(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】血管モデルおよび医療用長尺体の操作性評価方法
(51)【国際特許分類】
G09B 23/34 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
G09B23/34
(21)【出願番号】P 2021574484
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2020043794
(87)【国際公開番号】W WO2021152982
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2020011029
(32)【優先日】2020-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【氏名又は名称】山田 牧人
(72)【発明者】
【氏名】羽室 皓太
(72)【発明者】
【氏名】藤間 大貴
(72)【発明者】
【氏名】川口 道寛
【審査官】鈴木 崇雅
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-003637(JP,A)
【文献】特開2014-092683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/28-34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管を模擬した血管モデルであって、
第1の接続部を備えた平板形状である第1の模擬部と、
前記第1の接続部に接続・分離可能な第2の接続部を備えた第2の模擬部と、を有し、
前記第1の模擬部は、内周面の断面が略円形である第1の模擬血管
と、前記第1の模擬血管と前記第1の模擬部の外面を接続する追加通路と、を有し、前記第1の模擬血管は、前記第1の接続部の前記第2の接続部と対向する面に外部へ開口する第1の接続開口部を有し、
前記第2の模擬部は、第2の模擬血管を有し、前記第2の模擬血管は、前記第2の接続部の前記第1の接続部と接触可能な面に第2の接続開口部を有することを特徴とする血管モデル。
【請求項2】
前記第1の模擬部は、接続・分離可能な複数の平板形状の部材により形成されることを特徴とする請求項1に記載の血管モデル。
【請求項3】
前記第2の模擬血管は
、医療用長尺体を外部から挿入可能な挿入口を有し、前記挿入口は、平板形状の前記第1の模擬部が広がる面と交差する方向に開口していることを特徴とする請求項1または2に記載の血管モデル。
【請求項4】
前記第1の模擬血管および/または第2の模擬血管は、当該第1の模擬血管/または第2の模擬血管の周囲の材料よりも柔らかい材料により形成されることを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の血管モデル。
【請求項5】
前記血管モデルが、少なくとも一部に分割面を有することを特徴とする請求項1~
4のいずれか1項に記載の血管モデル。
【請求項6】
血管モデルを用いた医療用長尺体の操作性評価方法であって、
第1の接続部を備えた平板形状である第1の模擬部と、前記第1の接続部に接続・分離可能な第2の接続部を備えた第2の模擬部と、を有し、前記第1の模擬部は、内周面の断面が略円形である第1の模擬血管
と、前記第1の模擬血管と前記第1の模擬部の外面を接続する追加通路と、を有し、前記第1の模擬血管は、前記第1の接続部の前記第2の接続部と対向する面に外部へ開口する第1の接続開口部を有し、前記第2の模擬部は、第2の模擬血管を有し、前記第2の模擬血管は、前記第2の接続部の前記第1の接続部と接触可能な面に第2の接続開口部を有する血管モデルを準備するステップと、
前記第1の接続部と前記第2の接続部を接続するステップと、
前記医療用長尺体を前記第2の模擬血管に挿入し、前記第2の接続開口部および前記第1の接続開口部を介して前記第1の模擬血管へ到達させるステップと、
