(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】連続インクジェット塗布用速乾インク組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/328 20140101AFI20241114BHJP
【FI】
C09D11/328
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022112352
(22)【出願日】2022-07-13
(62)【分割の表示】P 2019555771の分割
【原出願日】2018-04-12
【審査請求日】2022-08-12
(32)【優先日】2017-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502153385
【氏名又は名称】ヴィデオジェット テクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】シャオ フェンフェイ
(72)【発明者】
【氏名】デン ゴッドウィン
(72)【発明者】
【氏名】シュー リンファン
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特許第7106573(JP,B1)
【文献】特表2010-518214(JP,A)
【文献】米国特許第06726756(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0233368(US,A1)
【文献】特表2010-533747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続インクジェット用インク組成物であって、
(a)前記インク組成物の60質量%超で存在する1種以上の揮発性C
5ケトン溶媒を含む溶媒;
(b)ポリビニルブチラール樹脂を含む1種以上のバインダー樹脂;及び
(c)1種以上の着色剤;
を含み、
さらにエタノール、n-プロパノール、又はその組み合わせを前記インク組成物の
15質量%超30質量%までの量で含有
する、前記インク組成物(ただし、非環状アセタールを含むインク組成物を除く)。
【請求項2】
5質量%未満のアセトン、メタノール、メチルエチルケトン、又はその任意の組み合わせを含有する、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
アセトン、メタノール
、又はメチルエチルケトンを実質的に含有しない、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記1種以上の揮発性C
5ケトン溶媒が、2-ペンタノン(メチルプロピルケトン)、3-ペンタノン(ジエチルケトン)、3-メチル-2-ブタノン(メチルイソプロピルケトン)、及びその混合物から成る群より選択される、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項5】
前記1種以上の揮発性C
5ケトン溶媒が3-メチル-2-ブタノン(メチルイソプロピルケトン)である、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項6】
前記1種以上の揮発性C
5ケトン溶媒が2-ペンタノン(メチルプロピルケトン)である、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項7】
70質量%超の1種以上の揮発性C
5ケトン溶媒を含有する、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項8】
80質量%超の1種以上の揮発性C
5ケトン溶媒を含有する、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項9】
前記1種以上のバインダー樹脂が、セルロースエステル樹脂、ビニル樹脂、変性ロジンエステル樹脂、及び/又はポリエステル樹脂をさらに含む、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項10】
前記1種以上のバインダー樹脂が、セルロースエステル樹脂及び/又は変性ロジンエステル樹脂をさらに含む、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項11】
前記セルロースエステル樹脂が酢酸プロピオン酸セルロース樹脂である、請求項9又は10に記載のインク組成物。
【請求項12】
前記1種以上のバインダー樹脂がポリエステル樹脂をさらに含む、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項13】
前記1種以上のバインダー樹脂が、前記インク組成物の約5.0質量%~約13.0質量%の量で存在する、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項14】
前記1種以上の着色剤が、ソルベントブラック29、ソルベントブラック27、及びその混合物から成る群より選択される、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項15】
前記インク組成物の約0.1質量%~約2.0質量%の量の1種以上の界面活性剤、1種以上の可塑剤、1種以上の付着促進剤、1種以上の伝導剤、1種以上の消泡剤、及びその混合物から成る群より選択される1種以上の添加剤をさらに含み、前記1種以上の界面活性剤がポリアルキレンオキシド変性ポリシロキサンであってもよい、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項16】
基体への連続インクジェット印刷方法であって、請求項1に記載のインク組成物の液滴の流れを前記基体上へ向け、前記液滴を乾燥させて、前記基体上に画像を印刷することを含む、前記方法。
【請求項17】
前記基体が、無コート紙、コート紙、硬質若しくは軟質プラスチック、ポリマーフィルム、金属及び合金、ガラス、並びにセラミックから成る群より選択される、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
背景
インクジェット印刷では、印刷は、印刷装置と、印刷文字がその上に沈着される基体とが接触せずに達成される。簡単に述べると、インクジェット印刷は、インク液滴の流れを表面に吐出し、液滴によって表面に所望の印刷画像が形成されるように、流れの方向を例えば電子的に制御することを伴う。この非接触印刷技術は、多孔性及び非多孔性表面を含めた種々の表面への文字の塗布によく適している。
