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特許7588280クロム合金容器及びメタルサポート形電気化学セル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】クロム合金容器及びメタルサポート形電気化学セル
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/63 20210101AFI20241114BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20241114BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20241114BHJP
   H01M 8/0271 20160101ALI20241114BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20241114BHJP
   H01M 8/1226 20160101ALI20241114BHJP
【FI】
C25B9/63
C25B1/042
C25B9/00 A
H01M8/0271
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
H01M8/1226
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2024546467
(86)(22)【出願日】2023-10-05
(86)【国際出願番号】 JP2023036374
【審査請求日】2024-08-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 敬司
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊之
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 玄太
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-217039(JP,A)
【文献】特開2019-116397(JP,A)
【文献】特開2016-207630(JP,A)
【文献】特開2004-39573(JP,A)
【文献】特表2023-504981(JP,A)
【文献】特開2021-103635(JP,A)
【文献】特開平10-106596(JP,A)
【文献】特開平8-130022(JP,A)
【文献】国際公開第2021/201098(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 9/63
C25B 1/042
C25B 9/00
H01M 8/12
H01M 8/1226
H01M 8/0271
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有するクロム合金容器であって、
クロムを含有する合金によって構成される第1合金部材と、
クロムを含有する合金によって構成される第2合金部材と、
前記第1合金部材と前記第2合金部材の間に介挿される介挿部と、
を備え、
前記介挿部は、
クロムを主成分とする酸化物によって構成される酸化物接着層と、
前記酸化物接着層に埋設され、前記第1合金部材と前記第2合金部材を連結する金属連結部と、
を有する、
クロム合金容器。
【請求項2】
前記金属連結部は、前記第1合金部材及び前記第2合金部材のうち少なくとも一方の主成分と同じ元素を主成分として含有する、
請求項1に記載のクロム合金容器。
【請求項3】
前記金属連結部は、クロムを含有する、
請求項1又は2に記載のクロム合金容器。
【請求項4】
厚み方向における前記酸化物接着層の厚みに対する面方向における前記金属連結部の最小幅の比は、0.3以上である、
請求項1に記載のクロム合金容器。
【請求項5】
厚み方向における前記酸化物接着層の厚みに対する面方向における前記金属連結部どうしの最長距離の比は、20以下である、
請求項1に記載のクロム合金容器。
【請求項6】
面方向における前記金属連結部の最小幅に対する厚み方向における前記第1合金部材又は前記第2合金部材の厚みの比は、50以上である、
請求項1に記載のクロム合金容器。
【請求項7】
面方向における前記金属連結部の最小幅に対する厚み方向における前記第1合金部材又は前記第2合金部材の厚みの比は、2000以下である、
請求項1に記載のクロム合金容器。
【請求項8】
前記酸化物接着層中の金属元素に占めるクロム含有率は、50mol%以上である、
請求項1に記載のクロム合金容器。
【請求項9】
前記酸化物接着層は、クロム酸化物及びクロムマンガン酸化物のうち少なくとも一方によって構成される、
請求項1に記載のクロム合金容器。
【請求項10】
前記酸化物接着層は、結晶質である、
請求項1に記載のクロム合金容器。
【請求項11】
前記酸化物接着層は、スピネル型又はコランダム型の結晶構造を有する、
請求項10に記載のクロム合金容器。
【請求項12】
前記介挿部は、前記内部空間を封止するためのシールである、
請求項1に記載のクロム合金容器。
【請求項13】
前記第2合金部材は、前記第1合金部材に当接するエンボス部を有し、
前記介挿部は、前記第1合金部材に前記エンボス部を接着する、
請求項1に記載のクロム合金容器。
【請求項14】
請求項1に記載のクロム合金容器と、
前記クロム合金容器上に配置されるセル本体部と、
を備え、
前記第1合金部材は、前記内部空間に繋がる複数の連通孔を有し、
前記セル本体部は、前記複数の連通孔を覆うように前記第1合金部材上に配置される、
メタルサポート形電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロム合金容器及びメタルサポート形電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、燃料電池を収容するクロム合金容器が開示されている。クロム合金容器は、第1インターコネクタ、第2インターコネクタ、セパレータ、燃料極フレーム及びガラスシールを備える。
【0003】
第1インターコネクタは、燃料電池の空気極に接続される。第2インターコネクタは、燃料電池の燃料極集電層に接続される。セパレータは、燃料電池の固体電解質に接続され、燃料ガスと酸化剤ガスの流路を分離する。燃料極フレームは、セパレータと第2インターコネクタの間に配置される。ガラスシールは、第1インターコネクタとセパレータを接着する。
【0004】
第1インターコネクタ、第2インターコネクタ、セパレータ及び燃料極フレームそれぞれは、クロム合金(例えば、SUS430、SUS444など)によって構成される。ガラスシールは、ガラス材料によって構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-156352号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のクロム合金容器では、第1インターコネクタ及びセパレータそれぞれが含有しているクロムがガラスシールに拡散することによって、ガラスシールの組成が変化して強度が低下しやすい。その結果、ガラスシールに変形や割れが生じてしまうため、長期間に渡って合金部材どうしの接合性を維持することはできない。このことは、燃料電池を収容する容器に限らず、クロム合金容器全般に共通する課題である。
