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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】ヒートシール紙
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/10 20060101AFI20241114BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20241114BHJP
   D21H 27/10 20060101ALI20241114BHJP
   D21H 19/82 20060101ALI20241114BHJP
   D21H 19/84 20060101ALI20241114BHJP
   D21H 19/28 20060101ALI20241114BHJP
   D21H 19/22 20060101ALI20241114BHJP
   D21H 19/20 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
B32B27/10
B32B27/00 D
D21H27/10
D21H19/82
D21H19/84
D21H19/28
D21H19/22
D21H19/20 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024005759
(22)【出願日】2024-01-18
【審査請求日】2024-05-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀越 達也
(72)【発明者】
【氏名】角田 浩佑
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/256381(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/182183(WO,A1)
【文献】特開2018-162075(JP,A)
【文献】特許第7285387(JP,B2)
【文献】国際公開第2021/100733(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/244712(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/243309(WO,A1)
【文献】国際公開第2024/010023(WO,A1)
【文献】特開2024-039713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
D21H 19/22
D21H 19/20
D21H 19/28
D21H 27/10
D21H 27/30
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、一方の最表面にPHBHを含むヒートシール層を有し、
他方の最表面にエチレン酢酸ビニル系共重合体を含む補助塗工層を有することを特徴とするヒートシール紙。
【請求項2】
前記エチレン酢酸ビニル系共重合体のガラス転移温度が、-25℃以上20℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のヒートシール紙。
【請求項3】
前記エチレン酢酸ビニル系共重合体のエチレンと酢酸ビニルとのモル比(エチレン:酢酸ビニル)が30:70~1:99であることを特徴とする請求項1に記載のヒートシール紙。
【請求項4】
前記ヒートシール層と前記補助塗工層とを、180℃、0.2MPa(20.0N/cm)、1秒の条件でヒートシールしたものを、重り30gで剥離したときのホットタック剥離距離が300mm未満であることを特徴とする請求項1に記載のヒートシール紙。
【請求項5】
JIS Z1707:2019 7.4「ヒートシール強さ試験」に準拠し、前記ヒートシール層と前記補助塗工層とを、160℃、0.2MPa(20.0N/cm)、1秒の条件でヒートシールしたものを、23℃、湿度50%の環境下に24時間静置して、剥離速度200mm/min、T型で剥離したときの剥離強度が6.0N/15mm以上であることを特徴とする請求項1に記載のヒートシール紙。
【請求項6】
JIS Z1707:2019 7.4「ヒートシール強さ試験」に準拠し、前記ヒートシール層と前記補助塗工層とを、0.2MPa(20.0N/cm)、1秒の条件でヒートシールしたものを、23℃、湿度50%の環境下に24時間静置して、剥離速度200mm/min、T型で剥離したときの材破臨界温度が150℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のヒートシール紙。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のヒートシール紙を有する包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PHBHを含むヒートシール層を有するヒートシール紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックごみによる環境破壊を防ぐための動きが始まっており、プラスチック製使い捨て製品を、環境への負荷の小さな材料で代替することが求められている。プラスチックの代替材料としては、生分解性プラスチック、木材、紙等が挙げられる。
生分解性プラスチックとして、ポリ乳酸やポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステルが知られている。しかし、脂肪族ポリエステルは、温度が低いと生分解に時間がかかり、海洋などの自然環境での分解速度が遅いという問題がある。
【0003】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、好気性、嫌気性下での分解性に優れた、微生物産生の熱可塑性プラスチックであり、海洋中などの水中でも微生物により短期間で分解されるという特筆すべき性能を有している。そして、3-ヒドロキシブチレートと3-ヒドロキシヘキサノエートとの共重合体であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)(以下、PHBHともいう)が、その生分解性、樹脂物性等の点から注目されている。
【0004】
特許文献1には、紙基材の少なくとも一方の面上に、PHBHと接着剤を含有する塗工層を有し、塗工層中のPHBHと接着剤の固形分質量比が、99.9/0.1~60.0/40.0である、塗工欠陥の少ない塗工紙が提案され、ヒートシール紙、耐水紙、耐油紙等として利用可能であることが記載されている。
