(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】細胞を培養するための溶解性マイクロキャリア及び関連する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/02 20060101AFI20241114BHJP
C12N 5/07 20100101ALI20241114BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C12N1/02
C12N5/07
C12M1/00 A
(21)【出願番号】P 2021573204
(86)(22)【出願日】2020-06-02
(86)【国際出願番号】 US2020035693
(87)【国際公開番号】W WO2020251799
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-06-02
(32)【優先日】2019-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】エルヴィ,マルシャル
(72)【発明者】
【氏名】ホアン,リエピン
(72)【発明者】
【氏名】ポン,ジンリン
(72)【発明者】
【氏名】ラッセル,ライアン ローレン
(72)【発明者】
【氏名】シベック,ジェフリー ジョゼフ
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ,ユエ
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-520662(JP,A)
【文献】特表2016-523086(JP,A)
【文献】特表2012-509085(JP,A)
【文献】特表2016-501026(JP,A)
【文献】国際公開第2016/200888(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/209865(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/059775(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/093598(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0030805(US,A1)
【文献】Biotechnology Journal,2018年11月12日,Vol. 14, 1800461,p. 1-12,doi: 10.1002/biot.201800461
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
C12N 5/00
C12M 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解性基質から培養細胞を採取する方法であって、該方法が、
前記基質を(i)キレート化剤
、又は(ii)キレート化剤及び酵素に曝露することによって前記基質を消化することにより、前記基質から前記培養細胞を分離するステップであって、
前記キレート化剤が1mM以下の濃度のEDTAであり、前記分離によって採取溶液がもたらされる、ステップ;及び
前記分離するステップの後に、採取溶液の成分の一連の洗浄及び/又は遠心分離サイクルを実行するステップ
を含み、
前記基質が、ペクチン酸、部分的にエステル化されたペクチン酸、部分的にアミド化されたペクチン酸、及びそれらの塩のうちの少なくとも1つから選択されたポリガラクツロン酸化合物と、該ポリガラクツロン酸化合物の表面上の接着ポリマーとを含む、
方法。
【請求項2】
前記酵素が、ペクチン分解酵素及びペクチナーゼからなる群より選択される非タンパク質分解酵素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
消化後、前記接着ポリマーの少なくとも一部が可溶性になる、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
前記採取溶液にプロテアーゼを加えることによって前記接着ポリマーの不溶性部分を除去するステップをさらに含む、請求項
3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、その全体がここに参照することによって本願に援用される、2019年6月13日出願の米国仮特許出願第62/861,084号の米国法典第35編特許法120条に基づく優先権の利益を主張する。
【0002】
本出願は、その内容が依拠され、その全体がここに参照することによって本願に援用される、同一出願人による米国特許出願第14/899,394号及び同第15/579,739号、並びに米国特許第8,4044,85号及び同第8,426,176号に関連するものである。
【技術分野】
【0003】
本開示は、概して、可消化性の基質、より詳細には、例えば、タンパク質、細胞、及びウイルスの単離のために、また診断用途及び細胞培養のために使用することができる消化可能なマイクロキャリア、並びに、可消化基質を使用する方法、より詳細には、可消化性の基質から細胞、タンパク質、及びウイルスを培養及び回収する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
マイクロキャリアは、治療用途の制御されたバイオリアクタにおける効率的な細胞スケールアップを可能にする。接着細胞が高いコンフルエンスに達し、したがって細胞間接触阻害によって細胞増殖が制限されうる平坦な表面での細胞培養とは対照的に、高い表面積/体積の比率を有する球形のマイクロキャリアは、効率的な細胞培養のスケールアップ又は増殖のための魅力的なプラットフォームを提供し、採取した細胞又は馴化培地のいずれかを所望の製品にすることができる。
【0005】
細胞培養に対する義務は、適切な酸素化及び細胞への栄養素の供給である。関連する課題には、増殖している細胞に損傷を与えるのに十分な流体力学的応力を導入することなく、必要な酸素及び栄養素を提供するためのマイクロキャリアの撹拌が含まれる。従来、撹拌はインペラを使用して行われる。
【0006】
さらなる課題は、細胞又は馴化培地からマイクロキャリアを分離することを包含する。酵素処理は、例えば、接着細胞を採取するために使用することができるが、酵素の添加は細胞に損傷を与える可能性がある。例えば、タンパク質分解酵素は、細胞表面の受容体を非選択的に除去する可能性がある。
【0007】
マイクロキャリアからの効果的な細胞回収には、多くの場合、濃縮酵素の使用、処理時間の延長、及び連続的な遠心分離/濾過サイクルが必要であり、これらは、細胞の健康状態及び回収率に悪影響を与える可能性がある。さらには、マイクロキャリアの消化に由来する可能性のある副産物、及びそのような副産物が細胞の健康状態及び回収率に及ぼしうる影響についての課題が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記を考慮すれば、規定された消化副産物を有するマイクロキャリアを含む細胞増殖表面、並びに、消化副産物を制御しつつ、細胞を効果的に培養し、増殖表面から採取する方法を提供することは、有利であろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の実施形態によれば、細胞培養物品は、細胞培養物品を含む。該物品は、二価カチオンで架橋されたポリガラクツロン酸化合物を有する基質を含み、該ポリガラクツロン酸化合物は、ペクチン酸、部分的にエステル化されたペクチン酸、部分的にアミド化されたペクチン酸、及びそれらの塩のうちの少なくとも1つから選択される。基質は、消化試薬によって、ガラクツロン酸モノマー及び二価カチオンを含む成分へと可消化性である。
【0010】
他の実施形態では、溶解性基質から培養細胞を採取する方法が提供される。該方法は、基質を(i)キレート化剤、(ii)酵素、又は(iii)キレート化剤及び酵素に曝露することによって基質を消化することにより、基質から培養細胞を分離するステップであって、分離によって採取溶液がもたらされる、ステップ;並びに、分離後に、採取溶液の成分の一連の洗浄及び/又は遠心分離サイクルを実行するステップを含む。基質は、ペクチン酸、部分的にエステル化されたペクチン酸、部分的にアミド化されたペクチン酸、及びそれらの塩のうちの少なくとも1つから選択されたポリガラクツロン酸化合物と、該ポリガラクツロン酸化合物の表面上の接着ポリマーとを含む。
【0011】
本開示の主題の追加の特徴及び利点は、以下の詳細な説明に記載され、一部には、その説明から当業者に容易に明らかとなり、あるいは、以下の詳細な説明、特許請求の範囲、並びに添付の図面を含めた本明細書に記載される本開示の主題を実施することによって認識されよう。
【0012】
前述の概要及び後述する詳細な説明はいずれも、本開示の主題の実施形態を提示しており、特許請求されている本開示の主題の性質及び特徴を理解するための概観又は枠組みを提供することを意図しているものと理解されたい。添付の図面は、本開示の主題のさらなる理解を提供するために含まれ、本明細書に組み込まれて、その一部を構成する。図面は、本開示の主題のさまざまな実施形態を示しており、その説明とともに、本開示の主題の原理及び動作を説明する役割を担う。加えて、図面及び説明は、単に例示を目的としたものであり、いかなる方法でも特許請求の範囲を限定することを意図するものではない。
【0013】
本開示の特定の実施形態の以下の詳細な説明は、同様の構造が同様の参照番号で示されている以下の図面と併せて読む場合に最もよく理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態による、外部架橋したPGAマイクロキャリア上のhMSC細胞を示す位相差画像
【
図2】さらなる実施形態による、外部架橋したPGAマイクロキャリア上のhMSC細胞を示す位相差画像
【
図3】さらに別の実施形態による、外部架橋したPGAマイクロキャリア上のhMSC細胞を示す位相差画像
【
図4】一実施形態による、ゼラチンでコーティングしたPGAマイクロキャリア上のMRC5細胞及びベロ細胞を示す位相差画像
【
図5】ゼラチンでコーティングしたデキストランマイクロキャリア上、及びゼラチンでコーティングした外部架橋マイクロキャリア上のベロ細胞の倍数増殖のグラフ
【
図6】ゼラチンでコーティングしたデキストランマイクロキャリア上、及びゼラチンでコーティングした外部架橋マイクロキャリア上のMRC5細胞の倍数増殖のグラフ
【
図7】ゼラチンでコーティングした消化性マイクロキャリア上、及びCorning Incorporated社のSynthemax(登録商標)II表面を備えたマイクロキャリア上のhMSC細胞の倍数増殖のグラフ
【
図8】一実施形態に従って作製された単分散PGAビーズを示す位相差画像
【
図9】一実施形態による、外部架橋したPGAマイクロキャリア上のMRC5細胞を示す位相差画像
【
図10】乳化及び内部ゲル化乳化及び内部ゲル化によって得られる広いサイズ分布を示す比較マイクロキャリアを示す位相差画像
【
図11】VNグラフト化PGAマイクロキャリア上に播種した後の無血清培地中のhMSC細胞の位相差画像
【
図12】サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)を使用した、PGA及び消化試薬の吸光度のグラフ
【
図13】SECを使用した、ペクチナーゼ及びEDTAによるPGAポリマー消化の吸光度のグラフ
【
図15】SECを使用した、PGAマイクロキャリア消化のグラフ
【
図16】1つ以上の実施形態による、細胞懸濁液を洗浄及び遠心分離する方法のフロー図
【
図17A】希釈されていないサンプルからのPGA及び消化成分のUV-VISスペクトルのグラフ
【
図17B】希釈されたサンプルからのPGA及び消化成分のUV-VISスペクトルのグラフ
【
図17C】異なる波長でのPGA及び消化成分の光学密度のグラフ
【
図18】溶解性マイクロキャリアのSynthemaxII染色の画像
【
図19】分光光度計を使用して測定した、
図19の染色の蛍光強度のグラフ
【
図20】溶解性マイクロキャリアの抗SynthemaxII抗体染色の画像
【
図21】消化溶液中の可溶性SynthemaxIIのドットブロット分析の画像
【
図22A】採取溶液のさまざまな希釈に基づいた、ベロ細胞の濃度のグラフ
【
図22B】ペクチナーゼのさまざまな希釈に基づいた、ベロ細胞の濃度のグラフ
【
図22C】EDTAのさまざまな希釈に基づいた、ベロ細胞の濃度のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0015】
これより、幾つかの実施形態が添付の図面に示される、本開示の主題のさまざまな実施形態をより詳細に参照する。同じ又は類似した部分についての言及には、図面全体を通して同じ参照番号が用いられる。
【0016】
細胞の接着及び増殖を促進する細胞培養物品が開示される。幾つかの実施形態によれば、開示される細胞培養物品は、プロテアーゼを使用することなしに、細胞の採取を可能にする。例となる細胞培養物品は、ビーズ又はマイクロビーズ(集合的に「マイクロキャリア」)とも呼ばれる、マイクロキャリアである。
【0017】
実施形態では、細胞培養物品は、ペクチン酸、部分的にエステル化されたペクチン酸、又はそれらの塩を含有するゲルを含む、滑らかかつ透明(又は半透明)のビーズである。細胞培養物品は、球状又は実質的に球状であってよく、外部ゲル化によって形成される。細胞培養物品のカルシウム含有量は、細胞への損傷を軽減する穏やかな条件下での迅速な細胞採取をもたらすように調整することができる。足場依存性細胞の接着を促進する分子は、化学的結合又は物理的吸着によって細胞培養物品の表面に接着されうる。
【0018】
ここに開示される外部ゲル化経路とは対照的に、マイクロキャリアは、乳化及び内部ゲル化を介して形成されうる。この内部ゲル化プロセスでは、油相(連続相または分散媒体とも呼ばれる)内で乳化される、水相に分散した不溶性カルシウム塩を含むポリガラクツロン酸(PGA)水溶液のゲル化によって、ビーズが形成される。