【0007】
本発明の課題は、長期間に渡って合金部材どうしの接合性を維持可能なクロム合金容器及びメタルサポート形電気化学セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面に係るクロム合金容器は、内部空間を有する。当該クロム合金容器は、クロムを含有する合金によって構成される第1合金部材と、クロムを含有する合金によって構成される第2合金部材と、前記第1合金部材と前記第2合金部材の間に介挿される介挿部とを備える。前記介挿部は、クロムを主成分とする酸化物によって構成される酸化物接着層と、前記酸化物接着層に埋設され、前記第1合金部材と前記第2合金部材を連結する金属連結部とを有する。
【0009】
本発明の第2の側面に係るクロム合金容器は、上記第1の側面に係り、前記金属連結部は、前記第1合金部材及び前記第2合金部材のうち少なくとも一方の主成分と同じ元素を主成分として含有する。
【0010】
本発明の第3の側面に係るクロム合金容器は、上記第1又は第2の側面に係り、前記金属連結部は、クロムを含有する。
【0011】
本発明の第4の側面に係るクロム合金容器は、上記第1乃至第3いずれかの側面に係り、厚み方向における前記酸化物接着層の厚みに対する面方向における前記金属連結部の最小幅の比は、0.3以上である。
【0012】
本発明の第5の側面に係るクロム合金容器は、上記第1乃至第4いずれかの側面に係り、厚み方向における前記酸化物接着層の厚みに対する面方向における前記金属連結部どうしの最長距離の比は、20以下である。
【0013】
本発明の第6の側面に係るクロム合金容器は、上記第1乃至第5いずれかの側面に係り、面方向における前記金属連結部の最小幅に対する厚み方向における前記第1合金部材又は前記第2合金部材の厚みの比は、50以上である。
【0014】
本発明の第7の側面に係るクロム合金容器は、上記第1乃至第6いずれかの側面に係り、面方向における前記金属連結部の最小幅に対する、厚み方向における前記第1合金部材又は前記第2合金部材の厚みの比は、2000以下である。
【0015】
本発明の第8の側面に係るクロム合金容器は、上記第1乃至第7いずれかの側面に係り、前記酸化物接着層中の金属元素に占めるクロム含有率は、50mol%以上である。
【0016】
本発明の第9の側面に係るクロム合金容器は、上記第1乃至第8いずれかの側面に係り、前記酸化物接着層は、クロム酸化物及びクロムマンガン酸化物のうち少なくとも一方によって構成される。
【0017】
本発明の第10の側面に係るクロム合金容器は、上記第1乃至第9いずれかの側面に係り、前記酸化物接着層は、結晶質である。
【0018】
本発明の第11の側面に係るクロム合金容器は、上記第10の側面に係り、前記酸化物接着層は、スピネル型又はコランダム型の結晶構造を有する。
【0019】
本発明の第12の側面に係るクロム合金容器は、上記第1乃至第11いずれかの側面に係り、前記介挿部は、前記内部空間を封止するためのシールである。
【0020】
本発明の第13の側面に係るクロム合金容器は、上記第1乃至第12いずれかの側面に係り、前記第2合金部材は、前記第1合金部材に当接するエンボス部を有する。前記介挿部は、前記第1合金部材に前記エンボス部を接着する。
【0021】
本発明の第14の側面に係るメタルサポート形電気化学セルは、上記第1乃至第13いずれかの側面に係るクロム合金容器と、前記クロム合金容器上に配置されるセル本体部とを備える。前記第1合金部材は、前記内部空間に繋がる複数の連通孔を有する。前記セル本体部は、前記複数の連通孔を覆うように前記第1合金部材上に配置される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、長期間に渡って合金部材どうしの接合性を維持可能なクロム合金容器及びメタルサポート形電気化学セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、第1実施形態に係る電解セルの平面図である。
図2図2は、図1のA-A断面図である。
図3図3は、図2の部分拡大図である。
図4図4は、第2実施形態に係る電解セルの断面図である。
図5図5は、図4の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.第1実施形態
【0025】
(電解セル1)
図1は、第1実施形態に係る電解セル1の平面図である。図2は、図1のA-A断面図である。
【0026】
電解セル1は、本発明に係る「メタルサポート形電気化学セル」の一例である。
【0027】
電解セル1は、X軸方向及びY軸方向に広がる板状に形成される。本実施形態において、電解セル1は、X軸方向及びY軸方向に垂直なZ軸方向から平面視した場合、Y軸方向に延びる長方形に形成される。ただし、電解セル1の平面形状は特に限られず、長方形以外の多角形、楕円形、円形などであってもよい。
【0028】
図1及び図2に示すように、電解セル1は、セル本体部2及びクロム合金容器3を備える。
【0029】
(セル本体部2)
セル本体部2は、クロム合金容器3上に配置される。セル本体部2は、クロム合金容器3のうち後述する金属支持体10によって支持される。セル本体部2は、水素極6(カソード)、電解質7、反応防止層8及び酸素極9(アノード)を有する。
【0030】
水素極6、電解質7、反応防止層8及び酸素極9は、Z軸方向において、この順でクロム合金容器3側から積層されている。水素極6、電解質7、及び酸素極9は必須の構成であり、反応防止層8は任意の構成である。
【0031】
[水素極6]
水素極6は、金属支持体10の第1主面12上に配置される。
【0032】
水素極6には、金属支持体10の各供給孔11から原料ガスが供給される。原料ガスは、少なくとも水蒸気(HO)を含む。
【0033】
原料ガスがHOのみを含む場合、水素極6は、下記(1)式に示す水電解の電気化学反応に従って、原料ガスからHを生成する。
【0034】
・水素極6:HO+2e→H+O2-・・・(1)
【0035】
原料ガスがHOに加えてCOを含む場合、水素極6は、下記(2)、(3)、(4)式に示す共電解の電気化学反応に従って、原料ガスからH、CO及びO2-を生成する。
【0036】
・水素極6:CO+HO+4e→CO+H+2O2-・・・(2)
・HOの電気化学反応:HO+2e→H+O2-・・・(3)
・COの電気化学反応:CO+2e→CO+O2-・・・(4)
【0037】
水素極6において生成されるHは、金属支持体10の各供給孔11から後述する内部空間3aに流出する。
【0038】
水素極6は、電子伝導性を有する多孔質体である。水素極6は、ニッケル(Ni)を含有する。共電解の場合、Niは、電子伝導物質として機能するとともに、生成されるHと原料ガスに含まれるCOとの熱的反応を促進してメタネーションやFT(Fischer-Tropsch)合成などに適切なガス組成を維持する熱触媒としても機能する。水素極6が含有するNiは、電解セル1の作動中、基本的には金属Niの状態で存在しているが、一部は酸化ニッケル(NiO)の状態で存在していてもよい。
