(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】一連の画像から流れを検出する方法
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20241115BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20241115BHJP
A61B 5/026 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
A61B3/10 100
A61B10/00 E
A61B5/026 140
(21)【出願番号】P 2021524373
(86)(22)【出願日】2019-11-04
(86)【国際出願番号】 AU2019051211
(87)【国際公開番号】W WO2020093088
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-11-02
(32)【優先日】2018-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】524350191
【氏名又は名称】杭州光拓医療器械有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100205936
【氏名又は名称】崔 海龍
(72)【発明者】
【氏名】ゴン ペイジュン
(72)【発明者】
【氏名】ワン チアン
(72)【発明者】
【氏名】サンプソン デイビッド ディー
【審査官】後藤 昌夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-147560(JP,A)
【文献】特開平07-023926(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0034441(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
A61B 5/02-5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質の一連の画像から流れを検出する方法であって、
物質の領域の少なくとも3つの画像が、少なくとも3つの時点での時間tの関数として各ボクセル又は対象領域の強度I(t)を提供するように、複数のボクセル又は対象領域を含む各画像を、物質の領域の少なくとも3つの一連の画像として提供するステップと、
周波数ωの分布I(ω)を取得するために、前記少なくとも3つの時点での強度を含むI(t)において、各ボクセル又は対象領域のI(t)をフーリエ変換するステップと、
第1周波数より大きい周波数帯の周波数ω
Hにおいて、他のボクセル又は対象領域に比べて、より大きな振幅I
L(ω
H)を有するボクセル又は対象領域を第1視覚的特性として関連付け、さらに、前記高い周波数帯において、他のボクセル又は対象領域に比べて、より小さな振幅I
S(ω
H)を有するボクセル又は対象領域を第2視覚的特性として関連付けることを含む、各ボクセル又は対象領域についてI(ω)を分析するとともに、前記ボクセル又は前記対象領域を含む前記物質の領域の処理画像を生成するステップと、を備え、
前記より大きな振幅I
L(ω
H)は流れに関連し、前記より小さな振幅I
S(ω
H)は静止領域に関連し、前記第1周波数は、0.5、1.2又は3Hzであることを特徴とする物質の一連の画像から流れを検出する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の物質の一連の画像から流れを検出する方法において、
前記流れが血管内の血液の流れであることを特徴とする物質の一連の画像から流れを検出する方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の物質の一連の画像から流れを検出する方法において、
前記第1視覚的特性と前記第2視覚的特性とが、灰色、色彩又は強度が異なることを特徴とする物質の一連の画像から流れを検出する方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の物質の一連の画像から流れを検出する方法において、
前記I(ω)を分析するステップは、前記処
理画像のコントラストが、I
L(ω
H)に関連するボクセルと、I
S(ω
H)に関連するボクセル又は対象領域と、の間で増加するように実行されることを特徴とする物質の一連の画像から流れを検出する方法。
【請求項5】
請求項2を引用する請求項4に記載の物質の一連の画像から流れを検出する方法において、
前記方法は、コントラストが改善された血管を有する前記処理画像を生成することを含むことを特徴とする物質の一連の画像から流れを検出する方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つに記載の物質の一連の画像から流れを検出する方法において、
前記I(ω)を分析するステップが、I
L(ω
H)及びI
S(ω
H)の、より低い周波数帯の周波数ωLにおける振幅I(ω
L)による除算を有することを特徴とする物質の一連の画像から流れを検出する方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つに記載の物質の一連の画像から流れを検出する方法において、
I
L(ω
H)及びI
S(ω
H)が、前記第1周波数より大きい周波数帯の所定の周波数帯における振幅の、夫々の平均値であることを特徴とする物質の一連の画像から流れを検出する方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1つに記載の物質の一連の画像から流れを検出する方法において、
I
L(ω
H)が、0Hzの周波数についての振幅であることを特徴とする物質の一連の画像から流れを検出する方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1つに記載の物質の一連の画像から流れを検出する方法において、
少なくとも3つの一連の画像を提供するステップが、少なくとも3つの一連の深度画像を提供することを含むことを特徴とする物質の一連の画像から流れを検出する方法。
