(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】車両の軌道を決定する方法および装置
(51)【国際特許分類】
G01C 21/28 20060101AFI20241114BHJP
G08G 1/0969 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
G01C21/28
G08G1/0969
(21)【出願番号】P 2022513504
(86)(22)【出願日】2020-07-28
(86)【国際出願番号】 EP2020071205
(87)【国際公開番号】W WO2021043505
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-07-14
(31)【優先権主張番号】102019123538.3
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】398037767
【氏名又は名称】バイエリシエ・モトーレンウエルケ・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】パネン・ダーフィト
(72)【発明者】
【氏名】リープナー・マルティン
(72)【発明者】
【氏名】シュッツマイアー・トーマス
【審査官】宮地 将斗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/098002(WO,A1)
【文献】特開2019-002925(JP,A)
【文献】特開2012-064131(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0306584(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0323845(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 21/00 - 21/36
G01C 23/00 - 25/00
G08G 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(100)の実際の軌道を推定するための装置(101)であって、
位置センサ(103)のセンサデータに基づいて、一連の測定ポジション値(201)を対応する一連の時刻において決定し、或る時刻についての測定ポジション値(201)は、基準座標系に対するその時刻における前記車両(100)のポジションを示し、
一つまたは複数の車両センサ(104)のセンサデータに基づいて、一連のオドメトリ値を決定し、或る時刻についてのオドメトリ値は、前記車両(100)のポーズが前の時刻と比較してどのように変化したかを示し、
前記車両(100)の実際の軌道の推定として、最適化判断基準を改善
するか又は少なくとも局所的に最適化するように、前記一連の時刻についての一連の推定ポーズ値(231)と、前記一連の測定ポジション値(201)に対する位置オフセット(330)とを決定し、或る時刻についての推定ポーズ値(231)は、前記基準座標系に対する、
推定された実際の軌道内のその時刻における前記車両(100)の
ポジションと向きからなるポーズ
の推定値を示し、前記最適化判断基準は、前記一連の時刻のそれぞれについて一つのポジション値偏差項を含み、或る時刻についての前記ポジション値偏差項は、前記位置オフセット(330)だけシフトさせたその時刻についての前記測定ポジション値(201)からの、その時刻についての前記推定ポーズ値(231)の
ポジションの推定値の偏差(313)に依存し、前記最適化判断基準は、前記一連の時刻の少なくとも一部の時刻についてのオドメトリ偏差項を含み、或る時刻についての前記オドメトリ偏差項は、その時刻についての前記オドメトリ値からの、前記一連の推定ポーズ値(231)から得られるその時刻における前記車両(100)のポーズの変化の偏差に依存する
ように構成された装置(101)。
【請求項2】
請求項1に記載の装置(101)であって、
前記測定ポジション値(201)は、位置測定の不正確さを有し、
前記最適化判断基準は、前記測定ポジション値(201)の位置測定の不正確さに依存し、特に、位置測定の不正確さが増加すると、当該最適化判断基準に対するポジション値偏差項の影響が減少することになるように依存し、および/または、
前記オドメトリ値は、オドメトリ測定の不正確さを有し、
前記最適化判断基準は、オドメトリのオドメトリ測定の不正確さに依存し、特に、オドメトリ測定の不正確さが増加すると、当該最適化判断基準に対するオドメトリ偏差項の影響が減少することになるように依存する
装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の装置(101)であって、
前記位置オフセット(330)の値が、前記一連の測定ポジション値(201)の全ての測定ポジション値(201)について同じであるか或いは前記一連の時刻の全ての時刻について同じであるかの少なくともいずれかとなるように前記一連の測定ポジション値(201)に対する前記位置オフセット(330)を決定するように構成され、および/または、
前記位置オフセット(330)が系統的な位置オフセットである
装置(101)。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の装置(101)であって、
前記位置オフセット(330)の値を、或る最大値に制限するように構成され、および/または、
前記位置オフセット(330)の値を、当該位置オフセット(330)の共分散を考慮して決定するように構成され、および/または、
前記最適化判断基準は、前記位置オフセット(330)の値の大きさが増加することにより制限を受ける項を有している
装置(101)。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の装置(101)であって、
前記一連の時刻を連続する複数の部分的な並びに分割し、
一つの部分的な並びの前記測定ポジション値(201)を、それぞれ、その部分的な並びに対する系統的な部分的位置オフセットによりシフトさせるとともに全ての並びに対する前記位置オフセット(330)によりシフトさせ、
前記最適化判断基準を改善し、特に、少なくとも局所的に最適化するように、前記一連の時刻についての前記一連の推定ポーズ値(231)と、前記全ての並びの測定ポジション値(201)に対する前記位置オフセット(330)と、前記複数の部分的な並びに対する前記複数の部分的位置オフセット(330)とを決定する
ように構成されている装置(101)。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の装置(101)であって、
グラフ(215)を作成するように構成された装置(101)であって、
前記グラフ(215)は、前記一連の推定ポーズ値(231)の個々の推定ポーズ値(231)をポーズ変数ノードとして有し、
前記グラフ(215)は、或る時刻についてのポーズ変数ノードと前の時刻についてのポーズ変数ノードとの間のエッジとしてオドメトリ因子を有し、その因子は、一つまたは複数の車両センサ(105)のセンサデータに依存し、および/または、二つの前記ポーズ変数ノード間の前記車両(100)の動きを示し、および/または、その時刻についてのオドメトリ値に依存し、
前記グラフ(215)は、前記一連の測定ポジション値(201)の前記ポジション値(201)のそれぞれに対して一つのポジション変数ノードを有し、
前記グラフ(215)は、前記ポーズ変数ノードのそれぞれに対して、一つの対応するポジション変数ノードへの、エッジを介した、および/または、一つのポジション因子を介した結合を有し、
前記グラフ(215)の前記ポジション変数ノードは、一つの位置アンカー(321)と結ばれていることで、当該位置アンカー(321)のシフトが、それに対応する前記ポジション変数ノードのシフトをもたらすようになっており、
前記一連の推定ポーズ値(231)を、前記グラフ(215)を最適化することで決定する
ように構成されている装置(101)。
【請求項7】
請求項6に記載の装置(101)であって、前記グラフ(215)の最適化は、
