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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】ホウロウ用鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241114BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20241114BHJP
   C22C 38/16 20060101ALI20241114BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C22C38/00 301T
C22C38/06
C22C38/16
C21D9/46 L
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022538249
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-08
(86)【国際出願番号】 KR2020018612
(87)【国際公開番号】W WO2021125858
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-15
(31)【優先権主張番号】10-2019-0172458
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(74)【代理人】
【識別番号】100134382
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 澄恵
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジ-イク
(72)【発明者】
【氏名】コ、 ヒョン-ソク
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/035528(WO,A1)
【文献】特開平06-116634(JP,A)
【文献】特表2011-530658(JP,A)
【文献】特開平06-192727(JP,A)
【文献】特開2000-273577(JP,A)
【文献】特公昭46-002740(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/06
C22C 38/16
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.01~0.05%、Mn:0.46~0.80%、Si:0.001~0.03%、Al:0.01~0.08%、P:0.001~0.02%、S:0.001~0.02%、N:0.004%以下(0%を除く)、およびO:0.003%以下(0%を除く)を含み、残部はFeおよび不可避不純物からなり、
表面から内部方向に酸化層を含み、前記酸化層の厚さが0.006~0.030μmであ
下記式3で計算される部位別微細空孔面積率差(MVv)が0.07~0.16%であり、
下記式2で計算されるセメンタイト分率差(Cv)が0.8~2.5%である、
ホウロウ用鋼板。
[式3]
MVv=MV 1/8t -MVAv
(上記式3中、MV 1/8t とMV Av はそれぞれ、厚さ方向に1/8部位と平均値微細空孔分率を示す。)
[式2]
Cv=C 1/2t -C 1/8t
(上記式2中、C 1/2t とC 1/8t はそれぞれ、鋼板の厚さ方向への中心部と1/8部位でのセメンタイト分率を示す。)
【請求項2】
酸化層は、Fe酸化物を90重量%以上含む、請求項1に記載のホウロウ用鋼板。
【請求項3】
下記式1で計算される密着性関係指数(IPEI)が0.001~0.020である、請求項1又は2に記載のホウロウ用鋼板。
[式1]
PEI=([Mn]×[P]×[Si]×[酸化層厚さ])/([Al]×[C])
(上記式1中、[Mn]、[P]、[Si]、[Al]、[C]は各元素の含量(重量%)を各元素の原子量で割った値を示し、[酸化層厚さ]は酸化層の厚さ(nm)を示す。)
【請求項4】
Cu:0.01重量%以下およびTi:0.005重量%以下のうちの1種以上をさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載のホウロウ用鋼板。
【請求項5】
ホウロウ密着性が95%以上である、請求項1~のいずれか一項に記載のホウロウ用鋼板。
【請求項6】
水素透過比が600秒/mm以上である、請求項1~のいずれか一項に記載のホウロウ用鋼板。
【請求項7】
重量%で、C:0.02~0.08%、Mn:0.45~0.80%、Si:0.001~0.03%、Al:0.01~0.08%、P:0.001~0.02%、S:0.001~0.02%、N:0.004%以下(0%を除く)、およびO:0.003%以下(0%を除く)を含み、残部はFeおよび不可避不純物からなるスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;
前記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階;および
前記冷延鋼板を焼鈍する段階;
を含み、
前記焼鈍する段階は、酸化能指数(PHO/PH)が0.51~0.65である湿潤雰囲気で30秒~180秒間熱処理し、
製造されたホウロウ用鋼板は表面から内部方向に酸化層を含み、前記酸化層の厚さが0.006~0.030μmであり、
下記式3で計算される部位別微細空孔面積率差(MVv)が0.07~0.16%であり、
下記式2で計算されるセメンタイト分率差(Cv)が0.8~2.5%である、ホウロウ用鋼板の製造方法。
[式3]
MVv=MV 1/8t -MVAv
(上記式3中、MV 1/8t とMV Av はそれぞれ、厚さ方向に1/8部位と平均値微細空孔分率を示す。)
[式2]
Cv=C 1/2t -C 1/8t
(上記式2中、C 1/2t とC 1/8t はそれぞれ、鋼板の厚さ方向への中心部と1/8部位でのセメンタイト分率を示す。)
【請求項8】
