(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】セラミックグリーンシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 1/30 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
B28B1/30 101
(21)【出願番号】P 2024555407
(86)(22)【出願日】2024-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2024011443
【審査請求日】2024-09-18
(31)【優先権主張番号】P 2023055449
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524212040
【氏名又は名称】三井化学ICTマテリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木立 佳織
(72)【発明者】
【氏名】安藤 遼哉
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/079337(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/037991(WO,A1)
【文献】特開2013-060555(JP,A)
【文献】特開2014-177094(JP,A)
【文献】特開2002-200721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/00-1/54
B32B 1/00-43/00
H01G 13/00-13/06
C04B 35/00-35/84
JSTPlus/JSTChina/JST7580 (JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム上にセラミックスラリーを塗工する工程、
b)前記a)工程において塗工されたセラミックスラリーからセラミックグリーンシートを形成する工程、及び
c)前記b)工程において形成されたセラミックグリーンシートを前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムから剥離する工程、
を有するセラミックグリーンシートの製造方法であって、
前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムが、基材と、前記基材の少なくとも一方に設けられた剥離剤層とを有し、
前記剥離剤層の前記基材とは反対側の面のブロモナフタレン接触角BCA
1と、
前記剥離剤層の前記基材とは反対側の面に
A)チタン酸バリウム粒子45質量%、
B)ポリビニルブチラール3.6質量%、
C)フタル酸ジブチル0.9質量%、
D)トルエン25質量%、及び
E)エタノール25質量%
を含有するセラミックスラリーを塗工し、乾燥し、23±2℃×50±5%RHの恒温恒湿環境下で1週間保管後に剥離した後のブロモナフタレン接触角BCA
2との差、δBCA=BCA
2-BCA
1、が-1.5°から1.0°の範囲内である、
上記セラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項2】
前記セラミックスラリーの塗工量が乾燥前で厚み50μmであり、前記乾燥の条件が70℃、2分であり、前記剥離が角度180°で行われる、請求項1に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項3】
前記剥離剤層の前記基材とは反対側の面の水接触角WCA
1と、
前記剥離剤層の前記基材とは反対側の面に前記セラミックスラリーを塗工し、乾燥し、23±2℃×50±5%RHの恒温恒湿環境下で1週間保管後に剥離した後の水接触角WCA
2との差、δWCA=WCA
2-WCA
1、が-3.5°から1.0°の範囲内である、請求項1又は2に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項4】
工程b)と工程c)との間に前記セラミックグリーンシート上に内部電極を印刷する工程を有する、請求項1又は2に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のセラミックグリーンシートの製造方法によりセラミックグリーンシートを製造する工程を有する、セラミック製品の製造方法。
【請求項6】
前記セラミックグリーンシートを焼成する工程を更に有する、請求項5に記載のセラミック製品の製造方法。
【請求項7】
前記セラミック製品が積層セラミックコンデンサ、又は多層セラミック基板である、請求項5に記載のセラミック製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの製造方法に関し、より具体的には、グリーンシートの剥離が容易であるとともに、易剥離性の経時変化が小さく、グリーンシート塗工から長期間経過した場合でも優れた易剥離性を安定的に実現でき、積層セラミックコンデンサや多層セラミック基板等の各種セラミック製品の製造に特に好適に用いられる、セラミックグリーンシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シート状のセラミック部材の製造においては、従来よりセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムを用いたセラミックグリーンシートの製造方法が採用されている。例えば、積層セラミックコンデンサや多層セラミック基板といった積層セラミック製品を製造するには、セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム上にセラミックグリーンシートを成形し、得られたセラミックグリーンシートを複数枚積層して焼成する製造方法が用いられている。
近年、電子機器の小型化および高性能化に伴い、積層セラミックコンデンサや多層セラミック基板の小型化および多層化が進んでいる。多層化実現のためセラミックグリーンシートは薄膜化が求められ、薄膜化したセラミックグリーンシートにおけるピンホールや厚みむら等の欠陥の発生を防止し、薄膜化したセラミックグリーンシートを剥離フィルムから剥離するときの破断を効果的に抑制する等の観点から、基材と特定の成分の剥離剤層とを有するセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムであって、剥離剤層の基材とは反対側の面における算術平均粗さ(Ra)、及び最大突起高さ(Rp)がそれぞれ所定値以下であり、かつ、基材の剥離剤層とは反対側の面における算術平均粗さ(Ra)、及び最大突起高さ(Rp)がそれぞれ所定の数値範囲内である、セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
積層セラミックコンデンサや多層セラミック基板等の各種セラミック製品の製造にあたっては、セラミック製品の品質や生産性等の観点から、セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム上に形成したセラミックグリーンシートの剥離が容易であることが求められる。
しかしながら従来技術のセラミックグリーンシートの製造方法では、スラリーを塗工してセラミックグリーンシートを形成した直後の剥離が容易であったとしても、例えば塗工後1週間程度保管した場合に易剥離性が低下する場合があり、保管により重剥離化したり、保管後に剥離した際にセラミックグリーンシートが破断したりする場合があり、その改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2013/145865 A1号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記技術背景に鑑み、本発明は、基材と剥離剤層とを有するセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムを用いたセラミックグリーンシートの製造方法であって、グリーンシートの剥離が容易であるとともに、易剥離性の経時変化が小さく、グリーンシート塗工から長期間経過した場合でも優れた易剥離性を安定的に実現できる、セラミックグリーンシートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、基材と、前記基材の少なくとも一方に設けられた剥離剤層とを有するセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムにおいて、前記剥離剤層表面の、所定組成のセラミックスラリー塗工、乾燥、剥離前後の、ブロモナフタレン接触角変化量が所定数値範囲内であるセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムを使用し、これを特定の工程を有するセラミックグリーンシートの製造方法に適用することで、従来技術の限界を超えた高い水準で易剥離性を経時的に安定させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
