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特許7588151ペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】ペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20241114BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20241114BHJP
   H10K 30/85 20230101ALI20241114BHJP
   H10K 30/86 20230101ALI20241114BHJP
   H10K 71/16 20230101ALI20241114BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K30/85
H10K30/86
H10K71/16 164
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022554000
(86)(22)【出願日】2021-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2021035597
(87)【国際公開番号】W WO2022071302
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2020164546
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】京極 崇之
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106340590(CN,A)
【文献】国際公開第2020/174972(WO,A1)
【文献】特開平02-133376(JP,A)
【文献】国際公開第2017/195722(WO,A1)
【文献】特開2015-191997(JP,A)
【文献】国際公開第2017/135293(WO,A1)
【文献】特開2011-192896(JP,A)
【文献】特開平06-172994(JP,A)
【文献】特開2009-263709(JP,A)
【文献】特開平07-297421(JP,A)
【文献】特開2006-156364(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111384187(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/078
H01L 31/18-31/20
H10K 30/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電変換薄膜としてペロブスカイト薄膜を用いたペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法であって、
前記ペロブスカイト薄膜を形成するペロブスカイト薄膜形成工程と、
前記ペロブスカイト薄膜の上に、電子または正孔であるキャリアを輸送するキャリア輸送層を形成するキャリア輸送層形成工程と、
を含み、
前記キャリア輸送層形成工程では、真空チャンバを用いたスパッタリング法を用い、真空チャンバ内に金属粒子を導入し、真空チャンバ内の放電のための電源としてDC電源を用い
前記キャリア輸送層形成工程は、電子を輸送する電子輸送層を形成する工程であり、
前記キャリア輸送層形成工程では、酸化チタン、酸化亜鉛、および酸化スズのうちの少なくとも一つを前記電子輸送層の主な材料として用い、Nb、Al、およびSiのうちの少なくとも一つを前記金属粒子として用いる、
ペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法。
【請求項2】
光電変換薄膜としてペロブスカイト薄膜を用いたペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法であって、
前記ペロブスカイト薄膜を形成するペロブスカイト薄膜形成工程と、
前記ペロブスカイト薄膜の上に、電子または正孔であるキャリアを輸送するキャリア輸送層を形成するキャリア輸送層形成工程と、
を含み、
前記キャリア輸送層形成工程では、真空チャンバを用いたスパッタリング法を用い、真空チャンバ内に金属粒子を導入し、真空チャンバ内の放電のための電源としてDC電源を用い
前記キャリア輸送層形成工程は、正孔を輸送する正孔輸送層を形成する工程であり、
