(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】少なくとも2枚の金属基材の組立体の製造のための溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/24 20060101AFI20241114BHJP
B23K 11/16 20060101ALI20241114BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20241114BHJP
C22C 21/10 20060101ALI20241114BHJP
C22C 21/02 20060101ALI20241114BHJP
C22C 21/06 20060101ALI20241114BHJP
C22C 30/06 20060101ALI20241114BHJP
C21D 9/00 20060101ALN20241114BHJP
C21D 1/18 20060101ALN20241114BHJP
【FI】
B23K11/24 315
B23K11/16 101
B23K11/11
C22C21/10
C22C21/02
C22C21/06
C22C30/06
C21D9/00 A
C21D1/18 C
(21)【出願番号】P 2023092953
(22)【出願日】2023-06-06
(62)【分割の表示】P 2021514003の分割
【原出願日】2019-09-09
【審査請求日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2018/056998
(32)【優先日】2018-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ティアゴ・マシャド・アモラン
(72)【発明者】
【氏名】マクシム・ブロサール
(72)【発明者】
【氏名】ステファニー・ミショー
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-マリー・エルメ
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/093568(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/005134(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/017513(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/017514(WO,A1)
【文献】特許第6315161(JP,B1)
【文献】特開2005-334971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/24
B23K 11/16
B23K 11/11
C22C 21/10
C22C 21/02
C22C 21/06
C22C 30/06
C21D 9/00
C21D 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組立体の製造のための溶接方法であって、
A 以下の合金化被膜で被覆された焼入鋼部品である第1の金属基材(3)及び第2の金属基材(3’)を含む、少なくとも2枚の金属基材(3、3’)の提供、
・ 0.1~20.0重量%の亜鉛、0.1~15.0重量%のケイ素、0.1~10.0重量%のマグネシウムを含み、残りはアルミニウムであり、以下の自然酸化物層により直接覆われるアルミニウムベースの合金化被膜(4)、
・ ZnO及び任意にMgOを含む自然酸化物層、
B 溶接電極(1、1’)及びインバーター直流を印加するスポット溶接電源(2)を含むスポット溶接機を用いる、工程A)の該少なくとも2枚の金属基材へのスポット溶接サイクル(21、31、41、51)であって、以下のサブステップ、すなわち、
i スポット溶接電源に接続された溶接電極を用いて一緒に接合
する該少なくとも2枚の金属基材を通して印加されるパルセーション電流(Cp)
による1回のパルセーション(22、32、42、52)、ここで、パルセーション電流(Cp)は0.1~30kAの間であり、その直後に
ii 該少なくとも2枚の金属基材への、溶接電流(Cw)を有する溶接ステップ(23、33、43、53)、ここで、溶接電流(Cw)は0.1~30kAの間である、