前記位置アンカー(321)のシフト、および/または、
前記一連の推定ポーズ値(231)の一つまたは複数の推定ポーズ値(231)の変更、および/または、
前記グラフ(215)の一つまたは複数のポーズ変数ノードのシフト
を含む装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の装置(101)であって、
前記グラフ(215)の最適化の一環として、前記位置アンカー(321)のポーズを当該位置アンカー(321)のポーズの確率分布に応じて変更するように構成され、
前記確率分布は、前記位置アンカー(321)の並進を可能にするとともに前記位置アンカー(321)の回転を略阻止するようなものである
装置(101)。
【請求項9】
請求項6から8のいずれかに記載の装置(101)であって、
前記一連の時刻は、連続する複数の部分的な並びを有し、
一つの部分的な並びの前記グラフ(215)の前記ポジション変数ノードは、それぞれ一つの中間アンカー(421)に結ばれていることで、当該中間アンカー(421)のシフトが前記部分的な並びの前記ポジション変数ノードの対応したシフトをもたらし、
前記複数の部分的な並びの前記中間アンカー(421)は、前記位置アンカー(321)に結ばれていることで、前記位置アンカー(321)のシフトが前記複数の部分的な並びの前記中間アンカー(421)の対応したシフトをもたらす
装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の装置(101)であって、
グラフベースSLAM法により、すなわち、自己位置推定と環境地図作成の同時実行により前記車両(100)の実際の軌道の推定を決定するように構成され、
前記位置オフセット(330)がグラフベースSLAM法の一環として、シフト可能なアンカーノードとして考慮される
装置(101)。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の装置(101)であって、
前記車両(100)の一つまたは複数の外界センサ(102)のセンサデータに基づいて、前記一連の時刻の或る特定の時刻について、前記車両(100)の周辺におけるランドマーク(220)の測定ポジション(221)を決定し、
前記最適化判断基準においてランドマーク偏差項が考慮され、当該ランドマーク偏差項は、前記ランドマーク(220)の参照ポジションからの、前記ランドマーク(220)の前記測定ポジション(221)の偏差に依存する
ように構成されている装置(101)。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の装置(101)であって、
前記最適化判断基準は、少なくとも一つのさらに他の偏差項を含み、当該偏差項により前記位置オフセット(330)の値の大きさが増加させられ、および/または
前記車両(100)のポジションに関する代替的なデータを決定し、当該代替的なデータに基づいて、前記最適化判断基準のためのさらに他の偏差項の値を決定する
ように構成されている装置(101)。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載の装置(101)であって、
一つの測定ポジション値(201)が、道路網のための基準座標系内の前記車両(100)のポジションに関する座標、特にGPS座標を含み、および/または、
一つのオドメトリ値が、前記車両(100)の座標系内の当該車両(100)のポジションの変化に関する座標を含み、および/または、
前記車両(100)の座標系は、前記基準座標系に対してずれている
装置。
【請求項14】
請求項1から13のいずれかに記載の装置(101)であって、前記車両(100)の実際の軌道の推定に基づいて、道路網に関するデジタル地図を作成および/または適正化するように構成されている装置(101)。
【請求項15】
請求項1から14のいずれかに記載の装置(101)であって、
前記車両(100)の位置センサ(103)のセンサデータまたは当該データから導出された前記車両(100)のデータを受信し、
前記車両(100)の一つまたは複数の車両センサ(104)のセンサデータまたは当該データから導出された前記車両(100)のデータを受信し、
これらの受信したデータに基づいて、前記一連の時刻についての前記一連の推定ポーズ値(231)を決定する
ように構成されている装置(101)。
【請求項16】
請求項1から15のいずれかに記載の装置(101)であって、
道路網の或る区間における複数の走行に対して、それぞれ一つの一連の測定ポジション値(201)を対応する一連の時刻において決定し、
前記複数の走行に対して、それぞれ一つの一連のオドメトリ値を前記一連の時刻の少なくとも一部について決定し、
前記複数の走行について、それぞれ一つの最適化判断基準が改善され、特に、少なくとも局所的に最適化されるように、それぞれ一つの一連の推定ポーズ値(231)を前記一連の時刻と一つの位置オフセット(330)について決定するように構成されている装置(101)。
【請求項17】
車両(100)の実際の軌道を推定するための方法(500)であって、
位置センサ(103)のセンサデータに基づいて、一連の測定ポジション値(201)を対応する一連の時刻において決定(501)し、或る時刻についての測定ポジション値(201)は、基準座標系に対するその時刻における前記車両(100)のポジションを示し、
一つまたは複数の車両センサ(104)のセンサデータに基づいて、前記一連の時刻の少なくとも一部についての一連のオドメトリ値を決定(502)し、或る時刻についてのオドメトリ値は、前記車両(100)のポーズが前の時刻と比較してどのように変化したかを示し、
前記車両(100)の実際の軌道の推定として、最適化判断基準を改善
するか又は少なくとも局所的に最適化するように、前記一連の時刻についての一連の推定ポーズ値(231)と、前記一連の測定ポジション値(201)に対する位置オフセット(330)とを決定(503)し、或る時刻についての推定ポーズ値(231)は、
推定された実際の軌道内のその時刻における前記車両(100)の前記基準座標系に対する
ポジションと向きからなるポーズ
の推定値を示し、前記最適化判断基準は、前記一連の時刻のそれぞれについて一つのポジション値偏差項を含み、或る時刻についての前記ポジション値偏差項は、前記位置オフセット(330)だけシフトさせたその時刻についての前記測定ポジション値(201)からの、その時刻についての前記推定ポーズ値(231)の
ポジションの推定値の偏差(313)に依存し、前記最適化判断基準は、前記一連の時刻の少なくとも一部の時刻についてのオドメトリ偏差項を含み、或る時刻についての前記オドメトリ偏差項は、その時刻についての前記オドメトリ値からの、前記一連の推定ポーズ値(231)から得られるその時刻における前記車両(100)のポーズの変化の偏差に依存する
ことを含む方法(500)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に道路網の高精度デジタル(HD)地図を生成するために、車両が走行する軌道を決定する方法およびそれに対応する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両は、安全、快適且つ効率的な自動運転のために高精度デジタル地図(HDマップ)を利用して車両センサ類を拡張しおよび/または補足することができる。HDマップにより、車両周辺に関するアプリオリな情報を準備し、これにより、車両の位置特定の改善および/または車両センサ類の異常値の検出が可能になる。しかも、HDマップは、センサに障害が発生した場合のフォールバックとして機能し、より遠くを見通すことで自動運転機能の利便性を向上させることができる。さらに、HDマップは、車線の通行可能性と接続性並びに有効な交通ルールについての情報を含み、この情報を通じて、自動運転が改善される。
【0003】