[1]
a)セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム上にセラミックスラリーを塗工する工程、
b)前記a)工程において塗工されたセラミックスラリーからセラミックグリーンシートを形成する工程、及び
c)前記b)工程において形成されたセラミックグリーンシートを前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムから剥離する工程、
を有するセラミックグリーンシートの製造方法であって、
前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムが、基材と、前記基材の少なくとも一方に設けられた剥離剤層とを有し、
前記剥離剤層の前記基材とは反対側の面のブロモナフタレン接触角BCA1と、
前記剥離剤層の前記基材とは反対側の面に
A)チタン酸バリウム粒子45質量%、
B)ポリビニルブチラール3.6質量%、
C)フタル酸ジブチル0.9質量%、
D)トルエン25質量%、及び
E)エタノール25質量%
を含有するセラミックスラリーを塗工し、乾燥し、23±2℃×50±5%RHの恒温恒湿環境下で1週間保管後に剥離した後のブロモナフタレン接触角BCA2との差、δBCA=BCA2-BCA1、が-1.5°から1.0°の範囲内である、
上記セラミックグリーンシートの製造方法、に関する。
【0007】
以下、[2]から[7]は、いずれも本発明の好ましい一態様又は一実施形態である。
[2]
前記セラミックスラリーの塗工量が乾燥前で厚み50μmであり、前記乾燥の条件が70℃、2分であり、前記剥離が角度180°で行われる、[1]に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
[3]
前記剥離剤層の前記基材とは反対側の面の水接触角WCA1と、
前記剥離剤層の前記基材とは反対側の面に前記セラミックスラリーを塗工し、乾燥し、23±2℃×50±5%RHの恒温恒湿環境下で1週間保管後に剥離した後の水接触角WCA2との差、δWCA=WCA2-WCA1、が-3.5°から1.0°の範囲内である、[1]又は[2]に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
[4]
工程b)と工程c)との間に前記セラミックグリーンシート上に内部電極を印刷する工程を有する、[1]から[3]のいずれか一項に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
[5]
[1]から[4]のいずれか一項に記載のセラミックグリーンシートの製造方法によりセラミックグリーンシートを製造する工程を有する、セラミック製品の製造方法。
[6]
前記セラミックグリーンシートを焼成する工程を更に有する、[5]に記載のセラミック製品の製造方法。
[7]
前記セラミック製品が積層セラミックコンデンサ、又は多層セラミック基板である、[5]又は[6]に記載のセラミック製品の製造方法。
【0008】
更に、以下、[4’]から[7’]は、いずれも本発明において好ましく用いられるセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの一例である。
[4’]
基材と、前記基材の少なくとも一方に設けられた剥離剤層とを有し、
前記剥離剤層の前記基材とは反対側の面のブロモナフタレン接触角BCA1と、
前記剥離剤層の前記基材とは反対側の面に
A)チタン酸バリウム粒子45質量%、
B)ポリビニルブチラール3.6質量%、
C)フタル酸ジブチル0.9質量%、
D)トルエン25質量%、及び
E)エタノール25質量%
を含有するセラミックスラリーを塗工し、乾燥し、23±2℃×50±5%RHの恒温恒湿環境下で1週間保管後に剥離した後のブロモナフタレン接触角BCA2との差、δBCA=BCA2-BCA1、が-1.5°から1.0°の範囲内であり、
前記剥離剤層が硬化性組成物の硬化物を含有し、該硬化性組成物が少なくとも1種の、(メタ)アクリロイル基、水酸基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する反応性化合物(a)を含み、且つ該反応性化合物(a)の合計量が、質量比率で該剥離剤層の50%以上である、セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム。
[5’]
前記硬化性組成物が、前記反応性化合物(a)として、(メタ)アクリロイル基、水酸基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基、並びにシロキサン骨格を有する反応性シリコーン(a1)少なくとも1種と、該反応性シリコーン(a1)と同じ反応性官能基を有し、且つ反応性官能基当量が2000g/mol以下である反応性化合物(a2)少なくとも1種と、を含有する、[4’]に記載のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム。
[6’]
前記硬化性組成物が、更に1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する膜形成性化合物(a3)を含有する、[5’]に記載のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム。
[7’]
前記基材の前記剥離剤層側の表面の算術平均粗さ(Ra)が1から70nmである、[4’]から[6’]のいずれか一項に記載のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明のセラミックグリーンシートの製造方法は、セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム上に形成したセラミックグリーンシートの剥離が容易であるとともに、易剥離性の経時変化が小さく、グリーンシート塗工から長期間経過した場合でも優れた易剥離性を安定的に実現できる等、高い実用的価値を有する技術的効果を従来技術の限界を超えた高いレベルで実現するものであり、各種セラミック製品の製造に好適に使用することができる。例えば、積層セラミックコンデンサや多層セラミック基板等の各種セラミック製品の生産性を大幅に向上し、これらの製造において、特に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の製造方法で使用するセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの一形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、
a)セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム上にセラミックスラリーを塗工する工程、
b)前記a)工程において塗工されたセラミックスラリーからセラミックグリーンシートを形成する工程、及び
c)前記b)工程において形成されたセラミックグリーンシートを前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムから剥離する工程、
を有するセラミックグリーンシートの製造方法であって、
前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムが、基材と、前記基材の少なくとも一方に設けられた剥離剤層とを有し、
前記剥離剤層の前記基材とは反対側の面のブロモナフタレン接触角BCA
1と、
前記剥離剤層の前記基材とは反対側の面に下記組成のセラミックスラリーを塗工し、乾燥し、23±2℃×50±5%RHの恒温恒湿環境下で1週間保管後に剥離した後のブロモナフタレン接触角BCA
2との差、δBCA=BCA
2-BCA
1、が-1.5°から1.0°の範囲内である、
上記セラミックグリーンシートの製造方法、である。
ここで、上記セラミックスラリーは、
A)チタン酸バリウム粒子45質量%、
B)ポリビニルブチラール3.6質量%、
C)フタル酸ジブチル0.9質量%、
D)トルエン25質量%、及び
E)エタノール25質量%を含有する、セラミックスラリーである。
