(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
B60K 1/04 20190101AFI20241114BHJP
B60K 17/12 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
B60K1/04 Z
B60K17/12
(21)【出願番号】P 2023017999
(22)【出願日】2023-02-08
【審査請求日】2023-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】吉永 圭
(72)【発明者】
【氏名】金瀬 拓人
(72)【発明者】
【氏名】矢野 卓司
(72)【発明者】
【氏名】土橋 誠
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-252944(JP,A)
【文献】特表2015-509876(JP,A)
【文献】特開2023-136720(JP,A)
【文献】特開2015-073370(JP,A)
【文献】特開2005-124346(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0129654(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 1/00- 6/12
B60K 7/00- 8/00
B60K 16/00
B60K 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源である電動機と、前記電動機と電気的に接続されて前記電動機に供給する電力及び前記電動機から供給される電力を変換する電力変換装置と、前記電動機からの動力の回転を前記車両の駆動輪側に伝達するための動力伝達機構とを一体化してなる車両用駆動装置であって、
前記電動機は、回転軸と、前記回転軸を回転させる電動機本体と、前記電動機本体を収容する電動機ケースと、を備え、
前記電動機の
前記回転軸の軸方向を前記車両の車幅方向に配置し、
前記車幅方向における前記電動機の一方側
に前記電力変換装置を配置し、他方側に前記動力伝達機構を配置し、
前記電力変換装置には、電力配線が接続されるコネクタ部が設けられており、
前記コネクタ部は、前記電力変換装置から
前記車幅方向
における前記電動機側に向けて前記電力配線を引き出すように配置されていることを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
車両の駆動源である電動機と、前記電動機と電気的に接続されて前記電動機に供給する電力及び前記電動機から供給される電力を変換する電力変換装置と、前記電動機からの動力の回転を前記車両の駆動輪側に伝達するための動力伝達機構とを一体化してなる車両用駆動装置であって、
前記動力伝達機構は、前記電動機からの動力の回転を前記車両の駆動輪側に伝達するための構成要素と、前記構成要素を収容する動力伝達機構ケースと、を備え、
前記電動機の回転軸の軸方向を前記車両の車幅方向に配置し、
前記車幅方向における前記電動機の一方側に前記電力変換装置を配置し、他方側に前記動力伝達機構を配置し、
前記電力変換装置には、電力配線が接続されるコネクタ部が設けられており、
前記コネクタ部は、前記電力変換装置から
前記車幅方向
へ前記電力配線を引き出すように配置され
、
前記動力伝達機構の周縁の少なくとも一部には、前記コネクタ部から引き出された前記電力配線を配策するための電力配線配策用のスペースが設けられていることを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項3】
前記動力伝達機構の周縁の少なくとも一部には、前記コネクタ部から引き出された前記電力配線を配策するための電力配線配策用のスペースが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記コネクタ部は、前記電力変換装置から前記車幅方向における前記電動機側に向けて前記電力配線を引き出すように配置されていることを特徴とする請求項
2に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記電力配線配策用のスペースは、前記動力伝達機構