【請求項10】
請求項9に記載の物質の一連の画像から流れを検出する方法において、
前記深度画像は、一連のOCT A-スキャンから成るOCT B-スキャンのOCT画像であることを特徴とする物質の一連の画像から流れを検出する方法。
【請求項11】
請求項10に記載の物質の一連の画像から流れを検出する方法において、
前記OCT画像は、ボリューム画像を取得するために、前記物質内の異なる位置における一連のOCT B-スキャンを有することを特徴とする物質の一連の画像から流れを検出する方法。
【請求項12】
請求項11に記載の物質の一連の画像から流れを検出する方法において、
少なくとも3つの一連の画像を提供するステップが、OCT光スペクトルを取得し、次に、取得された各OCT光スペクトルを逆フーリエ変換することにより、画像を形成するために、前記OCT A-スキャンに関連するスペクトル強度分布を空間強度分布に変換することを含むことを特徴とする物質の一連の画像から流れを検出する方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1つに記載の物質の一連の画像から流れを検出する方法において、
前記物質が、ヒトの眼及び皮膚の、眼及び皮膚内の組織の生体組織であることを特徴とする物質の一連の画像から流れを検出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、生体組織の画像のような一連の画像から、血管内の血液の流れ等を検出する方法に関する。本発明は、例えば、限定されるものではないが、血管のコントラストを改善するために、組織の光干渉断層(OCT)画像を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光干渉断層法(OCT)の拡張技術である光干渉断層血管撮影(OCTA)は、細動脈、毛細血管、細静脈等の組織血管系を画像化するための非侵襲的な手法を提供する。OCTにおける画像のコントラストは、組織内の後方散乱レベルによって決定される一方で、OCTAにおいては、OCT信号の動きによって誘発される変化を利用して微小血管網を画像化できる。OCTAでは通常、画像の解像度及び視野は夫々、2~20μm及び数mm~20mmの範囲である。人体組織の場合では、撮影深度が1mm未満に制限されることがある。
【0003】
OCTAでは、血液中の散乱体の移動に起因するOCT信号と、周囲の大部分が静止している組織に起因するOCT信号との間における時間的な違いを識別することにより、血管を識別する。このような流れに起因する違いは、複素OCT信号の振幅と位相との両方により符号化されて、スペックル分散及び/又は相関マッピング/スペックル非相関分析を使用することにより、OCT振幅信号の時間的変化を定量化し検出することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、OCTAには、流れのコントラストが低い小さな血管の検出感度を向上させること、及び、より深い血管やより広い組織領域を撮影できるようにするため、撮影深度及び視野を拡大することが求められている。また、OCTAの画像処理速度を向上させることができれば、更に有利になる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の側面によれば、物質の一連の画像から流れを検出する方法が提供される。この方法は、
前記物質の領域の少なくとも3つの画像が、少なくとも3つの時点における時間tの関数としての各ボクセル又は各対象領域の強度I(t)を提供するように、複数のボクセル又は対象領域を含む画像を、少なくとも3つの一連の画像として提供するステップと、
前記少なくとも3つの時点での強度を含むI(t)において、各ボクセル又は各対象領域のI(t)をフーリエ変換することにより、周波数ωの分布I(ω)を取得するステップと、
高周波数帯の周波数ωHにおいて、他のボクセル又は対象領域に比べて、より大きな振幅IL(ωH)を有するボクセル又は対象領域を第1視覚的特性として関連付け、さらに、前記高い周波数帯において、他のボクセル又は対象領域に比べて、より小さな振幅IS(ωH)を有するボクセル又は対象領域を第2視覚的特性として関連付けることを含む、各ボクセル又は各対象領域についてI(ω)を分析し、前記ボクセル又は前記対象領域を含む前記物質の領域の処理画像を生成するステップとを含む。
【0006】
第1及び第2の視覚的特性は、例えば、灰色、色彩又は強度が異なってもよい。I(ω)を分析するステップは、IL(ωH)に関連するボクセル又は対象領域と、IS(ωH)に関連するボクセル又は対象領域との間で、処理された画像のコントラストが増加するように実行されてもよい。
【0007】
本発明者らは、高周波領域における振幅I(ωH)が、静止領域に比べ、血管内の血流のような、流れに関連する対象領域の方が大きくなることが多いことを確認した。結果的に、本発明の実施形態には、例えば生体組織の血流(及びそれに関する血管)と生体組織の静止領域との間におけるコントラストを増加させることができ、識別性を向上させるという利点がある。
【0008】
一実施形態では、I(ω)を分析するステップは、より低い周波数帯の周波数ωにおける振幅I(ωL)によるIL(ωH)及びIS(ωH)の除算を含んでいてもよい。
【0009】
IL(ωH)及びIS(ωH)は、例えば0.5、1.2又は3Hzより高い周波数帯のような、所定の周波数帯における振幅の、夫々の平均値であってもよい。
【0010】
I(ωL)は、実質的に0Hz(DC)の周波数における振幅であってもよい。
【0011】
少なくとも3つの一連の画像を提供するステップは、少なくとも3つの一連の深度画像を提供することを含んでもよい。深度画像は、一連のOCT A-スキャンから成るOCT B-スキャン等のOCT画像であってもよい。
【0012】
各OCT B-スキャンは、(OCT A-スキャンに関する)一連の光スペクトルを検出し、次に、取得された各光スペクトルに逆フーリエ変換を適用することによって、スペクトル強度分布を、OCT画像(OCT B-スキャン)を形成するための空間強度分布に変換することにより得られてもよい。
【0013】
さらに、OCT画像は、物質内の異なる位置からの複数のOCT B-スキャンを含み、これらを一緒にしてOCTボリューム画像を形成してもよい。