前記キャリア輸送層形成工程では、酸化ニッケル、および酸化銅のうちの少なくとも一つを前記正孔輸送層の主な材料として用い、Li、およびMgのうちの少なくとも一つを前記金属粒子として用いる、
ペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法。
【請求項3】
基板上に、第1電極層を形成する第1電極層形成工程と、
前記第1電極層の上に、電子および正孔のうちの一方である第1キャリアを輸送する第1キャリア輸送層を形成する第1キャリア輸送層形成工程と、
前記第1キャリア輸送層の上に、前記ペロブスカイト薄膜を形成する前記ペロブスカイト薄膜形成工程と、
前記キャリア輸送層形成工程であって、前記ペロブスカイト薄膜の上に、電子および正孔のうちの他方である第2キャリアを輸送する第2キャリア輸送層を形成する第2キャリア輸送層形成工程と、
前記第2キャリア輸送層の上に、第2電極層を形成する第2電極層形成工程と、
を含み、
前記第1キャリア輸送層形成工程では、真空チャンバを用いたスパッタリング法を用い、真空チャンバ内の放電のための電源としてRF電源を用い、
前記ペロブスカイト薄膜形成工程では、真空チャンバを用いた蒸着法を用い、
前記第2キャリア輸送層形成工程では、真空チャンバを用いたスパッタリング法を用い、真空チャンバ内に金属粒子を導入し、真空チャンバ内の放電のための電源としてDC電源を用い、
前記第1電極層形成工程および前記第2電極層形成工程では、真空チャンバを用いたCVD法、PVD法またはスパッタリング法を用いる、
請求項1または2に記載のペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記ペロブスカイト薄膜形成工程では、2次元状に配列された複数の開口を備えるシャワーヘッドを用い、前記シャワーヘッドの複数の開口から真空チャンバ内に、前記ペロブスカイト薄膜の材料ガスを導入する、請求項に記載のペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法。
【請求項5】
前記第2電極層形成工程では、前記第2電極層の材料としてAgを用いる、請求項に記載のペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池として、光電変換部に結晶シリコン基板を用いた結晶シリコン系太陽電池、光電変換部にアモルファスシリコン薄膜等の無機系薄膜を用いた薄膜系太陽電池が知られている。また、薄膜系太陽電池として、光電変換部に有機系薄膜(詳細には、有機/無機ハイブリット系薄膜)であるペロブスカイト薄膜を用いたペロブスカイト薄膜系太陽電池が知られている。特許文献1および2には、ペロブスカイト薄膜系太陽電池が開示されている。
【0003】
ペロブスカイト薄膜系太陽電池は、受光側となる透明基板上に順に形成された、透明導電膜である第1電極層(陽極電極または陰極電極)と、第1キャリア輸送層(正孔輸送膜または電子輸送膜)と、ペロブスカイト薄膜と、第2キャリア輸送層(電子輸送膜または正孔輸送膜)と、第2電極層(陰極電極または陽極電極)とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-190928号公報
【文献】国際公開第2017/073472号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、ペロブスカイト薄膜上に第2キャリア輸送層(電子輸送膜または正孔輸送膜)を形成する方法としては、塗布法または溶液法が知られている。これは、スパッタリング法を用いると、ペロブスカイト薄膜にスパッタダメージが生じ、太陽電池の変換効率が低下してしまうからである。
【0006】
本発明は、スパッタリング法を用いてペロブスカイト薄膜上に第2キャリア輸送層を形成しても、ペロブスカイト薄膜に生じるスパッタダメージを低減することができるペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法は、光電変換薄膜としてペロブスカイト薄膜を用いたペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法であって、前記ペロブスカイト薄膜を形成するペロブスカイト薄膜形成工程と、前記ペロブスカイト薄膜の上に、電子または正孔であるキャリアを輸送するキャリア輸送層を形成するキャリア輸送層形成工程とを含む。前記キャリア輸送層形成工程では、真空チャンバを用いたスパッタリング法を用い、真空チャンバ内に金属粒子を導入し、真空チャンバ内の放電のための電源としてDC電源を用いる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スパッタリング法を用いてペロブスカイト薄膜上に第2キャリア輸送層を形成しても、ペロブスカイト薄膜に生じるスパッタダメージを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る太陽電池を示す断面図である。