を含むスポット溶接サイクルの適用
を含み、スポット溶接サイクル中の溶接中の加圧力が200~350daNの間であり、パルセーション電流(Cp)が溶接電流(Cw)を上回り、パルセーション持続期間が溶接持続期間より短く、パルセーション持続期間は5~60msであり、溶接持続期間が150~500msである、
方法。
【請求項2】
溶接周波数が500~5000Hzである、請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
溶接ステップB.ii)が、複数のパルスを含み、
当該1回のパルセーションB.iの直後に溶接ステップの最初のパルスが続く、請求項2に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記スポット溶接サイクルの形状(21、31、41、51)が以下、すなわち、
・ 矩形のパルセーションピーク(22)及び矩形の溶接ピーク(23)を含む矩形形状
・ 放物線状のパルセーションピーク(32)及び放物線状の溶接ピーク(33)を含む放物線状
・ 三角形のパルセーションピーク(42)及び三角形の溶接ピーク(43)を含む三角形の形状
・ 放物線状のパルセーションピーク及び矩形の溶接ピークを含む放物線かつ矩形の形状、及び
・ 三角形のパルセーションピーク及び矩形の溶接ピークを含む三角形かつ矩形の形状
の中から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の溶接方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項によって得られる、少なくとも1つのスポット溶接継手を介して一緒にスポット溶接された少なくとも2枚の金属基材(3、3’)の組立体であって、
- 以下の合金化被膜で被覆された焼入鋼部品である第1の金属基材(3)、
・ 0.1~20.0重量%の亜鉛、0.1~15.0重量%のケイ素、0.1~10.0重量%のマグネシウムを含み、残りはアルミニウムであり、以下の自然酸化物層により直接覆われるアルミニウムベースの合金化被膜(4)、
・ ZnO及び任意にMgOを含む自然酸化物層、
- 第2の金属基材(3’)、
- ナゲット(5)を含むスポット溶接継手であって、その上部(6)に自然酸化物層及び/又は合金化被膜の少なくとも一部が存在しないスポット溶接継手
を含む組立体。
【請求項6】
焼入鋼部品の合金化被膜が、5.0~14重量%の亜鉛を含む、請求項5に記載の組立体。
【請求項7】
焼入鋼部品の合金化被膜が、7.0~12.0重量%の亜鉛を含む、請求項6に記載の組立体。
【請求項8】
焼入鋼部品の合金化被覆が、0.1~6.0重量%のケイ素を含む、請求項5~7のいずれか一項に記載の組立体。
【請求項9】
焼入鋼部品の合金化被覆が、2.0~6.0重量%のケイ素を含む、請求項8に記載の組立体。
【請求項10】
焼入鋼部品の合金化被膜が、0.1~4.0重量%のマグネシウムを含む、請求項5~9のいずれか一項に記載の組立体。
【請求項11】
第2の金属基材(3’)が、鋼基材又はアルミニウム基材である、請求項5~10のいずれか一項に記載の組立体。
【請求項12】
第2の金属基材(3’)が、請求項5~10のいずれか一項に記載の焼入鋼部品である、請求項11に記載の組立体。
【請求項13】
組立体が、鋼基材又はアルミニウム基材である第3の金属基材を含む、請求項5~12のいずれか一項に記載の組立体。
【請求項14】
自動車の製造のための、請求項5~13のいずれか一項に記載の組立体又は請求項1~4のいずれか一項に記載の方法に従って得られる組立体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2枚の金属基材の組立体の製造方法及びこの組立体に関する。本発明は、自動車の製造に特によく適している。
【背景技術】
【0002】
車両の軽量化の観点から、より軽量の車体を達成し及び衝突安全性を向上させるために高強度鋼板を使用することが知られている。焼入部品は、車両の重量を減らすためにも特に使用される。実際、これらの鋼の引張強さは最低1200MPaで、2500MPaまで可能である。焼入部品は、耐食性及び熱特性が良好なアルミニウムをベースとする又は亜鉛をベースとする被膜で被覆することができる。
【0003】
通常、被覆焼入部品の製造方法は、以下のステップを含む。