一般に、インクジェット用インク組成物は、インクジェット印刷動作に役立つ特定の必要条件を満たすべきである。これらの必要条件は、成分の粘度、抵抗性、溶解性、適合性、及び基体の濡れ性に関するものである。さらに、インクは、速乾性かつ擦り汚れ耐性(smear-resistant)でなければならず、インクジェットノズルを目詰まりせずに通過できるべきであり、かつ最小限の努力で機械部品の迅速な清浄化を可能にすべきである。さらに、ジェットインク組成物は、表面、特に当業者に知られているように画像付着達成に関する難題をもたらす非多孔性基体によく付着する印刷画像を提供すべきである。
【0002】
ほとんどの連続インクジェット(CIJ)インクは、溶媒又は主溶媒としてメタノール及び/又はメチルエチルケトン(MEK)を使用する。該インクは、それらの揮発性に起因する速い乾燥時間、良い付着をもたらし、かつメタノール及びMEKはインク中のバインダー樹脂及び染料にとって良い溶媒だからである。しかしながら、MEKもメタノールも日本ISHLクラス2有機溶媒リストに載っており、日本では5質量%を超えることは許されない。従って、MEK及びメタノールの健康及び安全への懸念、VOC(揮発性有機化合物)及びHAP(有害大気汚染物質)などの規制のためそれら以外の溶媒をベースとするインクの開発が試みられてきた。米国ではMEKもメタノールもVOC規制下で制御されている。メタノールはHAPとして規制されている。欧州では、メタノールは有毒化学物質としてリストアップされ、ラベルにはドクロマーク(skull and cross-bone symbol)を必要とする。さらに、メタノールは印刷インク及び関連製品の欧州塗料工業会(European Council of Paint, Printing Ink, and Artists' Colours Industry (CEPE))の排除リストに収載されている。従って、MEK及びメタノールの使用を回避するインク製品を開発することが好ましい。
【0003】
MEK及びメタノール以外に、インクジェット用インク組成物のために提案された代替溶媒としては、アセトン、酢酸メチル、ジオキソラン、及び酢酸エチルがある。しかしながら、アセトン及び酢酸メチルは、インクジェット印刷用としては揮発性が高過ぎ、より高い補給消費の必要性のみならず、高温環境におけるプリンターの信頼性低下につながる。ジオキソラン及び酢酸エチルは、インク伝道性を与える効果が少ないので、より伝道性の高い薬剤を添加する必要があり、インク組成物の基体へのより不十分な付着につながる。さらに、これらの全ての溶媒は、特に特定の食品包装材料に印刷するときに、いまだに健康、安全、及び臭いへの懸念に悩まされる。
インクジェット組成物にも使用されている1,2-ジメトキシエタンは、日本ISHLクラス2有機溶媒リストに載っていないが、実際にはMEK及び労働者の健康と安全を保護するために規制されている他の多くの溶媒より健康上の危険をもたらす。従って、これは良い代用品でない。
【0004】
VIDEOJET(登録商標)V460などの他のインク製品は、比較的安全であり、日本ISHLクラス2有機溶媒リストに載っていないエタノールをベースとしている。エタノール及びn-プロパノールは、インクジェット用インク組成物にとってより許容される溶媒である。それらは臭いが少なく、比較的低い毒性を有するからである。それらは、HAP下で規制されず、CEPE排除リストに含まれない。しかしながら、エタノール及びn-プロパノールは、MEKをベースとするインクジェット用インクに一般的に用いられる多くの樹脂、染料、及び伝導剤に対してあまり良くない溶解力を有するか又はこれらとあまり良く適合しない。従って、インク付着及びインク安定性要件を満たすエタノール及び/又はn-プロパノールインクの開発は、バインダー樹脂、染料、伝導剤を使用できる選択肢の制限のため、より困難である。この関連で、n-プロパノールはバインダー樹脂及び染料に対してさらに溶解力が低いので、n-プロパノールは、エタノールよりさらに使用が困難である。さらに、エタノールインクは、特に湿潤環境内において水を吸収する傾向があり、使用中に他の問題を引き起こし、プリンター動作の信頼性を低下させるか、又は空気乾燥機を必要とする。エタノール溶媒インクは、特定の地理的領域では湿度のため現実的でない。さらに、エタノールをベースとするインク組成物に適したいくつかの樹脂、例えばフェノール樹脂は、フェノール系バインダーを用いるインク組成物中の残留フェノール及び微量のホルムアルデヒドの存在のためあまり安全とはみなされない。ポリアミド樹脂は、インクが環境から水を吸収すると溶液から沈殿する傾向があり、このことも特に湿潤環境において、信頼できないプリンター動作につながる。エタノールの使用は、唯一の溶媒として又は溶媒混合物の少量成分としてでさえ、インクの乾燥時間をも増やす。さらに、エタノール含有インクは、アルコールに関する厳しい輸入法のため特定の国及び地域への輸入に対する困難及び制限に直面する。従って、より危険な有機溶媒が無く、かつエタノールも無いか又は実質的に無いが、それでも伝統的な先行技術のMEKインクと同様の付着及び他の特性を有するインクが有利であろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、当技術分野には、信頼できる印刷並びに組成物を製造及び使用する労働者への安全性の必要要件を満たす連続インクジェット用インク組成物への要求、並びに食品包装時及び食品製造環境におけるそれらの使用に関する要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明の実施形態のインク組成物は、種々のインク及び印刷用途、好ましくは産業用途におけるインクジェット印刷に適しており、かつそれほど規制されず、連続インクジェット印刷に用いられる伝統的溶媒より安全な溶媒を使用する。これらの組成物は、60質量%超の揮発性C5ケトン溶媒を使用し、日本ISHLクラス2有機溶媒リストに載っている有機溶媒の認識できる量又は相当量の使用を回避する。
本発明の実施形態は、(a)60質量%超の1種以上の揮発性C5ケトン溶媒;(b)1種以上のバインダー樹脂;及び(c)1種以上の着色剤を含み、実質的にアセトン、メタノール、又はメチルエチルケトンを含有しないインク組成物に関する。好ましい実施形態では、1種以上の揮発性C5ケトン溶媒は、2-ペンタノン、3-ペンタノン、3-メチル-2-ブタノン、及びその混合物から成る群より選択される。