HDマップを作成するために、LIDAR(英語でLight detection and ranging(光検出および測距))及び/又は高精度GPS受信機など、さまざまな高精度センサを搭載した専用の環境地図作成車両を用いることができる。しかしながら、専用の環境地図作成車両を利用すると比較的高いコストがかかる。しかも、環境地図作成車両の数が限られているため、道路網の比較的僅かな部分しか定期的に走行できなくなるか、或いは、個々の道路区間の走行頻度が比較的少なくなるかの少なくともいずれかとなってしまう。その結果、道路網の変化が必ずしもいつも適時に認識されないかもしれず、HDマップに反映されない可能性もある。十分に最新でないHDマップを使用すると、車両の自動運転機能の品質が損なわれかねない。
【0004】
HDマップの検証および/または適正化に伴う労力を軽減するため、および/または、HDマップの検証および/または適正化の頻度を高めるために、(普通の)車両の走行データを取得して解析することができる。車両の走行データには、車両のさまざまなセンサのセンサデータが含まれ得る。個々の車両の走行データに基づくことで、個々の車両の軌道を割り出すことができ、そこからまた、走行路のコースを導き出すことができる。従って、車両の走行データは、HDマップを適正化するのに使用することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両の一つまたは複数のセンサのセンサデータの精度および/または解像度は、通常、環境地図作成車両のセンサからのセンサデータの精度および/または解像度よりも低い。本書面は、比較的低い精度のセンサデータを用いる場合であっても、車両の軌道をできるだけ高い精度で決定することができ、それにより特に、その決定された軌道をデジタル地図の作成および/または適正化に用いることができるようにするという技術的な課題に関わる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、独立請求項のそれぞれにより解決される。有利な実施形態は、とりわけ従属請求項に記載されている。独立特許請求項に従属する特許請求項の追加的な特徴部は、独立特許請求項の特徴部が無くても、または、独立特許請求項の特徴部の一部と組み合わされるだけでも、独立特許請求項の全ての特徴部を組み合わせたものから独立した独自の発明を形成することができ、それが独立特許請求項の対象、分割出願の対象または後願の対象になり得ることを指摘しておく。このことは、明細書に記載された技術的教示にも同様に当てはまり、独立特許請求項の特徴部から独立した発明を形成することができる。
【0007】
一態様により、車両の実際の(走行)軌道を推定するための装置が述べられる。この軌道はこのとき、車両の一つまたは複数のセンサのセンサデータに基づいて推定することができる。この装置は、少なくとも部分的に(或いは全部)車両の内部に、および/または、少なくとも部分的に(或いは全部)車両の外部に(例えば、バックエンド・サーバ内に)設けることができる。この装置は、車両の実際の軌道の推定に基づいて、道路網に関するデジタル地図を作成および/または適正化するように構成することができる。このデジタル地図は次に、(特に高度自動化運転のための)自動運転機能を提供するのに利用することができる。このデジタル地図は、道路および/または走行路および/または道路網の車線のコースを基準座標系に対して(例えば、グローバル座標系に対して)記述することができる。
【0008】
この装置は、(車両の)位置センサのセンサデータに基づいて、一連の測定ポジション値を対応する一連の時刻において車両の各ポジション(位置)に関して決定するように構成することができる。測定ポジション値はここで、道路網のための基準座標系内(例えば、グローバル座標系内)の車両のポジション(位置)に関する座標、特にGPS座標を含むことができる。従って、一連の測定ポジション値は、基準座標系内の測定された車両の軌道を記述することができる。このとき、測定誤差によりおよび/または測定の不正確さにより、個々の測定ポジション値の、車両の実際の各ポジションからの確率的および/または系統的なずれが生じ得る。
【0009】
この装置はさらに、(車両の)一つまたは複数の車両センサのセンサデータに基づいて、上記一連の時刻の少なくとも一部についての一連のオドメトリ値を決定するように構成されている。或る時刻についてのオドメトリ値はここで、ポーズ(すなわち、車両の向きおよび/またはポジション)が(直ぐ)前の時刻と比較してどのように変化したかを示す。例示的な車両センサは、車両の走行速度、操舵角、加速度および/またはヨーレートを示す。ポーズ値は、車両のポーズを示すことができる。この目的のために、ポーズ値は、車両の座標系内の車両のポジションに関する座標を含むことができる。オドメトリ値は、二つの時刻間における、車両の座標系に対する車両のポジションの(および/または向きの)変化を示すことができる。車両の座標系はこのとき、基準座標系に対してずれていることもあり得る。オドメトリ値はこうして、車両のポジション(および場合によっては向き)が上記の一連の時刻において(車両の座標系に対し)二つの時刻間でその都度どのように変化したかを示すことができる。
【0010】
結果として、これらのオドメトリ値に基づいて一連のポーズ値を決定することができ、この一連のポーズ値が、車両の実際の軌道に対してずれた(そして場合によっては回転した)一つの軌道を示す。さらに、これらのオドメトリ値は、(一つまたは複数の車両センサの測定の不正確さにより)誤差を有し得るので、これらのオドメトリ値だけに基づいて決定されたポーズ値は(並進および/または回転に加え)、通常は車両の実際のポーズ値とは異なることになる。
【0011】
この装置は、実際の軌道を推定したものを決定するために、上記の一連の測定ポジション値と上記の一連のオドメトリ値を組み合わせおよび/または重ね合わせるように構成することができる。このとき、(系統的な)位置オフセットを考慮することで、測定ポジション値を統一的にシフトさせ、それにより測定ポジション値を測定する際の(特に、測定されたGPS座標若しくは衛星座標の)系統誤差を考慮して相殺することができる。
【0012】
特に、この装置は、車両の実際の軌道の推定として、上記の一連の時刻についての一連の推定ポーズ値を決定するように構成することができる。或る特定の時刻についての推定ポーズ値はこのとき、基準座標系に対する、その特定の時刻における車両のポーズを示すことができる。さらに、上記の一連の測定ポジション値に対する位置オフセットの(統一的な)値を決定することができる。上記の一連の推定ポーズ値と位置オフセットの値はこのとき、最適化判断基準を改善し、特に、少なくとも局所的に最適化するように決定することができる。
【0013】
最適化判断基準は、上記の一連の時刻のそれぞれについて一つのポジション値偏差項を含むことができる。或る時刻についてのポジション値偏差項は、(統一的および/または系統的な)位置オフセットだけシフトさせた、そのそれぞれの時刻についての測定ポジション値からの、そのそれぞれの時刻についての推定ポーズ値の(例えば二次の)偏差に依存し得る。このようにして、上記の一連の推定ポーズ値(そしてこれに伴う軌道の推定)を特に正確に決定することができる。
【0014】
代替的または補足的に、最適化判断基準は、上記の一連の時刻の少なくとも一部の時刻について(特に、上記の一連の時刻がN個の時刻を含む場合のN-1個の時刻について)のオドメトリ偏差項を含むことができる。或る時刻についてのオドメトリ偏差項はこのとき、その時刻についてのオドメトリ値からの、上記の一連の推定ポーズ値から得られるその時刻における車両のポーズの変化の(場合によっては二次の)偏差に依存し得る。
【0015】
従って、最適化判断基準は、測定オドメトリ値に対するとともに(位置オフセットだけシフトさせた)測定ポジション値に対する推定ポーズ値の(中央の)偏差が低減され、特に最小化されるように上記の一連の推定ポーズ値を決定するように設けることができる。このようにして、車両の実際の軌道は、特に正確な仕方で推定することができる。
【0016】
この装置は、グラフベースSLAMにより、すなわち、自己位置推定と環境地図作成の同時実行により、車両の実際の軌道の推定を決定するように構成することができる。位置オフセットはこのとき、好ましい一例において、グラフベースSLAM法の一環として、シフト(移動)させる(ずらす)ことが可能なアンカーノードとして考慮することができる。これにより、実際の軌道を特に効率的かつ正確に推定することができる。
【0017】
