(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】モータ駆動装置およびこれを用いた冷蔵庫
(51)【国際特許分類】
H02P 6/16 20160101AFI20241115BHJP
【FI】
H02P6/16
(21)【出願番号】P 2021024905
(22)【出願日】2021-02-19
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100151378
【氏名又は名称】宮村 憲浩
(74)【代理人】
【識別番号】100157484
【氏名又は名称】廣田 智之
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 義典
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-046513(JP,A)
【文献】特開平11-146685(JP,A)
【文献】特開2002-359991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシレスDCモータと、前記ブラシレスDCモータの誘起電圧の値と閾値から前記ブラシレスDCモータの磁極位置を検出する位置検出部と、前記位置検出部の位置情報から前記ブラシレスDCモータをPWMで矩形波駆動するPWM生成部と、前記位置検出部の閾値をPWMデューティのオン中とオフ中で切り替える閾値変更部とを備え、前記PWM生成部が矩形波の後半の開始から位置検出までは少なくともオンオフさせるモータ駆動装置。
【請求項2】
前記ブラシレスDCモータが駆動する負荷が圧縮機である請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
請求項2に記載のモータ駆動装置を備えた冷蔵庫。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ブラシレスDCモータを駆動するモータ駆動装置およびこれを用いた冷蔵庫に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、PWMのオン中にブラシレスDCモータの端子電圧に現れる誘起電圧のゼロクロスを検出することで、ブラシレスDCモータの位置検出を行うモータ駆動装置を開示する。このモータ駆動装置は、PWM信号を出力する出力部と、モータの無通電相の誘起電圧に基づいてロータの回転位置を推定する推定部と、PWM信号とロータの回転位置に基づいて駆動信号を出力する出力部と、駆動信号に基づいて素子をオン/オフすることでモータを駆動する回路部と、PWM信号のオン期間内に対応付けて推定部による推定処理をマスクする期間を設定する設定部とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、ブラシレスDCモータの位置検出を電源電圧やモータの誘起電圧からの影響を抑え、精度よく位置検出を行うモータ駆動装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示におけるモータ駆動装置は、ブラシレスDCモータと、誘起電圧の値と閾値から位置を検出する位置検出部と、前記位置検出部の位置情報から前記ブラシレスDCモータをPWMで矩形波駆動するPWM生成部と、前記位置検出部の閾値をPWMデューティのオン中とオフ中で切り替える閾値変更部とを備える。そして、前記PWM生成部が矩形波の後半の開始から位置検出までは少なくともオンオフさせる。
【発明の効果】
【0006】
本開示におけるモータ駆動装置は、PWMオンとPWMオフの時間によらずノイズの影響が小さい状態で誘起電圧を検出することができる。そのため、PWMのオン時間とオフ時間を決定する電源電圧やモータの誘起電圧や運転負荷の状態の影響を抑え精度よくブラシレスDCモータの位置検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施の形態1におけるモータ駆動装置と冷蔵庫の制御系の構成を示すブロック図
【
図2】実施の形態1におけるPWM生成部が決定するPWMオン比率のタイミングチャート
【
図3a】実施の形態1におけるスイッチング素子4aのオン/オフのタイミングチャート
【
図3b】実施の形態1におけるスイッチング素子4bのオン/オフのタイミングチャート
【
図3c】実施の形態1におけるスイッチング素子4cのオン/オフのタイミングチャート
【
図3d】実施の形態1におけるスイッチング素子4dのオン/オフのタイミングチャート
【