すなわち、本発明のセラミックグリーンシートの製造方法に用いるセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムは、基材と剥離剤層とを有する。本発明の製造方法に用いるセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムは、基材と剥離剤層とを有していればよく、それ以外の層を有していても、有していなくともよい。したがって、本発明の製造方法に用いるセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムは、
図1に示す様に、基材(13)及び剥離剤層(12)のみからなっていてもよく、基材及び剥離剤層に加えて、帯電防止層、等のそれ以外の層を有していてもよい。
以下、上記各層について説明する。
【0012】
基材
本発明のセラミックグリーンシートの製造方法に用いるセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムを構成する基材には特に制限はなく、従来当該技術分野における基材として公知のものの中から任意のものを適宜選択して用いることができる。このような基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリプロピレンやポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ポリカーボネート、エチレン-酢酸ビニル共重合体などのプラスチックからなるフィルムが挙げられ、単層であってもよいし、同種又は異種の2層以上の多層であってもよい。これらの中でもポリエステルフィルムが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましく、さらには二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。ポリエチレンテレフタレートフィルムは、加工時、使用時等において、埃等が発生しにくいため、例えば、埃等によるセラミックスラリー塗工不良等を効果的に防止することができる。
【0013】
また、この基材においては、その少なくとも一方の面に設けられる剥離剤層との密着性を向上させる目的で、酸化法などによる表面処理、あるいはプライマー処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン、紫外線照射処理などが挙げられ、これらの表面処理法は、基材フィルムの種類に応じて適宜選ばれるが、一般にコロナ放電処理法が効果および操作性の面から好ましく用いられる。
基材の厚さには特に制限は無く、機械的強度や製造及び使用における取り扱いの容易さ等から適宜厚さを設定すればよいが、通常10から300μmであり、好ましくは12から200μmであり、特に好ましくは15から125μmである。
【0014】
基材の剥離剤層側の表面の算術平均粗さ(Ra)は0.1から70nmであることが好ましく、1から60nmであることが好ましい。
基材の剥離剤層側の表面の算術平均粗さ(Ra)が0.1から70nmであると、基材のハンドリング、導通不良抑制等の点で好ましい。また、表面の算術平均粗さ(Ra)が1から70nmである基材は比較的容易かつ安価に入手可能なので、本発明の製造方法に用いるセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの入手容易性や製造コストの観点からも好ましい。
【0015】
基材の剥離剤層側と反対側の表面の算術平均粗さ(Ra)は、5から70nmであることが好ましく、10から60nmであることが特に好ましい。
基材の剥離剤層側と反対側の表面の算術平均粗さ(Ra)が上記下限値以上であることで、本発明の製造方法に用いるセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの巻き取り時等におけるブロッキングを効果的に抑制することができるともに、上記上限値以下であることで、剥離剤層の表面を平滑にすることが容易になる。
【0016】
剥離剤層
本発明の製造方法に用いるセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムを構成する剥離剤層の材質には特に制限はなく、剥離剤層の基材とは反対側の面のブロモナフタレン接触角BCA1と、前記基材とは反対側の面に上述の特定の組成のセラミックスラリーを塗工し、乾燥し、23±2℃×50±5%RHの恒温恒湿環境下で1週間保管後に剥離した後のブロモナフタレン接触角BCA2との差、δBCA=BCA2-BCA1、が-1.5°から1.0°の範囲内である、という条件を満たす限りにおいて、任意の材料を使用することができる。
セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの製造上の容易性や、ブロモナフタレン接触角、水接触角等を適宜制御する観点からは、硬化性組成物を基材上に塗工して硬化させることにより剥離剤層を形成することが好ましく、光硬化性及び/又は熱硬化性の硬化性組成物を塗工して硬化させることにより剥離剤層を形成することが特に好ましい。すなわち、本発明の製造方法に用いるセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム中の剥離剤層は、硬化性組成物の硬化物を含有することが好ましい。
【0017】
硬化性組成物
本発明の製造方法に用いるセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムにおいて剥離剤層の形成に好ましく用いられる硬化性組成物は、(メタ)アクリロイル基、水酸基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する反応性化合物(a)を少なくとも1種含有することが好ましい。
(メタ)アクリロイル基、水酸基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する反応性化合物(a)を少なくとも1種含有する硬化性組成物を用いることで、容易に、かつ表面自由エネルギー等の制御性良く、本実施形態で用いるのセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの剥離剤層を形成することができる。
【0018】
上記硬化性組成物は、(メタ)アクリロイル基、水酸基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する反応性化合物(a)を1種類のみ含有していてもよく、2種類以上の(メタ)アクリロイル基、水酸基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する反応性化合物(a)を含有していてもよい。剥離剤層の硬化性、剥離性、表面自由エネルギー等の各種特性を制御する観点からは、2種類以上の反応性化合物(a)を組み合わせて使用することが好ましく、特に後述の反応性シリコーン(a1)と架橋性化合物(a2)とを組み合わせて使用することが好ましく、更に後述の膜形成性化合物(a3)を組み合わせることが好ましい。
【0019】
上記硬化性組成物は、(メタ)アクリロイル基、水酸基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する反応性化合物(a)のみで構成されていてもよく、溶剤、ラジカル開始剤、カチオン開始剤、レベリング剤、帯電防止剤、染料、顔料等の、それ以外の成分を含有してもよい。
(メタ)アクリロイル基、水酸基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する反応性化合物(a)の使用量は、合計で、剥離剤層の質量の50質量%以上であることが好ましく、60から96質量%であることが特に好ましい。
【0020】
反応性化合物(a)
本発明の製造方法に用いるセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム中の剥離剤層の形成に好ましく用いられる反応性化合物(a)は、(メタ)アクリロイル基、水酸基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する。(メタ)アクリロイル基、水酸基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有することで、硬化性組成物に光硬化性及び/又は熱硬化性を付与することができる。
【0021】
反応性化合物(a)は1以上の反応性官能基を有していればよいが、光硬化性及び/又は熱硬化性の観点からは、2以上の反応性官能基を有することが好ましく、2から15個の反応性官能基を有することがより好ましく、2から10個の反応性官能基を有することが特に好ましい。反応性化合物(a)が2以上の反応性官能基を有する場合、同種の反応性官能基を2以上有していてもよく、異種の反応性官能基の組み合わせを合計で2以上有していてもよい。
反応性化合物(a)は、硬化性等の観点からは活性エネルギー線を用いる場合には(メタ)アクリロイル基を有することが好ましく、熱硬化を併用する場合には水酸基あるいはエポキシ基を含有する材料を適宜選択することが出来る。