の上端部の少なくとも一部を面取りしてなる面取部によって形成された空間であることを特徴とする請求項
2に記載の車両用駆動装置。
【請求項6】
前記動力伝達機構は、
前記電動機の動力による回転を前記車両の駆動輪に伝達するファイナル軸を備え、
前記
電力配線配策用のスペース
は、前記動力伝達機構における
前記ファイナル軸の上方に配置されていることを特徴とする請求項
2に記載の車両用駆動装置。
【請求項7】
前記動力伝達機構は、前記車両のパーキングロックを行うためのパーキング機構の構成部品を一体に備えており、
前記電力配線配策用のスペースと前記パーキング機構の構成部品とが前記動力伝達機構における前記車両の前後方向で互いに反対側に設けられていることを特徴とする請求項2~6に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される車両用駆動装置に関し、詳細には、電動車両などに搭載される電動機を駆動源として備える車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源として電動機を利用した電動車両やハイブリッド車両等の車両が知られている。このような車両では、電動機とともに、電動機と電気的に接続され、電動機に供給する電力及び電動機から供給される電力を変換する電力変換装置が搭載されている。従来、電動機と電力変換装置とを三相線を用いて電気的に接続していたが、近年では、例えば、特許文献1に示すように、電動機及び電力変換装置を直接固定してユニット化することが試みられている。また、最近では、電動機と電力変換装置に加えて、電動機からの動力の回転を変速(減速)して車両の駆動輪側に伝達するための動力伝達機構(減速機構)も一体化されたユニット(いわゆる機電一体型の電動駆動装置)が採用されている。
【0003】
また、電力変換装置には、バッテリに繋がるDCケーブルが接続されるコネクタ部が設けられる。コネクタ部は、電力変換装置の内部に配置される導電部材と接続される内部接続部を有し、電力変換装置は、DCケーブルから伝送される直流電力を交流電力に変換したり、反対に電動機から伝送される交流電力を直流電力に変換したりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような機電一体型の電動駆動装置において、DCケーブルなどの電力配線は電動機に動力源を供給するための重要部品であるが、当該電力配線は、高電圧やEMC(電磁両立性)への対応が必要であることから、厚い被覆を伴い大径で柔軟性が低いものとなる。そのため、隣接する部品との干渉に伴う機能不具合などを避けるための配策レイアウトの成立性が課題となる。
【0006】
上記のような電力配線に関しては、従来は、曲げ自由度の少ない配線の通線を確保するため、電動駆動装置を搭載する各機種(車種)・各搭載位置に応じた電力配線の接続位置を個々に設定することで、電力配線そのものに過度の曲げを与えないようにしていた。しかしながら、電力配線の取り回し性の改善やそれに伴う車両コストの上昇抑制については、各機種(車種)や各搭載位置での電力配線の接続構造や配策構造の共通化を図るなど、更なる改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、簡単かつコンパクトな構成で、接続される電力配線の取り回し性を改善することができ、装置及びその周辺構造のレイアウトの自由度を効果的に高めることが可能となり、また、各機種(車種)や各搭載位置での電力配線の接続構造や配策構造の共通化を図ることで、装置や車両のコストダウンを図ることができる車両用駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る車両用駆動装置は、車両(100)の駆動源である電動機(10)と、電動機(10)と電気的に接続されて電動機(10)に供給する電力及び電動機(10)から供給される電力を変換する電力変換装置(30)と、電動機(10)からの動力の回転を車両(100)の駆動輪(FW,RW)側に伝達するための動力伝達機構(50)とを一体化してなる車両用駆動装置(1)であって、電動機(10)の回転軸の軸方向を車両(100)の車幅方向に配置し、車幅方向における電動機(10)の一方側と他方側それぞれに電力変換装置(30)と動力伝達機構(50)を配置し、電力変換装置(30)には、電力配線(40)が接続されるコネクタ部(39)が設けられており、当該コネクタ部(39)は、電力変換装置(30)から車幅方向へ電力配線(40)を引き出すように配置されていることを特徴とする。