本発明の実施形態は、インク組成物であって、(a)該インク組成物の60質量%超で存在する1種以上の揮発性C5ケトン溶媒;(b)1種以上のバインダー樹脂;及び(c)1種以上の着色剤を含む、インク組成物を包含する。本発明の好ましい実施形態は、上記(a)、(b)、及び(c)を含み、該インク組成物は、5質量%未満のアセトン、メタノール、メチルエチルケトン、又はその任意の組み合わせを含有する。さらに、これらのインク組成物の特定の好ましい実施形態は、さらにエタノール、n-プロパノール、又はその組み合わせを30%まで、又は15%まで、又は5%までの量で含有する。
【0007】
非常に好ましいインク組成物は、実質的にアセトン、メタノール、 エタノール、又はメチルエチルケトンを含有しない。
上述の好ましいインク組成物は、1種以上の揮発性C5ケトン溶媒が、2-ペンタノン(メチルプロピルケトン)、3-ペンタノン(ジエチルケトン)、3-メチル-2-ブタノン(メチルイソプロピルケトン)、及びその混合物から成る群より選択されるものである。1種以上の揮発性C5ケトン溶媒が3-メチル-2-ブタノン(メチルイソプロピルケトン)であるインク組成物が最も好ましい。
さらにインク組成物は、70質量%超の1種以上の揮発性C5ケトン溶媒又は80質量%超の1種以上の揮発性C5ケトン溶媒を含有することができる。
本発明は、1種以上のバインダー樹脂が、セルロースエステル樹脂、ビニル樹脂、変性ロジンエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、及びその混合物から成る群より選択され、さらに好ましくは1種以上のバインダー剤が、セルロースエステル樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、及びその混合物から成る群より選択され、最も好ましくはセルロースエステル樹脂が酢酸プロピオン酸セルロース樹脂である、上記インク組成物をも包含する。好ましいインク組成物は、1種以上のバインダー樹脂が、インク組成物の約5.0質量%~約13.0質量%の量で存在するインク組成物である。
【0008】
本発明の特定の実施形態では、1種以上の着色剤は、ソルベントブラック29、ソルベントブラック27、及びその混合物から成る群より選択され、好ましくは1種以上の着色剤は、ソルベントブラック29、例えばORASOL BLACK X55TM、VALIFAST BLACK(登録商標)3808、及びDL BLACK N36BTMである。
本発明の他の実施形態としては、界面活性剤、可塑剤、付着促進剤、伝導剤、消泡剤、及びその混合物から成る群より選択される1種以上の添加剤をさらに含むインク組成物がある。界面活性剤は、好ましくはポリアルキレンオキシド変性ポリシロキサンである。好ましくは1種以上の界面活性剤は、インク組成物の約0.1質量%~約2.0質量%の量で存在する。
本発明のさらなる実施形態としては、基体に連続インクインクジェット印刷する方法であって、上記インク組成物の液滴の流れ(stream)を前記基体上へ向け(directing)、液滴を乾燥させて、前記基体上に画像を印刷することを含む方法がある。基体は、多孔性、半多孔性、又は非多孔性の、例えば無コート紙、コート紙、硬質若しくは軟質プラスチック、ポリマーフィルム、金属及び合金、ガラス、並びにセラミックから成る群より選択される基体であり得る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
好ましい実施形態の詳細な説明
1. 定義
本発明の説明の文脈(特に下記特許請求の範囲の文脈)における用語「a」及び「an」及び「the」並びに同様の指示対象の使用は、本明細書で別段の定めがない限り又は文脈により明らかに矛盾しない限り、単数と複数の両方を含めるものと解釈すべきである。用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「包含する(including)」、及び「含有する(containing)」は、特に断りのない限り、非限定(open-ended)用語と解釈すべきである(すなわち、「含むが、これに限定されない」を意味する)。本明細書の値の範囲の列挙は、本明細書で別段の定めがない限り、単にその範囲に入るそれぞれ別々の値に個々に言及する簡潔法として働くよう意図されるものであり、それぞれ別々の値は、あたかもそれが本明細書で個々に列挙されたかのように本明細書に組み込まれる。本明細書に記載の全ての方法は、本明細書で別段の定めがない限り又は文脈により明らかに矛盾しない限り、いずれの適切な順序で行なってもよい。あらゆる全ての例、又は本明細書で与える例示言語(例えば、「のような」)は、特に主張していない限り、単に本発明をさらに良く明らかにする意図であり、本発明の範囲に制限を課すものではない。本明細書のいかなる言語も、いずれの非請求要素も本発明の実施に欠かせないということを示すと解釈されるべきでない。
別段の定義がない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、本発明がその出願時に属する技術分野で一般に理解されているのと同じ意味を有するよう意図されている。本明細書に記載のものと同様又は等価な種々の方法及び材料を本発明の実施又は試験に使用できるが、適切な方法及び材料について以下に述べる。しかしながら、当業者は、使用及び記載した方法と材料は例であり、本発明での使用に適した唯一のものでない可能性があることを理解すべきである。
【0010】
さらに、測定は固有の変動性を受けるので、本明細書で与えるいずれの温度、質量、体積、時間間隔、pH、塩分、容積モル濃度若しくは質量モル濃度、範囲、濃度及びいずれの他の測定値、量又は数値表現も、明白に反対のことを述べていない限り、概算であり、正確又は決定的数値でないものである。従って、本発明に適している場合、かつ当業者によって理解されるように、特許出願で一般的に利用されている概算若しくは相対的用語及び程度の用語、例えば:約、およそ、実質的に、本質的に、から本質的に成る、含む、及び有効量などを用いて本発明の種々の態様を述べることが適切である。別段の定義がない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、当業者が一般に理解しているのと同じ意味を有する。