【0014】
物質は、ヒトの眼球のような眼球の中の組織や皮膚、又は脳のような生体組織であってもよい。本方法は、典型的には生体内で実施されるが、代替的に生体外で実施されてもよい。
【0015】
本発明は、本発明の特定の実施形態に関する以下の説明により完全に理解される。この説明は、添付の図面を参照して行われる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一側面に係る、物質の一連の画像における流れを検出する方法のフローチャートである。
【
図2】
図2(a)は、製造されたファントムにおける毛細管流れ領域と静的マトリクスとについての、周波数に対するOCT信号の周波数の大きさのプロットである。
図2(b)は、ヒトの皮膚の血管と静止組織とについての、周波数に対するOCT信号の周波数の大きさのプロットである。
【
図3】
図3(a)は、本発明の一実施形態に係るファントムにおける流れ領域と静止組織との時間サンプル数(すなわち、同位置でのB-スキャン数)の関数とした、平均ハイパス周波数の大きさとコントラストとのプロットである。
図3(b)は、本発明の一実施形態に係るヒトの皮膚における流れ領域と静止組織との時間サンプル数(すなわち、同位置でのB-スキャン数)の関数とした、平均ハイパス周波数の大きさとコントラストとのプロットである。
【
図4】
図4(a)は、本発明の実施形態に係る、OCT強度信号の平均の逆数により重み付けされる前の、短時系列OCT血管造影における血管断面画像である。
図4(b)は、本発明の実施形態に係る、OCT強度信号の平均の逆数により重み付けされた後の、短時系列OCT血管造影(OCTA)における血管断面画像である。
【
図5】
図5(a)及び
図5(b)は、それぞれ、本発明の実施形態に係る、OCT強度信号の平均の逆数による重み付けの前および後に、OCT強度信号に基づいた短時系列OCTAによって得られた血管の投影を示すOCTA画像である。
図5(c)は、重み付けを用いた複素OCT信号に基づいた短時系列OCTAによる血管の投影である。
【
図6】
図6(a),(c)及び(e)は、それぞれ、本発明の特定の実施形態に係る、スペックル非相関、短時系列及びスペックル分散により得られた血管の投影を示すOCTA画像である。
図6(b),(d)及び(f)は、それぞれ、
図6(a),(c)及び(e)で概説された領域の拡大図である。
【
図7】
図7(a),(c)及び(e)は、それぞれ、本発明の特定の実施形態に係る、スペックル非相関、短時系列及びスペックル分散により得られた血管の投影を示すさらなるOCTA画像である。
図7(b),(d)及び(f)は、それぞれ、
図7(a),(c)及び(f)で概説された領域の拡大図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態に係る、短時系列、スペックル非相関及びスペックル分散におけるファントムの流れ領域における速度の関数として正規化されたOCTA信号のプロットである。
【
図9】
図9(a)は、被験者のレーザ治療された皮膚の領域における、表面から深度約300μmまでの間に位置する血管の投影を示す、短時系列によって取得されたOCTA画像である。
図9(b)は、被験者のレーザ治療された皮膚の領域に隣接する正常な皮膚の領域における、表面から深度約300μmまでの間に位置する血管の投影を示す、短時系列によって取得されたOCTA画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
概要に記載されているような本開示の範囲内に他の実施形態も入る可能性があるが、例示として具体的な実施形態が、添付の図面を参照して説明される。
【0018】
本発明は、第1の態様において、物質の一連の画像から流れを検出する方法を提供する。
図1を参照すると、この方法は、第1ステップにおいて、物質の領域の少なくとも3つの一連の画像を提供することを含み、物質の領域の少なくとも3つの画像が各画像は複数のボクセル又は対象領域を含み、物質の領域の少なくとも3つの画像が少なくとも3つの時点での強度I(t)を提供するような、各画像が複数のボクセルまたは対象領域を含む。この方法は、第2ステップにおいて、各ボクセル又は対象領域のI(t)をフーリエ変換することにより、周波数分布I(ω)を取得することを含み、I(t)は少なくとも3つの時点での強度を含んでいる。そしてこの方法は、第3ステップにおいて、各ボクセル又は対象領域についてI(ω)を分析し、各ボクセル又は対象領域を含む物質の領域の処理画像を生成することを含み、高い周波数帯でより大きな振幅I
L(ω
H)を持つボクセル又は対象領域を第1視覚的特性として関連づけ、高い周波数帯でより小さな振幅I
S(ω
H)を持つボクセル又は対象領域を第2視覚的特性として関連付けることを含む。
【0019】
物質は、具体的な実施形態において生体組織、より具体的にはヒトの皮膚組織であり、生体内で実施され、この方法はヒトの皮膚の血管内の血流を検出する方法である。さらなる実施形態では、物質は、毛細血管領域や静的マトリクス領域等の製造されたフローファントムであり、これらは夫々ヒト組織における血管や静止組織をモデル化する。この方法は、より具体的には、少なくとも3つの連続する深度OCT画像を提供することを含む。
【0020】
しかしながら、人間の眼球内の組織等、他の生体組織が想定されることは理解できるだろう。また、生体組織以外の物質も想定され、本発明の範囲内である。さらに、この方法は生体外で実施することもできる。
【0021】
上述したように本発明者らは、周囲の静止組織よりも血管内の血流に関連する対象領域において、高周波領域における振幅I(ωH)が、しばしば大きくなることを確認した。この発見は、例えば、より高いコントラストで血管を画像化するために利用することができる。
【0022】
ここで、各フローファントム及び生体内のヒト皮膚組織についての血管のコントラストを改善することについて説明する。しかし、当業者であれば、本発明はより広い用途を有することを理解するだろう。さらに、当業者は、本発明がOCTに限定されることなく、(例えば)磁気共鳴画像法(MRI)及び超音波画像法に利用できることが理解されるだろう。
【0023】