図2】真空チャンバを備えるスパッタリング装置の一例を示す図である。
図3】真空チャンバを備えるガスキャリア型蒸着装置の一例を示す図である。
図4図3に示すガスキャリア型蒸着装置におけるシャワーヘッドの一例を示す図である。
図5】第2実施形態に係る太陽電池を示す断面図である。
図6】実施例の太陽電池の性能特性の測定結果を示す図である。
図7】実施例の太陽電池の性能特性の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態の一例について説明する。なお、各図面において同一または相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。また、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、他の図面を参照するものとする。
【0011】
(第1実施形態)
(太陽電池)
図1は、第1実施形態に係る太陽電池を示す断面図である。図1に示す太陽電池1は、光電変換薄膜としてペロブスカイト薄膜を用いたペロブスカイト薄膜系の太陽電池である。太陽電池1は、基板10と、第1電極層21と、第1キャリア輸送層31と、ペロブスカイト薄膜40と、第2キャリア輸送層32と、第2電極層22とを備える。
【0012】
基板10は、絶縁性かつ光透過性を有する透明基板からなる。基板10の材料としては、ガラスまたは樹脂等が挙げられる。
【0013】
第1電極層21は、基板10上に形成されており、陽極として機能する。第1電極層21は、導電性かつ光透過性を有する透明導電膜(Transparent Conductive Oxide:TCO)からなる。第1電極層21の材料としては、透明導電性金属酸化物、例えば、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化チタンおよびそれらの複合酸化物等が用いられる。これらの中でも、酸化インジウムを主成分とするインジウム系複合酸化物が好ましい。高い導電率と透明性の観点からは、インジウム酸化物が特に好ましい。更に、信頼性またはより高い導電率を確保するため、インジウム酸化物にドーパントを添加すると好ましい。ドーパントとしては、例えば、Sn、W、Zn、Ti、Ce、Zr、Mo、Al、Ga、Ge、As、Si、またはS等が挙げられる。例えば、インジウム酸化物にスズが添加されたITO(Indium Tin Oxide)が広く知られている。
【0014】
第1キャリア輸送層31は、第1電極層21上に形成されており、ペロブスカイト薄膜40で光電変換されて生成されたキャリアのうちの正孔(第1キャリア)を第1電極層21に輸送する正孔輸送層(Hole Transfer Layer:HTL)として機能する。第1キャリア輸送層31は、光透過性を有する半導体材料からなる。第1キャリア輸送層31の主材料としては、CVD法、PVD法またはスパッタリング法等のドライプロセスの場合、酸化ニッケル(NiO)、酸化銅(CuO)等が挙げられる。或いは、第1キャリア輸送層31の主材料としては、塗布法、印刷法等のウエットプロセスの場合、PTAA(Poly(bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine))、または、Spiro-MeOTAD等が挙げられる。
【0015】
ペロブスカイト薄膜40は、第1キャリア輸送層31上に形成されており、光電変換層として機能する。ペロブスカイト薄膜40の主材料としては、蒸着法等のドライプロセスの場合、MAPbI、MAPbBr、またはMAPbIBr(3-x)等が挙げられる。或いは、ペロブスカイト薄膜40の主材料としては、印刷法、塗布法または溶液法等のウエットプロセスの場合、MAPbI、MAPbBr、MAPbIBr、FAPbI、FAPbBr、FAPbIBr、FAPbIBr(3-x)、またはCsFAPbIBr(3-x)等が挙げられる。
【0016】
第2キャリア輸送層32は、ペロブスカイト薄膜40上に形成されており、ペロブスカイト薄膜40で光電変換されて生成されたキャリアのうちの電子(第2キャリア)を第2電極層22に輸送する電子輸送層(Electron Transport Layer:ETL)として機能する。第2キャリア輸送層32は、光透過性を有する半導体材料からなる。第2キャリア輸送層32の主材料としては、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、または酸化スズ(SnO)等が挙げられる。また、第2キャリア輸送層32は、副材料としてNb、Al、またはSi等を含んでいてもよい。