既に上述したように、測定ポジション値は通常、或る一定の位置測定の不正確さを有する。この結果として、それぞれの測定ポジション値には、それぞれの測定ポジション値の周りにおいて取り得る値による確率分布が存在し得る。最適化判断基準は、測定ポジション値の位置測定の不正確さに(特に確率分布に)依存するとしてよい。この依存性はこのとき、位置測定の不正確さの増加(若しくは確率分布の幅の増加)が最適化判断基準に対するポジション値偏差項の影響の減少につながるようなものとしてよい。このようにして、実際の軌道の推定の精度をさらに高めることができる。
【0018】
対応するようにして、オドメトリ値も通常、オドメトリ測定の不正確さを有する。この結果として、それぞれの測定オドメトリ値には、それぞれの測定オドメトリ値の周りにおいて取り得る値による確率分布が存在し得る。最適化判断基準は、オドメトリのオドメトリ測定の不正確さに(特に確率分布に)依存するとしてよく、特に、オドメトリ測定の不正確さの増加(若しくは確率分布の幅の増加)が、最適化判断基準に対するオドメトリ偏差項の影響の減少につながるようなものとしてよい。このようにして、実際の軌道の推定の精度をさらに高めることができる。
【0019】
この装置は、位置オフセットの値が、上記の一連の測定ポジション値の全ての測定ポジション値について同じであるか或いは上記の一連の時刻の全ての時刻について同じであるかの少なくともいずれかとなるように上記の一連の測定ポジション値に対する位置オフセットを決定するように構成することができる。言い換えれば、軌道の全ての測定ポジション値に対して共通の(系統的な)位置オフセットを考慮することができる。このようにして、効率的かつ正確な仕方で、測定ポジション値を測定する際の、軌道全体に亘って影響を及ぼす系統誤差(例えば、大気に起因する系統誤差)を考慮して相殺することができる。
【0020】
この装置は、位置オフセットの値を或る最大値に制限するように構成することができる。代替的または補足的に、この装置は、位置オフセットの値を、当該位置オフセットの共分散および/または確率分布を考慮して決定するように構成することができる。代替的または補足的に、最適化判断基準は、位置オフセットの値の大きさが増加することにより制限を受ける項を有することができる。このようにして、効率的かつ信頼性の高い仕方で、基準座標系内の(特に、グローバル座標系内の)実際の軌道の推定の正確な位置特定を行うことができる。
【0021】
この装置は、上記の一連の時刻を連続する複数の部分的な並び(部分的な一連の時刻)に分割するように構成することができる。次に、一つの部分的な並び(部分的な一連の時刻)の測定ポジション値は、実際の軌道の推定を決定するために、それぞれ、その部分的な並び(部分的な一連の時刻)に対する部分的位置オフセットによりシフトさせるとともに全ての並び(全ての一連の時刻)に対する上記の位置オフセットによりシフトさせることができる。特に、この装置は、最適化判断基準を改善し、特に、少なくとも局所的に最適化するように、上記の一連の時刻についての上記の一連の推定ポーズ値と、上記の全ての並びの測定ポジション値に対する上記の位置オフセットと、上記の複数の部分的な並びに対する複数の上記の部分的位置オフセットとを決定するように構成することができる。車両の軌道のさまざまな部分領域に対する部分的位置オフセットを考慮することで、効率的な仕方で、測定ポジション値の測定時の、局所的に影響する系統誤差(例えば、局所的なマルチパス効果など)を考慮して相殺することができる。このようにして、実際の軌道の推定の質をさらに高めることができる。
【0022】
既に上述したように、この装置は、グラフベースSLAM法により実際の軌道の推定を決定するように構成することができる。この目的のために、この装置は、グラフ作成するように構成することができ、そのグラフは、上記の一連の推定ポーズ値の個々の推定ポーズ値をノード(節)として有する(本書面においてポーズ変数ノードと呼ぶ。)。推定ポーズ値はこのとき、測定ポジション値に基づいておよび/または(測定された)オドメトリ値に基づいて初期化することができる。初期化された推定ポーズ値を有するこのグラフは次に、(反復的な)グラフの最適化のための出発点として用いることができ、それにより実際の軌道の推定のために用いることができる。
【0023】
このグラフは、二つのポーズ変数ノード間のエッジ(枝)としてオドメトリ因子を有することができ、その因子は、一つまたは複数の車両センサのセンサデータに依存し、および/または、二つのノード間の車両の動きを示す。特に、或る特定の時刻についてのポーズ変数ノードと前の時刻についてのポーズ変数ノードとの間のオドメトリ因子は、その特定の時刻についての測定オドメトリ値に依存するものとすることができる。この場合、オドメトリ因子は、二つのポーズ変数ノード間のポーズ値の変化に関する確率分布を示すことができる。
【0024】
このグラフはさらに、測定ポジション値のそれぞれに対して一つのポジション変数ノードを有することができる。さらに、このグラフは、上記のポーズ変数ノードのそれぞれに対して、一つの対応するポジション変数ノードへの(若しくは、一つの対応する測定ポジション値への)、一つのポジション因子を介した(すなわちエッジを介した)結合を有することができる。このとき、このポジション因子を介して、ポジション変数ノードが、それぞれのポーズ変数ノードに対してどのように配置されているのかを示すことができる。このポジション因子はこのとき、それぞれのポジション変数ノードについての測定ポジション値に依存し得る。特に、或る特定の時刻についてのポジション変数ノードは、その特定の時刻についての測定ポジション値に対応するグラフ内のポジションに配置することができる。一つのポーズ変数ノードと一つの対応するポジション変数ノードの間のポジション因子(すなわちエッジ)は、位置測定の不正確さに依存する確率分布に結び付けることができる。
【0025】
従って、グラフの(初期化された)ポーズ変数ノードを測定オドメトリ値に基づいて、ポジション変数ノードを測定ポジション値に基づいて用意することができる。これらのノードは、エッジを介して互いに結ぶことができ、それらのエッジは、それぞれ、位置測定の不正確さおよび/またはオドメトリ測定の不正確さに依存する確率分布若しくは共分散に結び付けることができる。このようにして、車両のポジションに関する利用可能なセンサデータを効率的な仕方でグラフ内に表すことができる。
【0026】
グラフのポジション変数ノードは、一つの位置アンカー(すなわち、一つのアンカーノード)に(硬直的に)結ばれていることで、当該位置アンカーのシフトが、それに対応するグラフのポジション変数ノードのシフトをもたらすことができる。このようにして、位置オフセットを効率的な仕方でグラフ内において考慮することができる。
【0027】
この装置は、上記の一連の推定ポーズ値(すなわち実際の軌道の推定値)を、上記のグラフを最適化することで決定するように構成することができる。グラフの最適化はこのとき、位置アンカーのシフト、および/または、上記の一連のポーズ値の一つまたは複数のポーズ値の変更、および/または、ポーズ変数ノードのシフトを含むことができる。グラフの最適化は、所定の最適化判断基準が改善され、特に、少なくとも局所的に最適化されるように行なうことができる。この最適化判断基準は、上述したように、ポジション偏差項および/またはオドメトリ偏差項を含むことができる。最適化問題をグラフとして記述することにより、上記の一連の推定ポーズ値を特に効率的かつ正確な仕方で決定することができる。
【0028】
この装置は、グラフの最適化の一環として、位置アンカーのポーズを当該位置アンカーのポーズの確率分布に応じて変更するように構成することができる。確率分布はここで、位置アンカーの並進を可能にするとともに位置アンカーの回転を略阻止するようなものとすることができる。このようにして、位置オフセットおよびそれに伴う測定ポジション値の測定の系統誤差を特に信頼できる仕方で考慮して相殺することができる。
【0029】
