(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】エレクトロクロミックシート、積層体、眼鏡用レンズ及び眼鏡
(51)【国際特許分類】
G02F 1/15 20190101AFI20241114BHJP
G02F 1/163 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
G02F1/15 503
G02F1/163
(21)【出願番号】P 2024052266
(22)【出願日】2024-03-27
【審査請求日】2024-07-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100194250
【氏名又は名称】福原 直志
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】松井 智紀
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0284557(US,A1)
【文献】特開2017-090890(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2024/0053648(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2023-0065721(KR,A)
【文献】欧州特許出願公開第4194941(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15 - 1/163
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板と、
第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板とに挟持されたエレクトロクロミック素子と、
前記第1基板と前記第2基板とに挟持され、前記第1基板と前記第2基板との間に設定される着色領域を区画する封止部と、を備えるエレクトロクロミックシートであって、
前記エレクトロクロミック素子は、前記第1基板側に設けられた第1透明電極と、
前記第2基板側に設けられた第2透明電極と、
前記第1透明電極と前記第2透明電極とに挟持され、前記着色領域に配置され、電圧の印加により着色するエレクトロクロミック層と、を有し、
前記エレクトロクロミックシートの単位面積当たりのインピーダンスを印加電圧0V、振幅10mVの条件で応答周波数0.1Hzから1MHzの範囲で測定したとき、測定結果から得られるナイキスト線図において、以下の(1)から(3)の要件を満たすエレクトロクロミックシート。
(1)前記ナイキスト線図の横軸と前記ナイキスト線図のグラフとの、0Ω/cm
2以上8.0Ω/cm
2以下の範囲における第1交点が、1.0Ω/cm
2以上8.0Ω/cm
2以下の範囲に含まれる。
(2)虚数成分が7.0Ω/cm
2以上14.0Ω/cm
2以下の範囲において、前記グラフを直線近似したときの近似直線の傾きが25以下である。
(3)下記A値が5.0Ω/cm
2以下である。
A値=[前記近似直線と前記横軸との第2交点の値]-[前記第1交点の値]
【請求項2】
前記A値が0Ω/cm
2以上5.0Ω/cm
2以下である請求項1に記載のエレクトロクロミックシート。
【請求項3】
前記第1透明電極と電気的に接続された第1補助電極と、
前記第2透明電極と電気的に接続された第2補助電極と、を有し、
前記第1補助電極と前記第2補助電極とは、前記着色領域の周方向で離間すると共に、前記着色領域の周囲に配置されている請求項1又は2に記載のエレクトロクロミックシート。
【請求項4】
前記エレクトロクロミック層は、前記第1透明電極に積層する第1エレクトロクロミック層と、
前記第2透明電極に積層する第2エレクトロクロミック層と、
前記第1エレクトロクロミック層と前記第2エレクトロクロミック層との間に充填された電解質層と、を有し、
前記第1エレクトロクロミック層は、酸化反応によって着色を呈する材料を含み、
前記第2エレクトロクロミック層は、還元反応によって着色を呈する材料を含む請求項1又は2に記載のエレクトロクロミックシート。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のエレクトロクロミックシートと、
前記エレクトロクロミックシートが積層されたレンズ材と、を備えた積層体。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のエレクトロクロミックシートを切削して得られたエレクトロクロミック部と、
前記エレクトロクロミック部が積層されたレンズ本体と、を備える眼鏡用レンズ。
【請求項7】
請求項6に記載の眼鏡用レンズと、
前記眼鏡用レンズを保持するフレームと、を備え、
前記眼鏡用レンズは、前記フレームと電気的に接続されている眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミックシート、積層体、眼鏡用レンズ及び眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロクロミズムは、電圧を印加することで酸化還元反応が起こり、可逆的に色が変化する現象である。このような現象を利用した素子として、エレクトロクロミズムを示す材料を用い電圧印加により色を制御するエレクトロクロミック素子が知られている。
【0003】
エレクトロクロミック素子は、例えば、電圧の印加により発色及び消色するエレクトロクロミック層と、透明電極とを備える。透明電極は、エレクトロクロミック層を挟持し、エレクトロクロミック層に電気的に接続されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
エレクトロクロミック素子を備えるエレクトロクロミックシートは、例えば、サングラスなどのアイウエアや、スマートグラスなどのウェアラブルデバイスの材料として用いられる。また、光量調節のための部材(光学フィルタ)として、窓材や撮像装置にも用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エレクトロクロミックシートは、電圧の印加により素早く発色することが求められる。すなわち、エレクトロクロミックシートは、電圧印加による色変化の過程では「色変化しやすい」ことが求められる。この観点において、特許文献1に記載のエレクトロクロミックシートは改善の余地がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、素早い発色が可能なエレクトロクロミックシートを提供することを目的とする。また、このようなエレクトロクロミックシートを有する積層体、眼鏡用レンズ及び眼鏡用レンズを有する眼鏡を提供することをあわせて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、以下の態様を包含する。