特許文献2には、紙基材の少なくとも一方の面上に、PHBHを主成分とするフィルムからなるヒートシール層がアンカー層を介して貼合されており、アンカー層がガラス転移温度が-25~46℃であるポリエステル系樹脂を含む塗工層である、密着性に優れたヒートシール紙が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2021/256381号
【文献】特許第7285387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ヒートシール層がPHBHを含むヒートシール紙は、ヒートシール層同士を強固にヒートシールすることができる。しかし、一面にPHBHを含むヒートシール層を有し、他面は紙基材が露出した紙面であるヒートシール紙を、一面と他面とをヒートシールした際に、ヒートシール層と紙面とのヒートシール性に劣り、接着不良が発生しやすいことが判明した。例えば、紙コップの胴部を作製するために、ヒートシール紙を丸めて一面と他面とをヒートシールする場合、そのような接着不良は紙コップとして致命的である。
本発明は、このような背景に基づいて検討されたものであり、一方の最表面にPHBHを含むヒートシール層を有し、他方の面とのヒートシール性に優れたヒートシール紙を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
1.紙基材と、一方の最表面にPHBHを含むヒートシール層を有し、
他方の最表面にエチレン酢酸ビニル系共重合体またはポリエステル系樹脂を含む補助塗工層を有することを特徴とするヒートシール紙。
2.前記エチレン酢酸ビニル系共重合体のガラス転移温度が、-25℃以上20℃以下であることを特徴とする1.に記載のヒートシール紙。
3.前記エチレン酢酸ビニル系共重合体のエチレンと酢酸ビニルとのモル比(エチレン:酢酸ビニル)が30:70~1:99であることを特徴とする1.または2.に記載のヒートシール紙。
4.180℃、0.2MPa(20.0N/cm)、1秒におけるホットタック剥離距離が300mm未満であることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載のヒートシール紙。
5.160℃、0.2MPa(20.0N/cm)、1秒の条件でヒートシールしたものを、剥離速度200mm/min、T型で剥離したときの剥離強度が6.0N/15mm以上であることを特徴とする1.~4.のいずれかに記載のヒートシール紙。
6.0.2MPa(20.0N/cm)、1秒の条件でヒートシールしたものを、剥離速度200mm/min、T型で剥離したときの材破臨界温度が150℃以下であることを特徴とする1.~5.のいずれかに記載のヒートシール紙。
7.1.~6.のいずれかに記載のヒートシール紙を有する包装体。
【発明の効果】
【0008】
本発明のヒートシール紙は、一方の最表面にPHBHを含むヒートシール層を有し、このヒートシール層を他面と強固にヒートシールすることができる。本発明のヒートシール紙は、ヒートシール面同士を熱融着する必要がないため、筒状、袋状等への加工が容易である。
本発明のヒートシール紙は、生分解性材料の比率が高く、仮に環境中に流出しても、迅速に分解される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のヒートシール紙は、紙基材と、一方の最表面にPHBHを含むヒートシール層を有し、他方の最表面にエチレン酢酸ビニル系共重合体またはポリエステル系樹脂を含む補助塗工層を有する。
本発明のヒートシール紙は、一方の最表面にヒートシール層、他方の最表面に補助塗工層を有すればよく、紙基材とヒートシール層、紙基材と補助塗工層との間にアンカー層、水蒸気バリア層、ガスバリア層、インク受容層等の他の層を有していてもよい。
なお、本明細書において「A~B」(A、Bは数値や比率)との記載は、A、Bを含む数値範囲を意味する。
【0010】
(紙基材)
紙基材は、主としてパルプからなるシートであり、さらに填料、各種助剤等を含む紙料を抄紙して得られる。
パルプとしては、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未漂白パルプ(NUKP)、サルファイトパルプなどの化学パルプ、ストーングラインドパルプ、サーモメカニカルパルプなどの機械パルプ、脱墨パルプ、古紙パルプなどの木材繊維、ケナフ、竹、麻などから得られた非木材繊維などが挙げられ、これらの1種または2種以上を適宜配合して用いることができる。これらの中でも、紙基材中への異物混入が発生し難いこと、古紙原料としてリサイクル使用する際に経時変色が発生し難いこと、高い白色度を有するため印刷時の面感が良好となり、特に包装材料として使用した場合の使用価値が高くなることなどの理由から、木材繊維の化学パルプ、木材繊維の機械パルプを用いることが好ましく、木材繊維の化学パルプを用いることがより好ましい。具体的には、全パルプに対するLBKP、NBKP等の木材繊維の化学パルプの配合量は80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0011】
填料としては、タルク、カオリン、焼成カオリン、クレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、ゼオライト、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの無機填料、尿素-ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール系樹脂、微小中空粒子等の有機填料等の公知の填料を使用することができる。なお、填料は、必須材料ではなく、使用しなくてもよい。
【0012】
各種助剤としては、ロジン、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニルコハク酸無水物(ASA)などのサイズ剤、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、カチオン化澱粉、各種変性澱粉、尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂などの乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、歩留剤、濾水性向上剤、凝結剤、硫酸バンド、嵩高剤、染料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、紫外線防止剤、退色防止剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等が例示可能であり、必要に応じて適宜選択して使用可能である。
【0013】