前記第1の模擬血管の所定の位置へ到達するか否かを判別するステップと、を有することを特徴とする医療用長尺体の操作性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管を模擬した血管モデルおよび血管モデルを用いた医療用長尺体の操作性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カテーテルやガイドワイヤ等の医療用長尺体を、皮膚から血管内に挿入し、血管を通って目的の位置まで到達させて手技を行うインターベンションが行われている。インターベンションは、複雑に屈曲した血管を通して行われるため、カテーテルは、目的の位置まで到達できることが求められる。このため、例えば特許文献1には、医療用長尺体の操作性能などを試験するために用いられる血管モデルが記載されている。この血管モデルは、実臨床に近づけるために、一部を交換可能となっている。この血管モデルは、平板の一方面側に、断面がU字状である溝を形成し、溝が形成された面を他の平板で覆うことにより、溝および平板の間に血管を模擬する通路を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の血管モデルの血管を模擬する通路の内周面の断面は、U字形状であるため、医療用長尺体が接触する内周面の位置がずれることで、医療用長尺体の挙動が大きく変化する。このため、安定した試験結果を得ることが困難である可能性がある。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、均一な試験結果を得ることができ、評価精度を向上できる血管モデルおよび医療用長尺体の操作性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明に係る血管モデルは、血管を模擬した血管モデルであって、第1の接続部を備えた平板形状である第1の模擬部と、前記第1の接続部に接続・分離可能な第2の接続部を備えた第2の模擬部と、を有し、前記第1の模擬部は、内周面の断面が略円形である第1の模擬血管と、前記第1の模擬血管と前記第1の模擬部の外面を接続する追加通路と、を有し、前記第1の模擬血管は、前記第1の接続部の前記第2の接続部と対向する面に外部へ開口する第1の接続開口部を有し、前記第2の模擬部は、第2の模擬血管を有し、前記第2の模擬血管は、前記第2の接続部の前記第1の接続部と接触可能な面に第2の接続開口部を有する。
【0007】
上記目的を達成する本発明に係る医療用長尺体の操作性評価方法は、血管モデルを用いた医療用長尺体の操作性評価方法であって、第1の接続部を備えた平板形状である第1の模擬部と、前記第1の接続部に接続・分離可能な第2の接続部を備えた第2の模擬部と、を有し、前記第1の模擬部は、内周面の断面が略円形である第1の模擬血管と、前記第1の模擬血管と前記第1の模擬部の外面を接続する追加通路と、を有し、前記第1の模擬血管は、前記第1の接続部の前記第2の接続部と対向する面に外部へ開口する第1の接続開口部を有し、前記第2の模擬部は、第2の模擬血管を有し、前記第2の模擬血管は、前記第2の接続部の前記第1の接続部と接触可能な面に第2の接続開口部を有する血管モデルを準備するステップと、前記第1の接続部と前記第2の接続部を接続するステップと、前記医療用長尺体を前記第2の模擬血管に挿入し、前記第2の接続開口部および前記第1の接続開口部を介して前記第1の模擬血管へ到達させるステップと、前記第1の模擬血管の所定の位置へ到達するか否かを判別するステップと、を有する。
【発明の効果】
【0008】
上記のように構成された血管モデルおよび医療用長尺体の操作性評価方法は、平板形状である第1の模擬部と第2の模擬部が接続・分離可能であり、かつ第1の模擬血管の断面が略円形であるため、第1の模擬部および第2の模擬部を適切に選択することで、実臨床に近い構造を、単純な平板形状で容易に形成できる。このため、医療用長尺体の送達性に関する評価試験において、均一な試験結果を得ることができ、評価精度を向上できる。
【0009】
前記第1の模擬部は、接続・分離可能な複数の平板形状の部材により形成されてもよい。これにより、第1の模擬部の部材を適切に選択することで、実臨床に近い構造を、平板形状で容易に形成できる。
【0010】
前記第2の模擬血管は、前記医療用長尺体を外部から挿入可能な挿入口を有し、前記挿入口は、平板形状の前記第1の模擬部が広がる面と交差する方向に開口してもよい。これにより、血管モデルの広がる面が略水平となるように配置した状態で、挿入口から医療用長尺体を挿入することが容易となる。交差する方向は平板に対して垂直でもよく斜めに交差してもよい。
【0011】
前記第1の模擬部は、前記第1の模擬血管と前記第1の模擬部の外面を接続する追加通路を有する。これにより、追加通路を用いて第1の模擬血管から空気を抜きつつ、第1の模擬血管に液体を満たすことが容易となる。
【0012】