【0019】
内部ゲル化の場合、架橋は、塩から可溶性の二価金属イオン(例えば、Ca2+又はMg2+)を放出する、油溶性酸の添加によって開始される。しかしながら、このような方法では、エマルションを安定化させるためには、かなりの量の界面活性剤と同様に、大量の油相が必要とされる。植物油は連続相として使用することができるが、この分散媒体中で調製されたビーズはすすぎが困難である。
【0020】
内部ゲル化プロセスのさらなる欠点は、金属イオン源(塩)の一部が、インタクトのまま残り、マイクロキャリアの不均一性として現れ、これにより、表面粗さと透明性を損なう可能性があることである。さらには、このような残された金属塩は、マイクロキャリアの使用中に経時的に放出される可能性がある(これは、細胞培養にとって有害でありうる)か、又は細胞採取中のマイクロキャリアの消化を阻害する可能性がある。
【0021】
本開示の外部ゲル化法は、望ましくない内包物(第2の相)及び表面欠陥がなく、非タンパク質分解性の細胞の分離及び採取を支援する、高透明性のPGAマイクロキャリアを調製するための安価で環境に優しい合成経路を提供する。本明細書で定義されるように、透明なマイクロキャリアは、390~700nmの可視スペクトルにわたって、少なくとも90%の透過率、すなわち、90、92、94、96、98、99、又は100%の透過率(前述の値のいずれかの間の範囲を含む)を示す。
【0022】
加えて、実施形態では、マイクロキャリアの均一なサイズ分布を提供することができる。均一なサイズ分布は、使用中の上清からのマイクロキャリアのより迅速かつクリーンな分離を確保する。これにより、培地の交換及び最終産生物の分離がより予測可能で、より信頼性が高く、より安価になりうる。実施形態では、マイクロキャリアのサイズは、さまざまな範囲に正確に調整することができる。これにより、ビーズの材料特性を変更することなく、さまざまなバイオプロセスのニーズに一致するようにビーズの沈降速度をカスタマイズすることができる。
【0023】
幾つかの実施形態によれば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びペクチナーゼを使用して溶解させることができる、カルシウム架橋ポリガラクツロン酸(PGA)マイクロキャリアが提供される。このようなPGAポリマー及びマイクロキャリア、並びに解離剤、及び副産物の特徴付けが本明細書で論じられ、その後の細胞増殖に対するこのような成分の影響が決定される。これに基づいて、効率的なPGAマイクロキャリアと、該PGAマイクロキャリアを使用して細胞を培養及び採取する方法を決定した。
【0024】
PGAマイクロキャリア消化の副産物(例えば、ガラクツロン酸モノマー、カルシウム、EDTA、及びペクチナーゼ)を、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)、エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)、及び誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)を使用して特徴付けした。UV-Vis分光法を使用して、これらの可溶性成分が、一連の洗浄及び/又は遠心分離サイクルを含む本明細書に開示される方法によって除去することができることを確認した。
【0025】
また、以下で説明するように、「Synthemax」IIペプチドに対する抗体を使用して、溶解後のマイクロキャリア上の「Synthemax」IIコーティングの位置を分析することによって、本開示のPGAマイクロキャリア用の「Synthemax」IIの大部分がビーズ消化後に可溶性になることが示される。幾つかの実施形態では、少ない残留量の「Synthemax」IIが放出された細胞に結合したままである場合、このレベルは、プロテアーゼ(例えば、トリプシン)を採取溶液に加えることによって低減することができる。
【0026】
2D培養における細胞増殖に対する消化液成分、ペクチナーゼ、及びEDTAの影響を、既知の濃度のペクチナーゼ及びEDTAを細胞に戻すことによって分析し、細胞増殖への影響が最小であった濃度を特定した。幾つかの実施形態によれば、方法は、EDTAの濃度が1mM以下に維持され、かつペクチナーゼが30U/mL以下に維持されるステップを含む。加えて、これらの成分は、細胞を継代又は凍結保存する前に、洗浄及び/又は遠心分離又は濾過によって除去することができる。
【0027】
したがって、本明細書に開示される実施形態によれば、消化副産物を低減又は除去したマイクロキャリアが提供される。加えて、本明細書の物品及び方法による副産物を知る又は制御することにより、施術者は、PGAマイクロキャリアの使用、並びに生物学的及び/又は治療的意味についての知識及び信頼を高めることができる。
【0028】
幾つかの実施形態はマイクロキャリアを対象としているが、基質はさまざまな形態をとることができ、マイクロキャリア又はビーズに限定されない。幾つかの実施形態では、基質は、充填床バイオリアクタでの使用に適した形態をとることができ、例えば、円筒形、長方形、三角形、又は円盤の形状を有する発泡足場であってもよい。したがって、実施形態によれば、細胞培養のための溶解可能な発泡足場が提供される。溶解可能な発泡足場は、ペクチン酸、部分的にエステル化されたペクチン酸、部分的にアミド化されたペクチン酸、及びそれらの塩のうちの少なくとも1つから選択される、イオノトロピック架橋されたポリガラクツロン酸化合物を含む。幾つかの実施形態では、足場は、表面活性を有する少なくとも1つの第1の水溶性ポリマーを含みうる。
【0029】
PGAポリマー
ポリガラクツロン酸(PGA)、又はペクチン酸は、熟した果物及び一部の野菜に見られるペクチン分解の水溶性生体高分子である。食品業界では増粘剤として最もよく知られているが、製薬業界及びバイオテクノロジー業界における薬物、タンパク質、細胞送達用のマトリクス、又は結合剤としても使用することができる。ポリマーの粘度は、分子量、エステル化度、濃度、pH、及び溶液中の対イオンの存在に依存する。PGAポリマーは、糖含量に依存しないゲルを生成し、pHの変化に対してほとんど感度を示さず、また、ゲル化を制御するために、定義された量のカルシウム又は他の二価カチオンを必要とする。PGAポリマーのマイクロキャリアは、例えば、PGAの溶液を塩化カルシウム浴に滴下することによって(これは、球状ビーズとしての液滴の迅速なゲル化をもたらす)、作製することができる。過剰な塩化カルシウムは、マイクロキャリアが「Synthemax」II又は変性コラーゲンなどの細胞接着促進基質でコーティングされる前に、一連の洗浄サイクルを通じてマイクロキャリアから除去される。
【0030】
PGAマイクロキャリアは、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を使用してカルシウムイオンを除去することにより、不安定化する可能性がある。モノマー単位間の連結を加水分解し、したがって、PGAポリマーの分子量を低下させ、その溶解度を増加させる酵素ペクチナーゼを使用して、PGAポリマーをさらに分解することができる。概して、ペクチナーゼは植物細胞壁の軟化を促進するため、果実の成熟に関連している;そのため、ペクチナーゼには、直接的なヒト用食品成分として使用するために、FDAから一般に安全と認められる(GRAS)通知が発行されている。
【0031】
マイクロキャリアは、少なくとも1つのイオノトロピック架橋された多糖を使用して作製することができる。例には、ポリガラクツロン酸(PGA)としても知られるペクチン酸又はそれらの塩、若しくはペクチニン酸としても知られる部分的にエステル化されたペクチン酸(PE PGA)又はそれらの塩が含まれる。
【0032】
ペクチン酸は、ある特定のペクチンエステルの加水分解によって形成することができる。ペクチンは細胞壁多糖類であり、自然界では植物において構造的な役割を有する。ペクチンの主な供給源には、柑橘類の皮(例えば、レモン及びライムの皮)並びにリンゴの皮が含まれる。ペクチンは、1,2-結合L-ラムノースによってランダムに中断された、1,4-結合アルファ-D-ガラクツロネート骨格に基づいている、主として直線状のポリマーである。平均分子量は約50,000~約200,000ダルトンの範囲である。
【0033】
ペクチンのポリガラクツロン酸鎖は、例えばメチル基などで部分的にエステル化されていてもよく、遊離酸基は、ナトリウム、カリウム、又はアンモニウムイオンなどの一価のイオンで部分的に又は完全に中和されていてもよい。メタノールで部分的にエステル化されたポリガラクツロン酸はペクチン酸と呼ばれ、その塩はペクチネートと呼ばれる。高メトキシル(HM)ペクチンのメチル化度(DM)は、例えば60~75モル%であってよく、低メトキシル(LM)ペクチンのメチル化度は1~40モル%でありうる。
【0034】
ペクチン酸が選択される実施形態では、エステル化度は、40モル%以下(例えば、1、5、10、20、30又は40モル%(前述の値のいずれかの間の範囲を含む))でありうる。エステル化度が高いと、イオノトロピック架橋によるビーズ形成の効果がなくなる。理論に縛られるわけでないが、望ましい程度のイオノトロピック架橋を得るためには、最小量の遊離カルボン酸基(エステル化されていない)が必要とされると考えられる。
【0035】
実施形態では、マイクロキャリアビーズは、20モル%以下(例えば、0、5、10、15、又は20モル%)のメトキシル基を含むポリガラクツロン酸などのLMペクチンを使用して形成した。このようなポリガラクツロン酸は、ペクチン酸のようにメチルエステル含有量を有しないか、又は無視できる程度に有しうる。本明細書で用いられる場合、メチルエステル含有量を有しないか、又は無視できる程度に有するペクチニン酸、及び低メトキシル(LM)ペクチンは、集合的にPGAと呼ばれる。
【0036】
実施形態では、マイクロキャリアビーズは、ペクチン酸とペクチニン酸との混合物を使用して形成した。純粋なペクチン酸及び/又はペクチニン酸を使用してもよい。適合性のあるポリマーとのブレンドも使用することができる。例えば、ペクチン酸又はペクチニン酸を、デキストラン、置換セルロース誘導体、アルギン酸、デンプン、グリコーゲン、アラビノキシラン、アガロースなどの多糖類と混合することができる。ヒアルロン酸及びコンドロイチン硫酸などのグリコサミノグリカン、又はエラスチン、フィブリン、シルクフィブロイン、コラーゲン及びそれらの誘導体などのさまざまなタンパク質も使用することができる。他の水溶性の合成ポリマーもまた、ペクチン酸及び/又はペクチニン酸とブレンドすることができる。非限定的な例には、ポリアルキレングリコール、ポリ(ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート)、ポリ(メタ)アクリルアミド及び誘導体、ポリ(N-ビニル-2-ピロリドン)、ポリビニルアルコールなどが含まれる。適合性のあるポリマーは、それらの含有がマイクロキャリアの消化を損なわないことを条件として、アニオン性、中性、又はカチオン性でありうる。
【0037】
外部イオノトロピックゲル化
拡散硬化(diffusion setting)とも呼ばれる外部ゲル化は、イオン性溶液への親水コロイド(PGA)溶液の導入を包含し、ゲル化は、親水コロイド溶液へのイオンの拡散を介して生じる。実施形態では、負に帯電した多糖類水溶液を、カルシウム、マグネシウム、又はバリウムなどの二価カチオンの溶液に滴下して分注し、PGAポリマーの架橋を誘導した。架橋はイオン架橋であり、こでは、共有結合架橋とは対照的に、架橋ポリマーのその後の消化を可能にする。
【0038】
実施形態によれば、親水コロイド溶液中のPGA濃度は、0.5~5質量%の範囲、例えば、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、又は5質量%(前述の値のいずれかの間の範囲を含む)であった。
【0039】
親水コロイド(PGA)溶液の液滴を形成するための例となる方法は、シリンジによる滴下又は押し出し;ノズルから液滴を引き寄せる同軸の空気流によってビーズの形成が行われる、ジェットブレイクアップ又は粉砕;静電界を使用して液滴をノズルからゲル化浴に引き込む、静電ビーズの生成;磁気駆動振動;ジェットを均一な円筒形のセグメントへと切断する回転切削工具によってビーズの形成が行われる、ジェット切断;並びに、回転ディスク噴霧化を含んでいた。
【0040】
PGA溶液の液滴は、球状であるか、又は実質的に球状であってよく、10~500マイクロメートルの範囲、例えば、10、20、25、50、75、100、150、200、252、300、350、400、450、又は500マイクロメートル(前述の値のいずれかの間の範囲を含む)の平均直径を有する。
【0041】
ゲル化浴は、二価金属塩の水溶液を含みうる。実施形態では、ゲル化浴中の塩(例えば、塩化カルシウム)濃度は、少なくとも1%(w/v)、例えば、1、2、4、6、8、10、12、14、16、18、又は20%(前述の値のいずれかの間の範囲を含む)である。カルシウム含有量が低すぎると、架橋密度が低すぎることに起因して、ビーズは不十分な安定性を示す。
【0042】
水溶液は、エタノールなどのアルコールを含みうる。アルコールの水に体する比率(v/v)は、0/100から80/20の範囲であってよく、例えば、0/100、10/90、20/80、30/70、40/60、50/50、60/40、70/30、及び80/20である。
【0043】
実施形態では、ある程度の共有結合による架橋が起こりうるが、不可逆的であるこのような架橋のレベルは、ビーズの消化率を維持するために、例えば、約10モル%未満~20モル%など、十分に低くなければならない。
【0044】