既に上で説明したように、上記の一連の時刻は、連続する複数の部分的な並び(部分的な一連の時刻)を有することができる。一つの部分的な並びのグラフのポジション変数ノードは、それぞれ一つの中間アンカーに結ばれていることで、当該中間アンカーのシフトが上記の部分的な並びのポジション変数ノードの対応したシフトをもたらすことができる。さらに、複数の部分的な並びの中間アンカーは、位置アンカーに結ばれていることで、この位置アンカーのシフトが複数の部分的な並びの中間アンカーの対応したシフトをもたらすことができる。一つまたは複数の中間アンカーを考慮することにより、測定ポジション値の測定の際に局所的に作用する系統誤差も信頼できる正確な仕方で決定して相殺することができる。
【0030】
この装置は、車両の一つまたは複数の外界センサ(例えば、カメラおよび/またはライダーセンサ)のセンサデータに基づいて、上記の一連の時刻の或る特定の時刻について、車両の周辺におけるランドマークの測定ポジションを決定するように構成することができる。最適化判断基準においてランドマーク偏差項が考慮され、当該ランドマーク偏差項は、ランドマークの参照ポジション(参照位置)からの、ランドマークの測定ポジション(測定位置)の偏差に依存するものとしてよい。一つまたは複数のランドマークを考慮することにより、実際の軌道の推定の質をさらに高めることができる。
【0031】
この装置は、道路網の或る区間における(且つ、場合によっては、限られた時間間隔内の)複数の走行に対して、それぞれ一つの一連の測定ポジション値を対応する一連の時刻において決定するように構成することができる。さらに、この装置は、複数の走行に対して、それぞれ一つの一連のオドメトリ値を一連の時刻の少なくとも一部について決定するように構成することができる。加えて、この装置は、複数の走行について、それぞれ一つの一連の推定ポーズ値を上記の一連の時刻と一つの位置オフセットについて決定するように構成することができる。このとき、それぞれ一つの最適化判断基準が改善され、特に、少なくとも局所的に最適化されるように、一連の推定ポーズ値(すなわち、異なる複数走行の実際の複数軌道の推定)および位置オフセットを決定することができる。さらに、複数の走行に対する位置オフセットが(特に、複数の走行が比較的短い時間間隔内に行われている場合に)同じであるように、上記の一連の推定ポーズ値(すなわち、異なる複数走行の実際の複数軌道の推定)および位置オフセットを決定することができる。このようにして、位置測定時の系統誤差が、異なる複数走行に同じように影響を及ぼすことを効率的な仕方で考慮することができる。その結果、実際の複数走行の決定された推定の質をさらに高めることができる。
【0032】
他方、必要に応じて、異なる複数走行に対して、少なくとも部分的に、或る特化された位置オフセットを(特に、異なる複数走行が時間的に比較的離れている場合に)決定することができる。このようにして、系統的な測定誤差が存在する場合の変化を信頼できる仕方で認識して考慮することができる。
【0033】
道路網の或る区間における複数の走行に対する一つの統一的な位置オフセットの基準は、それに対応する形で、(その区間の一部区間に対する)部分位置オフセットに、(その区間に対する)位置アンカーに、および/または、(その区間の部分区間に対する)中間アンカーに、当てはめることができることを指摘しておく。このようにして、特に、位置測定時の局所的な系統誤差も効果的で正確な仕方で考慮して相殺することができる。
【0034】
この装置は、車両のポジションに関する代替的なデータを決定し、代替的なデータに基づいて、上記の最適化判断基準のための少なくとも一つのさらに他の偏差項の値を決定するように構成することができる。ここで、この少なくとも一つさらに他の偏差項は、このさらに他の偏差項により、位置オフセットの値の大きさが増加させられるのようなものとすることができる。このさらに他の偏差項は、例えば、(上で説明したように)ランドマークに依存するか、および/または、さらなる走行時に取得された測定ポジション値に依存するものとしてよい。従って、これらの代替的なデータは、例えば、ランドマークの測定ポジション、および/または、さらなる走行の測定ポジション値を含み得る。車両のポジションに関する代替的なデータを考慮することにより、位置データの測定時の系統誤差を特に信頼性が高く正確な仕方で決定して相殺することができる。
【0035】
この装置は、車両の位置センサのセンサデータまたはこれから導出された車両のデータを受信するように構成することができる。さらに、この装置は、車両の一つまたは複数の車両センサのセンサデータまたはこれから導出された車両のデータを受信するように構成することができる。これらのデータは、例えば、(無線)通信接続を介して受信することができる。次に、上記の一連の時刻についての上記の一連の推定ポーズ値は、(車両外部の装置)によって受信データに基づいて決定することができる。
【0036】
さらに他の態様によれば、本書面で述べた装置を含む(道路)自動車(特に乗用車またはトラックまたはバスまたはオートバイ)、および/または、車両外部ユニット(例えばサーバ)が述べられる。
【0037】
さらに他の態様によれば、車両の実際の軌道を推定するための(コンピュータで実施される)方法が述べられる。この方法は、位置センサのセンサデータに基づいて、一連の測定ポジション値を対応する一連の時刻においてそれぞれの車両のポジションに関して決定することを含む。これらの測定ポジション値は、基準座標系に対する車両のポジションを示すことができる。さらに、この方法は、一つまたは複数の車両センサのセンサデータに基づいて、上記の一連の時刻の少なくとも一部についての一連のオドメトリ値を決定することを含む。このとき、或る時刻についてのオドメトリ値は、車両のポーズが前の時刻と比較してどのように変化したかを示すことができる。
【0038】
この方法はさらに、(車両の実際の軌道の推定として)最適化判断基準を改善し、特に、少なくとも局所的に最適化するように、上記の一連の時刻についての一連の推定ポーズ値と、上記の一連の測定ポジション値に対する(系統的および/または統一的な)位置オフセットとを決定することを含む。ここで、最適化判断基準は、上記の一連の時刻のそれぞれについて一つのポジション値偏差項を含むことができる。或る時刻についての上記のポジション値偏差項は、上記の位置オフセットだけシフトさせたその時刻についての測定ポジション値からの、その時刻についての上記の推定ポーズ値の偏差に依存し得る。さらに、最適化判断基準は、上記の一連の時刻の少なくとも一部の時刻についてのオドメトリ偏差項を含むことができる。ここで、或る時刻についての上記のオドメトリ偏差項は、その時刻についての上記のオドメトリ値からの、上記の一連の推定ポーズ値から得られるその時刻における車両のポーズの変化の偏差に依存し得る。
【0039】
さらに他の態様によれば、ソフトウェア(SW)プログラムが述べられる。このSWプログラムは、(例えば、車両のコントローラ上および/またはサーバ上)のプロセッサの上で実行され、それにより本書面で述べる方法を実行するように構成することができる。
【0040】
さらに他の態様によれば、記憶媒体が述べられる。この記憶媒体は、SWプログラムを含むことができ、このプログラムは、プロセッサの上で実行され、それにより本書面で述べる方法を実行するように構成されている。
【0041】
本書面で述べた方法、装置およびシステムは、単独で用いることもできるし、本書面で述べた他の方法、装置およびシステムと組み合わせて用いることもできることに留意されたい。さらに、本書面で述べた方法、装置およびシステムのいかなる態様も多様な仕方で互いに組み合わせることができる。特に、請求項の特徴は、多様な仕方で互いに組み合わせることができる。
【0042】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図2a】車両軌道に沿った例示的なセンサデータを示す図である。
【
図2b】
図2aのセンサデータに基づいて推定された例示的な車両軌道を示す図である。
【
図3a】ポジション値に対する例示的な位置アンカーを示す図である。
【
図3b】位置アンカーをシフトさせることにより推定される例示的な車両軌道を示す図である。
【
図4a】異なる部分的な並びのポジション値に対する位置アンカーの例示的なツリーを示す図である。
【
図4b】位置アンカーをシフトさせることで推定される例示的な車両軌道を示す図である。
【
図5】車両の軌道を決定するための例示的な方法のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
