IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立国際電気の特許一覧

<>
  • 特許-レーダーシステム 図1
  • 特許-レーダーシステム 図2
  • 特許-レーダーシステム 図3
  • 特許-レーダーシステム 図4
  • 特許-レーダーシステム 図5
  • 特許-レーダーシステム 図6
  • 特許-レーダーシステム 図7
  • 特許-レーダーシステム 図8
  • 特許-レーダーシステム 図9
  • 特許-レーダーシステム 図10
  • 特許-レーダーシステム 図11
  • 特許-レーダーシステム 図12
  • 特許-レーダーシステム 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】レーダーシステム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/95 20060101AFI20241114BHJP
   G01S 13/86 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
G01S13/95
G01S13/86
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023549247
(86)(22)【出願日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2021035039
(87)【国際公開番号】W WO2023047522
(87)【国際公開日】2023-03-30
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋介
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-085476(JP,A)
【文献】特開2013-083540(JP,A)
【文献】特開2001-201571(JP,A)
【文献】特開2000-275340(JP,A)
【文献】特開2004-040514(JP,A)
【文献】特開平10-227853(JP,A)
【文献】特開2004-037474(JP,A)
【文献】特開2014-081311(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0043185(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/51
G01S 13/00 - 13/95
G01S 17/00 - 17/95
G01C 3/00 - 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダー送信波の反射波に対するコヒーレント積分の結果に基づいて監視エリア内に存在する物体を検出するレーダー装置と、前記レーダー装置によって検出された物体を撮影するためのカメラ装置とを備えたレーダーシステムにおいて、
前記レーダー装置は、送信電力増幅器を監視して送信電力を測定する送信特性取得部と、受信電力増幅器を監視して受信利得を測定する受信特性取得部とを備えており、当該レーダー装置に関して得られた気象データに基づいて、前記監視エリアの走査時間あたりのコヒーレント積分の回数を制御し、更に、前記送信特性取得部と前記受信特性取得部による測定値の変動分に応じて、受信S/Nの低下分を補うようにコヒーレント積分の回数を調整し、前記監視エリア内に存在する物体が検出された場合に、当該レーダー装置に対する物体の角度の情報および物体の距離の情報を取得して前記カメラ装置へ送信し、
前記カメラ装置は、前記レーダー装置から受信した物体の角度の情報に従って旋回し、前記レーダー装置から受信した物体の距離の情報に従って焦点を調整した上で、前記レーダー装置によって検出された物体の撮影を行うことを特徴とするレーダーシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダーシステムにおいて、
前記気象データは気温または降雨量を含み、
前記レーダー装置は、前記気温または降雨量に基づいて、前記監視エリアの走査時間あたりのコヒーレント積分の回数を制御することを特徴とするレーダーシステム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のレーダーシステムにおいて、
前記レーダー装置は、受信S/Nの経時的変化を観測して、受信S/Nが変動する要因が、気象による影響、送信系又は受信系の性能変化による影響、設置状態の変化による影響のいずれであるかを分析することを特徴とするレーダーシステム。
【請求項4】
レーダー送信波の反射波に対するコヒーレント積分の結果に基づいて監視エリア内に存在する物体を検出する複数のレーダー装置と、前記複数のレーダー装置のいずれかによって検出された物体を撮影するためのカメラ装置とを備えたレーダーシステムにおいて、
