(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
H02M3/155 B
H02M3/155 P
(21)【出願番号】P 2022196088
(22)【出願日】2022-12-08
(62)【分割の表示】P 2018237283の分割
【原出願日】2018-12-19
【審査請求日】2022-12-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 真吾
(72)【発明者】
【氏名】池成 達也
【審査官】福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-033990(JP,A)
【文献】特開2009-296713(JP,A)
【文献】特開2016-010193(JP,A)
【文献】特開2002-369505(JP,A)
【文献】実開平2-75993(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子と基準電圧端子の間に直列接続される第1トランジスタ及び第2トランジスタを含み、前記第1トランジスタは前記入力端子と前記第2トランジスタとの間に接続され、前記第2トランジスタは前記第1トランジスタと前記基準電圧端子との間に接続される、トランジスタ群と、
前記のトランジスタ群の中間ノードと出力端子との間に接続されるインダクタと、
前記出力端子と前記基準電圧端子の間に接続される出力コンデンサと、
前記トランジスタ群をPWM制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、動作停止後における再起動時において、
前記第1トランジスタ及び前記第2トランジスタが非導通の状態から、前記第2トランジスタを導通状態に切り替え、その後前記第2トランジスタのデューティ比を時間の経過に従って0から100%まで増加させ
、
前記第2トランジスタのデューティ比を時間の経過に従って0から100%まで増加させる時間をTr、出力コンデンサのキャパシタンスをC、インダクタのリアクタンスをLとしたとき、前記時間Trは、Tr≧2π√(LC)となるように設定されることを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入力直流電圧を異なる値の出力直流電圧に昇圧又は降圧する電力変換回路(DC/DCコンバータ)として、昇圧型チョッパ、降圧型チョッパ、及び昇降圧型チョッパが知られている。
【0003】
一例として昇降圧型チョッパについて説明する。昇降圧型チョッパは様々な形式のものが提案されているが、そのうち、直列接続された2つのスイッチング素子(トランジスタ)からなる昇圧用スイッチング回路と、直列接続された2つのスイッチング素子からなる降圧用スイッチング回路と、両者の中間ノードの間にインダクタとを含んだ昇降圧型チョッパが、例えば特許文献1により知られている。このような昇降圧型チョッパは、その対称性から双方向コンバータとも呼ばれる。
【0004】
このような昇降圧型チョッパでは、昇圧動作時には、出力端子側に接続された昇圧用スイッチング回路中の上側トランジスタと下側トランジスタがパルス幅変調(PWM(Pulse Width Modulation)動作)により交互に導通する。また、入力端子側に接続された降圧用スイッチング回路中の上側トランジスタが常に導通状態とされ、下側トランジスタは常に非導通状態とされる。一方、降圧動作時には、降圧用スイッチング回路中の上側トランジスタと下側トランジスタがPWM動作により交互に導通する。また、昇圧用スイッチング回路中の上側トランジスタが常に導通状態とされ、下側トランジスタは常に非導通状態とされる。このような昇降圧型チョッパでは、上側トランジスタと下側トランジスタのデューティ比を調整することにより、昇圧比及び降圧比(出力電圧/入力電圧)を調整することができる。
【0005】
しかし、機器のアラーム動作や入力電圧の急激な低下又は停止によって、このような昇降圧型チョッパの動作が停止することがある。このような場合、出力側に接続された出力コンデンサに電荷が蓄積されているため、昇降圧型チョッパの再起動時にその出力コンデンサの電荷がトランジスタを通じて短絡放電される。このような短絡放電は、トランジスタの故障の原因となり得る。
【0006】
また、昇圧型チョッパや降圧型チョッパでも、同様の出力コンデンサが設けられており、同様の短絡故障が生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明に係る電力変換装置は、動作が停止した場合において短絡故障を効果的に回避することを可能にする電力変換装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様に係る電力変換装置は、入力端子と基準電圧端子の間に直列接続される第1トランジスタ及び第2トランジスタを含む第1トランジスタ群と、出力端子と前記基準電圧端子の間に直列接続される第3トランジスタ及び第4トランジスタを含む第2トランジスタ群と、前記第1トランジスタ群の中間ノードと前記第2トランジスタ群の中間ノードとの間に接続されるインダクタと、前記出力端子と前記基準電圧端子の間に接続される出力コンデンサと、前記第1トランジスタ群及び前記第2トランジスタ群をPWM制御する制御部とを備える。前記制御部は、動作停止後における再起動時において、次の第1~第4段階の動作を実行する。