本発明の一実施形態は、フローファントムとヒト皮膚組織の夫々について分析された特定のボクセルを複数回撮影することにより検出されたOCT信号の周波数スペクトルを取得することを含み、毛細血管及び血管内夫々の血流を検出する方法は、本明細書では、短時系列OCT血管造影法(OCTA)と呼ばれる。また、短時系列OCTA法は、スペックル非相関(相関マッピング)及びスペックル分散を含む、一般的に使用される強度ベースのOCTA法とも比較される。その結果は、概ね、ヒト組織内の所定のOCT A-スキャンレートでの撮影時間のわずかな増加により、特に小さい血管における向上されたコントラストと視認性を証明する。さらに、この方法は比較的単純なので、迅速に導入することができる。これらの利点は、今後の応用の可能性を示唆している。
【0024】
方法
短時系列OCTA血管造影法
本発明の一実施形態に係る方法の基本的な前提は、血流が、周囲の静止組織によって誘発される周波数成分よりも、より強いゼロではない周波数成分をOCT信号に誘発するというものである。他のOCTA法と同様に、この方法は、まず、取得ボリューム全体にわたって、複数の時点で同じ場所に配置されたOCT B-スキャン(すなわち、同じ横方向の位置からのB-スキャン)の撮影を必要とする。同一ボクセル位置でのOCT強度信号(すなわち、OCT信号の複素振幅の係数)は、位置(x,y,z)でのn番目のサンプルを有する離散的な時系列からなり、次のように示される。
【0025】
【数1】
ここで、(x,y,z)は夫々、高速スキャン、低速スキャン、及び深度軸におけるボクセル座標であり、Iは、nについての時点t
nでのボクセル座標の関数としての、OCT強度信号を表し、nは、1から2N+1までの整数であり、2N+1は同じ横方向の位置から取得された、同位置でのB-スキャンの合計数(すなわち、時間サンプルの合計数)であり、Tは同位置でのB-スキャンの時間間隔である。
【0026】
式(1)の各ボクセルにおける時系列は、周波数成分Fを有する複素周波数信号を得るために離散フーリエ変換される。周波数Fは、次のように表される。
【0027】
【数2】
ここで、f
0は1/[(2N+1)T]により決定される、隣接する離散的な周波数間の間隔であり、mは、-NからNまでの範囲における(両方向の)周波数成分の指標である。非ゼロの周波数における複素周波数信号の平均の大きさは、次のように計算される。
【0028】
【数3】
代替的に、多くのB-スキャンが解析のために得られる場合(すなわち、本研究において使用されたスキャンパラメータが2N+1≧29の場合)、単一の周波数成分の代わりに、ゼロ周波数成分を中心とする狭帯域が除外される(すなわち、ハイパスフィルタ処理)。この狭帯域は、特定の組織および設定に合わせて最適化する必要があり、静止組織から記録された周波数スペクトルに依存している。我々のシステムパラメータを使用して記録された、ヒト皮膚組織への最適化が、結果セクションに示されている。ただし、そこで、少数(~5)の同位置でのB-スキャンのみが、我々の方法による血管網の実際の撮影に必要とされることを、我々は実演している。このため、式(3)に示されるように、ゼロ周波数成分のみを除去することが適用される。
【0029】
フーリエ変換後、流れがある場合であっても、OCT信号強度が低いボクセルでは、それに応じて複素数のゼロではない周波数成分の大きさは小さくなる。OCT信号レベルが低い場合に流れの検出性を高めるため、OCT信号強度の逆数(すなわち、同位置でのB-スキャン数によってスケーリングされたゼロ周波数成分)による重み付けを取り入れて、以下のように与えられる。
【0030】
【0031】
【0032】
【数6】
は、同位置における2N+1個の時間サンプルのゼロ周波数成分である。ゼロによる除算、及び、過度なノイズを有する領域の信号を過度に強めることを避けるために、
【0033】
【数7】
は、最初に平均化された、低信号を後記閾値に置き換えるための、ノイズフロアを超える16dBの実験的に選ばれた信号レベルでの閾値である。我々は、横方向及び軸方向の解像度の夫々約1.4倍及び約1.9倍に相当する、横断面における3×3ピクセルの平均化ウインドウを使用した。これは、我々の方法とそれに伴うスペックル非相関の計算との両方に使用され、画像の解像度を大幅に低下させることなく血管造影の信号対雑音比(SNR)を向上させるために実験的に選ばれたものである。我々は、単純化のため各横方向の位置ごとに、同位置での奇数回のB-スキャンが撮影されると仮定したが、偶数回であっても構わない。式(3)によって生成された血管コントラストと式(4)に依る重み付けによって導入されたさらなる改善とが、結果セクションで示され、議論される。
【0034】
フローファントム及びヒトの皮膚のOCTスキャン
フローファントム及び正常なヒトの皮膚の両方での短時系列OCTA法を実証するために、OCTスキャンが、市販のスペクトルドメインスキャナ(アップグレードされたTELESTO II,Thorlabs Inc.,USA)を使用して撮影された。このシステムは、1300nmの中心波長を有し、(販売会社の定義による)軸方向及び横方向において、夫々、5.5μm(空気中)及び13μmの画像分解能を提供する。このスキャナは、最大値である146kHz以下である76kHz(A-スキャン/s)で動作させた。スキャンは、x方向及びz方向に夫々6×3.6mm(1024×1024ピクセル)のFOVを持つ1つの横方向の位置から、200枚の同位置でのB-スキャンを撮影する2Dスキャンと、x方向、y方向及びz方向に6×1.8×3.6mmのFOVを持つ3Dスキャンとの2つのモードのうち、いずれか一方により撮影された。3Dスキャンモードでは、2Dモードと同じx方向及びz方向のピクセルサイズを用いて、横方向(y)の240箇所の位置が、各位置から撮影された5箇所の同位置でのB-スキャンのセットでスキャンされた。2Dスキャンモード及び3Dスキャンモードでスキャンを撮影するためには、夫々約4秒及び約21秒かかった。さらに、B-スキャン間における時間間隔は、2D及び3Dモード共に17.8ms(~56B-スキャン/s)であり、最大28Hzの成分を持つ離散的な周波数スペクトルが得られた。
【0035】
