(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】タンパク質検出のための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C07K 7/06 20060101AFI20241114BHJP
C07K 14/415 20060101ALI20241114BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20241114BHJP
C12Q 1/37 20060101ALI20241114BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C07K7/06
C07K14/415 ZNA
G01N27/62 V
C12Q1/37
C12M1/34 Z
(21)【出願番号】P 2021564422
(86)(22)【出願日】2020-04-21
(86)【国際出願番号】 US2020029068
(87)【国際公開番号】W WO2020223057
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2023-04-19
(32)【優先日】2019-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520222106
【氏名又は名称】シンジェンタ クロップ プロテクション アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】ヤング スコット
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0058291(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0080590(US,A1)
【文献】特表2017-519206(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0053295(US,A1)
【文献】Biomedical Chromatography,2011年,Vol.25,pp.47-58
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12M 1/00- 3/10
C12Q 1/00- 3/00
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ又は複数の作物植物からの1つ又は複数の生体サンプル中のタンパク質の混合物において、p-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ(HPPD)タンパク質を質量分析アッセイで選択的に検出又は定量化する機能を果たす標識サロゲートペプチドであって、前記サロゲートペプチドが、標識と、GNFSELFK(配列番号1)及びGNFSQLFK(配列番号2)からなる群から選択されるアミノ酸配列とを含む、標識サロゲートペプチド。
【請求項2】
前記ペプチドが、安定同位体標識(SIL)アミノ酸の取込みによって標識化される、請求項1に記載の標識サロゲートペプチド。
【請求項3】
前記SILアミノ酸が、リジン、イソロイシン、バリン又はアルギニンである、請求項2に記載の標識サロゲートペプチド。
【請求項4】
前記植物が大麦、イネ、大豆、小麦、オート麦又はトウモロコシである、請求項1に記載の標識サロゲートペプチド。
【請求項5】
前記植物が大麦
、大豆、小麦又はイネであり、前記サロゲートペプチドが、標識及び配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項4に記載のサロゲートペプチド。
【請求項6】
前記植物がトウモロコシであり、前記サロゲートペプチドが、標識及び配列番号2のアミノ酸配列を含む、請求項4に記載のサロゲートペプチド。
【請求項7】
(i)標識を含み、配列番号1のアミノ酸配列からなる、第1の合成標識サロゲートペプチド
と、
(ii)標識を含み、配列番号2のアミノ酸配列からなる、第2の合成標識サロゲートペプチドと、を含むアッセイカセット。
【請求項8】
標的タンパク質及び非標的タンパク質の混合物を含む作物植物からの複合生体サンプル中の1つ又は複数の標的p-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ(HPPD)タンパク質を同時に検出又は定量化する方法であって、
a.作物植物から生体サンプルを得るステップと、
b.前記生体サンプルからタンパク質を抽出し、タンパク質の混合物を含む抽出物をもたらすステップと、
c.前記ステップbの抽出物中の不溶性タンパク質の量を低減し、濃縮可溶性タンパク質の抽出物をもたらすステップと、
d.前記ステップcの抽出物中の前記可溶性タンパク質を消化して、ペプチド断片を含む抽出物をもたらすステップであって、前記ペプチド断片が、
1つ又は複数の標的
HPPDタンパク質に特異的な少なくとも1つの
非標識サロゲートペプチドを含む、ステップと、
e.前記ステップdの抽出物中の前記ペプチド断片を濃縮するステップと、
f.
1つ又は複数の
、標識と配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列とを含む、合成標識サロゲートペプチドを添加するステップであって、
混合物中の各
合成標識サロゲートペプチドが、
標的HPPDタンパク質の非標識サロゲートペプチドの類似体であり、かつ、前記標的タンパク質
の非標識サロゲートペプチドと同じアミノ酸配列を有し、添加される標識サロゲートペプチドの数が、前記混合物中の標的タンパク質の数に等しい、ステップと、
g.前記混合物中の非サロゲートペプチドの量を低減することによって、前記
非標識サロゲートペプチド及び前記
合成標識サロゲートペプチドを濃縮するステップと、
h.前記ステップgからのペプチド断片混合物を液体クロマトグラフィにより分離するステップと、
i.前記ステップhから得られたペプチド断片混合物を質量分析により分析するステップであって、
合成標識サロゲートペプチドの遷移イオン断片の検出が、前記
非標識サロゲートペプチドが由来する標的タンパク質の存在を示す、ステップと、任意に、
j.前記ステップiの遷移イオン断片から発生された質量分析シグナルと、トランジションにより発生された質量分析シグナルとを比較することによって、前記生体サンプル中の標的タンパク質の量を計算するステップと
を含む方法。
【請求項9】
前記作物植物が大麦
、大豆、小麦又はイネであり、前記
合成標識サロゲートペプチドが
、配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記作物植物がトウモロコシであり、前記
合成標識サロゲートペプチドが
、配列番号2のアミノ酸配列を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記
合成標識サロゲートペプチドが、安定同位体標識(SIL)アミノ酸の取込みによって標識化される、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記SILアミノ酸が、リジン、イソロイシン、バリン又はアルギニンである、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電子的に提出された配列表の参照
配列表の正式な写しは、2020年4月20日に作成された1キロバイトのサイズを有するファイル名「81875-WO-REG-ORG-P-1_SeqList.txt」のASCII形式の配列表として、EFS-Webを介して電子的に提出され、本明細書と同時に出願される。このASCII形式の文書に含まれる配列表は本明細書の一部であり、参照によってその全体が本明細書中に援用される。
【0002】
本発明は、一般的に、複合生体サンプル中の標的タンパク質を選択的に検出、定量化、及び特徴付けるための質量分析の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
イムノアッセイ、例えば、酵素結合免疫吸着検定法アッセイ(ELISA)は、植物の遺伝子改変によって導入された植物内因性タンパク質又はタンパク質の検出及び定量化のために農産業において現在好ましい方法である。イムノアッセイの重大な構成要素は、標的タンパク質(抗原)に対する特異性を有する抗体である。イムノアッセイは非常に特異的であることができ、サンプルは、分析の前に簡単な調製しか必要としないことが多い。さらに、イムノアッセイは、広範囲の濃度にわたって定性的又は定量的に使用することができる。通常、イムノアッセイは、対象の各タンパク質に対して別の試験を必要とする。抗体は、動物において産生されるポリクローナル、又は細胞培養により生成されるモノクローナルであり得る。本質的に、ポリクローナル抗体の混合物は複数の認識エピトープを有することになり、存在する種々の抗体パラトープの数と共に他のタンパク質との配列及び構造的相同性の可能性が高まるので、感度を増大させることができるが、特異性を低下させる恐れもある。モノクローナル抗体は、単一のエピトープ又は抗原決定基に対して一定の親和性及び特異性を表し、そして大量に産生され得るので、ポリクローナル抗体と比べていくつかの利点を提供する。しかしながら、類似のトランスジェニック又は内因性タンパク質の複雑な混合物中の単一のタンパク質の選択的な検出及び定量化などのより厳しい用途に対して、全ての抗体にはその使用を制限する固有の特性がある。さらに、ポリクローナル及びモノクローナル抗体はいずれも、アッセイにおいて感度を高め、バックグラウンドを低下させるためにさらなる精製ステップを必要とし得る。さらに、ELISAシステムは、その物理的及び生物学的特性に劇的な効果を及ぼし得る標的タンパク質のわずかな変化を検出することができない可能性がある。例えば、抗体は、リン酸化又はグリコシル化などの翻訳後修飾によって改変されているか、又は立体構造的に覆い隠されているか、又は部分分解によって修飾されている、特定の形態のタンパク質又はペプチドを認識できないかもしれない。これらのタンパク質の物理的及び生物学的特性の変化はその酵素的、臨床的又は他の生物学的活性において重要な役割を果たし得るので、このような修飾の同定は極めて重要である。このような変化は、ELISAベースの定量化法の信頼性及び有用性を制限し得る。
【0004】
現在、作物植物中のタンパク質の有効な同定及び/又は定量化は、イムノアッセイの精度に依存している。成功したイムノアッセイの構築は、抗体の構築に使用される抗原の特定の特性、すなわち抗原のサイズ、疎水性及び三次構造、並びに抗体の品質及び精度に依存する。抗体の特異性は、偽陽性結果を生じ得る類似の物質との任意の交差反応性を解明するために、注意深く検査されなければならない。産業界の現在の問題は、市販の試験キット中の抗体の多くが、異なる作物植物中の種々のタンパク質の類似のタンパク質を区別しないことである。
【0005】
