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特許7588188ニオブ酸リチウム溶液およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】ニオブ酸リチウム溶液およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 33/00 20060101AFI20241114BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241114BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20241114BHJP
【FI】
C01G33/00 A
H01M4/36 C
H01M4/485
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023128828
(22)【出願日】2023-08-07
(62)【分割の表示】P 2022580286の分割
【原出願日】2022-03-10
(65)【公開番号】P2023153202
(43)【公開日】2023-10-17
【審査請求日】2024-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2021075470
(32)【優先日】2021-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094536
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 隆二
(74)【代理人】
【識別番号】100129805
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100189315
【弁理士】
【氏名又は名称】杉原 誉胤
(72)【発明者】
【氏名】元野 隆二
(72)【発明者】
【氏名】原 周平
(72)【発明者】
【氏名】荒川 泰輝
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-104242(JP,A)
【文献】特開2018-2581(JP,A)
【文献】特開2020-164401(JP,A)
【文献】特開2015-103321(JP,A)
【文献】特開2014-210701(JP,A)
【文献】特開2020-66570(JP,A)
【文献】特開2018-127392(JP,A)
【文献】特開2011-190115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 33/00
H01M 4/36
H01M 4/485
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムとニオブのモル比Li/Nbが0.8以上2.0以下であるニオブ酸リチウムと、アンモニウムイオンとを含むニオブ酸リチウム溶液であって、
動的光散乱法による前記ニオブ酸リチウム溶液中のニオブ酸リチウム粒子径(D50)が100nm以下であることを特徴とするニオブ酸リチウム溶液。
【請求項2】
前記ニオブ酸リチウム溶液を、2μm孔径のフィルタで濾過し、ガラス基板(50mm×50mm)に滴下し、スピンコート(1,500pm、15秒)を用いて前記ガラス基板上に塗布し、光学顕微鏡(倍率:40倍)による観察により前記ガラス基板上に形成された塗膜の中央(15mm×15mm)の範囲で、気泡、塗工ムラ、ひび割れが観察されないことを特徴とする請求項1に記載のニオブ酸リチウム溶液。
【請求項3】
さらに、Na、Mg、Si、K、Ca、Ti、Mn、Ni、Zn、Sr、Zr、Ta、Mo、Ba、Wから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1、又は2に記載のニオブ酸リチウム溶液。
【請求項4】
前記ニオブ酸リチウム溶液のpHが9以上であることを特徴とする請求項2、又は3に記載のニオブ酸リチウム溶液。
【請求項5】
前記ニオブ酸リチウム溶液中に過酸化水素が含まれないことを特徴とする請求項1~4の何れか一つに記載のニオブ酸リチウム溶液。
【請求項6】
前記ニオブ酸リチウム溶液が、水溶液であることを特徴とする請求項1~5の何れか一つに記載のニオブ酸リチウム溶液。
【請求項7】
前記ニオブ酸リチウム溶液中のニオブ酸リチウム濃度が0.1~30質量%であることを特徴とする請求項1~の何れか一つに記載のニオブ酸リチウム溶液。
【請求項8】
請求項1~の何れか一つに記載の前記ニオブ酸リチウム溶液に含まれるニオブ酸リチウムで表面が被覆されていることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項9】
請求項に記載された前記リチウムイオン二次電池用正極活物質が被覆した正極を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ酸リチウム溶液およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニオブ酸リチウムは、その単結晶が非線形光学材料として利用され、その溶液は、リチウムイオン二次電池の正極活物質粒子の表面を被覆させることにより、リチウムイオン二次電池の正極と電解質との間で生じる界面抵抗を低減させる技術が、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されたニオブ酸リチウムの前駆体水溶液は、保存安定性向上のために、過酸化水素水が添加されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-66570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、過酸化水素水が添加されたニオブ酸リチウムの前駆体水溶液は、次のような留意点が特許文献1に開示されている。