短時系列OCTAと比較するために、同じ3Dスキャンのスペックル分散を、Mariampillaiらが「掃引光源光干渉断層撮影を用いた微小血管系のスペックル分散検出」Opt. Lett. 33(13)、1530-1532 (2008)によって発表した方法を使用して、5つの同位置でのB-スキャンで計算した。スペックル非相関は、P. Gong、S. Es'haghian、K. A. Harms、A. Murray、S. Rea、B. F. Kennedy、F. M. Wood、D. D. Sampson及びR. A. McLaughlinらの「レーザフラクネーションによって治療した血管の傷跡の縦方向モニタリングのための光干渉断層撮影」J. Biophotonics 9(6)、626-636 (2016)に記載されている式を用いて、高速スキャン軸及び深度軸に3×3ピクセルのウインドウを設けて、同位置でのB-スキャンの隣接する一対のペアごとに決定された。これにより、各横方向の位置から4つの非相関のB-スキャンに至り、それらを平均化することで1つの増幅された非相関のB-スキャンが生成された。さらに、スペックル非相関とスペックル分散とが、ノイズを低減するために、対応するピクセルでのOCT信号の平均値及び閾値によって重みが付けられた(J. Enfield、E. Jonathan、及びM. Leahy「相関マッピング光干渉断層撮影を用いた掌側前腕における微小循環の生体内での画像化(cmOCT)」Biomed. Opt. Express 2(5)、1184-1193 (2011))。短時系列OCTAで使用される閾値が、ここでは使用された。公平な比較を行うために、短時系列及びスペックル分散の画像には、同じ横方向の平均化ウインドウ(3×3ピクセル)が適用された。
【0036】
血管は、3つの方法全てから十分に強い信号が得られるようにするため、主に、(平均屈折率を1.4と仮定したOCTの深度スキャンから決定される)皮膚組織表面から300μmの深度範囲において比較された。各方法について、この深度範囲での各A-スキャンの最大OCTA信号が、血管の投影画像を生成するために使用された。視覚化のために、同一のカラーマップが投影及び断面OCTA画像には使用された。下限側及び上限側の閾値は、画像中のOCTA信号の累積分布関数における50%及び99.5%のポイントに夫々設定された。これらの閾値は、信号の低い血管を失うことなく血管のコントラストを最大化するように実験的に選ばれた。定量化のために、各投影画像は、閾値が設定されたた血管画像における総血管面積に対する総組織面積の比として定義された、血管面積密度を測定するように処理された。閾値の設定は、各画像に対してOtsuの方法を用いて行った(N. Otsu「グレーレベルヒストグラムからの閾値選択法」、IEEE Trans. Syst. Man Cybern. 9(1)、62-66 (1979))。
【0037】
シリコーンフローファントムは、Elastosil(登録商標)P7676A及びP7676B流体(Wacker Chemie AG、Germany)と二酸化チタンとを3Dプリントされたプラスチック容器内で混合することにより、自社で作成された(参照、S. Es'haghian、K. M. Kennedy、P. Gong、D. D. Sampson、R. A. McLaughlin、及びB. F. Kennedy「生体内での光学的触診、機械的コントラストを用いたヒト皮膚病変の画像化」J. Biomed. Opt. 20(1)、016013 (2015))。この容器は、血管を模した小型のガラス製毛細管(外径:80μm、内径:50μm)を入れるために、側壁に2つの孔をあけてカスタマイズされている。硬化後、毛細管は静的な組織を模したシリコーンに埋め込まれた。次に、この毛細管は、血流を模倣するために、ポリスチレン製の細粒(公称直径0.5μm)の懸濁液により満たされたシリンジに接続された。このシリンジは、導入及び流速の制御を行うために、ポンプ(Fusion 200、Chemyx Inc.、USA)に接続された。このファントムの散乱特性は、Elastosil(登録商標)P7676A及びP7676Bに対する二酸化チタンの比率を調整することにより、ファントムの信号減衰が正常なヒトの皮膚の減衰と略一致するように調整されている。
【0038】
人間の被験者(n=4)が、西オーストラリア大学の人間研究倫理委員会の倫理承認を得て、生体内でのOCTスキャンのために募集された。イボ除去のレーザ治療を受けた1名を含むすべての被験者から、掌側前腕のOCTスキャンの前に、書面による同意が得られた。この被験者に対しては、治療部位からの1つの領域と、隣接する正常な皮膚からの1つの領域とが、OCTイメージングのために選択された。データ取得時におけるバルク組織の動きを抑えるために、スペーサが、OCTプローブと皮膚組織とを密着させるべく皮膚の表面に取り付けられた。また、モーションアーティファクトをチェックするための基準マーカとして、中心に孔(直径5mm)があいた薄い金属片が、撮影中、皮膚に張り付けられた。その結果、我々は、おおむね良好な血管のコントラストと、無視できる程度の血管の歪みとを観察したため、動きの補正は行われなかった。イメージングプローブのスペーサ及びスキャンの設定のさらなる詳細は、P. Gongらの「レーザフラクネーションによって治療した血管の傷跡の縦方向モニタリングのための光干渉断層撮影」J. Biophotonics 9(6)、626-636 (2016)に記載されている。そして、ファントム及び皮膚組織から撮影したスキャンは、3つのOCTA法を用いて処理され、比較された。
【0039】
結果
このセクションではまず、短時系列OCTA法でのコントラスト、及びサンプル数の選択と信号の重み付けとによるその最適化について考察する。また、OCT強度と複素信号とに実装された短時系列間の違いも示される。そして、最適化された短時系列OCTA法からの結果は、スペックル非相関及びスペックル分散から得られた結果と比較される。
【0040】
血管のコントラスト
短時系列OCTA法における血管のコントラストは、血液中を移動する散乱体によって誘発される、非ゼロの周波数成分の上昇に起因する。このような血管コントラストの一例は、200枚のB-スキャンの拡張時系列から得られ、
図2(a)に示される。この図は、毛細管内におけるポリスチレン製の細粒の流れを横切るファントムスキャンにおけるOCT強度信号の時系列のフーリエ変換(大きさ)をプロットしたものである。