質量分析(MS)は、タンパク質分析のためのELISAの多数の制限を克服する代替のプラットフォームを提供する。MSベースの分析の分野は、タンデム質量分析と連結されたエレクトロスプレー液体クロマトグラフィ(LC-MS/MS)による多重反応モニタリング(MRM)などの、標的タンパク質分析の重要な進歩をもたらした。基礎にある概念は、タンパク質消化後にその特異的な構成ペプチド(サロゲートペプチド)を測定することによって、タンパク質が定量化され得ることである。選択されたペプチドのみのデータ収集は、より高い精度、感度、及びスループットの測定を可能にする。サロゲートペプチドのMRMベースの測定によるタンパク質の定量化は、タンパク質分析におけるMSの最も急成長している用途である。MRMベースのタンパク質アッセイは免疫ベースのアッセイと比べて2つの説得力のある利点を提供し、第1の利点は、抗体を使用することなく本質的に任意のタンパク質に対して特異的なアッセイを系統的に構成できることである。第2の利点は、標的MSアッセイが1回の分析で多数のペプチドの多重分析を実施できることである。さらに、MRMは直接分析であり、免疫ベースのアッセイは間接分析である。免疫ベースのアッセイは、特異的に結合する検出試薬と共に固相に固定化され得る連結試薬で構成される結合アッセイに依存し、適切に定量化可能なシグナルを発生するために酵素を使用する。
【0006】
したがって、MRMベースのアッセイにおいて機能するために必要な生化学的特性を全て有し、そしてそのアミノ酸配列の大部分が重複し得る標的タンパク質に対して絶対的に特異的である付加的な特性を有するサロゲートペプチドを同定することが継続的に必要とされており、すなわち、サロゲートペプチドの遷移状態の1つ又は複数は、複数の複雑なマトリックスにわたって2つの密接に関連する標的タンパク質を干渉なしに明確に区別することができる。このような選択的サロゲートペプチド及びその遷移状態は、互いに類似しているか、又はトランスジェニック作物植物中のトランスジェニックタンパク質に類似している標的タンパク質を区別できるはずである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、質量分析を用いて複合生体マトリックス中にある標的タンパク質を選択的に検出又は定量化するのに有用である標識サロゲートペプチド及びそのそれぞれの遷移イオンを提供する。本発明はさらに、標識サロゲートペプチド及び遷移イオンを用いて、複合生体マトリックス中の標的HPPDタンパク質を選択的に検出又は定量化するための方法及びシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様において、内部標準ペプチドマーカーは、経験的分析及びコンピュータでの消化分析を通して設計され、重アミノ酸残基を用いて化学的に合成されるか、或いは安定同位体標識化されたアミノ酸又は代謝中間体の存在下で合成遺伝子を発現させることにより遺伝的に合成される。特定の実施形態では、内部標準は、タンデム質量分析(MS/MS)、より具体的には、液体クロマトグラフィ連結タンデム質量分析(LC-MS/MS)を含む質量分析(MS)によって個々に特徴付けされ得る。特徴付けの後、各ペプチドのモノアイソトピック質量、そのサロゲート電荷状態、サロゲートm/z値、m/z遷移イオン、及び各遷移イオンのイオンタイプなどの、予め選択されたペプチドのパラメータを収集することができる。他の検討事項には、ペプチドサイズの最適化、翻訳後修飾の回避、プロセス誘発性修飾の回避、及び高率のプロテアーゼ切断の誤りの回避が含まれる。
【0009】
一態様において、本発明は、1つ又は複数の作物植物からの1つ又は複数の生体サンプル中のタンパク質の混合物において、p-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ(HPPD)タンパク質を質量分析アッセイで選択的に検出又は定量化する機能を果たす標識サロゲートペプチドを提供し、サロゲートペプチドは、標識と、GNFSELFK(配列番号1)及びGNFSQLFK(配列番号2)からなる群から選択されるアミノ酸配列とを含む。いくつかの実施形態において、標識サロゲートペプチドは、安定同位体標識(SIL)アミノ酸の取込みによって標識化される。他の実施形態では、SILアミノ酸は、リジン、イソロイシン、バリン又はアルギニンである。他の実施形態では、植物は、大麦、イネ、大豆、小麦、オート麦又はトウモロコシである。さらに他の実施形態では、作物植物は大麦、イネ、大豆、小麦又はイネであり、サロゲートペプチドは、標識及び配列番号1のアミノ酸配列を含む。さらに他の実施形態では、作物植物はトウモロコシであり、サロゲートペプチドは、標識及び配列番号2のアミノ酸配列を含む。
【0010】
一態様において、本発明は、請求項1の少なくとも2つの標識サロゲートペプチドを含むアッセイカセットを提供する。
【0011】
一態様において、本発明は、標的タンパク質及び非標的タンパク質の混合物を含む作物植物からの複合生体サンプル中の1つ又は複数の標的HPPDタンパク質を同時に検出又は定量化する方法を提供し、本方法は、(a)作物植物から生体サンプルを得るステップと、(b)生体サンプルからタンパク質を抽出し、タンパク質の混合物を含む抽出物をもたらすステップと、(c)ステップbの抽出物中の不溶性タンパク質の量を低減し、濃縮可溶性タンパク質の抽出物をもたらすステップと、(d)ステップcの抽出物中の可溶性タンパク質を消化して、ペプチド断片を含む抽出物をもたらすステップであって、ペプチド断片が、標的タンパク質に特異的な少なくとも1つのサロゲートペプチドを含む、ステップと、(e)ステップdの抽出物中のペプチド断片を濃縮するステップと、(f)本発明の1つ又は複数の標識サロゲートペプチドを添加するステップであって、各標識サロゲートペプチドが、標的タンパク質の各サロゲートペプチドと同じアミノ酸配列を有し、添加される標識サロゲートペプチドの数が、混合物中の標的タンパク質の数に等しい、ステップと、(g)混合物中の非サロゲートペプチドの量を低減することによって、サロゲートペプチド及び標識サロゲートペプチドを濃縮するステップと、(h)ステップgからのペプチド断片混合物を液体クロマトグラフィにより分離するステップと、(i)ステップhから得られたペプチド断片混合物を質量分析により分析するステップであって、標識サロゲートペプチドの遷移イオン断片の検出が、サロゲートペプチドが由来する標的タンパク質の存在を示す、ステップと、任意に、(j)ステップiの遷移イオン断片から発生された質量分析シグナルと、トランジションにより発生された質量分析シグナルとを比較することによって、生体サンプル中の標的タンパク質の量を計算するステップとを含む。いくつかの実施形態において、作物植物は大麦、イネ、大豆、小麦又はイネであり、サロゲートペプチドは、標識及び配列番号1のアミノ酸配列を含む。他の実施形態では、作物植物はトウモロコシであり、サロゲートペプチドは、標識及び配列番号2のアミノ酸配列を含む。他の実施形態では、ペプチドは、安定同位体標識(SIL)アミノ酸の取込みによって標識化される。さらに他の実施形態では、SILアミノ酸は、リジン、イソロイシン、バリン又はアルギニンである。
【0012】
サロゲートペプチド多数の異なる組合わせは、本発明のHPPDタンパク質からの特異的なサロゲートペプチドの1つ又は複数を用いるMRMアッセイによって同時にモニター及び定量化することができ、したがって、生体サンプルから得られる所与のタンパク質調製物中のこれらのタンパク質のそれぞれの総量を質量分析によって測定する手段を提供することができる。これらのペプチドはMRMベースのアッセイと併用して、作物植物の異なる成長段階における発現レベルを決定するため、葉組織、種子及び子実、花粉及び根組織を含むがこれらに限定されない、異なる作物植物組織及び器官における発現レベルを決定するため、規制リスク評価のための潜在的な曝露レベルを決定するため、食品加工、比較、及び世代研究における異なるレベルのタンパク質を決定するための定量的ペプチド/タンパク質分析を含む多数の用途を有する。最も広い意味では、7つのタンパク質のためのこれらの特有のサロゲートペプチドは、生体及び非生体マトリックスの全てのタイプにおける、農業用途、生物学的同等性試験、バイオマーカー、診断、発見、食品、環境、治療モニタリングを含む多数の用途のために、MRMアッセイと組み合わせて使用され得る。本発明のいくつかの態様において、本発明の1つ又は複数の標識サロゲートペプチドを含むアッセイカセットが提供され、これは、本発明の任意の1つ又は複数の標的タンパク質の同時及び選択的な検出又は定量化を可能にする。
【0013】
本発明は、作物植物からの生体サンプルなどの複合生体マトリックスにおいて、標的HPPDタンパク質を選択的に検出又は定量化するための方法も提供する。このような方法は、作物植物からのサンプル、例えば、葉、種子又は子実、花粉又は根からのサンプルを得るステップと、植物サンプルからタンパク質を抽出するステップと、抽出物中の不溶性タンパク質の量を低減することによって標的タンパク質プールを濃縮するステップと、選択された酵素、例えばトリプシンを用いて抽出物中の可溶性タンパク質を消化して、ペプチド断片を含む抽出物をもたらすステップであって、ペプチド断片が各標的タンパク質に特異的な少なくとも1つのサロゲートペプチドを含むステップと、標的タンパク質を特異的に検出するSILペプチドのアッセイカセットを添加するステップであって、各標識サロゲートペプチドが、標的タンパク質の各サロゲートペプチドと同じアミノ酸配列を有し、添加される標識サロゲートペプチドの数が、混合物中の標的タンパク質の数に等しいステップと、混合物中の非サロゲートペプチドの量を低減することによって、サロゲートペプチド及び標識サロゲートペプチドを濃縮するステップと、液体クロマトグラフィを用いてペプチド断片混合物を分離するステップと、質量分析を用いてペプチド断片混合物を分析するステップであって、標識サロゲートペプチドの遷移イオン断片の検出が、サロゲートペプチドが由来する標的タンパク質の存在を示すステップと、任意に、遷移イオン断片から発生された質量分析シグナルと、標識サロゲートペプチドの遷移イオンにより発生された質量分析シグナルとを比較することによって、生体サンプル中の標的タンパク質の量を計算するステップとを含む。本発明のタンパク質に由来するSILサロゲートペプチドはそれぞれ、質量分析ベースの多重反応モニタリング(MRM)アッセイの間に、特有の遷移イオンを有する。したがって、これらのペプチドは、異なる度合いのイオン化をもたらす衝突エネルギーのわずかな変化のために、選択的なMSイオンを発生し得る。例えば、トリプル四重極MSを使用して、ペプチド特異的な高m/zイオンを生成することができる。結果として、本発明の方法は選択的利点を提供し、当該技術分野において知られているかもしれない、より低m/zの高強度イオンマーカーの使用と比べて、内因性バックグラウンドを低下させることができる。
【0014】
本発明はさらに、標的タンパク質のハイスループット検出又は定量化のためのシステムを提供する。このようなシステムは、標的タンパク質に特異的である予め設計された標識サロゲートペプチドのカセットと、1つ又は複数の質量分析計とを含む。
【0015】
本発明の種々の目的、特徴、態様、及び利点は、添付の図面及び配列表と共に、本発明の好ましい実施形態の以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0016】
配列の簡単な説明
配列番号1は、大麦、イネ、大豆、小麦及びオート麦中のHPPDタンパク質の選択的な検出及び定量化のための安定同位体標識サロゲートペプチドのアミノ酸配列である。
【0017】
配列番号2は、トウモロコシ中のHPPDタンパク質の選択的な検出及び定量化のための安定同位体標識サロゲートペプチドのアミノ酸配列である。
【0018】
詳細な説明