図3e】実施の形態1におけるスイッチング素子4eのオン/オフのタイミングチャート
【
図3f】実施の形態1におけるスイッチング素子4fのオン/オフのタイミングチャート
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本開示の基礎となった知見等)
発明者らが本開示に想到するに至った当時、ブラシレスDCモータの誘起電圧の誘起電圧のゼロクロスから位置検出を行う際に、ノイズの影響と運転範囲を両立させるためにPWMのオン時間に応じて、マスク期間を変更する技術があった。
【0009】
しかしながら、低速での運転を実現するためにマスク期間を狭めることで、ノイズの影響を十分に抑えられない課題を発明者らは発見し、その課題を解決するために、本開示の主題を構成するに至った。
【0010】
そこで、本開示は、PWMオンとPWMオフの時間によらずノイズの影響が小さい状態で誘起電圧を検出することができるモータ駆動装置を提供する。
【0011】
以下、図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が必要以上に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0012】
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0013】
(実施の形態1)
以下、
図1、
図2、
図3a~
図3fを用いて、実施の形態1を説明する。
【0014】
[1-1.構成]
[1-1-1.モータ駆動装置を用いた冷蔵庫の構成]
図1は、本発明の実施の形態1におけるモータ駆動装置のブロック図である。
図1において、交流電源1は一般的な商用電源で、日本においては実効値100Vの50または60Hzの電源である。
【0015】
整流回路2は、交流電源1を入力として交流電力を直流電力に整流するものであり、ブリッジ接続された4個の整流ダイオード2a~2dで構成される。
【0016】
平滑部3は整流回路2の出力側に接続され、整流回路2の出力を平滑する。本実施の形態においては平滑コンデンサやリアクタによって構成されるが、本実施の形態においては回路構成の単純化のため、平滑コンデンサのみで構成している。
【0017】
なお、リアクタを用いる場合は、交流電源1とコンデンサの間に挿入すればよく、整流ダイオード2a~2dの前後どちらでも構わない。
【0018】
インバータ4は、平滑部3からの直流電力を交流電力に変換する。インバータ4は、6個のスイッチング素子4a~4fを3相ブリッジ接続して構成される。また、6個の還流電流用ダイオード4g~4lは、各スイッチング素子4a~4fに、逆方向に接続される。
【0019】
ブラシレスDCモータ5は、永久磁石を有する回転子5aと、3相巻線を有する固定子5bとから構成される。ブラシレスDCモータ5は、インバータ4により作られた3相交流電流が固定子5bの3相巻線に流れることにより、回転子5aを回転させる。また、ブラシレスDCモータ5の極数は要求される特性に応じて決定されるが、本実施の形態では4極とする。
【0020】
位置検出部6は、固定子5bの3相巻線に発生する誘起電圧から固定子5bの磁極位置を検出する。本実施の形態においてはブラシレスDCモータ5の端子電圧を取得し、ブラシレスDCモータ5の回転子5aの磁極相対位置を検出する。
【0021】
具体的には、位置検出部6は、固定子5bの3相巻線に発生する誘起電圧と基準となる電圧を閾値として比較しゼロクロスを検出し、回転子5aの相対的な回転位置を検出している。
【0022】
速度検出部7は、位置検出部6が検出する位置情報からブラシレスDCモータ5の現在の駆動速度と過去一回転の平均速度を計算する。本実施の形態では、誘起電圧のゼロクロス検出からの時間を測定し、この時間から現在の速度の計算を行う。
【0023】
また、誘起電圧ゼロクロスの間隔を区間経過時間として検出し、区間経過時間の過去一回転部の和を算出し、結果から一回転の平均速度を算出する。計算タイミングは、位置検出部6が誘起電圧のゼロクロスを検出するたびに行う。
【0024】
電圧検出部8は平滑部3からインバータ4へ入力される直流の母線電圧の値を検出する。一般的に、母線電圧はマイコンなどの電圧を検出する素子の耐電圧より高い電圧であるため、耐電圧以下になるよう抵抗で母線電圧を分圧し、取得する。取得した電圧値を比例で計算し元の電圧を取得する。抵抗で分圧し取得する方法は構成が単純でコストが安価である。本実施の形態においても、抵抗で分圧し取得するものとする。取得した電圧値は、PWM生成部10と位置検出部6へと出力される。