気象データを取得する気象計と、
前記複数のレーダー装置を制御するレーダー制御装置とを備え、
前記レーダー制御装置は、前記気象計により得られた気象データに基づいて、前記複数のレーダー装置に対し、前記監視エリアの走査時間あたりのコヒーレント積分の回数を制御するための制御信号を送信し、
前記複数のレーダー装置は、それぞれ、送信電力増幅器を監視して送信電力を測定する送信特性取得部と、受信電力増幅器を監視して受信利得を測定する受信特性取得部とを備えており、前記レーダー制御装置から受信した制御信号に基づいて、前記監視エリアの走査時間あたりのコヒーレント積分の回数を制御し、更に、前記送信特性取得部と前記受信特性取得部による測定値の変動分に応じて、受信S/Nの低下分を補うようにコヒーレント積分の回数を調整し、
前記監視エリア内に存在する物体を検出したレーダー装置は、当該レーダー装置に対する物体の角度の情報および物体の距離の情報を取得して前記カメラ装置へ送信し、
前記カメラ装置は、前記レーダー装置から受信した物体の角度の情報に従って旋回し、前記レーダー装置から受信した物体の距離の情報に従って焦点を調整した上で、前記レーダー装置によって検出された物体の撮影を行うことを特徴とするレーダーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信波に対する反射波の受信結果に基づいて監視エリア内に存在する物体を検出するレーダー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波やミリ波帯などを用いたレーダー装置として、図1のような構造のFMCW(Frequency Modulated Continuous-Wave)レーダー装置がある。
図1のレーダー装置100は、FMCW送信源101からの周波数変調されたレーダー信号を、送信電力増幅器103で増幅し、送信アンテナ104から発射する。レーダー装置100の監視エリア内に物体T(反射物)が存在する場合には、レーダー送信波が物体Tで反射される。物体Tからの反射波は、レーダー装置100の受信アンテナ105で受信され、受信電力増幅器106で増幅された後、電力分配器102からの送信レーダー信号成分と混合器107によってミキシングされ、IF信号に変換される。混合器107から出力されたIF信号は、信号処理部108でA/D変換及び信号処理される。その結果として、物体Tによる反射受信電力(反射波電力)、物体Tまでの距離、物体Tの方位、物体Tが移動している場合の速度(レーダー装置100に対する相対速度)等のレーダー検出結果が得られる。
【0003】
ここで、本発明に係る技術分野の従来技術としては、以下のようなものがある。例えば、特許文献1には、移動体にミリ波レーダーを設置し、目標位置の近くにそれぞれ設置された第1の反射体と第2の反射体との間の距離と、これら反射体からの反射波の受信結果に基づいて、目標位置までの距離を測定する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2017/018021号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーダー装置の使用用途として、監視対象となる道路や滑走路などの路面上に存在する物体を検出する用途がある。道路や滑走路上には通常、落下物や放置物などの反射物は存在しない。そのため、レーダー装置は、反射物が存在しない監視エリアに対してレーダー送信波を送り続け、何らかの反射物が監視エリア内に現れた場合にのみ受信波(反射波)が得られ、その物体が検出される。
【0006】
反射波の受信電力値は、レーダー装置と物体の間の距離、物体の種類、物体の形状などによって決定される。また、レーダー装置は、システム諸元によって決定されるノイズフロア値を有しており、物体による反射波の受信電力値がノイズフロア値以下の場合には、その物体を検出することができない。受信電力値とノイズフロア値との比を受信S/Nと呼ぶことができ、受信S/Nが大きいほど誤検出を減らすことが可能である。
【0007】
ここで、受信S/Nは、気象条件によっても変動する。例えば、レーダー装置を構成する各種デバイスは各々固有の温度特性を有しており、送信電力や受信利得は気温によって変化する。このため、受信S/N自体が温度特性を持つことになる。また、受信S/Nは、降雨又は降雪によっても変動する。更に、空間における降雪又は降雨の影響のほか、レーダー装置や物体(検知対象物)に付着した雨又は雪の影響でも、受信S/Nは変動する。このように、受信S/Nは気象条件によって変動する。そして、受信S/Nが小さい場合には誤検出が増加し、検出結果の不安定性を招く恐れがある。
【0008】
本発明は、上記のような従来の事情に鑑みて為されたものであり、レーダー装置の物体検出性能が気象条件によって低下することを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の一態様であるレーダー装置は、以下のように構成される。