過酸化水素水の濃度がニオブ1molに対して、0.1mol未満であると、生成したニオブのポリ酸が水酸化物イオンと反応して分解する点、またニオブ酸リチウムの前駆体水溶液中にフリーの過酸化水素が0.01質量%未満では、当該前駆体水溶液の安定性を保つのが困難である点、さらにニオブ酸リチウムの前駆体水溶液中に過酸化水素が存在することにより、可溶化したニオブ酸の一部が不安定なペルオキソ錯体を形成するおそれがある点が開示されている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて、水への分散性が高く、水に対する溶解性が良好で、且つ保存安定性に優れたニオブ酸リチウム溶液及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた本発明のニオブ酸リチウム溶液は、リチウムとニオブのモル比Li/Nbが0.8以上2.0以下であるニオブ酸リチウムと、アンモニウムイオンとを含むニオブ酸リチウム溶液であって、動的光散乱法による前記ニオブ酸リチウム溶液中のニオブ酸リチウム粒子径(D50)が100nm以下であることを特徴とする。
本発明のニオブ酸リチウム溶液は、ニオブ酸リチウム溶液中のニオブ酸リチウム(LiNbO)が、リチウムとニオブのモル比Li/Nbが0.8以上2.0以下であると、当該溶液からの沈殿物の析出発生を抑制できるなど溶液の安定性が向上する。また、ニオブ酸リチウム溶液中のリチウムとニオブのモル比Li/Nbが0.9以上1.5以下であるとより好ましく、0.9以上1.2以下であるとさらに好ましい。
【0007】
ここで、本発明のニオブ酸リチウム溶液中のニオブ酸リチウムは、ニオブ酸とリチウムとがイオン結合した状態のイオンとして溶液中に存在するものと推測する。本発明のニオブ酸リチウム溶液には、陰イオンとして水酸化物イオンは存在する一方、フッ化物イオンおよび塩化物イオンなどのハロゲン化物イオンはほとんど存在せず、リチウムは陽イオンとして存在すると考えられるため、ニオブはNbO のような陰イオンか、複数のニオブ原子と酸素原子とが結合したポリオキソメタレート(ポリ酸)イオンとして存在していると考えられる。
【0008】
また、本発明のニオブ酸リチウム溶液は、ニオブ酸リチウムの他に、アンモニウムイオンも含まれる。後述する本発明のニオブ酸リチウム溶液の製造方法で詳しく説明するが、当該製造工程において、酸性のニオブ溶液をアンモニア水に添加する逆中和法により、ニオブを含有する沈殿スラリーである含水ニオブ酸アンモニウムケーキを生成した後、本発明のニオブ酸リチウム溶液が生成されることから、リチウムイオンと置換されたアンモニウムイオンが陽イオンとして当該溶液中に存在すると考えられる。
【0009】
当該溶液中に存在するアンモニウムイオン濃度の測定方法は、当該溶液に水酸化ナトリウムを加えてアンモニアを蒸留分離し、イオンメータによりアンモニウムイオン濃度を定量する方法、ガス化した試料中のN分を熱伝導度計で定量する方法、ケルダール法、ガスクロマトグラフィー(GC)、イオンクロマトグラフィー、GC-MS(質量分析)などが挙げられる。
【0010】
本発明のニオブ酸リチウム溶液に含まれるアンモニウムイオンのアンモニウムイオン濃度は、0.001質量%以上25質量%以下であると好ましく、0.5質量%以上10質量%以下であるとより好ましく、1質量%以上8質量%以下であるとさらに好ましい。
【0011】
さらに、動的光散乱法による前記ニオブ酸リチウム溶液中のニオブ酸リチウム粒子径(D50)が100nm以下であると、分散性が高い点で好ましい。また、当該ニオブ酸リチウム溶液中のニオブ酸リチウム粒子径(D50)がより小径であると、経時変化が少ないため安定し、また成膜時における被覆されていない箇所のない良好な塗膜形成や、十分な被膜重量を確保できる観点から好ましい。当該ニオブ酸リチウム溶液中のニオブ酸リチウム粒子径(D50)が、80nm以下であるとより好ましく、50nm以下であるとさらに好ましく、30nm以下であると特に好ましく、20nm以下であるとより特に好ましく、10nm以下であるとさらに特に好ましく、5nm以下であるとまた特に好ましく、3nm以下であるとよりまた特に好ましい。このように、本発明のニオブ酸リチウム溶液中のニオブ酸リチウム粒子径(D50)が、動的光散乱法を用いて測定した結果、ニオブ酸リチウム粒子径(D50)が100nm以下である状態の液を、本発明の「ニオブ酸リチウム溶液」とする。
【0012】
ここで、動的光散乱法とは、懸濁溶液などの溶液にレーザ光などの光を照射することにより、ブラウン運動する粒子群からの光散乱強度を測定し、その強度の時間的変動から粒子径と分布を求める方法である。具体的には、粒度分布の評価方法は、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(大塚電子株式会社製:ELSZ-2000)を用いて、JIS Z 8828:2019「粒子径解析-動的光散乱法」に準拠して実施する。なお、測定直前に測定対象である溶液中の埃等を除去するため、2μm孔径のフィルタで当該溶液を濾過し、超音波洗浄機(アズワン社製:VS-100III)にて28kHz、3分間の超音波処理を実施する。なお、粒子径(D50)は、積算分布曲線の50%積算値を示す粒子径であるメジアン径(D50)をいう。
【0013】
なお、本発明における「溶液」とは、溶質が溶媒中に単分子の状態で分散又は混合しているものに限られず、複数の分子が分子間の相互作用により引き合った集合体、例えば(1)多量体分子、(2)溶媒和分子、(3)分子クラスター、(4)コロイド粒子などが溶媒に分散しているものも含まれる。
【0014】
また、本発明のニオブ酸リチウム溶液は、前記ニオブ酸リチウム溶液中に過酸化水素が含まれないことが好ましい。
一般的に、酸化ニオブがポリ酸イオンとして溶液中に存在している場合、水酸化物イオンと反応し分解することを抑制するため、過酸化水素を添加し、安定性を向上させているが、本発明のニオブ酸リチウム溶液は、当該溶液中にアンモニウムイオンが存在していることにより、過酸化水素が存在していない状態であっても、長期安定性を確保することができる。