【0025】
PWM生成部10では、位置検出部6で誘起電圧のゼロクロスを検出するたびに速度検出部7で検出された一回転の平均速度と外部から入力される目標速度を比較し、目標速度のほうが一回転の平均速度より高ければ、ブラシレスDCモータ5への印加電圧を上げるようPWMのオン比率を設定し、目標速度が一回転の平均速度より低ければ、ブラシレスDCモータ5に印加する電圧を下げるようPWMのオン比率を設定し、一致していれば、ブラシレスDCモータ5に印加する電圧を維持するようPWMのオン比率を設定しブラシレスDCモータ5の速度を制御する。
【0026】
また、PWM生成部10では、120度通電の矩形波を出力する。位置検出部6で検出された位置検出のタイミングと速度検出部7で計算した一回転の平均速度からタイミングを計算し、切り換える。ブラシレスDCモータ5は3相モータであるので、通電相の通電期間は電気角で60度ごとに組合せが変わり、一つの相の通電期間は基本的に120度通電後、60度オフを繰り返す。
【0027】
スイッチング素子4a、4c、4eはそれぞれ120度ずつずれ順番に通電が開始される。スイッチング素子4b、4d、4fも同様に120度ずつずれ、順番に通電が開始される。更にスイッチング素子4aとスイッチング素子4b、スイッチング素子4cとスイッチング素子4d、スイッチング素子4eとスイッチング素子4fは180度ずれて通電が開始される。これによって回転磁界が形成されブラシレスDCモータ5が回転する。
【0028】
そして、PWM生成部10の生成したPWW波形の信号を、閾値変更部11とドライブ部12が受け取る。
【0029】
閾値変更部11では、受け取った波形をもとに、誘起電圧のゼロクロスの基準となる電圧の切り替えと、PWMのオン中とオフ中のどちらで位置検出を行うかを決定する。
【0030】
誘起電圧のゼロクロスの基準となる電圧は、PWM生成部10から受け取ったPWMの信号によって、PWMのオン中に位置検出するか、PMWのオフ中に位置検出するかによって変更する。PWMのオン中の位置検出の基準電圧は、3相分の端子電圧から仮想中点を作っても良いし、直流母線電圧を取得しその電圧としても良い。本実施の形態では仮想中点とし、ブラシレスDCモータ5の位置を誘起電圧から検出する方式は構成が簡単でより安価に構成することが可能となる。
【0031】
PWMのオフ中の位置検出の基準電圧は、平滑部3からインバータ4に入力される母線電圧の陽極から所定値低い値、もしくは母線電圧の陰極より所定値高い値とする。それぞれ陽極と陰極に加減算する所定値は等しい値でもよいし、状況に応じて異なる値としてもよい。
【0032】
等しい値とした場合、管理が容易となる。また異なる値とした場合は等しい場合より精度良く検出できる。等しい値で固定する場合、最大電流がインバータ4のスイッチング素子4a~4fに流れた際の電圧降下と還流電流用ダイオード4g~4lの電圧降下の大きい方を採用する。本実施の形態では、より安価に構成するために等しい値とする。PWMのオフ中に位置検出をする際の基準電圧は、インバータ4のスイッチング素子の4a、4c、4eがスイッチングを行っている場合は、陰極より所定値高い値を基準に、スイッチング素子4b、4d、4fがスイッチングを行っている場合は陽極より所定値低い値を基準とする。
【0033】
PWMのオンとPWMのオフのどちらで検出するかはPWMのオン時間によって決定する。切り替えるPWMのオン時間は、あらかじめノイズの影響がどの程度で収まるかを測定し把握したノイズの影響を受けるPWMのオン時間よりも短くなる値として決定する。これによりPWMのオン中の位置検出で、ノイズの影響を除去することができる。
【0034】
また、PWM周期の50%を基準にPWMのオン中に検出するか、PWMのオフ中に検出するかを切り替えるとしてもよい。50%とすることで、単純な構成で実現することができる。また、PWMのオン中からPWMのオフ中の検出への切り替えと、PWMのオフ中からPWMのオン中の検出への切り替えのPWMのオン時間にはヒステリシスを持たせ、制御の高頻度の切り替わりによる複雑さを低減することができる。
【0035】
このように、閾値変更部11は誘起電圧ゼロクロスの基準となる電圧と検出のタイミングを決定し、位置検出部6へと送る。
【0036】
ドライブ部12は、PWM生成部10が生成したPWM波形によって、インバータ4のスイッチング素子4a~4fのオンまたはオフ(以下、オン/オフとし記す)する。
【0037】