紙基材は、その表面が各種薬剤で処理されていてもよい。薬剤としては、酸化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉、酵素変性澱粉、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、表面サイズ剤、耐水化剤、保水剤、増粘剤、滑剤などを例示することができ、これらを単独あるいは2種類以上を混合して用いることができる。さらに、これらの各種薬剤と顔料を併用してもよい。顔料としてはカオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーテッドクレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、マイカ、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイトなどの無機顔料および密実型、中空型、またはコアーシェル型などの有機顔料などを単独または2種類以上混合して使用することができる。
【0014】
紙基材の坪量は、所望される各種品質やその用途等により適宜選択可能であるが、通常は20g/m以上600g/m以下が好ましく、25g/m以上600g/m以下がより好ましい。包装紙、紙袋、蓋材、敷き紙、牛乳パックなどの液体紙容器等の包装材、屋外で使用されるポスター等に使用する場合、紙基材の坪量は、20g/m以上350g/m以下が好ましい。軟包装材として使用する場合、紙基材の坪量は、20g/m以上100g/m以下が好ましく、20g/m以上80g/m以下がより好ましい。なお、軟包装材とは、包装材の中でも、特に20g/mから100g/m程度の薄手の紙を用いた、柔軟性に富んだ包装材である。紙コップ、紙容器、紙箱、紙皿、紙トレー等に使用する場合、紙基材の坪量は、150g/m以上300g/m以下が好ましい。
また、紙基材の密度は、所望される各種品質や取り扱い性等により適宜選択可能であるが、通常は0.5g/cm以上1.0g/cm以下のものが好ましい。
【0015】
紙基材の製造(抄紙)方法は特に限定されるものではなく、長網抄紙機、円網抄紙機、短網抄紙機、ギャップフォーマー型、ハイブリッドフォーマー型(オントップフォーマー型)等のツインワイヤー抄紙機等、公知の製造(抄紙)方法、抄紙機が選択可能である。また、抄紙時のpHは酸性領域(酸性抄紙)、疑似中性領域(疑似中性抄紙)、中性領域(中性抄紙)、アルカリ性領域(アルカリ性抄紙)のいずれでもよく、酸性領域で抄紙した後、紙層の表面にアルカリ性薬剤を塗工してもよい。また、紙基材は1層であってもよく、2層以上の多層で構成されていてもよい。
また、紙基材の表面を薬剤で処理する場合、表面処理の方法は特に限定されるものではなく、ロッドメタリングサイズプレス、ポンド式サイズプレス、ゲートロールコーター、スプレーコーター、ブレードコーター、カーテンコーターなど公知の塗工装置を用いることができる。
【0016】
(補助塗工層)
本発明のヒートシール紙は、ヒートシール層とは反対面である他方の最表面に補助塗工層を有する。
補助塗工層は、エチレン酢酸ビニル系共重合体またはポリエステル系樹脂を含む。なお、エチレン酢酸ビニル系共重合体とポリエステル系樹脂は、混合して使用することもできる。
【0017】
<エチレン酢酸ビニル系共重合体>
エチレン酢酸ビニル系共重合体(以下、EVAともいう)は、エチレンと酢酸ビニルとを単量体とする共重合体であり、さらに他のモノマーを単量体としていてもよい。EVAが他のモノマーを単量体とする場合、EVA全体に対する他のモノマーに由来する構成単位の含有率は30質量%以下であることが好ましい。この含有率は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、例えば、20質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下等とすることができる。
【0018】
EVAのガラス転移温度は、ヒートシール強度の点から、-25~20℃であることが好ましい。このガラス転移温度は、-23℃以上がより好ましく、-20℃以上がさらに好ましく、また、16℃以下がより好ましく、12℃以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、ガラス転移温度は、JIS K 7121-1987に準拠して測定される中間点ガラス転移温度を意味する。
EVAにおけるエチレンと酢酸ビニルとのモル比(エチレンに由来する構成単位:酢酸ビニルに由来する構成単位、エチレン:酢酸ビニルとも表し、合計が100である)は、ヒートシール強度の点から、30:70~1:99であることが好ましい。このモル比は、25:75~5:95がより好ましく、20:80~10:90がさらに好ましい。
【0019】
<ポリエステル系樹脂>
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)等を用いることもできるが、生分解性であることから、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンアゼレートテレフタレート等の脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂が好ましく、ポリ乳酸がより好ましい。
【0020】
補助塗工層は、EVAまたはポリエステル系樹脂以外に、他の水溶性樹脂、水分散性樹脂を含むことができ、さらに、必要に応じて、分散剤、粘性改良剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤、pH調整剤、カチオン性樹脂、アニオン性樹脂、紫外線吸収剤、金属塩、滑剤、着色染料、顔料など、製紙分野において塗工液に配合される各種助剤を含むことができる。ただし、補助塗工層は、EVAまたはポリエステル系樹脂を主成分とすることが好ましく、補助塗工層(固形分)全体に対するEVAとポリエステル系樹脂の総量が、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、98質量%以上であることがよりさらに好ましく、99質量%以上であることがよりさらに好ましい。
【0021】
(ヒートシール層)
ヒートシール層は、ヒートシール紙の一方の最表面に位置する。なお、ヒートシール層は、塗工層であってもよく、ラミネート層であってもよい。
ヒートシール層は、熱可塑性樹脂としてPHBHを含む。ヒートシール層は、その他の熱可塑性樹脂を含むこともできるが、ヒートシール層が含む全熱可塑性樹脂に対するPHBHの割合は50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上がよりさらに好ましく、90質量%以上がよりさらに好ましく、95質量%以上がよりさらに好ましく、98質量%以上がよりさらに好ましく、99質量%以上がよりさらに好ましく、100質量%であることが最も好ましい。ヒートシール層が他の熱可塑性樹脂を含む場合、他の熱可塑性樹脂は、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンアゼレートテレフタレート等の脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂等の生分解性樹脂であることが好ましい。