前記第1の模擬血管および/または第2の模擬血管は、当該第1の模擬血管/または第2の模擬血管の周囲の材料よりも柔らかい材料により形成されてもよい。これにより、血管モデルは、実臨床により近い構造となることができる。
【0013】
前記血管モデルは、平板に対して水平方向、垂直方向あるいは斜め方向に分割面を有してもよい。分割面は、波型あるいは階段状でもよく、曲面と平面の組み合わせたものでもよい。例えば水平方向に分割面を有する場合、複雑な管腔に例えば別部材で構成した狭窄部や閉塞部を配置後、分割面を合わせることで、狭窄部通過性の評価を行ったり、注入して固化した閉塞剤を血管モデルの分割面を開くことで取り出して閉塞剤の分布を調べたりすることができる。さらに、分割面がカテーテルと接しない位置に設けられれば、略円形の模擬血管内で分割面による引っ掛りなどが生じないため、より好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る血管モデルを示す平面図である。
【
図2】(A)は
図1の矢線Aから見た側面図、(B)は
図1のB-B線に沿う断面図である。
【
図3】血管モデルを使用している状態を示す平面図である。
【
図4】血管モデルの変形例を示す図であり、(A)は平面図、(B)は
図4(A)の矢線Cから見た側面図である。
【
図5】血管モデルの他の変形例を示す平面図である。
【
図6】血管モデルのさらに他の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法は、説明の都合上、誇張されて実際の寸法とは異なる場合がある。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
本実施形態に係る血管モデル10は、カテーテルやガイドワイヤ等の医療用長尺体の送達性を評価するために血管を模擬したモデルである。血管モデル10は、下行大動脈および肝動脈を模擬しているが、他の血管を模擬してもよい。なお、血管モデル10の用途は、医療用長尺体の評価のための使用に限定されず、例えば手技の訓練のために使用されてもよい。
【0017】
血管モデル10は、
図1、2に示すように、第1の模擬部20と、第2の模擬部30とを備えている。血管モデル10は、平板形状であり、表面11と、裏面12と、側面13とを備えている。第1の模擬部20は、総肝動脈およびその末梢の血管を模擬している。第2の模擬部30は、下行大動脈を模擬している。
【0018】
第1の模擬部20は、実質的に平面構造のモデルである。第1の模擬部20は、血管を模擬する第1の模擬血管40と、第2の模擬部30に接続・分離可能な第1の接続部26と、通路に連通する複数の追加通路25とを備えている。第1の模擬血管40は、表面11と裏面12の間に、表面11および裏面12から離れて形成されている。第1の模擬血管40の形状は、通路の中心線Xと直交する断面において略円形である。ここで略円形とは、円または楕円、長円形をいい、内面が平滑でもよく、半径の1/10を越えない程度の凹凸を有してもよく、実質的に平面構造の血管モデル10の板厚(表面11と裏面12の間の距離)は、100mm以下であり、好ましくは50mm以下であり、より好ましくは10mm以下である。
【0019】
第1の模擬血管40は、総肝動脈を模擬する第1の通路41と、固有肝動脈を模擬する第2の通路42と、右肝動脈を模擬する第3の通路43と、右肝動脈の分岐血管の1つを模擬する第4の通路44と、右肝動脈の分岐血管の1つを模擬する第5の通路45とを備えている。さらに、第1の模擬血管40は、左肝動脈を模擬する第6の通路46と、左肝動脈の分岐血管を模擬する第7の通路47と、第1の接続開口部48とを備えている。追加通路25は、第1の模擬血管40を第1の模擬部20の表面11に接続している。なお、追加通路25は、裏面12や側面13に接続されてもよい。
【0020】
総肝動脈を模擬する第1の通路41は、第1の模擬部20の側面13の1つである第1の側面24から、第1の側面24と略垂直に直線状に延在している。第1の通路41は、延在方向へ均一な内径を有している。
【0021】
固有肝動脈を模擬する第2の通路42は、第1の通路41から連続して略S字状に延在している。第2の通路42は、第1の通路41から離れる方向へ徐々に減少する内径を有している。
【0022】
右肝動脈を模擬する第3の通路43は、第2の通路42から連続して直線状に延在している。第3の通路43は、延在方向へ均一な内径を有している。第3の通路43の延在方向は、第1の通路41の延在方向と平行である。