マイクロキャリアビーズは、球状であるか、又は実質的に球状であってよく、10~500マイクロメートルの範囲、例えば、10、20、25、50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、又は500マイクロメートル(前述の値のいずれかの間の範囲を含む)の平均直径を有する。実施形態では、相対標準偏差とも呼ばれるマイクロキャリアビーズの変動係数(CV)は、20%未満、例えば、2、5、10、又は15%(前述のいずれかの間の範囲を含む)である。実施形態では、サイズの範囲Δd5-d95(d95とd5との差、ここで、d5は、マイクロキャリア母集団の5%の直径より大きいマイクロキャリア直径であり、d95は、マイクロキャリア母集団の95%の直径より大きいマイクロキャリア直径である)は、25マイクロメートル未満、例えば、10、15、又は20マイクロメートル(前述のいずれかの間の範囲を含む)である。実施形態では、サイズの範囲Δd10-d90(d90とd10との差、ここで、d10は、マイクロキャリア母集団の10%の直径より大きいマイクロキャリア直径であり、d90は、マイクロキャリア母集団の90%の直径より大きいマイクロキャリア直径である)は、20マイクロメートル未満、例えば、5、10、又は15マイクロメートル(前述のいずれかの間の範囲を含む)である。実施形態では、d5からd95までの曲率半径の範囲(マイクロキャリア母集団の5%の直径より大きいマイクロキャリア直径の曲率半径と、マイクロキャリア母集団の95%の直径より大きいマイクロキャリア直径の曲率半径との差)は、10cm-1未満、例えば、2、5、又は8cm-1(前述のいずれかの間の範囲を含む)である。
【0045】
ビーズサイズの制御
実施形態では、マイクロキャリアビーズは、特定の狭いサイズ範囲内で製造することができる。すなわち、それらのサイズを制御することができる。マイクロキャリアビーズのサイズの制御は、幾つかの理由で重要である。小さいマイクロキャリアから大きいマイクロキャリアまでの範囲の広いサイズ分布が存在する場合には、より小さいサイズを有するマイクロキャリアは、より大きいサイズを有するマイクロキャリアよりもはるかに長く浮遊状態にある。プロセスにおける正確な沈降時間は、はるかに長くなるか(小さいビーズが存在するため)、又は規定するのが困難になる。使用中、上清がマイクロキャリアから除去されることを確保するために、より多くの時間が必要とされる。
【0046】
狭いサイズ分布は、ビーズを一定の速度で沈降可能にし、これは、培地交換又は培養産物の分離中に上清からマイクロキャリアをより予測可能に分離できるようにする。マイクロキャリアのサイズをさまざまな範囲に微調整して、沈降速度を制御することができる。これにより、さまざまなプロセスのニーズに合わせて、沈降速度をカスタマイズすることができる。サイズ制御されたマイクロキャリアは均一な表面積を有しており、マイクロキャリアごとに細胞を播種するために利用可能な面積と同じ面積を提供する。これにより、細胞の播種に利用可能な表面積の計算が容易になる。加えて、細胞は、同時に又は同様の時間にコンフルエンスに達する。本明細書で用いられる場合、「コンフルエンス」又は「コンフルエント」という用語は、実質的にすべての利用可能な増殖表面が使用されるように、すべての細胞が他の細胞と接触している増殖表面上に細胞がコヒーレント層を形成することを示すために用いられる。例えば、「コンフルエント」とは、「すべての細胞が、他の細胞とその周辺全体で接触しており、覆われずに残されている利用可能な基質がない」状態と定義されている(R.I. Freshney, Culture of Animal Cells-A Manual of Basic Techniques, Second Edition, Wiley-Liss, Inc. New York, N.Y., 1987, p. 363)。従来のように、細胞に覆われる増殖表面の量は、コンフルエンスの割合と呼ばれる。例えば、増殖表面の約半分が細胞で覆われている状況は、本明細書では50%のコンフルエンス、あるいは代替的に、半分のコンフルエンスと呼ばれる。サイズ制御されたマイクロキャリアは、同じ撹拌条件で懸濁させることができる。これにより、剪断力を細かく制御して、マイクロキャリアの良好な懸濁のバランスをとることができ、細胞への損傷が少なくなる条件を可能にすることができる。サイズ制御されたマイクロキャリアのさまざまな群に対して明確に規定された沈降時間は、連続的な細胞培養中の分離を容易にし、さまざまな時間に供給されたビーズ上での不均一な細胞増殖を防ぐのに役立てることができる。例えば、細胞は、最初に250μmサイズのサイズ制御されたマイクロキャリア上に播種することができる。細胞が半分のコンフルエンスに達した後、350μmサイズのサイズ制御されたマイクロキャリアを、ビーズからビーズへの移動のためにバイオリアクタに加えることができる。250μmのマイクロキャリアのコンフルエンスの時点で、このサイズのマイクロキャリアは、独自の沈降速度によって又は濾過によって除去することができる。350μmのサイズかつ半分のコンフルエントを有するビーズのみがバイオリアクタ内に残される。次に、新しい250μmのマイクロキャリアを加えることができる。350μmのマイクロキャリアがコンフルエンスに達した後、それらを収集し、新しい350μmのマイクロキャリアを加えることができる。このプロセスにより、コンフルエンスに達したときに、すべてのビーズが確実に除去されるようにすることができる。対照的に、同じサイズのマイクロキャリアがビーズからビーズへの移動と連続的な細胞培養を行うために使用される場合、以前の供給に由来するビーズ上の細胞は、後の供給に由来するビーズ上の細胞よりもはるかに長くバイオリアクタ内に留まり、過剰なコンフルエンスの結果として、細胞の品質を低下させる可能性がある。
【0047】
実施形態では、振動カプセル化装置を使用して、製造中に溶解性マイクロキャリアをサイズ制御した。サイズ制御されたビーズは、規定された穴寸法、流量、及び振動数でノズルを通過させることによって形成した。得られたビーズのサイズは、変動係数が10%未満の狭い範囲に制御されていた。
【0048】
ビーズの消化
マイクロキャリアの消化、細胞の採取、又はその両方に適した非タンパク質分解酵素には、ペクチン質を加水分解する関連酵素の異種グループである、ペクチン分解酵素又はペクチナーゼが含まれる。
【0049】
細胞採取は、細胞を含んだマイクロキャリアを、ペクチナーゼ分解酵素又はペクチナーゼと二価カチオンキレート化剤との混合物を含む溶液と接触させることを包含する。
【0050】
培養細胞を採取するための例となる方法は、本明細書に開示されるマイクロキャリアの表面上で細胞を培養するステップ、及び培養細胞をペクチナーゼとキレート剤との混合物と接触させて細胞をマイクロキャリアから分離するステップを含む。
【0051】
ペクチナーゼ(ポリガラクツロナーゼ)は、複雑なペクチン分子をガラクツロン酸のより短い分子へと分解する酵素である。ペクチナーゼは、ポリガラクツロン酸からのペクチンオリゴ糖(POS)の遊離を触媒する。ペクチナーゼは、菌類、酵母、細菌、原生動物、昆虫、線虫類、及び植物から産生される。市販されるペクチナーゼの供給源は、概して、アスペルギルス・アキュレアタス(Aspergillus aculeatus)の選択された株から産生されるペクチン分解酵素調製物であるNovozyme Pectinex(商標)ULTRA SPLなどの多酵素である。Novozyme Pectinex(商標)ULTRA SPLは、主に、ポリガラクツロナーゼ(EC 3.2.1.15)、ペクチントランスエリミナーゼ(EC4.2.2.2)、及びペクチンエステラーゼ(EC:3.1.1.11)を含む。EC指定は、酵素が触媒する化学反応に基づく酵素についての酵素委員会の分類スキームである。ペクチナーゼはペクチンを加水分解することが知られている。それらはメチルエステル化ペクチン又は脱エステル化ペクチンを攻撃することができる。
【0052】
消化溶液中のペクチン分解酵素の濃度は、1~200U、例えば、1、2、5、10、20、50、100、150、又は200U(前述のいずれかの間の範囲を含む)でありうる。
【0053】
例となるキレート化剤には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、シクロヘキサンジアミン四酢酸(CDTA)、エチレングリコール四酢酸(ETGA)、クエン酸、酒石酸などが含まれる。消化溶液中のキレート化剤の濃度は、1~200mM、例えば、10、20、50、100、150、又は200mMでありうる。細胞毒性の副作用を防ぐために、消化溶液中のキレート化剤の濃度は、10mM以下、例えば、1、2、5、又は10mM(前述のいずれかの間の範囲を含む)でありうる。
【0054】
実施形態では、ペクチン分解酵素及びキレート化剤を含む消化溶液の総体積は、マイクロキャリアの体積の10倍未満、例えば、マイクロキャリアの体積の1、2、4、5、又は10倍(前述の値のいずれかの間の範囲を含む)である。
【0055】
消化時間、温度、及び添加されるペクチン分解酵素の量に応じて、ビーズの消化の程度を選択又は事前に決定することができる。ビーズが完全に消化される前に、細胞がマイクロキャリア表面から分離することが観察されている。したがって、ビーズの完全な消化の有無にかかわらず、細胞を採取することが可能である。細胞が部分的に消化されたマイクロキャリアから採取される実施形態では、残ったマイクロキャリアからの細胞の分離は、濾過、デカンテーション、遠心分離、及び同様の処理のうちの1つ以上によって行うことができる。
【0056】
ビーズは、カルシウム含有量が湿ったビーズの2g/l未満、例えば、2、1.5、1、0.8、又は0.5g/l未満の場合、容易に消化される。採取段階におけるビーズのカルシウム含有量が1g/lを超える場合には、より多くの量及び/又は濃度のペクチン分解酵素及び二価カチオンキレート化剤を使用することができる。完全な消化にかかる時間は、1時間未満、例えば、10、15、30、又は45分でありうる。本明細書で用いられる場合、「完全な消化」という用語は、「注射液中の粒子状物質(Particulate Matter in Injections)」と題された米国薬局方及び国民医薬品集セクション788(USP<788>)に記載されている粒子計数法に準拠するマイクロキャリア粒子数を与えるマイクロキャリアの消化を指す。USP<788>に示されるように、試験される単位中に存在する粒子の平均数が10μm以上では1mLあたり25粒子を超えず、25μm以上では1mLあたり3粒子を超えない場合、調製は試験に準拠する。実施形態では、マイクロキャリアの消化後に10μm以上のサイズを有する粒子のマイクロキャリア粒子数は、10粒子未満、例えば、0、1、2、3、4、5、6、7、8、又は9(前述のいずれかの間の範囲を含む)である。実施形態では、マイクロキャリアの消化後に25μm以上のサイズを有する粒子のマイクロキャリア粒子数は、1粒子未満、例えば、0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、又は0.9(前述のいずれかの間の範囲を含む)である。
【0057】
本明細書で定義されるように、「湿ったビーズ」の体積は、デカンテーション又は遠心分離後のビーズ床の体積である。ビーズ床は、膨潤したビーズと間隙水(すなわち、膨潤したビーズ間に存在する水)を含む。測定によれば、湿ったビーズは、70体積%の膨潤したビーズと30体積%の間隙水を含む。膨潤したビーズは、1%PGA溶液では99%の水、2%PGA溶液では98%の水、3%PGA溶液では97%の水などを含む。
【0058】
例として、3%(w/v)PGAゾルから調製されたマイクロビーズは、平衡状態で約1.48g/lのカルシウムイオンを含んでいる。10分未満でのマイクロビーズの完全な消化は、5倍の体積の消化溶液(ビーズの体積と比較して)を使用した、少なくとも10mMのEDTA及び少なくとも50Uの酵素への曝露によって生じる。
【0059】
細胞接着
PGAビーズは、ヒドロゲルの性質及び負電荷に起因して、特定の処理なしでは細胞接着を容易に支援しない。足場依存性細胞の接着を促進するために、マイクロビーズにコーティング又は他の表面処理を施すことができる。例として、PGAビーズは、細胞接着を促進する部分、例えばRGD配列を含むものなどのペプチドで官能化することができる。
【0060】
さらなる候補ペプチドには、インテグリンファミリーのタンパク質によって潜在的に認識される、又は細胞接着を維持することができる細胞分子との相互作用をもたらすアミノ酸配列を含むものが含まれる。例には、BSP、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ラミニン、I型及びIV型コラーゲン、変性コラーゲン(ゼラチン)、及び同様のペプチド、並びにそれらの混合物が含まれる。さらなる例となるペプチドは、それぞれ、次の配列を有するBSP及びビトロネクチン(VN)ペプチドである:Ac-Lys-Gly-Pro-Gln-Val-Thr-Arg-Gly-Asp-Val-Phe-Thr-Met-Pro-NH2(配列番号1)、及びAc-Lys-Gly-Gly-Asn-Gly-Glu-Pro-Arg-Gly-Asp-Thr-Tyr-Arg-Ala-Tyr-NH2(配列番号2)。
【0061】
実施形態では、マイクロビーズは、細胞接着を促進する組換えタンパク質で表面が官能化されており、これは、グラフトするか、又はコーティングとして施すことができる。例となる組換えタンパク質には、ProNectin(登録商標)及び「ProNectin」plusという商品名で販売されているフィブロネクチン様の操作されたタンパク質が含まれるが、足場依存性細胞の接着を促進する他の組換えタンパク質を使用することもできる。
【実施例】
【0062】
実施例1。3%カルシウムで架橋した1%PGAマイクロビーズ。
【0063】
マイクロビーズは、ポリガラクツロン酸ナトリウム塩(Sigmaカタログ番号#P3850)を80~85℃で一定の撹拌下で水中に溶解することにより、ポリガラクツロン酸(PGA)の1質量%溶液から調製した。溶液を真空下で20マイクロメートルのポリプロピレンフィルタを使用して濾過し、懸濁液中の粒子を排除した。
【0064】
ゲル化浴は、マグネチックスターラーを使用して撹拌された、400mlの3%w/vの塩化カルシウム水/エタノール(75/25v/v)溶液を使用して別のビーカーで生成した。