モータ駆動装置13は、整流回路2、平滑部3、インバータ4、位置検出部6、速度検出部7、電圧検出部8、PWM生成部10、ドライブ部12で構成され、交流電源1に接続し、ブラシレスDCモータ5を駆動する。
【0038】
圧縮機17の圧縮方式(機構方式)は、ロータリー型やスクロール型など、任意の方式が用いられる。本実施の形態においては、レシプロ型を採用しており、圧縮要素である冷媒の漏れが少なく低速では効率よく圧縮することができる。
【0039】
圧縮機17は、レシプロ型であるため、ブラシレスDCモータ5の回転子5aに接続されたクランクシャフト(図示せず)により、回転運動は往復運動に変換される。そして、クランクシャフトに接続されたピストン(図示せず)は、シリンダ(図示せず)内を往復することとなり、シリンダ内の冷媒を圧縮する。
【0040】
圧縮機17は密閉され内部の雰囲気はオイルが充満し高温になるため、センサを用いることができない。そのため、PWMのオン中の位置検出とオフ中の位置検出を切り替え、閾値を必要に応じて切り替えることで、ブラシレスDCモータ5の誘起電圧のゼロクロスから、ブラシレスDCモータ5の磁極位置を精度よく検出できる。そして、無駄な消費電力を低減して運転することが可能となる。
【0041】
圧縮機17で圧縮された冷媒は、凝縮器19、減圧器20、蒸発器21を順に通って、再び圧縮機17に戻る冷凍サイクルを構成する。この時、凝縮器19では放熱を、蒸発器21では吸熱を行うので、冷却や加熱を行うことができる。
【0042】
冷蔵庫22は、圧縮機17、凝縮器19、減圧器20、蒸発器21で構成された冷凍サイクルを搭載し、蒸発器21で冷却された空気を冷蔵室や冷凍室に送ることで筐体内部を冷却する。
【0043】
冷蔵庫22は、内部に保存する食品が十分に冷やされると、冷蔵庫22の外部から侵入する熱の量だけ冷やせばよくなるため、必要な冷凍能力が小さくなる。冷凍能力を小さくするために、外部から指令される目標速度が低下する。その結果、ブラシレスDCモータ5に必要な印加電圧が低下し、PWMのオン比率が低下する。PWMオン比率が低下した状態で、PWMのオフ中に位置検出を行うことで安定して運転が可能となる。
【0044】
また、冷蔵庫22の内部に食品が新たに投入されるなどにより冷凍能力が必要となった際はPWMのオン比率が上昇する。PWMのオン比率が上昇した状態であっても、PWMのオン中に位置検出を行うよう閾値を変更しタイミングを変更することで、安定した運転が可能となる。
【0045】
このように位置検出のPWMのオン中とオフ中を切り替え、誘起電圧ゼロクロスの閾値を変更することで、冷蔵庫が十分に冷えた状態から温かい食品が投入され冷凍能力が必要となる場合であっても安定して冷やし続けることができる。つまり、冷蔵庫の状態に応じて最適な冷やし方が可能となる。
【0046】
[1-2.動作]
以上のように構成されたモータ駆動装置13について、その動作を以下説明する。
【0047】
[1-2-1.PWMオン中とオフ中の検出の切り替え動作]
図2に基づいて、閾値変更部11がPWMオン中とオフ中の検出を切り替える動作を説明する。
図2において、縦軸をPWMのオン比率、横軸を時間とする。PWMのオン中とオフ中の検出を切り替えるPWMのオン比率は50%を中心に5%のヒステリシスを設ける。PWMのオフ中の検出からオン中の検出はPWMのオン比率が55%以上となった時とする。そして、PWMのオン中の検出からオフ中の検出はPWMのオン比率が45%以下となった時とする。
【0048】
ブラシレスDCモータが起動し(T100)徐々にPWMのオン比率が上昇していく。起動時はPWMのオン比率が非常に小さいためPWMのオフ中に位置検出を行う。PWMのオン比率が55%となった時(T101)、PWMのオン中に位置検出を行うよう切り替える。そして目標速度へ到達するために、PWMのオン比率が上昇していく途中で目標速度が下げられたとする(T102)。
【0049】
その結果、PWMのオン比率が徐々に減少していき、45%となった時(T103)、PWMオフ中の検出へと切り替わる。そしてブラシレスDCモータ5の一回転の平均速度が目標速度に到達することで(T104)、PWMのオン比率が一定となる。このようにPWMのオン時間がオフ時間より長いときはPWMのオン中に位置検出を行い、PWMのオフ時間がオン時間よりも長いときはPWMのオフ中に位置検出を行うこととなる。
【0050】
PWMのオンの状態が長くなることで、PWMのオン中に端子電圧に発生するリンギング状のノイズが減衰し安定した電圧を検出することができる。同様にPWMのオフ状態が長くなることでPWMオフ中に端子電圧に発生するリンギング上のノイズが減衰し安定した電圧を検出することができる。