【0015】
溶液中の過酸化水素の検出方法は、例えば標準添加法を用いて、過酸化水素の標準液との吸光度の相対強度を測定することにより、当該溶液中に過酸化水素が含まれていないことを確認することができる。具体的には、既知濃度、例えば1質量%過酸化水素を含む標準液と、過酸化水素が無添加の標準液とにおけるそれぞれの紫外可視吸収スペクトルから、ペルオキソ錯体形成に伴う吸光度の変化が観測される波長領域を見出し、その波長領域における過酸化水素が無添加の標準液と過酸化水素濃度が不明な試料との吸光度の差が1%未満であれば、過酸化水素濃度が不明な試料に過酸化水素が実質的に含まれていないことを確認することができる。当該溶液中に過酸化水素が含まれている場合、過酸化水素はニオブのポリ酸と反応し、ペルオキソ錯体を形成することから、上述したように過酸化水素が無添加の標準液の吸光度の差を確認することにより、溶液中に過酸化水素が含まれていないことを確認できる。また、上述した標準添加法以外にも、例えば市販の過酸化水素測定キットを用いて、当該溶液に過酸化水素と呈色反応する試薬を加え、その発色を測定する方法や、当該溶液に過酸化水素と蛍光反応する試薬を加え、その発光を測定することによって、当該溶液中の過酸化水素を定性分析及び定量分析を行ってもよい。
【0016】
また、本発明のニオブ酸リチウム溶液は、前記ニオブ酸リチウム溶液が、水溶液であることが好ましい。
本発明のニオブ酸リチウム溶液中のニオブ酸リチウムは、水への分散性が高く、水に対する溶解性が良好であるため、溶媒として純水を用いることができる。
【0017】
また、本発明のニオブ酸リチウム溶液は、前記ニオブ酸リチウム溶液中のニオブ酸リチウム濃度が0.1~30質量%であることを特徴とする。さらに、本発明のニオブ酸リチウム溶液は、前記ニオブ酸リチウム溶液中のニオブ酸リチウム濃度が5~20質量%であることを特徴とする。
ニオブ酸リチウム溶液中のニオブ酸リチウム濃度が0.1~30質量%であると、ニオブ酸リチウム溶液の実用性及び安定性を両立する点で好ましく、また1~25質量%であるとより好ましく、3~21質量%であるとよりさらに好ましく、5~20質量%であると特に好ましい。
【0018】
ここで、ニオブ酸リチウム溶液中のニオブ酸リチウム濃度は、当該溶液を必要に応じて希塩酸で適度に希釈し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)を用いて、JIS K0116:2014に準拠し、酸化ニオブ(Nb)換算のNb重量分率と、Liの重量分率とを測定して算出する。なお、本発明のニオブ酸リチウム溶液中のニオブ酸は、必ずしもNbの状態で存在するものではない。ニオブ酸の含有量を、Nb換算で示しているのは、ニオブ濃度を示す際の慣例に基づくものである。
【0019】
また、本発明のニオブ酸リチウム溶液は、リチウムイオン二次電池用正極、或いは正極材の被覆用、又は全固体リチウムイオン電池用正極、或いは正極材の被覆用とすることができる。
本発明のニオブ酸リチウム溶液は、室温(25℃)に設定した恒温器内で1カ月静置した後の当該溶液の状態を目視観察する経時安定性試験、及び動的光散乱法により当該溶液中のニオブ酸リチウム粒子の経時粒子径(D50)を測定した結果に加えて、リチウムイオン二次電池用正極の集電板の代替品としたガラス基板上に塗布し、その塗膜の状態を光学顕微鏡にて観察する成膜性試験、また当該溶液を正極活物質に混合し、発泡の有無を目視確認する安全性試験の結果より、本発明のニオブ酸リチウム溶液は、リチウムイオン二次電池用正極、或いは正極材を被覆するものとして好適である。
【0020】
また、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、前記ニオブ酸リチウム溶液に含まれるニオブ酸リチウムでその表面が被覆されていることを特徴とする。
本発明のニオブ酸リチウム溶液によるリチウムイオン二次電池用正極活物質の粒子表面の被覆状態を走査電子顕微鏡にて観察する被覆観察を行うことにより、当該正極活物質の表面がニオブ酸リチウムにより被覆されていることを確認することができる。また、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の表面を被覆するニオブ酸リチウムの被覆量は、当該リチウムイオン二次電池用正極活物質を適量のフッ化水素酸に溶解し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)を用いて、JIS K0116:2014に準拠し、当該正極活物質の粒子表面を被覆するニオブ酸リチウムのニオブ重量分率濃度を測定することによって算出することができる。当該ニオブ重量分率濃度は、1以上が好ましく、1を超えるとより好ましく、1.1以上がさらに好ましく、1.2以上が特に好ましい。
【0021】
さらに、本発明のニオブ酸リチウム溶液は、その作用効果を阻害しない範囲で、ニオブ酸リチウムに由来する成分、及びアンモニアに由来する成分以外の成分(「他成分」という。)を含有してもよい。他成分としては、例えばNa、Mg、Si、K、Ca、Ti、Mn、Ni、Zn、Sr、Zr、Ta、Mo、Ba、Wなどが挙げられる。但し、これらに限定するものではない。本発明のニオブ酸リチウム溶液における他成分の含有量は、5質量%未満であるのが好ましく、4質量%未満であるのがより好ましく、3質量%未満であるとさらに好ましい。なお、本発明のニオブ酸リチウム溶液は、意図したものではなく、不可避不純物を含むことが想定される。不可避不純物の含有量は0.01質量%未満であるのが好ましい。
【0022】
また、本発明のリチウムイオン二次電池は、前記正極活物質が被覆した正極を有することを特徴とする。
本発明のニオブ酸リチウム溶液により被覆された正極活物質は、上述したようにリチウムイオン二次電池用正極の表面を被覆するものとして、好適であるから、本発明のニオブ酸リチウム溶液により被覆された正極活物質を正極の表面に被覆させることにより、リチウムイオン二次電池としての性能向上が図れる。
【0023】
上述した本発明のニオブ酸リチウム溶液の製造方法について、以下説明する。