スラブを仕上げ圧延温度850℃~910℃で熱間圧延する、請求項に記載のホウロウ用鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記熱延鋼板を製造する段階で、前記熱延鋼板を580℃~720℃で巻き取る、請求項又はに記載のホウロウ用鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記冷延鋼板を製造する段階圧下率60~90%で冷間圧延する、請求項のいずれか一項に記載のホウロウ用鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記冷延鋼板を焼鈍する段階で、720℃~850℃で焼鈍する、請求項10のいずれか一項に記載のホウロウ用鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記冷延鋼板を焼鈍する段階以後、圧下率3%以下に調質圧延する段階をさらに含む、請求項11のいずれか一項に記載のホウロウ用鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態はホウロウ用鋼板およびその製造方法に関するものである。より具体的には、本発明の一実施形態はホウロウ処理後に気泡欠陥発生がなくホウロウ密着性および耐フィッシュスケール性に優れた加工用連続焼鈍型ホウロウ用鋼板および製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホウロウ鋼板は、熱延鋼板または冷延鋼板のような素地鋼板の上にガラス質の釉薬を塗布した後、高温で焼成させて耐食性、耐候性、耐熱性などを向上させた一種の表面処理製品である。このようなホウロウ鋼板は、建築外装用、家電用、食器用および多様な産業用素材として使用されている。
【0003】
ホウロウ用鋼板としては古くからリムド鋼が用いられているが、近年、生産性改善の側面から連続鋳造法が積極的に利用されるにつれて大部分の素材の連続鋳造化が行われている。また、鋼材製造においてもホウロウ鋼板の最も致命的な欠陥の一つであるフィッシュスケール(Fishscale)欠陥は、ホウロウ製品の製造工程中、鋼内に固溶していた水素が焼成後冷却される過程で鋼中に過飽和されて存在していて鋼の表面に放出されながらホウロウ層を魚のうろこ形態に脱落させることによって発生する代表的なホウロウ欠陥である。このようなフィッシュスケール欠陥が発生すれば、欠陥部位に集中的にサビ(Rust)が発生するなどホウロウ製品の価値を大きく下落させるので、発生を抑制することが必要である。フィッシュスケール欠陥を防止するためには鋼中に固溶している水素を吸着することができる位置(Site)を鋼内部に多量形成させる必要がある。よって、ホウロウ性を低下させるフィッシュスケール欠陥を防止するか時効性を向上するために箱焼鈍法の一種であるオープンコイル焼鈍(OCA、Open Coil Annealing)法を適用したりもしているが、この場合、長時間熱処理によって生産性が低下して製造原価が高まり品質偏差が大きく発生するという問題点があった。また、オープンコイル焼鈍法は、脱炭量制御が難しくて脱炭量が過度に多く鋼中炭素量が過度に少なければ鋼板の結晶粒界が軟化し、製品成形時、脆性破壊のような亀裂が発生する問題があった。このような長時間焼鈍による生産性劣位および製造原価上昇問題を克服するために、近年開発されたホウロウ用鋼板は連続焼鈍工程を積極活用しており、この時、水素吸蔵源として主にチタニウムなどの析出物または未脱酸鋼を活用した介在物などを活用している。しかし、この場合にも、多量の炭窒化物形成元素を添加するか未脱酸化合物によって表面欠陥発生率が高く、再結晶温度が上昇して通板性を低下させるなど多様な品質問題と生産性低下および原価上昇の要因として作用している。
【0004】
即ち、チタニウム(Ti)系析出物を活用するホウロウ鋼板は、フィッシュスケールの原因になる水素反応抑制のために多量のチタニウムが添加されることによって、製鋼工程の連続鋳造段階でチタニウム窒化物(TiN)と介在物によるノズル詰りが頻繁に発生して作業性低下および生産負荷の直接的な要因になっている。また、溶鋼内混入されたTiNが鋼板の上部に存在しながら代表的な気泡欠陥であるブリスター(Blister)欠陥を誘発するだけでなく、多量添加されたチタニウムは鋼板と釉薬層の密着性を阻害する要因になることもある。
【0005】
一方、鋼板内部に溶存酸素含量を高めて鋼中酸化物などの介在物を利用、水素を吸蔵して耐フィッシュスケール性を確保する高酸素系ホウロウ鋼板も根本的に酸素の含量が高くて耐火物溶損が激甚で製鋼工程での連鋳生産性を大きく低下させるだけでなく、表面欠陥が多発するという根本的な問題点を有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一実施形態では、ホウロウ用鋼板およびその製造方法を提供しようとする。より具体的には、本発明の一実施形態では、ホウロウ処理後に気泡欠陥発生がなくホウロウ密着性および耐フィッシュスケール性に優れた加工用連続焼鈍型ホウロウ用鋼板および製造方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態によるホウロウ用鋼板は、重量%で、C:0.01~0.05%、Mn:0.46~0.80%、Si:0.001~0.03%、Al:0.01~0.08%、P:0.001~0.02%、S:0.001~0.02%、N:0.004%以下(0%を除く)およびO:0.003%以下(0%を除く)含み、残部Feおよび不可避不純物を含む。
【0008】
本発明の一実施形態によるホウロウ用鋼板は、表面から内部方向に酸化層を含み、前記酸化層の厚さが0.006~0.030μmである。
【0009】
酸化層は、Fe酸化物を90重量%以上含むことができる。
【0010】
本発明の一実施形態によるホウロウ用鋼板は、下記式1で計算される密着性関係指数(IPEI)が0.001~0.020であってもよい。
[式1]
PEI=([Mn]×[P]×[Si]×[酸化層厚さ])/([Al]×[C])
(上記式1中、[Mn]、[P]、[Si]、[Al]、[C]は各元素の含量(重量%)を各元素の原子量で割った値を示し、[酸化層厚さ]は酸化層の厚さ(nm)を示す。)
【0011】
本発明の一実施形態によるホウロウ用鋼板は、下記式3で計算される部位別微細空孔面積率差(MVv)が0.07~0.16%であってもよい。
[式3]