【0022】
<PHBH>
PHBHは、3-ヒドロキシブチレート(以下、3HBともいう。)と3-ヒドロキシヘキサノエート(以下、3HHともいう。)との共重合体であり、微生物が産生することが知られている生分解性樹脂である。本発明において、PHBHは、微生物由来のものを用いてもよく、石油資源由来のものを用いてもよいが、微生物由来のものを用いることが環境負荷低減の点から好ましい。
【0023】
PHBHを産生する微生物としては、細胞内にPHBHを蓄積する微生物であれば特に限定されないが、A.lipolytica、A.eutrophus、A.latusなどのアルカリゲネス属(Alcaligenes)、シュウドモナス属(Pseudomonas)、バチルス属(Bacillus)、アゾトバクター属(Azotobacter)、ノカルディア属(Nocardia)、アエロモナス属(Aeromonas)などの菌があげられる。なかでも、PHBHの生産性の点で、特にアエロモナス・キャビエなどの菌株、さらにはPHA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユウトロファス AC32(受託番号FERM BP-6038、寄託日平成9年8月7日、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、あて名;日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)(J.Bacteriol.,179,4821-4830頁(1997))などが好ましい。また、アエロモナス属の微生物であるアエロモナス・キャビエ(Aeromonas.caviae)からPHBHを得る方法は、たとえば、特開平05-093049号公報に開示されている。なお、これらの微生物は、適切な条件下で培養して、菌体内にPHBHを蓄積させて用いられる。
培養に用いる炭素源、培養条件は、特開平05-093049号公報、特開2001-340078号公報等に記載の方法に従い得ることができるが、これらには限定されない。
【0024】
PHBHの組成比(モル%)は、3HB:3HH=97:3~75:25が好ましく、95:5~85:15がより好ましい。3HHの組成が3モル%未満ではPHBHの特性が3HBホモポリマーの特性に近くなり柔軟性が失われるとともに成膜加工温度が高くなりすぎて好ましくない傾向がある。3HHの組成が25モル%を超えると結晶化速度が遅くなりすぎ成膜加工に適さず、また、結晶化度が下がることで、樹脂が柔軟になり曲げ弾性率が低下する傾向がある。PHBHの組成比は、水性分散液を遠心分離したのち、乾燥させて得られたパウダーをNMR分析により測定することができる。
微生物産生PHBHはランダム共重合体である。共重合体のモル比を調整するために、菌体の選択、原料となる炭素源の選択、異なるモル比のPHBHとのブレンド、3HBホモポリマーとのブレンドなどの方法がある。
【0025】
PHBHの質量平均分子量は、5万~150万が好ましい。PHBHの質量平均分子量がこの範囲内であると、PHBHを塗工する場合には低温での成膜が可能であり、PHBHをラミネートする場合には機械物性に優れたフィルムを得ることができる。PHBHの質量平均分子量は、10万~50万がより好ましく、15万~45万がさらに好ましい。なお、PHBHの質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、昭和電工社製「Shodex GPC-101」等)によって、カラムにポリスチレンゲル(昭和電工社製「Shodex K-804」等)を用い、クロロホルムを移動相とし、ポリスチレン換算した場合の分子量として求めることができる。なお、測定用試料としては、PHBHを含む水性分散液を遠心分離した後、乾燥させて得られたパウダーを用いる。
【0026】
PHBHの平均粒径は、0.1~50μmであることが好ましい。平均粒径が0.1μm未満のPHBHは微生物産生では生成困難であり、また、化学合成法で得る場合にも、微粒子化するという操作が必要となる。平均粒径が50μmを超えるとPHBHを含有する塗工液を塗布した場合に表面に塗布むらが起こる場合がある。PHBHの平均粒径は、0.5~10μmであることがより好ましい。なお、PHBHの平均粒径は、マイクロトラック粒度計(日機装製、FRA)など汎用の粒度計を用い、PHBHの水懸濁液を所定濃度に調整し、正規分布の全粒子の50%蓄積量に対応する粒径をいう。
【0027】
(塗工層)
ヒートシール層が塗工層である場合、ヒートシール層は、無機顔料と接着剤を含有することが好ましい。また、塗工層は、1層でもよく多層でもよい。塗工層が多層から構成される場合は、その層数は3層以下が好ましく、2層がより好ましい。塗工層が多層から構成される場合、ヒートシール強度向上の点から、紙層側に位置する塗工層に無機顔料を含有することが好ましく、一方、紙層から遠くに位置する塗工層には、耐水性、耐油性の両立の観点から無機顔料を含まないか、紙層側に位置する塗工層よりも無機顔料の配合量が少ないことが好ましい。
【0028】
<無機顔料>
無機顔料としては、紙への塗工に用いられているものを特に制限することなく使用することができ、例えば、カオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーテッドクレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、マイカ、タルク、ベントナイト、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイトなどが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらの中で、カオリン、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、マイカ、タルク、ベントナイトの1種以上が好ましい。
【0029】