【0041】
流れ領域及び静止領域における200枚のB-スキャンから得られた信号の両側のスペクトル密度が、
図2(a)にはファントムについて、
図2(b)にはヒトの皮膚組織について示されている。
【0042】
図2(a)に示される、静的マトリクス領域からのOCT信号の周波数スペクトルは、約1.1Hzでの値がピークでの値よりも約20dB低くなり、それ以上の周波数でも一貫して低いままである。毛細管流れ領域(流速が3mm/s)においても、同様の急激な低下がみられるが、1.1Hz以上での周波数スペクトルの大きさは、静的マトリクス領域よりもはるかに高くなっている(
図2(a))。
【0043】
同様のプロットは、
図2(b)に示すようなスペクトル密度とともに、生体内の皮膚から得られ、200枚の同位置でのB-スキャンから決定される。このスペクトル密度は、血管と静止組織との間に一貫したコントラストがあることを示している。このコントラストは、式(3)を用いることで、非ゼロ(ハイパス)周波数の平均的な大きさとしてパラメータ化することができる。さらに
図2(b)は、流れと静止組織との間のコントラストが、式(3)での高周波数における平均的な大きさを計算するためのカットオフとして選ばれた、約2Hzよりも高い周波数において存在することを示している。尚、皮膚の静止組織のためのゼロ周波数を中心とするピーク(
図2(b))は、ファントムでの静止マトリクスのピーク(
図2(a))よりも幅が大きい。これは、皮膚組織中の残留運動、脈拍(1分間に約60~100回)、又は他の原因によるものと考えられる。以下のセクションでは、5枚の同位置でのB-スキャンのみが解析のために撮影された場合、周波数間隔は非常に大きく(すなわち、11.2Hz)、目的のハイパスフィルタを達成するためには、式(3)のようなゼロ周波数成分の除去のみが必要となっている。
【0044】
時系列の長さの選択
図2に示された周波数スペクトルは、単一の横方向の位置において詳細な解析ができるように選択された、200枚の同位置でのB-スキャンの撮影によるものである。このような長時間の撮影は、臨床用途では実用的ではなく、高い血管コントラストを維持しつつ、時間サンプル数を減少するためには、トレードオフが必要とされる。発明者達は、
図3に提示されているように、このトレードオフを検証した。
図3は、ファントム(
図3(a))及び皮膚組織(
図3(b))の3×3ピクセルにおける流れ領域(実線)と静止組織(破線)とについて、2Hz以上の周波数の平均的な大きさを計算することで得られた平均的な大きさ及びコントラストを示している。実際、
図3は、ファントムの
図3(a)と皮膚組織の
図3(b)とにおいて、時間サンプル数(すなわち、同位置でのB-スキャン数)の変化に対する、時系列OCTAにおける血管のコントラストを示している。左側の縦軸を参照して、時間サンプル数に対する平均ハイパス周波数の大きさが、流れ領域(実線)及び静止組織領域(破線)について示されている。右側の縦軸に対し、それらの比率が、一点鎖線によって示された平均値とともに、点線のプロットによって示されている。挿入図は、3~9サンプルについてのコントラストの拡大トレースを示している。丸印は5サンプルについての比率を示す。
【0045】
毛細管/血管と静的マトリクス/静止組織との両方の流れ領域において、平均的な大きさは、流れ領域と静的領域との間の平均的な大きさの差のように、撮影された同位置のB-スキャン数に対して増加する。特に、この2つの比率(点線によるプロット)は、5~10回の同位置でのB-スキャンの周辺においてピークに達し、その後に(局所的な変動はあるものの)安定する。
図3(a)及び
図3(b)において、一点鎖線はすべての比率(n=3~200)の平均値を示しており、その値は7~8の範囲にある。丸印は、5回のB-スキャンでの比率を示している。この図から、短時系列法で良好な血管コントラストを取得するためには、約5枚の同位置でのB-スキャンを生成すれば十分であることが分かる。より多くの同位置でのB-スキャンを生成することは、状況により有益であることもあるが、撮影時間が長くなる。一方、同位置のB-スキャンを3~4枚のみ生成することは、
図3(b)で分析された血管では明瞭なコントラストを示すものの、より低いコントラストを有する血管では問題が生じることがある。そこで我々は、以下に提示される血管網の3D画像化には、同じ組織位置からの5枚の同位置のB-スキャンを使用することにした。
【0046】
重み付けによる信号の増幅
低いOCT信号を伴う流れ領域における血管の信号を増幅するために、我々は、式(4)に記述されたように、非ゼロの周波数の平均的な大きさを、線形OCT信号の強度の逆数によってさらに重み付けする。
図4(b)に示す重み付けされた画像は、重み付け前の
図4(a)と比較して、増幅された血管の信号(例えば、2つの矢印によりマークされた血管)を示している。
図5(b)に示すように、前腕における皮膚表面から深さ300μmまでの血管を含む投影画像では、改善レベルがより良好に評価されている。
図5(a)に示す重み付けされていない対応画像と比較して、重み付けされた画像は、血管の連結性、及び視認可能な血管の数という点において、改善された視認性を示している。さらに、
図4(a)の矢印で示したように、この重み付けは、非常に強い表面反射によって引き起こされる偽りの血管信号を大幅に抑制している。それ故に、我々は、血管の画質を最適化するための重要なステップとして、この重み付けを我々の手法に取り入れている。
【0047】
図4は、平均OCT強度信号の逆数によって重み付けされる前(a)と後(b)との短時系列OCTAによる血管断面画像を示している。矢印及び矢頭は、それぞれ組織表面(矢印)と血管(矢頭)との、2つの画像における対応するピクセルを示している。スケールバーは500μmに対応している。
【0048】
図5は、重み付けされる前のOCT強度信号(a)、重み付けされた後のOCT強度信号(b)、及び重み付けされた複素OCT信号(c)に基づいた時系列OCTAによる血管の投影図を示す。この投影図は、皮膚表面から300μmの深さまでの血管を示している。スケールバーは500μmに対応している。
【0049】
強度と複素信号に基づいた処理との対比