すなわち、レーダー送信波の反射波に対するコヒーレント積分の結果に基づいて監視エリア内に存在する物体を検出するレーダー装置において、当該レーダー装置に関して得られた気象データに基づいて、監視エリアの掃引時間あたりのコヒーレント積分の回数を制御することを特徴とする。
【0010】
ここで、本発明に係るレーダー装置において、気象データは気温を含み、気温に基づいて、監視エリアの走査時間あたりのコヒーレント積分の回数を制御するように構成され得る。
【0011】
また、本発明に係るレーダー装置において、気象データは降雨量を含み、降雨量に基づいて、監視エリアの走査時間あたりのコヒーレント積分の回数を制御するように構成され得る。
【0012】
また、本発明に係るレーダー装置において、監視エリア内に設置された基準反射体によるレーダー送信波の反射波の受信電力値に基づいて、降雨量を推定するように構成され得る。
【0013】
また、本発明の一態様であるレーダーシステムは、以下のように構成される。
すなわち、レーダー送信波の反射波に対するコヒーレント積分の結果に基づいて監視エリア内に存在する物体を検出する複数のレーダー装置を有するレーダーシステムにおいて、気象データを取得する気象計と、複数のレーダー装置を制御するレーダー制御装置とを備え、レーダー制御装置は、気象計により得られた気象データに基づいて、複数のレーダー装置に対し、監視エリアの走査時間あたりのコヒーレント積分の回数を制御するための制御信号を送信することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、レーダー装置の物体検出性能が気象条件によって低下することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】レーダー装置の構成例を示す図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るレーダーシステムの概要を示す図である。
図3】レーダー送信波の反射波信号を信号処理して得られたスペクトラムの例を示す図である。
図4】レーダー送信波の反射波信号を信号処理して得られたスペクトラムの別の例を示す図である。
図5】レーダー装置を構成するデバイスの温度特性の例を示す図である。
図6】コヒーレント積分回数の調整に係る機能ブロックの例を示す図である。
図7】コヒーレント積分回数の変更について説明する図である。
図8】コヒーレント積分回数の連続的な変更の例を示す図である。
図9】アンテナ回数速度の連続的な変更の例を示す図である。
図10】コヒーレント積分回数の離散的な変更の例を示す図である。
図11】アンテナ回数速度の離散的な変更の例を示す図である。
図12】本発明の第2実施形態に係るレーダーシステムの概要を示す図である。
図13】降雨による反射波の受信電力値の変化例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係るレーダーシステムについて、図面を参照して説明する。
図2には、本発明の第1実施形態に係るレーダーシステムの概要を示してある。本例のレーダーシステムは、所定の監視エリアRに向けて設置されたレーダー装置120及びカメラ装置140を含むセンサー装置200と、制御室や監視室などに設置されたレーダー制御装置300及び表示装置400と、センサー装置200に併設された気象計500とを備えている。図2では、説明の簡略化のためにセンサー装置200及び気象計500を1台のみ示しているが、これらの台数は任意である。
【0017】
レーダー装置120の基本となる構成は、レーダー装置100と同様である。すなわち、レーダー装置120は、監視エリアRに対して送信アンテナ104からレーダー送信波を送信し、レーダー送信波の反射波を受信アンテナ105で受信する。なお、送信アンテナ104及び受信アンテナ105は、別々のアンテナであってもよく、これらを一体化したアンテナであってもよい。レーダー装置120は、信号処理部108にて、受信した反射波信号に対してFFT(Fast Fourier Transform;高速フーリエ変換)やコヒーレント積分などの信号処理を施し、得られたレーダー検出結果をレーダー制御装置300に送信する。レーダー制御装置300は、レーダー装置120から受信したレーダー検出結果に基づいて、監視エリアR内に存在する物体X(落下物や放置物)の検出情報を表示装置400に表示させる。
【0018】
ここで、レーダー装置120の監視エリアRは、監視対象となる道路や滑走路などの路面上の所定区間であり、レーダー装置120のアンテナ角度は監視エリアRを包含するように設定される。レーダー装置120から物体Xまでの距離は、物体Xからの反射波を信号処理することで算出することができる。また、レーダー装置120のアンテナが機械的に回転している場合は、アンテナの回転角度情報に基づいて、レーダー装置120に対する物体Xの角度(方位)を特定することができる。或いは、レーダー装置120のアンテナから発射するレーダー送信波のビームの角度が電子的に走査されている場合は、ビームの走査角度情報に基づいて、レーダー装置120に対する物体Xの角度(方位)を特定することができる。