【0017】
第2電極層22は、第2キャリア輸送層32上に形成されており、陰極として機能する。第2電極層22は、導電性を有する金属層である。第2電極層22の材料としては、Ag、Au、Cu等が挙げられる。
【0018】
このような構成により、太陽電池1は、基板10側から入射する光に応じた電流を生成し、第1電極層21および第2電極層22に出力する。
【0019】
(太陽電池の製造方法)
次に、図2図3および図4を参照して、第1実施形態に係る太陽電池の製造方法について説明する。図2は、真空チャンバを備えるスパッタリング装置の一例を示す図である。図3は、真空チャンバを備えるガスキャリア型蒸着装置の一例を示す図であり、図4は、図3に示すガスキャリア型蒸着装置におけるシャワーヘッドの一例を示す図である。
【0020】
まず、基板10上に、第1電極層21として透明導電膜を形成する(第1電極層形成工程)。透明導電膜の形成方法としては、特に限定されないが、真空チャンバを用いたCVD法(化学気相堆積法)、PVD法(物理気相堆積法)またはスパッタリング法等が用いられる。
その後、透明導電膜の表面の洗浄(例えば、PW/IPA(イソプロピルアルコール))、乾燥(例えば、150度、1時間)、およびオゾン処理が行われてもよい。
【0021】
次に、第1電極層21上に、第1キャリア輸送層31として正孔輸送層を形成する(第1キャリア輸送層形成工程)。正孔輸送層の形成方法としては、特に限定されないが、例えばCVD法、PVD法またはスパッタリング法等のドライプロセス、或いは塗布法、印刷法等のウエットプロセスが挙げられる。これらの中でも、緻密な膜の製膜の観点から、スパッタリング法が好ましい。
【0022】
例えば、図2に示すように、スパッタリング装置の真空チャンバ内のヒータに基板10を配置し、真空チャンバ内の基板10の製膜面と対向する位置にターゲットとして正孔輸送層の主材料を配置し、真空チャンバ内にバッファガスを供給する。真空チャンバ内の放電のための放電電源としてはRF電源を用いる。
【0023】
例えば、製膜条件として以下の一例が挙げられる。
・膜厚:200nm以上500nm以下
・(ターゲット)正孔輸送層の主材料:酸化ニッケル(NiO)、酸化銅(CuO)、等
・(ターゲット)金属材料ドープ:なし
・(バッファガス)Arガス供給量9.8sccm、Oガス供給量0.2sccm(酸素2wt%添加)
・真空チャンバ内圧力0.3Pa
・放電電源:RF、パワー150W
・基板温度20℃~60℃
【0024】
次に、第1キャリア輸送層31上に、ペロブスカイト薄膜40を形成する(ペロブスカイト薄膜形成工程)。ペロブスカイト薄膜40の形成方法としては、特に限定されないが、蒸着法等のドライプロセス、或いは印刷法、塗布法または溶液法等のウエットプロセスが挙げられる。これらの中でも、ペロブスカイト薄膜の劣化要因となる水分を除去した環境下で製膜を行うことができるため、蒸着法が好ましい。蒸着法の中でも、本願発明者が考案するガスキャリア型蒸着法がより好ましい。
【0025】
一般に、蒸着法では、真空チャンバ内で材料を加熱する方法が知られている。しかし、この方法では、太陽電池の面積が大きくなると、ペロブスカイト薄膜を均一に形成することが困難となる。
【0026】
この点に関し、ガスキャリア型蒸着法では、2次元状に配列された複数の開口を備えるシャワーヘッドを用い、ガス化した材料をバッファガスでガスキャリアして、シャワーヘッドの複数の開口から真空チャンバ内に材料ガスを導入する。これにより、太陽電池の面積が大きくなっても、ペロブスカイト薄膜を均一に形成することができる。
【0027】
例えば、図3に示すように、蒸着装置の真空チャンバ内のヒータに基板10を配置し、真空チャンバ内の基板10の製膜面と対向する位置に配置されたシャワーヘッドの開口からバッファガスを供給する。
【0028】
図4に示すように、シャワーヘッドは、基板10と対向する面において、2次元状に配列された複数の開口を有する。開口のサイズは直径1mm程度であり、開口の間隔は12mm程度である。例えば、基板10のサイズが約180mm×約180mmの場合、直径1mmの開口を12mmの間隔で169個配置する(開口率0.4%)。
【0029】
ペロブスカイト薄膜40の主材料としては、蒸着法等のドライプロセスの場合、MAPbI、MAPbBr、または、MAPbIBr(3-x)等が挙げられる。