他のOCTA法と同様に、強度又は全複素OCT信号(すなわち、強度と位相)のいずれかを解析することが可能である。短時系列法は、同じ皮膚のスキャンにおける両方のケースで適用された。代表的な例が、
図5の血管投影画像に示されている。
図5(b)と
図5(c)との比較により、強度と複素信号に基づく処理とは、非常に同等な血管の検出に至ることが示される。ただし、複素信号を用いると、
図5(c)から明らかなように、より多くのモーションアーティファクト(水平線)が発生する。
【0050】
データ取得時の動きを最小限に抑えるために、カスタマイズされたイメージングスペーサとセットアップとが使用される。これは、スペックル非相関法(P. Gongらの「レーザフラクネーションによって治療した血管の傷跡の縦方向モニタリングのための光干渉断層撮影」J. Biophotonics 9(6)、626-636 (2016))と組み合わせて使用すると効果的であることが予てより示されている。
【0051】
図5(a)及び
図5(b)では、強度のみに基づいており、組織の残留運動は殆ど見られないが、
図5(c)では、動きに敏感な位相情報を取り込んだため、組織の残留運動は、複数の水平線として検出されている。複素信号が方法のベースとされた場合、このようなアーティファクトを軽減するためには、追加の動きを補正するためのアルゴリズムが要求される。この要求を回避するために、以下のセクションで示される時系列OCTAの結果は、OCT強度信号のみを用いて算出されている。
【0052】
スペックル非相関とスペックル分散との比較
本発明の実施形態に係るOCTA法の性能をさらに評価するために、この短時系列OCTA法が、3Dスキャンにおける5枚の同位置でのB-スキャンのセットに適用される、一般に使用されている2つの強度ベースのOCTA法、スペックル非相関(相関マッピング)及びスペックル分散と比較された。
【0053】
図6を参照すると、
図6(a)にはスペックル非相関による血管の投影が、
図6(c)には短時系列による血管の投影が、
図6(e)にはスペックル分散による血管の投影が示されている。
図6(a)、
図6(c)及び
図6(e)で概説される領域は、夫々
図6(b)、
図6(d)及び
図6(f)に拡大されている。
【0054】
前腕の皮膚の血管が、表面から深さ300μmまで投影されている。
図6における矢印は、同じ血管の部分を示している。スケールバーは、(a)、(c)及び(e)では500μmに対応し、(b)、(d)及び(f)では200μmに対応している。
【0055】
従って、
図6は、前腕の皮膚の例を示している。この例は、皮膚の表面から300μmまでの血管を投影している。短時系列法により生成された血管画像は、スペックル非相関法(上段)とスペックル分散法(下段)とにより生成された画像と比較しやすいように、中段に配置されている。
図6(c)では、スペックル非相関(
図6(a))及びスペックル分散(
図6(e))と同等の血管網の可視化が、短時系列法によって提供されている。さらなる調査では、短時系列投影画像では血管のコントラストが向上し、血管の連結性及び視認性が向上していること示されている。
図6(c)の概説された組織領域から取られたそのような一例が、
図6(d)に拡大されている。スペックル非相関及びスペックル分散を用いて得られた
図6(b)及び
図6(g)を夫々比較すると、矢印により示された代表例によって、いくつかの血管の部分がより明確に観察されている。
【0056】
このような改善は、約1%の推定精度で血管面積密度を測定することにより、さらに定量化される。この結果、スペックル非相関法では21%、スペックル分散法では20%であったのに比べて、
図6(c)の短時系列画像では28%という優れた面積密度が得られた。短時系列法における相対的に高い密度は、
図6に示すように、改善された血管のコントラストによるものである。
【0057】
本研究では、すべての被験者(n=4)において、短時系列OCTAによる血管コントラストの一貫した優位性が、
図7に示されるさらなる例によって確認されている。
図7(a)はスペックル非相関による血管の投影図であり、
図7(c)は短時系列による血管の投影図であり、
図7(e)はスペックル分散による血管の投影図である。
図7(a)、
図7(c)及び
図7(e)において概説される領域が、夫々
図7(b)、
図7(d)及び
図7(f)に拡大されている。前腕の皮膚の血管が、表面から深さ300μmまで投影されている。(a)、(c)及び(e)の矢頭が、同じ血管の部分を示している。(b)、(d)及び(f)の矢印は、同じ血管の部分を示している。スケールバーは、(a)、(c)及び(e)では500μmに対応し、(b)、(d)及び(f)では200μmに対応している。
図7(a)、
図7(c)及び
図7(e)には、3つの方法による皮膚表面から深さ300μmまでの血管の最大強度投影図が可視化されている。このケースは、スペックル非相関(
図7(a))及びスペックル分散(
図7(e))よりも、
図7cの短時系列法によって提供される血管の視認性が優れていることを示している。
図7(b)、
図7(d)及び
図7(f)の対応する拡大された領域では、矢印により示された特定の事例によって、血管のコントラストの違いが強調されており、短時系列の画像おけるより優れた血管の信号強度及び連結性が示されている。このケースでは、測定された血管面積密度(27%)は、スペックル非相関(21%)及びスペックル分散(19%)よりも高く、
図6における分析結果と一致している。興味深いことに、このケースでは、局所的な領域において平行な血管の例がいくつか見られ(例えば、矢頭で示された血管)、これはスペックル非相関及びスペックル分散によって得られた画像よりも、短時系列による画像の方が評価しやすい。文献で使用されている別の投影法では、最大値の代わりにOCTAの血管信号の平均値が用いられている(例えば、C. L. Chen、及びR. K. Wangによる「光干渉断層撮影による血管造影[招待講演]」 Biomed. Opt. Express 8(2)、1056-1082 (2017)、及びA. Zhangらの「OCTマイクロ血管造影における脈絡膜新生血管の正確な表示のための投影アーティファクトの最小化」 Biomed. Opt. Express 6(10)、4130-4143 (2015)を参照)。この研究では、3つの手法の間の一貫した血管のコントラストの違いが、平均的な投影にて、同様に認められている(不図示)。