この説明は、本発明が実施され得る種々の方法の全て、又は本発明に追加され得る特徴の全ての詳細な一覧であることを意図しない。例えば、1つの実施形態に関して説明される特徴を他の実施形態に組み込むことができ、特定の実施形態に関して説明される特徴をその実施形態から削除することができる。したがって、本発明は、本発明のいくつかの実施形態において、本明細書に記載される任意の特徴又は特徴の組合わせが排除又は省略され得ることを企図する。さらに、本明細書で示唆される種々の実施形態に対する多数の変化及び追加は、本開示に照らして当業者には明らかであり、本発明から逸脱するものではない。そのため、以下の記載は本発明のいくつかの特定の実施形態を説明することが意図され、それらの置換、組合わせ及び変化の全てを徹底的に特定することは意図されない。
【0019】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての科学技術用途は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書中の本発明の記載において使用される用語法は、特定の実施形態のみを説明するためのものであって、本発明の限定は意図されない。本明細書で使用される用語法は特定の実施形態のみを説明するためのものであって、本発明の範囲を限定することは意図されないことも理解されるべきである。本発明に関連する一般的な参考文献には、Alwine et al.(1977)Proc.Nat.Acad.Sci.74:5350-54;Baldwin(2004)Mol.Cell.Proteomics 3(1):1-9;Can and Annan(1997)Overview of peptide and protein analysis by mass spectrometry.In:Current Protocols in Molecular Biology,Ausubel,et al.編 New York:Wiley,p.10.21.1-10.21.27;Chang et al.(2000)Plant Physiol.122(2):295-317;Domon and Aebersold(2006)Science 312(5771):212-17;Nain et al.(2005)Plant Mol.Biol.Rep.23:59-65;Patterson(1998)Protein identification and characterization by mass spectrometry.In:Current Protocols in Molecular Biology,Ausubel,et al.編 New York:Wiley,p.10.22.1-10.22.24;Paterson and Aebersold(1995)Electrophoresis 16:1791-1814;Rajagopal and Ahern(2001)Science 294(5551):2571-73;Sesikeran and Vasanthi(2008)Asia Pac.J.Clin.Nutr.17 Suppl.1:241-44;及びToplak et al.(2004)Plant Mol.Biol.Rep.22:237-50が含まれる。
【0020】
定義
本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、1つ又は2つ以上を意味することができる。したがって、例えば、「植物」への言及は、単一の植物又は複数の植物を意味することができる。
【0021】
本明細書で使用される場合、「及び/又は」は、関連の記載事項の1つ又は複数の任意及び全ての可能な組合わせ、並びに代替の「又は」で解釈される場合には組合わせの欠如を指し、これらを包含する。
【0022】
「約」という用語は、本明細書では、およそ、大体、ほぼ、又は辺りを意味するために使用される。「約」という用語が数値の範囲と共に使用される場合、記載されるその数値よりも上及び下に境界を広げることによってその範囲は修正される。一般に、「約」という用語は、本明細書では、20パーセント、好ましくは10パーセント上方又は下方の(より高い又はより低い)変動によって、数値を記載される値よりも上及び下に修正するために使用される。温度に関しては、「約」という用語は、±1℃、好ましくは±0.5℃を意味する。本発明の文脈において(例えば、温度又は分子量の値と組み合わせて)「約」という用語が使用される場合、正確な値(すなわち、「約」を伴わない)が好ましい。
【0023】
「含む(comprises)」及び/又は「含む(comprising)」という用語は、本明細書中で使用される場合、記載される特徴、整数、ステップ、操作、要素、及び/又は成分の存在を特定するが、1つ又は複数の他の特徴、整数、ステップ、操作、要素、成分、及び/又はこれらの群の存在又は追加を除外しない。
【0024】
本明細書で使用される場合、移行句「から本質的になる(consisting essentially of)」(及び文法的な変形)は、特許請求の範囲が、特許請求の範囲に記載される特定の材料又はステップと、特許請求される本発明の「基本的及び新規の特徴を実質的に変更しないもの」とを包含すると解釈されるべきであることを意味する。したがって、「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語は、本発明の特許請求の範囲で使用される場合、「含む(comprising)」と等価であると解釈されることは意図されない。
【0025】
本明細書で使用される場合、トランスジェニック「イベント」という用語は、異種DNA、例えば、対象の遺伝子を含む発現カセットによる単一の植物細胞の形質転換及び再生により産生された組換え植物を指す。「イベント」という用語は、異種DNAを含む元の形質転換体及び/又は形質転換体の子孫を指す。「イベント」という用語は、形質転換体と別のコーン系統との間の有性外交配(sexual outcross)によって生じる子孫も指す。反復親に対して戻し交配を繰り返した後でも、形質転換親からの挿入DNA及び隣接DNAは、同じ染色体位置において交配の子孫に存在する。通常、植物組織の形質転換は複数のイベントを生じ、そのそれぞれは、植物細胞のゲノムの異なる位置へのDNA構築物の挿入を表す。導入遺伝子又は他の望ましい特徴の発現に基づいて、特定のイベントが選択される。本発明のこのようなトランスジェニックイベントの非限定的な例としては、cry1Ab及びpat遺伝子を含み、米国特許第6114608号明細書に記載される「イベントBt11」(「Bt11イベント」又は単に「Bt11」ともいう)、eCry3.1Ab及びPMI遺伝子を含み、米国特許第8466346号明細書に記載される「イベント5307」(「5307イベント」又は単に「5307」ともいう)、mCry3A及びPMI遺伝子を含み、米国特許第7361813号明細書に記載される「イベントMIR604」(「MIR604イベント」又は単に「MIR604」ともいう)、Vip3A及びPMI遺伝子を含み、米国特許第8232456号明細書に記載される「イベントMIR162」(「イベントMIR162」又は単に「MIR162」ともいう)、dmEPSPS遺伝子を含み、米国特許第6566587号明細書に記載される「イベントGA21」(「GA21イベント」又は単に「GA21」ともいう)、アルファ-アミラーゼ797E及びPMI遺伝子を含み、米国特許第7635799号明細書に記載される「イベント3272」(「3272イベント」又は単に「3272」ともいう)、Cry1Abを含み、米国特許第6713259号明細書に記載される「イベントMON810」(「MON810イベント」又は単に「MON810」ともいう)、Cry1A.105及びCry2Ab遺伝子を含み、米国特許第8062840号明細書に記載される「イベントMON89034」(「MON89034イベント」又は単に「MON89034」ともいう)、Cry1F及びPAT遺伝子を含み、米国特許第7288643号明細書に記載される「イベントTC1507」(「TC1507イベント」又は単に「TC1507」ともいう)、Cry34/Cry35及びPAT遺伝子を含み、米国特許第7323556号明細書に記載される「イベントDAS59122」(「DAS59122イベント」又は単に「DAS59122」ともいう)、並びにCry1F、Cry34/Cry35及びPAT遺伝子を含み、米国特許第9790561号明細書に記載される「イベントDP4114」(「DP4114イベント」又は単に「DP4114」ともいう)が挙げられる。
【0026】
「単離された」核酸分子、ポリヌクレオチド又は毒素という用語は、もはやその天然環境に存在しない核酸分子、ポリヌクレオチド又は毒性タンパク質である。本発明の単離された核酸分子、ポリヌクレオチド又は毒素は精製形態で存在してもよいし、或いはトランスジェニック細菌細胞又はトランスジェニック植物などの組換え宿主中に存在してもよい。
【0027】
本明細書で使用される場合、「質量分析」という一般的な用語は、例えば、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)MS、MALDI-飛行時間型(TOF)MS、大気圧(AP)MALDI MS、真空MALDI MS、タンデムMS、又はこれらの任意の組合わせを含む、任意の適切な質量分析方法、装置又は配置を指す。質量分析装置は、一連の磁場及び電場を通して分子の飛行経路を測定することによって、分子の分子質量(分子の質量対電荷比に応じて)を測定する。質量対電荷比は、帯電粒子の電気力学において広く使用される物理量である。特定のペプチドの質量対電荷比は、当業者により先験的に計算することができる。異なる質量対電荷比を有する2つの粒子は、同じ電場及び磁場にさらされたときに真空中で同じ経路で移動することはない。本発明は、とりわけ、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)と、その後のペプチドタンデムMS分析との使用を含む。「タンデム質量分析」において、サロゲートペプチドはMS機器で選別され、サロゲートペプチドは続いて断片化されて1つ又は複数の「遷移イオン」を生じることができ、これは、第2のMS手順において分析(検出及び/又は定量化)される。
【0028】
質量分析の方法論及び装置の詳細な概説は、参照によって本明細書に援用される以下の参考文献において見出すことができる:Can and Annan(1997)Overview of peptide and protein analysis by mass spectrometry.In:Current Protocols in Molecular Biology,Ausubel,et al.編 New York:Wiley,p.10.21.1-10.21.27;Paterson and Aebersold(1995)Electrophoresis 16:1791-1814;Patterson(1998)Protein identification and characterization by mass spectrometry.In:Current Protocols in Molecular Biology,Ausubel,et al.編 New York:Wiley,p.10.22.1-10.22.24;及びDomon and Aebersold(2006)Science 312(5771):212-17。
【0029】
ペプチドは、アルファ-アミノ酸の規定の順番での連結から形成される短いポリマーである。またペプチドは、プロテアーゼによるポリペプチド、例えばタンパク質の消化によって生成され得る。
【0030】
「植物」は、任意の発達段階の任意の植物であり、特に種子植物である。
【0031】