【0010】
第1段階:前記第1トランジスタ、前記第2トランジスタ、前記第3トランジスタ、及び前記第4トランジスタが全て非導通の状態から、前記第3トランジスタ及び前記第4トランジスタが交互に導通状態になる状態に切り替え、その後前記第3トランジスタのデューティ比を時間の経過に従って増加させる一方、前記第4トランジスタのデューティ比を時間の経過に従って減少させる。
第2段階:前記第1トランジスタ及び前記第4トランジスタを非導通状態に切り替え、前記第3トランジスタを導通状態に維持する。
第3段階:前記第2トランジスタのデューティ比を時間の経過に従って増加させる。
第4段階:通常動作に復帰する。
【0011】
本発明の第2の態様に係る電力変換装置は、入力端子と基準電圧端子の間に直列接続される第1トランジスタ及び第2トランジスタを含むトランジスタ群と、前記のトランジスタ群の中間ノードと出力端子との間に接続されるインダクタと、前記トランジスタ群をPWM制御する制御部とを備える。前記制御部は、動作停止後における再起動時において、前記第1トランジスタ及び前記第2トランジスタが非導通の状態から、前記第2トランジスタを導通状態に切り替え、その後前記第2トランジスタのデューティ比を時間の経過に従って増加させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、動作が停止した場合において短絡故障を効果的に回避することを可能にする電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施の形態の電力変換装置の回路構成図である。
【
図2】通常の再起動シーケンスにおいて流れる放電電流Idcについて説明する回路図である。
【
図3】第1の実施の形態の電力変換装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図4】第1の実施の形態の電力変換装置の動作を説明する回路図である。
【
図5】第1の実施の形態の電力変換装置の動作を説明する回路図である。
【
図6】第1の実施の形態の電力変換装置の動作を説明するタイミングチャートである。
【
図7】第2の実施の形態の電力変換装置の回路構成図である。
【
図8】第2の実施の形態の電力変換装置の動作を説明する回路図である。
【
図9】第2の実施の形態の電力変換装置の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った実施形態と実装例を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではない。
【0015】
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0016】
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態の電力変換装置の回路構成図である。この電力変換装置は、昇降圧型チョッパ1(双方向コンバータ)を備え、入力端子T1に入力された直流の入力電圧Vinを昇圧又は降圧して、出力端子T2から直流の出力電圧Voutを出力する。昇降圧型チョッパ1は、制御部2から出力される制御量Pに基づいて、デューティ比制御部3がデューティ比D
1、D
2を変化させることにより、出力電圧Voutを変化させることができる。デューティ比D
1は制御量Pに従い、0以上1以下の値(0≦D
1≦1)に設定され、デューティ比D
2も同様に0以上1以下の値(0≦D
2≦1)に設定される。なお、デューティ比D
1は、後述するnMOSトランジスタQ1が一周期において導通している期間の割合として定義される。また、デューティ比D
2は、後述するnMOSトランジスタQ4が一周期において導通している期間の割合として定義される。
【0017】
昇降圧型チョッパ1は、一例として、入力コンデンサ10と、降圧用スイッチング回路11(第1トランジスタ群)と、昇圧用スイッチング回路12(第2トランジスタ群)と、インダクタ13(リアクタンスL)と、出力コンデンサ14(キャパシタンスC)とを備える。出力端子T2には、一例として、負荷抵抗15(抵抗R)が接続される。
【0018】
入力コンデンサ10は、入力端子T1と接地端子T3(基準電圧端子)との間に接続される。降圧用スイッチング回路11は、nMOSトランジスタQ1及びQ2を有する。nMOSトランジスタQ1及びQ2は、入力端子T1と接地端子T3との間に直列に、中間ノードN1を介して接続される。