【0065】
液滴は、30ゲージの針を備えたシリンジを使用してゲル化浴に25mlのPGA溶液を添加することによって生成した。約2バールのシリンジ圧力を印加した。
【0066】
ビーズを塩化カルシウム浴中で120分間硬化させた後、水で4回洗浄した。ビーズ内のカルシウム含有量を、実施例9に記載されるように決定した。4回のすすぎの後、カルシウム濃度は、湿ったビーズの約0.5~0.6g/lであった。
【0067】
ビーズは、コーティング前に、4℃で滅菌容器内の滅菌水中で保存した。ビーズは、観察可能な表面欠陥がなく、非常に透明であった。
【0068】
5mM EDTA/50Uペクチナーゼと25℃で接触させると、ビーズは5分以内に完全に溶解した。
【0069】
実施例2。12%カルシウムで架橋した1%PGAマイクロキャリア
3%w/v塩化カルシウム水/エタノール(75/25v/v)溶液を12%w/v塩化カルシウム水/エタノール(75/25v/v)溶液に置き換えたことを除き、実施例1からの手順を繰り返した。4回のすすぎの後、カルシウム濃度は、湿ったビーズの約0.5~0.6g/lであった。ビーズは、観察可能な表面欠陥がなく、非常に透明であった。
【0070】
5mM EDTA/50Uペクチナーゼと25℃で接触させると、ビーズは5分以内に完全に溶解した。
【0071】
実施例3。3%カルシウムで架橋した1.5%PGAマイクロキャリア
ポリガラクツロン酸の1.5質量%溶液及び4バールの圧力を使用したことを除き、実施例1からの手順を繰り返した。
【0072】
4回のすすぎの後、カルシウム濃度は、湿ったビーズの約0.7~0.8g/lであった。ビーズは、観察可能な表面欠陥がなく、非常に透明であった。
【0073】
実施例4。12%カルシウムで架橋した1.5%PGAマイクロキャリア
3%w/v塩化カルシウム水/エタノール(75/25v/v)溶液の代わりに12%w/v塩化カルシウム水/エタノール(75/25v/v)溶液を使用したことを除き、実施例3からの手順を繰り返した。
【0074】
4回のすすぎの後、カルシウム濃度は、湿ったビーズの約0.7~0.8g/lであった。
【0075】
実施例5-a。3%カルシウムで架橋した2%PGAマイクロキャリア
ポリガラクツロン酸の2質量%溶液及び5バールの圧力を使用したことを除き、実施例1からの手順を繰り返した。PGA溶液を30℃に予熱し、25℃で維持されたゲル化浴中に30℃で噴射した。
【0076】
4回のすすぎの後、カルシウム濃度は、湿ったビーズの約0.9~1.0g/lであった。ビーズは、観察可能な表面欠陥がなく、非常に透明であった。
【0077】
実施例5-b。3%カルシウムで架橋した3%PGAマイクロキャリア
ポリガラクツロン酸の3質量%溶液及び6バールの圧力を使用したことを除き、実施例1からの手順を繰り返した。PGA溶液を40℃に予熱し、25℃で維持されたゲル化浴中に40℃で噴射した。
【0078】
4回のすすぎの後、カルシウム濃度は、湿ったビーズの1.48g/lであった。ビーズは、観察可能な表面欠陥がなく、非常に透明であった。
【0079】
5mM EDTA/50Uペクチナーゼと25℃で接触させると、ビーズは10分以内に完全に溶解した。
【0080】
実施例6。12%カルシウムで架橋した2%PGAマイクロキャリア
12%w/v塩化カルシウム水/エタノール(75/25v/v)溶液を使用したことを除き、実施例5-aからの手順を繰り返した。
【0081】
4回のすすぎの後、カルシウム濃度は、湿ったビーズの約0.9~1.0g/lであった。
【0082】
実施例7。グルタルアルデヒドで架橋された0.1%ゼラチンでコーティングしたPGAビーズ。
【0083】
最初に0.5g(タイプA)のブタ皮膚(Sigma#G1890)を20mlの水に浸し、次に480mlの加熱水(60℃~80℃)を加えることによって、0.1%ブタ皮膚ゼラチン溶液を調製した。
【0084】
実施例1~6に従って調製された10ミリリットルのPGAビーズを遠心分離によって収集し、これに10mLのブタゼラチン溶液を加えた。得られた混合物を穏やかに振とうし、25℃で60分間インキュベートした。上清を除去し、ビーズを水で1回洗浄した。
【0085】
ゼラチンコーティングを架橋するために、25%ストック溶液(Sigma C5882)から調製した100mlの0.05%グルタルアルデヒド溶液をビーズ床に加え、穏やかに振とうしつつ、23℃で1時間インキュベートした。続いて、ビーズを水で3回すすぎ、滅菌容器内で、4℃で保存した。
【0086】
実施例8。「Synthemax」II-SC合成共重合体表面を有するPGAビーズ
実施例1に従って調製した約9mlの膨潤したビーズを、50mlのプラスチック遠心用チューブに入れた。Corning Incorporated社の「Synthemax」II-SC表面を形成するために、接着促進ペプチドの0.25mg/ml水溶液36mlをビーズに添加した。チューブを穏やかに振とうし、40℃で30分間静置し、合成共重合体でビーズを官能化させた。冷却後、官能化ビーズを脱イオン水で3回洗浄した。ビーズは滅菌容器に入れて4℃の水中で保存した。
【0087】
実施例9。カルシウム滴定
カルシウム含有量を定量化するために、1mlのPGAビーズを10mlの5mM EDTA/50Uペクチナーゼ溶液と組み合わせることによって消化させた。懸濁液を激しく振とうし、消化が完了するまで穏やかに振とうしつつ、25℃で1時間放置した。
【0088】
ビーズのカルシウム含有量は、誘導結合プラズマ発光分析(Axial ICP-OES、Varian720 ESツール)で定量化した。分析するサンプルは、消化したビーズを含む溶液100μlを9.9mlの1%HNO3で希釈することによって調製した。較正曲線は、各サンプルで行ったようにHNO3で希釈した1g/lの標準水溶液から調製された、既知のカルシウム濃度の溶液を使用して作成した。
【0089】
実施例10-a。ペプチド共重合体でコーティングしたマイクロキャリアを用いたhMSCの静的培養
実施例2に従って調製され、実施例8に従って「Synthemax」II-SC共重合体表面を備えたビーズを、70%エタノール/水で清浄化し、リン酸緩衝生理食塩水(dPBS)で2回、次にMesenCult(商標)-XF完全培地(MC-XF)ですすいだ。骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)培養は、24ウェルULAプレート内のMC-XFで、静的条件下で行った。細胞を100k細胞/ウェルで播種した。50Uペクチナーゼ/5mM EDTAで5分間処理することにより、マイクロキャリアから細胞を採取した。播種2日後の細胞形態を
図1に示す。播種4日後の細胞形態を
図2に示す。
【0090】
実施例10-b。ゼラチンでコーティングしたマイクロキャリアを用いたhMSCの静的培養
ビーズを実施例4に従って調製し、実施例7に従ってゼラチンでコーティングした。
図3は、24ウェルプレート内に100k細胞/ウェルで播種して2日後のヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)の接着及び増殖の例となる位相差顕微鏡画像を示している。
【0091】
実施例11。ゼラチンでコーティングしたPGAマイクロキャリアでのベロ細胞の増殖
実施例2に従って調製し、実施例7に従ってコーティングした、ゼラチンコーティングした外部架橋1%PGAマイクロキャリア上で連続的に撹拌しつつ、ベロ細胞を培養した。
【0092】
ビーズを最初に70%エタノール/水で清浄化し、リン酸緩衝生理食塩水(dPBS)で2回、次に(IMDM+10%FBS+5mlペニシリンストレプトマイシン+5mlのGlutamax(商標)培地)ですすいだ。
【0093】
細胞培養は、培養培地として10%FBS+5mlペニシリンストレプトマイシン+5mlの「Glutamax」培地を添加したIMDMを使用して、Corning ncorporated社の使い捨てスピナーフラスコ内で行った。フラスコに、2時間撹拌せずに1Mのベロ(p5)を播種し、続いて連続的に撹拌した。継代数の指定(p#、この例では「p5」)は、細胞を産生するために用いられる増殖及び採取サイクルの数(#)(すなわち、細胞が培養において有していた分裂数)を示している。
【0094】
5日目の細胞採取は、10mLの50U/mlペクチナーゼ、5mM EDTAを使用して行った。
【0095】
図4は、播種から4日後のベロ細胞の接着及び増殖の例となる位相差顕微鏡画像を示している。倍数増殖データを
図5に示す。
【0096】
実施例12。ゼラチンでコーティングしたPGAマイクロキャリアでのMRC5細胞の増殖
実施例2に従って調製し、実施例7に従ってコーティングした、ゼラチンコーティングした外部架橋1%PGAマイクロキャリア上で断続的に撹拌しつつ、ヒト胎児肺線維芽(MRC5)細胞を培養した。
【0097】
ビーズを最初に70%エタノール/水で清浄化し、リン酸緩衝生理食塩水(dPBS)で2回、次に(IMDM+10%FBS+5mlペニシリンストレプトマイシン+5mlの「Glutamax」培地)ですすいだ。
【0098】
細胞培養は、培養培地として10%FBS+5mlペニシリンストレプトマイシン+5mlの「Glutamax」培地を添加したIMDMを使用して、Corning ncorporated社の使い捨てスピナーフラスコ内で実施した。一晩撹拌せずに、フラスコに1MのMRC5細胞(p4)を播種し、続いて断続的に撹拌した(2時間あたり1/4時間)。
【0099】
5日目の細胞採取は、10mLの50U/mlペクチナーゼ、5mM EDTAを使用して行った。
【0100】
図4は、播種から4日後のMRC5細胞の接着及び増殖の例となる位相差顕微鏡画像を示している。倍数増殖データを
図6に示す。
【0101】
図4の顕微鏡写真は、ベロ細胞及びMRC5細胞がPGAマイクロキャリアに接着し、コンフルエンスに達することができたことを示している。
【0102】
実施例13。ペプチド共重合体でコーティングしたマイクロキャリア上でのhMSC細胞の増殖
hMSC細胞は、実施例1に記載されているように調製し、実施例8に従って「Synthemax」II-SC共重合体表面を備えた、外部架橋したPGAビーズ上で連続的に撹拌しつつ、培養した。
【0103】
ビーズを最初に70%エタノール/水で清浄化し、リン酸緩衝生理食塩水(dPBS)で2回、次に、「MesenCult」-XF完全培地(MC-XF)ですすいだ。細胞を1M細胞/フラスコで播種し、MC-XFを使用してCorning Incorporated社の使い捨てスピナーフラスコ内で細胞培養を行った。
【0104】
10mlの50Uペクチナーゼ/5mM EDTAで5分間処理することにより、7日目にマイクロキャリアから細胞を採取した。倍数増殖データを
図7に示す。
【0105】
実施例14。ペプチド共重合体でコーティングしたマイクロキャリア上でのhMSC細胞の増殖
実施例5-aに記載されるように調製し、実施例8に記載されるようにCorning SynthemaxII合成ペプチド共重合体表面を備えた、2%PGA溶液から調製した外部架橋PGAビーズを使用したことを除き、実施例13に記載されているような連続的な撹拌下でのhMSC細胞の増殖を繰り返した。倍数増殖データを
図7に示す。
【0106】
実施例15。ゼラチンでコーティングしたマイクロキャリア上でのhMSC細胞の増殖
hMSC細胞は、実施例1に記載されるように調製し、実施例7に記載されるようにゼラチンでコーティングした外部架橋PGAビーズ上で連続的に撹拌しつつ、培養した。
【0107】
ビーズを最初に70%エタノール/水で清浄化し、リン酸緩衝生理食塩水(dPBS)で2回、次に、「MesenCult」-XF完全培地(MC-XF)ですすいだ。細胞を1M細胞/フラスコで播種し、MC-XFを使用してCorning Incorporated社の使い捨てスピナーフラスコ内で細胞培養を行った。
【0108】
10mlの50Uペクチナーゼ/5mM EDTAで5分間処理することにより、7日目にマイクロキャリアから細胞を採取した。倍数増殖データを
図7に示す。
【0109】
実施例16。ゼラチンでコーティングしたマイクロキャリア上でのhMSC細胞の増殖
実施例5-aに記載されるように調製し、実施例7に記載されるようにゼラチンでコーティングした外部架橋ゼラチンコーティングPGAビーズを使用したことを除き、実施例15に記載されるように連続的な撹拌条件下でのhMSC細胞の増殖を繰り返した。倍数増殖データを
図7に示す。
【0110】
実施例17。PGAマイクロキャリアの化学的安定性
マイクロキャリアビーズの化学的安定性は、1mlの膨潤したビーズと5mlのダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(dPBS)(1X)を含むプラスチックの遠心用チューブに加えることによって評価した。チューブを37℃で24時間インキュベートした。24時間後のビーズの体積は、最初の体積に匹敵しており、ビーズがリン酸緩衝液に溶解しないことを示した。
【0111】
実施例18。
【0112】
単分散マイクロキャリアビーズは、電磁駆動の層流ジェットノズルシステム(スイス国チューリッヒ所在のNisco Engineering AG社)を使用して、1.5質量%PGA溶液から生成した。システムは、100μmのノズルを具備している。周波数は2.5kHzに設定し、振幅は100%に設定した。約3psi(約20.68kPa)の圧力を印加することによって生成される溶液の流量は、約100ml/時であった。
【0113】
ノズルは、ゲル化浴(50:50v/vの水/エタノール中、4質量%のCaCl2溶液)の表面から約7.5cm上に配置した。浴を連続的に撹拌した(170rpm)。
【0114】
得られたマイクロビーズは、240±15μmの平均直径を有しており、これは6.25%の変動係数(CV)に対応する。この狭いサイズ分布が
図9に示されている(倍率:4X)。
【0115】
100mlの代わりに50mlの0.05%グルタルアルデヒド溶液を使用したことを除き、ビーズを、実施例7に記載されるようにゼラチンコーティングし、該ゼラチンコーティングを架橋した。