【0009】
[1]第1基板と、第2基板と、前記第1基板と前記第2基板とに挟持されたエレクトロクロミック素子と、前記第1基板と前記第2基板とに挟持され、前記第1基板と前記第2基板との間に設定される着色領域を区画する封止部と、を備えるエレクトロクロミックシートであって、前記エレクトロクロミック素子は、前記第1基板側に設けられた第1透明電極と、前記第2基板側に設けられた第2透明電極と、前記第1透明電極と前記第2透明電極とに挟持され、前記着色領域に配置され、電圧の印加により着色するエレクトロクロミック層と、を有し、前記エレクトロクロミックシートの単位面積当たりのインピーダンスを印加電圧0V、振幅10mVの条件で応答周波数0.1Hzから1MHzの範囲で測定したとき、測定結果から得られるナイキスト線図において、以下の(1)から(3)の要件を満たすエレクトロクロミックシート。
(1)前記ナイキスト線図の横軸と前記ナイキスト線図のグラフとの、0Ω/cm2以上8.0Ω/cm2以下の範囲における第1交点が、1.0Ω/cm2以上8.0Ω/cm2以下の範囲に含まれる。
(2)虚数成分が7.0Ω/cm2以上14.0Ω/cm2以下の範囲において、前記グラフを直線近似したときの近似直線の傾きが25以下である。
(3)下記A値が5.0Ω/cm2以下である。
A値=[前記近似直線と前記横軸との第2交点の値]-[前記第1交点の値]
【0010】
[2]前記A値が0Ω/cm2以上5.0Ω/cm2以下である[1]に記載のエレクトロクロミックシート。
【0011】
[3]前記第1透明電極と電気的に接続された第1補助電極と、前記第2透明電極と電気的に接続された第2補助電極と、を有し、前記第1補助電極と前記第2補助電極とは、前記着色領域の周方向で離間すると共に、前記着色領域の周囲に配置されている[1]又は[2]に記載のエレクトロクロミックシート。
【0012】
[4]前記エレクトロクロミック層は、前記第1透明電極に積層する第1エレクトロクロミック層と、前記第2透明電極に積層する第2エレクトロクロミック層と、前記第1エレクトロクロミック層と前記第2エレクトロクロミック層との間に充填された電解質層と、を有し、前記第1エレクトロクロミック層は、酸化反応によって着色を呈する材料を含み、前記第2エレクトロクロミック層は、還元反応によって着色を呈する材料を含む[1]から[3]のいずれか1項に記載のエレクトロクロミックシート。
【0013】
[5][1]から[4]のいずれか1項に記載のエレクトロクロミックシートと、前記エレクトロクロミックシートが積層されたレンズ材と、を備えた積層体。
【0014】
[6][1]から[4]のいずれか1項に記載のエレクトロクロミックシートを切削して得られたエレクトロクロミック部と、前記エレクトロクロミック部が積層されたレンズ本体と、を備える眼鏡用レンズ。
【0015】
[7][6]に記載の眼鏡用レンズと、前記眼鏡用レンズを保持するフレームと、を備え、前記眼鏡用レンズは、前記フレームと電気的に接続されている眼鏡。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、素早い発色が可能なエレクトロクロミックシートを提供することができる。また、このようなエレクトロクロミックシートを有する積層体、眼鏡用レンズ及び眼鏡用レンズを有する眼鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施形態のエレクトロクロミックシートを材料に用いたサングラス(眼鏡)を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、エレクトロクロミックシート150の分解斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2の線分III-IIIにおける部分断面図である。
【
図4】
図4は、ECシート150の一例を示す平面図である。
【
図5】
図5は、ECシート150の交流インピーダンス測定結果から得られるナイキスト線図の一例である。
【
図6】
図6は、ECシート150を用いたレンズの製造方法を説明する説明図である。
【
図7】
図7は、実施例で評価した各ECシートのナイキスト線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、
図1~
図7を参照しながら、本実施形態に係るエレクトロクロミックシート、積層体、眼鏡用レンズ及び眼鏡について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。また、以下の説明においては、用語「エレクトロクロミック」を「EC」と略記することがある。
【0019】
≪眼鏡≫
図1は、本実施形態のエレクトロクロミックシート(ECシート)を材料に用いたサングラス(眼鏡)を示す斜視図である。サングラスは眼鏡の一例である。
【0020】
本明細書において、用語「眼鏡」は、レンズを使用者の目の前方に配置する姿勢で使用者の頭部に装着する器具全般(アイウェア全般)を指す。この定義において「眼鏡」には、使用者の視力矯正を行う通常の眼鏡の他、使用者の目の保護を行うサングラスやゴーグル、レンズへの情報の表示を行うスマートグラス(ウェアラブルデバイス)等、公知のアイウェアを含む。
【0021】
図1に示すように、サングラス100は、一対のレンズ110(眼鏡用レンズ)と、フレーム120と、を備えている。
【0022】
[レンズ]
レンズ110は、可視光透過性を有し、電圧の印加の切り替えにより、発色及び消色を可逆的に行うことができる。なお、本明細書中において、「レンズ(眼鏡用レンズ)」は、集光機能を有するものと、集光機能を有していないものとの双方を含む。
【0023】
レンズ110は、後述するECシートから形成されるエレクトロクロミック部111(EC部111)と、EC部111が積層されたレンズ本体115とを有する。使用者がサングラス100を装着した際、レンズ本体115は使用者側に位置し、EC部111はレンズ本体115の使用者とは反対側の面に位置する。