【0039】
水素極6は、イオン伝導性材料を含有していてもよい。イオン伝導性材料としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、ガドリニウムドープセリア(GDC)、サマリウムドープセリア(SDC)、(La,Sr)(Cr,Mn)O、(La,Sr)TiO、Sr(Fe,Mo)、(La,Sr)VO、(La,Sr)FeO、及びこれらのうち2つ以上を組み合わせた混合材料などを用いることができる。
【0040】
水素極6の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。水素極6の熱膨張係数の値は特に限られないが、例えば12×10―6/℃以上20×10-6/℃以下とすることができる。
【0041】
水素極6の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法(溶射法、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法など)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを用いることができる。
【0042】
[電解質7]
電解質7は、水素極6上に形成される。電解質7は、水素極6及び酸素極9の間に配置される。本実施形態では、電解質7は、水素極6及び反応防止層8に挟まれており、両者に接続されている。
【0043】
電解質7は、水素極6を覆うとともに、金属支持体10の第1主面12のうち水素極6から露出する領域を覆う。
【0044】
電解質7は、酸化物イオン伝導性を有する緻密体である。電解質7は、水素極6において生成されたO2-を酸素極9側に伝達させる。電解質7は、酸化物イオン伝導性材料によって構成される。電解質7は、例えば、YSZ、GDC、ScSZ、SDC、LSGM(ランタンガレート)などによって構成することができ、特にYSZが好適である。
【0045】
電解質7の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。電解質7の熱膨張係数の値は特に限られないが、例えば10×10―6/℃以上12×10―6/℃以下とすることができる。
【0046】
電解質7の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0047】
[反応防止層8]
反応防止層8は、電解質7及び酸素極9の間に配置される。反応防止層8は、電解質7を基準として水素極6の反対側に配置される。反応防止層8は、電解質7の構成元素が酸素極9の構成元素と反応して電気抵抗の大きい層が形成されることを抑制する。
【0048】
反応防止層8は、酸化物イオン伝導性材料によって構成される。反応防止層8は、GDC、SDCなどによって構成することができる。
【0049】
反応防止層8の気孔率は特に制限されないが、例えば0.1%以上50%以下とすることができる。反応防止層8の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上50μm以下とすることができる。
【0050】
反応防止層8の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0051】
[酸素極9]
酸素極9は、電解質7を基準として水素極6の反対側に配置される。本実施形態では、電解質7及び酸素極9の間に反応防止層8が配置されているので、酸素極9は反応防止層8に接続される。電解質7及び酸素極9の間に反応防止層8が配置されない場合、酸素極9は電解質7に接続される。
【0052】
酸素極9は、下記(5)式の化学反応に従って、水素極6から電解質7を介して伝達されるO2-からOを生成する。
【0053】
・酸素極9:2O2-→O+4e・・・(5)
【0054】
酸素極9は、酸化物イオン伝導性及び電子伝導性を有する多孔体である。酸素極9は、例えば(La,Sr)(Co,Fe)O、(La,Sr)FeO、La(Ni,Fe)O、(La,Sr)CoO、及び(Sm,Sr)CoOのうち1つ以上と酸化物イオン伝導性材料(GDCなど)との複合材料によって構成することができる。
【0055】
酸素極9の気孔率は特に制限されないが、例えば20%以上60%以下とすることができる。酸素極9の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0056】
酸素極9の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0057】
(クロム合金容器3)
クロム合金容器3は、水素極6に供給される原料ガスと水素極6において生成される還元ガス(本実施形態では、H)とが流れる内部空間3aを有する。
【0058】
本実施形態において、クロム合金容器3は、金属支持体10、枠体20、インターコネクタ30、第1シール部40及び第2シール部50を備える。内部空間3aは、金属支持体10、枠体20、インターコネクタ30、第1シール部40及び第2シール部50によって囲まれた空間である。
【0059】
本実施形態において、金属支持体10及び枠体20の一方が本発明に係る「第1合金部材」の一例であり、他方が本発明に係る「第2合金部材」の一例である。また、本実施形態において、枠体20及びインターコネクタ30の一方が本発明に係る「第1合金部材」の一例であり、他方が本発明に係る「第2合金部材」の一例である。第1シール部40及び第2シール部50それぞれは、本発明に係る「介挿部」の一例である。
【0060】
[金属支持体10]
金属支持体10は、セル本体部2を支持する。本実施形態において、金属支持体10は、板状に形成される。金属支持体10は、平板状であってもよいし、曲板状であってもよい。
【0061】
金属支持体10はセル本体部2を支持できればよく、その厚みは特に制限されないが、例えば0.1mm以上2.0mm以下とすることができる。
【0062】
図2に示すように、金属支持体10は、複数の供給孔11、第1主面12及び第2主面13を有する。
【0063】
各供給孔11は、第1主面12から第2主面13まで金属支持体10を貫通する。各供給孔11は、第1主面12及び第2主面13それぞれに開口する。各供給孔11は、セル本体部2によって覆われる。具体的には、各供給孔11の第1主面12側の開口は、水素極6によって覆われている。各供給孔11の第2主面13側の開口は、内部空間3aに繋がっている。
【0064】
各供給孔11は、機械加工(例えば、パンチング加工)、レーザ加工、或いは、化学加工(例えば、エッチング加工)などによって形成することができる。
【0065】
本実施形態において、各供給孔11は、Z軸方向に沿って直線状に形成される。ただし、各供給孔11は、Z軸方向に対して傾斜していてもよいし、直線状でなくてもよい。また、供給孔11どうしは互いに連なっていてもよい。
【0066】
第1主面12は、第2主面13の反対側に設けられる。第1主面12には、セル本体部2が配置される。第2主面13には、第1シール部40を介して枠体20が接合される。