【0022】
反応性化合物(a)の好ましい例として、(メタ)アクリロイル基、水酸基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基、並びにシロキサン骨格を有する反応性シリコーン(a1)、該反応性シリコーン(a1)と同じ反応性官能基を有し、且つ反応性官能基当量が2000g/mol以下である反応性化合物(a2)、及び1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する膜形成性化合物(a3)を挙げることができる。
硬化性組成物においては、反応性シリコーン(a1)及び反応性化合物(a2)を組み合わせて使用することが好ましく、更に膜形成性化合物(a3)を組み合わせて使用することが好ましい。
【0023】
反応性シリコーン(a1)
上記硬化性組成物は、反応性化合物(a)として(メタ)アクリロイル基、水酸基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基、並びにシロキサン骨格を有する反応性シリコーン(a1)を含有することが好ましい。
反応性シリコーン(a1)を使用することで、剥離剤層の表面に所望の剥離性を付与し、セラミックグリーンシートの剥離を一層容易にすることができる。また、ブロモナフタレン接触角、水接触角等を適宜制御することもできる。
反応性シリコーン(a1)は、(メタ)アクリロイル基、水酸基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有し、かつシロキサン骨格を有していればよく、それ以外の制限は課されない。
(メタ)アクリロイル基、水酸基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有することで、活性エネルギー線の照射により、または別途の反応工程(例えば加熱工程)により、反応性官能基が反応して、シロキサン骨格が架橋構造に組み込まれ、固定されることとなる。これにより、剥離剤層の剥離性、ブロモナフタレン接触角、水接触角等を一層効果的に制御することができる。
反応性官能基としては、エポキシ基が特に好ましい。
【0024】
反応性官能基は、シロキサン骨格の片末端に導入されていてもよいし、両末端に導入されていてもよいし、側鎖に導入されていてもよい。(メタ)アクリロイル基、水酸基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基は、反応性シリコーン(a1)1分子中に2以上導入されていることが好ましい。2以上の反応性官能基を有する場合には、同種の反応性官能基を2以上有していてもよく、異なる反応性官能基の組み合わせを合計で2以上有していてもよい。
(メタ)アクリロイル基、水酸基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる反応性官能基に加えて、ビニル基、マレイミド基、カルボキシル基、イソシアネート基等を更に有していてもよい。
【0025】
反応性シリコーン(a1)の分子量には特に制限は無いが、適切な剥離性とブロモナフタレン接触角、水接触角等の制御性等との観点から、5,000から100,000であることが好ましく、10,000から70,000であることが特に好ましい。
【0026】
上記硬化性組成物において、反応性シリコーン(a1)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記硬化性組成物における反応性シリコーン(a1)の含有量には特に制限は無いが、剥離剤層の全質量を基準として、0.1から20質量%であることが好ましく、0.2から15質量%であることが特に好ましい。
【0027】
反応性化合物(a2)(架橋性化合物(a2))
上記硬化性組成物は、反応性化合物(a)として、上記反応性シリコーン(a1)と同じ反応性官能基を有し、且つ反応性官能基当量が2000g/mol以下である反応性化合物(a2)を含有することが好ましい。反応性化合物(a2)を反応性シリコーン(a1)との組み合わせにおいて使用することが特に好ましい。
反応性化合物(a2)は反応性シリコーン(a1)等に対する架橋剤として機能し、硬化性組成物の効果を促進し、反応性シリコーン(a1)等を架橋構造に組み込み固定することができる。これにより、セラミックグリーンシートの汚染防止、架橋構造による硬化性促進の影響で経時安定性等の性能が一層優れたものとなる。架橋剤としての機能に鑑み、本明細書では反応性化合物(a2)を「架橋性化合物(a2)」とも呼ぶ。
【0028】
反応性化合物(a2)の反応性官能基当量は2000g/mol以下であり、1800g/mol以下であることが好ましく、1700g/mol以下であることが特に好ましい。
反応性官能基当量は2000g/mol以下であることにより、適切な架橋性能を実現するのに十分な数の(メタ)アクリロイル基、水酸基、及び/又はエポキシ基を有することになる。
反応性化合物(a2)は、反応性官能基((メタ)アクリロイル基、水酸基、及び/又はエポキシ基)を合計で1以上有することが好ましく、2から15個有することが好ましく、2から6個有することが特に好ましい。反応性官能基の数が上記範囲内にあることで、一層適切な架橋性能を実現することができる。
【0029】
架橋性化合物(a2)の分子量には特に制限は無いが、架橋性能等の観点から、150から4000であることが好ましく、150から3000であることが特に好ましい。
架橋性化合物(a2)はシロキサン骨格を有していてもよく、この場合反応性シリコーン(a1)のシロキサン骨格とともに、剥離剤層に十分なシロキサン骨格を導入することで、一層好ましい剥離性能を実現することができる。
【0030】
上記硬化性組成物において、架橋性化合物(a2)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記硬化性組成物における架橋性化合物(a2)の含有量には特に制限は無いが、剥離剤層の全質量を基準として、0.08から99質量%であることが好ましく、0.4から50質量%であることがより好ましく、0.7から30質量%であることがさらに好ましく、1.0から15質量%であることが特に好ましい。また、反応性シリコーン(a1)の使用量を基準とした場合、反応性シリコーン(a1)100質量部に対して、81から9900質量部使用することが好ましく、85から1000質量部使用することが特に好ましい。
【0031】
上記硬化性組成物における反応性化合物(a)として、膜形成性能に優れる化合物を使用することも好ましい。膜形成性能に優れる化合物としては、(メタ)アクリロイル基を有する化合物、水酸基を有する化合物のいずれであってもよいが、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する膜形成性化合物(a3)を使用することが好ましい。
膜形成性化合物(a3)
上記硬化性組成物は、反応性化合物(a)として、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する膜形成性化合物(a3)を含有することが好ましい。
1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する膜形成性化合物(a3)を含有することで、硬化性組成物を活性エネルギー線の照射によって硬化させることができる。
膜形成性化合物(a3)は、モノマー、オリゴマーまたはポリマーのいずれであってもよいし、それらの混合物であってもよい。膜形成性化合物(a3)は、(メタ)アクリル酸エステルであることが好ましい。ここで、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの両方を意味する。他の類似用語も同様である。
【0032】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、多官能の(メタ)アクリレートモノマーおよび(メタ)アクリレートオリゴマーから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、特に、二官能以上の(メタ)アクリレートモノマーおよび(メタ)アクリレートオリゴマーから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、さらには、三官能以上の(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。二官能以上、更に好ましくは三官能以上であることで、硬化性組成物の硬化性が優れたものとなり、また、得られる剥離剤層の表面の剥離性もより優れたものとなる。
【0033】
膜形成性化合物(a3)の(メタ)アクリロイル基当量には特に制限は無く、本発明において特定されるδBCAの条件を満たすことができる限りにおいて、広範な範囲の(メタ)アクリロイル基当量を有する膜形成性化合物(a3)を使用することができる。