【0024】
[フレーム]
フレーム120は、一対のリム部121と、ブリッジ部122と、一対のテンプル部123と、一対のノーズパッド部124とを備える。フレーム120は、使用者の頭部に装着される。フレーム120は、レンズ110を使用者の目の前方に配置する。
【0025】
リム部121は、閉環状に形成されている。一対のリム部121は、使用者の右目及び左目にそれぞれ対応する。リム部121は、開環状であってもよい。また、フレーム120は、リム部121を有さない構成であってもよい。
【0026】
ブリッジ部122は、一対のリム部121を互いに連結する。ブリッジ部122は、使用者の頭部に装着された際に、使用者の鼻の上部の前方に位置する。
【0027】
一対のテンプル部123は、リム部121において、ブリッジ部122が連結されている位置とは反対側の位置にそれぞれ連結されている。テンプル部123は、使用者の頭部に装着する際に、使用者の耳に掛けられる。
【0028】
テンプル部123は、スイッチ125と、電池126とを有している。スイッチ125は、テンプル部123の外表面に露出している。スイッチ125は、配線を介してレンズ110に電気的に接続されている。スイッチ125は、レンズ110に対して、例えば、プラス電圧の印加、マイナス電圧の印加、及び電圧の非印加の切り替えを行うことができる。
【0029】
電池126は、テンプル部123に内蔵されている。電池126は、配線を介してレンズ110に電気的に接続されている。
【0030】
ノーズパッド部124は、各リム部121における使用者の鼻に対応する位置に形成される。ノーズパッド部124は、使用者の鼻に当接する。ノーズパッド部124は、サングラス100の装着状態を安定させる。
【0031】
フレーム120の構成材料としては、例えば、金属材料、樹脂材料等を用いることができる。なお、フレーム120の形状は、使用者の頭部に装着し得る形状であれば、図示の例に限定されない。
【0032】
≪エレクトロクロミックシート≫
図2は、エレクトロクロミックシート150(ECシート150)の分解斜視図、
図3は、
図2の線分III-IIIにおける部分断面図である。ECシート150は、後述する眼鏡用レンズの材料として用いられる。
【0033】
図2,3に示すように、ECシート150は、第1基板11と、第2基板12と、エレクトロクロミック素子30(EC素子30)と、封止部40と、を有する。
図2においては、封止部40を省略している。
【0034】
第1基板11及び第2基板12は、EC素子30及び封止部40を挟持している。また、封止部40は、第1基板11及び第2基板12の間においてEC素子30の周囲に配置され、第1基板11及び第2基板12の間を区画する。封止部40により区画された領域は、電圧印加により色が変化する着色領域ARである。
【0035】
[第1基板、第2基板]
第1基板11及び第2基板12は、ECシート150の最外層である。第1基板11と第2基板12とは、互いに対向して配置され、EC素子30等を保護する保護層としての機能を有している。
【0036】
第1基板11及び第2基板12は、可視光透過性を有する。本明細書においては、可視光透過性を有することを「透明」と称することがある。また、可視光透過性を「透明性」と称することがある。透明性を有するならば、第1基板及び第2基板12は、無色であってもよく、着色されていてもよい。
【0037】
第1基板11及び第2基板12は、透明性を有する熱可塑性樹脂を主材料として含有する。このような樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等)、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)等が挙げられる。
【0038】
第1基板11及び第2基板12の材料としては、上記樹脂のうち1つを用いてもよいし、2以上を組み合わせて用いてもよい。第1基板11及び第2基板12の材料としては、ポリカーボネート系樹脂またはポリアミド系樹脂が好ましい。
【0039】
また、透明性を有するならば、第1基板11及び第2基板12の材料には、公知のフィラーや添加剤を含んでもよい。また、第1基板11及び第2基板12は単層であってもよく、積層体であってもよい。
【0040】
第1基板11及び第2基板12の波長589nmでの屈折率は、1.3以上1.8以下が好ましく、1.4以上1.65以下がより好ましい。第1基板11及び第2基板12の屈折率をこの範囲とすることにより、エレクトロクロミック素子30の機能を高めることができる。
【0041】
第1基板11及び第2基板12の平均厚さは、例えば、0.05mm以上10.0mm以下、好ましくは0.3mm以上5.0mm以下である。
【0042】
[エレクトロクロミック素子]
EC素子30は、電圧印加により生じるエレクトロクロミズムにより変色(着色、消色)を生じる。EC素子30は、第1透明電極31と、第2透明電極32と、エレクトロクロミック層35(EC層35)とを有する。EC素子30は、第1補助電極33と、第2補助電極34とを有していてもよい。
【0043】
(第1透明電極、第2透明電極)
第1透明電極31は、EC素子30の第1基板11側に設けられ、第1基板11において第2基板12側の面に形成されている。また、第2透明電極32は、EC素子30の第2基板12側に設けられ、第2基板12において第1基板11側の面に形成されている。
【0044】
図2では、第1透明電極31において、後述する第1取出部332と重なる位置には、第1取出部332と同様に突出する部分31aを有することとしているが、この部分31aは無くてもよい。第2透明電極32においても同様に、後述する第2取出部342と重なる位置には、第2取出部342と同様に突出する部分32aを有することとしているが、この部分32aは無くてもよい。
【0045】
第1透明電極31及び第2透明電極32は、透明性を有する。第1透明電極31及び第2透明電極32の材料としては、例えば、ITO、FTO(F-doped Tin Oxide)、ATO(Antimony Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、In2O3、SnO2、Sb含有SnO2、Al含有ZnO等の酸化物、Au、Pt、Ag、Cuまたはこれらを含む合金等が挙げられる。第1透明電極31及び第2透明電極32の材料としては、これらのうち1つを用いてもよいし、2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