【0116】
実施例10-c。ゼラチンでコーティングしたマイクロキャリアを用いたMRC5の静的培養
ヒト胎児肺線維芽(MRC5)細胞を、実施例18に従って調製し、ゼラチンでコーティングしたマイクロビーズ上で、静的条件で培養した。培養培地として10%FBSを添加したIMDMを使用して、細胞を24ウェルULAプレートに100k細胞/ウェルで播種した。播種1日後の細胞形態が、
図10の位相差顕微鏡画像に示されている。
【0117】
実施例19。PGAマイクロキャリアへのビトロネクチンペプチドのグラフト
実施例18に従って調製した約3mlの膨潤したビーズを、15mlのプラスチック遠心用チューブに入れた。200mMのN-エチル-N’-(3-(ジメチルアミノ)プロピル)カルボジイミド(EDC)及び50mMのN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を含む水溶液を12ミリリットル加えた。チューブを23℃で30分間穏やかに撹拌し、PGAビーズ内のカルボン酸基を活性化した。活性化されたマイクロキャリアを遠心分離によって収集し、10mlの脱イオン水で3回すすいだ。
【0118】
すすいだマイクロキャリアを、49mgのビトロネクチンペプチド(Ac-Lys-Gly-Pro-Gln-Val-Thr-Arg-Gly-Asp-Val-Phe-Thr-Met-Pro-NH2;カタログ番号:341587、American peptide社から入手可能)を含む、12mlのホウ酸緩衝液(pH9.2)に再懸濁した。懸濁したマイクロキャリアを穏やかに撹拌しつつ、30分間反応させた。
【0119】
ペプチドがコンジュゲートしたマイクロキャリアを遠心分離によって収集し、10mlのPBS緩衝液、pH7.4で3回洗浄した。過剰の活性エステルは、12mlの1Mエタノールアミン(pH8.4)で60分間ブロッキングすることによって失活させた。
【0120】
ペプチドでグラフト化し、ブロックしたマイクロキャリアを収集し、PBSで3回すすいだ。過剰なPBSを除去した後、マイクロキャリアをエタノール/水(70/30v/v)で2回すすぎ、細胞培養の前に滅菌容器内に4℃で保存した。
【0121】
実施例10-d。VNグラフト化マイクロキャリアを使用したhMSCの静的培養
ヒト間葉系幹細胞(hMSC 2637、p3)を、実施例19に従って調製されたVNグラフト化マイクロキャリアビーズ上で、静的条件で培養した。細胞を、24ウェルULAプレートに50k細胞/ウェルで播種した。
図12は、播種から24時間後の無血清培地(Mesencult XF)中のhMSC細胞を示す位相差画像である。
【0122】
実施例10a~10dからのデータは、完全に合成されたマイクロキャリア及びゼラチンでコーティングしたマイクロキャリアがそれぞれ、hMSCの接着及び増殖を支援することを示している。
【0123】
実施例20。外部ゲル化を使用した異なるサイズの溶解性マイクロキャリアの生成
ポリガラクツロン酸ナトリウム塩を2%、水に溶解した。外部ゲル化は、NISCO単一ノズル振動カプセル化システムを使用して処理した。エタノール及び水の1:1(v/v)混合に溶解した4%CaCl2に、ビーズを滴下した。目標サイズ範囲のため、表Iに従って、さまざまなサイズのノズル、流量、及び振動周波数を使用した。
【0124】
【0125】
実施例21。沈降時間の測定及び分析
沈降速度を評価するため、異なるサイズのマイクロキャリアの実施形態を、3つの市販のマイクロキャリア:Cytodex(登録商標)-1(米国ペンシルベニア州ピッツバーグ所在のGE Healthcare Bio-Sciences社から市販される架橋デキストランをベースとしたマイクロキャリア)、SoloHill(登録商標)P102-1521(米国ニューヨーク州ポートワシントン所在のPall Corporation社から市販されるプラスチック架橋ポリスチレンマイクロキャリア)、及びHillex(登録商標)II(米国ニューヨーク州ポートワシントン所在のPall Corporation社から市販される変性ポリスチレンマイクロキャリア)と比較した。これら3種類の市販のマイクロキャリアは、ヒドロゲルから固体プラスチックまでの範囲であり、1.02から1.09までの範囲の密度を有する。以下により詳細に説明するように、光学密度(OD)を測定し、懸濁液中のビーズの濃度の決定に使用した。マイクロキャリアは、不明瞭化に起因して可視光を遮断しうる。概して、低いODは、懸濁液中の低濃度のマイクロキャリアと相関している。
【0126】
ODを測定する方法は、さまざまな段階でビーズをキュベット内で沈降させることを包含する。用いられる光路では、キュベットの底部が閉じられうる。マイクロキャリアビーズが溶液から沈降する期間にわたり、ODが変化しうる。概して、測定の開始時には、マイクロキャリアビーズは溶液中に完全に懸濁され、光は最高レベルで遮断される。マイクロキャリアビーズが沈降し始めると、マイクロキャリアビーズが同じ方向に移動するため、懸濁液の上部が透明になり始めるが、光路内のマイクロキャリアビーズの濃度は比較的変化しないままである。マイクロキャリアビーズが光路の上限を下回って沈降し始めると、ODは低下する。マイクロキャリアビーズが光路のほぼ中央に到達すると、ODは半分に低下する。マイクロキャリアビーズが光路のほぼ中央に到達する時間は、tmで表される。全懸濁液の高さ及び光路の位置が固定されている場合は、ビーズの沈降が速くなるほど、ビーズは小さくなる。沈降速度(本明細書ではvmで表される)は、マイクロキャリアが懸濁液の上部から光路の中央までの距離(本明細書ではlmで表される)を移動する時間(本明細書ではtmで表される)によって推定することができる。
これは、式(1)で表すことができる:
【0127】
【0128】
不均一なサイズを有するマイクロキャリアビーズの母集団では、異なるサイズのマイクロキャリアビーズに対して異なる沈降速度が予想される。そのため、沈降速度vmは、母集団の媒体沈降速度を表す。
【0129】
光路は幅(本明細書ではlwで表される)を有しており、マイクロキャリアビーズが幅lwを移動する時間(本明細書ではtwで表される)が存在する。マイクロキャリアビーズの母集団が均一な沈降速度を有する(すなわち、マイクロキャリアビーズが均一なサイズ分布を有する)場合には、式(2)に示されるように、光路の幅lwと沈降速度vmを使用してtwを推定することができる:
【0130】
【0131】
マイクロキャリアビーズの母集団が異なる沈降速度の分布を有している(すなわち、マイクロキャリアビーズが不均一なサイズ分布を有している)場合には、最も速く沈降するマイクロキャリアビーズは、最も遅く沈降するマイクロキャリアビーズよりも早く光路に到達する。最も速く沈降するマイクロキャリアビーズが光路を通過するとき、ODの低下が観察されるが、最も遅い沈降のマイクロキャリアビーズが光路を通過するまで、ODの完全な低下は観察されない。異なる沈降速度の分布を有するマイクロキャリアビーズの母集団は、均一な沈降速度を有するマイクロキャリアビーズの母集団よりも長いtwを示すであろう。したがって、twが短いほど、マイクロキャリアビーズの母集団の沈降速度がより均一になり、マイクロキャリアの母集団のサイズ分布がより均一になる。上記は、ODの変化の始点及び終点を決定することができると仮定しているが、このような始点及び終点を定義するのは難しい場合があるものと理解されたい。したがって、ODの変化の傾きを使用して、マイクロキャリアビーズの母集団の沈降速度の変動の大きさを表すことができる。
【0132】
実際には、沈降プロセスを完了するために、すべてのビーズが上清から完全に分離するのを待つことが好ましい。したがって、ODの完全な低下を観察するための時間(本明細書ではtで表される)は、最終的な沈降時間の推定には、より適切である。最終的な沈降時間は、マイクロキャリアビーズの母集団の平均沈降時間と、マイクロキャリアビーズの母集団の沈降時間の変動の両方を使用して決定することができる。定量測定では、最終的な沈降時間は、tm及びtwを使用するか、又はODの変化の傾きを使用して決定することができる。
【0133】
本実験では、3種類の市販のマイクロキャリアを再水和し、DPBS溶液に懸濁した。3つの異なるサイズ(250μm、350μm、及び450μm)を有する溶解性マイクロキャリア(DMC)を、実験1に記載されるように形成した。約0.5mlの充填されたマイクロキャリアを各キュベットに加えた。次に、DPBSを、総量が3.5mlになるようにキュベットに充填した。測定の直前に、マイクロキャリアを10回上下にピペッティングすることによって懸濁させた。ODを上記の方法に従って測定し、400nmの波長で測定した。他の可視波長も選択することができる。ODの測定を2.0秒ごとに行った。さまざまなタイプのマイクロキャリアが、さまざまな材料から形成され、さまざまな光学屈折率を有し、さまざまなサイズであり、かつさまざまな光学的透明度を有しているため、異なるサンプルを比較できるように、初期のODを使用して各サンプルの測定値を正規化した。
【0134】
3つのサイズのDMCを、3つの市販のマイクロキャリアと比較した。結果は、直径350μmのDMCは250μmのDMCの2倍の速さで沈降し、直径450μmのDMCは250μmのDMCの3倍の速さで沈降することを示していた。DMCのサイズを変更することにより、沈降速度を、異なる材料でできた、異なる密度を有する3つの市販のビーズの媒体沈降速度と一致させることができた。「Cytodex」-1及び「SoloHill」P102-1521マイクロキャリアと比較して、250μm及び350μmのサイズを有するDMCは、同等の媒体沈降速度を示したが、はるかに短いtw及びODの変化のより急な勾配を示した。実施例21により詳細に論じられるように、より短いtw及びODの変化のより急な勾配は、市販のマイクロキャリアと比較してより一貫した沈降速度を提供する、市販のマイクロキャリアよりも小さいサイズ分布の結果である。沈降時間tを比較すると、250μm及び350μmのサイズを有するDMCは、「Cytodex」-1及び「SoloHill」P102-1521マイクロキャリアよりも速く沈降し、これは、DMCが、市販のマイクロキャリアと比較して、沈降を完了するのにはるかに短い時間しか必要としないことを示唆している。
【0135】
実施例21。マイクロキャリアのサイズ分布及び曲率半径の分析
実施例20において250μmの目標サイズを有するマイクロキャリアに従って形成された溶解性マイクロキャリア(DMC)のサイズ分布及び曲率半径を、3つの市販のマイクロキャリア:「Cytodex」-1、「SoloHill」P102-1521、及び「Cytodex」-3(米国ペンシルベニア州ピッツバーグのGE Healthcare Bio-Sciences社から市販されている架橋デキストランをベースとしたマイクロキャリア)と比較した。マイクロキャリアのサイズは、光学顕微鏡でキャプチャした画像を分析するための既知の光学顕微鏡技術及びソフトウェアを使用して決定した。次に、決定したマイクロキャリアサイズから、式(3)を使用して曲率半径を計算した:
【0136】
【0137】
式中、Kは、マイクロキャリアの曲率半径であり、Rは、マイクロキャリアの半径である。各タイプのマイクロキャリアについて、表IIは、サイズ範囲d5-d95(ここで、d5は、マイクロキャリア母集団の5%の直径より大きいマイクロキャリア直径であり、d95は、マイクロキャリア母集団の95%の直径より大きいマイクロキャリア直径である)、サイズ範囲d10-d90(ここで、d10は、マイクロキャリア母集団の10%の直径より大きいマイクロキャリア直径であり、d90は、マイクロキャリア母集団の95%の直径より大きいマイクロキャリア直径である)、サイズの範囲Δd5-d95(d95とd5との差)、d5-d95の変動係数、サイズの範囲Δd10-d90(d90とd10との差)、及びd10-d90の変動係数を示している。
【0138】
【0139】
各タイプのマイクロキャリアについて、表IIIは、平均マイクロキャリア直径(d)、平均曲率半径(K)、d5における曲率半径、d95における曲率半径、及びd5からd95までの曲率半径の範囲(d5の曲率半径とd95の曲率半径との差)を示している。
【0140】
【0141】
表II及びIIIのデータは、本明細書に開示されるDMCが、3つの市販のマイクロキャリアよりも均一なサイズ分布及びより均一な曲率半径を有することを示している。前述のように、均一なサイズ分布は、ビーズを一定の速度で沈降可能にし、これは、培地交換又は培養産物の分離中に上清からマイクロキャリアをより予測可能に分離できるようにする。均一なサイズ分布及び均一な曲率半径は、マイクロキャリアごとに細胞を播種するのに利用可能な同じ表面積を提供し、細胞が同じ時間又は同様の時間にコンフルエンスに到達することができるようにする。
【0142】
実施例22。マイクロキャリア粒子数の分析
実施例20に記載されたマイクロキャリアに従って形成された溶解性マイクロキャリア(DMC)から生じるデブリ粒子数を、2つの市販のマイクロキャリア:「SoloHill」P102-1521及び「Cytodex」-3と比較した。粒子数を1mLあたり2粒子未満に低減するために、撹拌する前に、各タイプのマイクロキャリアを洗浄する複数のステップを行った。各タイプのマイクロキャリアについて、約1000cm2の量のマイクロキャリアを、別々のCorning(登録商標)125mLの使い捨てスピナーフラスコ(米国ニューヨーク州コーニング所在のCorning,Inc.から市販される)に入れ、約100mLのダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)に懸濁した。2つの使い捨てスピナーフラスコにDMCを充填した。マイクロキャリアを、室温で約60rpmの速度で合計6日間、連続的に撹拌した。使い捨てスピナーフラスコの一方のDMCを、本明細書に記載される方法に従って溶解し、他方の使い捨てスピナーフラスコのDMCは溶解しなかった。撹拌が完了した後、マイクロキャリアをDPBSから分離し、DPBS中の粒子数を、「注射液中の粒子状物質(Particulate Matter in Injections)」と題された米国薬局方及び国民医薬品集セクション788(USP<788>)に記載されている光遮蔽粒子計数法を使用して、HIAC 9703+粒子カウンタ(米国インディアナ州インディアナポリス所在のBeckman Coulter Life Sciences社から市販される)で測定した。USP<788>に示されるように、試験される単位中に存在する粒子の平均数が、10μm以上では1mLあたり25粒子を超えず、25μm以上では1mLあたり3粒子を超えない場合、調製は試験に準拠する。表IVは、非溶解性DMC及び溶解性DMCを含む各マイクロキャリアについて、1mLのDPBSあたり25μm以上のサイズを有する残留粒子の数を示している。表Vは、非溶解性DMC及び溶解性DMCを含む各マイクロキャリアについて、1mLのDPBSあたり10μm以上のサイズを有する残留粒子の数を示している。