MVv=MV1/8t-MVAv
(上記式3中、MV1/8tとMVAvはそれぞれ、厚さ方向に1/8部位と平均値微細空孔分率を示す。)
【0012】
本発明の一実施形態によるホウロウ用鋼板は、Cu:0.01重量%以下およびTi:0.005重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことができる。
【0013】
本発明の一実施形態によるホウロウ用鋼板は、下記式2で計算される焼鈍後セメンタイト分率差(Cv)が0.8~2.5%であってもよい。
[式2]
Cv=C1/2t-C1/8t
(上記式2中、C1/2tとC1/8tはそれぞれ、鋼板の厚さ方向への中心部と1/8部位でのセメンタイト分率を示す。)
【0014】
本発明の一実施形態によるホウロウ用鋼板は、ホウロウ密着性が95%以上であってもよい。
【0015】
本発明の一実施形態によるホウロウ用鋼板は、水素透過比が600秒/mm以上であってもよい。
【0016】
本発明の一実施形態によるホウロウ用鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.02~0.08%、Mn:0.45~0.80%、Si:0.001~0.03%、Al:0.01~0.08%、P:0.001~0.02%、S:0.001~0.02%、N:0.004%以下(0%を除く)およびO:0.003%以下(0%を除く)含み、残部Feおよび不可避不純物を含むスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階;および冷延鋼板を焼鈍する段階;を含む。
【0017】
焼鈍する段階は、酸化能指数(PHO/PH)が0.51~0.65である湿潤雰囲気で30秒~180秒間熱処理することができる。
【0018】
スラブを仕上げ圧延温度850℃~910℃で熱間圧延することができる。
【0019】
熱延鋼板を製造する段階で、前記熱延鋼板を580℃~720℃で巻き取ることができる。
【0020】
冷延鋼板を製造する段階圧下率60~90%で冷間圧延することができる。
【0021】
冷延鋼板を焼鈍する段階で、720℃~850℃で焼鈍することができる。
【0022】
冷延鋼板を焼鈍する段階以後、圧下率3%以下に調質圧延する段階をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一実施形態による耐フィッシュスケール性およびホウロウ密着性に優れたホウロウ用鋼板は、家電機器、化学機器、厨房機器、衛生機器および建物内外装材などに使用することができる。
【0024】
本発明の一実施形態による耐フィッシュスケール性およびホウロウ密着性に優れたホウロウ用鋼板は、鋼材の化学組成を適切な範囲内に抑制すると同時に密着性関係指数を制御するため、製造される冷延鋼板は高いホウロウ密着性を確保することができる。また、表面層と中心部の炭化物および微細空孔分率を制御することによってホウロウ鋼板の致命的な欠陥であるフィッシュスケールおよび気泡欠陥を抑制することができてホウロウ特性が顕著に向上する。
【0025】
本発明の一実施形態による耐フィッシュスケール性およびホウロウ密着性に優れたホウロウ用鋼板は製鋼段階で表面特性に優れたC:0.02~0.08の重量%の範囲の低炭素鋼を活用することによって生産性と操業性を向上させると共に冷間圧延後の薄板を連続焼鈍炉で熱処理する時、炉内雰囲気を適正化して鋼中炭化物分率などを厚さ方向に制御することによって高速熱処理操業時にもホウロウ特性が顕著に向上する。
【0026】
本発明の一実施形態による耐フィッシュスケール性およびホウロウ密着性に優れたホウロウ用鋼板は低温析出物であるセメンタイトを用いて連続焼鈍工程で雰囲気制御を通じて脱炭反応を促進する。セメンタイトは熱間圧延中に均一に分散して存在していて冷間圧延および脱炭反応によって形成された微細空孔が水素の吸蔵源として作用して、水素によって発生するフィッシュスケール欠陥を防止することができる。一方、鋼板内表面層残留炭素などはホウロウ焼成時のGas化反応によってホウロウ製品の気泡欠陥を誘発する要因として作用することもあるので、本発明では冷延鋼板の厚さ方向に炭化物および微細空孔分布を制御することによってホウロウ性だけでなく表面気泡欠陥発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態によるホウロウ用鋼板の断面の模式図である。
図2】発明例4によるホウロウ用鋼板の深さ別GDS分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書では、第1、第2および第3などの用語は多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これら用語はある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下で叙述する第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及することができる。
【0029】
本明細書では、ある部分がある構成要素を“含む”という時、これは特に反対になる記載がない限り他の構成要素を除くのではなく他の構成要素をさらに含むことができるのを意味する。
【0030】
本明細書では、使用される専門用語はただ特定実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は文句がこれと明確に反対の意味を示さない限り複数形態も含む。明細書で使用される“含む”の意味は特定特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるのではない。
【0031】
本明細書では、マーカッシュ形式の表現に含まれている“これらの組み合わせ”の用語はマーカッシュ形式の表現に記載された構成要素からなる群より選択される一つ以上の混合または組み合わせを意味するものであって、前記構成要素からなる群より選択される一つ以上を含むことを意味する。
【0032】
本明細書では、ある部分が他の部分“の上に”または“上に”あると言及する場合、これは直ぐ他の部分の上にまたは上にあるか、その間に他の部分が伴われることがある。対照的に、ある部分が他の部分“の真上に”あると言及する場合、その間に他の部分が介されない。