第1透明電極31及び第2透明電極32の厚さは、必要な透明性を確保すると共に、EC層35に適切に電圧を印加可能な電気抵抗値が得られるように調製される。第1透明電極31及び第2透明電極32の材料としてITOを用いた場合、第1透明電極31及び第2透明電極32の平均厚さは、例えば、それぞれ独立して、50nm以上200nm以下、好ましくは50nm以上150nm以下、より好ましくは60nm以上130nm以下とされる。
【0047】
(第1補助電極、第2補助電極)
第1補助電極33と第2補助電極34とは、着色領域ARの周方向で離間すると共に、着色領域ARの周囲に配置されている。これにより、第1補助電極33と第2補助電極34とは、着色領域ARを取り囲んでいる。
【0048】
第1補助電極33は、第1透明電極31の周縁部において着色領域ARの周囲に配置され、第1透明電極31と電気的に接続している。第1補助電極33は、帯状の第1枠体331と、第1枠体331から着色領域ARの外側に突出する第1取出部332と、を有する。
【0049】
第1枠体331は、EC層35の一部、すなわち着色領域ARの一部を囲む。第1枠体331は、平面視で湾曲しているが、これに限らない。第1枠体331は、レンズ110としたときに、レンズ110の周囲を囲む位置に設けられている。第1枠体331の幅は、例えば0.1mm以上1.0mm以下とすることが好ましく、0.3mm以上1.0mm以下とすることがより好ましい。
【0050】
第1取出部332は、第1枠体331の一端に設けられている。第1取出部332は、レンズ110としたときに、フレーム120においてブリッジ部122又はテンプル部123の近傍となる位置に設けられている。
【0051】
第2補助電極34は、第2透明電極32の周縁部の表面において着色領域ARの周囲に配置され、第2透明電極32と電気的に接続している。第2補助電極34は、帯状の第2枠体341と、第2枠体341から着色領域ARの外側に突出する第2取出部342と、を有する。
【0052】
第2枠体341は、EC層35の一部、すなわち着色領域ARの一部を囲む。第2枠体341は、平面視で湾曲しているが、これに限らない。第2枠体341は、レンズ110としたときに、レンズ110の周囲を囲む位置に設けられている。第2枠体341の幅は、例えば0.1mm以上1.0mm以下とすることが好ましく、0.3mm以上1.0mm以下とすることがより好ましい。
【0053】
第2取出部342は、第2枠体341の一端に設けられている。第2取出部342は、レンズ110としたときに、フレーム120においてブリッジ部122又はテンプル部123の近傍となる位置に設けられている。
【0054】
なお、第1取出部332及び第2取出部342の位置は、製造するレンズ110のデザインに応じて適宜調製することができる。
【0055】
後述する様に、ECシート150をレンズ110へ加工する際、封止部40において第1取出部332と平面的に重なる位置には第1取出部332が露出する貫通孔40aが形成され、貫通孔40a内に導通部51が形成される。第1取出部332は、導通部51との接続箇所として用いられる。形成される導通部51は、第1取出部332(第1補助電極33)と電気的に接続する。
【0056】
封止部40において第2取出部342と平面的に重なる位置にも同様に、第2取出部342が露出する貫通孔が形成され、貫通孔内に導通部が形成される。第2取出部342は、導通部との接続箇所として用いられる。形成される導通部は、第2取出部342(第2補助電極34)と電気的に接続する。
【0057】
第1補助電極33の電気抵抗値は、第1透明電極31の電気抵抗値よりも低い。同様に、第2補助電極34の電気抵抗値は、第2透明電極32の電気抵抗値よりも低い。第1補助電極33及び第2補助電極34の構成材料としては、例えば、銀、アルミニウム、銅、クロム及びモリブデン等が挙げられる。第1補助電極33及び第2補助電極34の構成材料としては、導電性インクを用いることもできる。第1補助電極33及び第2補助電極34の構成材料としては、これらのうち1つを用いてもよいし、2以上を組み合わせて用いてもよい。第1補助電極33及び第2補助電極34は、例えば、スパッタ、蒸着などにより形成することができる。第1補助電極33及び第2補助電極34は、導電性インクを用いた印刷により形成することもできる。
【0058】
第1補助電極33及び第2補助電極34の平均厚さは、それぞれ独立して、1nm以上300nm以下が好ましい。第1補助電極33及び第2補助電極34の平均厚さは、150nm以上250nm以下がより好ましい。
【0059】
図4は、ECシート150の一例を示す平面図である。
図4に示すように、第1補助電極33と第2補助電極34とは、平面視で互いに重ならず、且つ平面視において着色領域ARを挟んで反対側に位置している。また、第1取出部332は第2透明電極32と重ならず、且つ第2取出部342は第1透明電極31と重なっていない。
【0060】
第1枠体331の全長と第2枠体341の全長とは、差が小さい方が好ましく、相互に2倍以上の差が付かない方が好ましい。例えば、第1枠体331の全長は、第2枠体341の全長に対し50%超200%未満が好ましく、55%以上175%以下であるとより好ましい。また、第1枠体331の全長は、第2枠体341の全長に対して58%以上165%以下であると好ましく、61%以上155%以下であるとより好ましく、65%以上145%以下であるとさらに好ましい。各上限値と下限値とは、任意に組み合わせることができる。
【0061】
(エレクトロクロミック層)
図2,3に示すように、EC層35は、第1透明電極31に積層する第1エレクトロクロミック層351(第1EC層351)と、第2透明電極32に積層する第2エレクトロクロミック層352(第2EC層352)と、第1EC層351と第2EC層352との間に充填された電解質層353と、を有する。
【0062】
(第1エレクトロクロミック層)
第1EC層351は、色が変化する層であり、酸化反応によって着色する材料を主材料として含有する。酸化反応によって着色する材料としては、例えば、トリアリールアミン構造を有するラジカル重合性化合物の重合物、ビスアクリダン化合物、トリフェニルアミン、ベンジジン、プルシアンブルー型錯体、及び酸化ニッケル等、エレクトロクロミズムを示し、EC素子に用いられる公知の材料が挙げられる。