最初に説明したように、本書面は、車両の一つまたは複数のセンサの(場合によっては誤差を伴った)センサデータに基づいて車両の軌道を正確に決定することに関わる。ここでは特に、(グローバル若しくは世界)基準座標系内での軌道の正確な位置特定が可能とされなければならない。
【0045】
図1は、車両100の例示的な構成要素を示す。車両100は、一つまたは複数の外界センサ102を有し、これらのセンサは、車両100の周辺に関するセンサデータ(本書面では周辺データとも称する。)を取得するように構成されている。例示的な外界センサ102は、画像カメラ、レーダセンサ、ライダーセンサ、超音波センサなどである。車両100の制御ユニット101は、周辺データに基づいて(特に、カメラの画像データに基づいて)一つまたは複数の物体を車両100の周辺に検出するように構成することができる。特に、周辺データに基づいて、(基準座標系内の)正確な(参照)位置が分かっているランドマーク(例えば、建物)を車両100の周辺に検出することができる。さらに、周辺データに基づいてランドマークの測定ポジション(測定位置)を決定することができる。その測定ポジションは次に、(基準座標系内の)車両100を位置特定するために、ランドマークの参照ポジション(参照位置)と比較することができる。
【0046】
車両100はさらに、位置センサ103を有し、このセンサは、車両100のポジション(位置)に関するセンサデータ(本書面では位置データとも称する。)を取得するように構成されている。位置データは、一連の時刻において(連続したタイミングで)繰返し取得することができる。特に、位置データは、異なる複数時刻についての複数ポジション値を含むことができ、或る特定の時刻についてのポジション値は、その特定の時刻における車両100の(基準座標系内の)位置(ポジション)を示す。(多次元の)ポジション値は例えば、車両100のGPS座標を含むことができる。ここで、ポジション値は通常、或る一定の不確かさ(例えば、所定の標準偏差)を伴っている。
【0047】
さらに、車両100は、一つまたは複数の車両センサ104を有することができ、これらのセンサは、車両100の状態に関するセンサデータ(本書面において車両データとも呼ばれる。)を取得するように構成されている。これらの車両データは、例えば、速度、向き、ヨーレート、加速度などを示すことができる。制御ユニット101は、これらの車両データに基づいて車両100のポーズ、すなわち(オドメトリに基づいて決定された)車両100の場所(ポジション)と向きを決定するように構成することができる。例えば、これらの車両データに基づいて、一連の時刻についてそれぞれ車両100のポーズに関する(多次元の)ポーズ値を決定することができる。ここで、個々のポーズ値は通常、或る一定の不確かさ(例えば、所定の標準偏差)を有する。
【0048】
加えて、車両100は、(無線)通信接続を介して外部ユニットと(例えばバックエンド・サーバと)データを交換するように構成された通信ユニット105を有することができる。車両100は、車両100が走行する(基準座標系内における)軌道を外部ユニットが決定できるように、車両100の走行中に取得されたセンサデータ(特に周辺データ、位置データおよび/または車両データ)を外部ユニットに送信するように構成することができる。代替的または補足的に、車両100の制御ユニット101は、取得されたセンサデータに基づいて(少なくとも部分的に)車両100が走行する軌道を決定し、通信ユニット105を介して外部ユニットに送信するように構成されていてもよい。
【0049】
図2aは、車両100の走行中に取得されたセンサデータの例を表している。特に、
図2aは、次々と訪れる一連の時刻における一連のポジション値201を示している。個々のポジション値201は、個々のポジション値201を囲む円202により表される或る一定の不確かさを有している。上で説明したように、個々のポジション値201は、車両101の位置センサ103に基づいて(場合によってはそれのみで)取得されたものとすることができる。個々のポジション値201は、グラフ215のポジション変数ノード(節)とみなすことができる。
【0050】
さらに、
図2aは、上記の一連の時刻についてのポーズ値211を示している。上で説明したように、ポーズ値211は、一つまたは複数の車両センサ104の車両データに基づいて(場合によってはそれのみで)決定することができる。これらのポーズ値211は、グラフ215のポーズ変数ノードとすることができ、グラフ215は、車両100の軌道を記述する。
【0051】
ポーズ値211は、オドメトリ値に基づいて決定することができ、オドメトリ値は、二つのポーズ値211間の車両100のポーズの変化を記述する。これらのオドメトリ値は、車両データに基づいて決定することができる。
【0052】
ポーズ値211とポジション値201を正確に測定および/または決定する場合には、或る特定の時刻についてのポーズ値211のポジション(場所)とポジション値201のポジション(位置)は、(個々のポーズ値211のポジションが基準座標系に対して示されているとするなら)それぞれ一致するはずである。しかしながら、ポーズ値211(特にオドメトリ値)とポジション値201の測定および/または決定の際の誤差および/または不正確さにより、或る特定の時刻についてのポーズ値211のポジション(場所)とポジション値201のポジション(位置)は、互いに相違することになるのが通常である。
図2aにはしかし、或る同じ時刻についてのポーズ値211とポジション値201の結合213が(破線の直線により)表されている。この結合213は、グラフ215においてエッジ(枝)により考慮することができる。
【0053】
さらに、車両100の走行中に、他との関係を持たない複数時刻において(周辺データに基づいて)ランドマーク220を検出することができる。ここで、ランドマーク220の(例えば、交通標識の)(参照)ポジションは通常、(例えば、予め求めておいたデジタル地図から)分かっている。他方、ランドマーク220のポジションの測定値221は、或る一定の誤差および或る一定の不正確さ222を伴っている。このとき、ランドマーク220のポジションの測定値221の誤差は、車両100のポジションの推定値に関する誤差により引き起こされ得る。
図2aには、ランドマーク220のポジションの測定値221と本当のポジションとの間の結合223が(破線の直線により)表されている。この結合223は、ここでもやはりグラフ215におけるエッジ(枝)により考慮することができる。
【0054】
図2aに表されたセンサデータは、基準座標系内における車両の実際の軌道100のロケーションおよび/またはコースを推定するために用いることができる。この目的のために、いわゆるグラフベースSLAM(simultaneous localization and mapping(同時の自己位置推定と環境地図作成))法を用いることができる。ポーズ値211に基づいて、一連の時刻における車両100のポーズを記述するグラフ215を用意することができる。このとき、グラフ215の個々のポーズ変数ノードは、個々のポーズ値211に対応する。直ぐ隣同士のポーズ変数ノードは、エッジを介して互いに結ばれるが、このエッジは、一つのポーズ値211が直ぐ隣のポーズ値211へと移行するための一つまたは複数の境界条件若しくはオドメトリ因子214を有している。このとき、これらの一つまたは複数の境界条件若しくはオドメトリ因子214は通常、車両100の技術的特性(例えば、最大操舵角など)および/または車両データの測定の不正確さに依存する。特に、オドメトリ因子214は、二つのポーズ値211の間のオドメトリ値の測定の不正確さに依存し得る。
【0055】
グラフベースSLAM法は、一つのグラフ215を決定して、そのグラフにより、利用できるセンサデータからの、決定されたグラフ215の偏差に関連する所定の誤差判定基準(例えば、平均二乗誤差)が低減され、特に最小化されるように設けることができる。或る特定の時刻nにおける車両100のポジションの推定値は、例えば、
【数1】
と表すことができ、その時刻nにおけるポジション値201は、
【数2】
と表すことができる。こうして、その時刻nにおいて、ポジション値201からの、ポジション推定値の偏差に関する一つのポジション値偏差項
【数3】