【0024】
本発明のニオブ酸リチウム溶液の製造方法は、ニオブを含有する酸性ニオブ溶液を生成する工程と、前記酸性ニオブ溶液をアンモニア水に添加する逆中和法によりニオブを含有する沈殿スラリーを得る工程と、得られた前記ニオブを含有する沈殿スラリーと水酸化リチウム及び純水とを混合した混合物を撹拌しながら20℃~100℃で保持し、ニオブ酸リチウム溶液を得る工程と、を有する。
【0025】
先ず、ニオブを含有する酸性ニオブ溶液を生成する工程において、酸性ニオブ溶液は、ニオブがフッ化水素酸を含む酸性溶液に溶解した溶解液を溶媒抽出することにより得られたフッ化物イオンを含有する酸性ニオブ溶液をいう。なお、本明細書で言及するニオブは、特段の説明がない限り、ニオブ酸化合物を含むものである。
【0026】
ここで、フッ化物イオンを含有する酸性ニオブ溶液、例えばフッ化ニオブ水溶液は、水(例えば純水)を加えてニオブをNb換算で1~100g/L含有するように調整すると好ましい。この際、ニオブ濃度がNb換算で1g/L以上であると、水に溶けやすいニオブ酸化合物水和物となることから好ましく、生産性を考えた場合、10g/L以上がより好ましく、20g/L以上であるとさらに好ましい。他方、ニオブ濃度がNb換算で100g/L以下であれば、水に溶けやすいニオブ酸化合物水和物になることから好ましく、より確実に水に溶けやすいニオブ酸化合物水和物を合成するには、90g/L以下であるとより好ましく、80g/L以下であるとさらに好ましく、70g/L以下であると特に好ましい。なお、フッ化ニオブ水溶液のpHは、ニオブ乃至ニオブ酸化物を完全溶解させる観点から、2以下であると好ましく、1以下であるとより好ましい。
【0027】
次に、前記酸性ニオブ溶液をアンモニア水に添加する逆中和法によりニオブを含有する沈殿スラリーを得る工程(以下、逆中和工程という。)では、フッ化物イオンを含有する酸性ニオブ溶液を所定濃度のアンモニア水中に添加、すなわち逆中和法により、ニオブを含有する沈殿スラリーを得るのが好ましい。
【0028】
逆中和に用いるアンモニア水のアンモニア濃度は10質量%~30質量%であると好ましい。当該アンモニア濃度が10質量%であると、ニオブが溶け残りにくくなり、ニオブ乃至ニオブ酸を水に完全に溶解させることができる。他方、当該アンモニア濃度が30質量%以下であると、アンモニアの飽和水溶液付近であるから好ましい。
【0029】
かかる観点から、アンモニア水のアンモニア濃度は10質量%以上であると好ましく、15質量%以上であるとより好ましく、20質量%以上であるとさらに好ましく、25質量%であると特に好ましい。他方、当該アンモニア濃度は30質量%以下であると好ましく、29質量%以下であるとより好ましく、28質量%以下であるとさらに好ましい。
【0030】
逆中和工程の際、アンモニア水に添加するフッ化ニオブ水溶液の添加量は、NH/Nbのモル比が95以上500以下とするのが好ましく、100以上450以下とするのがより好ましく、110以上400以下とするのがさらに好ましい。また、アンモニア水に添加するフッ化ニオブ水溶液の添加量は、アミンや薄いアンモニア水に溶けるニオブ酸化合物が生成する観点から、NH/HFのモル比が3.0以上とするのが好ましく、4.0以上とするとより好ましく、5.0以上とするとさらに好ましい。他方、コスト低減の観点から、NH/HFのモル比が100以下とするのが好ましく、50以上とするとより好ましく、40以上とするとさらに好ましい。
【0031】
逆中和工程において、フッ化ニオブ水溶液のアンモニア水への添加に係る時間は、1分以内であると好ましく、30秒以内であるとより好ましく、10秒以内であるとさらに好ましい。すなわち、時間をかけて徐々にフッ化ニオブ水溶液を添加するのではなく、例えば一気に投入するなど、出来るだけ短い時間でアンモニア水へ投入し、中和反応させると好適である。また、逆中和工程では、アルカリ性のアンモニア水へ、酸性のフッ化ニオブ水溶液を添加することから、高いpHを保持したまま中和反応させることができる。なお、フッ化ニオブ水溶液及びアンモニア水は、常温のまま用いることができる。
【0032】
また、本発明のニオブ酸リチウム溶液の製造方法は、逆中和法により得られたニオブを含有する沈殿スラリーからフッ化物イオンを除去し、フッ化物イオンが除去されたニオブ含有沈殿物を得る工程を有する。逆中和法により得られたニオブを含有する沈殿スラリーには、不純物として、フッ化アンモニウムなどのフッ素化合物が存在するため、これらを除去することが好ましい。
【0033】
フッ素化合物の除去方法は任意であるが、例えばアンモニア水や純水を用いた逆浸透ろ過、限外ろ過、精密ろ過などの膜を用いたろ過による方法や、遠心分離、その他の公知の方法を採用することができる。なお、ニオブを含有する沈殿スラリーからフッ化物イオンを除去する際、温度調節は特に必要なく、常温で実施してもよい。
【0034】
具体的には、逆中和法により得られたニオブを含有する沈殿スラリーを、遠心分離機を用いてデカンテーションし、遊離したフッ化物イオン量が100mg/L以下になるまで洗浄を繰り返すことにより、フッ化物イオンが除去されたニオブ含有沈殿物が得らえる。
【0035】
フッ化物イオンの除去に用いられる洗浄液はアンモニア水であると好適である。具体的には、5.0質量%以下のアンモニア水が好ましく、4.0質量%以下のアンモニア水がより好ましく、3.0質量%以下のアンモニア水がさらに好ましく、2.5質量%のアンモニア水が特に好ましい。5.0質量%以下のアンモニア水であると、アンモニア、アンモニウムイオンがフッ素に対して適切であり不要なコストの増加を回避することができる。
【0036】
このようにして、得られたフッ化物イオンが除去されたニオブ含有沈殿物を純水などで希釈することにより、フッ化物イオンが除去された、ニオブを含有する沈殿スラリーが得られる。なお、当該ニオブを含有する沈殿スラリーのニオブ濃度は、当該スラリーの一部を採取し、110℃で24時間乾燥させた後、1,000℃で4時間焼成し、Nbを生成する。このように生成したNbの重量を測定し、その重量から当該スラリーのニオブ濃度を算出することができる。