【0058】
3つの手法の間のコントラストの違いをさらに明らかにするために、対流速(0~2mm/sの範囲の9つの値)に対するファントム内のOCTA信号を調べる実験が行われた。
図8は、短時系列(四角)、スペックル非相関(三角)及びスペックル分散(丸)についての、ファントムの流れ領域における流速に対する正規化されたOCTA信号を示したものである。具体的には、
図8は、元の流れ信号から静的領域におけるノイズを差し引いた後に、その流れ信号を最大値によって正規化することにより決定された、流れ領域において結果的に生じた信号強度を示している。3つの方法全てが、流速ゼロでのブラウン運動によるベースライン信号からの、細粒(直径が2μm)の流速の増加に伴った信号強度の増加を示している。そして、この信号は、0.8~1.2mm/sで全て飽和する。スペックル非相関及びスペックル分散と比較して、短時系列法は、低速域において、より高い正規化信号を示している。この観察結果は、
図6及び
図7に見られる小さな血管についての改善されたコントラストと一致している。
【0059】
さらに、正常な血管網の可視化に加えて、短時系列OCTAは、治療されたイボを有する被験者についても、良好な血管のコントラストを示している。結果として得られた画像が、
図9(b)に示す同じ被験者の隣接する正常な皮膚と比較されるように、
図9(a)に示されている。
図9は、レーザ治療されたイボを有する被験者の短時系列OCTA画像を具体的に示している。ここで、
図9(a)はレーザ治療された領域の表面から深さ300μmまでの血管の投影を示しており、
図9(b)は隣接する正常な皮膚(b)の表面から深さ300μmまでの血管の投影を示している。スケールバーは500μmに対応している。
【0060】
このイボは、OCTスキャンの約16年前にレーザで除去された。3つのOCTA法で得られた画像の比較は、正常な皮膚領域と治療された皮膚領域との両方について、短時系列法による改善された可視化を一貫して示している(不図示)。治療領域は正常な皮膚と非常に良く似た皮膚の色を示しているが、短時系列法によって可視化された下層の微小血管系は、形態の違いを明らかに示している。例えば、治療領域は、正常な皮膚には存在しない、より多くの分岐を持つネットワークと、明確なハニカム状パターン(すなわち、局所的なループ)と、を示している。また、治療領域における定量化された血管面積密度(34%)は、正常な皮膚における定量化された血管面積密度(29%)よりも有意に高い。このような可視化及びそれに伴うコントラストは、今後の様々な皮膚疾患の研究に対する短時系列OCTAの可能性を示している。
【0061】
もう1つの重要な要素は計算時間である。この計算時間は、準リアルタイム又はリアルタイムの画像化を必要とする用途においては制限になる可能性がある。全体として、スペックル非相関は、血管信号を生成するために(単純な平均化ではない)ウインドウ処理が必要なために、短時系列又はスペックル分散よりも時間がかかる。MATLAB R2016a (The MathWorks、Inc.)を用いてIntel(登録商標)CoreTM i7-3820プロセッサ上で3×3ピクセルのウインドウを使用することで、一対のB-スキャン(B-スキャンあたり1024×1024ピクセル)の非相関を計算するのに約420ms費やした。処理のためにより大きなウインドウが用いられる場合、計算時間は大幅に増加する(例えば、5×5ピクセルのウインドウでは990ms)。一方で、短時系列法及びスペックル分散のためのデータ処理は、はるかに高速であり、5枚の同位置でのB-スキャンの各セットを処理するのに、夫々約64ms及び約27ms費やす。この特徴は、微少血管系の手順内又はリアルタイムでの可視化を可能にするために、高速スキャンOCTシステムでの短時系列法の将来の実装可能性を示している。
【0062】
考察
上述された実施形態において提案される方法は、血管を画像化するために、OCT B-スキャンの短時系列、すなわち同位置で撮影された少なくとも3枚の一連の画像を入力とみなし、周波数成分を決定するための離散フーリエ変換を実行する。血管内の非ゼロの(ハイパス)周波数(ここでは最大28Hz)で観察された、より高い大きさは、血管を周囲の静止組織から区別するための明確なコントラストを生成する。この方法は、微小血管網の画像化のために通常のスキャンパラメータを用いることで撮影されるOCTスキャンにも、容易に適用することができる。ヒトの皮膚を対象とした事例研究では、短時系列OCTAは、特により小さな血管について、スペックル非相関及びスペックル分散と比較して、中程度ながら一貫して改善された血管のコントラストを示している。生体内での比較は皮膚組織で行われたが、網膜等の他の生体組織への短時系列OCTA法の適用も想定されている。
【0063】
同じ位置から撮影された同位置でのB-スキャンの枚数は、本発明の実施形態に係る短時系列法の実際の実施のための重要なパラメータである。この研究において、我々は、収集されたデータ量と対応する合計撮影時間とを最小限に抑えながらも、皮膚の血管/静止組織のコントラストを高くするために、5枚を選択した。
【0064】
このように、本発明の具体的な実施形態に係る短時系列ОCTA法は、生体内での組織微小血管系の画像化の性能を示しており、同じ横方向の位置からの5枚のB-スキャンにおけるOCT信号の時系列のフーリエ変換を介して、周波数領域での流れに起因したサインが分析された。血管造影信号は、非ゼロの(ハイパス)周波数成分の平均値として計算され、フローファントム及び生体内でのヒトの皮膚で実証されたように、血管と静止組織とを明確に区別する。OCT信号の平均値の逆数により血管造影信号を重み付けすることは、血管の検出性の向上を示した。短時系列OCTAの画像化性能は、一般に用いられるスペックル非相関法及びスペックル分散法との比較によって評価され、特に細い血管の視覚化が向上し、ヒト皮膚微小血管網の血管密度の増加が証明され、一貫する大幅な改善された結果を示している。
【0065】
また、先行技術文献が本明細書において参照されていても、その文献がオーストラリア及びその他の国の当技術分野における一般的な知識の一部を形成することを認めるものではないことを理解されたい。