【0009】
本発明にかかる車両用駆動装置によれば、電動機の回転軸の軸方向を車両の車幅方向に配置し、車幅方向における電動機の一方側と他方側それぞれに電力変換装置と動力伝達装置を配置し、電力変換装置のコネクタ部を電力変換装置から車幅方向へ電力配線を引き出すように配置したことで、車両用駆動装置の周囲の空間に十分な余剰スペースを確保できない場合でも、電力変換装置から引き出される電力配線を適切に配策することが可能となる。特に、厚い被覆を伴い大径で柔軟性が低い電力配線に過度な曲げなどを伴うことなく適切なレイアウトでの配策が可能となる。
【0010】
また、本発明の車両用駆動装置では、コネクタ部(39)は、電力変換装置(30)から車幅方向における電動機(10)側に向けて電力配線(40)を引き出すように配置されていてもよい。
【0011】
この構成によれば、電力変換装置から車幅方向における電動機側に向けて電力配線を引き出すようにコネクタ部を配置したことで、電力変換装置に対して(車両の前後方向ではなく)車幅方向の電動機側に電力配線の配策空間を設けることができるので、車両用駆動装置を車両の前方と後方のどちらに搭載する場合であっても共通の車両用駆動装置を使用することが可能となる。
【0012】
また、本発明の車両用駆動装置では、動力伝達機構(50)の周縁の少なくとも一部には、コネクタ部(39)から引き出された電力配線(40)を配策するための電力配線配策用のスペース(S)が設けられていてもよい。
【0013】
この構成によれば、動力伝達機構のコネクタ部側に電力配線配策用のスペースを設けることで、車両用駆動装置の周囲の空間効率を効果的に向上させることができる。
【0014】
また、本発明の車両用駆動装置では、電力配線配策用のスペース(S)は、動力伝達機構(50)の上端部(58e)の少なくとも一部を面取りしてなる面取部(58f)によって形成されていてもよい。
【0015】
この構成によれば、動力伝達機構が備えるギヤの外周形状が円弧形状であることなどを利用して電力配線配策用のスペースを設けることができるため、車両用駆動装置の周囲の空間効率をより効果的に向上させることができる。
【0016】
また、動力伝達機構(50)は、電動機(10)の動力による回転を車両(100)の駆動輪(FW,RW)に伝達するファイナル軸(55)を備え、電力配線配策用のスペース(S)は、動力伝達機構(50)におけるファイナル軸(55)の上方に配置されていてもよい。
【0017】
動力伝達機構において、電動機の動力による回転を車両の駆動輪に伝達するファイナル軸や当該ファイナル軸に設けるファイナルギヤなどの構造物は、車両の駆動輪に繋がる駆動軸の周りに配置されるため、車両の比較的下方に位置する。したがって、動力伝達機構におけるファイナル軸の上方には比較的に大きなスペースを確保できるため、ファイナル軸の上方に電力配線配策用のスペースを配置することで、電力配線の配策やレイアウトの自由度を十分に高めることが可能なスペースを確保することができる。
【0018】
また、本発明の車両用駆動装置では、動力伝達機構(50)は、車両(100)のパーキングロックを行うためのパーキング機構の構成部品(59)を一体に備えており、動力配線配策用のスペース(S)とパーキング機構の構成部品(59)とが動力伝達機構(50)における車両(100)の前後方向で互いに反対側に設けられていてもよい。
【0019】
この構成によれば、動力配線配策用のスペースとパーキング機構の構成部品とが動力伝達機構における車両の前後方向で互いに反対側に設けられていることで、動力伝達機構にパーキング機構の構成部品を一体に備える場合でも、動力伝達機構の大型化を回避しながら動力配線配策用のスペースを確保でき、電力配線の配策やレイアウトの自由度を十分に高めることが可能となる。
【0020】