【0019】
レーダー装置120によって得られた距離及び角度の情報は、レーダー制御装置300を経由してカメラ装置140に送信される。カメラ装置140は、レーダー装置120によって得られた角度の情報に従って旋回し、レーダー装置120によって得られた距離の情報に従って焦点を調整する。これにより、カメラ装置140の画角内に物体Xが収まることになる。その後、カメラ装置140は、物体Xを撮影して映像データを表示装置400に送信する。表示装置400は、カメラ装置140から受信した映像データに基づき、物体Xを含む映像を表示する。
【0020】
図3には、レーダー送信波の反射波信号を信号処理して得られたスペクトラムの例を示してある。路面上に何らかの物体が存在する場合には、図3に示すように、物体の位置に対応する箇所に大きい受信電力値を持つスペクトラムが現れる。前述したように、反射波の受信電力値は、レーダー装置と物体の間の距離、物体の種類、物体の形状などによって決定される。また、レーダー装置は、システム諸元によって決定されるノイズフロア値を有しており、物体による反射波の受信電力値がノイズフロア値以下の場合には、その物体を検出することができない。受信電力値とノイズフロア値との比を受信S/Nと呼ぶことができ、受信S/Nが大きいほど誤検出を減らすことが可能である。
【0021】
図4には、受信S/Nが劣化した場合のスペクトラムの例を示してある。図4では図3と同じ物体を観測しているが、図3に比べて受信S/Nが劣化している。受信S/Nが小さい場合には誤検出が増加し、検出結果の不安定性を招く恐れがある。前述したように、受信S/Nは気象条件によって変動する。そこで、本システムでは、レーダー装置120と略同じ位置に気象計500を設置し、気象計500により観測された気象データに基づいて、気象条件による受信S/Nの劣化を抑制するようにした。以下、その仕組みについて具体的に説明する。
【0022】
気象条件による受信S/N変動の一要因として、レーダー装置120を構成する送信電力増幅器103や受信電力増幅器106などの各デバイスが持つ温度特性が考えられる。各デバイスの温度特性は、図5に示すように、高温環境下(K2付近)では送信電力及び受信利得が減少し、低温環境下(K1付近)では送信電力及び受信利得が増加することが一般的である。そのため、高温環境下(K2付近)では、送信電力や受信利得の低下により、常温環境下(K0付近)に比べて受信S/Nが低下してしまう。ここで、K1,K2,K3は、予め設定された基準値であり、K1<K0<K2の関係を有する。
【0023】
受信S/Nを改善する方法の一つとして、コヒーレント積分が知られている。物体による反射波を時間領域で積分する回数をnとした場合、受信S/Nを10×log(n)だけ改善することが可能である。したがって、コヒーレント積分を適切に使用することで、気象条件による受信S/Nの低下分を補うことができる。
【0024】
図6には、コヒーレント積分回数の調整に係る機能ブロックの例を示してある。なお、図6では、コヒーレント積分回数の調整に直接的な関わりがない機能ブロックを省略してある。本例のレーダー装置120は、図1に示した機能ブロックに加え、送信特性取得部121と、受信特性取得部122と、コヒーレント積分調整部123を備えている。また、レーダー装置120に併設された気象計500は、レーダー装置120の実環境における気温、湿度、風量、気圧などを観測し、観測結果を含む気象データをレーダー装置120に提供する。
【0025】
送信特性取得部121は、送信電力増幅器103に付随させて設けてあり、送信電力増幅器103を常時監視して送信電力を測定する。受信特性取得部122は、受信電力増幅器106に付随させて設けてあり、受信電力増幅器106を常時監視して受信利得を測定する。前述したように、送信電力及び送信電力は、図5のような温度特性を持つ。そこで、第1実施形態では、レーダー装置120は、気象計500から提供された気象データに基づいてコヒーレント積分の回数を制御し、更に、送信特性取得部121と受信特性取得部122で観測された測定値の変動分に応じてコヒーレント積分の回数を調整することで、受信S/Nの低下分を補う。
【0026】
具体的には、コヒーレント積分調整部123は、気象計500から提供される気象データに基づいて、反射波信号に対するコヒーレント積分の適切な回数を算出する。そして、算出した回数と現在のコヒーレント積分の回数とが異なる場合、コヒーレント積分調整部123は、算出した回数にコヒーレント積分の回数を変更するよう信号処理部108に指示する。信号処理部108は、コヒーレント積分調整部123からの指示に従い、反射波信号に対するコヒーレント積分の回数を変更する。