【0033】
異なって定義しなかったが、ここに使用される技術用語および科学用語を含む全ての用語は本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。通常使用される辞典に定義された用語は関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り理想的または非常に公式的な意味に解釈されない。
【0034】
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
【0035】
本発明の一実施形態で追加元素をさらに含むことの意味は、追加元素の追加量だけ残部の鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
【0036】
以下、本発明の実施形態について本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施することができるように詳しく説明する。しかし、本発明は様々の異なる形態に実現することができ、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0037】
本発明の一実施形態によるホウロウ用鋼板は、重量%で、C:0.01~0.05%、Mn:0.46~0.80%、Si:0.001~0.03%、Al:0.01~0.08%、P:0.001~0.02%、S:0.001~0.02%、N:0.004%以下(0%を除く)およびO:0.003%以下(0%を除く)含み、残部Feおよび不可避不純物を含む。
【0038】
まず、鋼板の成分を限定した理由を説明する。
【0039】
C:0.01~0.05重量%
炭素(C)は、過度に多く添加すれば、鋼中固溶炭素の量が増加して強度は高まり、焼鈍時、集合組織発達を妨害して成形性が悪くなりホウロウ層バブルリングによる気泡欠陥を誘発するという問題点がある。反面、Cが過度に少なければ、鋼内水素を吸蔵するサイトとして作用する炭化物の分率が低くなってフィッシュスケール欠陥にぜい弱であるという問題点がある。
【0040】
スラブ内で炭素は0.02~0.08重量%含むことができる。さらに具体的には、スラブ内で炭素は0.024~0.076重量%含むことができる。
【0041】
後述の製造工程と関連して、最終焼鈍過程で高い酸化能指数雰囲気で脱炭するので、スラブ内のC含量と最終鋼板でのC含量が互いに異なってもよい。脱炭を0.01~0.05重量%程度行うので、最終鋼板でのC含量は0.01~0.05重量%になり得る。最終鋼板でのC含量は厚さ方向に濃度勾配を有することができ、前述のC含量は酸化層20を含む鋼板100全体でのC含量の平均を示す。さらに具体的には、最終鋼板でのC含量は0.015~0.045重量%であってもよい。
【0042】
Mn:0.46~0.80重量%
マンガン(Mn)は代表的な固溶強化元素であって、鋼中に固溶された硫黄をマンガン硫化物(MnS)形態に析出して赤熱脆性(Hot shortness)を防止し炭化物の析出を助長する。Mnが過度に少なく添加されれば、前述の効果を十分に得にくい。反面、Mnの含量が過度に多ければ、成形性を悪くしAr3変態温度を低下させてホウロウ焼成中に変態が起こって変形が発生するという問題点が発生することがある。したがって、Mnを0.46~0.80重量%含むことができる。さらに具体的には、Mnを0.48~0.78重量%含むことができる。
【0043】
Si:0.001~0.03重量%
シリコン(Si)は水素吸蔵源として作用する炭化物の形成を促進する元素である。Siが過度に少なく添加されれば、前述の効果を十分に得にくい。反面、Siが過度に多く添加されれば、鋼板表面に酸化被膜を形成してホウロウ密着性を低下させる問題が発生することがある。したがって、Siを0.001~0.030重量%含むことができる。さらに具体的には、0.002~0.027重量%含むことができる。
【0044】
Al:0.01~0.08重量%
アルミニウム(Al)は製鋼段階で溶鋼中酸素を除去する強力な脱酸剤として使用され、固溶窒素を固着して時効性を改善する元素である。Alが過度に少なく添加されれば、前述の効果を十分に得にくい。反面、Alが過度に多く添加されれば、アルミニウム酸化物が鋼内または鋼表面に残存してホウロウ処理工程でブリスター(Blister)のような気泡欠陥を誘発するという問題点が発生することがある。したがって、Alを0.01~0.08重量%の範囲で含むことができる。さらに具体的には、0.014~0.077重量%含むことができる。
【0045】
P:0.001~0.020重量%
リン(P)は代表的な材質強化元素である。Pが過度に少なく添加されれば、前述の効果を十分に得にくい。反面、Pが過度に多く添加されれば、鋼板内部に偏析層を作って成形性を低下させるだけでなく、鋼の酸洗性を悪くしてホウロウ密着性にも悪い影響を与えることがある。したがって、Pを0.001~0.020重量%の範囲で含むことができる。より具体的には、0.002~0.018重量%含むことができる。
【0046】
S:0.001~0.020重量%
硫黄(S)はマンガンと結合して赤熱脆性を起こす元素である。Sが過度に少なく添加されれば、溶接性を悪化させる問題が発生することがある。Sが過度に多く添加されれば、軟性が大きく低下して加工性を悪くするだけでなく、マンガン硫化物が過多析出されて製品のフィッシュスケール性にも良くない影響を与えることがある。したがって、Sを0.001~0.020重量%含むことができる。さらに具体的には、0.002%~0.018重量%含むことができる。
【0047】
N:0.004重量%以下
窒素(N)は代表的な硬化元素であるが、添加量が増加すれば、時効欠陥が多発し成形性が悪くなりホウロウ処理工程で気泡欠陥を発生させるという問題点が発生することがある。したがって、Nの上限を0.004重量%に限定する。より具体的には、Nを0.0005~0.0037重量%含むことができる。
【0048】
O:0.003重量%以下
酸素(O)は酸化物を形成することにおいて必須的元素であって、このような酸化物は製鋼段階で耐火物の溶損を引き起こすだけでなく、鋼板製造時、表面に酸化物に起因する表面欠陥を誘発する要因として作用する。したがって、スラブ内のOの添加量は0.003重量%以下とすることができる。より具体的には、スラブはOを0.0001~0.0019重量%含むことができる。