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態における対応する構成要素の図面参照番号を参考のために示すものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかる車両用駆動装置によれば、簡単かつコンパクトな構成で、接続される電力配線の取り回し性を改善することができ、装置及びその周辺構造のレイアウトの自由度を効果的に高めることが可能となり、また、各機種(車種)・各搭載位置での接続位置や配策構造の共通化を図ることで、装置や車両のコストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる車両用駆動装置の外観構成を示す斜視図である。
【
図2】車両用駆動装置の外観構成を示す図で、(a)は、平面図、(b)は、側面図である。
【
図3】車両用駆動装置を搭載する車両の概略の側面図であり、同図(a)は、車両用駆動装置を前輪駆動ユニットとして用いる場合、同図(b)は、車両用駆動装置を後輪駆動ユニットとして用いる場合を示す図である。
【
図4】車両用駆動装置を前輪駆動ユニットとして用いる場合を示す図で、車両に搭載した車両用駆動装置及びその周辺を示す図である。
【
図5】車両用駆動装置を前輪駆動ユニットとして用いる場合を示す図で、車両用駆動装置に接続したDCケーブルの配策構造を示す図である。
【
図6】車両用駆動装置を後輪駆動ユニットとして用いる場合を示す図で、車両に搭載した車両用駆動装置及びその周辺を示す図である。
【
図7】車両用駆動装置を後輪駆動ユニットとして用いる場合を示す図で、車両用駆動装置に接続したDCケーブルの配策構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の説明で前方、後方というときはそれぞれ後述する車両(車体)の前進方向である前側、後進方向である後側の方向(向き)を示すものとする。また、上、下、左、右というときはそれぞれ車両(車体)の前進方向(前側)を向いた状態での上、下、左、右を示すものとする。
【0024】
〔車両用駆動装置〕
図1及び
図2は、本発明の一実施形態にかかる車両用駆動装置の外観構成を示す図で、
図1は、斜視図、
図2(a)は、平面図、
図2(b)は、側面図である。また、
図3は、車両用駆動装置を搭載する車両の概略の側面図であり、同図(a)は、車両用駆動装置を前輪駆動ユニットとして用いる場合、同図(b)は、車両用駆動装置を後輪駆動ユニットとして用いる場合を示す図である。これらの図に示すように、車両用駆動装置1は、電動機(電動モータ)10と、電動機10と電気的に接続され、電動機10に供給する電力及び電動機10から供給される電力を変換する電力変換装置30と、電動機10の動力を車両100の駆動輪(前輪FW又は後輪RW)に伝達する動力伝達機構50とを一体化してなる装置である。電力変換装置30は、例えばインバータである。
【0025】
車両用駆動装置1では、電動機10の回転軸11の軸方向を車両100の車幅方向に配置し、車幅方向における電動機10の右側(一方側)と左側(他方側)それぞれに電力変換装置30と動力伝達機構50を配置している。すなわち、電動機10は、略円筒形状を有し、その回転軸(駆動軸)11が車幅方向に略水平に延びている。回転軸11は、電動機10の回転軸心である。動力伝達機構50は、後述するモータ軸51の軸心が電動機10の回転軸11と同軸となるように、電動機10と車幅方向に並んで配置されている。
【0026】
動力伝達機構50は、互いに平行に配置した複数の回転軸(モータ軸51,カウンタ軸53,ファイナル軸55)とそれらに固定した複数のギヤ(モータギヤ52,カウンタギヤ54,ファイナルギヤ56)とを備えた構造で、電動機10の回転軸11と同軸上に配置したモータ軸(第一回転軸)51及び該モータ軸51周りに回転するモータギヤ52と、モータ軸51と平行に配置されたカウンタ軸(第二回転軸)53及び該カウンタ軸53周りに回転するカウンタギヤ54と、モータ軸51及びカウンタ軸53と平行に配置されたファイナル軸(第三回転軸)55と該ファイナル軸55周りに回転するファイナルギヤ56とを備えている。電動機10から伝達された動力の回転は、モータギヤ52からカウンタギヤ54に伝達され、さらにカウンタギヤ54からファイナルギヤ56に伝達されて、ファイナルギヤ56から車両100の駆動軸111又は駆動軸112及び駆動輪(前輪FW又は後輪RW)に伝達される。
【0027】
