有量の下限値は、1.0モル%が好ましく、2.0モル%がより好ましい。
【0025】
複合酸化物(Z)におけるSrの含有量は、Liを除く金属元素の総モル数に対して1.2モル%以下であり、好ましくは1.0モル%以下である。Srは複合酸化物(Z)の粒子表面を改質し、また負極被膜のSr源となり、正負極における電解質との副反応を抑制すると考えられる。複合酸化物(Z)にSrが含有されていれば、充放電サイクル特性の改善効果が得られるが、Srの含有量は0.02モル%以上が好ましい。この場合、充放電サイクル特性の改善効果がより顕著に現れる。Srの含有量が1.2モル%を超えると、抵抗が上昇して充電容量が低下する。
【0026】
Srは、複合酸化物(Z)の粒子表面及びその近傍、例えば粒子表面から30nm以内の表面近傍領域に存在することが好ましい。複合酸化物(Z)が1次粒子が凝集してなる2次粒子である場合、Srは1次粒子の表面及びその近傍に存在する。即ち、Srは複合酸化物(Z)の1次粒子の表面近傍に偏在しており、Srの単位体積当たりの含有率は1次粒子の内部よりも表面で高くなっている。複合酸化物(Z)におけるSrの分布は、TEM-EDX等により分析できる。
【0027】
Srは、複合酸化物(Z)の層状構造内又は表面に化合物として存在している。複合酸化物(Z)に含有されるSrは、上記のように、負極被膜のSr源であって、充放電により一部が溶出して負極表面に堆積し、負極の被膜中に含有される。
【0028】
複合酸化物(Z)は、Li、Ni、Al、Sr以外の金属元素を含有していてもよい。当該金属元素としては、Co、Mn、Zr、Mg、Fe、Cu、Zn、Sn、Na、K、Ba、Ca、W、Mo、Si、Nb、Bi、Ti、Mo等が例示できる。
【0029】
複合酸化物(Z)がCoを含有する場合、Coの含有量は、Liを除く金属元素の総モル数に対して10モル%以下であることが好ましい。Coは高価であることから、その使用量を少なくすることが好ましい。複合酸化物(Z)は、Liを除く金属元素の総モル数に対して5モル%以下のCoを含有するか、又は実質的にCoを含有しなくてもよい。「実質的にCoを含有しない」とは、Coが全く含有されない場合、及びCoが不純物として混入する場合(正確に定量できない程度のCoが混入する場合)を意味する。
【0030】
複合酸化物(Z)がMnを含有する場合、Mnの含有量は、Liを除く金属元素の総モル数に対して10モル%以下が好ましい。好適な複合酸化物(Z)の一例は、一般式LiNiCoAlMnSr(式中、0.8≦a≦1.2、0.80≦b≦0.95、0≦c≦0.05、0<d≦0.08、0≦e≦0.10、0<f≦0.012、1≦≦2)で表される複合酸化物である。
【0031】
複合酸化物(Z)のLi層には、Li以外の金属元素が含有される。Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、Liを除く金属元素の総モル数に対して0.5~2.0モル%である。この場合、Li層中のLiイオンが引き抜かれた状態でのLi層の構造が安定化し、サイクル特性が向上する。他方、当該割合が0.5モル%未満である場合、又は2.0モル%を超える場合は、サイクル特性の改善効果は得られない。Li層中のLi以外の金属元素は、主にNiであると考えられるが、他の金属元素を含んでもよい。Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、複合酸化物(Z)のX線回折測定により得られるX線回折パターンのリートベルト解析から求められる。
【0032】
複合酸化物(Z)を構成する元素の含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)、電子線マイクロアナライザー(EPMA)、又はエネルギー分散型X線分析装置(EDX)等により測定することができる。
【0033】
複合酸化物(Z)の製造方法は、例えば、Ni、Al及び任意の金属元素を含む金属複合酸化物を得る第1工程と、第1工程で得られた金属複合酸化物とLi化合物とを混合して混合物を得る第2工程と、当該混合物を焼成する第3工程とを備える。最終的に得られる複合酸化物(Z)の層状構造のLi層におけるLi以外の金属元素の割合は、例えば、第2工程における原料の混合割合、第3工程における焼成温度や時間等を制御することにより調整される。
【0034】
第1工程においては、例えば、Ni、Al及び任意の金属元素(Co、Mn、Fe等)を含む金属塩の溶液を撹拌しながら、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液を滴下し、pHをアルカリ側(例えば8.5~12.5)に調整することにより、Ni、Al及び任意の金属元素を含む金属複合水酸化物を析出(共沈)させ、当該金属複合水酸化物を焼成することにより、Ni、Al及び任意の金属元素を含む金属複合酸化物を得る。焼成温度は、特に制限されるものではないが、例えば、300℃~600℃の範囲である。
【0035】