A) アルミニウム又は亜鉛をベースとする従来の被膜である金属被膜で予め被覆した鋼板の提供、
B) ブランクを得るために被覆鋼板の切断、
C) 鋼中で完全にオーステナイトの微細組織を得るために高温でのブランクの熱処理、
D) プレス工具へのブランクの移動、
E) 部品を得るためにブランクの熱成形、
F) マルテンサイト又はマルテンサイト-ベイナイトである鋼中の微細組織、又は少なくとも75%の等軸フェライト、5~20%のマルテンサイト及び10%以下の量のベイナイトからできた微細組織を得るための、ステップE)で得られた部品の冷却。
【0004】
一般に、この後に、2つの被覆焼入部品又は1つの被覆焼入部品を別の金属基材と溶接することが続く。アルミニウム又は亜鉛をベースとする被覆焼入部品の溶接は、被膜が硬く、厚いため、実現が非常に困難である。
【0005】
特許出願EP3020499号は、以下、すなわち、
- 少なくとも1枚の高張力鋼板を含む2枚以上の重なり合った鋼板の板の組立体を、インバーター直流方法を利用するスポット溶接電源に接続された一対の溶接電極を用いて固定し、溶接電極で鋼板をプレスしながら、通電及び通電停止を複数回繰り返すパルセーション処理、
- パルセーション処理後に、溶接電極で鋼板をプレスしながら、パルセーション処理の最長通電時間よりも長い時間連続的に通電する連続通電処理
を含む抵抗スポット溶接方法を開示する。
【0006】
しかし、この方法は、従来の亜鉛をベースとする被膜又はアルミニウムをベースとする被膜で被覆されたホットスタンプ鋼板専用である。実際、実施例では、この方法を、アルミニウムで被覆した1500MPaホットスタンプ鋼板、合金化電気亜鉛メッキで被覆した1500MPa級ホットスタンプ鋼板及びZnOでスキン処理したAlで被覆した1500MPa級ホットスタンプ鋼板で試験した。他の元素を含むアルミニウム又は亜鉛をベースとする特定の被膜は、この特許出願に含まれない。
【0007】
特許出願EP3085485号は、重ね合わされた高張力鋼板を含む複数の鋼板を溶接する抵抗スポット溶接方法であって、伝導系はインバーターDC溶接電源を使用するパルセーション伝導であり、パルセーション伝導を形成する複数の電流パルスでは、それぞれの電流パルスにおいて、伝導時間、伝導アイドル時間として定義される電流パルスの間隔、及び電流パルスによって加えられる溶接電流が可変可能に制御される、抵抗スポット溶接方法を開示する。
【0008】
しかし、この方法は、従来の亜鉛をベースとする(純Zn、Zn-Fe、Zn-Ni、Zn-Al、Zn-Mg、Zn-Mg-Alなど)又は従来のアルミニウムをベースとする(Al-Siなど)被膜と母材の鋼との間の合金化反応により、金属間化合物及び鉄の固溶体をその表面に含むホットスタンプ鋼板専用である。これらの表面は主に亜鉛又はアルミニウムから構成される酸化物層で形成される。さらに、主として鉄とアルミニウムとの金属間化合物から構成される被膜の表面は、主に酸化亜鉛から構成される薄膜で形成されることがある。実施例では、この方法を、9重量%のSi及びFe並びに非常に少量のZnOを含むアルミニウム被膜の合金で被覆したホットスタンプ鋼板、及び合金化電気亜鉛めっきで被覆したホットスタンプ鋼板に対し試験した。通常、これら被膜の自然酸化物層は10~100nmの間の厚さを有する。オーステナイト化前にアルミニウムをベースとする被覆焼入部品上にZnOの薄層を堆積させると、ZnO及びアルミニウムをベースとする被膜が合金化する。ZnOの非常に薄い層がアルミニウムをベースとする被膜上に堆積するので、主にアルミニウムから構成される自然酸化物はオーステナイト化後も非常に薄く、即ち10~100nmであり、容易な溶接をもたらす。その他の元素を含むアルミニウム又は亜鉛をベースとする特定の被膜は、この特許出願には含まれない。
【0009】
特許出願GB2468011号には、少なくとも1枚の板の材料が高張力材料である板の組立体の抵抗溶接のために電流を印加する方法が開示されており、該方法は、
- 高張力材料の接合位置の表面を軟化させる大きさの第1のアンペア数を、第1の所定期間連続して印加する第1のステップ、
- 第1の所定の持続期間が経過したら、第1のアンペア数からナゲットを接合位置で成長させる第2のアンペア数に通電量を切り替える第2のステップ、及び
- 第2の所定の持続期間にわたって連続的に第2のアンペア数を印加する第3のステップ
を含む。
【0010】