が得られる。或る特定の時刻nにおける車両100の推定された二つのポジションの間の変化は、
【数4】
と表すことができ、その特定の時刻nにおけるオドメトリ値(この値によりポジションの測定された変化が表される。)は、
【数5】
と表すことができる。こうして、測定されたポジション変化(特に、測定されたポーズ変化)からの、推定されたポジション変化(特に、推定されたポーズ変化)の偏差に関する一つのオドメトリ偏差項
【数6】
が得られる。これらの偏差項は、重み付けすることができ、各項に対するその重み付けは、ポジション若しくはポジション変化の各測定値の不確かさに依存する(しかも、不確かさが大きくなるにつれて小さくなる)。さらに、決定された軌道の注目区間の全ての時刻n=1,...,Nについてのそれらの(重み付けされた)偏差項を考慮する(例えば足し合わせる)ことができる。
【0056】
他との関係を持たないいくつかの時刻k(例えば、
図2aに図示された例における時刻n=1およびn=N)において、車両100のポジションの追加的な測定値をランドマーク220に基づいて決定することができる。車両100のポジションの推定値はここで、ランドマーク220のポジションの測定値221と、(例えば、デジタル地図から)既知のランドマーク220のポジションの参照値との間の偏差が低減されるように適正化することができる。ランドマーク220のポジションの参照値は、通常は比較的高い精度で決定できるので、通常、ランドマーク220に関する偏差項は、全体的な誤差基準内若しくは最適化判断基準内で比較的大きな重みを有する。
【0057】
次に、上記の一連の時刻n=1,…,Nにおける車両100のポジションの一連の推定値による若しくは車両100の一連の推定されたポーズ値(推定ポーズ値)231によるグラフ215を決定することができ、このグラフにより全体的な誤差若しくは最適化の判断基準が低減され、特に最小化される。
図2bは、一連の時刻n=1,…,Nにおける車両100の推定ポーズ値231による最適化されたグラフ215の一例を示す。この最適化されたグラフ215、特に、上記の一連の推定ポーズ値231は、車両100の実際の軌道の推定を表す。
【0058】
図2bから分かるように、他との関係を持たないランドマーク220を考慮すると、最適化されたグラフ215がランドマーク220の直ぐ周辺で比較的良好な車両100の実際の軌道の推定を表すことができるようになる。しかしながら、位置データの系統誤差のせいで、二つのランドマーク220の間の領域230では、車両100の実際の軌道からの、推定された軌道(すなわち、一連の推定ポーズ値231)の偏差は、比較的大きくなる可能性がある。この偏差は、特に、二つのランドマーク220間の領域230ではランドマーク220のポジションの測定値221を一切利用できないか或いは考慮できないかの少なくともいずれかであるために、利用可能なポジション値201に対する偏差が低減されるように上記のグラフ215(特に、上記の一連の推定ポーズ値231)が決定されることで生じてくるものである。
【0059】
位置データの系統誤差は、
図2bにおいて両方のランドマーク220の直ぐ近くでのポジションの推定値231とポジション値201との間の偏差が比較的大きいことから分かる。二つのランドマーク220間の領域230における車両100の実際の軌道からの、推定された軌道(すなわち、一連の推定ポーズ値231)の比較的大きな偏差は、
図2bに示されるように、一連の推定ポーズ値231の“たるみ”をもたらす。
【0060】
ポジション値201の測定時の系統誤差は、グラフ215を決定する際に追加の変数(すなわち、追加のノード)を導入して、この変数により、考慮される全てのポジション値201を一斉にシフトさせる(ずらす/移動させる)ことができるようにすることで考慮することができる。特に、個々のポジション値201(すなわち、ポジション変数ノード)は、それぞれ一つの硬直的なエッジ312を介して一つの共通の位置アンカー321に固定することができ、この位置アンカーを並進移動323によりシフトさせることで、個々の測定ポジション値201(すなわち、ポジション変数ノード)をそれぞれ均等にシフトさせることができるようにする。この位置アンカー321は、必要に応じて、予め定めた共分散若しくは確率分布322に従ってシフトさせることができる。
【0061】
こうして、最適化されたグラフ215(および、それに伴う一連の推定ポーズ値231)を決定する際に、追加の自由度として位置アンカー321をシフトさせる(ずらす)(特に並進323によりシフトさせる)ことができる。このシフトは、位置オフセット330の分だけ行なわれる。この結果、(位置アンカー321をシフトさせることにより)測定ポジション値201の系統誤差を暗黙的に決定して相殺することができる。系統誤差の大きさはこのとき、位置オフセット330により記述される。こうしてさらに、車両100の実際の軌道からの、最適化されたグラフ215(特に、一連の推定ポーズ値231)の偏差であって、測定ポジション値201の系統誤差に起因するものを除けることができる。
図3bは、最適化されたグラフ215(特に、最適化された一連の推定ポーズ値231)および最適化の一環として引き起こされた位置アンカー321のシフトを示している。
【0062】
測定ポジション値201を取得する際の系統誤差は、車両100の直ぐ周辺に依存することもある。例えば、車両100の直ぐ周辺の比較的高い建物は、(例えばマルチパス効果により)系統誤差を変えてしまう可能性がある。軌道のさまざまな区間におけるさまざまな系統誤差を考慮できるようにするために、
図4に示されるように、アンカー321,421のツリー構造若しくは階層構造を用いることができる。特に、軌道の各区間に対して一つの中間アンカー421を定めることができ、その中間アンカーに各区間の測定ポジション値(若しくは、ポジション値に対応するポジション変数301)が硬直的に(リジッドに)結び付けられている。次に、これらの中間アンカー421は、各中間アンカー421の共分散若しくは確率分布422に応じてアンカー点424に対して相対的にシフトさせることができる(連結423により図示)。次に、個々の中間アンカーのアンカー点424は、(主)位置アンカー321に(場合によっては、一つまたは複数のさらに他の中間アンカー421の階層を介して)結ばれていてもよい。
【0063】
図4bから分かるように、このようにして軌道の個々の区間においてポジション値201の系統誤差を考慮して、特に正確な仕方で最適化されたグラフ215、すなわち、実際の軌道の推定を決定することができる。
【0064】
本書面ではかくして、位置測定の際、特にGPSベースの位置測定時の系統誤差を考慮し、少なくともそれを部分的に相殺できるようにするのに用いる方法が述べられる。位置測定時の系統誤差は、家の壁や森に遮られるなどの場所的な影響により或いは大気の影響により引き起こされ得る。この系統誤差は、測定が影響し合って互いに依存し合う結果をもたらし得る。大気の影響に原因がある系統誤差の場合、これは、或る一定期間における、例えば、車両100の所定の運行(Durchfahrung)若しくは走行における全ての測定に関係する。その他にも、まだ場所的な影響が及ぶ可能性があり、その場合には、或る一定の領域、例えば、高層ビルの前で、遮蔽およびマルチパスの影響が及ぶ可能性があり、それがその場所において系統誤差を生じさせる。
【0065】
本書面において述べられる方法では、グラフベースSLAM法は、位置データの系統誤差のモデル化の分だけ拡張したものである。この場合、各測定ポジション値201(若しくは、測定ポジション値201に対応するポジション変数ノード301)が硬直的なエッジ312を介して位置アンカー321に結ばれる。この位置アンカー321は、当該位置アンカー(ノード)321が、一定に設定された共分散322を持つ事前分布(Prior)により(専ら)並進323によってのみシフトされ得るように定めることができる。こうすることで、全ての測定ポジション値201若しくはポジション変数ノード301の系統的なシフトが、因子グラフ215に暗黙的に組み込まれる。つまり、グラフベースSLAM最適化は、走行軌道を特定する際の位置データの系統誤差を考慮して、測定ポジション値201若しくはポジション変数ノード301の最も可能性の高い系統的なシフトを決定する。複数の中間アンカー421を持つ階層的なシステムにより、位置測定の場所的な系統誤差さえもモデル化して特定することができる。