例えば、ペロブスカイト薄膜の材料PbI(気化温度250~350℃)をガス化し(例えば400℃)、Arガスによりガスキャリアされてシャワーヘッドの開口から真空チャンバ内へ導入される。また、ペロブスカイト薄膜の材料MAI(気化温度150~200℃)をガス化し(例えば170℃)、Arガスによりガスキャリアされてシャワーヘッドの開口から真空チャンバ内へ導入される。これにより、2次元状に配列された開口から基板の製膜面に、ペロブスカイト薄膜の材料が均一に拡散される。
その後、ポストアニールが行われてもよい(例えば、120度、30分)。
【0030】
次に、ペロブスカイト薄膜40上に、第2キャリア輸送層32として電子輸送層を形成する(第2キャリア輸送層形成工程)。電子輸送層の形成方法としては、スパッタリング法が用いられる。
【0031】
一般に、スパッタリング法では、放電電源としてRF電源を用いることが知られている。これは、放電電源としてDC電源を用いると、真空チャンバ内の放電エネルギーが大きく、製膜対象の基板または基板上の膜に生じるダメージが大きいからである。
【0032】
更には、一般に、ペロブスカイト薄膜上に電子輸送層または正孔輸送層を形成する方法としては、塗布法または溶液法が知られている。これは、スパッタリング法を用いると、ペロブスカイト薄膜にスパッタダメージが生じ、太陽電池の変換効率が低下してしまうからである。
【0033】
この点に関し、本願発明者は、
・ペロブスカイト薄膜上に電子輸送層を形成する方法としてスパッタリング法を用い、
・放電電源として、RF電源よりも放電エネルギーが大きいDC電源を用い、
・スパッタリングターゲット材に金属粒子を導入することにより、材料の低抵抗化を図ることにより、製膜レートを速くすることができ、製膜時間を短縮することができ、その結果、ペロブスカイト薄膜に生じるスパッタダメージを低減できることを見出した。
【0034】
例えば、図2に示すように、スパッタリング装置の真空チャンバ内のヒータに基板10を配置し、真空チャンバ内の基板10の製膜面と対向する位置にターゲットとして電子輸送層の主材料を配置し、真空チャンバ内にバッファガスを供給する。真空チャンバ内の放電のための放電電源としてはDC電源を用いる。
【0035】
例えば、製膜条件として以下の一例が挙げられる。
・膜厚:100nm以上400nm以下
・(ターゲット)電子輸送層の主材料:酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、または酸化スズ(SnO)等
・(ターゲット)金属材料ドープ:Nb、Al、またはSi等(例えば、ターゲット全材料に対して1%以上5%以下)
・(バッファガス)Arガス供給量10sccm(酸素添加なし)
・真空チャンバ内圧力0.3Pa
・放電電源:DC、パワー150W
・基板温度20℃~60℃
【0036】
なお、本実施形態では、ターゲット主材料に金属材料をドープすることにより、真空チャンバ内に金属粒子を導入するが、これに限定されず、ターゲット主材料とは別に、真空チャンバ内に金属粒子を導入してもよい。
【0037】
次に、第2キャリア輸送層32上に、第2電極層22として金属膜を形成する。金属膜の形成方法としては、特に限定されないが、例えば真空チャンバを用いたCVD法、PVD法またはスパッタリング法等のドライプロセス、或いは印刷法または塗布法等のウエットプロセスが挙げられる。これらの中でも、スパッタリング法が好ましい。
以上により、図1に示す第1実施形態のペロブスカイト薄膜系の太陽電池1が得られる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態の太陽電池の製造方法によれば、ペロブスカイト薄膜40上に第2キャリア輸送層32を形成する第2キャリア輸送層形成工程において、スパッタリング法を用い、RF電源よりも放電エネルギーが大きいDC電源を用いる。更に、真空チャンバ内に金属粒子を導入することにより、プラズマ状態の低抵抗化を図る。これにより、製膜レートを速くすることができ、製膜時間を短縮することができ、ペロブスカイト薄膜40に生じるスパッタダメージを抑制することができる。そのため、太陽電池1の変換効率の低下を抑制することができる。
【0039】
更に、本実施形態の太陽電池の製造方法によれば、第1キャリア輸送層31の形成工程においてもスパッタリング法が用いられてもよい。これによれば、ペロブスカイト薄膜40を挟み込む第1キャリア輸送層31および第2キャリア輸送層32が、塗布法または溶液法で形成される場合と比較して緻密な膜となり、ペロブスカイト薄膜40への水分の浸入を抑制することができる。そのため、太陽電池1の信頼性を向上することができる。
【0040】