一層優れた剥離性、ブロモナフタレン接触角、水接触角等の制御性等を実現する等の観点からは、膜形成性化合物(a3)の(メタ)アクリロイル基当量は、300g/mol以下であることが好ましく、260g/mol以下であることが特に好ましい。
【0034】
多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
多官能(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、ポリエステルアクリレート系オリゴマー、エポキシアクリレート系オリゴマー、ウレタンアクリレート系オリゴマー、ポリエーテルアクリレート系オリゴマー、ポリブタジエンアクリレート系オリゴマー、シリコーンアクリレート系オリゴマー等が挙げられる。
【0036】
ポリエステルアクリレート系オリゴマーは、例えば、多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、あるいは、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
【0037】
エポキシアクリレート系オリゴマーは、例えば、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応しエステル化することにより得ることができる。また、エポキシアクリレート系オリゴマーを部分的に二塩基性カルボン酸無水物で変性したカルボキシル変性型のエポキシアクリレート系オリゴマーを用いることもできる。
【0038】
ウレタンアクリレート系オリゴマーは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアナートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
【0039】
ポリエーテルアクリレート系オリゴマーは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
【0040】
上記硬化性組成物において、膜形成性化合物(a3)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記硬化性組成物における膜形成性化合物(a3)の含有量には特に制限は無いが、剥離剤層の全質量を基準として、50から90質量%であることが好ましく、60から85質量%であることが特に好ましい。
【0041】
剥離剤層は、基材の少なくとも一方の面に剥離剤層の原料、好ましくは上記の硬化性組成物を塗工した後、必要に応じて乾燥し、光等の活性エネルギー線の照射により硬化させることで形成することができる。反応性化合物(a)の反応性官能基が熱により反応するものである場合には、このときの乾燥により反応を起こさせ、好ましくはシロキサン骨格を有する反応性化合物(a)を架橋構造に組み込むことができる。硬化性組成物の塗工方法には特に制限は無く、例えば、グラビアコート法、バーコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ダイコート法等が使用できる。
【0042】
活性エネルギー線としては、通常、紫外線、電子線等が用いられる。活性エネルギー線の照射量は、エネルギー線の種類によって異なるが、例えば紫外線の場合には、光量で10から1000mJ/cm2が好ましく、特に20から500mJ/cm2が好ましい。また、電子線の場合には、0.1から50kGy程度が好ましい。
【0043】
本発明の製造方法に用いるセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムにおいては、剥離剤層の基材とは反対側の面のブロモナフタレン接触角BCA1と、剥離剤層の前記基材とは反対側の面に特定組成のセラミックスラリー(A)チタン酸バリウム粒子45質量%、B)ポリビニルブチラール3.6質量%、C)フタル酸ジブチル0.9質量%、D)トルエン25質量%、及びE)エタノール25質量%を含有する、セラミックスラリー)を塗工し、乾燥し、23±2℃×50±5%RHの恒温恒湿環境下で1週間保管後に剥離した後のブロモナフタレン接触角BCA2との差、δBCA=BCA2-BCA1は、-1.5°から1.0°の範囲内である。
δBCAが-1.5°から1.0°の範囲内であることで、他の本発明の技術的特徴とも相俟って、上記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムを用いた本発明のセラミックグリーンシートの製造方法は、その上に形成したセラミックグリーンシートの剥離が容易であるとともに、剥離性の経時変化が小さく、グリーンシート塗工から長期間経過した場合でも優れた易剥離性を安定的に実現できる等、高い実用的価値を有する技術的効果を従来技術の限界を超えた高いレベルで実現することができる。
δBCAが-1.5°から1.0°の範囲内であることで、優れたセラミックグリーンシートの易剥離性と、その経時変化の抑制とが実現できるメカニズムは必ずしも明らかではないが、剥離剤層の硬化性が、セラミックグリーンシート界面での相互作用に影響を及ぼし、その結果剥離剤成分の移行やグリーンシート成分の転写を抑制され易剥離性及びその経時変化の抑制に最適な表面状態に対応するブロモナフタレンの接触角変化量δBCAの範囲が存在し、具体的な数値としては、ブロモナフタレンの接触角変化量δBCAが-1.5°から1.0°の範囲となると推定される。
【0044】
本発明の製造方法に用いるセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの、剥離剤層の基材とは反対側の面のブロモナフタレン接触角BCA1及びBCA2は、当該技術分野において従来公知の方法で測定することができ、例えば自動接触角計等により測定することができる。より具体的には、本願明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
ブロモナフタレン接触角BCA1及びBCA2の測定の間のセラミックスラリーを塗工し、乾燥し、剥離する際の条件は、通常、セラミックスラリー塗工量が乾燥前で厚み50μm、乾燥の条件が70℃、2分であり、剥離角度が180°である。セラミックスラリーの組成は、上記にて説明したとおりである。
ブロモナフタレン接触角の変化量δBCAは、上記にて測定したBCA1及びBCA2から、式δBCA=BCA2-BCA1に従って計算することができる。
【0045】
本発明の製造方法に用いるセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの、剥離剤層の基材とは反対側の面のブロモナフタレン接触角の変化量δBCAは、-1.2°から0.8°であることが好ましく、-1.0°から0.6°であることがさらに好ましく、-0.8°から0.5°であることが特に好ましい。
剥離剤層の基材とは反対側の面の初期ブロモナフタレン接触角BCA1には特に制限は無いが、グリーンシートの剥離を容易にするとともに、δBCAの値を所定範囲内とすることを容易にする、等の観点から、55°から85°であることが好ましく、60°から80°であることが特に好ましい。
【0046】
剥離剤層の基材とは反対側の面の初期ブロモナフタレン接触角BCA1、特定組成のセラミックスラリーを塗工し、乾燥し、23±2℃×50±5%RHの恒温恒湿環境下で1週間保管後に剥離した後のブロモナフタレン接触角BCA2、及びのブロモナフタレン接触角の変化量δBCAは、剥離剤層を構成する材料の種類及び使用量や、剥離剤層の塗工量や、乾燥温度や活性エネルギー線照射量といった硬化条件等を調整することで、適宜調整することができる。特に(メタ)アクリロイル基、水酸基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する反応性化合物(a)、中でも反応性シリコーン(a1)と同じ反応性官能基を有し、且つ反応性官能基当量が2000g/mol以下である反応性化合物(a2)、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する膜形成性化合物(a3)の(メタ)アクリロイル基当量及び使用量を調整すること、の反応性官能基当量及び使用量を調整すること等で、適宜調整することができる。
【0047】
本発明の製造方法に用いるセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムは、その剥離剤層の基材とは反対側の面のブロモナフタレン接触角BCA1と、剥離剤層の基材とは反対側の面に特定の組成のセラミックスラリーを塗工し、乾燥し、23±2℃×50±5%RHの恒温恒湿環境下で1週間保管後に剥離した後のブロモナフタレン接触角BCA2との差、δBCA=BCA2-BCA1、が上記条件を満たしていればよく、それ以外の制限は特に課せられないが、剥離剤層の基材とは反対側の面の水接触角WCA1と、剥離剤層の前記基材とは反対側の面に上記特定組成のセラミックスラリーを塗工し、乾燥し、23±2℃×50±5%RHの恒温恒湿環境下で1週間保管後に剥離した後の水接触角WCA2との差、δWCA=WCA2-WCA1が、-3.5°から1.0°の範囲内であることが好ましい。