【0049】
後述の製造工程と関連して、最終焼鈍過程で高い酸化能指数雰囲気で脱炭して一部酸素が浸透して酸化層20を形成することができる。しかし、全体鋼板100に比べて酸化層20の厚さが非常に薄いので、全体鋼板100内で酸素量の変動が実質的にない。酸化層20内では酸素を5重量%以上含む。さらに具体的には、酸化層20内でOを10~50重量%含むことができる。酸化層20内の酸素含量は酸化層20内の平均含量を意味する。
【0050】
前記成分以外に、本発明はFeおよび不可避不純物を含む。前記成分以外に有効な成分の添加を排除するのではない。不可避不純物として、Cu、Tiなどが挙げられる。本発明の一実施形態ではCuおよびTiを意図的に添加せず、Cuを0.01重量%以下、Ti:0.005重量%以下に含むことができる。
【0051】
以下、本発明の鋼板微細空孔および熱延段階での炭化物の体積分率限定理由について説明する。本発明鋼で用いる炭化物は、母材との軟性差によって冷間圧延工程で炭化物自体が破砕されるか、後続脱炭熱処理によって微細空孔を形成するだけでなく、自体的にも鋼内水素を固着する水素吸蔵源として活用される。したがって、このような炭化物分率は単独だけでなく添加元素との相互関係によってもホウロウ性に影響を与える。本発明で提案されたホウロウ用鋼板は鋼成分を調節して水素の吸蔵位置として主にFeC(セメンタイト)のような炭化物だけでなく、脱炭に起因した微細空孔などを積極活用すると同時に、鋼成分のうちのホウロウ密着性、表面欠陥などに影響を与える成分および工程を制御することによって表面欠陥がないながらホウロウ密着性および耐フィッシュスケール性に優れたホウロウ用鋼板およびその製品を提供しようとする。熱間圧延中に均一に分散、析出されたセメンタイトは冷間圧延時破砕され、また、焼鈍工程で雰囲気制御を通じて脱炭反応原として作用して水素吸蔵源である微細空孔を形成し、これは効果的に鋼内水素を固着してフィッシュスケール欠陥を抑制することができた。連続焼鈍脱炭作業によって厚さ方向への炭化物と微細空孔分率を制御して、また、鋼板表面層の酸化物挙動を制御することによってホウロウ密着性および気泡欠陥抑制にも大きな効果があった。一方、高温の凝固過程で析出される高温析出/介在物系とは異なり、本発明の一実施形態では低温で安定した炭化物を活用するので、既存のホウロウ鋼で問題になった耐火物の溶損や連鋳ノズルの詰り現象のような操業の作業性悪化およびブラックライン(Blackline)のような表面欠陥発生を防止することができる。炭化物の分率は鋼中の総炭素量と密接な関係を有するだけでなく操業条件にも大きく影響を受ける。一方、本発明鋼の場合、鉄(Fe)に比べて酸化性の高いチタニウム(Ti)などの元素が添加されないだけでなく、表面酸化物層を制御することによって鋼板と釉薬間のホウロウ密着性を大きく改善することができる。
【0052】
図1では、本発明の一実施形態によるホウロウ用鋼板の断面の模式図を示す。図1に示されるように、鋼板表面から内部方向に酸化層20を含む。酸化層20は酸素(O)を5重量%以上含む点から酸素(O)を5重量%未満含む鋼板基材10とは区別される。具体的には、鋼板断面に対して、表面から内部方向に酸素濃度を分析する時、酸素を5重量%含む地点を基準にして酸化層20と基材10を区分する。酸素を5重量%含む地点が複数である場合、最も内部の地点を基点にして区分する。
【0053】
酸化層20は、Fe酸化物を90重量%以上含むことができる。
【0054】
ホウロウ製品は鋼板上に有機物である釉薬を付けた製品であるので、鋼板と釉薬の密着性を確保することが非常に重要である。一般に、釉薬の主成分はシリコン-オキシド(SiO)系からなり、鋼板との密着性低下を防止するために釉薬成分中にNiOなどが多量添加された高価の釉薬を適用する場合が多い。
【0055】
本発明の一実施形態では、鋼板表面の酸化層の厚さを制御することによってホウロウ密着性を改善することができる方案を反復的な実験を通じて確認した。主にFeO系から構成された酸化層の厚さを一定範囲に管理することによって釉薬層のシリコン(Si)原子との共有結合を促進してホウロウ密着性が改善され、このためには酸化層の厚さを0.006~0.030μmに管理することが必要である。酸化層の厚さが過度に薄い場合には釉薬層と鋼板の結合力が低下してホウロウ密着性を確保することが困難であり、反面、酸化層の厚さが過度に厚い場合には密着性側面からは有利であったが、鋼板の表面特性を悪くするという問題点がある。したがって、鋼板表面の酸化層20厚さは0.006~0.030μmに限定した。より具体的には、酸化層20厚さは0.007~0.028μmであってもよい。酸化層20の厚さは鋼板100全体で異なってもよく、本発明の一実施形態で酸化層20の厚さとは鋼板100全体に対する平均厚さを意味する。
【0056】
具体的には、下記式1で計算される密着性関係指数(IPEI)が0.001~0.020であってもよい。
【0057】
[式1]
PEI=([Mn]×[P]×[Si]×[酸化層厚さ])/([Al]×[C])
【0058】
上記式1中、[Mn]、[P]、[Si]、[Al]、[C]は各元素の含量(重量%)を各元素の原子量で割った値を示し、[酸化層厚さ]は酸化層の厚さ(nm)を示す。
【0059】
PEI値が過度に低ければ、密着性確保に有利な酸化層の厚さが薄く、アルミニウム酸化物の形成量が増加してホウロウ釉薬層と素地鉄の間の密着性を低下させるという問題点がある。反面、IPEI値が過度に高ければ、ホウロウ焼成熱処理時、鋼板表面でGas発生量が増加して気泡欠陥を誘発するという問題点がある。したがって、密着性関係指数(IPEI)値は0.001~0.020に限定した。より具体的には、IPEI値は0.001~0.019であってもよい。
【0060】
本発明の一実施形態によるホウロウ用鋼板は、下記式2で計算されるセメンタイト分率差(Cv)が0.8~2.5%であってもよい。
【0061】
[式2]
Cv=C1/2t-C1/8t
【0062】
上記式2中、C1/2tとC1/8tはそれぞれ鋼板の厚さ方向への中心部と1/8部位でのセメンタイト分率を示す。
【0063】