【0023】
右肝動脈の分岐血管の1つを模擬する第4の通路44は、第3の通路43と略平行な方向へ折り返す複数の第1の折り返し部44Aを有してジグザグに形成されて、第3の通路43から離れる方向へ延在している。各々の第1の折り返し部44Aは、所定の曲率で滑らかに逆方向へ折り返されている。第4の通路44は、第3の通路43から離れる方向へ同一または、徐々に減少する内径を有している。
【0024】
右肝動脈の分岐血管の1つを模擬する第5の通路45は、第4の通路44よりも末梢側で、第3の通路43および第7の通路47に接続されて、略N字状に形成されている。第5の通路45は、第3の通路43と略垂直な方向へ折り返す2つの第2の折り返し部45Aを有して略N字状に形成されている。各々の第2の折り返し部45Aは、所定の曲率で滑らかに逆方向へ折り返されている。第5の通路45は、第3の通路43から、第3の通路43と略垂直な方向へ直線状に延在している。第5の通路45は、延在方向へ同一または、徐々に減少する内径を有している。第2の折り返し部45Aは第3の通路43に対して、任意の角度で折り返してもよい。
【0025】
左肝動脈を模擬する第6の通路46は、第2の通路42の途中から延在するS字状の第1の湾曲部46Aと、直線状の第1の直線部46Bと、S字状の第2の湾曲部46Cと、直線状の第2の直線部46Dとを備えている。第6の通路46は、全体として、第1の側面24から離れる方向へ延在している。第1の湾曲部46Aおよび第1の直線部46Bは、第2の通路42から離れる方向へ徐々に減少する内径を有している。第2の湾曲部46Cおよび第2の直線部46Dは、延在方向へ均一な内径を有している。
【0026】
左肝動脈の分岐血管を模擬する第7の通路47は、第2の湾曲部46Cおよび第2の直線部46Dに接続される両端を有して、略M字状に形成されている。第7の通路47の途中には、右肝動脈の分岐血管の1つを模擬する第5の通路45に接続されている。第7の通路47は、延在方向へ同一または、徐々に減少する内径を有している。
【0027】
第1の接続開口部48は、第1の模擬部20の第2の模擬部30と対向して接触可能な第1の側面24に形成される。第1の接続開口部48は、第1の通路41と連通している。
【0028】
第1の接続部26は、第1の側面24に形成される凹部27を有している。第1の側面24が全体として延在する方向において、凹部27の奥行き方向側の幅は、凹部27の入口側の幅よりも大きい。
【0029】
第1の模擬部20は、第1の模擬血管40を通る医療用長尺体を目視できるように、透明または半透明の材料により形成される。第1の模擬部20の構成材料は、例えばABS樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、メラミン樹脂、スチレン樹脂、硬質塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ガラス等が挙げられる。第1の模擬部20は、複数の材料により形成されてもよい。断面が略円形の第1の模擬血管40が内部に形成される第1の模擬部20は、3Dプリンタにより良好に形成される。なお、形成可能であれば、第1の模擬部20は、3Dプリンタ以外の方法により形成されてもよい。
【0030】
第2の模擬部30は、実質的に平面構造のモデルである。第2の模擬部30は、血管を模擬する第2の模擬血管31と、第1の接続部26に接続・分離可能な第2の接続部32とを備えている。第2の模擬血管31は、表面11と裏面12の間に、表面11および裏面12から離れて形成されている。第2の模擬血管31の形状は、第2の模擬血管31の中心線Xと直交する断面において長方形であるが、実際の大動脈を模擬するために略円形でもよい。
【0031】
第2の模擬血管31は、下行大動脈を模擬する第8の通路33と、第2の接続開口部34と、挿入口35とを備えている。第8の通路33は、直線状に延在している。第8の通路33は、延在方向へ均一な内径を有している。第8の通路33の延在方向は、第1の模擬部20と第2の模擬部30が接続された状態において、第1の通路41の延在方向と略垂直である。
【0032】
第2の接続開口部34は、第2の模擬部30の第1の模擬部20と接触可能な第2の側面36に形成される。第2の接続開口部34は、第8の通路33と連通している。第1の接続部26と第2の接続部32を接続した状態において、第1の接続開口部48と第2の接続開口部34は、連通する。
【0033】