【0037】
そして、フッ化物イオンが除去された、前記ニオブを含有する沈殿スラリーと水酸化リチウム--一水和物とを混合した混合物を撹拌しながら20℃~100℃で保持することにより、本発明のニオブ酸リチウム溶液が得られる。
【0038】
具体的には、最終的な混合物のニオブ酸リチウム濃度がNb換算で0.1~30質量%、且つリチウムとニオブのモル比Li/Nbが0.8以上2.0以下となるように、得られた前記ニオブを含有する沈殿スラリーを、水酸化リチウム一水和物と混合することにより、半透明白色スラリーが得られる。当該半透明白色スラリーを撹拌しながら、液温を50℃~100℃(例えば、70℃)に1時間~24時間保持することにより、本発明の無色透明なニオブ酸リチウム溶液が得られる。また、前記ニオブを含有する沈殿スラリーと水酸化リチウム一水和物とを混合した混合物に、純水や、アルカリ性水溶液、例えばアンモニア水を添加して、混合してもよい。当該混合物に、添加されるアンモニア水のアンモニア濃度は、任意の濃度であればよい。例えば、0.1質量%以上30質量%以下であればよく、10質量%以上25質量%以下であればよい。
【0039】
さらに、得られたニオブ酸リチウム溶液を室温まで放冷する。なお、本発明のニオブ酸リチウム溶液を乾燥させることにより、ニオブ酸リチウム粉末を得ることができる。
【0040】
上述した製造方法により、得られた本発明のニオブ酸リチウム溶液のpHが9以上であると、当該ニオブ酸リチウム溶液が安定する点で好ましい。さらに、本発明のニオブ酸リチウム溶液のpHが10以上であるとより好ましく、10.5以上であるとさらに好ましく、11以上であると特に好ましい。
【0041】
さらに、上述した本発明のニオブ酸リチウム溶液が被覆したリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造する方法について、以下説明する。
【0042】
ニオブ酸リチウム溶液が被覆したリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、ニオブ酸リチウム溶液と、正極活物質と、水酸化リチウム水溶液とを混合して、ニオブ酸リチウムを含有する電池用正極活物質スラリーを生成する工程と、前記ニオブ酸リチウムを含有する電池用正極活物質スラリーを乾燥する工程と、を有することを特徴とする。
【0043】
先ず、本発明のニオブ酸リチウム溶液を純水で希釈したニオブ酸リチウム水溶液中に、電池用正極活物質、例えばLiMn(メルク社製:スピネル型、粒径<0.5μm)を添加することにより、ニオブ酸リチウムを含有するスラリーが得られる。そして、ニオブ酸リチウムを含有するスラリーを撹拌しながら、水酸化リチウム水溶液を滴下し、10分間90℃に保持することにより、ニオブ酸リチウムを含有する電池用正極活物質スラリーが生成される。
【0044】
電池用正極活物質等として、上述したLiMnの他、LiCoO、LiNiO、LiFeO、LiMnO、LiFePO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPO、LiNi0.5Mn1.5、LiMn1/3Co1/3Ni1/3、LiCo0.2Ni0.4Mn0.4、モリブデン酸リチウム、LiMnO、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiMnOを用いることができる。
【0045】
次に、ニオブ酸リチウムを含有する電池用正極活物質スラリーを、炉内温度を110℃で保持し、15時間に亘って大気乾燥炉内で乾燥させることにより、ニオブ酸リチウムにより被覆されたリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造することができる。
【0046】
なお、上述したリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法では、電池用正極活物質を添加したが、適宜用途に合わせて変更してもよい。例えば、分散剤、pH調整剤、着色剤、増粘剤、湿潤剤、バインダー樹脂等を添加してもよい。
【発明の効果】
【0047】
本発明のニオブ酸リチウム溶液は、水への分散性が高く、水に対する溶解性も良好で、且つ保存安定性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明に係る実施形態のニオブ酸リチウム溶液について、以下の実施例によりさらに説明する。但し、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0049】
(実施例1)
五酸化ニオブ100gを55%フッ化水素酸水溶液200gに溶解させ、イオン交換水を830mL添加することによって、ニオブをNb25換算で100g/L含有する(Nb25=8.84質量%)フッ化ニオブ水溶液を得た。このフッ化ニオブ水溶液200mLを、アンモニア水(NH3濃度25質量%)1Lに、1分間未満の時間で添加して(NH3/Nb25モル比=177.9、NH3/HFモル比=12.2)、反応液(pH11)を得た。この反応液はニオブ酸化合物水和物のスラリー、言い換えればニオブ含有沈殿物のスラリーであった。
【0050】
次に、この反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、遊離したフッ化物イオン量が100mg/L以下になるまで洗浄して、当該フッ化物イオンを除去したニオブ含有沈殿を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
【0051】
さらに、当該フッ化物イオンを除去したニオブ含有沈殿を純水で希釈しスラリーを得た。このスラリーの一部を110℃で24時間乾燥後、1,000℃で4時間焼成することでNb25を生成し、その重量からスラリーに含まれるNb25濃度を算出した。
【0052】