金属合金内に存在する炭素は金属原子と結合して炭化物を形成し、鉄が炭素と結合して比較的に低温域で形成した炭化物のうちの一つがセメンタイト(Cementite)である。通常、炭素鋼では250~700℃の間でセメンタイトが形成され、これより高温では球形の粒子状に粗大化される。熱延段階で生成されたセメンタイトは冷間圧延工程で破砕され、また、脱炭工程で分解されて水素を吸蔵するソースとして作用する。しかし、これらセメンタイトが鋼の表面部に集中して存在する場合、ホウロウ焼成過程で炭素の気体化反応を促進するソース(Source)になって気泡欠陥を誘発する要因になることもある。したがって、ホウロウ製品のフィッシュスケールと気泡欠陥を抑制するためには、厚さ方向への炭化物体積分率を厳格に管理することが必要であった。即ち、冷延鋼板厚さ方向のセメンタイト分率差、Cvが過度に小さければ、脱炭反応が円滑に行われないことにより表面層の炭化物分率が増加してホウロウ焼成後気泡欠陥を誘発する要因として作用した。反面、Cvが過度に大きければ、鋼内水素を吸蔵することができるサイトの供給が不足してフィッシュスケール欠陥の発生を抑制することが難しいという問題点があった。したがって、厚さ方向のセメンタイト分率差、Cvは0.8~2.5%とすることができる。より好ましくは、Cvは0.85~2.45%であってもよい。
【0064】
本発明の一実施形態によるホウロウ用鋼板は、下記式3で計算される部位別微細空孔面積率差(MVv)が0.07~0.16%であってもよい。
【0065】
[式3]
MVv=MV1/8t-MVAv
【0066】
上記式3中、MV1/8tとMVAvはそれぞれ、厚さ方向に1/8部位と平均値微細空孔分率を示す。
【0067】
熱間圧延中に析出されたセメンタイトは冷間圧延および脱炭熱処理時破砕されることによって、これら周囲に微細空孔が形成される。形成された微細空孔は水素の吸蔵源として作用してフィッシュスケール欠陥の発生を抑制するようになる。冷延鋼板での微細空孔は圧延面(ND面)と平行な面に対して、走査電子顕微鏡を活用して倍率1000倍に10枚の写真を撮影後、これら面積で占める微細空孔の面積分率を画像分析器を活用して測定した。本発明の一実施形態では、これら微細空孔の面積率分布を部位別に制御することによってフィッシュスケールと気泡欠陥を同時に抑制することができる領域があるのを確認した。このような効果を確保するためには、微細空孔面積率差、MVvを0.07~0.16%に管理することが必要であった。微細空孔面積率差、MVvが過度に小さければ、耐フィッシュスケール側面からは有利であったが、加工性劣化および気泡欠陥のような表面欠陥が多発するという問題点が発生することがある。反面、MVvが過度に大きければ、鋼内水素を固着することができる水素吸蔵源として作用するサイトが少ないことによって、製品のフィッシュスケール欠陥率が高まるという問題点が発生することがある。したがって、微細空孔面積率差、MVvは0.070~0.160%に限定した。より具体的には、MVvは0.075~0.155%であってもよい。
【0068】
本発明の一実施形態によるホウロウ用鋼板のホウロウ密着性は95%以上であってもよい。このような物性を満足することによって、比較的低廉な釉薬を活用してもホウロウ用素材として適用することができる。ホウロウ密着性が過度に低下すれば、ホウロウ処理後、流通またはハンドリング過程で釉薬層が脱落してホウロウ材としての商品性が低下するようになることによって、ホウロウ社では安定性を考慮してNiOなどの成分が多量添加された高価の釉薬を適用することによって原価上昇の要因として作用するので低価の釉薬でもホウロウ密着性を確保することができる方案を設けるために努力している。通常、ホウロウ密着性が90%以上であれば最優秀ホウロウ製品に分類しているが、本発明の一実施形態では95%以上のホウロウ密着性を確保する方案を提案した。また、ホウロウ密着性が低下すれば、鋼の水素によるフィッシュスケール発生率も高まるので可能な限り高い密着性を確保するのが好ましく、本発明では密着特性およびフィッシュスケール制御側面からも優れた95%以上のホウロウ密着性を確保した。さらに具体的には、ホウロウ密着性は96%以上であってもよい。ホウロウ密着性は、米国材料試験協会規格、ASTM C313-78に定義された通り鋼球でホウロウ層に一定の荷重を加えた後、この部位の通電程度を評価することによってホウロウ釉薬層の脱落程度を指数化して示した数値を意味する。
【0069】
本発明の一実施形態によるホウロウ用鋼板は、水素透過比が600秒/mm以上であってもよい。水素透過比は、本発明の一実施形態による冷延鋼板を用いて製造されたホウロウ鋼の適用時、致命的な欠陥であるフィッシュスケール欠陥の抵抗性を示す耐フィッシュスケール性を評価する代表的な指数であって、ヨーロッパ規格(EN10209)に登載された方法で鋼板内に水素を固着することができる能力を評価する。鋼板の一方向で水素を発生させて鋼板の反対側に水素が透過して出る時間(t、単位:秒)を測定して、これを素材厚さ(t、単位:mm)の自乗で割って表わした値であって、t/t(単位:秒/mm)で示す。水素透過比が過度に低ければ、ホウロウ処理後200℃で24時間加速熱処理してフィッシュスケール欠陥の抵抗性を評価する場合、欠陥率が50%以上に発生して、安定したホウロウ製品として使用するのに問題点があったので、耐フィッシュスケール性に優れた鋼板を確保するためには、水素透過比が600秒/mm以上に管理する必要がある。また、さらに具体的には、水素透過比が610秒/mm以上であってもよい。
【0070】
本発明の一実施形態によるホウロウ用鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.02~0.08%、Mn:0.45~0.80%、Si:0.001~0.03%、Al:0.01~0.08%、P:0.001~0.02%、S:0.001~0.02%、N:0.004%以下(0%を除く)およびO:0.003%以下(0%を除く)含み、残部Feおよび不可避不純物を含むスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階;および冷延鋼板を焼鈍する段階;を含む。
【0071】