第2工程においては、第1工程で得られた金属複合酸化物と、リチウム化合物と、ストロンチウム化合物とを混合して、混合物を得る。リチウム化合物としては、例えば、LiCO、LiOH、Li、LiO、LiNO、LiNO、LiSO、LiOH・HO、LiH、LiF等が挙げられる。ストロンチウム化合物としては、Sr(OH)、SrO、SrCO、SrSO、Sr(NO等が挙げられる。第1工程で得られた金属複合酸化物とLi化合物との混合割合は、上記パラメータを上記規定した範囲に調整することを容易とする点で、例えば、Liを除く金属元素:Liのモル比が、1:0.98~1:1.1の範囲となる割合とすることが好ましい。第2工程では、第1工程で得られた金属複合酸化物とLi化合物とSr化合物とを混合する際、必要に応じて他の金属原料を添加してもよい。他の金属原料は、第1工程で得られた金属酸化物を構成する金属元素以外の金属元素を含む酸化物、水酸化物等である。
【0036】
第3工程においては、第2工程で得られた混合物を所定の温度及び時間で焼成し、本実施形態に係る複合酸化物(Z)を得る。第3工程における混合物の焼成は、例えば焼成炉内で、酸素気流下、450℃以上680℃以下の第1設定温度まで第1昇温速度で焼成する第1焼成工程と、前記第1焼成工程により得られた焼成物を、焼成炉内で、酸素気流下で、680℃超800℃以下の第2設定温度まで第2昇温速度で焼成する第2焼成工程とを含む、多段階焼成工程を備える。
【0037】
ここで、第1昇温速度は、1.5℃/min以上5.5℃/min以下の範囲であり、第2昇温速度は、第1昇温速度より遅く、0.1℃/min以上3.5℃/min以下の範囲である。このような多段階焼成により、最終的に得られる本実施形態の複合酸化物(Z)において、その層状構造のLi層に存在するLi以外の金属元素の割合のパラメータ等を上記規定した範囲に調整することができる。なお、第1昇温速度、第2昇温速度は、上記規定した範囲内であれば、温度領域毎に複数設定してもよい。
【0038】
第1焼成工程における第1設定温度の保持時間は、複合酸化物(Z)の上記パラメータを上記規定した範囲に調整する点で、0時間以上5時間以下が好ましく、0時間以上3時間以下がより好ましい。第1設定温度の保持時間とは、第1設定温度に達した後、第1設定温度を維持する時間である。第2焼成工程における第2設定温度の保持時間は、リチウム遷移金属複合酸化物の上記各パラメータを上記規定した範囲に調整する点で、1時間以上10時間以下が好ましく、1時間以上5時間以下がより好ましい。第2設定温度の保持時間とは、第2設定温度に達した後、第2設定温度を維持する時間である。
【0039】
混合物の焼成の際には、上記各パラメータを上記規定した範囲に調整する点で、例えば、酸素濃度60%以上の酸素気流中で行い、酸素気流の流量を、焼成炉10cmあたり、0.2mL/min~4mL/minの範囲及び混合物1kgあたり0.3L/min以上とする。
【0040】
[負極]
負極12は、負極芯体と、負極芯体の表面に設けられた負極合材層とを有する。負極芯体には、銅などの負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層は、負極活物質及び結着材を含み、例えば負極リード21が接続される部分を除く負極芯体の両面に設けられることが好ましい。負極12は、例えば負極芯体の表面に負極活物質、及び結着材等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して負極合材層を負極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0041】
負極合材層には、負極活物質として、例えばリチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出する炭素系活物質が含まれる。好適な炭素系活物質は、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛(MAG)、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の人造黒鉛などの黒鉛である。また、負極活物質には、Si及びSi含有化合物の少なくとも一方で構成されるSi系活物質が用いられてもよく、炭素系活物質とSi系活物質が併用されてもよい。
【0042】
負極合材層に含まれる結着材には、正極11の場合と同様に、フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン等を用いることもできるが、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)を用いることが好ましい。また、負極合材層は、さらに、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)などを含むことが好ましい。中でも、SBRと、CMC又はその塩、PAA又はその塩を併用することが好適である。
【0043】