【0063】
トリアリールアミン構造を有するラジカル重合性化合物の重合物としては、例えば、特開2016-45464号公報、特開2020-138925号公報等に記載のものが挙げられる。
【0064】
酸化反応によって着色する材料としては、これらのうちの1つを用いてもよいし、2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
第1EC層351の平均厚さは、0.1μm以上30μm以下が好ましい。第1EC層351の平均厚さは、0.4μm以上10μm以下がより好ましい。
【0066】
(第2エレクトロクロミック層)
第2EC層352は、色が変化する層であり、還元反応によって着色する材料を主材料として含有する。還元反応によって着色する材料としては、例えば、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化イリジウム、酸化チタン等の無機エレクトロクロミック化合物、ビオロゲン系化合物及びジピリジン系化合物等の有機エレクトロクロミック化合物等、エレクトロクロミズムを示し、EC素子に用いられる公知の材料が挙げられる。
【0067】
還元反応によって着色する材料としては、これらのうちの1つを用いてもよいし、2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
第1EC層351が酸化反応によって着色する色(色1)と、第2EC層352が還元反応によって着色する色(色2)とは、同じ色調であってもよく、異なる色調であってもよい。色1と色2とが同じ色調である場合、最大発色濃度を高め、コントラストを向上させることできる。色1と色2とが異なる色調である場合、EC素子30の発色としては、色1と色2との混色後の色となる。
【0069】
第1EC層351と第2EC層352との両方を着色させることによって、第1EC層351と第2EC層352の酸化還元色素を同時に発色させることができる。そのため、発色スピードを向上させることができる。
【0070】
第2EC層352の平均厚さは、0.2μm以上5.0μm以下が好ましい。第2EC層352の平均厚さは、1.0μm以上4.0μm以下がより好ましい。第2EC層352の平均厚さは、0.2μm以上であると、発色濃度を高めることができる。第2EC層352の平均厚さは、5.0μm以下であると、製造コストを抑えることができる。第2EC層352の平均厚さは、5.0μm以下であると、着色による視認性の低下が起こりにくい。
【0071】
(電解質層)
電解質層353は、第1EC層351と第2EC層352との間に充填されている。電解質層353は、イオン伝導性を有する電解質を含有する。
【0072】
電解質としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩;4級アンモニウム塩、酸類、アルカリ類等の支持塩などが挙げられる。電解質の対イオン(陰イオン)は、ハロゲン、チオシアン酸イオン(SCN-)、塩素酸イオン(ClO3
-)、過塩素酸イオン(ClO4
-)、テトラフルオロホウ酸イオン(BF4
-)、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF6
-)、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(CF3SO3
-)、トリフルオロ酢酸イオン(CF3COO-)、ビスフルオロスルフォニウムイミド(N(SO2F)2
-)を挙げることができる。
【0073】
このような電解質として、具体的には、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3COO、KCl、NaClO3、NaCl、NaBF4、NaSCN、KBF4、Mg(ClO4)2、Mg(BF4)2等が挙げられる。電解質としては、これらのうちの1つを用いてもよいし、2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
電解質の材料としては、イオン性液体を用いることもできる。イオン性液体の中でも、有機のイオン性液体は、室温を含む幅広い温度領域で液体を示す分子構造を有しているため、取り扱いが容易である。
【0075】
電解質層353の平均厚さは、20μm以上100μm以下が好ましい。電解質層353の平均厚さは、30μm以上80μm以下がより好ましく、30μm以上70μm以下がさらに好ましい。
【0076】
[封止部]
封止部40は、第1基板11と第2基板12との間に配置され、着色領域ARを区画する。封止部40の材料は、透明性を有する絶縁性材料であれば特に限定されない。封止部40の材料としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂材料;シリコン酸化物(SiO2)、シリコン酸窒化物(SiON)、アルミ酸化物(Al2O3)等の無機酸化物等が挙げられる。
【0077】
封止部40の平均厚さは、EC素子30の平均厚さに応じて調製される。封止部40の平均厚さは、20μm以上100μm以下が好ましく、30μm以上80μm以下がより好ましく、40μm以上60μm以下がさらに好ましい。
【0078】
発明者らは、上述のようなECシート150の素早い発色を実現すべく、消色状態のECシート150の電気的な特性に着目し、消失状態の交流インピーダンス測定を行い検討を重ねた。その結果、以下の(1)~(3)の要件を満たすことにより、素早い発色が可能であることを見出し、発明を完成させた。
【0079】
ECシート150は、ECシートの単位面積当たりのインピーダンスを印加電圧0V、振幅10mVの条件で応答周波数0.1Hzから1MHzの範囲で測定したとき、測定結果から得られるナイキスト線図(又はCole-Coleプロット)において、以下の(1)から(3)の要件を満たす。
(1)ナイキスト線図の横軸とナイキスト線図のグラフとの、0Ω/cm2以上8.0Ω/cm2以下の範囲における第1交点が、1.0Ω/cm2以上8.0Ω/cm2以下の範囲に含まれる。
(2)虚数成分が7.0Ω/cm2以上14.0Ω/cm2以下の範囲において、グラフを直線近似したときの近似直線の傾きが25以下である。
(3)下記A値が5.0Ω/cm2以下である。
A値=[近似直線と横軸との第2交点の値]-[第1交点の値]
【0080】