無機顔料は、塗工層の定着性の点から、レーザー回折/散乱法で測定した体積50%平均粒子径(D50)(以下、「平均粒子径」ともいう。)が6.0μm以下であることが好ましい。なお、レーザー回折/散乱法の測定装置としては、例えば、堀場製作所社の粒子径分布測定装置「Partica」、マルバーン社の粒度分布測定装置「MASTER SIZER S」などが例示可能である。塗工層の定着性の点からは、無機顔料の平均粒子径は、5.0μm以下がより好ましく、4.0μm以下がさらに好ましく、3.0μm以下がよりさらに好ましく、2.0μm以下がよりさらに好ましい。無機顔料の平均粒子径の下限は特に制限されないが、分散性等の点から、例えば、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましい。2種以上の無機顔料を含む場合は、少なくとも1種の平均粒子径が上記した数値範囲であることが好ましく、無機顔料全体に対するこの平均粒子径を満足する無機顔料の割合が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0030】
また、塗工層上に第2塗工層を設けた場合の耐油性、耐水性の点からは、塗工層に含有される無機顔料の平均粒子径は8.0μm以下であることが好ましい。第2塗工層を設けた場合の耐油性、耐水性の点からは、塗工層に含有される無機顔料の平均粒子径は7.0μm以下がより好ましく、6.0μm以下がさらに好ましく、5.0μm以下がよりさらに好ましく、4.0μm以下がよりさらに好ましく、3.0μm以下がよりさらに好ましく、2.0μm以下がよりさらに好ましい。塗工層に含有される無機顔料の平均粒子径の下限は特に制限されないが、分散性等の点から、例えば、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましい。塗工層が2種以上の無機顔料を含む場合は、少なくとも1種の平均粒子径が上記した数値範囲であることが好ましく、塗工層が含有する無機顔料全体に対するこの平均粒子径を満足する無機顔料の割合が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0031】
無機顔料は、アスペクト比が60以下であることが、塗工層上に第2塗工層を設けた場合の耐油性、耐水性の点から好ましい。なお、アスペクト比は、粒子径測定装置による測定値を用いて、紙パルプ技協誌 第65巻 第12号「塗工顔料物性と塗工紙品質の関係についての基礎研究」に記載された計算方法で算出することができる。塗工層に含有される無機顔料のアスペクト比は、40以下がより好ましく、30以下がさらに好ましく、25以下がよりさらに好ましく、20以下がよりさらに好ましい。塗工層に含有される無機顔料のアスペクト比の下限は特に制限されない。塗工層が2種以上の無機顔料を含む場合は、少なくとも1種のアスペクト比が上記した数値範囲であることが好ましく、塗工層が含有する無機顔料全体に対するこのアスペクト比を満足する無機顔料の割合が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0032】
塗工層におけるPHBHと無機顔料との固形分質量比(PHBH:無機顔料、合計が100)は、90:10~0.01:99.99であることが好ましい。PHBHと接着剤を含む塗工液に、さらに無機顔料を配合することにより、得られる塗工層の定着性が向上する。そのメカニズムは不明であるが、本発明者らは、無機顔料は有機物であるPHBHと接着剤よりも熱伝導性に優れるため、加熱時に無機顔料が素早く昇温し、この熱が無機顔料からPHBHに伝わることにより、PHBHが十分に加熱されるためであると推測している。
【0033】
PHBHと無機顔料との固形分質量比(PHBH:無機顔料、合計が100)は、塗工層の定着性の点から、70:30~1:99がより好ましく、60:40~2:98がさらに好ましく、50:50~3:97がよりさらに好ましい。
また、塗工層上に第2塗工層を設けた場合のヒートシール強度の点からは、塗工層におけるPHBHと無機顔料との固形分質量比(PHBH:無機顔料、合計が100)は、90:10~5:95がより好ましく、80:20~10:90がさらに好ましく、70:30~10:90がよりさらに好ましく、65:35~10:90がよりさらに好ましく、60:40~15:85がよりさらに好ましく、50:50~25:75がよりさらに好ましい。特に、塗工層が含有する無機顔料の平均粒子径が8.0μmを超える場合は、耐油性、耐水性の点から、PHBHと無機顔料との固形分質量比(PHBH:無機顔料、合計が100)は、90:10~40:60がより好ましく、90:10~50:50がさらに好ましい。
塗工層の固形分全体に対するPHBHと無機顔料の合計の割合は60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。
【0034】
<接着剤>
接着剤は、PHBH、無機顔料、紙基材等を接着するものである。ヒートシール層が接着剤を含むことにより、クラック、ピンホール等の塗工欠陥が抑制された均一なヒートシール層を得ることが容易となる。
接着剤は、水に溶解または分散して、PHBH、無機顔料、紙基材等を接着できるものであれば、特に限定することなく使用することができる。例えば、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、アマイド変性ポリビニルアルコール、スルホン酸変性ポリビニルアルコール、ブチラール変性ポリビニルアルコール、オレフィン変性ポリビニルアルコール、ニトリル変性ポリビニルアルコール、ピロリドン変性ポリビニルアルコール、シリコーン変性ポリビニルアルコール、その他の変性ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体などのポリビニルアルコール類、酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉などの澱粉類、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アセチルセルロース、ナノセルロースなどのセルロース誘導体、部分ケン化エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、スチレン-無水マレイン酸共重合体ラテックス、ポリ塩化ビニルラテックス、ポリ酢酸ビニルラテックス等が挙げられ、これらの1種類以上を適宜選択して使用することができる。
【0035】
これらの中で、ポリビニルアルコール類、澱粉類、セルロース誘導体、部分ケン化エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックスからなる群より選ばれる少なくとも1種類を含むことが好ましく、この群より選ばれる少なくとも1種類からなることがより好ましい。また、生分解性であるため、ポリビニルアルコール類、澱粉類、セルロース誘導体、部分ケン化エチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種類を含むことがより好ましく、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化エチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種類を含むことがさらに好ましい。