この方法は、高張力材料又はホットスタンプ材料専用である。ホットスタンプ材料は、めっき層で被覆することができる。しかし、めっき層の性質は明記されていない。加えて、第1のステップでは、低いアンペア数が、接合位置の表面を軟化させるために印加され、第2のステップでは、高いアンペア数が、高張力材料の接合位置でナゲットの成長を引き起こすために印加される。それにもかかわらず、第1のステップにおける低いアンペア数は、被膜が亜鉛又はアルミニウム以外の元素を含む特定の被膜を施されたホットスタンプ部品の溶接には十分ではない。
【0011】
最近、熱間成形鋼板用に新しい被膜が開発された。特許出願WO2017017521号には、0.4~20.0重量%の亜鉛、1.0~3.5重量%のケイ素、任意に1.0~4.0重量%のマグネシウムを含み、Zn/Si比が3.2~8.0の間である合金化被膜で被覆されたリン酸処理可能な焼入部品が開示されている。特許出願WO2017/017514号には、2.0~24.0重量%の亜鉛、1.1~7.0重量%のケイ素、及び任意に1.1~8.0%のマグネシウムを含み、残りはアルミニウムであり、液体金属脆化(LME)耐性を改善するためにAl/Zn比が2.9を上回る合金化被膜で被覆された焼入部品が開示されている。特許出願WO2017/017513号は、2.0及び24重量%の亜鉛、7.1~12.0%のケイ素、任意に1.1~8.0重量%のマグネシウムを含み、残りはアルミニウムであり、Al/Zn比が2.9を上回る被膜で被覆された犠牲鋼板、及びプレス硬化の方法の後に得られる被覆犠牲焼入部品を開示する。これらの特定の被膜は、マイクロメートルの厚さの自然酸化物層を有する。自然酸化物層の厚さ及び硬さのために、これらの被膜は非常に溶接しにくい。
【0012】
それにもかかわらず、これらの特定の被膜が施された焼入部品を溶接する方法は開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】欧州特許出願公開第3020499号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3085485号明細書
【文献】英国特許出願公開第2468011号明細書
【文献】国際公開第2017/017521号
【文献】国際公開第2017/017514号
【文献】国際公開第2017/017513号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、本発明の目的は、最近開発されたアルミニウム又は亜鉛をベースとする特定の被膜で被覆された焼入部品の製造のための実施の容易な溶接方法を提供することである。特に製造ラインについては、本発明の目的は、そのような特定の被覆焼入部品について1kA以上である溶接範囲を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、請求項1に記載の組立体の製造のための溶接方法を提供することによって達成される。この溶接方法はまた、請求項2~10の特徴を有することができる。
【0016】
別の目的は、請求項11に記載の組立体を提供することによって達成される。また、この組立体は、請求項12~20に記載の任意の特徴を有することができる。
【0017】
最後に、請求項21に記載の組立体の使用を提供することによって、別の目的も達成される。
【0018】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明の以下の詳細な記述から明らかになるであろう。
【0019】
本発明を例示するために、様々な実施形態及び非限定的な実施例の試験を、特に以下の図を参照して記述する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】
図2は、本発明によるスポット溶接サイクルの例を示す。
【
図3】
図3は、本発明によるスポット溶接サイクルの例を示す。
【
図4】
図4は、本発明によるスポット溶接サイクルの例を示す。
【
図5】
図5は、本発明によるスポット溶接サイクルの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明の以下の詳細な記述から明らかになるであろう。
【0022】
「焼入鋼部品」という名称は、2500MPaまで、より好ましくは2000MPaまでの引張強さを有する熱成形又はホットスタンプ鋼板を意味する。例えば、引張強さは500MPa以上であり、有利には1200MPa以上であり、好ましくは1500MPa以上である。