本明細書で使用する用語「インクジェット(inkjet又はink jet)」は、例えば紙、プラスチック、金属、ガラスなどの基体上にインクの小液滴を噴射することによって画像を作り出すタイプの印刷であるインクジェット印刷を指す。「連続インクジェット」又は「CIJ」法は、例えば、製品及びパッケージのマーキング及びコーディングに使用される。この方法では、ポンプが液体インク組成物を貯蔵所からノズルの方へ向けてインク液滴の連続流を作り出し、これが制御された可変静電場にさらされ、それによって変動静電場に応じて液滴が生じるように帯電される。帯電液滴は、別の静電場に通すことによって適切な位置に偏向されて、基体に所望パターンを印刷するか、又は後で使用するために貯蔵所に戻って再利用される。
【0011】
発明インク組成物中の溶媒又は他の成分の文脈において本明細書で使用する表現「実質的にない(substantially free of又はsubstantially no)」は、好ましくは認識できる量又は容易に検出できる量の指示成分が組成物に存在しない状態を指す。「実質的にない」は、当技術分野で既知の一般に使用されている検出方法の検出限界未満の量、又は規制により該化合物に許容される最大量未満の量、又は5%未満、好ましくは2%未満、1%未満、若しくは0.5%未満の量を指すことがある。好ましくは、この量は、規制化合物に関する日本国、欧州、及び/又は米国規制下で許容される量である。例えば、日本ISHLクラスII有機溶媒リストについては、リスト中の全ての溶媒(例えばMEK、メタノール、アセトン、及び酢酸エチル)の総濃度は、インク中で合わせて5%を超えられない。
【0012】
しかしながら、エタノール又はn-プロパノールに関しては、エタノール又はn-プロパノールが発明インク組成物に存在する場合、それが乾燥時間及び付着などの塗布性能に顕著な影響を及ぼさないように、それぞれ質量で組成物の30%未満として、さらに好ましくは質量で組成物の15%未満として存在すべきである。最も好ましくは、インクには、エタノールが無いか又は実質的に無く、エタノールに関する厳しい規制を有する地理的領域へ輸入するときの困難を回避する。
本明細書で使用する用語「溶媒」は、その主機能がインク組成物の他成分を溶かして運ぶことである成分を指す。
本明細書で使用する用語「着色剤」は、染料、顔料又は色を与えるか若しくは何か別のものの色相を変える他の物質を指し、いずれの該物質を指すこともできる。着色剤には、黒色染料並びに他の色が含まれる。
本明細書で使用する用語「揮発性」は、物質の蒸発する傾向を指し、物質の蒸気圧に関係している。揮発性溶媒は、蒸発するか又は気相になる能力を有する溶媒である。
本明細書で使用する用語「添加剤」は、発明インク組成物に添加し得る任意成分を指す。
本明細書で使用する用語「バインダー樹脂」は、印刷中に塗布される基体にインク組成物を固着させるのを助ける物質を指す。一般に、バインダーは、他の材料を一緒に保持して全体をまとめるか又は付着特性を与える材料を指す。
本明細書で使用する頭字語「MEK」は、ブタノンとしても知られるメチルエチルケトンを指す。MEKは、式CH3C(O)CH2CH3の無色有機液体溶媒である。本明細書で使用する頭字語「MPK」は、2-ペンタノンとしても知られるメチルプロピルケトンを指す。MPKは、式CH3CH2CH2C(O)CH3の有機液体溶媒である。本明細書で使用する頭字語「MIPK」は、3-メチル-2-ブタノンとしても知られるメチルイソプロピルケトンを指す。MIPKは、式(CH3)2CHC(O)CH3の有機液体溶媒である。本明細書で使用する頭字語「DEK」は、3-ペンタノンとしても知られるジエチルケトンを指す。DEKは、式CH3CH2C(O)CH2CH3の有機液体溶媒である。
【0013】
【0014】
2. 概要
本明細書に記載のインク組成物は、1種以上の揮発性C5ケトン(ペンタノン)溶媒、例えばMPK、MIPK、及びDEKなどを1種以上のバインダー樹脂及び着色剤と共に利用する。本組成物は、任意に他の添加剤、例えば可塑剤、界面活性剤、伝導剤、追加溶媒、付着促進剤、及び/又は消泡剤を含有してもよい。
これらのインク組成物は、付着及び乾燥時間の点でうまく機能し、単一ノズル連続インクジェット印刷を含めた塗布に有用であるが、複数ノズル連続インクジェット又はバイナリアレイ印刷にも使用できる可能性がある。発明インク組成物は、湿潤剤を含有しないので、サーマルインクジェット(TIJ)印刷に用いられるインクとは異なる。TIJインク組成物は通常、湿潤剤を含有し、30%まで湿潤剤である。発明インク組成物は、他の有機溶媒、例えば1,2-ジメトキシエタン及びメタノールなどを使用するか又は60%未満の揮発性C5ケトン溶媒を使用するインクより優れた健康及び安全性プロファイルを有し、かつ30質量%より高濃度でエタノールを含有するインクより良い乾燥時間及び性能を有する。
発明インク組成物は、規制溶媒の特定閾値を超えるときに典型的なCIJインクでは必要とされる高価な排気抽出システムを装備しなくても日本で使用することができ、かつ日本の制限品目リストに応じるように開発された他のインクに勝る塗布性能及び健康/安全性の利点をも有する。日本の「労働安全衛生法に関する法律施行令(Order for Enforcement Industrial Safety and Health Act)」に合致するが、典型的なMEKベースCIJインクと同様の塗布性能をも有するインク組成物(CIJインク)は需要がある。
【0015】
3. 結果
本発明の実施形態に従ってインク組成物を製造した。比較試験用に市販のインク製品を得た。VIDEOJET(登録商標)CIJサンプルリグを用いて印刷した後、乾燥時間について発明製品を試験した。結果は、発明組成物の乾燥時間が、溶媒としてMEKを用いるインク製品に匹敵し、エタノールベースインクより優れていることを明白に示している。実施例3を参照されたい。
上記印刷後に4つの別々の試験で付着についてインクを試験した(実施例4参照)。親指擦り、PINK PEARL(登録商標)イレイサー、爪引っ掻き、及びテープ試験では、発明組成物は、一般的に先行技術の組成物より優れるか又はそれらに匹敵した。従って、発明インクは、製造及び使用するためにより安全でありながら、それらの意図した目的での使用に適していた。
【0016】
4. 発明の実施形態
本発明のインク組成物は、いずれの適切な粘度又は表面張力を有してもよい。本発明の実施形態では、25℃で1cP~10cPの範囲、好ましくは2cP~6cPの範囲の粘度を有する。本インク組成物は、25℃で好ましくは約10cP未満、好ましくは約6cP未満の粘度を有する。
本発明のインク組成物は、25℃で好ましくは約20~約30mN/mの表面張力を有する。