【0027】
コヒーレント積分の回数の変更について、図7図9を参照して更に説明する。図7に示すように、レーダー装置のアンテナが1回転(360°回転)するのに、T[s(秒)]を要するものとする。このとき、アンテナの回転の角度分解能をNとすると、回転角度の最小ステップは360/N[°]となる。また、回転時間の最小ステップはT/N[s]となる。ここで、FMCWレーダーの掃引時間をt[s]とすると、最小ステップ時間T/N[s]の間にT/(N×t)回の周波数掃引があり、この回数だけコヒーレント積分を実施することができる。したがって、コヒーレント積分の回数を増やすためには、アンテナの1回転に要する時間Tを大きくするか、FMCWレーダーの1回の掃引時間tを小さくすればよい。
【0028】
そこで、図8に示すように、気温の上昇(K0→K2)に伴ってコヒーレント積分の回数を増やし、気温の低下(K0→K1)に伴ってコヒーレント積分の回数を減らせばよい。したがって、高温環境下では、図9に示すように、常温(K0)に対する気温の上昇量(=K2-K0)に応じた分だけアンテナの回転速度を遅くする。これにより、監視エリアRの掃引時間あたりのコヒーレント積分の回数を増やすことができる。また、低温環境下では、常温(K0)に対する気温の低下量(=K0-K1)に応じた分だけアンテナの回転速度を速くする。これにより、監視エリアRの掃引時間あたりのコヒーレント積分の回数を減らすことができる。その結果、気温の変化にかかわらず、受信S/Nを一定に保つことが可能となる。
【0029】
なお、図8図9に示す例では、コヒーレント積分の回数及びアンテナの回転速度を連続的(線形的)に変化させているが、図10図11に示すように、コヒーレント積分の回数及びアンテナの回転速度を離散的(段階的)に変化させてもよい。図10には、コヒーレント積分回数の離散的な変更の例を示してある。また、図11には、アンテナ回数速度の離散的な変更の例を示してある。図10図11に示す例では、K1とK0の間に設けた閾値K3と、K0とK2の間に設けた閾値K4とによって、コヒーレント積分の回数及びアンテナの回転速度を離散的に変化させている。なお、K0~K4は、過去に観測され、蓄積された気象データに基づいて決定してもよい。
【0030】
更に、コヒーレント積分調整部123は、送信特性取得部121で測定された送信電力値と、受信電力増幅器106で測定された受信電力値とに基づき、受信信号のS/N比の低下を補うようにコヒーレント積分の積分回数を決定する。FMCWレーダーは、図7に示すように、時間間隔tで繰り返し掃引した周波数の信号を送信する。コヒーレント積分は、受信信号をこの時間間隔tで複数回足し合わせる操作であり、積分回数をn回とすると、S/N比はn倍改善することが知られている。例えば、送信特性取得部121で測定された送信電力値と受信電力増幅器106で測定された受信電力値の合計が、正常時に比べ3dB低い場合、信号成分が3dB低下した分S/N比は3dB悪くなったことになる。このとき、コヒーレント積分回数を正常時よりも2倍(3dB)増やすことで、ノイズ(N)を3dB低減することができ、トータルのS/N比の劣化を防ぐことができる。
【0031】
図12には、本発明の第2実施形態に係るレーダーシステムの概要を示してある。第2実施形態に係るレーダーシステムは、第1実施形態の構成に加え、監視エリアRの範囲内に設置された基準反射体600を備えている。第2実施形態では、レーダー装置120は、基準反射体600による反射波の受信電力値も測定する。基準反射体600は、レーダー装置120からのレーダー送信波の照射角度によらず、常に安定した電波反射をすることが必要であり、角度依存性を持たない金属製の球、もしくは電波の反射角度が広いことで知られる金属製のコーナーリフレクタが望ましい。
【0032】
ここで、降雨時においては、基準反射体600による反射波の受信電力値は図13のように変化する。すなわち、降雨量が多い場合は基準反射体600による反射波の受信電力値は小さくなり、降雨量が少ない場合は基準反射体600による反射波の受信電力値は大きくなる。ここでいう降雨量は、降雨又は降雪の量を表す。このように、降雨量によって受信S/Nが変化することが分かる。そこで、第2実施形態では、レーダー装置120は、基準反射体600による反射波の受信電力値に基づいて降雨量を推定し、推定した降雨量に基づいてコヒーレント積分の回数を制御することで、受信S/Nの低下分を補う。
【0033】
なお、コヒーレント積分の回数の制御は、図8図11を参照して説明したものと同様な方法で実現することができる。すなわち、降雨量の増加に伴ってアンテナの回転速度を遅くすることで、監視エリアRの掃引時間あたりのコヒーレント積分の回数を増やす。また、降雨量の減少に伴ってアンテナの回転速度を速くすることで、監視エリアRの掃引時間あたりのコヒーレント積分の回数を減らす。これにより、降雨量の変化にかかわらず、受信S/Nを一定に保つことが可能となる。コヒーレント積分の回数及びアンテナの回転速度は、図8図9のように連続的(線形的)に変化させてもよいし、図10図11のように離散的(段階的)に変化させてもよい。なお、気象計500から提供される気象データに降雨量も含まれている場合は、基準反射体600による反射波の受信電力値に基づく降雨量の推定を省略してもよい。