【0023】
本発明は、以下のステップ、すなわち、
A 第1の金属基材が、以下の合金化被膜で被覆された焼入鋼部品である少なくとも2枚の金属基材の提供、
・ 亜鉛、ケイ素、任意にマグネシウムを含み、残りはアルミニウムであり、以下の自然酸化物層により直接覆われる合金化被膜、
・ ZnO及び任意にMgOを含む自然酸化物層、
B 溶接電極及びインバーター直流を印加するスポット溶接電源を含むスポット溶接機を用いる、工程A)の該少なくとも2枚の金属基材へのスポット溶接サイクルであって、以下のサブステップ、すなわち、
i スポット溶接電源に接続された溶接電極を用いて一緒に接合した該少なくとも2枚の金属基材を通して印加されるパルセーション電流(Cp)を有する1回のパルセーション、その直後に
ii 該少なくとも2枚の金属基材への溶接電流(Cw)を有する溶接ステップ
を含むスポット溶接サイクルの適用
を含み、スポット溶接サイクル中の溶接力が50~350daNの間であり、電流Cpが電流Cwとは異なり、パルセーション持続期間が溶接持続期間より短い、組立体の製造のための溶接方法に関する。
【0024】
いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、亜鉛、ケイ素、任意にマグネシウムを含み、残りはアルミニウムである特定の被膜で被覆された少なくとも1つの焼入鋼部品を含む2枚の金属基材に実施される本発明による溶接方法は、1kA以上の溶接範囲、及び組立体表面での被膜の飛散の減少を可能にするように思われる。実際、ZnO及び任意のMgOは、空気による硬化鋼の酸化によって、硬化鋼部品の表面に自然に存在するように思われる。パルセーションは、被覆焼入鋼部品上に存在するZnO及び任意のMgO酸化物層並びに/又は合金化被膜の層の少なくとも一部を破壊し、溶接電流への経路を開くと考えられる。さらに、1回のパルセーションを含む本発明による方法は、工業規模で実施することが容易であると思われる。最後に、溶接力が50~350daNの間である場合、電極中心で電流がより局在化し、合金化被覆及び/又は酸化物層のより良好な排除に導くので、溶接は改善されるように思われる。しかし、溶接力が本発明の範囲外、すなわち350daNを超えると、電流が被覆硬化部品のより大きな表面に広がるので、少なくとも2枚の金属基材の間の界面にナゲットが形成されないおそれがある。
【0025】
図1に示すように、溶接電極1、1’及びスポット溶接源2を備えるスポット溶接機(図示せず)が使用される。この例では、電極は、本発明による被膜4、4’、4”で被覆された2つの焼入鋼部品3、3’を接合することを可能にする。溶接中、ナゲット5が拡散を通して2つの焼入鋼部品の間に形成される。ナゲットは残留被膜と鋼部品との合金である。本発明によるスポット溶接サイクルの結果、被膜の少なくとも一部はナゲット内で取り除かれると考えられる。また、スポット接着継手6、6’の上部では、自然酸化物層及び/又は合金化被膜の少なくとも一部は存在しないと考えられる。実際、少なくとも1回のパルセーションは、自然酸化物層を破壊し、スポット溶接継手の上部及びナゲット内の被膜を溶融及び除去することにより、被覆された2つの焼入鋼部品間の溶接を開始するように思われる。これにより、2つの焼入鋼部品に電流を流すことができ、溶接の改善が可能となる。最後に、少なくとも1回のパルセーションと溶接ステップとの間で冷却は必要ではないと考えられる。実際、これらのステップの間で冷却を行うと、鋼部品が凝固し始めるため、2つの焼入鋼部品間のナゲットの形成を止めるおそれがある。逆に冷却を行わない場合には、鋼部品は液状のままで留まり、容易に接合すると思われる。
【0026】
好ましくは、ステップB.i)において、パルセーション電流(Cp)は0.1~30kAの間であり、好ましくは0.1~20kAの間であり、より好ましくは8.0~20kAの間であり、有利には8.0~15kAの間である。
【0027】
有利には、ステップB.i)において、パルセーション持続期間は5~60ms、好ましくは4~30msである。
【0028】
好ましくは、ステップB.ii)において、溶接電流(Cw)は0.1~30kAの間であり、好ましくは0.1~20kAの間であり、より好ましくは0.1~10の間であり、有利には1~7.5kAの間である。
【0029】
有利には、ステップB.ii)において、溶接持続期間は150~500msであり、より好ましくは250~400msである。