【0066】
述べられた方法は、特に、変化の認識に、そして地図パッチ(Map-Patch)の提供に必要とされる走行軌道の位置特定において用いることができる。最初に因子グラフ215を作る。このとき、個々の測定ポジション値201は、各時刻における車両位置に関する事前分布としてそのまま用いられることはない。代わりに、各位置測定に対して対応するポジション変数がポジション変数ノード301として因子グラフ215に挿入される。これらのポジション変数ノード301は、それぞれ一つのポジション因子313を介して(すなわち、対応するエッジを介して)、付随する車両ポーズ若しくはポーズ変数ノード211に結ばれてもよい。もともとポジション事前分布(Positions-Prior)に含まれていた位置測定の不確かさは、ポジション因子313によってモデル化することができる。加えて、全てのポジション変数ノード301は、理想的に硬直的な仮想のエッジ312を介して仮想の位置アンカー変数321に結ばれる。この位置アンカー変数321は、或るポーズ(ポジション+向き)を表すことができ、通常は、やはり或る事前分布を(すなわち、位置アンカー変数321のポーズに関する或る確率分布322を)伴っている。全てのポジション変数ノード301の系統的なシフトを可能にするために、この事前分布は、好ましくは、系統的なシフトに関する然るべき仮定を符号化する並進共分散322を有する。そのアンカー・ポーズの向きは、位置アンカー変数321の回転を避けるために(そして、それにより信頼性のある位置測定の系統誤差のモデル化を確実にするために)理想的に小さな方向共分散により固定することができる。
【0067】
ポジション変数ノード301とアンカーノード321との間の硬直的な因子312により、ポジション変数ノード301同士の間の内的な位置関係は保持され、“任意の”系統的な並進を因子グラフ215内でモデル化して最適化することができる。これにより、走行軌道の位置特定が改善され、位置測定が系統的にシフトされることになる。
【0068】
さらに、複数の中間アンカー421を持つ階層的なシステムが述べられる。これにより、場所による系統誤差もモデル化できる。隣同士の関係の構築は、時間的および/または空間的に行なうことができる。これにより、さまざまな場所的な系統誤差をモデル化して考慮することができる。この変形例が、複数の(例えば、複数の車両100の)軌道の場所を同期して特定するために用いられる場合、中間アンカー421同士は、時間的または空間的な近さに基づいて互いにリンクされることで、基礎となる位置測定時の誤差の空間依存性および/または時間依存性を、異なる軌道についてモデル化することができる。空間依存性の一例は、家の壁によって生じる系統誤差である。時間依存性は、或る特定の時刻での電離層の条件によって、或いは、同じ時刻での異なる運行のための同一の衛星コンステレーションによって引き起こされることがある。
【0069】
図5は、車両100の実際の軌道を推定するための例示的な方法500のフローチャートを示している。この方法500は、例えば、車両100の制御ユニット101によるか或いは車両外部ユニット(例えば、バックエンド・サーバ)によるかの少なくともいずれかにより実行することができる。
【0070】
この方法500は、位置センサ103のセンサデータに基づいて(例えば、GPS受信機のセンサデータに基づいて)、一連の測定ポジション値201(例えば、GPS座標)を対応する一連の時刻において車両100の各ポジションに関して決定501することを含む。特に、或る時刻についての測定ポジション値201は、基準座標系に対するその時刻における車両100のポジションを示すことができる。この位置センサ103は、車両100の一部であってもよい。測定ポジション値201は、(位置センサ103のセンサデータを用いて)測定された車両100の軌道を再現することができる。
【0071】
さらに、この方法500は、一つまたは複数の車両センサ104のセンサデータに基づいて、上記の一連の時刻の少なくとも一部について一連のオドメトリ値を決定502することを含む。或る時刻についてのオドメトリ値はここで、車両100のポーズが前の時刻と比較してどのように変化したかを示すことができる。上記の一連の時刻は例えば、時刻n=1,...,Nを含むことができる。次に、時刻n=2,...,Nについて、車両100のポーズがそれぞれ直前の時刻に対してどのように変化したかを示すそれぞれ一つのオドメトリ値を提供することができる。
【0072】
一つまたは複数の車両センサ104は、オドメトリ値を決定するために、例えば、車両100の速度、走行距離、ヨーレート、回転速度および/または加速度を示すことができる。代替的または補足的に、オドメトリ値に基づいて、例えば、車両100の駆動モータ、ブレーキ装置および/またはステアリング装置を制御するのに用いられる一つまたは複数の制御パラメータを決定することができる。個々のオドメトリ値はそれぞれ、車両100のポジションの変化および/または向きの変化を示すことができる。上記の一連のオドメトリ値に基づいて、相対的な車両100の軌道を再現することができ、その軌道を並進および/または回転により実際の軌道を推定したものに変えて行くことができる。
【0073】
この方法500はさらに、(車両100の実際の軌道の推定として)上記の一連の時刻についての一連の推定ポーズ値231を決定503すること、並びに、上記の一連の測定ポジション値201に対する(系統的な)位置オフセット330を決定すること含む。或る時刻についての推定ポーズ値231は、基準座標系に対する、その時刻における車両100のポーズを示すことができる。これら一連の推定ポーズ値231と位置オフセット330は、最適化判断基準が改善され、特に、少なくとも局所的に最適化されるように決定することができる。
【0074】
ここで、最適化判断基準は、上記の一連の時刻のそれぞれについて一つのポジション値偏差項を含むことができる。或る時刻についてのポジション値偏差項は、位置オフセット330だけシフトさせたその時刻についての測定ポジション値201からの、その時刻についての推定ポーズ値231の偏差313に依存し得る。こうして、それぞれ位置オフセットだけシフトさせた測定ポジション値201からの、推定ポーズ値231の(平均、場合によっては二乗)偏差が低減し、特に最小化することにつながる一連の推定ポーズ値231を決定することができる。位置オフセット330を考慮することにより、効果的かつ正確な仕方で、測定ポジション値201の測定時の系統誤差を認識して相殺することができる。実際の軌道の推定の精度は、このようにして高めることができる。
【0075】
さらに、最適化判断基準は、上記の一連の時刻の少なくとも一部の時刻(特に、時刻n=2,...,N)についてのオドメトリ偏差項を含むことができる。ここで、或る時刻nについてのオドメトリ偏差項は、その時刻についてのオドメトリ値からの、上記の一連の推定ポーズ値231から得られるその時刻における車両100のポーズの変化の偏差に依存し得る。最適化判断基準は例えば、ポジション値偏差項とオドメトリ偏差項の(場合によっては、重み付けされた)合計を含むことができる。ポジション値偏差項とオドメトリ偏差項とを考慮することにより、正確な実際の軌道の推定を提供することができる。
【0076】
本書面において述べられた手段により、位置測定時における系統的でグローバルで且つ局所的な誤差をモデル化することで、既存のデジタル地図に対する軌道の場所を特定する品質か、或いは、複数の軌道の場所を共通のランドマークを見つけること(例えば、標識、信号、車線マーキングなどを見つけること)により同時に特定する際の品質か、少なくともそれらのいずれかを向上させることができる。特に、系統誤差を暗黙的にモデル化することを通して、地図に対する若しくは互いに対する走行軌道の位置特定の品質を改善することができる。本書面において述べられた方法は、例えば、変化を認識することと(例えば、自動運転用の)高精度デジタル地図の学習のために用いることができる。
【0077】
本発明は、示された実施例に限定されない。特に、明細書および図面は、提案した方法、装置およびシステムの原理を説明することのみを目的としていることに留意されたい。