そして、純水で希釈したニオブ含有沈殿のスラリーを、最終的な混合物のニオブ濃度がNb換算で1質量%、且つLi/Nbのモル比が1となるように、水酸化リチウム一水和物と純水とを混合することにより、半透明色なスラリー混合物を得た。この混合物を撹拌しながら、液温が50℃~100℃、例えば70℃となるように1時間保持した後、実施例1に係る無色透明なニオブ酸リチウム水溶液を得た。得られた実施例1に係るニオブ酸リチウム水溶液のpHは11であった。
【0053】
(実施例2)
実施例2では、半透明色なスラリー混合物のニオブ濃度がNb換算で5質量%とした以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例2に係る無色透明なニオブ酸リチウム水溶液を得た。得られた実施例2に係るニオブ酸リチウム水溶液のpHは11であった。
【0054】
(実施例3)
実施例3では、半透明色なスラリー混合物のニオブ濃度がNb換算で10質量%とした以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例3に係る無色透明なニオブ酸リチウム水溶液を得た。得られた実施例3に係るニオブ酸リチウム水溶液のpHは11であった。
【0055】
(実施例4)
実施例4では、半透明色なスラリー混合物のニオブ濃度がNb換算で20質量%とした以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例4に係る無色透明なニオブ酸リチウム水溶液を得た。得られた実施例4に係るニオブ酸リチウム水溶液のpHは11であった。
【0056】
(実施例5)
実施例5では、半透明色なスラリー混合物のニオブ濃度がNb換算で10質量%とし、且つLi/Nbのモル比が2とした以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例5に係る無色透明なニオブ酸リチウム水溶液を得た。得られた実施例5に係るニオブ酸リチウム水溶液のpHは11であった。
【0057】
(実施例6)
実施例6では、半透明色なスラリー混合物のニオブ濃度がNb換算で10質量%とし、且つLi/Nbのモル比が0.9とした以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例6に係る無色透明なニオブ酸リチウム水溶液を得た。得られた実施例6に係るニオブ酸リチウム水溶液のpHは11であった。
【0058】
(実施例7)
実施例7では、実施例1で得られた半透明色なスラリー混合物をウォーターバスで70℃に加熱し、撹拌しながら2時間保持した後、室温まで冷却した。この加熱によって、蒸発した水分を補給するため、純水を添加し、無色透明なスラリー混合物のニオブ濃度がNb換算で5質量%となるように濃度調節を行い、実施例7に係る無色透明なニオブ酸リチウム水溶液を得た。得られた実施例7に係るニオブ酸リチウム水溶液のpHは11であった。
【0059】
(実施例8)
実施例8では、実施例1で得られた半透明色なスラリー混合物をウォーターバスで70℃に加熱し、撹拌しながら6時間保持した後、室温まで冷却した。この加熱によって、蒸発した水分を補給するため、純水を添加し、無色透明なスラリー混合物のニオブ濃度がNb換算で5質量%となるように濃度調節を行い、実施例8に係る無色透明なニオブ酸リチウム水溶液を得た。得られた実施例8に係るニオブ酸リチウム水溶液のpHは11であった。
【0060】
(実施例9)
実施例9では、実施例1で得られた半透明色なスラリー混合物をウォーターバスで70℃に加熱し、撹拌しながら25時間保持した後、室温まで冷却した。この加熱によって、蒸発した水分を補給するため、純水を添加し、無色透明なスラリー混合物のニオブ濃度がNb換算で5質量%となるように濃度調節を行い、実施例9に係る無色透明なニオブ酸リチウム水溶液を得た。得られた実施例9に係るニオブ酸リチウム水溶液のpHは11であった。
【0061】
(実施例10)
実施例10では、半透明色なスラリー混合物のニオブ濃度がNb換算で5質量%、且つNH濃度が5.5質量%となるように、実施例1に係るニオブ含有沈殿のスラリーと、水酸化リチウム一水和物及び純水を混合する際、当該純水の一部をアンモニア水(NH濃度25質量%)に置き換えたこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例10に係る無色透明なニオブ酸リチウム水溶液を得た。得られた実施例10に係るニオブ酸リチウム水溶液のpHは11であった。
【0062】
(実施例11)
実施例11では、半透明色なスラリー混合物のニオブ濃度がNb換算で5質量%、且つNH濃度が10質量%となるように、実施例1に係るニオブ含有沈殿のスラリーと、水酸化リチウム一水和物及び純水を混合する際、当該純水の一部をアンモニア水(NH濃度25質量%)に置き換えたこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例11に係る無色透明なニオブ酸リチウム水溶液を得た。得られた実施例11に係るニオブ酸リチウム水溶液のpHは11であった。
【0063】
(実施例12)
実施例12では、実施例1で得られた半透明色なスラリー混合物をウォーターバスで70℃に加熱し、撹拌しながら6時間保持した後、室温まで冷却した。この加熱によって、蒸発した水分を補給するため、純水を添加し、無色透明なスラリー混合物のニオブ濃度がNb換算で10質量%となるように濃度調節を行い、実施例12に係る無色透明なニオブ酸リチウム水溶液を得た。得られた実施例12に係るニオブ酸リチウム水溶液のpHは11であった。
【0064】
(実施例13)
実施例13では、半透明色なスラリー混合物のニオブ濃度がNb換算で10質量%、且つNH濃度が8.2質量%となるように、実施例1に係るニオブ含有沈殿のスラリーと、水酸化リチウム一水和物及び純水を混合する際、当該純水の一部をアンモニア水(NH濃度25質量%)に置き換えたこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例13に係る無色透明なニオブ酸リチウム水溶液を得た。得られた実施例13に係るニオブ酸リチウム水溶液のpHは11であった。