【0019】
昇圧用スイッチング回路12は、nMOSトランジスタQ3及びQ4を有する。nMOSトランジスタQ3及びQ4は、出力端子T2と接地端子T3との間に直列に、中間ノードN2を介して接続される。なお、MOSトランジスタに代えて、バイポーラトランジスタ等の他のスイッチング素子を用いることもできる。
【0020】
昇降圧型チョッパ1が降圧動作を行う場合においては、降圧用スイッチング回路11中のnMOSトランジスタQ1及びQ2は、与えられたデューティ比D1に従って交互に導通状態となっていわゆるPWM制御(Pulse Width Modulation)される。デューティ比D1は、与えられた制御量Pに従って制御部2で決定される。一方、昇圧用スイッチング回路12中のnMOSトランジスタQ3は常に導通状態に維持され、nMOSトランジスタQ4は常に非導通状態に維持される(デューティ比D2は0に設定される)。降圧比は、デューティ比D1に等しい値とされる。デューティ比D1の値が大きくなるほど、降圧比は大きくなる。
【0021】
昇降圧型チョッパ1が昇圧動作を行う場合においては、昇圧用スイッチング回路12中のnMOSトランジスタQ3及びQ4は、与えられたデューティ比D2に従って交互に導通状態となってPWM制御される。デューティ比D2は、与えられた制御量Pに従って制御部2で決定される。一方、降圧用スイッチング回路11中のnMOSトランジスタQ1は常に導通状態に維持され、nMOSトランジスタQ2は常に非導通状態に維持される(デューティ比D1は1に設定される)。昇圧比は、1/(1-D2)に等しい値とされる。デューティ比D2の値が大きくなるほど、昇圧比は大きくなる。
【0022】
インダクタ13は、中間ノードN1とN2の間に接続される。また、出力コンデンサ14は、出力端子T2と接地端子T3との間に接続される。インダクタ13は、降圧用スイッチング回路11及び昇圧用スイッチング回路12のスイッチング動作による電流の変化を制限する役割を有する。具体的にインダクタ13は、電圧Vを与えられた場合において、電流の変化の傾きをV/Lに制限する。
【0023】
この昇降圧型チョッパ1においては、降圧動作、及び昇圧動作のいずれの動作においても、出力コンデンサ14に電荷が蓄積される。従って、昇降圧型チョッパ1の動作が、機器のアラーム動作や入力電圧の急激な低下又は停止によって停止し、その後再起動を行う場合、この出力コンデンサ14の蓄積電荷が、短絡電流の原因となり、トランジスタの短絡故障を引き起こす虞がある。通常の再起動シーケンスでは、
図2に示すように、デューティ比D
1、D
2が共に0に設定され、nMOSトランジスタQ1及びQ4は非導通状態(OFF)とされ、nMOSトランジスタQ2及びQ3が導通状態(ON)とされる。このため、出力コンデンサ14からnMOSトランジスタQ3、インダクタ13、及びnMOSトランジスタQ2に向かう経路に沿って放電電流Idcが流れる。インダクタ13の磁束が飽和状態又は応答が遅い場合には、インダクタ13による電流変化の制限機能が十分働かず、上記放電電流Idcが大電流となることが起こり、nMOSトランジスタの短絡故障に繋がる虞がある。このため、このような短絡電流を抑制する手段が求められる。
【0024】
従来は、負荷抵抗15と平行にブリーダ抵抗を接続し、動作停止後には、出力コンデンサ14からブリーダ抵抗に電流を流し、これにより出力コンデンサ14の蓄積電荷を放電させることが行われている。しかし、このようなブリーダ抵抗は、通常の動作時にも消費電力を無用に増加させるため好ましくない。
【0025】
図3のフローチャート、
図4及び
図5の回路図、並びに
図6のタイミングチャートを参照して、第1の実施の形態の電力変換装置における、動作停止後の再起動シーケンスの実行手順を説明する。
【0026】
この第1の実施の形態では、動作停止後に再度動作を開始させるための再起動シーケンスにおいて、制御部2が次のような放電動作(第1~第4段階)を昇降圧型チョッパ1に行わせる。制御部2は、例えば入力端子間電圧や出力端子間電圧等のモニタ結果に基づいて決定される昇降圧型チョッパ1の停止情報を入力され、この停止情報に従って再起動シーケンスを開始させる。再起動シーケンスの実行時において、制御部2は、制御量Pに基づいて、デューティ比制御部3が出力するデューティ比D1、D2を再起動シーケンスに適合した値及びタイミングで変化させる。これにより、短絡故障を発生させることなく効果的に出力コンデンサ14の蓄積電荷を放電(入力側に回生)させることができる。
【0027】
(1)第1段階:nMOSトランジスタQ1~Q4が全て非導通の状態(OFF)(
図3のステップS11)から、nMOSトランジスタQ3及びQ4を交互に導通状態(ON)となる状態に切り替える。その後nMOSトランジスタQ3のデューティ比を時間の経過に従って増加させる一方(例:0→100%)、nMOSトランジスタQ4のデューティ比(D