更に、本実施形態の太陽電池の製造方法によれば、ペロブスカイト薄膜40の形成工程において蒸着法を用いてもよく、更に、第1電極層21および第2電極層22の形成工程においてもスパッタリング法を用いてもよい。これにより、オールドライプロセス(真空プロセス)とすることができ、ペロブスカイト薄膜の劣化要因となる水分を除去した環境下で製造することができる。
【0041】
また、本実施形態の太陽電池の製造方法によれば、ペロブスカイト薄膜40の形成工程において、ガスキャリア型蒸着法を用いてもよい。すなわち、2次元状に配列された複数の開口を備えるシャワーヘッドを用い、シャワーヘッドの複数の開口から真空チャンバ内に、ペロブスカイト薄膜40の材料ガスを導入してもよい。これによれば、太陽電池1の面積が大きくなっても、ペロブスカイト薄膜40を均一に形成することができる。
【0042】
ここで、第2キャリア輸送層32の形成工程において溶液法を用い、第2電極層22の材料にAgを用いると、Agが第2キャリア輸送層32の孔を介してペロブスカイト薄膜に侵入し、AgIを形成してしまい、太陽電池の性能が低下する。そのため、一般に、第2電極層22の材料として、高価なAuが用いられる。
【0043】
この点に関し、本実施形態の太陽電池の製造方法によれば、第2キャリア輸送層32の形成工程においてスパッタリング法が用いられると、塗布法または溶液法が用いられる場合と比較して、第2キャリア輸送層32が緻密な膜となる。これにより、第2電極層22の形成工程において第2電極層22の材料として比較的に安価なAgが用いられても、第2キャリア輸送層32が、ペロブスカイト薄膜40へのAgの侵入を抑制することができる。そのため、太陽電池1の性能の低下を抑制することができる。
【0044】
(第2実施形態)
第1実施形態では、第1キャリア輸送層31として正孔輸送層を形成し、第2キャリア輸送層32として電子輸送層を形成した。すなわち、第1実施形態では、ペロブスカイト薄膜40上に電子輸送層を形成した。
第2実施形態では、第1キャリア輸送層31として電子輸送層を形成し、第2キャリア輸送層32として正孔輸送層を形成する。すなわち、第2実施形態では、ペロブスカイト薄膜40上に正孔輸送層を形成する。
【0045】
(太陽電池)
図5は、第2実施形態に係る太陽電池を示す断面図である。図5に示す太陽電池1では、図1に示す太陽電池1において、第1キャリア輸送層31および第2キャリア輸送層32の材料および機能が異なる。なお、図5に示す太陽電池1では、第1電極層21が陰極として機能し、第2電極層22が陽極として機能する。
【0046】
第1キャリア輸送層31は、ペロブスカイト薄膜40で光電変換されて生成されたキャリアのうちの電子(第1キャリア)を第1電極層21に輸送する電子輸送層(ETL)として機能する。第1キャリア輸送層31の主材料としては、CVD法、PVD法またはスパッタリング法等のドライプロセスの場合、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、または酸化スズ(SnO)等が挙げられる。或いは、第1キャリア輸送層31の主材料としては、塗布法、印刷法等のウエットプロセスの場合、PTAA(Poly(bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine))、または、Spiro-MeOTAD等が挙げられる。
【0047】
第2キャリア輸送層32は、ペロブスカイト薄膜40で光電変換されて生成されたキャリアのうちの正孔(第2キャリア)を第2電極層22に輸送する正孔輸送層(HTL)として機能する。第2キャリア輸送層32の主材料としては、酸化ニッケル(NiO)、酸化銅(CuO)等が挙げられる。また、第2キャリア輸送層32は、副材料としてLiまたはMg等を含んでいてもよい。
【0048】
(太陽電池の製造方法)
次に、図2図3および図4を参照して、第2実施形態に係る太陽電池の製造方法について説明する。第2実施形態の太陽電池の製造方法では、第1実施形態の太陽電池の製造方法において、第1キャリア輸送層31の形成工程および第2キャリア輸送層32の形成工程が異なる。
【0049】
第1キャリア輸送層形成工程では、第1キャリア輸送層31として電子輸送層を形成する。電子輸送層の形成方法としては、特に限定されないが、例えばCVD法、PVD法またはスパッタリング法等のドライプロセス、或いは塗布法、印刷法等のウエットプロセスが挙げられる。これらの中でも、緻密な膜の製膜の観点から、スパッタリング法が好ましい。
【0050】