「植物細胞」は、プロトプラスト及び細胞壁を含む、植物の構造的及び生理学的な単位である。植物細胞は、単離された単一の細胞又は培養された細胞の形態であってもよいし、或いは、例えば、植物組織、植物器官、又は植物全体などの高度に組織化された単位の一部としてであってもよい。
【0032】
「植物細胞培養物」は、種々の発達段階における、例えば、プロトプラスト、細胞培養細胞、植物組織中の細胞、花粉、花粉管、胚珠、胚嚢、接合体及び胚などの植物単位の培養物を意味する。
【0033】
「植物材料」は、葉、茎、根、花若しくは花部分、果実、花粉、卵細胞、接合体、種子、挿し木、細胞若しくは組織培養物、又は植物の任意の他の部分若しくは生成物を指す。
【0034】
「植物器官」は、根、茎、葉、つぼみ、又は胚などの、明確に且つ視覚的に構造化及び分化した植物の部分である。
【0035】
本明細書で使用される「植物組織」は、構造的及び機能的な単位に組織化された植物細胞の群を意味する。植物体又は培養物中の植物の任意の組織が含まれる。この用語には、植物全体、植物器官、植物種子、組織培養物、並びに構造的及び/又は機能的な単位に組織化された植物細胞の任意の群が含まれるが、これらに限定されない。上記に記載されるか又は他にこの定義に包含される任意の特定のタイプの植物組織と併用した、又は併用しないこの用語の使用は、任意の他のタイプの植物組織を除外することは意図されない。
【0036】
本明細書で使用される場合、「サロゲートペプチド」という用語は、タンパク質消化、例えばトリプシン消化によって標的タンパク質から誘導され、質量分析アッセイにおいて、1つ又は複数の遷移イオンを生成する機能を果たすペプチドを指し、遷移イオンは、サロゲートペプチドと共同して、標的タンパク質が作物植物からのサンプルなどの複合生体マトリックスにおいて1つ又は複数の他のタンパク質及び/又はトランスジェニックタンパク質の存在下にある場合に、標的タンパク質を差別的に検出及び/又は定量化し、そして生体マトリックス中の1つ又は複数の他のタンパク質又はトランスジェニックタンパク質を検出及び/又は定量化しない。「サロゲートペプチド」は、標的タンパク質の「シグネチャーペプチド」と呼ばれることもある。例えば、本発明のHPPDサロゲートペプチドは1つ又は複数の遷移イオンを生成し、これは、HPPD-サロゲートペプチドと共同して、HPPDタンパク質が1つ又は複数の非HPPDタンパク質の存在下にある場合に、複合生体マトリックス中の標的HPPDタンパク質を差別的に検出及び/又は定量化する。本発明の実施形態によると、複合生体マトリックス中の2つ以上の標的タンパク質を検出及び/又は定量化するために、本発明の2つ以上の標識サロゲートペプチドは、質量分析アッセイにおいて同時に使用され得る。
【0037】
「標識サロゲートペプチド」は、質量分析アッセイにおいてサロゲートペプチドを検出しやすくするために標識化された天然に存在しないサロゲートペプチドである。例えば、標識は、リジン、イソロイシン、バリン又はアルギニンなどの安定同位体標識アミノ酸(SIL)であり得る。したがって、SIL標識サロゲートペプチドは、サロゲートペプチドのアミノ酸の1つ又は複数が重同位体によって標識化されていることを除いて、非標識サロゲートペプチドと同じアミノ酸配列を有する。例えば、本明細書に記載されるように、サロゲートペプチドGNFSELFK(配列番号1)は重リジン(K)によって標識化されており、GNFSELFK[C13N15-K]と呼ぶことができる、などである。
【0038】
本明細書で使用される場合、「スタックされた」又は「スタッキング」という用語は、植物のゲノム中に取り込まれた複数の異種ポリヌクレオチド又はトランスジェニックタンパク質又はトランスジェニックイベントの存在を指す。
【0039】
本明細書で使用される「標的タンパク質」は、標的タンパク質が複合生体マトリックス中にあるときに、標識サロゲートペプチドによって選択的に検出及び/又は定量化されることが意図されるタンパク質を意味する。
【0040】
ヌクレオチドは本明細書では以下の標準的な略語によって示される:アデニン(A)、シトシン(C)、チミン(T)、及びグアニン(G)。アミノ酸は同様に以下の標準的な略語によって示される:アラニン(Ala;A)、アルギニン(Arg;R)、アスパラギン(Asn;N)、アスパラギン酸(Asp;D)、システイン(Cys;C)、グルタミン(Gln;Q)、グルタミン酸(Glu;E)、グリシン(Gly;G)、ヒスチジン(His;H)、イソロイシン(Ile;1)、ロイシン(Leu;L)、リジン(Lys;K)、メチオニン(Met;M)、フェニルアラニン(Phe;F)、プロリン(Pro;P)、セリン(Ser;S)、スレオニン(Thr;T)、トリプトファン(Trp;W)、チロシン(Tyr;Y)、及びバリン(Val;V)。
【0041】
本発明は、それぞれが質量分析アッセイの結果に異なる影響を与え得る、標的及び非標的タンパク質の混合物を含む作物植物に由来する複合生体サンプル、例えば、1つ又は複数の作物植物の葉、茎、根、花粉及び種子からの生体サンプルにおいて、1つ又は複数の標的HPPDタンパク質の差別的な検出及び/又は定量化のために質量分析を実行するのに有用な組成物、方法及びシステムを包含する。
【0042】
質量分析多重反応モニタリングアッセイ(MRM)による標的タンパク質の定量化の精度は、適切なサロゲートペプチドの選択と、サロゲートペプチド/遷移イオンの組合わせが標的タンパク質を区別する能力とに完全に依存する。本発明のサロゲートペプチドの多数の異なる組合わせは、HPPDタンパク質からの特異的なペプチドのうちの1つ又は複数を用いるMRMアッセイによって同時にモニター及び定量化することができ、したがって、所与の生体サンプル内の標的HPPDタンパク質のそれぞれを質量分析によって同定及び定量化する手段を提供する。カセットを構成する利用可能なサロゲートペプチドは、単一のMRMアッセイにおいて単独又は任意の組合わせで分析されてもよいし、或いは複数のMRMアッセイにおいて分析されてもよい。
【0043】
本発明のサロゲートペプチドは、MRMベースのアッセイと併用して、異なる成長段階において発現レベルを決定するため、環境リスク評価のための潜在的な曝露レベルを決定するため、食品加工において異なるレベルの標的タンパク質を決定するため、比較研究において発現レベルを決定するため、そして世代研究において発現レベルを比較するための定量的ペプチド/タンパク質分析を含む、多数の用途を有する。最も広い意味では、標的タンパク質のこれらの特有のサロゲートペプチドは、MRMアッセイと併用して、特定の組織(すなわち、葉、根、穀粒、花粉)内の作物植物又はトランスジェニックイベント、又は複数のトランスジェニックイベントの育種スタックのいずれかであり得る、除草耐性形質をモニター又は定量化するために使用され得る。
【0044】
MRMベースのアッセイは、HPPDタンパク質からの特異的なサロゲートペプチドの相対レベル又は絶対レベルのいずれかを定量化又は測定し得る。これらのタンパク質の相対的な定量レベルは、シグネチャーピーク面積を互いに比較することによってMRMアッセイにより決定することができる。個々のHPPDサロゲートペプチドの相対レベルは、異なるサンプル又は組織タイプから定量化することができる。一般に、相対的な定量レベルは、各標的サロゲートペプチドに対する内部標準として安定同位体標識(SIL)合成ペプチド類似体を用いるMRM測定においてペプチド存在量を比較することによって決定される。当該技術分野において通常教示されることに反して、SILペプチドは[13C6
15N2]リジン又は[13C6
15N4]アルギニンの取込みによって標識化されるが、イソロイシン及びバリンなどの他のアミノ酸を含むこともできる。SIL標準物は高純度を有することが必要であり、アミノ酸分析によって定量的に標準化されなければならない。当該技術分野において通常教示されることに反して、本発明のSILはタンパク質消化の直後にサンプル中に添加され、したがって、その後の分析ステップを補正する働きをする。SILは液体クロマトグラフィ分離において非標識サロゲートペプチドと共溶出し、同一のMS/MS断片化パターンを示すが、同位体標識化のために質量のみが異なる。標識サロゲートペプチド及び生成物イオンの両方において結果として生じるこの質量シフトにより、質量分析計は非標識ペプチド及び標識ペプチドを区別することができる。複雑なペプチド消化は、標的ペプチドと間違えられる可能性のある共溶出遷移物の複数のセットを含有することが多いので、同位体標識された標準物の共溶出により、正しいシグナルが同定され、偽陽性の定量化からの最良の防御が提供される。既知の濃度の添加SIL標準物が各サンプルに添加されるので、HPPDタンパク質について、異なる標的タンパク質からの対応するサロゲートペプチドのそれぞれの定量的な相対量が決定され得る。個々のペプチド(単数又は複数)の相対的な定量化は、サンプル内又はサンプル間で、別のペプチド(単数又は複数)の量に対して実施され得るので、ピーク面積が生体サンプル内で互いに関連しているかどうかを決定することによって、存在するペプチドの相対量を決定することが可能である。異なるサンプル間の個々のシグネチャーピーク面積から得られる相対的な定量データは、通常、サンプルごとに分析されるタンパク質の量に対して正規化される。相対的な定量化は、単一のサンプル中で同時に複数のタンパク質からの多数のペプチドにわたって、及び/又は他のペプチド/タンパク質に関する1つのペプチド/タンパク質の相対的なタンパク質量へのさらなる洞察を得るために多数のサンプルにわたって実施することができる。
【0045】
HPPDについての絶対的な定量レベルは、1つの生体サンプル中の対応するタンパク質からの個々のサロゲートペプチドのシグネチャーピーク面積を、サンプル中の既知の量の1つ又は複数の内部標準と比較することによってMRMベースのアッセイにより決定することができる。これは、標的タンパク質を含有しない負の対照マトリックスに、既知の濃度のこれらのタンパク質を添加することによって達成され得る。多重反応モニタリング(MRM)アッセイは、正確な添加濃度の標的タンパク質を有する非標的サンプルを秤量し;サンプルを溶解緩衝液中に抽出及び均質化し;サンプルを遠心分離して、可溶性及び不溶性タンパク質を濃縮するために分離して、抽出の複雑さを低減し;可溶性タンパク質サンプルをトリプシンで消化し(組織又は生体サンプルは、トリプシン、キモトリプシン、ペプシン、エンドプロテアーゼAsp-N及びLys-Cを含むがこれらに限定されない1つ又は複数のプロテアーゼによって、サンプルを十分に消化する時間の間、処理され得る);サンプルを遠心分離し、固定濃度のSILペプチド(絶対的な定量化においてSILは指標として使用される)を添加し;カチオン交換を利用する固相抽出によって脱塩して、マトリックス効果又は干渉を最小限にし、イオン抑制を低減し;そしてタンデム質量分析に連結された液体クロマトグラフィによってサンプルを分析することを含む。通常、イオントラップ質量分析計、又は単一の複合タンパク質/ペプチドライセートからできるだけ多くのペプチドを同定するための包括的なプロファイリングを実施することができる別の形態の質量分析計が、通常、分析のために実施される。MRMベースのアッセイは任意のタイプの質量分析計において構築及び実施することができるが、MRMアッセイのための最も有利な機器プラットフォームは、トリプル四重極機器プラットフォームであると考えられることが多い。7つのタンパク質に特有の対象のサロゲートペプチド及びSILは、LC-MS/MSによって測定される。ピーク面積比(サロゲートペプチドのピーク面積/対応するSILペプチドのピーク面積)は、対象の各ペプチドに対して決定される。対象の7つのタンパク質の濃度は、ピーク面積比を用いて較正曲線から逆に計算される。絶対的な定量化は、多数のペプチドにわたって(これは、単一のサンプルにおいて同時に複数のタンパク質の定量的決定を可能する)、及び/又は個々の生体サンプル又は大きいサンプルセットにおける絶対的なタンパク質量への洞察を得るために複数のサンプルにわたって実施することができる。