2)を時間の経過に従って減少させる(例:100%→0%)(ステップS12)。
(2)第2段階:nMOSトランジスタQ1及びnMOSトランジスタQ4を常時非導通状態(OFF)とし、nMOSトランジスタQ3は常時導通状態(ON)に維持する(ステップS13)。
(3)第3段階:nMOSトランジスタQ2のデューティ比を時間の経過に従って増加させる(0→100%)(ステップS14)。
(4)第4段階:通常動作に復帰する。すなわち、昇降圧型チョッパ1が降圧動作を行う場合においては、nMOSトランジスタQ1及びQ2は、与えられたデューティ比D
1に従って交互に導通状態となっていわゆるPWM制御(Pulse Width Modulation)される一方で、nMOSトランジスタQ3は常に導通状態に維持され、nMOSトランジスタQ4は常に非導通状態に維持される。昇降圧型チョッパ1が昇圧動作を行う場合においては、nMOSトランジスタQ3及びQ4は、与えられたデューティ比D
2に従って交互に導通状態となってPWM制御される一方で、nMOSトランジスタQ1は常に導通状態に維持され、nMOSトランジスタQ2は常に非導通状態に維持される。
【0028】
以下、第1~第4段階に関し、
図4及び
図5の回路図、及び
図6のタイミングチャートも参照しつつ、より詳しく説明する。
【0029】
(1)第1段階
時刻t0(
図6)において、機器のアラーム動作や入力電圧の急激な低下又は停止によって昇降圧型チョッパ1が停止し、その後時刻t1において再起動シーケンスが開始されるとする。その場合、時刻t0ではnMOSトランジスタQ1~Q4が全て非導通状態(OFF)とされる。これにより、昇降圧型チョッパ1は入力電圧Vinを供給する電源(図示せず)から遮断される。
【0030】
その後、時刻t1の再起動シーケンスの開始時においては、nMOSトランジスタQ1及びQ2は非導通状態(OFF)のまま維持しつつ、nMOSトランジスタQ3及びQ4は、交互に導通状態(ON)とされる。この段階でも、依然として昇降圧型チョッパ1は電源から遮断されている。一方、nMOSトランジスタQ3及びQ4は、その導通後デューティ比D2でPWM制御される。デューティ比D2は、時間の経過とともに所定値から0に向かって減少するよう(ランプ動作)、制御部2及びデューティ比制御部3により制御される。
【0031】
このランプ動作が行われている期間(時刻t1~t2)では、nMOSトランジスタQ3及びQ4がデューティ比D2(時間の経過とともに減少)により交互に導通する一方、nMOSトランジスタQ1及びQ2は、非導通状態に維持される。ただし、nMOSトランジスタQ1~Q4は寄生ダイオードを有しており、出力コンデンサ14からの放電電流は、nMOSトランジスタQ1の寄生ダイオードを介して入力端子T1に流れる。具体的には、nMOSトランジスタQ3が導通状態(ON)にあり、nMOSトランジスタQ4が非導通状態(OFF)にある期間には、出力コンデンサ14からの放電電流Idc3は、nMOSトランジスタQ3→インダクタ13→nMOSトランジスタQ1の寄生ダイオードの方向に流れる。このとき、インダクタ13にはエネルギーが蓄積され、放電電流Idc3は(Vout-Vin)/Lの傾きで上昇する。
【0032】
一方、nMOSトランジスタQ3が非導通状態(OFF)にあり、nMOSトランジスタQ4が導通状態(ON)にある期間においては、インダクタ13が電流源として動作することにより、放電電流Idc4がnMOSトランジスタQ4の寄生ダイオード→インダクタ13→nMOSトランジスタQ1の方向に流れる。この期間では、放電電流Idc4は、nMOSトランジスタQ3が非導通状態に切り替わった直後から一定の傾きで減少するが、電流の方向は前述の放電電流Idc3と同一である。この第1段階での昇降圧型チョッパ1の再起動シーケンスの動作は、出力端子T2側から入力端子側T1側を見ると、降圧動作と見ることができる。このような放電電流Idc3及びIdc4が交互に流れ、放電が進んで出力電圧Voutが入力電圧Vin(入力コンデンサ10の端子間電圧)以下となると、nMOSトランジスタQ1にも電流が流れなくなり、この第1段階は終了する。
【0033】
この第1段階では、nMOSトランジスタQ3のデューティ比DQ3は0%から100%に向けて徐々に上昇し、一方、nMOSトランジスタQ4のデューティ比DQ4は100%から0%に徐々に減少する(ランプ動作)。このランプ動作が行われることで、放電電流の急激な上昇が抑制され、nMOSトランジスタQ1~Q4の短絡故障を防止することができる。
【0034】
(2)第2段階
デューティ比D2が0になると、第2段階に移行する。第2段階では、nMOSトランジスタQ1及びnMOSトランジスタQ4が非導通状態(OFF)とされる(ステップS13)。
【0035】
(3)第3段階