負極12は、負極合材層の表面に形成されたSrを含有する被膜(以下、「負極被膜」という場合がある)を有する。負極被膜は、充放電により溶出した複合酸化物(Z)中のSrが負極合材層の表面に堆積して形成されると考えられる。即ち、負極被膜は、複合酸化物(Z)由来のSrを含有する。負極被膜は、例えば10サイクル以下の充放電により形成される。特定量のSrを含有する複合酸化物(Z)を用い、負極表面に正極由来のSrを含有する良質な被膜が形成されることで、充放電に伴う容量低下が抑制され、良好なサイクル特性が得られる。負極被膜の存在は、例えばX線光電子分光分析(XPS)により確認できる。
【0044】
負極被膜中のSrの含有量は、負極合材層と被膜の総質量に対して20~400ppmである。Srの含有量が20ppm未満である場合、又は400ppmを超える場合は、充放電サイクル特性の改善効果が得られない。負極被膜中のSrの含有量は、複合酸化物(Z)の組成、特に複合酸化物(Z)におけるSrの含有量、また充電終止電圧、充放電試験温度など、充放電条件等により制御できる。
【0045】
負極被膜には、さらに、Niが含有されていてもよい。充放電により溶出した複合酸化物(Z)中のNiが、Srと共に負極合材層の表面に堆積して負極被膜が形成されると考えられる。即ち、負極被膜は、複合酸化物(Z)由来のNiを含有する。被膜中のSrとNiの質量比(Ni/Sr)は、0.3~2.0であることが好ましい。Ni/Sr比が当該範囲内であれば、サイクル特性の改善効果を高めることができる。Ni/Sr比は、複合酸化物(Z)の組成、特にSrとNiの含有量の比、または充電終止電圧、充放電試験温度など充放電条件等により制御できる。
【0046】
負極被膜には、さらに、Alが含有されていてもよい。負極被膜は、複合酸化物(Z)由来のAlを含有する。被膜中のSrとAlの質量比(Al/Sr)は、0.3~20.0であることが好ましい。Al/Sr比が当該範囲内であれば、サイクル特性の改善効果を高めることができる。Al/Sr比は、複合酸化物(Z)の組成、特にSrとAlの含有量の比、または充電終止電圧、充放電試験温度など充放電条件等により制御できる。
【0047】
負極被膜には、Sr、Ni、Al以外の金属元素が含有されていてもよい。負極被膜は、例えばSr、Ni、Al等の金属元素、及び電解質の分解生成物である有機物を含む。負極被膜中のSr、Ni、Alの含有量、Ni/Srの質量比、及びAl/Srの質量比は、充放電後の電池から負極を取り出して負極合材層を溶解し、当該溶液をICP-AESで分析することにより求めることができる。
【0048】
[セパレータ]
セパレータ13には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータの表面には、耐熱層などが形成されていてもよい。
【0049】
<実施例>
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
<実施例1>
[リチウム遷移金属複合酸化物(正極活物質)の合成]
一般式Ni0.82Co0.05Al0.03Mn0.10で表される金属複合酸化物のNi、Co、Al、及びMnの総量に対してSrの含有量が0.08モル%となるように、金属複合酸化物と水酸化ストロンチウム(Sr(OH))を混合し、さらにNi、Co、Al、Mn、及びSrの総量と、Liのモル比が1:1.05となるように水酸化リチウム(LiOH)を混合した。当該混合物を酸素濃度95%の酸素気流下(混合物1kgあたり5L/minの流量)、昇温速度2.0℃/minで、室温から650℃まで焼成した後、昇温速度0.5℃/minで、650℃から780℃まで焼成した。この焼成物を水洗により不純物を除去し、リチウム遷移金属複合酸化物を得た。ICP-AESにより、リチウム遷移金属複合酸化物の組成を分析した結果、Li0.99Ni0.8192Co0.05Al 0.03 Mn0.10Sr0.0008であった。
【0051】
[正極の作製]
正極活物質として上記リチウム遷移金属複合酸化物を用いた。正極活物質と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を、95:3:2の固形分質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えた後、これを混練して正極合材スラリーを調製した。当該正極合材スラリーをアルミニウム箔からなる正極芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた後、ローラーを用いて塗膜を圧延し、所定の電極サイズに切断して、正極芯体の両面に正極合材層が形成された正極を得た。なお、正極の一部に正極芯体の表面が露出した露出部を設けた。
【0052】
[負極の作製]
負極活物質として天然黒鉛を用いた。負極活物質と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)と、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)を、100:1:1の固形分質量比で水溶液中において混合し、負極合材スラリーを調製した。当該負極合材スラリーを銅箔からなる負極芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた後、ローラーを用いて塗膜を圧延し、所定の電極サイズに切断して、負極芯体の両面に負極合材層が形成された負極を得た。なお、負極の一部に負極芯体の表面が露出した露出部を設けた。