動力伝達機構50が備える回転軸及びギヤなどの構成要素は、動力伝達機構ケース58内に配置されている。動力伝達機構ケース58は、外ケースと内ケースを軸方向の中間の接合面で接合してなり、その外形は、車幅方向を厚み方向とし、車両100の前後方向を幅方向とし上下方向を高さ方向とする略矩形の箱型に形成されている。この動力伝達機構ケース58は、外側面(右側面)58c及び内側面(左側面)58dと上端部(上端辺)58eとを有し、内側面58dが電動機ケース18の左端面と対向するように電動機ケース18に固定されている。動力伝達機構ケース58内では、前側の中段にモータ軸51及びモータギヤ52が配置され、前後方向の中間の上段にカウンタ軸53及びカウンタギヤ54が配置され、後側の下段にファイナル軸55及びファイナルギヤ56が配置されている。
【0028】
また、動力伝達機構ケース58内には、車両100のパーキングロックを行うためのパーキング機構の構成部品が収容されている。パーキング機構の詳細な図示及び説明は省略するが、モータ軸51上に設けたパーキングギヤをロックするための機構が動力伝達機構ケース58内の前方に収容されており、動力伝達機構ケース58の前側の上端部58eには、パーキングロッドを回動させるための電機モータなどからなるパーキングアクチュエータ59が設置されている。
【0029】
電力変換装置30は、電力変換装置ケース38を有する。電力変換装置ケース38は、略直方体形状を有し、外側面38c、内側面38d、上端部38eを有する。電力変換装置ケース38は、電力変換装置ケース38の内側面38dが電動機ケース18の右端面と対向するように電動機ケース18に固定されている。
【0030】
〔DCコネクタ〕
電力変換装置ケース38の内側面38dには、DCケーブル(電力配線)40(
図4参照)が接続されるコネクタ部39が車幅方向の左側を向いて設けられている。コネクタ部39は、電力変換装置ケース38の内側面38dの後側の上端部38e近傍に配置されており、接続したDCケーブル40の根元部分が内側面38dに対して略垂直に(すなわち、車幅方向の左側へ略水平に)引き出されるように設けられている。
図2(b)に示すように、コネクタ部39は、動力伝達機構ケース58における後側の上端部58eに設けた面取部(切欠部)58fに対向する位置に設けられている。すなわち、電力変換装置ケース38のコネクタ部39と動力伝達機構ケース58の面取部58fとが車幅方向から見て略同一の位置(車幅方向から見て互いが重なる位置)に配置されている。
【0031】
〔車両〕
次に、車両用駆動装置1を搭載する車両について説明する。本実施形態の車両100は、
図1及び
図2に示す車両用駆動装置1を駆動源とする電動車両である。車両100は、
図3に示すように、フロアパネル102とダッシュパネル103及び荷室床パネル109により区画形成された車室104及び荷室105とその前方のフロントルーム106とを備えている。車室104には、前部座席107及び後部座席108が設けられている。
【0032】
そして、本実施形態の車両100は、前輪FWを駆動するためのユニット(前輪駆動ユニット)として車両用駆動装置1を用いる場合、
図3(a)に示すように、前輪FWに対応する車両100の前方位置に車両用駆動装置1が搭載される。具体的には、車両用駆動装置1は、フロントルーム106内における左右の前輪FWの間に設置され、車両用駆動装置1のファイナル軸55が前輪FWの駆動軸111と同軸上に配置される。また、後輪RWを駆動するためのユニット(後輪駆動ユニット)として車両用駆動装置1を用いる場合、
図3(b)に示すように、後輪RWに対応する車両100の後方位置に車両用駆動装置1が搭載される。具体的には、車両用駆動装置1は、荷室105の下方における左右の後輪RWの間に設置され、車両用駆動装置1のファイナル軸55が後輪RWの駆動軸112と同軸上に配置される。このように、本実施形態の車両用駆動装置1は、車両100に対して前輪駆動用の駆動ユニットとしても後輪駆動用の駆動ユニットとしても用いることが可能である。以下では、車両用駆動装置1を前輪駆動用の駆動ユニットとして用いる場合と後輪駆動用の駆動ユニットとして用いる場合それぞれにおけるDCケーブル(電力配線)40の配策構造について説明する。
【0033】
〔車両用駆動装置を前輪駆動用のユニットとして用いる場合〕
図4及び
図5は、車両用駆動装置を前輪駆動用のユニットとして用いる場合を示す図で、