上記δBCAに加えて、更にδWCAが-3.5°から1.0°の範囲内のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムを用いることで、他の本発明の技術的特徴とも相俟って、本実施形態のセラミックグリーンシートの製造方法は、セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム上に形成したセラミックグリーンシートの剥離が容易であるとともに、剥離性の経時変化が小さく、グリーンシート塗工から長期間経過した場合でも優れた易剥離性を安定的に実現できる、グリーンシート剥離時の帯電を抑制できる等、高い実用的価値を有する技術的効果を、一層高いレベルで実現することができる。
【0048】
セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムδWCAが-3.5°から1.0°の範囲内であるセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムを用いることで、一層優れたセラミックグリーンシートの易剥離性、その経時変化の抑制、グリーンシート剥離時の帯電の抑制等が実現できるメカニズムは必ずしも明らかではないが、剥離剤層の硬化性が、セラミックグリーンシート界面での相互作用に影響を及ぼし、その結果剥離剤成分の移行やグリーンシート成分の転写を抑制され易剥離性及びその経時変化の抑制に一層最適な表面状態に対応する水の接触角変化量δWCAの範囲が存在し、具体的な数値としては、水の接触角変化量δWCAが-3.5°から1.0°の範囲となると推定される。
【0049】
上記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの、剥離剤層の基材とは反対側の面の水接触角WCA1及びWCA2は、当該技術分野において従来公知の方法で測定することができ、例えば自動接触角計等により測定することができる。より具体的には、本願明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
水接触角WCA1及びWCA2の測定の間のセラミックスラリーを塗工し、乾燥し、剥離する際の条件は、通常、セラミックスラリー塗工量が乾燥前で厚み50μm、乾燥の条件が70℃、2分であり、剥離角度が180°である。セラミックスラリーの組成は、上記にて説明したとおりである。
水接触角の変化量δWCAは、上記にて測定したWCA1及びWCA2から、式δWCA=WCA2-WCA1に従って計算することができる。
【0050】
本実施形態のセラミックグリーンシートの製造方法に用いるセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの、剥離剤層の基材とは反対側の面の水接触角の変化量δWCAは、-3.3°から0.8°であることが好ましく、-3.2°から0.6°であることが特に好ましい。
剥離剤層の基材とは反対側の面の初期の水接触角WCA1には特に制限は無いが、グリーンシートの剥離を一層容易にするとともに、δWCAの値を所定範囲内とすることを容易にする、等の観点から、85°から115°であることが好ましく、90°から110°であることが特に好ましい。
【0051】
剥離剤層の基材とは反対側の面の初期水接触角WCA1、特定組成のセラミックスラリーを塗工し、乾燥し、23±2℃×50±5%RHの恒温恒湿環境下で1週間保管後に剥離した後の水接触角WCA2、及びの水接触角の変化量δWCAは、剥離剤層を構成する材料の種類及び使用量や、剥離剤層の塗工量や、乾燥温度や活性エネルギー線照射量といった硬化条件等を調整することで、適宜調整することができる。特に(メタ)アクリロイル基、水酸基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する反応性化合物(a)、中でも反応性シリコーン(a1)と同じ反応性官能基を有し、且つ反応性官能基当量が2000g/mol以下である反応性化合物(a2)、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する膜形成性化合物(a3)の(メタ)アクリロイル基当量及び使用量を調整すること、の反応性官能基当量及び使用量を調整すること等で、適宜調整することができる。
【0052】
剥離剤層の厚さは、0.05から2μmであることが好ましく、特に0.2から1.5μmであることが好ましい。剥離剤層の厚さが0.05μm以上であることは、剥離剤層表面の平滑性や、セラミックグリーンシートのピンホールや厚みむらの抑制の観点から好ましい。剥離剤層の厚さが2μm以下であることは、剥離剤層の硬化収縮によるカールの発生を抑制する観点から好ましい。また、ブロッキングや帯電の抑制の観点からも好ましい。
【0053】
それ以外の層
本発明の製造方法に用いるセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムは、上述の基材と剥離剤層以外の層を有していてもよく、例えば保護層、接着層、帯電防止層等を有していてもよい。
基材と剥離剤層とは直接積層されていてもよく、接着層等のそれ以外の層を介して積層されていてもよい。
【0054】
セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム
本発明のセラミックグリーンシートの製造方法は、以上詳述したセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムを用いることで、他の本発明の技術的特徴とも相俟って、剥離フィルム上に形成したセラミックグリーンシートの剥離が容易であるとともに、剥離性の経時変化が小さく、グリーンシート塗工から長期間経過した場合でも優れた易剥離性を安定的に実現できる等、高い実用的価値を有する技術的効果を従来技術の限界を超えた高いレベルで実現することができるので、各種セラミック製品に用いるセラミックグリーンシートの製造において好適に使用することができ、例えば積層セラミックコンデンサ、又は多層セラミック基板に用いるセラミックグリーンシートの製造に好適に使用することができる。
【0055】
セラミックグリーンシートの製造方法
本発明のセラミックグリーンシートの製造方法は、以下a)からc)の工程を有する製造方法である。
a)上記にて詳述したセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム上にセラミックスラリーを塗工する工程
b)前記a)工程において塗工されたセラミックスラリーからセラミックグリーンシートを形成する工程
c)前記b)工程において形成されたセラミックグリーンシートを前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムから剥離する工程
上記にて詳述した特定のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムを用いること、及び上記特定の工程a)からc)を有することで、本発明のセラミックグリーンシートの製造方法は、用剥離フィルムからのセラミックグリーンシートの剥離が容易であるとともに、易剥離性の経時変化が小さく、グリーンシート塗工から長期間経過した場合でも優れた易剥離性を安定的に実現できる等、高い実用的価値を有する技術的効果を従来技術の限界を超えた高いレベルで同時に実現することができる。
【0056】
a)セラミックスラリーの塗工
本発明のセラミックグリーンシートの製造方法を構成する工程a)においては、例えば本技術分野においてセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム上にセラミックスラリーを塗工するために従来より用いられている技術を適宜使用することができ、例えば以下の技術を使用することができる。
【0057】
セラミックスラリー
本発明の製造方法中の工程a)において使用するセラミックスラリーには特に制限はなく、例えば本技術分野においてセラミックグリーンシートの製造に従来より用いられているセラミックススラリーを適宜使用することができる。
【0058】