【0046】
いくつかの実施形態において、本発明は、1つ又は複数の作物植物からの1つ又は複数の生体サンプル中のタンパク質の混合物において、p-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ(HPPD)タンパク質を質量分析アッセイで選択的に検出又は定量化する機能を果たす標識サロゲートペプチドを包含し、サロゲートペプチドは、標識と、GNFSELFK(配列番号1)及びGNFSQLFK(配列番号2)からなる群から選択されるアミノ酸配列とを含む。いくつかの態様では、標識サロゲートペプチドは、安定同位体標識(SIL)アミノ酸の取込みによって標識化される。他の態様では、SILアミノ酸は、リジン、イソロイシン、バリン又はアルギニンである。他の態様では、作物植物は、大麦、イネ、大豆、小麦、オート麦又はトウモロコシである。さらに他の態様では、作物植物は大麦、イネ、大豆、小麦又はイネであり、サロゲートペプチドは、標識及び配列番号1のアミノ酸配列を含む。さらに他の態様では、作物植物はトウモロコシであり、サロゲートペプチドは、標識及び配列番号2のアミノ酸配列を含む。
【0047】
いくつかの実施形態において、本発明は、GNFSELFK(配列番号1)及びGNFSQLFK(配列番号2)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む少なくとも2つの標識サロゲートペプチドを含むアッセイカセットを包含する。
【0048】
いくつかの実施形態において、本発明は、標的タンパク質及び非標的タンパク質の混合物を含む作物植物からの複合生体サンプル中の1つ又は複数の標的HPPDタンパク質を同時に検出又は定量化する方法を包含し、本方法は、(a)作物植物から生体サンプルを得るステップと、(b)生体サンプルからタンパク質を抽出し、タンパク質の混合物を含む抽出物をもたらすステップと、(c)ステップbの抽出物中の不溶性タンパク質の量を低減し、濃縮可溶性タンパク質の抽出物をもたらすステップと、(d)ステップcの抽出物中の可溶性タンパク質を消化して、ペプチド断片を含む抽出物をもたらすステップであって、ペプチド断片が、標的タンパク質に特異的な少なくとも1つのサロゲートペプチドを含む、ステップと、(e)ステップdの抽出物中のペプチド断片を濃縮するステップと、(f)本発明の1つ又は複数の標識サロゲートペプチドを添加するステップであって、各標識サロゲートペプチドが、標的タンパク質の各サロゲートペプチドと同じアミノ酸配列を有し、添加される標識サロゲートペプチドの数が、混合物中の標的タンパク質の数に等しい、ステップと、(g)混合物中の非サロゲートペプチドの量を低減することによって、サロゲートペプチド及び標識サロゲートペプチドを濃縮するステップと、(h)ステップgからのペプチド断片混合物を液体クロマトグラフィにより分離するステップと、(i)ステップhから得られたペプチド断片混合物を質量分析により分析するステップであって、標識サロゲートペプチドの遷移イオン断片の検出が、サロゲートペプチドが由来する標的タンパク質の存在を示す、ステップと、任意に、(j)ステップiの遷移イオン断片から発生された質量分析シグナルと、トランジションにより発生された質量分析シグナルとを比較することによって、生体サンプル中の標的タンパク質の量を計算するステップとを含む。いくつかの態様では、作物植物は大麦、イネ、大豆、小麦又はイネであり、サロゲートペプチドは、標識及び配列番号1のアミノ酸配列を含む。他の態様では、作物植物はトウモロコシであり、サロゲートペプチドは、標識及び配列番号2のアミノ酸配列を含む。他の態様では、ペプチドは、安定同位体標識(SIL)アミノ酸の取込みによって標識化される。さらに他の態様では、SILアミノ酸は、リジン、イソロイシン、バリン又はアルギニンである。
【0049】
例えば、Mead et al.2009.Mol.Cell.Proteomics 8:696-705及び米国特許第8,227,252号明細書など、当該技術分野の多数の参考文献が、どのサロゲートペプチドが任意の所与の標的タンパク質に最適であるかを予測する多数の異なる方法を示唆しており、多数の参考文献が、質量分析を用いて標的タンパク質を定量化する近道を示唆している。しかしながら、予測不能な因子が質量分析ベースのアッセイを妨げ、したがって、感度の損失及び不正確な定量化を引き起こし得るので、このような予測方法及び近道への依存は、混乱した結果をもたらし得る。少なくとも1つの主要な因子は生体マトリックス自体にある。例えば、作物植物からの葉、根、花粉及び種子からの生体サンプルと共に等しくうまく機能し得るサロゲートペプチドからの単一の遷移イオンを同定することは非常に予測不能であり、困難である。マトリックスの化学組成、pH、又はイオン強度の差異は、MS機器におけるタンパク質分解、ペプチド安定性、凝集、又はイオン化に影響を与え得る。したがって、関連のあるマトリックス、特に作物植物のものの全てにわたって、サロゲートペプチド及び特異的なサロゲートペプチド/遷移イオンの組合わせを同定及び実験的に試験することは、このようなアッセイの予測不能な性質を克服するために必須である。本発明は、標的タンパク質を特異的に検出及び/又は定量化するための質量分析アッセイの構築において、1)タンパク質分解的に切断された標的タンパク質から得られるペプチドのプールからサロゲートペプチドを試験及び選択し、SILサロゲートペプチド及び遷移イオンペプチドの組合わせを試験し、全ての生体マトリックス、例えば、作物植物の葉、根、花粉又は種子からの生体サンプルにわたって標的タンパク質を特異的に検出及び定量化する組合わせを選択することと、2)作物植物、特にコーン植物の葉、根、花粉及び種子を含む全ての生体マトリックス中の全てのサロゲートペプチド及びサロゲートペプチド/遷移イオンの組合わせのために役立つ、サンプル調製の適切な方法及び質量分析計の条件を実験的に決定することとを含む、2段階アプローチを使用する。
【0050】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、標的トランスジェニックタンパク質及び非トランスジェニックタンパク質の混合物を含むトランスジェニック植物からの複合生体サンプル中の1つ又は複数の標的タンパク質を同時に検出及び/又は定量化する方法を包含し、本方法は、以下のステップを含む:a)トランスジェニック植物から生体サンプルを得るステップ;b)生体サンプルからタンパク質を抽出し、タンパク質の混合物を含む抽出物をもたらすステップ;c)ステップbの抽出物中の非トランスジェニック不溶性タンパク質の量を低減し、濃縮可溶性タンパク質の抽出物をもたらすステップ;d)ステップcの抽出物中の可溶性タンパク質を消化して、ペプチド断片を含む抽出物をもたらすステップであって、ペプチド断片が、各標的タンパク質に特異的な少なくとも1つの非標識サロゲートペプチドを含むステップ;e)ステップdの抽出物中のペプチド断片を濃縮するステップ;f)本発明の1つ又は複数の標識サロゲートペプチドを添加するステップであって、各標識サロゲートペプチドが、標的タンパク質に由来する各非標識サロゲートペプチドと同じアミノ酸配列を有し、添加される標識サロゲートペプチドの数が、混合物中の標的タンパク質の数に等しいステップ;g)混合物中の非サロゲートペプチドの量を低減することによって、非標識サロゲートペプチド及び標識サロゲートペプチドを濃縮するステップ;h)ステップgからのペプチド断片混合物を液体クロマトグラフィにより分離するステップ;i)ステップhから得られたペプチド断片混合物を質量分析により分析するステップであって、非標識サロゲートペプチドの遷移イオン断片の検出が、サロゲートペプチドが由来する標的タンパク質の存在を示すステップ;並びに任意に、j)ステップiの遷移イオン断片から発生された質量分析シグナルと、標識サロゲートペプチドの遷移イオンにより発生された質量分析シグナルとを比較することによって、生体サンプル中の標的タンパク質の量を計算するステップ。
【0051】
以下の特定の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために含まれる。以下の実施例において開示される技術は本発明の実施においてうまく機能することが本発明者らにより発見された技術を表し、したがって、その実施のための好ましいモードを構成すると考えられ得ることは、当業者により認識されるべきである。しかしながら、当業者は本開示を考慮して、本発明の概念、趣旨及び範囲から逸脱することなく、開示された特定の実施形態において多数の変化がなされ、同様又は類似の結果を依然として得ることができることを認識するべきである。より具体的には、同じ又は類似の結果を達成しながら、本明細書に記載される薬剤の代わりに化学的にも生理学的にも関連する特定の薬剤が使用され得ることは認識されるであろう。当業者に明らかなこのような類似の置換及び修正は全て、添付の特許請求の範囲により定義されるような本発明の趣旨、範囲及び概念の範囲内であると見なされる。
【実施例】
【0052】
本発明はその特定の実施形態に関連して記載されたが、本発明のデバイスがさらに修正可能であることは理解されるであろう。本特許出願は、一般的に本発明の原理に従い、且つ、本発明が関連する技術分野内の既知又は通例の実施の範囲内に入るような、そして上記で本明細書中に示される本質的な特徴に適用され得るような、そして添付の特許請求の範囲に従うような本開示からのこのような逸脱を含む、本発明のあらゆる変化、使用、又は適応を包含することが意図される。
【0053】
本明細書中で言及される全ての刊行物及び特許出願は、本発明が関連する技術分野の当業者の技能のレベルを示すものである。全ての刊行物及び特許出願は、個々の刊行物又は特許出願がそれぞれ参照によって援用されると具体的及び個別に示されているのと同程度まで参照によって本明細書に援用される。
【0054】
実施例1.質量分析アッセイを用いた農作物(Commodity Crop)商品中の内因性p-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼの定量化の検証
この研究の目的は、タンデム質量分析に連結された液体クロマトグラフィ(LC-MS/MS)を用いて種々の農作物(大麦、トウモロコシ、イネ、大豆、及び小麦種子、並びに大麦、トウモロコシ、オート麦、大豆及び小麦飼料)中のp-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ(HPPD)タンパク質を定量化するための質量分析(MS)ベースの方法を検証することであった。HPPDタンパク質に特有のサロゲートペプチドを使用して相対濃度を決定した。研究において定量的方法を実行する前に、グッド・ラボラトリー・プラクティス・スタンダード(Good Laboratory Practice Standards)(GLPS)に従って、目的の用途のために方法を検証した。農作物サンプルを使用して、特異性、直線性、定量限界、キャリーオーバー、精度及び正確度、抽出効率、並びに安定性を含む、方法性能パラメータを評価した。
【0055】