【0067】
金属支持体10は、Cr(クロム)を含有する合金によって構成される。このような合金としては、Fe-Cr系合金鋼(ステンレス鋼など)やNi-Cr系合金鋼などが挙げられる。金属支持体10におけるCr含有率は特に制限されないが、4質量%以上30質量%以下とすることができる。
【0068】
金属支持体10は、Ti(チタン)やZr(ジルコニウム)を含有していてもよい。金属支持体10におけるTi含有率は特に制限されないが、0.01mol%以上1.0mol%以下とすることができる。金属支持体10におけるZr含有率は特に制限されないが、0.01mol%以上0.4mol%以下とすることができる。金属支持体10は、TiをTiO(チタニア)として含有していてもよいし、ZrをZrO(ジルコニア)として含有していてもよい。
【0069】
[枠体20]
枠体20は、内部空間3aを形成するためのスペーサである。本実施形態において、枠体20は、環状に形成される。
【0070】
枠体20は、第1シール部40を介して金属支持体10に接合されるとともに、第2シール部50を介してインターコネクタ30に接合される。
【0071】
枠体20の厚みは特に制限されないが、例えば0.1mm以上2.0mm以下とすることができる。
【0072】
枠体20は、Crを含有する合金によって構成される。このような合金としては、Fe-Cr系合金鋼やNi-Cr系合金鋼などが挙げられる。枠体20におけるCr含有率は特に制限されないが、4質量%以上30質量%以下とすることができる。枠体20の組成は、金属支持体10と同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0073】
[インターコネクタ30]
インターコネクタ30は、枠体20を基準として金属支持体10の反対側に配置される。インターコネクタ30は、外部電源又は他の電解セルに電解セル1を電気的に接続するための部材である。
【0074】
本実施形態において、インターコネクタ30は、板状に形成される。インターコネクタ30は、平板状であってもよいし、曲板状であってもよい。
【0075】
インターコネクタ30は、第2シール部50を介して枠体20に接合される。
【0076】
インターコネクタ30の厚みは特に制限されないが、例えば0.1mm以上2.0mm以下とすることができる。
【0077】
インターコネクタ30は、Crを含有する合金によって構成される。このような合金としては、Fe-Cr系合金鋼やNi-Cr系合金鋼などが挙げられる。インターコネクタ30におけるCr含有率は特に制限されないが、4質量%以上30質量%以下とすることができる。インターコネクタ30の組成は、金属支持体10と同じであってもよいし異なっていてもよい。インターコネクタ30の組成は、枠体20と同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0078】
[第1シール部40]
第1シール部40は、金属支持体10と枠体20の間に配置される。第1シール部40は、金属支持体10及び枠体20それぞれに接合される。
【0079】
第1シール部40は、環状に形成される。第1シール部40は、金属支持体10と枠体20の隙間を封止する。これによって、水素極6に供給される原料ガスと水素極6において生成される還元ガスが、金属支持体10と枠体20の隙間から外部にリークすることが防止される。第1シール部40の詳細構成については後述する。
【0080】
[第2シール部50]
第2シール部50は、枠体20とインターコネクタ30の間に配置される。第2シール部50は、枠体20及びインターコネクタ30それぞれに接合される。
【0081】
第2シール部50は、環状に形成される。第2シール部50は、枠体20とインターコネクタ30の隙間を封止する。これによって、水素極6に供給される原料ガスと水素極6において生成される還元ガスが、枠体20とインターコネクタ30の隙間から外部にリークすることが防止される。
【0082】
第2シール部50の構成は、次に説明する第1シール部40の構成と同じであるため、本実施形態では第2シール部50の構成についての説明を割愛する。
【0083】
(第1シール部40の詳細構成)
図3は、図2の部分拡大図である。図3では、第1シール部40の断面が図示されている。図3に図示された断面は、金属支持体10の第1主面12に垂直である。
【0084】
第1シール部40は、酸化物接着層41及び金属連結部42を有する。
【0085】
[酸化物接着層41]
酸化物接着層41は、金属支持体10と枠体20の間に配置される。酸化物接着層41は、金属支持体10及び枠体20に挟まれている。酸化物接着層41は、内部空間3aを取り囲むように環状に形成される。酸化物接着層41は、内部空間3aに露出している。
【0086】
酸化物接着層41は、Crを主成分とする酸化物(以下、「Cr酸化物」と略称する。)によって構成される。これによって、電解セル1の製造中又は作動中において、金属支持体10及び枠体20から酸化物接着層41にCrが拡散することを抑制することができる。また、金属支持体10及び枠体20から酸化物接着層41にCrが拡散してきたとしても、酸化物接着層41の組成に与える影響が小さいため、酸化物接着層41の強度が低下することも抑制できる。さらに、金属支持体10、枠体20及び酸化物接着層41がCrを共通して含有していることによって互いの接合性を向上させることができる。よって、長期間に渡って金属支持体10と枠体20の接合性を維持することができる。
【0087】
なお、本実施形態において、Crを主成分とするとは、酸化物接着層41を構成するCr酸化物の組成をエネルギー分散型分光(EDS)装置で解析した場合に、Cr酸化物中の金属元素に占めるCrの含有率が最も高いことを意味する。当該Cr含有率は特に制限されないが、例えば、20mol%以上100mol%以下とすることができる。
【0088】
酸化物接着層41を構成するCr酸化物中の金属元素に占めるCr含有率は、50mol%以上であることが好ましい。これによって、金属支持体10及び枠体20が含有しているCrが酸化物接着層41に拡散することを顕著に抑制することができる。
【0089】
酸化物接着層41を構成するCr酸化物は、クロム酸化物及びクロムマンガン酸化物のうち少なくとも一方によって構成されることが好ましい。これらの酸化物は、Crが特に拡散しにくい性質を有しているため、酸化物接着層41の耐久性を向上させることができる。
【0090】
クロム酸化物としては、Crなどが挙げられる。クロムマンガン酸化物としては、MnCr(スピネル)、Mn1,5Cr1,5(スピネル)などが挙げられる。
【0091】
酸化物接着層41を構成するCr酸化物は、結晶質であることが好ましい。これによって、電解セル1を長時間作動させたとしても、Cr酸化物が非晶質から結晶質へ相転移することで酸化物接着層41が破損してしまうことを回避できる。
【0092】
酸化物接着層41を構成するCr酸化物は、スピネル型又はコランダム型の結晶構造を有していることが好ましい。これらの結晶構造は対称性が高いため、酸化物接着層41の耐熱応力性を向上させることができる。また、これらの結晶構造を有するCr酸化物は、Crを含有する合金によって構成される金属支持体10及び枠体20それぞれとの界面における接合性が良好であるため、酸化物接着層41と金属支持体10及び枠体20それぞれとの接合強度を向上させることができる。