工程a)において使用するセラミックスラリーは、本発明の製造方法において使用するセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムを特徴づけるδBCA=BCA2-BCA1の測定の際に、ブロモナフタレン接触角BCA1の測定とブロモナフタレン接触角BCA2の測定との間に、セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム上に塗工される特定組成のセラミックスラリー(A)チタン酸バリウム粒子45質量%、B)ポリビニルブチラール3.6質量%、C)フタル酸ジブチル0.9質量%、D)トルエン25質量%、及びE)エタノール25質量%を含有する、セラミックスラリー)と同じものであってもよく、異なるものであってもよい。
すなわち、本発明のセラミックグリーンシートの製造方法は、上記の特定組成のセラミックスラリーを用いたセラミックグリーンシートの製造方法には限定されず、それ以外の広汎な組成のセラミックスラリーを用いたセラミックグリーンシートの製造方法をも包含するものである。
【0059】
セラミックスラリーとしては、セラミック粒子と溶剤を含有するものであることが好ましく、セラミック粒子が溶剤中に分散されていることが好ましい。
上記セラミック粒子としては、焼結によりセラミックを形成可能な無機化合物粒子を使用することができ、無機化合物としては、金属又は半金属の酸化物、窒化物、酸窒化物、ホウ化物等を例示することができる。
無機化合物のより具体的な例としては、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)またはジルコン酸カルシウム(CaZrO3)、ジルコン酸ストロンチウム(SrZrO3)などのペロブスカイト型化合物などを挙げることができる。これらの無機化合物を主成分としてセラミック粒子に用いる場合には、上記主成分よりも含有量の少ない副成分として、Mn、Mg、Si、Co、Ni、または希土類元素などを含んでいてもよい。
【0060】
セラミック粒子の粒径は、一次粒子で1μm以下であることが望ましい。
【0061】
上記溶媒は、有機溶剤であっても水系溶剤等の無機溶剤であってもよいが、後述の工程b)においてセラミックグリーンシートを形成する際の溶剤除去の容易性等の観点からは有機溶剤であることが好ましい。有機溶剤としては、一般的なものを用いることができ、グリーンシート形成時の乾燥温度、使用するバインダー種によって適宜選択することができる。一般的には芳香族、アルコール、エステル、ケトン、炭化水素系が用いられ、これらを混合して使用することも可能である。
溶媒の沸点にも特に制限はないが、60から130℃であることが好ましく、70から130℃であることが特に好ましい。
【0062】
セラミックグリーンシートの取扱いの容易性等の観点から、セラミックスラリーは、セラミック粒子及び溶媒に加えてバインダーを含んでいることが好ましい。
上記バインダーとしては本技術分野においてセラミックグリーンシートの製造に従来より用いられる各種バインダーを適宜使用することができ、例えば、ポリビニルブチラール、ウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂等を適宜使用することができる。中でも、ポリビニルブチラール、アクリル等を特に好ましく使用することができる。
バインダーの使用量には特に制限はないが、セラミック粒子100質量部に対して、3から20質量部であることが好ましく、5から15質量部であることが特に好ましい。
【0063】
セラミックスラリーは、上記セラミック粒子、溶媒、及び所望によるバインダーに加えて、可塑剤、界面活性剤、分散安定剤、帯電防止剤等のそれ以外の成分を含有していてもよい。
好適な可塑剤として、フタル酸ジブチル、脂肪酸エステル等を例示することができる。
【0064】
上述のセラミック粒子、及び有機溶剤、並びに所望によりバインダー及び可塑剤等のそれ以外の成分を攪拌混合することで、セラミックスラリーを製造することができる。
攪拌混合の方法には特に制限はなく、本技術分野において従来よりセラミックスラリーの製造に使用されている方法、装置を適宜使用することができるが、例えばボールミルを用い攪拌混合することができる。ボールミルを用いることで、セラミック粒子の粒度調整を一緒に行うことができる。
【0065】
工程a)において、セラミックスラリーを塗工する方法は、セラミックスラリーの粘度および工程b)において形成するセラミックグリーンシートの種類や厚さに応じて適宜選択することができる。
例えば、アプリケータ、オンロールダイコータ、減圧ダイコータ、オフロールダイコータ、スリットコータ、カーテンコータ、引き上げコータ、ナイフコータ、キャストコータ、リバースロールコータ、ブレードコータ、スクリーン印刷法などを適宜採用することができる。
【0066】
b)グリーンシート形成工程、
工程a)において塗工されたセラミックスラリーから、工程b)において乾燥等により溶剤を除去することで剥離フィルム上にセラミックグリーンシートを形成することができる。
工程b)において乾燥を行う場合の温度及び時間には特に制限は無いが、通常60から100℃、好ましくは70から100℃で、通常30から300秒、好ましくは30から200秒間乾燥を行うことができる。
【0067】
工程b)における乾燥時間が30秒以上であることで、乾燥が完了するまでにシート内の粒子を均一かつ密に配列させることができ、それによってグリーンシート内の空隙を低減することができる。
工程b)における乾燥時間が200秒以下であることで、セラミックグリーンシートの製造工程における生産効率を向上することができる。
【0068】
工程b)における乾燥温度を70℃以上とすることで、セラミックグリーンシート中に溶媒が実質的に残存せず、焼成工程でセラミック中にボイドが発生するのを防ぐことができる。また、乾燥温度を100℃以下とすることで、溶媒の急激な揮発によるグリーンシートの表面におけるふくれやへこみの発生を抑えることができる。また、乾燥ゾーンを複数にして、各々の乾燥ゾーン毎に温度を変えてもよい。
【0069】
c)剥離工程
工程c)において、工程b)において形成されたセラミックグリーンシートをセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムから剥離する。
工程c)における剥離の方法には特に制限は無く、セラミックグリーンシートの材質や性状、その後の工程などに応じて適宜選択すればよく、例えば剥離フィルム上のセラミックグリーンシート部を切断した後に加熱を行ったり、剥離フィルムを変形させるなどして、セラミックグリーンシートを剥離することができる。
本発明のセラミックグリーンシートの製造方法では、上記にて詳述した特定の剥離フィルムを使用することで、工程c)における剥離力を低く(軽剥離と)することができる。これにより、セラミックグリーンシートの破損を有効に低減することができる。
剥離工程における剥離力は、5から100(mN/50mm)であることが好ましく、10から50(mN/50mm)であることが特に好ましい。
【0070】
本発明のセラミックグリーンシートの製造方法では、上記にて詳述した特定の剥離フィルムを使用することで、工程a)及びb)から工程c)迄の間に長時間が経過した場合であっても、初期のグリーンシート剥離力から変化の少ない剥離力を維持することができる。
例えば、工程a)及びb)から常温で1週間保管した後であっても、工程c)における剥離力は、工程a)及びb)の直後に工程c)を実施した場合の剥離力の115%以下であることが好ましく、110%以下であることが特に好ましい。工程b)から常温で1週間保管した後の工程c)における剥離力が115%以下であれば、グリーンシート破断の不具合を一層効果的に抑制できる。
【0071】
電極印刷工程、ハーフカット工程、打ち抜き工程
本発明のセラミックグリーンシートの製造方法は、上記工程a)からc)に加えて、工程b)後工程c)前に、電極印刷、ハーフカット及び/又は打ち抜きを行う工程を更に有することができる。
【0072】
本発明の製造方法により得られたセラミックグリーンシートを焼成することで、各種セラミック製品を製造することができる。
工程b)後工程c)前に電極印刷工程を有する上記の実施形態によれば、電極印刷後、工程c)(剥離)、積層圧着、切断分離、焼成、外部電極形成工程を経て、積層セラミックコンデンサや多層セラミック基板を製造することができる。
【0073】
上記製造方法により得られたセラミックグリーンシートを焼成することで、各種セラミック製品を製造することができる。
積層セラミックコンデンサの製造にあたっては、上記工程b)と工程c)との間にグリーンシート上に内部電極を印刷する工程を設ける。その後、工程c)(剥離)、積層圧着、切断分離、焼成、外部電極形成工程を経て、積層セラミックコンデンサを製造することができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これにより何ら限定されるものではない。
【0075】
以下の実施例/比較例において、物性/特性の評価は下記の方法で行った。
(水接触角)
以下の条件で、離型剤層表面の水の接触角を測定した。