続く第3段階では、nMOSトランジスタQ3を導通状態(ON)に維持しつつも、nMOSトランジスタQ2も導通状態に切り替えられる。ただし、nMOSトランジスタQ2のデューティ比DQ2は、0%から100%へと、期間Tr/2において徐々に上昇する。これにより、出力コンデンサ14の蓄積電荷は、nMOSトランジスタQ2が導通する期間において、nMOSトランジスタQ3、インダクタ13、及びnMOSトランジスタQ2を介して接地端子T3に向けて放電される。一方、nMOSトランジスタQ2が非導通である期間においては、出力コンデンサ14の蓄積電荷は、nMOSトランジスタQ3、インダクタ13、及びnMOSトランジスタQ1の寄生ダイオードを介して入力端子T1に流入する。このように、昇降圧型チョッパ1は、第3段階において、出力端子T2側からみると昇圧動作と同様の動作を実行する。この第3段階でも、デューティ比DQ2が上記のように制御されることで、放電電流が過大となることが防止され、nMOSトランジスタQ1~Q4の短絡故障からの保護が図られている。
【0036】
(4)第4段階
第1~第3段階が終了することで、再起動シーケンスは終了し、昇降圧チョッパ1は、通常の動作に復帰する。
【0037】
なお、再起動シーケンスの開始(時刻t1)から完了(時刻t3)までの放電時間Tr(
図6)、すなわち、nMOSトランジスタQ1が非導通状態(OFF)で、且つnMOSトランジスタQ2~Q4のデューティ比が増加又は減少する期間は、出力コンデンサ14のキャパシタンスC、インダクタ13のリアクタンスLに基づいて定まる定数以上の値、具体的にはTr≧2π√(LC)となるように設定することが好ましい。放電時間Trをこのような時間に設定することにより、放電電流Idcの値の上昇を抑制しつつ、出力コンデンサ14の蓄積電荷を、短絡故障を生じさせることなく確実に放電させることができる。
【0038】
以上説明したように、第1の実施の形態の電力変換装置によれば、第1段階、及び第3段階のいずれにおいても、出力コンデンサ14からの放電が、デューティ比を徐々に変化させるランプ動作により行われる。このため、放電電流の急激な上昇が抑制され、nMOSトランジスタQ1~Q4の短絡故障を防止しつつ出力コンデンサ14の蓄積電荷を放電させることができる。また、動作停止状態からの再起動シーケンスにおいて、出力コンデンサ14の容量やインダクタ13のリアクタンスに応じた時間でデューティ比を調整して放電を行うことができるため、出力コンデンサ14の放電に要する時間を最適に調整し、結果として放電に要する時間を短くすることができる。
【0039】
[第2の実施の形態]
次に、
図7~
図9を参照して、第2の実施の形態に係る電力変換装置を説明する。この第2の実施の形態の電力変換装置は、同期整流型の降圧型チョッパ1’である点で、第1の実施の形態と異なっている。第1の実施の形態と共通する構成要素については同一の参照符号を付し、以下では重複する説明は省略する。
【0040】
降圧型チョッパ1’は、降圧用スイッチング回路11’を備える。降圧用スイッチング回路11’は、第1の実施の形態の降圧用スイッチング回路11と同様に、nMOSトランジスタQ1及びQ2の直列回路であり、その中間ノードには、インダクタ13の一端が接続されている。インダクタ13の他端は出力端子T2に接続されている。この降圧用スイッチング回路11’のデューティ比D1を適宜変更することで、降圧比を調整することが可能とされている。
【0041】
この降圧型チョッパ1’においても、その動作がアラーム動作や入力電圧の急激な低下又は停止によって停止し、その後再起動を行う場合、この出力コンデンサ14の蓄積電荷が問題となる。通常の再起動シーケンスでは、放電電流が大電流となり得、nMOSトランジスタの短絡故障に繋がる虞がある。
【0042】
そこで、第2の実施の形態では、動作停止後に再度動作を開始させるための再起動シーケンスにおいて、制御部2及びデューティ比制御部3が次のような放電動作を降圧型チョッパ1’に行わせる。
【0043】
nMOSトランジスタQ1及びQ2がいずれも非導通の状態(OFF)にされた後(
図9のステップS21)、nMOSトランジスタQ2を導通状態(ON)に切り替える。その後nMOSトランジスタQ2のデューティ比を時間の経過に従って増加させるランプ動作を実行する(例:0→100%)(ステップS22)。このランプ動作の時間Trは、第1の実施の形態と同様に設定することができる。この第2の実施の形態によれば、降圧型チョッパにおいて、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0044】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0045】
10…入力コンデンサ、11…降圧用スイッチング回路、12…昇圧用スイッチング回路、13…インダクタ、14…出力コンデンサ、15…負荷、Q1~Q4…nMOSトランジスタ、T1、T2、T3…端子。