特異性の評価は、試験した農作物サンプルのいずれにおいても、非標識ペプチド(ブランクと緩衝液との間で2つのトランジションの平均比の差が30.0%未満)及び安定同位体標識(SIL)ペプチド(QC0(内因性)のSILシグナルの5.0%以下)の保持時間に有意な干渉を示さなかった。全ての特異性パラメータは承認基準を満たした。
【0056】
標的HPPDタンパク質のサロゲートとして使用される各シグネチャーペプチドの定量下限(LLOQ)を決定した。定量限界は、大麦種子については0.209μg/g乾燥重量(DW)、トウモロコシ種子については0.122μg/gDW、イネ種子については0.083μg/gDW、大豆種子については0.686μg/gDW、小麦種子については0.301μg/gDW、大麦飼料については0.524μg/gDW、トウモロコシ飼料については0.326μg/gDW、オート麦飼料については0.660μg/gDW、大豆飼料については1.001μg/gDW、そして小麦飼料については0.640μg/gDWであった。
【0057】
各農作物について検証されたHPPDの定量的範囲(LLOQ及び定量上限(ULOQ))は、表1に要約される。
【0058】
【0059】
アッセイ内及びアッセイ間CVは、QC0サンプルについては25.0%以下であり、3つの濃度(低、中及び高)の品質管理(QC)サンプルについては20.0%以下であり、良好な方法精度が示された。同様に、アッセイ内及びアッセイ間バイアス%は、低、中及び高QCサンプルについて±20.0%の範囲内であり、良好な方法正確度が示された。したがって、全ての方法精度及び正確度パラメータは承認基準を満たした。方法のアッセイ内及びアッセイ間精度及び正確度は表2に要約される。
【0060】
【0061】
濃度/検出器応答の関係を表すために、1/xのデータ重み付けを有する一次方程式を使用した。したがって、確立されたデータの全てが承認基準の範囲内に入り、直線性評価に適していることが見出された。
【0062】
タンパク質抽出方法の効率は、大麦種子については59.9%、トウモロコシ種子については69.8%、イネ種子については73.9%、大豆種子については64.9%、小麦種子については54.3%、大麦飼料については69.8%、トウモロコシ飼料については76.3%、オート麦飼料については78.4%、大豆飼料については65.4%、及び小麦飼料については77.2%であった。1回目の抽出ラウンドのCVは、小麦種子(27.5%CV)を除く全ての農作物について20.0%よりも低かった。しかしながら、単回抽出から得られる小麦種子の精度及び正確度結果(QC0)は、20.0%以下の精度が達成されたことを実証する。
【0063】
加工安定性(乾燥抽出物)を-20℃で6日間評価した。安定性評価は承認基準を満たした。CVは25.0%以下であり、安定性QCとDay0QCとの間のピーク面積比の差%は、全ての農作物について±25.0%の範囲内であった。
【0064】
大麦及び小麦種子の最終抽出%(それぞれ、8.2及び6.2%)並びに小麦種子の1回目の抽出ラウンドの精度(27.5%CV)を除いて、評価した全ての性能パラメータは、定義された承認基準を満たした。サンプル分析におけるHPPDの濃度は、単回抽出(1回目のラウンド)から決定され、抽出効率%に対して調整され得るので、そして精度及び正確度ランにおいて小麦種子について20.0%以下の精度が達成されたので、研究の結果に対する影響は全くない。この研究の結果に基づいて、質量分析ベースの方法は、GLPSに従う農作物中のHPPDタンパク質の定量化に適していることが確認された。
【0065】
この研究の目的は、タンデム質量分析に連結された液体クロマトグラフィ(LC-MS/MS)分析を用いて種々の農作物(大麦、トウモロコシ、イネ、大豆、及び小麦種子、並びに大麦、トウモロコシ、オート麦、大豆及び小麦飼料)中のp-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ(HPPD)タンパク質を定量化するための質量分析(MS)ベースの方法を検証することであった。HPPDタンパク質に特有のサロゲートペプチドを使用して、種々の植物種/マトリックスにおける相対濃度を決定した(表3)。研究において定量的方法を実行する前に、グッド・ラボラトリー・プラクティス・スタンダード(GLPS)に従って、目的の用途のために方法を検証した。農作物サンプルを使用して、特異性、直線性、定量限界、キャリーオーバー、精度及び正確度、抽出効率、並びに安定性を含む、方法性能パラメータを評価した。
【0066】
【0067】
この研究のための農作物材料は種々の植物種からのマトリックスであり、直線性サンプル及び品質管理(QC)サンプルを調製するために使用した。表4は、マトリックス材料の原料を特定する。これらのサンプルはスポンサーによって提供され、使用するまで-80℃±10℃の公称温度で貯蔵された。
【0068】
【0069】
標準物及びQCサンプル
直線性評価のために、リバースカーブを作成した。LLOQ(STD1)及びULOQ(STD8)STDの両方を含む、種々の濃度でSILペプチドを強化した農作物抽出物を用いて、一連の8つの非ゼロ標準物(STD)を調製した。
【0070】
3つの異なる濃度(低、中及び高)で非標識ペプチドを強化した農作物抽出物を用いて、QCサンプルを調製した。表5及び表6は公称濃度を示す。
【0071】
【0072】
【0073】
合成ペプチド
この研究で使用された精製及び定量化SIL及び非標識合成ペプチドは、表7に記載される。合成ペプチドは、JPT Peptide Technologies GmbHによって供給され、使用するまで-20℃の公称温度で貯蔵された。
【0074】
【0075】
分析方法
以下の実験及びデータ評価ステップは、農作物中のHPPDタンパク質の量を決定するためのLC-MS/MSベースの方法の検証プロセスに関与した。簡単に言えば、複合生体マトリックス中のHPPDのサロゲートペプチドを同定及び定量化するためのLC-MS/MS法は、(i)凍結乾燥した農作物を秤量し;(ii)溶解緩衝液中で植物種/マトリックスサンプルからタンパク質を均質化/抽出し;(iii)対象のタンパク質を濃縮し、サンプルの複雑さを低減するために、サンプルを遠心分離して可溶性及び不溶性タンパク質を分離し;(iv)可溶性タンパク質サンプルをトリプシンで消化し;(v)サンプルを遠心分離し;(vi)SILペプチド(評価に応じて固定又は可変)を添加し;(vii)カチオン交換を利用して固相抽出により脱塩して、マトリックス効果又は干渉を最小限にし、イオン抑制を低減し;そして(viii)LC-MS/MSによりサンプルを分析することを含む。各農作物についてHPPDタンパク質に特有である対象のサロゲートペプチド及び対応するSILペプチドをLC-MS/MSにより測定した。MultiQuant(商標)ソフトウェア、バージョン3.0.2を用いてデータを分析し、各サロゲートペプチド(非標識)及び対応する各SILペプチドのクロマトグラフピーク面積を各サンプルについて積分した。
【0076】
リバースカーブのために、各サロゲートペプチドに対してSILペプチドのピーク面積を決定した。次に、各サロゲートペプチドについて、各標準サンプルのSILペプチドのピーク面積を、タンパク質濃度(x軸)の関数としてy軸にプロットして、リバースカーブを作成した。
【0077】
QCサンプルについて、ピーク面積比(非標識ペプチドのピーク面積/対応するSILペプチドのピーク面積)を決定した。QCサンプルの非標識ペプチド濃度を以下のように計算した:
【数1】
【0078】
サンプル加工
10mg~18mgの間の各農作物を秤量し、Matrix A溶解ビーズ(MP Biomedicals)を含有する管に添加した。次に、各サンプル管に溶解緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中0.1%のRapiGest(商標)(Waters))を添加し、FastPrep(登録商標)-24 Homogenizer(MP Biomedicals)を用いて均質化した。次に、サンプルを4℃で遠心分離して、不溶性材料を除去した。上澄みを移し、プールし、表8に記載されるようにPBS中0.1%のRapiGest中に適宜希釈した。これらの希釈した農作物を、SILペプチド(標準物をもたらす)又は種々の濃度の非標識ペプチド(QCサンプルをもたらす)のいずれかで強化した。
【0079】
【0080】
加工した標準物及びQCサンプルのそれぞれについて、同量の2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE)を添加してタンパク質を変性させた後、100mMの重炭酸アンモニウムを含むTFEで10%に希釈し、0.1μg/μLのトリプシンを用いて37℃で14~18時間のインキュベーションにより消化した。消化の後、5%の最終ギ酸(FA)濃度でサンプルを酸性化し、ブランク及びキャリーオーバーブランクを除いて、検証評価に応じて可変又は固定濃度で各サンプルにSILペプチドを添加した。次に、混合モードのカチオン交換(MCX)μElutionプレートを用いて固相抽出によりサンプルを脱塩した。溶離液を集め、2つのMSプレートに移し、これを蒸発乾固させ、MS分析まで-20℃(公称)で貯蔵した。
【0081】
11μLの92.5/7.5水/アセトニトリル(ACN)+0.2%のFAを用いて加工サンプルを再可溶化させた後、音波処理し、ボルテックスし、遠心分離した。サンプルごとに8マイクロリットルの材料を、QTRAP 6500質量分析計(AB Sciex)に連結されたNanoAcquity超高速液体クロマトグラフィ(UPLC)(登録商標)(Waters)に注入した。HALO peptide ES-C18 50mmx0.5mm、2.7μmカラム(Canadian Life Science)を用いて、ペプチドの分離を達成した。使用したLCグラジエントは以下の表9に示される。流量は28.000μL/分であった。Turbo V MSソースを用いて、分析物を正イオンモードで測定した。Analyst(登録商標)バージョン1.6(AB Sciex)を用いてデータ収集を実施した。
【0082】
【0083】
サロゲートペプチド及び対応するSILペプチドは、HPPDタンパク質に特有である。MultiQuantバージョン3.0.2(AB Sciex)を用いて、各サロゲートペプチド(非標識)及び対応する各SILペプチドのクロマトグラフピーク面積を各サンプルについて積分した。
【0084】
リバースカーブのために、各サロゲートペプチドに対してSILペプチドのピーク面積を決定した。各標準サンプルのSILペプチドのピーク面積を、タンパク質濃度(x軸)の関数としてy軸にプロットして、リバースカーブを作成した。
【0085】
QCサンプルについて、ピーク面積比(非標識ペプチドのピーク面積/対応するSILペプチドのピーク面積)を決定した。QCサンプルの非標識ペプチド濃度を上記のように計算した。
【0086】
Microsoft Office Excel(登録商標)ソフトウェアを用いて、平均、標準偏差(SD)、及び変動係数(CV)の計算を実施した。平均、SD、及びCVの計算では四捨五入しない値を使用し、そして要約表において適切に四捨五入した。
【0087】
特異性
特異性は、サンプル中の種々の植物マトリックス成分の存在下で方法がサロゲートペプチドを測定及び識別する能力によって決定される。特異性は、HPPDタンパク質に特有の各サロゲートペプチドの有無をLC-MS/MSにより決定することによって測定される。
【0088】