【0053】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(MEC)と、ジメチルカーボネート(DMC)を、3:3:4の体積比で混合した混合溶媒に対して、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1.2モル/リットルの濃度で溶解させて非水電解液を調製した。
【0054】
[試験セル(非水電解質二次電池)の作製]
上記正極の露出部にアルミニウムリードを、上記負極の露出部にニッケルリードをそれぞれ取り付け、ポリオレフィン製のセパレータを介して正極と負極を渦巻き状に巻回した後、径方向にプレス成形して扁平状の巻回型電極体を作製した。この電極体をアルミラミネートシートで構成される外装体内に収容し、上記非水電解液を注入した後、外装体の開口部を封止して試験セルを得た。
【0055】
上記リチウム遷移金属複合酸化物について、Li層中のLi以外の金属元素の割合を下記の方法で評価した。また、上記試験セルについて、負極の表面に形成される被膜中のSr含有量、Ni/Sr比、Al/Sr比、及び充放電サイクル特性を下記の方法でそれぞれ評価した。評価結果を表1に示す(後述の実施例、比較例についても同様)。
【0056】
[リチウム遷移金属複合酸化物のLi層におけるLi以外の金属元素の割合]
Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、リチウム遷移金属複合酸化物のX線回折測定により得られるX線回折パターンのリートベルト解析から求められる。X線回折パターンは、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、商品名「RINT-TTR」、線源Cu-Kα)を用いて、以下の条件による粉末X線回折法によって得られる。
【0057】
測定範囲:15-120°
スキャン速度:4°/min
解析範囲:30-120°
バックグラウンド:B-スプライン
プロファイル関数:分割型擬Voigt関数
束縛条件:Li(3a)+Ni(3a)=1
Ni(3a)+Ni(3b)=y(yは各々のNi含有割合)
ICSD No.:98-009-4814
また、X線回折パターンのリートベルト解析には、リートベルト解析ソフトであるPDXL2(株式会社リガク)が使用される。
【0058】
[負極被膜の評価]
後述するサイクル試験後の試験セルを分解して負極を取り出して負極合材層を溶解し、負極合材層の表面に形成される被膜中のSrの含有量、Ni/Sr比、及びAl/Sr比をICP-AESにより求めた。被膜中のSrの含有量は、試験セル中に含まれる負極合材層と被膜の総質量に対して56ppmであった。また、Ni/Sr比は1.0、Al/Sr比は8.2であった。
【0059】
[充放電サイクル特性(サイクル試験後の容量維持率)の評価]
上記試験セルを、25℃の温度環境下、0.2Itの定電流で電池電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、4.2Vで電流値が1/100Itになるまで定電圧充電を行った。その後、0.2Itの定電流で電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電を行った。この充放電サイクルを30サイクル繰り返した。サイクル試験の1サイクル目の放電容量と、30サイクル目の放電容量を求め、下記式により容量維持率を算出した。
【0060】
容量維持率(%)=(30サイクル目放電容量÷1サイクル目放電容量)×100
<実施例2>
正極活物質の合成において、一般式Ni0.90Co0.05Al0.05で表される金属複合酸化物を用い、Srの含有量が0.05モル%となるように、当該金属複合酸化物とSr(OH)を混合したこと、金属複合酸化物とLiOHとを、Ni、Co、Al、Mn、及びSrの総量と、Liのモル比が1:1.03となるように水酸化リチウム(LiOH)を混合したこと、当該混合物を、昇温速度2.0℃/minで、室温から650℃まで焼成した後、昇温速度0.5℃/minで、650℃から730℃まで焼成したこと以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製し、評価を行った。
【0061】
<実施例3>
正極活物質の合成において、金属複合酸化物とLiOHとを、Ni、Co、Al、Mn、及びSrの総量と、Liのモル比が1:1.05となるように水酸化リチウム(LiOH)を混合したこと以外は、実施例2と同様にして試験セルを作製し、評価を行った。
【0062】
<実施例4>
正極活物質の合成において、Srの含有量が0.08モル%となるようにSr(OH)を添加したこと以外は、実施例2と同様にして試験セルを作製し、評価を行った。