【0093】
[金属連結部42]
金属連結部42は、酸化物接着層41に埋設される。金属連結部42は、金属支持体10の第1主面12に垂直な厚み方向に沿って延びる。金属連結部42は、酸化物接着層41を厚み方向に貫通する。三次元的に見た場合、金属連結部42は柱状である。金属連結部42の外周面は、酸化物接着層41によって取り囲まれている。
【0094】
金属連結部42は、金属支持体10と枠体20を連結する。金属連結部42の一端部は金属支持体10に連結され、金属連結部42の他端部は枠体20に連結される。金属連結部42は、金属支持体10及び枠体20のうち少なくとも一方と実質的に一体であってもよい。
【0095】
酸化物接着層41に金属連結部42が埋設されていることによって、酸化物接着層41内に生じたクラックを金属連結部42において止めることができる。よって、酸化物接着層41が脆性破壊することを抑制できるため、より長期間に渡って金属支持体10と枠体20の接合性を維持することができる。
【0096】
図3では、3つの金属連結部42が図示されているが、一断面における金属連結部42の数は特に限られず、1つ以上であればよい。
【0097】
また、図3では、樽形断面の金属連結部42と、傾斜形断面の金属連結部42と、くびれ形断面の金属連結部42とが左側から順に図示されている。金属連結部42の断面がくびれ形である場合、金属支持体10及び枠体20それぞれと金属連結部42との界面積を大きくできるため、両者の界面強度を向上させることができる。金属連結部42の断面が樽形や傾斜形の場合、金属連結部42自体の体積を大きくできるためクラック停止効果をより向上させることができる。
【0098】
このように、図3では、各金属連結部42の断面形状が互いに異なっているが、各金属連結部42の断面形状は同じであってもよい。また、金属連結部42の断面形状は、図3に示された形状以外の形状であってもよい。各金属連結部42の断面形状は、金属支持体10及び枠体20それぞれと金属連結部42との界面積増大による界面強度の向上と、金属連結部42の体積増大によるクラック停止効果の向上とのバランスを考慮して設定することが好ましい。
【0099】
金属連結部42は、金属によって構成される。金属連結部42は、金属支持体10及び枠体20のうち少なくとも一方の主成分と同じ元素を主成分とすることが好ましい。これによって、金属支持体10及び枠体20からの元素拡散によって金属連結部42が組成変化することを抑制できる。例えば、金属連結部42は、Cr又はFeを主成分として含むことができる。なお、主成分として含むとは、金属連結部42を元素分析した場合に最大含有率を示すことを意味する。
【0100】
また、金属連結部42は、Crを含有していることが好ましい。これによって、金属連結部42の耐酸化性を向上させることができる。
【0101】
厚み方向における酸化物接着層41の厚みに対する、面方向における金属連結部42の最小幅W1の比は、0.3以上であることが好ましい。これによって、金属連結部42の強度を確保できるため、クラックによって金属連結部42が破損することを抑制できる。面方向とは、厚み方向に垂直な方向である。
【0102】
接着層41の厚みとは、面方向において酸化物接着層41を4等分する3カ所における酸化物接着層41の厚みを算術平均した値である。ただし、厚みの測定箇所が金属連結部42と重なる場合には、当該金属連結部42に近接する任意の位置で酸化物接着層41の厚みを測定すればよい。接着層41の厚みの値は特に限られないが、例えば、0.3μm以上30μm以下とすることができる。
【0103】
また、金属連結部42の最小幅W1とは、厚み方向において金属連結部42を11等分する10カ所において面方向における金属連結部42の幅を測定した場合における最小の測定値である。金属連結部42の最小幅W1の値は特に限られないが、例えば、0.05μm以上5μm以下とすることができる。
【0104】
金属連結部42が複数存在する場合、厚み方向における酸化物接着層41の厚みに対する、面方向における金属連結部42どうしの最長距離D1の比は、20以下であることが好ましい。これによって、複数の金属連結部42を面方向における狭い範囲に配置することができるため、酸化物接着層41内に長尺のクラックが生じることを抑制できる。その結果、長尺のクラックに起因して酸化物接着層41が金属支持体10及び枠体20それぞれから剥離することを抑制できる。
【0105】
なお、金属連結部42どうしの最長距離D1とは、厚み方向に平行であって、対向する2つの金属連結部42それぞれの側面の輪郭に内接する2本の直線の最大間隔である。最長距離D1の値は特に限られないが、例えば、1μm以上100μm以下とすることができる。
【0106】
面方向における金属連結部42の最小幅W1に対する、厚み方向における金属支持体10又は枠体20の厚みの比は、2000以下であることが好ましい。これによって、金属支持体10又は枠体20が過剰に厚くなること(すなわち、金属連結部42が過剰に細くなること)を抑制できるため、金属連結部42の強度を確保できる。
【0107】
面方向における金属連結部42の最小幅W1に対する、厚み方向における金属支持体10又は枠体20の厚みの比は、50以上であることが好ましい。これによって、金属支持体10又は枠体20が過剰に薄くなること(すなわち、金属連結部42が過剰に太くなること)を抑制できるため、第1シール部40の剛性を高めることができる。
【0108】
金属連結部42は、内部空間3aから離れていることが好ましい。具体的には、金属連結部42は、面方向中央部及び面方向外周部のうち少なくとも一方に存在することが好ましい。これによって、内部空間3aを流れる還元ガス(本実施形態では、H)によって金属連結部42が脆化することを抑制できる。面方向中央部とは、酸化物接着層41を面方向において3等分したとき、中央に位置する部位である。面方向外周部とは、酸化物接着層41を面方向において3等分したとき、面方向中央部の外部空間3b側に位置する部位である。
【0109】
第1シール部40は、次のように形成することができる。まず、Cr酸化物と金属粒子を含むペーストを金属支持体10及び枠体20の少なくとも一方の表面上に塗布する。この際、塗布されたペーストの厚みが金属粒子の平均粒径と同程度になるようにペーストの塗布量を調整する。次に、ペーストを焼成することによって第1シール部40を形成する。金属粒子は、金属支持体10及び枠体20との間の元素拡散に伴って、金属支持体10及び枠体20それぞれに連結される。焼成条件は適宜設定することができるが、例えば、600℃以上1100℃以下、0.5時間以上24時間以下とすることができる。
【0110】
2.第2実施形態
【0111】
(電解セル1)
図4は、第2実施形態に係る電解セル1aの断面図である。電解セル1aは、本発明に係る「メタルサポート形電気化学セル」の一例である。
【0112】
第2実施形態に係る電解セル1aは、インターコネクタ30がエンボス部31及びデボス部32を有している点と、クロム合金容器3が接合部60を備えている点において第1実施形態に係る電解セル1と異なる。以下、当該相違点について主に説明する。