【0030】
好ましい実施形態において、電流Cpは電流Cwを下回る。
【0031】
別の好ましい実施形態において、電流Cpは電流Cwを上回る。実際、いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、本発明者らは、CpがCwを上回る場合、溶接範囲がさらに改善されることを見出した。
【0032】
好ましくは、スポット溶接サイクル中の溶接力は100daN~250daNの間、より好ましくは150~250daNの間である。
【0033】
好ましくは、溶接周波数は、500~5000Hzの間、より好ましくは、500~3000Hzの間、例えば、800~1200Hzの間である。
【0034】
好ましくは、溶接ステップB.ii)は、複数のパルスを含み、少なくとも1回のパルセーションB.iの後に、溶接ステップの第1のパルスが直接続く。この場合、パルセーションと第1パルスとの間に冷却は行われない。第1のパルスに1つ以上のパルスが続き、その後の各パルスの間に停止時間が存在する。好ましくは、停止時間は20~80msであり、好ましくは30~60msである。
【0035】
本発明に係るスポット溶接サイクルは、異なる形状を有することができる。
図2は、スポット溶接サイクル21が矩形のパルセーションピーク22及び矩形の溶接ピーク23を含む矩形形状を有する1つの好ましい実施形態を示す。
図3は、スポット溶接サイクル31が放物線状のパルセーションピーク32及び放物線状の溶接ピーク33を含む放物線形状を有する別の好ましい実施形態を示す。
図4は、スポット溶接サイクル41が三角形のパルセーションピーク42及び三角形の溶接ピーク43を含む三角形の形状を有する別の好ましい実施形態を示す。他の実施形態によると、スポット溶接サイクルは、放物線状のパルセーションピーク及び矩形の溶接ピークを含む放物線かつ矩形の形状を有し、又は三角形のパルセーションピーク及び矩形の溶接ピークを含む三角形かつ矩形の形状を有する。
【0036】
図5は、スポット溶接サイクルが、溶接ステップの最初のパルスが直接続く1回のパルセーションB.i.を含む1つの好ましい実施形態を示す。この例では、スポット溶接サイクル51は、矩形のパルセーションピーク52及び3つの矩形の溶接ピーク53、53’、53”を含む矩形形状を有する。
【0037】
本発明は、本発明の方法により得られる、少なくとも1つのスポット溶接継手により一緒にスポット溶接された少なくとも2枚の金属基材の組立体であって、
- 以下の合金化被膜で被覆された焼入鋼部品である第1の金属基材、
・ 亜鉛、ケイ素、任意にマグネシウムを含み、残りはアルミニウムであり、以下の自然酸化物層により直接覆われる合金化被膜
・ ZnO及び任意にMgOを含む自然酸化物層、
- ナゲットを含むスポット溶接継手であって、その頂部に自然酸化物層及び/又は合金化被膜の少なくとも一部が存在しないスポット溶接継手
を含む組立体に関する。
【0038】
いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、前記組立体が本発明による溶接方法を用いて溶接された硬化部品上に上記の特定の被膜を含む場合、溶接範囲は1kA以上であると思われる。実際、自然酸化物層の厚さは先行技術の被膜よりも厚いが、本発明による溶接方法は自然酸化物層を破壊し、自然酸化物層及び/又は被膜の少なくとも一部を除去し、組立体の良好な溶接性を可能にすると思われる。
【0039】
焼入鋼部品の合金化被膜は、0.1~40.0重量%の亜鉛、より好ましくは0.1~20.0重量%の間の亜鉛、有利には5.0~14重量%の間の亜鉛、例えば7.0~12.0重量%の間を含む。
【0040】
好ましくは、焼入鋼部品の合金化被膜は、0.1~20.0重量%のケイ素、より好ましくは0.1~12.0重量%のケイ素、有利には0.1~6.0重量%のケイ素、例えば、2.0~6.0重量%のケイ素を含む。
【0041】
好ましくは、焼入鋼部品の合金化被膜は、0.1~20.0重量%のマグネシウム、0.1~10.0%、好ましくは0.1~4.0重量%のマグネシウムを含む。
【0042】
任意に、被膜は、Sr、Sb、Pb、Ti、Ca、Mn、Sn、La、Ce、Cr、Zr又はBiから選択される追加の元素(各追加の元素の重量含有率は0.3重量%よりも少ない)、及び任意に、鉄を含む、インゴットの供給又は溶融浴中の鋼基材の通過に起因する残留元素を含む。例えば、鉄の量は5重量%までである。