挿入口35は、血管モデル10に対して医療用長尺体を挿入する部位である。挿入口35は、第2の模擬血管31の第2の接続開口部34の反対側に配置される。挿入口35は、例えば、三方活栓を有するシース、止血弁、Yコネクターである。なお、挿入口35は、第8の通路33と連通する開口のみで形成されてもよい。
【0034】
第2の模擬部30は、平板形状で形成されてもよいが、立体的な形状で形成されてもよい。第2の模擬部30の構成材料は、例えば、第1の模擬部20に適用可能な構成材料を適用できる。立体的形状の第2の模擬部30は、3次元的な形状の第8の通路33を有してもよい。立体的形状の第2の模擬部30は、例えばシリコーン樹脂により形成される。第2の模擬部30は、複数の材料により形成されてもよい。
【0035】
第2の接続部32は、第1の接続部26に接続可能であり、かつ分離可能である。第2の接続部32は、第1の接続部26の凹部27に嵌合可能な凸部37を有している。凸部37は、先端側に幅が広がった幅広部38が形成されている。凸部37の幅広部38が凹部27に引っ掛かるように嵌合することで、第2の接続部32は、第1の接続部26に良好に接続される。
【0036】
血管モデル10は、
図2に示すように、分割面Zを有して分割されてもよい。
図2では、第1の模擬部20が分割され、分割面Zは、通路を通る面であることが好ましい。また、第2の模擬部30が、分割面Zを有して分割されてもよい。
【0037】
次に、本実施形態に係る血管モデル10を用いた医療用長尺体の操作性評価方法を説明する。ここでは、医療用長尺体としてのカテーテル51を下肢の動脈(例えば大腿動脈)から挿入した場合を想定して評価試験を行う場合を説明する。
【0038】
初めに、評価試験を行う試験者は、形状や硬さ等の異なる複数の第1の模擬部20から、1つの第1の模擬部20を選択する。さらに、試験者は、形状や硬さ等の異なる複数の第2の模擬部30から、1つの第2の模擬部30を選択する。そして、試験者は、
図3に示すように、第1の接続部26に第2の接続部32を接続する。これにより、第1の模擬部20と第2の模擬部30が接続されて、1つの血管モデル10が形成される。なお、医療用長尺体を腕の動脈(例えば橈骨動脈)から挿入することを想定する場合には、第2の接続部32に対する挿入口35の位置が、下肢の動脈から挿入することを想定する場合の逆側となるように、第1の接続部26と第2の接続部32を接続する。
【0039】
次に、試験者は、血管モデル10を、水、生理食塩水、界面活性剤入り水溶液等を入れたトレー60に入れる。血管モデル10の裏面12は下側、表面11は上側を向いている。これにより、水、生理食塩水、界面活性剤入り水溶液等が、第1の模擬血管40および第2の模擬血管31の側面13に開口する部位や、追加通路25等から、第1の模擬血管40および第2の模擬血管31の内部に流入する。血管モデル10の内部の空気は、第1の模擬血管40および第2の模擬血管31の側面13に開口する部位や、追加通路25等から外部へ排出される。これにより、血管モデル10の第1の模擬血管40および第2の模擬血管31が、水、生理食塩水、界面活性剤入り水溶液等で満たされる。あるいは、血管モデル10の内面に予め界面活性剤あるいは潤滑性ポリマーを塗布してもよく、潤滑性ポリマーとしてアクリルアミドを含む親水性潤滑ポリマーやフッ素樹脂などの疎水性潤滑ポリマーを塗布してもよい。
【0040】
次に、試験者は、挿入口35から造影カテーテル50を挿入し、下行大動脈を模擬する第8の通路33、第2の接続開口部34および第1の接続開口部48を介して、総肝動脈を模擬する第1の通路41まで到達させる。すなわち、造影カテーテル50は、第2の模擬部30を通って第1の模擬部20へ到達する。次に、試験者は、評価を行うカテーテル51にガイドワイヤ52を挿入し、カテーテル51とガイドワイヤ52を造影カテーテル50の基端側から造影カテーテル50に挿入する。カテーテル51およびガイドワイヤ52は、造影カテーテル50の先端から第1の模擬血管40内に挿入される。
【0041】