【0036】
紙基材への定着性の点から、接着剤として完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコールの少なくとも1種を含むことが好ましく、塗工層強度に優れるため、ケン化度70モル%以上95モル%以下である部分ケン化ポリビニルアルコールを含むことがより好ましい。部分ケン化ポリビニルアルコールのケン化度は、75モル%以上が好ましく、78モル%以上がより好ましく、85モル%以上がさらに好ましく、また、93モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましい。
ここで、PHBHは水分散性であるが、完全ケン化ポリビニルアルコールおよび部分ケン化ポリビニルアルコールは水溶性である。そのため、接着剤として完全ケン化ポリビニルアルコール、または部分ケン化ポリビニルアルコールを用いる場合、重合度が高くなるにつれて塗工液は増粘し、取り扱い性、塗工性が低下する場合がある。そのため、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコールの重合度は、2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましい。
【0037】
また、塗工層の耐水性の点から、接着剤として部分ケン化エチレン-酢酸ビニル共重合体を含むことが好ましく、部分ケン化エチレン-酢酸ビニル共重合体からなることがより好ましい。
【0038】
塗工層の固形分全体に対する接着剤の割合は0.1~40質量%であることが好ましい。接着剤が0.1質量%未満では、接着剤による定着性向上効果がほとんど期待できず、40質量%を超えると接着剤が多くなりすぎてPHBHに由来する性能が十分に発揮できない場合があり、また、耐水性が低下するため、塗工紙の用途によっては好ましくない。塗工層の固形分全体に対する接着剤の割合は、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましく、5質量%以上がよりさらに好ましく、また、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下がよりさらに好ましい。
【0039】
(第2塗工層)
本発明の塗工紙において、塗工層上にPHBHを含む第2塗工層を形成することができる。無機顔料を含む塗工層上に、第2塗工層を形成することにより、ヒートシール強度が向上する。そのメカニズムは不明であるが、本発明者らは、無機顔料を含む塗工層は高温に達するまでの時間が短く、熱融着加工の際に第2塗工層がより長い時間高温に晒されるためであると推測している。
【0040】
第2塗工層は、上記したPHBHと質量平均分子量の範囲以外は同等のものを含むことができ、第2塗工層のPHBHは質量平均分子量が5万~150万であることが好ましい。
第2塗工層のPHBHは、塗工層のPHBHよりも質量平均分子量が大きいことが好ましい。PHBHは、分子量が大きいほどMFRが小さくなりヒートシール加工に高温が必要となるが、第2塗工層とそれが塗工された紙基材との間に無機顔料を含む塗工層が存在すると、塗工層は無機顔料配合による優れた熱伝導性のため、ヒートシール処理により紙基材が受けた熱を効率よく第2塗工層に伝えることができる。このため、結果として、第2塗工層はヒートシール性に優れているため、高分子量のPHBHも好適に用いることができる。そして、第2塗工層が質量平均分子量の大きなPHBHを含むことにより、PHBHに由来する耐油性、耐水性等の性質をより発揮することができる。耐油性、耐水性の点から、第2塗工層には無機顔料を含まないか、塗工層より無機顔料の配合量が少ないことが好ましく、固形分全体に対する無機顔料の配合量が塗工層よりも1質量%以上少ないことが好ましく、3質量%以上少ないことがより好ましく、5質量%以上少ないことがさらに好ましい。
【0041】
第2塗工層は、PHBHを50質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、95質量%以上含むことがよりさらに好ましく、98質量%以上含むことがよりさらに好ましく、99質量%以上含むことがよりさらに好ましい。第2塗工層は、PHBHの他に、必要に応じて、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸等の他の生分解性樹脂、上記した接着剤、無機顔料、分散剤、粘性改良剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤、蛍光染料、着色染料、着色顔料、界面活性剤、pH調整剤、カチオン性樹脂、アニオン性樹脂、紫外線吸収剤、金属塩など、製紙分野において塗工液に配合される各種助剤を含むことができる。
【0042】
(ラミネート層)
ヒートシール層がラミネート層である場合、ヒートシール層はPHBHの他に、他の熱可塑性樹脂、滑剤、無機充填剤、可塑剤、ブロッキング防止剤、臭気吸収剤、香料、酸化防止剤、抗酸化剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤、摺動性改良剤、顔料、染料などの着色剤等を含むことができる。ただし、ラミネート層であるヒートシール層全体に対するPHBHの割合は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることがよりさらに好ましく、98質量%以上であることがよりさらに好ましく、99質量%以上であることがよりさらに好ましい。
【0043】
滑剤としては、公知のものを用いることができ、例えば、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の飽和または不飽和の脂肪酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド等のアルキレン脂肪酸アミド等の脂肪族アミド化合物、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。
滑剤の配合量は、PHBH100質量部に対して0.1~2質量部であることが好ましく、0.2~1質量部がさらに好ましい。
【0044】
無機充填材としては、例えば、平均粒子径が0.5μm以上の、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、シリカ、クレー、カオリン、酸化チタン、アルミナ、ゼオライト等が挙げられる。
無機充填剤の配合量は、PHBH100質量部に対して0.5~5質量部であることが好ましく、1~3質量部がより好ましい。
【0045】
(アンカー層)