【0113】
本実施形態において、金属支持体10及びインターコネクタ30の一方が本発明に係る「第1合金部材」の一例であり、他方が本発明に係る「第2合金部材」の一例である。また、接合部60は、本発明に係る「介挿部」の一例である。
【0114】
図4に示すように、インターコネクタ30は、複数のエンボス部31と複数のデボス部32を有する。図4では、2つのエンボス部31と3つのデボス部32が図示されているが、エンボス部31及びデボス部32それぞれの個数は適宜変更可能である。
【0115】
エンボス部31は、金属支持体10の第2主面13に当接する。これによって、金属支持体10がインターコネクタ30によって支持されるため、金属支持体10の撓みが抑制される。なお、エンボス部31は、金属支持体10に当接していればよく、金属支持体10に固定されていなくてもよい。
【0116】
デボス部32は、金属支持体10と反対側に向かって突出している。デボス部32は、外部電源又は他の電解セルに当接する。
【0117】
接合部60は、金属支持体10にエンボス部31を接合する。接合部60は、エンボス部31の先端部分周辺に配置される。エンボス部31の先端部分とは、エンボス部31のうち金属支持体10に当接している部分のことである。接合部60は、エンボス部31の先端部分を取り囲むように環状に形成されることが好ましい。これによって、エンボス部31と金属支持体10の接合性を向上させることができる。
【0118】
ここで、図5は、図4の部分拡大図である。図5では、接合部60の断面が図示されている。図5に図示された断面は、金属支持体10の第2主面13に垂直である。
【0119】
接合部60は、金属支持体10とエンボス部31の間に配置される。接合部60は、金属支持体10及びエンボス部31に挟まれている。接合部60は、金属支持体10上に配置され、かつ、エンボス部31の先端部分を取り囲むように環状に形成される。
【0120】
本実施形態において、接合部60は、金属支持体10とエンボス部31の間に形成された有底凹部80に埋設されている。有底凹部80の断面は、楔形である。接合部60は、内部空間3aに露出している。
【0121】
接合部60は、酸化物接着層43及び金属連結部44を有する。
【0122】
[酸化物接着層43]
酸化物接着層43は、金属支持体10とエンボス部31の間に配置される。酸化物接着層43は、金属支持体10及びエンボス部31に挟まれている。酸化物接着層43は、エンボス部31の先端部分を取り囲むように環状に形成される。酸化物接着層43は、内部空間3aに露出している。
【0123】
酸化物接着層43は、Cr酸化物によって構成される。これによって、電解セル1の製造中又は作動中において、金属支持体10及びエンボス部31から酸化物接着層43にCrが拡散することを抑制することができる。また、金属支持体10及びエンボス部31から酸化物接着層43にCrが拡散してきたとしても、酸化物接着層43の組成に与える影響が小さいため、酸化物接着層43の強度が低下することも抑制できる。さらに、金属支持体10、エンボス部31及び酸化物接着層43がCrを共通して含有していることによって互いの接合性を向上させることができる。よって、長期間に渡って金属支持体10とエンボス部31の接合性を維持することができる。
【0124】
酸化物接着層43を構成するCr酸化物中の金属元素に占めるCr含有率は、50mol%以上であることが好ましい。これによって、金属支持体10及びエンボス部31が含有しているCrが酸化物接着層43に拡散することを顕著に抑制することができる。
【0125】
酸化物接着層43を構成するCr酸化物は、クロム酸化物及びクロムマンガン酸化物のうち少なくとも一方によって構成されることが好ましい。これらの酸化物は、Crが特に拡散しにくい性質を有しているため、酸化物接着層43の耐久性を向上させることができる。
【0126】
酸化物接着層43を構成するCr酸化物は、結晶質であることが好ましい。これによって、電解セル1を長時間作動させたとしても、Cr酸化物が非晶質から結晶質へ相転移することで酸化物接着層43が破損してしまうことを回避できる。
【0127】
酸化物接着層43を構成するCr酸化物は、スピネル型又はコランダム型の結晶構造を有していることが好ましい。これらの結晶構造は対称性が高いため、酸化物接着層43の耐熱応力性を向上させることができる。また、これらの結晶構造を有するCr酸化物は、Crを含有する合金によって構成される金属支持体10及びエンボス部31それぞれとの界面における接合性が良好であるため、酸化物接着層43と金属支持体10及びエンボス部31それぞれとの接合強度を向上させることができる。
【0128】
[金属連結部44]
金属連結部44は、酸化物接着層43に埋設される。金属連結部44は、金属支持体10の第1主面12に垂直な厚み方向に沿って延びる。金属連結部44は、酸化物接着層43を厚み方向に貫通する。三次元的に見た場合、金属連結部44は柱状である。金属連結部44の側面は、酸化物接着層43によって取り囲まれている。
【0129】
金属連結部44は、金属支持体10とエンボス部31を連結する。金属連結部44の一端部は金属支持体10に連結され、金属連結部44の他端部はエンボス部31に連結される。金属連結部44は、金属支持体10及びエンボス部31のうち少なくとも一方と実質的に一体であってもよい。
【0130】
酸化物接着層43に金属連結部44が埋設されていることによって、酸化物接着層43内に生じたクラックを金属連結部44において止めることができる。よって、酸化物接着層43が脆性破壊することを抑制できるため、より長期間に渡って金属支持体10とエンボス部31の接合性を維持することができる。
【0131】
図5では、2つの金属連結部44が図示されているが、一断面における金属連結部44の数は特に限られず、1つ以上であればよい。
【0132】
また、図5では、くびれ形断面の金属連結部44と、直線形断面の金属連結部44とが左側から順に図示されている。このように、図5では、各金属連結部44の断面形状が互いに異なっているが、各金属連結部44の断面形状は同じであってもよい。また、金属連結部44の断面形状は、図5に示された形状以外の形状であってもよい。
【0133】
金属連結部44は、金属によって構成される。金属連結部44は、金属支持体10及びエンボス部31のうち少なくとも一方の主成分と同じ元素を主成分とすることが好ましい。これによって、金属支持体10及びエンボス部31からの元素拡散によって金属連結部44が組成変化することを抑制できる。例えば、金属連結部44は、Cr又はFeを主成分として含むことができる。
【0134】
また、金属連結部44は、Crを含有していることが好ましい。これによって、金属連結部44の耐酸化性を向上させることができる。
【0135】
厚み方向における酸化物接着層43の厚みに対する、面方向における金属連結部44の最小幅W2の比は、0.3以上であることが好ましい。これによって、金属連結部44の強度を確保できるため、クラックによって金属連結部44が破損することを抑制できる。なお、面方向とは、厚み方向に垂直な方向である。
【0136】