図4は、車両に搭載した車両用駆動装置及びその周辺を示す図、
図5は、車両用駆動装置に接続したDCケーブルの配策構造を示す図である。車両用駆動装置1を前輪駆動用のユニットとして用いる場合は、車両100の前輪FWの対応する位置に車両用駆動装置1が搭載される。すなわち、車両100におけるフロントルーム106(
図3参照)の下方には、
図4に示すように、サブフレーム130が設けられている。サブフレーム130は、前後方向に沿って延在する左右一対のサイドメンバ131,131と、車幅方向に沿って延在して両サイドメンバ131,131の前縁部同士と後縁部同士とをそれぞれ連結するクロスメンバ132,132とを備えて全体が井桁状に形成されている。そして、この井桁状に形成されたサブフレーム130の内側に車両用駆動装置1が支持されている。
【0034】
なお、この場合、
図3(a)に示すように、フロントルーム106内の車両用駆動装置1の真上(直上)位置には、高電圧電装装置150が搭載されている。高電圧電装装置150は例えば交流→直流変換器などを含む高電圧の電装装置である。このように、高電圧電装装置150を車両用駆動装置1の直上位置に配置することで、高電圧ケーブル類の経路長を短く抑えてコスト削減を図ることや、車両用駆動装置1と高電圧電装装置150をまとめて冷却できるようにして冷却水の取り回し経路を削減するなどのメリットを享受することができる。
【0035】
そしてこの場合、
図3(a)及び
図4に示すように、車両100の前輪FWの対応する位置に搭載した車両用駆動装置1と車室104の下側に配置したバッテリ120とをDCケーブル40で接続する。そのため、車両用駆動装置1のコネクタ部39に取り付けられたDCケーブル40は、コネクタ部39から車幅方向の左側に向かって引き出され、その先の部分が車両100の後方に向かって略90度曲げられた屈曲部41になっており、屈曲部41の先が車両100の後方へ延伸している。
図4及び
図5に示すように、屈曲部41は、車幅方向における電力変換装置30と動力伝達機構50の間(電動機10の後方かつ斜め上方の位置)に配置されて、略水平面内(同一の高さ内)で後方に向かって曲げられており、屈曲部41よりも先の略直線状に延伸している延伸部42が動力伝達機構ケース58の上端部58e(面取部58fに対応する位置の上端部58e)の上側を通って後方へ延びている。なお、DCケーブル40の延伸部42は、ステー(係止具)61を介して動力伝達機構ケース58の上端部58e(面取部58f)に固定されている。
【0036】
〔車両用駆動装置を後輪駆動用のユニットとして用いる場合〕
図6及び
図7は、車両用駆動装置を後輪駆動用のユニットとして用いる場合を示す図で、
図6は、車両に搭載した車両用駆動装置及びその周辺を示す図、
図7は、車両用駆動装置に接続したDCケーブルの配策構造を示す図である。車両用駆動装置1を後輪駆動用のユニットとして用いる場合は、車両100の後輪RWの対応する位置に車両用駆動装置1が搭載される。すなわち、車両100における荷室105(
図3参照)の下方には、
図6に示すように、サブフレーム140が設けられている。サブフレーム140は、前後方向に沿って延在する左右一対のサイドメンバ141,141と、車幅方向に沿って延在して両サイドメンバ141,141の前縁部同士と後縁部同士とをそれぞれ連結するクロスメンバ142,142とを備えて全体が井桁状に形成されている。そして、この井桁状に形成されたサブフレーム140の内側に車両用駆動装置1が支持されている。
【0037】
そしてこの場合、
図3(b)及び
図6に示すように、車両100の後輪RWに対応する位置(荷室床パネル109の下側)に搭載した車両用駆動装置1と車室104(フロアパネル102)の下側に配置したバッテリ120とをDCケーブル40で接続する。そのため、車両用駆動装置1のコネクタ部39に取り付けられたDCケーブル40は、コネクタ部39から車幅方向の左側に向かって引き出され、その先が車幅方向の左側かつ後側へ湾曲線状に延伸して動力伝達機構ケース58の上端部58e(面取部58fに対応する位置の上端部58e)の上方を通って湾曲しながら更に左側へ延伸する湾曲部44になっている。このDCケーブル40は、湾曲部44において、略半円弧状に湾曲することで面取部58fの上方において前方へ向きを変え、車両用駆動装置1(動力伝達機構50)の側部(左側部)まで達している。そして、その先の延伸部45が車両用駆動装置1(動力伝達機構50)の側部(左側部)を通って車両100の前方へ略直線状に延伸している。なお、DCケーブル40の湾曲部44は、ステー(係止具)62を介して動力伝達機構ケース58の上端部58e(面取部58f)に固定されている。