本発明のインク組成物は、25℃で好ましくは約500~2000Ω・cm、好ましくは約900~1500Ω・cmの抵抗率を有する。
本発明の実施形態に従うインクジェット用インク組成物は、好ましくは-15℃と62℃の間のような最低最高温度で少なくとも数週間(例えば4~6週間)にわたって安定である。
本発明のインク組成物は、擦って汚れないようにして良い印刷製品をもたらすために乾燥時間を速くし、高速印刷を可能にするのに十分に揮発性である。ジェット印刷メッセージの乾燥時間は、好ましくは10秒未満、さらに好ましくは約2秒未満である。
本発明の実施形態に従ってインク組成物に用いる溶媒及び溶媒混合物は、C5ケトン有機溶媒及びその混合物である。発明組成物は、少なくとも60%のMPK、MIPK、DEK、又はその組み合わせを含有し、かつ日本ISHAにクラスII有機溶媒として収載されている溶媒を実質的に含有しない。溶媒又は溶媒混合物は、好ましくは、健康及び安全性の規制により日本国、欧州、及び/又は米国で許容されない有機溶媒を含有しない。
【0017】
日本ISHA下でクラスIIとして収載されている有機溶媒としては、アセトン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソペンチルアルコール(イソアミルアルコール)、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル(CellosolveTM)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセタート(CellosolveTM アセタート)、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル(Butyl CellosolveTM)、エチレングリコールモノメチルエーテル(Metyl CellosolveTM)、o-ジクロロベンゼン、キシレン、クレゾール、クロロベンゼン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソペンチル(酢酸イソアミル)、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸n-プロピル、酢酸n-ペンチル(酢酸n-アミル)、酢酸メチル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、1,1,1-トリクロロエタン(トリクロロエチレン)、トルエン、n-ヘキサン、1-ブタノール、2-ブタノール、メタノール、メチルエチルケトン、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノン、メチルn-ブチルケトン、スチレン(エテニルベンゼン、ビニルベンゼン)、及びn-ヘキサンが挙げられる。同システム下のクラスI有機溶媒としては、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエチレン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、及び二硫化炭素が挙げられる。クラスIII有機溶媒としては、ガソリン、コールタールナフサ、石油エーテル、石油ナフサ、石油ベンゼン、テレピン油、及びミネラルスピリットが挙げられる。
【0018】
本発明の好ましいインク組成物の実施形態は、少なくとも1種のバインダー樹脂を含むが、複数のバインダー樹脂が存在することができる。当業者は組成物中のバインダー樹脂の量を決定することができ、選択したバインダー樹脂(複数可)によって決まる。バインダー樹脂の総量は、いずれの適切な量であってもよい。例えば、バインダー樹脂又はバインダー樹脂の組み合わせは、インクジェット用インク組成物の約0.1%~約30%、好ましくは約2%~約20%、さらに好ましくは約4%~約15%の量で存在し得る。最も好ましい組成物は、約6%~約14%のバインダー樹脂を含有する。
可溶性又は分散性バインダー樹脂を含め、いずれの適切なバインダー樹脂をも利用することができる。好ましいバインダー樹脂は、組成物中のC5ケトン溶媒又は溶媒混合物に可溶である。従って、好ましくは本発明での使用を企図したいずれのバインダー樹脂もMEK、MIPK、DEK、又はその混合物に可溶である。特定の実施形態では、インク組成物はアクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリウレタン樹脂、変性ロジン樹脂、フェノール樹脂、変性フェノール樹脂、ポリアミド、セルロースエーテル、セルロースエステル(例えば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース(CAB)、及び酢酸プロピオン酸セルロース(CAP))、硝酸セルロース樹脂、ポリマレイン酸無水物、ポリエステル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマー(ビニル樹脂)、スチレン/メタクリラートコポリマー、アルデヒド樹脂、ポリビニルアルコール、スチレンとアリルアルコールのコポリマー、及びポリケトン樹脂、並びにその任意の組み合わせから選択される1種以上のバインダー樹脂を含むことができる。用語「アクリル樹脂」には、アクリル及び/又はアルキルアクリルのポリマーとアクリル及び/又はアルキルアクリルと他のモノマー、例えばスチレン及び/又はαメチルスチレンとのコポリマーの両方が含まれる。
【0019】
特定の実施形態は、好ましくはセルロースエステル樹脂、ビニル樹脂、変性ロジンエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、及びその任意の組み合わせから選択される1種以上のバインダー樹脂を含む。一実施形態では、インク組成物は、主バインダーとしてビニル樹脂を含み、第2のバインダーとして水素化ロジン樹脂、CAP樹脂、又はその混合物を含む。