例えば、図2に示すように、スパッタリング装置の真空チャンバ内のヒータに基板10を配置し、真空チャンバ内の基板10の製膜面と対向する位置にターゲットとして電子輸送層の主材料を配置し、真空チャンバ内にバッファガスを供給する。真空チャンバ内の放電のための放電電源としてはRF電源を用いる。
【0051】
例えば、製膜条件として以下の一例が挙げられる。
・膜厚:10nm以上40nm以下
・(ターゲット)電子輸送層の主材料:酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、または酸化スズ(SnO)等
・(ターゲット)金属材料ドープ:なし
・(バッファガス)Arガス供給量9.8sccm、Oガス供給量0.2sccm(酸素2%添加)
・真空チャンバ内圧力0.3Pa
・放電電源:RF、パワー150W
・基板温度20℃~60℃
【0052】
第2キャリア輸送層形成工程では、第2キャリア輸送層32として正孔輸送層を形成する。上述したように、
・ペロブスカイト薄膜上に正孔輸送層を形成する方法としてスパッタリング法を用い、
・放電電源として、RF電源よりも放電エネルギーが大きいDC電源を用い、
・スパッタリングターゲット材に金属粒子を導入することにより、材料の低抵抗化を図る、
ことにより、製膜レートを速くすることができ、製膜時間を短縮することができ、その結果、ペロブスカイト薄膜に生じるスパッタダメージを低減することができる。
【0053】
例えば、図2に示すように、スパッタリング装置の真空チャンバ内のヒータに基板10を配置し、真空チャンバ内の基板10の製膜面と対向する位置にターゲットとして正孔輸送層の主材料を配置し、真空チャンバ内にバッファガスを供給する。真空チャンバ内の放電のための放電電源としてはDC電源を用いる。
【0054】
例えば、製膜条件として以下の一例が挙げられる。
・膜厚:10nm以上50nm以下
・(ターゲット)正孔輸送層の主材料:酸化ニッケル(NiO)、または、酸化銅(CuO)等
・(ターゲット)金属材料ドープ:Li、または、Mg等(例えば、ターゲット全材料に対して1%以上15%以下)
・(バッファガス)Arガス供給量10sccm(酸素添加なし)
・真空チャンバ内圧力0.3Pa
・放電電源:DC、パワー150W
・基板温度20℃~60℃
【0055】
なお、本実施形態では、ターゲット主材料に金属材料をドープすることにより、真空チャンバ内に金属粒子を導入するが、これに限定されず、ターゲット主材料とは別に、真空チャンバ内に金属粒子を導入してもよい。
【0056】
この第2実施形態の太陽電池の製造方法でも、第1実施形態の太陽電池の製造方法と同様の利点を有する。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、種々の変更および変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、結晶シリコン系太陽電池またはアモルファスシリコン薄膜系太陽電池と、ペロブスカイト薄膜系太陽電池とを組み合わせたいわゆるタンデム型太陽電池におけるペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造にも適用可能である。
【実施例
【0058】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
第1実施形態のペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法を用いて、図1に示すペロブスカイト薄膜系太陽電池を実施例1として作製した。実施例1のペロブスカイト薄膜系太陽電池の主な構成および主な製造方法は以下の通りである。
【0060】
<太陽電池の構成>
基板10:ガラス
第1電極層21:透明導電膜(TCO)
第1キャリア輸送層31:正孔輸送層、主材料NiO
ペロブスカイト薄膜40:ペロブスカイト薄膜、主材料MAPbI
第2キャリア輸送層32:電子輸送層、主材料TiO、ドープ金属材料Nb
第2電極層22:Ag
【0061】
<太陽電池の製造方法>
<<正孔輸送層の作製方法>>
スパッタリング法を用いて、基板10および第1電極層21上に、正孔輸送層を製膜した。製膜条件は以下の通りである。
・設定膜厚20nm
・(ターゲット)正孔輸送層の主材料:NiO
・(ターゲット)金属材料ドープ:なし
・(バッファガス)Arガス供給量9.8sccm、Oガス供給量0.2sccm(酸素2%添加)
・真空チャンバ内圧力0.3Pa
・放電電源:RF、パワー150W
・基板温度50℃
【0062】
<<ペロブスカイト薄膜の作製方法>>
溶液法を用いて、正孔輸送層上にペロブスカイト薄膜を製膜した。
・設定膜厚:50nm
・ペロブスカイト薄膜の主材料:NAPbI