【0063】
<実施例5>
正極活物質の合成において、Srの含有量が0.10モル%となるようにSr(OH)を添加したこと以外は、実施例2と同様にして試験セルを作製し、評価を行った。
【0064】
<実施例6>
正極活物質の合成において、Srの含有量が0.50モル%となるようにSr(OH)を添加したこと、当該混合物を、昇温速度4.0℃/minで、室温から650℃まで焼成した後、昇温速度1.0℃/minで、650℃から730℃まで焼成した以外は、実施例2と同様にして試験セルを作製し、評価を行った。
【0065】
<実施例7>
正極活物質の合成において、Srの含有量が1.00モル%となるようにSr(OH)を添加したこと、酸素流量を混合物1kgあたり8L/minにしたこと以外は、実施例2と同様にして試験セルを作製し、評価を行った。
【0066】
<実施例8>
正極活物質の合成において、一般式Ni0.92Al0.05Mn0.03で表される金属複合酸化物を用いたこと、当該混合物を、昇温速度2.0℃/minで、室温から650℃まで焼成した後、昇温速度0.5℃/minで、650℃から700℃まで焼成したこと、金属複合酸化物とLiOHとを、Ni、Al、Mn、及びSrの総量と、Liのモル比が1:1.03となるように水酸化リチウム(LiOH)を混合したこと以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製し、評価を行った。
【0067】
<実施例9>
正極活物質の合成において金属複合酸化物とLiOHとを、Ni、Al、Mn、及びSrの総量と、Liのモル比が1:1.01となるように水酸化リチウム(LiOH)を混合したこと以外は、実施例8と同様にして試験セルを作製し、評価を行った。
【0068】
<比較例1>
正極活物質の合成において、Sr(OH)を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製し、評価を行った。
【0069】
<比較例2>
正極活物質の合成において、一般式Ni0.90Mn0.10で表される金属複合酸化物を用いたこと、金属複合酸化物とLiOHとを、Ni、Mn、及びSrの総量と、Liのモル比が1:1.1となるように水酸化リチウム(LiOH)を混合したこと以外は、実施例7と同様にして試験セルを作製し、評価を行った。
【0070】
<比較例3>
正極活物質の合成において、Sr(OH)を添加しなかったこと以外は、実施例2と同様にして試験セルを作製し、評価を行った。
【0071】
<比較例4>
正極活物質の合成において、Sr(OH)の代わりに水酸化マグネシウム(Mg(OH))を添加したこと以外は、実施例7と同様にして試験セルを作製し、性能評価を行った。
【0072】
<比較例5>
正極活物質の合成において、Sr(OH)の代わりに水酸化バリウム(Ba(OH))を添加したこと以外は、実施例7と同様にして試験セルを作製し、性能評価を行った。
【0073】
<比較例6>
正極活物質の合成において、金属複合酸化物とLiOHとを、Ni、Al、Mn、及びSrの総量と、Liのモル比が1:1.15となるように水酸化リチウム(LiOH)を混合したこと以外は、実施例9と同様にして試験セルを作製し、評価を行った。
【0074】
<比較例7>
正極活物質の合成において、当該混合物を、昇温速度6.0℃/minで、室温から650℃まで焼成した後、昇温速度5.0℃/minで、650℃から750℃まで焼成したこと以外は、実施例9と同様にして試験セルを作製し、評価を行った。
【0075】
<比較例8>
正極活物質の合成において、Srの含有量が1.50モル%となるようにSr(OH)を添加したこと以外は、実施例9と同様にして試験セルを作製し、評価を行った。
【0076】
【表1】
【0077】
表1に示すように、実施例の試験セルはいずれも、比較例の試験セルと比べて、サイクル試験後の容量維持率が高く、充放電サイクル特性に優れる。正極活物質にSrが含有されず、負極表面にSrを含有する被膜が形成されない場合(比較例1,3~5)は、サイクル試験後に放電容量が大きく低下する。また、正極活物質にAlが含有されない場合(比較例2)、正極活物質にSrが含有されていても、Li層中のLi以外の金属元素の割合が0.5~2.0モル%の範囲から外れる場合(比較例6,7)、及び負極被膜中のSrの含有量が400ppmを超える場合(比較例8)も同様に、放電容量が大きく低下する。つまり、特定量のAl及びSrが含有され、Li層にLi以外の金属元素が特定量存在する正極活物質、及び当該正極活物質由来の特定量のSrを含有する負極被膜の相乗効果によって、電池の充放電サイクル特性が大きく向上する。
【符号の説明】
【0078】
10 二次電池
11 正極
12 負極
13 セパレータ
14 電極体
16 外装缶
17 封口体
18,19 絶縁板
20 正極リード
21 負極リード
22 溝入部
23 内部端子板
24 下弁体
25 絶縁部材
26 上弁体
27 キャップ
28 ガスケット
図1