アクリル樹脂の例としては、スチレンを、アクリル酸、若しくはメタクリル酸などのアクリルモノマーと、また場合によりアクリル酸アルキルモノマー、例えばアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチルなどと共重合させることによって作ることができるスチレン・アクリル樹脂が挙げられる。スチレンアクリル樹脂は、商品名JONCRYL(登録商標)で市販されている。JONCRYL(登録商標)樹脂の例としては、JONCRYL(登録商標)555、586、678、680、682、683、及び67が挙げられる。好ましい樹脂、JONCRYL(登録商標)682は、約1700の質量平均分子量、約238の酸価、約105℃の軟化温度、及び約56℃のガラス転移温度を有する。市販ビニル樹脂の例は、WACKER CHEMIE(登録商標)AGから入手可能なVINNOL(登録商標)、及びSuzhou Direction Chemical Co. Ltd.から入手可能な塩化ビニル樹脂(YMCA樹脂)である。市販ポリビニルブチラール樹脂の例は、WACKER CHEMIE(登録商標)AGから入手可能なPIOLOFORM(登録商標)BN18、及びKURARAY(登録商標)America, Inc.から入手可能なMOWITAL(登録商標)LP B16Hである。市販CAP樹脂の例は、EASTMAN(登録商標)Chemicalから入手可能な酢酸プロピオン酸セルロースである。市販の変性ロジンエステルの例は、ARAKAWA(登録商標) Chemicalから入手可能なSUPER ESTERTM A-75、及びPINOVA(登録商標)から入手可能なSTAYBELITE(登録商標)Ester 10である。
【0020】
好ましい実施形態では、インク組成物には、ノボラック及レゾール樹脂などのアルデヒド由来フェノール樹脂に頻繁に見られる望ましくない残基であるホルムアミドなどのアルデヒドが無いか又は実質的に無いことが望ましいので、インク組成物は、バインダーとしてフェノール樹脂を含まない。ホルムアルデヒドは毒性であり、発癌物質の疑いがある。該樹脂に見られることが多いアルデヒド残基は、特定染料、例えば、アゾ染料の色特性にも悪影響を与えると考えられている。インク組成物は、好ましくはインク組成物の質量でいずれのアルデヒド由来フェノール樹脂をも1%未満又は0.5%未満しか含まない。インク組成物には、好ましくはアルデヒド由来フェノール樹脂が実質的に無い。
他の好ましい実施形態では、インク組成物はバインダーとしてポリアミドを含まない。インク組成物が環境から水を吸収すると、ポリアミド樹脂は沈殿する傾向がある。インク組成物は、好ましくはインク組成物の質量でいずれのポリアミド樹脂も1%未満又は0.5%未満しか含まない。インク組成物は、好ましくは実質的にポリアミド樹脂を含まない。
他の好ましい実施形態では、インク組成物は、バインダーとしてヒドロキシ芳香族樹脂を含まない。インク組成物は、好ましくはインク組成物の質量でいずれのヒドロキシ芳香族樹脂をも1%未満又は0.5%未満しか含まない。インク組成物には、好ましくは実質的にヒドロキシ芳香族樹脂が無い。
最も好ましいバインダー樹脂は、酢酸プロピオン酸セルロース(CAP)、STAYBELITE(登録商標)Ester 10、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂、DertopheneTM、VINNOL(登録商標)E15/45M、TEGO(登録商標)AddBond LTH、及びその組み合わせである。最も好ましい実施形態は、CAP、Staybelliteエステル10及びVINNOL(登録商標)E15/45Mを含有するか、又はCAP、DertopheneTM、及びVinnol E15/45Mを含有するか、又はPVB及びTEGO(登録商標)AddBond LTHを含有する。
【0021】
発明実施形態のいずれにおいても、インク組成物は、少なくとも1種の着色剤を含有する。着色剤は、インクジェット用インク組成物の質量で約0.1%~約12%、好ましくは約1%~約10%、さらに好ましくは約2%~約8%の量で存在することができる。
着色剤は、印刷用途に適したいずれの着色剤又は着色剤の組み合わせであってもよい。着色剤は、好ましくは染料である。本発明の実施形態では、1種以上の染料を着色剤として利用し、これらの染料は、酸染料、塩基染料、溶媒染料、分散染料、媒染染料及びその任意の組み合わせから成る群より選択される。溶媒染料の例としては、ナフトール染料、アゾ染料、金属錯体染料、アントラキノン染料、キノイミン染料、インジゴイド染料、ベンゾキノン染料、カルボニウム染料、ナフトキノン染料、ナフタルイミド染料、フタロシアニン染料、及びペリレン染料が挙げられる。
例えば、本発明の特定実施形態に従うインク組成物は、C.I.ソルベントブラック3、C.I.ソルベントブラック5、C.I.ソルベントブラック7、C.I.ソルベントブラック22、ソルベントブラック26、C.I.ソルベントブラック27(例えばVALIFAST BLACK(登録商標)3840L)、C.I.ソルベントブラック29(例えばVALIFAST BLACK(登録商標)3808、ORASOL BLACK X55TM、及びDL BLACK N36BTM)、C.I.ソルベントブラック48、その任意の組み合わせから成る群より選択される1種以上の染料を含むことができる。好ましい溶媒染料は、ソルベントブラック27(VALIFAST BLACK(登録商標)3840L)、ソルベントブラック29(ORASOL BLACK X55TM)、ソルベントブラック29(VALIFAST BLACK(登録商標)3808)及びソルベントブラック29(DL BLACK N36BTM)である。
【0022】
本発明のインク組成物は、1種以上の添加剤、例えば可塑剤、界面活性剤、消泡剤、付着促進剤、及びその混合物をさらに含んでよい。添加剤は、好ましくはインク組成物と混和性であり、印刷中に基体へのインクの塗布中に組成物から相分離しない。
本発明の実施形態での使用に適切な可塑剤の例としては、RIT-CHEM(登録商標)Co., Inc.から入手可能なPLASTICIZER #8(登録商標)がある。可塑剤添加剤は、インクジェット用インク組成物の質量で約0.1%~約5%、好ましくは約0.3%~約3%の量で存在することができる。
使用可能な界面活性剤の例としては、フッ素系界面活性剤、シロキサン、シリコーン、シラノール、ポリオキシアルキレンアミン、プロポキシル化(ポリ(オキシプロピレン))ジアミン、アルキルエーテルアミン、ノニルフェノールエトキシラート、エトキシル化脂肪アミン、ビニルピロリドンとジメチルアミノエチルメタクリラートの四級化コポリマー、フッ素化有機酸ジエタノールアミン塩、アルコキシル化エチレンジアミン、ポリエチレンオキシド、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミンアミン、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリイミン、アルキルホスファートエトキシラート混合物、プロピレングリコールのポリオキシアルキレン誘導体、及びポリオキシエチル化脂肪アルコール、又はその任意の組み合わせが挙げられる。適切なポリマー界面活性剤の好ましい具体例は、GENERAL ELECTRIC(登録商標)から入手可能なシリコーン界面活性剤SILWET(登録商標)L7622である。界面活性剤添加剤は、インクジェット用インク組成物の質量で約0.01~約1.0%、好ましくは約0.02~約0.5%の量で存在することができる。