次に、試験者は、ガイドワイヤ52の先端をカテーテル51の先端よりも先行させた状態で、ガイドワイヤ52およびカテーテル51を目的の位置へ押し進める。例えば、目的の位置が右肝動脈の分岐血管の1つを模擬する第4の通路44である場合、試験者は、第1の通路41、第2の通路42、第3の通路43を介して第4の通路44へカテーテル51を到達させることを試みる。なお、第3の通路43から第4の通路44へカテーテル51を到達させる際には、第3の通路43と第4の通路44の分岐において、カテーテル51が座屈し、第4の通路44を良好に進むことが困難な場合がある。そして、試験者は、第4の通路44の湾曲した第1の折り返し部44Aを通過できるかを試みる。試験者は、カテーテル51が第4の通路44の所定の位置へ到達できたか否かを判別する。これにより、試験者は、医療用長尺体の操作性を血管モデル10により評価できる。医療用長尺体の評価試験は、複数回行われる場合には、評価精度を向上できる。
【0042】
本試験において、第1の模擬血管40および第2の模擬血管31の内周面の断面が略円形であるため、カテーテル51が接する内周面の周方向の位置によって、カテーテル51の操作性に差が生じにくい。このため、実臨床に近い構造により評価試験が可能である。また、血管モデル10は、平板形状であるため、カテーテル51の送達性に関する評価試験において、操作者の練度にあまり左右されずに、均一な試験結果を得ることができる。すなわち、本血管モデル10を使用した評価方法では、再現性のある評価試験結果を得やすいため、評価精度を向上できる。
【0043】
なお、医療用長尺体の操作性評価方法は、カテーテル51(医療用長尺体)とガイドワイヤ52(医療用長尺体)の組み合わせの操作性評価方法であってもよい。また、医療用長尺体の操作性評価方法は、ガイドワイヤ52(医療用長尺体)の操作性評価方法であってもよい。また、医療用長尺体の操作性評価方法は、造影カテーテル50(医療用長尺体)、カテーテル51(医療用長尺体)およびガイドワイヤ52(医療用長尺体)の組み合わせの操作性評価方法であってもよい。
【0044】
なお、カテーテル51を到達させる目的の位置は、特に限定されない。例えば、目的の位置は、右肝動脈の分岐血管の1つを模擬する第5の通路45や、左肝動脈の分岐血管を模擬する第7の通路47であってもよい。
【0045】
以上のように、本実施形態に係る血管モデル10は、血管を模擬した血管モデル10であって、第1の接続部26を備えた平板形状である第1の模擬部20と、第1の接続部26に接続・分離可能な第2の接続部32を備えた第2の模擬部30と、を有し、第1の模擬部20は、内周面の断面が略円形である第1の模擬血管40を有し、第1の模擬血管40は、第1の接続部26の第2の接続部32と対向する面に外部へ開口する第1の接続開口部48を有し、第2の模擬部30は、第2の模擬血管31を有し、第2の模擬血管31は、第2の接続部32の第1の接続部26と接触可能な面に第2の接続開口部34を有する。
【0046】
上記のように構成された血管モデル10は、平板形状である第1の模擬部20と第2の模擬部30が接続・分離可能であり、かつ第1の模擬血管40の断面が略円形であるため、第1の模擬部20および第2の模擬部30を適切に選択することで、実臨床に近い構造を、単純な平板形状で容易に形成できる。このため、医療用長尺体の送達性に関する評価試験において、試験者の練度の影響が小さく均一な試験結果を得ることができ、評価精度を向上できる。また、血管モデル10は、平板形状である第1の模擬部20を有することで、持ち運びが容易となる。
【0047】
また、第1の模擬部20は、第1の模擬血管40と第1の模擬部20の外面を接続する追加通路25を有する。これにより、追加通路25を用いて第1の模擬血管40から空気を抜きつつ、第1の模擬血管40に液体を満たすことが容易となる。
【0048】
また、第1の模擬血管40および/または第2の模擬血管31は、当該第1の模擬血管40/または第2の模擬血管31の周囲の材料よりも柔らかい材料により形成される。これにより、血管モデル10は、実臨床により近い構造となることができる。
【0049】
また、血管モデル10は、平板に対して水平方向、垂直方向あるいは斜め方向に分割面Zを有してもよい。分割面Zは、平面、曲面、波型あるいは階段状でもよく、曲面と平面の組み合わせたものでもよい。例えば平板に対して水平方向に分割面Zを有する場合、複雑な管腔に例えば別部材で構成した狭窄部や閉塞部を配置後、分割面Zを合わせることで、狭窄部通過性の評価を行ったり、注入して固化した閉塞剤を血管モデル10の分割面Zを開くことで取り出して閉塞剤の分布を調べたりすることができる。さらに、分割面Zがカテーテル51と接しない位置に設けられれば、略円形の模擬血管内で分割面Zによる引っ掛りなどが生じないため、より好ましい。
【0050】