【0065】
(比較例1)
比較例1では、実施例1に係る無色透明なニオブ酸リチウム水溶液に、35%過酸化水素水をH/Nbのモル比が0.3となるように加え、比較例1に係るニオブ酸リチウム水溶液を得た。得られた比較例1に係るニオブ酸リチウム水溶液のpHは11であった。
【0066】
(比較例2)
比較例2では、実施例1に係る無色透明なニオブ酸リチウム水溶液に、35%過酸化水素水をH/Nbのモル比が1となるように加え、比較例2に係るニオブ酸リチウム水溶液を得た。得られた比較例2に係るニオブ酸リチウム水溶液のpHは8であった。
【0067】
(比較例3)
比較例3では、上述したフッ化ニオブ水溶液を、1%水酸化リチウム水溶液500mLに対して、ゆっくりと添加し、Nb含有量が5質量%、Li/Nbのモル比が1である微粒子分散液を得た。そして、この微粒子分散液に対して、限外ろ過装置を用いて、遊離したフッ化物イオン量が100mg/Lになるまでろ過洗浄し、比較例3に係るニオブ酸リチウムゾルを得た。得られた比較例3に係るニオブ酸リチウムゾルのpHは8.6であった。
【0068】
(比較例4)
比較例4では、実施例1で得られた半透明色なスラリー混合物をウォーターバスで70℃に加熱し、撹拌しながら73時間保持した後、室温まで冷却した。なお、この73時間加熱したことにより、沈殿物が生じたことを確認した。この加熱によって、蒸発した水分を補給するため、純水を添加し、スラリー混合物のニオブ濃度がNb換算で5質量%となるように濃度調節を行い、比較例4に係るニオブ酸リチウム水溶液を得た。得られた比較例4に係るニオブ酸リチウム水溶液のpHは11であった。
【0069】
そして、実施例1~13、及び比較例1、2、4において得られたニオブ酸リチウム水溶液、また比較例3のニオブ酸リチウムゾルについて、次のような物性を測定した。以下、測定した物性値、及びその物性値の測定方法を示すとともに、測定結果を表1に示す。
【0070】
〈元素分析〉
必要に応じて試料を希塩酸で適度に希釈し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)を用いて、JIS K0116:2014に準拠し、Nb換算のNb重量分率と、Li重量分率とを測定した。
【0071】
〈アンモニア定量分析〉
水酸化ナトリウム溶液(30g/100ml)25mlを試料溶液1~5mlに加え、この混合液を沸騰させて蒸留し、その蒸留液(約200ml)を純水20mlと硫酸0.5mlとを入れた容器に流出させることによりアンモニアを分離した。次に、分離したアンモニアを250mlのメスフラスコに転移し純水で250mlに定容した。さらに、250mlに定容した溶液を100mlのメスフラスコに10ml分取し、分取した溶液に、水酸化ナトリウム溶液(30g/100mL)1mlを加え、純水で100mlに定容した。このようにして得られた溶液をイオンメータ(本体:HORITA F-53、電極:HORIBA 500 2A)を用いて定量分析することにより、溶液中に含まれるアンモニウムイオン濃度(質量%)を測定した。
【0072】
〈過酸化水素定性分析〉
過酸化水素が添加されてない標準液と、H換算で1質量%となるように過酸化水素が添加された標準液との紫外可視吸光スペクトルをそれぞれ測定し、吸光度の変化率の最も大きな波長を「λ」とした。次に、過酸化水素濃度が不明な試料について、波長λにおける吸光度を同様に測定し、過酸化水素濃度が不明な試料の波長λにおける吸光度と過酸化水素が添加されてない標準液の波長λにおける吸光度との比が1%以下である場合、当該試料に過酸化水素は添加されていないと判断した。
【0073】
紫外可視吸光スペクトルの測定条件は、次のようであればよい。
・装置:UH4150形分光光度計(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
・測定モード:波長スキャン
・データモード:%T(透過)
・測定波長範囲:200~2,600nm
・スキャンスピード:600nm/min
・サンプリング間隔:2nm
【0074】
〈動的光散乱法〉
粒度分布の評価は、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(大塚電子株式会社製:ELSZ-2000)を用いて、JIS Z 8828:2019「粒子径解析-動的光散乱法」に準拠して実施した。また、測定直前に測定対象である溶液中の埃等を除去するため、2μm孔径のフィルタで当該溶液を濾過し、超音波洗浄機(アズワン社製:VS-100III)にて28kHz、3分間の超音波処理を実施した。なお、粒子径(D50)は、積算分布曲線の50%積算値を示す粒子径であるメジアン径(D50)をいう。表1の「初期粒子径D50(nm)」とは、生成された直後のニオブ酸リチウム水溶液中のニオブ酸リチウム粒子径(D50)をいう。また、表1の「経時粒子径D50(nm)」とは、室温25℃に設定した恒温器内で1カ月静置した後のニオブ酸リチウム水溶液中のニオブ酸リチウム粒子径(D50)をいう。
【0075】
〈経時安定性試験〉
実施例1~13、及び比較例1、2、4のニオブ酸リチウム水溶液、また比較例3のニオブ酸リチウムゾルを室温25℃に設定した恒温器内で1カ月間静置した後、白色沈殿やゲル化の有無を目視観察することにより行った。白色沈殿やゲル化が一つも観察されなかったものは経時安定性を有するとして「○」と評価し、白色沈殿やゲル化が一つでも観察されたものは経時安定性を有しないとして「×」と評価した。ここで、ゲル化の判定は、各タンタル酸化合物分散液をプラスチック容器に入れ、当該容器を逆さまにした際、速やかに落下しない分散液をゲル化していると判定した。また、1カ月静置後の実施例1~13、及び比較例1、2、4のニオブ酸リチウム水溶液中、また比較例3のニオブ酸リチウムゾル中のニオブ酸リチウムの経時粒子径(D50)を、上述した動的光散乱法を用いて測定した。
【0076】
〈成膜性試験〉