【0023】
インク組成物は、付着促進剤を含むこともできる。適切な付着促進剤は、シラン、例えばグリシドキシプロピルジエトキシメチルシランであるSILQUEST(登録商標)WETLINK 78、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランであるSILQUEST(登録商標)A-186 SILANE、及びγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランであるSILQUEST(登録商標)A-187 SILANEなどであり、これらは全てGENERAL ELECTRIC(登録商標)から入手可能である。付着促進剤は、インク組成物の質量で約0.1~約2%、好ましくは約0.2~約1.0%、さらに好ましくは約0.5%で存在することができる。
インク組成物は、好ましくはほとんど又は全く水を含まない。水は、好ましくはインクジェット用インク組成物の質量で5%未満、さらに好ましくは4%未満、さらに好ましくは2%未満、最も好ましくは1%未満の量で存在する。インク組成物は、日本ISHAクラスII有機溶媒リストに収載されていないエタノール及び1-プロパノールなどのいくつかの他の有機溶媒を含有することができる。特に、組成物が、日本ISHAクラスII有機溶媒リストに収載されている1種以上の有機溶媒を含有する場合、他の有機溶媒は、インク組成物の質量で5%未満又は1%未満、好ましくは0.5%未満、さらに好ましくは0.1%未満、さらに好ましくは0.01%未満、最も好ましくは0.001%未満の量で存在する。日本ISHAクラスII有機溶媒リストに収載されていない揮発性C5ケトン溶媒(MPK、MIPK、DEK)以外の溶媒については、該溶媒は、30%未満、好ましくは15%未満、さらに好ましくは5%未満の量で存在し、最も好ましくはエタノールが無いか又は実質的に無い。好ましいインク組成物は、日本国、欧州、又は米国の健康及び安全性の規制下で許容される量未満の量の他の有機溶媒を含有することができる。最も好ましくは、インク組成物は、日本ISHAクラスIIリストに収載されているメタノール、MEK、若しくは他の溶媒、又はエタノールなどの検出可能な有機溶媒を含有しない。
さらに、米国薬物取締局(United States Drug Enforcement Agency)によって潜在的薬物前駆体として収載されている溶媒は好ましくない。この理由のため、例えば、インク組成物には、実質的にMEK及びアセトンが無いない方がよい。
【0024】
本発明のインク組成物は、いずれの適切な方法によっても調製可能である。例えば、選択成分を合わせて十分に撹拌しながら混合し、結果として生じる流体を濾過していずれの不溶不純物をも除去することができる。
本発明は、連続インクジェットプリンターで基体に画像を印刷する方法であって、本明細書に記載の発明のインク組成物のいずれかの実施形態の液滴の流れを前記基体上へ向け、インク液滴を乾燥させて、それによって前記基体上に画像を印刷することを含む方法をさらに提供する。技術上周知のいずれの連続インクジェット印刷方法及び機器も本発明での使用に企図される。いずれの適切な基体も本発明に従って印刷可能である。適切な基体の例としては、多孔性基体、例えば無コート紙及びボール紙など;半多孔性基体、例えば水性コート紙、クレーコート紙、シリカコート紙、UVオーバーコート紙、ポリマーオーバーコート紙、及びワニスオーバーコート紙など;並びに非多孔性基体、例えばプラスチック(例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン)、ポリマーフィルムなど、金属及び合金(例えば、鋼、アルミニウム、黄銅など);ガラス、及びセラミックが挙げられる。紙基体は、紙の薄いシート、紙のロール、又はボール紙であり得る。プラスチック、金属、ガラス、及びセラミック基体は、いずれの形態、例えばボトル若しくは容器、プレート、棒、シリンダーなどの形態であってってもよい。紙基体は、紙の薄いシート、紙のロール、又はボール紙シートを含め、紙又はボール紙製の物品であり得る。特定実施形態では、印刷中に湿った表面の浸透が必要とされ得る乳業などの業界で印刷動作を行なうことができる。
同一又は同様の処方に従って作られるインク組成物の粘度の自然変動のため、製品は、インクの製造中に、必要とされるより意図的にわずかに大きく濃縮されるか又はわずかに高い粘度で作られる。それから必要に応じて多かれ少なかれ追加溶媒で製品が希釈されて特定の粘度範囲要件を満たすことができる。
【実施例】
【0025】
5. 実施例
記載される特定の例示プロセス、組成物、又は方法論は変動し得るので、本発明はこれらに限定されると理解すべきでない。説明に用いる用語法は特定のバージョン又は実施形態を説明するためだけのものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定する意図でないことをも理解すべきである。特に定義されていない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。本明細書に記載の方法及び材料と同様又は等価ないずれの方法及び材料も本発明の実施形態の実施又は試験で使用可能であるが、ここでは特定の具体的及び好ましい実施形態について述べる。本明細書で言及する全ての出版物は、参照によってそれら全体が本明細書に組み込まれる。本明細書にないことは、本発明が、先行発明の理由で該開示に先行する権利を与えられないと認めることと解釈すべきである。
【0026】
実施例1. 連続インクジェット印刷用組成物。
下記成分で下記インク組成物1、2、3、4、5、6、及び7を作製した。
【0027】
【0028】
実施例2. 好ましい連続インクジェット用インク組成物。
インク組成物の下記例(1、2、3、及び7)が好ましい。組成物2は優れた乾燥時間を有した。実施例3を参照されたい。組成物1、3、及び7は好ましい付着特性を有した。実施例4を参照されたい。
【0029】
【0030】
【0031】