【0143】
【0144】
【0145】
表IV及びVに示されるように、DMCが溶解性及び非溶解性の両方である場合、使い捨てスピナーフラスコで撹拌した後には、他の2つの市販のマイクロキャリアを撹拌した後よりも少ないDMC粒子が残っていた。これは、10μmを超えるサイズを有する粒子及び25μmを超えるサイズを有する粒子についても当てはまった。
【0146】
比較例1
非消化性「Cytodex」-3基質をPGAマイクロキャリアの代わりに使用したことを除き、ベロ細胞の培養を実施例11に記載されるように繰り返した。「Cytodex」-3ビーズの表面から細胞を分離するためにトリプシンを必要とした。倍数増殖データが
図5に要約されている。消化性マイクロキャリアを使用して得られた増殖は、「Cytodex」-3での増殖と同等である。
【0147】
比較例2
非消化性「Cytodex」-3基質をPGAマイクロキャリアの代わりに使用したことを除き、MRC5細胞の培養を実施例12に記載されるように繰り返した。「Cytodex」ビーズの表面から細胞を分離するためにトリプシンを必要とした。倍数増殖データが
図6に要約されている。消化性マイクロキャリアを使用して得られた増殖は、「Cytodex」-3での増殖と同等である。
【0148】
比較例3
図11は、国際公開第2014/209865号の実施例1による内部ゲル化によって形成されたビーズの位相差顕微鏡画像である。このビーズは、231±54μmの平均直径を有しており、これは、23%の変動係数(CV)に対応する。
【0149】
開示される方法は、望ましくない内包物及び表面欠陥がなく、非タンパク質分解細胞の分離及び採取を支援する、高透明性のPGAマイクロキャリアを調製するための安価で環境に優しい経路を提供する。
【0150】
PGA消化由来の副産物の特徴付け
溶解性マイクロキャリア消化の組成を示すために、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)を使用して、PGAポリマー消化副産物を、それらの分子量によって分離した。
図12は、各個別の試薬の結果(左)と、PGA及び塩のピークをより適切に分離するためのデータのクローズアップ(右)を示している。
図12に示されるように、各個別の試薬を対照として実施し、相対的な溶出プロファイル及び保持時間を決定した。このことから、214nmでの高い吸光度に起因して、ペクチナーゼ及びEDTAの強いピークを観察した。PGAピークの保持時間は2.1分と最も短く、これは分子量が最も高いことを示唆しており、ペクチナーゼは、2.2~3.0分の間に、複数の酵素成分の混合物と一致する複数のピークを示した。低分子量のPGAピークとペクチナーゼのピークとの間には幾つかの重複が存在しており、PGA由来のより大きい消化断片の検出を妨げている可能性がある。同様に、EDTAは、分子量が292.17ダルトンと比較的低いことに起因して、3.91分にピークを有していた;これにより、それぞれ194.14ダルトンと370.26ダルトンの予想分子量を有するPGAモノマー及びダイマーのピークの表示も隠されている可能性がある。
【0151】
PGAの小分子消化副産物をより良好に示すために、ペクチナーゼによるPGAポリマーの消化の分析を最初に行った。PGAポリマー及びペクチナーゼの溶液を、EDTAなしで混合した。
図13に示されるように、新しい周期的なピークが低分子量で生成しており、これは、それぞれが1つの残基によって分離された、消化されたガラクツロン酸オリゴマーの長さが異なる結果である可能性が最も高い。消化時間が長くなると、新しい低分子量のピークが強くなり、PGAオリゴマーが継続的に消化されて低分子量のオリゴマーになったことを示唆している。長時間経過すると、周期的なピークが消え、4.17分に強い低分子量のピークが生じた。この保持時間は、その分子量がEDTAの分子量よりも低く、ガラクツロン酸モノマーである可能性が高いことを示唆している。SECの移動相(例えば、ダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水又はDPBS)が、質量分析を使用した各ピークの分子量及び同一性の決定を妨げたため、エレクトロスプレーイオン化質量分析を使用して別の消化溶液を分析した。結果を
図14に示す。消化時間の増加に伴って、増強したピーク(m/z=193)が観察され(
図14)、PGAポリマーがモノマーへと完全に消化されるというSECのデータを裏付けている。質量分析(MS)データは、15分未満でのモノマーピークの急速な増加を支持するが、15~60分ではほとんど変化しなかった。対照的に、SEC分析では、10分後にモノマーピークの最大の増加を示した。理論に縛られることは望まないが、これは2つの潜在的な説明を示唆している:(1)消化が急速に起こり、MS対SECの異なる分析で用いられる異なるサンプル導入方法により、実時間に多少のずれが導入された可能性がある、及び(2)MSピーク強度は、SECの吸光度ほどサンプル濃度に定量的に反応しない可能性がある。
【0152】
次に、PGAポリマーの分解副産物をPGAマイクロキャリアの分解副産物と比較した。EDTAのみを添加した場合、マイクロキャリアはPGAポリマーへと解離した。
図15に示されるように、PGAは約2.10分でピークに達し、EDTAは3.91分及び4.03分でピークに達する。ペクチナーゼとEDTAの両方を添加した場合、マイクロキャリアの解離とPGAポリマーの消化が同時に起こった。追加のペクチナーゼピークは2.2~3.0分の間に示され、3.5分後に複数の周期的なピークが示され、これらは消化時間の増加とともに弱まり、また、PGAモノマーに対応する4.17分の単一の強いピークが示されている(
図15)。PGAポリマー由来のSECデータとは異なり、PGAオリゴマーのピークはEDTAピークから隠されることに起因して、3.85~4.10分の間で分離できなかった。
【0153】
カルシウム及びEDTAの濃度
PGAマイクロキャリアの溶解を促進するために、EDTAを添加して、カルシウムイオンを隔離及び捕捉し、それによってポリマーネットワーク及びビーズ構造を不安定にすることができる。したがって、ビーズの溶解時に放出されるカルシウムイオンの予想量と放出されたカルシウムイオンを隔離するために必要なEDTAの量をよりよく理解するために、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)をSECと組み合わせる。以下の「方法」のセクションで説明するように、サンプルを両方の分析で同様に調製した。ICP-MSで測定したカルシウム含有量は90~110mg/Lであり、又は消化溶液中のカルシウムイオンは約2.25~2.75mMであった(データは示さず)。SECデータは、4mMのEDTAを含む消化溶液で3.91分にEDTAピークが約60%減少することを示した(データは示さず)。これは、放出されたカルシウム量のICP-MSの結果とよく一致している。このデータは、溶解したマイクロキャリアから放出されたカルシウムのほとんどがEDTAに結合しており、EDTAが4mMで過剰であることを示唆している。既存の消化プロトコルでは、ビーズの迅速な消化を確実にするために、10mMのEDTAが推奨されうることに留意されたい。しかしながら、この開示の実施形態によれば、上記のデータによって証明されるように、はるかに低いEDTA濃度をビーズの溶解に使用することができる。
【0154】
回収された細胞からの可溶性消化成分の除去
溶解性マイクロキャリア消化産物は、小さいPGAオリゴマー(モノマー)、EDTA、カルシウム、及びペクチナーゼを含む。これらの成分を細胞からどのように分離することができるかを示すために、本開示の方法の幾つかの実施形態に従って、回収後、一連の洗浄及び遠心分離サイクルを使用した。「方法」のセクションにおいて説明され、
図16に示されているように、遠心分離によって、溶解したマイクロキャリアから細胞を回収し、各洗浄サイクルからの上清の75%をUV-VIS分光法で分析した。個々の消化溶液試薬のUV-VISスペクトルを
図17Aに示す。4つの異なる波長での光学密度(OD)を使用して、異なる成分の特徴的なスペクトルを表した:215nm(通常、一般的な有機物に使用);260nm(通常、DNAに使用);280nm(通常、タンパク質に使用);及び、可視色での400nm。215nmでのODは、過飽和に起因して、希釈されていないサンプルでは不正確であった;したがって、1:10希釈を定量比較に使用した(
図17B)。
図17Cに示されるように、各試薬は、選択した4つの波長でのODの独自の組合せを有していた;これらのOD間の比率を使用して、消化溶液中の各試薬を特定し、
図17Dに示されるように、それらの濃度をさらに定量化した。実験サンプルの各波長におけるOD値は、個々の消化試薬及びPGAの付加的なODと一致した。
【0155】
さらには、各洗浄/遠心分離サイクルでのODの低下は、理論上の75%培地低減モデルと一致し、消化試薬及びマイクロキャリア副産物の除去が類似した希釈スキームに従っており、実施形態による一連の洗浄サイクルを通じて低減することができることを示している。これらの結果に基づいて、副産物がタンパク質(ペクチナーゼ)及び水溶性の小分子(PGAオリゴマー、EDTA)であることを考慮すると、タンジェンシャルフロー濾過又は他の一般的に用いられる細胞精製方法は、これらの副産物を除去することが可能であろう。
【0156】
PGAマイクロキャリアの溶解の可溶性副産物は、洗浄によって低減又は除去する必要がある。しかしながら、接着基質である「Synthemax」II(細胞外マトリクスタンパク質(ECM)からの合成ペプチドである、ビトロネクチン)、又は変性コラーゲンの最終結末は、以前は不明であった。したがって、細胞上の残留ペプチドを、細胞密度の関数として抗「Synthemax」II抗体を使用して測定した。簡単に説明すると、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)を、細胞濃度を、ウェルあたり15×103、30×103、及び60×103個の細胞に増加させて、「Synthemax」II(S2)溶解性マイクロキャリア(DMC)に播種した。変性コラーゲン(DC)DMCに、陰性対照として1ウェルあたり60×103個の細胞を播種した。細胞を5日間増殖させ、その後、ペクチナーゼ及びEDTAの消化溶液とともに採取した。消化された細胞懸濁液を、方法に記載されているように抗「Synthemax」II抗体で免疫染色した。播種されていないDMCにも同じ方法を使用して染色した。
【0157】
図18に示されるように、「Synthemax」II染色は、陰性対照の変性コラーゲンビーズ(NDC)と比較した場合、播種されていない「Synthemax」II DMC(NSM)で明らかであった。同様に、DC DMC(DC60)から採取した細胞では、低いバックグラウンド蛍光が観察された。対照的に、「Synthemax」II免疫検出に対応する蛍光は、「Synthemax」II DMC(S2 15、30、及び60)から採取した細胞で観察された。全体的な蛍光シグナルは細胞密度とともに増加した;しかしながら、細胞ごとに検出される「Synthemax」IIの量は、分光光度計を使用して測定した定量的蛍光強度に基づいて、さまざまな条件にわたって同様であった(
図19)。さらには、蛍光強度を「Synthemax」II DMCの全蛍光に正規化した場合(
図19の下方のグラフ)、採取した細胞と結合した「Synthemax」IIの量は、消化前にマイクロキャリア上に存在する全「Synthemax」IIの1~6%であった。
【0158】
幾つかの実施形態によれば、マイクロキャリアを消化する方法は、マイクロキャリアの消化中に標準的な細胞培養プロテアーゼを含み、細胞-ECMネットワークの破壊を促進し、単一細胞懸濁液を促進することができる。ペクチナーゼ/EDTA消化溶液にトリプシンを添加すると、採取した細胞と結合している「Synthemax」IIの量が減少するかどうかを決定するために、幾つかの採取条件を比較した:ペクチナーゼ/EDTA(NSM PE)、トリプシン単独(NSM トリプシン)、トリプシン/ペクチナーゼ/EDTA(NSM TPE)、及び最初に細胞がビーズから分離し始めるまではトリプシン、次にペクチナーゼ/EDTA(NSM T+PE)。次に、以前に行ったように、条件を抗「Synthemax」II抗体で免疫染色し、
図20に示すように、蛍光顕微鏡を使用してサンプルを視覚化した。細胞採取プロセス中にトリプシンを使用すると、「Synthemax」IIに対応する蛍光強度が大幅に低下した。さらには、トリプシンとそれに続くペクチナーゼ/EDTA溶液による前処理では、トリプシン/ペクチナーゼ/EDTAの並行処理と比較して、「Synthemax」IIのシグナルが少なくなった。
【0159】
さらには、
図16に示されるように、モック消化溶液を一連の遠心分離及び洗浄サイクルに曝露して、DMC消化溶液で可溶性SynthemaxIIペプチドを検出できるかどうかを決定した。各洗浄サイクルからのサンプルの抗「Synthemax」II抗体のドットブロット分析に基づいて、「Synthemax」IIを、元の消化溶液、洗浄1、及び洗浄2で検出した(