【0034】
第2実施形態は、第1実施形態と組み合わせて実施することも可能である。第1実施形態と第2実施形態を同時に適用することで、レーダー装置120自身の温度特性による受信S/Nの変化と、降雨や降雪などの外部気象要因による受信S/Nの変化とを共に補正することができる。
【0035】
また、図2及び図12では、1つのレーダー装置120に対して1つの気象計500を設けてあるが、複数のレーダー装置120に対して1つの気象計500を設けてもよく、レーダー装置120の数と気象計500の数は一致しなくても構わない。1つの気象計500で得られた気象データを複数のレーダー装置120が共有することで、気象計500の数を減らすことが可能となる。ただし、レーダー装置120と気象計500の設置環境の相違が大きいと、気象計500で得られた気象データをレーダー装置120に適用することができない。このため、気象計500で得られた気象データを、レーダー装置120に関する気象データとして使用するには、互いに近い設置環境である必要がある。
【0036】
また、これまでの説明では、レーダー装置120が自身でコヒーレント積分の回数の制御を行っているが、レーダー制御装置300が、レーダー装置120のコヒーレント積分の回数の制御を行うようにしてもよい。この場合、レーダー制御装置300が、気象計500から提供される気象データに基づいて、設置環境が気象計500に近い1つ又は複数のレーダー装置120に対して、コヒーレント積分の回数を制御するための制御信号を送信するように構成すればよい。
【0037】
また、レーダー装置120(又はレーダー制御装置300)は、受信S/Nの変化を長期間観測し、受信S/Nを変動させる要因を分析してもよい。受信S/Nを変動させる要因としては、(1)気象(例えば、温度、雨、雪)による影響、(2)送信系又は受信系の性能変化(例えば、経年劣化、温度特性、部品破損)による影響、(3)設置状態の変化(例えば、長期設置によるアンテナ角度の機械的ズレ)による影響が挙げられる。これらは受信S/Nの劣化を引き起こす要因であり、受信S/Nを長期間観測することで各要因を分離することができる。そして、要因(2)を観測することで、気象変化には関係ない部品劣化の影響を抽出することが可能となる。また、要因(3)を観測することで、装置自体の設置状態の変化を抽出することが可能となる。これらの要因(2)、(3)は、電気的又は機械的な故障等による状態変化であるため、これらを抽出できればレーダー装置120のメンテナンスに役立てることができる。
【0038】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これら実施形態は例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明は、その他の様々な実施形態をとることが可能であると共に、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、省略や置換等の種々の変形を行うことができる。これら実施形態及びその変形は、本明細書等に記載された発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0039】
また、本発明は、上記の説明で挙げたような装置や、これら装置で構成されたシステムとして提供することが可能なだけでなく、これら装置により実行される方法、これら装置の機能をプロセッサにより実現させるためのプログラム、そのようなプログラムをコンピュータ読み取り可能に記憶する記憶媒体などとして提供することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、送信波に対する反射波の受信結果に基づいて監視エリア内に存在する物体を検出するレーダー装置に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0041】
100:レーダー装置、 101:FMCW送信源、 102:電力分配器、 103:送信電力増幅器、 104:送信アンテナ、 105:受信アンテナ、 106:受信電力増幅器、 107:混合器、 108:信号処理部、 120:レーダー装置、 121:送信特性取得部、 122:受信特性取得部、 123:コヒーレント積分調整部、 140:カメラ装置、 200:センサー装置、 300:レーダー制御装置、 400:表示装置、 500:気象計

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13