以下に記載されるように全ての農作物抽出物において、非標識ペプチドについては定量(quantifier)及び確認(qualifier)トランジションを用い、SILペプチドについては定量トランジションのみを用いて、アッセイの特異性を評価した。
【0089】
非標識ペプチド
以下の分析を実施した:
非標識ペプチドを強化した消化ウシ血清アルブミン(BSA)緩衝液中でモニターされた2つのトランジション(定量/確認)の平均比(n=3)を、ブランク(n=3)に対して比較することにより、アッセイの特異性を評価した。ブランクは、SIL又は非標識ペプチドを添加せずに加工された検出可能な量の内因性HPPDタンパク質を有するマトリックスと考えられる。
【0090】
【0091】
以下の承認基準を用いて、非標識ペプチドの特異性評価の適合性を確認した:ブランクと緩衝液との間の差%が30.0%以内でなければならない。
【0092】
SILペプチド
以下の分析を実施した:
QC0(内因性、n=3)中のSILペプチド(定量トランジション)のピーク面積を、ブランク(n=3)に対して決定することによって、アッセイの特異性を評価した。ブランクは、SIL又は非標識ペプチドを添加せずに加工された検出可能な量の内因性HPPDタンパク質を有するマトリックスと考えられる。
【0093】
QC0(内因性)の%は、以下の式を用いて計算した:
【数3】
【0094】
以下の承認基準を用いて、SILペプチドの特異性評価の適合性を確認した:ブランクサンプル中の平均SILペプチドピーク面積は、QC0(内因性)サンプル中のSILペプチドの平均ピーク面積の5.0%以下でなければならない。
【0095】
直線性
直線性は、方法がサンプル中の分析物の量及び応答によって数学的に定義される結果を導く能力である。直線性は、方法の正確度に基づいて評価した。各植物種/マトリックス中のHPPDに対して、リバースカーブを定義する最も単純な回帰モデル、すなわち線形曲線フィットを使用した。相関係数(R値)を使用し、フィットの質に基づいてモデルを適用した。
【0096】
全てのペプチドに対して1/xのデータ重み付けを適用した。同じ回帰モデル及び同じデータ重み付けを各植物種/マトリックスの全てのアッセイランに適用した。
【0097】
以下のラン承認基準を用いて、直線性評価の適合性を確認した:(1)少なくとも75.0%の非ゼロ標準物が妥当でなければならず、LLOQ(この場合、偏差は25.0%を超えてはならない)を除いて、公称濃度の20.0%を超えて逸脱してはならない;(2)内挿曲線は、R≧0.9900を有さなければならない。
【0098】
定量限界
LLOQ及びULOQは、許容できる正確度の範囲内でサロゲートペプチドの応答を決定することができる最小及び最大濃度である。記載されるようなリバースカーブを用いて、各植物種/マトリックス中のサロゲートペプチドについてLLOQ及びULOQを決定した。
【0099】
以下の承認基準を用いて、LLOQ及びULOQ評価の適合性を確認した:LLOQ及びULOQ標準物は、上記で定義した正確度基準を満たさなければならない。
【0100】
HPPDの定量的範囲は、分析手順が適切なレベルの正確度及び直線性を有することが実証された、上限濃度と下限濃度の間の区間である(標準物の濃度については表5を参照)。この方法の直線性評価から得られたデータを用いて、各植物種/マトリックス中のHPPDについて定量的範囲を決定した。効果的な正確度の決定は、手順の定量的範囲として、試験した高濃度及び低濃度を検証した。
【0101】
キャリーオーバーは、その後の注入において分析物が存在する場合である。この研究では、各ULOQ標準物の後に注入される2つのブランクサンプルを評価することによって、キャリーオーバーは直線性評価の間に決定される。これらは、干渉を受けてはならない。全ての直線性ランに対して、以下のラン承認基準を適用してキャリーオーバーを評価した。ULOQ標準物の後に注入された第1のキャリーオーバーブランクサンプルを評価した。第2のキャリーオーバーブランクは、評価はしたが承認基準の一部ではなかった。ULOQ標準物の後に注入された第1のキャリーオーバーブランクサンプルの少なくとも50%は、SILペプチドの保持時間において以下に記載される許容できる干渉の範囲内でなければならない:ピーク面積は、LLOQ標準物のSILペプチドの平均ピーク面積の20.0%以下でなければならない。さらに、精度及び正確度並びに安定性評価において、再可溶化緩衝液(RSB)サンプルを分析して、高QCサンプルの注入後のキャリーオーバーを評価した。キャリーオーバーを評価するためのシーケンスは、高QCの後に、2つのRSBサンプルであった。
【0102】
ラン承認基準
検証の一部として、精度及び正確度並びに安定性ランは、ランの承認を実証するためにQCサンプルを包含した。上述のランが妥当であると考えられるためには、以下の基準が満たされなければならない。各植物種/マトリックスを承認基準に対して独立して試験した。
【0103】
QCサンプル
QCサンプルは、ランの承認又は拒否の根拠を提供する。QCサンプルは、サンプルマトリックスを既知の濃度の非標識ペプチドで強化することによって調製される。以下の承認基準を使用し、低QC(QC1)、中QC(QC2)、高QC(QC3)を用いてQCサンプルの適合性を確認した:(1)各濃度(低、中及び高)のQCサンプルの少なくとも50%は、±20.0%バイアスの範囲内でなければならない;(2)低、中及び高濃度にわたるQCサンプルの少なくとも67%は、その公称値の±20.0%バイアスの範囲内でなければならない。
【0104】
精度及び正確度
精度は、同種サンプルの多重サンプリングに対して手順が繰り返し適用される場合の個々の試験結果間の一致の度合いである。正確度は、同種サンプルの多重サンプリングに対して手順が繰り返し適用される場合の実測値と容認された基準値との間の一致の度合いである。この研究では、アッセイ間、及び分析者間のばらつきを評価することにより、LC-MS/MSアッセイについて各植物種/マトリックス中のHPPDタンパク質の精度及び正確度を決定した。
【0105】
方法の精度及び正確度は、QCサンプルを用いて評価した。3つの濃度(低、中及び高)のQCサンプルを用いて精度及び正確度アッセイを実施した(表5及び表6)。QCサンプルを農作物抽出物において調製し、非標識ペプチドで強化した。
【0106】
別々の3日において2人の異なる分析者により3つの独立したアッセイランにわたって、精度(CV)及び正確度(バイアス)を評価した。
【0107】
各精度及び正確度ランは、各QC濃度につき3回の複製から構成された。QC0(内因性)も包含させ、トリプリケートで分析した。
【0108】
【0109】
セクション0に記載されるラン承認基準を満たす精度及び正確度ランを用いて、アッセイ内精度及び正確度を評価した。次に、アッセイ内基準を満たす精度及び正確度ランを用いて、アッセイ間精度及び正確度を評価した。以下の承認基準を用いて、アッセイ内ラン及びアッセイ間ランの精度及び正確度評価の適合性を確認した:(1)QC0サンプルのCVは、25.0%以下でなければならない;(2)低、中、及び高濃度QCサンプルのCVは20.0%以下であり、且つ±20.0%バイアスの範囲内でなければならない。
【0110】
加えて、精度及び正確度ランのバッチサイズを見ることにより、研究サンプル分析のためのアッセイランの注入時間の最大長を確立した。研究サンプル分析のための注入時間の最大長を設定するために、最大バッチサイズを有する精度及び正確度ランを使用した。さらに、QC0(内因性)サンプルの傾向分析を実施した。
【0111】
抽出効率は、マトリックスから回収された対象のタンパク質(すなわち、HPPD)の量である。連続した逐次抽出によって抽出効率を決定した。最後のラウンドで5.0%以下の全タンパク質が回収されれば、抽出回収は最終であると考えられる。HPPDの反復抽出を通して農作物を用いてタンパク質抽出方法の効率を評価した。
【0112】
1人の分析者は各農作物の3回の複製を抽出した。不溶性材料を集め、さらに3回抽出し、各上澄みを分析のために保持した。
【0113】
以下の式を用いて各サンプルの抽出効率を計算した:
【数5】
【0114】
以下の承認基準を用いて、各タンパク質の抽出効率の適合性を確認した:最終抽出結果が、全ての合わせた抽出物からの個々のタンパク質のそれぞれについて回収された材料全体の5.0%以下である場合に、逐次抽出は完了したと考えられるであろう:
【数6】
が5.0%未満である。
【0115】
抽出効率(1回目の反復の複製の平均)は60.0%以上の回収であることが予想され、1回目の抽出ラウンドの精度は、20.0%以下でなければならない。
【0116】
安定性
特定の条件下で所与の時間間隔にわたって所与の植物種/マトリックス中のHPPDタンパク質の安定性を評価した。加工サンプル中のサロゲートペプチドについて、各植物種/マトリックス中のHPPDタンパク質の安定性を決定した。
【0117】
加工サンプルの安定性
濃度ごとに3回の複製を用いて2つの異なる濃度(低及び高)の乾燥抽出物の加工サンプル安定性を分析した。新たに調製及び加工したQCサンプルをLC-MS/MSにより分析した(Day0と考えられる)。乾燥安定性サンプルは、LC-MS/MSによってすぐには分析せず、所定時間貯蔵した。
【0118】
乾燥安定性サンプルを-20℃の公称温度で6日間(146時間16分)貯蔵してから、再可溶化し、LC-MS/MSにより分析した。
【0119】
以下の承認基準を用いて、加工サンプル中のサロゲートペプチドの安定性を確認した:(1)加工Day0及び安定性サンプルの全体の平均ピーク面積比は、25.0%CV以下でなければならない;(2)安定性QCとDay0QC(同じ注入日に加工)との間のピーク面積比の差の割合は±25.0%の範囲内でなければならない。
【数7】
【0120】
検証プロトコルにより、キャリーオーバー評価は一般的記述において適切に概説されており、キャリーオーバー評価のためにピーク面積が使用されると明言されているが、誤って、承認基準において見出される記述にはピーク面積比が明記されている。ピーク面積が評価の正しい実施方法であり、したがって、この研究ではピーク面積を用いて干渉を評価した。したがって、キャリーオーバーブランクにおける干渉を評価するために適切なアプローチ(すなわち、ピーク面積)を適用したので、データの品質及び完全性に対する影響は全くない。
【0121】
検証プロトコルにより、較正曲線データを線形スケールでプロットするために定量トランジションの各ペプチドのピーク面積比(SIL/非標識)が使用される。しかしながら、プロッティングのために代わりに定量トランジションの各ペプチドのピーク面積を使用した。ピーク面積比は、高スパイキング濃度の安定同位体標識ペプチドからの非標識シグナルへの寄与のために、直線性評価に使用することができない。直線性評価を実施したので、データの品質及び完全性に対する影響は全くない。
【0122】
検証プロトコルにより、抽出効率評価は、4回の逐次抽出(ラウンド)を用いて実施される。2つのマトリックス(すなわち、大麦及び小麦種子)については、抽出効率結果は、以下に概説されるように承認基準を満たさなかった。
大麦種子-最終抽出(4回目のラウンド)結果は、8.2%であった(承認基準:<5.0%)。
小麦種子-最終抽出(4回目のラウンド)結果は、6.2%であった(承認基準:<5.0%)。
1回目の抽出ラウンドの精度は、27.5%CVであった(承認基準:≦20.0%)。
【0123】