図5は、ECシート150の交流インピーダンス測定結果から得られるナイキスト線図の一例である。交流インピーダンス測定は、25℃の恒温槽において行った。ナイキスト線図は、交流インピーダンス測定の結果を示す複素平面であり、横軸がインピーダンスの実数成分(抵抗)、縦軸がインピーダンスの虚数成分(容量性リアクタンス)を示すことが知られている。
図5においては、ナイキスト線図のグラフを符号Gで示している。
【0081】
要件(1)である第1交点P1の値は、主に透明電極(第1透明電極31、第2透明電極32)の抵抗を表す。第1交点P1(透明電極の抵抗)が1.0Ω/cm2以上8.0Ω/cm2以下であるECシート150は、第1交点P1が8.0Ω/cm2を超えるほど高抵抗のECシートと比べると、発色スピードが速いものとなる。
【0082】
第1交点P1の値は、1.2Ω/cm2以上であってもよい。また、第1交点P1の値は6.0Ω/cm2以下であってもよく、4.0Ω/cm2以下であると好ましい。
【0083】
要件(2)である傾きは、発色スピードに影響すると考えられる。
図5においては、近似直線を符号PLで示している。
【0084】
図5は、ナイキスト線図の原点近く(高周派領域(低抵抗の領域))を示す拡大図である。ナイキスト線図では、グラフが低周波領域(高抵抗の領域)において横軸と交点(第3交点)を形成する略半円の軌跡を描くことが知られている。この第3交点は、ECシートの第1EC層351、第2EC層352の内部抵抗と相関があると考えられる。
【0085】
要件(2)として規定する近似直線PLの傾きが小さいECシートでは、上記半円が小さくなり、第3交点が小さくなる。このようなECシートは、第1EC層351、第2EC層352の内部抵抗が相対的に小さいと考えることができ、発色スピードが速くなると考えられる。
【0086】
すなわち、近似直線PLの傾きが小さいほど、ECシート150の発色スピードは速くなる。
【0087】
近似直線PLの傾きは、1以上20以下が好ましく、1以上12以下がより好ましい。
【0088】
要件(3)であるA値は、ECシート150の発色の維持しやすさに影響する。
図5においては、第2交点を符号P2で示している。第2交点P2が第1交点P1よりも小さい値である場合、A値は負の値となる。
【0089】
以下の説明においては、ECシートが発色した後に発色を維持する性質を「メモリー性」と称することがある。「メモリー性が良い」とは、ECシートが発色を維持しやすいことを意味する。
【0090】
A値が0Ω/cm2以上5.0Ω/cm2以下である、すなわち第2交点P2の値が第1交点P1の値と同等以上であるECシート150は、素早い発色と良好なメモリー性とを両立可能なECシートとなる。このようなECシート150は、電圧印加による色変化の過程では「色変化しやすい」、設定された色に変化した後では「色変化しにくい」という、相反する要求に応えることができ好ましい。
【0091】
要件(1)~(3)はそれぞれ次のようにして制御することができる。
【0092】
要件(1)である第1交点P1の値は、透明電極(第1透明電極31、第2透明電極32)の厚さにより制御することができる。透明電極が厚いECシートは、第1交点P1の値が小さく、透明電極が薄いECシートは、第1横転P1の値が大きくなる傾向にある。一方、透明電極を厚くすると、ECシートの透明性が低下し、熱曲げ成形時に破損しやすくなる。そのため、透明電極の厚さは、第1交点P1の値と、ECシートの透明性や破損のしやすさとを考慮して設定するとよい。
【0093】
また、第1交点P1の値は、導通部51と第1取出部331、導通部52と第2取出部332、各補助電極と各透明電極などの各界面において、接触が不安定であると高くなる傾向にある。
【0094】
要件(2)である近似直線PLの傾きは、第1EC層351、第2EC層352の内部抵抗が影響すると考えられる。例えば、第1EC層351の層厚を薄くし、色素の濃度を高くすることにより、第1EC層351の内部抵抗を小さくし、近似直線PLの傾きを小さくすることができる。
【0095】
要件(3)であるA値は、第1EC層351と電解質層353の界面、及び第2EC層352と電解質層353の界面の抵抗が影響すると考えられる。特に、EC層35を製造する際には、電解質層353の電解質が第1EC層351に浸透するが、この電解質の浸透量が第1EC層351と電解質層353との界面抵抗に影響する。電解質の浸透量が多いと、第1EC層351と電解質層353との界面抵抗が小さくなり、A値が小さく(第2交点が小さく)なる傾向にある。
【0096】
第1EC層351に対する電解質の浸透量は、EC層35の製造時に、第1EC層351と電解質層353とを重ね合わせてプレスする際の加圧時間により制御することができる。
【0097】
本実施形態のECシート150は、上記要件(1)~(3)を満たすことにより、素早い発色が可能となる。
【0098】
≪積層体、眼鏡用レンズ≫
図6は、ECシート150を用いたレンズの製造方法を説明する説明図である。
【0099】
まず、
図6(a)に示すように、ECシート150に加熱下で曲げ加工を施すことで、ECシート150を目的とするレンズの曲率に合わせて湾曲させる。曲げ加工は、例えば、プレス成形または真空成形により行う。
【0100】
次いで、
図6(b)に示すように、湾曲させたECシート150をインサート品としてインサート成型し、ECシート150の凹面にレンズ材119を形成して積層体160を得る。積層体160は、本発明における「積層体」に該当する。レンズ材119は、後述する加工を施すことによりレンズ本体115となる。
【0101】
レンズ材119は、可視光透過性を有する。レンズ材119の材料は、光学部材の材料として公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0102】
レンズ材119の材料が、ECシート150においてレンズ材119と接する基板(第1基板11又は第2基板12)の主材料と同種又は同一であると、ECシート150とレンズ材119とを密着させやすく好ましい。また、基板の材料とレンズ材119の材料とが同種もしくは同一であると、基板とレンズ材119との屈折率差を小さくすることができ、ECシート150とレンズ材119との界面における光の散乱や反射を抑制できる。基板とレンズ材119との屈折率差は、0.2以下であることが好ましく、0.1以下であることがより好ましい。
【0103】
レンズ材119の厚さは、例えば、1.5mm以上、20mm以下が好ましい。レンズ材119の厚さを前記範囲とすることにより、得られるレンズの高い強度と軽量化との両立を図ることができる。