【0051】
安定した電圧を検出することができるので、位置検出部6はリンギング状のノイズの影響を抑制し精度よく位置検出を行うことができる。
【0052】
PWMのオン中でのブラシレスDCモータ5の磁極位置の検出は、PWMのオン中のブラシレスDCモータ5の端子電圧に現れる誘起電圧と電圧検出部8で検出される母線電圧の半分の値との交点となる。
【0053】
PWMのオフ中でのブラシレスDCモータ5の磁極位置の検出は、PWMのオフ中のブラシレスDCモータ5の端子電圧にあらわれる誘起電圧と、インバータ4のスイッチングの状態によって決定される値との交点となる。
【0054】
ただし、PWMのオン比率が45%~55%は位置検出のタイミングは現在の状態が継続される。これにより、制御の頻繁な切り替えを抑制することができる。
【0055】
[1-2-2.PWMのオフ中の位置検出の基準電圧の決定]
図3a~
図3fを用いて、閾値変更部11がPWMのオフ中の位置検出の基準電圧を決定する動作を説明する。
図3aの縦軸はスイッチング素子4aのオンまたはオフの状態を示し、横軸は時間を示している。
図3b~
図3fはそれぞれ、スイッチング素子4b~4fの状態を示し、
図3aと同様に縦軸はオンまたはオフの状態、横軸は時間を示している。
【0056】
スイッチング素子4aがオンを継続している間(T200~T201)、スイッチング素子4dはPWMのオン比率に従いスイッチングのオン/オフを繰り返している。この時、PWMオン比率が45%以下でPWMのオフ中にブラシレスDCモータ5の磁極位置の検出を位置検出部6が行っているとする。
【0057】
ここでスイッチング素子4dは母線電圧の陰極側に接続されているため、スイッチングをオフした際に、ブラシレスDCモータ5に流れていた電流は流れ続け、母線電圧の陽極側に接続された還流電流用ダイオード4iを流れる。電圧にスイッチング素子4dとダイオード4iと接続するブラシレスDCモータ5の端子の電圧は還流電流用ダイオード4iの電圧降下分だけ母線電圧の電圧値から低下した値となる。
【0058】
一方、スイッチング素子4aはオンした状態が保たれているため、スイッチング素子4aと接続するブラシレスDCモータ5の端子の電圧値はスイッチング素子4aの電圧降下分だけ母線電圧の値から減少した値となる。
【0059】
つまり誘起電圧が現れるスイッチング素子4cとスイッチング素子4fに接続されるブラシレスDCモータ5の端子電圧は母線電圧の陽極側から素子の電圧降下分を基準となる。本実施の形態ではあらかじめ所定の値を電圧降下分として計算しておき、簡略化する。電圧降下分は母線電圧に対して1/100程度あり、固定としても精度は殆と変わらない。
【0060】
また、次にスイッチング素子がオンとなるのはスイッチング素子4fであるため、誘起電圧は単調に減少する電圧があらわれる。つまり、誘起電圧ゼロクロスとなるまでは、誘起電圧ゼロクロスの基準となる電圧に隠れ現れず、ゼロクロス以降に誘起電圧として検出することができる。これにより、ゼロクロス発生まではノイズの影響を抑制することができる。
【0061】
次にオンを継続するスイッチング素子はスイッチング素子4fとなりオン/オフを繰り返すスイッチング素子はスイッチング素子4aとなる(T201~T202)。
【0062】
スイッチング素子4aは母線電圧の陽極側に接続されているため、スイッチング素子4aがオフした際は、先ほど(T200~T201)とは反対に、端子電圧は母線電圧の陰極側に変化する。同様にスイッチング素子4fは陰極側に接続されているため、オンしている間は陰極側に電圧が張り付く状態となる。
【0063】
つまりスイッチング素子4a~4fがオン/オフを繰り返す際に、陽極側に接続されている場合は、PWMのオフ中の基準電圧は陰極側に所定値を加算したものとなり、陰極側に接続されている場合は、PWMのオフ中の基準電圧は陽極側から所定値を減算したものとなる。
【0064】
図3a~
図3fにおいてPWMのオフ中の位置検出の基準電圧は、スイッチング素子4aとスイッチング素子4d(T200~T201)、スイッチング素子4cとスイッチング素子4f(T202~T203)、スイッチング素子4eとスイッチング素子4b(T204~T205)では、陽極側から所定値を減算したものとなる。
【0065】
そして、
図3a~
図3fにおいてPWMのオフ中の位置検出の基準電圧は、スイッチング素子4bとスイッチング素子4c(T203~T204)、スイッチング素子4dとスイッチング素子4e(T205~T206)、スイッチング素子4fとスイッチング素子4a(T201~202)では、陰極側に所定値を加算したものとなる。