実施例3. インク乾燥時間。
下表1に記載のインク組成物を指示基体上での乾燥時間について以下のように試験した。VIDEOJET(登録商標)CIJサンプルリグ(XLサンプルマーカー)を用いて基体に5×7マトリックスの英数字コードをインクで印刷した。印刷直後に、乾燥するまで指で軽く擦って(汚さない)コードを調べた。ストップウォッチを用いて乾燥時間を測定した。3回の乾燥時間の平均を特定基体に関するインクの乾燥時間として記録し、0.5秒増分で端数を切り上げた。
下表1の比較例1(C1)は、溶媒としてメチルエチルケトン(MEK)を用いた市販のVIDEOJET(登録商標)インク製品である。下表中の比較例2(C2)は、日本ISHLクラス2有機溶媒リストに収載の有機溶媒を含有しない市販の無MEK連続インクジェット用インク製品であり、溶媒として1,2-ジメトキシエタンを使用している。下表中の比較例3(C3)は、VIDEOJET(登録商標)製のエタノールベース製品である。残りの数字は実施例1のインク組成物を指す。HDPE=高密度ポリエチレン;LDPE=低密度ポリエチレン;PET=ポリエチレンテレフタラート;PP=ポリプロピレン;PVC=ポリ塩化ビニル。
【0032】
【0033】
実施例4. 付着試験。
以下の表2、表3、表4、及び表5に示すように、4つの別々の試験を利用して印刷面への付着についてインク組成物を調べた。これらの方法は以下のとおりだった。
親指擦り付着試験のためには、Videojet CIJサンプルリグ(XL 101サンプルマーカー)を用いて5×7マトリックスの英数字コードを基体に印刷した。印刷画像を1分間固化させた後に試験を行なった。この時にあらゆる擦りについてコードの全く同じ領域を覆うように試みながら中圧でコードを一方向に横切ってきれいな親指で印刷コードを擦った(最大10回)。画像を変えるか又は除去するために必要な擦る回数を記録してからそれに基づいて1~6の尺度の数値を割り当てた。表2下に記載の格付け尺度を参照されたい。
【0034】
PINK PEARL(登録商標)イレイサー試験、指爪引っ掻き試験、及びテープ試験のためには、印刷画像を24時間固化させた後に試験を行なった。PINK PEARL(登録商標)イレイサー試験では、印刷基体を印刷コードのある表を上にして堅い面上に置き、PINK PEARL(登録商標)イレイサーを左から右へ印刷文字を横断して約3kgの力で擦った。バランスを用いて必要に応じて力を較正した。画像を変えるか又は除去するために必要なイレイサーの数を記録してから、イレイサー数に基づいて、表3下に記載の格付け尺度を用いて1~6の尺度の数値を割り当てた。
指爪引っ掻き試験では、印刷基体を印刷コードのある表を上にして堅い面上に置き、コードに沿って左から右へ親指の爪を用いて中程度の圧力であらゆる引っ掻きについてコードの全く同じ領域をカバーするように試みながら引っ掻いた。画像を変えるか又は除去するために必要な引っ掻く回数を記録してから、引っ掻き回数に基づいて、表4下に記載の格付け尺度を用いて1~6の尺度の数値を割り当てた。
テープ試験では、印刷基体を印刷コードのある表を上にして堅い面上に置き、テープ(3M SCOTCH(登録商標) Transparent Tape #600又は等価物)を、印刷面との完全な接触を確実にするために1回の堅固な(3kg)擦りを用いてテープ表面を平らにしながら印刷コード全体を覆うように貼った。次に自由端をつかんでそれを迅速にできるだけ180°に近い角度でそれ自体の方に引く(ガタガタと動かさない)ことによってテープを取り除いた。コード及びテープを評価し、未試験コードと比較した。表5下に記載の格付け尺度を用いてコードの視認性及びテープに移行したインクの量に基づいて1~6の尺度の数値を割り当てた。
全ての試験用の印刷は、VIDEOJET(登録商標)CIJサンプルリグ(XL 101サンプルマーカー)を用いて行なった。親指擦り付着試験は印刷の1分後に行ない;残りの試験は印刷の24時間後に行なった。
【0035】
表2. 親指擦り付着試験。
格付け尺度:6=10×(×=擦り回数)後に印刷コードに変化なし;5=10×後に印刷コードのフェーディング(<50%)、全ての文字が判読可能;4=10×後に印刷コードのフェーディング(>50%)、全ての文字が判読可能;3=10×後に一部又は全ての文字が判読不能だが、5×後には判読可能;2=5×後に一部又は全ての文字が判読不能だが、1×後には判読可能;1=1×後に一部又は全ての文字が判読不能。
【0036】
表3. PINK PEARL(登録商標)イレイサー試験。
格付け尺度:6=10×(×=擦り回数)後に印刷コードに変化なし;5=10×後に印刷コードのフェーディング(<50%)、全ての文字が判読可能;4=10×後に印刷コードのフェーディング(>50%)、全ての文字が判読可能;3=10×後に一部又は全ての文字が判読不能だが、5×後には判読可能;2=5×後に一部又は全ての文字が判読不能だが、1×後には判読可能;1=1×後に一部又は全ての文字が判読不能。
【0037】
表4. 指爪引っ掻き試験
格付け尺度:6=10×(×=擦り回数)後に印刷コードに変化なし;5=10×後に印刷コードのフェーディング(<50%)、全ての文字が判読可能;4=10×後に印刷コードのフェーディング(>50%)、全ての文字が判読可能;3=10×後に一部又は全ての文字が判読不能だが、5×後には判読可能;2=5×後に一部又は全ての文字が判読不能だが、1×後には判読可能;1=1×後に一部又は全ての文字が判読不能。
【0038】
表5. テープ試験。
格付け尺度:6=テープへの移行なし及び印刷コードに可視変化なし;5=未試験印刷コードと比較したときに初めて区別可能な無視できるテープへの移行;4=テープへの最小の移行があるが(11~25%)、印刷コードの全ての文字が判読可能;3=テープへの顕著な移行があるが(26~50%)、印刷コードの全ての文字が判読可能;2=テープへの顕著な移行(50~99%);1=テープへの完全な移行。
【0039】
実施例5. 好ましいインク処方。
下記インクは好ましい組成物である。指示基体について上述したように乾燥時間及び付着試験を行ない、各試験について上述したように格付けした。結果を下表6に収める。
【0040】
【0041】
【0042】
参考文献
下記及び本明細書全体にわたって収載した参考文献は、参照によってそれらの全体がここに組み込まれる。
1. 米国特許第8,142,559号。
2. 米国特許第8,414,695号。
3. 米国特許第8,632,630号。
4. 米国特許第9,249,326号。