集電板の代替品であるガラス基板の表面に形成した塗膜の外観評価を光学顕微鏡で観察することによって行った。実施例1~13、及び比較例1、2、4のニオブ酸リチウム水溶液、また比較例3のニオブ酸リチウムゾルを2μm孔径のフィルタで濾過しながらシリンジを用いて、アセトンにより脱脂洗浄した後、乾燥を行った50mm×50mmのガラス基板に滴下し、スピンコート(1,500rpm、15秒)により、塗布した。そして、塗布した箇所を、自然乾燥することにより、ガラス基板上に塗膜を形成した。形成した塗膜の中央15mm×15mmの範囲において、光学顕微鏡(倍率:40倍)で当該ガラス基板を観察し、気泡、塗工ムラ、ひび割れが、一つも観察されなかったものは成膜性に優れているとして「○」と評価し、一つでも観察されたものを成膜性に優れていないとして「×」と評価した。
【0077】
〈安全性試験〉
実施例1~13、及び比較例1、2、4のニオブ酸リチウム水溶液、また比較例3のニオブ酸リチウムゾルを正極活物質に添加した際における発泡の有無を目視観察し、評価した。実施例1~13、及び比較例1、2、4のニオブ酸リチウム水溶液、また比較例3のニオブ酸リチウムゾル50mLを、試験容器中の正極活物質であるマンガン酸リチウム5gに全量をまとめて混合した際における発泡の有無を目視観察した。発泡が一つも観察されなかったものは安全性を有するとして「○」と評価し、発泡が一つでも観察されたものは安全性を有しないとして「×」と評価した。
【0078】
〈正極活物質の生成方法〉
実施例1~13、及び比較例1、2、4のニオブ酸リチウム水溶液、また比較例3のニオブ酸リチウムゾルにより被覆された正極活物質について、被覆観察を行うとともに、被覆量を測定した。被覆観察、及び被覆量測定を行った正極活物質は、以下のような生成手順により生成した。
【0079】
室温25℃で1カ月静置した後のニオブ酸リチウム水溶液を、ニオブ濃度がNbに換算して2.3質量%になるように純水で希釈した。また、1カ月静置した後のニオブ酸リチウム水溶液中のニオブ濃度がNbに換算して2.3質量%未満である場合、希釈を行わなかった。希釈したニオブ酸リチウム水溶液中に、正極活物質(マンガン酸リチウム)をニオブ/マンガン酸リチウムの重量比が2/100となるように加えることにより、ニオブ酸リチウムを含有する正極活物質スラリーを得た。次に、得られたニオブ酸リチウムを含有する正極活物質スラリーを撹拌しながら、水酸化リチウム水溶液0.4mol/Lを、最終的なLi/Nbのモル比が2となるように滴下し、液温を90℃に保持した状態で、10分間撹拌した。そして、得られたニオブ酸リチウムを含有する正極活物質スラリーを、大気乾燥炉内で、110℃で15時間に亘り乾燥させることにより、ニオブ酸リチウムにより被覆された正極活物質を得た。
【0080】
〈被覆観察〉
ニオブ酸リチウムにより被覆された正極活物質の粒子表面の被覆状態を走査電子顕微鏡(SEM)で観察することにより評価した。走査電子顕微鏡(SEM)を用い、加速電圧1kVの条件下で、倍率50,000倍のSEM像(20μm×20μm)を5画面観察し、当該正極活物質の粒子表面の被覆状態を観察した。上述した観察条件下で、粒子の表面1μm四方に被覆できていない箇所が1カ所も観察されなったものを「○」とし、1カ所でも観察されたものを「×」と評価した。
【0081】
〈被覆量の測定〉
ニオブ酸リチウムにより被覆された正極活物質に対して、適量のフッ酸を添加することにより、正極活物質の表面を被覆するニオブ酸リチウムが溶解した溶解液を得た。そして、当該溶解液に対して、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)を用いて、JIS K0116:2014に準拠し、正極活物質の表面を被覆するニオブ酸リチウムが溶解した溶解液中のニオブ重量分率濃度を測定して算出した。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示す通り、実施例1~13に係るニオブ酸リチウム水溶液は、リチウムとニオブのモル比Li/Nbが0.8以上2.0以下であり、また当該水溶液中の動的光散乱法によるニオブ酸リチウム粒子径(D50)が100nm以下であると、経時安定性試験、成膜性試験、及び安全性試験の結果全てにおいて、良好な結果が得られた。
【0084】
実施例1~13に係るニオブ酸リチウム水溶液は、当該水溶液中に過酸化水素が含まれていないが、1カ月経過した後であっても、ニオブ酸リチウムの経時粒子径(D50)は初期粒子径(D50)と比して大きな差は見られず、経時安定性に優れるものであった。なお、比較例2に係るニオブ酸リチウム水溶液中のニオブ酸リチウムの初期粒子径(D50)及び経時粒子径(D50)は、ゲル化のため測定が不可能であった。また、比較例4に係るニオブ酸リチウム水溶液は、沈殿物が生成されていることを確認し、ニオブ酸リチウムの初期粒子径(D50)及び経時粒子径(D50)の測定は行わなかった。
【0085】
実施例1~13に係るニオブ酸リチウム水溶液は、当該水溶液中のニオブ酸リチウム濃度が0.1~30質量%であると、長期保管時の安定性が向上した。
【0086】
実施例1~13に係るニオブ酸リチウム水溶液により被覆された正極活物質は、その粒子表面の被覆状態をSEM観察した結果、当該ニオブ酸リチウムにより完全に被覆された状態であることを確認することができた。また、それらの正極活物質の表面を被覆するニオブ酸リチウムのニオブ重量分率濃度は1.0質量%以上であった。一方、比較例1に係るニオブ酸リチウム水溶液により被覆された正極活物質の表面を被覆するニオブ酸リチウムのニオブ重量分率濃度は1.0質量%であったが、その粒子表面の被覆状態をSEM観察した結果、被覆されていない箇所が観察された。
【0087】
本明細書開示の発明は、各発明や実施形態の構成の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを含む。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明に係るニオブ酸リチウム水溶液は、水への分散性が高く、水に対する溶解性も良好で、且つ保存安定性も優れていることから、リチウムイオン二次電池の正極活物質を被覆するものとして好適である。