図21)。微量の「Synthemax」IIが洗浄3で検出され、これは、「Synthemax」IIの段階希釈に基づき、検出限界で、約100pg(20ng/mLの5μLブロット)と見なした。これらの結果により、マイクロキャリア希釈の可溶性副産物は洗浄によって除去又は低減することができ、少量の「Synthemax」II(<6%)のみが、回収された細胞と結合していることが確認される。
【0160】
消化成分が細胞増殖に与える影響
消化副産物と試薬がその後の細胞増殖に与える影響を実証するために、変性コラーゲンDMC上のベロ細胞を回収してペレット化し、消化溶液を完全に除去し、次いで、回収した消化溶液の希釈液(1:5~1:100)を含む新鮮な培地でT75フラスコに再播種した。細胞の接着及び増殖を数日間モニタした。
図22Aに示されるように、ベロ細胞の増殖は、低希釈(1:5~1:10)の採取溶液の存在によって大きな影響を受け、1:40希釈までは増殖の軽度の阻害が観察された。これらの結果は、細胞増殖を阻害する成分が消化溶液中に存在していることを示唆している。DMC上でのベロ細胞の再播種に対するペクチナーゼ及びEDTAの影響をさらに調査するため、ペクチナーゼ(10~100U/mLの最終濃度)又はEDTA(1~5mMの最終濃度)を、溶解性マイクロキャリアを含む使い捨てスピナーフラスコにスパイクした。次に、ベロ細胞を10,000細胞/cm
2で各スピナーフラスコに加えた。3日目に細胞を回収し、定量した。
【0161】
図22Bに示されるように、細胞培養培地にペクチナーゼが≧40U/mLの濃度で存在すると、結果的に細胞収量が減少し、細胞濃度は、最高で30U/mLまでのペクチナーゼ濃度では最小限の影響しか受けなかった(10%未満の減少)。したがって、幾つかの実施形態によれば、消化溶液を、1:3を超えて希釈して、ペクチナーゼに起因する細胞増殖の阻害を最小限に抑えることができる。同様に、EDTAは細胞増殖に大きい影響を及ぼし、≧2mMの濃度は、DMCの完全性に影響を及ぼし、これはDMCの溶解をもたらした(
図22C)。したがって、EDTAの影響を最小限に抑えるために、幾つかの実施形態によれば、最終濃度は1mM未満でありうる。
【0162】
さらには、細胞の再播種中に塩化カルシウムを添加してもEDTAを中和することはできず、細胞を播種する前にEDTAを含む細胞懸濁液で塩化カルシウムを事前に平衡化しても、影響はごくわずかであった(データは示さず)。これらの結果に基づき、再播種する前に、遠心分離、濾過、又は灌流によって細胞からマイクロキャリア消化溶液を除去するか、又は低濃度のペクチナーゼ及びEDTA(例えば、30U/mLのペクチナーゼ、1mMのEDTA)でマイクロキャリアの溶解を最適化することが推奨されよう。
【0163】
したがって、この開示の実施形態によれば、上記によって示されるように、マイクロキャリアの溶解から生じる可溶性成分には、以下のものが含まれる:PGAモノマー/オリゴマー、カルシウム、EDTA、ペクチナーゼ、及び表面コーティング。これらは、一連の洗浄/遠心分離サイクルを通じて、回収された細胞から低減又は除去することができる。また、少量(1~6%)の残留SynthemaxIIコーティングが、回収された細胞と結合したままであり、これはビーズ消化中にプロテアーゼ(例えば、トリプシン)を使用することによってさらに低減することができる。さらには、マイクロキャリアの消化に用いられる残留ペクチナーゼ及びEDTAは、その後の細胞増殖に悪影響を与える可能性があるため、方法は、細胞継代又は長期保存の前に、遠心分離、濾過、又は灌流によってこれらの成分を除去又は大幅に低減することができる。
【0164】
方法
サイズ排除クロマトグラフィでは、溶解したマイクロキャリアを次のように調製した:1mLの濃縮消化溶液(400U/mLのペクチナーゼ±40mMのEDTA)を、8mLのダルベッコの修正緩衝生理食塩水(DPBS)で希釈した、1mLの充填量の水和したDMCビーズ(又は、同程度の量のPGA材料を含む、1mLの1.75%PGA溶液)に加えた。UPLC-PDA Waters Acquity Hクラス機器を、次の設定で使用した:カラム=4.6×150mm、BEH 125 SEC(1.7μm);カラム温度=30℃;流量=0.4ml/分;移動相=20mMリン酸塩(pH5);及び、注入=10μl。
【0165】
質量分析では、サンプルをSECのときと同じように調製し、アセトニトリル/水混合液(1:9v/v)で希釈して、1:10,000の最終希釈を得た。HPLCグレードのアセトニトリル及び水は、FisherScientific社から購入した。エレクトロスプレーイオン化(ESI)-質量分析(MS)実験を、Agilent6560イオンモビリティ四重極飛行時間型システムを使用して実施した。Agilent社のイオンモビリティシステムは、フロントファンネル、トラッピングファンネル、ドリフトチューブ、及びヘキサポールを介してQ-TOF質量分析計に結合するリアファンネルで構成される。サンプルは、すべてのESI-MS実験で、5μL/分の流量でDual AJS(Agilentジェットストリーム)イオン化源に直接注入した。動作条件は以下の通りであった:ガス温度:300℃、乾燥ガス:7L/分、ネブライザ圧力:35psi(約241kPa)、シースガス温度:275℃、シースガス流量:12L/分、VCap:3500V、及びノズル電圧:2000V。データ取得は、50~1700m/zの質量範囲で収集した。得られた質量スペクトルはすべて、MassHunter Workstation Software、B.08.00バージョンを介して蓄積及び処理した。
【0166】
誘導結合プラズマ質量分析法では、サンプルは、SECについて行ったように調製し、クラス1,000クリーンルーム内に配置されたAgilent 7700s四重極誘導結合プラズマ質量分析計(Q-ICP-MS)を使用して分析した。サンプルは、内部標準として使用したインジウムを添加した、高純度の1%HNO3溶液を用いて希釈した。カルシウムは、反応モード(水素)でのみ測定した。ナトリウムは、ガスなしモード(アルゴンのみ)及び衝突モード(ヘリウム)で測定した。インジウムは3つのモードのすべてで測定した。必要に応じて、測定した濃度を較正曲線の線形範囲内に保つために、追加の希釈を行った。2回の測定の平均濃度を報告した。
【0167】
溶解性マイクロキャリアの副産物のクリアランス試験では、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)(RoosterBio社、カタログ番号MSC-001、細胞100万個)を、10%FBS(Corningカタログ番号35-074-CV)と2mMのL-グルタミン(Corningカタログ番号25-005)を添加した50mLのDMEM(Corningカタログ番号15-018-CM)を含む、125mLの使い捨てスピナーフラスコ(Corningカタログ番号3152)内の200cm2の「Synthemax」II溶解性マイクロキャリア(Corningカタログ番号4988)上で培養した。細胞を含まない二重のスピナーフラスコをモック対照として使用した。断続的な撹拌下で(30rpmで5分間、0rpmで6時間の3サイクル;Wheaton Micro-Stir Platformカタログ番号W900701-A)マイクロキャリアに付着した細胞;35rpmでの連続撹拌と、3日目及び5日目の半量培地交換を使用して、7日目まで細胞増殖を促進した。
【0168】
溶解したマイクロキャリアから細胞を採取するために、各スピナーフラスコの内容物を50mLのコニカルチューブに移し、ビーズを沈降させた。上清を除去し、培養物を20mLのDPBSで2回洗浄した。1×TrypLEと1:1で混合したDPBS中の50U/mLのペクチナーゼ(Sigma社、カタログ番号P2611)/5mM EDTA(Corning、カタログ番号46-034-CI)からなる消化溶液を、最終濃度が10cm2/mLになるように添加した。マイクロキャリア消化を、10分後に顕微鏡で確認した。次に、チューブを259×gで5分間、遠心分離した。遠心分離後、上清の75%を除去し、UV-Vis分光光度計(Laxco UV-vis、モデル番号:Alpha-1106)で測定した。サンプルの吸光度は、希釈せずに測定するか、又は3000μlのDPBS中に100μl(30×希釈)、又は300μl(10×希釈)を加えて希釈し、検出限界内で正確に測定できることを確保した。DPBSは、希釈培地とベースラインの両方に使用した。すべてのサンプルを、200nmから500nmまでスキャンした。次に、同量のDPBSを使用して、残りの液体(モックサンプル)又は細胞ペレットを再懸濁し、再度遠心分離した。このプロセスを、合計4回のDPBS洗浄/遠心分離ステップについて繰り返した。
【0169】
DMC溶解後のhMSCの免疫染色では、ヒト間葉系幹細胞を、ULA6ウェルプレート(Corningカタログ番号3471)の1ウェルあたり10mgの溶解性マイクロキャリアに播種し、所望の細胞密度(15,000~60,000細胞/ウェル)が達成されるまで、細胞をマイクロキャリアに接着させ、増殖させた。細胞を採取するために、マイクロキャリアを15mLのチューブに移し、使用済み培養培地を除去し、DPBSで洗浄した。洗浄液を廃棄し、50U/mLのペクチナーゼ及び5mMのEDTAを含む採取溶液を各懸濁液に添加した。完全なビーズ消化が10分後に観察された。トリプシン、ペクチナーゼ、及びEDTAを使用する細胞採取では、0.125%のトリプシン、5mMのEDTA、50U/mLのペクチナーゼからなる混合物2mLを添加した;一方、トリプシンとのインキュベーションとそれに続くペクチナーゼ及びEDTAを用いた処理では、1mLのトリプシン0.25%を添加し、5分間インキュベートし、次に、1mLの5mM EDTA及び50U/mLのペクチナーゼをさらに5分間、反応に加えた。放出された細胞を300×gで2分間ペレット化し、1mLのDPBSに再懸濁した。
【0170】
細胞の固定及び免疫染色のため、細胞ペレットを500μLの4%ホルムアルデヒドに再懸濁し、室温で10分間インキュベートした。細胞をペレット化し、DPBSで洗浄し、250μlの一次抗体溶液(DPBS中の抗SynthemaxIIポリクローナル抗体、1:1000希釈)に再懸濁した。一次抗体を室温で45分間、インキュベートした。細胞を1mLのDPBSで洗浄し、250μLの二次抗体溶液(DPBS中の抗ウサギAlexa 488 1:500)に、室温、暗所で45分間再懸濁した。細胞を1mLのDPBSで2回洗浄し、次に、488nmでの蛍光顕微鏡検査のために200μLのDPBSに再懸濁した。あるいは、100μLの染色細胞(又はビーズ)を96ウェルプレートに移し、分光光度計を使用して蛍光強度を定量した。播種されていないSynthemaxII及び変性コラーゲンビーズを顕微鏡用の同じプロトコルを使用して染色し、次いで、残りのビーズを蛍光測定のために2mLのペクチナーゼ/EDTA採取溶液に溶解した。
【0171】
可溶性「Synthemax」IIを検出するためのドットブロット分析では、「Synthemax」II溶解性マイクロキャリア(250mg)を標準プロトコルに従って水中で水和した。水を除去し、DPBS中、100U/mLのペクチナーゼ及び10mMのEDTAを含む30mLの消化溶液に交換した。10分後、溶解したビーズ溶液を125×gで10分間回転させた。上清を廃棄し、2mLだけを残した。この残りの溶液を希釈し、12mLのDPBSと混合した(洗浄1)。第2の遠心分離サイクルの後、上清を除去して1mLのみを残し、13mLのDPBSを加えた(洗浄2)。このシーケンスをさらに2回繰り返した。
【0172】
各洗浄液のサンプルを収集し、等量のSDS-PAGEランニングバッファと混合し、5μLをニトロセルロース膜上に点在させた。同様に、「Synthemax」IIペプチドの段階希釈液を、対照として、濃度の比較のためにブロットした。ブロットしたサンプルを乾燥させた後、膜を、TBS-Tweenバッファ中の5%粉乳で30分間飽和させ、洗浄し、抗「Synthemax」II抗体(TBS Tweenで1:1000希釈)とともに2時間インキュベートし、洗浄し、ペルオキシダーゼと結合した抗ウサギ二次抗体とともに1時間インキュベートした。最終的な洗浄の後、ECL基質を使用して、「Synthemax」IIペプチドを可視化した。
【0173】
消化溶液試薬の存在下でのベロ細胞の増殖のために、ベロ細胞を125mLの使い捨てスピナーフラスコ内で、1cm2あたり10,000細胞で3~5日間、変性コラーゲンDMCに播種した。細胞を採取し、培養物を遠心分離して採取溶液を完全に除去した。細胞を、採取溶液の希釈液(1:2から1:100希釈まで)を含む培養培地のT-75フラスコに再播種した。細胞をTフラスコで5~6日間培養した。細胞の画像を毎日キャプチャした。接着した細胞は、ViCell自動セルカウンタを使用して培養期間の終わりに定量化した。
【0174】
マイクロキャリアでの細胞増殖に対するペクチナーゼ及びEDTAの効果を決定するために、ペクチナーゼ(10~100U/mLの最終濃度)又はEDTA(1~5mMの最終濃度)を各スピナーフラスコにスパイクした後、細胞を添加した(10,000細胞/cm2)。細胞接着及び細胞増殖段階の間、細胞を連続的に混合した。DMCの画像を毎日キャプチャした。3日目又は5日目に細胞を採取し、定量した。
【0175】
例示的な実装形態
以下は、開示された主題の実装形態のさまざまな態様の説明である。各態様は、開示された主題のさまざまな特徴、特性、又は利点のうちの1つ以上を含みうる。実装形態は、開示された主題の幾つかの態様を説明することを意図しており、すべての可能な実装形態の包括的又は網羅的な説明と見なされるべきではない。
【0176】
態様1は、二価カチオンで架橋されたポリガラクツロン酸化合物を含む基質であって、該ポリガラクツロン酸化合物がペクチン酸、部分的にエステル化されたペクチン酸、部分的にアミド化されたペクチン酸、及びそれらの塩のうちの少なくとも1つから選択される、基質を含み、該基質が、消化試薬によって、ガラクツロン酸モノマーと二価カチオンとを含む成分へと可消化性である、細胞培養物品を対象とする。
【0177】