しかしながら、以下のことから、研究の結果に対する影響は全くない:(1)大麦及び小麦種子の最終抽出結果は、4回の抽出ラウンド後にHPPDタンパク質の抽出がほぼ完了していることを示す。さらに、サンプル分析におけるHPPDの濃度は、単回抽出(1回目のラウンド)から決定され、抽出効率%に応じて調整され得る;且つ(2)小麦種子については、1回目の抽出ラウンドの精度(27.5%CV)は20.0%CV基準を超えるが、単回抽出から得られる3回の検証ラン(ラン4~6)からのQC0(内因性)の精度及び正確度結果は、20.0%以下の精度が達成されたことを実証する。
【0124】
検証プロトコルにより、各精度及び正確度ランについて、各マトリックスの最後に、高QCサンプルの後に2つのRSBサンプルが注入される。しかしながら、1つのマトリックス(すなわち、小麦種子)の場合、高QCサンプル(QC3、複製3)後に注入されたRSBサンプルは、誤ってペプチドGNFSELFK(配列番号1)ではなくペプチドGNFSQLFK(配列番号2)に対するMRM法を用いて獲得された。したがって、小麦種子についてはRSBキャリーオーバー評価を実施しなかった。
【0125】
しかしながら、以下のことから、研究の結果に対する影響は全くない:(1)ペプチドGNFSELFK(配列番号1)のキャリーオーバーは他のマトリックス(小麦飼料を含む)のいずれについても観察されなかった。したがって、相対的な結論として、ペプチドGNFSELFK(配列番号1)はキャリーオーバーの傾向を示さず、小麦種子マトリックスのペプチドGNFSELFKのキャリーオーバーの可能性は非常に低いことが推察され得る;且つ(2)結果として、利用可能なデータセットは、ペプチドGNFSELFK(配列番号1)及びGNFSQLFK(配列番号2)に関して、全てのマトリックス(小麦種子を含む)のサンプル分析において使用されるRSBキャリーオーバー承認基準(すなわち、RTにおける非標識ペプチドピーク面積対QC0ピーク面積≦5.0%)の確立を可能にする。
【0126】
研究に影響を与えない小さいSOP偏差も存在した。これらは研究ファイルに記録されている。この研究の実施中に、生成されるデータの品質又は完全性に悪影響を与え得る他の状況は起こらなかった。
【0127】
特異性
全ての農作物抽出物において非標識及びSILペプチドに対してアッセイの特異性を評価した。評価は、試験した農作物サンプル中のサロゲートペプチド及び対応するSILペプチドの保持時間にいくらかの小さい干渉を示した。非標識ペプチドの場合、ブランクと緩衝液サンプルとの間で2つのトランジションの平均比の差の割合は、試験した全ての植物種/マトリックスにおいて30.0%よりも低く、全ての干渉は、QC0(内因性)サンプル中のSILペプチドの平均ピーク面積の5.0%以下であり、特異性承認基準を満たした。
【0128】
直線性
セクション3.4及び0に記載されるリバースカーブを用いて、各植物種/マトリックス中のHPPDタンパク質について直線性を決定した。リバースカーブを定義する最も単純な回帰モデル、すなわち線形回帰を使用した。全ての植物種/マトリックスに対して1/xのデータ重み付けを使用した。表10は、直線性評価のための標準曲線パラメータ(傾斜、切片及びR値)を要約する。各植物種/マトリックス中のHPPDタンパク質に対する標準曲線の相関係数(R)は0.9900以上であった。確立されたデータは全てセクション0に記載される承認基準の範囲内に含まれ、直線性評価に適していることが見出された。
【0129】
【0130】
各植物種/マトリックスにおいて逆に計算されたリバースカーブ標準濃度は、表11に提供される。
【0131】
【0132】
定量限界
直線性評価において、正確度(バイアス)は、LLOQ及びULOQサンプルについて、それぞれ±25.0%及び±20.0%の範囲内であり(表11)、したがって、定量限界を最低及び最高の非ゼロ標準物の濃度に設定した。表12は、各植物種/マトリックス中のHPPDの定量下限及び上限を要約する。
【0133】
【0134】
各植物種/マトリックス中のHPPDの定量的範囲は、分析手順が適切なレベルの正確度を有することが実証された、下限(LLOQ)濃度と上限(ULOQ)濃度の間の区間である。LLOQ及びULOQサンプルは、各植物種/マトリックス中のHPPDについての正確度基準を満たした。各植物種/マトリックスに対して、方法の定量的範囲を設定した(表13)。
【0135】
【0136】
キャリーオーバー
試験した農作物サンプルについてULOQ標準物の後に注入したブランクサンプルを評価することにより、直線性評価においてキャリーオーバーを決定した。評価は、SILペプチドの保持時間に干渉を全く示さなかった。ULOQ標準物の後に注入された第1のキャリーオーバーブランクサンプルの少なくとも50%において、SILペプチドピーク面積比は、LLOQ標準物のSILペプチドの平均ピーク面積比の20.0%以下であり、キャリーオーバー承認基準を満たした。
【0137】
さらに、高QCサンプルの注入後にRSBサンプルを使用して、精度及び正確度並びに安定性ランの間にキャリーオーバーを評価した。全体として、評価は、ブランクサンプルにおいてキャリーオーバーを示さなかった。研究サンプル分析のためのRSBブランクキャリーオーバー承認基準は、QC0(内因性)サンプル中の非標識ペプチドの平均ピーク面積の5.0%以下になる。
【0138】
精度及び正確度
本明細書に記載されるQCサンプルを用いて、農作物のためのHPPD法の精度及び正確度を評価した。精度及び正確度ランは3回であった。全てがラン承認基準を満たした。アッセイ内及びアッセイ間ランの精度(CV)及び正確度(バイアス)データは、表14~表23に要約される(植物種/マトリックスごとに1つの表)。
【0139】
アッセイ内及びアッセイ間の両方について、CVは、QC0サンプルでは25.0%未満であり、低、中及び高QCサンプルでは20.0%未満であり、したがって方法精度評価は適切であった。
【0140】
アッセイ内及びアッセイ間の両方について、バイアスは、低、中及び高QCサンプルでは±20.0%の範囲内であり、したがって方法正確度評価は適切であった。
【0141】
精度及び正確度バッチの最長注入時間は約36時間58分であり(注入のバッチサイズ187)、したがって、これは、研究サンプル分析のためのアッセイの注入時間の最大長として確立された。
【0142】
精度及び正確度ランからのQC0(内因性)サンプルの傾向分析を実施した。傾向分析を拡張するためにサンプル分析QC0(内因性)サンプルも分析した。
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
【0153】
抽出効率
表24は、農作物からのタンパク質抽出方法の効率を要約する。HPPDのための全ての植物種/マトリックスは、単回の反復で許容できる抽出効率に達した。大麦種子(59.9%)、トウモロコシ種子(69.8%)、イネ種子(73.9%)、大豆種子(64.9%)、小麦種子(54.3%)、大麦飼料(69.8%)、トウモロコシ飼料(76.3%)、オート麦飼料(78.4%)、大豆飼料(65.4%)及び小麦飼料(77.2%)からのHPPDの平均抽出効率は、方法が許容できる抽出効率評価を満たすことを実証する。さらに、CV値は、全ての植物種/マトリックス中のHPPDについて20.0%よりも低く、最終抽出における量は、大麦及び小麦種子を除く全ての農作物について5.0%よりも低かった。
【0154】
【0155】
表25は、-20℃の公称温度で6日間(146時間16分)におけるサロゲートペプチドの乾燥抽出物の安定性を要約する。乾燥加工サンプルの安定性評価のために、安定性サンプルの平均ピーク応答比は25.0%CV以下であり、Day0QCサンプルと比較したときの安定性サンプルの差%は±25.0%の範囲内であった。
【0156】
【0157】
この研究の目的は、LC-MS/MSを用いて種々の農作物(大麦、トウモロコシ、イネ、大豆、及び小麦種子、並びに大麦、トウモロコシ、オート麦、大豆及び小麦飼料)中のp-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ(HPPD)タンパク質を定量化するためのMSベースの方法を検証することであった。HPPDタンパク質に特有なサロゲートペプチドを使用して、相対濃度を決定した。農作物サンプルを使用して、特異性、直線性、定量限界、キャリーオーバー、精度及び正確度、抽出効率、並びに安定性を含む、方法性能パラメータを評価した。
【0158】
特異性の評価は、試験した農作物サンプルのいずれにおいても非標識ペプチド(ブランクと緩衝液との間で2つのトランジションの平均比の差が30.0%未満)及びSILペプチド(QC0(内因性)のSILシグナルの5.0%以下)の保持時間に有意な干渉を示さなかった。全ての特異性パラメータは承認基準を満たした。
【0159】
農作物中のHPPDについての定量下限及び定量的範囲(fmol/mgDW及びμg/gDW)は表26に示される。
【0160】
【0161】
方法のアッセイ内及びアッセイ間精度及び正確度は表27に要約される。
【0162】
【0163】
全ての農作物中のHPPDについて濃度/検出器応答の関係を適切に表すために一次方程を決定した。全ての農作物に対して1/xのデータ重み付けを使用した。
【0164】
タンパク質抽出方法の効率は、大麦種子については59.9%、トウモロコシ種子については69.8%、イネ種子については73.9%、大豆種子については64.9%、小麦種子については54.3%、大麦飼料については69.8%、トウモロコシ飼料については76.3%、オート麦飼料については78.4%、大豆飼料については65.4%、及び小麦飼料については77.2%であった。1回目の抽出ラウンドのCVは、27.5%CVであった小麦種子を除く全ての農作物について20.0%よりも低かった。しかしながら、単回抽出から得られる小麦種子のQC0(内因性)の精度及び正確度結果は、20.0%以下の精度が達成されたことを実証する。
【0165】
加工安定性(乾燥抽出物)を-20℃で6日間評価した。安定性評価は承認基準を満たした。CVは25.0%以下であり、安定性QCとDay0QCとの間のピーク面積比の差%は、全ての農作物について±25.0%の範囲内であった。
【0166】
大麦及び小麦種子の最終抽出%(それぞれ、8.2及び6.2%)並びに小麦種子の1回目の抽出ラウンドの精度(27.5%CV)を除いて、評価した全ての性能パラメータは、定義された承認基準を満たした。サンプル分析におけるHPPDの濃度は、単回抽出(1回目のラウンド)から決定され、抽出効率%に対して調整され得るので、そして精度及び正確度ランにおいて小麦種子について20.0%以下の精度が達成されたので、研究の結果に対する影響は全くない。この研究の結果に基づいて、質量分析ベースの方法は、GLPSに従ってこの研究で評価された農作物のリストについて、HPPDタンパク質の定量化に適していることが確認された。
【0167】
本発明はその特定の実施形態に関連して記載されたが、本発明のデバイスがさらに修正可能であることは理解されるであろう。本特許出願は、一般的に本発明の原理に従い、且つ、本発明が関連する技術分野内の既知又は通例の実施の範囲内に入るような、そして上記で本明細書中に示される本質的な特徴に適用され得るような、そして添付の特許請求の範囲に従うような本開示からのこのような逸脱を含む、本発明のあらゆる変化、使用、又は適応を包含することが意図される。
【0168】
本明細書中で言及される全ての刊行物及び特許出願は、本発明が関連する技術分野の当業者の技能のレベルを示すものである。全ての刊行物及び特許出願は、個々の刊行物又は特許出願がそれぞれ参照によって援用されると具体的及び個別に示されているのと同程度まで参照によって本明細書に援用される。
【配列表】