【0104】
次いで、レンズ材119の表面研磨、ECシート150及びレンズ材119の表面のハードコート処理、及び反射防止処理を行う。その後、第1取出部332及び第2取出部342と重なる位置の封止部40に、第1取出部332が露出する貫通孔と、第2取出部342が露出する貫通孔とを形成する。貫通孔内には、第1取出部331と電気的に接続する導通部51と、第2取出部341と電気的に接続する導通部52とを形成する。
【0105】
導通部51,52は、貫通孔の内部に充填された導電ペースト、貫通孔の内部に挿入された導電性の筒状部材により形成することができる。その他、貫通孔内に形成され、第1補助電極33(第1取出部332)及び第2補助電極34(第2取出部342)と電気的に接続可能であれば、公知の材料を適宜適用することができる。
【0106】
次いで、
図6(c)に示すように、積層体160をトリミング加工し、上述のサングラス100が有するリム部121に対応した形状とする。このとき、第1取出部332及び第2取出部342の周辺のトリミングは、例えば回転する円筒状の砥石Gを用いて行う。
【0107】
このような加工により、ECシート150を切削して得られたEC部111と、EC部111が積層されたレンズ本体115とを備えるレンズ110が得られる(
図1参照)。
図6では、積層体160を切削する際、ECシート150の第1補助電極33及び第2補助電極34の外周に沿って切削しレンズ110としている。得られるレンズ110は、本発明における「眼鏡用レンズ」に該当する。
【0108】
積層体160が有するレンズ材119は、第1補助電極33及び第2補助電極34の外周に沿ったトリミング加工により、レンズ本体115に加工される。レンズ本体115は、第1取出部332及び第2取出部342と平面視同型状の突出部115aを有する。
【0109】
なお、ECシート150の第1取出部332及び第2取出部342が各補助電極から外周側に突出しない構成となるならば、レンズ本体115において突出部115aは無くてもよい。
【0110】
得られたレンズ110は、
図1に示すフレーム120と組み合わされる。その際、EC部111の第1取出部332と第2取出部342は、それぞれに設けられる導通部を介して、フレーム120と電気的に接続する。本実施形態においては、第1取出部332及び第2取出部342は、フレーム120のテンプル部123又はブリッジ部122に設けられた不図示の外部端子と電気的に接続し、電池126と接続する。
これにより、サングラス100が得られる。
【0111】
ECシート150が有する補助電極33,34や封止部40を隠しやすいため、レンズ110が適用される眼鏡(サングラス100)は、レンズの周囲を囲むフレームが無いデザイン(フレームレス)のものよりも、フレームを有するデザインである方が好ましい。また、同様の理由から、レンズ110が採用される眼鏡は、ハーフリムタイプのデザインのものよりも、レンズの周囲全体をフレームで囲うデザインである方が好ましい。
【0112】
レンズ110の形状は、特に制限が無く、デザインに応じて適宜採用可能である。例えば、レンズの形状としては、ウエリントン、サーモント(ブロー)、ボストン、ティアドロップ、レキシントン、スクエア、ラウンド、オーバル、フォックス等の公知のフレーム形状に合わせた形状とすることができる。
【0113】
以上のような構成のエレクトロクロミックシートによれば、発色不良箇所の発生が抑制される。
【0114】
また、以上のような構成の積層体、眼鏡用レンズ、眼鏡によれば、上記エレクトロクロミックシートを有することにより、発色不良箇所の発生が抑制された高品質なものとなる。
【0115】
なお、本実施形態においては、眼鏡の例としてサングラス100を示したが、これに限らない。レンズ110の適用先は、例えば、風雨、塵芥、薬品等から眼を保護するゴーグル等であってもよい。他にも、レンズ110の適用先としては、スマートグラスのような、レンズ110を使用者の目の前方に配置する姿勢で使用者の頭部に装着するウェアラブルデバイスであってもよい。
【0116】
また、本実施形態においては、EC層35には第1EC層351と第2EC層352とを有することとしたが、これに限らない。EC層35が、第1EC層351と第2EC層352のいずれか一方のみを有する構成であっても、本発明の効果を奏することができる。
【0117】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計、仕様等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0118】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0119】
実施例においては、以下のように構成が異なるECシートを用意し、交流インピーダンス測定を行って単位面積当たりのインピーダンスを求めた。また、用意した各ECシートについて、発色スピードとメモリー性とを評価した。以下の説明においては、適宜上述の実施形態で用いた符号を用いて構成を説明する。
【0120】
[実施例1]
(電解質層の製造)
以下のバインダー樹脂1、バインダー樹脂2、イオン液体を、質量比で23:7:70で混合し、さらに光重合開始剤をバインダー樹脂1および2の合計量に対して0.5質量%混合して電解質溶液を調製した。
バインダー樹脂1:ウレタンアクリレート(商品名:UXF4002、日本化薬株式会社製)
バインダー樹脂2:ポリメチルメタクリレート(PMMA)鎖を有するポリマーの架橋体(商品名:AA-6、東亜合成株式会社製)
イオン液体1:(EMIMFSI、エチルメチルイミダゾリウムビスフルオロスルホンイミド、関東化学株式会社)
【0121】
得られた電解質溶液を、離型処理したPETフィルム(NP75C、パナック株式会社製)表面に塗布し、さらに離型処理したPETフィルム(NP75A、パナック株式会社製)を重ねた上でUV照射することで、電解質層353を作製した。
【0122】
(第1EC層の製造)
厚み0.5mmのポリカーボネート樹脂基板(ポリカエース、荷重たわみ温度140℃、住友ベークライト社製)上に、ITOをスパッタ製膜し、厚さ約100nmの第1透明電極31を形成した。PC樹脂基板は、第1基板11に該当する。
【0123】
ポリエチレングリコールジアクリレート(日本化薬株式会社製、PEG400DA)と、光開始剤(BASF社製、IRGACURE 184)と、下記式(I)で表される化合物(化合物I)と、2-ブタノンとを質量比(57:3:140:800)で混合した溶液を調製した。