まず、前述の組成を満足するスラブを準備する。製鋼段階で、前述の組成に成分が調整された溶鋼は連続鋳造を通じてスラブとして製造することができる。前述のように、冷延鋼板を焼鈍する工程でC、Oの含量が一部変動し、その他の合金成分は前述のホウロウ用鋼板と実質的に同一である。合金成分については前述したので、重複する説明は省略する。
【0072】
その後、製造されたスラブを加熱する。加熱することによって後続する熱間圧延工程を円滑に行い、スラブを均質化処理することができる。より具体的には、加熱は再加熱を意味することができる。
【0073】
この時、スラブ加熱温度は1150~1280℃であってもよい。スラブ加熱温度が過度に低ければ、後続する熱間圧延工程で圧延荷重が急激に増加して作業性を悪くすることがある。反面、スラブ加熱温度が過度に高ければ、エネルギー費用が増加するだけでなく、表面スケール量が増加して材料損失につながることがある。より具体的には、1180~1260℃であってもよい。
【0074】
その後、加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する。
【0075】
この時、熱間圧延の仕上げ圧延温度は850~910℃であってもよい。仕上げ熱間圧延温度が過度に低ければ、低温領域で圧延が仕上げられることによって結晶粒の混粒化が急激に行われて圧延性および加工性の低下を招くことがある。反面、仕上げ熱間圧延温度が過度に高ければ、表面スケールの剥離性が低下し、厚さ全般にわたって均一な熱間圧延が行われないことにより結晶粒成長による衝撃靭性の低下が現れることがある。さらに具体的には、仕上げ熱間圧延温度は860~900℃であってもよい。
【0076】
その後、熱間圧延が終わって製造された熱延鋼板は巻取り工程を経る。より具体的には、熱延巻取り工程であってもよい。
【0077】
この時、巻取り温度は580~720℃であってもよい。熱間圧延した鋼板は巻取り前、ランアウトテーブル(ROT、Run-out-table)で冷却を行うことができる。熱延巻取り温度が過度に低ければ、冷却および維持する工程で幅方向温度不均一が発生して低温析出物生成が変わることによって材質偏差を誘発するだけでなく、ホウロウ性にも悪影響を示した。反面、巻取り温度が過度に高ければ、炭化物の塊状化が進められることによって耐食性が低下しPの粒界偏析を促進して冷間圧延性が低下するだけでなく、最終製品での組織粗大化によって加工性を悪くするという問題点が発生した。さらに具体的には、巻取り温度は590~710℃であってもよい。
【0078】
巻取られた熱延鋼板は冷間圧延する前に鋼板を酸洗する段階を追加的に含むことができる。
【0079】
その後、巻取られた熱延鋼板は冷間圧延を通じて冷延鋼板に製造する。
【0080】
この時、冷間圧下率は60~90%になり得る。冷間圧下率が過度に低ければ、後続熱処理工程での再結晶駆動力が確保されないことにより局部的に未再結晶粒が残って強度は増加するが、加工性が顕著に低下するという問題点がある。また、熱延段階で形成された炭化物破砕能が低下することにより水素を吸蔵することができるサイトが減って耐フィッシュスケール性確保が難しいだけでなく、最終製品厚さを考慮すれば熱延板の厚さを低めなければならないので圧延作業性も悪化させるという問題点があった。反面、冷間圧下率が過度に高まれば、材質が硬化して加工性が悪化するだけでなく、圧延機の負荷が増加して操業性を悪くするという問題点があった。より具体的には、冷間圧下率は63~88%であってもよい。
【0081】
その後、冷延鋼板を連続焼鈍熱処理を通じてホウロウ用鋼板として製造する。冷延材は冷間圧延で加えられた高い変形によって強度は高いが加工性が極めて劣位するので、後続工程で雰囲気熱処理を実施することによって加工性および脱炭反応を確保する。
【0082】
冷延鋼板を熱処理する段階で、本発明の一実施形態では炭素原子の拡散速度が最適になるように酸化能(PHO/PH)条件を制御して素材内炭素原子の外部拡散を促進して脱炭性を向上させようとした。このために、脱炭焼鈍工程の最適化管理基準として脱炭温度を720~850℃の範囲とし、酸化能(PHO/PH)を0.51~0.65の湿潤雰囲気で熱処理するのであり、この時の適正維持時間は20~180秒である。
【0083】
この時、熱処理温度は720~850℃であってもよい。脱炭焼鈍温度が過度に低ければ、冷間圧延によって形成された変形が十分に除去されないことにより加工性が顕著に低下するだけでなく、雰囲気熱処理による脱炭率が過度に低くて所定のホウロウ用冷延鋼板の特性を確保することができなかった。反面、熱処理温度が過度に高ければ、高温強度低下による軟化によって板破断による焼鈍通板性を低下させるだけでなく、表面酸化層の厚さ増加によって脱炭反応が抑制される逆作用が起こるので、熱処理温度は720~850℃に限定した。より好ましくは、焼鈍温度が730~840℃であってもよい。
【0084】
この時、熱処理雰囲気条件の酸化能(PHO/PH)は0.51~0.65であってもよい。酸化能を示す酸化能が過度に低ければ、脱炭に長時間がかかって連続焼鈍脱炭時脱炭性が悪くなってホウロウ特性確保が難しいことがある。反面、酸化能が過度に高ければ、過酸化による形成された表面被膜による表面欠陥発生率が高いという問題点があった。したがって、雰囲気ガスの酸化能は0.51~0.65に限定した。より具体的には、酸化能は0.52~0.64であってもよい。
【0085】
また、雰囲気連続焼鈍工程で亀裂維持時間は20~180秒であってもよい。維持温度での亀裂時間が過度に短い場合にも未再結晶粒が残存して成形性を大きく悪くするだけでなく、厚さ方向への脱炭反応が円滑に行われなくてホウロウ性が悪くなる要因として作用し、反面、維持時間が過度に長ければ、脱炭反応によって異常結晶粒成長が発生して材質不均一による加工性低下およびフィッシュスケール性を劣化させる問題があるので、亀裂温度での維持時間は20~180秒であってもよい。より好ましくは、25秒~160秒であってもよい。
【0086】
また、冷延鋼板を焼鈍する段階以後に熱処理された鋼板を調質圧延する段階をさらに含むことができる。調質圧延を通じて素材の形状を制御し所望の表面粗さを得ることができるが、調質圧下率が過度に高ければ加工硬化によって材質は硬化し加工性が悪くなるという問題点があるので、調質圧延は圧下率3%以下に適用することができる。具体的には、調質圧延の圧下率は0.3~2.5%であってもよい。