【0038】
ここで、本実施形態の車両用駆動装置1では、動力伝達機構ケース58の上端部58eの後部を車幅方向から見て斜めに面取りしてなる面取部58fを設けている。これにより、面取部58fの上方にはDCケーブル40を配策するためのスペース(配策空間)Sが形成されている。したがって、コネクタ部39からバッテリ120に繋がるDCケーブル40をこのスペースSに配策することで、DCケーブル40が
図5(a)及び
図7(a)の一点鎖線Lで示すように車両用駆動装置1の上方へ張り出すことを回避できる。したがって、車両用駆動装置1の周囲の空間効率を効果的に向上させることができる。また、特に車両用駆動装置1を前輪駆動用の駆動ユニットとして用いる場合には、
図3(a)に示すように、車両用駆動装置1の直上位置への高電圧電装装置150の配置を可能としながらもDCケーブル40を適切に配策できるようになる。一方、車両用駆動装置1を後輪駆動用の駆動ユニットとして用いる場合には、
図3(b)に示すように、車両用駆動装置1の上方にDCケーブル40が張り出すことを防止できるので、車両用駆動装置1とその直上位置にある荷室床パネル109との隙間寸法を小さく抑えることができる。したがって、荷室床パネル109の高さ位置を低くすることが可能となるので、荷室105を低床化してその収容スペースの増大を図ることができる。また、図示は省略するが、荷室105に代えて三列目シートを設置する場合は、当該三列目シートの足元空間を広くすることが可能となる。
【0039】
本実施系形態の車両用駆動装置1は、車両100の駆動源である電動機10と、電動機10と電気的に接続されて電動機10に供給する電力及び電動機10から供給される電力を変換する電力変換装置30と、電動機10からの動力の回転を車両100の駆動輪FW,RW側に伝達するための動力伝達機構50とを一体化してなる装置であって、電動機10の回転軸11の軸方向を車両100の車幅方向に配置し、車幅方向における電動機10の一方側と他方側それぞれに電力変換装置30と動力伝達機構50を配置している。そして、電力変換装置30には、DCケーブル(電力配線)40が接続されるコネクタ部39が設けられており、コネクタ部39は、電力変換装置30から車幅方向へDCケーブル40を引き出すように配置されている。
【0040】
本実施形態の車両用駆動装置1によれば、電動機10の回転軸11の軸方向を車両100の車幅方向に配置し、車幅方向における電動機10の一方側と他方側それぞれに電力変換装置30と動力伝達機構50を配置し、電力変換装置30のコネクタ部39を電力変換装置30から車幅方向へDCケーブル40を引き出すように配置したことで、車両用駆動装置1の周囲の空間に十分な余剰スペースを確保できない場合でも、電力変換装置30から引き出される大径で柔軟性が低いDCケーブル40を適切に配策することが可能となる。
【0041】
すなわち、本実施形態の車両用駆動装置1では、電力変換装置30をいわゆる横置きとし、DCケーブル40を接続するコネクタ部39を車幅方向の内側に向けて配置している。そして、電動機10を挟んで対岸に配置した動力伝達機構50のファイナル軸55の上部に設けた面取部58fによって形成されたスペースSを活用してDCケーブル40の取り出し位置を確保している。これにより、同一構造の車両用駆動装置1を前輪駆動用ユニットと後輪駆動用ユニットとに共用できるDCケーブル40の接続構造(配策構造)を実現している。
【0042】
また、本実施形態では、コネクタ部39は、電力変換装置30から車幅方向における電動機10側に向けてDCケーブル40を引き出すように配置されている。
【0043】
この構成によれば、電力変換装置30から車幅方向における電動機10側に向けてDCケーブル40を引き出すようにコネクタ部39を配置したことで、電力変換装置30に対して(車両100の前後方向ではなく)車幅方向の電動機10側にDCケーブル40の配策空間を設けることができるので、車両用駆動装置1を車両100の前方と後方のどちらに搭載する場合であっても共通の車両用駆動装置1を使用することが可能となる。