接着層43の厚みとは、面方向において酸化物接着層43を4等分する3カ所における酸化物接着層43の厚みを算術平均した値である。ただし、厚みの測定箇所が金属連結部44と重なる場合には、当該金属連結部44に近接する任意の位置で酸化物接着層43の厚みを測定すればよい。接着層43の厚みの値は特に限られないが、例えば、0.3μm以上30μm以下とすることができる。
【0137】
また、金属連結部44の最小幅W2とは、厚み方向において金属連結部44を11等分する10カ所において面方向における金属連結部44の幅を測定した場合における最小の測定値である。金属連結部44の最小幅W2の値は特に限られないが、例えば、0.05μm以上5μm以下とすることができる。
【0138】
金属連結部44が複数存在する場合、厚み方向における酸化物接着層43の厚みに対する、面方向における金属連結部44どうしの最長距離D2の比は、20以下であることが好ましい。これによって、複数の金属連結部44を面方向における狭い範囲に配置することができるため、酸化物接着層43内に長尺のクラックが生じることを抑制できる。その結果、長尺のクラックに起因して酸化物接着層43が金属支持体10及びエンボス部31それぞれから剥離することを抑制できる。
【0139】
なお、金属連結部44どうしの最長距離D2とは、厚み方向に平行であって、対向する2つの金属連結部44それぞれの側面の輪郭に内接する2本の直線の最大間隔である。最長距離D2の値は特に限られないが、例えば、1μm以上100μm以下とすることができる。
【0140】
面方向における金属連結部44の最小幅W2に対する、厚み方向における金属支持体10又はエンボス部31の厚みの比は、2000以下であることが好ましい。これによって、金属支持体10又はエンボス部31が過剰に厚くなること(すなわち、金属連結部44が過剰に細くなること)を抑制できるため、金属連結部44の強度を確保できる。
【0141】
面方向における金属連結部44の最小幅W2に対する、厚み方向における金属支持体10又はエンボス部31の厚みの比は、50以上であることが好ましい。これによって、金属支持体10又はエンボス部31が過剰に薄くなること(すなわち、金属連結部44が過剰に太くなること)を抑制できるため、接合部60の剛性を高めることができる。
【0142】
金属連結部44は、内部空間3aから離れていることが好ましい。具体的には、金属連結部44は、面方向中央部及び面方向内周部のうち少なくとも一方に存在することが好ましい。これによって、内部空間3aを流れる還元ガス(本実施形態では、H)によって金属連結部44が脆化することを抑制できる。面方向中央部とは、酸化物接着層43を面方向において3等分したとき、中央に位置する部位である。面方向内周部とは、酸化物接着層43を面方向において3等分したとき、面方向中央部を基準として内部空間3aと反対側に位置する部位である。
【0143】
接合部60は、次のように形成することができる。まず、Cr酸化物と金属粒子を含むペーストを金属支持体10及びエンボス部31の少なくとも一方の表面上に塗布する。この際、塗布されたペーストの厚みが金属粒子の平均粒径と同程度になるようにペーストの塗布量を調整する。次に、ペーストを焼成することによって接合部60を形成する。金属粒子は、金属支持体10及びエンボス部31との間の元素拡散に伴って、金属支持体10及びエンボス部31それぞれに連結される。焼成条件は適宜設定することができるが、例えば、600℃以上1100℃以下、0.5時間以上24時間以下とすることができる。
【0144】
(実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0145】
[変形例1]
上記第1及び第2実施形態では、枠体20とインターコネクタ30は別部材であることとしたが、枠体20とインターコネクタ30は一体の部材であってもよい。この場合、クロム合金容器3は、第2シール部50を備えない。
【0146】
[変形例2]
上記第1及び第2実施形態では、金属支持体10と枠体20は別部材であることとしたが、金属支持体10と枠体20は一体の部材であってもよい。この場合、クロム合金容器3は、第1シール部40を備えない。
【0147】
[変形例3]
上記第1及び第2実施形態において、酸化物接着層41は、単層構造であることとしたが、これに限られない。酸化物接着層41は、組成の異なるCr酸化物によってそれぞれ構成される2層以上の複層構造であってもよい。
【0148】
[変形例4]
上記第2実施形態において、酸化物接着層43は、単層構造であることとしたが、これに限られない。酸化物接着層43は、組成の異なるCr酸化物によってそれぞれ構成される2層以上の複層構造であってもよい。
【0149】
[変形例5]
上記第1実施形態において、金属支持体10と枠体20は、部分的に溶接又はロウ付けされていてもよい。この場合、第1シール部40は、金属支持体10と枠体20の溶接又はロウ付けによって面方向において分断されていてもよい。
【0150】
また、上記第1実施形態において、枠体20とインターコネクタ30は、部分的に溶接又はロウ付けされていてもよい。この場合、第2シール部50は、枠体20とインターコネクタ30の溶接又はロウ付けによって面方向において分断されていてもよい。
【0151】
また、上記第2実施形態において、金属支持体10とエンボス部31は、部分的に溶接又はロウ付けされていてもよい。この場合、接合部60は、金属支持体10とエンボス部31の溶接又はロウ付けによって面方向において分断されていてもよい。
【0152】
[変形例6]
上記実施形態では、電気化学セルの一例として電解セルを挙げて説明したが、電気化学セルは電解セルに限られない。電気化学セルとは、電気エネルギーを化学エネルギーに変えるため、全体的な酸化還元反応から起電力が生じるように一対の電極が配置された素子と、化学エネルギーを電気エネルギーに変えるための素子との総称である。従って、電気化学セルには、例えば、酸化物イオン或いはプロトンをキャリアとする燃料電池が含まれる。
【0153】
[変形例7]
上記実施形態では、本発明に係るクロム合金容器を電気化学セルに適用した形態について説明したが、クロム合金容器は、種々の用途に利用可能である。クロム合金容器は、例えば、水素と二酸化炭素からメタンを合成するメタネーション用のリアクタに適用することができる。
【実施例
【0154】
以下において本発明に係るクロム合金容器の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0155】
(サンプルNo.1~5)
サンプルNo.1~5に係るクロム合金容器3(図3参照)を次の通り作製した。
【0156】
まず、金属支持体10の第2主面13のうち外周部に、Crと金属粒子(具体的には、SUS430粒子)を含むペーストを塗布した後、ペースト上に枠体20を配置することによって積層体を作製した。この際、金属粒子の粒径を変えることによって、金属連結部42の最小幅W1を変更した。
【0157】
次に、積層体に熱処理(1000℃、1時間)を施すことによって、酸化物接着層41及び金属連結部42によって構成される第1シール部40をペーストから形成した。これによって、第1シール部40を備えるクロム合金容器3が完成した。
【0158】