【0043】
好ましい実施形態において、第2の金属基材は鋼基材又はアルミニウム基材である。好ましくは、第2の鋼基材は、本発明による焼入鋼部品である。
【0044】
別の好ましい実施形態において、組立体は、鋼基材又はアルミニウム基材である第3の金属基材板を含む。この場合、2つ又は複数のスポット溶接継手が存在する。
【0045】
最後に、本発明は、自動車の製造のための本発明による組立体の使用に関する。
【0046】
以下、本発明を、情報のみのために行われる試験例において説明する。それらは限定的ではない。
【実施例】
【0047】
[実施例1:均一溶接試験]
Usibor(R)1500鋼板である試験例1~18は、3重量%のケイ素、2重量%のマグネシウム、12重量%の亜鉛を含み、残りはアルミニウムである被膜で溶融めっきした。Usibor(R)1500鋼板である試験例19は、3重量%のケイ素、2重量%のマグネシウム、10重量%の亜鉛を含み、残りはアルミニウムである被膜で溶融めっきした。次に鋼板を880~950℃の間のオーステナイト化温度で3~7分間プレス硬化させた。
【0048】
次いで、各試験例について、2枚の同一のプレス焼入部品を一緒に溶接した。
【0049】
溶接範囲は規格SEP1220-2に従って決定した。溶接試験は3kAから開始し、2回のスポット溶接毎に0.2kAずつ増加させた。同一の電流レベルで2回連続して飛散した場合、飛散限界を認めた。飛散限界に達すると、同一の電流レベルで3回連続、溶接試料が排除なしで得られるまで、溶接電流を0.1kAのステップで減少させた。この電流レベルは、電流範囲の上部溶接限界Imaxとして定義する。
【0050】
その後、下限値Iminを見出した。Iminの探索は、4√t(tは板厚)の基準を用いて行った。この基準は、溶接品質及び強度を保証する最小許容直径値を定義する。確認のため、5回連続で、最小溶接直径より大きい溶接直径を有する溶接試料を得た。
【0051】
試験例1~12及び17~19では、溶接サイクルは、場合によりパルセーション電流Cpを有する1回のパルセーション、及び規格SEP1220-2に従うImin及びImaxによって定義された溶接電流Cwを有する1回の溶接ステップを含む。試験例13~16では、溶接サイクルは、パルセーション電流Cpを有する1回のパルセーションと、規格SEP1220-2に従うImin及びImaxによって定義される溶接電流Cwを有する3回又は4回の溶接ステップとを含み、各溶接ステップの間で一時的な停止を行った。
【0052】
周波数は1000Hzであった。得られたImin、Imax及び溶接電流範囲は以下の表1のとおりである。
【0053】
【0054】
試験例5、6、11、12及び16は溶接可能ではなかった。すなわち、基準SEP1220-2で定義されたImin及びImaxの基準は達成されなかった。本発明による試験例は、1kA以上の溶接範囲を有する。
【0055】
[実施例2:不均一溶接試験]
Usibor(R)1500鋼板を、3重量%のケイ素、2重量%のマグネシウム、12重量%の亜鉛を含み、残りはアルミニウムである被膜で溶融めっきした。次に鋼板を900℃のオーステナイト化温度で5分間プレス硬化させた。それらを、亜鉛被膜を施したDP600鋼種(C:0.14重量%、Mn:2.1重量%、Si:0.4重量%)で溶接した。溶接範囲を実施例1と同様に決定した。周波数は1000Hzであった。得られたImin、Imax及び溶接電流範囲は次の表2のとおりである。
【0056】
【0057】
試験例22は溶接可能ではなかった。本発明による試験例は、1kA以上の溶接範囲を有する。
【0058】
[実施例3:電極寿命試験]
電極寿命は、定義された最小溶接直径未満の8つのうち2を超える溶接に到達する前の試験ストリップの最後の溶接数として定義される。最小溶接直径は4.7mmであった。
【0059】
試験例7として作製した2つの被覆焼入鋼部品を、1回のパルセーションと溶接ステップとを含む本発明に係る溶接方法を用いて一緒に溶接した。パルセーション電流は10msの間10kAであった。溶接電流は、実施例1の試験例7で決定したImaxであった。2つの被覆焼入部品に電極を用いて複数のスポット溶接を行い、各スポット溶接について溶接直径を測定した。結果を以下の表3に示す。
【0060】
【0061】
本発明による試験例7において、溶接直径は常に最小溶接直径より大きかった。