【0066】
また、スイッチング素子4aとスイッチング素子4f(T201~T202)の次に通電するスイッチング素子の組合せは、スイッチング素子4aが通電を停止し、スイッチング素子4cがあらたに通電を開始する(T202~T203)。
【0067】
新たに開始するスイッチング素子が母線電圧の陽極側に接続しているため、スイッチング素子4aとスイッチング素子4fの組合せ中(T201~T202)に期待される誘起電圧(スイッチング素子4cとスイッチング素子4dと接続するブラシレスDCモータ5の端子電圧)は単調に増加する。
【0068】
これと同様に、新たに通電を開始するスイッチング素子が、スイッチング素子4aとスイッチング素子4e(T200~T201とT204~T205)の場合、母線電圧の陽極側に接続されているため、直前の通電(T205~T206とT203~T204)で期待される誘起電圧は単調に増加する。
【0069】
一方、新たに通電を開始するスイッチング素子が、スイッチング素子4b、スイッチング素子4d、スイッチング素子4f(T203~T204、T205~T206、T201~T202)の場合、母線電圧の陰極側に接続されているため、直前の通電(T202~T203、T204~T205、T200~T201)で期待される誘起電圧は単調に減少する。
【0070】
本実施の形態ではブラシレスDCモータ5を回転させるための回転磁界の120度のそれぞれの通電のうち後半の60度に対し、スイッチング素子4a~4fをそれぞれオン/オフを繰り返すようしている。これにより、誘起電圧の変化の方向と基準電圧の組合せから、PWMのオフ中に現れる誘起電圧は、常にゼロクロス発生まで基準電圧で隠され、ゼロス発生後に誘起電圧が現れるため、ノイズの影響を低減し正確な位置検出が可能となる。
【0071】
[1-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、ブラシレスDCモータ5と、ブラシレスDCモータ5の誘起電圧の値と閾値からブラシレスDCモータ5の磁極位置を検出する位置検出部6と、位置検出部6の位置情報からブラシレスDCモータ5をPWMで矩形波駆動するPWM生成部10と、位置検出部6の閾値をPWMデューティのオン中とオフ中で切り替える閾値変更部11とを備える。そして、PWM生成部10が矩形波の後半の開始から位置検出までは少なくともオンオフさせる。
【0072】
これにより、PWMオンとPWMオフの時間によらずノイズの影響が小さい状態で誘起電圧を検出することができる。さらに、PWMのオフでの位置検出において、ブラシレスDCモータ5の端子電圧の誘起電圧はゼロクロス発生まで現れなくできる。
【0073】
そのため、PWMのオン時間とオフ時間を決定する電源電圧やモータの誘起電圧や運転負荷の状態の影響を抑え精度よくブラシレスDCモータの位置検出を行うことができる。そして、PWMのオフ中での位置検出はゼロクロスよりも前にノイズによる誤検出がなくなり安定した駆動が可能となる。
【0074】
本実施の形態のように、ブラシレスDCモータ5が駆動する負荷が圧縮機17である。これにより、センサを用いることのできない圧縮機17の内部のブラシレスDCモータ5であっても精度よく位置検出することができる。そのため、圧縮機の運転に、無駄な消費電力を低減できる。また、広い負荷範囲で安定して運転ができる。
【0075】
本実施の形態のように、冷蔵庫が本実施の形態の圧縮機を駆動するモータ駆動装置を用いている。
【0076】
これにより、冷蔵庫22が十分に冷えた状態であっても、庫内に温かい食品が投入されても安定した運転ができる。そのため、冷蔵庫の食品の状態に応じて最適な冷やし方が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本開示は、低速での運転を実現するために、ノイズの影響を十分に抑えられないモータ駆動装置およびこれを用いた冷蔵庫に適用可能である。具体的には、家庭用冷蔵庫や業務用冷蔵庫、ショーケースなどに、本開示は適用可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 交流電源
2 整流回路
2a~2d 整流ダイオード
3 平滑部
4 インバータ
4a~4f スイッチング素子
4g~4l 還流電流用ダイオード
5 ブラシレスDCモータ
5a 回転子
5b 固定子
6 位置検出部
7 速度検出部
8 電圧検出部
10 PWM生成部
11 閾値変更部
12 ドライブ部
13 モータ駆動装置
17 圧縮機
19 凝縮器
20 減圧器
21 蒸発器
22 冷蔵庫