次に、室温から800℃まで昇降温速度200℃/hrで昇温した後に800℃から室温まで降温速度200℃/hrで降温する工程を10回繰り返す熱サイクル試験をクロム合金容器3に行った。
【0159】
次に、クロム合金容器3を厚み方向に沿って切断することによって、第1シール部40の厚み方向に沿った断面を露出させた。
【0160】
次に、上記実施形態において説明した通り、第1シール部40の断面をSEM(5000倍)で観察することによって、酸化物接着層41の厚みに対する金属連結部42の最小幅W1の比を測定した。当該比の測定結果を表1に示す。
【0161】
次に、第1シール部40の断面をSEM(5000倍)で観察することによって、金属支持体10及び枠体20それぞれと金属連結部42との接合部におけるクラックの有無を確認した。クラックの確認結果を表1に示す。
【0162】
【表1】
【0163】
表1に示すように、酸化物接着層41の厚みに対する金属連結部42の最小幅W1の比を0.3以上としたサンプルNo.1~4では、金属支持体10及び枠体20それぞれと金属連結部42との接合部にクラックが生じることを抑制できた。このことから、酸化物接着層41の厚みに対する金属連結部42の最小幅W1の比を0.3以上とすることによって、金属連結部42の強度を確保できることが分かった。
【0164】
なお、表1には示していないが、第2シール部50においても第1シール部40と同じ結果が得られた。
【0165】
(サンプルNo.6~10)
サンプルNo.6~10に係るクロム合金容器3(図3参照)を次の通り作製した。
【0166】
まず、金属支持体10の第2主面13のうち外周部に、Crと金属粒子(具体的には、SUS430粒子)を含むペーストを塗布した後、ペースト上に枠体20を配置することによって積層体を作製した。この際、金属粒子の添加量を変えることによって、金属連結部42どうしの最長距離D1を変更した。
【0167】
次に、積層体に熱処理(1000℃、1時間)を施すことによって、酸化物接着層41及び金属連結部42によって構成される第1シール部40をペーストから形成した。これによって、第1シール部40を備えるクロム合金容器3が完成した。
【0168】
次に、室温から800℃まで昇降温速度200℃/hrで昇温した後に800℃から室温まで降温速度200℃/hrで降温する工程を10回繰り返す熱サイクル試験をクロム合金容器3に行った。
【0169】
次に、クロム合金容器3を厚み方向に沿って切断することによって、第1シール部40の厚み方向に沿った断面を露出させた。
【0170】
次に、上記実施形態において説明した通り、第1シール部40の断面をSEM(5000倍)で観察することによって、酸化物接着層41の厚みに対する金属連結部42どうしの最長距離D1の比を測定した。当該比の測定結果を表2に示す。
【0171】
次に、第1シール部40の断面をSEM(5000倍)で観察することによって、酸化物接着層41内に生じたクラック近傍において酸化物接着層41が金属支持体10及び枠体20から局所的に剥離していないか確認した。剥離の確認結果を表2に示す。
【0172】
【表2】
【0173】
表2に示すように、酸化物接着層41の厚みに対する金属連結部42どうしの最長距離D1の比を20以下としたサンプルNo.6~9では、酸化物接着層41の剥離を抑制できた。このことから、酸化物接着層41の厚みに対する金属連結部42どうしの最長距離D1の比を20以下とすることによって、酸化物接着層43におけるクラック由来の局所的な剥離を抑制できることが分かった。
【0174】
なお、表2には示していないが、第2シール部50においても第1シール部40と同じ結果が得られた。
【0175】
(サンプルNo.11~18)
サンプルNo.11~18に係るクロム合金容器3(図3参照)を次の通り作製した。
【0176】
まず、金属支持体10の第2主面13のうち外周部に、Crと金属粒子(具体的には、SUS430粒子)を含むペーストを塗布した後、ペースト上に枠体20を配置することによって積層体を作製した。この際、金属粒子の粒径を変えることによって、金属連結部42の最小幅W1を変更した。
【0177】
次に、積層体に熱処理(1000℃、1時間)を施すことによって、酸化物接着層41及び金属連結部42によって構成される第1シール部40をペーストから形成した。これによって、第1シール部40を備えるクロム合金容器3が完成した。
【0178】
次に、室温から800℃まで昇降温速度200℃/hrで昇温した後に800℃から室温まで降温速度200℃/hrで降温する工程を10回繰り返す熱サイクル試験をクロム合金容器3に行った。
【0179】
次に、クロム合金容器3を厚み方向に沿って切断することによって、第1シール部40の厚み方向に沿った断面を露出させた。
【0180】
次に、上記実施形態において説明した通り、金属連結部42の最小幅W1に対する金属支持体10の厚みの比を測定した。当該比の測定結果を表3に示す。
【0181】
次に、第1シール部40の断面をSEM(5000倍)で観察することによって、金属支持体10及び枠体20それぞれと金属連結部42との接合部におけるクラックの有無を確認した。クラックの確認結果を表3に示す。
【0182】
次に、3次元形状測定器で第1シール部40のたわみ量を測定した。たわみ量の測定結果を表3に示す。
【0183】
【表3】
【0184】
表3に示すように、金属連結部42の最小幅W1に対する金属支持体10の厚みの比を2000以下としたサンプルNo.11~17では、金属支持体10及び枠体20それぞれと金属連結部42との接合部にクラックが生じることを抑制できた。このことから、金属連結部42の最小幅W1に対する金属支持体10の厚みの比を2000以下とすることによって、金属連結部42の強度を確保できることが分かった。
【0185】
また、表3に示すように、金属連結部42の最小幅W1に対する金属支持体10の厚みの比を50以上としたサンプルNo.12~18では、第1シール部40のたわみ量を抑制することができた。このことから、金属連結部42の最小幅W1に対する金属支持体10の厚みの比を50以上とすることによって、第1シール部40の剛性を高められることが分かった。
【0186】
なお、表3には示していないが、第2シール部50においても第1シール部40と同じ結果が得られた。
【符号の説明】
【0187】
1,1a 電解セル
2 セル本体部
3 クロム合金容器
3a 内部空間
6 水素極
7 電解質
8 反応防止層
9 酸素極
10 金属支持体
11 供給孔
12 第1主面
13 第2主面
20 枠体
30 インターコネクタ
31 エンボス部
40 第1シール部
41,43 酸化物接着層
42,44 金属連結部
50 第2シール部
60 接合部
【要約】
クロム合金容器(3)は、クロムを含有する合金によって構成される金属支持体(10)と、クロムを含有する合金によって構成される枠体(20)と、金属支持体(10)と枠体(20)の間に介挿される第1シール部(40)とを備える。第1シール部(40)は、Cr酸化物によって構成される酸化物接着層(41)と、酸化物接着層(41)に埋設され、金属支持体(10)と枠体(20)を連結する金属連結部(42)とを有する。
図1
図2
図3
図4
図5