接触角計:協和界面科学社製 DM-701 全自動接触角計
接触角計解析ソフト:同社製 FAMAS
液滴法にて、接触角θを算出した。手順は以下のとおり。
i)短冊上にカットしたサンプルを接触角計にセットした。
ii)シリンジポンプから、約6.1μLの水滴を吐出した。
iii)サンプル上に吐出した液滴の状態を画像撮影した。
iv)サンプルと液滴のなす角を測定し、これを水の接触角(°)とした。
【0076】
(ブロモナフタレン接触角)
水に代えて1-ブロモナフタレンを使用し、1-ブロモナフタレンの量を3.4μLとしたことを除くほか、上記の水接触角の測定方法と同様にしてブロモナフタレン接触角を測定した。
【0077】
(剥離力)
1)セラミックスラリーの調製
チタン酸バリウム(堺化学工業株式会社製、BT-01)、ポリビニルブチラール(積水化学工業株式会社製、エスレックBH-S)、フタル酸ジブチル、トルエン、及びエタノールを、45:3.6:0.9:25:25(質量比)で混合し、セラミックグリーンシートの原料となるセラミックスラリーを調製した。
2)セラミックグリーンシートの形成
セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム試料の離型剤層側に、アプリケータにて上記1)にて調製したセラミックスラリーを厚み50μmで塗工し、70℃で2分間乾燥して、厚さ10μmのセラミックグリーンシートを形成した。
3)グリーンシートの剥離力の測定
離型フィルム試料及び上記2)にてその上に形成したセラミックグリーンシートを50mm×200mmの短冊状にカットし、テンシロン(株式会社エー・アンド・デイ:RTG-1210)にて離型フィルムからグリーンシートを180°の角度で剥離しその剥離強度を測定した。
【0078】
実施例/比較例で剥離剤層に用いた樹脂等の各構成成分の詳細は、以下のとおりである。
・(a3)多官能アクリレート1
新中村化学工業株式会社製、商品名:NKエステル A-9300
トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート(官能基数:3)
アクリル当量:141g/mol
・(a3)多官能アクリレート2
新中村化学工業株式会社製、商品名:NKエステル A-TMM-3LM-N
ペンタエリスリトールトリおよびテトラアクリレート(官能基数:3及び4)
アクリル当量:93.7g/mol
・(a3)多官能アクリレート3
新中村化学工業株式会社製、商品名:NKエステル A-DCP
トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(官能基数:2)
アクリル当量:304g/mol
・(a3)多官能アクリレート4
新中村化学工業株式会社製、商品名:NKエステル A-GLY-9E
エトキシ化グリセリントリアクリレート(官能基数:3)
アクリル当量:217g/mol
・(a1)エポキシ変性シリコーン1
荒川化学工業株式会社製、商品名:シリコリース UV POLY201
ジメチルシリコン、脂環エポキシシリコンブロック共重合体
・(a2)エポキシ変性シリコーン2
信越化学株式会社製、商品名:信越シリコーン KR-470
脂環式エポキシ基含有環状シロキサン4官能オリゴマー
エポキシ当量:200g/mol
・(a2)エポキシ変性シリコーン3
信越化学株式会社製、商品名:信越シリコーン X-22-169AS
両末端型/脂環式エポキシ変性シリコーンオイル
エポキシ当量:500g/mol
・(a2)エポキシ変性シリコーン4
信越化学株式会社製、商品名:信越シリコーン X-22-169B
両末端型/脂環式エポキシ変性シリコーンオイル
エポキシ当量:1700g/mol
・エポキシ変性シリコーン5
信越化学株式会社製、商品名:信越シリコーン KF-102
側鎖型/脂環式エポキシ変性シリコーンオイル
エポキシ当量:3600g/mol
・カチオン開始剤1
三新化学工業株式会社製 商品名:サンエイド SI-100
・ラジカル開始剤1
IGM RESINS製 商品名:Esacure ONE
α-ヒドロキシケトンタイプ光重合開始剤
【0079】
[実施例1]
多官能アクリレート1、エポキシ変性シリコーン1、エポキシ変性シリコーン2、カチオン開始剤1、及びラジカル開始剤1を表1に示す質量比で配合して、剥離剤層用の硬化性組成物を調製した。
基材として、厚さ約30μm、表面の算術平均粗さ(Ra)が約20nmであるポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、基材の1面上に上記で調整した硬化性組成物を塗工し、100℃×15秒乾燥した後に高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射(積算光量:約40mJ/cm2)して硬化させて剥離剤層を形成し、基材と該基材の一方に設けられた剥離剤層とを有する、剥離フィルムを製造した。
製造された剥離フィルムの剥離層表面について、上記の方法で水接触角及びブロモナフタレン接触角を測定し、初期水接触角WCA1及び初期ブロモナフタレン接触角BCA1を得た。
次いで、上記の方法で1)セラミックスラリーの調製、及び2)セラミックグリーンシートの形成を行い、次いで3)グリーンシートの剥離力の測定を行い、初期シート剥離力を得た。
別途未使用の剥離フィルムサンプル、及び上記1)セラミックスラリーの調製で得られたセラミックスラリーを用い、上記2)セラミックグリーンシートの形成を行い、23±2℃×50±5%RHの恒温恒湿環境下で1週保管した後、上記3)グリーンシートの剥離力の測定を行い、1週間後シート剥離力を得た。更に、1週間後シート剥離力の測定後(グリーンシート剥離後)の剥離フィルムの剥離層表面について、上記の方法で再度水接触角及びブロモナフタレン接触角を測定し、剥離後水接触角WCA2及び剥離後ブロモナフタレン接触角BCA2を得た。
結果を表1に示す。
【0080】
[実施例2から4、及び比較例1から3]
剥離剤層用の硬化剤組成物の配合を表1に示すものに変更したことを除くほか、実施例1と同様にして剥離フィルムを製造し、評価した。
結果を表1に示す。
【0081】
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のセラミックグリーンシートの製造方法は、剥離フィルム上に形成したセラミックグリーンシートの剥離が容易であるとともに、剥離性の経時変化が小さく、グリーンシート塗工から長期間経過した場合でも優れた易剥離性を安定的に実現できる等、高い実用的価値を有する技術的効果を従来技術の限界を超えた高いレベルで実現するものであり、各種セラミック製品の製造に好適に使用することができるので、電気電子産業、電子部品産業、機械産業、自動車産業をはじめとする産業の各分野において高い利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0083】
11:セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム
12:剥離剤層
13:基材
【要約】
基材と剥離剤層とを有するセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムを用いたセラミックグリーンシートの製造方法であって、グリーンシートの剥離が容易であるとともに、易剥離性の経時変化が小さく、グリーンシート塗工から長期間経過した場合でも優れた易剥離性を安定的に実現できる、セラミックグリーンシートの製造方法を提供する。該課題は、a)セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム上にセラミックスラリーを塗工する工程、b)前記a)工程において塗工されたセラミックスラリーからセラミックグリーンシートを形成する工程、及び c)前記b)工程において形成されたセラミックグリーンシートを前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムから剥離する工程、を有するセラミックグリーンシートの製造方法であって、前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムが、基材と、前記基材の少なくとも一方に設けられた剥離剤層とを有し、前記剥離剤層の前記基材とは反対側の面のブロモナフタレン接触角BCA1と、
前記剥離剤層の前記基材とは反対側の面にA)チタン酸バリウム粒子45質量%、B)ポリビニルブチラール3.6質量%、C)フタル酸ジブチル0.9質量%、D)トルエン25質量%、及びE)エタノール25質量%を含有するセラミックスラリーを塗工し、乾燥し、23±2℃×50±5%RHの恒温恒湿環境下で1週間保管後に剥離した後のブロモナフタレン接触角BCA2との差、δBCA=BCA2-BCA1、が-1.5°から1.0°の範囲内である、上記セラミックグリーンシートの製造方法によって解決される。