ヒートシール層がラミネート層である場合、紙基材とヒートシール層との間にアンカー層を有することが、密着性の点から好ましい。
アンカー層は、ポリエチレンイミン系、スチレンアクリル系、アクリル系、ポリエステル系、エチレン-酢酸ビニル系共重合体(EVA)からなる群から選ばれる1以上の熱可塑性樹脂を含む塗工層であることが好ましく、ガラス転移温度が-25~46℃であるポリエステル系樹脂、または、ガラス転移温度が-50~30℃であるEVAを含む塗工層であることがより好ましい。
【0046】
アンカー層は、上記した熱可塑性樹脂以外に、他の水溶性樹脂、水分散性樹脂を含むことができ、さらに、必要に応じて、分散剤、粘性改良剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤、pH調整剤、カチオン性樹脂、アニオン性樹脂、紫外線吸収剤、金属塩、滑剤、着色染料、顔料など、製紙分野において塗工液に配合される各種助剤を含むことができる。ただし、アンカー層は、熱可塑性樹脂を主成分とすることが好ましく、アンカー層(固形分)全体に対する熱可塑性樹脂の割合は、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、98質量%以上であることがよりさらに好ましく、99質量%以上であることがよりさらに好ましい。
【0047】
(製造方法)
本発明のヒートシール層は、従来公知の塗工方法、ラミネート方法により製造することができる。例えば、塗工装置としてはブレードコーター、バーコーター、ロールコーター、エアナイフコーター、リバースロールコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、サイズプレスコーター、ゲートロールコーターなどが挙げられる。また、塗工系としては、水等の溶媒を使用した水系塗工、有機溶剤等の溶媒を使用した溶剤系塗工などが挙げられるが、水系であることが好ましい。また、ラミネート法としては、ドライラミネート、押出ラミネートのいずれでもよい。
【0048】
ヒートシール層が塗工層である場合、その塗工量(複数の塗工層からなる場合や第2塗工層が存在する場合はその合計塗工量を指す)は、乾燥質量で1g/m以上50g/m以下とすることが好ましい。塗工量が1g/m未満であると、塗工層の形成が困難となりヒートシール性が発揮できない場合がある。一方、50g/mより多いと、塗工時の乾燥負荷が大きくなる。塗工層の塗工量は、3g/m以上がより好ましく、5g/m以上がさらに好ましく、40g/m以下がより好ましく、30g/m以下がさらに好ましい。
【0049】
ヒートシール層がラミネート層である場合、その厚さは、5μm以上300μm以下であることが好ましい。ヒートシール層の厚さが5μm未満では、ヒートシール性が十分に発揮できない場合がある。また、ヒートシール層の厚さが300μmを超えると、ヒートシール層が剛直となりすぎて、ヒートシール紙としての加工性が低下する場合があるとともに、コストが増加する。ヒートシール層の厚さは、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、また、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましい。
【0050】
補助塗工層の塗工量は、乾燥質量で0.3g/m以上20g/m以下とすることが好ましい。補助塗工層の塗工量が0.3g/m未満であると、補助塗工層によるヒートシール性向上効果がほとんど見込めない場合がある。一方、20g/mより多いと、塗工時の乾燥負荷が大きくなる。補助塗工層の塗工量は、1g/m以上がより好ましく、3g/m以上がさらに好ましく、15g/m以下がより好ましく、10g/m以下がさらに好ましく、5g/m以下がよりさらに好ましい。
【0051】
・ヒートシール紙
本発明のヒートシール紙は、ヒートシール層と補助塗工層とを、180℃、0.2MPa(20.0N/cm)、1秒の条件でヒートシールしたものを、重り30gで剥離したときのホットタック剥離距離が300mm未満であることが好ましい。ホットタック剥離距離とは、ヒートシールした直後(1秒以内)の剥離距離であり、値が小さいほどヒートシール直後でも強固に貼り付いていることを意味する。本発明のヒートシール紙のこのホットタック剥離距離は、200mm以下がより好ましく、100mm以下がさらに好ましく、80mm以下がよりさらに好ましく、60mm以下がよりさらに好ましく、40mm以下がよりさらに好ましい。
【0052】
本発明のヒートシール紙は、ヒートシール層と補助塗工層とを、160℃、0.2MPa(20.0N/cm)、1秒の条件でヒートシールしたものを、23℃、湿度50%の環境下に24時間静置して、剥離速度200mm/min、T型で剥離したときの剥離強度が6.0N/15mm以上であることが好ましい。この剥離強度は、6.4N/15mm以上がより好ましく、6.8N/15mm以上がさらに好ましく、7.2N/15mm以上がよりさらに好ましく、7.6N/15mm以上がよりさらに好ましく、8.0N/15mm以上がよりさらに好ましく、8.4N/15mm以上がよりさらに好ましく、8.8N/15mm以上がよりさらに好ましく、9.2N/15mm以上がよりさらに好ましい。
【0053】
本発明のヒートシール紙は、材破臨界温度が150℃以下であることが好ましい。材破臨界温度とは、ヒートシール層と補助塗工層とを様々な温度で0.2MPa(20.0N/cm)、1秒の条件でヒートシールしたものを、剥離速度200mm/min、T型で剥離したときに材破(紙基材が破壊)が起こる最も低温のヒートシール温度であり、例えば150℃でヒートシールしたものが材破した場合、材破臨界温度は150℃以下である。材破臨界温度が低いほど、低温ヒートシールが可能である。材破臨界温度は、145℃以下がより好ましく、140℃以下がさらに好ましい。
【0054】
本発明のヒートシール紙は、ヒートシール加工が容易であり、包装体用途に好適に用いることができる。本発明のヒートシール紙は、その一面と他面とを強固に貼り付けることができるため、一面と多面とを貼り合わせた筒状、袋状等の包装体用途に特に好適である。なお、筒状には、カップ形状のような錐台形状も含む。
【実施例
【0055】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、もちろんこれらの例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、例中の部および%は、それぞれ質量部、質量%を示す。
【0056】
(評価方法)
・ホットタック剥離距離
ヒートシールテスター(テスター産業株式会社製、TP-701-B)およびホットタック性測定冶具(テスター産業株式会社製、TP-704)を用いて、ホットタック剥離距離を測定した。