【0087】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。但し、下記の実施例は本発明を例示してより詳細に説明するためのものに過ぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではないという点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は特許請求の範囲に記載された事項とこれから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【実施例
【0088】
実施例
重量%で、下記表1の組成および残部鉄(Fe)および不可避不純物を含む合金成分で転炉~2次精錬~連鋳工程を経由したスラブを製造した。このスラブを1200℃加熱炉で1時間維持後、熱間圧延を実施した。この時、熱延鋼板最終厚さは4.0mmにして作業した。熱間圧延された試片は酸洗処理を通じて表面の酸化被膜を除去した後、圧下率で冷間圧延を実施した。冷間圧延が完了した試片はホウロウ性を調査するためのホウロウ処理試片および機械的特性分析用試片として加工して熱処理を実施した。仕上げ熱間圧延温度、巻取り温度、冷間圧下率、焼鈍温度、維持時間および酸化能は下記表2に整理した。
【0089】
前記のような過程を経て確保された素材の製造条件別操業性、ホウロウ性、組織特性などを下記表3に表わした。
【0090】
通板性の場合、連鋳、熱延および冷延工程で通常素材の生産性に比べて90%以上の操業性を示すと“O”、生産性が90%以下であるか欠陥発生率が10%以上である場合を“X”で表わした。
【0091】
炭化物分率は、光学顕微鏡で500倍倍率で20視野の映像を確保した後、これを画像分析器(Image analyzer)を用いて全体視野面積に対する炭化物分率に求めた。
【0092】
ホウロウ処理試片は試験目的に応えるように用途別適当な大きさに切断し、熱処理が完了したホウロウ処理用試片は完全に脱脂した後、フィッシュスケール欠陥に比較的にぜい弱な標準釉薬(Check frit)を塗布し300℃で10分間維持して水分を除去した。乾燥が終わった試片は密着性などホウロウ特性の差別性を目立たせるために比較的低い800℃で20分間焼成処理を実施した後、常温まで冷却し、この時、焼成炉の雰囲気条件は露点温度30℃でフィッシュスケール欠陥が発生しやすい苛酷な条件を選んだ。ホウロウ処理が終わった試片は200℃のオーブンで24時間維持するフィッシュスケール加速実験を実施した。
【0093】
フィッシュスケール加速処理後、フィッシュスケール欠陥発生有無を肉眼で観察して、フィッシュスケール欠陥が発生しない場合には“O”、発生した場合は“X”で表わした。
【0094】
鋼板と釉薬間の密着性を評価したホウロウ密着性は、米国材料試験協会規格、ASTM C313-78に定義された通り鋼球でホウロウ層に一定の荷重を加えた後、この部位の通電程度を評価することによってホウロウ釉薬層の脱落程度を指数化して表した。本発明でホウロウ密着性の場合、比較的に低価釉薬での適用安定性確保側面から95%以上確保を目標に設定した。
【0095】
気泡欠陥は、ホウロウ処理後200℃のオーブンで24時間維持した試片に対してホウロウ表面を肉眼で観察して、それぞれ“O”優秀、“△”普通、“X”不良の3段階に判定した。
【0096】
水素透過比はホウロウの致命的な欠陥であるフィッシュスケールに対する抵抗性を評価する指数の一つであって、ヨーロッパ規格(EN10209-2013)に表記された実験法によって鋼板の一方向で水素を発生させ、その反対側で水素が透過して出る時間(t、単位秒)を測定して、これを素材厚さ(t、単位mm)自乗で割って表わした値であって、t/t(単位初め/mm)で示す。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】

【0099】
【表3】
【0100】
表1~表3で確認できるように、本発明の成分組成、製造条件および酸化層の厚さを全て満足する発明例1~9は通板性が良好であるだけでなく、炭化物および微細空孔分率と連関指数が本発明の限定範囲を満足し、苛酷な処理条件でもフィッシュスケールおよび気泡欠陥のようなホウロウ欠陥が発生しなかっただけでなく、ホウロウ密着性95%以上、水素透過比600秒/mm以上、密着性関連指数IPEI値が0.001~0.020を満たして、本発明が目標とする特性を確保することができた。
【0101】
反面、本発明で提示する化学組成は満たしたが、最終焼鈍時酸化能および時間範囲を満たさなかった場合である比較例1~4は酸化層が適切に形成されなくて、目標特性を確保することができないのが分かる。表3で確認されるように、微細空孔の分布図管理基準を逸脱することによって水素透過比が目標に対比して低いか(比較例1~4)、ホウロウ密着性が95%未満であるか(比較例1~4)、ホウロウ処理後気泡欠陥またはフィッシュスケールのようなホウロウ欠陥が発生するのを確認することができて、全体的に目標とする特性を確保することができなかった。
【0102】
比較例5~9は、本発明で提示した製造条件は満たしたが、合金組成を満たさなかった場合である。比較例5~9は、大部分本発明の厚さ方向別セメンタイトおよび微細空孔面積分率の管理基準、表面酸化層の厚さ、密着性指数、水素透過比、ホウロウ密着性などを満たさなかっただけでなく、ホウロウ処理後肉眼観察でもフィッシュスケールや気泡欠陥が発生して適用性に問題があった。
【0103】
図2では、発明例4によるホウロウ用鋼板の厚さ別GDS分析結果を示す。酸素の含量が5重量%になる最も内部の地点が0.015μmであり、表面に0.015μm厚さの酸化層20が存在するのを確認することができる。
【0104】
本発明は前記実施例に限定されるわけではなく、互いに異なる多様な形態に製造することができ、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更せず他の具体的な形態に実施することができるというのを理解することができるはずである。したがって、以上で記述した実施例は全ての面で例示的なものであり限定的ではないと理解しなければならない。
【符号の説明】
【0105】
100:ホウロウ用鋼板
10:鋼板基材
20:酸化層
図1
図2