【0124】
【0125】
調製した溶液を第1透明電極31上にスピンコートして塗膜を形成した。次いで、窒素雰囲気下で、所定の露光マスクを介して塗膜にUV露光し、第1透明電極31上に化合物Iを含む第1EC層351を選択形成した。第1EC層351は、厚さ1μmであり、パターン形成されたものであった。
【0126】
(第2EC層の製造)
第1基板11と同様のPC樹脂基板(第2基板12)上に、ITOをスパッタ製膜し、厚さ約100nmの第2透明電極32を形成した。
【0127】
酸化スズゾル溶液(日産化学工業社製、セルナックスCX-S510M):5.50g、エチルセルロース(10cp、10質量%、エタノール溶液):1.00g、Tin(IV)tetra(t-butoxide):0.50g、テルピネオール:9.05gを混合し、超音波ホモジナイザーで2分処理後、エバポレーターで揮発成分を除去してペーストを得た。
【0128】
第2透明電極32上に、得られたペーストを、厚さ2μmでスクリーン印刷し、80℃で乾燥させた後、UVオゾン処理を90℃で20分間実施して、多孔質の酸化スズ粒子膜を形成した。
【0129】
酸化スズ膜上に、下記式(II)で表される化合物(化合物II)の1.5質量%2,2,3,3-テトラフロロプロパノール溶液をスピンコートし、80℃で10分間アニール処理することで、酸化スズ膜に化合物IIを担持させた第2EC層352を形成した。
【0130】
【0131】
(ECシートの製造)
第2EC層352の表面に電解質層353を貼合した。続いて、第2EC層352の側面周辺を囲う位置に、封止材料(エポキシアクリレート樹脂(「フォトレックS-WF17」積水マテリアルソリューションズ株式会社製)をディスペンサ方式で塗布した。
【0132】
その後、第1基板11の第1EC層351を電解質層353に貼合し、60秒プレスして封止材料を押し広げることで、第1EC層351及び第2EC層352の側面を封止材料によって覆った。得られた積層体に紫外線(3J/cm2)を照射(仮硬化)した後、100℃で1時間の熱硬化処理(本硬化)を行い封止部を形成して、実施例1のECシートを作製した。
【0133】
[実施例2~5、比較例1~3]
透明電極の厚さ、第1EC層351の厚さ、貼り合わせ時のプレス時間を表2に示す条件としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~5、比較例1~3の各ECシートを作製した。
【0134】
【0135】
得られた各ECシートについて、以下の測定を行った。
【0136】
(交流インピーダンス測定条件)
印加電圧:0V
振幅:10mV
応答周波数:0.1Hzから1MHz
測定温度:25℃
【0137】
測定結果からナイキスト線図を作成し、以下の(1)~(3)を求めた。
(1):ナイキスト線図の横軸とナイキスト線図のグラフとの、0Ω/cm2以上8.0Ω/cm2以下の範囲における第1交点の値
(2):虚数成分が7.0Ω/cm2以上14.0Ω/cm2以下の範囲においてグラフを直線近似したときの近似直線の傾き
(3):A値(Ω/cm2)=[近似直線と横軸との第2交点の値]-[第1交点の値]
【0138】
(評価1:発色スピード確認条件)
各ECシートに対し、以下の条件で電圧を印加した後、D65-2°での視感透過率を測定した。測定された透過率が20%未満であるECシートを合格、20%以上であるECシートを不合格とした。
印加電圧:1.6V
印加時間:15秒
測定温度:25℃
【0139】
(評価2:メモリー性確認条件)
電圧印加により視感透過率10%となっているECシートについて、印加電圧を0V(開放)として25℃で45分放置した。放置後のECシートの視感透過率を測定し、下記式による視感透過率の変化率を算出した。測定された変化率が20%未満であるECシートを合格、20%以上であるECシートを不合格とした。
変化率(%)=[放置後の視感透過率]-[放置前の視感透過率]
【0140】
図7は、各ECシートのナイキスト線図である。各ECシートについて評価した評価結果を表2に示す。
【0141】
【0142】
評価の結果、(1)が1.0Ω/cm2以上8.0Ω/cm2以下、(2)が25以下、(3)が5.0Ω/cm2以下である実施例1~5においては、評価1(発色スピード)が全て良好であった。さらに、(3)の値が0Ω/cm2以上5.0Ω/cm2以下である実施例1~4は、メモリー性も良好であることが確認できた。
【0143】
一方、(1)、(2)、(3)のいずれかが本発明の要件を満たさない比較例1~3は、発色スピードが遅いことが確認できた。
【0144】
以上により、本発明が有用であることが確かめられた。
【符号の説明】
【0145】
11…第1基板、12…第2基板、30…エレクトロクロミック素子(EC素子)、31…第1透明電極、32…第2透明電極、33…第1補助電極、34…第2補助電極、35…エレクトロクロミック層(EC層)、40…封止部、110…レンズ、111…エレクトロクロミック部(EC部)、115…レンズ本体、115a…突出部、119…レンズ材、120…フレーム、150…エレクトロクロミックシート(ECシート)、160…積層体、311,312,321,322…透明電極層、331…第1枠体、331x,341x…他端、332…第1取出部、341…第2枠体、342…第2取出部、351…第1エレクトロクロミック層(第1EC層)、352…第2エレクトロクロミック層(第2EC層)、353…電解質層、AR…着色領域
【要約】
【課題】素早い発色が可能なエレクトロクロミックシート、積層体、眼鏡用レンズ及び眼鏡の提供。
【解決手段】第1基板と第2基板とEC素子と封止部とを備えるECシートであって、EC素子は第1透明電極と第2透明電極とEC層とを有し、ECシートの単位面積当たりのインピーダンスを印加電圧0V、振幅10mVの条件で応答周波数0.1Hzから1MHzの範囲で測定したとき、測定結果から得られるナイキスト線図において、以下の(1)から(3)の要件を満たすエレクトロクロミックシート。
(1)ナイキスト線図の横軸とグラフとの第1交点が1.0Ω/cm
2以上8.0Ω/cm
2以下。
(2)虚数成分が7.0Ω/cm
2以上14.0Ω/cm
2以下の範囲のグラフの近似直線の傾きが25以下。
(3)A値([近似直線と横軸との第2交点の値]-[第1交点の値])が5.0Ω/cm
2以下
【選択図】
図5