【0044】
また、本実施形態では、動力伝達機構50(動力伝達機構ケース58)の周縁に、コネクタ部39から引き出されたDCケーブル40を配策するためのスペースSが設けられている。具体的には、このスペースSは、動力伝達機構50の上端部58eを面取りしてなる面取部58fによって形成された空間である。そして、面取部58fは、動力伝達機構ケース58の上端部58eの後方を車幅方向から見て斜めに面取りしてなる部分として設けられている。
【0045】
また、本実施形態では、動力伝達機構50は、電動機10の動力による回転を車両100の駆動輪FW,RWに伝達するファイナル軸55を備え、電力配線配策用のスペースSは、動力伝達機構50におけるファイナル軸55の上方に配置されている。
【0046】
この構成によれば、動力伝達機構50のコネクタ部39側にDCケーブル40用の配策空間であるスペースSを設けることで、動力伝達機構ケース58内に設置されたギヤ(ファイナルギヤ56)の外周形状が円弧形状であることを利用して、DCケーブル40の配策空間であるスペースSを設けることができるため、車両用駆動装置1の周囲の空間効率を効果的に向上させることができる。
【0047】
また、動力伝達機構50において、電動機10の動力による回転を車両100の駆動輪FW,RWに伝達するファイナル軸55や当該ファイナル軸55に設けるファイナルギヤ56などの構造物は、車両100の駆動輪FW,RWに繋がる駆動軸111,112の周りに配置されるため、車両100の比較的下方に位置する。したがって、動力伝達機構50におけるファイナル軸55の上方には比較的に大きなスペースを確保できるため、ファイナル軸55の上方(真上位置)にDCケーブル40の配策用のスペースSを配置することで、DCケーブル40の配策やレイアウトの自由度を十分に高めることが可能なスペースを確保することができる。
【0048】
また、本実施形態では、動力伝達機構50は、車両100のパーキングロックを行うためのパーキング機構の構成部品であるパーキングアクチュエータ59を一体に備えている。そして、動力伝達機構50における車両100の前後方向において、パーキングアクチュエータ59が前側に設けられており、スペースSが後側に設けられている。
【0049】
この構成によれば、動力配線配策用のスペースSとパーキングアクチュエータ59とが動力伝達機構50における車両100の前後方向で互いに反対側に設けられていることで、動力伝達機構50にパーキングアクチュエータ59を一体に備える場合でも、動力伝達機構50の大型化を回避しながらDCケーブル40の配策用のスペースSを確保できる。したがって、DCケーブル40の配策やレイアウトの自由度を十分に高めることが可能となる。
【0050】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変更が可能である。
【0051】
例えば、上記実施形態では、車両100は、電動機10のみを駆動源とする電動車両である場合を示したが、本発明の車両用駆動装置は、エンジン(内燃機関)及び電動機を駆動源とするハイブリッド車両に搭載することも可能である。その場合は、例えば、車両の前輪をエンジン(内燃機関)で駆動する主駆動輪とし、後輪を本実施形態の車両用駆動装置(電動機10)で駆動する副駆動輪とする構成を採用してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 車両用駆動装置
10 電動機
11 回転軸
18 電動機ケース
30 電力変換装置
38 電力変換装置ケース
38c 外側面
38d 内側面
38e 上端部
39 コネクタ部
40 DCケーブル(電力配線)
41 屈曲部
42 延伸部
44 湾曲部
45 延伸部
50 動力伝達機構
51 モータ軸
52 モータギヤ
53 カウンタ軸
54 カウンタギヤ
55 ファイナル軸
56 ファイナルギヤ
58 動力伝達機構ケース
58d 内側面
58e 上端部
58f 面取部
59 パーキングアクチュエータ
100 車両
111,112 駆動軸
120 バッテリ
130,140 サブフレーム
150 高電圧電装装置
FW 前輪
RW 後輪
S スペース