長さ60cm、幅4cmに裁断した2枚のヒートシール紙を、ヒートシール層と補助塗工層とが向き合うように重ね、ヒートシールテスターを用いて、長さ30cm、幅1cmのシールバーで180℃、0.2MPa(20.0N/cm)、1秒の条件でヒートシールし、シールバーが離れた瞬間(ヒートシール1秒以内)に、2枚のヒートシール紙のそれぞれに予め付けておいた30gの重りによってシール部が剥離する方向に荷重をかけた。シール部が剥離した距離を測定し、ホットタック剥離距離とした。
【0057】
・剥離強度
JIS Z1707:2019 7.4「ヒートシール強さ試験」に準拠して行った。得られたヒートシール紙から1辺100mmの正方形の試験片を2枚切り出し、ヒートシール層と補助塗工層とを接触させて、加圧温度130℃~160℃、加圧圧力0.2MPa(20.0N/cm)、加圧時間1.0秒でヒートシールした後、23℃、湿度50%の環境下に24時間静置し、さらにそのヒートシールを行った100mm角の試験片から長辺100mm、短辺15mmになるように測定サンプルを切り出した。
その後、縦型引張試験機(エー・アンド・デイ社製、テンシロン)の上下の治具それぞれに、剥離させた長辺端部を挟持し、200mm/minの速度で長辺端部側から測定サンプルを剥離(T型)しながら、剥離強度、すなわち、ヒートシール強度を測定した。
また、剥離した面を目視で観察し、以下の基準で評価した。なお、評価◎が材料破壊が起きていると判定した。
◎:ヒートシールした面の70%以上で紙基材が破壊される。
〇:ヒートシールした面の30%以上70%未満で紙基材が破壊される。
△:ヒートシールした面の30%未満で紙基材が破壊される。
×:ヒートシール層と補助塗工層間で剥離する。
【0058】
(材料)
紙基材:日本製紙社、坪量220g/mのカップ原紙、CUP-HD
PHBH:カネカ社、質量平均分子量60万
無機顔料:白石工業社、カオリン、KCS、平均粒子径3.6μm、アスペクト比10~15
接着剤:クラレ社、28-98、完全ケン化型PVA、ケン化度98モル%、重合度1700
【0059】
EVA1:住化ケムテックス社、S-408HQE、Tg-30℃、エチレン:酢酸ビニル=40:60
EVA2:住化ケムテックス社、S-410HQ、Tg-18℃、エチレン:酢酸ビニル=30:70
EVA3:住化ケムテックス社、S-401HQ、Tg-18℃、エチレン:酢酸ビニル=30:70
EVA4:住化ケムテックス社、S-400HQ、Tg0℃、エチレン:酢酸ビニル=20:80
EVA5:住化ケムテックス社、S-355HQ、Tg10℃、エチレン:酢酸ビニル=10:90
ポリエステル:ポリ乳酸系A、Tg56℃
【0060】
ポリエチレンイミン:日本触媒社、エポミンP1000
変性ポリオレフィン:ユニチカ社、アローベースSA-1010
スチレンアクリル:第一塗料社、ハービルHS-1
エチレン(メタ)アクリル:三井化学社、ケミパールS500
【0061】
(ヒートシール層(塗工層)の形成)
PHBH30質量部、無機顔料70質量部、接着剤10質量部、を加え、さらに水を加えて撹拌し、固形分濃度が40質量%のアンダー塗工液を得た。
PHBH100質量部、接着剤3質量部を加え、さらに水を加えて撹拌し、固形分濃度が40質量%のトップ塗工液を得た。
紙基材の一面上に、アンダー塗工液を乾燥質量で7g/mとなるようにバーブレード法で塗工し、105℃で1分間乾燥させた。さらに、アンダー塗工層上にトップ塗工液を乾燥質量で23g/mとなるようにバーブレード法で塗工し、105℃で1分間乾燥させた後、160℃で3分間熱処理を行い、紙基材の一方の最表面にPHBHを含む2層の塗工層を形成した。
【0062】
(補助塗工層の形成)
各樹脂の22質量%濃度の水性分散液を調製し、表1に示す塗布量(乾燥質量)となるようにバーブレード法で塗工し、105℃、1分乾燥して補助塗工層を形成した。
【0063】
【表1】
【0064】
(ヒートシール層(ラミネート層)の形成)
PHBHとEVA4を50:50の乾燥質量の比率で混合した塗工液を乾燥塗工量3g/mで塗工し、アンカー層を形成し、アンカー層上に膜厚30μmとなるようにPHBHを押し出し、ラミネート層を形成した。
(補助塗工層の形成)
実施例13~17として、それぞれ実施例3、4、5、7、9と同様にして補助塗工層を形成した。
【0065】
【表2】
【0066】
補助塗工層を有しない比較例1は、160°でも接着が見られなかったが、EVA系、ポリエステル系の補助塗工層を有する実施例1~12のヒートシール紙は、PHBHを含むヒートシール層と補助塗工層とが強固に融着した。
160℃の剥離強度とホットタック剥離距離を横比較すると、-18℃~10℃のTg範囲のEVAおよびポリエステルを含む補助塗工層が、剥離強度と初期接着力とに優れていた。補助塗工層の塗工量が3g/m台(実施例4、6、8、10、12)における140℃の剥離強度の結果より、EVAはポリエステルよりもさらに剥離強度が優れていた。また、補助塗工層の塗工量が1g/m台(実施例3、5、7、9、11)では、剥離強度および材破評価はEVAが総合的に優れていた。これらの結果から、EVAは補助塗工層として最も優れており、塗工量が多少下がっても良好な剥離強度を生じることが分かった。
このことから、産業上の観点として、より安定した剥離強度を有するヒートシール紙の処方が望まれる中で、ヒートシール紙の製造過程においては、多少塗工量が変動してもEVAはポリエステルよりも目的の剥離強度を安定して担保できると考えられる。また、加工過程においても同様であり、加工後に所定の剥離強度を安定して担保できる。さらに加工工程においては、省エネ等の理由で加工温度を下げる場合があるが、低温加工でも安定した剥離強度を達成することができる。
それに対し、他の樹脂を用いた補助塗工層を有する比較例2~9のヒートシール紙は、PHBHを含むヒートシール層と補助塗工層との融着が弱かった。
【0067】
ヒートシール層がラミネート層である実施例13~17では、実施例3、4、5、7、9と同様、160℃の剥離強度が優れることが確認された。加圧温度を150℃まで下げても良好な剥離強度および材破評価が得られた。なお、実施例14が、塗工量の少ない実施例13よりも剥離強度および材破評価が優れていることは自明である。
表1および表2の上記結果から、水系塗工方式又は押出ラミネート方式により形成されるPHBHを含むヒートシール層を一面に有するヒートシール紙について、他面にEVA又はポリエステルを含む補助塗工層を形成すると、一面と他面とをヒートシールした際に良好な接着が得られることが確認された。
【要約】
【課題】一方の最表面にPHBHを含むヒートシール層を有し、他方の面とのヒートシール性に優れたヒートシール紙を提供すること。
【解決手段】紙基材と、一方の最表面にPHBHを含むヒートシール層を有し、
他方の最表面にエチレン酢酸ビニル系共重合体またはポリエステル系樹脂を含む補助塗工層を有するヒートシール紙。
【選択図】なし