また、医療用長尺体の操作性評価方法は、血管モデル10を用いた医療用長尺体の操作性評価方法であって、第1の接続部26を備えた平板形状である第1の模擬部20と、第1の接続部26に接続・分離可能な第2の接続部32を備えた第2の模擬部30と、を有し、第1の模擬部20は、内周面の断面が略円形である第1の模擬血管40を有し、第1の模擬血管40は、第1の接続部26の第2の接続部32と対向する面に外部へ開口する第1の接続開口部48を有し、第2の模擬部30は、第2の模擬血管31を有し、第2の模擬血管31は、第2の接続部32の第1の接続部26と接触可能な面に第2の接続開口部34を有する血管モデル10を準備するステップと、第1の接続部26と第2の接続部32を接続するステップと、医療用長尺体を第2の模擬血管31に挿入し、第2の接続開口部34および第1の接続開口部48を介して第1の模擬血管40へ到達させるステップと、第1の模擬血管40の所定の位置へ到達するか否かを判別するステップと、を有する。
【0051】
上記のように構成された医療用長尺体の操作性評価方法は、平板形状である第1の模擬部20と第2の模擬部30が接続・分離可能であり、かつ第1の模擬血管40の断面が略円形であるため、第1の模擬部20および第2の模擬部30を適切に選択することで、実臨床に近い構造を、単純な平板形状で容易に形成できる。このため、医療用長尺体の操作性評価方法は、試験者の練度の影響を減少させて均一な試験結果を得ることができ、評価精度を向上できる。
【0052】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、
図4に示す変形例のように、挿入口35は、第2の模擬部30の表面11側に形成されてもよい。これにより、平板形状の血管モデル10の裏面12側を下にして配置した状態で、挿入口35に医療用長尺体(例えば、カテーテル51)を挿入することが容易となる。
【0053】
また、
図5に示す他の変形例のように、第1の模擬部20は、接続・分離可能な複数の平板形状の部材21、22、23により形成されてもよい。
図5の例では、第1の模擬部20は、3つの部材21、22、23により形成され、接続・分離が可能である。これにより、第1の模擬部20の部材を適切に選択することで、実臨床に近い構造を、平板形状で容易に形成できる。接続・分離可能とする構造は、第1の接続部26および第2の接続部32と同様の構造であってもよく、または異なる構造であってもよい。
【0054】
また、
図6に示すさらに他の変形例のように、第1の模擬血管40および/または第2の模擬血管31は、当該第1の模擬血管40/または第2の模擬血管31の周囲の部位49の材料よりも柔らかい材料により形成されてもよい。これにより、血管モデル10は、実臨床により近い構造となることができる。なお、材料の硬さ(柔らかさ)は、例えばロックウェル硬さ、ブリンネル硬さ、ビッカース硬さ、ショア硬さ、デュロメータ硬さ等により特定できる。
【0055】
また、第1の接続部26および第2の接続部32が配置される位置は、特に限定されない。また、第1の接続部26および第2の接続部32は、接続・分離可能であれば、構造は限定されない。
【0056】
また、血管モデル10は、治具であってもよい。例えば、血管モデル10は、オートグラフ等のセンサに接続されてもよい。これにより、血管モデル10に医療用長尺体を挿入する際に血管モデル10に作用する力や血管モデル10移動量等を検出できる。
【0057】
また、血管モデル10が模擬する血管は、特に限定されず、例えば子宮動脈、前立腺動脈等であってもよい。
【0058】
また、血管モデル10は、コストと加工時間の短縮のために、材料が設けられない中空部分を有してもよい。
【0059】
なお、本出願は、2020年1月27日に出願された日本特許出願2020-011029号に基づいており、それらの開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。
【符号の説明】
【0060】
10 血管モデル
11 表面
12 裏面
13 側面
20 第1の模擬部
24 第1の側面
25 追加通路
26 第1の接続部
30 第2の模擬部
31 第2の模擬血管
32 第2の接続部
33 第8の通路
34 第2の接続開口部
35 挿入口
36 第2の側面
40 第1の模擬血管
41 第1の通路
42 第2の通路
43 第3の通路
44 第4の通路
45 第5の通路
46 第6の通路
47 第7の通路
48 第1の接続開口部
50 造影カテーテル(医療用長尺体)
51 カテーテル(医療用長尺体)
52 ガイドワイヤ(医療用長尺体)