【0063】
<<電子輸送層の作製方法>>
スパッタリング法を用いて、ペロブスカイト薄膜上に電子輸送層を製膜した。製膜条件は以下の通りである。
・設定膜厚30nm
・(ターゲット)電子輸送層の主材料:TiO
・(ターゲット)金属材料ドープ:Nb、ターゲット総重量に対して5wt%(重量%)
・(バッファガス)Arガス供給量10sccm(酸素添加なし)
・真空チャンバ内圧力0.3Pa
・放電電源:DC、パワー150W
・基板温度50℃
【0064】
(実施例2)
実施例2は、実施例1において電子輸送層の製膜時の主材料およびドープ金属材料が異なる。実施例2の太陽電池の主な構成および主な製造方法の相違点は以下の通りである。
【0065】
<太陽電池の構成>
第2キャリア輸送層32:電子輸送層、主材料ZnO、ドープ金属材料Al(Al
【0066】
<太陽電池の製造方法>
<<電子輸送層の作製方法>>
・(ターゲット)電子輸送層の主材料:ZnO
・(ターゲット)金属材料ドープ:Al、ターゲット総重量に対して3wt%
【0067】
(実施例3)
実施例3は、実施例1において電子輸送層の製膜時の主材料およびドープ金属材料が異なる。実施例3の太陽電池の主な構成および主な製造方法の相違点は以下の通りである。
【0068】
<太陽電池の構成>
第2キャリア輸送層32:電子輸送層、主材料ZnO、ドープ金属材料Si(SiO
【0069】
<太陽電池の製造方法>
<<電子輸送層の作製方法>>
・(ターゲット)電子輸送層の主材料:ZnO
・(ターゲット)金属材料ドープ:Si、ターゲット総重量に対して2wt%
【0070】
(比較例1)
比較例1は、実施例1において電子輸送層の製膜時のドープ金属材料および放電電源が異なる。比較例1の太陽電池の主な構成および主な製造方法の相違点は以下の通りである。
【0071】
<太陽電池の構成>
第2キャリア輸送層32:電子輸送層、主材料TiO(金属材料ドープなし)
【0072】
<<電子輸送層の作製方法>>
・(ターゲット)電子輸送層の主材料:TiO
・(ターゲット)金属材料ドープ:なし
・放電電源:RF、パワー150W
【0073】
(評価1)
AM1.5のスペクトル分布を有するパルスソーラーシミュレーターを用いて、25℃の下で擬似太陽光を100mW/cmのエネルギー密度で照射して、上記の実施例および比較例の太陽電池の性能特性(短絡電流Jsc、開放電圧Voc、曲線因子FF、および変換効率Eff)を測定した。なお、実施例および比較例の太陽電池の大きさ(アクティブエリア)は16mmであった。測定結果を表1、表2、図6および図7に示す。
【表1】
【表2】
【0074】
比較例1によれば、ペロブスカイト薄膜40上に第2キャリア輸送層32を形成する際、スパッタリング法を用い、真空チャンバ内に金属粒子を導入せず、放電電源としてRF電源を用いると、太陽電池の変換効率が低い。これは、第2キャリア輸送層32を形成する際、製膜レートが遅く、換言すれば製膜時間が長く、その結果、ペロブスカイト薄膜40にスパッタダメージが生じたことによると考えられる。
【0075】
これに対して、実施例1~3によれば、ペロブスカイト薄膜40上に第2キャリア輸送層32を形成する際、スパッタリング法を用い、真空チャンバ内に金属粒子を導入し、放電電源としてDC電源を用いると、太陽電池の変換効率が向上した。これは、第2キャリア輸送層32を形成する際、RF電源よりも放電エネルギーが大きいDC電源を用い、真空チャンバ内に金属粒子を導入することによりプラズマ状態の低抵抗化を図ることにより、製膜レートが速く、換言すれば製膜時間が短く、その結果、ペロブスカイト薄膜40にスパッタダメージが生じることを低減できたと考えられる。
【0076】
実施例1、3によれば、実施例3の方が、実施例1よりも、太陽電池の変換効率が高かった。更に、実施例3の方が、実施例1よりも、Voc-Jsc特性のヒステリシス差が小さかった。ヒステリシス差とは、Vocを次第に増加しながら測定するVoc-Jsc特性(Forward)と、逆にVocを次第に減少しながら測定するVoc-Jsc特性(Revverse)との差である。これによれば、電子輸送層の材料の組み合わせとして、TiO+Nbよりも、ZnO+Siの方が好ましい。
【符号の説明】
【0077】
1 ペロブスカイト薄膜系太陽電池
10 基板
21 第1電極層(陽極または陰極)
22 第2電極層(陰極または陽極)
31 第1キャリア輸送層(正孔輸送層または電子輸送層)
32 第2キャリア輸送層(電子輸送層または正孔輸送層)
40 ペロブスカイト薄膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7