態様2は、基質が球状又は実質的に球状である、態様1に記載の物品を対象とする。
【0178】
態様3は、基質が10~500マイクロメートルの直径を含む、態様2に記載の物品を対象とする。
【0179】
態様4は、二価カチオン濃度が基質の0.5~2g/lの範囲である、態様1から3のいずれかに記載の物品を対象とする。
【0180】
態様5は、二価カチオンが、カルシウム、マグネシウム、及びバリウムからなる群より選択される、態様4に記載の物品を対象とする。
【0181】
態様6は、基質の表面上に接着ポリマーをさらに含む、態様1から5のいずれかに記載の物品を対象とする。
【0182】
態様7は、接着ポリマーがポリペプチドを含む、態様6に記載の物品を対象とする。
【0183】
態様8は、接着ポリマーが基質の表面にグラフト又はコーティングされる、態様6又は態様7に記載の物品を対象とする。
【0184】
態様9は、ポリガラクツロン酸化合物がイオノトロピック架橋されている、態様1から8のいずれかに記載の物品を対象とする。
【0185】
態様10は、消化試薬がEDTA及び酵素のうちの少なくとも1つを含む、態様1から9のいずれかに記載の物品を対象とする。
【0186】
態様11は、酵素がペクチナーゼである、態様10に記載の物品を対象とする。
【0187】
態様12は、基質が消化されると、接着ポリマーの少なくとも一部が可溶性になる、態様6~8のいずれかに記載の物品を対象とする。
【0188】
態様13は、接着ポリマーの可溶性になる部分が、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、又は少なくとも約95%である、態様12に記載の物品を対象とする。
【0189】
態様14は、細胞を培養する方法であって、細胞を態様1から13のいずれかに記載の細胞培養物品を有する細胞培養培地と接触させるステップ、及び培地中で細胞を培養するステップを含む、方法を対象とする。
【0190】
態様15は、培養細胞を採取する方法であって、態様1から13のいずれかに記載の細胞培養物品の表面上で細胞を培養するステップ;及び、培養細胞をペクチナーゼとキレート剤との混合物と接触させて、細胞培養物品から細胞を分離するステップを含む方法を対象とする。
【0191】
態様16は、キレート剤がEDTAを含む、態様15に記載の方法を対象とする。
【0192】
態様17は、溶解性基質から培養細胞を採取する方法を対象とし、該方法は、基質を(i)キレート化剤、(ii)酵素、又は(iii)キレート化剤及び酵素に曝露することによって基質を消化することにより、基質から培養細胞を分離するステップであって、分離によって採取溶液がもたらされる、ステップ;並びに、分離後に採取溶液の成分の一連の洗浄及び/又は遠心分離サイクルを実行するステップであって、基質が、ペクチン酸、部分的にエステル化されたペクチン酸、部分的にアミド化されたペクチン酸、及びそれらの塩のうちの少なくとも1つから選択されたポリガラクツロン酸化合物と、該ポリガラクツロン酸化合物の表面上の接着ポリマーとを含む、ステップを含む。
【0193】
態様18は、酵素が非タンパク質分解酵素を含む、態様17に記載の方法を対象とする。
【0194】
態様19は、非タンパク質分解酵素がペクチン分解酵素及びペクチナーゼからなる群より選択される、態様18に記載の方法を対象とする。
【0195】
態様20は、溶解性基質を消化するステップが、溶解性基質を、約1U/mLから約200U/mLの間の酵素、又は約1U/mLから約50U/mLの間、又は約1U/mLから約30U/mLの間、又は約30U/mL未満の酵素に曝露することを含む、態様17から19のいずれかに記載の方法を対象とする。
【0196】
態様21は、溶解可能な発泡足場をキレート化剤に、約10mM未満、約9mM未満、約8mM未満、約7mM未満、約6mM未満、約5mM未満、約4mM未満、約3mM未満、約2mM未満、又は約1mM以下の濃度で曝露するステップを含む、態様17から20のいずれかに記載の方法を対象とする。
【0197】
態様22は、キレート化剤がEDTAである、態様17から21のいずれかに記載の方法を対象とする。
【0198】
態様23は、消化後、接着ポリマーの少なくとも一部が可溶性になる、態様17から22のいずれかに記載の方法を対象とする。
【0199】
態様24は、接着ポリマーの可溶性になる部分が、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、又は少なくとも約95%である、態様23に記載の方法を対象とする。
【0200】
態様25は、採取溶液にプロテアーゼを加えることによって接着ポリマーの不溶性部分を除去するステップをさらに含む、態様23又は態様24に記載の方法を対象とする。
【0201】
態様26は、プロテアーゼがトリプシンである、態様25に記載の方法を対象とする。
【0202】
本明細書で用いられる場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明らかに別段の指示がない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、ある1つの(a)「二価カチオン」への言及は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、そのような「二価カチオン」を2つ以上有する例を含む。
【0203】
「含む(include,includes)」という用語は、包括的であり、排他的ではないことを意味するが、これらに限定されない。
【0204】
「任意選択的な」又は「任意選択的に」とは、後に説明する事象、状況、又は構成要素が発生してもしなくてもよく、その説明にはその事象、状況、又は構成要素が発生する場合と発生しない場合とが含まれることを意味する。
【0205】
本明細書では、範囲は、「約」1つの特定の値から、及び/又は「約」別の特定の値までとして表現することができる。このような範囲が表現される場合、例は、その1つの特定の値から及び/又は他方の特定の値までを含む。同様に、例えば先行詞「約」の使用によって、値が近似値として表される場合、その特定の値は別の態様を形成することが理解されよう。さらには、範囲の各々の端点は、他の端点に関連して、及び他の端点とは独立してのいずれにおいても重要であることが理解されよう。
【0206】
特に明記しない限り、本明細書に記載の任意の方法は、その工程が特定の順序で実行されることを必要とすると解釈されることは、決して意図していない。したがって、方法クレームがその工程が従うべき順序を実際に列挙していないか、又は工程が特定の順序に限定されるべきであることが特許請求の範囲又は明細書に具体的に述べられていない場合には、いかなる特定の順序も、推測されることは、決して意図していない。いずれか1つの請求項で列挙された単一又は複数の特徴又は態様は、任意の他の請求項で列挙された他の列挙された特徴又は態様と組み合わせるか、又は並べ替えることができる。
【0207】
本明細書での列挙は、特定の方法で機能するように「構成」又は「適合」されている構成要素を指すことにも留意されたい。この点で、このような構成要素は、特定の特性を具体化するか、又は特定の方法で機能するように「構成」又は「適合」され、このような列挙は、意図された使用の列挙ではなく構造的列挙である。より具体的には、構成要素が「構成」又は「適合」される方法への本明細書での言及は、構成要素の既存の物理的状態を示し、したがって、その構成要素の構造的特徴の明確な列挙として解釈されるべきである。
【0208】
特定の実施形態のさまざまな特徴、要素、又は工程は、「含む」という移行句を使用して開示されうるが、「~からなる」又は「~から実質的になる」という移行句を使用して説明されうるものを含む代替的な実施形態態が暗示されることが理解されるべきである。したがって、例えば、ペクチン酸及び水を含む親水コロイド溶液の黙示的な代替実施形態は、親水コロイド溶液がペクチン酸及び水からなる実施形態と、親水コロイド溶液が本質的にペクチン酸及び水からなる実施形態とを含む。
【0209】
本開示の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明にかかる技術に対してさまざまな修正及び変形がなされうることは、当業者にとって明白であろう。本発明にかかる技術の精神及び本質を組み込んだ開示された実施形態の修正、組合せ、部分組合せ、及び変形は、当業者に想起されうることから、本発明にかかる技術は、添付の特許請求の範囲及びそれらの等価物の範囲内のあらゆるものを含むと解釈されるべきである。
【0210】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0211】
実施形態1
細胞培養物品において、該物品が、
二価カチオンで架橋されたポリガラクツロン酸化合物を含む基質であって、該ポリガラクツロン酸化合物が、ペクチン酸、部分的にエステル化されたペクチン酸、部分的にアミド化されたペクチン酸、及びそれらの塩のうちの少なくとも1つから選択される、基質
を含み、
前記基質が、消化試薬によって、ガラクツロン酸モノマー及び前記二価カチオンを含む成分へと可消化性である、
物品。
【0212】
実施形態2
前記基質が球状であるか、又は実質的に球状である、実施形態1に記載の物品。
【0213】
実施形態3
前記基質が、10~500マイクロメートルの直径を含む、実施形態2に記載の物品。
【0214】
実施形態4
前記二価カチオン濃度が、前記基質の0.5~2g/lの範囲である、実施形態1から3のいずれかに記載の物品。
【0215】
実施形態5
前記二価カチオンが、カルシウム、マグネシウム、及びバリウムからなる群より選択される、実施形態4に記載の物品。
【0216】
実施形態6
前記基質の前記表面上に接着ポリマーをさらに含む、実施形態1から5のいずれかに記載の物品。
【0217】
実施形態7
前記接着ポリマーがポリペプチドを含む、実施形態6に記載の物品。
【0218】
実施形態8
前記接着ポリマーが、前記基質の前記表面にグラフト又はコーティングされる、実施形態6又は7に記載の物品。
【0219】
実施形態9
前記ポリガラクツロン酸化合物がイオノトロピック架橋されている、実施形態1から8のいずれかに記載の物品。
【0220】
実施形態10
前記消化試薬が、EDTA及び酵素のうちの少なくとも1つを含む、実施形態1から9のいずれかに記載の物品。
【0221】
実施形態11
前記酵素がペクチナーゼである、実施形態10に記載の物品。
【0222】
実施形態12
前記基質が消化されると、前記接着ポリマーの少なくとも一部が可溶性になる、実施形態6から8のいずれかに記載の物品。
【0223】
実施形態13
前記接着ポリマーの前記可溶性になる部分が、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、又は少なくとも約95%である、実施形態12に記載の物品。
【0224】
実施形態14
細胞を培養する方法であって、細胞を実施形態1から13のいずれかに記載の細胞培養物品を有する細胞培養培地と接触させるステップ、及び前記培地中で前記細胞を培養するステップを含む、方法。
【0225】
実施形態15
培養細胞を採取する方法において、該方法が、
実施形態1から13のいずれかに記載の細胞培養物品の前記表面上で細胞を培養するステップ;及び
前記培養細胞をペクチナーゼとキレート剤との混合物と接触させて、前記細胞培養物品から前記細胞を分離するステップ
を含む、方法。
【0226】
実施形態16
前記キレート剤がEDTAを含む、実施形態15に記載の方法。
【0227】
実施形態17
溶解性基質から培養細胞を採取する方法において、該方法が、
前記基質を(i)キレート化剤、(ii)酵素、又は(iii)キレート化剤及び酵素に曝露することによって前記基質を消化することにより、前記基質から前記培養細胞を分離するステップであって、前記分離によって採取溶液がもたらされる、ステップ;及び
前記分離するステップの後に、採取溶液の成分の一連の洗浄及び/又は遠心分離サイクルを実行するステップ
を含み、
前記基質が、ペクチン酸、部分的にエステル化されたペクチン酸、部分的にアミド化されたペクチン酸、及びそれらの塩のうちの少なくとも1つから選択されたポリガラクツロン酸化合物と、該ポリガラクツロン酸化合物の前記表面上の接着ポリマーとを含む、
方法。
【0228】
実施形態18
前記酵素が非タンパク質分解酵素を含む、実施形態17に記載の方法。
【0229】
実施形態19
前記非タンパク質分解酵素が、ペクチン分解酵素及びペクチナーゼからなる群より選択される、実施形態18に記載の方法。
【0230】
実施形態20
前記溶解性基質を消化するステップが、前記溶解性基質を、約1U/mLから約200U/mLの間の前記酵素、又は約1U/mLから約50U/mLの間、又は約1U/mLから約30U/mLの間、又は約30U/mL未満の前記酵素に曝露することを含む、実施形態17から19のいずれかに記載の方法。
【0231】
実施形態21
前記溶解可能な発泡足場を前記キレート化剤に、約10mM未満、約9mM未満、約8mM未満、約7mM未満、約6mM未満、約5mM未満、約4mM未満、約3mM未満、約2mM未満、又は約1mM以下の濃度での濃度で曝露するステップを含む、実施形態17から20のいずれかに記載の方法。
【0232】
実施形態22
前記キレート化剤がEDTAである、実施形態17から21のいずれかに記載の方法。
【0233】
実施形態23
消化後、前記接着ポリマーの少なくとも一部が可溶性になる、実施形態17から22のいずれかに記載の方法。
【0234】
実施形態24
前記接着ポリマーの前記可溶性になる部分が、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、又は少なくとも約95%である、実施形態23に記載の方法。
【0235】
実施形態25
前記採取溶液にプロテアーゼを加えることによって、前記接着ポリマーの不溶性部分を除去するステップをさらに含む、実施形態23又は24に記載の方法。
【0236】
実施形態26
前記プロテアーゼがトリプシンである、実施形態25に記載の方法。